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特許7416580粉液型歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】粉液型歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/889 20200101AFI20240110BHJP
   A61K 6/79 20200101ALI20240110BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20240110BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20240110BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/79
A61K6/836
A61K6/887
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019150038
(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公開番号】P2021031409
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 潤
(72)【発明者】
【氏名】木本 勝也
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/135186(WO,A1)
【文献】特開2017-197528(JP,A)
【文献】特開2006-299201(JP,A)
【文献】特表2013-541546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6-90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(b)水、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体、(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含む液材から構成され、前記粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(f)重合開始剤を含有し、
前記(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体が、水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体及び水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の両方を含み、且つ水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の配合比率が重量比で、1:2~4:1である、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項2】
前記(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、4官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体である、請求項1記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項3】
(a)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(b)水、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体、(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含む液材から構成され、前記粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(f)重合開始剤を含有し、
前記(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、下記式(1)で表される化合物である、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項4】
式(1)で表される化合物においてRが全て水素原子である、請求項3に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項5】
(a)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(b)水、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体、(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含む液材から構成され、前記粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(f)重合開始剤を含有し、
前記(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、下記式(2)で表される化合物である、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項6】
式(2)で表される化合物においてRが全て水素原子である、請求項5に記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項7】
前記粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(g)酸性基含有重合性単量体をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物。
【請求項8】
前記(c)酸性基含有重合性単量体の重合体が、α,β-不飽和カルボン酸の重合体である、請求項1~7のいずれかに記載の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、う蝕や破折等により部分的に形態が損なわれた歯牙を修復するための歯科充填用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物、又は歯科補綴装置を形態が損なわれた歯牙に接着又は合着させるための歯科合着用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に関するものである。より詳細には、湿潤下においても高い表面硬化性を示し、これにより硬化初期に水分が接触しても表面の白濁が起こりにくく、且つ硬化物は高い機械的特性を発現しつつ、少ない吸水膨張と優れた耐着色性を示し、さらに保存安定性にも優れる粉液型の歯科充填用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物、又は粉液型の歯科合着用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科臨床において、う蝕や破折等により部分的に形態が損なわれた歯牙に対して審美的及び機能的回復を行うために、歯科充填用コンポジットレジンや歯科充填用グラスアイオノマーセメントを歯牙に充填する直接修復や、歯科用接着性レジンセメントや歯科合着用グラスアイオノマーセメントを用いて歯科補綴装置を歯牙に接着又は合着させる間接修復が行われている。
【0003】
一般的に、歯科充填用コンポジットレジンや歯科用接着性レジンセメント等に代表される歯科用レジン系材料は、数種類の重合性単量体からなるマトリックスレジン、ガラスフィラーや有機無機複合フィラー等の各種充填材、並びに重合開始剤を主成分としており、光重合及び/又は化学重合により硬化させるものである。歯科用レジン系材料は、高い機械的特性や高い透明性による優れた審美性を有しており、さらに光硬化性を有する材料においては光照射により術者が意図したタイミングで組成物を硬化させることができる等の操作性における利点も有するため、近年広く用いられている。しかし歯科用レジン系材料には歯質に対する自己接着性が無いものが多く、それらの材料を適用する際には歯科用プライマー及び/又は歯科用ボンディング材を併用する必要があり、操作が煩雑である。また歯科用プライマー及び/又は歯科用ボンディング材は歯面に水分が残存すると、歯質に対する浸透性や硬化性が著しく低下するため、それらを適用する際には防湿が重要となる。そのため防湿が難しい症例においては、水分の影響により接着不良を引き起こすリスクが懸念される。さらに、フッ化物イオンの徐放による二次う蝕の予防効果についても、一部の市販品において認められるのみである。
【0004】
これに対して、歯科充填用グラスアイオノマーセメントや歯科合着用グラスアイオノマーセメントに代表される歯科用グラスアイオノマーセメントは、一般的にポリカルボン酸、水、フルオロアルミノシリケートガラスに代表される酸反応性ガラス粉末を主成分としており、ポリカルボン酸と酸反応性ガラス粉末の酸-塩基反応により硬化させるものである。歯科用グラスアイオノマーセメントは成分中のポリカルボン酸の作用により自己接着性を発現するため、歯科用ボンディング材又は歯科用プライマーを併用する必要がないことを利点としている。また、成分中に水を含むために根面う蝕等の防湿が難しい部位に対しても適用できる。さらに、硬化物からフッ化物イオンが持続的に徐放されるため、二次う蝕の予防効果が期待できる。その反面、歯科用グラスアイオノマーセメントは、歯科用レジン系材料と比較して機械的特性が低いため、その適応症例は応力が掛かりにくい部位の修復に限定されている。また歯科用グラスアイオノマーセメントは不透明であるため、歯科充填用グラスアイオノマーセメントを窩洞に充填した際や、歯科合着用グラスアイオノマーセメントを用いて歯牙の形態が損なわれた部位に半透明性を有する歯科補綴装置を合着した際に、歯牙又は歯科補綴装置との色調適合性が低く、審美性に課題を残している。さらに歯科用グラスアイオノマーセメントの硬化は徐々に進行するため、ある程度硬化が進むまでの数分間、術者は次の操作である形態修正・研磨や余剰セメントの除去を行うことができない。また、硬化初期に水分が接触すると表面が白濁する場合がある。
【0005】
一方で歯科用レジン系材料と歯科用グラスアイオノマーセメントが有するそれぞれの欠点を補うべく、歯科用レジン系材料の成分組成と歯科用グラスアイオノマーセメントの成分組成とを組み合わせることで、光重合及び/又は化学重合と、酸-塩基反応の複数の機構により硬化可能とした歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントが提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、重合性基を有するポリカルボン酸、酸反応性粉末(フルオロアルミノシリケートガラス粉末等)、水、重合性単量体(2-ヒドロキシエチルメタクリレート等)、及び光重合開始剤を含ませることで光重合と酸-塩基反応の両機構によって硬化可能とした歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物が開示されている。
