(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】鋼矢板の連結構造および鋼矢板の連結方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/08 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
E02D5/08
(21)【出願番号】P 2020042796
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雄充
(72)【発明者】
【氏名】大高 範寛
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-102497(JP,A)
【文献】特開2009-235673(JP,A)
【文献】特開平06-180006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00- 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に打設された第1の鋼矢板と、
前記第1の鋼矢板に隣接して地中に打設された補強部材と、
前記補強部材に隣接して地中に打設された第2の鋼矢板と、
前記補強部材の両側に構築され、前記第1の鋼矢板の
第1の継手を少なくとも含む第1の部分、前記第2の鋼矢板の
第2の継手を少なくとも含む第2の部分
、および前記補強部材の少なくとも一部が定着させられる充填材構造体と、
を備え
、
前記第1の継手と前記第2の継手とは互いに嵌合しておらず、
前記第1の部分および前記第2の部分は、前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板によって形成される鋼矢板壁の延長方向について前記補強部材と重複して配置される鋼矢板の連結構造。
【請求項2】
前記充填材構造体は、電気絶縁性であり、
前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板のいずれか、または両方は、前記補強部材に接触しない、請求項1に記載の鋼矢板の連結構造。
【請求項3】
前記第1の鋼矢板と前記第2の鋼矢板とは、互いに異なる種類の鋼材で形成される、請求項2に記載の鋼矢板の連結構造。
【請求項4】
前記第1の鋼矢板は普通鋼製であり、前記第2の鋼矢板はステンレス鋼製である、請求項3に記載の鋼矢板の連結構造。
【請求項5】
前記補強部材と前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板のそれぞれとの間に配置され、少なくとも一方が電気絶縁性の1対の蓋部材をさらに備える、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の鋼矢板の連結構造。
【請求項6】
前記第1の鋼矢板、または前記第1の鋼矢板に連結される別の鋼矢板と、前記第2の鋼矢板、または前記第2の鋼矢板に連結される別の鋼矢板とにそれぞれ当接し、前記補強部材に接触せず、少なくとも前記第1の鋼矢板側と前記第2の鋼矢板側との間で電気的に絶縁された型枠部材をさらに備え、
前記充填材構造体は、前記第1の鋼矢板、前記第2の鋼矢板、前記補強部材、前記1対の蓋部材、および前記型枠部材によって囲まれる空間に構築される、請求項5に記載の鋼矢板の連結構造。
【請求項7】
前記補強部材は、H形鋼であり、
前記第1の部分および前記第2の部分は、前記H形鋼のウェブおよびフランジによって囲まれる領域に位置し、
前記1対の蓋部材は、前記型枠部材とは反対側の前記H形鋼のフランジの両端部と、前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板のそれぞれとの間に配置され、
前記充填材構造体は、前記第1の鋼矢板、前記第2の鋼矢板、前記H形鋼の前記型枠部材とは反対側のフランジ、前記1対の蓋部材、および前記型枠部材によって囲まれる空間に構築される、請求項6に記載の鋼矢板の連結構造。
【請求項8】
前記1対の蓋部材とは反対側で前記補強部材と前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板のそれぞれとの間に配置され、少なくとも一方が電気絶縁性の追加の1対の蓋部材をさらに備え、
