(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】5’キャップトリヌクレオチドまたはより高級のオリゴヌクレオチド化合物、ならびにRNAの安定化、タンパク質の発現および治療法におけるそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240110BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240110BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240110BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240110BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240110BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240110BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240110BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240110BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240110BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
A61P37/02
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K31/7088
(21)【出願番号】P 2020548976
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2019056502
(87)【国際公開番号】W WO2019175356
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/056595
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509146023
【氏名又は名称】バイオエヌテック エスエー
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH SE
【住所又は居所原語表記】An der Goldgrube 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】クーン, アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】村松 浩美
(72)【発明者】
【氏名】カリコ, カタリン
(72)【発明者】
【氏名】フェッサー, シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-501014(JP,A)
【文献】国際公開第2017/066797(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/053297(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/11
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12P 21/02
A61P 37/02
A61P 43/00
A61K 48/00
A61K 31/7088
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
式(I)
[式中、R
1は、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクリル、置換されていてもよいアリール、および置換されていてもよいヘテロアリールからなる群より選択され;
R
2およびR
3は、H、ハロ、OH、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より独立して選択されるか、またはR
2とR
3が一緒になってO-X-O[Xは、置換されていてもよいCH
2、置換されていてもよいCH
2CH
2、置換されていてもよいCH
2CH
2CH
2、置換されていてもよいCH
2CH(CH
3)、および置換されていてもよいC(CH
3)
2からなる群より選択される]を形成するか、またはR
2は、R
2が結合している環の4'位の水素原子と結合して-O-CH
2-または-CH
2-O-を形成し;
R
4およびR
6は、Oであり;
R
5は、Sであり;
R
7は、2~9個の塩基を有するモノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドであり;
R
8は、H、ハロ、または置換されていてもよいアルコキシであり;
nは1、2、または3であり;ならびに
Bはプリンまたはピリミジン塩基部分である]
による5'キャップ構造を有する5'キャップ化合物。
【請求項2】
R
1が、置換されていてもよいC
1-4アルキル、置換されていてもよいC
2-4アルケニル、および置換されていてもよいアリールからなる群より選択される、請求項1に記載の5'キャップ化合物。
【請求項3】
R
2およびR
3が、H、F、OH、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より独立して選択される、請求項1または2に記載の5'キャップ化合物。
【請求項4】
R
2が、H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシおよび2-メトキシエトキシからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項5】
R
8が、H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項6】
Bが、天然に存在するプリンまたはピリミジン塩基部分またはそれらの修飾形態である、請求項1~5のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項7】
Bが、グアニン、アデニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびそれらの修飾形態からなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項8】
Bが、グアニン、アデニンおよびそれらの修飾形態からなる群より選択される、請求項7に記載の5'キャップ化合物。
【請求項9】
前記修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分が、1つ以上のアルキル基で修飾されている、請求項7または8に記載の5'キャップ化合物。
【請求項10】
1つ以上のアルキル基が、メチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基からなる群より選択される、請求項9に記載の5'キャップ化合物。
【請求項11】
前記修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分が、N
7-アルキル-グアニン、N
6-アルキル-アデニン、5-アルキル-シトシン、5-アルキル-ウラシル、およびN(1)-アルキル-ウラシルからなる群より選択される、請求項7~10のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項12】
前記修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分が、N
7-C
1-4アルキル-グアニン、N
6-C
1-4アルキル-アデニン、5-C
1-4アルキル-シトシン、5-C
1-4アルキル-ウラシル、およびN(1)-C
1-4アルキル-ウラシルからなる群より選択される、請求項11に記載の5'キャップ化合物。
【請求項13】
前記修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分が、N
7-メチル-グアニン、N
6-メチル-アデニン、5-メチル-シトシン、5-メチル-ウラシル、およびN(1)-メチル-ウラシルからなる群より選択される、請求項11に記載の5'キャップ化合物。
【請求項14】
前記天然に存在するプリンまたはピリミジン塩基部分が、GまたはAである、請求項6~13のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項15】
BがGまたはAである、請求項1~8のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項16】
R
7が、2、3、4、5、または6個の塩基を有するモノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドである、請求項1~15のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項17】
R
7が、その5'末端を介してR
8が結合している環に結合している、請求項1~16のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項18】
R
7がリボモノヌクレオチドまたはリボオリゴヌクレオチドである、請求項1~17のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項19】
R
7が、2'位に遊離OH基を有するリボヌクレオチドである、請求項18に記載の5'キャップ化合物。
【請求項20】
R
7がリボオリゴヌクレオチドであり、前記リボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボース部分および前記リボオリゴヌクレオチドの5'末端のリボース部分の両方が2'位に遊離OH基を有する、請求項18に記載の5'キャップ化合物。
【請求項21】
R
7がリボオリゴヌクレオチドであり、少なくとも前記リボオリゴヌクレオチドの5'末端のリボースの2'位のOH基が、H、ハロ、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より選択される置換基で置換されており、ならびに前記リボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボースが2'位に遊離OH基を有する、請求項18に記載の5'キャップ化合物。
【請求項22】
前記モノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドとR
7が結合している前記環との間のヌクレオチド間結合が、ホスフェート、ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、および非ヌクレオチドリンカーからなる群より選択される、請求項1~21のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項23】
前記オリゴヌクレオチド中のヌクレオチドの間のヌクレオチド間結合(1つまたは複数)が、ホスフェート、ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、および非ヌクレオチドリンカーからなる群より選択される、請求項1~22のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項24】
前記置換基R
5を含むP原子における立体化学的配置が、β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのP
β原子における立体化学的配置に対応する、請求項1~23のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物を含む組成物またはキット。
【請求項26】
請求項1~24のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物で修飾されたRNA。
【請求項27】
請求項26に記載のRNAを含む組成物または細胞。
【請求項28】
前記RNAが、目的のペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項26に記載のRNAまたは請求項27に記載の組成物もしくは細胞。
【請求項29】
請求項28に記載のRNA、組成物または細胞を使用する工程を含む、目的のペプチドまたはタンパク質を生成する方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く。)。
【請求項30】
個体において目的のペプチドまたはタンパク質を発現する方法で使用するための、請求項28に記載のRNA、組成物もしくは細胞であって、前記方法は、前記RNA、組成物または細胞を個体に投与する工程を含む、RNA、組成物または細胞。
【請求項31】
治療法で使用するための、請求項28に記載のRNA、組成物または細胞。
【請求項32】
対象における疾患または障害を治療する方法で使用するための、請求項28に記載のRNA、組成物または細胞。
【請求項33】
疾患または障害の治療が、タンパク質補充療法、ゲノム操作、遺伝的再プログラミング、および免疫療法からなる群より選択される、請求項32に記載の使用のためのRNA、組成物もしくは細胞。
【請求項34】
前記RNA、組成物または細胞が、最大で1日1回、前記対象に投与される、請求項32もしくは33に記載の使用のためのRNA、組成物もしくは細胞。
【請求項35】
前記RNA、組成物または細胞が慢性患者または長期患者に、例えば少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも2年間、少なくとも3年間、少なくとも4年間、少なくとも5年間、または少なくとも10年間、例えば最大2週間、最大3週間、最大4週間、最大1ヶ月間、最大2ヶ月間、最大3ヶ月間、最大4ヶ月間、最大5ヶ月間、最大6ヶ月間、最大12ヶ月間、最大2年間、最大3年間、最大4年間、最大5年間、最大10年間まで、または前記患者の全生涯などの長期間にわたって投与される、請求項32~34のいずれか一項に記載の使用のためのRNA、組成物もしくは細胞。
【請求項36】
細胞におけるRNAの安定性を高めるおよび/または細胞におけるRNAの発現を増加させる方法に使用するための、請求項1~24のいずれか一項で定義された式(I)による構造を有するRNAであって、
前記方法は、
‐前記RNAに式(I)による構造を提供すること;および
‐式(I)による構造で修飾された前記RNAを前記細胞に移入すること
を含む、RNA。
【請求項37】
前記RNAに式(I)による構造を提供する工程が、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる、請求項36に記載の使用のためのRNA。
【請求項38】
RNAに5'キャップ構造を提供する方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く。)であって、請求項1~24のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物の存在下で鋳型核酸を使用して転写反応を行うことを含み、前記転写反応がインビトロで行われる方法。
【請求項39】
前記鋳型核酸がDNAである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記転写反応が、T3、T7およびSP6 RNAポリメラーゼからなる群より選択されるRNAポリメラーゼを使用して行われる、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
前記RNAが、目的のペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項38~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる、請求項38~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記目的のペプチドまたはタンパク質が、エリスロポエチンなどのサイトカイン;インテグリンなどの接着分子;免疫グロブリン;免疫学的に活性な化合物、例えば抗原、例えば腫瘍関連抗原、病原体関連抗原(ウイルス抗原、例えばインフルエンザウイルス(インフルエンザウイルスA型、B型、もしくはC型)、サイトメガロウイルス(CMV)、または呼吸器合抱体ウイルス(RSV)の1つ以上の抗原など)、アレルゲン、または自己抗原;バソプレシン、インスリンまたは成長ホルモンなどのホルモン;VEGFAなどの成長因子;単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素、およびラクターゼなどの酵素;成長因子受容体などの受容体;α1-アンチトリプシンなどのプロテアーゼ阻害剤;BAXなどのアポトーシス調節因子;FOXP3などの転写因子;p53などの腫瘍抑制タンパク質;サーファクタントタンパク質などの構造タンパク質;OCT4、SOX2、c-MYC、KLF4、LIN28、またはNANOGなどの再プログラミング因子;クラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)などのゲノム操作タンパク質;ならびにフィブリノゲンなどの血液タンパク質からなる群より選択される、請求項28に記載のRNA、組成物もしくは細胞、請求項30~34のいずれか一項に記載の使用のためのRNA、組成物もしくは細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5'キャップ化合物、特にトリヌクレオチドまたはより高級のホモログに関し、5'キャップ化合物は、第1のヌクレオチドと第2のヌクレオチドの間のリン酸架橋中に少なくとも1つのホスホロチオエート、ホスホロセレノエートおよび/またはボラノホスフェート部分を含み、第2のヌクレオチドはその2'位でブロックされている。特に、本発明は、特にワクチン接種の状況などの目的のペプチドまたはタンパク質を発現するためにRNAを使用する状況における、そのような5'キャップ化合物によるRNAの安定化に関し、そのような5'キャップ化合物で修飾されたRNAを含む医薬組成物などの組成物および細胞、ならびに本発明による組成物または細胞を使用して目的のペプチドまたはタンパク質を生成する方法を提供する。さらに、本発明は、治療法で使用するため、特にタンパク質補充療法、ゲノム操作、遺伝的再プログラミング、または免疫療法によって疾患または障害を治療する方法;細胞内のRNAの安定性を高める方法;細胞におけるRNAの発現を増加させる方法;およびRNAに5'キャップ構造を提供する方法において使用するためのRNA、組成物、または細胞を提供する。
【背景技術】
【0002】
核酸にコードされた治療薬という概念は、Wolff et al.(Science,247:1465-1468)が、インビトロ転写された(IVT)mRNAまたはプラスミドDNA(pDNA)のマウス骨格筋への直接筋肉内注射が、注射された筋肉でコードされたタンパク質の発現をもたらすことを示した1990年に着想された。この所見は、治療法、特に免疫療法における核酸の適用可能性をさらに調べるためのこの分野における重要な動機となった。最初は、感染性病原体に対するDNAベースのワクチンが研究された(Cox et al.,1993,J.Virol.67:5664-5667;Davis et al.,1993,Hum.Mol.Genet.2:1847-1851;Ulmer et al,1993,Science 259:1745-1749;Wang et al,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:4156-4160)。さらに、腫瘍に対する遺伝子治療における核酸の適用可能性、および特異的抗腫瘍免疫の誘導のための核酸の適用可能性が研究されている(Conry et al.,1994,Cancer Res.54:1164-1168;Conry et al.,1995,Gene Ther.2:59-65;Spooner et al.,1995,Gene Ther.2:173-180;Wang et al.,1995,Hum.Gene Ther.6:407-418)。
【0003】
核酸に基づく治療法は多くの利点を示す。例えば、核酸ベースの治療薬の製造は簡単で、比較的コストがかからず、DNAベースの治療薬は長期間の保存に対して安定である。しかし、特にDNAベースの治療薬は、抗DNA抗体の誘導(Gilkeson et al.,1995,J.Clin.Invest.95:1398-1402)および導入遺伝子の宿主ゲノムへの潜在的な組み込みなどの種々の潜在的な安全性リスクを示す。これは、細胞遺伝子の不活性化、導入遺伝子の制御不能な長期的発現、または腫瘍形成につながる可能性があり、したがって、erb-B2(Bargmann et al.,1986,Nature 319:226-230)およびp53(Greenblatt et al.,1994,Cancer Res.54:4855-4878)などの腫瘍形成能を有する腫瘍関連抗原には一般に適用されない。
【0004】
RNAの使用は、DNAベースの治療薬の潜在的なリスクを回避する魅力的な代替策を提供する。RNAに基づく治療法の利点の一部は、一過性の発現および非形質転換特性である。さらに、RNAは、導入遺伝子が発現されるために核内に輸送される必要がなく、さらには、宿主ゲノムに組み込まれることができない。
【0005】
IVT RNAによる治療法のために2つの異なる戦略が追求されており、どちらも様々な動物モデルで試験されて成功を収めている。RNAは、種々の経路によって患者に直接注入するか(Hoerr et al.,2000,Eur.J.Immunol.30:1-7)、またはインビトロで従来のトランスフェクション法を用いて樹状細胞にIVT-RNAをトランスフェクトし、その後トランスフェクトされた樹状細胞を患者に投与する(Heiser et al.,2000,J.Immunol.164:5508-5514)。RNAをトランスフェクトされた樹状細胞による免疫は、インビトロおよびインビボで抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導することが示されている(Su et al.,2003,Cancer Res.63:2127-2133;Heiser et al.,2002,J.Clin.Invest.109:409-417)。さらに、実験動物のリンパ節への裸のRNAの直接注入(結節内注入)は、おそらくマクロピノサイトーシスと呼ばれる過程によって、主に未成熟樹状細胞による前記RNAの取り込みをもたらすことが示されている(ドイツ特許第10 2008 061 522.6号参照)。RNAが翻訳され、発現されたタンパク質が抗原提示細胞の表面上のMHC分子に提示されて免疫応答を誘発すると想定されている。
【0006】
RNAに基づく治療法の主たる難点は、インビボでのRNAの不安定性である。5'末端からの長鎖RNAの分解は、m7GDPをRNA鎖から切断する、いわゆる「デキャッピング」酵素Dcp2によって細胞内で誘導される。したがって、切断は、RNAキャップのαリン酸基とβリン酸基の間で起こると想定されている。
【0007】
真核生物のメッセンジャーRNA(mRNA)は、5'末端に特定の構造、いわゆるキャップ構造を担持する。これは、RNAの最初に転写されたヌクレオチド、通常グアノシンに、5'-5'三リン酸架橋を介して付加されるN7-メチル化グアノシン部分からなる。したがって、この構造はしばしばm7GpppGと称される。m7GpppG構造は、中でも特にmRNAからコードされたタンパク質への翻訳に必要である。
【0008】
高等真核生物における細胞mRNAは、m7Gppp部分の後の最初のヌクレオチドの2'-0位でのメチル化によって5'末端でさらに修飾されている。この構造はキャップ1(非メチル化形態のキャップ0に対して)と呼ばれる。この修飾は40年以上前に記述されたが、その機能は最近までよく理解されないままであった。2010年に、キャップの2'-0メチル化により、IFITタンパク質、特にIFIT1などのキャップ0構造を認識するタンパク質による認識が回避されることが初めて報告された。IFIT1のキャップ0 mRNAへの結合は、キャップ結合翻訳開始eIF4Eの結合を損ない、翻訳効率の低下をもたらす。
【0009】
合成mRNAは、通常、ファージRNAポリメラーゼ(主にT7またはSP6 RNAポリメラーゼ)を使用して、適切なDNA鋳型(例えば線状化プラスミドDNA)からインビトロ転写によって生成される。キャップされたmRNAは、過剰のキャップジヌクレオチド、例えばm7GpppGを反応に添加することによるインビトロ転写によって得ることができる。しかし、キャップジヌクレオチドm7GpppGは、インビトロ転写中に2つの方向に組み込まれることができ、その一方だけが機能性であると報告された。そのため、m7グアノシンの2'または3'位のいずれかでの修飾のために逆方向に組み込まれることができない抗リバースキャップ類似体(ARCA)が開発された。その結果、ウサギ網状赤血球溶解物および樹状細胞において、ARCAでキャップされたmRNAは、m7GpppGでキャップされたRNAと比較して優れた翻訳効率を示すことが実証された。
【0010】
過去10年間に、デキャッピング酵素に対してmRNAを安定化し、eIF4Eに対する親和性を高めることによって翻訳効率を増強するために、ARCAはさらに修飾された。修飾には、リン酸架橋中の架橋酸素および非架橋酸素での様々な置換、リン酸基伸長、およびグアノシン修飾が含まれる。この課題は、デキャッピング酵素Dcp1-Dcp2に対して不活性であるキャップ類似体が必ずしも開始因子の良好な基質であるとは限らず、結果として不十分にしか翻訳されないという事実によって複雑になる。しかし、βリン酸塩(ベータ-S-ARCAまたはβ-S-ARCA)でのホスホロチオエート修飾キャップ類似体の使用は、ARCAまたはm7GpppGと比較して、例えば樹状細胞における増加した翻訳効率および延長した半減期の両方を有するmRNAをもたらした。β-S-ARCAは、硫黄修飾によるP立体中心の導入により、HPLCでの溶出パターンに基づいてD1およびD2と称される2つのジアステレオマーの混合物として合成される。興味深いことに、ジアステレオマーは、特に酵素的切断(Dcp2切断など)に対する抵抗性および/またはeIF4Eへの結合に関して、異なる生物学的性質を有することが示された。過去にはm7GpppGが一般的に使用されたが、ARCAキャップmRNAはますます前臨床試験へ、そしてまた現在、臨床試験へと進みつつある。
【0011】
キャップジヌクレオチドの2'-O位の修飾はファージRNAポリメラーゼによる取り込みを阻害するので(ARCAで好都合に使用されるように)、キャップ0構造だけがキャップジヌクレオチドを使用してインビトロで共転写的に付加されることができる。インビトロ転写されたRNAのキャッピングは、例えばワクシニアウイルスからの対応する酵素を使用して転写後に達成することもできる。ここでは、キャップ1構造を得ることができる。しかし、その場合、合成工程は2段階、すなわち転写とそれに続くキャッピングからなり、より時間と労力を要するものになる。さらに、RNAの5'配列こそが、酵素によるキャッピング効率に強い影響を及ぼす。また、この方法は、酵素の特異性のために非修飾キャップに限定される。したがって、上記のような有益な修飾(例えばホスホロチオエート置換)のいずれも、この方法では組み込むことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】ドイツ特許第10 2008 061 522.6号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】Wolff et al.,Science,247:1465-1468
【文献】Cox et al.,1993,J.Virol.67:5664-5667
【文献】Davis et al.,1993,Hum.Mol.Genet.2:1847-1851
【文献】Ulmer et al,1993,Science 259:1745-1749
【文献】Wang et al,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:4156-4160
【文献】Conry et al.,1994,Cancer Res.54:1164-1168
【文献】Corny et al.,1995,Gene Ther.2:59-65
【文献】Spooner et al.,1995,Gene Ther.2:173-180
【文献】Wang et al.,1995,Hum.Gene Ther.6:407-418
【文献】Gilkeson et al.,1995,J.Clin.Invest.95:1398-1402
【文献】Bargmann et al.,1986,Nature 319:226-230
【文献】Greenblatt et al.,1994,Cancer Res.54:4855-4878
【文献】Hoerr et al.,2000,Eur.J.Immunol.30:1-7
【文献】Heiser et al.,2000,J.Immunol.164:5508-5514
【文献】Su et al.,2003,Cancer Res.63:2127-2133
【文献】Heiser et al.,2002,J.Clin.Invest.109:409-417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
要するに、RNAは特に臨床応用に適する。しかし、治療法におけるRNAの使用は、特に細胞質におけるRNAの短い半減期、および/またはIFITタンパク質、特にIFIT1などのキャップ0構造を認識するタンパク質によるRNAの認識(それによりeIF4EへのRNAの結合が損なわれる)によって主に制限され、これらの両方が低いおよび/または不十分なタンパク質発現をもたらす。したがって、RNA療法のためには、細胞におけるRNAの安定性および/またはRNA発現を増加させることが特に重要である。そこで、RNA療法に特に適したRNAを提供すること、すなわち特に細胞中でRNAを安定化するおよび/またはRNA発現を増加させる手段を提供することが本発明の目的である。この技術的問題は、特許請求の範囲の主題により本発明に従って解決される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様では、本発明は、式(I):
【化1】
式(I)
[式中、R
1は、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクリル、置換されていてもよいアリール、および置換されていてもよいヘテロアリールからなる群より選択され;
R
2およびR
3は、H、ハロ、OH、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より独立して選択されるか、またはR
2とR
3が一緒になってO-X-O[Xは、置換されていてもよいCH
2、置換されていてもよいCH
2CH
2、置換されていてもよいCH
2CH
2CH
2、置換されていてもよいCH
2CH(CH
3)、および置換されていてもよいC(CH
3)
2からなる群より選択される]を形成するか、またはR
2は、R
2が結合している環の4'位の水素原子と結合して-O-CH
2-または-CH
2-O-を形成し;
R
4およびR
6は、O、S、Se、およびBH
3からなる群より独立して選択され;
R
5は、S、Se、およびBH
3からなる群より選択され;
R
7は、2~9個の塩基を有するモノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドであり;
R
8は、H、ハロ、または置換されていてもよいアルコキシであり;
nは1、2、または3であり;ならびに
Bはプリンまたはピリミジン塩基部分である]
による5'キャップ構造を有する5'キャップ化合物を提供する。
【0016】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の5'キャップ化合物を含む組成物またはキットを提供する。そのようなキットまたは組成物は、本発明の5'キャップ構造を有するRNAを提供するために使用され得る。
【0017】
第3の態様では、本発明は、第1の態様の5'キャップ化合物で修飾されたRNAを提供する。
【0018】
第4の態様では、本発明は、第3の態様のRNAを含む組成物または細胞を提供する。
【0019】
本発明の第3および第4の態様の特に好ましい実施形態では、RNAは、目的のペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列をさらに含む。
【0020】
第5の態様では、本発明は、第3の態様の特に好ましい実施形態のRNAまたは第4の態様の特に好ましい実施形態の組成物もしくは細胞を使用する工程を含む、目的のペプチドまたはタンパク質を生成する方法を提供する。
【0021】
第6の態様では、本発明は、第3の態様の特に好ましい実施形態のRNAまたは第4の態様の特に好ましい実施形態の組成物もしくは細胞を個体に投与する工程を含む、前記個体において目的のペプチドまたはタンパク質を発現する方法を提供する。
【0022】
第7の態様では、本発明は、治療法において使用するための、第3の態様の特に好ましい実施形態のRNAまたは第4の態様の特に好ましい実施形態の組成物もしくは細胞を提供する。
【0023】
第8の態様では、本発明は、第3の態様の特に好ましい実施形態のRNAまたは第4の態様の特に好ましい実施形態の組成物もしくは細胞を対象に投与する工程を含む、前記対象における疾患または障害を治療する方法を提供する。疾患または障害の治療は、好ましくはタンパク質補充療法、ゲノム操作、遺伝的再プログラミング、および免疫療法からなる群より選択される。
【0024】
第9の態様では、本発明は、対象における疾患または障害を治療する方法で使用するための、第3の態様の特に好ましい実施形態のRNAまたは第4の態様の特に好ましい実施形態の組成物もしくは細胞を提供する。疾患または障害の治療は、好ましくはタンパク質補充療法、ゲノム操作、遺伝的再プログラミング、および免疫療法からなる群より選択される。
【0025】
第10の態様では、本発明は、細胞(未成熟抗原提示細胞など)におけるRNAの安定性を高めるおよび/または細胞(未成熟抗原提示細胞など)におけるRNAの発現を増加させる方法を提供し、前記方法は、第1の態様で定義された式(I)による構造を有する前記RNAを提供すること;および式(I)による構造で修飾された前記RNAを細胞に移入することを含む。
【0026】
第11の態様では、本発明は、5'キャップ構造を有するRNAを提供する方法を提供し、前記方法は、第1の態様の5'キャップ化合物の存在下で鋳型核酸を使用して転写反応を行うことを含む。
【0027】
さらなる態様では、本発明は以下を提供する:
-個体において免疫応答を誘発する方法であって、第3の態様の好ましい実施形態のRNAまたは第4の態様の好ましい実施形態の組成物(好ましくはワクチン組成物の形態)もしくは細胞(好ましくは未成熟抗原提示細胞)を前記個体に投与する工程を含む方法;一実施形態では、この方法は、インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、サイトメガロウイルス(CMV)、または呼吸器合抱体ウイルス(RSV)などのウイルスに対する免疫応答を誘発するためのものである;
-抗原提示細胞の表面に目的の抗原を提示するMHC分子の一部を増加させる方法であって、前記目的の抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、第1の態様で定義された式(I)による構造で修飾されているRNAを提供すること;および式(I)による構造で修飾された前記RNAを未成熟抗原提示細胞に移入することを含む方法;一実施形態では、目的の抗原は、ウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなど)の抗原またはその抗原ペプチドである;
-免疫エフェクタ細胞を刺激および/または活性化する方法であって、目的の抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、第1の態様で定義された式(I)による構造で修飾されたRNAを提供すること;式(I)による構造で修飾された前記RNAを未成熟抗原提示細胞に移入すること;および抗原提示細胞を免疫エフェクタ細胞と接触させることを含む方法;一実施形態では、目的の抗原は、ウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなど)の抗原またはその抗原ペプチドである;
-個体において免疫応答を誘導する方法であって、目的の抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、第1の態様で定義された式(I)による構造で修飾されたRNAを提供すること;および式(I)による構造で修飾された前記RNAを前記個体に投与することを含む方法;一実施形態では、目的の抗原は、ウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなど)の抗原またはその抗原ペプチドである;ならびに
-個体において免疫応答を誘導する方法であって、目的の抗原またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、第1の態様で定義された式(I)による構造で修飾されたRNAを提供すること;式(I)による構造で修飾された前記RNAを未成熟な抗原提示細胞に移入すること;および抗原提示細胞を前記個体に投与することを含む方法;一実施形態では、目的の抗原は、ウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなど)の抗原またはその抗原ペプチドである。
【0028】
本発明のさらなる態様ならびに利点および新規の特徴は、任意で付属の図面と併せて以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の例示的な5'キャップ化合物、m
2
7,2'-OGpp
Spm
2'-OGpG(以下「化合物1」;OR=OCH
3)の合成のためのP-イミダゾリド前駆体(Im-pm
2'-OGpG)の合成。
【
図2】化合物1(m
2
7,2'-OGpp
Spm
2'-OGpG;OR=OCH
3)の合成(A)およびHRMSスペクトル(B)。
【
図3】異なる5'キャップ類似体で共転写的にキャップされたRNAの翻訳可能性の比較。D1 β-S-ARCA:β-S-ARCAのD1ジアステレオマー;D2 β-S-ARCA;β-S-ARCAのD2ジアステレオマー;D1化合物1;化合物1のD1ジアステレオマー;D2化合物1;化合物1のD2ジアステレオマー。それぞれのキャップ構造を含むルシフェラーゼRNAをhiDCにエレクトロポレーションした。ルシフェラーゼ活性を72時間にわたって記録した。
【
図4】異なる5'キャップ類似体で修飾されたRNAのインビボ翻訳。D1/D2 β-S-ARCA RNA:β-S-ARCAのD1またはD2ジアステレオマーのいずれかを使用してIVTによってRNAを調製した;D1/D2化合物1 RNA:化合物1のD1またはD2ジアステレオマーのいずれかを使用してIVTによってRNAを調製した;酵素的キャップ0/キャップ1 RNA:キャップ類似体の非存在下でIVTによってRNAを調製し、次に2番目の工程では、ワクシニアキャッピング酵素単独を使用して(酵素的キャップ0 RNA)またはメチルトランスフェラーゼと共にワクシニアキャッピング酵素を使用して(酵素的キャップ1 RNA)、酵素的にキャップした。
図4は、投与後6時間(A)、24時間(B)または48時間(C)のルシフェラーゼシグナルを示す。
【
図5】キャップ0構造(A)またはキャップ1構造(B)を有する異なる5'キャップ類似体で修飾されたマウスエリスロポエチン(mEPO)RNAのインビボ翻訳。ARCA G:ARCA Gで共転写的にキャップされたRNA;D1:β-S-ARCAのD1ジアステレオマーで共転写的にキャップされたRNA;Eキャップ0:キャップ0構造を提供する酵素的にキャップされたRNA;ARCA G+Eキャップ1:ARCA Gで共転写的にキャップされ、次にキャップ1構造を提供するワクシニアキャッピング酵素およびワクシニアメチルトランスフェラーゼを使用して酵素的にキャップされたRNA;D1+Eキャップ1:β-S-ARCAのD1ジアステレオマーで共転写的にキャップされ、次にキャップ1構造を提供するワクシニアキャッピング酵素およびワクシニアメチルトランスフェラーゼを使用して酵素的にキャップされたRNA;Eキャップ1:キャップ1構造を提供する酵素的にキャップされたRNA。1-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)を含むmEPO mRNA(3μg)をTransIT(登録商標)で製剤化し、マウスに腹腔内注射した。
図5は、注射後6時間、24時間、48時間または72時間のマウスの血漿中のEPOレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明をさらに以下でより詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0031】
以下において、本発明の要素をより詳細に説明する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、それらは、追加の実施形態を創製するために任意の方法および任意の数で組み合わせてもよいことが理解されるべきである。様々に説明される例および好ましい実施形態は、本発明を明確に記述される実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明確に記述される実施形態を任意の数の開示される要素および/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記述されるすべての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、本出願の説明によって開示されていると見なされるべきである。例えば、ある好ましい実施形態ではR1がメチルであり、別の好ましい実施形態ではR5がSである場合、ある好ましい実施形態では、R1はメチルであり、R5はSである。同様に、ある好ましい実施形態ではR7が*pm2'-OGpNであり、別の好ましい実施形態ではR8がOCH3である場合、ある好ましい実施形態では、R7は*pm2'-OGpNであり、R8はOCH3である。
【0032】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)」,H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Koelbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH-4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
【0033】
本発明の実施は、特に指示されない限り、当技術分野の文献(例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989参照)で説明されている化学、生化学、および組換えDNA技術の従来の方法を用いる。
【0034】
本明細書および以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に必要とされない限り、「含む」という語および「含むこと」などの変形は、記述されるメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、いかなる他のメンバー、整数もしくは工程またはメンバー、整数もしくは工程の群の除外も意味しないと理解される。「から本質的になる」という用語は、本質的に重要な他のメンバー、整数、または工程を除外することを意味する。「含む」という用語は、「から本質的になる」という用語を包含し、次に、「からなる」という用語を包含する。したがって、本出願における各出現ごとに、「含む」という用語は、「から本質的になる」または「からなる」という用語で置き換えられてもよい。同様に、本出願における各出現ごとに、「から本質的になる」という用語は、「からなる」という用語で置き換えられてもよい。
【0035】
本発明の説明に関連して(特に特許請求の範囲に関連して)使用される「1つの」および「その」という用語および類似の言及は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に属するそれぞれ別々の値を個別に言及することの簡略方法として機能することが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各個別の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特許請求される本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に不可欠な、特許請求されていない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0036】
本明細書の本文全体を通していくつかの資料を引用する。本明細書で引用される資料(すべての特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書、指示書等を含む)の各々は、上記または下記のいずれでも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明のためにそのような開示に先行する権利を有さないことの承認と解釈されるべきではない。
【0037】
本発明によれば、「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、それらの組合せ、およびそれらの修飾形態を含む。この用語には、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子、および化学的に合成された分子が含まれる。本発明によれば、核酸は、一本鎖または二本鎖の線状または共有結合閉環分子として存在し得る。本発明によれば、核酸は単離することができる。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が、(i)例えばDNAについてはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってもしくはRNAについてはインビトロ転写(例えばRNAポリメラーゼを使用して)によって、インビトロで増幅された、(ii)クローニングによって組換え生産された、(iii)例えば切断およびゲル電気泳動による分離によって精製された、または(iv)例えば化学合成によって合成されたことを意味する。
【0038】
本発明の文脈において、「DNA」という用語は、デオキシリボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全にまたは実質的にデオキシリボヌクレオチド残基からなる分子に関する。「デオキシリボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位のヒドロキシル基を欠くヌクレオチドに関する。「DNA」という用語は、部分的または完全に精製されたDNA、本質的に純粋なDNA、合成DNA、および組換え生成されたDNAなどの単離されたDNAを含み、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するDNAとは異なる修飾されたDNAを含む。そのような改変は、例えばDNAの末端(一方もしくは両方)または内部への、例えばDNAの1つ以上のヌクレオチドにおける非ヌクレオチド物質の付加を含み得る。DNA分子中のヌクレオチドはまた、非天然のヌクレオチドまたは化学的に合成されたヌクレオチドなどの非標準のヌクレオチドも含み得る。これらの変更されたDNAは、類似体または天然に存在するDNAの類似体と称され得る。
【0039】
本発明の文脈において、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全にまたは実質的にリボヌクレオチド残基からなる分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、部分的または完全に精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、および組換えで生成されたRNAを含み、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するRNAとは異なる修飾されたRNAを含む。そのような改変は、例えばRNAの末端(一方もしくは両方)または内部への、例えばRNAの1つ以上のヌクレオチドにおける非ヌクレオチド物質の付加を含み得る。RNA分子中のヌクレオチドは、非天然のヌクレオチドまたは化学的に合成されたヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドなどの非標準のヌクレオチドも含み得る。これらの改変/修飾ヌクレオチドは、天然に存在するヌクレオチドの類似体と称され得、そのような改変/修飾ヌクレオチドを含む対応するRNA(すなわち改変/修飾RNA)は、天然に存在するRNAの類似体と称され得る。分子中のリボヌクレオチド残基の含量が、分子中のヌクレオチド残基の総数に基づき、少なくとも40%(例えば少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%)である場合、分子は「実質的にリボヌクレオシド残基からなる」。分子中のヌクレオチド残基の総数は、すべてのヌクレオチド残基(ヌクレオチド残基が標準(すなわち天然に存在する)ヌクレオチド残基であるかその類似体であるかに関わらず)の合計である。本発明の文脈において、RNA、好ましくはmRNAは、本発明の5'キャップ化合物で修飾されており、好ましくは、以下に記載されるように、RNAをさらに安定化するために1つ以上のさらなる修飾を含む。
【0040】
