(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】流体圧シリンダ
(51)【国際特許分類】
F15B 15/14 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
F15B15/14 380B
(21)【出願番号】P 2020042083
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 航
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-093406(JP,U)
【文献】特開2013-133913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00-15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダチューブと、
前記シリンダチューブに摺動自在に挿入され前記シリンダチューブ内にロッド側室と反ロッド側室を区画するピストン部と、
前記シリンダチューブに挿入され先端側が前記ピストン部に連結されるロッド部材と、
前記ロッド部材内に設けられ前記ロッド側室または前記反ロッド側室へ作動流体を導く管部材と、を備え、
前記管部材は、
前記ピストン部または前記ロッド部材の先端側に接合される第一管部と、
前記ロッド部材の基端側に支持される第二管部と、
前記第一管部と前記第二管部とを連結し、前記第一管部と前記第二管部の
互いに近づく方向及び遠ざかる方向の相対変位を許容する変位部と、を有することを特徴とする流体圧シリンダ。
【請求項2】
前記変位部は、円筒状の弾性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項3】
シリンダチューブと、
前記シリンダチューブに摺動自在に挿入され前記シリンダチューブ内にロッド側室と反ロッド側室を区画するピストン部と、
前記シリンダチューブに挿入され先端側が前記ピストン部に連結されるロッド部材と、
前記ロッド部材内に設けられ前記ロッド側室または前記反ロッド側室へ作動流体を導く管部材と、を備え、
前記管部材は、
前記ピストン部または前記ロッド部材の先端側に接合される第一管部と、
前記ロッド部材の基端側に支持される第二管部と、
前記第一管部と前記第二管部とを連結し、前記第一管部と前記第二管部の相対変位を許容する変位部と、を有し、
前記変位部は、作動流体が通過可能な中空部を有するコイル部を有することを特徴とす
る流体圧シリンダ。
【請求項4】
前記変位部は、前記第一管部の端部と前記第二管部の端部とが互いに軸方向にスライド自在に重なることによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧シリンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリンダチューブ内へ摺動自在に挿入されたピストンの両側に形成されたロッド側室及び反ロッド側室と、ピストンに一端が固着し他端がシリンダチューブの端蓋を貫通して突出した中空状のピストンロッドと、ピストンロッドの突出端に枢着された取付部材とピストンとの間に係止されかつ中空状のピストンロッド内へ挿通された管部材と、を有する流体圧シリンダが開示されている。取付部材には二つの流出入口が形成され、一方は管部材を通じて反ロッド側室へ連通し、他方は中空のピストンロッド内と管部材との間を通じてロッド側室へ連通する。ピストンロッド及び管部材は、溶接によりピストンに固着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の流体圧シリンダでは、作動流体の圧力によるピストンに作用する荷重によって、ピストンと管部材との接合部に応力が生じる。ピストンと管部材との接合部に予期しない大きな応力が長期間にわたって作用すると、接合部を通じてロッド側室と反ロッド側室とが連通し、流体圧シリンダの作動に影響を与えるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、安定して作動する流体圧シリンダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、流体圧シリンダであって、シリンダチューブと、シリンダチューブに摺動自在に挿入されシリンダチューブ内にロッド側室と反ロッド側室を区画するピストン部と、シリンダチューブに挿入され先端側がピストン部に連結されるロッド部材と、ロッド部材内に設けられロッド側室または反ロッド側室へ作動流体を導く管部材と、を備え、管部材は、ピストン部またはロッド部材の先端側に接合される第一管部と、ロッド部材の基端側に支持される第二管部と、第一管部と第二管部とを連結し、第一管部と第二管部の互いに近づく方向及び遠ざかる方向の相対変位を許容する変位部と、を有することを特徴とする。