前記充填材構造体は、前記補強部材、前記1対の蓋部材、および前記追加の1対の蓋部材によって囲まれる空間に構築される、請求項5に記載の鋼矢板の連結構造。
【請求項9】
地中に打設された第1の鋼矢板に隣接して補強部材を地中に打設する工程と、
前記補強部材に隣接して第2の鋼矢板を地中に打設する工程と、
前記補強部材の両側で、前記第1の鋼矢板の
第1の継手を少なくとも含む第1の部分
、および前記第2の鋼矢板の
第2の継手を少なくとも含む第2の部分を含む領域の地盤を掘削する工程と、
前記地盤が掘削された領域に充填材を充填して、前記第1の部分および前記第2の部分、および前記補強部材の少なくとも一部が定着させられる充填材構造体を構築する工程と
を含
み、
前記第1の継手と前記第2の継手とは互いに嵌合しておらず、
前記第1の部分および前記第2の部分は、前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板によって形成される鋼矢板壁の延長方向について前記補強部材と重複して配置される鋼矢板の連結方法。
【請求項10】
前記充填材構造体は、電気絶縁性であり、
前記補強部材を地中に打設する工程で前記補強部材を前記第1の鋼矢板に接触しないように打設するか、または前記第2の鋼矢板を打設する工程で前記第2の鋼矢板を前記補強部材に接触しないように打設する、請求項9に記載の鋼矢板の連結方法。
【請求項11】
前記地盤が掘削された領域を囲んで、
前記補強部材と前記第1の鋼矢板および前記第2の鋼矢板のそれぞれとの間に配置され、少なくとも一方が電気絶縁性の1対の蓋部材と、
前記第1の鋼矢板、または前記第1の鋼矢板に連結される別の鋼矢板と、前記第2の鋼矢板、または前記第2の鋼矢板に連結される別の鋼矢板とにそれぞれ当接し、少なくとも前記第1の鋼矢板側と前記第2の鋼矢板側との間で電気的に絶縁された型枠部材と
を配置する工程をさらに含み、
前記充填材構造体を構築する工程では、前記1対の蓋部材および前記型枠部材の内側に前記充填材が充填される、請求項10に記載の鋼矢板の連結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板の連結構造および鋼矢板の連結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板は、一般的に、幅方向の両側に形成された継手を互いに嵌合させることによって連結されて鋼矢板壁を構成する。このような鋼矢板の連結に関連する技術として、例えば特許文献1には、先行鋼矢板の打設後、長期間放置した後に後行鋼矢板を打設した場合にも、鋼矢板の継手部に良好な止水性を発現させるための技術が記載されている。具体的には、先行して打設する鋼矢板の継手部の内側に吸水膨潤性止水材を塗布し、吸水膨潤性止水材を覆うように不透水性材料を塗布あるいは貼布しておき、既に打設した先行鋼矢板に隣接して後行鋼矢板を打設するときに、先行鋼矢板の継手部に嵌合させる後行鋼矢板の継手部で不透水性材料を除去する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、先行鋼矢板の打設後に長期間が経過した場合、上記の特許文献1に記載されたように吸水膨潤性止水材が膨張してしまうという問題の他に、先行して打設された鋼矢板が土圧によって変形し、後から打設される鋼矢板を連結するのが困難になるという問題もある。このような場合には、鋼矢板同士を継手の嵌合によって直接的に連結することなく、かつ継手による連結と同等の断面性能を有する連結構造を用いることが望ましい。また、例えば、普通鋼製の鋼矢板とステンレス鋼製の鋼矢板とを連結する場合も同様に、異種金属が接触して電池が形成されることによる腐食を防止するために、鋼矢板同士を直接的に連結しない連結構造を用いることが好ましい。
【0005】
そこで、本発明は、鋼矢板同士を継手の嵌合によって直接的に連結することなく、かつ継手による連結と同等の断面性能を有する鋼矢板の連結構造および鋼矢板の連結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]地中に打設された第1の鋼矢板と、第1の鋼矢板に隣接して地中に打設された補強部材と、補強部材に隣接して地中に打設された第2の鋼矢板と、補強部材の両側に構築され、第1の鋼矢板の第1の部分、第2の鋼矢板の第2の部分および補強部材の少なくとも一部が定着させられる充填材構造体と、を備える鋼矢板の連結構造。