本発明によれば、RNAは、少なくとも20、好ましくは少なくとも50、特に少なくとも100ヌクレオチド、例えば100~15,000、より好ましくは50~10,000、より好ましくは100~5,000、特に200~1,000ヌクレオチドの長さを有する。ペプチドまたはタンパク質をコードするRNA(特にmRNA)は、好ましくは少なくとも50、より好ましくは少なくとも150、特に少なくとも200ヌクレオチド、例えば100~15,000、より好ましくは50~10,000、より好ましくは100~5,000、特に200~1,000ヌクレオチドの長さを有する。
【0041】
本発明によれば、「RNA」は、mRNA、tRNA、rRNA、snRNA、ssRNA、dsRNA、および阻害性RNAを含み、好ましくはmRNAである。
【0042】
本発明によれば、「dsRNA」は二本鎖RNAを意味し、2つの部分的または完全に相補的な鎖を有するRNAである。
【0043】
本発明によれば、「mRNA」という用語は「メッセンジャーRNA」を意味し、DNA鋳型を使用することによって生成され得、ペプチドまたはタンパク質をコードし得る「転写物」に関する。典型的には、mRNAは、5'UTR、ペプチド/タンパク質コード領域、および3'UTRを含む。本発明の文脈において、mRNAは、好ましくはDNA鋳型からのインビトロ転写(IVT)によって生成される。上記のように、インビトロ転写の方法は当業者に公知であり、様々なインビトロ転写キットが市販されている。
【0044】
mRNAは一本鎖であるが、mRNAの一部が折りたたまれ、それ自体と対合して二重らせんを形成することを可能にする自己相補的な配列を含み得る。
【0045】
mRNAは、細胞内およびインビトロで限られた半減期しか有さない。したがって、本発明によれば、RNAの安定性および/または翻訳効率は、必要に応じて変更し得る。例えば、mRNAは、mRNAの安定化作用を有するおよび/または翻訳効率を増加させる1つ以上の修飾によって安定化され、その翻訳が増加し得る。そのような修飾は、例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2007/036366号に記載されている。本発明によるmRNAの発現を増加させるために、コード領域内、すなわち発現されるペプチドまたはタンパク質をコードする配列内で、好ましくは発現されるペプチドまたはタンパク質の配列を変化させずに、例えばGC含量を増加させてmRNAの安定性を高め、コドン最適化を実施し、したがって細胞中での翻訳を増強するようにmRNAを修飾し得る。
【0046】
RNAは、細胞から単離することができ、DNA鋳型から作製することができ、または当技術分野で公知の方法を使用して化学的に合成することができる。好ましい実施形態では、RNAは、DNA鋳型からインビトロで合成される。1つの特に好ましい実施形態では、RNA、特にmRNAは、DNA鋳型からのインビトロ転写によって生成される。インビトロ転写の方法論は当業者に公知である;例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989参照。さらに、様々なインビトロ転写キットが、例えばThermo Fisher Scientific(TranscriptAid(商標)T7キット、MEGAscript(登録商標)T7キット、MAXIscript(登録商標)など)、New England BioLabs Inc.(HiScribe(商標)T7キット、HiScribe(商標)T7 ARCA mRNAキットなど)、Promega(RiboMAX(商標)、HeLaScribe(登録商標)、Riboprobe(登録商標)システムなど)、Jena Bioscience(SP6またはT7転写キットなど)、およびEpicentre(AmpliScribe(商標)など)から市販されている。1つの特に好ましい実施形態では、RNAは、インビトロ転写されたRNA(IVT RNA)である。修飾されたRNAを提供するために、対応する修飾されたヌクレオチド、例えば修飾された天然に存在するヌクレオチド、非天然に存在するヌクレオチドおよび/または修飾された非天然に存在するヌクレオチドを合成(好ましくはインビトロ転写)中に組み込むことができ、または転写後にRNAで修飾を行うおよび/またはRNAに修飾を付加することができる。
【0047】
本発明によるRNAは、少なくとも本発明の5'キャップ化合物で修飾されている。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明によるRNAは、ペプチドまたはタンパク質、好ましくは薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードする核酸配列を含み、特に細胞または対象に移入された場合に、前記ペプチドまたはタンパク質を発現することができる。したがって、本発明によるRNAは、好ましくは、ペプチドまたはタンパク質をコードする、好ましくは薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードするコード領域(オープンリーディングフレーム(ORF))を含む。これに関して、「オープンリーディングフレーム」または「ORF」は、開始コドンで始まり、終止コドンで終わる、連続する一続きのコドンである。
【0049】
本発明によれば、「薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質」という用語は、ペプチドまたはタンパク質の発現が、例えば疾患または障害の症状を改善するのに有益である個体の治療に使用できるペプチドまたはタンパク質を意味する。好ましくは、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、治癒的または緩和的特性を有し、疾患または障害の1つ以上の症状を改善する、緩和する、軽減する、逆転させる、発症を遅延させるまたは重症度を軽減するために投与され得る。好ましくは、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、治療有効量で個体に投与された場合に、個体の状態または病状に対してプラスのまたは有利な効果を及ぼす。薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、予防的特性を有することができ、疾患または障害の発症を遅延させるため、またはそのような疾患または障害の重症度を軽減するために使用され得る。「薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質」という用語は、タンパク質またはポリペプチド全体を含み、その薬学的に活性な断片も指すことができる。この用語はまた、ペプチドまたはタンパク質の薬学的に活性な類似体を含み得る。
【0050】
薬学的に活性なペプチドおよびタンパク質の特定の例には、サイトカイン、接着分子(特にインテグリン)、免疫グロブリン(例えば抗体)、免疫学的に活性な化合物(例えば抗原)、ホルモン、成長因子、プロテアーゼ阻害剤(例えばα1-アンチトリプシン)、酵素(例えば単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素、およびラクターゼ)、受容体(例えば成長因子受容体)、アポトーシス調節因子、転写因子、腫瘍抑制タンパク質、構造タンパク質、再プログラミング因子、ゲノム操作タンパク質、および血液タンパク質が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
本発明によれば、「サイトカイン」という用語は、約5~20kDaの分子量を有し、細胞シグナル伝達(例えばパラクリン、内分泌、および/またはオートクリンシグナル伝達)に関与するタンパク質に関する。特に、サイトカインは、放出された場合、放出された場所周辺の細胞の挙動に影響を及ぼす。サイトカインの例には、リンホカイン、インターロイキン、ケモカイン、インターフェロン、および腫瘍壊死因子(TNF)が含まれる。本出願によれば、サイトカインはホルモンまたは成長因子を含まない。サイトカインは、(i)通常、ホルモンよりもはるかに多様な濃度で作用し、および(ii)一般に広範囲の細胞によって作られる(ほぼすべての有核細胞がサイトカインを産生できる)という点でホルモンとは異なる。インターフェロンは通常、抗ウイルス活性、抗増殖活性、および免疫調節活性を特徴とする。インターフェロンは、調節される細胞表面のインターフェロン受容体に結合することによって細胞内の遺伝子の転写を変化させ、調節するタンパク質であり、それにより細胞内のウイルス複製を防止する。インターフェロンは2つのタイプに分類することができる。IFN-γは唯一のII型インターフェロンである;他はすべてI型インターフェロンである。I型とII型のインターフェロンは、遺伝子構造(II型インターフェロン遺伝子は3つのエクソンを有し、I型は1つのエクソンを有する)、染色体位置(ヒトでは、II型は12番染色体に位置し、I型インターフェロン遺伝子は9番染色体に連鎖し、その上に存在する)、およびそれらが産生される組織の種類(I型インターフェロンは遍在的に合成され、II型はリンパ球によって合成される)が異なる。I型インターフェロンは細胞受容体への結合を互いに競合的に阻害するが、II型インターフェロンは異なる受容体を有する。本発明によれば、「インターフェロン」または「IFN」という用語は、好ましくはI型インターフェロン、特にインターフェロンαおよびインターフェロンβに関する。サイトカインの特定の例には、エリスロポエチン(EPO)、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球‐マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)、骨形成タンパク質(BMP)、インターフェロンアルファ(IFNα)、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(INFγ)、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン10(IL-10)、およびインターロイキン11(IL-11)が含まれる。本発明によれば、「ホルモン」という用語は、腺によって産生されるシグナル伝達分子のクラスに関し、シグナル伝達は通常、(i)特定の組織におけるホルモンの合成;(ii)貯蔵および分泌;(iii)その標的へのホルモンの輸送;(iv)受容体によるホルモンの結合;(v)シグナルの中継と増幅;ならびに(vi)ホルモンの分解の工程を含む。ホルモンは、(1)通常、あまり多様でない濃度で作用し、および(2)一般に特定の種類の細胞によって作られるという点でサイトカインとは異なる。ホルモンの特定の例には、インスリン、バソプレシン、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺ホルモン、成長ホルモン(ヒト成長ホルモンまたはウシソマトトロピンなど)、オキシトシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、グルカゴン、ソマトスタチン、コレシストキニン、ガストリン、レプチン、カテコールアミン、ゴナドトロピン、栄養ホルモン、およびドーパミンが含まれる。一実施形態では、「ホルモン」は、ペプチドまたはタンパク質ホルモン、例えばインスリン、バソプレシン、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺ホルモン、成長ホルモン(ヒト成長ホルモンまたはウシソマトトロピンなど)、オキシトシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、グルカゴン、ソマトスタチン、コレシストキニン、ガストリン、およびレプチンである。
【0052】
本発明によれば、「接着分子」という用語は、細胞の表面に位置し、細胞と他の細胞または細胞外マトリックス(ECM)との結合に関与するタンパク質に関する。接着分子は、典型的には膜貫通型受容体であり、カルシウム非依存性(例えばインテグリン、免疫グロブリンスーパーファミリー、リンパ球ホーミング受容体)とカルシウム依存性(カドヘリンおよびセレクチン)に分類することができる。接着分子の特定の例は、インテグリン、リンパ球ホーミング受容体、セレクチン(例えばP-セレクチン)、およびアドレシンである。
【0053】
インテグリンはシグナル伝達にも関与する。特に、リガンド結合時に、インテグリンは細胞シグナル伝達経路、例えば受容体チロシンキナーゼ(RTK)などの膜貫通タンパク質キナーゼの経路を調節する。そのような調節は、細胞の成長、分裂、生存、もしくは分化、またはアポトーシスをもたらすことができる。インテグリンの特定の例には、α1β1、α2β1、α3β1、α4β1、α5β1、α6β1、α7β1、αLβ2、αMβ2、αIIbβ3、αVβ1、αVβ3、αVβ5、αVβ6、αVβ8、およびα6β4が含まれる。
【0054】
本発明によれば、「免疫グロブリン」または「免疫グロブリンスーパーファミリー」という用語は、細胞の認識、結合、および/または接着過程に関与する分子を指す。このスーパーファミリーに属する分子は、免疫グロブリンドメインまたは免疫グロブリンフォールドとして知られる領域を含むという特徴を共有する。免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーには、抗体(例えばIgA、IgD、IgE、IgG、IgM)、T細胞受容体(TCR)、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子、共受容体(例えばCD4、CD8、CD19)、抗原受容体アクセサリー分子(例えばCD-3γ、CD3-δ、CD-3ε、CD79a、CD79b)、共刺激または阻害性分子(例えばCD28、CD80、CD86)、およびその他(例えばCD147、CD90、CD7)が含まれる。
【0055】
本発明によれば、「免疫学的に活性な化合物」という用語は、好ましくは免疫細胞の成熟を誘導および/もしくは抑制する、サイトカイン生合成を誘導および/もしくは抑制する、ならびに/またはB細胞による抗体産生を刺激することにより体液性免疫を変化させることによって、免疫応答を変化させる任意の化合物に関する。免疫学的に活性な化合物は、抗ウイルスおよび抗腫瘍活性を含むがこれらに限定されない強力な免疫刺激活性を有し、また免疫応答の他の局面を下方制御する、例えば免疫応答をTH2免疫応答からシフトさせることもでき、これは広範囲のTH2媒介性疾患を治療するのに有用である。免疫学的に活性な化合物は、ワクチンアジュバントとして有用であり得る。免疫学的に活性な化合物の特定の例には、インターロイキン、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球‐マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、インテグリン、アドレシン、セレクチン、ホーミング受容体、および抗原、特に腫瘍関連抗原、病原体関連抗原(細菌、寄生生物、またはウイルス抗原(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMVまたはRSV)の1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10)の抗原)、アレルゲン、および自己抗原が含まれる。
【0056】
本発明によれば、「自己抗原(autoantigen)」または「自己抗原(self-antigen)」という用語は、対象の体内に由来し(すなわち自己抗原は「自家抗原」とも呼ばれ得る)、この身体の正常な部分に対する異常に激しい免疫応答を生じさせる抗原を指す。自己抗原に対するそのような激しい免疫反応は、「自己免疫疾患」の原因であり得る。
【0057】
本発明によれば、「アレルゲン」という用語は、対象の体外に由来し(すなわちアレルゲンは「異種抗原」とも呼ばれ得る)、対象の免疫系が、さもなければ対象に無害である認識された脅威を撃退する異常に激しい免疫応答を生じさせる、抗原の一種を指す。「アレルギー」とは、アレルゲンに対するそのような激しい免疫反応によって引き起こされる疾患である。アレルゲンは通常、免疫グロブリンE(IgE)応答を介してアトピー性個体におけるI型過敏反応を刺激することができる抗原である。アレルゲンの特定の例には、落花生タンパク質(例えばAra h 2.02)、オボアルブミン、草花粉タンパク質(例えばPhl p 5)、およびイエダニのタンパク質(例えばDer p 2)に由来するアレルゲンが含まれる。
【0058】
本発明によれば、「成長因子」という用語は、細胞の成長、増殖、治癒、および/または細胞分化を刺激することができる分子を指す。典型的には、成長因子は細胞間のシグナル伝達分子として機能する。「成長因子」という用語は、その標的細胞の表面上の特異的受容体に結合する特定のサイトカインおよびホルモンを含む。成長因子の例には、骨形成タンパク質(BMP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、VEGFAなどの血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子、エフリン、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ニューレグリン、ニューロトロフィン(例えば脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF))、胎盤成長因子(PGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、レナラーゼ(RNLS)(抗アポトーシス生存因子)、T細胞増殖因子(TCGF)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング増殖因子(トランスフォーミング増殖因子アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β))、および腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)が含まれる。一実施形態では、「成長因子」は、ペプチドまたはタンパク質成長因子である。
【0059】
本発明によれば、「酵素」という用語は、化学反応を加速する高分子生物学的触媒を指す。任意の触媒と同様に、酵素はそれらが触媒する反応で消費されず、前記反応の平衡を変化させない。他の多くの触媒とは異なり、酵素ははるかに特異的である。一実施形態では、酵素は、対象のホメオスタシスに不可欠であり、例えば酵素の機能不全(特に、突然変異、欠失または産生低下のいずれかによって引き起こされ得る活性低下)は疾患をもたらす。酵素の例には、コレステロールの生合成または分解の酵素、ステロイド生成酵素、キナーゼ、ヌクレアーゼ、ホスホジエステラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、デヒドロゲナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アロマターゼ、シトクロム、アデニル酸またはグアニル酸シクラーゼ、およびノイラミニダーゼ、例えば組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素(例えばアミラーゼ、リパーゼ、およびプロテアーゼまたはそれらの混合物(パンクレリパーゼなど))、ならびにラクターゼが含まれる。
【0060】
本発明によれば、「受容体」という用語は、細胞の外部からシグナル(特にリガンドと呼ばれる化学シグナル)を受け取るタンパク質分子を指す。受容体へのシグナル(例えばリガンド)の結合は、細胞のある種の応答、例えばキナーゼの細胞内活性化を引き起こす。受容体には、膜貫通型受容体(イオンチャネル連結型(イオンチャネル型)受容体、Gタンパク質結合(代謝型)受容体、および酵素結合受容体など)ならびに細胞内受容体(細胞質受容体および核内受容体など)が含まれる。受容体の特定の例には、ステロイドホルモン受容体、成長因子受容体、およびP-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)などのペプチド受容体(すなわちそのリガンドがペプチドである受容体)が含まれる。「成長因子受容体」という用語は、成長因子に結合する受容体を指す。成長因子受容体は、細胞の分化と増殖のためのシグナル伝達カスケードの最初の段階である。成長因子受容体は、JAK/STAT、MAPキナーゼ、およびPI3キナーゼ経路を使用し得る。
【0061】
本発明によれば、「プロテアーゼ阻害剤」という用語は、プロテアーゼの機能を阻害する分子、特にペプチドまたはタンパク質を指す。プロテアーゼ阻害剤は、阻害されるプロテアーゼによって(例えばアスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤、システインプロテアーゼ阻害剤、メタロプロテアーゼ阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、トレオニンプロテアーゼ阻害剤、トリプシン阻害剤)またはそれらの作用機構によって(例えばセルピンなどの自殺阻害剤)分類することができる。プロテアーゼ阻害剤の特定の例には、α1-アンチトリプシン、アプロチニン、およびベスタチンなどのセルピンが含まれる。
【0062】
本発明によれば、「アポトーシス調節因子」という用語は、アポトーシスを調節する、すなわちアポトーシスを活性化するかまたは阻害する分子、特にペプチドまたはタンパク質を指す。アポトーシス調節因子は、ミトコンドリア機能を調節するものとカスパーゼを調節するものの2つの大きなクラスに分類できる。最初のクラスには、ミトコンドリア膜電位の損失および/またはサイトゾルへのシトクロムCなどのアポトーシス促進性タンパク質の放出を防ぐことによってミトコンドリアの完全性を維持するように働くタンパク質(例えばBCL-2、BCL-xL)が含まれる。また、シトクロムCの放出を促進するアポトーシス促進性タンパク質(例えばBAX、BAK、BIM)もこの最初のクラスに属する。2番目のクラスには、アポトーシスタンパク質の阻害剤(例えばXIAP)またはカスパーゼの活性化をブロックするFLIPなどのタンパク質が含まれる。アポトーシス調節因子の特定の例は、BAX、BCL-2、BCL-xL、BAK、BIM、XIAP、およびFLIP、特にBAXである。
【0063】
本発明によれば、「転写因子」という用語は、特に特定のDNA配列に結合することによって、DNAからメッセンジャーRNAへの遺伝情報の転写の速度を調節するタンパク質に関する。転写因子は、生涯を通じて細胞分裂、細胞増殖、および細胞死を調節し、胚発生中の細胞移動および組織化を調節し、ならびに/またはホルモンなどの細胞外からのシグナルに応答して調節し得る。転写因子は、通常は転写因子によって調節される遺伝子に隣接する、特定のDNA配列に結合する少なくとも1つのDNA結合ドメインを含む。転写因子の特定の例には、肝細胞核因子、MECP2、インスリンプロモータ因子1、FOXP2、FOXP3、STATタンパク質ファミリー、p53、HOXタンパク質ファミリー、およびSOX2などのSOXタンパク質が含まれる。
【0064】
本発明によれば、「腫瘍抑制タンパク質」という用語は、細胞を癌への経路の一段階から保護する分子、特にペプチドまたはタンパク質に関する。腫瘍抑制タンパク質(通常、対応する腫瘍抑制遺伝子によってコードされる)は、細胞周期の調節に対する減弱化もしくは抑制作用を示し、および/またはアポトーシスを促進する。その機能は以下の1つ以上であり得る:細胞周期の継続に不可欠な遺伝子の抑制;DNA損傷への細胞周期の連結(損傷したDNAが細胞内に存在する限り、細胞分裂は起こらないはずである);損傷したDNAを修復できない場合、アポトーシスの開始;転移抑制(例えば腫瘍細胞の分散を防ぎ、接触阻害の喪失をブロックし、および転移を阻害する);ならびにDNA修復。腫瘍抑制タンパク質の特定の例には、p53、ホスファターゼ・テンシンホモログ(PTEN)、SWI/SNF(SWItch/ショ糖非発酵性)、フォンヒッペル‐リンダウ腫瘍抑制因子(pVHL)、大腸腺腫性ポリポーシス(APC)、CD95、腫瘍原性抑制5(ST5)、腫瘍原性抑制5(ST5)、腫瘍原性抑制14(ST14)、およびYippee様3(YPEL3)が含まれる。
【0065】
本発明によれば、「構造タンパク質」という用語は、さもなければ流動性の生物学的成分に堅さと剛性を与えるタンパク質を指す。構造タンパク質は、大部分が線維状(コラーゲンおよびエラスチンなど)であるが、球状(アクチンおよびチューブリンなど)の場合もある。通常、球状タンパク質はモノマーとして可溶性であるが、重合して、例えば細胞骨格を構成し得る長い線維を形成する。他の構造タンパク質は、機械力を生成することができるモータタンパク質(ミオシン、キネシン、およびダイニンなど)、ならびにサーファクタントタンパク質である。構造タンパク質の特定の例には、コラーゲン、フィブロイン、フィブリノゲン、サーファクタントタンパク質A、サーファクタントタンパク質B、サーファクタントタンパク質C、サーファクタントタンパク質D、エラスチン、チューブリン、アクチン、およびミオシンが含まれる。
【0066】
本発明によれば、「再プログラミング因子」または「再プログラミング転写因子」という用語は、任意でさらなる再プログラミング因子などのさらなる作用物質と共に体細胞で発現された場合、幹細胞特性、特に多能性を有する細胞への前記体細胞の再プログラミングまたは脱分化をもたらす分子、特にペプチドまたはタンパク質に関する。再プログラミング因子の特定の例には、OCT4、SOX2、c-MYC、KLF4、LIN28、およびNANOGが含まれる。
【0067】
本発明によれば、「ゲノム操作タンパク質」という用語は、DNAを対象のゲノムに挿入する、ゲノムから欠失させるまたは置換することができるタンパク質に関する。ゲノム操作タンパク質の特定の例には、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクタヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)が含まれる。
【0068】
本発明によれば、「血液タンパク質」という用語は、対象の血漿、特に健常対象の血漿中に存在するペプチドまたはタンパク質に関する。血液タンパク質は、輸送(例えばアルブミン、トランスフェリン)、酵素活性(例えばトロンビンまたはセルロプラスミン)、血液凝固(例えばフィブリノゲン)、病原体に対する防御(例えば補体成分および免疫グロブリン)、プロテアーゼ阻害剤(例えばα1‐アンチトリプシン)などの多様な機能を有する。血液タンパク質の特定の例には、トロンビン、血清アルブミン、第VII因子、第VIII因子、インスリン、第IX因子、第X因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、プロテインC、フォンビルブラント因子、アンチトロンビンIII、グルコセレブロシダーゼ、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G‐CSF)、修飾第VIII因子、および抗凝固因子が含まれる。
【0069】
本発明によれば、「タンパク質補充療法」という用語は、健常対象と比較して患者において活性が低下しているペプチドまたはタンパク質を補充または置換する医学的治療に関する。活性低下(患者の体内にペプチドまたはタンパク質が存在しない場合であり得るゼロ活性を含む)は、(i)ペプチドもしくはタンパク質の発現減少(すなわちペプチドもしくはタンパク質は十分に機能性であるが、その量が減少している)または(ii)発現されたペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列における1つ以上の突然変異の存在(すなわちペプチドまたはタンパク質は十分に機能性ではない)の結果であり得る。例えば、ペプチドまたはタンパク質のこの活性低下は、ペプチドまたはタンパク質をコードする遺伝子が、(i)前記遺伝子の発現が低下もしくはサイレンシングし、それによりペプチドまたはタンパク質(まだ十分に機能性であり得る)の量の減少をもたらすおよび/または(ii)前記遺伝子によってコードされるペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列が1つ以上の突然変異を含み、それにより十分に機能性ではない(もしくは非機能性の)ペプチドもしくはタンパク質をもたらすような方法で1つ以上の突然変異を含むことの結果であり得る。患者におけるペプチドまたはタンパク質の活性低下によって引き起こされる疾患または障害は、例えばペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)をそのような疾患または障害を有する患者に投与することにより、ペプチドまたはタンパク質を置換または補充すること(タンパク質補充療法)によって治療され得る。ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、患者にとって自家であっても異種であってもよい。しかし、患者におけるペプチドまたはタンパク質の活性低下が1つ以上の突然変異に起因する(すなわち十分に機能性でない(または非機能性の)ペプチドまたはタンパク質をもたらす)場合、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、患者にとって異種であること、特にペプチドまたはタンパク質をその天然(すなわち非変異)形態で発現する(同じ種の)健常対象から得られることが好ましい。例えば、そのようなタンパク質補充療法は、(i)前記ペプチドもしくはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)(前記ヌクレオチド配列は、好ましくは異種であり、健常対象から得られ得る)または(ii)そのようなRNAを含む組成物、例えば医薬組成物を患者に投与する工程、あるいは(a)前記ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)(前記ヌクレオチド配列は、好ましくは異種であり、健常対象から得られ得る)を細胞に移入する工程(前記細胞は患者にとって自家であり得る)および(b)前記トランスフェクトされた細胞を患者に投与する工程を含み得る。代替法(i)では、RNAは、好ましくは細胞(例えば単球、マクロファージ、もしくは樹状細胞などの抗原提示細胞、または他の細胞)に取り込まれ、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列の翻訳産物が形成されて(および任意で翻訳後に修飾されて)、前記ペプチドまたはタンパク質を生成する。代替法(ii)では、トランスフェクトされた細胞の患者への投与後に、トランスフェクト細胞は、好ましくはペプチドまたはタンパク質を発現する。
【0070】
「ゲノム操作」という用語は、好ましくはゲノム操作タンパク質を使用することによって、DNAを対象のゲノムに挿入する、ゲノムから欠失させるまたは置換する過程に関する。ゲノム操作タンパク質の特定の例には、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクタヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)が含まれる。
【0071】
本明細書で使用される場合、「遺伝的再プログラミング」とは、細胞の遺伝的プログラムの再設定を指す。再プログラミングされた細胞は、好ましくは多能性を示す。
【0072】
一実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、疾患関連ペプチドまたはタンパク質であり、すなわち疾患または障害と因果関係がある。
【0073】
例えば、疾患または障害は、ペプチドまたはタンパク質の活性低下によって引き起こされ得る。活性低下は、(i)ペプチドもしくはタンパク質の発現減少(すなわちペプチドもしくはタンパク質は十分に機能性であるが、その量が減少している)または(ii)発現されたペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列における1つ以上の突然変異の存在(すなわちペプチドもしくはタンパク質が十分に機能性ではない)の結果であり得る。例えば、ペプチドまたはタンパク質のこの活性低下は、ペプチドまたはタンパク質をコードする遺伝子が、(i)前記遺伝子の発現が低下もしくはサイレンシングし、それによりペプチドまたはタンパク質(まだ十分に機能性であり得る)の量の減少をもたらすおよび/または(ii)前記遺伝子によってコードされるペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列が1つ以上の突然変異を含み、それにより十分に機能性ではない(または非機能性の)ペプチドもしくはタンパク質をもたらすような方法で1つ以上の突然変異を含むことの結果であり得る。患者におけるペプチドまたはタンパク質の活性低下によって引き起こされるそのような疾患または障害は、例えばペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)をそのような疾患または障害を有する患者に投与することにより、ペプチドまたはタンパク質を置換または補充すること(タンパク質補充療法)によって治療され得る。ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、患者にとって自家であっても異種であってもよい。しかし、患者におけるペプチドまたはタンパク質の活性低下が1つ以上の突然変異に起因する(すなわち十分に機能性ではない(または非機能性の)ペプチドまたはタンパク質をもたらす)場合、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、異種であること、特にペプチドまたはタンパク質をその天然(すなわち非変異)形態で発現する(同じ種の)健常対象から得られることが好ましい。例えば、そのようなタンパク質補充療法は、(i)前記ペプチドもしくはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)(前記ヌクレオチド配列は、好ましくは異種であり、健常対象から得られ得る)または(ii)そのようなRNAを含む組成物、例えば医薬組成物を患者に投与する工程、あるいは(a)前記ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)(前記ヌクレオチド配列は、好ましくは異種であり、健常対象から得られ得る)を細胞に移入する工程(前記細胞は患者にとって自家であり得る)および(b)前記トランスフェクトされた細胞を患者に投与する工程を含み得る。代替法(i)では、RNAは、好ましくは細胞(例えば単球、マクロファージ、もしくは樹状細胞などの抗原提示細胞、または他の細胞)に取り込まれ、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列の翻訳産物が形成されて(および任意で翻訳後に修飾されて)、前記ペプチドまたはタンパク質を生成する。代替法(ii)では、トランスフェクトされた細胞の患者への投与後に、トランスフェクト細胞は、好ましくはペプチドまたはタンパク質を発現する。
【0074】
あるいは、患者におけるペプチドまたはタンパク質の活性低下によって引き起こされるそのような疾患または障害は、ゲノム操作を使用することによって、例えばそのような疾患または障害を有する患者においてペプチドまたはタンパク質をコードする(すなわち十分に機能性ではない(または非機能性の)ペプチドまたはタンパク質をもたらす)DNA配列を、ペプチドまたはタンパク質をその天然(すなわち非変異)形態でコードするDNA配列で置換することによって治療され得る。例えば、そのようなゲノム操作療法は、患者に、(i)ゲノム操作タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)および(ii)ペプチドまたはタンパク質をその天然(すなわち非変異)形態でコードするヌクレオチド配列を含むDNAを投与する工程を含み得る。投与後、好ましくは、ゲノム操作タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNAおよびペプチドまたはタンパク質をその天然(すなわち非変異)形態でコードするヌクレオチド配列を含むDNAは、細胞(特に疾患細胞)に取り込まれ、ゲノム操作タンパク質をコードするヌクレオチド配列の翻訳産物が形成されて(および任意で翻訳後修飾されて)、ゲノム操作タンパク質を生成し、ゲノム操作タンパク質は、ペプチドまたはタンパク質をその天然(すなわち非変異)形態でコードするDNAと共に、細胞のゲノム内の変異DNA配列を、ペプチドまたはタンパク質をその天然(すなわち非変異)形態でコードするDNA配列で置換するように働く。
【0075】
さらなる代替法では、患者におけるペプチドまたはタンパク質の活性低下によって引き起こされるそのような疾患または障害は、遺伝的再プログラミングを使用することによって、例えばそのような疾患または障害を有する患者の体細胞(特に自己体細胞)を再プログラミングし、前記再プログラミングされた細胞を患者に投与することによって治療され得る。この治療アプローチは、所望のペプチドまたはタンパク質(例えばインスリンなどのホルモン)を産生する細胞の枯渇または消失を引き起こす疾患または障害を有する患者において特に有益であり得る。例えば、そのような遺伝的再プログラミング療法は、(a)1つ以上の再プログラミング因子をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)を体細胞に導入する工程;(b)幹細胞特性を有する細胞の発生を可能にする工程;および(c)幹細胞特性を有する細胞を患者に投与する工程を含み得る。好ましい実施形態では、体細胞は患者にとって自家である。投与後、幹細胞特性を有する細胞は、好ましくは所望のペプチドまたはタンパク質を発現する細胞に分化する。
【0076】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、好ましくはエリスロポエチン(EPO)、インターロイキン4(IL-2)、およびインターロイキン10(IL-11)からなる群より選択されるサイトカイン、より好ましくはEPOである。サイトカインの活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいはサイトカインの量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えばサイトカインを置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0077】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、接着分子、特にインテグリンである。接着分子の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは接着分子の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば接着分子を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミングによって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0078】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、ホルモン、特にバソプレシン、インスリンまたは成長ホルモンである。ホルモンの活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいはホルモンの量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えばホルモンを置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0079】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、成長因子、特にVEGFAである。成長因子の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは成長因子の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば成長因子を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0080】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、好ましくは単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素、およびラクターゼからなる群より選択される酵素である。酵素の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは酵素の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば酵素を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0081】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、受容体、特に成長因子受容体である。受容体の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは受容体の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば受容体を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0082】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、アポトーシス調節因子、特にBAXである。アポトーシス調節因子の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいはアポトーシス調節因子の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えばアポトーシス調節因子を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0083】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、腫瘍抑制タンパク質、特にp53である。腫瘍抑制タンパク質の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは腫瘍抑制タンパク質の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば腫瘍抑制タンパク質を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0084】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、構造タンパク質、特にサーファクタントタンパク質Bである。構造タンパク質の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは構造タンパク質の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば構造タンパク質を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0085】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、転写因子、特にFOXP3である。転写因子の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは転写因子の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば転写因子を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0086】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、再プログラミング因子、例えばOCT4、SOX2、c-MYC、KLF4、LIN28およびNANOGである。再プログラミング因子の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは再プログラミング因子の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば再プログラミング因子を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0087】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、ゲノム操作タンパク質、特にクラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)である。ゲノム操作タンパク質の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいはゲノム操作タンパク質の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えばゲノム操作タンパク質を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0088】
一実施形態では、疾患関連ペプチドまたはタンパク質などの薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、血液タンパク質、特にフィブリノゲンまたはα1-アンチトリプシンである。血液タンパク質の活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは血液タンパク質の量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば血液タンパク質を置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0089】
一実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、免疫グロブリン、特に抗体である。免疫グロブリンの活性低下によって引き起こされる疾患もしくは障害、あるいは免疫グロブリンの量の増加が(i)疾患もしくは障害の1つ以上の症状を改善、緩和、軽減もしくは逆転させる、および/または(ii)疾患もしくは障害の発症を遅らせる、および/または(iii)疾患もしくは障害の重症度を軽減する、疾患または障害は、本明細書に記載されるような対応するタンパク質補充療法(例えば免疫グロブリンを置換または補充することによる)、本明細書に記載されるような対応するゲノム操作療法、および/または本明細書に記載されるような遺伝的再プログラミング療法によって治療され得る。そのような疾患もしくは障害を有するかまたはそのような疾患もしくは障害を発症するリスクがある患者は、それに応じて治療することができる。
【0090】
一実施形態では、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、免疫学的に活性な化合物、特に疾患関連抗原などの抗原である。したがって、疾患関連ペプチドまたはタンパク質の別の例は、疾患関連抗原、すなわち障害または疾患に特徴的であり、通常の条件下、すなわち健常個体では、限られた数の器官および/もしくは組織で、または特定の発生段階で特異的に発現され(例えば、疾患関連抗原は、通常の条件下では生命維持に不可欠ではない組織、生殖器官、例えば精巣、栄養膜組織、例えば胎盤、または生殖系列細胞において特異的に発現され得る)、ならびに1つ以上の疾患組織で発現または異常発現される抗原である。これに関連して、「限られた数」は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下または1を意味する。疾患関連抗原の特定の例は、腫瘍関連抗原、病原体関連抗原(例えばウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMVまたはRSVなど)の抗原)およびアレルゲンである。腫瘍関連抗原を特徴とする疾患または障害は、前記疾患または障害を有するか、または発症するリスクがある患者において前記疾患関連抗原に対する免疫応答を誘発することによって治療され得る。例えば、それぞれ、疾患関連抗原が腫瘍関連抗原である場合、免疫療法は癌免疫療法と見なされ得る;疾患関連抗原が病原体関連抗原(例えばウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなど)の抗原)である場合、免疫療法は病原体免疫療法と見なされ得る;および疾患関連抗原がアレルゲンである場合、免疫療法はアレルギー寛容誘導療法と見なされ得る。したがって、本発明のRNAは、悪性疾患もしくは感染症に対して個体をワクチン接種する疾患関連抗原を生成するために使用され得るか、またはアレルギー寛容をもたらすアレルゲンを生成するために使用され得る。
【0091】
「免疫療法」という用語は、好ましくは特異的免疫反応および/または免疫エフェクタ機能(1つまたは複数)を含む治療に関する。
【0092】
本明細書で使用される場合、「脱分化」とは、形態または機能の特殊化の喪失を指す。細胞では、脱分化はより拘束されていない細胞をもたらす。本明細書で使用される場合、「拘束された」という用語は、特定の機能に永続的に拘束されていると見なされる細胞を指す。拘束された細胞は、「最終分化細胞」とも称される。
【0093】
本明細書で使用される場合、「分化」とは、特定の形態または機能に対する細胞の適応を指す。細胞では、分化はより拘束された細胞をもたらす。
【0094】
「分化細胞」とは、より特殊化した形態または機能への漸進的な発生変化を受けた成熟細胞である。細胞分化は、細胞が、明らかに特殊化した細胞型に成熟するときに経る過程である。分化細胞は独特な特性を有し、特定の機能を果たし、より分化していない対応する細胞よりも分裂する可能性が低い。
【0095】
「未分化」細胞、例えば未成熟細胞、胚細胞、または原始細胞は、典型的には非特異的な外観を有し、複数の非特異的な活動を行い得るが、分化細胞が典型的に果たす機能を、皆無ではないにせよ、十分に果たすことができない。
【0096】
「体細胞」とは、ありとあらゆる分化細胞を指し、幹細胞、生殖細胞、または配偶子を含まない。好ましくは、本明細書で使用される「体細胞」は、最終分化細胞を指す。
【0097】
