(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】RU錯体でのイミンの水素化
(51)【国際特許分類】
C07C 209/52 20060101AFI20240110BHJP
C07C 211/27 20060101ALI20240110BHJP
C07C 213/02 20060101ALI20240110BHJP
C07C 217/58 20060101ALI20240110BHJP
C07C 211/48 20060101ALI20240110BHJP
C07C 217/84 20060101ALI20240110BHJP
C07C 211/29 20060101ALI20240110BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20240110BHJP
C07D 409/12 20060101ALI20240110BHJP
C07D 333/20 20060101ALI20240110BHJP
C07D 231/38 20060101ALI20240110BHJP
C07D 213/38 20060101ALI20240110BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C07C209/52
C07C211/27
C07C213/02
C07C217/58
C07C211/48
C07C217/84
C07C211/29
B01J31/24 Z
C07D409/12
C07D333/20
C07D231/38 Z
C07D213/38
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020529403
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2019055045
(87)【国際公開番号】W WO2019166578
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-28
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390009287
【氏名又は名称】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Firmenich SA
【住所又は居所原語表記】7,Rue de la Bergere,1242 Satigny,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】リオネル ソーダン
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-504371(JP,A)
【文献】特表2005-525426(JP,A)
【文献】特開2013-177374(JP,A)
【文献】特表2004-513929(JP,A)
【文献】特表2015-502329(JP,A)
【文献】Inorganica Chimica Acta,2015年,Vol.431,p.242-247
【文献】Journal of the American Chemical Society,2018年01月29日,Vol.140(6),p.2024-2027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07D
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子H
2を使用して、式
【化1】
[式中、R
aは、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、C
1~C
3アルキル基もしくはC
1~C
3アルコキシ基で任意に置換されているC
3~C
6アリール基又はC
2~C
6複素環基を示し、かつR
bは、
C
3
~C
8
環状アルキル基、又はヒドロキシル基、ハロゲン原子、C
1~C
3アルキル基もしくはC
1~C
3アルコキシ基で任意に置換されている
C
3
~C
6
アリール基、C
2
~C
6
複素環基、C
6~C
8ヘテロアリールアルキル基
もしくはC
6~C
8アリールアルキル基である]のC
5~C
20の基質を対応するアミンに水素化により還元するための方法であって、
式
【化2】
[式中、nは0又は1であり、
PPは、式
【化3】
[式中、R
11及びR
12は、別々の場合に、同時に又は独立して、任意に置換されているC
3~C
6分枝鎖又は環状アルキル基を示し、かつQ’は、任意に置換されている直鎖C
1~C
4アルカンジイル基、1,2-もしくは1,1’-C
10~C
12メタロセンジイル又は2,2’-(オキシビス(2,1-フェニレン))基を示す]の化合物であり、
NNは、エタン-1,2-ジアミン、N,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエタン-1,2-ジアミン、1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジアミン、(1R,2R)-1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジアミン、シクロヘキサン-1,2-ジアミン、(1R,2R)-シクロヘキサン-1,2-ジアミン、プロパン-1,3-ジアミン及びピリジン-2-イルメタンアミンからなる群から選択され、
それぞれの(1)のRCOO基は、イソブチレート、ピバレート、
tBuアセテート、トリフルオロアセテート、2-Et-ヘキサノエート、シクロヘキサンカルボキシレート、ピコリネート、シンナメート、ベンゾエート、4-Me-ベンゾエート、4-OMe-ベンゾエート、3,5-ジクロロ-ベンゾエート、2,4-ジクロロ-ベンゾエート、イソバレレート、アダマンテート及びsec-ブチレートからなる群から選択される]の少なくとも1つの触媒の存在下で実施することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
R
aは、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、C
1~C
3アルキル基もしくはC
1~C
3アルコキシ基で任意に置換されているC
6アリール基又はC
2~C
6複素環基を示し、かつR
bは、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、C
1~C
3アルキル基もしくはC
1~C
3アルコキシ基で任意に置換されているC
3~C
8環状アルキル基、C
6アリール基、C
2~C
6複素環基、C
6~C
8ヘテロアリールアルキル基又はC
6~C
8アリールアルキル基を示すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R
aは、1個もしくは2個の硫黄原子、1個の酸素原子、1個の窒素原子、又は1個の窒素原子及び1個の硫黄原子を含むC
3~C
5複素環基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
R
aはチオフェニル基であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
R
bは、1個もしくは2個の窒素原子、1個の窒素原子及び1個の硫黄原子、又は1個の窒素原子及び1個の酸素原子を含む、C
3~C
6アリール基、C
6~C
8アリールアルキル基又はC
3~C
5複素環基であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
R
bは、フェニル基もしくはベンジル基、又は1個もしくは2個の窒素原子、1個の窒素原子及び1個の硫黄原子、又は1個の窒素原子及び1個の酸素原子を含むC
3~C
5複素環基であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
R
bはピラゾールイル基であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
式(I)の基質は、N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-(4-メトキシフェネチル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-ベンジル-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-ベンジル-1-(p-トリル)メタンイミン、N-ベンジル-1-(2-メトキシフェニル)メタンイミン又はN-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(p-トリル)メタンイミン、N-フェニル-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-ベンジル-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-フェニル-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(4-メトキシフェニル)-1-フェニルメタンイミン、N-シクロヘキシル-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(4-フルオロフェニル)-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(4-メトキシフェニル)-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(2,4-ジメチルフェニル)-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(ピリジン-4-イルメチル)-1-(p-トリル)メタンイミン、1-(チオフェン-2-イル)-N-(チオフェン-2-イルメチル)メタンイミンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
