(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】成形品検査装置及び、射出成形システム
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B29C45/76
(21)【出願番号】P 2020053122
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲キン▼
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223932(JP,A)
【文献】特開2019-184597(JP,A)
【文献】特開2008-51558(JP,A)
【文献】特開平4-248449(JP,A)
【文献】特開平4-6404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を金型装置内に射出して成形品を製造する射出成形機で用いられる成形品検査装置であって、
検査の対象とする成形品の外観に関する対象外観情報を取得する取得部と、
前記対象外観情報における当該外観を複数の分割領域に区分けし、重み付けにより各分割領域の重要度を決定する処理部と、
前記対象外観情報の異常の有無の判定に当り、前記重要度に応じて、判定を行う各分割領域のうち、判定に要する処理の負荷を変化させる異常判定部と
を有
し、
前記処理部は、前記複数の分割領域のうち前記重要度が相対的に高いと決定された一以上の分割領域について、他の分割領域の少なくとも一つよりも多くの機械学習を行う、成形品検査装置。
【請求項2】
前記異常判定部での前記処理の負荷の変化は、前記複数の分割領域のうち前記処理部で前記重要度が相対的に低いと決定された一以上の分割領域を、当該判定の対象から外すことを含む、請求項
1に記載の成形品検査装置。
【請求項3】
前記異常判定部での前記処理の負荷の変化は、前記複数の分割領域のうち前記処理部で前記重要度が相対的に高いと決定された一以上の分割領域に対する処理の負荷を、他の分割領域の少なくとも一つに対する処理の負荷よりも大きくすることを含む、請求項
1又は
2に記載の成形品検査装置。
【請求項4】
良品の基準とする成形品の外観に関する基準外観情報を保持する記憶部をさらに有し、
前記異常判定部での前記判定が、前記対象外観情報の各分割領域を、前記基準外観情報の対応する各分割領域と比較することを含む請求項
1~3のいずれか一項に記載の成形品検査装置。
【請求項5】
前記異常判定部が、分割領域内での前記対象外観情報と前記基準外観情報の差分を抽出することを含む、請求項
4に記載の成形品検査装置。
【請求項6】
前記記憶部がさらに、前記基準外観情報との差分の基準に関する基準差分情報を記憶し、
前記異常判定部が前記異常の有無の判定に、前記対象外観情報と前記基準外観情報の抽出された差分と、前記基準差分情報との比較結果を用いる請求項
5に記載の成形品検査装置。
【請求項7】
前記対象外観情報及び基準外観情報が、成形品の外観についての画像情報であり、
前記差分が、色相、明度及び彩度のうちの少なくとも一種の要素の差分である請求項
5又は
6に記載の成形品検査装置。
【請求項8】
成形材料を金型装置内に射出して成形品を製造する射出成形機と、請求項1~
7のいずれか一項に記載の成形品検査装置とを備える射出成形システム。
【請求項9】
金型装置から成形品を取り出す成形品取出機と、成形品取出機により金型装置から取り出された前記成形品を搬送する成形品搬送機と、前記成形品の画像を撮影する画像撮影機器とをさらに備える請求項
8に記載
の射出成形システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形材料を金型装置内に射出して成形品を製造する射出成形機で用いられる成形品検査装置及び、それを備える射出成形システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機を用いて成形品を製造するには一般に、樹脂材料等の成形材料を溶融させながら金型装置内のキャビティに射出し、溶融状態の成形材料をキャビティで冷却して固化させる。それにより、金型装置のキャビティに対応した形状の成形品が得られる。
【0003】