「幹細胞」は、自己複製する能力、未分化状態にとどまる能力、および分化する能力を有する細胞である。幹細胞は、少なくともそれが天然に存在する動物の寿命の間は、無制限に分裂することができる。幹細胞は最終分化しておらず、分化経路の最終段階ではない。幹細胞が分裂する場合、各娘細胞は、幹細胞のままであるか、または最終分化につながる経路に入ることができる。
【0098】
「幹細胞特性を有する細胞」という用語は、本明細書では、幹細胞ではない分化した体細胞に由来するが、幹細胞、特に胚性幹細胞に典型的な1つ以上の特徴を示す細胞を表すために使用される。そのような特徴には、緻密なコロニー、高い核対細胞質比および顕著な核小体などの胚性幹細胞形態、正常な核型、テロメラーゼ活性の発現、胚性幹細胞に特徴的な細胞表面マーカの発現、ならびに/または胚性幹細胞に特徴的な遺伝子の発現が含まれる。胚性幹細胞に特徴的な細胞表面マーカは、発生段階特異的胎児性抗原3(SSEA-3)、SSEA-4、腫瘍関連抗原1-60(TRA-1-60)、TRA-1-81、およびTRA-2-49/6Eからなる群より選択される。胚性幹細胞に特徴的な遺伝子は、例えば内因性OCT4、内因性NANOG、増殖分化因子3(GDF3)、発現抑制1(REX1)、線維芽細胞増殖因子4(FGF4)、胚細胞特異的遺伝子1(ESG1)、発生多能性関連2(DPPA2)、DPPA4、およびテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)からなる群より選択される。一実施形態では、幹細胞に典型的な1つ以上の特徴には、多能性が含まれる。一実施形態では、幹細胞特性を有する細胞は、多能性状態を示す。一実施形態では、幹細胞特性を有する細胞は、3つの一次胚葉すべての高度派生物に分化する発生能を有する。一実施形態では、一次胚葉は内胚葉であり、高度派生物は腸様上皮組織である。さらなる実施形態では、一次胚葉は中胚葉であり、高度派生物は横紋筋および/または軟骨である。なおさらなる実施形態では、一次胚葉は外胚葉であり、高度派生物は神経組織および/または表皮組織である。1つの好ましい実施形態では、幹細胞特性を有する細胞は、目的のペプチドまたはタンパク質を発現する細胞に分化する発生能を有する。本発明によれば、一般に、「幹細胞特性を有する細胞」、「幹細胞の性質を有する細胞」、「再プログラミングされた細胞」および「脱分化された細胞」という用語または類似の用語は、同様の意味を有し、本明細書では互換的に使用される。
【0099】
一実施形態では、RNA、特に細胞で発現されるべきペプチドまたはタンパク質をコードする核酸配列を含むRNAは、一本鎖自己複製RNAである。一実施形態では、自己複製RNAは、プラスセンスの一本鎖RNAである。一実施形態では、自己複製RNAは、ウイルスRNAまたはウイルスRNAに由来するRNAである。一実施形態では、自己複製RNAは、アルファウイルスゲノムRNAであるか、またはアルファウイルスゲノムRNAに由来する。一実施形態では、自己複製RNAは、ウイルス遺伝子発現ベクターである。一実施形態では、ウイルスはセムリキ森林ウイルスである。一実施形態では、自己複製RNAは1つ以上の導入遺伝子を含み、前記導入遺伝子は、一実施形態では、RNAがウイルスRNAである場合、構造タンパク質をコードするウイルス配列などのウイルス配列を部分的または完全に置換し得る。
【0100】
「ヌクレオシド」(本明細書では「N」と略す)という用語は、リン酸基のないヌクレオチドと考えることができる化合物に関する。ヌクレオシドは糖(例えばリボースまたはデオキシリボース)に結合した核酸塩基であるが、ヌクレオチドはヌクレオシドと1つ以上のリン酸基からなる。ヌクレオシドの例には、シチジン、ウリジン、プソイドウリジン、アデノシン、およびグアノシンが含まれる。
【0101】
通常天然に存在する核酸を構成する5つの標準的なヌクレオシドは、ウリジン、アデノシン、チミジン、シチジンおよびグアノシンである。5つのヌクレオシドは一般に、それぞれその1文字コードU、A、T、CおよびGに略される。ただし、チミジンは、ウリジンに見出されるリボフラノース環ではなく2'‐デオキシリボフラノース部分を含むため、より一般的には「dT」(「d」は「デオキシ」を表す)と表記される。これは、チミジンがリボ核酸(RNA)ではなくデオキシリボ核酸(DNA)に見出されるためである。逆に、ウリジンはDNAではなくRNAに見出される。残りの3つのヌクレオシドは、RNAとDNAの両方に見出され得る。RNAでは、それらはA、CおよびGとして表され、DNAでは、dA、dCおよびdGとして表される。
【0102】
修飾されたプリン(AもしくはG)またはピリミジン(C、T、もしくはU)塩基部分は、好ましくは1つ以上のアルキル基、より好ましくは1つ以上のC1-4アルキル基、さらにより好ましくは1つ以上のメチル基で修飾されている。修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分の特定の例には、N7-アルキル-グアニン、N6-アルキル-アデニン、5-アルキル-シトシン、5-アルキル-ウラシル、およびN(1)-アルキル-ウラシル、例えばN7-C1-4アルキル-グアニン、N6-C1-4アルキル-アデニン、5-C1-4アルキル-シトシン、5-C1-4アルキル-ウラシル、およびN(1)-C1-4アルキル-ウラシル、好ましくはN7-メチル-グアニン、N6-メチル-アデニン、5-メチル-シトシン、5-メチル-ウラシル、およびN(1)-メチル-ウラシルが含まれる。
【0103】
本明細書で使用される「インビトロ転写」または「IVT」という用語は、転写(すなわちRNAの生成)が無細胞的に行われることを意味する。つまり、IVTは、生存/培養細胞を使用するのではなく、細胞から抽出された転写機構(例えば細胞溶解物またはRNAポリメラーゼ(好ましくはT7、T3もしくはSP6ポリメラーゼ)を含むその単離された成分)を使用する。
【0104】
本発明による修飾されたRNA(好ましくはmRNA)に関連して「修飾」という用語は、前記RNA中に天然には存在しないRNA(好ましくはmRNA)の任意の修飾を含む。特に、修飾という用語は、本発明の5'キャップ構造を有するRNA(好ましくはmRNA)を提供することに関する。例えば、本発明の5'キャップ構造を有するRNA(好ましくはmRNA)を提供することは、本発明の5'キャップ化合物の存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写によって達成され得、この場合前記5'キャップ構造は生成されたRNA鎖に共転写的に組み込まれ、またはRNA(好ましくはmRNA)は、例えばインビトロ転写によって生成され得、5'キャップ構造はキャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して転写後にRNAに付加され得る。
【0105】
RNA(好ましくは、mRNA)は、例えばその安定性を高める、および/または免疫原性を減少させる、および/または細胞傷害性を減少させるために、さらなる修飾を含み得る。例えば、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA、好ましくはmRNAのさらなる修飾は、天然に存在するポリ(A)尾部の伸長もしくは切断、5'もしくは3'非翻訳領域(UTR)の改変、例えば前記RNAのコード領域に関連しないUTRの導入、1つ以上の天然に存在するヌクレオチドの合成ヌクレオチドによる置換、および/またはコドン最適化(例えばRNAのGC含量を変化させる、好ましくは増加させるため)であり得る。
【0106】
マスクされていないポリA配列を有するRNA(好ましくはmRNA)は、マスクされたポリA配列を有するRNA(好ましくはmRNA)よりも効率的に翻訳される。「ポリ(A)尾部」または「ポリA配列」という用語は、典型的にはRNA(好ましくはmRNA)分子の3'末端に位置するアデノシン(特にアデニリル)(A)残基の配列に関し、「マスクされていないポリA配列」は、RNA(好ましくはmRNA)分子の3'末端のポリA配列がポリA配列のAで終了し、ポリA配列の3'末端、すなわち下流に位置するA以外のヌクレオチドが後続していないことを意味する。さらに、約120ヌクレオチドの長さを有する長いポリA配列は、RNA(好ましくはmRNA)の最適な転写物安定性および翻訳効率をもたらす。
【0107】
したがって、本発明によるRNA、好ましくはmRNAの安定性および/または発現を増加させるために、好ましくは10~500、より好ましくは30~300、さらにより好ましくは65~200、特に100~150個のアデノシン(特にアデニリル)残基の長さを有するポリA配列と共に存在するようにRNAを修飾し得る。特に好ましい実施形態では、ポリA配列は約120個のアデノシン(特にアデニリル)残基の長さを有する。本発明によるRNA、好ましくはmRNAの安定性および/または発現をさらに増加させるために、ポリA配列を脱マスク化することができる。
【0108】
さらに、RNA(好ましくはmRNA)分子の3'非翻訳領域への3'UTRの組み込みは、翻訳効率の向上をもたらし得る。そのような3'UTRの2つ以上を組み込むことによって(好ましくは頭-尾方向に配置される;Holtkamp et al.,Blood 108,4009-4017(2006)参照)、相乗作用が達成され得る。3'UTRは、それらが導入されるRNA(好ましくはmRNA)に対して自家または異種であり得る。特定の一実施形態では、3'UTRは、α2-グロビン、α1-グロビン、またはβ-グロビン、好ましくはβ-グロビン、より好ましくはヒトβ-グロビンの遺伝子またはmRNAなどのグロビン遺伝子またはmRNAに由来する。例えば、RNA(好ましくはmRNA)は、既存の3'UTRをα2-グロビン、α1-グロビン、β-グロビン、好ましくはβ-グロビン、より好ましくはヒトβ-グロビンなどのグロビン遺伝子に由来する1コピー以上、好ましくは2コピーの3'UTRで置換するまたはこれを挿入することによって修飾し得る。
【0109】
本発明によるRNA(好ましくはmRNA)は、その安定性を高める、および/または免疫原性を減少させる、および/または細胞傷害性を減少させるために、修飾されたリボヌクレオチドを有し得る。例えば、一実施形態では、本発明によるRNA(好ましくはmRNA)において、シチジンを5-メチルシチジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換する。あるいはまたはさらに、一実施形態では、本発明によるRNA(好ましくはmRNA)において、ウリジンをプソイドウリジンまたはN(1)-メチルプソイドウリジンまたは5-メチルウリジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換する。プソイドウリジン(ウリジンを部分的または完全に、好ましくは完全に置換する)によって修飾されたRNA(好ましくはmRNA)は、本明細書では「Ψ修飾された」と称され、「m1Ψ修飾された」という用語は、RNA(好ましくはmRNA)がN(1)-メチルプソイドウリジン(ウリジンを部分的または完全に、好ましくは完全に置換する)を含むことを意味する。さらに、「m5U修飾された」という用語は、RNA(好ましくはmRNA)が5-メチルウリジン(ウリジンを部分的または完全に、好ましくは完全に置換する)を含むことを意味する。本発明のそのようなΨまたはm1Ψまたはm5U修飾されたRNAは、通常、それらの非修飾形態と比較して低下した免疫原性を示し、したがって、免疫応答の誘導を回避または最小化すべき用途(例えば本明細書に記載されるようなタンパク質補充療法、ゲノム操作療法、および遺伝的再プログラミング療法)において好ましい。
【0110】
上記の修飾の組合せ、すなわちポリA配列の組み込み、ポリA配列の脱マスク化、1つ以上の3'UTRの組み込み、および1つ以上の天然に存在するヌクレオチドの合成ヌクレオチドによる置換(例えばシチジンの5-メチルシチジンによる置換および/またはウリジンのプソイドウリジン(Ψ)もしくはN(1)‐メチルプソイドウリジン(m1Ψ)もしくは5-メチルウリジン(m5U)による置換)は、RNA(好ましくはmRNA)の安定性に相乗効果を及ぼし、翻訳効率を高める。したがって、好ましい実施形態では、本発明によるRNA(好ましくはmRNA)は、本発明の5'キャップ化合物で修飾されるだけでなく、上記の3つの修飾の組合せ、すなわち(i)ポリA配列の組み込み、ポリA配列の脱マスク化;(ii)1つ以上の3'UTRの組み込み;および(iii)1つ以上の天然に存在するヌクレオチドの合成ヌクレオチドによる置換(例えばシチジンの5-メチルシチジンによる置換および/またはウリジンのプソイドウリジン(Ψ)もしくはN(1)‐メチルプソイドウリジン(m1Ψ)もしくは5-メチルウリジン(m5U)による置換)も含む。任意で、本発明のRNA(好ましくはmRNA)のコドンを、例えばRNAのGC含量を増加させるため、および/または目的のペプチドもしくはタンパク質が発現されるべき細胞(もしくは対象)においてまれなコドンを、前記細胞(もしくは対象)において同義の頻度の高いコドンであるコドンによって置換するために、さらに最適化し得る。
【0111】
本明細書で使用される「RNAポリメラーゼ」という用語は、一次転写物RNAを生成するDNA依存性RNAポリメラーゼを指す。本発明によるIVT RNAを生成するのに適したRNAポリメラーゼの例には、T7、T3およびSP6 RNAポリメラーゼが含まれる。好ましいRNAポリメラーゼは、T7 RNAポリメラーゼである。
【0112】
「従来の5'キャップ」という用語は、mRNA分子の5'末端に見出されるキャップ構造を指し、一般に、その三リン酸部分を介してmRNAの次のヌクレオチドの5'末端に接続されているグアノシン5'-三リン酸(Gppp)からなる(すなわちグアノシンは5'‐5'三リン酸結合を介してmRNAの残りの部分に接続されている)。グアノシンは、N7位でメチル化され得る(キャップ構造m7Gpppをもたらす)。
【0113】
本出願によれば、「キャップ0」という用語は、構造「m7GpppN」を意味し、Nは、2'位にOH部分を担持する任意のヌクレオシドである。本出願によれば、「キャップ1」という用語は、構造「m7GpppNm」を意味し、Nmは、2'位にOCH3部分を担持する任意のヌクレオシドである。本出願によれば、「キャップ2」という用語は、構造「m7GpppNmNm」を意味し、各Nmは、独立して、2'位にOCH3部分を担持する任意のヌクレオシドである。
【0114】
本発明の文脈において、「本発明の5'キャップ構造」という用語は、従来の5'キャップの構造に類似するが、好ましくはインビボまたは細胞内で、これに結合した場合、RNA(特にmRNA)を安定化するおよび/またはRNA発現(特にmRNA発現)を増加させる能力を有するように修飾された5'キャップ類似体である。細胞は、本発明のRNA(好ましくはmRNA)でトランスフェクトすることができる任意の細胞であってよく、好ましくは対象から得られた細胞、例えば幹細胞(例えば間葉系幹細胞(MSC))または樹状細胞(例えば未成熟樹状細胞)などの抗原提示細胞(例えば未成熟抗原提示細胞)である。好ましくは、本発明の5'キャップ構造は、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つの構造「1-(N7-(R1)-グアニン-9-イル)-ペントース-5-イル-(ホスホロチオエート結合)-N(R8)-」を少なくとも含む(すなわち、5'キャップ構造の最初のグアニンは、N7位においてR1で置換されており、N9位で置換基R2およびR3を担持するペントースのC1'に接続されており、ホスホロチオエート結合は構造-O-P(O-)(R4)-O-P(O-)(R5)-O[-P(O-)(R6)-O]nを有し、ならびにNは、塩基Bを担持し、2'位においてR8で置換されている任意のヌクレオシドである)。さらに、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つのR7が、少なくともリボオリゴヌクレオチドの5'末端にあるリボースの2'位のOH基がH、ハロ、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より選択される置換基R8'で置換されており、ならびにリボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボースが2'位に遊離OH基を有するリボオリゴヌクレオチドである場合、本発明の5'キャップ構造は、好ましくは、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つの構造「1-(N7-(R1)-グアニン-9-イル)-ペントース-5-イル-(ホスホロチオエート結合)-N(R8)-」に加えて、2'位においてR8'で置換された任意のヌクレオシドも含む(リボオリゴヌクレオチドが複数のN(R8')部分を含む場合は、N(R8)部分とN(R8')部分の間のヌクレオチド間結合、およびN(R8')部分の各対の間のヌクレオチド間結合と共に)。例えば、本発明の5'キャップ構造を提供するために、R7が式[pN(R8')]2pNのリボオリゴヌクレオチドである(すなわちリボオリゴヌクレオチドの3'末端のヌクレオシドのみが2'位に遊離OH基を有し、他の2つのヌクレオシドは2'位においてR8'で置換されている)式(I)の5'キャップ化合物を使用する場合、本発明の5'キャップ構造は、少なくとも構造「1-(N7-(R1)-グアニン-9-イル)-ペントース-5-イル-(ホスホロチオエート結合)-N(R8)-[pN(R8')]2」を含む。
【0115】
本出願によれば、「5'キャップされたRNA」という用語は、その5'末端にキャップ構造を含むRNAを意味する。
【0116】
本出願の文脈において、「本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA」という用語は、その5'末端に本発明の5'キャップ構造を含むRNAを意味する。同様に、「本発明の5'キャップ化合物で修飾されたmRNA」という用語は、その5'末端に本発明の5'キャップ構造を含むmRNAを意味する。したがって、好ましい実施形態では、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたそのようなRNA(例えばmRNA)は、その5'末端に、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つの構造「1-(N7-(R1)-グアニン-9-イル)-ペントース-5-イル-(ホスホロチオエート結合)-N(R8)-」)を少なくとも含む(すなわち、5'キャップ構造の最初のグアニンは、N7位においてR1で置換されており、N9位で置換基R2およびR3を担持するペントースのC1'に接続されており、ホスホロチオエート結合は構造-O-P(O-)(R4)-O-P(O-)(R5)-O-[-P(O-)(R6)-O]nを有し、ならびにNは、塩基Bを有し、2'位においてR8で置換されている任意のヌクレオシドである)。さらに、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つのR7が、少なくともリボオリゴヌクレオチドの5'末端にあるリボースの2'位のOH基がH、ハロ、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より選択される置換基R8'で置換されており、ならびにリボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボースが2'位に遊離OH基を有するリボオリゴヌクレオチドである場合、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA(mRNAなど)は、好ましくは、その5'末端に、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つの構造「1-(N7-(R1)-グアニン-9-イル)-ペントース-5-イル-(ホスホロチオエート結合)-N(R8)-」に加えて、2'位においてR8'で置換された任意のヌクレオシドも含む(リボオリゴヌクレオチドが複数のN(R8')部分を含む場合は、N(R8)部分とN(R8')部分の間のヌクレオチド間結合、およびN(R8')部分の各対の間のヌクレオチド間結合と共に)。例えば、RNAを、R7が式[pN(R8')]2pNのリボオリゴヌクレオチドである(すなわちリボオリゴヌクレオチドの3'末端のヌクレオシドのみが2'位に遊離OH基を有し、他の2つのヌクレオシドは2'位においてR8'で置換されている)式(I)の本発明の5'キャップ化合物で修飾する場合、修飾されたRNAは、その5'末端に、少なくとも構造「1-(N7-(R1)-グアニン-9-イル)-ペントース-5-イル-(ホスホロチオエート結合)-N(R8)-[pN(R8')]2」を含む。
【0117】
「RNA発現を増加させる」という用語は、好ましくは本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNAと関連して、好ましくはキャップ0構造を認識するタンパク質、例えばIFITタンパク質(特にIFIT1)によるRNAの認識を減少させる、さらには阻害することを意味する。
【0118】
本発明によれば、ペプチドまたはタンパク質の一部または断片は、好ましくは、それが由来するペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの機能特性を有する。そのような機能特性は、薬理学的活性、他のペプチドまたはタンパク質との相互作用、酵素活性、抗体との相互作用、および核酸の選択的結合を含む。例えば、ペプチドまたはタンパク質の薬理学的に活性な断片は、その断片が由来するペプチドまたはタンパク質の薬理学的活性の少なくとも1つを有する。ペプチドまたはタンパク質の一部または断片は、好ましくは、ペプチドまたはタンパク質の少なくとも6、特に少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30または少なくとも50個の連続するアミノ酸の配列を含む。ペプチドまたはタンパク質の一部または断片は、好ましくは、ペプチドまたはタンパク質の最大8、特に最大10、最大12、最大15、最大20、最大30または最大55個の連続するアミノ酸の配列を含む。
【0119】
本発明によれば、ペプチドまたはタンパク質の類似体は、それが由来する前記ペプチドまたはタンパク質の修飾形態であり、前記ペプチドまたはタンパク質の少なくとも1つの機能特性を有する。例えば、ペプチドまたはタンパク質の薬理学的に活性な類似体は、その類似体が由来するペプチドまたはタンパク質の薬理学的活性の少なくとも1つを有する。そのような修飾には、任意の化学修飾が含まれ、ならびに炭水化物、脂質および/またはタンパク質もしくはペプチドなどのタンパク質またはペプチドに関連する任意の分子の単一または複数の置換、欠失および/または付加が含まれる。一実施形態では、タンパク質またはペプチドの「類似体」には、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、パルミトイル化、ミリストイル化、イソプレニル化、脂質化、アルキル化、誘導体化、保護基/ブロッキング基の導入、タンパク質分解切断、または抗体もしくは別の細胞リガンドへの結合から生じる修飾形態が含まれる。「類似体」という用語はまた、前記タンパク質およびペプチドのすべての機能的な化学的等価物に及ぶ。
【0120】
本発明の文脈において、「ワクチン組成物」という用語は、RNAを含む抗原製剤に関する。ワクチン組成物は、1つ以上の抗原に対する個体の体液性および/または細胞性免疫系を刺激するために個体に投与される。これに関連して、RNAは、抗原、前記抗原を含むタンパク質もしくはペプチド、または抗原ペプチドをコードし得る。本発明の文脈におけるワクチン組成物は、1つ以上のアジュバントおよび/または賦形剤をさらに含んでもよく、抗原に対する防御および/または治療的免疫反応を誘発するために、任意の適切な経路で個体に適用される。
【0121】
本発明による「抗原」は、免疫応答を誘発する任意の物質および/または免疫応答もしくは細胞応答などの免疫機構が向けられる任意の物質を包含する。これには、特にMHC分子に関連して提示される場合、抗原が抗原ペプチドにプロセシングされ、免疫応答または免疫機構が1つ以上の抗原ペプチドに向けられる状況も含まれる。特に、「抗原」は、抗体またはTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質、好ましくはペプチドまたはタンパク質に関する。本発明によれば、「抗原」という用語は、T細胞エピトープなどの少なくとも1つのエピトープを含有する任意の分子を含む。好ましくは、本発明の文脈における抗原は、任意でプロセシング後に、好ましくは抗原(抗原を発現する細胞を含む)に特異的な免疫反応を誘導する分子である。
【0122】
本発明によれば、免疫応答の候補である任意の適切な抗原を使用することができ、免疫応答は体液性および細胞性免疫応答の両方であり得る。本発明のいくつかの実施形態の文脈において、抗原は、MHC分子に関連して、好ましくは細胞、好ましくは抗原提示細胞によって提示され、抗原に対する免疫応答をもたらす。抗原は、好ましくは、天然に存在する抗原に対応するまたは由来する生成物である。そのような天然に存在する抗原は、アレルゲン、ウイルス(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSV)、細菌、真菌、寄生生物ならびに他の感染性因子および病原体を含んでもよく、もしくはそれらに由来してもよく、または抗原は腫瘍抗原であってもよい。本発明によれば、抗原は、天然に存在する生成物、例えばウイルスタンパク質(例えばインフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、もしくはインフルエンザウイルスC型のタンパク質、例えばインフルエンザウイルス型A、インフルエンザウイルスB型、もしくはインフルエンザウイルスC型からのPB1、PB1-F2、PB2、PA、HA、NP、NA、M1、M2、NS1、もしくはNEP/NS2)、またはその一部に対応し得る。
【0123】
好ましい実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、すなわち細胞質、細胞表面または細胞核に由来し得る腫瘍細胞の一部、特に主として細胞内にまたは腫瘍細胞の表面抗原として生じるものである。例えば、腫瘍抗原には、癌胎児性抗原、α1-フェトプロテイン、イソフェリチン、および胎児性スルホグリコプロテイン、α2-H-フェロプロテインおよびγ-フェトプロテイン、ならびに様々なウイルス腫瘍抗原が含まれる。本発明によれば、腫瘍抗原は、好ましくは、型および/または発現レベルに関して腫瘍または癌および腫瘍細胞または癌細胞に特徴的な任意の抗原を含む。別の実施形態では、抗原は、病原体関連抗原、すなわち病原体に由来する抗原、例えばウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなど)、細菌、単細胞生物、または寄生生物に由来する抗原、例えばウイルスリボ核タンパク質またはコートタンパク質などのウイルス抗原である。特に、抗原は、特にT細胞受容体の活性の調節を介して、調節、特に免疫系の細胞、好ましくはCD4+およびCD8+リンパ球の活性化をもたらすMHC分子によって提示されるべきである。
【0124】
いくつかの実施形態では、抗原は腫瘍抗原であり、本発明は、そのような腫瘍抗原を発現し、好ましくはクラスI MHCと共にそのような腫瘍抗原を提示する腫瘍細胞に対する抗腫瘍CTL応答の刺激を含む。
【0125】
「免疫原性」という用語は、免疫反応を誘導する抗原の相対的有効性に関する。
【0126】
「病原体」という用語は、病原性微生物に関し、ウイルス、細菌、真菌、単細胞生物、および寄生生物を含む。病原性ウイルスの例は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス(例えばインフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、またはインフルエンザウイルスC型)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス(HSV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、HBV、HCV、パピローマウイルス、およびヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、例えばHIV、CMV、HSV、HAV、HBV、HCV、パピローマウイルス、およびHTLV、好ましくはインフルエンザウイルス、CMV、またはRSVである。単細胞生物には、マラリア原虫、トリパノソーマ、アメーバなどが含まれる。
【0127】
したがって、別の好ましい実施形態では、抗原は、1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)のウイルス抗原、すなわちウイルスの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原であり、ウイルスは、好ましくはインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVである。したがって、この実施形態では、本発明は、好ましくは前記ウイルスに対する免疫応答を誘発することを含む。1つ以上のウイルス抗原は、好ましくはインフルエンザA型、インフルエンザB型、またはインフルエンザC型からのPB1、PB1-F2、PB2、PA、HA、NP、NA、M1、M2、NS1、およびNEP/NS2からなる群より選択される。
【0128】
本発明で使用し得る腫瘍抗原の例は、p53、ART-4、BAGE、ss‐カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン-12、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、またはMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/メランA、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、-2、-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190マイナーBCR-abL、Plac-1、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART-1またはSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTEおよびWT、好ましくはWT-1である。
【0129】
本発明による「抗原の一部または断片」または「抗原ペプチド」は、好ましくは抗原の不完全な形態であり、抗原に対する、または抗原の発現および好ましくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する免疫応答を誘発することができる。
【0130】
これに関連して、本発明はまた、本明細書では「抗原ペプチド」とも称される、抗原に由来するアミノ酸配列を含むペプチドを利用する。「抗原ペプチド」または「抗原に由来する抗原ペプチド」とは、抗原の断片またはペプチドのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含むオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。抗原ペプチドは、任意の長さであり得る。
【0131】
好ましくは、抗原ペプチドは、免疫応答、好ましくは抗原に対する、または抗原の発現および好ましくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞応答を刺激することができる。好ましくは、抗原ペプチドは、クラスI MHCと共に抗原を提示することを特徴とする細胞に対する細胞応答を刺激することができ、好ましくは抗原応答性CTLを刺激することができる。好ましくは、本発明によれば、抗原ペプチドは、MHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドであるか、またはMHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドを生成するようにプロセシングされ得る。好ましくは、抗原ペプチドは、抗原の断片のアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗原の前記断片は、MHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドである。好ましくは、本発明による抗原ペプチドは、そのような断片のアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、そのような断片、すなわち抗原に由来するMHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドを生成するようにプロセシングされ得る。
【0132】
抗原ペプチドが直接、すなわちプロセシングされずに、特に切断されずに提示される場合、抗原ペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子への結合に適した長さを有し、好ましくは7~20アミノ酸長、より好ましくは7~12アミノ酸長、より好ましくは8~11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、直接提示される抗原ペプチドの配列は、抗原のアミノ酸配列に由来する、すなわちその配列は抗原の断片と実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。
【0133】
抗原ペプチドがプロセシング後、特に切断後に提示される場合、プロセシングによって生成されるペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子への結合に適した長さを有し、好ましくは7~20アミノ酸長、より好ましくは7~12アミノ酸長、より好ましくは8~11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、プロセシング後に提示されるペプチドの配列は、抗原のアミノ酸配列に由来する、すなわちその配列は、抗原の断片に実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。したがって、一実施形態では本発明による抗原ペプチドは、抗原の断片に実質的に対応し、好ましくは完全に同一であり、抗原ペプチドのプロセシング後に提示ペプチドを構成する、7~20アミノ酸長、より好ましくは7~12アミノ酸長、より好ましくは8~11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸の配列を含む。しかしながら、抗原ペプチドはまた、上記で述べた配列よりもさらに一層長い抗原の断片に実質的に対応し、好ましくは完全に同一である配列も含み得る。一実施形態では、抗原ペプチドは、抗原の配列全体を含み得る。
【0134】
クラスI MHCによって提示されるペプチドの配列に実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、クラスI MHCによって提示されるペプチドのTCR認識またはMHCへのペプチド結合に必須ではない1つ以上の残基において異なり得る。そのような実質的に対応するペプチドはまた、抗原応答性CTLを刺激することができる。TCR認識には影響を及ぼさないが、MHCへの結合の安定性を改善する残基において提示ペプチドとは異なるアミノ酸配列を有するペプチドは、抗原ペプチドの免疫原性を改善することができ、本明細書では「最適化ペプチド」と称され得る。これらの残基のいずれが、MHCまたはTCRのどちらかへの結合に影響を及ぼす可能性がより高いとかについての既存の知識を使用して、実質的に対応するペプチドの設計への合理的なアプローチを採用し得る。機能的である得られたペプチドは、抗原ペプチドとして企図される。
【0135】
一実施形態では、抗原提示細胞のMHCなどのMHCに関連して提示される場合の抗原ペプチドは、T細胞受容体によって認識される。T細胞受容体によって認識される場合、抗原ペプチドは、適切な共刺激シグナルの存在下で、抗原ペプチドを特異的に認識するT細胞受容体を担持するT細胞のクローン拡大を誘導することが可能であり得る。好ましくは、抗原ペプチドは、特にMHC分子に関連して提示される場合、免疫応答、好ましくはそれらが由来する抗原に対する、または抗原の発現および好ましくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞応答を刺激することができる。
【0136】
「エピトープ」という用語は、抗原などの分子中の抗原決定基、すなわち免疫系によって認識される、例えば、特にMHC分子に関連して提示された場合にT細胞によって認識される分子の一部または断片を指す。タンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続または不連続部分を含み、好ましくは5~100、好ましくは5~50、より好ましくは8~30、最も好ましくは10~25アミノ酸長であり、例えばエピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。本発明の文脈におけるエピトープは、T細胞エピトープであることが特に好ましい。
【0137】
「エピトープ」、「T細胞エピトープ」、「抗原の断片」、「免疫原性ペプチド」および「抗原ペプチド」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、好ましくは抗原に対する、または抗原を発現するかもしくは含み、好ましくは抗原を提示する細胞に対する免疫応答を誘発することができる抗原の不完全な形態に関する。好ましくは、これらの用語は、抗原の免疫原性部分に関する。好ましくは、抗原の免疫原性部分は、特にMHC分子に関連して提示された場合、T細胞受容体によって認識される(すなわち特異的に結合される)抗原の一部である。特定の好ましい免疫原性部分は、MHCクラスIまたはクラスII分子に結合する。
【0138】
「標的」という用語は、細胞性免疫応答などの免疫応答の標的である細胞または組織などの作用物質を意味する。標的には、抗原または抗原エピトープ、すなわち抗原に由来するペプチド断片を提示する細胞が含まれる。一実施形態では、標的細胞は、抗原を発現し、好ましくは前記抗原をクラスI MHCと共に提示する細胞である。
【0139】
「部分」という用語は画分を指す。アミノ酸配列またはタンパク質などの特定の構造に関して、その「部分」という用語は、前記構造の連続または不連続な画分を表し得る。
【0140】
「一部」および「断片」という用語は、本明細書では互換的に使用され、連続する要素を指す。例えば、アミノ酸配列またはタンパク質などの構造の一部は、前記構造の連続する要素を指す。
【0141】
「抗原プロセシング」は、抗原の断片であるプロセシング産物への前記抗原の分解(例えばタンパク質のペプチドへの分解)、ならびに細胞による、好ましくは抗原提示細胞による特定のT細胞への提示のためのMHC分子とこれらの断片の1つ以上との会合(例えば結合による)を指す。
【0142】
「抗原応答性CTL」とは、抗原提示細胞の表面にクラスI MHCと共に提示される、抗原または前記抗原に由来するペプチドに応答性であるCD8+T細胞を意味する。
【0143】
本発明によれば、CTL応答性には、持続的なカルシウム流入、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカの上方制御、ならびに腫瘍抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅が含まれ得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工レポータを使用して決定し得る。
【0144】
「免疫応答」および「免疫反応」という用語は、本明細書ではそれらの従来の意味で互換的に使用され、抗原に対する統合された身体応答を指し、好ましくは細胞性免疫応答、体液性免疫応答、またはその両方を指す。本発明によれば、抗原、細胞または組織などの作用物質に関する「への免疫応答」または「に対する免疫応答」という用語は、作用物質に対して向けられる細胞応答などの免疫応答に関する。免疫応答は、1つ以上の抗原に対する抗体の発現および、インビトロでの様々な増殖またはサイトカイン産生試験で検出され得る、抗原特異的Tリンパ球、好ましくはCD4+およびCD8+Tリンパ球、より好ましくはCD8+Tリンパ球の拡大からなる群より選択される1つ以上の反応を含み得る。
【0145】
本発明の文脈における「免疫応答を誘導する」および「免疫応答を誘発する」という用語ならびに類似の用語は、免疫応答の誘導、好ましくは細胞性免疫応答、体液性免疫応答、またはその両方の誘導を指す。免疫応答は、保護的/防御的/予防的および/または治療的であり得る。免疫応答は、任意の免疫原または抗原または抗原ペプチド、好ましくは腫瘍関連抗原または病原体関連抗原(例えばウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMVまたはRSVなど)の抗原)に対して向けられ得る。この文脈における「誘導する」は、誘導前に特定の抗原または病原体に対する免疫応答が存在しなかったことを意味し得るが、同時に、誘導前に特定の抗原または病原体に対するある程度の免疫応答が存在し、誘導後に前記免疫応答が増強されることも意味し得る。したがって、この文脈における「免疫応答を誘導する」には、「免疫応答を増強する」ことも含まれる。好ましくは、個体において免疫応答を誘導した後、前記個体は感染症または癌性疾患などの疾患の発症から保護され、または免疫応答を誘導することによって疾患状態が改善される。
【0146】
「細胞性免疫応答」、「細胞応答」、「細胞媒介性免疫」または類似の用語は、抗原の発現および/またはクラスIもしくはクラスII MHCと共に抗原を提示することを特徴とする細胞に向けられた細胞応答を含むことが意図されている。細胞応答は、「ヘルパー」または「キラー」のいずれかとして働くT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関連する。ヘルパーT細胞(CD4+T細胞とも称される)は、免疫応答を調節することによって中心的な役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞またはCTLとも称される)は、疾患細胞などの細胞を死滅させる。
【0147】
「体液性免疫応答」という用語は、作用物質および生物に応答して抗体が産生され、最終的にそれらを中和および/または排除する、生存生物における過程を指す。抗体応答の特異性は、単一特異性の抗原に結合する膜結合型受容体を介してTおよび/またはB細胞によって媒介される。適切な抗原の結合および様々な他の活性化シグナルの受け取り後、Bリンパ球が分裂し、記憶B細胞および抗体分泌形質細胞クローンを産生し、それぞれが、その抗原受容体によって認識されたのと同一の抗原エピトープを認識する抗体を産生する。記憶Bリンパ球は、その後それらの特異的抗原によって活性化されるまで休眠状態のままである。これらのリンパ球は記憶の細胞基盤を提供し、特異的抗原に再暴露されたときに抗体応答の増大を生じさせる。
【0148】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、抗原上のエピトープに特異的に結合することができる免疫グロブリン分子を指す。特に、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に連結された少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質を指す。「抗体」という用語には、モノクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、および前記のいずれかの組合せが含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)で構成される。可変領域および定常領域は、本明細書ではそれぞれ可変ドメインおよび定常ドメインとも称される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域が間に組み入れられた、相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域にさらに細分化することができる。各VHおよびVLは、次の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3つのCDRと4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。VHのCDRはHCDR1、HCDR2およびHCDR3と称され、VLのCDRはLCDR1、LCDR2およびLCDR3と称される。重および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は重鎖定常領域(CH)および軽鎖定常領域(CL)を含み、CHは、定常ドメインCH1、ヒンジ領域、ならびに定常ドメインCH2およびCH3(以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置されている:CH1、CH2、CH3)にさらに細分化することができる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクタ細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。抗体は、天然源または組換え供給源に由来する無傷の免疫グロブリンであり得、無傷の免疫グロブリンの免疫活性部分であり得る。抗体は、典型的には免疫グロブリン分子の四量体である。抗体は、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)2、ならびに一本鎖抗体およびヒト化抗体を含む様々な形態で存在し得る。
【0149】
「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質、好ましくは抗体またはB細胞受容体(BCR)などの抗原受容体に関する。免疫グロブリンは、特徴的な免疫グロブリン(Ig)フォールドを有する構造ドメイン、すなわち免疫グロブリンドメインを特徴とする。この用語は、膜結合免疫グロブリンおよび可溶性免疫グロブリンを包含する。膜結合免疫グロブリンは、表面免疫グロブリンまたは膜免疫グロブリンとも称され、一般にBCRの一部である。可溶性免疫グロブリンは一般に抗体と称される。免疫グロブリンは一般に、いくつかの鎖、典型的にはジスルフィド結合を介して連結された2本の同一の重鎖と2本の同一の軽鎖を含む。これらの鎖は、主に、VL(可変軽鎖)ドメイン、CL(定常軽鎖)ドメイン、VH(可変重鎖)ドメイン、ならびにCH(定常重鎖)ドメインCH1、CH2、CH3およびCH4などの免疫グロブリンドメインで構成される。哺乳動物免疫グロブリン重鎖には5つの種類、すなわちα、δ、ε、γおよびμがあり、これらは抗体の異なるクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMを構成する。可溶性免疫グロブリンの重鎖とは対照的に、膜または表面免疫グロブリンの重鎖は、そのカルボキシ末端に膜貫通ドメインと短い細胞質ドメインを含む。哺乳動物には、2種類の軽鎖、すなわちラムダとカッパがある。免疫グロブリン鎖は可変領域と定常領域を含む。定常領域は、免疫グロブリンの異なるアイソタイプ内で本質的に保存されており、可変部分は高度に多様であり、抗原認識を担う。
【0150】
「ワクチン接種」および「免疫化」という用語は、治療または予防上の理由で個体を治療する過程を表し、本明細書に記載されているように、1つ以上の免疫原または抗原またはその誘導体を、特にそれをコードするRNAの形態で個体に投与し、前記1つ以上の免疫原もしくは抗原に対する、または前記1つ以上の免疫原もしくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する免疫応答を刺激する手順に関する。
【0151】
「抗原の提示を特徴とする細胞」または「抗原を提示する細胞」または「抗原提示細胞の表面に抗原を提示するMHC分子」または類似の表現は、疾患細胞、特に腫瘍細胞、またはMHC分子、好ましくはMHCクラスIおよび/もしくはMHCクラスII分子、最も好ましくはMHCクラスI分子に関連して、直接またはプロセシング後に、抗原もしくは抗原ペプチドを提示する抗原提示細胞などの細胞を意味する。
【0152】
本発明の文脈において、「保護する」、「予防する」、「予防的」、「防御的」または「保護的」などの用語は、対象における疾患の発症および/または伝播の予防または治療またはその両方、特に個体が疾患を発症する可能性を最小限に抑えるまたは疾患の発症を遅らせることに関する。例えば、疾患のリスクがある人は、疾患を予防する治療法の候補となる。本明細書に記載の作用物質(例えばRNA)または組成物(医薬組成物、例えばワクチン組成物など)の予防的投与は、レシピエントを疾患の発症から、例えば病原体(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMVもしくはRSVなどのウイルス)による感染、または既存の腫瘍の播種もしくは転移から保護することができる。本明細書に記載の作用物質(例えばRNA)または組成物(医薬組成物など)の治療的投与は、疾患の進行/成長の阻害をもたらし得る。これは、好ましくは疾患の排除につながる、疾患の進行/成長の減速、特に疾患の進行の中断を含む。
【0153】