R
11及びR
12は、それぞれ、同時に又は独立して、イソプロピル、シクロヘキシル又はフェニル基を示すことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
Q’は、直鎖C
1~C
4アルカンジイル基、1,1’-C
10~C
12メタロセンジイル基又は2,2’-(オキシビス(2,1-フェニレン))基であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
配位子(PP)は、ビス(ジシクロヘキシルホスファニル)メタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスファニル)エタン、1,2-ビス(ジフェニルホスファニル)エタン、1,3-ビス(ジイソプロピルホスファニル)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスファニル)ブタン、1,1’-ビス(ジフェニルホスファニル)フェロセン、1,1’-ビス(ジイソプロピルホスファニル)フェロセン、1,1’-ビス(ジシクロヘキシルホスファニル)フェロセン、2,2’-ビス(ジフェニルホスファンイル)-1,1’-ビフェニル、2,2’-ビス(ジシクロヘキシルホスファンイル)-1,1’-ビフェニル、(オキシビス(2,1-フェニレン))ビス(ジフェニルホスファン)及び4,6-ビス(ジフェニルホスファニル)-10H-フェノキサジンからなる群から選択され、好ましくは、配位子(PP)は、1,2-ビス(ジフェニルホスファニル)エタン、1,3-ビス(ジイソプロピルホスファニル)プロパン、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスファニル)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスファニル)ブタン又は1,1’-ビス(ジフェニルホスファニル)フェロセンであってよいことを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
NNはエタン-1,2-ジアミンであることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
RCOO基がピバレートであることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
式(1)の錯体をin situで直接生成することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触水素化の分野に関し、より詳述すれば二座ジホスフィン配位子又は2つの単座ホスフィン配位子、2個のカルボキシレート配位子及び任意にジアミン配位子を有する触媒量のルテニウム錯体の存在下でイミンの対応するアミンへの還元に関する。
【0002】
背景技術
イミンの対応するアミンへの還元は、有機化学における基本の反応の1つであり、多数の化学方法において使用される。一般的に、2つの主なタイプの方法がかかる変換を達成するために公知である。かかるタイプの方法は、以下である:
a)シリル又は金属水酸化物塩、例えばNaBH4を使用する水素化物方法;
b)分子水素を使用する水素化方法。
【0003】
実用的な観点から、水素化方法は、少量の触媒(典型的に基質に対して10~1000ppm)を使用して、少量の存在下又は溶媒の非存在下で操作できるため、より魅力的である。さらに、水素化方法は、反応性が高く高価な水素化物を使用する必要がなく、かつ大量の水性廃棄物を生成しない。
【0004】
水素化方法の必須かつ特徴的な要素の1つは、還元を考慮して分子水素を活性化するために使用される触媒又は触媒系である。
【0005】
均一系触媒又は不均一系触媒を使用したイミンの接触水素化は、塩基とジアミン配位子及びホスフィン配位子を有するルテニウム錯体との存在下でのイミンの水素化が開示されている文献、例えば国際公開第02/08169号(WO02/08169)、国際公開第03/097571号(WO03/097571)又は欧州特許出願公開第2623509号明細書(EP2623509)において広く記載されている。しかしながら、いくつかの基質、例えば少なくとも1個のヘテロ芳香族環又はさらに2個のヘテロ芳香族環を有するイミンは、まだ僅かに報告されている挑戦的な反応を表す。実際に、基質中でのさらなるヘテロ原子の存在は、基質として反応に対して有害であってよく、かつ得られた生成物は、金属中心に対してキレート化し、触媒系の作用の阻害又はヘテロ芳香族環の水素化の競合を生じうる。特に、それぞれ、次の不均一系触媒、アダムス触媒、Pd/C及び七硫化レニウムを使用する国際公開第2008/125833号(WO2008/125833)、国際公開第2006/063178号(WO2006/063178)、及びZh. Org. Khim. 1965, 1, 1104-1108においてのみ報告されているチオフェンで置換したイミンの水素化のいくつかの例は、この種の基質に対する課題を示している。
【0006】
広範囲のイミン型の基質について有効なイミン基の水素化のための有用な均一系触媒又は触媒系の開発は、依然として化学における重要な必要性を表している。
【0007】
本発明は、最も困難なイミン基質でさえも還元することを可能にする、均一系ルテニウム触媒の存在下で前記水素化を実施することにより、前記問題に対する解決策を提供する。我々の知る限り、この方法は全く報告されていない。
【0008】
発明の要旨
驚くべきことに、複素環基を含むイミンが、均一系触媒を使用して水素化条件下で、及び任意の添加物の非存在下で容易に還元されうることを見出した。
【0009】
したがって、本発明の第一の目的は、分子H
2を使用して、水素化により、式
【化1】
[式中、R
a及びR
cは、互いに独立して、水素原子、又は1~3個の酸素原子及び/又は1~2個の窒素原子及び/又は1個の硫黄もしくはハロゲン原子を任意に含むC
1~C
15炭化水素基を表し、R
bは、1~3個の酸素原子及び/又は1~2個の窒素原子及び/又は1個の硫黄もしくはハロゲン原子を任意に含むC
1~C
15炭化水素基、水素原子、SO
2R
b'基、OR
b''基、又はPOR
b'
2基を表し、ここで、R
b'は、C
1~C
6アルキル基、フェニル基又はトリル基を表し、かつR
b''は、水素原子、C
1~C
6アルキル基、フェニル基又はトリル基を表し、又はR
a及びR
cは、一緒の場合に、C
1~C
10アルカンジイル基又はアルケンジイル基を表すが、但し、少なくとも1つのR
a、R
b又はR
cは、水素原子ではない]のC
5~C
20の基質を対応するアミンに還元するための方法であって、
式
【化2】
[式中、nは0又は1であり、PPは、C
5~C
50の二座配位子を表し、その配位基は2つのホスフィノ基であり、Pは、C
3~C
50の単座配位子を表し、
NNは、C
2~C
20の二座配位子を表し、その配位原子は2個の窒素原子であり、かつ
それぞれのRは、同時に又は独立して、水素原子、C
1~C
12直鎖炭化水素基、又は分枝鎖もしくは環状のC
3~C
12炭化水素基を表し、該炭化水素基は、任意にハロゲン原子、酸素原子及び窒素原子の中から選択される1~5個のヘテロ原子を含む]の少なくとも1つの触媒又はプレ触媒の存在下で実施することを特徴とする方法である。
【0010】
発明の説明
本発明は、分子H2を使用して水素化することにより、イミン官能基を含むC5~C20基質を対応するアミンに還元するための方法であって、二座ジホスフィン配位子又は2個の単座ホスフィン配位子及び2個のカルボキシレート配位子を有するルテニウム錯体の形での少なくとも1つの触媒又はプレ触媒の存在下で実施することを特徴とする方法に関する。
【0011】
前記方法は、均一系ルテニウム触媒を使用して、最も困難なチオフェンで置換したイミンでさえも還元できる。さらに、該方法は、敏感な基質について特に興味深いものにする、酸性又は塩基性の添加物の非存在下で実施される。
【0012】
当業者によってよく理解されているように、「二座」に関して、前記配位子が、2個の原子(例えば2個のP)を有するRu金属を配位することが理解される。
【0013】
したがって、本発明の第一の目的は、分子H
2を使用して水素化により、式
【化3】
[式中、R
a及びR
cは、互いに独立して、水素原子、又は1~3個の酸素原子及び/又は1~2個の窒素原子及び/又は1個の硫黄もしくはハロゲン原子を任意に含むC
1~C
15炭化水素基を表し、R
bは、1~3個の酸素原子及び/又は1~2個の窒素原子及び/又は1個の硫黄もしくはハロゲン原子を任意に含むC
1~C
15炭化水素基、水素原子、SO
2R
b'基、OR
b''基、又はPOR
b'
2基を表し、ここで、R
b'は、C
1~C
6アルキル基、フェニル基又はトリル基を表し、かつR
b''は、水素原子、C
1~C
6アルキル基、フェニル基又はトリル基を表し、又はR
a及びR
cは、一緒の場合に、C
1~C
10アルカンジイル基又はアルケンジイル基を表すが、但し、少なくとも1つのR
a、R
b又はR
cは、水素原子ではない]のC
5~C
20の基質を対応するアミンに還元するための方法であって、
式
【化4】
[式中、nは0又は1であり、PPは、C
5~C
50の二座配位子を表し、その配位基は2個のホスフィノ基であり、Pは、C