【0007】
特許文献2には、ポリカルボン酸、酸反応性粉末、水、(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び重合開始剤として光重合開始剤と化学重合開始剤を含ませることで、光重合、化学重合、及び酸-塩基反応の3種の機構によって硬化可能とした歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、酸性基を有する重合性単量体をさらに添加することで歯質に対する接着性を向上させた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物が提案されている。
【0009】
以上に示した歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は、歯科用グラスアイオノマーセメントと歯科用レジン系材料が有するそれぞれ長所を兼ね備えており、長期間の持続的なフッ化物徐放性、従来の歯科用グラスアイオノマーセメントを上回る透明性を有する。また、光硬化性を付与した場合は光照射により術者が意図したタイミングで組成物を硬化させることができるため、従来の歯科用グラスアイオノマーセメントとは異なり、硬化を待つ必要がない等の利点を有している。さらにラジカル重合による重合性単量体の硬化性が付与されたことで、酸-塩基反応のみで硬化する従来の歯科用グラスアイオノマーセメントの課題であった、硬化初期の水分の接触による表面の白濁が比較的起こりにくくなっている。
【0010】
ところが歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は重合硬化に寄与しない水を含むため、ラジカル重合による重合性単量体の硬化性は低く、酸素による重合阻害をさらに受ける表面においては未だ硬化性が不充分であった。このため歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の硬化物は着色しやすかった。また、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は組成に含まれる水との相溶性を考慮して親水性の重合性単量体を主成分として含むため、前述の低い重合硬化性と相俟ってその硬化物は吸水量が大きく、それにより吸水膨張が大きくなる傾向にあった。さらに硬化初期の水分の接触による表面の白濁についても更なる改善が求められていた。
【0011】
また、ポリカルボン酸と水を含む歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の液材はpHが低いため、共存する重合性単量体が加水分解を受け様々な問題を引き起こしていた。具体的には重合性単量体として歯科材料に最も使用されている(メタ)アクリレート系重合性単量体を用いた場合は、(メタ)アクリレート基が有するエステル結合が加水分解を受け、重合活性の高いメタクリル酸、又はアクリル酸が生成し、それにより液材が保存中にゲル化したり、硬化物の機械的特性が低下したりする等、保存安定性に課題があった。特に酸性基を有する重合性単量体を液材に含む場合はその傾向が顕著であった。
【0012】
一方で、加水分解を受けにくい(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を各種歯科材料に応用する技術が開示されている。例えば特許文献4には2~5官能の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を応用することで、酸性基含有重合性単量体の存在下においても加水分解を受けにくく、保存安定性に優れた各種歯科材料を得る技術が開示されている。しかし、これら特許文献には(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に応用した際に得られる効果は、保存安定性の向上以外は示唆されていない。また、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に応用する際に適した(メタ)アクリルアミド系重合性単量体の構造や官能基数については何等示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平1-308855号公報
【文献】特許第3288698号公報
【文献】特開2014-152179号公報
【文献】特許第4171600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントは、光重合及び/又は化学重合を付与したことで硬化初期の水分の接触による硬化物表面の白濁が起こりにくくなっているものの、充分に改善されているとは言えずさらなる表面硬化性の向上が求められていた。また、硬化物の吸水膨張が大きいため、修復物の浮き上がりにより患者が違和感を覚え、場合によっては対合歯との噛み合わせが悪化する危険があった。さらに着色しやすい性質は未だに改善されておらず、長期に亘り修復部位を審美的に維持することができなかった。そこで本発明は、従来の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物が有する優れた特性を維持しつつ、表面硬化性をさらに向上させ、少ない吸水膨張と優れた耐着色性を示し、さらに各種特性を長期間安定して発現することができる、保存安定性にも優れた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、従来の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントの基本成分、すなわちフルオロアルミノシリケートガラス粉末に代表される酸反応性ガラス粉末、水、及びポリアクリル酸に代表される酸性基含有重合性単量体の重合体、重合性単量体、及び重合開始剤において、重合性単量体として水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体と共に、3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を同時に配合することで、水の共存下における重合性単量体の硬化性が飛躍的に向上し、それにより優れた表面硬化性を示すと共に硬化物表面が着色しにくくなり、さらに吸水膨張も少なくなることを見いだした。また、3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体の配合により液材の保存安定性が向上し、歯質に対する接着性を向上させるために酸性基含有重合性単量体を配合した場合においても、優れた保存安定性を発現することを見いだした。さらに、水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体として、水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と水酸基を有する2~4能(メタ)アクリレート系重合性単量体の両方を特定の比率で含ませた場合、及び/又は3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体として4官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を配合した場合、表面硬化性と耐着色性がより向上し、また吸水膨張がより低減することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、上記課題は(a)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(b)水、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体、(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含む液材から構成され、前記粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(f)重合開始剤を含有する本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物により達成される。
【0017】
また、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は、前記粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(g)酸性基含有重合性単量体をさらに含むことが好ましい。
【0018】
また、前記(c)酸性基含有重合性単量体の重合体が、α,β-不飽和カルボン酸の重合体であることが好ましい。
【0019】
また、前記(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体が、水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体及び水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の両方を含み、且つ水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の配合比率が重量比で、1:2~4:1であることが好ましい。
【0020】
また、前記(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、4官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体であることが好ましい。
【0021】
また、前記(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、下記式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0024】
さらに式(1)で表される化合物においてRが全て水素原子であることがより好ましい。
【0025】
また、前記(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が、下記式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0026】
【化2】
【0027】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0028】