このようにして製造される成形品には、特にその表面に、成形不良に起因する凹状のヒケ等の欠陥が発生することがある。なかでも、ヒケが発生した成形品は、そのヒケの発生箇所や形状、大きさ等によって、良品又は不良品のいずれであるかについての判定が大きく異なる。このため、三次元測定機等により成形品の表面の高さ情報を取得したとしても、判定の基準を明確に設定することが困難である。また、単純な画像処理では識別が難しいこともあり、現状は熟練の作業者が目視により各成形品を検査し、その良否を自身の基準に基づいて判定することが多い。
【0004】
なお、射出成形機等に用いられる金型装置に対する画像処理技術としては、特許文献1に記載されたもの等がある。特許文献1には、「(a)成形機の可動金型又は固定金型の金型面の画像を取得する画像入力部と、(b)該画像入力部によってあらかじめ取得された基準画像を格納する基準画像データベースと、(c)前記画像入力部によって取得された判別対象画像を前記基準画像と比較して判別処理を実行し、前記判別対象画像に異常があるか否かを判別する判別処理部と、(d)前記判別処理における誤判別の原因となる誤判別候補領域を格納する誤判別候補データベースとを有することを特徴とする金型監視装置」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、射出成形機で製造された成形品を、上述したように人手で検査することは、生産性を低下させる原因になる他、人件費によるコストの増大を招くだけでなく、各人の検査能力に応じて品質のばらつきも生じ得る。したがって、成形品の検査は自動化することが望ましい。
【0007】
他方、成形品の外観の検査は、これまで熟練の作業者が経験的に蓄積してきた知識や手法等に依存するところが大きい。その一例として、成形品の外観には、たとえば意匠面等といったような、欠陥の有無が成形品の良否に大きく影響する箇所があれば、ある程度の欠陥が容認される箇所もある。外観検査では、意匠面以外の箇所はそれほど念入りに欠陥の有無を確認することを要しない等といった判断が必要になる。
【0008】
成形品の外観検査特有のこのような点を考慮せず、成形品の外観に関する情報を取得し、当該情報からその外観をくまなく確認しようとすれば、電子計算機等による処理の負荷が極めて増大する。また、仮に機械学習を用いる場合は、その学習データの必要量が膨大になる。この一方で、成形品の外観全体に対して軽度な自動検査を行うと、欠陥の検出精度が低下する。
【0009】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、その目的は、成形品の検査を自動化するに当り、処理の負荷の増大をある程度抑制しつつ、成形不良による欠陥を比較的高い精度で検出することができる成形品検査装置及び、射出成形システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決することができる一の成形品検査装置は、成形材料を金型装置内に射出して成形品を製造する射出成形機で用いられるものであって、検査の対象とする成形品の外観に関する対象外観情報を取得する取得部と、前記対象外観情報における当該外観を複数の分割領域に区分けし、重み付けにより各分割領域の重要度を決定する処理部とを有するものである。
【0011】
また、一の射出成形システムは、成形材料を金型装置内に射出して成形品を製造する射出成形機と、上記の成形品検査装置とを備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
上述した成形品検査装置及び、射出成形システムによれば、成形品の検査を自動化するに当り、処理の負荷の増大をある程度抑制しつつ、成形不良による欠陥を比較的高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の一の実施形態の成形品検査装置を用いることができる射出成形機の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1の射出成形機を備える射出成形システムの一例を示す平面図である。
【
図3】
図2の射出成形システムが備える成形品検査装置のブロック図である。
【
図4】成形品の一部の外観を表す画像と、それを
図3の成形品検査装置の処理部で複数の分割領域に区分けする処理を施した画像である。
【
図5】
図4の画像について、