3~C
50の単座配位子を表し、
NNは、C
2~C
20の二座配位子を表し、その配位原子は2個の窒素原子であり、かつ
それぞれのRは、同時に又は独立して、水素原子、C
1~C
12直鎖炭化水素基、又は分枝鎖もしくは環状のC
3~C
12炭化水素基を表し、該炭化水素基は、任意にハロゲン原子、酸素原子及び窒素原子の中から選択される1~5個のヘテロ原子を含む]の少なくとも1つの触媒又はプレ触媒の存在下で実施することを特徴とする方法である。
【0014】
「…炭化水素基…」に関しては、該基が、水素原子及び炭素原子からなり、かつ脂肪族炭化水素、すなわち直鎖又は分枝鎖の飽和炭化水素(例えばアルキル基)、直鎖又は分枝鎖の不飽和炭化水素(例えばアルケニル基又はアルキニル基)、飽和環状炭化水素(例えば、シクロアルキル)もしくは不飽和環状炭化水素(例えばシクロアルケニル又はシクロアルキニル)の形であってよく、又は芳香族炭化水素、すなわちアリール基の形であってよく、又は前記タイプの基の混合物の形であってもよく、例えば特定の基は、1つのタイプのみに特定の制限が言及されていない限り、直鎖アルキル、分枝鎖アルケニル(例えば、1個以上の炭素-炭素二重結合を有する分枝鎖アルケニル)、(ポリ)シクロアルキル及びアリール部分を含んでいてよいことを意味すると解される。同様に、本発明の全ての実施形態において、基が1超のタイプのトポロジー(例えば直鎖、環状又は分枝鎖)の形であり、かつ/又は飽和もしくは不飽和(例えばアルキル、芳香族又はアルケニル)であると言及される場合に、前記トポロジーのいずれか1つを有する部分又は前記で説明したような飽和もしくは不飽和である部分を含みうる基も意味する。同様に、本発明の全ての実施形態において、基が飽和又は不飽和(例えばアルキル)の1つのタイプの形であると言及される場合に、前記基が、トポロジー(例えば直鎖、環状又は分枝鎖)のいずれかのタイプであるか又は種々のトポロジーを有するいくつかの部分を有しうることを意味する。本発明の全ての実施形態において、炭化水素基がヘテロ原子、例えば酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を任意に含みうることが言及される場合に、炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がヘテロ原子によって置換されていてよく、及び/又は炭化水素鎖の炭素原子がヘテロ原子に置換されて/置き換えられていてよいことを意味し、すなわち炭化水素は、置換基として、又は鎖の一部として、官能基、例えばエーテル、チオール、アミン、エステル、アミドを含みうる。
【0015】
本明細書の方法、すなわち式(I)のイミンの水素化によって提供される対応するアミン(I-a)は、式
【化5】
[式中、R
a、R
b及びR
cは式(I)において定義したものと同様の意味を有する]のアミンである。
【0016】
本発明の前記実施形態のいずれか1つに従って、式(I)の化合物は、その立体異性体のいずれか1つの形で又はそれらの混合物としてであってよい。明確性の理由から、「その立体異性体のいずれか1つ又はそれらの混合物」の表現又は同様の表現に関しては、当業者によって理解される通常の意味、すなわち式(I)の化合物が、純粋であるか、又はエナンチオマーもしくはジアステレオマーの混合物の形であってよいことを意味する。
【0017】
本発明の前記実施形態のいずれか1つに従って、式(I)の前記化合物は、そのEもしくはZ異性体の形、又はそれらの混合物であってよく、例えば本発明は、同一の化学構造を有するが、しかしイミン二重結合の立体配置によって異なる、式(I)の化合物の1つ以上からなる物質の組成物を含む。特に、化合物(I)は、異性体E及びZからなる混合物の形であってよく、その際該異性体Eは、少なくとも0.5%の合計混合物、又はさらに少なくとも50%の合計混合物、又はさらに少なくとも75%の合計混合物(すなわち、75/25及び100/0で構成される混合物E/Z)を示す。
【0018】
本発明の前記実施形態のいずれか1つに従って、式(I)の化合物は、式(Ra)(Rc)C(=O)のカルボニル化合物と式RbNH2のアミンとの間の縮合によってin situで生じうる。
【0019】
本発明の前記実施形態のいずれか1つに従って、Ra、Rb及びRcは、水素原子、任意にヒドロキシル基、ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基により置換されている、C1~C10アルキル基、アルケニル基、アルカンジエニル基、アリール基、複素環基、ヘテロアリールアルキル基又はアリールアルキル基を示してよい。
【0020】
本発明の前記実施形態のいずれか1つに従って、Ra、Rb及びRcは、水素原子、任意にヒドロキシル基、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基により置換されている、C1~C10アルキル基、アルケニル基、アルカンジエニル基、アリール基、複素環基、又はアリールアルキル基を示してよい。
【0021】
本発明の前記実施形態のいずれか1つに従って、Ra、Rb及びRcは、互い独立して、水素原子、C1~C10直鎖アルキル基、C2~C10直鎖アルケニル基、C3~C10直鎖、分子鎖もしくは環状のアルキル基もしくはアルケニル基、C4~C10直鎖、分枝鎖もしくは環状のアルカジエニル基、任意にヒドロキシル基、C1~C6アルキル基もしくはC1~C6アルコキシ基により置換されているC3~C8アリール基、C2~C8複素環基又はC6~C12アリールアルキル基を示してよく、又はRa及びRcは、一緒の場合に、C1~C10アルカンジイル基又はアルケンジイル基を示すが、但し少なくとも1つのRa、Rb又はRcは水素原子ではない。
【0022】
「直鎖、分枝鎖又は環状のアルキル基、アルケニル基又はアルカンジエニル基」の表現又は同様の表現は、特定の制限が1つのタイプに限定されていない限り、前記Ra、Rb及びRcが、例えば直鎖アルキル基の形であってよく、又は前記タイプの基の混合物の形であってもよく、例えば特定のRaは、分枝鎖アルケニル部分、(ポリ)環状アルキル部分及び直鎖アルキル部分を含みうることが示されている。同様に、本発明の以下の全ての実施形態において、基がアルケニル又はアルカジエニルとして挙げられている場合に、該基は、アルカジエニルの場合に、イミン基と又はそれらの間で共役しているかもしくは共役していなくてよい1個又は2個の炭素-炭素二重結合を含むことを意味する。同様に、本発明の以下の全ての実施形態において、基が1超のタイプのトポロジー(例えば直鎖、環状又は分枝鎖)及び/又は不飽和(例えばアルキル又はアルケニル)の形であると言及されている場合に、前記で説明したように、前記トポロジーのいずれか1つを有するか又は不飽和の部分を含んでよい基も意味する。同様に、本発明の以下の全ての実施形態において、基が不飽和(例えばアルキル)の1つのタイプの形である場合に、前記基が、トポロジー(例えば直鎖、環状又は分枝鎖)のいずれかのタイプであるか又は種々のトポロジーを有するいくつかの部分を有しうることを意味する。
【0023】
「複素環」という用語又は同様の用語は、当該技術分野における通常の意味を有し、すなわち少なくとも1つのヘテロ原子、例えば酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含む芳香族環である。複素環基の典型的な例は、アクリジン、β-カルボリン、クロマン、クロメン、シンノリン、フラン、イミダゾール、インダゾール、インドール、インドリン、インドリジン、イソベンゾフラン、イソクロメン、イソインドール、イソインドリン、イソキノリン、イソチアゾール、イソキサゾール、ナフチリジン、オキサジアゾール、オキサゾール、ペリミジン、フェナントリジン、フェナントロリン、フェナジン、フタラジン、プテリジン、プリン、ピラン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、ピロリジン、キナゾリン、キノリン、キノリジン、キノキサリン、テトラゾール、チアジアゾール、チアゾール、チオフェン、トリアゾール、又はキサンテンから誘導される基を含むが、これらに制限されない。
【0024】
「アリールアルキル」という用語は、当該技術分野において通常の意味を有し、すなわち1個の水素原子がアリール基で置換されている非環式アルキル基である。
【0025】
「ヘテロアリールアルキル」という用語は、当該技術分野において通常の意味を有し、すなわち1個の水素原子が複素環基で置換されている非環式アルキル基である。
【0026】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、基質は、最終生成物又は中間体として、製薬、農薬、フレーバー又は香料産業において有用であるアミンを提供するイミンである。特に好ましい基質は、最終生成物又は中間体としてフレーバー及びフレグランス産業において有用であるアミンを提供するイミンである。
【0027】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、基質は、式(I)のC5~C15化合物である。
【0028】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、基質は、式
【化6】
[式中、R
a及びR
bは前記と同様の意味を有する]のものである。