「アジュバント」という用語は、抗原、抗原ペプチド、または前記抗原もしくは抗原ペプチドをコードする核酸(RNA、好ましくはmRNAなど)と組み合わせて個体に投与された場合に、免疫応答を延長または増強または加速する化合物に関する。本発明の文脈において、RNA(好ましくはmRNA)は、任意のアジュバントと共に投与され得る。アジュバントは、抗原の表面の増加、体内での抗原の保持の延長、抗原放出の遅延、マクロファージへの抗原の標的化、抗原の取り込みの増加、抗原プロセシングの増強、サイトカイン放出の刺激、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、T細胞などの免疫細胞の刺激と活性化、および免疫細胞の非特異的活性化を含む1つ以上の機構によってその生物学的活性を発揮すると想定されている。例えば、DCの成熟を可能にする化合物、例えばリポ多糖またはCD40リガンドは、適切なアジュバントのクラスを形成する。一般に、「危険シグナル」の種類の免疫系に影響を及ぼす作用物質(LPS、GP96、dsRNAなど)またはGM-CSFなどのサイトカインは、制御された方法で免疫応答が強化されるおよび/または影響を受けることを可能にするアジュバントとして使用できる。CpGオリゴデオキシヌクレオチド(Krieg et al.,1995,Nature 374:546-549)もまた、この状況で任意に使用することができる。さらなる種類のアジュバントには、油エマルジョン(例えばフロイントアジュバント)、無機化合物(ミョウバンなど)、細菌産物(百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素など)、リポソーム、免疫刺激複合体、サイトカイン(例えばモノカイン、リンホカイン、インターロイキンまたはケモカイン、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IFN-α、IFN-γ、GM-CSF、LT-α、または成長因子、例えばhGH)、リポペプチド(例えばPam3Cys)が含まれる。一実施形態における本発明のRNA(好ましくはmRNA)が免疫刺激剤をコードすることができ、前記RNAによってコードされる前記免疫刺激剤が一次免疫刺激剤として作用する場合、しかしながら、比較的少量のCpG DNAしか必要としない(CpG DNAのみによる免疫刺激と比較して)。アジュバントの例は、モノホスホリル脂質A(MPL SmithKline Beecham)である。QS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham;国際公開第96/33739号)、QS7、QS17、QS18、およびQS-L1(So et al.,1997,Mol.Cells 7:178-186)などのサポニン、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタニド、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド、ならびにスクアレンおよび/またはトコフェロールなどの生物学的に分解可能な油から調製される様々な油中水型エマルジョン。特に好ましいアジュバントは、サイトカイン、例えばモノカイン、リンホカイン、インターロイキンまたはケモカイン、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IFN-α、IFN-γ、GM-CSF、LT-α、成長因子、例えばhGH、またはPam3Cysなどのリポペプチドであり、これらはすべて、本発明の医薬組成物中で、または本発明のRNAが治療法に使用される場合に、アジュバントとしての使用に適する。
【0154】
「増加する」、「増強する」または「延長する」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約100%の増加、増強、または延長に関する。これらの用語は、ゼロまたは測定不能もしくは検出不能なレベルから、ゼロより高いレベルまたは測定可能もしくは検出可能なレベルへの増加、増強、または延長にも関連し得る。
【0155】
「減少する」、「低減する」または「阻害する」などの用語は、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上のレベルの全体的な減少を生じさせる能力に関する。これには、完全なまたは本質的に完全な減少、すなわちゼロまたは本質的にゼロへの減少も含まれる。
【0156】
「移入する」、「トランスフェクトする」または「細胞に導入する」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、核酸、特に外因性または異種核酸、好ましくはRNA(mRNAなど)の細胞への導入に関する。本発明によれば、細胞は、器官、組織および/または生物の一部を形成することができる。核酸、特に外因性または異種核酸、好ましくはRNA(mRNAなど)の細胞への導入は、インビボまたはインビトロで行うことができる。
【0157】
「抗原提示細胞」(APC)は、その細胞表面にMHC分子と会合した抗原、特にタンパク質抗原のペプチド断片を表示する細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を使用してこの複合体を認識し得る。抗原提示細胞は抗原をプロセシングし、T細胞に提示する。抗原提示細胞には、単球/マクロファージ、B細胞および樹状細胞(DC)が含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、本発明によるAPCは、哺乳動物、好ましくはヒト、マウス、またはラットである。
【0158】
ノンプロフェッショナル抗原提示細胞は、ナイーブT細胞との相互作用に必要なMHCクラスIIタンパク質を構成的には発現しない;これらは、IFNγなどの特定のサイトカインによってノンプロフェッショナル抗原提示細胞が刺激されたときにのみ発現される。
【0159】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、食作用または受容体媒介エンドサイトーシスのいずれかによって抗原を内在化し、次いでクラスII MHC分子に結合した抗原の断片をその膜上に表示することにおいて非常に効率的である。T細胞は、抗原提示細胞の膜上の抗原-クラスII MHC分子複合体を認識し、それと相互作用する。次に、さらなる共刺激シグナルが抗原提示細胞によって生成され、T細胞の活性化をもたらす。共刺激分子の発現は、プロフェッショナル抗原提示細胞の決定的な特徴である。
【0160】
プロフェッショナル抗原提示細胞の主な種類は、最も広範囲の抗原提示を有し、おそらく最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B細胞、および特定の活性化上皮細胞である。
【0161】
樹状細胞(DC)は、末梢組織中で捕捉された抗原を、MHCクラスIIおよびIの両方の抗原提示経路を介してT細胞に提示する白血球集団である。樹状細胞は免疫応答の強力な誘導因子であり、これらの細胞の活性化が免疫誘導の重要な工程であることは周知である。
【0162】
樹状細胞は、好都合には「未成熟」細胞および「成熟」細胞として分類され、これらは、よく特徴付けられた2つの表現型を区別する簡単な方法として使用することができる。しかしながら、この命名法は、分化のすべての可能な中間段階を除外すると解釈されるべきではない。
【0163】
未成熟樹状細胞は、Fcγ受容体およびマンノース受容体の高発現と相関する、抗原の取り込みおよびプロセシングの高い能力を有する抗原提示細胞として特徴付けられる。成熟表現型は、典型的には、これらのマーカの発現はより低いが、クラスIおよびクラスII MHC、接着分子(例えばCD54およびCD11)ならびに共刺激分子(例えばCD40、CD80、CD86および4-1 BB)などのT細胞活性化に関与する細胞表面分子の発現が高いことを特徴とする。
【0164】
樹状細胞の成熟は、そのような抗原提示樹状細胞がT細胞プライミングを引き起こす樹状細胞活性化の状態と称され、一方、未成熟樹状細胞による提示は寛容をもたらす。樹状細胞の成熟は、主に、先天性受容体によって検出される微生物特徴を有する生体分子(細菌DNA、ウイルスRNA、エンドトキシンなど)、炎症性サイトカイン(TNF、IL-1、IFN)、CD40Lによる樹状細胞表面のCD40の連結、およびストレスによる細胞死を受けている細胞から放出される物質によって引き起こされる。樹状細胞は、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)および腫瘍壊死因子αなどのサイトカインと共にインビトロで骨髄細胞を培養することによって得ることができる。
【0165】
本発明の文脈における「免疫反応性細胞」または「エフェクタ細胞」という用語は、免疫反応中にエフェクタ機能を発揮する細胞に関する。「免疫反応性細胞」は、好ましくは、抗原、または抗原もしくは抗原に由来する抗原ペプチドの発現および/もしくは提示を特徴とし、免疫応答を媒介する細胞に結合することができる。例えば、そのような細胞は、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、微生物を死滅させ、抗体を分泌し、感染細胞または癌性細胞を認識し、任意でそのような細胞を排除する。例えば、免疫反応性細胞には、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤性T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞が含まれる。好ましくは、本発明の文脈において、「免疫反応性細胞」は、T細胞、好ましくはCD4+および/またはCD8+T細胞である。
【0166】
好ましくは、「免疫反応性細胞」は、特に抗原提示細胞または腫瘍細胞などの疾患細胞の表面などのMHC分子に関連して提示される場合、ある程度の特異性で抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識する。好ましくは、前記認識は、抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識する細胞が応答性または反応性であることを可能にする。細胞が、MHCクラスII分子に関連して抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識する受容体を担持するヘルパーT細胞(CD4+T細胞)である場合、そのような応答性または反応性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性または反応性は、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介細胞溶解を介した、MHCクラスI分子に関連して提示される細胞、すなわちクラスI MHCと共に抗原を提示することを特徴とする細胞の除去を含み得る。本発明によれば、CTL応答性には、持続的なカルシウム流入、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカの上方制御、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅が含まれ得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工レポータを使用して決定し得る。抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識し、応答性または反応性であるそのようなCTLは、本明細書では「抗原応答性CTL」とも称される。細胞がB細胞である場合、そのような応答性は免疫グロブリンの放出を含み得る。
【0167】
「T細胞」または「Tリンパ球」という用語は、様々な細胞性免疫反応に関与する胸腺由来細胞に関し、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。
【0168】
T細胞は、リンパ球として公知の白血球の群に属し、細胞性免疫において中心的な役割を果たす。これらは、T細胞受容体(TCR)と呼ばれるこれらの細胞表面上の特別な受容体の存在によって、B細胞およびナチュラルキラー細胞などの他の種類のリンパ球と区別することができる。胸腺は、T細胞の成熟に関与する主要な器官である。それぞれ別個の機能を有する、T細胞のいくつかの異なるサブセットが発見されている。
【0169】
Tヘルパー細胞は、数ある機能の中でも特に、B細胞の形質細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的過程において他の白血球を補助する。これらの細胞は、その表面にCD4タンパク質を発現するため、CD4+T細胞としても知られる。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面に発現されるMHCクラスII分子によってペプチド抗原と共に提示されたときに活性化される。ひとたび活性化されると、これらは速やかに分裂し、能動免疫応答を調節または補助する、サイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。
【0170】
細胞傷害性T細胞は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶反応にも関与する。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現するため、CD8+T細胞としても知られる。これらの細胞は、身体のほぼあらゆる細胞の表面上に存在する、MHCクラスIに関連する抗原に結合することによってその標的を認識する。
【0171】
T細胞の大部分は、いくつかのタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を有する。実際のT細胞受容体は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から生成され、α-およびβ-TCR鎖と呼ばれる2本の別々のペプチド鎖からなる。γδ T細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面に異なるT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小さなサブセットである。しかし、γδ T細胞では、TCRは1本のγ鎖と1本のδ鎖で構成される。このT細胞の群は、αβ T細胞よりもはるかにまれである(全T細胞の2%)。
【0172】
T細胞受容体の構造は、抗体の腕の軽および重鎖の組合せとして定義される領域である、免疫グロブリンFab断片に非常に類似する。TCRのそれぞれの鎖は免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、1つのN末端免疫グロブリン(Ig)可変(V)ドメイン、1つのIg定常(C)ドメイン、膜貫通/細胞膜貫通領域、およびC末端に短い細胞質尾部を有する。TCR α鎖とβ鎖の両方の可変ドメインは3つの超可変または相補性決定領域(CDR)を有するが、β鎖の可変領域は、通常は抗原と接触せず、したがってCDRとは見なされない追加の超可変性(HV4)を有する。CDR3は、プロセシングされた抗原の認識を担う主要なCDRであるが、α鎖のCDR1も抗原性ペプチドのN末端部分と相互作用することが示されており、一方β鎖のCDR1はペプチドのC末端部分と相互作用する。CDR2はMHCを認識すると考えられている。β鎖のCDR4は、抗原認識には関与しないと考えられているが、スーパー抗原と相互作用することが示されている。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成する短い連結配列からなり、これが2本の鎖の間にリンクを形成している。
【0173】
「末梢血単核細胞」または「PBMC」という用語は、円形の核を有する末梢血細胞に関する。これらの細胞はリンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)と単球からなるが、赤血球と血小板は核を有さず、顆粒球(好中球、好塩基球、および好酸球)は多葉核を有する。これらの細胞は、フィコールと勾配遠心分離を使用して全血から抽出することができ、これにより、血液が血漿の最上層、続いてPBMCの層ならびに多形核細胞(好中球および好酸球など)と赤血球の最下層画分に分離される。
【0174】
「主要組織適合遺伝子複合体」という用語および「MHC」という略語は、MHCクラスIおよびMHCクラスII分子を含み、すべての脊椎動物で生じる遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞または疾患細胞との間のシグナル伝達に重要であり、MHCタンパク質または分子はペプチドに結合し、T細胞受容体による認識のためにそれらを提示する。MHCによってコードされるタンパク質は、細胞の表面に発現され、T細胞に対して自己抗原(細胞自体からのペプチド断片)と非自己抗原(例えば侵入微生物の断片)の両方を表示する。
【0175】
MHC領域は、クラスI、クラスII、およびクラスIIIの3つのサブグループに分けられる。MHCクラスIタンパク質は、α鎖およびβ2ミクログロブリン(15番染色体によってコードされるMHCの一部ではない)を含む。それらは、抗原断片を細胞傷害性T細胞に提示する。ほとんどの免疫系細胞、特に抗原提示細胞では、MHCクラスIIタンパク質はαとβ鎖を含み、抗原断片をTヘルパー細胞に提示する。MHCクラスIII領域は、補体成分およびサイトカインをコードするものなどの他の免疫成分をコードする。
【0176】
ヒトでは、細胞表面の抗原提示タンパク質をコードするMHC領域の遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と称される。しかし、MHCという略語は、しばしばHLA遺伝子産物を指すために使用される。HLA遺伝子には、9つのいわゆる古典的MHC遺伝子:HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA、およびHLA-DRB1が含まれる。
【0177】
免疫療法または免疫応答に関する本発明のすべての態様の1つの好ましい実施形態では、MHC分子はHLA分子である。
【0178】
本発明の文脈において「免疫エフェクタ機能」または「エフェクタ機能」という用語は、例えば細胞の死滅をもたらす免疫系の成分によって媒介される任意の機能を含む。好ましくは、本発明の文脈における免疫エフェクタ機能は、T細胞媒介性エフェクタ機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)の場合は、T細胞受容体によるMHCクラスII分子に関連した抗原または抗原由来の抗原ペプチドの認識、サイトカインの放出、ならびに/またはCD8+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み、CTLの場合は、T細胞受容体によるMHCクラスI分子に関連した抗原または抗原由来の抗原ペプチドの認識、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解を介した、MHCクラスI分子に関連して提示された細胞の除去、すなわちクラスI MHCと共に抗原を提示することを特徴とする細胞の除去、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅を含む。
【0179】
本発明の文脈における「免疫エフェクタ細胞」という用語は、免疫反応中にエフェクタ機能を発揮する細胞に関する。「免疫エフェクタ細胞」は、好ましくは、抗原または抗原の提示を特徴とし、免疫応答を媒介する細胞に結合することができる。例えば、そのような細胞は、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、微生物を死滅させ、抗体を分泌し、感染細胞または癌性細胞を認識し、任意でそのような細胞を排除する。例えば、免疫エフェクタ細胞には、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤性T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞が含まれる。好ましくは、本発明の文脈において、「免疫エフェクタ細胞」は、T細胞、好ましくはCD4+および/またはCD8+T細胞である。
【0180】
好ましくは、「免疫エフェクタ細胞」は、特に抗原提示細胞または疾患細胞などの疾患細胞の表面などのMHC分子に関連して提示される場合、ある程度の特異性で抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識する。好ましくは、前記認識は、抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識する細胞が応答性であることを可能にする。細胞が、MHCクラスII分子に関連して抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識する受容体を担持するヘルパーT細胞(CD4+T細胞)である場合、そのような応答性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性は、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解を介した、MHCクラスI分子に関連して提示される細胞、すなわちクラスI MHCと共に抗原を提示することを特徴とする細胞の除去を含み得る。抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識し、応答性であるそのようなCTLは、本明細書では「抗原応答性CTL」とも称される。細胞がB細胞である場合、そのような応答性は免疫グロブリンの放出を含み得る。
【0181】
「半減期」という用語は、分子の活性、量、または数の半分を除去するのに必要な期間に関する。本発明の文脈において、RNA(好ましくはmRNA)の半減期は、前記RNAの安定性の指標である。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続期間」に影響を及ぼし得る。長い半減期を有するRNAは長期間発現されると予想することができる。
【0182】
言うまでもなく、本発明に従ってRNAの安定性および/または翻訳効率を低下させることが望ましい場合、RNAの安定性および/または翻訳効率を高める上記の要素の機能を妨げるようにRNAを修飾することが可能である。
【0183】
「患者」、「個体」、「対象」、または「動物」という用語は互換的に使用され、脊椎動物に関する。例えば、本発明の文脈における脊椎動物は、哺乳動物、鳥(例えば家禽)、爬虫類、両生類、硬骨魚、および軟骨魚、特に上記のいずれかの飼いならされた動物ならびに動物園の動物などの捕らわれている動物であり、好ましくは哺乳動物である。例えば、本発明の文脈における哺乳動物には、ヒト、非ヒト霊長動物、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどの飼いならされた哺乳動物、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどの実験動物、および動物園の動物などの捕らわれている動物が含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される「動物」という用語にはヒトも含まれる。「対象」という用語は、疾患、好ましくは本明細書に記載の疾患を有する患者、すなわち動物、好ましくはヒトも含み得る。
【0184】
本発明によれば、「慢性患者」または「長期患者」という用語は、慢性疾患または障害を有する患者を指す。「慢性疾患または障害」は、持続性であるおよび/またはその作用(例えば症状)が少なくとも3週間、例えば少なくとも4週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも2年間、少なくとも3年間、少なくとも4年間、少なくとも5年間、または少なくとも10年間、例えば最大4週間、最大1ヶ月間、最大2ヶ月間、最大3ヶ月間、最大4ヶ月間、最大5ヶ月間、最大6ヶ月間、最大12ヶ月間、最大2年間、最大3年間、最大4年間、最大5年間、最大10年間、または患者の生涯にわたって持続する疾患または障害である。
【0185】
本発明によれば、「腫瘍」または「腫瘍疾患」という用語は、細胞(新生細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常な増殖によって形成される腫脹または病変を指す。「腫瘍細胞」とは、急速で制御されない細胞増殖によって成長し、新たな成長を開始させた刺激が停止した後も成長し続ける異常細胞を意味する。腫瘍は、構造機構および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常は良性、前悪性または悪性のいずれかであり得る明確な組織塊を形成する。
【0186】
好ましくは、本発明による腫瘍疾患は癌疾患、すなわち悪性疾患であり、腫瘍細胞は癌細胞である。好ましくは、腫瘍疾患は、抗原、すなわち腫瘍抗原が発現されるかまたは異常発現される細胞を特徴とする。好ましくは、腫瘍疾患または腫瘍細胞は、クラスI MHCと共に腫瘍抗原を提示することを特徴とする。
【0187】
「異常発現」とは、本発明によれば、健常個体の状態と比較して、発現が変化している、好ましくは増加していることを意味する。発現の増加は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、または少なくとも100%の増加を指す。一実施形態では、発現は疾患組織でのみ認められ、健常組織での発現は抑制される。
【0188】
本発明による腫瘍疾患は癌であり、本発明による「癌」という用語には、白血病、セミノーマ、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、副腎癌、甲状腺癌、血液癌、皮膚癌、脳の癌、子宮頸癌、腸癌、肝臓癌、結腸癌、胃癌、腸癌、頭頸部癌、消化器癌、リンパ節癌、食道癌、結腸直腸癌、膵臓癌、耳鼻咽喉(ENT)癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌、および肺癌、ならびにそれらの転移が含まれる。それらの例は、肺癌腫、乳房癌腫、前立腺癌腫、結腸癌腫、腎細胞癌腫、子宮頸癌腫、または上記の癌型もしくは腫瘍の転移である。本発明による「癌」という用語は癌転移も含む。
【0189】
一実施形態では、本発明によるRNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードする(修飾)RNA、特に(修飾)mRNAである。本発明によれば、「ペプチドまたはタンパク質をコードするRNA」という用語は、RNAが、適切な環境、好ましくは細胞内に存在する場合、翻訳過程の間にペプチドまたはタンパク質を産生する、すなわち発現するようにアミノ酸のアセンブリに指令できることを意味する。好ましくは、本発明によるRNA(mRNAなど)は、ペプチドまたはタンパク質の翻訳を可能にする細胞翻訳機構と相互作用することができる。
【0190】
「コードする」は、定義されたヌクレオチドの配列または定義されたアミノ酸の配列のいずれかを有する、生物学的過程における他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として機能する、核酸中の特定のヌクレオチド配列の固有の特性を指す。したがって、核酸の発現(翻訳および任意で転写)が細胞または他の生体系でタンパク質を産生する場合、核酸はタンパク質をコードする。
【0191】
「発現」という用語は、本発明に従ってその最も一般的な意味で使用され、例えば転写および/または翻訳によるRNAおよび/またはペプチドもしくはタンパク質の産生を含む。RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、特にペプチドまたはタンパク質の産生に関する。これはまた、核酸の部分的発現も含む。さらに、発現は一過性または安定であり得る。
【0192】
本発明の文脈において、「転写」という用語は、DNA配列の遺伝暗号がRNAに転写される過程に関する。その後、RNAはタンパク質に翻訳され得る。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが、好ましくは適切な細胞抽出物を使用して、無細胞系においてインビトロで合成される過程に関する。好ましくは、クローニングベクターが転写物の生成に適用される。これらのクローニングベクターは、一般に転写ベクターと称され、本発明によれば「ベクター」という用語に包含される。本発明によれば、本発明で使用されるRNAは、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモータは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモータであり得る。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7、T3、およびSP6 RNAポリメラーゼである。好ましくは、本発明によるインビトロ転写は、T7またはSP6プロモータによって制御される。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0193】
cDNA含有ベクター鋳型は、転写後に、任意で異なるペプチドもしくはタンパク質を発現することができる異なるRNA分子の集団をもたらす異なるcDNA挿入物を担持するベクターを含み得、または転写後にのみ、1つのペプチドもしくはタンパク質のみを発現することができる1つのRNA種の集団をもたらす唯一の種のcDNA挿入物を担持するベクターを含み得る。したがって、単一のペプチドまたはタンパク質のみを発現できるRNAを生成すること、またはRNAライブラリおよび複数のペプチドもしくはタンパク質を発現できる全細胞RNAなどの異なるRNAの組成物、例えばペプチドまたはタンパク質の組成物を生成することが可能である。本発明は、そのようなすべてのRNAの細胞への導入を想定する。
【0194】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、プラスミドベクター、コスミドベクター、λファージなどのファージベクター、アデノウイルスもしくはバキュロウイルスベクターなどのウイルスベクター、または細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)もしくはP1人工染色体(PAC)などの人工染色体ベクターを含む、当業者に公知の任意のベクターを含む。前記ベクターには、発現ベクターおよびクローニングベクターが含まれる。発現ベクターは、プラスミドおよびウイルスベクターを含み、一般に、所望のコード配列および特定の宿主生物(例えば細菌、酵母、植物、昆虫もしくは哺乳動物)またはインビトロ発現系における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な適切なDNA配列を含む。クローニングベクターは一般に、特定の所望のDNA断片を操作および増幅するために使用され、所望のDNA断片の発現に必要な機能的配列を欠いていてもよい。
【0195】
ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸は、多くの種類のベクターにクローニングすることができる。しかしながら、本発明は、特定のベクターに限定されると解釈されるべきではない。代わりに、本発明は、容易に入手可能であり、当技術分野で周知の非常に多くのベクターを包含すると解釈されるべきである。特定の実施形態では、ベクターは、ウイルスベクター、細菌ベクター、および哺乳動物細胞ベクターからなる群より選択される。多くのそのような系が市販されており、広く入手可能である。
【0196】
ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供され得る。ウイルスベクター技術は当技術分野で周知である。ベクターとして有用なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、ウイルスはヘルパー依存性アデノウイルス(HD-Ad)である。一般に、適切なベクターは、少なくとも1つの生物において機能性の複製起点、プロモータ配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つ以上の選択可能なマーカを含む。
【0197】
分子生物学の当業者は、一般に、タンパク質発現のためにプロモータ、エンハンサ、および細胞型の組合せを使用する方法を知っている。使用されるプロモータは、構成的、組織特異的、誘導性であり得、および/または適切な条件下でペプチドもしくはタンパク質をコードする導入された核酸セグメントの高レベル発現を指令するのに有用であり得る。プロモータは、異種または内因性であり得る。本発明に従って使用され得る構成的プロモータ配列には、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ配列、サルウイルス40(SV40)初期プロモータ、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)ロングターミナルリピート(LTR)プロモータ、モロニーウイルスプロモータ、トリ白血病ウイルスプロモータ、エプスタインバーウイルス前初期プロモータ、ラウス肉腫ウイルスプロモータ、ならびにアクチンプロモータ、ミオシンプロモータ、ヘモグロビンプロモータ、および筋肉クレアチンプロモータなどの、しかしこれらに限定されないヒト遺伝子プロモータが含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明は、構成的プロモータの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモータもまた、本発明の一部として企図される。本発明における誘導性プロモータの使用は、そのような発現が所望される場合にプロモータが作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現をオンにする、または発現が所望されない場合に発現をオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモータの例には、メタロチオネインプロモータ、グルココルチコイドプロモータ、プロゲステロンプロモータ、およびテトラサイクリンプロモータが含まれるが、これらに限定されない。さらに、本発明は、組織特異的プロモータの使用を含み、このプロモータは所望の組織においてのみ活性である。組織特異的プロモータは当技術分野で周知であり、HER-2プロモータおよびPSA関連プロモータ配列が含まれるが、これらに限定されない。
【0198】
ペプチドまたはタンパク質の発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターは、選択マーカ遺伝子またはレポータ遺伝子またはその両方を含むこともでき、ウイルスベクターを介してトランスフェクトまたは感染させようとする細胞集団からの発現細胞の同定および選択を容易にし得る。他の実施形態では、選択マーカは別個のDNA片上に担持されてもよく、同時トランスフェクション手順において使用され得る。選択マーカとレポータ遺伝子の両方に、細胞での発現を可能にする適切な調節配列を隣接させ得る。有用な選択マーカは当技術分野で公知であり、例えばneoなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。レポータ遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞を同定するため、および調節配列の機能性を評価するために使用される。容易にアッセイ可能なタンパク質をコードするレポータ遺伝子は、当技術分野で周知である。一般に、レポータ遺伝子は、レシピエントの生物または組織に存在しないかまたは発現されない遺伝子であり、その発現がいくつかの容易に検出可能な特性、例えば酵素活性によって明らかにされるタンパク質をコードする遺伝子である。レポータ遺伝子の発現は、核酸がレシピエント細胞に導入された後の適切な時点でアッセイされる。適切なレポータ遺伝子には、ルシフェラーゼ、β‐ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリホスファターゼをコードする遺伝子、または緑色蛍光タンパク質遺伝子が含まれ得る。
【0199】
ベクターは、当技術分野における任意の方法によって細胞に容易に導入することができる。例えば、発現ベクターは、物理的、化学的または生物学的手段によって細胞に移入することができる。核酸を宿主細胞に導入する物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、微粒子銃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれる。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を作製する方法は、当技術分野で周知である。例えば、Sambrook et al.(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、およびAusubel et al.(1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York)参照。
【0200】
目的の核酸を細胞に導入する生物学的方法には、DNAおよびRNAベクターの使用が含まれる。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞に遺伝子を挿入するための最も広く使用される方法になっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなどに由来し得る。
【0201】
核酸を細胞に導入する化学的手段には、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散系、ならびに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセルおよびリポソームなどの脂質ベースの系が含まれる。インビトロおよびインビボで送達ビヒクルとして使用するための好ましいコロイド系は、リポソーム(すなわち人工膜小胞)である。そのような系の調製および使用は、当技術分野で周知である。
【0202】
外因性核酸を細胞に導入する、または細胞内のペプチドもしくはタンパク質の細胞レベルを増加させるために使用される方法に関わりなく、細胞におけるペプチドまたはタンパク質またはそのコード核酸の存在および/または量を確認するために、様々なアッセイを実施し得る。そのようなアッセイには、例えばサザンブロット法、ノーザンブロット法、RT-PCRおよびPCR、ならびに例えば免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)によって特定のペプチドの存在または非存在を検出するためのアッセイが含まれる。
【0203】
「細胞」という用語は、RNA(好ましくはmRNA)でトランスフェクトすることができる任意の細胞を意味し、トランスフェクトされるRNAは、好ましくは外因性または異種RNAである。細胞は任意の対象から得ることができ、一実施形態では、障害または疾患を有する患者から得られ得る。細胞が障害または疾患を有する患者から得られる場合、細胞は、導入されるRNAと相同であるが、活性が低下したペプチドまたはタンパク質をもたらす遺伝物質を含み得る。活性低下は、(i)ペプチドもしくはタンパク質の発現減少(すなわちペプチドもしくはタンパク質は十分に機能性であるが、その量が減少している)または(ii)発現されたペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列における1つ以上の突然変異の存在(すなわちペプチドもしくはタンパク質が十分に機能性ではない)の結果であり得る。例えば、活性が低下したペプチドまたはタンパク質をもたらすそのような相同な遺伝物質は、(i)1つ以上の突然変異を含む前記遺伝子の発現が低下もしくはサイレンシングし、それにより減少した量の十分に機能性であるペプチドもしくはタンパク質をもたらす、および/または(ii)前記遺伝子によってコードされるペプチドもしくはタンパク質のアミノ酸配列が1つ以上の突然変異を含み、それにより十分に機能性ではない(もしくは非機能性の)ペプチドもしくはタンパク質をもたらすような方法で1つ以上の突然変異を含む遺伝子であり得る。
【0204】
十分に機能性のペプチドまたはタンパク質が、細胞または患者において発現されるが、細胞または患者の機能を維持するには量が低すぎる場合(例えば細胞が含まれる患者における疾患または障害の発症につながる)、前記ペプチドまたはタンパク質を置換または補充する療法(タンパク質補充療法)は有益であろう。そのようなタンパク質補充療法は、前記ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(またはそのようなRNAを含む医薬組成物などの組成物)を患者に投与する工程、あるいは(a)前記ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNAを細胞(患者から得られ得る)に移入し、(b)前記トランスフェクトされた細胞を患者に投与する工程を含み得る。
【0205】
患者におけるペプチドまたはタンパク質の活性低下(したがって、疾患または障害の発症)が、前記ペプチドまたはタンパク質のアミノ酸配列における1つ以上の突然変異の存在に起因する(すなわちペプチドまたはタンパク質が十分に機能性ではない)場合、ゲノム操作療法は有益であろう。そのようなゲノム操作療法は、患者に、(i)ゲノム操作タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)および(ii)ペプチドまたはタンパク質をその天然(すなわち非変異)形態でコードするヌクレオチド配列を含むDNAを投与する工程を含み得る。
【0206】
あるいは、遺伝的再プログラミング療法は、特に所望のペプチドまたはタンパク質(例えばインスリンなどのホルモン)を産生する細胞の枯渇または消失を引き起こす疾患または障害を有する患者に有益である。例えば、そのような遺伝的再プログラミング療法は、(a)1つ以上の再プログラミング因子をコードするヌクレオチド配列を含むRNA(特に本発明のRNA)を体細胞に導入する工程;(b)幹細胞特性を有する細胞の発生を可能にする工程;および(c)幹細胞特性を有する細胞を患者に投与する工程を含み得る。好ましい実施形態では、体細胞は患者にとって自家である。
【0207】
本発明による「翻訳」という用語は、mRNAの鎖が、ペプチドまたはポリペプチドを作製するようにアミノ酸の配列のアセンブリを指令する、細胞のリボソームにおける過程に関する。翻訳は、インビボ(例えば細胞、組織、もしくは生物において)またはインビトロ(例えば無細胞系を使用して)で実施され得る。
【0208】
本発明に従って核酸と機能的に連結され得る発現制御配列または調節配列は、核酸に関して同種または異種であり得る。コード配列および調節配列は、コード配列の転写または翻訳が調節配列の制御下または影響下にあるように一緒に共有結合されている場合、「機能的に」連結されている。調節配列とコード配列との機能的連結によって、コード配列が機能的タンパク質に翻訳される場合、調節配列の誘導は、コード配列のリーディングフレームシフトまたはコード配列が所望のタンパク質もしくはペプチドに翻訳されないことを生じさせずに、コード配列の転写をもたらす。
【0209】
「発現制御配列」または「調節配列」という用語は、本発明によれば、核酸の転写または誘導されたRNAの翻訳を制御する、プロモータ、リボソーム結合配列および他の制御エレメントを含む。本発明の特定の実施形態では、調節配列を制御することができる。調節配列の正確な構造は種または細胞型に応じて異なり得るが、一般に、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの転写または翻訳の開始に関与する5'非転写ならびに5'および3'非翻訳配列を含む。特に、5'非転写調節配列は、機能的に結合した遺伝子の転写制御のためのプロモータ配列を含有するプロモータ領域を含む。調節配列は、エンハンサ配列または上流活性化配列も含み得る。
【0210】
本発明によれば、ペプチドまたはタンパク質をコードするRNA(好ましくはmRNA)などの核酸は、インビトロでまたは対象内に存在し得る細胞に取り込まれるかまたは導入される、すなわちトランスフェクトまたは形質導入されると、前記ペプチドまたはタンパク質の発現をもたらすことが好ましい。細胞は、コードされたペプチドまたはタンパク質を細胞内で(例えば細胞質および/または核内で)発現してもよく、コードされたペプチドまたはタンパク質を分泌してもよく、またはそれを表面に発現してもよい。
【0211】
本発明によれば、「発現する核酸」および「コードする核酸」などの用語または類似の用語は、本明細書では互換的に使用され、特定のペプチドまたはポリペプチドに関して、核酸が、適切な環境、好ましくは細胞内に存在する場合、発現されて前記ペプチドまたはポリペプチドを生成できることを意味する。
【0212】
本発明によれば、RNAは、例えば腹腔内、筋肉内、もしくは皮内へのRNAの投与、または細胞が未成熟な抗原提示細胞である場合は、リンパ系(リンパ節など)へのRNAの投与によって、インビトロまたはインビボのいずれかで細胞に移入されるべきである。本発明によれば、RNAを細胞に移入するのに適した任意の技術を使用して、RNAを細胞に導入し得る。好ましくは、RNAは標準的な技術によって細胞にトランスフェクトされる。そのような技術には、核酸のリン酸カルシウム沈殿物のトランスフェクション、DEAEに関連する核酸のトランスフェクション、目的の核酸を担持するウイルスによるトランスフェクションまたは感染、エレクトロポレーション、リポフェクション、およびマイクロインジェクションが含まれる。本発明によれば、核酸の投与は、裸の核酸として、または投与試薬と組み合わせて達成される。好ましくは、核酸の投与は裸の核酸の形態である。好ましくは、RNAは、RNアーゼ阻害剤などの安定化物質と組み合わせて投与される。特に好ましい実施形態では、本発明のRNAおよび/または組成物は、裸のRNAとして、好ましくは腹腔内、筋肉内に、結節内注射または経皮投与によって投与される。抗原提示細胞(未成熟抗原提示細胞など)、好ましくは樹状細胞(未成熟樹状細胞など)の場合、特に未成熟樹状細胞などの未成熟抗原提示細胞はマクロピノサイトーシスによって裸のRNAを取り込むことができるため、従来のトランスフェクション技術は、裸のRNAを前記細胞に導入するために絶対に必要とは限らない。好ましくは、目的のペプチドまたはタンパク質をコードするRNAの細胞への導入は、細胞内での前記目的のペプチドまたはタンパク質の発現をもたらす。特定の実施形態では、核酸を特定の細胞に標的化することが好ましい。そのような実施形態では、細胞への核酸の投与に適用される担体(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)は、標的分子を示す。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質または標的細胞上の受容体のリガンドに特異的な抗体などの分子を、核酸担体に組み込み得るかまたはそれに結合し得る。核酸がリポソームによって投与される場合、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、標的化および/または取り込みを可能にするためにリポソーム製剤に組み込み得る。そのようなタンパク質は、特定の細胞型、内在化されるタンパク質に対する抗体、細胞内の位置を標的とするタンパク質などに特異的なカプシドタンパク質またはその断片を包含する。
【0213】
本明細書で使用される「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合によって共有結合で連結された2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは21個以上、および好ましくは8、10、20、30、40または50個、特に100個までのアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、選択的に、大きなペプチド、好ましくは100個を超えるアミノ酸残基を有するペプチドを指すが、一般に「ペプチド」と「タンパク質」という用語は同義語であり、本明細書では互換的に使用される。
【0214】
「免疫学的に活性な化合物」という用語は、好ましくは免疫細胞の成熟を誘導および/もしくは抑制する、サイトカイン生合成を誘導および/もしくは抑制する、ならびに/またはB細胞による抗体産生を刺激することにより体液性免疫を変化させることによって、免疫応答を変化させる任意の化合物に関する。免疫学的に活性な化合物は、抗ウイルスおよび抗腫瘍活性を含むがこれらに限定されない強力な免疫刺激活性を有し、また免疫応答の他の局面を下方制御する、例えば免疫応答をTH2免疫応答からシフトさせることもでき、これは広範囲のTH2媒介性疾患を治療するのに有用である。免疫学的に活性な化合物は、ワクチンアジュバントとして有用であり得る。
【0215】
一実施形態では、特に抗原(疾患関連抗原)が関与するまたはそれを発現する疾患を有する哺乳動物を治療することを所望する場合、疾患関連抗原などの抗原をコードするRNA(mRNAなど)を哺乳動物に投与する。RNAは、好ましくは哺乳動物の抗原提示細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞または他の細胞)に取り込まれる。RNAの抗原性翻訳産物が形成され、その産物がT細胞による認識のために細胞の表面に表示される。一実施形態では、抗原またはその任意のプロセシングによって生成された産物は、それらの活性化をもたらすT細胞受容体を介したT細胞による認識のためにMHC分子に関連して細胞表面に表示される。
【0216】
「目的の抗原を提示するMHC分子の部分」という用語は、細胞表面のMHC分子の総量に対して、特定の抗原または前記抗原由来の抗原ペプチドが負荷されている、すなわち結合している、抗原提示細胞の表面上のMHC分子の画分を指す。好ましい実施形態では、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNAは、RNAが移入された抗原提示細胞の表面上に目的の抗原を提示するMHC分子の部分を増加させることができる。これは、本発明の5'キャップ化合物の5'キャップ構造を担持しないRNA、特に、従来のRNAキャップを担持するRNAとの比較においてである。
【0217】
本発明によれば、「疾患」、「障害」、および「状態」という用語は、本明細書では互換的に使用され、感染症(すなわち病原体によって引き起こされる疾患)、腫瘍疾患、および望ましくない炎症を含む任意の病的状態を指す。
【0218】
「リスクがある」とは、一般集団と比較して疾患を発症する可能性が通常よりも高いと同定された個体、すなわち患者を意味する。さらに、疾患を有していたか、または現在有している個体は、引き続き疾患を発症する可能性があるため、疾患を発症するリスクが高い対象である。
【0219】
「インビボ」という用語は、対象における状況に関する。
【0220】
「自己」という用語は、同じ対象に由来するものを表すために使用される。例えば、「自己細胞」とは、同じ対象に由来する細胞を指す。そのような手順は、さもなければ拒絶反応をもたらす免疫学的障壁を克服するため、有利である。