図3の成形品検査装置の異常判定部で判定処理の負荷を変化させた状態を概念的に示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の成形品検査装置は、
図1に例示するような射出成形機1を使用して製造された成形品を検査することに用いられ得るものである。射出成形機1で製造された成形品は、たとえば、
図2に平面図で示すような射出成形システム201で、射出成形機1に取り付けられた金型装置101から取り出され、次工程に送られることがある。この射出成形システム201は、金型装置101から取り出された成形品MPの外観を検査する成形品検査装置を備えるものであり、これにより、成形品MPの外観を自動で検査し、その良否を判定することができる。
【0015】
(射出成形システム)
図示の射出成形システム201は、上述した射出成形機1及び成形品検査装置の他、型開状態の金型装置101から成形品MPを取り出す成形品取出機211と、成形品取出機211により金型装置101から受け渡された成形品MPを搬送する成形品搬送機221と、成形品搬送機221上で搬送される成形品MPの画像を撮影する画像撮影機器231とを備える。
【0016】
このうち、射出成形機1は、金型装置101内のキャビティに、多くは熱可塑性樹脂等の樹脂材料である成形材料を溶融状態で射出し、その成形材料を当該キャビティで冷却固化させることにより、成形品MPを製造するものである。金型装置101のキャビティは、射出成形機1で製造しようとする成形品MPに対応する形状に形成されている。これにより、金型装置101のキャビティに応じた所定の形状の成形品MPを製造することができる。
【0017】
図1に示す射出成形機1は概して、内部に配置されたスクリュ12の回転及び前進ならびに、周囲に配置されたヒータ13の加熱により、成形材料を溶融させて金型装置101内に向けて射出する射出装置11と、射出装置11を金型装置101に対して前進・後退変位させる移動装置21と、金型装置101を型締状態と型開状態との間で開閉させる型締装置31と、型開状態の金型装置101から成形品MPを取り外すエジェクタ装置41とを備えるものである。
【0018】
なお、射出成形機1に用いる金型装置101は、図示の例では、型締状態で内側にキャビティが区画形成される固定金型102及び可動金型103、ならびに、エジェクタ装置41により変位されて成形品MPを押し出して取り出すエジェクタピン等の可動部材104を有する。この金型装置101は、主に固定金型102と可動金型103の二つに分割された2プレート金型と称され得るものであるが、さらにスライド型ないしスライドコアもしくはストリッパープレートを有して三つに分割された3プレート金型とすることも可能である。金型装置101は、製造しようとする成形品MPの形状等に応じて適宜、射出成形機1に取り付けられ、また交換され得るものであり、ここでは、金型装置101は射出成形機1の一部とはみなさない。
【0019】
また、
図2に例示する成形品取出機211は、成形品MPを保持するチャックを設けたアーム212と、アーム212を水平方向(
図2では上下方向)に移動させる水平移動機構213とを備えるものである。但し、成形品取出機はこれに限定されず、型開状態の金型装置101から成形品MPを取り出すことができるものであれば、種々の構成を有するものとすることができる。
成形品搬送機221は、ベルトコンベアその他のコンベア等とすることができ、また、画像撮影機器231は、成形品搬送機221上の成形品MPの画像を撮影可能なカメラ等とすることができる。
【0020】
射出成形システム201を用いて成形品MPを製造する成形工程の一例を述べると、前回の成形工程の後半に既に射出装置11の内部に成形材料が所定の量で計量されて配置された状態で、型締装置31を用いて金型装置101を閉じて型締状態とする型締工程を行う。
次いで、スクリュ12の前進により上記の成形材料を金型装置101内に向けて射出し、成形材料を金型装置101内のキャビティに充填する充填工程と、スクリュ12をさらに前進させて射出装置11の先端部の内部にある成形材料を所定の圧力に保持する保圧工程とを順次に行う。
【0021】
そしてその後、金型装置101のキャビティに充填された成形材料を冷却させて固化させ、成形品MPを得る冷却工程を行う。この際に、射出装置11内に別途投入した成形材料を、ヒータ13による加熱下でスクリュ12の回転により射出装置11の先端部に向けて送りながら溶融させ、所定の量の成形材料を先端部に充填する計量工程が行われる。