さらに、式(2)で表される化合物においてRが全て水素原子であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は、湿潤下においても高い表面硬化性を発現する。これにより水分を除去しにくい症例においても硬化不良による表面の白濁が起こりにくくなる。また、その硬化物は優れた機械的特性と耐着色性を示すため、初期の修復状態を長期間維持することができる。さらに吸水膨張が少ないために修復物の浮き上がりによる咬合時の違和感が起こりにくくなる。これらに加え保存安定性にも優れることから長期に亘り安定してその特性を発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は、(a)酸反応性ガラス粉末を含む粉材と、(b)水、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体、(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、及び(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を含む液材から構成され、前記粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(f)重合開始剤を含有し、任意に前記粉材と前記液材の少なくともいずれか一方に(g)酸性基含有重合性単量体を含むものである。なお、本明細書においては(メタ)アクリレートをもってアクリレートとメタクリレートの両者を、(メタ)アクリロイルをもってアクリロイルとメタクリロイルの両者を、(メタ)アクリルアミドをもってアクリルアミドとメタクリルアミドをそれぞれ包括的に表記する。
【0031】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる(a)酸反応性ガラス粉末は、酸反応性元素、及びフッ素を含んでいる必要がある。酸反応性ガラス粉末は、酸反応性元素を含むことにより水の存在下で、後述する(c)酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基との酸-塩基反応が進行する。酸反応性元素を具体的に例示すると、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、アルミニウム、亜鉛等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの酸反応性元素は1種類又は2種類以上を含むことができ、またこれらの含有量は特に限定されない。
【0032】
さらに、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物にX線造影性を付与するために、酸反応性ガラス粉末にはX線不透過性の元素を含ませることが望ましい。X線不透過性の元素を具体的に例示すると、ストロンチウム、ランタン、ジルコニウム、チタン、イットリウム、イッテルビウム、タンタル、錫、テルル、タングステン及びビスマス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、酸反応性ガラス粉末に含まれるその他の元素については特に制限はなく、本発明における酸反応性ガラス粉末は様々な元素を含むことができる。
【0033】
酸反応性ガラス粉末は、以上に示した酸反応性元素、フッ素、及びX線不透過性の元素を含んだアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、ボロアルミノシリケートガラス、リン酸ガラス、ホウ酸ガラス及びシリカガラス等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
さらに、酸反応性ガラス粉末の形状も特に限定されず、球状、針状、板状、破砕状、及び鱗片状等の任意の粒子形状のものを何等制限なく用いることができる。これらの酸反応性ガラス粉末は単独又は数種を組み合わせて用いることができる。
【0035】
これらの酸反応性ガラス粉末の製造方法は特に限定されず、溶融法、気相法及びゾル-ゲル法等のいずれの製造方法で製造されたものでも問題なく使用することができる。その中でも、酸反応性ガラス粉末中に含まれる元素の種類やその含有量を制御しやすい溶融法又はゾル-ゲル法により製造された酸反応性ガラス粉末を用いることが好ましい。
【0036】
酸反応性ガラス粉末は充填材として一般に販売されているものを、粉砕等の加工を行うことなく使用することもできるが、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の使用用途又は使用目的に応じて適宜粉砕して所望の平均粒子径に調整することができる。粉砕方法は特に限定されず、湿式法又は乾式法のいずれの粉砕方法を用いて粉砕したものでも使用することができる。具体的には、ハンマーミルやターボミル等の高速回転ミル、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、サンドグラインダーやアトライター等の媒体撹拌ミル、ジェットミル等を用いて粉砕することができる。
【0037】
例えば、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物を充填用や支台築造用の材料として用いる場合は、高い機械的特性を必要とするために酸反応性ガラス粉末の平均粒子径は0.01~30.0μmの範囲にあることが好ましく、0.01~10.0μmの範囲にあることがより好ましい。
【0038】
また、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物を合着用として用いる場合は、薄い被膜厚さを必要とするために酸反応性ガラス粉末の平均粒子径は0.01~10.0μmの範囲にあることが好ましく、0.01~5.0μmの範囲にあることがより好ましい。
【0039】
酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が0.01μm 未満になると、その表面積が増大し、組成物中に多量に含ませることができなくなるため、機械的特性の低下を引き起こす恐れがある。また練和物の粘度が増大し、操作性が悪くなる場合がある。
【0040】
充填用や支台築造用の材料として使用する場合、酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が30.0μm を超えると、研磨後の材料表面が粗造になるため、着色を引き起こす恐れがある。また、合着用として使用する場合、酸反応性ガラス粉末の平均粒子径が10.0μmを超えると、被膜厚さが厚くなるために合着した歯科補綴装置が浮き上がり、意図した適合が得られなくなる恐れがある。
【0041】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の操作性や硬化特性、機械的特性等を調整する目的で、酸反応性ガラス粉末は、後述する(c)酸性基含有重合性単量体の重合体との酸-塩基反応に悪影響を及ぼさない範囲で、種々の表面処理や加熱処理、液相中又は気相中等での凝集処理、表面を有機物で包含するマイクロカプセル化処理、又は表面を有機物で機能化するグラフト化等の処理を施すことができる。また、これらの処理は単独で又は数種を組み合わせて施しても何等問題はない。これらの中でも各種特性を制御しやすく、且つ生産性にも優れることから、表面処理又は加熱処理を施すことが好ましい。
【0042】
酸反応性ガラス粉末の表面処理方法を具体的に例示すると、りん酸又は酢酸等の酸による洗浄、酒石酸又はポリカルボン酸等の酸性化合物による表面処理、フッ化アルミニウム等のフッ化物による表面処理、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、又はテトラメトキシシラン等のシラン化合物による表面処理等が挙げられる。本発明において用いることができる表面処理方法は上記したものに限定されず、またこれらの表面処理方法はそれぞれ単独で又は複合的に組み合わせて用いることができる。
【0043】
酸反応性ガラス粉末の加熱処理方法を具体的に例示すると、電気炉等を用いて100~800℃の範囲で1~72時間加熱する処理方法等が挙げられる。本発明において用いることができる加熱処理方法は上記したものに限定されず、さらに単一温度、又は多段階温度のいずれの手法で加熱処理を行っても何等問題はない。
【0044】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる(b)水は、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の硬化性や機械的特性等の諸特性に悪影響を及ぼすような不純物を含有していないものであれば何等制限なく使用することができる。具体的には蒸留水又はイオン交換水を使用することが好ましい。
【0045】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる(c)酸性基含有重合性単量体の重合体は、少なくとも分子内に1つ以上の酸性基を含有する重合性単量体を重合させた重合体であれば何等制限なく用いることができる。なお、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体は、液材に配合することが好ましいが、その一部を粉材に配合しても何等問題はない。
【0046】
(c)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いることができる酸性基含有重合性単量体は、その酸性基の種類に限定されず、いずれの酸性基を有する重合性単量体であっても用いることができる。また、この酸性基含有重合性単量体が有するラジカル重合可能な不飽和基の数(単官能又は多官能)やその種類についても何等制限なく用いることができる。
【0047】
酸性基含有重合性単量体が有する酸性基を具体的に例示すると、リン酸基、ピロリン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、チオリン酸基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
酸性基含有重合性単量体が有する重合可能な不飽和基を具体的に例示すると、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら不飽和基の中でも(メタ)アクリロイル基、又は(メタ)アクリルアミド基であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。
【0049】
さらにこれらの酸性基含有重合性単量体は、分子内にアルキル基、ハロゲン、アミノ基、グリシジル基及び/又は水酸基等のその他の官能基を併せて有することができる。
【0050】
以下に(c)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いることができ、不飽和基として(メタ)アクリロイル基を有する酸性基含有重合性単量体を具体的に例示する。
【0051】
リン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシメチルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル2’-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