【0007】
この発明では、管部材の変位部が変位することにより、ピストン部またはロッド部材に対する管部材の接合部に生じる応力が低減される。このため、接合部を通じてロッド側室と反ロッド側室とが連通することが防止され、流体圧シリンダの作動が安定する。
【0008】
本発明は、変位部は、円筒状の弾性部材を有することを特徴とする。
【0009】
本発明は、流体圧シリンダであって、シリンダチューブと、シリンダチューブに摺動自在に挿入されシリンダチューブ内にロッド側室と反ロッド側室を区画するピストン部と、シリンダチューブに挿入され先端側がピストン部に連結されるロッド部材と、ロッド部材内に設けられロッド側室または反ロッド側室へ作動流体を導く管部材と、を備え、管部材は、ピストン部またはロッド部材の先端側に接合される第一管部と、ロッド部材の基端側に支持される第二管部と、第一管部と第二管部とを連結し、第一管部と第二管部の相対変位を許容する変位部と、を有し、変位部は、作動流体が通過可能な中空部を有するコイル部を有することを特徴とする。
【0010】
本発明は、変位部は、第一管部の端部と第二管部の端部とが互いに軸方向にスライド自在に重なることによって形成されることを特徴とする。
【0011】
これらの発明では、変位部により、ピストン部またはロッド部材に対する管部材の接合部に生じる応力を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安定して作動する流体圧シリンダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る流体圧シリンダの断面図であり、最収縮状態を示す図である。
【
図2】ロッド部材、第三ピストン、及び管部材の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る流体圧シリンダを示す断面図であり、第一ピストンが伸長ストローク端にあり、第二ピストン及び第三ピストンが収縮ストローク端にある状態を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る流体圧シリンダを示す断面図であり、第一ピストン及び第二ピストンが伸長ストローク端にあり、第三ピストンが収縮ストローク端にある状態を示す。
【
図5】本発明の実施形態に係る流体圧シリンダを示す断面図であり、最伸長状態を示す図である。
【
図6】管部材の接合部の一例を示すロッド部材、第三ピストン、及び管部材の断面図である。
【
図7】本発明の実施形態の変形例に係る管部材の断面図である。
【
図8】本発明の実施形態の変形例に係る管部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る流体圧シリンダについて説明する。以下では、流体圧シリンダが作動油を作動流体として駆動する多段式油圧シリンダ100(以下、単に「油圧シリンダ100」と称する。)である場合について説明する。
【0015】
図1に示すように、油圧シリンダ100は、有底筒状のシリンダチューブ10と、シリンダチューブ10に摺動自在に挿入されシリンダチューブ10内にロッド側室1と反ロッド側室5を区画するピストン部20と、シリンダチューブ10に挿入され先端側がピストン部20に連結されるロッド部材60と、を備える。油圧シリンダ100は、シリンダチューブ10の底部に設けられる第一取付部65と、ロッド部材60の第二取付部62とを介して駆動対象機器に取り付けられる。本実施形態では、油圧シリンダ100は、シリンダチューブ10が鉛直上側、ロッド部材60が鉛直下側となるように駆動対象機器に取り付けられ(
図1に示す向き)、油圧シリンダ100の伸縮作動によって第二取付部62に対して第一取付部65が上下動する場合について説明する。
【0016】