【0029】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、Ra及びRbは、互いに独立して、C1~C8直鎖アルキル基、C2~C8直鎖アルケニル基、C3~C8直鎖、分枝鎖もしくは環状のアルキル基もしくはアルケニル基、C4~C8直鎖、分枝鎖もしくは環状のアルカジエニル基、又はヒドロキシル基、ハロゲン原子、C1~C3アルキル基もしくはC1~C3アルコキシ基で任意に置換されているC3~C6アリール基、C2~C6複素環基、C6~C8ヘテロアリールアルキル基もしくはC6~C8アリールアルキル基を示しうる。本発明の実施形態のいずれか1つに従って、Ra及びRbは、互いに独立して、C1~C8直鎖アルキル基、C2~C8直鎖アルケニル基、C3~C8直鎖、分枝鎖もしくは環状のアルキル基もしくはアルケニル基、C4~C8直鎖、分枝鎖もしくは環状のアルカジエニル基、又はヒドロキシル基、C1~C3アルキル基もしくはC1~C3アルコキシ基で任意に置換されているC3~C6アリール基、C2~C6複素環基、もしくはC6~C8アリールアルキル基を示しうる。好ましくは、Ra及びRbは、互いに独立して、ヒドロキシル基、C1~C3アルキル基もしくはC1~C3アルコキシ基で任意に置換されているC3~C8環状アルキル基、C3~C6アリール基、C2~C6複素環基、又はC6~C8アリールアルキル基を示しうる。好ましくは、Ra及びRbは、互いに独立して、ヒドロキシル基、C1~C3アルキル基もしくはC1~C3アルコキシ基で任意に置換されているC3~C6アリール基、C2~C6複素環基、又はC6~C8アリールアルキル基を示しうる。好ましくは、Ra及びRbは、ヒドロキシル基、C1~C3アルキル基もしくはC1~C3アルコキシ基で任意に置換されているC2~C6複素環基を示してよく、かつ他には、C1~C8直鎖アルキル基、C2~C8直鎖アルケニル基、C3~C8直鎖、分枝鎖もしくは環状のアルキル基もしくはアルケニル基、C4~C8直鎖、分枝鎖もしくは環状のアルカジエニル基、又はヒドロキシル基、C1~C3アルキル基もしくはC1~C3アルコキシ基で任意に置換されているC3~C6アリール基、C2~C6複素環基、もしくはC6~C8アリールアルキル基を示しうる。さらにより好ましくは、Ra及びRbは、互いに独立して、ヒドロキシル基、C1~C3アルキル基もしくはC1~C3アルコキシ基で任意に置換されているC2~C6複素環基を示しうる。好ましくは、Ra及びRbは、互いに独立して、1つ又は2つのC1~C3アルキル基により任意に置換されている窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択される1~3個のヘテロ原子を含むC2~C6複素環基を示しうる。好ましくは、Ra及びRbは、互いに独立して、窒素、酸素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を含むC3~C6複素環基を示す。さらにより好ましくは、Ra及びRbは、互いに独立して、窒素、酸素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を含むC3~C5複素環基を示す。さらにより好ましくは、Ra及びRbは、互いに独立して、窒素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を含むC3~C5複素環基を示す。
【0030】
前記実施形態のいずれか1つに従って、Rbは、1個もしくは2個の窒素原子、1個の窒素原子及び1個の硫黄原子、又は1個の窒素原子及び1個の酸素原子を含む、C3~C6アリール基、C6~C8アリールアルキル基又はC3~C5複素環基を示す。好ましくは、Rbは、フェニル基もしくはベンジル基、又は1個もしくは2個の窒素原子、1個の窒素原子及び1個の硫黄原子、又は1個の窒素原子及び1個の酸素原子を含むC3~C5複素環基を示す。好ましくは、Rbはピラゾールイル基を示す。
【0031】
前記実施形態のいずれか1つに従って、Raは、1個もしくは2個の硫黄原子、1個の酸素原子、1個の窒素原子、又は1個の窒素原子及び1個の硫黄原子を含むC3~C5複素環基を示す。好ましくは、Raはチオフェニル基である。
【0032】
式(I)の基質の制限のない例は、N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-(4-メトキシフェネチル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-ベンジル-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-ベンジル-1-(p-トリル)メタンイミン、N-ベンジル-1-(2-メトキシフェニル)メタンイミン又はN-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(p-トリル)メタンイミン、N-フェニル-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-ベンジル-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン、N-フェニル-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(4-メトキシフェニル)-1-フェニルメタンイミン、N-シクロヘキシル-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(4-フルオロフェニル)-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(4-メトキシフェニル)-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(2,4-ジメチルフェニル)-1-(p-トリル)メタンイミン、N-(ピリジン-4-イルメチル)-1-(p-トリル)メタンイミン、1-(チオフェン-2-イル)-N-(チオフェン-2-イルメチル)メタンイミンを含んでよい。
【0033】
本発明において、酸性又は塩基性の添加物の存在が避けられる。これは利点であり、それというのも、酸及び/又は塩基に感受性のあるイミンからのアミンの生成についての収率を著しく増加できるからである。したがって、本発明の実施形態のいずれか1つに従って、基質は、酸及び/又は塩基に感受性のある化合物である。
【0034】
本発明の任意の実施形態に従って、本発明の方法は、塩基の非存在下で実施される。
【0035】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、ルテニウム錯体は、一般式
【化7】
[式中、nは0又は1であり、PPは、配位基が2個のホスフィノ基であるC
5~C
50二座配位子を示し、
NNは、配位基が2個のアミノ基であるC
2~C
20二座配位子を示し、かつ
それぞれのRは、同時に又は独立して、水素原子、C
1~C
12直鎖炭化水素基又は分枝鎖もしくは環状のC
3~C
12炭化水素基を示し、該炭化水素基は、ハロゲン原子、酸素原子及び窒素原子の中から選択される1~5個のヘテロ原子を任意に含む]のものであってよい。
【0036】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、式(1)において、それぞれのRは、同時に又は独立して、以下を示してよい:
- C1~C12直鎖アルキル基
任意に、C3~C6シクロアルキル基もしくはシクロアルケニルオン基、又は1~5個のハロゲン原子及び/又はC1~C4アルコキシル基により任意に置換されているフェニル基によって置換されており、かつ
任意に、1個のOH基、アミノ基又はエーテル基又は少なくとも1個のハロゲン原子を含む
又は
- C3~C12分枝鎖もしくは環状アルキル基
任意に、1~5個のハロゲン原子及び/又はC1~C4アルキル基又はアルコキシル基により任意に置換されている1個のフェニル基によって置換されており、かつ
任意に、1個のOH基、アミノ基又はエーテル基又は少なくとも1個のハロゲン原子を含む
又は
- 1~3個、又は5個のハロゲン原子及び/又はC1~C4アルキル基もしくはアルコキシル基及び/又はニトロ基により任意に置換されているフェニル基。
【0037】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、式(1)において、それぞれのRは、同時に又は独立して、以下を示してよい:
- C3~C12分枝鎖もしくは環状アルキル基
任意に、1~5個のハロゲン原子及び/又はC1~C4アルキル基又はアルコキシル基により任意に置換されている1個のフェニル基によって置換されており、かつ
任意に、1個のOH基、アミノ基又はエーテル基を含む
又は
- 1~3個、又は5個のハロゲン原子及び/又はC1~C4アルキル基もしくはアルコキシル基及び/又はニトロ基により任意に置換されているフェニル基。
【0038】
式(1)の特定の実施形態に従って、前記Rは、以下を示してよい:
- α位で第三級又は第四級炭素原子及び/又はβ位で第四級炭素原子を含み、及び任意に1個のOH、1個のエーテル官能基又は1個のフェニル基も含む分枝鎖状C3~C10アルキル基、ここでフェニル基は、1個又は2個のハロゲン原子により及び/又はC1~C4アルキル基もしくはアルコキシル基により任意に置換されている;
- α位で1個のOH又は1個のエーテル官能基を含むC2アルキル基;又は
- 1個、2個又は3個のハロゲン原子及び/又はC1~C4アルキル基もしくはアルコキシル基及び/又はニトロ基により任意に置換されているフェニル基。
【0039】
式(1)の特定の実施形態に従って、前記Rは、以下を示してよい:
- α位で第三級又は第四級炭素原子及び/又はβ位で第四級炭素原子を分枝鎖状C3~C10アルキル基;又は
- 1個、2個又は3個のハロゲン原子及び/又はC1~C4アルキル基もしくはアルコキシル基及び/又はニトロ基により任意に置換されているフェニル基。
【0040】
