(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】動脈の供給能力と終末器官の必要量とを比較することにより心血管疾患の診断及び評価をするためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240110BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240110BHJP
【FI】
A61B6/03 360G
A61B6/03 370Z
G06T7/00 612
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019237759
(22)【出願日】2019-12-27
(62)【分割の表示】P 2018516445の分割
【原出願日】2016-07-29
【審査請求日】2019-12-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-11
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513030879
【氏名又は名称】ハートフロー, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ エー. テイラー
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン ジン キム
(72)【発明者】
【氏名】セスウラマン サンカラン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド スペイン
(72)【発明者】
【氏名】ナン シャオ
(72)【発明者】
【氏名】ソフィア ケム
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】渡戸 正義
【審判官】松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第0542565(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0029835(US,A1)
【文献】特表2013-534154(JP,A)
【文献】特開2013-233369(JP,A)
【文献】特表2002-512832(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0254418(US,A1)
【文献】CHOY Jenny Susana et al.,“Scaling of myocardial mass to flow and morphometry of coronary arteries”,Journal of Applied Physiology,Vol.104,No.5,2008年5月31日,pp.1281-1286
【文献】SEILER Christian et al.,“Basic Structure-Function Relations of the Epicardial Coronary Vascular Tree Basis of Quantitative Coronary Arteriography for Diffuse Coronary Artery Disease”,Circulation,Vol.85,No.6,1992年6月1日,pp.1987-2003
【文献】LE Huy et al.,“Estimation of regional myocardial mass at risk based on distal arterial lumen volume and length using 3D micro-CT images”,Computerized Medical Imaging and Graphics,Vol.32,No.6,2008年9月30日,pp.488-501
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00-5/22
A61B6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者固有の動脈の供給能力及び患者の器官または組織の一部分によって必要とされる血液の量を判定するコンピュータで実施される方法であって、前記方法が、
動脈の少なくとも一部分の血管ジオメトリの患者固有モデルを受信することであって、前記患者固有モデルが、患者固有の画像データに基づいて生成される、ことと、
前記患者固有モデルに基づいて、前記動脈の体積を計算することと、
前記動脈の前記計算された体積に基づいて、前記患者固有の動脈の供給能力を計算することと、
前記動脈から血液を受け取る前記器官または前記組織の少なくとも一部分の質量または体積を判定することと、
前記器官または前記組織の前記一部分の前記質量または前記体積に基づいて、前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量を判定することと、
前記患者固有の動脈の供給能力と前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量との間の
関係に基づいて、コンピュータによって前記患者を評価することであって、前記
関係に基づいてとは、
前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量に対する前記患者固有の動脈の供給能力の比を計算すること、及び、
前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量に対する前記患者固有の動脈の供給能力の前記比を、統計的方法または機械学習を使用して先の患者の集団から得られた1つ以上の所定値と比較すること
を含む、ことと
を含む、方法。
【請求項2】
前記比較に基づいて、前記コンピュータによって前記患者の疾患状態を判定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記
関係に基づいて、前記患者固有の動脈の供給能力と前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量との間の不一致を特定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記動脈の前記一部分から下流の動脈脈管構造を表す第2の患者固有モデルを受信することと、
前記患者固有モデル及び前記第2の患者固有モデルに基づいて、前記患者固有の動脈の供給能力を判定することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の患者固有モデルが、前記動脈の少なくとも一部分に関連する組織の境界に基づいて生成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記器官または組織の前記一部分の前記質量が、少なくとも部分的に、前記器官または組織の前記一部分の組織の密度を測定または推定することによって計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記患者固有モデルが、血管ジオメトリの一般モデルを変更することによって生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