【0022】
しかる後は、型締装置31を作動させて金型装置101を開いて型開状態とし、エジェクタ装置41により可動部材104を移動させ、金型装置101から成形品MPを取り外す取出工程を行う。取出工程では、エジェクタ装置41により金型装置101から取り外された成形品MPは、成形品取出機211のアーム212のチャックで保持されながら金型装置101から取り出され、水平移動機構213によるアーム212の移動により、
図2に示すように、成形品搬送機221上に送られる。その後、成形品MPは成形品搬送機221上で搬送されながら、その途中で画像撮影機器231により画像が撮影される。
【0023】
(成形品検査装置)
成形品検査装置は、
図3に示すように、検査の対象とする成形品MPの外観に関する対象外観情報を取得する取得部と、対象外観情報について所定の演算を行う演算部とを有し、この演算部が、所要の処理を行う処理部を含む。演算部は、後述するように、対象外観情報から成形品MPの外観における異常の有無を判定して成形品MPの欠陥を検出する異常判定部をさらに含むことが好適である。
【0024】
成形品検査装置はその他に、情報ないしデータを記憶する記憶部と、射出成形機1のユーザがユーザ入力情報を入力するために使用する入力部とを有することが好ましい。また、成形品検査装置は、ユーザに種々の情報を視覚的に伝える表示部をさらに有することもある。なお、表示部及び、入力部の少なくとも一部は、たとえばタッチパネルとすることができるが、これに限定されず、表示部と入力部とが分離されたものとしてもよい。
【0025】
ここで、取得部が取得する対象外観情報は、成形品MPの外観を撮影した画像情報、及び/又は、三次元測定機等により計測された成形品MPの外観上の各表面部分の高さ情報等とすることができる。対象外観情報としての当該画像情報は、成形品搬送機221上で搬送される成形品MPを、画像撮影機器231で撮影したものとすることができる。
【0026】
このようにして取得部で取得された対象外観情報に対し、処理部では、当該対象外観情報の成形品MPの外観を複数の分割領域に区分けし、それらの各分割領域の重要度を重み付けにより決定する処理を行う。ここでいう重要度は、検査の重要度を意味し、成形品検査装置による検査にかける負荷の程度(レベル)を表すものである。重要度が相対的に高い分割領域は、成形品検査装置が十分に確認する必要がある。この一方で、重要度が相対的に低い分割領域は、成形品検査装置がそれほど確認することを要しない。
【0027】
具体的には、たとえば、取得部が、
図4(a)に示すような、成形品MPの一部のヒケS1~S3が発生した外観Peの画像301を取得した場合、処理部は、その画像301の外観Peを、
図4(b)に破線で示すように、複数の分割領域Rdに区分けする。ここでは一例として、ほぼ正方形状の分割領域Rdにより、画像301を横方向(
図4の左右方向)に四分割、縦方向(
図4の上下方向)に五分割の格子状に区分けしている。区分けは、図示の例に限らず様々な手法により行うことができ、また分割領域Rdの寸法及び/又は形状も適宜変更することができる。
【0028】
そして、処理部は、各分割領域Rdの重要度を重み付けで決定する。重み付けは、次に述べるような種々の観点から行うことができる。
【0029】
たとえば、熟練の作業者が成形品MPを検査する際に視線計測(アイトラッキング)を行い、作業者が成形品MPの外観Peのうちの注視していた箇所や注視しなかった箇所を含む各箇所における視線停留の時間及び/又は回数等を、視線情報として収集する。視線情報は、一人又は複数人の作業者から集められる。この視線情報は予め記憶部に格納しておくことができる。そして、処理部は、このような視線情報を重み付けの基準の一つとして用いることができる。これにより、成形品検査装置による検査に、これまで熟練の作業者が行っていた感覚的な判断基準を取り込むことが可能になる。
【0030】
