(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】好気揺動ろ床槽とそれを備えた浄化槽及び好気揺動ろ床槽の運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/06 20230101AFI20240110BHJP
C02F 3/08 20230101ALI20240110BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20240110BHJP
C02F 3/30 20230101ALI20240110BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
C02F3/06
C02F3/08 B
C02F3/10 A
C02F3/30 B
C02F3/00 E
(21)【出願番号】P 2019086256
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-04-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301050924
【氏名又は名称】株式会社ハウステック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 宏
(72)【発明者】
【氏名】日比野 淳
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-145589(JP,A)
【文献】特開2006-075839(JP,A)
【文献】特開2016-083642(JP,A)
【文献】特開平05-329495(JP,A)
【文献】特開2000-317481(JP,A)
【文献】特開2001-096287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00 - 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体網様筒状であり、外径と高さの一辺の寸法を50mm以上150mm以下とした複数の浮上性担体を浸漬充填させた好気ろ床と、前記好気ろ床より下方に空気を供給する散気管を備え、前記浮上性担体の比重が0.9以上1.0以下に調整され、前記散気管から供給される空気により生じる水流によって揺動するように前記浮上性担体が充填され
、
容量1m
3
当たりの前記浮上性担体の表面積(m
2
)=前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)×前記浮上性担体の充填率(%)×前記浮上性担体の比表面積(m
2
/m
3
)/前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)が24.8m
2
以上を確保できるように調整されたことを特徴とする好気揺動ろ床槽。
【請求項2】
請求項1に記載の好気揺動ろ床槽であって、前記浮上性担体が個々に独立して不規則に充填されるとともに前記浮上性担体が流出しないように水面位置より下方に担体流出抑止体が配置されることを特徴とする好気揺動ろ床槽。
【請求項3】
前記担体流出抑止体から好気揺動ろ床槽底面までの容量に対する、前記好気ろ床の容量の割合である充填率が、50%以上90%以下であることを特徴とする請求項2に記載の好気揺動ろ床槽。
【請求項4】
嫌気処理槽と好気処理槽と沈殿槽を上流側から下流側に順に備え、前記好気処理槽に請求項1~請求項3の何れか一項に記載の好気揺動ろ床槽を備え、前記好気処理槽を通過した被処理水の一部を前記嫌気処理槽に戻す循環ポンプを備えたことを特徴とする浄化槽。
【請求項5】
立体網様筒状であり、外径と高さの一辺の寸法を50mm以上150mm以下とした複数の浮上性担体を浸漬充填させた好気ろ床と、前記好気ろ床より下方に空気を供給する散気管を備え、前記浮上性担体の比重が0.9以上1.0以下に調整され、散気管から供給される空気により生じる水流によって揺動するように前記浮上性担体が充填され
、
容量1m
3
当たりの前記浮上性担体の表面積(m
2
)=前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)×前記浮上性担体の充填率(%)×前記浮上性担体の比表面積(m
