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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】表面処理組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20240110BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240110BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240110BHJP
   C09D 201/04 20060101ALI20240110BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240110BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240110BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240110BHJP
   A01N 43/78 20060101ALI20240110BHJP
   A01N 47/12 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C09K3/18 102
C09K3/00 R
C09D7/20
C09D201/04
C09D7/63
A01P3/00
A01N25/02
A01N43/78
A01N47/12 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019226656
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021095479
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小長谷 誠
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-177857(JP,A)
【文献】特開2008-038108(JP,A)
【文献】特開2013-151648(JP,A)
【文献】特開2017-201004(JP,A)
【文献】特開2017-125092(JP,A)
【文献】特開2014-009335(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164140(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/005166(WO,A1)
【文献】特開2013-100400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00-3/20
C09D 1/00-201/10
C23C 24/00-30/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)トリデカフルオロオクタンと(3)ハイドロフルオロエーテル類とのみ含む混合溶剤と、
含フッ素化合物(A)と、
防かび剤(B)とを含有し、
前記(3)ハイドロフルオロエーテル類が、CF (CF OC と(CF CFCF OC のいずれかもしくはその混合物、及び/又は、CF CH OCF CF Hを含み、
前記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと前記(2)トリデカフルオロオクタンと前記(3)ハイドロフルオロエーテル類の合計含有量が、前記混合溶剤全量中の100質量%であり、
前記含フッ素化合物(A)が下記式(a)で表される(メタ)アクリル酸化合物に由来する繰り返し単位を有する含フッ素系重合体であり、前記含フッ素化合物(A)の含有量が当該表面処理組成物全量中の0.01~20質量%であり、
前記防かび剤(B)がチアゾリン系化合物及び/又はヨード系化合物であり、前記防かび剤(B)の含有量が当該表面処理組成物全量中の0.005質量%以上10質量%以下であり、
前記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン/前記(2)トリデカフルオロオクタン/前記(3)ハイドロフルオロエーテル類の含有量の質量比が、30~50/15~40/20~30である、
表面処理組成物。
CH =CR -COX-Q -Rf (a)
式(a)において、
は、水素原子又はメチル基を表し、
Xは、-O-又は>NHを表し、
は、単結合又は2価の連結基を表し、
Rf は、炭素数1~20のポリフルオロアルキル基を表す。
【請求項2】
少なくとも(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)トリデカフルオロオクタンと(3)ハイドロフルオロエーテル類とアルコールと含む混合溶剤と、
含フッ素化合物(A)と、
防かび剤(B)とを含有し、
前記(3)ハイドロフルオロエーテル類が、CF (CF OC と(CF CFCF OC のいずれかもしくはその混合物、及び/又は、CF CH OCF CF Hを含み、
前記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと前記(2)トリデカフルオロオクタンと前記(3)ハイドロフルオロエーテル類の合計含有量が、前記混合溶剤全量中の80質量%以上であり、
前記含フッ素化合物(A)が下記式(a)で表される(メタ)アクリル酸化合物に由来する繰り返し単位を有する含フッ素系重合体であり、前記含フッ素化合物(A)の含有量が当該表面処理組成物全量中の0.01~20質量%であり、
前記防かび剤(B)が、チアゾリン系化合物及び/又はヨード系化合物であり、前記防かび剤(B)の含有量が当該表面処理組成物全量中の0.005質量%以上10質量%以下であり、
前記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと前記(2)トリデカフルオロオクタンと前記(3)ハイドロフルオロエーテル類と前記アルコールの含有量の質量比が、10~20/10~20/59~79.9/0.1~1である、
表面処理組成物。
CH 2 =CR 1 -COX-Q 1 -Rf 1 (a)
式(a)において、
1 は、水素原子又はメチル基を表し、
Xは、-O-又は>NHを表し、
1 は、単結合又は2価の連結基を表し、
Rf 1 は、炭素数1~20のポリフルオロアルキル基を表す。
【請求項3】
前記混合溶剤が非引火性である、請求項1又は2に記載の表面処理組成物。
【請求項4】
前記含フッ素化合物(A)が、前記Rf 1 として、炭素数6以下のポリフルオロアルキル基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項5】
前記ポリフルオロアルキル基の炭素数が6である、請求項に記載の表面処理組成物。
【請求項6】
前記(3)ハイドロフルオロエーテル類が、CF3(CF23OC25と(CF32CFCF2OC25とCF3CH2OCF2CF2Hとを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項7】
前記含フッ素系重合体が、更に、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物から導かれる構成単位を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項8】
前記混合溶剤の含有量が、当該表面処理組成物全量の70~99質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含有する撥水撥油剤。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含有する防水・防湿コーティング剤。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理組成物、請求項に記載の撥水撥油剤、又は請求項10に記載の防水・防湿コーティング剤で被覆された基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合溶剤と含フッ素化合物と防かび剤を含有する表面処理組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の生活環境において、撥水性能及び撥油性能が望まれるか必要とされる設備、装置、機械器具は多数存在し、その種類も、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡、インクジェットプリンター部品など、きわめて多岐に亘っている。従来、これらの物体に撥水性を付与しようとする際には、一般的に、濡れにくくする、つまり物体表面の水接触角を大きくする方法が適用されている。典型的には、たとえばシリコーン系化合物又は樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などのいわゆる疎水性材料による表面被覆が行われている。