また、処理部は、ユーザが入力部等から予め入力して記憶部に格納されたユーザ入力情報に基づいて、各分割領域Rdの重み付けを行うことができる。ユーザ入力情報には、分割領域Rdのうちの所定の分割領域Rdに含まれる外観部分が、成形品MPの意匠面を構成するか否かに関する意匠面情報が含まれ得る。所定の分割領域Rdに含まれる外観部分が意匠面を構成する場合、処理部は、当該分割領域Rdの重要度を、他の分割領域Rdの重要度よりも高く設定することができる。あるいは、所定の分割領域Rdに含まれる外観部分が意匠面を構成しない場合、当該分割領域Rdの重要度は、他の分割領域Rdの重要度よりも低く設定され得る。意匠面情報は、外観部分が意匠面か否かの二段階の重み付けに用いられ得る他、成形品MPによっては意匠面か否かで明確に切り分けることが難しいこともあるので、どの程度意匠面になりやすいかについての三段階以上の重み付けに用いられることもある。
【0031】
また、処理部は、当該射出成形機1及び/又は他の射出成形機を用いて過去に製造された成形品MPの不良発生箇所に基づいて、各分割領域Rdの重み付けを行うことができる。過去の検査結果に基づいて重み付けを行ってもよい。また処理部は、過去の検査結果を学習データとして重み付けを機械学習により行ってもよい。たとえば、複数の分割領域Rdのうち、特定の分割領域Rdで成形不良による欠陥が発生しやすいことが経験的に分かっている場合、そのような不良発生箇所を記憶部に格納しておく。処理部は、かかる情報に基づいて、その特定の分割領域Rdの重要度が他の分割領域Rdの重要度に比して高くなるように、重み付けを行うことができる。
【0032】
上述したようにして、処理部で種々の観点から重み付けが行われて、各分割領域Rdの重要度が決定された後、異常判定部は、処理部で決定された各分割領域Rdの当該重要度に応じて、各分割領域Rdの判定に要する処理の負荷を変化させながら、対象外観情報の各分割領域Rd内における異常の有無を判定することができる。異常判定部は、複数の分割領域Rdのうち、処理部で重要度が相対的に低いと決定された分割領域Rdの判定に要する処理の負荷を、他の分割領域Rdの少なくとも一つの判定に要する処理の負荷よりも小さくして、重要度が相対的に低い分割領域Rdの判定を比較的軽い処理で行うことができる。この一方で、異常判定部は、処理部で重要度が相対的に高いと決定された分割領域Rdの判定に要する処理の負荷を、他の分割領域Rdの少なくとも一つの判定に要する処理の負荷よりも大きくして、重要度が相対的に高い分割領域Rdの判定を重い処理で行うことがある。
【0033】
このことによれば、重要度が低く念入りに確認することを要しない分割領域Rdに対する処理の負荷が小さくなるので、全体的な処理の負荷の増大が抑制される。また、重要度が高く十分な確認が必要な分割領域Rdに対する負荷は大きくし、それにより、成形不良による欠陥を高い精度で検出することができるようになる。
【0034】
異常判定部は、複数の分割領域Rdのうち、処理部で重要度が相対的に低いと決定された一以上の分割領域を、
図5(a)に網掛けで示す判定不要領域Rduとみなし、これを判定の対象から外してその判定を行わないようにすることができる。この場合、判定処理を行う必要のある分割領域Rdが減るので、処理の負荷をより一層軽減することができる。
また、異常判定部は、複数の分割領域Rdのうち、処理部で重要度が相対的に高いと決定された一以上の分割領域を、
図5(b)に太線で囲んで示すような重要判定領域Rdiとみなし、そのような重要判定領域Rdiを特に重点的に確認することができる。
【0035】
処理部は、たとえば様々な欠陥を含む成形品MPの外観等についての学習データが与えられて機械学習を行うことがあるが、複数の分割領域Rdのうち重要度が相対的に高いと決定された一以上の分割領域Rdについては、他の分割領域Rdの少なくとも一つよりも多くの機械学習を行うように制御されることが好ましい。これにより、重要度の高い分割領域Rdでの異常の検出精度が高くなり、成形品MPの欠陥の検出精度も高くなる。一方、重要度が相対的に低いと決定された一以上の分割領域Rdについては、機械学習を少なくし又は行わないようにすることができる。この場合、必要最小限の学習データで検出精度の向上を図ることができる。
【0036】
なお、処理部が行う機械学習は、教師あり学習又は教師なし学習のいずれであってもよい。機械学習の一例としては、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)を用いたディープラーニング(深層学習)がある。畳み込みニューラルネットワークでは、複数の畳み込み層で画像情報等の対象外観情報における各分割領域Rdの特徴量を抽出し、その後、複数の全結合層で分類等を行う。これにより、各分割領域Rdにおける異常の有無を精度よく検出することができる。