【0221】
「異種」という用語は、複数の異なる要素からなるものを表すために使用される。一例として、ある個体の骨髄を異なる個体に移入することは、異種移植を構成する。異種遺伝子は、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0222】
本明細書で使用される「非ヌクレオチドリンカー」という用語は、リン酸塩またはリン酸塩誘導体(ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、またはホスホロアミダイトなど)ではない2つのヌクレオシドの任意のリンカーを意味する。好ましくは、非ヌクレオチドリンカーは、ペプチド、アミン、脂肪族炭化水素(例えばアルキル)、または芳香族炭化水素であり、炭化水素は、任意に、ヒドロキシ、アミノ、チオール、チオエーテル、エーテル、アミド、チオアミド、エステル、尿素、またはチオ尿素を含むがこれらに限定されない1つ以上の官能基を含んでもよい。そのような非ヌクレオチドリンカーの特定の例には、アルキルリンカーが含まれるが、これに限定されない。アルキルリンカーは、分岐または非分岐、環状または非環状、置換または非置換、飽和または不飽和、キラル、アキラルまたはラセミ混合物であってよい。アルキルリンカーは、2~18個の炭素原子、例えば3~9個の炭素原子を有することができる。いくつかのアルキルリンカーは、ヒドロキシ、アミノ、チオール、チオエーテル、エーテル、アミド、チオアミド、エステル、尿素、およびチオエーテルを含むがこれらに限定されない1つ以上の官能基を含む。そのようなアルキルリンカーには、1-プロパノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2,3-プロパントリオール、トリエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ポリエチレングリコールリンカー(例えば[-O-CH2CH2-]c、(c=1、2、3、4、5、6、7、8、もしくは9))、メチルリンカー、エチルリンカー、プロピルリンカー、ブチルリンカー、またはヘキシルリンカーが含まれ得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、非ヌクレオチドリンカーは、式HO-(CH2)o-CH(OH)-(CH2)p-OH[式中、oおよびpは、独立して、1~6、例えば1~4、または1~3の整数である]のグリセロールまたはグリセロールホモログである。いくつかの他の実施形態では、非ヌクレオチドリンカーは、式HO-(CH2)m-C(O)NH-CH2-CH(OH)-CH2-NHC(OMCH2)m-OH[式中、各mは、独立して、0~10、例えば0~6、2~6、または2~4の整数である]を有するものなどの1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパンの誘導体である。
【0223】
「アルキル」という用語は、飽和直鎖または分岐炭化水素のモノラジカルを指す。好ましくは、アルキル基は、1~20個の炭素原子、例えば1~12個または1~10個の炭素原子、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個の炭素原子、より好ましくは1~8個の炭素原子、例えば1~6個または1~4個の炭素原子を含む。例示的なアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル(例えばn-ブチル、イソブチル、tert-ブチル)、ペンチル(例えばn-ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、ネオペンチル)、1,2-ジメチルプロピル、イソアミル、n-ヘキシル、イソヘキシル、sec-ヘキシル、2,2-ジメチルブチル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシルなどが含まれる。「置換アルキル」とは、アルキル基の1個以上(例えば1個からアルキル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の水素原子が、水素以外の置換基で置換されている(複数の水素原子が置換されている場合、置換基は同じでも異なっていてもよい)ことを意味する。好ましくは、水素以外の置換基は、本明細書で指定されるような第1レベルの置換基、第2レベルの置換基、または第3レベルの置換基、例えばハロゲンまたは置換されていてもよいアリールである。置換アルキルの例には、トリフルオロメチル、2,2,2-トリクロロエチル、アリールアルキル(「アラルキル」とも呼ばれる、例えばベンジル、クロロ(フェニル)メチル、4-メチルフェニルメチル、(2,4-ジメチルフェニル)メチル、o-フルオロフェニルメチル、2-フェニルプロピル、2-、3-、もしくは4-カルボキシフェニルアルキル)、またはヘテロアリールアルキル(「ヘテロアラルキル」とも呼ばれる)が含まれる。
【0224】
「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する不飽和の直鎖または分岐炭化水素のモノラジカルを指す。一般に、アルケニル基の炭素-炭素二重結合の最大数は、アルケニル基の炭素原子の数を2で割ることによって計算される整数に等しく、アルケニル基の炭素原子の数が奇数である場合は、除算の結果を次の整数に切り捨てる。例えば、9個の炭素原子を有するアルケニル基の場合、炭素-炭素二重結合の最大数は4である。好ましくは、アルケニル基は、1~4個、すなわち1、2、3、または4個の炭素-炭素二重結合を有する。好ましくは、アルケニル基は、2~20個の炭素原子、例えば2~12個または2~10個の炭素原子、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子、例えば2~6個の炭素原子または2~4個の炭素原子を含む。したがって、好ましい実施形態では、アルケニル基は、2~10個の炭素原子および1、2、3、4、もしくは5個の炭素-炭素二重結合を含み、より好ましくは2~8個の炭素原子および1、2、3、もしくは4個の炭素-炭素二重結合、例えば2~6個の炭素原子および1、2、もしくは3個の炭素-炭素二重結合、または2~4個の炭素原子および1もしくは2個の炭素-炭素二重結合を含む。炭素-炭素二重結合(1つまたは複数)は、シス(Z)またはトランス(E)配置であり得る。例示的なアルケニル基には、エテニル(すなわちビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル(すなわちアリル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-ヘプテニル、2-ヘプテニル、3-ヘプテニル、4-ヘプテニル、5-ヘプテニル、6-ヘプテニル、1-オクテニル、2-オクテニル、3-オクテニル、4-オクテニル、5-オクテニル、6-オクテニル、7-オクテニル、1-ノネニル、2-ノネニル、3-ノネニル、4-ノネニル、5-ノネニル、6-ノネニル、7-ノネニル、8-ノネニル、1-デセニル、2-デセニル、3-デセニル、4-デセニル、5-デセニル、6-デセニル、7-デセニル、8-デセニル、9-デセニルなどが含まれる。アルケニル基が窒素原子に結合している場合、二重結合は窒素原子に対してアルファではあり得ない。「置換アルケニル」とは、アルケニル基の1個以上(例えば1個からアルケニル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の水素原子が、水素以外の置換基で置換されている(複数の水素原子が置換されている場合、置換基は同じでも異なっていてもよい)ことを意味する。好ましくは、水素以外の置換基は、本明細書で指定されるような第1レベルの置換基、第2レベルの置換基、または第3レベルの置換基、例えばハロゲンまたは置換されていてもよいアリールである。置換アルケニルの一例は、スチリル(すなわち2-フェニルビニル)である。
【0225】
「アルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素‐炭素三重結合を有する不飽和の直鎖または分岐炭化水素のモノラジカルを指す。一般に、アルキニル基の炭素-炭素三重結合の最大数は、アルキニル基の炭素原子の数を2で割ることによって計算される整数に等しく、アルキニル基の炭素原子の数が奇数である場合は、除算の結果を次の整数に切り捨てる。例えば、9個の炭素原子を有するアルキニル基の場合、炭素-炭素三重結合の最大数は4である。好ましくは、アルキニル基は、1~4個、すなわち1、2、3、または4個、より好ましくは1もしくは2個の炭素-炭素三重結合を有する。好ましくは、アルキニル基は、2~20個の炭素原子、例えば2~12個または2~10個の炭素原子、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個の炭素原子、より好ましくは2~8個の炭素原子、例えば2~6個の炭素原子または2~4個の炭素原子を含む。したがって、好ましい実施形態では、アルキニル基は、2~10個の炭素原子および1、2、3、4、もしくは5個(好ましくは1、2、もしくは3個)の炭素-炭素三重結合を含み、より好ましくは2~8個の炭素原子および1、2、3、もしくは4個(好ましくは1もしくは2個)の炭素-炭素三重結合、例えば2~6個の炭素原子および1、2、もしくは3個の炭素-炭素三重結合、または2~4炭素原子および1もしくは2個の炭素-炭素三重結合を含む。例示的なアルキニル基には、エチニル、1-プロピニル(すなわち-C≡CCH3)、2-プロピニル(すなわち-CH2C≡CHまたはプロパルギル)、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、4-ヘキシニル、5-ヘキシニル、1-ヘプチニル、2-ヘプチニル、3-ヘプチニル、4-ヘプチニル、5-ヘプチニル、6-ヘプチニル、1-オクチニル、2-オクチニル、3-オクチニル、4-オクチニル、5-オクチニル、6-オクチニル、7-オクチニル、1-ノニリル、2-ノニニル、3-ノニニル、4-ノニニル、5-ノニニル、6-ノニニル、7-ノニニル、8-ノニニル、1-デシニル、2-デシニル、3-デシニル、4-デシニル、5-デシニル、6-デシニル、7-デシニル、8-デシニル、9-デシニルなどが含まれる。アルキニル基が窒素原子に結合している場合、三重結合は窒素原子に対してアルファではあり得ない。「置換アルキニル」とは、アルキニル基の1個以上(例えば1個からアルキニル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の水素原子が、水素以外の置換基で置換されている(複数の水素原子が置換されている場合、置換基は同じでも異なっていてもよい)ことを意味する。好ましくは、水素以外の置換基は、本明細書で指定されるような第1レベルの置換基、第2レベルの置換基、または第3レベルの置換基、例えばハロゲンまたは置換されていてもよいアリールである。
【0226】
「アリール」または「芳香環」という用語は、芳香族環状炭化水素のモノラジカルを指す。好ましくは、アリール基は、1個の環(例えばフェニル)または2つ以上の縮合環(例えばナフチル)に配置され得る3~14個(例えば5~10個、例えば5、6、または10個)の炭素原子を含む。例示的なアリール基には、シクロプロペニリウム、シクロペンタジエニル、フェニル、インデニル、ナフチル、アズレニル、フルオレニル、アントリル、およびフェナントリルが含まれる。好ましくは、「アリール」は、6個の炭素原子を含む単環式環または10個の炭素原子を含む芳香族二環式環系を指す。好ましい例は、フェニルおよびナフチルである。「置換アリール」とは、アリール基の1個以上(例えば1個からアリール基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の水素原子が、水素以外の置換基で置換されている(複数の水素原子が置換されている場合、置換基は同じでも異なっていてもよい)ことを意味する。好ましくは、水素以外の置換基は、本明細書で指定されるような第1レベルの置換基、第2レベルの置換基、または第3レベルの置換基、例えばハロゲン、-CN、ニトロ、-OR11(例えば-OH)、-SR11(例えば-SH)、-N(R12)(R13)(例えば-NH2)、=Z(例えば=O、=S、または=NH)、アルキル(例えばC1-6アルキル)、アルケニル(例えばC2-6アルケニル)、およびアルキニル(例えばC2-6アルキニル)である。置換アリールの例には、ビフェニル、2-フルオロフェニル、アニリニル、3-ニトロフェニル、4-ヒドロキシフェニル、メトキシフェニル(すなわち2-、3-、または4-メトキシフェニル)、および4-エトキシフェニルが含まれる。
【0227】
「ヘテロアリール」または「ヘテロ芳香環」という用語は、アリール基の1個以上の炭素原子がO、S、またはNのヘテロ原子で置換されてている、上記で定義されたアリール基を意味する。好ましくは、ヘテロアリールは、1、2、または3個の炭素原子が、O、N、またはSの同じまたは異なるヘテロ原子で置換されている5または6員芳香族単環式環を指す。あるいは、1、2、3、4、または5個の炭素原子がO、N、またはSの同じまたは異なるヘテロ原子で置換されている芳香族二環式または三環式環系を意味する。好ましくは、ヘテロアリール基の各環において、O原子の最大数は1であり、S原子の最大数は1であり、OおよびS原子の最大総数は2である。例示的なヘテロアリール基には、フラニル、チエニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、ベンゾフラニル、インドリル、イソインドリル、ベンゾチエニル、1H-インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、インドオキサジニル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾジアジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、ベンゾトリアジニル、ピリダジニル、フェノキサジニル、チアゾロピリジニル、ピロロチアゾリル、フェノチアジニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、キサンテニル、ピロリジニル、インドリジニル、インダゾリル、プリニル、キノリジニル、フタラジニル、ナフチリジニル、シンノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、フェナントリジニル、アクリジニル、ペリミジニル、フェナントロリニル、およびフェナジニルが含まれる。例示的な5または6員ヘテロアリール基には、フラニル、チエニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、ピロリル、イミダゾリル(例えば2-イミダゾリル)、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、ピリジル(例えば4-ピリジル)、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、およびピリダジニルが含まれる。「置換ヘテロアリール」とは、ヘテロアリール基の1個以上(例えば1個からヘテロアリール基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の水素原子が、水素以外の置換基で置換されている(複数の水素原子が置換されている場合、置換基は同じでも異なっていてもよい)ことを意味する。好ましくは、水素以外の置換基は、本明細書で指定されるような第1レベルの置換基、第2レベルの置換基、または第3レベルの置換基、例えばハロゲン、-CN、ニトロ、-OR11(例えば-OH)、-SR11(例えば-SH)、-N(R12)(R13)(例えば-NH2)、=Z(例えば=O、=S、または=NH)、アルキル(例えばC1-6アルキル)、アルケニル(例えばC2-6アルケニル)、およびアルキニル(例えばC2-6アルキニル)である。置換ヘテロアリールの例には、3-フェニルピロリル、2,3'-ビフリル、4-メチルピリジル、2-、または3-エチルインドリルが含まれる。
【0228】
「シクロアルキル」または「脂環式」という用語は、好ましくは3~14個の炭素原子、例えば3~10個の炭素原子、すなわち3、4、5、6、7、8、9、または10個の炭素原子、より好ましくは3~7個の炭素原子を有する「アルキル」および「アルケニル」の環状非芳香族型を表す。一実施形態では、シクロアルキル基は、1個、2個、またはそれ以上(好ましくは1または2個)の二重結合を有する。例示的なシクロアルキル基には、シクロプロピル、シクロプロペニル、シクロブチル、シクロブテニル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘプチル、シクロヘプテニル、シクロオクチル、シクロオクテニル、シクロノニル、シクロノネニル、シクロデシル、シクロデセニル、およびアダマンチルが含まれる。「シクロアルキル」という用語は、その二環式および三環式型も含むことが意図されている。二環式環が形成される場合、それぞれの環が2個の隣接する炭素原子で互いに結合されていることが好ましいが、あるいは2個の環は同じ炭素原子によって結合されている、すなわちそれらはスピロ環系を形成するかまたは「架橋」環系を形成する。シクロアルキルの好ましい例には、C3-C8-シクロアルキル、特にシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプチル、シクロオクチル、スピロ[3,3]ヘプチル、スピロ[3,4]オクチル、スピロ[4,3]オクチル、スピロ[4,5]デカニル、ビシクロ[4.1.0]ヘプチル、ビシクロ[3.2.0]ヘプチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル(すなわちノルボルニル)、ビシクロ[2.2.2]オクチル、ビシクロ[5.1.0]オクチル、ビシクロ[4.2.0]オクチル、ビシクロ[4.3.0]ノニル、1,2,3,4-テトラヒドロナフチル(すなわちテトラリニル)、およびビシクロ[4.4.0]デカニル(すなわちデカリニル)が含まれる。「置換シクロアルキル」とは、シクロアルキル基の1個以上(例えば1個からシクロアルキル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の水素原子が、水素以外の置換基で置換されている(複数の水素原子が置換されている場合、置換基は同じでも異なっていてもよい)ことを意味する。好ましくは、水素以外の置換基は、本明細書で指定されるような第1レベルの置換基、第2レベルの置換基、または第3レベルの置換基、例えばハロゲン、-CN、ニトロ、-OR11(例えば-OH)、-SR11(例えば-SH)、-N(R12)(R13)(例えば-NH2)、=Z(例えば=O、=S、または=NH)、アルキル(例えばC1-6アルキル)、アルケニル(例えばC2-6アルケニル)、およびアルキニル(例えばC2-6アルキニル)である。置換シクロアルキルの例には、オキソシクロヘキシル、オキソシクロペンチル、フルオロシクロヘキシル、およびオキソシクロヘキセニルが含まれる。
【0229】
「ヘテロシクリル」または「複素環」という用語は、シクロアルキル基の1、2、3、または4個の炭素原子が酸素、窒素、ケイ素、セレン、リン、または硫黄、好ましくはO、S、またはNのヘテロ原子で置換されている、上記で定義されたシクロアルキル基を意味する。ヘテロシクリル基は、好ましくは3~10個、例えば3、4、5、6、または7個の環原子を含む1または2個の環を有する。好ましくは、ヘテロシクリル基の各環において、O原子の最大数は1であり、S原子の最大数は1であり、OおよびS原子の最大総数は2である。「ヘテロシクリル」という用語はまた、上記のヘテロアリール基の部分的または完全に水素化された形態(例えばジヒドロ、テトラヒドロまたはペルヒドロ形態)を包含することが意図されている。例示的なヘテロシクリル基には、モルホリニル、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、ピペリジニル(ピペリジルとも呼ばれる)、ピペラジニル、ジおよびテトラヒドロフラニル、ジおよびテトラヒドロチエニル、ジおよびテトラヒドロピラニル、ウロトロピニル、ラクトン、ラクタム、環状イミド、および環状無水物が含まれる。「置換ヘテロシクリル」とは、ヘテロシクリル基の1個以上(例えば1個からヘテロシクリル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の水素原子が、水素以外の置換基で置換されている(複数の水素原子が置換されている場合、置換基は同じでも異なっていてもよい)ことを意味する。好ましくは、水素以外の置換基は、本明細書で指定されるような第1レベルの置換基、第2レベルの置換基、または第3レベルの置換基、例えばハロゲン、-CN、ニトロ、-OR11(例えば-OH)、-SR11(例えば-SH)、-N(R12)(R13)(例えば-NH2)、=Z(例えば=O、=S、または=NH)、アルキル(例えばC1-6アルキル)、アルケニル(例えばC2-6アルケニル)、およびアルキニル(例えばC2-6アルキニル)である。
【0230】
炭化水素の文脈において使用される「芳香族」という用語は、分子全体が芳香族でなければならないことを意味する。例えば、単環式アリールが(部分的または完全に)水素化される場合、得られる水素化環状構造は、本発明の目的のためにシクロアルキルとして分類される。同様に、二環式または多環式アリール(ナフチルなど)が水素化される場合、得られる水素化二環式または多環式構造(1,2-ジヒドロナフチルなど)は、本発明の目的のためにシクロアルキルとして分類される(1,2-ジヒドロナフチルにおけるように、1個の環がまだ芳香族である場合でも)。本出願内では、ヘテロアリールとヘテロシクリルとの間で同様の区別がなされる。例えば、インドリニル、すなわちインドリルのジヒドロ変異体は、二環式構造の1個の環のみが芳香族であり、環原子の1つがヘテロ原子であるため、本発明の目的のためにヘテロシクリルとして分類される。
【0231】
「ハロゲン」または「ハロ」という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード、好ましくはフルオロを意味する。「ヒドロキシ」という用語は、OHを意味する。「アルコキシ」という用語は、アルキルが上記で定義されたとおりであるO-アルキルを意味し、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、ペントキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、およびデシルオキシを含む。「置換アルコキシ」という用語は、O-(置換アルキル)を意味し、置換アルキルは上記で定義されたとおりであり、2-メトキシエトキシを含む。「ニトロ」という用語は、NO2を意味する。「シアノ」という用語は、-CN基を意味する。「イソシアノ」という用語は、-NC基を意味する。「シアナト」という用語は、-OCN基を意味する。「イソシアナト」という用語は、-NCO基を意味する。「チオシアナト」という用語は、-SCN基を意味する。「イソチオシアナト」という用語は、-NCS基を意味する。「アジド」という用語は、N3を意味する。
【0232】
「アミノ」という用語は、非置換アミノ(すなわち-NH2基)および置換アミノ(すなわち1個または2個の水素原子が水素以外の基で置換されている一置換または二置換アミノ)を含む。したがって、「アミノ」という用語は、-N(R12)(R13)基を意味し、ここで、R12およびR13は、それぞれの場合に、-H、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、およびヘテロシクリルからなる群より独立して選択され、またはR12およびR13は、それらが結合している窒素原子と一緒になって-N=CR15R16基を形成してもよく、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、およびヘテロシクリル基はそれぞれ、1個以上(例えば1個から、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の独立して選択されるR30で置換されていてもよく、R15およびR16は、-H、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、および-NHyR20
2-yからなる群より独立して選択されるか、またはR15およびR16は、それらが結合している原子と一緒になって1個以上(例えば1個から環に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の独立して選択されるR30で置換されていてもよい環を形成し、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、およびヘテロシクリル基はそれぞれ、1個以上(例えば1個から、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の独立して選択されるR30で置換されていてもよく、yは0から2までの整数であり、R20は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、およびヘテロシクリルからなる群より選択され、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、およびヘテロシクリル基はそれぞれ、1個以上(例えば1個から、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の独立して選択されるR30で置換されていてもよく、ならびにR30は、第1(または第2または第3)レベルの置換基である。
【0233】
「イミノ」という用語は、-N(R14)-基を意味し、ここで、窒素原子の両方の自由原子価が他の1つの原子(例えばC)に結合して二重結合(例えばC=N(R14))を生成してもよく、または異なる原子(例えば、2つのC原子)に結合して2つの単結合(例えばC-N(R14)-C)を生成してもよい。いずれの場合も、R14は、-H、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、およびヘテロシクリルからなる群より選択され、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、およびヘテロシクリル基はそれぞれ、1個以上(例えば1個から、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリル基に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の独立して選択されるR30で置換されていてもよく、ならびにR30は、第1(または第2または第3)レベルの置換基である。
【0234】
「置換されていてもよい」という用語は、1個以上(例えば1個から、1つの部分に結合した水素原子の最大数まで、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または最大10個まで、例えば1~5個、1~4個、または1~3個、または1もしくは2個)の水素原子が、水素とは異なる基/置換基(すなわち第1レベルの置換基)、例えばアルキル(好ましくはC1-6アルキル)、アルケニル(好ましくはC2-6アルケニル)、アルキニル(好ましくはC2-6アルキニル)、アリール(好ましくは3~14員アリール)、ヘテロアリール(好ましくは3~14員ヘテロアリール)、シクロアルキル(好ましくは3~14員シクロアルキル)、ヘテロシクリル(好ましくは3~14員ヘテロシクリル)、ハロゲン、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN,-NCS、-N3、-NO2、-OR71、-N(R72)(R73)、-ON(R72)(R73)、-N+(-O-)(R72)(R73)、-S(O)0-2R71(すなわち-SR71、-S(O)R71、または-S(O)2R71)、-S(O)0-2OR71(例えば-S(O)1-2OR71)、-OS(O)0-2OR71(例えば-OS(O)1-2OR71)、-S(O)0-2N(R72)(R73)(例えば-S(O)1-2N(R72)(R73))、-OS(O)0-2N(R72)(R73)(例えば-OS(O)1-2N(R72)(R73))、-N(R71)S(O)0-2R71(例えば-N(R71)S(O)1-2R71)、-NR71S(O)0-2OR71(例えば-NR71S(O)1-2OR71)、-NR71S(O)0-2N(R72)(R73)(例えば-NR71S(O)1-2N(R72)(R73))、-C(=Z1)R71、-C(=Z1)Z1R71、-Z1C(=Z1)R71、および-Z1C(=Z1)Z1R71で置換されていてもよく、ならびに/あるいはシクロアルキルまたはヘテロシクリル基の同じ炭素原子に結合している任意の2個の第1レベルの置換基が一緒になって=Z1を形成してもよいことを示し、ここで、第1レベルの置換基のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、およびヘテロシクリル基はそれぞれ、それ自体が、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、3~14員アリール、3~14員ヘテロアリール、3~14員シクロアルキル、3~14員ヘテロシクリル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OR81、-N(R82)(R83)、-ON(R82)(R83)、-N+(-O-)(R82)(R83)、-S(O)0-2R81(すなわち-SR81、-S(O)R81、または-S(O)2R81)、-S(O)0-2OR81(例えば-S(O)1-2OR81)、-OS(O)0-2R81(例えば-OS(O)1-2R81)、-OS(O)0-2OR81(例えば-OS(O)1-2OR81)、-S(O)0-2N(R82)(R83)(例えば-S(O)1-2N(R82)(R83))、-OS(O)0-2N(R82)(R83)(例えば-OS(O)1-2N(R82)(R83))、-N(R81)S(O)0-2R81(例えば-N(R81)S(O)1-2R81)、-NR81S(O)0-2OR81(例えば-NR81S(O)1-2OR81)、-NR81S(O)0-2N(R82)(R83)(例えば-NR81S(O)1-2N(R82)(R83))、-C(=Z2)R81、-C(=Z2)Z2R81、-Z2C(=Z2)R81、および-Z2C(=Z2)Z2R81からなる群より選択される1個以上(例えば1、2または3個)の置換基(すなわち第2レベルの置換基)で置換されていてもよく、ならびに/あるいはシクロアルキルまたはヘテロシクリル基の同じ炭素原子に結合している2個の第2レベルの置換基が一緒になって=Z2を形成してもよく、ここで、第2レベルの置換基のC1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、3~14員アリール、3~14員ヘテロアリール、3~14員シクロアルキル、3~14員ヘテロシクリル基はそれぞれ、C1-3アルキル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-OCF3、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)(C1-3アルキル)、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-OC(=O)(C1-3アルキル)、-OC(=O)O(C1-3アルキル)、-OC(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=O)NHz-2(C1-3アルキル)z、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zからなる群より独立して選択される1個以上(例えば1、2または3個)の置換基(すなわち第3レベルの置換基)で置換されていてもよく、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり、ならびに/あるいはシクロアルキルまたはヘテロシクリル基の同じ炭素原子に結合している任意の2個の第3レベルの置換基は、一緒になって=O、=S、=NH、または=N(C1-3アルキル)を形成してもよく;
ここで、
R71、R72、およびR73は、-H、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、3~7員シクロアルキル、5または6員アリール、5または6員ヘテロアリール、および3~7員ヘテロシクリルからなる群より独立して選択され、ここで、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、3~7員シクロアルキル、5または6員アリール、5または6員ヘテロアリール、および3~7員ヘテロシクリル基はそれぞれ、C1-3アルキル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-OCF3、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)(C1-3アルキル)、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-OC(=O)(C1-3アルキル)、-OC(=O)O(C1-3アルキル)、-OC(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=O)NHz-2(C1-3アルキル)z、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zからなる群より選択される1、2または3個の置換基で置換されていてもよく、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり、
あるいは、R72およびR73は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、C1-3アルキル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-OCF3、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)(C1-3アルキル)、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-OC(=O)(C1-3アルキル)、-OC(=O)O(C1-3アルキル)、-OC(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=O)NHz-2(C1-3アルキル)z、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zからなる群より選択される1、2または3個の置換基で置換されていてもよい5または6員環を形成してもよく、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり;
R81、R82、およびR83は、-H、C1-4アルキル、C2-4アルケニル、C2-4アルキニル、3~6員シクロアルキル、5または6員アリール、5または6員ヘテロアリール、および3~6員ヘテロシクリルからなる群より独立して選択され、ここで、C1-4アルキル、C2-4アルケニル、C2-4アルキニル、3~6員シクロアルキル、5または6員アリール、5または6員ヘテロアリール、および3~6員ヘテロシクリル基はそれぞれ、C1-3アルキル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-OCF3、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)(C1-3アルキル)、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-OC(=O)(C1-3アルキル)、-OC(=O)O(C1-3アルキル)、-OC(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=O)NHz-2(C1-3アルキル)z、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zからなる群より選択される1、2または3個の置換基で置換されていてもよく、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり、
あるいは、R82およびR83は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、C1-3アルキル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-OCF3、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)(C1-3アルキル)、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-OC(=O)(C1-3アルキル)、-OC(=O)O(C1-3アルキル)、-OC(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=O)NHz-2(C1-3アルキル)z、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zからなる群より選択される1、2または3個の置換基で置換されていてもよい5または6員環を形成してもよく、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり;
Z1およびZ2は、O、S、およびN(R84)から独立して選択され、ここで、R84は、-HまたはC1-3アルキルである。
【0235】
典型的な第1レベルの置換基は、好ましくは、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、3~14員(5または6員など)アリール、3~14員(5または6員)ヘテロアリール、3~14員(3~7員など)シクロアルキル、3~14員(3~7員など)ヘテロシクリル、ハロゲン、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OR71、-N(R72)(R73)、-S(O)0-2R71、-S(O)0-2OR71、-OS(O)0-2R71、-OS(O)0-2OR71、-S(O)0-2N(R72)(R73)、-OS(O)0-2N(R72)(R73)、-N(R71)S(O)0-2R71、-NR71S(O)0-2OR71、-C(=Z1)R71、-C(=Z1)Z1R71、-Z1C(=Z1)R71、および-Z1C(=Z1)Z1R71、例えばC1-4アルキル、C2-4アルケニル、C2-4アルキニル、5または6員アリール、5または6員ヘテロアリール、3~7員シクロアルキル、3~7員ヘテロシクリル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zからなる群より選択され、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり;Z1は、O、S、NHおよびN(CH3)から独立して選択され;ならびにR71、R72、およびR73は、上記で定義されたとおりであるか、または好ましくは、-H、C1-4アルキル、C2-4アルケニル、C2-4アルキニル、5または6員シクロアルキル、5または6員アリール、5または6員ヘテロアリール、および5または6員ヘテロシクリルからなる群より独立して選択され、ここで、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、およびヘテロシクリル基はそれぞれ、C1-3アルキル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-OCF3、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zから選択される1、2または3個の置換基で置換されていてもよく、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであり;あるいは、R72およびR73は、それらが結合している窒素原子と一緒になって、C1-3アルキル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-OCF3、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zからなる群より選択される1、2または3個の置換基で置換されていてもよい5または6員環を形成してもよく、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピル、またはイソプロピルである。
【0236】
典型的な第2レベルの置換基は、好ましくは、C1-4アルキル、C2-4アルケニル、C2-4アルキニル、5員または6員アリール、5員または6員ヘテロアリール、5員または6員シクロアルキル、5員または6員のヘテロシクリル、ハロゲン、-CF3、-CN、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-NO2、-OH、-O(C1-3アルキル)、-OCF3、-S(C1-3アルキル)、-NH2、-NH(C1-3アルキル)、-N(C1-3アルキル)2、-NHS(O)2(C1-3アルキル)、-S(O)2NH2-z(C1-3アルキル)z、-C(=O)OH、-C(=O)O(C1-3アルキル)、-C(=O)NH2-z(C1-3アルキル)z、-NHC(=O)(C1-3アルキル)、-NHC(=NH)NHz-2(C1-3アルキル)z、および-N(C1-3アルキル)C(=NH)NH2-z(C1-3アルキル)zからなる群より選択され、ここで、zは0、1、または2であり、C1-3アルキルはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルである。特に好ましい第2レベルの置換基には、4-モルホリニル、ホモモルホリニル、4-ピペリジニル、ホモピペリジニル(すなわちアゼパニル、特に4-アゼパニル)、4-ピペラジニル、ホモピペラジニル(すなわちジアゼパニル、特に2,4‐ジアゼパニル)、N‐メチル-ピペラジン-4-イル、N-メチル-ホモピペラジニル、-CH2CH2OCH3、-OCH2CH2OCH3、-CH2CH2NH2-z(CH3)z、-OCH2CH2NH2-z(CH3)z、-CF3、および-OCF3が含まれる。
【0237】
典型的な第3レベルの置換基は、好ましくは、フェニル、フラニル、ピロリル、チエニル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、前記の基の部分的および完全に水素化された形態、モルホリノ、C1-3アルキル、ハロゲン、-NC、-NCO、-CNO、-SCN、-NCS、-N3、-CF3、-OH、-OCH3、-OCF3、-SCH3、-NH2-z(CH3)z、-C(=O)OH、および-C(=O)OCH3からなる群より選択され、ここで、zは0、1、または2である。
【0238】
本明細書で使用される「任意の」または「任意に」という用語は、続いて記述される事象、状況、または状態が起こってもよくまたは起こらなくてもよいこと、およびその記述が、前記事象、状況、または状態が起こる場合と起こらない場合を含むことを意味する。
【0239】
「異性体」は、同じ分子式を有するが、構造が異なる化合物(「構造異性体」)、または官能基および/もしくは原子の幾何学的配置が異なる化合物(「立体異性体」)である。「鏡像異性体」は、重ね合わせることができない互いの鏡像である一対の立体異性体である。「ラセミ混合物」または「ラセミ化合物」は、一対の等量の鏡像異性体を含み、接頭辞(±)で表される。「ジアステレオマー」は、鏡像異性体ではない立体異性体である。「互変異性体」は、純粋な場合でも自発的に相互変換する、同じ化学物質の構造異性体である。
【0240】
本発明の5'キャップ化合物または本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNAは、同位体標識され得る、すなわち1つ以上の原子が、同じ数のプロトンを有するが中性子の数が異なる対応する原子によって置換される。例えば、水素原子は重水素原子で置換され得る。本発明の5'キャップ化合物または本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNAにおいて使用できる例示的な同位体には、重水素、11C、13C、14C、15N、18F、32S、36Cl、および125Iが含まれる。「同位体濃縮された」という用語は、同位体の発生が自然の存在率を超えていることを意味する。同位体標識された本発明の5'キャップ化合物、または本出願のそのような同位体標識された5'キャップ化合物で修飾されたRNAは、インビトロ転写中に対応する同位体標識されたヌクレオチドを使用することによって、または転写後にそのような対応する同位体標識されたヌクレオチドを付加することによって生成できる。
【0241】
「置換基R5を含むP原子の立体化学的配置は、β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する」という表現は、置換基R5を含み、キラル中心を有し、したがって2つの立体化学的配置のいずれかで存在することができるリン原子が、主に1つの所望の立体化学的配置、すなわちβ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置で存在することを意味する。β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子に関して場合により、これは(R)配置または(S)配置のいずれかであり得る。好ましくは、目的の基の50%より多くが所望の立体化学的配置を有し、好ましくは目的の基の少なくとも75%が所望の立体化学的配置を有し、より好ましくは目的の基の少なくとも90%が所望の立体化学的配置を有し、さらにより好ましくは目的の基の少なくとも95%が所望の立体化学的配置を有し、最も好ましくは目的の基の少なくとも99%が所望の立体化学的配置を有する。
【0242】
ベータ-S-ARCA(β-S-ARCA)のD1ジアステレオマーは、以下の構造:
【化2】
を有する。
【0243】
「ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマー」または「β-S-ARCA(D1)」は、ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマー(β-S-ARCA(D2))と比較して、HPLCカラムで最初に溶出し、したがってより短い保持時間を示すβ-S-ARCAのジアステレオマーである。HPLCは、好ましくは分析HPLCである。一実施形態では、、好ましくは5μm、4.6×250mmの形式のSupelcosil LC-18-T RPカラムを分離に使用し、それにより1.3ml/分の流速を適用することができる。一実施形態では、酢酸アンモニウム中のメタノールの勾配、例えば15分以内で0.05M酢酸アンモニウム、pH=5.9中のメタノールの0~25%直線勾配を使用する。UV検出(VWD)は260nmで実施でき、蛍光検出(FLD)は280nmでの励起および337nmでの検出で実施できる。
【0244】
対象物に関連して本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、対象物が自然界で見出され得るという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、自然界の供給源から単離することができ、実験室で人によって意図的に改変されていないタンパク質、アミノ酸または核酸は、天然に存在する。
【0245】
本発明は、好ましくは免疫細胞において、より好ましくは未成熟免疫細胞において、さらにより好ましくは未成熟抗原提示細胞において、最も好ましくは未成熟樹状細胞において、RNA、好ましくはmRNAの安定性および/または発現を増加させるための前記RNAの修飾に関する。本発明に記載される修飾されたRNAは、RNAワクチン接種に特に有用である。
5'キャップ化合物
【0246】
第1の態様では、本出願は、式(I):
【化3】
式(I)
[式中、R
1は、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクリル、置換されていてもよいアリール、および置換されていてもよいヘテロアリールからなる群より選択され;
R
2およびR
3は、H、ハロ、OH、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より独立して選択されるか、またはR
2とR
3が一緒になってO-X-O[Xは、置換されていてもよいCH
2、置換されていてもよいCH
2CH
2、置換されていてもよいCH
2CH
2CH
2、置換されていてもよいCH
2CH(CH
3)、および置換されていてもよいC(CH
3)
2からなる群より選択される]を形成するか、またはR
2は、R
2が結合している環の4'位の水素原子と結合して-O-CH
2-または-CH
2-O-を形成し;
R
4およびR
6は、O、S、Se、およびBH
3からなる群より独立して選択され;
R
5は、S、Se、およびBH
3からなる群より選択され;
R
7は、2、3、4、5、6、7、8、または9個(2、3、4、5、または6個など)の塩基を有するモノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドであり;
R
8は、H、ハロ、または置換されていてもよいアルコキシであり;
nは1、2、または3であり;ならびに
Bはプリンまたはピリミジン塩基部分である]
による5'キャップ構造を有する5'キャップ化合物を提供する。
【0247】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(Ia):
【化4】
式(Ia)
[式中、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、n、およびBは、上記または下記で定義されるとおりであり、R
1は、5'キャップ化合物が前記5'キャップ化合物を含むRNAの翻訳を阻害しないように選択される]
を有する。式(Ia)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