【0003】
また、各種基材表面には、撥水性、撥油性、及びフラックス等の溶剤(2-プロパノール:IPA)に対する撥IPA性を付与するためのフッ素系重合体(特に多くの場合パーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体)を乾燥性溶剤中に含む表面処理剤(表面処理組成物)が適用される。この表面処理剤(表面処理組成物)に使用される溶剤は、乾燥性が良好であって、かつフッ素系重合体の溶剤となり得るものである。フッ素系重合体は、本質的に通常の有機溶剤に対する溶解性が貧しいことから、フッ素系重合体の溶剤は、実質的にフッ素系溶剤である。
【0004】
とりわけ防水性及び防湿性の求められる用途においては、その使用環境により、かびの発生が問題となるケースがある。各種部材へのかびの発生は、外観上や健康衛生上の問題のみならず、例えば電子部品の絶縁材上に発生した場合には、絶縁性の低下や短絡など、性能に致命的な影響を与える危険性がある。
【0005】
従来このようなかびの発生を防止するためには、抗菌抗かび剤が使用される。
【0006】
例えば、特許文献1には、含フッ素重合体の水系分散体と防菌防カビ剤を含有する撥水撥油剤組成物であって、含フッ素重合体の水系分散体のカチオン強度が水系分散体の固形分100gあたり0~2.5ミリモルである撥水撥油剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-082164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、チアベンダゾール等のベンゾイミダゾール系をはじめとする一般的な抗菌抗かび剤は、水又は有機溶剤への溶解性に乏しい。
また、特許文献1のように、溶剤として水を含む撥水撥油剤組成物を基材に塗工した場合、上記水を塗工面から除去するために加熱もしくは長時間の乾燥が必須であり、乾燥設備導入の手間や作業効率の低下が予想される。また、添加した界面活性剤の影響により、撥水性能及び/又は撥油性能の低下も懸念される。
一方、表面処理剤(表面処理組成物)が有機溶剤として特に先述のフッ素系溶剤を含有する場合、上記フッ素系溶剤に対する一般的な抗菌抗かび剤の溶解性は、他の有機溶剤と比較して著しく低い。そのため、フッ素系重合体を用いた表面処理剤と防かび剤とを併用しようとした場合、乾燥後の被膜面に分布する防かび剤が不均一となり、防かび性能を十分に発揮することが困難であることが明らかとなった(比較例5、6)。
【0009】
本発明は、上記のような状況を鑑みて提案されたものであり、有効成分である、含フッ素化合物と防かび剤の溶解性に優れ、常温での乾燥性が良好で、かつ高い撥水性能及び撥油性能と、優れた防かび性能を有する表面処理組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、混合溶剤と、含フッ素化合物(A)と、防かび剤(B)とを含有し、上記混合溶剤が、少なくとも(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)トリデカフルオロオクタンと(3)ハイドロフルオロエーテル類とを含み、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと上記(2)トリデカフルオロオクタンと上記(3)ハイドロフルオロエーテル類の合計含有量が上記混合溶剤(全量)に対して80質量%以上である、表面処理組成物によれば、含フッ素化合物(A)と防かび剤(B)の溶解性が良好で、常温での乾燥性に優れ、かつ乾燥後の被膜が高い撥水性能及び撥油性能を有し、かつ乾燥後の被膜面での防かび剤(B)の分布均一性(表面均一性)が優れることによって優れた防かび性能を有することを見出し、本発明に至った。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0011】
[1] 少なくとも(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)トリデカフルオロオクタンと(3)ハイドロフルオロエーテル類とを含み、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと上記(2)トリデカフルオロオクタンと上記(3)ハイドロフルオロエーテル類の合計含有量が、80質量%以上である混合溶剤と、
含フッ素化合物(A)と、
防かび剤(B)とを含有する、表面処理組成物。
[2] 上記混合溶剤が非引火性である、[1]に記載の表面処理組成物。
[3] 上記含フッ素化合物(A)が、炭素数6以下のポリフルオロアルキル基を有する、[1]又は[2]に記載の表面処理組成物。
[4] 上記ポリフルオロアルキル基の炭素数が6である、[3]に記載の表面処理組成物。
[5] 上記防かび剤(B)が、有機窒素化合物及び/又はヨード系化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の表面処理組成物。
[6] 上記有機窒素化合物が、チアゾリン系化合物である、[5]に記載の表面処理組成物。
[7] 上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン/上記(2)トリデカフルオロオクタン/上記(3)ハイドロフルオロエーテル類の含有量の質量比が、5~80/5~80/10~90である、[1]~[6]のいずれかに記載の表面処理組成物。
[8] 上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン/上記(2)トリデカフルオロオクタン/上記(3)ハイドロフルオロエーテル類の含有量の質量比が、10~50/10~40/15~35である、[1]~[7]のいずれかに記載の表面処理組成物。
[9] 上記混合溶剤が、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、上記(2)トリデカフルオロオクタン及び上記(3)ハイドロフルオロエーテル類以外の溶剤成分(4)を更に含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の表面処理組成物。
[10] 上記溶剤成分(4)の含有量が、上記混合溶剤全量に対して、20質量%以下である、[9]に記載の表面処理組成物。
[11] 上記溶剤成分(4)が、アルコールである、[9]又は[10]に記載の表面処理組成物。
[12] 上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン/上記(2)トリデカフルオロオクタン/上記(3)ハイドロフルオロエーテル類/上記アルコールの含有量の質量比が、10~20/10~20/59~79.9/0.1~1である、[11]に記載の表面処理組成物。
[13] 上記(3)ハイドロフルオロエーテル類が、CF3(CF23OC25と(CF32CFCF2OC25とCF3CH2OCF2CF2Hとを含む、[11]又は[12]に記載の表面処理組成物。
[14] 上記防かび剤(B)の含有量が、当該表面処理組成物全量に対して、10質量%以下である、[1]~[13]のいずれかに記載の表面処理組成物。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載の表面処理組成物を含有する撥水撥油剤。
[16] [1]~[14]のいずれかに記載の表面処理組成物を含有する防水・防湿コーティング剤。
[17] [1]~[14]のいずれかに記載の表面処理組成物、[15]に記載の撥水撥油剤、又は[16]に記載の防水・防湿コーティング剤で被覆された基材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有効成分である、含フッ素化合物(A)と防かび剤(B)の溶解性に優れ、常温での乾燥性が良好で、かつ高い撥水性能及び撥油性能と、優れた防かび性能を有する表面処理組成物を提供することができる。
【0013】
また、本発明は、上記表面処理組成物を含有する、撥水撥油剤、及び防水・防湿コーティング剤を提供することができる。
本発明は、上記表面処理組成物、撥水撥油剤、又は防水・防湿コーティング剤で被覆された基材も提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
本明細書において、含フッ素化合物(A)と防かび剤(B)の溶解性、常温での乾燥性、撥水性能、撥油性能、及び防かび性能のうちの少なくとも1つがより優れることを、本発明の効果がより優れるということがある。