患者固有の動脈の供給能力及び患者の器官または組織の一部分によって必要とされる血液の量を判定するための画像処理用のシステムであって、前記システムが、
前記患者固有の動脈の供給能力及び前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量を判定するための命令を記憶するデータ記憶装置と、
前記命令を実行することにより方法を実行するように構成されたプロセッサと
を含み、
前記方法が、
動脈の少なくとも一部分の血管ジオメトリの患者固有モデルを受信することであって、前記患者固有モデルが、患者固有の画像データに基づいて生成される、ことと、
前記患者固有モデルに基づいて、前記動脈の体積を計算することと、
前記動脈の前記計算された体積に基づいて、前記患者固有の動脈の供給能力を計算することと、
前記動脈から血液を受け取る前記器官または前記組織の少なくとも一部分の質量または体積を判定することと、
前記器官または前記組織の前記一部分の前記質量または前記体積に基づいて、前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量を判定することと、
前記患者固有の動脈の供給能力と前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量との間の
関係に基づいて、前記患者を評価することであって、前記
関係に基づいてとは、
前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量に対する前記患者固有の動脈の供給能力の比を計算すること、及び、
前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量に対する前記患者固有の動脈の供給能力の前記比を、統計的方法または機械学習を使用して先の患者の集団から得られた1つ以上の所定値と比較すること
を含む、ことと
を含む、システム。
【請求項9】
前記システムが、
前記比較に基づいて、前記患者の疾患状態を判定すること
のためにさらに構成される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記システムが、
前記
関係に基づいて、前記患者固有の動脈の供給能力と前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量との間の不一致を特定すること
のためにさらに構成される、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムが、
前記動脈の前記一部分から下流の動脈脈管構造を表す第2の患者固有モデルを受信することと、
前記患者固有モデル及び前記第2の患者固有モデルに基づいて、前記患者固有の動脈の供給能力を判定することと
のためにさらに構成される、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記第2の患者固有モデルが、前記動脈の少なくとも一部分に関連する組織の境界に基づいて生成される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記器官または組織の前記一部分の前記質量が、少なくとも部分的に、前記器官または組織の前記一部分の組織の密度を測定または推定することによって計算される、請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
前記患者固有モデルが、血管ジオメトリの一般モデルを変更することによって生成される、請求項8に記載のシステム。
【請求項15】
患者固有の動脈の供給能力及び患者の器官または組織の一部分によって必要とされる血液の量を判定する方法を実行するためのコンピュータ実行可能なプログラミング命令を含むコンピュータシステムで使用するための非一時的なコンピュータ可読媒体であって、前記方法が、
動脈の少なくとも一部分の血管ジオメトリの患者固有モデルを受信することであって、前記患者固有モデルが、患者固有の画像データに基づいて生成される、ことと、
前記患者固有モデルに基づいて、前記動脈の体積を計算することと、
前記動脈の前記計算された体積に基づいて、前記患者固有の動脈の供給能力を計算することと、
前記動脈から血液を受け取る前記器官または前記組織の少なくとも一部分の質量または体積を判定することと、
前記器官または前記組織の前記一部分の前記質量または前記体積に基づいて、前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量を判定することと、
前記患者固有の動脈の供給能力と前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量との間の
関係に基づいて、前記患者を評価することであって、前記
関係に基づいてとは、
前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量に対する前記患者固有の動脈の供給能力の比を計算すること、及び、
前記器官または前記組織の前記一部分によって必要とされる前記血液の量に対する前記患者固有の動脈の供給能力の前記比を、統計的方法または機械学習を使用して先の患者の集団から得られた1つ以上の所定値と比較すること
を含む、ことと
を含む、非一時的なコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願(複数可)の相互参照
本出願は、2016年6月24日に提出された米国非仮出願第15/192,286号及び2015年10月2日に提出された米国仮特許出願第62/236,707号に対する優先権を主張するものであり、その全開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の様々な実施形態は、概して、疾患の評価、治療計画、及び関連する方法に関する。より具体的には、本開示の特定の実施形態は、動脈の供給能力と終末器官の必要量とを比較することにより心血管疾患を評価するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
冠動脈疾患は、何百万人もの人々が罹患している一般的な病である。冠動脈疾患により、心臓に血液を供給する血管に、狭窄(血管の異常狭窄)などの病変が発症する場合がある。その結果、心臓への血流が制限される場合がある。冠動脈疾患に罹患している患者は、身体活動中の慢性的な安定狭心症、または患者が安静にしているときの不安定狭心症と呼ばれる胸痛を経験する場合がある。より重度の疾患の発現は、心筋梗塞または心臓発作を引き起こし得る。内科的治療(例えば、スタチン)または外科的代替手段(例えば、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と冠動脈バイパス移植術(CABG))の両方を含む冠動脈疾患の治療において、著しい進歩が見られている。侵襲的評価は、患者が受け得る治療のタイプを評価するために一般的に用いられている。しかし、患者の治療法を策定するための間接的または非侵襲的な評価を探求し、発展させているところである。