2
/m
3
)/前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)が24.8m
2
以上を確保できるように調整されたことを特徴とする好気揺動ろ床槽の運転方法であって、
前記好気揺動ろ床槽の担体流出抑止体より、前記好気ろ床に維持管理用の攪拌部材を差し込み撹拌することで、過剰に付着した生物膜を前記浮上性担体から剥離させることを特徴とする好気揺動ろ床槽の運転方法。
【請求項6】
剥離した前記生物膜を循環ポンプによって嫌気処理槽に移送することを特徴とする請求項5に記載の好気揺動ろ床槽の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建住宅、集合住宅、商業施設等から排出される排水を処理する水処理装置のうち、浮上性担体を用いた好気揺動ろ床槽とそれを備えた浄化槽、及び、好気揺動ろ床槽の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、担体を用いた処理方式として、担体をばっ気流動させながら、担体と被処理水を積極的に接触させて、担体に付着した微生物により好気的生物処理を行う担体流動方式や、担体を静置させたろ床に、ばっ気した被処理水を通過させて好気的生物処理とろ過を同時に行う生物ろ過方式等が知られている。
しかしながら、担体流動方式は、担体が常時流動しているので、担体同士が衝突して、担体に付着した微生物(生物膜)が剥離しやすく、更に剥離した生物膜は浮遊物質(SS)となるが、その粒子径が小さくなり、後段の沈殿槽でSSを分離しにくくなるという課題があった。
また、生物ろ過方式は、ろ過部の閉塞を防ぐために逆洗機構が必要になるため、例えば50人以下の小規模浄化槽では、空気配管が2本になって施工現場での誤配管を誘発したり、切替弁内蔵ブロワが必要となり、コストが高くなったり、保守点検作業が複雑になるという課題があった。
そこで、これらの課題を解決するための方策として、以下の特許文献1に示されるように、空気配管が1本で逆洗を行うことのできる散気装置を採用した浄化槽や、以下の特許文献2に示されるように、逆洗を必要としない浄化槽が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-112942号公報
【文献】特開2016-131940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1による空気配管を1本で通常ろ過運転と逆洗運転を実施する生物ろ過槽は、逆洗終了後に槽内のろ床高さを均一に保つことができず、偏りが生じるため、処理機能が低下するものがあり、課題となっていた。
【0005】
一方、特許文献2による接触ばっ気槽は、汚泥保持量を確保し、処理性能を担保しつつ、コンパクト化を図る上で、十分な効果を発揮しているが、流入負荷が計画値を超過しているような施設では、ろ材に付着する汚泥量が多すぎて、ろ床が閉塞する恐れがあった。
更に、特許文献2による接触ばっ気槽は、ろ材を密に充填した上に、ヘチマ様板状ろ材の開口部を水平方向において固定してあるため、保守点検作業で閉塞を解消させるのが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、処理機能を安定して保つことができ、かつ低コストで保守点検作業を容易に行うことのできる好気揺動ろ床槽とそれを備えた浄化槽、及び、好気揺動ろ床槽の運転方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
(1)本発明に係る好気揺動ろ床槽は、立体網様筒状であり、外径と高さの一辺の寸法を50mm以上150mm以下とした複数の浮上性担体を浸漬充填させた好気ろ床と、前記好気ろ床より下方に空気を供給する散気管を備え、前記浮上性担体の比重が0.9以上1.0以下に調整され、前記散気管から供給される空気により生じる水流によって揺動するように前記浮上性担体が充填され、容量1m
3
当たりの前記浮上性担体の表面積(m
2
)=前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)×前記浮上性担体の充填率(%)×前記浮上性担体の比表面積(m
2
/m
3
)/前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)が24.8m