本発明において、常温は23℃を意味する。
本明細書において、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを単に「(1)溶剤」と称する場合がある。(2)トリデカフルオロオクタン、(3)ハイドロフルオロエーテル類についても同様である。
【0015】
[[表面処理組成物]]
本発明の表面処理組成物(本発明の組成物)は、
少なくとも(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)トリデカフルオロオクタンと(3)ハイドロフルオロエーテル類とを含み、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと上記(2)トリデカフルオロオクタンと上記(3)ハイドロフルオロエーテル類の合計含有量が、80質量%以上である、混合溶剤と、
含フッ素化合物(A)と、
防かび剤(B)とを含有する、表面処理組成物である。
【0016】
本発明の組成物はこのような構成をとるため、所望の効果が得られるものと考えられる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
本発明の組成物は、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを含有することによって含フッ素化合物(A)と防かび剤(B)の溶解性(本発明の組成物(又は混合溶剤)中に、含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)が溶解すること)に優れ、
上記混合溶剤が、低表面張力である(2)溶剤、及び揮発しやすい(3)溶剤を含むことによって、本発明の組成物は、表面均一性と常温での乾燥性が良好となり、
本発明の組成物が、含フッ素化合物(A)を含有することによって撥水性能及び撥油性能が高く、
防かび剤(B)を含有するので防かび性能を有する。
ここで、上記含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)が上記混合溶剤に溶解し、本発明の組成物が基材に付与されたのち少なくとも常温の温度条件下に置かれれば、
上記混合溶剤に含まれる揮発しやすい(3)溶剤がまず本発明の組成物から揮発し、
(1)溶剤、及び低表面張力である(2)溶剤が、含フッ素化合物(A)と防かび剤(B)の溶解性、及び被膜の表面均一性(分布均一性)と保ちながら、揮発し、
乾燥後の被膜面(含フッ素化合物(A)と防かび剤(B)との混合物)での防かび剤(B)の表面均一性(分布均一性)が優れることによって、優れた防かび性能とともに高い撥水性能、撥油性能を発揮することができると考えられる。
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0017】
[混合溶剤]
本発明の組成物は、
少なくとも(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと
(2)トリデカフルオロオクタンと
(3)ハイドロフルオロエーテル類とを含む混合溶剤を含有する。
本発明において、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)トリデカフルオロオクタンと(3)ハイドロフルオロエーテル類の合計含有量は、混合溶剤全量に対して(「混合溶剤全量中の」と同じ意味。以下同様)80質量%以上である。
なお、上記混合溶剤は、後述する含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)を概念として含まない。
また、防かび剤(B)が、防かび剤としての有効成分のほかに溶媒を含む態様として使用される場合、防かび剤(B)が含みうる上記溶媒は、上記混合溶剤に含まれない。
【0018】
[(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン]
本発明で使用される(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン((1)溶剤)は、ベンゼン環にトリフルオロメチル基が2個結合する化合物である。
含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)は、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに溶解することができる。
このため、本発明の組成物は、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを含有することによって、上記混合溶剤に対する(又は本発明の組成物における)含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)の溶解性に優れる。
(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンは、引火性である。
【0019】
上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンは、別名キシレンヘキサフルオライドとも称され、市販品として入手可能である。以下、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを「XHF」とも記す。
XHFは、位置異性体であるo-XHF(1,2-ジ(トリフルオロメチル)ベンゼン)、m-XHF(1,3-ジ(トリフルオロメチル)ベンゼン)及びp-XHF(1,4-ジ(トリフルオロメチル)ベンゼン)のうちのいずれか1種でもよく、これら2種以上の混合物でも構わない。
本発明において、XHFとしては、本発明の効果により優れる(特に防かび剤(B)の溶解性)という観点から、m-XHF(下記構造)が好ましい。
【化1】
【0020】
[(2)トリデカフルオロオクタン]
本発明で使用される(2)トリデカフルオロオクタン((2)溶剤)は、オクタンが有する水素原子(18個)のうち13個がフッ素に置換された化合物であれば特に制限されない。
(2)トリデカフルオロオクタンは、乾燥条件下において揮発が遅く((2)溶剤の蒸気圧は(1)溶剤の蒸気圧と比較的近い)、かつ表面張力が低い。
このため、本発明の組成物は、(2)トリデカフルオロオクタンを含有することによって、乾燥中の表面張力変化を抑えることができ、得られる被膜の表面均一性に優れる。本発明において、上記のように表面均一性が優れることは、優れた撥水性能、撥油性能、及び防かび性能に寄与すると考えられる。
(2)トリデカフルオロオクタンは非引火性である。
【0021】
上記(2)溶剤は、本発明の効果(特に防かび性能)により優れ、表面均一性に優れるという観点から、下記式で表される化合物が好ましい。
【0022】
【化2】
【0023】
上記(2)溶剤の市販品として例えばAC-6000の商品名(AGC社製)で入手可能である。
【0024】
[(3)ハイドロフルオロエーテル類]
本発明で使用される(3)ハイドロフルオロエーテル類((3)溶剤)は、エーテル性酸素原子を介してアルキル基が結合している化合物、又はエーテル性酸素原子を介してアルキル基及びアルキレン基が結合している化合物において、上記アルキル基又は上記アルキレン基が部分的にフッ素化されている化合物である。
(3)ハイドロフルオロエーテル類は、非引火性であり、乾燥条件下において揮発しやすい。
このため、本発明の組成物は(3)ハイドロフルオロエーテル類を含有することによって、他の成分による引火性を打ち消すことができ、乾燥性に優れる。
【0025】
本発明で使用される(3)ハイドロフルオロエーテル類(HFE)としては、例えば以下のようなものが挙げられる。ただし、(3)ハイドロフルオロエーテル類としては、これらに限定されるものではない。
49OCH3
49OC25
613OCH3
613OC25
37OCH3
37OC25
CF2HCF2CH2OCF2CF2
CF3(OCF2CF2)n(OCF2)mOCF2
817OCH3
715OCH3
49OCH3
CF3CH2OCF2CF2
CF3CH2OCF2CF2CF2
(上記例示中、添字m及びnは、それぞれ独立に、1~20の整数を表す。)
【0026】
(3)ハイドロフルオロエーテル類は、本発明の効果(特に乾燥性)により優れ、非引火性に優れるという観点から、CF3(CF23OC25、(CF32CFCF2OC25又はCF3CH2OCF2CF2Hが好ましく、CF3(CF23OC25と(CF32CFCF2OC25との混合物、又はCF3CH2OCF2CF2Hがより好ましい。
CF3CH2OCF2CF2Hの市販品として例えばAE-3000の商品名(AGC社製)で入手可能である。