明確性の理由から、「α位」という表現に関しては、当該技術分野における通常の意味、すなわち、RCOO基のCOO部分に直接結合した炭素原子を意味する。同様に、「β位」という表現に関しては、α位に直接結合した炭素原子を意味する。明確性の理由から、「分枝鎖又は環状の基」という表現は、直鎖ではない基、すなわちシクロヘキシル、イソプロピル又はClCH2であるが、CH2CH3又はCCl3ではない基を意味し、かつ分枝鎖は、環の一部であるか又はそうでなくてよい1個又はいくつかの炭素原子又は任意の官能基によるものであることも明らかである。
【0041】
(I)の適したRCOO基の制限のない例として、イソブチレート、ピバレート、tBu-アセテート、トリフルオロアセテート、2-Et-ヘキサノエート、シクロヘキサンカルボキシレート、ピコリネート、シンナメート、ベンゾエート、4-Me-ベンゾエート、4-OMe-ベンゾエート、3,5-ジクロロ-ベンゾエート、2,4-ジクロロ-ベンゾエート、イソバレレート、アダマンテート又はsec-ブチレートを挙げてよい。
【0042】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、二座NN配位子は、式
【化8】
[式中、a及びa’は、同時に又は独立して、0又は1を示し(a’が0の場合に窒素原子は芳香族複素環の一部である)、
R
1は、別々になって、同時に又は独立して、水素原子、又は任意に置換されているC
1~C
6直鎖、分枝鎖又は環状のアルキル基、又は任意に置換されているフェニル基もしくはベンジル基を示し、2個のR
1は、一緒になって、3~7個の原子を含み、かつ前記R
1に結合する原子を含む飽和複素環を形成してよく、該複素環は任意に置換されており、
R
2及びR
3は、別々になって、同時に又は独立して、水素原子、任意に置換されているC
1~C
6直鎖、分枝鎖のアルキル基、又は任意に置換されているC
6~C
10芳香族基を示し、R
1及び隣接するR
2は、一緒になって、5~8個の原子を含み、かつ該基R
1及びR
2に結合する原子を含み、及び任意に1個の追加の窒素原子もしくは酸素原子を含む飽和又は不飽和複素環を形成してよく;2個のR
2は、一緒になって、5~8個の原子を有し、かつ該2個のR
2基に結合する炭素原子を含む飽和又は不飽和環を形成してよく、該環は、任意に1個の追加の窒素原子及び/又は酸素原子を含み、かつ
Qは、式
【化9】
[式中、mは1又は2であり、かつ
R
5及びR
6は、同時に又は独立して、水素原子、任意に置換されているC
1~C
6直鎖、分枝鎖又は環状のアルキル基、又は任意に置換されているC
6~C
10芳香族基を示し、2個の異なるR
6基及び/又はR
5基は、一緒になって、R
6基及び/又はR
5基に結合する原子を含み、かつ任意に1個又は2個の追加の窒素原子もしくは酸素原子を含む、任意に置換されたC
3~C
8飽和環を形成してよい]の基を示す]の化合物である。
【0043】
一実施形態に従って、「芳香族基又は環」は、フェニル基又はナフチル基を意味する。
【0044】
前記したように、前記配位子(B)において、Ru原子を配位してよい原子は、R1基を有する2個のN原子である。したがって、前記R1、R2、R3、R5、R6又は任意の他の基が、ヘテロ原子、例えばN又はOを含む場合には、該ヘテロ原子は、配位していないことも理解する。
【0045】
R1、R2、R3、R5、R6の可能な任意の置換基は、i)ハロゲン(特に前記置換基が芳香族部分上にある場合)、ii)C1~C6アルコキシ、アルキル、アルケニル、又はiii)ベンジル基、又は縮合もしくは縮合していないフェニル基であって、1個、2個又は3個のハロゲン、C1~C8アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、エステル基、スルホネート基、ハロ炭化水素又はペルハロ炭化水素基で任意に置換されているフェニル基の中から選択される、1個、2個、3個又は4個の基である。
【0046】
明確性の理由から、及び前記したように、本発明の実施形態のいずれか1つにおいて、式(B)の2個の基が一緒になって環を形成する場合に、該環は、単環基又は二環基であってよい。
【0047】
前記二座NN配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、それぞれのR1は、同時に又は独立して、水素原子又はC1~C4直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を示す。好ましくは、R1は、同時に又は独立して、水素原子又はメチル基もしくはエチル基を示す。
【0048】
前記二座(NN)配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、少なくとも1個のR1は水素原子を示し、又はさらに少なくとも2個のR1は水素原子を示し、又はさらに4個のR1は水素原子を示す。
【0049】
前記二座NN配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、R2及びR3は、別々になって、同時に又は独立して、水素原子、任意に置換されているC1~C4直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は任意に置換されているフェニル基を示し、R1及び隣接するR2は、一緒になって、5個又は6個の原子を含み、かつR1及びR2に結合する原子を含み、かつ任意に1個の追加の酸素原子を含む飽和又は不飽和の複素環を形成してよく、2個のR2は、一緒になって、5個又は6個の原子を有し、かつR2基又はR3基に結合する原子を含む飽和又は不飽和の環を形成してよく、該環は、任意に置換されており、かつ任意に1個の追加の酸素原子を含む。
【0050】
前記二座NN配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、R2及びR3は、別々になって、同時に又は独立して、水素原子、C1~C4直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又はフェニル基を示し、R1及び隣接するR2は、一緒になって、6個の原子を含み、かつR1及びR2に結合する原子を含む飽和又は芳香族の複素環を形成してよく、2個のR2は、一緒になって、5個又は6個の原子を有し、かつ2個のR2基に結合する原子を含む飽和又は不飽和の環を形成してよい。
【0051】
前記二座NN配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、前記Qは、式
【化10】
[式中、mは1又は2であり、かつ
R
5及びR
6は、同時に又は独立して、水素原子、C
1~C
4直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は任意に置換されているフェニル基を示す]の基を示す。
【0052】
前記二座NN配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、前記R5及びR6は、同時に又は独立して、水素原子、又はC1~C4直鎖アルキル基を示す。
【0053】
本発明の特定の実施形態に従って、前記Qは、式(i)の基であってよく、式中、mが1又は2であり、R5が水素原子であり、かつR6が前記で定義されたものである。
【0054】
前記二座NN配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、前記配位子NNは、式
【化11】
[式中、aは0又は1を示し、
それぞれのR
1は、同時に又は独立して、水素原子、又はC
1~C
4直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は任意に置換されているベンジル基を示し、
R
2及びR
3は、別々になって、同時又は独立して、水素原子、任意に置換されているC
1~C
4直鎖又は分枝鎖アルキル基、又は任意に置換されているフェニル基を示し、R
1及び隣接しているR
2は、一緒になって、6個の原子を含み、かつR
1及びR
2に結合する原子を含み、かつ任意に置換されている飽和複素環を形成してよく、2個のR
2は、一緒になって、5個~6個の原子を有し、R
2基に結合する炭素原子を含む飽和環を形成してよく、かつ
Qは、式
【化12】
[式中、mは1又は2であり、かつ
R
5及びR
6は、同時に又は独立して、水素原子、C
1~C
4直鎖又は分枝鎖アルキル基、又は任意に置換されているフェニル基を示す]の基を示す]によって示される。
【0055】
前記実施形態の特定の態様に従って、式(B’)の前記配位子NNは、式中、aは0又は1を示し、
それぞれのR
1は、同時に又は独立して、水素原子又はC
1~C
4アルキル基を示し、
R
2及びR
3は、別々になって、同時又は独立して、水素原子を示し、2個のR
2は、一緒になって、5個~6個の原子を有し、かつR
2基に結合する炭素原子を含む飽和環を形成してよく、かつ
Qは、式
【化13】
[式中、mは1又は2であり、かつ
R
5及びR
6は、同時に又は独立して、水素原子、C
1~C
4直鎖アルキル基を示す]の基を示すものである。
【0056】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、前記配位子NNは、式
【化14】
[式中、R
1は、水素原子又はC
1~C
4直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を示し、
R
2及びR
3は、別々になって、同時に又は独立して、水素原子、C
1~C
4直鎖又は分枝鎖アルキル基を示し、かつ
HETは、1個、2個又は3個のC
1~C
4直鎖又は分枝鎖アルキル基により、又はベンジル基により任意に置換されている2-ピリジニル基、又は縮合又は非縮合のフェニル基もしくはインダニル基を示し、該基は、1個、2個又は3個のハロゲン、C