2
以上を確保できるように調整されたことを特徴とする。
【0008】
(2)(1)に記載の好気揺動ろ床槽であって、前記浮上性担体が個々に独立して不規則に充填されるとともに前記浮上性担体が流出しないように水面位置より下方に担体流出抑止体が配置されることが好ましい。
(3)(2)に記載の好気揺動ろ床槽であって、前記担体流出抑止体から好気揺動ろ床槽底面までの容量に対する、前記好気ろ床の容量の割合である充填率が、50%以上90%以下であることが好ましい。
【0009】
(4)本発明に係る浄化槽は、嫌気処理槽と好気処理槽と沈殿槽を上流側から下流側に順に備え、前記好気処理槽に(1)~(3)の何れかに記載の好気揺動ろ床槽を備え、前記好気処理槽を通過した被処理水の一部を前記嫌気処理槽に戻す循環ポンプを備えたことを特徴とする。
【0010】
(5)本発明に係る好気揺動ろ床槽の運転方法は、立体網様筒状であり、外径と高さの一辺の寸法を50mm以上150mm以下とした複数の浮上性担体を浸漬充填させた好気ろ床と、前記好気ろ床より下方に空気を供給する散気管を備え、前記浮上性担体の比重が0.9以上1.0以下に調整され、散気管から供給される空気により生じる水流によって揺動するように前記浮上性担体が充填され、容量1m
3
当たりの前記浮上性担体の表面積(m
2
)=前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)×前記浮上性担体の充填率(%)×前記浮上性担体の比表面積(m
2
/m
3
)/前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)が24.8m
2
以上を確保できるように調整されたことを特徴とする好気揺動ろ床槽の運転方法であって、前記好気揺動ろ床槽の担体流出抑止体より、前記好気ろ床に維持管理用の攪拌部材を差し込み撹拌することで、過剰に付着した生物膜を前記浮上性担体から剥離させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る好気揺動ろ床槽によれば、立体網様筒状であり、外径と高さの一辺の寸法を50mm以上150mm以下とした比重0.9~1.0の複数の浮上性担体を散気管からの空気供給による水流で揺動させながら好気処理を行うので、浮上性担体に付着した微生物(生物膜)を利用しながら好気処理ができるとともに、生物膜の過剰な付着を抑制しながら好気処理できるので、ろ床が閉塞しにくくなり、逆洗を行うための逆洗管や専用ブロワ等の付帯設備を不要にすることができる。また、容量1m
3
当たりの前記浮上性担体の表面積(m
2
)=前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)×前記浮上性担体の充填率(%)×前記浮上性担体の比表面積(m
2
/m
3
)/前記浮上性担体を充填した領域の前記好気ろ床の容量(m
3
)が24.8m
2
以上を確保できるように調整したので、好気ろ床槽として処理能力を高めることができる。
本発明に係る好気揺動ろ床槽によれば、担体流動方式のように浮上性担体同士が激しく衝突しないので、浮上性担体に付着した生物膜が剥離しにくく、好気処理に必要な微生物量を安定して保持することができる。
また、流入負荷が計画値を超過するような施設においては、ろ床を容易に洗浄することができる。
更に、低コストで維持管理性に優れた好気処理槽、及び好気処理槽を備える浄化槽を提供することができる。
【0012】
好気揺動ろ床槽において、担体流出抑止体により担体の移動を抑制した領域に浮上性担体を充填しておくことにより、散気管が発生させた水流によって浮上性担体を流動させることなく確実に揺動できる。これによって、浮上性担体に対する生物膜の剥離を抑制しつつ必要な好気処理を行うことができる。
また、浮上性担体として立体網状担体を用いることが良好な好気処理を行う上で好ましい。
【0013】
本発明に係る浄化槽は、嫌気処理槽と好気処理槽と沈殿槽を備え、好気処理槽に上述の比重0.9~1.0の浮上性担体を備え、好気処理槽を通過した被処理水を好気処理槽もしくは沈殿槽に設置した循環ポンプで嫌気処理槽に戻すことができる。このため、嫌気処理槽に対する新たな被処理水の流入のない時間帯でも嫌気処理槽と好気処理槽と沈殿槽の各槽を用いた繰り返しの処理が可能となる。
【0014】