[2]充填材構造体は、電気絶縁性であり、第1の鋼矢板および第2の鋼矢板のいずれか、または両方は、補強部材に接触しない、[1]に記載の鋼矢板の連結構造。
[3]第1の鋼矢板と第2の鋼矢板とは、互いに異なる種類の鋼材で形成される、[2]に記載の鋼矢板の連結構造。
[4]第1の鋼矢板は普通鋼製であり、第2の鋼矢板はステンレス鋼製である、[3]に記載の鋼矢板の連結構造。
[5]補強部材と第1の鋼矢板および第2の鋼矢板のそれぞれとの間に配置され、少なくとも一方が電気絶縁性の1対の蓋部材をさらに備える、[2]から[4]のいずれか1項に記載の鋼矢板の連結構造。
[6]第1の鋼矢板、または第1の鋼矢板に連結される別の鋼矢板と、第2の鋼矢板、または第2の鋼矢板に連結される別の鋼矢板とにそれぞれ当接し、補強部材に接触せず、少なくとも第1の鋼矢板側と第2の鋼矢板側との間で電気的に絶縁された型枠部材をさらに備え、充填材構造体は、第1の鋼矢板、第2の鋼矢板、補強部材、1対の蓋部材、および型枠部材によって囲まれる空間に構築される、[5]に記載の鋼矢板の連結構造。
[7]補強部材は、H形鋼であり、第1の部分および第2の部分は、H形鋼のウェブおよびフランジによって囲まれる領域に位置し、1対の蓋部材は、型枠部材とは反対側のH形鋼のフランジの両端部と、第1の鋼矢板および第2の鋼矢板のそれぞれとの間に配置され、充填材構造体は、第1の鋼矢板、第2の鋼矢板、H形鋼の型枠部材とは反対側のフランジ、1対の蓋部材、および型枠部材によって囲まれる空間に構築される、[6]に記載の鋼矢板の連結構造。
[8]1対の蓋部材とは反対側で補強部材と第1の鋼矢板および第2の鋼矢板のそれぞれとの間に配置され、少なくとも一方が電気絶縁性の追加の1対の蓋部材をさらに備え、充填材構造体は、補強部材、1対の蓋部材、および追加の1対の蓋部材によって囲まれる空間に構築される、[5]に記載の鋼矢板の連結構造。
[9]地中に打設された第1の鋼矢板に隣接して補強部材を地中に打設する工程と、補強部材に隣接して第2の鋼矢板を地中に打設する工程と、補強部材の両側で、第1の鋼矢板の第1の部分および第2の鋼矢板の第2の部分を含む領域の地盤を掘削する工程と、地盤が掘削された領域に充填材を充填して、第1の部分および第2の部分、および補強部材の少なくとも一部が定着させられる充填材構造体を構築する工程とを含む鋼矢板の連結方法。
[10]充填材構造体は、電気絶縁性であり、補強部材を地中に打設する工程で補強部材を第1の鋼矢板に接触しないように打設するか、または第2の鋼矢板を打設する工程で第2の鋼矢板を補強部材に接触しないように打設する、[9]に記載の鋼矢板の連結方法。
[11]地盤が掘削された領域を囲んで、補強部材と第1の鋼矢板および第2の鋼矢板のそれぞれとの間に配置され、少なくとも一方が電気絶縁性の1対の蓋部材と、第1の鋼矢板、または第1の鋼矢板に連結される別の鋼矢板と、第2の鋼矢板、または第2の鋼矢板に連結される別の鋼矢板とにそれぞれ当接し、少なくとも第1の鋼矢板側と第2の鋼矢板側との間で電気的に絶縁された型枠部材とを配置する工程をさらに含み、充填材構造体を構築する工程では、1対の蓋部材および型枠部材の内側に充填材が充填される、[10]に記載の鋼矢板の連結方法。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、第1の鋼矢板と第2の鋼矢板とを充填材構造体を用いて間接的に連結することができる。それぞれの鋼矢板の一部に加えて補強部材が充填材構造体に定着させられることによって、継手による連結と同等の断面性能を維持することができる。これによって、例えば、先行して打設された鋼矢板の変形によって後から打設される鋼矢板との継手の嵌合による連結が困難な場合でも、鋼矢板を連結することができる。また、例えば、普通鋼製の鋼矢板とステンレス鋼製の鋼矢板とを連結するような場合も、異種金属が接触することによる腐食を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る鋼矢板の連結構造の平面図である。
【
図2】
図1に示す連結構造のII-II線断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る鋼矢板の連結構造の平面図である。
【