(3)ハイドロフルオロエーテル類はそれぞれ単独で又は2種以上の混合物として使用できる。
【0027】
(3)ハイドロフルオロエーテル類が2種以上の混合物である場合としては、例えば、CF3(CF23OC25と(CF32CFCF2OC25との混合物が挙げられる。上記混合物は、例えばNovec7200(3M社製)の商品名で入手可能である。
【0028】
上記混合溶剤は、非引火性であることが好ましい。
本発明において、混合溶剤が非引火性であるとは、下記の手順で引火点測定を実施し、引火点が測定されなかった(引火が認められなかったこと)を意味する。
(a)タグ密閉法による引火点測定(JIS K 2265-1:2006)
(b)(a)において、引火点が80℃以下の温度で引火点が測定できない場合にあっては、クリーブランド開放法による引火点測定(JIS K 2265-4:2007)
【0029】
本発明の表面処理組成物に含有される混合溶剤において、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン/上記(2)トリデカフルオロオクタン/上記ハイドロフルオロエーテル類の含有量の質量比は、本発明の効果により優れ、表面均一性、非引火性に優れるという観点から、5~80/5~80/10~90であることが好ましい。
なお、上記質量比「(1)溶剤/(2)溶剤/(3)溶剤」において、(1)~(3)の各溶剤の比の組合せは、各溶剤の比の総和が100以下となる組合せであれば特に限定されない(以下同様)。
上記(1)~(3)溶剤の3者間での各溶剤の比の組合せを考慮するときは、上記総和が100となる組合せであればよい。
また、上記質量比の好適範囲は、混合溶剤が後述する溶剤成分(4)を含まない場合、及び混合溶剤が後述する溶剤成分(4)を更に含む場合を含めた概念に対応できる。
【0030】
混合溶剤が後述する溶剤成分(4)を含まない場合(混合溶剤が、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、上記(2)トリデカフルオロオクタン及び上記(3)ハイドロフルオロエーテル類のみを含む場合)、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン/上記(2)トリデカフルオロオクタン/上記(3)ハイドロフルオロエーテル類の含有量の質量比は、本発明の効果により優れ、表面均一性、非引火性に優れるという観点から、
10~50/10~40/15~35とすることが好ましく、
30~50/15~40/20~30とすることがより好ましい。
なお、上記混合溶剤が、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、上記(2)トリデカフルオロオクタン及び上記(3)ハイドロフルオロエーテル類のみを含む場合、「(1)溶剤/(2)溶剤/(3)溶剤」において、各溶剤の比の組合せは、各溶剤の比の総和が100となる組合せであれば特に限定されない。
【0031】
(溶剤成分(4))
上記混合溶剤は、本発明の効果により優れ、表面均一性、非引火性に優れるという観点から、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、上記(2)トリデカフルオロオクタン及び上記(3)ハイドロフルオロエーテル類以外の溶剤成分(4)を更に含有することが好ましい。
(1)溶剤~(3)溶剤以外の溶剤成分(4)を「(4)溶剤」を称する場合がある。
上記溶剤成分(4)は、引火性又は非引火性のいずれであってもよい。
【0032】
上記混合溶剤が上記溶剤成分(4)を更に含有する場合、上記溶剤成分(4)の含有量は、本発明の効果により優れ、表面均一性、非引火性に優れるという観点から、上記混合溶剤全量に対して、20質量%以下であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。
【0033】
上記溶剤成分(4)は、本発明の効果(特に防かび剤(B)の溶解性)により優れるという観点から、アルコールを含むことが好ましく、イソプロパノールがより好ましい。
イソプロパノールは引火性である。
【0034】
上記溶剤成分(4)が引火性である場合、上記混合溶液中の(1)溶剤以外の引火性溶剤成分(上記溶剤成分(4)であって引火性のもの)の量は、混合溶剤全量中の1質量%以下であることが好ましい。この範囲であると、安全面が維持できる。
【0035】
上記混合溶剤が上記溶剤成分(4)としてアルコールを含有する場合、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン/上記(2)トリデカフルオロオクタン/上記(3)ハイドロフルオロエーテル類/上記アルコールの含有量の質量比は、本発明の効果(特に防かび剤(B)の溶解性)により優れ、表面均一性、非引火性に優れるという観点から、10~20/10~20/59~79.9/0.1~1であることが好ましい。
なお、上記質量比「(1)溶剤/(2)溶剤/(3)溶剤/アルコール」において、各溶剤の比の組合せは、各溶剤の比の総和が100以下となる組合せであれば特に限定されない(以下同様)。
上記(1)~(3)溶剤及びアルコールの4者間での各溶剤の比の組合せを考慮するときは、上記総和が100となる組合せであればよい。
上記混合溶剤が、(1)溶剤、(2)溶剤、(3)溶剤及びアルコールのみを含む場合、「(1)溶剤/(2)溶剤/(3)溶剤/アルコール」において上記4種の各溶剤の比の組合せは、各溶剤の比の総和が100となる組合せであれば特に限定されない。
【0036】
上記混合溶剤が上記溶剤成分(4)としてアルコールを更に含有する場合、上記(3)ハイドロフルオロエーテル類が、CF3(CF23OC25と(CF32CFCF2OC25とCF3CH2OCF2CF2Hとを含むことが好ましい。
上記混合溶剤が上記溶剤成分(4)としてアルコール(例えばイソプロパノール)を更に含有する場合、上記アルコールと上記(3)ハイドロフルオロエーテル類としてのCF3CH2OCF2CF2Hとの併用は、CF3CH2OCF2CF2Hが上記アルコールと共沸しやすく、上記混合溶剤が耐引火性に優れるという観点から好ましい。
【0037】
[(1)溶剤と(2)溶剤と(3)溶剤の合計含有量]
本発明において、上記(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと上記(2)トリデカフルオロオクタンと上記(3)ハイドロフルオロエーテル類の合計含有量は、混合溶剤全量に対して、80質量%以上である。
上記(1)溶剤と(2)溶剤と(3)溶剤の合計含有量の上限は、混合溶剤全量の100質量%以下とすることができる。
上記(1)溶剤と(2)溶剤と(3)溶剤の合計含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、混合溶剤全量に対して、90~100質量%が好ましく、95~99.9質量%がより好ましい。
【0038】
本発明の組成物中の上記混合溶剤の含有量については、本発明の組成物の用途等に応じて、本発明の組成物中の含フッ素化合物(A)及び/又は防かび剤(B)の含有量を変更することができるので、これに応じて、本発明の組成物中の上記混合溶剤の含有量を調節することができる。
上記混合溶剤の含有量は、例えば本発明の組成物全量の70質量%以上とすることができ、本発明の効果により優れるという観点から、本発明の組成物全量の80~99質量%が好ましく、本発明の組成物全量の90~99質量%がより好ましい。
【0039】
[含フッ素化合物(A)]
本発明の組成物に含有される含フッ素化合物(A)は、フッ素を含有する化合物である。
具体的には、ポリフルオロアルキル基を有する化合物が挙げられ、より具体的には、ポリフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体、及び非重合体の含フッ素化合物が挙げられる。
なお、上記含フッ素化合物(A)は、上記混合溶剤及び後述する防かび剤(B)を概念として含まない。防かび剤(B)が防かび剤としての有効成分のほかに溶媒を含む態様として使用される場合、防かび剤(B)が含みうる上記溶媒も同様である。
【0040】
含フッ素化合物(A)は、本発明の効果(特に撥水性能及び/又は撥油性能)により優れ、表面均一性、非引火性に優れるという観点から、炭素数6以下のポリフルオロアルキル基を有すること(上記ポリフルオロアルキル基の炭素数が6以下であること)が好ましく、炭素数6のポリフルオロアルキル基を有すること(上記ポリフルオロアルキル基の炭素数が6であること)がより好ましい。
上記ポリフルオロアルキル基は、本発明の効果(特に撥水性能及び/又は撥油性能)により優れ、表面均一性、非引火性に優れるという観点から、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0041】