ピストン部20は、シリンダチューブ10の内周面を摺動する第一ピストン30と、第一ピストン30の内周面を摺動する第二ピストン40と、第二ピストン40の内周面を摺動しロッド部材60が連結される第三ピストン50と、を有する。シリンダチューブ10の開口部には、ピストン部20の第一ピストン30を摺動自在に支持するシリンダヘッド11が設けられる。
【0017】
ロッド側室1は、第一ロッド側室2と、第二ロッド側室3と、第三ロッド側室4と、を有する。第一ロッド側室2は、シリンダチューブ10、シリンダヘッド11、及び第一ピストン30によって区画される。第二ロッド側室3は、第一ピストン30及び第二ピストン40によって区画される。第三ロッド側室4は、第二ピストン40、第三ピストン50、及びロッド部材60によって区画される。
【0018】
反ロッド側室5は、シリンダチューブ10、ピストン部20、ロッド部材60によって区画される。このようにして、シリンダチューブ10内にロッド側室1と反ロッド側室5とが区画される。
【0019】
シリンダヘッド11の内周面には、第一ピストン30の外周面との間の隙間を封止するシール部材(図示省略)が設けられる。シリンダヘッド11の内周面には、第一ロッド側室2に開口する第一伸側ポート11Aが形成される。
【0020】
シリンダチューブ10の底部には、反ロッド側室5に開口する凹部10Aが形成される。凹部10Aは、第一ピストン30の内径よりも大きな内径に形成される。これにより、凹部10Aに導かれる作動油の圧力が第一ピストン30に作用する。
【0021】
第一ピストン30は、筒状の第一本体部31と、第一本体部31の一端部から径方向外側に突出して形成されシリンダチューブ10の内周面に摺接する円筒状の第一摺接部32と、第一本体部31の他端部から径方向内側に突出して形成され第二ピストン40を摺動自在に支持する円筒状の第一支持部33と、第一摺接部32の外周面に設けられる第一ピストンリング34と、を有する。
【0022】
第一本体部31には、径方向に貫通する第一連通ポート30Aが第一摺接部32に隣接する位置に形成される。第一ロッド側室2は、第二ピストン40が最収縮位置にある状態において、第一連通ポート30Aを通じて第二ロッド側室3と連通する。
【0023】
第一摺接部32は、シリンダチューブ10の底部とシリンダヘッド11との間で摺動する。第一ピストン30は、第一摺接部32がシリンダチューブ10の底部に当接することで最収縮位置が規定され、シリンダヘッド11に当接することで最伸長位置が規定される。
【0024】
第一支持部33の内周面には、第二ロッド側室3に開口する第二伸側ポート33Aが形成される。また、第一支持部33の内周面には、第二ピストン40の外周面との間の隙間を塞ぐシール部材(図示省略)が設けられる。
【0025】
第一ピストンリング34は、金属製の環状部材である。第一ピストンリング34により、第一摺接部32の外周面とシリンダチューブ10の内周面との間の隙間を通じた第一ロッド側室2と反ロッド側室5との連通が遮断される。
【0026】
また、第一摺接部32の外周面には、シリンダチューブ10の内周面に摺接するブッシュ(図示省略)が設けられる。ブッシュがシリンダチューブ10の内周面に摺接することにより、第一ピストン30がシリンダチューブ10に摺動自在に支持される。
【0027】
第一摺接部32の内周面の環状溝には、第二ピストン40に係合可能な第一スナップリング25が装着される。第一スナップリング25は、第二ピストン40からの第一ピストン30の脱落を規制する。
【0028】
第二ピストン40は、第一ピストン30と同様の構成を有する。具体的には、
図1に示すように、第二ピストン40は、筒状の第二本体部41と、第二本体部41の一端部から径方向外側に突出して形成され第一ピストン30の内周面に摺接する円筒状の第二摺接部42と、第二本体部41の他端部から径方向内側に突出して形成されロッド部材60を摺動自在に支持する円筒状の第二支持部43と、第二摺接部42の外周面に設けられる第二ピストンリング44と、を有する。
【0029】
第二本体部41には、径方向に貫通する第二連通ポート40Aが第二摺接部42に隣接する位置に形成される。第二ロッド側室3は、第三ピストン50が最収縮位置にある状態において第二連通ポート40Aを通じて第三ロッド側室4に連通する。
【0030】
第二摺接部42は、第一ピストン30の第一スナップリング25と第一支持部33との間で摺動する。第二ピストン40は、第二摺接部42が第一スナップリング25に当接することで最収縮位置が規定され、第一支持部33に当接することで最伸長位置が規定される。
【0031】