図4】本発明の第3の実施形態に係る鋼矢板の連結構造の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
図1は本発明の第1の実施形態に係る鋼矢板の連結構造の平面図であり、
図2は
図1に示す連結構造のII-II線断面図である。図示された例では、普通鋼製の鋼矢板1A,1B,1Cを地中に打設し、幅方向の両側に形成された継手11で互いに連結することによって構成される鋼矢板壁と、ステンレス鋼製の鋼矢板2A,2B,2Cを地中に打設し、幅方向の両側に形成された継手21で互いに連結することによって構成される鋼矢板壁とが連結される。鋼矢板1Aと鋼矢板2Aとは、一連の鋼矢板壁の中で隣接して位置するが、継手11,21は互いに嵌合していない。鋼矢板1Aと鋼矢板2Aとの間には、それぞれの鋼矢板に隣接して、補強部材としてH形鋼3が地中に打設されている。H形鋼3は、フランジ31が鋼矢板壁の延長方向を向くように配置され、鋼矢板1Aの一部(第1の部分12A)と鋼矢板2Aの一部(第2の部分22A)とがそれぞれH形鋼3のウェブ32およびフランジ31によって囲まれる領域に位置する。H形鋼3の両側には、充填材構造体としてコンクリート構造体4が構築される。鋼矢板1Aの第1の部分12A、鋼矢板1Bの第2の部分22A、およびH形鋼3の一方のフランジ31の片面を除く部分はコンクリート構造体4に定着させられている。
【0011】
上記の構成によれば、鋼矢板1Aの第1の部分12Aと鋼矢板2Aの第2の部分22Aとが共通のコンクリート構造体4に定着させられ、かつコンクリート構造体4がH形鋼3によって補強されるため、継手11,21が互いに嵌合しない連結構造であっても継手による連結と同等の断面性能を維持することができる。コンクリート構造体4に定着させられる補強部材は、H形鋼3には限られず、例えば円形もしくは矩形断面の鋼管、山形鋼、溝形鋼、またはT形鋼など、各種の形鋼材であってもよい。また、補強部材として鉄筋を配置し、コンクリート構造体4を鉄筋コンクリートで構成してもよい。
【0012】
ここで、
図2の断面図に示されるように、コンクリート構造体4は鋼矢板1A,2Aの全長、すなわち鋼矢板壁の高さ方向の全体に構築されなくてもよく、例えば鋼矢板壁の片側で地盤が掘削され、鋼矢板1A,2Aが露出される部分に限って構築されてもよい。H形鋼3は、コンクリート構造体4よりも深く、例えば鋼矢板1A,2Aの打設深さと同程度まで打設されてもよい。鋼矢板壁の両側で地盤が掘削されておらず、鋼矢板1A,2AおよびH形鋼3が地中に埋設された部分であれば、地盤がコンクリート構造体4と同様に作用することによって、コンクリート構造体4が構築された部分と同等の断面性能が維持される。
【0013】
また、上記の構成によれば、コンクリート構造体4は電気絶縁性であるため、少なくともステンレス鋼製の鋼矢板2Aを普通鋼製のH形鋼3に接触しないように配置することによって、鋼製の鋼矢板1Aとステンレス鋼製の鋼矢板2Aとの間を電気的に絶縁し、異種金属が接触して電池が形成されることによる腐食を防止することができる。鋼矢板1Aについても、H形鋼3に接触しないように配置してもよい。普通鋼およびステンレス鋼の例には限られず、互いに異なる種類の鋼材で形成された鋼矢板同士を連結する場合に同様の腐食防止効果が得られる。ここで、互いに異なる種類の鋼材は、接触すると異種金属腐食が起きる鋼材のことをいう。電気絶縁性の充填材構造体はコンクリート構造体4には限られず、例えば流動化処理土などであってもよい。
【0014】
図示された例において、連結構造は、型枠部材5および蓋部材6,7をさらに含む。型枠部材5は、鋼矢板1Aに連結される鋼矢板1Bと、鋼矢板2Aに連結される鋼矢板2Bにそれぞれ当接し、鋼矢板1A,2Aおよびその間に配置されたH形鋼3に接触しないように配置される。型枠部材5は、鋼矢板1A側と鋼矢板2A側との間で電気的に絶縁されている。具体的には、型枠部材5は木材、樹脂、またはプレキャストコンクリートのような絶縁材料で形成されてもよい。あるいは、型枠部材5は鋼材のような非絶縁材料で形成され、型枠部材5と鋼矢板との間に絶縁体を介挿してもよい。型枠部材5は、図示された例のように鋼矢板1A,2Aにそれぞれ連結される別の鋼矢板に当接されてもよいし、鋼矢板1A,2Aに当接されてもよい。
【0015】
一方、蓋部材6,7は、型枠部材5とは反対側のH形鋼3のフランジ31の両端部と、鋼矢板1A,2Aのそれぞれとの間に配置される。蓋部材6,7のうち、少なくともステンレス鋼製の鋼矢板2AとH形鋼3との間に配置される蓋部材7は電気絶縁性である。鋼矢板1A側の蓋部材6も電気絶縁性であってもよい。