1~C
4アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、エステル基又はスルホネート基により置換されており、例えば2-ピリジル、2-キノリニル又はメチル-2-ピリジニルを示す]によって示される。
【0057】
式(B’’)の特定の実施形態に従って、R1は水素原子を示す。
【0058】
式(B’’)の特定の実施形態に従って、R2及びR3は,別々になって、同時に又は独立して、水素原子を示す。
【0059】
式(B’’)の特定の実施形態に従って、HETは、1個、2個又は3個のC1~C4直鎖又は分枝鎖アルキル基により任意に置換されている2-ピリジニル基、又は縮合もしくは非縮合フェニル基を示し、例えば2-ピリジル、2-キノリニル又はメチル-2-ピリジニルを示す。
【0060】
前記二座NN配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、式(B)、(B’)又は(B’’)のR1、R2、R3、R5又はR6の可能な置換基は、1個又は2個のi)ハロゲン、ii)C1~C5アルキル基もしくはアルコキシ基、又はiii)縮合もしくは非縮合フェニル基であり、該基は、1個、2個又は3個のハロゲン、C1~C4アルキル基又はアルコキシ基により任意に置換されている。
【0061】
N-N配位子の限定されない例として、次の式(A):
【化15】
において挙げたものであってよく、ここで該化合物は、適宜、光学活性の形で又はラセミ型である。
【0062】
好ましくは、配位子(NN)は、エタン-1,2-ジアミン、N,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエタン-1,2-ジアミン、1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジアミン、(1R,2R)-1,2-ジフェニルエタン-1,2-ジアミン、シクロヘキサン-1,2-ジアミン、(1R,2R)-シクロヘキサン-1,2-ジアミン、プロパン-1,3-ジアミン及びピリジン-2-イルメタンアミンからなる群から選択されてよい。
【0063】
本発明の実施形態のいずれか1つに従って、二座配位子(PP)は、式
【化16】
[式中、R
11及びR
12は、別々の場合に、同時に又は独立して、任意に置換されているC
1~C
6直鎖アルキル基、任意に置換されているC
3~C
6分枝鎖又は環状アルキル基、又は任意に置換されているC
6~C
10芳香族基を示し、かつ
Q’は、
- 式
【化17】
[式中、m’は1、2、3又は4であり、かつ
R
5'及びR
6'は、同時に又は独立して、水素原子、任意に置換されているC
1~C
6直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は任意に置換されているC
6~C
10芳香族基を示し、2個の別個のR
6'及び/又はR
5'基は、一緒になって、R
6'及び/又はR
5'基に結合する原子を含み、かつ任意に1個もしくは2個の追加の窒素原子もしくは酸素原子を含む任意に置換されているC
3~C
8飽和もくしは不飽和環を形成してよい]である基、又は
- 任意に置換されている、C
10~C
16メタロセンジイル、2,2’-ジフェニル、1,1’-ビナフタレン-2,2’-ジイル、ベンゼンジイル、ナフタレンジイル、2,3-ビシクロ[2:2:1]ヘプテ-5-エンジイル、4,6-フェノキサジンジイル、4,5-(9,9-ジメチル)-キサンテンジイル、4,6-10H-フェノキサジンジイル、2,2’-(オキシビス(2,1-フェニレン))又はビス(フェン-2-イル)エーテルの基
を示す]の化合物であってよい。
【0064】
前記したように、本発明の特定の実施形態に従って、(PP)についての「芳香族基又は環」に関しては、フェニル又はナフチル誘導体も意味する。
【0065】
前記したように、前記配位子(C)において、Ru原子を配位してよい原子は、PR11R12基のP原子である。したがって、前記R5'、R6'、R11、R12、Q’又は任意の他の基が、ヘテロ原子、例えばN又はOを含む場合には、該ヘテロ原子は、配位していないことも理解する。
【0066】
R5'、R6'、R11及びR12の可能な置換基は、1個~5個のハロゲン(特に前記置換基が芳香族部分上にある場合に)であるか、又は1個、2個もしくは3個のi)C1~C6直鎖、分枝鎖又は環状のアルキル基、アルコキシ基又はハロ炭化水素もしくはペルハロ炭化水素、アミン基、ii)COORb[式中、RbはC1~C6直鎖、分枝鎖又は環状アルキル基である]、iii)NO2基、又はiv)ベンジル基、又は縮合もしくは縮合していないフェニル基であり、ここで該基は、1個、2個又は3個のハロゲン、C1~C8アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、エステル基、スルホネート基、ハロ炭化水素又はペルハロ炭化水素基で任意に置換されている。「ハロ炭化水素又はペルハロ炭化水素」に関しては、例えばCF3又はCClH2のような基を意味する。
【0067】
明確性の理由から、及び前記したように、本発明の実施形態のいずれか1つにおいて、式(C)の2個の基が一緒になって環を形成する場合に、該環は、単環基又は二環基であってよい。
【0068】
前記二座PP配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、R11及びR12は、別々になって、同時に又は独立して、C3~C6分枝鎖もしくは環状アルキル基、又はC6~C10芳香族基、又は好ましくは任意に置換されているフェニル基を示す。
【0069】
前記二座PP配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、R11及びR12は、それぞれ、同時に又は独立して、C3~C6分枝鎖もしくは環状アルキル基、又は任意に置換されているフェニル基を示す。好ましくは、R11及びR12は、それぞれ、同時に又は独立して、イソプロピル、シクロヘキシル又はフェニル基を示す。
【0070】
前記二座PP配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、Q’は、
- 式
【化18】
[式中、m’は1、2、3又は4であり、かつ
R
5'及びR
6'は、同時に又は独立して、水素原子、C
1~C
4直鎖又は分枝鎖アルキル基、又はC
6~C
10芳香族基、又は好ましくは任意に置換されているフェニル基を示し、2個の別個のR
6'及び/又はR
5'基は、一緒になって、R
6'及び/又はR
5'基に結合する原子を含む、任意に置換されているC
4~C
6飽和又は不飽和環を形成してよい]の基、又は
- 任意に置換されている、C
10~C
16メタロセンジイル、2,2’-ジフェニル、ベンゼンジイル、ナフタレンジイル、1,1’-ビナフタレン-2,2’-ジイル、2,3-ビシクロ[2:2:1]ヘプテ-5-エンジイル、4,6-フェノキサジンジイル、4,5-(9,9-ジメチル)-キサンテンジイル、4,6-10H-フェノキサジンジイル、2,2’-(オキシビス(2,1-フェニレン))又はビス(フェン-2-イル)エーテルの基
を示す。
【0071】
前記二座PP配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、Q’は、任意に置換されている、直鎖C1~C4アルカンジイル基、1,2-もしくは1,1’-C10~C12メタロセンジイル、2,2’-ジフェニル、1,2-ベンゼンジイル、1,1’-ビナフタレン-2,2’-ジイル、又は1,8-もしくは1,2-ナフタレンジイル、4,6-10H-フェノキサジンジイル、又は2,2’-(オキシビス(2,1-フェニレン))の基を示してよい。好ましくは、Q’は、直鎖C1~C4アルカンジイル基、1,2-又は1,1’-C10~C12メタロセンジイル基を示してよい。
【0072】
本発明の特定の実施形態に従って、前記PP配位子は、式(C)の化合物であり、式中、R11及びR12は、同時に又は独立して、C3~C6分枝鎖もしくは環状アルキル基、又は任意に置換されているフェニル基を示し、かつ
Q’は、任意に置換されているC1~C4アルカンジイル基、C10~C12フェロセンジイル、2,2’-ジフェニル、1,1’-ビナフタレン-2,2’-ジイル、1,2-ベンゼンジイル又はナフタレンジイル基を示す。
【0073】
前記二座PP配位子の本発明の実施形態のいずれか1つに従って、前記配位子は、Q’、R11及びR12基の1個、2個又は3個が、飽和基(すなわちアルキル基又はアルカンジイル基)である化合物である。特に、Q’は、任意に置換されたC1~C4アルカンジイル基を示し、及び/又はR11及びR12は、分枝鎖又は環状アルキル基を示す。
【0074】
前記R11及びR12の可能な置換基はR1~R6について前記で記載したものである。前記Q’の可能な置換基はQについて前記で記載したものである。
【0075】
PP配位子の制限のない例として、次の式(B):
【化19】
【化20】
において挙げたものであってよく、ここで、該化合物は、適宜、光学活性の形で又はラセミ型であり、かつPhは、フェニル基を示し、Cyは、C
5~C
6シクロアルキル基を示し、i-Prはイソプロピル基を示す。前記ジホスフィンにおいて、Cy基をPh基に置き換えてもよく、逆であってもよいことも理解される。
【0076】