【0004】
心疾患は、一般には、血管の疾患、特に、血流に影響を及ぼす様式の血管腔内の狭窄または閉塞に起因すると考えられている。現在、治療評価では、このような内腔の要因が考慮されている。しかし、疾患の重篤度のより優れた評価をすることによって、心血管疾患の診断及び/または治療を改善することが所望されている。
【0005】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は、例示的及び説明的なものに過ぎず、本開示を限定するものではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の特定の態様によれば、動脈血の供給量と、器官または組織の必要量との間の関係を利用して、心血管疾患の診断または治療を導くためのシステム及び方法が開示されている。
【0007】
血液供給量と血液必要量とを判定するためのシステム及び方法を開示する。一方法及び/またはシステムは、冠動脈の少なくとも一部分の血管ジオメトリの患者固有モデルを受信するステップ、ただしモデルは、心筋を有する患者の心臓の少なくとも一部分の患者固有の画像データに基づき得る、患者固有モデルに基づいて冠動脈血の供給量を判定するステップ、冠動脈から血液を受け取る心筋の少なくとも一部分を判定するステップ、心筋の一部分の質量または体積に基づいて、または心筋の一部分の灌流画像に基づいて、心筋の血液必要量を判定するステップ、及び冠動脈血の供給量と心筋の血液必要量との間の関係を判定するステップを含む。
【0008】
他の方法及びシステムは、冠動脈血の供給量と心筋の血液必要量との間の判定された関係に基づいて患者を評価することをさらに含んでもよい。
【0009】
他の方法及びシステムは、冠動脈血の供給量と心筋の血液必要量との間の判定された関係に基づいて、冠動脈血の供給量と心筋の血液必要量との間に不一致が存在するかどうかを判定することをさらに含んでもよい。
【0010】
他の方法及びシステムは、不一致が存在するかどうかの判定に基づいて、冠動脈の少なくとも一部分にわたる血流の患者固有のシミュレーションの少なくとも1つのパラメータを変更することをさらに含んでもよい。
【0011】
他の方法及びシステムは、関係を基準値と比較することをさらに含んでもよい。
【0012】
他の方法及びシステムは、基準値が患者の集団から判定され得る。
【0013】
他の方法及びシステムは、冠動脈の一部分から下流の冠動脈脈管構造を表す第2の患者固有モデルを受信することをさらに含んでもよい。
【0014】
本明細書の方法及びシステムにおいて、心筋の一部分の質量は、心筋の一部分の組織の密度を測定または推定し、心筋の一部分の体積で組織の密度を乗じることによって計算され得る。
【0015】
本明細書の方法及びシステムにおいて、患者固有モデルは、血管ジオメトリの一般モデルを変更することによって生成され得る。
本明細書は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
血液供給量及び血液必要量を判定するコンピュータで実施される方法であって、
モデルは、心筋を有する患者の心臓の少なくとも一部分の患者固有の画像データに基づいて、冠動脈の少なくとも一部分の血管ジオメトリの患者固有モデルを受信することと、
前記患者固有モデルに基づいて冠動脈血の供給量を判定することと、
前記冠動脈から血液を受け取る前記心筋の少なくとも一部分を判定することと、
前記心筋の前記一部分の質量または体積に基づいて、または前記心筋の前記一部分の灌流画像に基づいて、心筋の血液必要量を判定すること、及び
前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間の関係を判定すること
を含む、前記方法。
(項目2)
前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間の前記判定された関係に基づいて前記患者を評価すること
をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間の前記判定された関係に基づいて、前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間に不一致が存在するかどうかを判定すること
をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記不一致が存在するかどうかの前記判定に基づいて、前記冠動脈の少なくとも前記一部分にわたる血流の患者固有のシミュレーションの少なくとも1つのパラメータを変更すること
をさらに含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記関係を基準値と比較すること
をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記基準値が患者の集団から判定される、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記冠動脈の前記一部分から下流の冠動脈脈管構造を表す第2の患者固有モデルを受信すること、及び
前記患者固有モデル及び前記第2の患者固有モデルに基づいて前記冠動脈血の供給量を判定すること
をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記第2の患者固有モデルが、前記冠動脈の少なくとも一部分に関連する組織の境界に基づいて生成される、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記心筋の前記一部分の前記質量が、前記心筋の前記一部分の組織の密度を測定または推定し、前記心筋の前記一部分の前記体積で前記組織の密度を乗じることによって計算される、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記患者固有モデルが、血管ジオメトリの一般モデルを変更することによって生成される、項目1に記載の方法。
(項目11)
血液供給量及び血液必要量を判定するための画像処理用のシステムであって、
前記血液供給量及び血液必要量を判定するための命令を記憶するデータ記憶装置と、
プロセッサであって、
患者固有の画像データの少なくとも一部は患者の心臓の少なくとも一部分に対応する、画像化装置を使用して得られた前記患者固有の画像データを受信することと、
モデルは、受信した患者固有の画像データに基づき、冠動脈の少なくとも一部分の血管ジオメトリの前記患者固有モデルを受信することと、前記患者固有モデルに基づいて冠動脈血の供給量を判定することと、
前記冠動脈に対応する前記心筋の少なくとも一部分を判定することと、