1は、キャップされたRNA、特にキャップされたRNAの5'キャップ構造が、好ましくはインビボおよびインビトロで、翻訳開始機構によって認識されるように、好ましくはキャップされたRNA、特にキャップされたRNAの5'キャップ構造が真核生物の翻訳開始機構によって認識されるように選択される。例えば、当業者は、キャップされたRNAまたはキャップされたRNAの5'キャップ構造が真核生物翻訳開始機構によって認識されるかどうかを、前記キャップされたRNAまたは前記5'キャップ構造に対する真核生物翻訳開始因子eIF4Eの親和性を測定することによって決定し得る。
【0248】
式(Ia)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R1は、置換されていてもよいC1-C4アルキル(例えば、いずれも置換されていてもよい、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ベンジル、フェニルエチル、およびナフチルメチル)、置換されていてもよいC2-C4アルケニル(例えば、いずれも置換されていてもよい、エテニル、プロペニル、またはブテニル)、ならびに置換されていてもよいアリールからなる群より選択される。式(Ia)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、R1は、C1-C4アルキルおよび置換されていてもよいアリールからなる群より選択される。式(Ia)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、R1は、メチル、エチル、置換されていてもよいベンジル、置換されていてもよいフェニルエチル、および置換されていてもよいナフチルメチルからなる群より選択される。式(Ia)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、R1はメチルまたはエチル、より好ましくはメチルである。
【0249】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(Ib):
【化5】
式(Ib)
[式中、R
1、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、n、およびBは、上記(特に式(I)および(Ia)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりであり、R
2およびR
3の配置は、5'キャップ化合物が1つの方向でのみRNA鎖に組み込まれ得る配置である]
を有する。Pasquinelli et al.(1995,RNA J.1:957-967)は、インビトロ転写中に、バクテリオファージRNAポリメラーゼが転写の開始のために7-メチルグアノシン単位を使用し、それによりキャップを有する転写物の約40~50%がキャップジヌクレオチドを逆方向に有する(すなわち最初の反応産物はGpppm
7GpNである)ことを明らかにした。正しい方向のキャップ構造を含むRNAと比較して、逆方向のキャップ構造を含むRNA(リバースキャップを有するRNAとも呼ばれる)は、コードされたタンパク質の翻訳に関して機能性ではない。したがって、キャップを正しい方向に組み込むこと、すなわちm
7GpppGpNなどに本質的に対応するキャップ構造を有するRNAが得られることが望ましい。キャップジヌクレオチドの逆方向組み込みは、メチル化グアノシン単位の2'-OH基または3'-OH基のいずれかの置換によって阻害されることが示されている(Stepinski et al.,2001;RNA J.7:1486-1495;Peng et al.,2002;Org.Lett.24:161-164)。そのような「抗リバースキャップ類似体」、すなわちARCAの存在下で合成されるRNAは、従来の5'キャップm
7GpppGの存在下でインビトロで転写されたRNAよりも効率的に翻訳される。さらに、Kore et al.(J.Am.Chem.Soc.2009,131:6364-6365)は、ロックト核酸(LNA)修飾ジヌクレオチドmRNAキャップ類似体も、RNA鎖に逆方向で組み込まれないことを見出した。
【0250】
その結果、式(Ib)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、R1は、真核生物翻訳開始機構が本発明の5'キャップ化合物でキャップされたRNAを認識することができるように選択され、R2およびR3の少なくとも一方(または両方)は、5'キャップ化合物がRNA鎖に逆方向で組み込まれることができないように選択される。
【0251】
式(Ib)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R2およびR3は、H、F、OH、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より独立して選択される。式(Ib)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、R2およびR3の一方はOHであり、他方はOHではない。式(Ib)の5'キャップ化合物の別の好ましい実施形態では、R2およびR3の少なくとも1つはOHではない。例えば、式(Ib)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R2は、H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より、好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、およびプロポキシからなる群より選択される。
【0252】
上記の式(Ib)の5'キャップ化合物の実施形態のいずれか1つにおいて、置換基R2およびR3を含む環構造は、リボースの立体化学的配置を有し得る。この実施形態では、R2およびR3の少なくとも1つがOHではないことが好ましい。
【0253】
上記実施形態のものにおいて、R2(またはR3)がOHではない場合、R2(またはR3)は、好ましくはH、ハロ、および置換されていてもよいC1-C10アルコキシからなる群より、より好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より、より好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、およびプロポキシからなる群より選択される。より好ましくは、それはメトキシである。
【0254】
式(Ib)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、特に置換基R2およびR3を含む環構造がリボースの立体化学的配置を有する場合、R2はOHであり、R3はメトキシであるか、またはR2はメトキシであり、R3はOHである。
【0255】
式(Ib)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R2およびR3は一緒になってO-X-Oを形成し、XはCH2およびC(CH3)2からなる群より選択され、これらは両方とも置換されていてもよい。
【0256】
式(Ib)の5'キャップ化合物の一実施形態では、置換基R2およびR3を含む環構造の立体化学的配置は、リボースの立体化学的配置に対応しない。例えば、置換基R2およびR3を含む環構造の立体化学的配置は、特に前記環構造の立体化学的配置がアラビノースの立体化学的配置に対応する場合、アラビノース、キシロース、またはリキソースの立体化学的配置に対応し得る。これらの実施形態では、R2およびR3は両方ともOHであることが好ましい。しかしながら、これらの実施形態では、R2およびR3が上記で指定されたように選択されることも可能である。
【0257】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(Ic):
【化6】
式(Ic)
[式中、、R
1、R
2、R
3、R
4、R
6、R
7、R
8、n、およびBは、上記(特に式(I)、(Ia)、および(Ib)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりであり、R
5はSまたはSe、好ましくはSである]
を有する。式(Ic)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
5はSまたはSe、好ましくはSであり、nは1または2である。式(Ic)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
5はSであり、nは1または2、好ましくは1である。式(Ic)の5'キャップ化合物の上記実施形態のいずれにおいても、R
4およびR
6は、O、Se、およびSからなる群より、より好ましくはOおよびSからなる群より独立して選択されることが好ましい。nが2または3である上記実施形態のいずれにおいても、R
6は、各[R
6PO
2]部分について独立して選択され得ることが理解されるべきである。例えば、nが2である場合、5'キャップ化合物は2つの[R
6PO
2]部分を含み、2つのR
6残基は同じであってもよく(例えば両方の[R
6PO
2]部分のR
6はOである)、または異なっていてもよい(例えば一方の[R
6PO
2]部分のR
6はOであり、他方の[R
6PO
2]部分のR
6はSである)。式(Ic)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
5はSまたはSe、好ましくはSであり、nは1または2、好ましくは1であり、R
4およびR
6は、OおよびSからなる群より独立して選択され、より好ましくはR
4およびR
6はOである。式(Ic)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
5はSであり、nは1または2、好ましくは1であり、R
4およびR
6はOである。
【0258】
式(Ic)の5'キャップ化合物の一実施形態では、置換基R5を含むP原子における立体化学的配置は、β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学的配置に対応する。
【0259】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(Id):
【化7】
式(Id)
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
8、n、およびBは、上記(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、および(Ic)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりであり、R
7は、その5'末端を介してR
8が結合している環に結合している]
を有する。式(Id)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は、リボモノヌクレオチドまたはリボオリゴヌクレオチドである。式(Id)の5'キャップ化合物の1つの好ましい実施形態では、R
7は、2'位に遊離OH基を有するリボヌクレオチドである。式(Id)の5'キャップ化合物の別の好ましい実施形態では、R
7は、リボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボース部分およびリボオリゴヌクレオチドの5'末端のリボース部分の両方が2'位に遊離OH基を有するリボオリゴヌクレオチドである。式(Id)の5'キャップ化合物の別の好ましい実施形態では、R
7は、少なくともリボオリゴヌクレオチドの5'末端のリボースの2'位のOH基がH、ハロ、および置換されていてもよいアルコキシ(H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、または2-メトキシエトキシ、好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、またはプロポキシ、最も好ましくはメトキシなど)からなる群より選択される置換基で置換されており、リボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボースが2'位に遊離OH基を有するリボオリゴヌクレオチドである。式(Id)の上記実施形態のいずれにおいても、モノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドとR
7が結合している環との間のヌクレオチド間結合は、ホスフェート、ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、および非ヌクレオチドリンカーからなる群より、好ましくはホスフェート、ホスホロチオエート、およびホスホロジチオエートからなる群より選択されることが好ましい(一実施形態では、モノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドとR
7が結合している環との間のヌクレオチド間結合はホスフェートである)。R
7がオリゴヌクレオチド、特にリボオリゴヌクレオチドである式(Id)の上記実施形態のいずれにおいても、オリゴヌクレオチド中のヌクレオチドの間のヌクレオチド間結合(1つまたは複数)は、ホスフェート、ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、および非ヌクレオチドリンカーからなる群より、好ましくはホスフェート、ホスホロチオエート、およびホスホロジチオエートからなる群より選択されることが好ましい(一実施形態では、オリゴヌクレオチド中のヌクレオチドの間のヌクレオチド間結合(1つまたは複数)はホスフェートである)。式(Id)の5'-キャップ化合物の一実施形態では、R
7は*[pN(R
8')]
a[pN]
bであり、
*は、R
7が結合している環へのR
7の結合点を示し;各N(R
8')は、2'位においてR
8'(H、ハロ、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より、好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシおよび2-メトキシエトキシからなる群より、より好ましくはH、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシからなる群より選択され、最も好ましくはメトキシである)で置換されたヌクレオシド(好ましくはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジン)であり;各Nは、2'位に遊離OH基を有するリボヌクレオシド(好ましくはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジン)であり;各pはホスフェート部分であり;aは0、1、2、3、4、5、6、7、または8であり;bは1、2、3、4、5、6、7、8、または9であり;ならびにa+bは1、2、3、4、5、6、7、8、または9である(好ましくは、aは0、1、または2であり;bは1、2、3、4、5、または6であり;a+bは1、2、3、4、5、または6である)。式(Id)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は*pGpNまたは*pGであり、Nはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジンであり、*は、R
7が結合している環へのR
7の結合点を示す。式(Id)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は*pm
2'-OGpNであり、Nはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジンであり、*は、R
7が結合している環へのR
7の結合点を示す。
【0260】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(Ie):
【化8】
式(Ie)
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、およびnは、上記(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、および(Id)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりであり、Bは、天然に存在するプリンもしくはピリミジン塩基部分またはその修飾形態である]
を有する。式(Ie)の5'キャップ化合物の一実施形態では、Bは、グアニン、アデニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびそれらの修飾形態からなる群より、好ましくはグアニン、アデニン、シトシン、ウラシル、およびそれらの修飾形態からなる群より、より好ましくはグアニン、アデニン、シトシン、およびそれらの修飾形態からなる群より、より好ましくはグアニン、アデニン、およびそれらの修飾形態からなる群より選択される。式(Ie)の5'-キャップ化合物の一実施形態では、修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分は、1つ以上のアルキル基、好ましくは1つ以上のC
1-
4アルキル基、より好ましくは1つ以上のメチル基で修飾されている。式(Ie)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分は、N
7-アルキル-グアニン、N
6-アルキル-アデニン、5-アルキル-シトシン、5-アルキル-ウラシル、およびN(1)-アルキル-ウラシルからなる群より、好ましくはN
7-C
1-4アルキル-グアニン、N
6-C
1-4アルキル-アデニン、5-C
1-4アルキル-シトシン、5-C
1-4アルキル-ウラシル、およびN(1)-C
1-4アルキル-ウラシルからなる群より、より好ましくはN
7-メチル-グアニン、N
6-メチル-アデニン、5-メチル-シトシン、5-メチル-ウラシル、およびN(1)-メチル-ウラシルからなる群より選択される。式(Ie)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、天然に存在するプリンまたはピリミジン塩基部分は、GまたはA、好ましくはGである。式(Ie)の5'キャップ化合物のより好ましい実施形態では、BはGまたはA、好ましくはGである。
【0261】
式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、および(Ie)のいずれか1つの5'キャップ化合物の上記実施形態のいずれにおいても、R8は、H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より、より好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、およびプロポキシからなる群より選択されることが好ましい。最も好ましくは、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、および(Ie)のいずれか1つの5'キャップ化合物の上記実施形態のいずれにおいても、R8はメトキシである。
【0262】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(II):
【化9】
式(II)
[式中、R
1は、置換されていてもよいC
1-C
4アルキルおよび置換されていてもよいアリールからなる群より選択され;
R
2およびR
3は、H、F、OH、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より独立して選択され;
R
4およびR
6は、OおよびSからなる群より独立して選択され;
R
5はSまたはSeであり;
R
7は、2、3、4、5、または6個(2または3個など)の塩基を有するリボモノヌクレオチドまたはリボオリゴヌクレオチドであり;
R
8は、H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より選択され;
nは1、2、または3であり;ならびに
Bはプリンまたはピリミジン塩基部分である]
を有する。
【0263】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(IIa):
【化10】
式(IIa)
[式中、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、n、およびBは、上記(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、および(II)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりであり、R
1は、メチル、エチル、ベンジル、フェニルエチル、およびナフチルメチルからなる群より、より好ましくはメチルおよびエチルからなる群より選択される]
を有する。式(IIa)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、R
1はメチルまたはエチル、より好ましくはメチルである。
【0264】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(IIb):
【化11】
式(IIb)
[式中、R
1、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、n、およびBは、上記(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)および(IIa)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりであり、R
2およびR
3の少なくとも1つはOHでない]
を有する。式(IIb)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
2およびR
3の一方はOHであり、他方はOHではない。式(IIb)の5'キャップ化合物の一実施形態では、置換基R
2およびR
3を含む環構造は、リボースの立体化学的配置を有する。この実施形態では、R
2およびR
3の少なくとも1つがOHではないことが好ましい。上記実施形態のものにおいて、R
2(またはR
3)がOHではない場合、R
2(またはR
3)は、H、F、メトキシ、エトキシ、およびプロポキシからなる群より選択されることが好ましい。より好ましくは、それはメトキシである。
【0265】
式(IIb)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、特に置換基R2およびR3を含む環構造がリボースの立体化学的配置を有する場合、R2はOHであり、R3はメトキシであるか、またはR2はメトキシであり、R3はOHである。
【0266】
式(IIb)の5'キャップ化合物の一実施形態では、置換基R2およびR3を含む環構造の立体化学的配置は、リボースの立体化学的配置に対応しない。例えば、置換基R2およびR3を含む環構造の立体化学的配置は、特に前記環構造の立体化学的配置がアラビノースの立体化学的配置に対応する場合、アラビノース、キシロース、またはリキソースの立体化学的配置に対応し得る。これらの実施形態では、R2およびR3は両方ともOHであることが好ましい。しかしながら、これらの実施形態では、R2およびR3が上記で指定されたように選択されることも可能である。
【0267】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(IIc):
【化12】
式(IIc)
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
6、R
7、R
8、n、およびBは、上記(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、および(IIb)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりである]
を有する。式(IIc)の5'キャップ化合物の一実施形態では、nは1または2である。nが2または3である上記実施形態のいずれにおいても、R
6は、各[R
6PO
2]部分について独立して選択され得ることが理解されるべきである。例えば、nが2である場合、5'キャップ化合物は2つの[R
6PO
2]部分を含み、2つのR
6残基は同じであってもよく(例えば両方の[R
6PO
2]部分のR
6はOである)、または異なっていてもよい(例えば一方の[R
6PO
2]部分のR
6はOであり、他方の[R
6PO
2]部分のR
6はSである)。式(IIc)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
4およびR
6はOである。式(IIc)の5'キャップ化合物の一実施形態では、nは1または2、好ましくは1であり、R
4およびR
6はOである。
【0268】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(IId):
【化13】
式(IId)
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
8、n、およびBは、上記(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、および(IIc)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりであり、R
7は、その5'末端を介してR
8が結合している環に結合している]
を有する。式(IId)の5'キャップ化合物の1つの好ましい実施形態では、R
7は、2'位に遊離OH基を有するリボヌクレオチドである。式(IId)の5'キャップ化合物の別の好ましい実施形態では、R
7は、リボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボース部分およびリボオリゴヌクレオチドの5'末端のリボース部分の両方が2'位に遊離のOH基を有するリボオリゴヌクレオチドである。式(IId)の5'キャップ化合物の別の好ましい実施形態では、R
7は、少なくともリボオリゴヌクレオチドの5'末端のリボースの2'位のOH基がH、ハロ、および置換されていてもよいアルコキシ(H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、または2-メトキシエトキシ、好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、またはプロポキシ、最も好ましくはメトキシなど)からなる群より選択される置換基で置換されており、リボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボースが2'位に遊離OH基を有する、リボオリゴヌクレオチドである。式(IId)の上記実施形態のいずれにおいても、モノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドとR
7が結合している環との間のヌクレオチド間結合は、ホスフェート、ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、および非ヌクレオチドリンカーからなる群より選択されることが好ましく、より好ましくは、モノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドとR
7が結合している環との間のヌクレオチド間結合はホスフェートである。R
7がオリゴヌクレオチド、特にリボオリゴヌクレオチドである式(IId)の上記実施形態のいずれにおいても、オリゴヌクレオチド中のヌクレオチドの間のヌクレオチド間結合(1つまたは複数)は、ホスフェート、ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、および非ヌクレオチドリンカーからなる群より選択されることが好ましく、より好ましくはオリゴヌクレオチド中のヌクレオチドの間のヌクレオチド間結合(1つまたは複数)はホスフェートである。式(IId)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は*[pN(R
8')]
a[pN]
bであり、
*は、R
7が結合している環へのR
7の結合点を示し;各N(R
8')は、2'位においてR
8'(H、ハロ、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より、好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシおよび2-メトキシエトキシからなる群より、より好ましくはH、F、メトキシ、エトキシおよびプロポキシからなる群より選択され、最も好ましくはメトキシである)で置換されたヌクレオシド(好ましくはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジン)であり;各Nは、2'位に遊離OH基を有するリボヌクレオシド(好ましくはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジン)であり;各pはホスフェート部分であり;aは0、1、2、3、4、5、6、7、または8であり;bは1、2、3、4、5、6、7、8、または9であり;ならびにa+bは1、2、3、4、5、6、7、8、または9である(好ましくは、aは0、1、または2であり;bは1、2、3、4、5、または6であり;a+bは1、2、3、4、5、または6である)。式(IId)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は*pGpNまたは*pGであり、Nはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジンであり、*は、R
7が結合している環へのR
7の結合点を示す。式(IId)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は*pm
2'-OGpNであり、Nはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジンであり、*は、R
7が結合している環へのR
7の結合点を示す。
【0269】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(IIe):
【化14】
式(IIe)
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、およびnは、上記(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、および(IId)の1つ以上に関して)または下記で定義されるとおりであり、Bは、天然に存在するプリンまたはピリミジン塩基部分またはその修飾形態である]
を有する。式(IIe)の5'キャップ化合物の一実施形態では、Bは、グアニン、アデニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびそれらの修飾形態からなる群より、好ましくはグアニン、アデニン、シトシン、ウラシル、およびそれらの修飾形態からなる群より、より好ましくはグアニン、アデニン、シトシン、およびそれらの修飾形態からなる群より、より好ましくはグアニン、アデニン、およびそれらの修飾形態からなる群より選択される。式(IIe)の5'キャップ化合物の一実施形態では、修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分は、1つ以上のアルキル基、好ましくは1つ以上のC
1-
4アルキル基、より好ましくは1つ以上のメチル基で修飾されている。式(IIe)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分は、N
7-アルキル-グアニン、N
6-アルキル-アデニン、5-アルキル-シトシン、5-アルキル-ウラシル、およびN(1)-アルキル-ウラシルからなる群より、好ましくはN
7-C
1-4アルキル-グアニン、N
6-C
1-4アルキル-アデニン、5-C
1-4アルキル-シトシン、5-C
1-4アルキル-ウラシル、およびN(1)-C
1-4アルキル-ウラシルからなる群より、より好ましくはN
7-メチル-グアニン、N
6-メチル-アデニン、5-メチル-シトシン、5-メチル-ウラシル、およびN(1)-メチル-ウラシルからなる群より選択される。式(IIe)の5'キャップ化合物の好ましい実施形態では、天然に存在するプリンまたはピリミジン塩基部分は、GまたはA、好ましくはGである。式(IIe)の5'キャップ化合物のより好ましい実施形態では、BはGまたはA、好ましくはGである。
【0270】
式(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、および(IIe)のいずれか1つの5'キャップ化合物の上記実施形態のいずれにおいても、R8は、H、F、メトキシ、エトキシ、およびプロポキシからなる群より選択されることが好ましい。最も好ましくは、式(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、および(IIe)のいずれか1つの5'キャップ化合物の上記実施形態のいずれにおいても、R8はメトキシである。
【0271】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(III):
【化15】
式(III)
[式中、R
1は、メチル、エチル、ベンジル、フェニルエチル、またはナフチルメチル、より好ましくはメチルまたはエチルであり;
R
2およびR
3は、H、F、OH、およびメトキシからなる群より独立して選択され、好ましくは、R
2およびR
3の少なくとも1つはOHではなく;
R
7は、その5'末端を介してR
8が結合している環に結合したリボモノヌクレオチド、リボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドであり、リボモノヌクレオチド、リボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドとR
7が結合している環との間のヌクレオチド間結合は、ホスフェート、ホスホロチオエート、およびホスホロジチオエートからなる群より選択され、R
7がリボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドである場合、リボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチド中のヌクレオチドの間のヌクレオチド間結合(1つまたは複数)は、ホスフェート、ホスホロチオエート、およびホスホロジチオエートからなる群より選択され;
R
8は、H、F、およびメトキシからなる群より選択され;
nは1または2であり;ならびに
Bは、グアニン、アデニン、シトシン、チミン、およびウラシルからなる群より、好ましくはグアニン、アデニン、シトシン、およびウラシルからなる群より、より好ましくはグアニン、アデニン、およびシトシンからなる群より、より好ましくはグアニンおよびアデニンからなる群より選択される]
を有する。
【0272】
一実施形態では、5'キャップ化合物は、式(IIIa):
【化16】
式(IIIa)
[式中、R
1はメチルまたはエチルであり;R
2およびR
3の一方はOCH
3であり、他方はOHであり(例えばR
2はOCH
3であり、R
3はOHであるか、R
2はOHであり、R
3はOCH
3である);R
8はメトキシであり;nは1であり;リボモノヌクレオチド、リボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドとR
7が結合している環との間のヌクレオチド間結合は、ホスフェートまたはホスホロチオエート、好ましくはホスフェートであり、R
7がリボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドである場合、リボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチド中のヌクレオチドの間のヌクレオチド間結合(1つまたは複数)は、ホスフェートまたはホスホロチオエート、好ましくはホスフェートであり;ならびにBはグアニンまたはアデニン、好ましくはグアニンである]
を有する。式(IIIa)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は、2'位に遊離OH基を有するリボモノヌクレオチドである。式(IIIa)の5'キャップ化合物の別の好ましい実施形態では、R
7は、リボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドの3'末端のリボース部分およびリボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドの5'末端のリボース部分の両方が2'位に遊離のOH基を有するリボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドである。式(IIIa)の5'キャップ化合物の別の好ましい実施形態では、R
7は、少なくともリボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドの5'末端のリボースの2'位のOH基がH、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より選択される置換基で置換されており(好ましくはH、F、メトキシ、エトキシ、およびプロポキシからなる群より選択される置換基で置換されており、最も好ましくは前記置換基はメトキシである)、リボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドの3'末端のリボースが2'位に遊離OH基を有する、リボジヌクレオチドまたはリボトリヌクレオチドである。式(IIIa)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は*pGpNまたは*pGであり、Nはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジンであり、*は、R
7が結合している環へのR
7の結合点を示す。式(IIIa)の5'キャップ化合物の一実施形態では、R
7は*pm
2'-OGpNであり、Nはアデノシン、グアノシン、ウリジン、5-メチルウリジン、またはシチジンであり、*は、R
7が結合している環へのR
7の結合点を示す。
【0273】
本発明の5'キャップ化合物は、標準的な手順を使用して、市販の化合物((pN)
2-4など)から出発して合成することができる。これらのオリゴヌクレオチドは、活性化系(例えば2,2'-ジチオジピリジン/トリフェニルホスフィンな;
図1およびMukaiyama and Hashimoto 1971(Bull.Chem.Soc.Jpn.44,2284(1971)参照)の存在下でイミダゾールと反応させることによって対応するP-イミダゾリド誘導体に変換することができる。修飾されたリン酸架橋を有するヌクレオチドサブユニット(例えばm
2
7,2'-OMeGDPβS)は、Kowalska et al.2008(RNA 14,1119-1131(2008))に記載されているように合成し得る。次に、2つの前駆体を結合して、本発明の最終的な5'キャップ化合物を生成し得る;例えば
図2参照。ジアステレオ異性体は、RP HPLC(例えばDiscovery Amide RP C16カラムを使用して)によって分離し得る。
【0274】
好ましくは、本発明の5'キャップ化合物を対応する5'キャップRNAを調製するために使用した場合、5'キャップ構造は、5'キャップRNAを細胞に移入したときRNAの安定性を増加させる、キャップ0構造を認識するタンパク質、例えばIFITタンパク質(特にIFIT1)によるRNAの認識を低下もしくは阻害する、RNAの翻訳効率を高める、RNAの翻訳を延長させる、RNAの総タンパク質発現を増加させる、および/またはRNAが抗原をコードするヌクレオチド配列を含む場合、5'キャップ構造のない同じRNAと比較して前記抗原に対する免疫応答を増加させることができる。RNAが抗原をコードするヌクレオチド配列を含む場合、細胞は、未成熟樹状細胞などの未成熟抗原提示細胞であることが好ましい。当業者は、例えば、5'キャップ構造のみが異なる2つのRNAを、例えばインビトロ転写によって生成することにより、5'キャップRNAの5'キャップ構造が上記の機能を発揮できるかどうかを容易に決定することができ、ここで、RNAの1つは、式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ構造を担持し、他方のRNA(参照RNA)は、(i)5'キャップ構造を含まない、(ii)従来のmRNA 5'キャップ、すなわちメチル-7-グアノシンキャップを担持する、または(iii)式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ構造の機能を比較するべき任意の他のキャップを担持する。例えば、参照RNAは、β-S-ARCAのD2ジアステレオマーに対応する5'キャップ構造を担持し得る。5'キャップRNAの5'キャップ構造は、修飾されたRNAを細胞に移入したとき、RNAの安定性を増加させる、キャップ0構造を認識するタンパク質、例えばIFITタンパク質(特にIFIT1)によるRNAの認識を低下もしくは阻害する、RNAの翻訳効率を高める、RNAの翻訳を延長させる、RNAの総タンパク質発現を増加させる、および/またはRNAが抗原をコードするヌクレオチド配列を含む場合、従来のmRNA 5'キャップを有する同じRNAなどの参照RNAと比較して前記抗原に対する免疫応答を増加させることができる。
【0275】
好ましくは、本発明の5'キャップ化合物(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ化合物)で修飾されたRNAの安定性および翻訳効率は、必要に応じてさらに修飾され得る。例えば、RNAは、RNAの安定化作用および/または翻訳効率増加作用を有する1つ以上の修飾によって安定化され、その翻訳が増加し得る。そのような修飾は、例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2007/036366号に記載されている。
【0276】
例えば、マスクされていないポリA配列(マスクされていないポリA尾部)を有するRNAは、マスクされたポリA配列を有するRNAよりも効率的に翻訳される。「ポリ(A)尾部」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置するアデニル(A)残基の配列に関し、「マスクされていないポリA配列」は、RNA分子の3'末端のポリA配列がポリA配列のAで終了し、ポリA配列の3'末端、すなわち下流に位置するA以外のヌクレオチドが後続していないことを意味する。さらに、約120ヌクレオチドの長いポリA配列は、最適な転写物安定性および翻訳効率をもたらす。
【0277】
したがって、本発明の5'キャップ化合物(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ化合物)で修飾されたRNA、好ましくはmRNAは、10~500ヌクレオチドの長さ、好ましくは30~300ヌクレオチドの長さ、より好ましくは65~200ヌクレオチドの長さ、より好ましくは100~150ヌクレオチドの長さ、例えば100、110、120、130、140、または150ヌクレオチド、好ましくは120ヌクレオチドの長さを有するポリA尾部をさらに含み得る。好ましくは、前記ポリA配列は、マスクされていないポリA配列である。したがって、好ましくは、本発明の5'キャップ化合物(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ化合物)で修飾されたRNA、好ましくはmRNAは、10~500ヌクレオチドの長さ、好ましくは30~300ヌクレオチドの長さ、より好ましくは65~200ヌクレオチドの長さ、より好ましくは100~150ヌクレオチドの長さ、例えば100、110、120、130、140、または150ヌクレオチド、好ましくは120ヌクレオチドの長さを有するマスクされていないポリA尾部を含む。
【0278】
さらに、3'非翻訳領域(UTR)をRNA分子の3'非翻訳領域に組み込むと、翻訳効率の向上をもたらすことができる。そのような3'UTRの2つ以上を組み込むことによって相乗作用が達成され得る。3'UTRは、それらが導入されるRNAに対して自家または異種であり得、例えばβ‐グロビンmRNAの3'UTRであり得る。したがって、好ましくは、本発明の5'キャップ化合物(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ化合物)で修飾されたRNA、好ましくはmRNAは、β‐グロビン遺伝子、好ましくはヒトβ‐グロビン遺伝子の3'非翻訳領域(3'UTR)の1コピー以上、好ましくは2コピーをさらに含み得る。
【0279】
さらに、プソイドウリジンまたはN(1)-メチルプソイドウリジンまたは5-メチルウリジン(m5U)によるウリジンの置換は、Ψまたはm1Ψまたはm5U修飾RNAを生じさせ、このように修飾されたRNAの免疫原性を低下させ得る。したがって、好ましくは、本発明の5'キャップ化合物(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ化合物)で修飾されたRNA、好ましくはmRNAにおいて、プソイドウリジンまたはN(1)-メチルプソイドウリジンまたは5-メチルウリジン(m5U)は、部分的または完全に、好ましくは完全に、ウリジンを置換する。すなわち、1つの好ましい実施形態では、本発明のRNAは、Ψもしくはm1Ψもしくはm5U修飾されているかまたはそれらの任意の組合せ(例えば、Ψおよびm1Ψ修飾もしくはΨおよびm5U修飾もしくはm1Ψおよびm5U修飾もしくはΨおよびm1Ψおよびm5U修飾)である。
【0280】
いくつかの実施形態では、RNA中の1つ以上のウリジンを置換する修飾ヌクレオシドは、3-メチルウリジン(m3U)、5-メトキシウリジン(mo5U)、5-アザウリジン、6-アザウリジン、2-チオ-5-アザウリジン、2-チオウリジン(s2U)、4-チオウリジン(s4U)、4-チオプソイドウリジン、2-チオプソイドウリジン、5-ヒドロキシウリジン(ho5U)、5-アミノアリルウリジン、5-ハロウリジン(例えば5-ヨードウリジンまたは5-ブロモウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmo5U)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmo5U)、5-カルボキシメチルウリジン(cm5U)、1-カルボキシメチルプソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル‐ウリジン(chm5U)、5-カルボキシヒドロキシメチル‐ウリジンメチルエステル(mchm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン(mcm5s2U)、5-アミノメチル-2-チオウリジン(nm5s2U)、5-メチルアミノメチルウリジン(mnm5U)、1-エチルプソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオウリジン(mnm5s2U)、5-メチルアミノメチル-2-セレノウリジン(mnm5se2U)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン(cmnm5s2U)、5-プロピニルウリジン、1-プロピニルプソイドウリジン、5-タウリノメチルウリジン(τm5U)、1-タウリノメチルプソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオプソイドウリジン、5-メチル-2-チオウリジン(m5s2U)、1-メチル-4-チオプソイドウリジン(m1s4Ψ)、4-チオ-1-メチルプソイドウリジン、3-メチルプソイドウリジン(m3Ψ)、2-チオ-1-メチルプソイドウリジン、1-メチル-1-デアザプソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザプソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチルジヒドロウリジン(m5D)、2-チオジヒドロウリジン、2-チオジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオウリジン、4-メトキシプソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオプソイドウリジン、N1-メチルプソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acp3U)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acp3Ψ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inm5U)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオウリジン(inm5s2U)、α-チオウリジン、2'-O-メチルウリジン(Um)、5,2'-O-ジメチルウリジン(m5Um)、2'-O-メチルプソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2'-O-メチルウリジン(s2Um)、5-メトキシカルボニルメチル-2'-O-メチルウリジン(mcm5Um)、5-カルバモイルメチル-2'-O-メチルウリジン(ncm5Um)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2'-O-メチルウリジン(cmnm5Um)、3,2'-O-ジメチルウリジン(m3Um)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2'-O-メチルウリジン(inm5Um)、1-チオウリジン、デオキシチミジン、2'-F-アラウリジン、2'-F-ウリジン、2'-OH-アラウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、および5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジン、または当技術分野で公知の任意の他の修飾ウリジンのいずれか1つ以上であり得る。