また、ピロリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]、ピロリン酸ビス[3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル]、ピロリンビス[4-(メタ)アクリロイルオキシブチル]、ピロリン酸ビス[5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル]、ピロリン酸ビス[6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル]、ピロリン酸ビス[7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチル]、ピロリン酸ビス[8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル]、ピロリン酸ビス[9-(メタ)アクリロイルオキシノニル]、ピロリン酸ビス[10-(メタ)アクリロイルオキシデシル]、ピロリン酸ビス[12-(メタ)アクリロイルオキシドデシル]、ピロリン酸トリス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]、ピロリン酸テトラ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
また、ホスホン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネ-ト、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
また、カルボキシル基を有する酸性基含有重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロイルオキシナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸及びその無水物、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネ-ト、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエ-ト、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、p-ビニル安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物、5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ヘキサンジカルボン酸、8-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-オクタンジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-デカンジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
また、スルホン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ) アクリレ-ト、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
また、チオリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
以上に示した酸性基含有重合性単量体は、単独で又は数種を組み合わせて酸性基含有重合性単量体の重合体を合成するために用いても何等問題はない。また、少なくとも分子内に1つ以上の酸性基を有した酸性基含有重合性単量体と酸性基を有していない重合性単量体とを共重合させて酸性基含有重合性単量体の重合体を合成しても何等問題はない。
【0058】
これらの酸性基含有重合性単量体の中でも、α,β-不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を用いることが好ましい。このときに用いることができるα,β-不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体は特に限定されず、また分子内に有するカルボキシル基の数やカルボン酸無水物又は他の置換基等の有無に何等関係なく用いることができる。
【0059】
これらのα,β-不飽和カルボン酸系の酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、2-クロロアクリル酸、3-クロロ(メタ)アクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸、チグリン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
各種重合性単量体を重合させる方法は特に限定されず、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等のいずれの方法で重合させたものでも何等制限なく用いることができる。また、重合体の合成時に用いることができる重合開始剤や連鎖移動剤は、所望の重合体を得るために適宜選択すればよい。このようにして得られた酸性基含有重合性単量体の重合体は単独で、又は数種を組み合わせて用いることができる。
【0061】
得られた酸性基含有重合性単量体の重合体は、操作余裕時間や硬化時間を調整する目的で、或いは保存安定性を向上させる目的で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、又は炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属の炭酸塩、或いは炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩等を用いて、その酸性基の一部を中和反応させてから用いてもよい。この中和に用いる化合物はこれらに限定されず、単独で又は数種を組み合わせて用いても何等問題はない。
【0062】
さらに、酸性基含有重合性単量体の重合体は、ラジカル重合可能な不飽和基を有していても何等問題はない。しかし、不飽和基を有する酸性基含有重合性単量体の重合体は、(b)水に対する溶解性が比較的低く、その配合量が低くなる傾向にあり、それに基因して硬化物の機械的特性が低下する場合があるため、酸性基含有重合性単量体の重合体は不飽和基を有さない方がより好ましい。
【0063】
これらの中でも、アクリル酸のみを出発原料として合成した酸性基含有重合性単量体の重合体(ポリアクリル酸)、或いはアクリル酸とマレイン酸、アクリル酸と無水マレイン酸、アクリル酸とイタコン酸、アクリル酸と3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等、2種類以上を出発原料として合成した酸性基含有重合性単量体の共重合体を用いることがより好ましい。
【0064】
また、酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量は10,000~500,000の範囲であることが好ましく、20,000~300,000の範囲であることがより好ましくは、20,000~200,000の範囲であることがさらに好ましい。酸性基含有重合性単量体の重合体の重量平均分子量が10,000未満になると硬化物の機械的特性が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる場合がある。一方、重量平均分子量が500,000を超えると歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物を練和した際に練和物の粘度が高くなり、操作性に問題が生じる場合がある。
【0065】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体は、分子内に少なくとも1つ以上の水酸基と、ラジカル重合可能な不飽和基として少なくとも1つ以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体であれば何等制限なく用いることができる。
【0066】
(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体を例示すると、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(2-HEMA)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、フェノール類とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加生成物、例えば、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-ナフトキシプロピル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体、2-ヒドロキシプロピル-1,3-ジ(メタ)アクリレート(GDMA)、3-ヒドロキシプロピル-1,2-ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(Bis-GMA)、及び2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(GDA)等の多官能(メタ)アクリレート系重合性単量体が挙げられる。また、糖アルコール(エリスリトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール等)、単糖類(アラビノース、キシロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等)、2糖類(スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等)、及び3糖類(マルトトリオース、ラフィノース等)が有する水酸基のうち2つ以上の水酸基を、重合性可能な不飽和基を有する置換基に置換した多官能(メタ)アクリレート系重合性単量体も好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
中でも2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(Bis-GMA)、2-ヒドロキシプロピル-1,3-ジ(メタ)アクリレート(GDMA)、及び2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート(GDA)が特に好適である。なお、これらの水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体は、所望により2種類以上を適宜併用してもよい。