上記含フッ素化合物(A)は、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系重合体であることが好ましい。パーフルオロアルキル基を含有することで、撥水性だけでなく撥油性により優れた表面処理組成物を提供できる。
【0042】
≪含フッ素重合体≫
上記含フッ素化合物(A)としての含フッ素重合体は、少なくともポリフルオロアルキル基含有化合物から導かれる構成単位(繰り返し単位)を含むことができる。
ポリフルオロアルキル基含有化合物は、ポリフルオロアルキル基及びエチレン性不飽和結合を有する化合物を含むことが好ましい態様として挙げられる。上記エチレン性不飽和結合が付加重合することによって、上記フッ素重合体は、上記ポリフルオロアルキル基含有化合物に由来する繰り返し単位(ポリフルオロアルキル基を有する繰り返し単位)を有することができる。
上記エチレン性不飽和結合は特に制限されない。例えば、CH2=CH-、CH2=CR-(Rは炭化水素基を表す。上記炭化水素基は特に制限されない。)又は-CH=CH-を有する基が挙げられる。具体的には例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、ビニレン基等が挙げられる。
上記ポリフルオロアルキル基含有化合物において、ポリフルオロアルキル基とエチレン性不飽和結合とは直接又は有機基を介して結合することができる。上記有機基は特に制限されない。
【0043】
上記ポリフルオロアルキル基含有化合物は、典型的には例えば下記式(a)で表される(メタ)アクリル酸化合物(以下、単に「化合物(a)」という場合がある。)が挙げられ、具体的には例えば(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミドなどである。
【0044】
上記化合物(a)として、下記構造が挙げられる。
CH2=CR1-COX-Q1-Rf1 (a)
上記式(a)において、
1は、水素原子又はメチル基を表し、
Xは、-O-又は>NHを表し、
1は、単結合又は2価の連結基を表し、
Rf1は、炭素数1~20のポリフルオロアルキル基を表す。Rf1の炭素数は、6以下が好ましく、6がより好ましい。
1としての上記2価の連結基は、好ましくは炭素数1~5のアルキレン基である。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」の語は、アクリル及びメタクリルの両方又はどちらか一方を意味する。
【0045】
このような化合物(a)を具体的に(メタ)アクリル酸エステルで例示すれば、下記式(a’)又は下記式(a”)で表される化合物を挙げることができる。ただし、化合物(a)は、これらに限定されるものではない。
CH2=CH-COO-(CH2)n-(CF2)mF (a’)
CH2=C(CH3)-COO-(CH2)n-(CF2)mF (a”)
上記式中、添字nは0~4の整数を表し、添字mは1~16の整数を表す。添字mは、好ましくは1~6の整数を表し、特に好ましくは6である。
【0046】
なお、上記化合物(a)としての上記(メタ)アクリル酸エステルは、表面処理組成物に求める性能により適宜選択できる。例えば、撥水性を特に重視する場合はメタクリル酸エステルが好ましい。撥油性若しくは撥IPA性を特に重視する場合、又は、被膜の耐熱性を特に重視する場合は、アクリル酸エステルである場合が好ましい。
【0047】
上記含フッ素重合体は、化合物(a)から導かれる構成単位を、上記含フッ素重合体を構成するすべての構成単位中、通常50質量%以上含有することができ、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含有する。本発明において、上記含フッ素重合体における構成単位の質量%は、重合に使用した原料化合物がすべて、含フッ素重合体の構成単位を構成する(上記含フッ素重合体の構成単位となる)とみなした値である。
上記含フッ素重合体が、化合物(a)から導かれる構成単位のみで構成される重合体である場合には、上記含フッ素重合体は、化合物(a)の1種の単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
【0048】
また、含フッ素重合体が共重合体である場合には、上記含フッ素重合体は、上記化合物(a)以外の他の化合物(b)から導かれる構成単位を1種又は2種以上含んでもよい。なお、この場合(含フッ素重合体が、上記化合物(a)から導かれる構成単位の他に、さらに化合物(b)から導かれる構成単位を有する場合)、上記化合物(a)から導かれる構成単位は1種又は2種以上であってもよい。
上記化合物(b)は、上記化合物(a)と共重合が可能な化合物であればよい。上記化合物(b)としては、例えば、エチレン性不飽和結合を有し、ポリフルオロアルキル基を有しない化合物が挙げられる。
上記化合物(b)としては、例えば、
炭素数1~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、
(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水イタコン酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸等のエチレン性不飽和結合を有するカルボン酸類、
(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシアルキル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物、
(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有(メタ)アクリレート化合物、
γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有化合物、
(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有化合物などであるが、これらに限られない。
【0049】
含フッ素重合体の製造方法は特に制限されない。例えば従来公知の方法が挙げられる。具体的には、例えば、化合物(a)及び必要に応じて使用することができる化合物(b)を、重合溶剤中で、開始剤の存在下で反応させることによって、含フッ素重合体溶液を得ることができる。上記開始剤は特に制限されない。
上記のように得られた含フッ素重合体溶液から重合溶剤を除去して、除去後の含フッ素重合体を含フッ素重合体として使用することができる。
また、上記重合溶剤が例えば(2)溶剤であり、含フッ素重合体及び(2)溶剤を含む含フッ素重合体溶液を得、このような含フッ素重合体溶液を本発明の組成物に使用する場合、上記重合溶剤としての(2)溶剤は、本発明の組成物に含有される上記混合溶剤に含まれる上記(2)溶剤に該当するものとする。
【0050】
≪非重合体の含フッ素化合物≫
上記含フッ素化合物(A)が非重合体の含フッ素化合物である場合、上記非重合体の含フッ素化合物は、好ましくは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を有する化合物であり、より好ましくは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を有し、別の末端に極性基を更に有する化合物である。
上記非重合体のフッ素化合物としては、例えば、含フッ素リン酸エステルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
上記含フッ素リン酸エステルとしては、例えば、下記構造の化合物が挙げられる。
(Rf2-Q2-O-)r-P(O)(OM)s (c)
上記式(c)において、
Rf2は、炭素数1~20のポリフルオロアルキル基を表し、
2は、単結合又は2価の連結基を表し、
Mは、水素原子、アンモニウム基、置換アンモニウム基又はアルカリ金属原子を表し、
rは、1~3の整数を表し、
sは、0~2の整数を表し、
r+sは、3である。
2としての上記2価の連結基は、好ましくはヒドロキシ基(-OH)で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキレン基である。
Rf2の炭素数は、好ましくは1~6であり、特に好ましくは6である。
【0052】
上記含フッ素リン酸エステルの具体例としては、以下の化合物を挙げることができるが。ただし、上記含フッ素リン酸エステルは、これらに限定されるものではない。
F(CF2)m-CH2CH2-P(O)(OH)2 (c1)
(F(CF2)m-CH2CH22P(O)(OH) (c2)
F(CF2)m-CH2CH(OH)CH2O-P(O)(OH)2 (c3)
(F(CF2)m-CH2CH(OH)CH2O)2P(O)(OH) (c4)