第二支持部43の内周面には、第三ロッド側室4に開口する第三ロッド側ポート43Aが形成される。また、第二支持部43の内周面には、ロッド部材60の外周面との間の隙間を塞ぐシール部材(図示省略)が設けられる。
【0032】
第二ピストンリング44は、第一ピストンリング34と同様に、金属製の環状部材である。第二ピストンリング44により、第二ピストン40の第二摺接部42の外周面と第一ピストン30の第一本体部31の内周面との間の隙間を通じた第二ロッド側室3と反ロッド側室5との連通が遮断される。
【0033】
第二摺接部42の外周面には、第一ピストン30の内周面に摺接するブッシュ(図示省略)が設けられる。ブッシュが第一ピストン30の内周面に摺接することにより、第二ピストン40が第一ピストン30に摺動自在に支持される。
【0034】
第二摺接部42の内周面の環状溝には、第三ピストン50に係合可能な第二スナップリング26が装着される。第二スナップリング26は、第三ピストン50からの第二ピストン40の脱落を規制する。
【0035】
第三ピストン50は、第二ピストン40の内周面に摺接する円筒状の第三摺接部51と、第三摺接部51の内周面から径方向に突出して形成されロッド部材60の先端部に連結される環状の連結部52と、第三摺接部51の外周面に設けられる第三ピストンリング54と、を有する。
【0036】
第三摺接部51は、第二ピストン40の第二スナップリング26と第二支持部43との間で摺動する。第三ピストン50は、第三摺接部51が第二スナップリング26に当接することで最収縮位置が規定され、第二支持部43に当接することで最伸長位置が規定される。
【0037】
第三ピストンリング54は、第一,第二ピストンリング34,44と同様に、金属製の環状部材である。第三ピストンリング54により、第三ピストン50の第三摺接部51の外周面と第二ピストン40の第二本体部41の内周面との間の隙間を通じた第三ロッド側室4と反ロッド側室5との連通が遮断される。
【0038】
また、第三摺接部51の外周面には、第二ピストン40の内周面に摺接するブッシュ(図示省略)が設けられる。ブッシュが第二ピストン40の内周面に摺接することにより、第三ピストン50が第二ピストン40に摺動自在に支持される。
【0039】
図1,2に示すように、ロッド部材60は、先端部に第三ピストン50の連結部52が連結される中空円柱状のロッド61と、ロッド61の基端部に設けられ油圧シリンダ100を駆動対象機器に取り付けるための第二取付部62と、を有する。ロッド61は、後述する変位部73をロッド61内に配置するため、複数の部材から形成されてもよい。ロッド61と第三ピストン50は、複数のボルト(図示省略)を介して連結される。ロッド部材60は、第三ピストン50と共にシリンダチューブ10内を軸方向に移動する。
【0040】
ロッド61内には中空部61aが形成される。中空部61aは、ロッド61に形成された第一貫通孔61bを通じて第三ロッド側室4に連通する。
【0041】
第二取付部62は、油圧シリンダ100の外部から作動油が供給されるまたは外部に作動油を排出する流路63,64を有する。流路63は後述する管部材70と連通する。流路64は、ロッド61に形成された第二貫通孔61cを通じてロッド61の中空部61aと連通する。
【0042】
油圧シリンダ100は、ロッド部材60内に設けられ反ロッド側室5へ作動油を導く管部材70をさらに備える。管部材70は、ロッド部材60の先端側に接合され反ロッド側室5に連通する第一管部71と、ロッド部材60の基端側に支持され流路63に連通する第二管部72と、第一管部71と第二管部72とを連結する変位部73と、を有する。具体的には、第一管部71の一端側は、ロッド61に形成された第三貫通孔61dに挿入され、端部Pがロッド61に溶接により接合される。第一管部71の他端側は変位部73に連結される。第二管部72の一端側は、ロッド61に形成された第四貫通孔61eに圧入されてロッド61に支持される。第二管部72の他端側は変位部73に連結される。
【0043】
変位部73は、第一管部71と連結される環状の第一フランジ部73aと、第二管部72と連結される環状の第二フランジ部73bと、第一フランジ部73aと第二フランジ部73bとに連結される円筒状の弾性部材73cと、を有する。第一フランジ部73a及び第二フランジ部73bは金属で形成される。弾性部材73cは、例えばゴムや樹脂等の弾性を有する材料で形成される。第一フランジ部73a及び第二フランジ部73bは環状であり、弾性部材73cは筒状であるため、第一管部71と第二管部72とは変位部73を通じて連通する。弾性部材73cは、弾性部材73cの中空部に導かれる作動油の圧力や、ロッド61の中空部61a内に導かれる作動油の圧力を受けても損傷しない強度を有する。