【0037】
ところで、異常判定部での判定は、対象外観情報の各分割領域Rdと、良品の基準とする成形品MPの外観に関する基準外観情報の各分割領域Rdとを比較し、対象外観情報の各分割領域Rdに異常があるか否かを検出することにより行うことができる。基準外観情報は、たとえば良品の成形品MPの外観の画像等として、記憶部に予め保持させておくことができる。
【0038】
ここで仮に、対象外観情報及び基準外観情報を、成形品MPの外観についての画像情報とする場合、異常判定部での対象外観情報と基準外観情報との比較は、それらの間の各分割領域Rd内における画像中の色相、明度及び彩度のうちの少なくとも一種の要素についての差分を抽出することにより行われ得る。
【0039】
たとえば、対象外観情報として取得された画像301中の外観PeにヒケS1~S3が存在する場合、当該画像301でヒケS1~S3が存在する箇所は、そのようなヒケS1~S3が存在しない基準外観情報の画像に対し、色相、明度及び彩度のうちの少なくとも一種の要素が変化する。これにより、対象外観情報と基準外観情報との各分割領域Rd間で、ヒケS1~S3の有無による差分を抽出することができる。そのような差分は異常判定部で異常であるか否かが判定され、異常であると判定された場合、検査の対象となっている成形品MPが不良品と判断され得る。
【0040】
但し、成形品MPの外観に、肉眼での認識が困難で問題にならない微小な欠陥があったとしても、それに起因する上記の差分が異常であると判定されると、判定処理の負荷を十分に軽減できず、処理の効率が低下することが懸念される。また、そのような微小な欠陥の検出は要求されないこともある。
【0041】
これに対しては、記憶部に予め、基準外観情報との差分の基準に関する基準差分情報を記憶させておき、異常判定部での異常の有無の判定に、この基準差分情報と上記のように抽出された差分とを比較した結果を用いるようにすることにより対処することができる。具体的には、対象外観情報と基準外観情報との各分割領域Rd間で抽出された差分が、基準差分情報に含まれ得る基準値以下と十分小さい場合は、異常判定部で異常有りではなく異常無しと判定するようにすることができる。
また、抽出された差分が、基準差分情報に含まれ得る他の基準値以上と比較的大きい場合は、他の分割領域Rdの判定結果に関わらず、検査対象の成形品MPが不良品であると判断するようにしてもよい。
【0042】
(射出成形機)
図1に一例として示す射出成形機1は、先に述べたように、射出装置11、移動装置21、型締装置31及びエジェクタ装置41を備えるものであるが、それらの各装置の詳細は次に述べるとおりである。
【0043】
射出装置11は主に、金型装置101に向けて延びる円筒状等のシリンダ14と、シリンダ14の内部にそれと中心軸線を平行にして配置されて、周囲にフライトが螺旋状に設けられたスクリュ12と、シリンダ14の外周側にその周囲を取り囲んで配置されたバンド状等のヒータ13と、シリンダ14及びスクリュ12の後方側に配置されたモーターボックス15とを備える。図示は省略するが、モーターボックス15内には、シリンダ14の先端部に所定の量の成形材料を蓄積させるため、スクリュ12を中心軸線周りに回転させる計量モーターや、金型装置101に接近する方向及び金型装置101から離れる方向の各方向へのスクリュ12の前進及び後退変位を行う射出モーター、スクリュ12が成形材料から受ける圧力を検出する圧力検出センサー等が配置されている。
【0044】
なおここでは、金型装置101の固定金型102が取り付けられる型締装置31の後述する固定プラテン32aに接近する向きを前方側とし、固定プラテン32aから離隔する向きを後方側とする。したがって、
図1では固定プラテン32aの右側に位置する射出装置11について見ると、固定プラテン32aに接近する左向きが前方側となり、固定プラテン32aから離隔する右向きが後方側になる。
【0045】
シリンダ14は、後方側でモーターボックス15の手前に、成形材料をシリンダ14内に投入するためのホッパー14dが取り付けられた供給口14aが設けられるとともに、金型装置101に近接する先端部に、その前方側で横断面積が小さくなるノズル14bが設けられている。なお、供給口14aの近傍には水冷等による水冷シリンダ14cを設けることができる。
ノズル14bの周囲を含むシリンダ14の周囲に配置されるヒータ13は、たとえば図示のように、軸線方向(