前記心筋の前記一部分の質量または体積に基づいて、または前記心筋の前記一部分の灌流画像に基づいて、心筋の血液必要量を判定すること、及び
前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間の関係を判定することと、
を含む方法を実行するために前記命令を実行するように構成された前記プロセッサと
を含む、前記システム。
(項目12)
前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間の前記判定された関係に基づいて前記患者を評価すること
のためにさらに構成される、項目11に記載のシステム。
(項目13)
前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間の前記判定された関係に基づいて、前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間に不一致が存在するかどうかを判定すること
のためにさらに構成される、項目11に記載のシステム。
(項目14)
前記不一致が存在するかどうかの前記判定に基づいて、前記冠動脈の少なくとも前記一部分にわたる血流の患者固有のシミュレーションの少なくとも1つのパラメータを変更すること
のためにさらに構成される、項目13に記載のシステム。
(項目15)
前記関係を基準値と比較すること
のためにさらに構成される、項目11に記載のシステム。
(項目16)
前記基準値が患者の集団から判定される、項目15に記載のシステム。
(項目17)
前記冠動脈の前記一部分から下流の冠動脈脈管構造を表す第2の患者固有モデルを受信すること、及び
前記患者固有モデル及び第2の患者固有モデルに基づいて前記冠動脈血の供給量を判定すること
のためにさらに構成される、項目11に記載のシステム。
(項目18)
前記第2の患者固有モデルが、前記冠動脈の少なくとも一部分に関連する組織の境界に基づいて生成される、項目16に記載のシステム。
(項目19)
前記心筋の前記一部分の前記質量が、前記心筋の前記一部分の組織の密度を測定または推定し、前記心筋の前記一部分の前記体積で前記組織の密度を乗じることによって計算される、項目11に記載のシステム。
(項目20)
血液供給量及び血液必要量を判定する方法を実行するためのコンピュータ実行可能なプログラミング命令を含むコンピュータシステムで使用するための非一時的なコンピュータ可読媒体であって、前記方法が
患者固有の画像データの少なくとも一部が患者の心臓の少なくとも一部分に対応する、画像化装置を使用して得られた前記患者固有の画像データを受信することと、
モデルは、受信した患者固有の画像データに基づく、冠動脈の少なくとも一部分の血管ジオメトリの前記患者固有モデルを受信することと、
前記患者固有モデルに基づいて冠動脈血の供給量を判定することと、
前記冠動脈から血液を受け取る前記心筋の少なくとも一部分を判定することと、
前記心筋の前記一部分の質量または体積に基づいて、または前記心筋の前記一部分の灌流画像に基づいて、心筋の血液必要量を判定すること、及び
前記冠動脈血の供給量と前記心筋の血液必要量との間の関係を判定すること
を含む、前記非一時的なコンピュータ可読媒体。
【0016】
開示された実施形態のさらなる目的及び利点は、以下の説明に部分的に記載され、部分的に説明から明らかになり、または開示された実施形態の実践によって知り得る。開示された実施形態の目的及び利点は、添付の特許請求の範囲で特に指摘された要素及び組み合わせにより実現され、達成される。
【0017】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものに過ぎないこと、及び特許請求をするものとして、開示された実施形態を限定するものではないことを理解されたい。
【0018】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成するものであり、様々な例示的な実施形態を示し、説明と共に、開示された実施形態の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の例示的な実施形態による、血液供給量と、器官または組織の必要量の分析に基づいて患者を評価するための例示的なシステム及びネットワークのブロック図である。
【
図2A】画像化装置を用いて得られた患者の動脈の画像である。
【
図2B】画像化装置を用いて得られた患者の動脈の画像である。
【
図3】本開示の例示的な実施形態による、冠動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定する例示的な方法のブロック図である。
【
図4】本開示の例示的な実施形態による、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の患者固有の関係を、先行する患者の集団のものと比較する例示的な方法のブロック図である。
【
図5】本開示の例示的な実施形態による、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定する例示的な方法のブロック図である。
【
図6】本開示の例示的な実施形態による、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定して、血流及び血圧のシミュレーションを更新する例示的な方法のブロック図である。
【
図7】本開示の例示的な実施形態による、冠動脈の供給量及び心筋の必要量を判定する例示的な方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
これから、本開示の例示的な実施形態を詳細に参照し、添付の図面にその実施例を示す。図面全体にわたり、同一または同様の部分を示すために可能な限り同じ参照番号を使用している。
【0021】
冠動脈疾患は、一般的な病であり、それによって心臓への血流が制限され得る。冠動脈疾患の治療において著しい進歩が見られたが、誤った治療が施されたり、治療が過剰であったりすることが頻繁にある。例えば、患者は、投薬が十分であり得るときに、よく侵襲的な外科的処置を受ける。時に患者は、状態が変化し得ない処置を施される。場合によっては、患者は最終的に状態を悪化させる処置を受けることさえある。したがって、治療の過程を選択する際に心血管疾患の重症度を正確に評価する必要性が存在している。
【0022】
患者の心血管疾患、及び他の器官と組織の疾患を評価するとき、健康な個人の場合、動脈樹の内径は、供給される組織及び器官の必要量を満たすのに適切な大きさになっていると考えられている。例えば、冠動脈樹において、心外膜表面の大きい動脈である心外膜冠動脈は、血流への最小限のみの抵抗で、さらに小さな動脈、細動脈及び毛細血管を通って、心臓の筋肉(心筋)に血流を導き、その結果、小さい圧力の勾配になると仮定されている。さらに、心筋への血流を欠いている心筋虚血は、心外膜冠動脈の局所的または広範性のアテローム性動脈硬化、または微小血管の機能不全、すなわち血流に対する必要量の増加に応じて微小循環を拡張できないことにより生じると一般に仮定されている。心筋組織の必要量と心外膜冠動脈の供給能力との間の理想的な関係に関するこれらの仮定は、侵襲的冠動脈造影(ICA)、血管内超音波検査(IVUS)、侵襲的な心筋血流予備量比(FFR)、冠動脈CT血管造影(CCTA)、非侵襲的なCTに由来する心筋血流予備量比(FFRCT)を用いた冠動脈における閉塞性の解剖学的疾患の存在、または単一光子放射断層撮影(SPECT)を用いる心筋灌流画像(MPI)、陽電子放射断層撮影(PET)、磁気共鳴灌流画像(MRMPI)、またはCT灌流画像(CTP)を用いて評価された機能的に重大な疾患のいずれかにおける冠動脈疾患の診断に焦点を当てるに至っている。