【0044】
第一管部71と第一フランジ部73a、及び第二管部72と第二フランジ部73bとは、溶接やねじ締結等により連結される。第一フランジ部73a及び第二フランジ部73bと弾性部材73cとは、熱圧着やかしめ等により連結される。変位部73は、弾性部材73cを有するため、弾性部材73cが変位することで第一管部71と第二管部72の相対変位が許容される。
【0045】
このように構成される油圧シリンダ100では、流路63及び管部材70を通じて反ロッド側室5に作動油が給排され、流路64、第二貫通孔61c、中空部61a、及び第一貫通孔61bを通じてロッド側室1に作動油が給排される。以下では、流路63及び管部材70を含む反ロッド側室5と連通する流路を第一給排通路81と称し、流路64、第二貫通孔61c、中空部61a、及び第一貫通孔61bを含むロッド側室1と連通する流路を第二給排通路82と称する。
【0046】
次に、
図1及び
図3~5を参照して、油圧シリンダ100の作動について説明する。
【0047】
油圧シリンダ100が伸長作動する際には、第一給排通路81を通じてポンプ等の油圧源(図示省略)から反ロッド側室5に作動油が供給され、第一,第二,第三ロッド側室2,3,4の作動油が第二給排通路82を通じてタンク(図示省略)に排出される。油圧シリンダ100の伸長作動では、第一ピストン30、第二ピストン40、第三ピストン50の順番で、シリンダチューブ10に対して相対移動する。
【0048】
油圧シリンダ100が
図1に示す最収縮状態から伸長作動する際には、第一給排通路81を通じて反ロッド側室5に作動油が供給される。ここで、反ロッド側室5の圧力を受ける受圧面積は、第一ピストン30が最も大きく、第三ピストン50が最も小さく形成される。つまり、内側のピストンほど受圧面積が小さい。よって、油圧シリンダ100が最収縮状態から伸長作動する際には、まず、第一ピストン30に対してシリンダチューブ10が相対移動する。具体的には、
図3に示すように、シリンダチューブ10が第一ピストン30に対して上方(
図3中上側)へ移動する。
【0049】
第一ピストン30とシリンダチューブ10が相対移動すると、第一ロッド側室2の作動油は、第一連通ポート30A、第二ロッド側室3、第二連通ポート40A、及び第三ロッド側室4を通じて第二給排通路82に導かれて排出される。
【0050】
図3に示すように、シリンダヘッド11が第一ピストン30に当接する、第一ピストン30の伸長ストローク端までシリンダチューブ10が移動すると、第一伸側ポート11Aは第一連通ポート30Aに連通する。シリンダチューブ10が第一ピストン30の伸長ストローク端まで移動すると、反ロッド側室5の圧力によって第三ピストン50よりも受圧面積が大きい第二ピストン40に対してシリンダチューブ10及び第一ピストン30が相対移動する。具体的には、
図4に示すように、シリンダチューブ10及び第一ピストン30が第二ピストン40に対して上方(
図4中上側)へ移動する。
【0051】
第一ピストン30と第二ピストン40が相対移動すると、第二ロッド側室3の作動油は、第二連通ポート40A及び第三ロッド側室4を通じて第二給排通路82に導かれて排出される。
【0052】
図4に示すように、第一ピストン30の第一支持部33が第二ピストン40に当接する、第二ピストン40の伸長ストローク端までシリンダチューブ10及び第一ピストン30が移動すると、第二伸側ポート33Aが第二連通ポート40Aに連通する。
【0053】
シリンダチューブ10及び第一ピストン30が第二ピストン40の伸長ストローク端まで移動すると、反ロッド側室5の圧力を受けて第三ピストン50に対してシリンダチューブ10、第一ピストン30、及び第二ピストン40が相対移動する。具体的には、
図5に示すように、シリンダチューブ10、第一ピストン30、及び第二ピストン40が第三ピストン50に対して上方(
図5中上側)へ移動する。
【0054】
第三ピストン50と第二ピストン40が相対移動すると、第三ロッド側室4の作動油は第二給排通路82を通じて排出される。シリンダチューブ10、第一ピストン30、及び第二ピストン40は、第二ピストン40の第二支持部43が第三ピストン50に当接するまで移動する。このようにして、