F(CF2)m-CH2CH2O-P(O)(OH)2 (c5)
(F(CF2)m-CH2CH2O)2-P(O)(OH) (c6)
上記式中、添字mは1~16の整数を表し、好ましくは1~6の整数を表し、特に好ましくは6である。
上記含フッ素リン酸エステルは、表面処理組成物として金属表面を処理する場合に特に好適である。また、離型剤として用いる場合にも特に好適である。
【0053】
本発明の表面処理組成物に含有される上記含フッ素化合物(A)の含有量(濃度)は、特に制限されない。上記含フッ素化合物(A)の含有量は、本発明の効果(特に撥水性能及び撥油性能)により優れるという観点から、本発明の表面処理組成物全量に対して(「本発明の表面処理組成物全量中の」と同じ意味。以下同様)、0.01~20質量%であることが好ましい。
なお、本発明の表面処理組成物に含有される上記含フッ素化合物(A)の含有量、又は溶質全量中の含フッ素化合物(A)の含有量は、本発明の表面処理組成物の用途によって適宜設定できる。
【0054】
[防かび剤(B)]
本発明の組成物に含有される防かび剤(B)は、かびの発生を防止又は抑制しうる化合物である。
上記防かび剤(B)は、JIS Z 2911:2010に規定される試験に用いるかびの種類に対して、防かび性能を有するものであれば特に制限されない。
上記防かび剤(B)は防かび性の他に防藻性(藻の発生を防止又は抑制しうる性質)を有してもよい。
なお、上記防かび剤(B)は、上記混合溶剤及び上記含フッ素化合物(A)を概念として含まない。
【0055】
上記防かび剤(B)としては、例えば、チアゾリン系化合物、メチルイソチアゾリノンなどのイソチアゾリン系化合物、チアベンダゾールなどのイミダゾール系化合物、フルオロフォルペットなどのフタルイミド系化合物のような有機窒素化合物、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート、ジヨードメチルパラトリルスルホンのようなヨード系化合物(有機ヨウ素系化合物)等が挙げられる。
【0056】
これらの中でも、本発明の効果(特に防かび性能、溶解性)により優れるという観点から、防かび剤(B)は、有機窒素化合物及び/又はヨード系化合物を含むことが好ましい。
【0057】
上記有機窒素化合物は、本発明の効果(特に防かび性能、溶解性)により優れるという観点から、チアゾリン系化合物を含むことが好ましい。
上記ヨード系化合物は、本発明の効果(特に防かび性能、溶解性)により優れるという観点から、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメートを含むことが好ましい。
【0058】
防かび剤(B)は、防かび性能を有する有効成分となる化合物以外に溶媒を含んでいてもよい。
なお、防かび剤(B)が、防かび剤としての有効成分のほかに上記溶媒を含む態様として使用される場合、防かび剤(B)が含みうる上記溶媒は、上述のとおり、上記混合溶剤に含まれない。
防かび剤(B)は、単独で使用、又は2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0059】
上記防かび剤(B)の含有量(濃度)は、本発明の表面処理組成物に含有される上記混合溶剤に上記防かび剤(B)を溶解又は分散させることが可能で、本発明の目的を損なわず、安定性、性能及び外観等に悪影響を与えない範囲であれば、特に限定されるものではない。
なお、本発明において、防かび剤(B)が、防かび剤としての有効成分のほかに上記溶媒を含む態様として使用される場合、上記防かび剤(B)の含有量は、上記態様の防かび剤(B)から上記溶媒を除いた不揮発成分の量(防かび剤としての有効成分の量)であるものとする。
【0060】
上記防かび剤(B)の含有量は、本発明の効果(特に防かび性能、溶解性)により優れ、表面均一性に優れるという観点から、本発明の表面処理組成物全量に対して(「本発明の表面処理組成物全量中の」と同じ意味。以下同様)、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
上記防かび剤(B)の含有量の下限値は、本発明の効果(特に防かび性能)により優れるという観点から、本発明の表面処理組成物全量に対して、好ましくは0.005質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上である。
【0061】
上記防かび剤(B)の含有量は、本発明の効果により優れるという観点から、上記含フッ素化合物(A)100質量部に対して、0.025~50質量部が好ましく、0.25~25質量部がより好ましい。
【0062】
本発明の表面処理組成物は、上記混合溶剤に溶解又は分散させることが可能で、本発明の目的を損なわず、安定性、性能及び外観等に悪影響を与えない範囲であれば、上記含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)以外の溶質(その他の溶質)を更に含んでもよい。
このような上記含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)以外の溶質は、特に限定されないが、例えば、ジメチルシリコーン及びポリエチレングリコールアルキルアミンを挙げることができる。
また、上記含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)以外の溶質としては、更に、例えば、被膜表面の腐食を防止するためのpH調整剤、防錆剤、表面処理組成物を希釈して使用する場合に液中の重合体の濃度管理をする目的や未処理部品との区別をするための染料、染料の安定剤、難燃剤、消泡剤及び帯電防止剤等の他の成分を挙げることができる。
また、防かび剤(B)が、防かび剤としての有効成分のほかに溶媒を含む態様として使用される場合、本発明の表面処理組成物は、防かび剤(B)が含みうる上記溶媒を含有してもよい。
【0063】
本発明の組成物の製造方法は特に制限されない。例えば、(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)トリデカフルオロオクタンと(3)ハイドロフルオロエーテル類とを含む上記混合溶剤と、上記含フッ素化合物(A)と、上記防かび剤(B)と、必要に応じて使用することができる(4)溶剤、上記その他の溶質とを混合することによって、本発明の組成物を製造することができる。
【0064】
本発明の表面処理組成物は、基材の表面を処理するために使用できる組成物である。本発明の表面処理組成物を基材に使用することによって、基材に撥水性能、撥油性能及び防かび性能を付与することができる。
本発明の表面処理組成物は、例えば、撥水性能及び撥油性能、並びに防かび性能、その他例えば撥IPA性等の性能を付与したい部分に塗布して被膜を形成して利用することができる。
上記被膜は、本発明の表面処理組成物から上記混合溶剤が除去されて形成されるものである。上記被膜は、主として、本発明の表面処理組成物に含有されうる溶質成分(上記含フッ素化合物(A)、上記防かび剤(B)、並びに上記(A)及び(B)以外で必要に応じて使用できるその他の溶質)から形成されるものである。
【0065】
本発明の表面処理組組成物を適用できる基材(物品)としては、例えば、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡、インクジェットプリンター部品が挙げられる。
上記基材(物品)の材質は特に制限されない。例えば、プラスチック、ゴム、ガラス、セラミック、金属が挙げられる。
【0066】
本発明の表面処理組成物を基材に適用する方法としては一般的な被覆加工方法が採用できる。例えば浸漬塗布、スプレー塗布、ローラー塗布等の方法がある。
【0067】
本発明の表面処理組成物を基材に適用した後、乾燥することによって、基材の表面に被膜を形成することができる。
本発明の表面処理組成物を基材に適用した後、乾燥条件(乾燥温度条件)は、混合溶剤に含まれる各種溶剤の沸点のうちの最も高い沸点以上の温度で乾燥を行うことが好ましい。無論、基材(被処理部品)の材質などにより加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して乾燥すべきである。なお、熱処理の条件は、塗布する本発明の表面処理組成物の組成や、塗布面積等に応じて選択すればよい。乾燥において加熱をしない場合、塗布後の本発明の表面処理組成物を例えば28℃以下の温度条件下で乾燥させてもよい。
【0068】
本発明の表面処理組成物は、例えば、撥水撥油剤、防水・防湿コーティング剤、腐食防止剤、防汚処理剤、潤滑オイルの染み出し防止剤、電子部品用樹脂付着防止剤、はんだ用フラックス這い上がり防止剤、離型剤、潤滑材、防汚剤、離型剤、摩擦低減剤として使用することができる。