図1の左右方向)で複数の部分に分割されて、各ヒータ部分の内側のシリンダ14の内部を異なる温度で加熱できるものとすることができる。
【0046】
このような構成を有する射出装置11によれば、供給口14aからシリンダ14の内部に投入された成形材料は、計量工程で、シリンダ14の外周側のヒータ13による加熱の下、計量モーターで駆動されるスクリュ12の回転に基づいて溶融されつつ、シリンダ14の内部で前方側に向けて送られて、シリンダ14の先端部に充填される。この際に、スクリュ12は射出モーターにより後退変位させられて、シリンダ14の先端部に、成形材料が充填される空間を形成する。なお、先にも述べたように、この計量工程は、前回の成形工程の冷却工程等の際に行うことができる。
【0047】
その後、充填工程で、スクリュ12を前進変位させることにより、シリンダ14の先端部の成形材料は、ノズル14bを経て金型装置101に向けて射出される。さらにその後の保圧工程では、シリンダ14の先端部に残留している成形材料を通じて、金型装置101のキャビティに充填された成形材料に圧力を作用させる。このとき、金型装置101のキャビティで成形材料の冷却収縮に起因して不足した成形材料を補充することができる。
【0048】
なお、この射出成形機1はインラインスクリュ式のものであるが、可塑化シリンダ及び可塑化スクリュと、射出シリンダ及び射出プランジャーとに構造及び機能上分離させたプリプラ式の射出成形機とすることも可能である。
【0049】
移動装置21は、たとえば射出装置11のモーターボックス15の下部等に設けられ、後述の固定プラテン32aに対して射出装置11を前進及び後退変位させる進退駆動機構である。移動装置21を構成する進退駆動機構としては種々の機構を採用することができるが、たとえば、先端が固定プラテン32aに固定されたピストンロッド22を押出・引込運動させる複動型の液圧シリンダを含んで構成され得る。この移動装置21は、上述した液圧ポンプ及び液圧シリンダが取り付けられたスライドベース、ならびに、フレームFr上に敷設されて該スライドベースの直線運動を案内するガイド23をさらに含むものであり、それにより、スライドベースの上部に載置された射出装置11の進退変位を実現する。
【0050】
移動装置21により、射出装置11を金型装置101から離隔させたり、また、射出装置11を金型装置101に接近させて、射出装置11のシリンダ14のノズル14bを所定の圧力で金型装置101に押し付ける、いわゆるノズルタッチを行ったりすることが可能になる。
【0051】
型締装置31は、金型装置101の固定金型102に対して可動金型103を変位させて金型装置101を開閉し、金型装置101を型締状態、型閉状態または型開状態とする。この射出成形機1の型締装置31は、主として、金型装置101を両側から挟んで配置されるプラテン32、及び、プラテン32を可動させるプラテン稼働機構33とを有する。
【0052】
ここで、プラテン32は、射出装置11及び金型装置101の相互間に位置し、フレームFrに対して固定された固定プラテン32aと、固定プラテン32aとの間に金型装置101を隔てて位置し、固定プラテン32aに対して接近・離隔変位可能な可動プラテン32bとを含む。固定プラテン32aと可動プラテン32bとの間に位置する金型装置101の固定金型102は、固定プラテン32a側に取り付けられるとともに、可動金型103は、可動プラテン32b側に取り付けられる。また、型締装置31には、固定プラテン32aから後述のリヤプラテン34側に延びて固定プラテン32aとリヤプラテン34とを連結する一本又は複数本のタイバー32cが設けられている。可動プラテン32bは、この実施形態では、タイバー32cにより固定プラテン32aに対する離隔・接近変位がガイドされるものとしているが、タイバー32cでガイドされなくてもかまわない。
【0053】
固定プラテン32aに対して可動プラテン32bが離隔する位置では、金型装置101の可動金型103が固定金型102から開いた型開状態となり、この離隔位置から可動プラテン32bを固定プラテン32aに向けて接近させることで、可動金型103が固定金型102に対して閉じた型閉状態となるとともに、さらに可動プラテン32bを固定プラテン32aにて接近させて、可動金型103が固定金型102に対して押し付けられた型締状態となる。
【0054】