図5に示すように、油圧シリンダ100は最伸長状態となる。
【0055】
油圧シリンダ100が収縮作動する際には、第二給排通路82を通じて油圧源から第一,第二,第三ロッド側室2,3,4に作動油が供給され、反ロッド側室5の作動油が第一給排通路81を通じてタンクに排出される。油圧シリンダ100の収縮作動では、第三ピストン50、第二ピストン40、第一ピストン30の順番で、シリンダチューブ10に対して相対移動する。もしくは、油圧シリンダ100は、シリンダチューブ10及び第一取付部65に連結される駆動対象機器の自重により収縮作動する。その場合は、第一,第二,第三ロッド側室2,3,4に作動油を供給する必要がない。
【0056】
ここで、油圧シリンダ100の伸縮作動時には、作動油の圧力によりピストン部20及びロッド61には圧縮及び引張りの荷重が作用する。同様に、ロッド61に接合された管部材70にも圧縮及び引張りの荷重が作用する。管部材70は、一端部がロッド61に支持され、他端部がロッド61に溶接により接合(接合部P)されている。このように、ロッド61と管部材70は一体に構成されている。一方、ロッド61には第三ピストン50を通じても荷重が作用するため、ロッド61には管部材70と比較して大きな荷重が作用する。そのため、ロッド61と管部材70の変形量は異なる。したがって、仮に管部材70に変位部73が設けられない場合は、ロッド61と管部材70の溶接による接合部Pには、大きな応力が作用する。接合部Pに大きな応力が長期間にわたって作用すると、接合部Pを通じてロッド61の中空部61aと反ロッド側室5、つまり、ロッド側室1と反ロッド側室5とが連通してしまい、油圧シリンダの作動に影響を与えるおそれがある。
【0057】
これに対し、本実施形態の油圧シリンダ100は、管部材70は変位部73を有し、変位部73により第一管部71と第二管部72の相対変位が許容される。したがって、ロッド61と管部材70の変形量が異なる状況であっても、第一管部71が第二管部72に対して変位するため、ロッド61と管部材70の接合部Pに生じる応力が低減される。このため、接合部Pを通じてロッド側室1と反ロッド側室5とが連通することが防止され、油圧シリンダ100の作動が安定する。
【0058】
なお、
図6に示すように、管部材70の第一管部71は、ロッド61ではなく第三ピストン50、言い換えれば、ピストン部20に接合されてもよい。つまり、第一管部71は、ロッド61またはピストン部20に接合される。また、第一管部71とロッド61またはピストン部20は溶接に限らず、ロウ付けや接着、摩擦圧接等で接合されてもよい。
【0059】
また、第二管部72は、ロッド61ではなく第二取付部62に支持されてもよい。つまり、第二管部72は、ロッド部材60の基端側に支持されていればよい。また、ロッド部材60による第二管部72の支持方法は、圧入に限定されず、ロッド部材60と第二管部72を溶接により接合してもよい。
【0060】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0061】
油圧シリンダ100は、第一管部71と第二管部72の相対変位を許容する変位部73を有する。そのため、ロッド61と管部材70の変形量が異なる状況であっても、第一管部71が第二管部72に対して変位するため、ロッド61と管部材70の接合部Pに生じる応力が低減される。これにより、接合部Pを通じてロッド側室1と反ロッド側室5とが連通することが防止され、油圧シリンダ100の作動が安定する。
【0062】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0063】
図7に示すように、変位部73は、弾性部材73cに代えて、作動油が通過可能な中空部を有するコイル部73dを有する構成であってもよい。また、この場合、第一フランジ部73a及び第二フランジ部73bを設けずに、コイル部73dを第一管部71及び第二管部72と一体に形成してもよい。つまり、第一管部71、第二管部72、及びコイル部73dを一部品で構成してもよい。このような構成であっても、変位部73により、ロッド61と管部材70との接合部Pに生じる応力を低減することができる。
【0064】