本発明に係る好気ろ床槽の運転方法によれば、好気処理槽に備えた比重0.9~1.0の浮上性担体を水流によって揺動させながら好気処理ができるので、浮上性担体に付着する生物膜の肥厚化を抑制しながら好気処理ができる。
また、浮上性担体の生物膜が肥厚化して好気ろ床が閉塞する可能性を生じたとしても、攪拌部材による強制攪拌操作によって、浮上性担体に付着した生物膜の一部を担体から分離して除去することにより、好気ろ床の閉塞を防止しながらの運転ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明に係る第一実施形態に基づく好気揺動ろ床槽の断面図である。
【
図2】
図2は本発明に係る第一実施形態に基づく好気揺動ろ床槽の担体揺動状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は本発明に係る第一実施形態に基づく好気揺動ろ床槽に用いられる担体の一例を示す図である。
【
図4】
図4は本発明に係る第一実施形態の好気揺動ろ床槽を組み込んだ浄化槽の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は本発明に係る第一実施形態の好気揺動ろ床槽に立体網様筒状担体を充填した場合の、担体の一辺の寸法と好気揺動ろ床槽の容量1m
3当たりの担体表面積との関係を示す図である。
【
図6】
図6は本発明に係る第一実施形態の好気揺動ろ床槽を組み込んだ浄化槽において、維持管理用パイプで担体に肥厚化した生物膜を剥離する作業の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第一実施形態に基づく好気揺動ろ床槽1について
図1~
図3を用いて説明する。
第1実施形態にて述べる好気揺動ろ床槽1は、周壁10Aと底壁10Bを有して構成された槽10に、被処理水9が流入する流入口4と、処理した液を流出する流出口5と、好気性微生物を保持して好気処理を行う担体2を不規則に充填した好気ろ床8と、担体の移動を規制するための担体流出抑止体3と、槽内に空気を送るための散気管6とを備えている。
図1に示す形態の好気揺動ろ床槽1において、流入口4は周壁10Aの上端近くに設けられ、流出口5は周壁10Aの下端近くに設けられ、流入口4より低い位置まで被処理水7が収容され、流入口4より低い位置に水面L1が位置されている。
【0017】
また、槽10の内部において水面L1より若干下方位置に矩形枠状の担体流出抑止体3が水平に取り付けられている。更に、槽10の内部であって、担体流出抑止体3の下方に浮上性担体2が複数収容されている。浮上性担体2は、後述する如く比重が0.9~1.0の立体形状であるので、浮上性担体2は、被処理水7の中に複数収容された状態において担体流出抑止体3により阻止されて担体流出抑止体3より上方への浮上を抑制され、この状態で浮上性担体2は一群となって被処理水7の内部に浮遊されている。
図1の形態において浮上性担体2の一群から好気ろ床8が構成されており、この好気ろ床8の下端は流出口5より上方に配置され、好気ろ床8の上端は担体流出抑止体3の取付高さ位置に設定されている。
【0018】
流入口4は、
図1の例では周壁10Aの左上部側であって、好気ろ床8より高い位置に設けられ、流出口5は、好気ろ床8の右下端より低い位置に設けられているが、これらの位置に限定されるわけではなく、流入口4を好気ろ床8よりも低い位置に、流出口5を好気ろ床8より高い位置に配置してもよい。
流入口4又は流出口5のどちらか一方を好気揺動ろ床槽1の底面付近に設けることにより、底面付近に設けた流入口4又は流出口5に隣接した槽の槽内水を引き抜くことで、好気揺動ろ床槽1内にサクションホースを入れなくとも好気揺動ろ床槽1の槽内水を引き抜くことができるようになる。
【0019】
ここで、浮上性担体2の揺動について、
図2を用いて説明する。
図2は本発明に係る第一実施形態に基づく好気揺動ろ床槽1において、浮上性担体2の揺動状態を示す模式図である。
本発明で述べる揺動とは、浮上性担体2が散気管6からのばっ気により生じた水流を受けても、好気揺動ろ床槽1内の水面付近から底面付近まで自在に動き回る(流動する)ことがなく、
図2に示すように浮上性担体2自身の近辺で隣接する他の浮上性担体2に移動を規制されながら上下左右に揺れるように動く状態を示す。