【0023】
冠動脈の供給能力と心筋の終末器官の必要量との間の関係の理解及びそれを調べるための診断方法が欠如していた。救急部またはそのプライマリケアの医師または心臓専門医に、冠動脈疾患を示唆する症状の愁訴を提示し、検査に際し、異常性の機能検査を除き、通常のICAとCCTAの解剖学的検査を受ける多くの患者がいる。さらに、機能検査にはギャップがあり、それにより、FFRやFFRCTなどの心外膜疾患を調べる方法が、閉塞性冠動脈疾患が血管を狭窄させているエビデンスがある場合にのみ一般に命じられる。結果として、心疾患の症状を有する一部の患者は、冠動脈供給量と心筋の必要量との関係を調べる方法がない結果、受ける診断が不適切になったり不十分になったりする。冠動脈の供給量と心筋の必要量との間の関係を分析することにより、動脈疾患をより正確に診断するために、本明細書に提示された新規の技法を使用してもよい。
【0024】
これから図面を参照すると、
図1は、例示的な実施形態による、血液供給量と、器官または組織の必要量の分析に基づいて患者を評価するための例示的なシステム100及びネットワークのブロック図を示す。具体的には、
図1は、複数の医師102及び第三者の提供者104を示しており、そのいずれも1つ以上のコンピュータ、サーバ、及び/またはハンドヘルドの携帯式装置を介して、インターネットなどの電子ネットワーク101に接続され得る。医師102及び/または第三者の提供者104は、1つまたは複数の患者の解剖学的構造の画像を作成するか、さもなければ取得してもよい。医師102及び/または第三者の提供者104はまた、年齢、病歴、血圧、血液粘度、患者の活動または運動レベルなどの患者固有情報の任意の組み合わせを取得し得る。医師102及び/または第三者の提供者104は、解剖学的構造の画像及び/または患者固有情報を、電子ネットワーク101でサーバシステム106に送信し得る。サーバシステム106は、医師102及び/または第三者の提供者104から受信した画像及びデータを記憶するための記憶装置を含んでもよい。また、サーバシステム106は、記憶装置に記憶された画像及びデータを処理するための処理装置を含んでもよい。
【0025】
図2A及び
図2Bは、画像化装置を使用して患者から得られた冠動脈の画像である。
図2A及び
図2Bの画像データは、サーバシステム106により取込み、処理、及び/または記憶し得る。画像データは、電子ネットワーク101を介して医師102及び/または第三者の提供者104から受信した情報、画像、及び/またはデータに基づくものであってもよい。
【0026】
図2A及び
図2Bに示すように、解剖学的データは、例えば、冠動脈CT血管造影(CCTA)を使用して非侵襲的に取得してもよい。CCTAは、胸痛を有する患者の画像化に使用され、造影剤の静脈内注入後に心臓及び冠動脈を画像化するためにコンピュータ断層撮影(CT)技術を使用することを伴う。しかし、CCTAはまた、病変が血流に影響するかどうかなど、冠動脈の病変の機能的重要性に関する直接的な情報を提供することができない。さらに、CCTAは純粋に診断検査であるため、他の生理学的状態、例えば運動中の冠動脈の血流、血圧または心筋の灌流の変化を予測するために使用することも、介入の結果を予測するために利用することもできない。
【0027】
したがって、患者はまた、冠動脈の病変を視覚化するために、診断的心カテーテル法などの侵襲的検査を必要とする場合がある。診断的心カテーテル法は、動脈の大きさ及び形状の画像を医師に提示することによって、冠動脈の病変に関する解剖学的データを収集する従来の冠動脈造影(CCA)を実施することを含んでもよい。しかし、CCAは、冠動脈の病変の機能的重要性を評価するためのデータを提供しない。例えば、医師は、病変が機能的に有意であるかを判断することなく、冠動脈の病変が有害であるかどうかを診断することができない場合がある。むしろ、
図2Bに示すように、動脈の一部がかなりの程度の狭窄(DS)、例えば狭窄の程度が血管の腔部の50%を超えるものを有するように見えることに起因して、医師がステントを挿入する場合がある。そのため、CCAは、病変が機能的に有意であるかどうかということと関係なく、CCAで見出されたすべての病変に対してステントを挿入する、一部の介在的な心臓専門医の「oculostenotic reflex(発見した狭窄に対する反射)」と称されるものに至った。その結果、CCAによって、患者へ不要な手術をすることになり得、それが患者のリスクを追加する場合があり、また患者の不要な医療費を生む場合がある。本明細書に提示している技法は、血液供給量と、器官または組織の必要量との間の関係を判定することによって、これらの問題の1つまたは複数を改善し得る。
【0028】
図3は、冠動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定する例示的な方法のブロック図である。
図4は、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の患者固有の関係を先行する患者の集団のものと比較する例示的な方法のブロック図である。
図5は、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定する例示的な方法のブロック図である。
図6は、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定して血流及び血圧のシミュレーションを更新する例示的な方法のブロック図である。
図7は、冠動脈の供給量及び心筋の必要量を判定する例示的な方法のブロック図である。
【0029】
従来の技法とは対照的に、本開示の実施形態は、血管の健康状態をより正確に評価するために、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定し得る。
図3は、本開示の例示的な実施形態による、冠動脈血の供給量と心筋の血液必要量との間の関係を判定する例示的な方法のブロック図である。
図3の方法は、電子ネットワーク101を介して医師102及び/または第三者の提供者104から受信した情報、画像、及びデータに基づき、サーバシステム106が実行してもよい。
【0030】
一実施形態では、ステップ305は、器官または組織の患者固有の画像化データを受信することを含んでもよい。実施形態では、冠動脈CT血管造影または他の画像化技術を用いて、冠動脈及び心臓の筋肉である心筋を、両方とも画像化してもよい。
【0031】