なお、本発明において、防水・防湿コーティング剤は、防水性能及び防湿性能を有するコーティング剤を意味する。
【0069】
本発明の表面処理組成物をそのまま、例えば、上記撥水撥油剤等として使用することができる。また、本発明の表面処理組成物における上記含フッ素化合物(A)の含有量(濃度)、及び/又は、溶質全量中の含フッ素化合物(A)の量を後述するように適宜調節して、上記撥水撥油剤等として使用してもよい。
【0070】
本発明の利用分野としては、例えば、撥水撥油、潤滑、防汚、離型、摩擦低減などが挙げられる。
【0071】
本発明の表面処理組成物に含有される上記含フッ素化合物(A)の含有量(濃度)は、用途によって適宜設定されることが好ましい。
本発明の表面処理組成物が例えば防水・防湿コーティング剤に使用される場合、含フッ素化合物(A)の濃度は、上記防水・防湿コーティング剤全量に対して、好ましくは1~20質量%である。本発明の表面処理組成物が腐食防止剤又は防汚処理剤に使用される場合も上記と同様である。
本発明の表面処理組成物が例えば潤滑オイルの染み出し防止剤に使用される場合、含フッ素化合物(A)の濃度は、上記潤滑オイルの染み出し防止剤全量に対して、好ましくは1~5質量%である。本発明の表面処理組成物が電子部品用樹脂付着防止剤に使用される場合も上記と同様である。
本発明の表面処理組成物が例えばはんだ用フラックス這い上がり防止剤に使用される場合、含フッ素化合物(A)の濃度は、上記はんだ用フラックス這い上がり防止剤全量に対して、好ましくは0.01~1質量%である。
本発明の表面処理組成物が例えば離型剤に使用される場合、含フッ素化合物(A)の濃度は、上記離型剤全量に対して、好ましくは0.1~10質量%である。
【0072】
本発明の表面処理組成物における上記含フッ素化合物(A)の濃度は、各用途での最終的な濃度であればよい。各用途に供するには高濃度であってもよく(例えばはんだ用フラックス這い上がり防止剤である場合の上記1質量%を超えていてもなんら差し支えない。)、上記混合溶剤で希釈する等により適宜調整すればよい。
また、含フッ素化合物(A)が含フッ素重合体である場合には、含フッ素重合体等を上記混合溶剤で希釈して使用することができる。
【0073】
溶質全量中の含フッ素化合物(A)の量は、用途により異なっていてもよい。
本発明の表面処理組成物が例えば、防水・防湿コート剤、潤滑オイルの染み出し防止剤、電子部品用樹脂付着防止剤又ははんだ用フラックス這い上がり防止剤に使用される場合、含フッ素化合物(A)の量は、好ましくは溶質成分全体の90質量%以上である。
本発明の表面処理組成物が例えば、離型剤に使用される場合、含フッ素化合物(A)の量は、好ましくは溶質成分全体の50質量%以下である。
【0074】
[[撥水撥油剤]]
本発明の撥水撥油剤は、本発明の表面処理組成物を含有する撥水撥油剤である。
本発明の撥水撥油剤に含有される表面処理組成物は、本発明の表面処理組成物であれば特に制限されない。
【0075】
[[防水・防湿コーティング剤]]
本発明の防水・防湿コーティング剤は、本発明の表面処理組成物を含有する防水・防湿コーティング剤である。
本発明の防水・防湿コーティング剤に含有される表面処理組成物は、本発明の表面処理組成物であれば特に制限されない。
本発明の防水・防湿コーティング剤は、防水性能及び防湿性能を有するコーティング剤を意味する。
【0076】
[[基材]]
本発明の基材は、本発明の表面処理組成物、本発明の撥水撥油剤、又は本発明の防水・防湿コーティング剤で被覆された基材である。
【0077】
本発明の基材に使用される表面処理組成物、撥水撥油剤、又は防水・防湿コーティング剤は、本発明の表面処理組成物、本発明の撥水撥油剤、又は本発明の防水・防湿コーティング剤であれば特に制限されない。
本発明の基材に使用される、表面処理組成物等で被覆されるための基材(被覆前の基材)は、上述した、本発明の表面処理組組成物を適用できる基材(物品)と同様である。
【実施例
【0078】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例で表面処理組成物及び比較表面処理組成物を調製するために使用した化合物は、市販の試薬として入手することができるもの又は既知の合成法によって容易に合成できるものである。
また、以下の実施例において、特に断りのない限り「%」で表示されるものは「質量%」を表すものとする。
【0079】
[含フッ素重合体(C6FMA/HEMA共重合体)の合成]
密閉容器に、CH2=C(CH3)-COO-CH2CH2(CF26F(C6FMA)を294質量部、CH2=C(CH3)-COO-CH2CH2OH(HEMA)を6質量部、m-XHFを299質量部及び開始剤(ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオナート,和光純薬工業,V-601)を1質量部、それぞれ仕込み、70℃で18時間反応させた。反応後の重合溶液に、m-XHFを加えて希釈し、含フッ素重合体濃度20%のm-XHF溶液(以下このm-XHF溶液を「含フッ素重合体溶液」と称する。)を得た。
【0080】
[比較例1~10及び実施例1~7]
まず、上記方法で得られた含フッ素重合体溶液を、下記表2に示す所定量の溶剤で、含フッ素重合体濃度が2.0%となるようそれぞれ希釈し、防かび剤混合前組成物を得た。
なお、上記方法で得られた含フッ素重合体溶液に含まれるm-XHFの量は、表2の「m-XHF」欄に含まれる。
また、比較例2~4では、上記方法で得られた含フッ素重合体溶液からm-XHFを除去し、除去後の含フッ素重合体に下記表2に示す溶剤を加えて、防かび剤混合前組成物を得た。
混合溶剤に使用した各種溶剤成分及び防かび剤(B)の詳細を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
本発明において、防かび剤(B)が溶媒を含有する場合、上記防かび剤(B)から溶媒を乾燥させた後の残分(不揮発成分。固形分ともいう)を有効成分としての防かび剤と考えることができる。ここで、溶媒を含有する防かび剤(B)-1を乾燥させたところ、その残部の含有量は、防かび剤(B)-1中の約22質量%であった。本発明においては、上記結果から、防かび剤(B)-1中の残部の含有量を22質量%と設定し、防かび剤(B)-1の使用量からその中に含まれる有効成分としての防かび剤の量を算出した。
【0083】
[評価]
<溶解性>
・評価方法
上記のとおり調製された防かび剤混合前組成物に防かび剤(B)を添加して常温(23℃)の条件下で混合して表面処理組成物を得た。
防かび剤混合前組成物に防かび剤(B)を、各表面処理組成物に対して、0.01質量%、0.05質量%又は0.1質量%となる量で加えて、表面処理組成物における防かび剤(B)の溶解性(溶解量)を目視で確認した。結果を表2に示す。
なお、各表面処理組成物における防かび剤(B)の上記含有量(0.01質量%、0.05質量%又は0.1質量%)は、防かび剤(B)の不揮発成分(有効成分)としての含有量である。防かび剤(B)が溶媒を含む態様として使用された場合、上記溶媒は防かび剤(B)の含有量に入らない。
また、本実施例において、上記において防かび剤混合前組成物に添加される防かび剤(B)の量は微量なので、防かび剤(B)を添加した後の表面処理組成物における、含フッ素化合物(A)、(1)~(4)溶剤の組成は、防かび剤混合前組成物における各成分の組成と略同じとなる。
【0084】
・評価基準
防かび剤混合前組成物に防かび剤(B)を、表面処理組成物全量に対して0.01質量%となる量で添加し、5分間激しく撹拌した。撹拌後の組成物において、防かび剤(B)が溶け残った場合(この場合防かび剤(B)の表面処理組成物全量に対する溶解量(以下同様)は0.01質量%未満)、溶解性が悪かったと評価して、これを「×」と表示した。
上記防かび剤(B)0.01質量%の添加で防かび剤(B)が全て組成物中に溶解した場合、別途、防かび剤混合前組成物に防かび剤(B)を、表面処理組成物全量に対して0.05質量%となる量で添加し、5分間激しく撹拌した。撹拌後の組成物において、防かび剤(B)が溶け残った場合(この場合溶解量は0.01質量%以上0.05質量%未満)、溶解性がやや良かったと評価して、これを「△」と表示した。
上記防かび剤(B)0.05質量%の添加で防かび剤(B)が全て組成物中に溶解した場合、別途、防かび剤混合前組成物に防かび剤(B)を表面処理組成物全量に対して0.1質量%となる量で添加し、5分間激しく撹拌した。撹拌後の組成物において、防かび剤(B)が溶け残った場合(この場合溶解量は0.05質量%以上0.1質量%未満)、溶解性が非常に良かったと評価して、これを「〇」と表示した。
上記防かび剤(B)0.1質量%の添加で、上記のとおり撹拌後、防かび剤(B)が全て組成物中に溶解した場合(この場合溶解量は0.1質量%以上)、溶解性が特に良かったと評価して、これを「◎」と表示した。