この揺動状態では、担体流動方式のように浮上性担体2同士が激しく衝突しないので、浮上性担体2に付着した微生物(生物膜)が剥離しにくく、好気処理に必要な微生物量を安定して保持することができる。また、浮上性担体2は、揺動しているので、生物膜が過剰に付着した場合でも、揺動により自然に生物膜が剥離するため、固定床方式と比較して好気ろ床8が閉塞するリスクを大幅に低減することができる。
【0020】
浮上性担体2の形状は、排水処理に必要な微生物を保持可能で、担体を揺動できる形状であれば、特に限定されるものではないが、紐状やシート状等のように担体の一部を固定支持するものではなく、個々に独立した担体を用いることが好ましい。個々に独立した揺動担体は、不規則に充填可能で自由度が高いため、紐状やシート状等の担体と比較して揺動しやすく、更に担体の上下部分を支持するための固定部材を不要にできるためである。
また、浮上性担体2の種類としては、網様円筒状、立体網状(ヘチマ状)、骨格様球状、スポンジ状、円筒状、繊維塊等、様々な形状のものを用いることができるが、好ましくは、立体網状(ヘチマ状)である。
【0021】
本発明の好気揺動ろ床槽1では、浮上性担体2が槽内を流動しないので、担体流動方式と比較して、浮上性担体2と被処理水との接触効率が低くなるが、立体網状(ヘチマ状)は、空隙率が大きいので浮上性担体2の表面に付着した微生物と被処理水が接触しやすく、更に比表面積が大きいので微生物を多量に保持でき、好気揺動ろ床槽1の処理能力を高めることができる。
立体網状(ヘチマ状)には、立体網様球状、立体網様筒状など、様々な形状のものがあるが、特に空隙率が大きく、被処理水の通水部を確保できる立体網様筒状の担体が好ましく用いられる。ここで、本発明に係る第一実施形態に基づく好気揺動ろ床槽に好ましく用いられる立体網様筒状の浮上性担体2の形状の一例を
図3に示す。
【0022】
浮上性担体2の比重は、水に浮上し、散気管6から送られる空気により容易に揺動できる比重であればよく、浮上性担体2の形状、大きさ、充填量、及びばっ気空気量等により、揺動に最適な比重は異なるが、0.9以上1.0以下に設定することが好ましい。浮上性担体2の比重が0.9より小さくなると、浮力が強くなって揺動しにくくなり、1.0より大きくなると浮上性担体2が沈降するようになるので、散気管6からのばっ気による水流により流動しやすくなってしまうためである。
【0023】
浮上性担体2の寸法については、例えば、一辺が50mmより小さい担体を充填して、揺動するように空気を供給すると、小さいが故に浮上性担体2同士の接触面積が増加するので、揺動により生物膜が剥離しやすくなり、所定の微生物量が保持できなくなり好気処理能力に影響を及ぼすという問題が生じる。この対策として、浮上性担体2の比重を小さくして流動しないように調整することも可能であるが、浮上性担体2の浮力が大きくなり揺動しにくくなるので、好気ろ床8が閉塞する可能性が高くなる。このため、浮上性担体2の寸法は、50mm以上にすることが好ましい。
【0024】
一方、浮上性担体2の一辺の寸法を大きくすると、好気揺動ろ床槽1に充填できる浮上性担体2の個数が減少し、微生物が付着するための担体の表面積も減少するので、好気揺動ろ床槽1としての処理性能が低下することになる。
一例として、好気揺動ろ床槽1に、立体網様筒状の浮上性担体(
図3)を充填した場合の、浮上性担体の一辺の寸法と、好気揺動ろ床槽1の容量1m
3当たりの担体表面積との関係を表すグラフを
図5に示す。
ここで、浮上性担体の表面積は、浮上性担体2の筒状部の厚み(t)を15mm、一辺の寸法(外径D、高さH)を同じ値の変数とし、担体充填率は担体を揺動させるための限界値である90%に設定した時の値を用いた。
【0025】
また、
図5に示している点線は、現在、家庭用浄化槽で普及している高度処理型浄化槽(処理性能BOD20mg/L以下、T-N20mg/L以下)と同じ処理性能を有する、昭和55年建設省告示第1292号告示区分第1の脱窒濾床接触ばっ気方式(5~50人槽)の接触ばっ気槽における容量1m
3当たりの接触材の表面積24.8m
2を示しており、所定の処理性能(BOD20mg/L以下、T-N20mg/L以下)を得るために必要な表面積を表している。
(容量1m
3当たりの必要表面積=接触ばっ気槽の容量(m
3)×ろ材充填率(%)×ろ材の比表面積(m
2/m
3)/接触ばっ気槽の容量(m
3)=1.5×0.55×45/1.5=24.8m