ステップ310では、器官または組織の少なくとも一部分に血液を供給する1つまたは複数の血管のモデルを、患者固有の画像化データに基づいて生成してもよい。本明細書で開示される技法は、冠動脈CT血管造影データから心外膜冠動脈のジオメトリを抽出し、in vivoでは画像化できない小さな動脈や細動脈を表現する理論モデルを付加してもよい。理論モデルは、先行する患者データに基づくものであっても、及び/または患者固有の画像データに基づいて選択してもよい。
【0032】
ステップ315では、1つ以上の血管のモデルに基づき、血液供給量を判定してもよい。例えば、冠動脈樹の総体積を計算してもよい。上述の理論モデルは、患者固有の画像化データを得るために使用する画像化装置の既知の画像化閾値に達していない動脈及び細動脈を表現してもよく、血液供給量の判定に含めてもよい。冠動脈にわたる血流を判定しても、冠動脈の総体積の3/4乗と関連があると仮定してもよいが、ただし別の数学的関係を使用してもよい。
【0033】
ステップ320と325では、器官または組織の必要量を判定してもよい。例えば、ステップ320において、器官または組織の少なくとも一部分の質量または体積に基づいて、必要量を判定してもよい。これは、上で判定したモデルに対応する血管が、血液を供給する器官または組織の部分であってよい。例えば、判定される冠動脈にわたる血流は、心筋の質量または体積の3/4乗と関連があると仮定してもよいが、ただし使用する正確な指数または数学的関係は多様であってよい。したがって、例えば、心筋の質量に対する冠動脈の体積の比は、冠動脈の供給量と心筋の必要量との間の不一致を判定するために使用してもよく、疾患または灌流する必要がある組織の質量に対して小内径である冠動脈樹を示す。
【0034】
ステップ320と325のいずれかまたは両方を使用して、器官または組織の少なくとも一部分の血液の必要量を判定してもよい。上述のように、ステップ320において、器官または組織の必要量は、器官または組織の少なくとも一部分の質量または体積に基づいて判定してもよい。ステップ325において、器官または組織の必要量、例えば心筋の少なくとも一部分の必要量は、灌流の画像化に基づいて判定してもよい。ステップ330において、本明細書に提示している他の実施形態でさらに開示しているように、患者は、ステップ315で判定した血液供給量と、ステップ320及び/または325で判定された器官または組織の必要量との比較に基づいて評価してもよい。例えば、対応する器官または組織の血液必要量に対する血液供給量の比は、虚血が存在していることまたは欠いていることを示し得る。
【0035】
このアプローチは、必ずしも冠動脈やCT画像化に限定されない。これは、他の器官及び組織、例えば脳、腎臓、肝臓、脚、腕などへの血流に適用してもよい。画像化技術は多様であってよい。例えば、動脈モデルを抽出するための解剖学的データは、2Dの従来型の血管造影、3Dの回転式血管造影、磁気共鳴画像、または2Dもしくは3Dの超音波イメージングを使用して得てもよい。器官の体積は、例えば、磁気共鳴画像または2Dもしくは3Dの超音波イメージングを用いて得てもよい。器官または組織の必要量は、器官もしくは組織の体積、または器官もしくは組織の質量(体積データ、及び測定または仮定される器官または組織の密度を使用して、計算してもよい)から定めてもよい。器官または組織の必要量は、CT、MR、PET、またはSPECTから灌流画像を使用して直接的に、または冠動脈ダイナミクス及び血流の必要量に対する機能に関連するモデルを利用してCT、MRIまたは心エコーの壁運動データから間接的に、評価してもよい。
【0036】
図4は、本開示の例示的な実施形態による、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の患者固有の関係を、先行する患者の集団のものと比較する例示的な方法のブロック図である。
図4の方法は、電子ネットワーク101を介して医師102及び/または第三者の提供者104から受信した情報、画像、及びデータに基づき、サーバシステム106により実行してもよい。
【0037】
一実施形態では、ステップ405に示すように、3次元の患者固有の動脈または解剖学的モデルを、患者固有の画像化データ、例えば画像化装置から得る画像化データから抽出してもよい。ステップ410では、3次元の患者固有の動脈モデルに含まれない動脈の第2のモデルを生成してもよい。例えば、画像化装置の画像解像度の限界を超えた動脈のモデルを生成してもよい。モデルは、画像データから抽出される末端の血管に由来する分岐の法則を利用して、または画像化データから抽出される被供給組織の境界内に収まるように血管を生成することによって、判定してもよい。ステップ415において、被供給器官の関連組織の体積または質量も、画像化データから抽出してもよい。例えば、3次元の患者固有の動脈モデル及び第2のモデルにより供給される組織または器官の体積または質量を、抽出してもよい。体積または質量は、器官の表面が抽出される画像処理法を使用して抽出してもよい。ステップ420において、組織または器官の体積または質量を用いて、組織または器官の必要量を判定してもよい。これは、形態-機能関係を用いて組織または器官の質量または体積を生理的パラメータに関連付けることによって行われてもよい。一実施形態では、冠動脈血流の合計を心筋の質量に関連付けて、心臓の血液必要量を判定する。ステップ425では、組織または器官への血液供給量の測定値を、3次元の患者固有の動脈モデル及び第2のモデルに基づいて生成してもよい。これは、血管の(内側の)腔部表面をセグメント化し、内腔の体積を計算し、計算された体積に流量を関連付けることによって実行してもよい。ステップ430において、組織または器官の必要量と、血液供給量の測定値との間の関係を判定してもよい。例えば、心筋の質量に対する冠動脈腔部の体積の比を計算してもよい。ステップ435において、その関係を、患者を評価する目的のために、先行する患者の集団と比較してもよい。例えば、統計的方法または機械学習を使用して、血液を必要とする器官の測定値と、供給側の動脈の測定値との間の関係を計算し、報告し、先の患者の集団から得られた通常の基準値と比較してもよい。個人から得た派生メトリックと集団から得る期待値とのこの比較は、その後、個々の患者の疾患を診断するために臨床で利用してもよい。心筋の質量に対する冠動脈の内腔の体積の比から、心筋への冠動脈の血流の制限を予測してもよい。これは、例えば胸痛を引き起こす場合があるものである。
【0038】
本明細書に提示している技法は、メトリックを使用してもよい。そのメトリックは、血液を必要としている器官の測定値に対する供給側の動脈の能力の測定値と関連付けられるものであり、血流の患者固有のモデリングで使用するための個々の患者の生理学的境界条件を精緻化するものである。例えば、器官の質量に対する血管の体積の比は、個々の患者について計算し、患者の集団から得たデータと比較して、ベースライン、充血、または運動中という条件下での血流に対する抵抗を増減させるために使用することができる。これは、個々の患者に関してこれらの方法の精度を向上させるために、非侵襲的な心筋血流予備量比または冠動脈血流予備能の計算に適用することができる。例えば、1つの実施形態では、冠動脈内腔の体積と心筋の質量との比、及び異なる患者における測定されたFFR値に関する情報とともに、機械学習法を使用して、抵抗境界条件を調整して、計算したFFRの予測の精度を向上できる方法を特定できる。