【0281】
本発明の5'キャップ化合物(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ化合物)で修飾されたRNA、好ましくはmRNAは、上記の修飾の組合せ、すなわち以下の修飾:ポリA配列の組み込み、ポリA配列の脱マスク化、1つ以上の3'UTRの組み込み、およびプソイドウリジンもしくはN(1)-メチルプソイドウリジンもしくは5-メチルウリジンよるウリジンの置換、またはそれらの組合せの少なくとも2つ(例えば少なくとも3つまたは4つすべて)によって修飾されていることが特に好ましい。
【0282】
特に好ましい実施形態では、本発明の5'キャップ化合物(特に式(I)、(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Id)、(Ie)、(II)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(III)、および(IIIa)のいずれか1つによる5'キャップ化合物)で修飾されたRNA、好ましくはmRNAは、例えば、エリスロポエチンなどのサイトカイン;インテグリンなどの接着分子;免疫グロブリン;免疫学的に活性な化合物、例えば抗原、例えば腫瘍関連抗原、病原体関連抗原(例えばウイルスの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原、例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原)、アレルゲン、または自己抗原;バソプレシン、インスリンまたは成長ホルモンなどのホルモン;VEGFAなどの成長因子;単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素、またはラクターゼなどの酵素;成長因子受容体などの受容体;α1-アンチトリプシンなどのプロテアーゼ阻害剤;BAXなどのアポトーシス調節因子;FOXP3などの転写因子;p53などの腫瘍抑制タンパク質;サーファクタントタンパク質などの構造タンパク質;OCT4、SOX2、c-MYC、KLF4、LIN28、またはNANOGなどの再プログラミング因子;クラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)などのゲノム操作タンパク質;ならびにフィブリノゲンなどの血液タンパク質からなる群より選択される、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質をコードする。例えば、薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質は、免疫原、抗原または抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質であり得、ペプチドまたはタンパク質は、発現後にプロセシングされて、前記免疫原、抗原または抗原ペプチドを提供し得る。あるいは、ペプチドまたはタンパク質自体が免疫原、抗原または抗原ペプチドであってもよい。
組成物およびキット
【0283】
さらなる態様では、本発明は、本発明の5'キャップ化合物を含む組成物またはキットを提供する。そのような組成物またはキットは、本発明の5'キャップ構造を有するRNAを提供するため、および/または、例えば本明細書に開示される対応する方法において、RNAの安定性を高めるために使用され得る。この態様の一実施形態では、キットは、インビトロ転写反応で典型的に使用される試薬(例えばNTP、RNAポリメラーゼ、1つ以上の緩衝液、および/もしくはDNA鋳型)ならびに/または使用説明書をさらに含み得る。
【0284】
さらなる態様では、本発明は、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA(好ましくはmRNA)を含む組成物、好ましくは医薬組成物(本発明のRNAを含むこのような組成物は、本明細書では本発明のRNA組成物とも称される)を提供する。この態様の組成物、特に医薬組成物は、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA(好ましくはmRNA)を、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含み得る。一実施形態では、医薬組成物は、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA(好ましくはmRNA)、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤および1つ以上の追加/補足の活性化合物を含む。
【0285】
さらなる態様では、本出願は、治療法で使用するための、本明細書で指定される医薬組成物を提供する。
【0286】
例えば、特に本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNAがペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む実施形態では、本発明の医薬組成物は、タンパク質補充療法、ゲノム操作療法、ゲノム再プログラミング療法、または免疫療法において使用され得る。
【0287】
本発明のRNAまたは医薬組成物のタンパク質補充療法の例示的な用途には、ペプチドまたはタンパク質の活性低下によって引き起こされる状態、障害または疾患、例えば貧血(補充タンパク質:例えばエリスロポエチン)、糖尿病(補充タンパク質:例えばバソプレシン)、先天性肺疾患(補充タンパク質:例えばサーファクタントタンパク質B)、喘息(補充タンパク質:例えばFOXP3)、心筋梗塞(補充タンパク質:例えばVEGFA)、黒色腫(補充タンパク質:例えばBAX)、自己免疫性糖尿病(補充タンパク質:例えばIL-4)、自己免疫性心筋炎(補充タンパク質:例えばIL-10)、炎症(補充タンパク質:例えばP-セレクチン糖タンパク質リガンド1(PSGL-1)、シアリル‐ルイスX(SLeX)、およびIL-10))、第VII因子欠損症(補充タンパク質:例えば第VIIa因子)、血友病A(補充タンパク質:例えば第VIII因子)、血友病B(補充タンパク質:例えば第IX因子)、第X因子欠損症(補充タンパク質:例えば第X因子)、第XI因子欠損症(補充タンパク質:例えば第XI因子)、第XIII因子欠損症(補充タンパク質:例えば第XIII因子)、フォン・ヴィレブランド病(補充タンパク質:例えばフォン・ヴォレブランド因子)、プロテインC欠乏症(補充タンパク質:例えばプロテインC)、アンチトロンビン欠乏症(補充タンパク質:例えばアンチトロンビンIII)、フィブリノゲン欠乏症(補充タンパク質:例えばフィブリノゲン)、遺伝性血管浮腫(補充タンパク質:例えばC1エステラーゼ阻害剤)、α1-PI欠乏症(補充タンパク質:例えばα-1プロテイナーゼ阻害剤)、ゴーシェ病(補充タンパク質:例えばグルコセレブロシダーゼ)、ムコ多糖症I(補充タンパク質:例えばα-L-イズロニダーゼ)、ムコ多糖症II(補充タンパク質:例えばイズロン酸スルファターゼ)、ムコ多糖症VI(補充タンパク質:例えばN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ)、ムコ多糖症IVA(補充タンパク質:例えばN-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ)、ムコ多糖症IIIA(補充タンパク質:例えばヘパラン硫酸スルファターゼ)、ファブリー病(補充タンパク質:例えばα-ガラクトシダーゼA)、ポンペ病(補充タンパク質:例えばα-グルコシダーゼ)、ニーマン・ピック病B型(補充タンパク質:例えば酸性スフィンゴミエリナーゼ)、α-マンノシドーシス(補充タンパク質:例えばα-マンノシダーゼ)、異染性白質ジストロフィ(補充タンパク質:例えばアリールスルファターゼA)、LAL欠損症(補充タンパク質:例えばリソソーム酸性リパーゼ(LAL))、スクラーゼイソマルターゼ欠損症(補充タンパク質:例えばスクロースイソマルターゼ)、ADA欠損症(補充タンパク質:例えばアデノシンデアミナーゼ(ADA))、原発性IGF-1欠損症(補充タンパク質:例えばインスリン様成長因子1(IGF-1))、低ホスファターゼ血症(補充タンパク質:例えばアルカリホスファターゼ)、急性間欠性ポルフィリン症(補充タンパク質:例えばポルフォビリノーゲンデアミナーゼ)の治療(予防的治療を含む)が含まれる。
【0288】
本発明のRNAまたは医薬組成物のゲノム操作療法の例示的な用途には、X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)(インターロイキン2受容体共通γ鎖(IL-2Rγ)をコードするDNAによる矯正)、色素性乾皮症(天然、すなわち非変異DNAによる矯正)、ならびにタンパク質補充療法の例示的な用途に関して上記で指定された状態、障害および疾患からなる群より選択される状態、障害または疾患の治療(予防的治療を含む)が含まれる。本発明のRNAまたは医薬組成物のさらなるゲノム操作療法には、例えばCRISPR/CASを利用するゲノム編集が含まれる。
【0289】
本発明のRNAまたは医薬組成物の遺伝的再プログラミング療法の例示的な用途には、タンパク質補充療法の例示的な用途および/またはゲノム操作療法の例示的な用途に関して上記で指定された状態、障害および疾患のいずれかの治療(予防的治療を含む)が含まれる。
【0290】
本発明の医薬組成物の例示的な免疫療法用途には、感染症(例えばウイルス(インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなど)、細菌、真菌または他の微生物などの病原体によって引き起こされるもの);望ましくない炎症(免疫障害など);および癌からなる群より選択される状態、障害または疾患の治療(予防的治療を含む)が含まれる。
【0291】
癌(医学用語:悪性新生物)は、細胞の群が制御されない成長(通常の限界を超えた分裂)、浸潤(隣接組織への侵入と破壊)、および時には転移(リンパまたは血液を介した身体の他の場所への広がり)を示す疾患のクラスである。癌のこれらの3つの悪性特性は、自己制限されており、浸潤も転移もしない良性腫瘍から癌を区別する。ほとんどの癌は腫瘍、すなわち、細胞(新生細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常な成長によって形成される腫脹または病変を形成するが、白血病のようないくつかは腫脹または病変を形成しない。本発明による「癌」という用語には、白血病、セミノーマ、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、副腎癌、甲状腺癌、血液癌、皮膚癌、脳の癌、子宮頸癌、腸癌、肝臓癌、結腸癌、胃癌、腸癌、頭頸部癌、消化器癌、リンパ節癌、食道癌、結腸直腸癌、膵臓癌、耳鼻咽喉(ENT)癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌、および肺癌、ならびにそれらの転移が含まれる。それらの例は、肺癌腫、乳房癌腫、前立腺癌腫、結腸癌腫、腎細胞癌腫、子宮頸癌腫、または上記の癌型もしくは腫瘍の転移である。本発明による癌という用語は、癌転移も含む。
【0292】
本発明のRNAおよび医薬組成物で治療可能な癌の例には、悪性黒色腫、すべての種類の癌腫(結腸癌腫、腎細胞癌腫、膀胱癌腫、前立腺癌腫、非小細胞および小細胞肺癌腫など)、リンパ腫、肉腫、芽細胞腫、神経膠腫などが含まれる。
【0293】
悪性黒色腫は深刻な種類の皮膚癌である。これは、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の制御されない成長に起因する。
【0294】
本発明によれば、「癌腫」は、上皮細胞に由来する悪性腫瘍である。この群は、乳癌、前立腺癌、肺癌および結腸癌の最も一般的な形態を含む、最も一般的な癌である。
【0295】
リンパ腫および白血病は、造血(血液形成)細胞に由来する悪性腫瘍である。
【0296】
肉腫は、胚性中胚葉から発生する多くの組織の1つにおける形質転換細胞から生じる癌である。したがって、肉腫には、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、および造血組織の腫瘍が含まれる。
【0297】
芽球性腫瘍または芽細胞腫は、未成熟または胚組織に類似する腫瘍(通常は悪性)である。これらの腫瘍の多くは小児において最も一般的である。
【0298】
神経膠腫は、脳または脊椎から始まる腫瘍の一種である。グリア細胞から発生するため、グリオーマと呼ばれる。神経膠腫の最も一般的な部位は脳である。
【0299】
「転移」とは、癌細胞がその元の部位から身体の別の部位に広がることを意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発性腫瘍からの悪性細胞の分離、細胞外マトリックスの侵襲、内皮基底膜の貫通による体腔および血管への進入、次いで血液によって輸送された後、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位における新しい腫瘍、すなわち二次性腫瘍または転移性腫瘍の成長は、血管新生に依存する。腫瘍転移は、腫瘍細胞または成分が残存し、転移能を発現し得るため、しばしば原発性腫瘍の除去後にも起こる。一実施形態では、本発明による「転移」という用語は、原発性腫瘍および所属リンパ節系から離れた転移に関する「遠隔転移」に関する。
【0300】
例示的な免疫障害には、自己免疫疾患(例えば真性糖尿病、関節炎(関節リウマチ、若年性関節リウマチ、変形性関節症および乾癬性関節炎を含む)、多発性硬化症、脳脊髄炎、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、自己免疫性甲状腺炎、皮膚炎(アトピー性皮膚炎および湿疹性皮膚炎を含む)、乾癬、シェーグレン症候群、クローン病、アフタ性潰瘍、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー性喘息、敗血症および敗血症性ショック、炎症性腸疾患、皮膚エリテマトーデス、強皮症、膣炎、直腸炎、薬疹、ハンセン病逆転反応、らい性結節性紅斑、自己免疫性ブドウ膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳症、特発性両側性進行性感音難聴、再生不良性貧血、赤芽球ろう、特発性血小板減少症、多発性軟骨炎、ウェゲナー肉芽腫症、慢性活動性肝炎、スティーブンス・ジョンソン症候群、糸球体腎炎、特発性スプルー、扁平苔癬、グレーブス病、サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、および間質性肺線維症)、移植片対宿主病、移植の症例、ならびにアトピー性アレルギーなどのアレルギーが含まれるが、これらに限定されない。
【0301】
例示的なウイルスには、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、エプスタイン‐バーウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)(例えばCMV5)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)(例えばHHV6、7または8)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ウシヘルペスウイルス(BHV)(例えばBHV4)、ウマヘルペスウイルス(EHV)(例えばEHV2)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)5、水痘‐帯状疱疹ウイルス(VZV)、麻疹ウイルス、パポバウイルス(JCおよびBK)、肝炎ウイルス(例えばHBVまたはHCV)、粘液腫ウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス、ポリオーマウイルス、インフルエンザウイルス(例えばインフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、またはインフルエンザウイルスC型)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、パピローマウイルス、ワクシニアウイルスおよび伝染性軟属腫ウイルス(MCV)などのポックスウイルス、ならびにリッサウイルスが含まれるが、これらに限定されない。そのようなウイルスは、アポトーシス阻害剤を発現してもよく、発現しなくてもよい。ウイルス感染によって引き起こされる例示的な疾患には、水痘、サイトメガロウイルス感染、性器ヘルペス、B型およびC型肝炎、インフルエンザ、帯状疱疹、および狂犬病が含まれるが、これらに限定されない。
【0302】
例示的な細菌には、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、エンテロバクター種(Enterobacter species)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、大腸菌(Escherichia coli)(例えばF.coli O157:H7)、A群連鎖球菌(Group A streptococci)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、リステリア菌(listeria)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎球菌(S.pneumoniae)、サルモネラ属菌(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、ボレリア属菌(Borrelia)およびリケッチア属菌(Rickettsia)が含まれるが、これらに限定されない。細菌感染によって引き起こされる例示的な疾患には、炭疽、コレラ、ジフテリア、食中毒、ハンセン病、髄膜炎、消化性潰瘍疾患、肺炎、敗血症、敗血症性ショック、梅毒、破傷風、結核、腸チフス、尿路感染症、ライム病およびロッキー山紅斑熱が含まれるが、これらに限定されない。
【0303】
本発明のRNAまたは医薬組成物で治療可能な感染症の特定の例には、ウイルス感染症、例えばAIDS(HIV)、A型、B型またはC型肝炎、ヘルペス、帯状疱疹(水痘)、風疹(風疹ウイルス)、黄熱、デング熱;フラビウイルスによって引き起こされる感染症;インフルエンザ;RSVによって引き起こされる感染症;CMVによって引き起こされる感染症;出血性感染症(マールブルグウイルスまたはエボラウイルス);細菌感染症(レジオネラ症(レジオネラ菌(Legionella))など)、胃潰瘍(ヘリコバクター)、コレラ(ビブリオ菌)、大腸菌、ブドウ球菌、サルモネラ菌または連鎖球菌(破傷風)による感染症;原虫病原体による感染症、例えばマラリア、睡眠病、リーシュマニア症、トキソプラズマ症、すなわちプラスモディウム属菌(Plasmodium)、トリパノソーマ属菌(Trypanosoma)、リーシュマニア属菌(Leishmania)およびトキソプラズマ属菌(Toxoplasma)による感染症;あるいは、例えばクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ヒストプラズマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)、ブラストミセス・デルマチディス(Blastomyces dermatitidis)またはカンジダアルビカンス(Candida albicans)によって引き起こされる真菌感染症が含まれる。
【0304】
特に医薬組成物(例えばワクチン組成物)の形態での、本発明による投与のために、RNAは、裸のRNAであり得るか、または担体、例えばリポソームもしくは遺伝子導入のための他の粒子に組み込まれてもよく、好ましくは裸のRNAの形態である。
【0305】
本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA(好ましくはmRNA)または本発明の医薬組成物は、単独で、または本発明のRNAもしくは医薬組成物の投与の前、投与と同時もしくは投与後に投与することができる1つ以上の追加/補足の活性化合物と組み合わせて使用することができる。そのような1つ以上の追加/補足の活性化合物には、免疫抑制剤(例えば、免疫応答の誘導を回避または最小化する必要がある用途(例えば本明細書に記載されるようなタンパク質補充療法、ゲノム操作療法、および遺伝的再プログラミング療法において)、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸(例えばプラスミド)(特にゲノム操作療法において、例えば、前記ヌクレオチド配列が、例えば患者のゲノム内の対応する変異ヌクレオチド配列を置換するために、患者のゲノムに挿入されるべきである場合)、細胞分化のための化合物(例えば、特に遺伝的再プログラミング療法において、幹細胞特性を有する細胞の、ペプチドまたはタンパク質(特に薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質)を発現する細胞への分化を誘導する化合物)、癌患者のための化学療法薬(例えばゲムシタビン、エトポホス、シスプラチン、カルボプラチン)、抗ウイルス剤、抗寄生生物剤、抗菌剤、免疫療法剤(例えば抗原またはその断片(特にその免疫原性断片))、ならびにアジュバントが含まれ、本発明のRNAと同時に投与される場合、本発明の医薬組成物中に存在してもよい。
【0306】
特にワクチン組成物の場合、1つまたは複数の追加/補足の活性化合物は、免疫療法剤、好ましくは標的化された、すなわち特異的な免疫反応を誘導または達成する免疫療法剤を含み得る。したがって、一実施形態では、本発明のRNAおよび医薬組成物は、免疫療法剤、好ましくは標的化された、すなわち特異的な免疫反応を誘導または達成する免疫療法剤と併せて使用することができる。そのような免疫療法剤には、治療用抗体などの疾患関連抗原に対する作用物質、または疾患関連抗もしくは疾患関連抗原を発現する細胞に対する免疫応答を誘導する作用物質が含まれる。有用な免疫療法剤には、疾患関連抗原または疾患関連抗原を発現する細胞に対するB細胞またはT細胞応答を誘導するタンパク質またはペプチドが含まれる。これらのタンパク質またはペプチドは、疾患関連抗原の配列またはその1つ以上の断片に本質的に対応するかまたは同一である配列を含み得る。一実施形態では、タンパク質またはペプチドは、疾患関連抗原に由来するMHC提示ペプチドの配列を含む。タンパク質またはペプチドを投与する代わりに、タンパク質またはペプチドをコードする核酸、好ましくはmRNAなどのRNAを投与することも可能である。タンパク質またはペプチドをコードするRNAは、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA(好ましくはmRNA)であり得る。あるいはまたはさらに、タンパク質またはペプチドをコードするRNAは、本発明の医薬組成物の投与と同時に(この場合、RNAは本発明の医薬組成物の一部を形成し得る)および/または投与前におよび/または投与後に投与し得る、本発明によらない異なるRNAであってもよい。したがって、本発明の医薬組成物は遺伝子ワクチン接種において使用され得、抗原またはその断片をコードする適切な核酸分子(DNAまたはmRNA)を個体に導入することによって免疫応答が刺激される。
【0307】
一実施形態では、疾患関連抗原は腫瘍関連抗原である。この実施形態では、本発明の5'キャップ化合物で修飾されたRNA(好ましくはmRNA)および本発明の医薬組成物は、癌または癌転移の治療に有用であり得る。好ましくは、罹患器官または組織は、疾患関連抗原を発現する癌細胞などの疾患細胞を特徴とし、および/または疾患関連抗原とそれらの表面との会合を特徴とする。無傷または実質的に無傷の腫瘍関連抗原またはそれらの断片、例えばMHCクラスIおよびクラスIIペプチドまたはそのような抗原もしくは断片をコードする核酸、特にmRNAによる免疫化は、MHCクラスIおよび/またはクラスIIタイプの応答を誘発し、したがって、癌細胞および/またはCD4+T細胞を溶解することができるCD8+細胞傷害性Tリンパ球などのT細胞を刺激することを可能にする。そのような免疫化はまた、腫瘍関連抗原に対する抗体の産生をもたらす体液性免疫応答(B細胞応答)を誘発し得る。さらに、樹状細胞(DC)などの抗原提示細胞(APC)にMHCクラスI提示ペプチドを直接、またはインビトロで腫瘍抗原または腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸でのトランスフェクションによって負荷して、患者に投与することができる。
【0308】
本発明によれば、腫瘍関連抗原は、好ましくは、種類および/または発現レベルに関して、腫瘍または癌および腫瘍細胞または癌細胞に特徴的な任意の抗原を含む。一実施形態では、「腫瘍関連抗原」という用語は、正常条件下、すなわち健常個体では、限られた数の器官および/もしくは組織で、または特定の発生段階で特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば腫瘍関連抗原は、正常条件下では胃組織、好ましくは胃粘膜、生殖器官、例えば精巣、栄養膜組織、例えば胎盤、または生殖系列細胞で特異的に発現され得、および1つ以上の腫瘍または癌組織で発現または異常発現される。これに関連して、「限られた数」は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下または1を意味する。本発明の文脈における腫瘍関連抗原には、例えば分化抗原、好ましくは細胞型特異的分化抗原、すなわち正常条件下では特定の分化段階で特定の細胞型において特異的に発現されるタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち正常条件下では精巣で、および時に胎盤で特異的に発現されるタンパク質、ならびに生殖系列特異的抗原が含まれる。本発明の文脈において、腫瘍関連抗原は、好ましくは癌細胞の細胞表面と関連しており、好ましくは正常組織では発現されないかまたはまれにしか発現されない。好ましくは、腫瘍関連抗原または腫瘍関連抗原の異常発現は、癌細胞を同定する。本発明の文脈において、個体、例えば癌疾患に罹患している患者の癌細胞によって発現される腫瘍関連抗原は、好ましくは前記個体の自己タンパク質である。好ましい実施形態では、本発明の文脈における腫瘍関連抗原は、正常条件下では、必須ではない組織もしくは器官、すなわち免疫系によって損傷された場合でも個体の死をもたらさない組織もしくは器官において、または免疫系がアクセスできないもしくはほとんどアクセスできない身体の器官または構造において、特異的に発現される。一実施形態では、腫瘍関連抗原のアミノ酸配列は、正常組織で発現される腫瘍関連抗原と癌組織で発現される腫瘍関連抗原との間で同一である。好ましくは、腫瘍関連抗原は、それが発現される癌細胞によってMHC分子に関連して提示される。
【0309】
腫瘍免疫療法、特に腫瘍ワクチン接種における標的構造体として本発明によって企図される腫瘍関連抗原の基準を理想的に満たす分化抗原の例は、CLDN6およびCLDN18.2などのクローディンファミリーの細胞表面タンパク質である。これらの分化抗原は様々な起源の腫瘍で発現され、それらの選択的発現(毒性関連の正常組織では発現されない)および形質膜への局在化により、抗体媒介性癌免疫療法に関連する標的構造体として特に適する。
【0310】
本発明において有用であり得る抗原の特定の例は、p53およびWT-1を含む、本明細書で明示的に指定されるものである。
【0311】
本発明によるRNAまたは医薬組成物は、一般に「薬学的に許容される量」および「薬学的に許容される製剤」で適用される。「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の活性成分(1つまたは複数)の作用と相互作用しない物質の非毒性を指す。
【0312】
「治療有効量」は、単独でまたはさらなる投薬量と組み合わせて、所望の反応または所望の効果をもたらす量に関する。特定の疾患または特定の状態の治療法の場合、所望の反応は、疾患の進行の阻害に関する。これは、疾患の進行の減速、特に疾患の進行の中断を含む。疾患または状態の治療法の所望の反応はまた、疾患または状態の発生の遅延または発生の阻害であり得る。本発明による組成物の有効量は、状態または疾患、疾患の重症度、患者の年齢、生理学的状態、身長および体重を含む患者の個々のパラメータ、治療期間、任意で付随する治療法の種類、特定の投与経路、および同様の因子に依存する。患者の反応が初期用量では不十分である場合、より高い用量(またはより局所的な投与経路によって達成され得るより高い有効用量)を適用し得る。一般に、治療のためまたはヒトにおける免疫反応の誘導もしくは増加のためには、好ましくは1ng~700μg、1ng~500μg、1ng~300μg、1ng~200μg、または1ng~100μgの範囲のRNAの用量を製剤化し、投与する。
【0313】
本発明によれば、RNA(mRNAなど)の投与は、裸の核酸として、または1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて達成される。好ましくは、核酸の投与は裸の核酸の形態である。好ましくは、RNAは、RNアーゼ阻害剤などの安定化物質と組み合わせて投与される。本発明はまた、長期間の持続的発現を可能にするための細胞への核酸の反復導入も想定する。しかしながら、本発明の5'キャップ構造および任意で他の安定化修飾の存在により、本発明のRNAは、好ましくは、本発明の5'キャップ構造を含まないRNAよりも少ない頻度で投与できるという利点を示す。したがって、本発明のRNAを使用することは、例えばタンパク質補充療法に関して、所望の効果(例えば患者の機能を維持する(例えば患者のホメオスタシスを維持する)のに十分な量の所望のペプチドまたはタンパク質の発現)を達成するために、本発明のRNA(または医薬組成物)のより少ない投与(注射など)しか必要としない。したがって、一実施形態では、本発明のRNA(本発明のRNA組成物または医薬組成物など)は、患者に(例えば腹腔内、筋肉内、または皮内注射などの注射によって)、最大で1日1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも24時間、例えば少なくとも30時間、少なくとも36時間、もしくは少なくとも42時間である)、好ましくは最大で2日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも48時間、例えば少なくとも54時間、少なくとも60時間、もしくは少なくとも66時間である)、好ましくは最大で3日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも72時間、例えば少なくとも78時間、少なくとも84時間、もしくは少なくとも90時間である)、または最大で4日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも96時間、例えば少なくとも102時間、少なくとも108時間、もしくは少なくとも114時間である)、投与される。したがって、本発明は、慢性患者および/または長期患者、例えば長期間にわたって治療される患者、例えば本発明のRNA(本発明のRNA組成物または医薬組成物など)を長期間にわたって投与される患者に特に有益であり、ここで、長期間は、好ましくは少なくとも1週間、例えば少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも2年間、少なくとも3年間、少なくとも4年間、少なくとも5年間、または少なくとも10年間、例えば最大2週間、最大3週間、最大4週間、最大1ヶ月間、最大2ヶ月間、最大3ヶ月間、最大4ヶ月間、最大5ヶ月間、最大6ヶ月間、最大12ヶ月間、最大2年間、最大3年間、最大4年間、最大5年間、最大10年間まで、または患者の全生涯である。したがって、一実施形態では、本発明のRNA(本発明のRNA組成物または医薬組成物など)は、慢性患者または長期患者に(例えば腹腔内、筋肉内、または皮内注射などの注射によって)、長期間、特に少なくとも1週間、例えば少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも2年間、少なくとも3年間、少なくとも4年間、少なくとも5年間、または少なくとも10年間、例えば最大2週間、最大3週間、最大4週間、最大1ヶ月間、最大2ヶ月間、最大3ヶ月間、最大4ヶ月間、最大5ヶ月間、最大6ヶ月間、最大12ヶ月間、最大2年間、最大3年間、最大4年間、最大5年間、最大10年間まで、または慢性もしくは長期患者の全生涯にわたって、最大で1日1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも24時間、例えば少なくとも30時間、少なくとも36時間、もしくは少なくとも42時間である)、好ましくは最大で2日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも48時間、例えば少なくとも54時間、少なくとも60時間、もしくは少なくとも66時間である)、好ましくは最大で3日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも72時間、例えば少なくとも78時間、少なくとも84時間、もしくは少なくとも90時間である)、または最大で4日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも96時間、例えば少なくとも102時間、少なくとも108時間、もしくは少なくとも114時間である)、投与される。
【0314】
例えばRNAと複合体を形成するか、またはRNAが封入もしくはカプセル化された小胞を形成することによって、RNAが結合できる任意の賦形剤(特に担体)で細胞をトランスフェクトして、裸のRNAと比較してRNAの安定性を高めることができる。本発明に従って有用な賦形剤(特に担体)には、例えばカチオン性脂質、リポソーム、特にカチオン性リポソーム、およびミセルなどの脂質含有担体、ならびにナノ粒子が含まれる。カチオン性脂質は、負に帯電した核酸と複合体を形成し得る。任意のカチオン性脂質を本発明に従って使用し得る。さらに、細胞を個体から採取し、本発明のRNAまたは医薬組成物でトランスフェクトすることができ、トランスフェクトされた細胞を個体に挿入することができる。
【0315】
好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドをコードするRNAの細胞、特にインビボで存在する細胞への導入は、細胞内での前記ペプチドまたはポリペプチドの発現をもたらす。特定の実施形態では、核酸を特定の細胞に標的化することが好ましい。そのような実施形態では、細胞への核酸の投与に適用される担体(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)は、標的分子を示す。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質または標的細胞上の受容体のリガンドに特異的な抗体などの分子を、核酸担体に組み込み得るかまたはそれに結合し得る。核酸がリポソームによって投与される場合、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、標的化および/または取り込みを可能にするためにリポソーム製剤に組み込み得る。そのようなタンパク質は、特定の細胞型、内在化されるタンパク質に対する抗体、細胞内の位置を標的とするタンパク質などに特異的であるカプシドタンパク質またはその断片を包含する。
【0316】
本開示の特定の実施形態では、本明細書に記載されるキャップされたRNAは、RNAリポプレックス粒子中に存在し得る。本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子およびRNAリポプレックス粒子を含む組成物は、非経口投与後、特に静脈内投与後の、本明細書に記載のキャップされたRNAの標的組織への送達に有用である。RNAリポプレックス粒子は、脂質のエタノール溶液を水または適切な水相に注入することによって得られるリポソームを使用して調製し得る。一実施形態では、水相は酸性pHを有する。一実施形態では、水相は、例えば約5mMの量の酢酸を含む。一実施形態では、リポソームおよびRNAリポプレックス粒子は、少なくとも1つのカチオン性脂質および少なくとも1つのさらなる脂質を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)および/または1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)を含む。一実施形態では、少なくとも1つのさらなる脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、コレステロール(Chol)および/または1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)を含み、少なくとも1つのさらなる脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。一実施形態では、リポソームおよびRNAリポプレックス粒子は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)および1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。リポソームは、リポソームをRNAと混合することによってRNAリポプレックス粒子を調製するために使用され得る。特定の脾臓標的化RNAリポプレックス粒子は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2013/143683号に記載されている。正味の負電荷を有するRNAリポプレックス粒子は、脾臓組織または脾臓細胞、例えば抗原提示細胞、特に樹状細胞を選択的に標的とするために使用し得ることが見出された。したがって、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、脾臓においてRNAを発現するために使用され得る。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、肺および/または肝臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現は、起こらないかまたは本質的に起こらない。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓内のプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、そのような抗原提示細胞においてRNAを発現するために使用され得る。一実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞および/またはマクロファージである。
【0317】
本明細書で使用される場合、「賦形剤」という用語は、活性薬剤ではない(例えば、使用される量/濃度で治療効果を示さない治療的に不活性な成分である)医薬組成物中のすべての物質、例えば、すべて好ましくは薬学的に許容される、塩、担体、結合剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、分散剤、防腐剤、乳化剤、緩衝剤、湿潤剤、着香剤、着色剤、安定剤(RNアーゼ阻害剤など)または抗酸化剤を示すことが意図されている。
【0318】
「薬学的に許容される塩」は、例えば、塩酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、炭酸またはリン酸などの薬学的に許容される酸を使用することによって形成され得る酸付加塩を含む。さらに、適切な薬学的に許容される塩は、アルカリ金属塩(例えばナトリウムまたはカリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウムまたはマグネシウム塩);アンモニウム(NH4
+);ならびに適切な有機配位子で形成される塩(例えばハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、アルキルスルホン酸塩およびアリールスルホン酸塩などの対アニオンを使用して形成される第四級アンモニウムおよびアミンカチオン)を含み得る。薬学的に許容される塩の例示的な例には、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩(alginate)、アルギン酸塩(arginate)、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、酪酸塩、エデト酸カルシウム、ショウノウ酸塩、カンファースルホン酸塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、クラブラン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸、二塩酸塩、ドデシル硫酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストール酸塩、エシル酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、ガラクチン酸塩、ガラクツロン酸塩、グルセプチン酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イソ酪酸塩、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メタンスルホン酸塩、メチル硫酸塩、粘液酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、N-メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩)、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、フタル酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、スベレート、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などが含まれるが、これらに限定されない(例えば、S.M.Berge et al.,「Pharmaceutical Salts」,J.Pharm.Sci.,66,pp.1-19(1977)参照)。薬学的に許容されない塩は、薬学的に許容される塩を調製するために使用されてもよく、本発明に含まれる。
【0319】
本発明による組成物は、薬学的に許容される担体を含み得る。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」には、生理学的に適合性であるありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。「薬学的に許容される担体」は、固体、半固体、液体、またはそれらの組合せの形態であり得る。
【0320】
薬学的に許容される担体には、滅菌注射用溶液または分散液の即時調製のための滅菌水溶液または分散液、滅菌非水性溶液または分散液、および滅菌粉末が含まれる。薬学的に活性な薬剤のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野で公知である。従来の媒体または薬剤が活性薬剤と不適合である場合を除き、本発明の医薬組成物におけるその使用が企図される。注射用製剤の例示的な薬学的に許容される担体には、水、等張緩衝生理食塩水(例えばリンガー液または乳酸加リンガー液)、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール)、ポリアルキレングリコール(例えばプロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール)、水素化ナフタレン、および、特に生体適合性ラクチドポリマー(例えばラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマー)が含まれる。
【0321】
薬学的に許容される抗酸化剤の例には、以下が含まれる:(1)水溶性抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;(2)油溶性抗酸化剤、例えばパルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロールなど;および(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸など。
【0322】
本発明の医薬組成物での使用に適する緩衝剤には、塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸、および塩中のリン酸が含まれる。
【0323】
本発明の医薬組成物での使用に適する防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン、ソルビン酸、およびチメロサールなどの様々な抗菌剤および抗真菌剤が含まれる。微生物の存在の防止はまた、滅菌手順(例えば滅菌濾過、特に滅菌精密濾過)によって確保され得る。
【0324】
本発明の医薬組成物は、任意の経路によって、好ましくは非経口的に個体に投与され得る。本明細書で使用される「非経口投与」および「非経口的に投与される」という表現は、経腸投与以外の投与方法を意味する(本明細書で使用される「経腸投与」および「経腸的に投与される」は、投与された薬物が胃および/または腸によって取り込まれることを意味する)。非経口投与は通常、注射および/または注入によるものであり、限定されることなく、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、骨内、眼窩内、心臓内、結節内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、脳内、脳室内、くも膜下、脊髄内、硬膜外、胸骨内、および局所投与を含む。免疫療法以外の用途(例えばタンパク質補充療法、ゲノム操作療法、または遺伝的再プログラミング療法)については、本発明の医薬組成物は、腹腔内、筋肉内、または皮内投与されることが好ましい。免疫治療用途では、本発明の医薬組成物は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、リンパ内、皮内または結節内、より好ましくは皮内または結節内に、例えば結節内注射によって、投与されることが好ましい。
【0325】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で公知の様々な方法によって投与することができる。当業者に理解されるように、投与の経路および/または様式は、所望の結果に応じて異なる。
【0326】
活性薬剤(すなわち本発明のRNAおよび任意で1つ以上の追加/補足の活性化合物)は、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤などの、急速な放出から化合物を保護する担体で調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の調製方法は、一般に当業者に公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978参照。
【0327】
特定の投与経路によって活性薬剤(すなわち本発明のRNAおよび任意で1つ以上の追加/補足の活性化合物)を投与するには、活性薬剤の不活性化を防止するおよび/または翻訳される活性薬剤(特に本発明のRNA)の有効性を高めるための物質で活性薬剤をコーティングするか、または化合物を前記物質と同時投与することが必要であり得る。例えば、活性剤薬は、適切な担体、例えば脂質含有担体(特にカチオン性脂質)、リポソーム(水中油中水型CGFエマルジョン、および従来のリポソーム(Strejan et al.,J.Neuroimmunol.7:27(1984))、特にカチオン性リポソーム)、ミセル、RNAが封入またはカプセル化されているナノ粒子、または希釈剤中で個体に投与され得る。薬学的に許容される希釈剤には、生理食塩水および緩衝水溶液が含まれる。
【0328】
医薬組成物は、典型的には、製造および保管の条件下で無菌および安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または高薬物濃度に適した他の規則的構造物として製剤化することができる。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、オリーブ油などの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルを含む溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、または塩化ナトリウムを医薬組成物に含めることが好ましい。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0329】
一般に、分散液は、基本的な分散媒と上記に列挙したものの中から必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに活性薬剤を組み込むことによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、あらかじめ滅菌濾過された活性薬剤の溶液から活性薬剤の粉末と任意のさらなる所望の成分を生じる、減圧乾燥および凍結乾燥(freeze-drying、lyophilization)である。
【0330】
投薬レジメンは、最適な所望の応答(例えば治療応答)を提供するように調整される。例えば、単一のボーラスを投与し得るか、いくつかの分割用量を経時的に投与し得るか、または治療状況の緊急性によって示されるように、用量を比例的に減少または増加させ得る。投与を容易にし、投薬量を均一にするために、医薬組成物を単位剤形に製剤化することが特に有利である。本明細書で使用される単位剤形は、治療される個体の単位用量として適した物理的に別個の単位を指す;各単位は、必要な医薬担体と共同して所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性薬剤を含む。本発明の単位剤形の仕様は、(a)活性薬剤の独特の特性および達成されるべき特定の治療効果、ならびに(b)個体の感受性の治療のためにそのような活性薬剤を調合する技術分野に固有の制限によって決定され、これらに直接依存する。医薬組成物(単一剤形など)を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性薬剤の量(特にRNAの量)は、治療される個体および特定の投与様式に応じて異なる。単一剤形を生成するために担体材料と組み合わせることができる活性薬剤の量は、一般に、治療効果をもたらす組成物の量である。