【0016】
上記のような型枠部材5および蓋部材6,7を配置することによって、鋼矢板1A,2A、H形鋼3のフランジ31、蓋部材6,7および型枠部材5によって囲まれる空間にコンクリート構造体4を構築することができる。なお、例えば
図2に示すように鋼矢板壁の片側が掘削される前にコンクリート構造体4を構築するような場合、型枠部材5および蓋部材6,7の少なくともいずれかを使わずにコンクリート構造体4を構築することも可能である。また、型枠部材5および蓋部材6,7の少なくともいずれかがコンクリート構造体4の構築後に撤去されてもよい。
【0017】
なお、本発明の他の実施形態に係る連結構造では、同種金属、例えば普通鋼製の鋼矢板同士が、継手の嵌合によらずに連結されてもよい。この場合、連結される鋼矢板(上記の例における鋼矢板1A,2A)の間を電気的に絶縁しなくてもよいため、両方の鋼矢板が補強部材(上記の例におけるH形鋼3)に接触していてもよい。また、この場合、充填材構造体(上記の例におけるコンクリート構造体4)は電気絶縁性でなくてもよく、また型枠部材5や蓋部材6,7も電気絶縁性でなくてもよい。電気絶縁性ではない充填材構造体としては、例えば水分を含むと絶縁性ではなくなる砂や土砂を用いることができる。
【0018】
次に、本発明の第1の実施形態に係る鋼矢板の連結方法について説明する。鋼矢板の連結方法は、例えば、鋼矢板壁を構築する工程の中で実施される。例えば、上記で
図1および
図2を参照して説明された鋼矢板壁の連結構造の場合、まず、地中に打設された鋼矢板1Aに隣接して、H形鋼3を地中に打設する。ここで、鋼矢板1A(および鋼矢板1Aに継手11で連結される鋼矢板1B,1C)は既設であって、H形鋼3の打設までの間に長期間が経過している場合もありうる。あるいは、施工条件の違いによって一連の鋼矢板壁の中で普通鋼製の鋼矢板1A,1B,1Cとステンレス鋼製の鋼矢板2A,2B,2Cとを併用する場合、鋼矢板1C、鋼矢板1B、鋼矢板1Aを継手11で嵌合させながら順に打設した後に続いてH形鋼3が打設されてもよい。
【0019】
H形鋼3を地中に打設した後、H形鋼3に隣接して鋼矢板2Aを地中に打設する。このとき、鋼矢板2AがH形鋼3に接触しないように打設することによって、ステンレス鋼製の鋼矢板2Aと普通鋼製のH形鋼3との間で異種金属の接触による腐食を防止することができる。なお、H形鋼3も、鋼矢板1Aに接触しないように打設されてもよい。次に、H形鋼3の両側で、鋼矢板1Aの第1の部分12Aと鋼矢板2Aの第2の部分22Aとを含む領域の地盤を掘削し、掘削された領域にコンクリートを充填してコンクリート構造体4を構築する。このとき、掘削された領域を囲んで、型枠部材5および蓋部材6,7を配置し、型枠部材5および蓋部材6,7の内側にコンクリートを充填してもよい。
図1に示された例では型枠部材5が鋼矢板2Aに連結される鋼矢板2Bに当接するため、型枠部材5の配置の前に鋼矢板2Bが打設されてもよい。上述のように、コンクリート構造体4は鋼矢板壁の片側で鋼矢板1A,2Aが露出される部分に構築されればよいため、上記の領域における地盤の掘削は、鋼矢板壁の片側における地盤の掘削予定深さと同じか、掘削予定深さよりもやや深い程度まで行えばよい。
【0020】
上記のような工程に並行して、または上記のような工程の後に、鋼矢板2Aに連結される鋼矢板2B,2Cを継手21で嵌合させながら順に打設することによって、鋼矢板1A,1B,1Cおよび鋼矢板2A,2B,2Cが連結された鋼矢板壁が構築される。なお、上記の例では普通鋼製の鋼矢板1A,1B,1Cが先に打設されたが、他の例ではステンレス鋼製の鋼矢板2A,2B,2Cが先に打設されていてもよい。また、鋼矢板1Aと鋼矢板2Bとの間の距離に余裕がある場合や、鋼矢板1AとH形鋼3との接触が許容される場合は、H形鋼3の予定位置に隣接して鋼矢板2Aを打設する工程が先に実施されてもよい。
【0021】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る鋼矢板の連結構造の平面図である。図示された例では、上記の第1の実施形態と同様に普通鋼製の鋼矢板1A,1B,1Cによって構成される鋼矢板壁と、ステンレス鋼製の鋼矢板2A,2B,2Cによって構成される鋼矢板壁とが連結される。第1の実施形態との違いとして、本実施形態では、連結構造が型枠部材を含まない。代わりに、本実施形態では、地盤が掘削される側の蓋部材6A,7A(