【0039】
図5は、本開示の例示的な実施形態による、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定する例示的な方法のブロック図である。
図5の方法は、電子ネットワーク101を介して医師102及び/または第三者の提供者104から受信した情報、画像、及びデータに基づいて、サーバシステム106により実行してもよい。
【0040】
ステップ505において、第1の患者固有の解剖学的モデルを受信してもよい。このモデルは、患者の動脈に対応してもよく、画像化装置または電子記憶装置(例えば、ハードドライブ、ネットワークドライブなど)から受信してもよい。ステップ510では、第1の患者固有の解剖学的モデルに含まれていない血管について第2の患者固有モデルを生成してもよい。例えば、第2の患者固有モデルは、画像解像度の限界、画質またはデータ収集技術の限界のために、画像に認めることのできない小さな血管を含み得る。
【0041】
ステップ515では、第1及び第2の患者固有モデルの動脈によって供給される組織または器官の1つまたは複数の患者固有の解剖学的モデルを受信または生成してもよい。1つ以上のモデルは、電子記憶装置(例えば、ハードドライブ、ネットワークドライブなど)から受信してもよい。
【0042】
上述の技法と同様に、ステップ520において、動脈の供給量は、第1及び第2の患者固有モデルに基づいて判定してもよい。ステップ525において、器官または組織の必要量は、器官または組織の患者固有の解剖学的モデルに基づいて判定してもよい。必要に応じて、器官または組織の質量は、組織の密度を測定または推定し、それに組織/器官の体積を乗じることによって計算してもよい。あるいは、組織または器官の必要量は、上記の方法を用いて計算してもよい。
【0043】
ステップ530において、動脈の供給量と器官の必要量との間の関係は、メトリックに基づいて判定してもよい。実施形態では、このメトリックは、患者にとっての組織/器官の体積または質量に対する第1の患者固有モデルの体積の比、またはその同じ患者にとっての組織/器官の体積または質量に対する第1及び第2の患者固有の体積の合計の比であってよい。
【0044】
ステップ535では、動脈の供給量と組織/器官の必要量との間の関係を記述する1つ以上のパラメータについて、情報を提供してもよい。この情報は、レポート、ビジュアルディスプレイを介して使用者に表示したり、電子記憶装置(例えば、ハードディスク、ネットワークドライブ、クラウドストレージ、スマートフォン、タブレットなど)に書き込んだりしてもよい。
【0045】
本明細書に記載される技法のいくつかの実施形態では、上記の個々の患者について計算した必要量に対する供給量のメトリック(複数可)を、患者の集団からのデータと比較して、患者のデータが適切な人口統計にとっての正常な範囲内にあるかどうかについての付加的な情報を提供してもよい。一般に、通常の必要量に対する供給量のメトリック(複数可)はまた、年齢、性、血圧などの患者の特性にも依存する場合がある。この関係は、患者が健康であるか病にかかっているかどうかということに、必要量に対する供給量のメトリックを含むこれらの特性すべてを関連付けるデータから推測できる。
【0046】
本明細書に記載される技法のいくつかの実施形態では、上記の個々の患者について計算した必要量に対する供給量のメトリック(複数可)を利用して、その個々の患者の生理学的モデルを更新し、及び/または血流及び血圧、総合的または局所的な組織潅流、心筋血流予備量比(FFR)、冠動脈血流予備能(CFR)、微小血管抵抗指数(IMR)、危険領域、プラーク破裂リスク、及び/またはプラークのストレスを計算してもよい。機械学習法は、いかに必要量に対する供給量のメトリック(複数可)を、冠動脈の血流と血圧を計算するために割り当てられた境界条件に組み入れるべきかについて学習するために利用してもよい。例えば、流量が多過ぎてFFRを正確に計算することができないことを示す必要量に対する供給量のメトリックの値を使用して、流量を減少させるよう計算における境界条件を変更してもよい。このデータは、機械学習法と組み合わせて使用して、これらの方法の予測能力を高めることができる。例えば、特定の必要量に対する供給量の比は、以下にさらに説明するように、血流への一定の抵抗を示し得る。この抵抗は、患者の器官及び/または組織における血流をシミュレートするために使用してもよい患者固有モデルを構成するのに使用してもよい。
【0047】
図6は、本開示の例示的な実施形態による、動脈血の供給量と、器官または組織の血液必要量との間の関係を判定して、血流及び血圧のシミュレーションを更新する例示的な方法のブロック図である。
図6の方法は、医師102及び/または第三者の提供者104から受信した情報、画像、及びデータに基づいて、電子ネットワーク101を介してサーバシステム106により実行してもよい。
【0048】
ステップ605では、患者固有の画像から1つ以上の患者固有の解剖学的モデルを作成してもよい。本明細書に提示された技法は、2次元(例えば、冠動脈造影、二方向血管造影)または3次元(例えば3Dの回転式血管造影、冠動脈CT血管造影(CCTA)、核磁気共鳴血管撮影(MRA))モデルから患者固有の解剖学的モデルを構築してもよい。このステップは、画像データを直接セグメント化し、患者の動脈の患者固有の3次元解剖学的モデルを作成する方法を含んでもよく、あるいは、先行して構築された「一般」モデルを変更して、それをその患者用にカスタマイズして患者固有モデルを作り出すことを伴い得る。いずれの場合も、患者固有の解剖学的モデルは、各セグメントの長さ、セグメントの長さに沿った直径(またはセグメントの任意の他の幾何学的記述)、分岐のパターン、疾患の存在、及び/またはアテローム性動脈硬化性プラークの組成を含む疾患の特徴を含む対象の動脈に関する情報の一部または全体を含んでもよい。モデルの表現は、3次元の体積部を囲む表面、血管の中心線が長さに沿った断面積の情報とともに画定される1次元モデルにより画定してもよく、血管の表面の暗示的な表現であってもよい。解剖学的モデルは、冠動脈、末梢動脈、大脳動脈、内臓動脈、肝臓血管、腎動脈などの、多くの異なる種類の解剖学的構造を表し得る。モデルは、本明細書に記載の方法及びシステムを使用する前に受信し得る。
【0049】
ステップ610において、上述の解剖学的モデルを超える動脈樹のモデルを作成してもよい。実施形態では、冠動脈の解剖学的モデルは、例えば、冠動脈の分岐のパターンに関する文献から得たデータを用いて、冠動脈の理論上の解剖学的構造に基づいて、上記で作成されたモデルの流出口下流に生成してもよい。あるいは、このモデルは、いずれも本明細書に参照により組み込まれる米国特許第8,386,188号及び同第8,315,814号に記載されているように、血管の生成されるネットワークを抑制するために、測定された器官の体積及び境界を用いることもできる。