なお、型締装置31の固定プラテン32aを除く大部分及び、後述のエジェクタ装置41は、
図1では固定プラテン32aの左側に位置するので、型締装置31のその大部分及びエジェクタ装置41について見れば、固定プラテン32aに接近する右向きが前方側となり、固定プラテン32aから離隔する左向きが後方側になる。
【0055】
またここで、プラテン稼働機構33は、フレームFr上に配置されたリヤプラテン34と、リヤプラテン34上に設けた型締モーター35と、型締モーター35の回転運動を、可動プラテン32bの変位方向の直線運動に変換する運動変換機構36と、運動変換機構36に伝達された力を増大させて可動プラテン32bに伝えるトグル機構37とを備えるものである。
【0056】
このうち、運動変換機構36は、回転運動を直線運動に変換できる種々の機構とすることができるが、この例では、型締モーター35により回転駆動されるねじ軸36a及び、ねじ軸36aに羅合するナット36bを含んで構成されるものとしている。運動変換機構36をボールねじとすることも可能である。
【0057】
そして、運動変換機構36からの伝達力を増大させるトグル機構37は、リヤプラテン34及びナット36bと可動プラテン32bとをつなぐ複数のリンク37a~37cを、ジョイントで揺動可能に接続してなるものである。
リンク及びジョイントの個数ならびにその形状は適宜変更することが可能であるが、
図1に示すところでは、ナット36bに接続されて上下方向に延びるクロスヘッド37dに、該クロスヘッド37dを隔てて上下に位置するリンク37a~37cからなる一対のリンク群が、揺動可能に接続されて設けられている。
【0058】
なお、リヤプラテン34上には、上述した型締モーター35の他、型厚調整モーター38も設けることができる。この型厚調整モーター38は、先述のプラテン32の各タイバー32cの延長部分に接続されたねじ軸及びナットに回転駆動力を付与することにより、固定プラテン32aと、フレームFr上で移動可能に載置されたリヤプラテン34との間の間隔を調整するべく機能する。これにより、金型装置101の交換や、温度変化に起因する金型装置101の厚みの変更等の際にも、金型装置101に所期したとおりの型締力を与えることができるように型厚の調整を行うことができる。図示は省略するが、フレームFr上で固定プラテン側を移動可能とし、リヤプラテン側を固定としても、型厚の調整を実現可能である。
【0059】
図示の型締装置31は、可動プラテン32bの移動方向が水平方向と平行な横型のものであるが、該移動方向を垂直方向とした竪型のものとすることも可能である。
【0060】
可動プラテン32bに設けられるエジェクタ装置41は、可動プラテン32bを貫通して延びて、金型装置101のエジェクタピン等の可動部材104を後方側から押圧するよう進退駆動されるエジェクタロッド42と、エジェクタロッド42を作動させるべく、たとえばモーター及びボールねじ等の運動変換機構を含むロッド駆動源43とを有する。
【0061】
エジェクタ装置41により、成形品の取出工程で、ロッド駆動源43により駆動されるエジェクタロッド42を前進させて、金型装置101内で可動部材104を突き出し、金型装置101から成形品を取り出すことが可能になる。なお、可動部材104を突き出した後は、ロッド駆動源43によりエジェクタロッド42を後退させて元の位置に戻すことができる。
【符号の説明】
【0062】
1 射出成形機
11 射出装置
12 スクリュ
13 ヒータ
14 シリンダ
14a 供給口
14b ノズル
14c 水冷シリンダ
14d ホッパー
15 モーターボックス
21 移動装置
22 ピストンロッド
23 ガイド
31 型締装置
32 プラテン
32a 固定プラテン
32b 可動プラテン
32c タイバー
33 プラテン稼働機構
34 リヤプラテン
35 型締モーター
36 運動変換機構
36a ねじ軸
36b ナット
37 トグル機構
37a~37c リンク
37d クロスヘッド
38 型厚調整モーター
41 エジェクタ装置
42 エジェクタロッド
43 ロッド駆動源
101 金型装置
102 固定金型
103 可動金型
104 可動部材
201 射出成形システム
211 成形品取出機
212 アーム
213 水平移動機構
221 成形品搬送機
231 画像撮影機器
301 画像
MP 成形品
Pe 外観
S1~S3 ヒケ
Rd 分割領域
Rdu 判定不要領域
Rdi 重要判定領域