2)
【0026】
図5より、浮上性担体2の一辺の寸法(D,H)が大きくなる程、好気揺動ろ床槽1の槽容量1m
3当たりの担体表面積が減少し、150mmより大きくなると、好気処理に必要な担体表面積(容量1m
3当たり24.8m
3)を確保できなくなることがわかる。この場合、好気揺動ろ床槽1自体の容量を大きくして、好気揺動ろ床槽1の処理能力不足を補うことも可能であるが、施工性やコストの面から好ましくない。
従って、浮上性担体2の一辺の寸法(D,H)は、処理性能を考慮した場合、50mm以上150mm以下に設定することが好ましい。
【0027】
担体流出抑止部材3の形状は、浮上性担体2が通過せずに槽内水が通過でき、必要な強度が確保されている形状であれば、特に限定されることなく様々な形状のものを用いることができる。一例として、
図2に示す矩形枠状などに形成することができるが、その他、格子状、ハニカム形状など、枠の形状に特に制限はない。
図2に示す矩形枠状の担体流出抑止体3であるならば、枠の間の最も狭い部分の目幅を以下に説明するように設定することが好ましい。
図2に示す担体流出防止体3は3本の桟材3aとそれら3本の桟材3aの両端部を一体接続した2本の横材3bからなる矩形枠状に構成されている。このため、
図2の担体流出防止体3においては、隣接する2本の桟材3aの間隔が最も狭い部分の目幅に相当する。
【0028】
担体流出抑止体3の目幅は、呼称VP13(外径18mm)やVP20(外径26mm)等の維持管理用パイプ(攪拌部材)が容易に挿入できるように、30mm以上であり、かつ担体2が通過しない寸法であることが好ましい。
この理由は、流入負荷が計画値よりも高い施設では、浮上性担体2の生物膜が肥厚化して好気ろ床8が閉塞する可能性が生じるが、担体流出抑止体3の目幅が30mm以上あれば、上記パイプを好気ろ床8内に差し込んで、浮上性担体2を直接パイプで撹拌することにより、肥厚化した生物膜の一部を剥離して好気ろ床8の閉塞を解除することができるためである。なお、呼称VP13(外径18mm)やVP20(外径26mm)等のパイプは、50人以下の小規模浄化槽の保守点検作業において、通常用いられる器具である。
【0029】
図1の例では好気ろ床8の下方に担体受け面を設けていないが、これを設置することもできる。この場合の形状や目幅は、担体流出抑止体3と同様のものを用いることが好ましい。また、浮上性担体2の大きさが流出口5の内径よりも小さい場合には、担体受け面に代えて、浮上性担体2の通過を規制する通水性部材(図示省略)を流出口5に設けることもできる。
【0030】
好気ろ床8における浮上性担体2の充填率は、浮上性担体2を揺動可能とする充填率に設定することが好ましく、充填率として90%以下に設定することが好ましい。なお、ここで述べる充填率とは、担体流出抑止体3から好気揺動ろ床槽1の底面までの容量に対する、好気ろ床8の容量の割合を示す。また、担体受け面を設ける場合には、担体流出抑止体3から担体受け面までの容量に対する好気ろ床8の容量の割合を示す。
浮上性担体2の充填率を90%以下にすることが好ましい理由は、浮上性担体2の充填率が90%を上回ると、浮上性担体2の可動スペースが制限されて揺動しにくくなり、更に好気ろ床8が閉塞した場合に、維持管理用パイプを挿入して撹拌しても、効果的に撹拌できず、肥厚化した生物膜を剥離しにくくなるためである。
一方、浮上性担体2の充填率の下限については、50%以上に設定することが好ましい。この理由としては、浮上性担体2の充填率が50%を下回ると、浮上性担体2の担体1個あたりの移動可能な範囲が増加して流動しやすくなる他、好気揺動ろ床槽1内の単位容積当たりの担体表面積が減少するので、所定の処理能力を確保するために好気揺動ろ床槽1自体の容量を大きくしなければならなくなり、施工性やコストが悪化するためである。
【0031】
散気管6は、好気ろ床8に空気を送って、好気ろ床8を揺動させつつ、浮上性担体2に付着した微生物が汚水を好気的に生物処理するために必要な酸素を送るものである。散気管6の形状は、好気ろ床8の略全面に空気を送れるものであれば、特に限定されることなく、様々な形状のものを用いることができる。また、散気管6の設置位置は、浮上性担体2から剥離した汚泥が好気揺動ろ床槽1の底部に堆積するのを防ぐために、好気揺動ろ床槽1の底部付近に設置することが好ましい。