【0068】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物においては、(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体が、水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の両方を含み、且つ水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート系重合性単量体と水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体の配合比率が、重量比で1:2~4:1であることが好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体をこのような組み合わせ及び配合比率とすることにより、(b)水、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体、及び(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が均一に相溶しやすくなるため、硬化後の機械的特性と透明性を向上させることができる。さらに、前記水酸基を有する2~4官能(メタ)アクリレート系重合性単量体は水酸基を有する2官能(メタ)アクリレート系重合性単量体であることがより好ましい。
【0069】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体は、分子内に3つ以上の(メタ)アクリルアミド基を有する重合性単量体であれば何等制限なく用いることができる。なお、(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体は酸性基及び/又は水酸基を有さないほうが、表面硬化性と耐着色性の向上、及び吸水膨張の低減において効果が得られやすいため好ましい。
【0070】
(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体を具体的に例示すると、下記式(1)及び下記式(3)で表されるものがある。
【0071】
【化3】
【0072】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0073】
【化4】
【0074】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。mは2~4の整数を表す。nは2~4の整数を表す。kは0又は1を表す。複数のR、mは互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0075】
より具体的な(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体としては、下記式(2)及び(4)~(7)で表されるものがある。
【0076】
【化5】
【0077】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。)
【0078】
【化6】
【0079】
【化7】
【0080】
【化8】
【0081】
【化9】
【0082】
これらの中でも、4官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体であることが好ましく、上記式(1)で表される重合性単量体であることがより好ましく、上記式(2)で表される重合性単量体であることがさらに好ましく、上記式(2)で表されRが全て水素原子である重合性単量体であることが最も好ましい。
【0083】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる(f)重合開始剤は、公知の光重合開始剤及び/又は化学重合開始剤が何等制限なく用いることができる。なお、(f)重合開始剤は、充分にレジン成分を硬化させることが出来さえすれば粉材と液材の少なくともいずれか一方に配合されていれば良く、様々な重合開始剤系を用いることができる。
【0084】
光重合開始剤としては、光増感材からなるもの、光増感材/光重合促進材等が挙げられる。光増感材を具体的に例示すると、ベンジル、カンファーキノン、α-ナフチル、アセトナフセン、p,p‘-ジメトキシベンジル、p,p‘-ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2-フェナントレンキノン、1,4-フェナントレンキノン、3,4-フェナントレンキノン、9,10-フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα-ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-メトキシチオキサントン、2-ヒドロキシチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノン、p-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類、2-ベンジル-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ベンジル-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-プロパノン-1等のα-アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2-メトキシエチルケタール)等のケタール類、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)等のクマリン類、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス〔2,6-ジフルオロ-3-(1-ピロリル)フェニル〕-チタン、ビス(シクペンタジエニル)-ビス(ペンタンフルオロフェニル)-チタン、ビス(シクロペンタジエニル)-ビス(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-ジシロキシフェニル)-チタン等のチタノセン類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
光重合促進材を具体的に例示すると、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジ-n-ブチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、p-ブロモ-N,N-ジメチルアニリン、m-クロロ-N,N-ジメチルアニリン、p-ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N-ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノフェニルアルコール、p-ジメチルアミノスチレン、N,N-ジメチル-3,5-キシリジン、4-ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチル-α-ナフチルアミン、N,N-ジメチル-β-ナフチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルヘキシルアミン、N,N-ジメチルドデシルアミン、N,N-ジメチルステアリルアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2‘-(n-ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、N-フェニルグリシン等の第二級アミン類、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5-トリメチルバルビツール酸カルシウム等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル-1,3-ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類、ラウリルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド化合物類、ドデシルメルカプタン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸等の含イオウ化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
さらに、光重合促進能の向上のために、上記光重合促進材に加えて、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α-オキシイソ酪酸、2-ヒドロキシプロパン酸、3-ヒドロキシプロパン酸、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的であるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
化学重合開始剤としては、過酸化物/アミン化合物、過酸化物/アミン化合物/芳香族スルフィン酸又はその塩、又は芳香族スルホニル化合物、過酸化物/アミン化合物/(チオ)バルビツール酸化合物又は(チオ)バルビツール酸塩化合物、過酸化物/アミン化合物/ボレート化合物、過酸化物/アスコルビン酸化合物、過酸化物/チオ尿素/バナジウム化合物又は銅化合物からなるレドックス型の重合開始剤系、酸素や水と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤系が挙げられる。さらには芳香族スルフィン酸塩類、ボレート化合物類、及び(チオ)バルビツール酸塩類は酸性化合物を作用させることにより重合を開始させることができるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二リン酸ナトリウム、ペルオキソ二リン酸カリウム、ペルオキソ二リン酸アンモニウム、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t-アミルハイドロパーオキサイド、iso-プロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、5-フェニル-4-ペンテニルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
アミン化合物としては、芳香族第二級又は芳香族第三級アミンが好ましく、具体的に例示するとN-メチル-p-トルイジン、N-(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、p-メチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルアニリン、N-(2-ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アニリン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