図1の例における蓋部材6,7と同様)に加えて、地盤側の蓋部材6B,7Bが配置される。具体的には、蓋部材6B,7Bは、地盤側、つまり蓋部材6A,7Aとは反対側のH形鋼3のフランジ31の両端部と、鋼矢板1A,2Aのそれぞれとの間に配置される。蓋部材6A,7Bのうち、少なくともステンレス鋼製の鋼矢板2AとH形鋼3との間に配置される蓋部材7Bは電気絶縁性である。鋼矢板1A側の蓋部材6Bも電気絶縁性であってもよい。上記のような蓋部材6A,6B,7A,7Bを配置することによって、H形鋼3のフランジ31、および蓋部材6A,6B,7A,7Bによって囲まれる空間にコンクリート構造体4を構築することができる。
【0022】
上記の構成によれば、上記の第1の実施形態と同様に、継手11,21が互いに嵌合しない連結構造であっても継手による連結と同等の断面性能を維持することができる。また、掘削する範囲が減ることによってコンクリートの使用量が削減できる。なお、型枠部材を除く各部に関して上記の第1の実施形態で説明された変形例は、第2の実施形態でも同様に適用可能である。
【0023】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る鋼矢板の連結構造の平面図である。図示された例では、普通鋼製の鋼矢板1P,1Qを継手11で互いに連結することによって構成される鋼矢板壁と、ステンレス鋼製の鋼矢板2P,2Qを継手21で互いに連結することによって構成される鋼矢板壁とが連結される。鋼矢板1Pと鋼矢板2Pとは、一連の鋼矢板壁の中で隣接して位置するが、継手11,21は互いに嵌合していない。鋼矢板1Pと鋼矢板2Pとの間には、それぞれの鋼矢板に隣接して補強部材としてT形鋼3Aが地中に打設されている。T形鋼3Aは、フランジ(T字の横棒部分)が鋼矢板壁の延長方向を向くように配置され、鋼矢板1Pの一部(第1の部分)と鋼矢板2Pの一部(第2の部分)とがそれぞれT形鋼3Aのフランジに重なるように位置する。T形鋼3Aの両側にはコンクリート構造体4が構築され、鋼矢板1Pの第1の部分、鋼矢板2Pの第2の部分、およびT形鋼3Aのフランジの片面を除く部分はコンクリート構造体4に定着させられている。
【0024】
本実施形態において、連結構造は、第1の実施形態と同様の蓋部材6,7と、第1の実施形態とは異なる形状の型枠部材5Aとをさらに含む。型枠部材5Aは、鋼矢板1Pと鋼矢板2Pとにそれぞれ当接し、T形鋼3Aに接触しないように配置される。型枠部材5Aは、第1の実施形態における型枠部材5と同様に、鋼矢板1P側と鋼矢板2P側との間で電気的に絶縁されている。例えば、型枠部材5Aおよび蓋部材6,7は共通の部材、具体的には同じ絶縁材料で形成される板状部材であってもよい。このように、本明細書では鋼矢板同士の間に配置されるものを型枠部材、鋼矢板と補強部材(
図4の例ではT形鋼3A)との間に配置されるものを蓋部材として区別しているが、これらは説明のために区別されているにすぎず、実質的には共通の部材が型枠部材および蓋部材として用いられてもよい。
【0025】
上記の構成によれば、上記の第1の実施形態と同様に、継手11,21が互いに嵌合しない連結構造であっても継手による連結と同等の断面性能を維持することができる。また、上記の第2の実施形態と同様に掘削する範囲が減ることによってコンクリートの使用量が削減できる。ただし、補強部材をH形鋼からT形鋼にすることによって断面の剛性は小さくなるため、第1および第2の実施形態のようにH形鋼を用いる例と第3の実施形態のようにT形鋼を用いる例とは、例えば鋼矢板壁の背面土圧の大きさに応じて選択することが好ましい。なお、上記の第1の実施形態で説明された変形例は、第3の実施形態でも同様に適用可能である。
【0026】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0027】
1A,1B,1C,1P,1Q,2A,2B,2C,2P,2Q…鋼矢板、3…補強部材(H形鋼)3A…補強部材(T形鋼)、4…充填材構造体(コンクリート構造体)、5,5A…型枠部材、6,7,6A,6B,7A,7B…蓋部材、11,21…継手、12A…第1の部分、22A…第2の部分、31…フランジ、32…ウェブ。