また、変位部73は、弾性部材73cに代えて、作動油が通過可能な中空部を有する蛇腹状の円筒部を有する構成であってもよい。また、この場合、第一フランジ部73a及び第二フランジ部73bを設けずに、蛇腹状の円筒部を第一管部71及び第二管部72と一体に形成してもよい。つまり、第一管部71、第二管部72、及び蛇腹状の円筒部を一部品で構成してもよい。このような構成であっても、変位部73により、ロッド61と管部材70との接合部Pに生じる応力を低減することができる。
【0065】
また、
図8に示すように、管部材70の変位部73は、第一管部71の端部と第二管部72の端部とが互いに軸方向にスライド自在に重なることによって形成される構成であってもよい。変位部73は、第一管部71の外周面と連続して形成され第一管部71の端部から軸方向に突出する第一段部173aと、第二管部72の内周面と連続して形成され第二管部72の端部から軸方向に突出する第二段部173bと、を有する。第一段部173a及び第二段部173bは、一部が互いに径方向に重なって形成される。第一段部173aの内周面と第二段部173bの外周面が摺動することにより、第一管部71と第二管部72の相対変位が許容される。このような構成であっても、変位部73により、ロッド61と管部材70との接合部Pに生じる応力を低減することができる。なお、第一段部173aと第二段部173bの間からの作動油の漏れを防止するため、第一段部173aと第二段部173bの間にシール材を設けるようにしてもよい。
【0066】
また、油圧シリンダ100は、管部材70の第一管部71がロッド側室1と連通し、ロッド61の中空部61aがロッド61に形成される貫通孔を通じて反ロッド側室5と連通する構成であってもよい。つまり、管部材70は、ロッド部材60内に設けられロッド側室1または反ロッド側室5へ作動油を導く構成であればよい。
【0067】
また、油圧シリンダ100は、シリンダチューブ10の内側に3つのピストン(第一ピストン30,第二ピストン40,第三ピストン50)が径方向に重なって設けられる三段式の油圧シリンダ100である。これに対し、油圧シリンダ100は、シリンダチューブ10の内側に二つのピストンが径方向に重なって設けられる二段式のものでも、四つ以上のピストンが径方向に重なって設けられるものでもよい。また、油圧シリンダ100は、シリンダチューブ10の内側に一つのピストンのみが設けられるものでもよい。
【0068】
また、油圧シリンダ100の伸縮作動によって第一取付部65に対して第二取付部62が上下動するように、油圧シリンダ100を駆動対象機器に取り付けてもよい。
【0069】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0070】
流体圧シリンダ(油圧シリンダ100)は、シリンダチューブ10と、シリンダチューブ10に摺動自在に挿入されシリンダチューブ10内にロッド側室1と反ロッド側室5を区画するピストン部20と、シリンダチューブ10に挿入され先端側(収縮側の端部側)がピストン部20に連結されるロッド部材60と、ロッド部材60内に設けられロッド側室1または反ロッド側室5へ作動流体を導く管部材70と、を備え、管部材70は、ピストン部20またはロッド部材60の先端側に接合される第一管部71と、ロッド部材60の基端側に支持される第二管部72と、第一管部71と第二管部72とを連結し、第一管部71と第二管部72の相対変位を許容する変位部73と、を有する。
【0071】
この構成では、管部材70の変位部73が変位することにより、ピストン部20またはロッド部材60に対する管部材70の接合部Pに生じる応力が低減される。このため、接合部Pを通じてロッド側室1と反ロッド側室5とが連通することが防止され、流体圧シリンダの作動が安定する。
【0072】
流体圧シリンダは、変位部73は、円筒状の弾性部材73cを有する。
【0073】
流体圧シリンダは、変位部73は、作動流体が通過可能な中空部を有するコイル部73dを有する。
【0074】
流体圧シリンダは、変位部73は、第一管部71の端部と第二管部72の端部とが互いに軸方向にスライド自在に重なることによって形成されることを特徴とする。
【0075】
これらの構成では、変位部73により、ロッド部材60と管部材70との溶接部Pに生じる応力を低減することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0077】
1…ロッド側室、5…反ロッド側室、10…シリンダチューブ、20…ピストン部、60…ロッド部材、70…管部材、71…第一管部、72…第二管部、73…変位部、73c…弾性部材、73d…コイル部、100…油圧シリンダ(流体圧シリンダ)