芳香族スルフィン酸又はその塩、又は芳香族スルホニル化合物としては、ベンゼンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩又はアンモニウム塩、又はベンゼンスルホニルクロライド、ベンゼンスルホニルフルオライド、ベンゼンスルホンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルクロライド、p-トルエンスルホニルフルオライド、p-トルエンスルホンアミド、p-トルエンスルホニルヒドラジド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
(チオ)バルビツール酸化合物又は(チオ)バルビツール酸塩化合物としては、バルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3-ジフェニルバルビツール酸、1,5-ジメチルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、5-エチルバルビツール酸、5-イソプロピルバルビツール酸、5-シクロヘキシルバルビツール酸、5-ラウリルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-n-ブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-フェニルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-フェニル-5-ベンジルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、チオバルビツール酸、1,3-ジメチルチオバルビツール酸、5-フェニルチオバルビツール酸、及びそれらのアルカリ金属塩(リチウム、ナトリウム、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、ストロンチウム、バリウム塩等)、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、又はテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
ボレート化合物としては、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p-クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリス(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等)のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
アスコルビン酸化合物としては、L(+)-アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、L(+)-アスコルビン酸ナトリウム、L(+)-アスコルビン酸カリウム、L(+)-アスコルビン酸カルシウム、イソアスコルビン酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
チオ尿素化合物としては、1,3-ジメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1-ジエチルチオ尿素、1,1,3,3-テトラエチルチオ尿素、1-アリル-2-チオ尿素、1,3-ジアリルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、1,3-ジフェニル-2-チオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素、エチレンチオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-フェニルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
バナジウム化合物としては、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、バナジルステアレート、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0096】
銅化合物としては、塩化銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、サリチル酸銅、グルコン酸銅、オレイン酸銅、安息香酸銅、銅アセチルアセトネート、ナフテン酸銅等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
有機金属型の重合開始剤としては、トリフェニルボラン、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
これらの重合開始剤は重合様式や重合方法を問わず、単独又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの重合開始剤は必要に応じてマイクロカプセルに内包する等の二次的な処理を施しても何等問題はない。
【0099】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は、歯質、卑金属、アルミナ及びジルコニア等に対する接着性を向上させるために、所望により(g)酸性基含有重合性単量体を含有させることができる。(g)酸性基含有重合性単量体は、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体を得るために用いることができる酸性基含有重合性単量体と同じものを用いることができる。また、(g)酸性基含有重合性単量体は、単独で又は数種を組み合わせて用いても何等問題はない。なお、(g)酸性基含有重合性単量体は、粉材及び/又は液材の少なくとも何れか一方に配合されていれば良い。
【0100】
中でも(g)酸性基含有重合性単量体は、カルボキシル基含有重合性単量体であることが好ましく、2つ以上のカルボキシル基を有することがより好ましい。カルボキシル基含有重合性単量体を含有させることにより、歯質等に対する接着性と機械的特性のバランスに優れた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物が得られやすくなる。
【0101】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いる主要成分は、以上に示した(a)酸反応性ガラス粉末、(b)水、(c)酸性基含有重合性単量体の重合体、(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(f)重合開始剤、及び(g)酸性基含有重合性単量体であり、その好適な含有量は以下の通りである。
【0102】
(a)酸反応性ガラス粉末は、(f)重合開始剤を除いた組成物の総重量の100重量部中に20~85重量部含まれることが好ましい。酸反応性ガラス粉末の含有量が20重量部未満では、硬化物の機械的強度が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる場合がある。85重量部を超えると練和した際に練和物の粘度が高くなり、操作性に問題が生じる場合がある。また硬化が速くなり充分な操作余裕時間が得られない場合がある。
【0103】
(b)水は、(f)重合開始剤を除いた液材の総重量100重量部中に1~55重量部含まれることが好ましい。水の含有量が1重量部未満では、酸-塩基反応が起こりにくくなり、硬化不良を引き起こす場合がある。55重量部を超えると硬化物の機械的強度が低くなりすぎて、耐久性に問題が生じる場合がある。
【0104】
(c)酸性基含有重合性単量体の重合体は、(f)重合開始剤を除いた組成物の総重量の100重量部中に0.1~40重量部含まれることが好ましい。酸性基含有重合性単量体の重合体の含有量が0.1重量部未満では、酸-塩基反応が起こりにくくなり、硬化不良を引き起こす場合がある。40重量部を超えると練和した際に練和物の粘度が高くなり、操作性に問題が生じる場合がある。また硬化が速くなり充分な操作余裕時間が得られない場合がある。
【0105】
(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体は、全重合性単量体、(b)水、及び(c)酸性基含有重合性単量体の重合体の総重量の100重量部中に3~60重量部含まれることが好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体の含有量が3重量部未満では、各重合性単量体、水及び酸性基含有重合性単量体の重合体の相溶性が悪くなり、硬化物が不均一となることで、機械的特性と透明性が低下する場合がある。60重量部を超えると重合性単量体混合物の硬化性が悪くなり、機械的特性が低下する場合がある。
【0106】
(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体は、全重合性単量体、(b)水、及び(c)酸性基含有重合性単量体の重合体の総重量の100重量部中に1~30重量部含まれることが好ましい。3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体の含有量が1重量部未満では、重合性単量体混合物の硬化性が悪くなり、機械的特性が低下する場合がある。また、保存安定性も悪くなる場合がある。30重量部を超えると各重合性単量体、水及び酸性基含有重合性単量体の重合体の相溶性が悪くなり、硬化物が不均一となることで、機械的特性と透明性が低下する場合がある。
【0107】
(f)重合開始剤は、全重合性単量体の総重量の100重量部に対して0.01~10重量部の割合で添加されることが好ましい。重合開始剤の含有量が0.01重量部未満では、硬化性が悪くなり、機械的特性が低下する場合がある。10重量部を超えると保存安定性が悪くなる場合がある。
【0108】
(g)酸性基含有重合性単量体は、全重合性単量体、(b)水、及び(c)酸性基含有重合性単量体の重合体の総重量の100重量部中に1~20重量部含まれることが好ましい。酸性基含有重合性単量体の含有量が1重量部未満では、歯質に対する接着性が低下する場合がある。20重量部を超えると硬化性が悪くなり、機械的特性が低下する場合がある。また、保存安定性が悪くなる場合がある。
【0109】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物には、諸特性に悪影響を与えない範囲であれば機械的特性を向上させる目的で、(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(g)酸性基含有重合性単量体、以外の重合性単量体を含ませることができる。そのような重合性単量体としては、ラジカル重合可能な不飽和基の数(単官能又は多官能)やその種類に何等制限はなく公知のものが使用できる。以下に不飽和基として(メタ)アクリロイル基を有する該重合性単量体を代表例として具体的に示す。