図2に示す例で散気管6は、平行に配置された3本のパイプ体6aとこれら3本のパイプ体6aの端部どうしを接続した2本のパイプ体6bからなる矩形枠状に構成され、各パイプ体6a、6bに所定間隔で形成された噴出口から散気できるように構成されている。なお、散気管6には図示略の空気圧送用ポンプ(ブロワ)等が接続され、散気管に空気を圧送できるように構成されている。
本実施形態に係る好気揺動ろ床槽1によれば、担体流動方式のように浮上性担体同士が激しく衝突しないので、浮上性担体2に付着した生物膜が剥離しにくく、好気処理に必要な微生物量を安定して保持することができる。
【0032】
次に、本発明による第一の実施形態に基づく好気揺動ろ床槽1を浄化槽に組み込んだ場合の一例を図面に基づき説明する。
図4は、本発明による第一の実施形態に基づいた水処理装置1を浄化槽100に組み込んだ場合の一実施形態を示す断面図である。本実施形態の浄化槽100は、第一の嫌気処理槽20、第二の嫌気処理槽30、好気処理槽40、沈殿槽50、消毒槽60から構成されている。
【0033】
第一の嫌気処理槽20には、流入口101と、流入バッフル21と、流出バッフル22と、移流口23が設けられている。
第二の嫌気処理槽30には、嫌気ろ床31と、流出バッフル32を設けている。
好気処理槽40には、本発明の好気揺動ろ床槽1を用いている。本実施例では、槽内に浮上性の浮上性担体2を不規則に充填した好気ろ床8と、散気管6と、浮上性担体2の流出を防ぐための担体流出抑止体3を備えている。
沈殿槽50の底部には、循環ポンプ51を設けており、好気処理槽40で好気処理した水の一部を第一の嫌気処理槽20に移送することができる。
消毒増60には、消毒剤を充填した薬筒61が設けられている。ここでは、移流口62より流入する被処理水と消毒剤とを接触させて消毒を行い、消毒作用を受けた水は、流出口102より流出する。
【0034】
次に、
図4に示す浄化槽100における汚水処理の流れについて説明する。
被処理水は、流入口101より流入し、流入バッフル21内を通過して、第一の嫌気処理槽20に流入する。ここでは、水より重い夾雑物などは沈殿分離して槽の底部に、水より軽いものは浮上分離して槽の上部に貯留され、分離後の中間水が第二の嫌気処理槽30に移流される。
第二の嫌気処理槽30には、嫌気ろ床31が形成されており、被処理水は嫌気ろ床31を下向流で流れて、固形物の分離とろ床に付着した微生物による嫌気的生物処理を受けた後、移流バッフル32を経て好気処理槽40に移送される。
【0035】
好気処理槽40には、浮上性担体2が複数充填されており、好気処理槽40の底部に設けられた散気管6から送られる空気により揺動状態の浮上性担体2と被処理水を接触させ、浮上性担体2に付着した微生物により好気的生物処理を行う。
図4に示す好気処理槽40は、先の形態において説明した好気揺動ろ床槽1と同等構成である。周壁10Aと底壁10Bから槽10が構成されている点は同等であり、流入口33が流入口4に相当し、流出口34が流出口5に相当する。先に説明した好気揺動ろ床槽1と同等の浮上性担体2が充填率90%以下で充填され、好気ろ床8が構成されている。また、好気処理槽40において、水面L1より若干低い位置に担体流出抑止体3が水平に取り付けられ、浮上性担体2の好気処理槽外への流出を防止している。
なお、
図4に示す構造において水面L1の高さより周壁10Aの上端が十分に高く、浮上性担体2の流出のおそれが無い場合は、担体流出抑止体3を省略しても良い。
【0036】
好気処理を受けた被処理水は、次の沈殿槽50に移流されてSSの分離が行われる。また、被処理水の一部は、沈殿槽50の底部に設けられた循環ポンプ51により、移送管51aを介して第一の嫌気処理槽20に常時移送され、被処理水の流入がない時間帯でも繰り返し処理が行われるとともに、好気処理槽40で生成した硝酸性窒素や亜硝酸性窒素の脱窒が行われる。沈殿槽50でSSが分離された後の被処理水は、消毒槽60にて消毒作用を受けた後、流出口102より放流される。
【0037】
流入負荷が計画値よりも高い施設では、浮上性担体2の生物膜の肥厚化が進行して好気ろ床8が閉塞する可能性がある。好気ろ床8が閉塞すると、閉塞した部分の浮上性担体2に被処理水や酸素が行き届かなくなり、好気処理槽40の処理能力が低下するばかりか、被処理水が好気ろ床8を通過する際の通水抵抗が増加するため、好気処理槽40より前段の槽の水位が上昇し、浄化槽100自体の排水不良を招くことになる。従って、好気処理槽40では、浮上性担体2の生物膜の肥厚化が進行した場合に、閉塞を防止できることが排水処理を行う上で必要な条件になっている。