好ましくは、配位子(PP)は、ビス(ジシクロヘキシルホスファニル)メタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスファニル)エタン、1,2-ビス(ジフェニルホスファニル)エタン、1,2-ビス(ジフェニルホスファニル)エタン、1,3-ビス(ジイソプロピルホスファニル)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスファニル)ブタン、1,1’-ビス(ジフェニルホスファニル)フェロセン、1,1’-ビス(ジイソプロピルホスファニル)フェロセン、1,1’-ビス(ジシクロヘキシルホスファニル)フェロセン、2,2’-ビス(ジフェニルホスファンイル)-1,1’-ビフェニル、2,2’-ビス(ジシクロヘキシルホスファンイル)-1,1’-ビフェニル、(オキシビス(2,1-フェニレン))ビス(ジフェニルホスファン)及び4,6-ビス(ジフェニルホスファニル)-10H-フェノキサジンからなる群から選択されてよい。好ましくは、配位子(PP)は、1,2-ビス(ジフェニルホスファニル)エタン、1,3-ビス(ジイソプロピルホスファニル)プロパン、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスファニル)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスファニル)ブタン又は1,1’-ビス(ジフェニルホスファニル)フェロセンであってよい。
【0077】
前記配位子は、当該技術分野において及び当業者により周知である標準の一般的な方法を適用することにより得られる。前記配位子NN又はPPの多くは市販されてさえいる。
【0078】
式(1)の錯体は、一般に、以下の実施例において例示されるような方法でそれらの使用前に調製及び単離されるが、ルテニウムに対して1当量のPP配位子及び任意に1当量のNN配位子を使用して同一の前駆体[(COD)Ru(RCOO)2]n(国際出願番号第PCT/IB2011/052108号(PCT/IB2011/052108)において記載される)から、又はルテニウムに対して1当量のPP配位子を使用して(NN)(COD)Ru(RCOO)2錯体からin situで直接生成してもよい。さらに、前記錯体(1)は、公知のジアミンジホスフィンルテニウム錯体誘導体(PP)(NN)Ru(X)(Y)からin situで生成してもよく、ここで、X及びYは、過剰な酸RCOOH[ここでRは式(1)において提供した意味を有する]の添加によるジ-アルコキシド(例えばジ-イソプロポキシド)、ヒドリドボロヒドリド、カチオン性モノアセテート又はジカチオン性(又はそれらの混合物)錯体である。前記錯体(1)は、任意に塩素原子に関して化学量論量の銀塩(例えばAgOCOCH3、AgBF4、AgPF6、AgOSO2CF3)の存在下で過剰な酸RCOOH[ここでRは式(1)において提供した意味を有する]の添加によって、公知のジアミンジホスフィン塩素化ルテニウム錯体誘導体(PP)(NN)Ru(Cl)(Y)、例えばジクロリド又はカチオン性モノクロリド錯体からin situで生成されてもよい。
【0079】
前記方法は、プロトン性添加物の添加を含みうる。前記添加物は、反応の速度及び時に収率も増加させる驚くべき効果を有する。
【0080】
制限のない例として、前記プロトン性添加物は、式R13OH[式中、R13は、少なくとも1個のフッ素原子により任意に置換されているC1~C10アルキル又はアルケニル基である]のアルコールの中から選択されてよい。
【0081】
前記プロトン性添加物の制限のない例として、エタノール、プロパノール、シクロヘキサノール、イソプロパノール又はブタノールが挙げられうる。
【0082】
前記のように、本発明の方法は、酸又は塩基の非存在下でルテニウム錯体を使用した基質の水素化にある。典型的な方法は、基質とルテニウム錯体との、及び任意に溶媒及び任意にプロトン性添加物の混合物を含み、そして選択した圧力及び温度でかかる混合物を分子水素で処理することを含む。
【0083】
本方法の必須パラメータである本発明の錯体は、広範囲の濃度で反応媒体に添加されうる。制限のない例として、錯体の濃度値として、基質の量に対して、1ppm~10000ppmの範囲の濃度値を挙げられる。好ましくは、前記錯体の濃度は、10ppm~5000ppmである。さらにより好ましくは、前記錯体の濃度は、100ppm~2500ppmである。錯体の最適濃度が、当業者に公知であるように、後の性質に、基質の性質及び品質に、もしある場合には使用した溶媒の性質に、反応温度に、及びプロセス中に使用されるH2の圧力に、並びに所望の反応時間に依存することは言うまでもない。
【0084】
反応混合物に添加されるプロトン性添加物の有用な量は、比較的大量に含まれてよい。制限のない例として、式(1)の錯体に対して、1~10000モル当量、好ましくは10~2000モル当量の範囲を挙げられる。
【0085】
水素化反応を、溶媒の存在で又は溶媒の非存在下で実施してよい。溶媒を実践理論のために要求又は使用する場合に、水素化反応において現行のあらゆる溶媒を本発明の目的のために使用してよい。制限のない例は、C6~C10芳香族溶媒、例えばトルエン又はキシレン;C5~C12炭化水素溶媒、例えばヘキサン又はシクロヘキサン;C4~C8エーテル、例えばテトラヒドロフラン又はMTBE;C4~C10エステル、例えば酢酸エチル;C1~C2塩素化炭化水素、例えばジクロロメタン;C2~C6第一級又は第二級アルコール、例えばイソプロパノール又はエタノール;C2~C6極性溶媒、例えばアセトン;又はそれらの混合物を含む。特に、前記溶媒は、極性溶媒、例えばイソプロパノール又はエタノールであってよい。溶媒の選択は、錯体及び基質の性質の作用であり、当業者は、水素化反応を最適化するためにそれぞれの場合に最も簡便な溶媒をうまく選択することができる。
【0086】
本発明の水素化方法において、反応を、105Paから80×105Paの間(1~100bar)又は所望の場合にそれ以上であるH2圧力で実施してよい。さらに、当業者は、触媒量の作用、及び溶媒中の基質の希釈の作用として圧力を調整することができる。例として、5~50×105Pa(5~50bar)の典型的な圧力を挙げられる。
【0087】
水素化を実施できる温度は、0℃~200℃、より好ましくは50℃~150℃の範囲である。もちろん、当業者は、出発生成物及び最終生成物の融点及び沸点並びに反応又は変換の所望の時間の作用として好ましい温度を選択することもできる。
【0088】
実施例
本発明は、次の実施例によってさらに詳細に記載され、その際温度は摂氏度で示され、かつ略語は、当該技術分野において通常の意味を有する。
【0089】
以下に記載される全ての手法は、特に明記されない限り不活性雰囲気下で実施されている。水素化を、ステンレス鋼オートクレーブ中で実施した。H2ガス(99.99990%)をそのまま使用した。NMRスペクトルを、特に明記されない限り、Bruker AM-400(400.1MHzで1H、100.6MHzで13C{1H}、及び161.9MHzで31P)分光計で記録し、通常CD2Cl2中で300Kで測定した。化学シフトはppmで列挙する。
【0090】
実施例1
in situで生成した錯体[Ru(OPiv)2(PP)(en)](OPiv=ピバレート、en=エタン-1,2-ジアミン)を使用するイミンの接触水素化:
基質として(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミンの接触水素化のための一般的な手法:
アルゴン下で、10mlのバイアルを、[Ru(OPiv)2(cod)]2[H2O](3.3mg、0.004mmol、0.25mol%)及び対応するジホスフィン(0.009mmol、0.3mol%)、続いてEtOH(2ml)で満たした。バイアルをシールし、そして50℃で3時間アルミニウムブロック中で加熱した。そして、バイアルをアルゴン下に戻し、そしてEtOH(0.0125Mで1ml、0.0125mmol、0.4mol%)中エチレンジアミンの溶液を添加した。バイアルをシールし、そして67℃で2時間再度加熱した。そして、その溶液を、イミン(3mmol)を含むガラス管中にアルゴン下で添加し、そしてその管を、Biotage Endeavour(c)マルチリアクターに置いた。その管を、30barで水素ガスで加圧し、そして撹拌しながら(800rpm)100℃で加熱した。20時間後に、その系を室温まで冷却し、そして換気した。そして、アリコート(0.1ml)を取り、CH2Cl2(1ml)で希釈し、そしてGC(HP-1)によって分析した。
【0091】
表2からの種々のジホスフィンでの結果を表1において示す。
【0092】
【表1】
a) 表2に記載されている使用したジホスフィン。
b) 基質に対する錯体のppmでのモル比。
c) GC(HP-1)により測定した残存出発物質の量に従って算出した変換率。
d) GC(HP-1)により測定した所望のアミン量。
【0093】
【0094】
実施例2
in situで生成した錯体[Ru(OPiv)2(PP)(NN)](OPiv=ピバレート)を使用するイミンの接触水素化:
基質として(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミンの接触水素化のための一般的な手法:
アルゴン下で、10mlのバイアルを、事前に成形した[Ru(OPiv)2(L4)](4.5mg、0.006mmol)で、続いてEtOH(0.07Mで1ml、0.007mmol)中の対応するジアミンの溶液で満たした。さらにEtOH(1ml)を添加し、そしてバイアルをシールし、そして60℃で1.5時間アルミニウムブロック中で加熱した。そして、この溶液の一部(0.2ml、0.0006mmol、0.02mol%)を、イミン(3mmol)を含むガラス管に添加した。さらにEtOH(2.8ml)を添加し、そしてその管をBiotage Endeavour(c)マルチリアクターに置いた。その管を、30barで水素ガスで加圧し、そして撹拌しながら(800rpm)100℃で加熱した。16時間後に、その系を室温まで冷却し、そして換気した。そして、アリコート(0.1ml)を取り、CH2Cl2(1ml)で希釈し、そしてGC(HP-1)によって分析した。