【0110】
単官能重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
芳香族系2官能重合性単量体としては、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)-2(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
脂肪族系2官能重合性単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0113】
3官能重合性単量体としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0114】
4官能重合性単量体としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0115】
ウレタン系重合性単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有する重合性単量体とメチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物との付加物から誘導される2官能又は3官能以上のウレタン結合を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0116】
上記の(メタ)アクリート基含有重合性単量体以外に、硫黄原子を分子内に有する重合性単量体、フルオロ基を有する重合性単量体、少なくとも1個以上の重合性基を有するオリゴマー又はポリマーを用いても良い。これら重合性単量体は単独で或いは必要に応じて複数を組み合わせて用いることができる。
【0117】
なお、本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の諸特性に影響を与えない範囲であれば、分子内に1つ又は2つの(メタ)アクリルアミド基を有する重合性単量体を含ませても何等問題はない。
【0118】
(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体、(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、(g)酸性基含有重合性単量体、以外の重合性単量体は、液材の総重量100重量部中に5.0重量部以内の範囲で含まれることが好ましい。
【0119】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物には、(a)酸反応性ガラス粉末と(c)酸性基含有重合性単量体の重合体との酸-塩基反応を制御し、操作余裕時間や硬化時間を調整する目的で、多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸、又はトリポリリン酸等を含ませることができるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる多塩基性カルボン酸を具体的に例示すると、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、アコニット酸、トリカルバリール酸、イタコン酸、1-ブテン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸等が挙げられる。以上に記載した多塩基性カルボン酸は、これらに限定されるものではなく、何等制限なく用いることができる。
【0121】
また、これらの多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸及び/又はトリポリリン酸は、単独で又は数種を組み合わせて用いることができる。多塩基性カルボン酸、リン酸、ピロリン酸及び/又はトリポリリン酸は、組成物の総重量の100重量部中に0.1~15.0重量部の範囲で含まれることが好ましい。
【0122】
さらに本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物には、諸特性に影響を与えない範囲であれば、練和性を向上させる目的で、界面活性剤を含ませることができる。本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる界面活性剤は、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0123】
イオン性界面活性剤を具体的に例示すると、アニオン性界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪族カルボン酸金属塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の硫酸化脂肪族カルボン酸金属塩類、ステアリル硫酸エステルナトリウム等の高級アルコール硫酸エステルの金属塩類等が挙げられる。
【0124】
また、カチオン性界面活性剤としては、高級アルキルアミンとエチレンオキサイドの付加物、低級アミンからつくられるアミン類、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩類等が挙げられる。さらに両性界面活性剤としては、ステアリルアミノプロピオン酸ナトリウム等の高級アルキルアミノプロピオン酸の金属塩類、ラウリルジメチルベタイン等のベタイン類等が挙げられる。
【0125】
また、非イオン性界面活性剤としては、高級アルコール類、アルキルフェノール類、脂肪酸類、高級脂肪族アミン類、脂肪族アミド類等にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加させたポリエチレングリコール型あるいはポリプロピレングリコール型、又は多価アルコール類、ジエタノールアミン類、糖類と脂肪酸がエステル結合した多価アルコール型等が挙げられる。
【0126】
以上に記載した界面活性剤はこれらに限定されるものではなく、何等制限なく用いることができる。また、これら界面活性剤は単独で又は数種を組み合わせて用いることができる。界面活性剤は組成物の総重量の100重量部中に0.001~5.0重量部の範囲で含まれることが好ましい。
【0127】
さらに本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物には、諸特性に悪影響を与えない範囲であれば、操作性、機械的特性又は硬化特性を調整する目的で、非酸反応性粉末を含ませることができる。
【0128】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物に用いることができる非酸反応性粉末は、酸性基含有重合性単量体の重合体が有する酸性基と反応する元素を含有しないものであれば特に限定されることなく用いることができる。
【0129】
非酸反応性粉末としては歯科用充填材として公知なもの、例えば、無機充填材、有機充填材及び有機-無機複合充填材等が挙げられ、これらは単独で又は数種を組み合わせても何等制限なく用いることができる。それらの中でも無機充填材を用いることが特に好ましい。また、これら非酸反応性粉末の形状は特に限定されず、球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等の任意の粒子形状のものやそれらの凝集体であってもよく、これらに限定されるものではない。これら非酸反応性粉末の平均粒子径は特に制限はないが、0.001~30μmの範囲にあることが好ましい。
【0130】
無機充填材を具体的に例示すると、石英、無定形シリカ、超微粒子シリカ、酸性基と反応する元素を含まない種々のガラス(溶融法によるガラス、ゾル-ゲル法による合成ガラス、気相反応により生成したガラス等を含む)、チッ化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0131】
非酸反応性粉末は組成物の総重量の100重量部中に0.001~40重量部の範囲で含まれることが好ましい。
【0132】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物には、必要に応じて、公知の各種添加材を任意に配合することができる。本発明に用いることができる添加材としては、重合禁止材、連鎖移動材、着色材、変色防止材、蛍光材、紫外線吸収材、抗菌材、防腐剤等が挙げられる。
【実施例
【0133】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物を調製するために用いた成分(a)~(g)及びその他の成分、並びにそれらの略称は次の通りである。
【0134】
[(a)酸反応性ガラス粉末]
・CK-Si-1:シラン処理フルオロアルミノシリケートガラス粉末1
(50%粒子径:4.5μm)
・CK-Si-2:シラン処理フルオロアルミノシリケートガラス粉末2
(50%粒子径:8.0μm)
【0135】
[(b)水]
・蒸留水
【0136】
[(c)酸性基含有重合性単量体の重合体]
・PCA1:アクリル酸ホモポリマー粉末(重量平均分子量:5万)
・PCA2:アクリル酸-3-ブテン-1,2,3-トリカルボン酸コポリマー粉末(重量平均分子量:8万)
・PCA3:アクリル酸-マレイン酸コポリマー粉末(重量平均分子量:6万)
【0137】
[(d)水酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体]
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
・Bis-GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
・GDMA:グリセリンジメタクリレート
・GDA:2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート
【0138】
[(e)3官能以上の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体]
4官能のアクリルアミド系重合性単量体
・FAM-401(富士フイルム株式会社製):式(2)で表され、Rが全て水素原子である化合物
・FAM-402(富士フイルム株式会社製):式(5)で表される化合物
3官能のアクリルアミド系重合性単量体
・FAM-301(富士フイルム株式会社製):式(4)で表される化合物
・FAM-302L(富士フイルム株式会社製):式(7)で表される化合物
【0139】
[(f)重合開始剤]
・CQ:dl-カンファーキノン
・DMBE:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル
・DM-3B:N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート
・APO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
・Bis-APO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド(イルガキュア819)
・p-TSNa:p-トルエンスルフィン酸ナトリウム
・KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム
・AA:アスコルビン酸
【0140】
[(g)酸性基含有重合性単量体]
・4-MET:4-メタクリロキシエチルトリメリット酸
・4-AET:4-アクリロキシエチルトリメリット酸
・10-MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0141】
[その他]
・14EG:ポリエチレングリコール#600ジメタクリレート
・HEAA:ヒドロキシエチルアクリルアミド
・2AM:N,N‘-メチレンビスメタクリルアミド
【0142】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末の製造方法は以下の通りである。
【0143】
[フルオロアルミノシリケートガラス粉末1の製造]
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、炭酸ストロンチウムの各種原料(ガラス組成:SiO 26.4重量%、Al 29.3重量%、SrO 20.5重量%、P10.9、NaO 2.5重量%、F 10.4重量%)を混合した後、その原料混合品を溶融炉中で1400℃にて溶融した。融液を溶融炉から取り出し、それを水中で急冷することでガラスを得た。得られたガラスを粉砕し、フルオロアルミノシリケートガラス粉末1を得た。このガラス粉末の50%粒子径をレーザー回折式粒度測定機(マイクロトラックMT3300EXII:日機装社製)により測定した結果、4.5μmであった。
【0144】
[フルオロアルミノシリケートガラス粉末2の製造]
フルオロアルミノシリケートガラス粉末1と同じ方法でガラスを得た後、粉砕時間を調整することで50%粒子径が8.0μmのフルオロアルミノシリケートガラス粉末2を得た。
【0145】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末のシラン処理方法は以下の通りである。
【0146】
[フルオロアルミノシリケートガラス粉末1及び2のシラン処理]
200gのフルオロアルミノシリケートガラス粉末1又は2を500mLの水に分散させた後、2gの3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加え、室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、さらに100℃で5時間乾燥することでシラン処理フルオロアルミノシリケートガラス粉末1及び2:CK-Si-1及びCK-Si-2を得た。
【0147】
[粉材及び液材の調製]
表1~3に示す比率にて各成分を混合し、実施例及び比較例に用いた歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の粉材及び液材を調製した。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】

【0150】
【表3】
【0151】
これらの粉材及び液材を表4に示す組み合わせ、及び粉/液比にて練和した歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物(実施例1~9、比較例1~6)について、表面硬化性、保存安定性、耐着色性(着色試験) 吸水線膨張率、及び圧縮強さを評価した。また、市販の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント(フジII LC(色調:A2)/ジーシー)についても同様に評価した(比較例7)。それらの試験結果を表4に示す。なお、評価方法は以下に示した通りである。
【0152】
<表面硬化性>
温度37℃・湿度100%の恒温槽に設置したガラス板上に、ステンレス製モールド(直径10mm×厚さ0.5mm:円盤状)を置き、実施例、又は比較例に示す歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の練和物をモールド内に充填した。表面が平坦となるように余剰の練和物を除去した後、表面を開放した状態で高さ5mmの位置から歯科重合用光照射器(商品名:ペンブライト,松風社製)を用いて10秒間光照射することで練和物を硬化させ、それを試験体とした。プラスチック製ヘラを用いて試験体の表面を強く擦り、傷の有無や傷の程度等の表面状態を確認した。その後に、表面に水を滴下し1分間放置後、不繊布等で水分を拭き取り、再度表面状態(表面の白濁度)を確認した。評価基準は以下の通り。
◎:試験体の表面にべたつきはなく、傷及び白濁は殆ど存在しない。
〇:試験体の表面はべたつかないが、若干の傷及び一部分に白濁が存在する。
△:試験体の表面は未重合の重合性単量体の残存によりややべたつき、且つ若干の傷及び大部分に白濁が存在する。
×:試験体の表面は未重合の重合性単量体の残存によりべたつき、且つ多数の傷及び全面に白濁が存在する。
なお、◎、〇及び△が臨床での使用に耐えうるものである。
【0153】
<保存安定性の評価>
実施例及び比較例に示す歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物について、調製直後に練和性を評価した。粉材及び液材を50℃の恒温器に2ヶ月間保存した後、再度練和性を評価し、調製直後の練和性と比較した。評価基準は以下の通り。
A:ほとんど変化なし。
B:練和性が低下する。
C:液材の分離やゲル化が生じる、又は練和性が著しく低下する。
なお、A及びBを保存後においても臨床での使用に耐えうるものとした。
【0154】
<着色試験>
ステンレス製モールド(直径10mm×厚さ1mm:円盤状)を平滑なガラス板上に置き、実施例、又は比較例に示す歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の練和物をモールド内に充填した。歯科重合用光照射器(商品名:ペンブライト,松風社製)を用いて10秒間光照射することで練和物を硬化させた後、モールドから硬化物を取り出し、それを試験体とした。測色機(コニカミノルタCM-5)を用いて、SCI方式、光源D65、視野角2°、白色板上で、L色空間のL、a、b値を測定した。測定後、試験体を37℃ローダミン溶液(0.1%)5mLに24時間浸漬した後、水洗、乾燥を行った。試験体の側面(円盤の側面(未重合層))を#600研磨紙にて除去した後、再度L、a、b値を測定し、ローダミン溶液浸漬前後における色差を以下の式により算出した。1試料につき3個の試験体について測定を行い、その平均値を求めた。
ΔE = ((L - L + (a - a + (b - b 1/2
式中の右辺に示す各パラメータは以下の通り。
:着色前のL
:着色後のL
:着色前のa
:着色後のa
:着色前のb
:着色後のb
なお、表中に示す「着色試験」の判定基準は以下の通り。
A :ΔEが0~40未満:試験体は着色していない~やや着色が認められる。
B :ΔEが40~50未満:試験体はある程度着色が認められる。
C :ΔEが50以上:試験体は著しく着色している。
なお、A及びBが臨床での長期使用に耐えうるものである。50以上であると、天然歯との調和が完全に取れていない状態となる。
【0155】
<吸水線膨張率>
分割可能なステンレス製モールド(直径4mm×高さ6mm:円柱状)を平滑なガラス板上に置き、実施例、又は比較例に示す歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の練和物をモールド内に充填した。充填した練和物の上面を平滑なガラス板にて圧接した後、歯科重合用光照射器(商品名:ペンブライト,松風社製)を用いて10秒間光照射することで練和物を硬化させた。それを37℃-相対湿度100%の恒温恒湿槽中で1時間静置した後、モールドから硬化物を取り出し、それを試験体とした。マイクロメーター(ミツトヨ社製)にて試験体の軸方向の長さを測定し、それを初期値とした。試験体を37℃の蒸留水中に練和終了から24時間浸漬した後、同様に軸方向の長さを測定し、それを試験値とした。得られた値を用いて以下の式により吸水線膨張率を算出した。1試料につき3個の試験体について測定を行い、その平均値を求めた。
吸水線膨張率(%) = (試験値-初期値)×100/初期値
なお、1.0未満が臨床での長期使用に耐えうるものである。1.0以上になると歯根等が歯折する恐れがある。
【0156】
<圧縮強さ試験>
分割可能なステンレス製モールド(直径4mm×高さ6mm:円柱状)を平滑なガラス板上に置き、実施例、又は比較例に示す歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物の練和物をモールド内に充填した。充填した練和物の上面を平滑なガラス板にて圧接した後、歯科重合用光照射器(商品名:ペンブライト,松風社製)を用いて10秒間光照射することで練和物を硬化させた。それを37℃-相対湿度100%の恒温恒湿槽中で1時間静置した後、モールドから硬化物を取り出し、37℃の蒸留水中に練和終了から24時間浸漬したものを試験体とした。JIST6609-1(ISO9917-1)に準じて、万能試験機(インストロン5567A:インストロンジャパン社製)を用いて、円柱状の試験体の軸方向にクロスヘッドスピード1.0mm/min.の条件にて荷重をかけ、圧縮強さ(MPa)を測定した。1試料につき5個の試験体について測定を行い、その平均値を求めた。
なお、ISO9917-1規格にあるように100以上が臨床での使用に耐えうるものである。

【0157】
【表4】
【0158】
表4に示した通り、実施例1~9の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は、表面硬化性に優れ、高い圧縮強さを示した。また、硬化物は着色が少なく、吸水線膨張率も低かった。さらに、粉材と液材は50℃、2ヶ月間保存後においても調製直後の練和性を維持していた。一方、比較例1~6の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物、及び市販の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント(比較例7)は、実施例1~9の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物と比較して、表面硬化性、圧縮強さ、耐着色性、吸水線膨張率、又は保存安定性のいずれかの特性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメント組成物は、う蝕や破折等により部分的に形態が損なわれた歯牙の充填修復や、形態が損なわれた歯牙への歯科補綴装置の合着等に用いることができる。