【0038】
本発明に係る好気処理槽40によれば、充填率90%以下とした比重0.9~1.0の浮上性担体2を散気管6からの空気供給による水流で揺動させながら好気処理できるので、浮上性担体2に付着した生物膜を利用しながら必要十分な好気処理ができるとともに、生物膜の過剰な付着を抑制しながら好気処理できるので、好気ろ床が閉塞しにくくなり、長期間安定した処理が可能となる。
本実施形態に係る好気揺動ろ床槽1を備えた好気処理槽40によれば、担体流動方式のように浮上性担体同士が激しく衝突しないので、浮上性担体2に付着した生物膜が剥離しにくく、好気処理に必要な微生物量を安定して保持することができる。
その他、先に説明した好気揺動ろ床槽1が奏する作用効果について、好気処理槽40も同様に得ることができる。
【0039】
ここで、本発明の好気処理槽40の浮上性担体2の生物膜の肥厚化が進行した場合の解除方法の一例について、
図6を用いて説明する。好気処理槽40では、浮上性担体2の生物膜の肥厚化が進行した場合に、維持管理用パイプ(攪拌部材)200(VP13もしくはVP20の塩ビ製パイプ等の棒状の物)を担体流出抑止体3の隙間から好気ろ床8に差し込み、浮上性担体2をパイプ200により直接撹拌する。浮上性担体2は、個々に独立して不規則に充填されており、かつ散気管6によるばっ気水流により容易に揺動するように比重及び充填率を設定している。
【0040】
ここで、
図3に記載の立体網状担体(D=100mm、H=100mm、t=15mm、比重0.95)を
図6の浄化槽の好気処理槽40に充填率70%となるように充填し、維持管理用パイプ200による撹拌試験を実施した。
担体流出抑止体3の隙間から維持管理用パイプ(塩ビ製パイプVP13)200を差し込んで、浮上性担体2を直接撹拌したところ、特に大きな力を要することもなく、浮上性担体2を容易に撹拌することができた。
図3に記載の立体網状担体は、担体の表面が網状であり、維持管理用パイプの先端が網の隙間部に当たって押しやすい形状をしているため、維持管理用パイプ200による撹拌が容易であり、担体の比重及び充填率を本発明の好適な範囲に設定して充填することで、本発明の浮上性担体2に好適に用いることができることを確認した。
【0041】
従来の好気ろ床槽では、生物膜の肥厚化を防止するために、空気逆洗を行う逆洗管等の付帯設備を設置する必要があったが、本発明の好気処理槽40では、浮上性担体2の肥厚化を維持管理用パイプ200を用いて容易に解除することができるため、これらの設備を不要とすることができる。なお、剥離した生物膜は、汚泥を貯留する槽に移送することが好ましく、
図6に示す浄化槽100の例では、循環ポンプ51により、第一の嫌気処理槽20に移送する。
また、撹拌中は、剥離した生物膜が浮上性担体2に再付着するのを防止するため、散気管6からばっ気しながら撹拌することが好ましい。
【0042】
散気管6は、好気ろ床8に空気を送って、好気ろ床8を揺動させつつ、浮上性担体2に付着した微生物が汚水を好気的に生物処理するために必要な酸素を送るものである。パイプ200による浮上性担体2の攪拌効果に加えて、散気管6からのばっ気を利用し、浮上性担体2に付着した生物膜を効果的に除去することができる。
よって、流入負荷が計画値を超過し、生物膜の肥厚化が進行するような施設においては、好気ろ床8を容易に洗浄することができる。更に、逆洗管等の付帯設備を不要にできるため、低コストで維持管理性に優れた好気処理槽40を備える浄化槽100を提供することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…好気揺動ろ床槽、2…浮上性担体、3…担体流出抑止体、4…流入口、
5…流出口、6…散気管、8…好気ろ床、9…被処理水、20…第一の嫌気処理槽、
21…流入バッフル、22…移流バッフル、23…移流口、24…仕切板、
30…第二の嫌気処理槽、31、31a、31b…嫌気ろ床、32…移流バッフル、
33…移流口、40…好気処理槽、50…沈殿槽、51…循環ポンプ、
60…消毒槽、61…薬筒、62…移流口、100…浄化槽、101…流入口、
102…流出口、200…維持管理用パイプ(攪拌部材)。