【0095】
種々のルテニウム錯体及び表4からの種々のジアミンでの結果を表3において示す。
【0096】
【表3】
a) 表2に記載されている使用したジホスフィン。
b) 表4に記載されている使用したジアミン。
c) 基質に対する錯体のppmでのモル比。
d) GC(HP-1)により測定した残存出発物質の量に従って算出した変換率。
e) GC(HP-1)により測定した所望のアミン量。
【0097】
【0098】
実施例3
錯体[Ru(OPiv)2(L4)(N1)](OPiv=ピバレート)を使用するイミンの接触水素化:
基質として(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミンの接触水素化のための一般的な手法:
500mlステンレス鋼オートクレーブを、事前に形成した[Ru(OPiv)2(L4)(N1)](18.6mg、0.029mmol)、(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン(25.2g、142mmol)及び無水EtOH(88.2g)で満たした。オートクレーブを閉じ、水素ガスでパージし(5×10bar)、そして15barで加圧した。撹拌(800rpm)及び100℃で加熱して反応させた。7.5時間後に、オートクレーブを室温まで冷却した。その反応混合物を、オートクレーブから取り出し、そして幾らかのEtOHを添加してオートクレーブを洗い流した。反応混合物(137.7g)の試料(10.9g)を、減圧下(35mbar/40℃)で濃縮させて茶色の油状物(2.42g)を得て、それをKugel-Rohr(0.4mbar/208~224℃)で蒸留して、幾らかの残留物(0.15g)が残っている無色の油状物(1.93g)を得た。これは挿入収率96%に相応する。
【0099】
種々の温度及び水素ガス圧での結果を表5において示す。
【0100】
【表5】
a) 基質に対する錯体のppmでのモル比。
b) GC(HP-1)により測定した残存出発物質の量に従って算出した変換率。
c) GC(HP-1)により測定した所望のアミン量。
d) 蒸留後の単離収率。
【0101】
実施例4
錯体[Ru(OPiv)2(L4)](OPiv=ピバレート)を使用するイミンの接触水素化:
基質として(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミンの接触水素化のための一般的な手法:
500mlステンレス鋼オートクレーブを、事前に成形した[Ru(OPiv)2(L4)](34.1mg、0.059mmol)、(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン(50.5g、285mmol)及び無水EtOH(175.1g)で満たした。オートクレーブを閉じ、水素ガスでパージし(5×10bar)、そして25barで加圧した。撹拌(800rpm)及び100℃で加熱して反応させた。8時間後に、オートクレーブを室温まで冷却した。その反応混合物を、オートクレーブから取り出し、そして幾らかのEtOHを添加してオートクレーブを洗い流した。反応混合物(259.6g)の試料(10.6g)を、減圧下(20mbar/40℃)で濃縮させて茶色の油状物(2.31g)を得て、それをKugel-Rohr(0.2mbar/180~215℃)で蒸留して、幾らかの残留物(0.12g)が残っている無色の油状物(1.93g)を得た。これは挿入収率92%に相応する。
【0102】
実施例5
錯体[Ru(OPiv)2(L4)(N1)](OPiv=ピバレート)を使用するイミンの接触水素化:
表6からの種々のイミンの接触水素化のための一般的な手法
ガラス管を、[Ru(OPiv)2(L4)(N1)](9.9mg、0.015mmol、0.5mol%)、(E)-N-(4-メトキシフェネチル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン(738.8mg、3mmol)及び無水EtOH(3ml)で満たした。その管を、Biotage Endeavour(c)マルチリアクターに置き、そして15barで水素ガスで加圧し、そして撹拌しながら(800rpm)100℃で加熱した。16時間後に、その系を室温まで冷却し、そして換気した。そして、アリコート(0.1ml)を取り、CH2Cl2(1ml)で希釈し、そしてGC(HP-1)によって分析した。カラムクロマトグラフィー(SiO2、CH2Cl2/Et2O 4/1+Et3N 1%)によって精製して、所望の生成物(500mg、1.99mmol、66%)を得た。
【0103】
これらの条件を使用して、表6において記載したいくつかのイミンを水素化し、そしてその結果を表7に示す。
【0104】
【0105】
【表7】
a) 基質に対する錯体のppmでのモル比。
b) GC(HP-1)により測定した残存出発物質の量に従って算出した変換率。
c) GC(HP-1)により測定した所望のアミン量。
d) 精製後の単離収率。
e) THF中で実施した試験。
【0106】
実施例6
比較例 - 錯体[Ru(ビス(2-(ジフェニルホスファンイル)エチル)アミン)(CO)(H)(BH4)]を使用するイミンの接触水素化:
種々の溶媒中での基質として(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミンの接触水素化のための一般的な手法:
アルゴン下で、10ml管を、[Ru(ビス(2-(ジフェニルホスファンイル)エチル)アミン)(CO)(H)(BH4)](12.9mg、0.022mmol、1.1mol%)、(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン(355.6mg、2.01mol)及びTHF(3ml)で満たした。その管をBiotage Endeavour(c)マルチリアクターに置いた。その管を、20barで水素ガスで加圧し、そして撹拌しながら(800rpm)100℃で加熱した。20時間後に、その系を室温まで冷却し、そして換気した。そして、アリコート(0.1ml)を取り、CH2Cl2(1ml)で希釈し、そしてGC(HP-1)によって分析した。
【0107】
種々の溶媒での結果を表8において示す。
【0108】
【表8】
a) GC(HP-1)により測定した残存出発物質の量に従って算出した変換率。
b) GC(HP-1)により測定した所望のアミン量。
c) 100℃で20時間、H
2(80bar)で実施した試験。
【0109】
実施例7
錯体[Ru(OPiv)2(L8)](OPiv=ピバレート)を使用するイミンの接触水素化:
表9からの種々のイミンの接触水素化のための一般的な手法
60mlのステンレス鋼オートクレーブを、[Ru(OPiv)2(L8)](40.4mg、0.055mmol、0.5mol%)、(E)-N-フェニル-1-(2-チエニル)メタンイミン(2.048g、10.94mmol)及びMeOH(9ml)で満たす。オートクレーブを閉じ、そして50barで水素ガスで加圧し、そして撹拌しながら(800rpm)100℃で加熱した。26時間後に、その系を室温まで冷却し、そして換気した。そして、その反応混合物を減圧下(40℃/5mbar)で濃縮させて茶色の油状物(2.089g)を得た。1H-NMRによる分析は、変換の完了を示した。Kugel-Rohr蒸留(bp:160~170℃/0.4mbar)による精製は、白色の固体(1.855g、GC(HP-1):99.5%、収率89%)をもたらした。
【0110】
これらの条件を使用して、表9において記載されているいくつかのイミンを水素化し、その結果を表10に示す。
【0111】
【0112】
【表10】
a) 基質に対する錯体のppmでのモル比。
b) 粗反応混合物中でのGC(HP-1)により測定した残存出発物質の量に従って算出した変換率。
c) 所望のアミンのKugel-Rohr蒸留後の単離収率。
【0113】
実施例8
比較例 - 塩基を用いた及び用いない、種々のルテニウム錯体を使用した基質として(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミンの接触水素化
接触水素化のための一般的な手法:
10mlのガラス管を、[Ru(OPiv)2(L3)(N4)](1.4mg、0.015mmol、0.1mol%)、(E)-N-(1H-ピラゾール-5-イル)-1-(チオフェン-2-イル)メタンイミン(266.6mg、1.5mmol)及び無水EtOH(3ml)で満たした。その管を、Biotage Endeavour(c)マルチリアクターに置き、そして10barで水素ガスで加圧し、そして撹拌しながら(800rpm)100℃で加熱した。12時間後に、その系を室温まで冷却し、そして換気した。そして、アリコート(0.1ml)を取り、CH2Cl2(1ml)で希釈し、そしてGC(HP-1)によって分析した。これらの条件を使用して、いくつかのルテニウム錯体を比較し、そしてその結果を表11において示す。
【0114】
【表11】
a) GC(HP-1)により測定した残存出発物質の量に従って算出した変換率。
b) GC(HP-1)により測定した所望のアミン量。
c) 比較例;本発明の一部ではない錯体。
【0115】
水素化を、先行技術において報告されているように塩基の存在下で[Ru(Cl)2(L3)(N4)]で実施した場合に、1%のアミンのみを、12時間後に検出した(表11、エントリー2)。同様の条件で、本発明の錯体では、23%のアミンを検出した(表11、エントリー1)。本発明の水素化は、アミンの水素化を改善できる。