【0050】
ステップ615では、第1及び第2の患者固有モデルの動脈によって供給される組織または器官の患者固有の解剖学的モデルを生成してもよい。一実施形態では、これは、CCTA画像化データから抽出された心臓全体、個々の室組織の体積、または左心室の心筋のモデルである。このモデルは、血液に対する器官の必要量を推定するために使用してもよい。
【0051】
ステップ620において、器官の必要量に血管の供給量を関連付けるメトリックを定義または判定してもよい。一実施形態では、このメトリックは、(上記のステップで計算された)心外膜冠動脈の体積または(上記のステップで計算された)冠動脈の総体積の心筋の質量に対する比、すなわち体積/質量である。質量に対する体積の比が低いことは、虚血が存在していることに関連し得るのに対し、質量に対する体積の比がより高いことは、虚血が存在していないことに関連し得る。例えば、mm3/gという単位を用いた体積/質量の比が30以上である場合、虚血が存在しないことに関連し得る。30未満、特に15未満の比は、虚血の存在していることに関連し得る。別の実施例として、30を超える比は虚血でないこととして、30~15は中等度の虚血として、15未満を虚血として分類してもよい。分類の特定の閾値、数、及びタイプは多様であってよい。このメトリックは、任意の血管、器官または組織を用いて同様の方法で判定してもよい。
【0052】
また、必要量に対する供給量のメトリックは、冠動脈血流予備能(CFR)を予測するのにも有用であり得る。例えば、必要量と供給量のメトリックが低値の患者では、低値のCFRが認められることが予想される。mm3/gという単位を用いた体積/質量の比が30未満、特に15未満であることは、冠動脈血流予備能が低いことに関連している場合がある。
【0053】
本明細書で提示される技法の別のステップは、上記の計算されたメトリックを患者、医師、または医療提供者に報告することであってもよい。
【0054】
ステップ625において、上記の計算されたメトリックを使用して、集団ベースのデータと比較して、血流及び血圧のシミュレーションを更新し、生理学的モデルを改良してもよい。これは、上記の計算のメトリックに基づいて微小血管抵抗の値を調整することにより、行ってもよい。
【0055】
一実施形態は、ヒトの冠動脈における血流と血圧をより正確に計算することに関連するが、他の実施形態は、頭蓋外及び頭蓋内の大脳動脈、下肢の動脈、例えば末梢動脈疾患の患者の腸骨動脈、浅大腿動脈、総大腿動脈、脛骨動脈、膝窩動脈、腓骨動脈、足の動脈、腎動脈、腸間膜動脈、及び/または他の血管床における血流及び血圧を計算することを含み得る。これは、米国特許第8,386,188号及び同第8,315,814号に記載されている方法を改善するために使用してもよいが、各々は、心臓及び脳における灌流をシミュレートすることに関して、参照によりその全体が組み込まれている。
【0056】
さらに、本明細書に提示された技法は、例えば、参照によりその全体が組み込まれる米国特許第8,311,748号に記載されているように、プラーク破裂の予測を改善し得る血流と血圧の計算の改善をもたらし得る。これらの技法はベースラインの条件のより正確な予測をもたらす場合があり、例えば、その全体が参照により組み込まれる米国特許第8,157,742号、同第8,594,950号、及び同第8,734,357号に記載されている治療計画において使用することができる。この方法はまた、心外膜動脈/微小血管系の拡張能力を評価するために、血管拡張薬を伴い/伴わずに、繰り返すことができる。
【0057】
図7は、例示的な実施形態による、冠動脈の供給量及び心筋の必要量を判定する例示的な方法のブロック図である。
図7の方法は、先に説明した実施形態の多くのステップを含み、これらのステップを心臓及び冠動脈に具体的に適用する。先に説明した実施形態における対応するステップの詳細のいずれも、
図7の方法で使用し得る。
図7の方法は、電子ネットワーク101を介して医師102及び/または第三者の提供者104から受信した情報、画像、及びデータに基づいて、サーバシステム106により実行でしてもよい。
【0058】
ステップ705において、画像化装置を使用して取得した患者固有の画像データを受信してもよく、患者固有の画像データの少なくとも一部分は、患者の心臓の少なくとも一部分に対応する。ステップ710において、冠動脈の少なくとも第1の部分の血管ジオメトリの第1の患者固有モデルを受信してもよく、それにおいてモデルは受信した患者固有の画像データに基づいている。ステップ715では、冠動脈の少なくとも第2の部分を表す第2の患者固有モデルを受信してもよく、それにおいて第2の部分は冠動脈の第1の部分に関連付けられ、第1の部分より小さく、冠動脈の第2の部分は画像化装置の画像化閾値に満たない。ステップ720では、第1の患者固有モデル及び第2の患者固有モデルに基づく冠動脈供給量を判定してもよい。ステップ725において、冠動脈に対応する心筋の少なくとも一部分を判定してもよい。ステップ730では、心筋の部分の質量または体積に基づき、または心筋の一部分の灌流画像に基づき、心筋の必要量を判定してもよい。ステップ735では、冠動脈供給量と心筋の必要量との間の関係を判定してもよい。
【0059】
例示的な目的のために、複数の実施形態を本明細書で説明している。本明細書に記載した任意の実施形態のいずれかのステップの詳細のいずれも、他の実施形態の類似したステップで使用してもよい。
【0060】
本明細書に提示している技法は、器官または組織への血液供給量と、その器官または組織からの血液必要量との間の関係を判定し得る方法を記載している。これらの技法は、アテローム性動脈硬化症患者の疾患の負担全体の重大な洞察を提供するものであり、それは予後値を有するであろう。
【0061】
本明細書に記載している新規のアプローチは、所与の器官または組織との関係において、血液供給量と血液必要量との間の関係を判定することを含む。そのような判定は、安静、充血及び/または運動という条件下にある患者に対して行ってもよい。これらの技法は、冠動脈に適用され得るが、頸動脈、大脳動脈、腎動脈及び下肢の動脈を含むがこれらに限定されない任意の動脈樹における血流及び血圧のシミュレーションにも適用され得る。
【0062】
本明細書に提示している技法は、血管の体積に基づく血流と抵抗の、心筋の体積または質量に基づく血流と抵抗に対する比を計算してもよく、FFRCTプラットフォームに実装すること及び含んでもよい。静止している血流の不一致を計算して表示する方法、またはこのデータを使用して患者の生理学的条件及び境界条件のセットを更新する方法も、実行してもよい。
【0063】
本発明の他の実施形態は、本明細書を考察すること、及び本明細書に開示された本発明を実施することから、当業者に明らかになるであろう。本明細書で多数の実施形態が論じられており、これらは互いに様々な組み合わせで使用してもよい。本明細書及び実施例は、例示的なものとしてのみ考察することが意図され、本発明の真の範囲及び精神は、添付の特許請求の範囲によって示される。