本発明において、防かび剤(B)の溶解量が0.01質量%以上である(上記評価で△、〇又は◎である)場合、表面処理組成物中における防かび剤(B)の溶解性が優れるものとし、
〇又は◎である場合、溶解性がより優れ、
◎である場合が溶解性が更に優れるものとする。
なお、いずれの実施例、比較例も含フッ素化合物(A)は表面処理組成物中に溶解していた。
【0085】
<表面均一性>
・表面処理組成物の調製
上記のとおり調製された防かび剤混合前組成物に防かび剤(B)を表面処理組成物全量に対して500ppm(0.05質量%)となるように添加して、これらを常温(23℃)の条件下で混合して各表面処理組成物(表面均一性評価用組成物)を得た。
なお、上記含有量で表面処理組成物中に防かび剤(B)が解け残っている場合(上記溶解性の評価結果が「△」であった場合)、そのままの状態で使用した。また、上記溶解性の評価において、防かび剤(B)の溶解性が「×」であった場合、表面均一性が非常に悪いと評価できるので、これについて特に表面均一性の評価は行わなかった。
【0086】
・評価方法
上記のとおり製造された各表面処理組成物(表面均一性評価用組成物)を、50×50mmの銅板の中心に50μL垂らし、常温(23℃)の条件下で混合溶剤を乾燥させた。各表面処理処理液が乾燥した後の被膜の表面状態を目視で確認した。結果を表2に示す。
【0087】
・評価基準
乾燥後の被膜中に色相の異なる部分がなかった(被膜の色が均一だったということ)場合、表面均一性に優れると評価して、これを「〇」と表示した。表面均一性に優れると撥水性能、撥油性能及び防かび性能に優れると考えられる。
乾燥後の被膜中に色相の異なる部分があった(被膜に色ムラがあったということ)場合、表面均一性がやや悪いと評価して、これを「×」と表示した。
なお、上記溶解性の評価において、防かび剤(B)の溶解性が「×」であったものは、表面均一性が非常に悪いと評価できるので、上述のとおり特に表面均一性の評価は行わず、これを「-」と表示した。
防かび剤(B)の溶解性が「×」であった(表面均一性が非常に悪い)場合又は上記表面均一性の評価で表面均一性がやや悪かった場合、撥水性能、撥油性能及び防かび性能が悪いと考えられる。
【0088】
<引火性>
・表面処理組成物
上記の表面均一性の評価で用いた表面均一性評価用組成物と同じ組成物を用いて、引火性の評価を行った。
【0089】
・評価方法
得られた各表面処理組成物について、以下の手順で引火点測定を行った。
引火点測定はJIS K 2265に定められて方法にしたがって実施するものとする。結果を表2に示す。
(a)タグ密閉法による引火点測定(JIS K 2265-1:2006)
(b)(a)において、引火点が80℃以下の温度で引火点が測定できない場合にあっては、クリーブランド開放法による引火点測定(JIS K 2265-4:2007)
【0090】
・評価基準
上記の手順で引火点なし(引火が認められなかった)の場合、非引火性に優れると評価して、これを「〇」と表示した。
上記の手順で引火点ありの場合、非引火性に劣ると評価して、これを「×」と表示した。
本発明において、「非引火性である」とは、上記の手順で引火点測定を実施し、引火点が測定されなかったこと(引火が認められなかったこと)を意味する。
【0091】
<乾燥性>
混合溶剤の蒸気圧で、本発明の組成物の乾燥性を評価した。
理想気体を仮定すると、混合溶剤の蒸気圧は個々の溶剤の蒸気圧とモル分率の積の合計から計算できる。
各溶剤の25℃の条件下における蒸気圧と分子量を以下の表に示す。水の25℃の条件下における蒸気圧等を併記する。
【0092】
【表2】
【0093】
各実施例で使用された混合溶剤の25℃条件下の理論蒸気圧を算出し、その結果を下記表2に示した。
【0094】
・評価基準
本発明において、混合溶剤の理論蒸気圧(計算値)が水の25℃条件下の蒸気圧(3.2kPa)よりも大きい場合、乾燥性に優れると評価した。
【0095】
【表3】
【0096】
上記表2に示す結果のとおり、混合溶剤が、少なくとも(1)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンと(2)トリデカフルオロオクタンと(3)ハイドロフルオロエーテル類を必須として含み、(1)溶剤~(3)溶剤の合計含有量が混合溶剤中の80質量%以上である実施例1~7は、含フッ素化合物(A)と防かび剤(B)の溶解性が良好で、表面均一性、乾燥性に優れた表面処理組成物を提供できることが分かった。また、実施例1~7は引火性を持たなかった(非引火性に優れた)。
混合溶剤が、(1)溶剤~(3)溶剤の他に更に、(4)溶剤を含有する実施例6、7は、実施例1~5よりも、防かび剤(B)の溶解性により優れた。
【0097】
上記実施例に対して、(2)溶剤及び(3)溶剤を含有しない比較例1は、表面均一性がやや悪く(つまり、撥水性能、撥油性能及び防かび性能が悪い。以下同様)、非引火性、乾燥性が悪かった。
(1)溶剤及び(2)溶剤を含有しない比較例2は、溶解性が悪かった(つまり表面均一性が非常に悪く、撥水性能、撥油性能及び防かび性能が悪い。以下同様)。
(1)溶剤及び(3)溶剤を含有しない比較例3は、溶解性が悪く、乾燥性が悪かった。
(1)溶剤及び(2)溶剤を含有しない比較例4は、表面均一性がやや悪かった。
(2)溶剤を含有しない比較例5,6,9,10は、表面均一性がやや悪かった。
(3)溶剤を含有しない比較例7は、溶解性が悪く、乾燥性が悪かった。
(3)溶剤を含有しない比較例8は、乾燥性、非引火性が悪かった。
【0098】
次に、上記組成から表面均一性の異なる組成を抜粋し、得られる表面処理組成物の撥水性能及び撥油性能とかびへの抵抗性(防かび性能)の確認を、以下の方法にて実施した。結果を下記表3に示す。
【0099】
<撥水性能及び撥油性能>
[接触角の測定]
各表面処理組成物に常温(23℃)でガラス板を1分間浸漬した後取り出し、常温(23℃)で乾燥させ、各表面処理組成物の被膜を有するガラス板をそれぞれ得た。
次に各ガラス板の被膜上に、水及びn-ヘキサデカン(n-HD)を滴下し、接触角を測定した。
接触角の測定には、自動接触角計OCA-20[dataphysics社製]を用いた。
【0100】
<かびへの抵抗性>
[かび抵抗性試験]
・試験板の作製
各表面処理組成物に実装基板(基板のベース部分の材質はガラスエポキシ樹脂)を常温(23℃)の条件下で1分間浸漬したあと取り出し、常温(23℃)で乾燥させ、各表面処理組成物の被膜を有する試験板をそれぞれ得た。
【0101】
・かび抵抗性試験
上記各試験板を用いてかび抵抗性試験を行った。
かび抵抗性試験はJIS Z 2911:2010(付属書B)に準拠して行った。
・評価基準
かび抵抗性試験の評価基準は以下のとおりである。
0:表示倍率50倍の観察で発育が認められない。
1:顕微鏡では、かびの発育が明白に見える。
2a:肉眼で薄くかびの発育が観察される。
かびの発育している面積は、試験表面の5%を超えない。
2b:かびの発育が明白に見える。
かびの発育している面積は、試験表面の5%以上で25%を超えない。
3:肉眼で発育が明白に見え、試験表面の25%を超える。
【0102】
【表4】
【0103】
表面均一性に優れる実施例1、6、7は、優れた撥水性能及び撥油性能かつかびに対する抵抗性(防かび性能)を有することが分かった。
一方、相溶性は優れるものの、表面均一性がやや悪かった比較例5、6は、かび抵抗性試験開始から4週目で、顕微鏡による観察でかびの発育が明白に確認され、防かび性能が低いことが分かった。
【0104】
以上のとおり、表2、表3に示す結果から、本発明の表面処理組成物は、含フッ素化合物と防かび剤の溶解性に優れ、常温での乾燥性が良好で、かつ高い撥水性能及び撥油性能と、優れた防かび性能を有することが分かる。
本発明の組成物は、含フッ素化合物(A)と防かび剤(B)とを含有するので、撥水性能、撥油性能及び防かび性能を有することは言うまでもないが、上記のような撥水性能、撥油性能及び防かび性能は、含フッ素化合物(A)及び防かび剤(B)の溶解性だけでなく、乾燥後の被膜面において防かび剤(B)が均一に存在する(表面均一性に優れる)ことによって、優れたレベルに達することが上記結果から明らかになった(表3)。
上記のように、本発明において、表面均一性が、撥水性能、撥油性能及び防かび性能に影響するということができる。
上記結果によれば、本発明の組成物において、溶解性が良好であることのほかに、表面均一性が優れれば、撥水性能、撥油性能及び防かび性能に優れるということができる。
【0105】
本発明の表面処理組成物は揮発性の高いフッ素系の溶剤として(3)溶剤を含有するため、乾燥性に優れる。したがって、本発明の表面処理組成物は高い撥水性能及び撥油性能と優れたかび抵抗性だけでなく、水系の撥水撥油剤組成物よりも速乾性による工程時間の短縮と作業性の向上も見込める。