【0331】
一般に、100%(医薬製剤/組成物について)のうちで、活性薬剤の量(特に、医薬製剤/組成物中に存在する場合は任意で1つ以上の追加/補足の活性化合物と共に、本発明のRNAの量)は、約0.01%~約99%、好ましくは約0.1%~約70%、最も好ましくは約1%~約30%の範囲であり、残りは、好ましくは1つ以上の薬学的に許容される賦形剤で構成される。
【0332】
単位剤形中の、および/または個体に投与されるかもしくは治療法に使用される場合の、活性薬剤、例えば本発明のRNAの量は、単位あたり、投与あたり、または治療あたり約0.001mg~約1000mg(例えば約0.01mg~約500mg、約0.1mg~約100mg、例えば約1mg~約50mg)の範囲であり得る。特定の実施形態では、そのような活性薬剤の適切な量は、約0.1mg/kg~10mg/kg(約0.2mg/kg~5mg/kgなど)、または約0.1mg/m2~約400mg/m2(約0.3mg/m2~約350mg/m2または約1mg/m2~約200mg/m2など)の量を含む、個体の質量または体表面積を使用して計算され得る。
【0333】
選択される投与経路に関わりなく、適切な水和形態で使用され得る活性薬剤(すなわちRNAおよび任意で1つ以上の追加/補足の活性化合物)、ならびに/または本発明の医薬組成物は、当業者に公知の従来の方法によって薬学的に許容される剤形に製剤化される(例えば、Remington,「The Science and Practice of Pharmacy」edited by Allen,Loyd V.,Jr.,22nd edition,Pharmaceutical Sciences,September 2012;Ansel et al.,「Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems」,7th edition,Lippincott Williams&Wilkins Publishers,1999参照)。
【0334】
本発明の医薬組成物中の活性薬剤の実際の投与量レベルは、患者に対する毒性を伴わずに、特定の患者、組成物、および投与様式について所望の治療応答を達成するのに有効な活性薬剤の量が得られるように変化させ得る。選択される投与量レベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与経路、投与時間、使用される特定の活性薬剤の排泄速度、治療期間、使用される特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または物質、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、全般的健康および過去の病歴、ならびに医療分野で周知の同様の因子を含む、様々な薬物動態因子に依存する。
【0335】
当技術分野における通常の技術を有する医師または獣医は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方することができる。例えば、医師または獣医は、医薬組成物中で使用される活性薬剤の用量を、所望の治療効果を達成するために必要なレベルよりも低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加することができる。一般に、本発明の医薬組成物の適切な1日用量は、治療効果を生じるのに有効な最低用量である活性薬剤の量である。そのような有効用量は、一般に上記の因子に依存する。投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下などの非経口投与であることが好ましく、好ましくは標的部位の近位に投与される。投与は腫瘍内であってもよい。所望する場合、医薬組成物の有効1日用量は、任意に単位剤形で、1日を通して適切な間隔で別々に投与される2、3、4、5、6またはそれ以上の分割用量として投与され得る。本発明の活性薬剤(特にRNA)を単独で投与することは可能であるが、活性薬剤を医薬製剤/組成物として投与することが好ましい。
【0336】
一実施形態では、本発明のRNAまたは医薬組成物は、毒性副作用を低減するために、注入、好ましくは24時間を超えるなどの長期間にわたる緩やかな持続注入によって投与され得る。投与はまた、2~24時間、例えば2~12時間の期間にわたる持続注入によって行われてもよい。そのようなレジメンは、必要に応じて、例えば6ヶ月または12ヶ月後に、1回以上繰り返してもよい。
【0337】
本発明の医薬組成物は、注射による、例えばボーラス注射または持続注入による非経口投与用に製剤化することができる。注射用の製剤は、単位剤形(例えば小ビン、複数回用量の容器)で、および防腐剤を添加して提供することができる。本発明の医薬組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンなどの形態をとることができ、懸濁剤、安定剤、または分散剤などの製剤化剤を含むことができる。あるいは、薬剤は、使用前に適切なビヒクル(例えば発熱物質を含まない滅菌水)で構成するための粉末形態であり得る。典型的には、静脈内投与用の医薬組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要な場合、医薬組成物はまた、可溶化剤および注射部位の痛みを和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔薬を含むことができる。一般に、成分は、別々にまたは単位剤形中で一緒に混合されて、例えば活性薬剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密閉容器中の凍結乾燥粉末または無水濃縮物として供給される。医薬組成物が注入によって投与される場合、無菌の医薬品グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルで投薬することができる。組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分を混合することができるように、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0338】
医薬組成物は、当技術分野で公知の医療機器を用いて投与することができる。例えば、好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、米国特許第5,399,163号;米国特許第5,383,851号;米国特許第5,312,335号;米国特許第5,064,413号;米国特許第4,941,880号;米国特許第4,790,824号;または米国特許第4,596,556号に開示されている装置などの無針皮下注射装置で投与することができる。本発明において有用な周知のインプラントおよびモジュールの例には、以下に記載されているものが含まれる:制御された速度で薬剤を投与するための埋め込み型マイクロインフュージョンポンプを開示する米国特許第4,487,603号;皮膚を通して薬剤を投与するための治療装置を開示する米国特許第4,486,194号;正確な注入速度で薬剤を送達するための薬剤注入ポンプを開示する米国特許第4,447,233号;持続的薬物送達のための可変流量埋め込み型注入装置を開示する米国特許第4,447,224号;マルチチャンバ区画を有する浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,439,196号;および浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,475,196号。
【0339】
他の多くのそのようなインプラント、送達システム、およびモジュールは、当業者に公知である。特定の実施形態では、本発明のRNAまたは医薬組成物は、インビボでの適切な分布を確実にするように製剤化することができる。例えば、血液脳関門(BBB)は、多くの高度に親水性の化合物を排除する。本発明のRNAまたは医薬組成物がBBBを通過することを確実にするために(所望される場合)、それらは、例えばリポソーム中に製剤化することができる。リポソームを製造する方法については、例えば米国特許第4,522,811号;米国特許第5,374,548号;および米国特許第5,399,331号参照。リポソームは、特定の細胞または器官に選択的に輸送される1つ以上の部分を含んでもよく、したがって標的薬物送達を増強する(例えばV.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685参照)。例示的な標的化部分には、葉酸またはビオチン(例えばLow et al.への米国特許第5,416,016号参照);マンノシド(Umezawa et al.,(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038);抗体(P.G.Bloeman et al.(1995)FEBS Lett.357:140;M.Owais et al.(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180);およびサーファクタントタンパク質A受容体(Briscoe et al.(1995)Am.J.Physiol.1233:134)が含まれる。
【0340】
本発明の一実施形態では、本発明のRNAはリポソーム中に製剤化される。より好ましい実施形態では、リポソームは標的化部分を含む。最も好ましい実施形態では、リポソーム中のRNAは、ボーラス注射によって所望の領域の近位の部位に送達される。そのようなリポソームベースの組成物は、容易に注射可能な程度に流動性であるべきであり、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されるべきである。
【0341】
治療のための「治療有効量」は、完全または部分的であり得る客観的応答によって測定され得る。完全奏効(CR)は、状態、障害または疾患の臨床的、放射線学的または他の証拠がないことと定義される。部分奏効(PR)は、50%を超える疾患の減少から生じる。進行までの時間の中央値は、客観的応答の持続性を特徴付ける尺度である。
【0342】
治療のための「治療有効量」はまた、例えば適切な動物モデル系および/または当業者に公知のインビトロアッセイを使用することによって、状態、障害または疾患の進行を安定させるその能力によって測定され得る。活性薬剤(特に本発明のRNA)の治療有効量は、単独でまたはさらなる用量と共に、所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態の治療の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の経過の阻害に関する。これは、疾患の進行を遅くすること、特に疾患の進行を妨げるまたは逆転させることを含む。疾患または状態の治療における所望の反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の防止であり得る。したがって、活性薬剤の治療有効量は、個体における状態、障害もしくは疾患、または状態、障害もしくは疾患の症状、または状態、障害もしくは疾患に対する素因を治療、治癒、緩和、軽減、改変、矯正、改善、好転するまたは影響を及ぼすことができる。当業者は、治療される疾患、障害または状態、疾患、障害または状態の重症度、治療される個体のパラメータ(年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む)、治療期間、付随する治療法の種類(存在する場合)、特定の投与経路、および同様の因子に基づいてそのような量を決定することができる。したがって、本明細書に記載の活性薬剤の投与される用量は、様々なそのようなパラメータに依存し得る。個体/患者の反応が初期用量では不十分である場合、より高い用量(または異なる、より局所的な投与経路によって達成される実質的により高い用量)を使用し得る。
【0343】
本発明の医薬組成物は、上記で論じた抗原などの少なくとも1つの抗原またはその断片(特にその免疫原性断片)をコードする本発明のRNAを含むワクチン製剤の形態を取り得る。
【0344】
本発明の医薬組成物はまた、所望する場合、活性薬剤(すなわちRNAおよび任意に1つ以上の追加/補足の活性化合物)を含有する1つ以上の単位剤形を含み得るパック、キットまたは投薬装置で提供され得る。パックは、例えばブリスタパックなどの金属またはプラスチックホイルを含むことができる。パック、キット、または投薬装置には、投与のための指示書を添付することができる。
【0345】
1つ以上の追加/補足の活性化合物は、抗CTL-A4もしくは抗PD1もしくは抗PDL1などの免疫調節剤、または抗CD25抗体もしくはシクロホスファミドなどの抗制御性T細胞試薬を含み得る。
【0346】
本発明の医薬組成物は、1つ以上のアジュバントなどの補足的免疫増強物質と共に投与してもよく、その有効性をさらに高め、好ましくは免疫刺激の相乗作用を達成するための1つ以上の免疫増強物質を含み得る。
【0347】
「アジュバント」という用語は、抗原、抗原ペプチド、または前記抗原もしくは抗原ペプチドをコードする核酸(RNA、好ましくはmRNAなど)と組み合わせて個体に投与された場合に、免疫応答を延長または増強または加速する化合物に関する。本発明の文脈において、RNA(好ましくはmRNA)は、任意のアジュバントと共に投与され得る。アジュバントは、抗原の表面の増加、体内での抗原の保持の延長、抗原放出の遅延、マクロファージへの抗原の標的化、抗原の取り込みの増加、抗原プロセシングの増強、サイトカイン放出の刺激、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、T細胞などの免疫細胞の刺激と活性化、および免疫細胞の非特異的活性化を含む1つ以上の機構によってその生物学的活性を発揮すると想定されている。例えば、DCの成熟を可能にする化合物、例えばリポ多糖またはCD40リガンドは、適切なアジュバントのクラスを形成する。一般に、「危険シグナル」の種類の免疫系に影響を及ぼす作用物質(LPS、GP96、dsRNAなど)またはGM-CSFなどのサイトカインは、制御された方法で免疫応答が強化されるおよび/または影響を受けることを可能にするアジュバントとして使用できる。CpGオリゴデオキシヌクレオチド(Krieg et al.,1995,Nature 374:546-549)もまた、この状況で任意に使用することができる。さらなる種類のアジュバントには、油エマルジョン(例えばフロイントアジュバント)、無機化合物(ミョウバンなど)、細菌産物(百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素など)、リポソーム、免疫刺激複合体、サイトカイン(例えばモノカイン、リンホカイン、インターロイキンまたはケモカイン、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IFN-α、IFN-γ、GM-CSF、LT-α、または成長因子、例えばhGH)、リポペプチド(例えばPam3Cys)が含まれる。一実施形態における本発明のRNA(好ましくはmRNA)が免疫刺激剤をコードすることができ、前記RNAによってコードされる前記免疫刺激剤が一次免疫刺激剤として作用する場合、しかしながら、比較的少量のCpG DNAしか必要としない(CpG DNAのみによる免疫刺激と比較して)。アジュバントの例は、モノホスホリル脂質A(MPL SmithKline Beecham)である。QS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham;国際公開第96/33739号)、QS7、QS17、QS18、およびQS-L1(So et al.,1997,Mol.Cells 7:178-186)などのサポニン、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタニド、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド、ならびにスクアレンおよび/またはトコフェロールなどの生物学的に分解可能な油から調製される様々な油中水型エマルジョン。特に好ましいアジュバントは、サイトカイン、例えばモノカイン、リンホカイン、インターロイキンまたはケモカイン、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IFN-α、IFN-γ、GM-CSF、LT-α、成長因子、例えばhGH、またはPam3Cysなどのリポペプチドであり、これらはすべて、本発明の医薬組成物中で、または本発明のRNA(特にmRNA)が治療法に使用される場合に、アジュバントとしての使用に適する。
【0348】
治療は、自宅、医院、診療所、病院の外来診療部門、または病院で提供され得る。治療は一般に医療監督下で開始されるため、医療関係者は治療の効果を注意深く観察し、必要な調整を行うことができる。治療期間は、患者の年齢および状態、ならびに患者が治療にどのように応答するかに依存する。
【0349】
状態、障害または疾患を発症するリスクが高い人は、状態、障害または疾患の症状を抑制するまたは遅延させるための予防的治療を受けてもよい。
【0350】
「治療」という用語は当業者に公知であり、状態、障害もしくは疾患、状態、障害もしくは疾患の症状、または状態、障害もしくは疾患に対する素因を治療、治癒、緩和、軽減、改変、矯正、改善、好転する、影響を及ぼすまたは予防することを目的とした(例えば、個体における腫瘍のサイズまたは腫瘍の数の減少を含む、疾患を予防もしくは排除する;個体の疾患を停止するもしくは遅延させる;個体における新たな疾患の発症を阻害するもしくは遅延させる;現在疾患を有するもしくは以前に疾患を有していた個体における症状および/もしくは再発の頻度もしくは重症度を低下させる;ならびに/または個体の寿命を延長する、すなわち増加させるために)、本明細書に記載の活性薬剤(例えばmRNAなどのRNAもしくはmRNAなどのRNAを含む医薬組成物)の適用もしくは投与(例えば前記活性薬剤を含む医薬組成物)、または本明細書に記載の活性薬剤(例えばmRNAなどのRNAもしくはmRNAなどのRNAを含む医薬組成物)の個体/患者に対する手順もしくは適用もしくは投与(例えば前記活性薬剤を含む医薬組成物)、または状態、障害もしくは疾患、または状態、障害もしくは疾患の症状、または状態、障害もしくは疾患に対する素因を有する個体から単離された細胞、細胞培養物、細胞株、試料、組織もしくは器官に対する手順が含まれる。特に、「疾患の治療」という用語は、疾患またはその症状の治癒、持続期間の短縮、改善、予防、進行もしくは悪化の減速もしくは阻害、または発症の予防もしくは遅延を含む。したがって、「治療」という用語は、状態、障害もしくは疾患、または状態、障害もしくは疾患の症状の予防的治療を含むことができる。活性薬剤は、治療に使用される場合、本発明のRNAおよび本明細書に記載の1つ以上の追加/補足の活性化合物を含み、小分子、ペプチド、ペプチド模倣物、ポリペプチド/タンパク質、抗体、DNAまたはdsRNAなどの他のポリヌクレオチド、細胞、ウイルス、リボザイム、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る他の治療活性化合物を含むが、これらに限定されない。
【0351】
好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、dsRNAを実質的に含まず、好ましくはdsRNAおよびDNAを実質的に含まない。
【0352】
本出願の5'キャップ化合物で修飾されたRNAを含むRNA製剤、特に医薬組成物、特に本出願の5'キャップ化合物で修飾されたRNAを含む医薬組成物と共に本明細書で使用される「dsRNAを実質的に含まない」という用語は、RNA製剤または医薬組成物中のdsRNAの量が、個体に投与されたときに前記RNA製剤または医薬組成物が前記個体において望ましくない応答(炎症性サイトカイン(例えばIFN‐α)の望ましくない誘導および/または本発明のRNAからのタンパク質合成の阻害をもたらすエフェクタ酵素の望ましくない活性化など)を実質的に誘導しない量であることを意味する。好ましくは、「dsRNAを実質的に含まない」および「望ましくない応答を実質的に誘導しない」という用語は、個体に投与されたとき、前記RNA製剤または医薬組成物が、投与後少なくとも10時間(例えば少なくとも12時間、少なくとも14時間、少なくとも16時間、少なくとも18時間、少なくとも20時間、少なくとも22時間、少なくとも24時間、少なくとも30時間、少なくとも36時間、少なくとも42時間、少なくとも48時間、少なくとも54時間、少なくとも60時間、少なくとも66時間、少なくとも72時間、少なくとも78時間、少なくとも84時間、少なくとも90時間、または少なくとも96時間)、RNAのペプチドまたはタンパク質への翻訳をもたらすことを意味する。例えば、RNA製剤または医薬組成物中のdsRNAの含有量は、前記RNA製剤または医薬組成物の総重量に基づき、最大で5重量%(好ましくは最大で4重量%、最大で3重量%、最大で2重量%、最大で1重量%、最大で0.5重量%、最大で0.1重量%、最大で0.05重量%、最大で0.01重量%、最大で0.005重量%、最大で0.001重量%)であり得る。
【0353】
本出願の5'キャップ化合物で修飾されたRNAを含むRNA製剤、特に医薬組成物、特に本出願の5'キャップ化合物で修飾されたRNAを含む医薬組成物と共に本明細書で使用される「DNAを実質的に含まない」という用語は、RNA製剤または医薬組成物中のDNAの量が、前記RNA製剤または医薬組成物の総重量に基づき、最大で5重量%(好ましくは最大で4重量%、最大で3重量%、最大で2重量%、最大で1重量%、最大で0.5重量%、最大で0.1重量%、最大で0.05重量%、最大で0.01重量%、最大で0.005重量%、最大で0.001重量%)であり得ることを意味する。
【0354】
本出願の5'キャップ化合物で修飾されたRNAを含むRNA製剤、特に医薬組成物、特に本出願の5'キャップ化合物で修飾されたRNAを含む医薬組成物と共に本明細書で使用される「dsRNAおよびDNAを実質的に含まない」という用語は、前記RNA製剤または医薬組成物が、上記で指定されたdsRNAを実質的に含まず(例えば、翻訳は投与後少なくとも10時間続き、および/またはdsRNA含有量は最大で5重量%である)、ならびに上記で指定されたDNAを実質的に含まない(例えば、DNA含有量は最大で5重量%である)ことを意味する。
【0355】
一実施形態では、本発明の医薬組成物はワクチン組成物である。
【0356】
本発明のワクチン組成物は、特定の用途(すなわちワクチン接種)のための本発明の医薬組成物と見なされ得る。したがって、本発明の医薬組成物に関連して上述した特徴および実施形態の1つ以上(例えば投与経路;他の成分の存在(1つ以上の医薬的に許容される担体、賦形剤、および/または希釈剤および/またはアジュバントおよび/または1つ以上の追加/補足の活性化合物);活性薬剤(1つまたは複数)の量;薬学的に許容される塩など)は、本発明のワクチン組成物にも適用され得る。
【0357】
好ましい実施形態では、前記ワクチン組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、および/または希釈剤をさらに含む。前記ワクチン組成物は、個体における免疫反応を増強および/または支持することができる化合物または物質をさらに含み得る。例えば、本発明のワクチン組成物は、上記のアジュバントまたはサイトカイン、例えばインターロイキン12(IL-12)、顆粒球‐マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、またはインターロイキン18(IL-18)をさらに含み得る。さらに、本発明によるワクチン組成物は、RNアーゼ阻害剤などのRNA安定化物質、薬学的に許容される塩もしくは緩衝液、防腐剤(塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン、もしくはチメロサールなど)、湿潤剤、乳化剤、および/またはさらなる薬物もしくは活性薬剤をさらに含み得る。
【0358】
特に好ましい実施形態では、RNAは、本発明によるワクチン組成物中に裸のRNAの形態で存在する。
【0359】
本発明のワクチン組成物は、非経口投与用に、例えば静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、リンパ内、皮内または結節内投与用に、より好ましくは結節内注射などの皮内または結節内投与用に製剤化されることが特に好ましい。本発明のワクチン組成物は、最も好ましくは、リンパ管および/または脾臓への注射のために、リンパ節、好ましくは鼠径リンパ節への注射用に製剤化される。
【0360】
好ましくは、ワクチン組成物は、レシピエント、すなわちワクチン接種される個体の血液と等張である水溶液または非水溶液の形態である。例えば、リンガー液、等張塩化ナトリウム溶液、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用し得る。特に、ワクチン組成物は、好ましくは無菌であり、上記で指定されたRNAを治療有効量で含む。
【0361】
好ましい実施形態では、ワクチン組成物は、dsRNAを実質的に含まず、好ましくはdsRNAおよびDNAを実質的に含まない。
【0362】
細胞
さらなる態様では、本発明は、本出願の5'キャップ化合物で修飾されたRNAを含む細胞を提供し、RNAは、好ましくはペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。本発明のRNAがペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む細胞のこの好ましい実施形態では、細胞は、例えば本明細書に記載のペプチドまたはタンパク質を生成するための対応する方法において、前記ペプチドまたはタンパク質を生成するため、または、例えば本明細書に記載のペプチドまたはタンパク質を発現させるための対応する方法において、前記細胞を個体に投与することによって個体において前記ペプチドまたはタンパク質を発現させるために使用することができる。
【0363】
好ましい実施形態では、細胞は、未成熟抗原提示細胞などの抗原提示細胞であり、マクロファージ、単球、B細胞、および樹状細胞からなる群より選択され得る。
【0364】
特に好ましい実施形態では、本発明による細胞は上記の医薬組成物に製剤化され、前記医薬組成物は、好ましくは薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質などのペプチドまたはタンパク質を発現するのに適する。代替的な実施形態では、本発明による細胞は上記の医薬組成物に製剤化され、前記医薬組成物は、好ましくは個体に投与したときに免疫応答を誘発するのに適しており、免疫応答は、好ましくは、本発明の未成熟抗原提示細胞に存在するRNAによってコードされるタンパク質もしくはペプチド、またはRNAによってコードされるタンパク質またはペプチドで構成される抗原および/もしくは免疫原に向けられる。したがって、本発明は、本発明の第3の態様による未成熟抗原提示細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0365】
方法および使用
一態様では、本発明は、RNAに5'キャップ構造を提供する方法を提供し、前記方法は、第1の態様の5'キャップ化合物の存在下で鋳型核酸を使用して転写反応を行うことを含む。一実施形態では、鋳型核酸はDNAである。転写反応は、インビボまたはインビトロで行われ得るが、好ましくはインビトロで行われる。一実施形態では、転写反応は、T3、T7およびSP6 RNAポリメラーゼからなる群より選択されるRNAポリメラーゼを使用して行われる。RNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み得、ペプチドまたはタンパク質は、好ましくは本明細書に記載されるような薬学的に活性なペプチドまたはタンパク質である。一実施形態では、この方法は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる。代替的実施形態では、この方法は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの存在下で行われる。
【0366】
別の態様では、本発明は、細胞におけるRNAの安定性を高めるおよび/または細胞におけるRNAの発現を増加させる方法を提供し、前記方法は、前記RNAに第1の態様で定義された式(I)による構造を提供すること;および式(I)による構造で修飾された前記RNAを細胞に移入することを含む。好ましくは、前記細胞は、好ましくは単球、マクロファージ、グリア細胞、B細胞、および樹状細胞からなる群より選択される、未成熟抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。未成熟な抗原提示細胞におけるRNAの安定性を評価するために、当業者は、試験されたRNAの存在を検出し得るか、または、例えばリアルタイムRT-PCRを使用することによって、前記RNAの導入後の特定の時点の後に細胞内のRNAの量を定量化し得る。細胞におけるRNAの発現は、ルシフェラーゼまたは緑色蛍光タンパク質、好ましくはd2EGFPなどのマーカタンパク質をコードするRNAを使用して決定し得るが、当業者に公知の他の任意のマーカタンパク質であってもよく、RNAの導入後の特定の時点で前記マーカタンパク質の発現を決定し得る。一実施形態では、前記RNAに式(I)による構造を提供する工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる。代替的実施形態では、この方法は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの存在下で行われる。
【0367】
さらなる態様では、本発明は、本発明のRNA、RNA組成物または細胞を使用する工程を含む、目的のペプチドまたはタンパク質を生成する方法を提供し、それぞれの場合に、RNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、ペプチドまたはタンパク質は、好ましくは、エリスロポエチンなどのサイトカイン;インテグリンなどの接着分子;免疫グロブリン;免疫学的に活性な化合物、例えば抗原、例えば腫瘍関連抗原、病原体関連抗原(例えばウイルスの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原、例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原)、アレルゲン、または自己抗原;バソプレシン、インスリンまたは成長ホルモンなどのホルモン;VEGFAなどの成長因子;単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素、またはラクターゼなどの酵素;成長因子受容体などの受容体;α1-アンチトリプシンなどのプロテアーゼ阻害剤;BAXなどのアポトーシス調節因子;FOXP3などの転写因子;p53などの腫瘍抑制タンパク質;サーファクタントタンパク質などの構造タンパク質;OCT4、SOX2、c-MYC、KLF4、LIN28、またはNANOGなどの再プログラミング因子;クラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)などのゲノム操作タンパク質;ならびにフィブリノゲンなどの血液タンパク質からなる群より選択される、薬学的に活性なタンパク質である。RNAまたはRNA組成物を使用する方法の実施形態では、方法は、前記RNAまたはRNA組成物を細胞に移入する工程を含み得る。これに関して、RNAを細胞に移入するのに適した任意の技術を使用し得る。好ましくは、RNAは、本明細書に記載されるような標準的な技術、例えばリン酸カルシウム沈殿、DEAEトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、またはマイクロインジェクションによって細胞にトランスフェクトされる。細胞は、RNAでトランスフェクトできる任意の細胞であってよく、好ましくは未成熟抗原提示細胞などの抗原提示細胞であり、より好ましくはマクロファージ、単球、B細胞、および樹状細胞からなる群より選択される。目的のペプチドまたはタンパク質を生成する方法は、インビボまたはインビトロで行われ得るが、好ましくはインビトロで行われる。
【0368】
さらなる態様では、本発明は、本発明のRNA、RNA組成物または細胞を個体に投与する工程を含む、前記個体においてペプチドまたはタンパク質を発現する方法を提供し、それぞれの場合に、RNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、ペプチドまたはタンパク質は、好ましくは、エリスロポエチンなどのサイトカイン;インテグリンなどの接着分子;免疫グロブリン;免疫学的に活性な化合物、例えば抗原、例えば腫瘍関連抗原、病原体関連抗原(例えばウイルスの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原、例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原)、アレルゲン、または自己抗原;バソプレシン、インスリンまたは成長ホルモンなどのホルモン;VEGFAなどの成長因子;単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素、またはラクターゼなどの酵素;成長因子受容体などの受容体;α1-アンチトリプシンなどのプロテアーゼ阻害剤;BAXなどのアポトーシス調節因子;FOXP3などの転写因子;p53などの腫瘍抑制タンパク質;サーファクタントタンパク質などの構造タンパク質;OCT4、SOX2、c-MYC、KLF4、LIN28、またはNANOGなどの再プログラミング因子;クラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)などのゲノム操作タンパク質;ならびにフィブリノゲンなどの血液タンパク質からなる群より選択される、薬学的に活性なタンパク質である。本発明のRNA、RNA組成物または細胞は、任意の経路、例えば本発明の医薬組成物に関して上述したものによって投与され得る。
【0369】
さらなる態様では、本発明は、(i)治療法で使用するため、特に対象における疾患または障害を治療する方法で使用するための本発明のRNA、RNA組成物、または細胞;(ii)本発明のRNA、RNA組成物、または細胞を対象に投与する工程を含む、前記対象における疾患または障害を治療する方法;および(iii)対象における疾患または障害を治療するための薬剤を調製するための本発明のRNA、RNA組成物、または細胞の使用を提供し、ここで、(i)~(iii)のそれぞれにおいて、RNAは、好ましくは疾患関連ペプチドまたはタンパク質であるペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。これらの(i)~(iii)の態様の一実施形態では、疾患または障害の治療は、本明細書に記載されるタンパク質補充療法、ゲノム操作、遺伝的再プログラミング、および免疫療法からなる群より選択される。好ましくは、ペプチドまたはタンパク質は、薬学的に活性なタンパク質であり、より好ましくは、エリスロポエチンなどのサイトカイン;インテグリンなどの接着分子;免疫グロブリン;免疫学的に活性な化合物、例えば抗原、例えば腫瘍関連抗原、病原体関連抗原(例えばウイルスの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原、例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVの1つ以上(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)の抗原)、アレルゲン、または自己抗原;バソプレシン、インスリンまたは成長ホルモンなどのホルモン;VEGFAなどの成長因子;単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素、またはラクターゼなどの酵素;成長因子受容体などの受容体;α1-アンチトリプシンなどのプロテアーゼ阻害剤;BAXなどのアポトーシス調節因子;FOXP3などの転写因子;p53などの腫瘍抑制タンパク質;サーファクタントタンパク質などの構造タンパク質;OCT4、SOX2、c-MYC、KLF4、LIN28、またはNANOGなどの再プログラミング因子;クラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)などのゲノム操作タンパク質;ならびにフィブリノゲンなどの血液タンパク質からなる群より選択される。一実施形態では、疾患または障害は、本明細書に開示される疾患および障害、例えばタンパク質補充療法、ゲノム操作療法、遺伝的再プログラミング療法、および/または免疫療法に関して本明細書に記載される例示的な疾患および障害から選択される。本発明のRNA、RNA組成物または細胞は、任意の経路および/または任意のレジメンもしくは量で、例えば本発明の医薬組成物に関して上述した経路および/またはレジメンおよび/または量で投与し得る。一実施形態では、本発明のRNA、RNA組成物または細胞は、対象に(例えば腹腔内、筋肉内、または皮内注射などの注射によって)、最大で1日1回、好ましくは最大で2日に1回、好ましくは最大で3日に1回、または最大で4日に1回投与される。一実施形態では、本発明のRNA、RNA組成物または細胞は、慢性患者または長期患者に(例えば腹腔内、筋肉内、または皮内注射などの注射によって)、長期間、特に少なくとも1週間、例えば少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも2年間、少なくとも3年間、少なくとも4年間、少なくとも5年間、または少なくとも10年間、例えば最大2週間、最大3週間、最大4週間、最大1ヶ月間、最大2ヶ月間、最大3ヶ月間、最大4ヶ月間、最大5ヶ月間、最大6ヶ月間、最大12ヶ月間、最大2年間、最大3年間、最大4年間、最大5年間、最大10年間まで、または患者の全生涯にわたって投与される。一実施形態では、本発明のRNA(本発明のRNA組成物または医薬組成物など)は、慢性患者または長期患者に(例えば腹腔内、筋肉内、または皮内注射などの注射によって)、長期間、すなわち少なくとも1週間、例えば少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも2年間、少なくとも3年間、少なくとも4年間、少なくとも5年間、または少なくとも10年間、例えば最大2週間、最大3週間、最大4週間、最大1ヶ月間、最大2ヶ月間、最大3ヶ月間、最大4ヶ月間、最大5ヶ月間、最大6ヶ月間、最大12ヶ月間、最大2年間、最大3年間、最大4年間、最大5年間、最大10年間まで、または患者の全生涯にわたって、最大で1日1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも24時間、例えば少なくとも30時間、少なくとも36時間、もしくは少なくとも42時間である)、好ましくは最大で2日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも48時間、例えば少なくとも54時間、少なくとも60時間、もしくは少なくとも66時間である)、好ましくは最大で3日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも72時間、例えば少なくとも78時間、少なくとも84時間、もしくは少なくとも90時間である)、または最大で4日に1回(すなわち2回の投与間の期間は、少なくとも96時間、例えば少なくとも102時間、少なくとも108時間、もしくは少なくとも114時間である)、投与される。
【0370】
さらなる態様では、本発明は以下を提供する:
(I)第2の態様のワクチン組成物または第3の態様の未成熟抗原提示細胞を個体に投与する工程を含む、前記個体において免疫応答を誘発する方法が提供される。好ましくは、前記免疫応答は、本発明のワクチン組成物または未成熟抗原提示細胞に含まれるRNAによってコードされるタンパク質またはペプチドに対して特異的に向けられるか、または前記タンパク質またはペプチドに含まれる抗原に対して特異的に向けられる。前記免疫応答は、治療的および/または防御的であり得る。前記ワクチン組成物および前記未成熟抗原提示細胞、好ましくは未成熟樹状細胞は、本発明の第2の態様について上記で指定されたように非経口的に、好ましくは結節内注射、好ましくは鼠径リンパ節への注射によって投与されることが特に好ましい。一実施形態では、方法は、インフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスに対する免疫応答を誘発するためのものである。
【0371】
(II)抗原提示細胞の表面に目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)を提示するMHC分子の部分を増加させる方法が提供され、前記方法は、前記目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、第1の態様で定義された式(I)による構造で修飾されたRNAを提供すること;および式(I)による構造で修飾された前記RNAを未成熟抗原提示細胞に移入することを含む。一実施形態では、目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I)による構造で修飾されたRNAを提供する工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる。代替的実施形態では、前記工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの存在下で行われる。理論に拘束されるものではないが、本発明の5'キャップ化合物でRNAを修飾することは、特に未成熟抗原提示細胞、例えば未成熟樹状細胞内で、前記RNAの安定性および/または発現を増加させると想定される。この増加した安定性および/または発現は、前記RNAによってコードされるタンパク質またはペプチドの蓄積をもたらす。前記タンパク質またはペプチドは、抗原または抗原ペプチドを含み得る。したがって、前記タンパク質のプロセシング後、抗原または抗原ペプチドは、抗原提示細胞の表面上のMHC分子に負荷され得る。あるいは、前記タンパク質またはペプチドは、それ自体が抗原または抗原ペプチドであってもよく、プロセシングなしでMHC分子に負荷されてもよい。本発明の5'キャップ化合物で修飾された抗原または抗原ペプチドを含む特定のタンパク質またはペプチドをコードするRNAは、従来の5'キャップ構造を有する同じRNAと比較した場合、好ましくはARCA 5'キャップ構造を有する同じRNAなどの参照RNAと比較した場合、前記RNAによってコードされるタンパク質またはペプチドに由来するペプチドを提示する抗原提示細胞の細胞表面上のMHC分子の部分/画分を増加させると想定される。抗原提示細胞の表面に特定の抗原を提示するMHC分子の密度は、前記特定の抗原に特異的な誘導される免疫応答の強さを決定するので、抗原提示細胞に導入された、抗原をコードするRNAの安定性を高めることは、前記特定の抗原に対する免疫応答の増加をもたらすと想定される。
【0372】
(III)免疫エフェクタ細胞を刺激および/または活性化する方法が提供され、前記方法は、目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、第1の態様で定義された式(I)による構造で修飾されたRNAを提供すること;式(I)による構造で修飾された前記RNAを未成熟抗原提示細胞に移入すること;および抗原提示細胞を免疫エフェクタ細胞と接触させることを含む。好ましくは、前記免疫エフェクタ細胞は、抗原特異的に活性化および/または刺激される。好ましくは、この方法によって、抗原特異的エフェクタ細胞、好ましくはT細胞の量が増加する。好ましくは、未成熟抗原提示細胞は未成熟樹状細胞である。一実施形態では、目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I)による構造で修飾されたRNAを提供する工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる。代替的実施形態では、前記工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの存在下で行われる。好ましい実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、T細胞、好ましくはCD4+および/またはCD8+T細胞である。一実施形態では、前記RNAを未成熟抗原提示細胞に移入する工程は、上述したリポフェクション、エレクトロポレーション、またはマイクロインジェクションなどの当業者に公知の任意の核酸導入方法、例えばトランスフェクション法によってインビトロで行われる。別の実施形態では、前記RNAを未成熟抗原提示細胞に移入する工程は、例えばRNAを個体に投与することによって、好ましくは非経口投与によって、好ましくはリンパ内投与によって、好ましくはリンパ節(1つまたは複数)への注射、すなわちリンパ節内注射によって、リンパ管への注射によって、または脾臓への注射によってインビボで行われる。好ましくは、前記投与は、好ましくはリンパ節(1つまたは複数)内で未成熟樹状細胞によって取り込まれるRNAのリンパ節内注射による。投与されるRNAは、好ましくは裸のRNAの形態である。一実施形態では、抗原提示細胞を免疫エフェクタ細胞と接触させる工程は、例えば組織培養皿においてインビトロで行われる。別の実施形態では、抗原提示細胞を免疫エフェクタ細胞と接触させる工程は、インビボで行われる。この実施形態では、RNAを未成熟抗原提示細胞に移入する工程は、上記のようにインビトロまたはインビボで行われ得る。RNAがインビトロで移入された抗原提示細胞をインビボで免疫エフェクタ細胞と接触させるために、抗原提示細胞は、好ましくは非経口投与によって、例えば静脈内、筋肉内、皮下、リンパ節内、リンパ内、または腹腔内注射によって、好ましくはリンパ管、脾臓、および/またはリンパ節(1つまたは複数)、好ましくは鼠径リンパ節(1つまたは複数)への注射などのリンパ系への注射によって個体に投与される。一実施形態では、方法は、RNAを未成熟抗原提示細胞に移入した後および抗原提示細胞を免疫エフェクタ細胞と接触させる前に、未成熟抗原提示細胞を成熟抗原提示細胞に分化させる工程をさらに含み得る。分化工程は、インビトロまたはインビボで行われ得る。例えば、RNAを未成熟抗原提示細胞、好ましくは未成熟樹状細胞に移入することができ、未成熟抗原提示細胞をインビトロで分化させ、分化した成熟抗原提示細胞、好ましくは成熟樹状細胞を上記のようにインビトロまたはインビボで、好ましくはインビボで免疫エフェクタ細胞と接触させる。RNAがインビトロで移入される未成熟抗原提示細胞は、個体、例えば免疫化される患者から単離し得るか、または造血幹細胞から分化させ得る。
【0373】
免疫エフェクタ細胞、特にT細胞の刺激および/または活性化は、典型的には免疫エフェクタ細胞の増殖、細胞傷害反応性、および/またはサイトカイン分泌に関連する。したがって、当業者は、免疫エフェクタ細胞が刺激および/または活性化されるかどうかを、典型的にはT細胞を使用して実施される簡単なインビトロ試験によって決定し得る。そのようなT細胞は、T細胞ハイブリドーマなどの形質転換されたT細胞株、またはげっ歯動物、例えばマウスもしくはラットなどの哺乳動物から単離されたT細胞によって提供され得る。適切なT細胞ハイブリドーマは市販されているか、または公知の方法によって作製され得る。T細胞は、公知の方法で哺乳動物から単離され得る(Shimonkevitz et al.,1983,J.Exp.Med.158:303-316参照)。T細胞の活性化および/または刺激を試験するための適切な実験設定を以下の工程(1)~(4)で説明する。T細胞は、試験し得るおよびT細胞の活性化またはT細胞活性の調節を示す適切なマーカを発現する。マウスT細胞ハイブリドーマDO11.10は、活性化するとインターロイキン-2(IL-2)を発現するので、前記ハイブリドーマをこの目的に使用し得る。T細胞の活性化/刺激を確認するために、または組成物が前記T細胞ハイブリドーマの活性を調節することができるかどうかを判定するために、IL-2濃度を測定し得る。この試験は以下の工程によって実施される:(1)T細胞ハイブリドーマからまたは哺乳動物からの単離によってT細胞を提供する、(2)増殖を可能にする条件下でT細胞を培養する、(3)増殖中のT細胞を、抗原またはそれをコードする核酸と接触させた抗原提示細胞と接触させる、および(4)T細胞をマーカについて、例えばIL-2産生について試験する。試験に使用される細胞は、増殖を可能にする条件下で培養される。例えば、DO11.10 T細胞ハイブリドーマは、完全培地(10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミンおよび5x10-5M 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI 1640)において37℃および5%CO2で適切に培養されるT細胞活性化シグナルは、適切な抗原ペプチドが負荷された抗原提示細胞によって提供される。
【0374】
あるいは、T細胞活性の調節は、抗原特異的T細胞の変化または増殖を決定することによって確認してもよく、これは、例えば公知の放射性標識法によって測定し得る。例えば、標識されたヌクレオチドを試験培地に添加し得る。そのような標識ヌクレオチドのDNAへの組み込みは、T細胞増殖の指標としての役割を果たし得る。この試験は、T細胞ハイブリドーマのようなその増殖のために抗原提示を必要としないT細胞には適用されない。この試験は、哺乳動物から単離された非形質転換T細胞の場合にT細胞活性の調節を決定するために有用である。
【0375】
(IV)個体において免疫応答を誘導する方法が提供され、前記方法は、目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、第1の態様で定義された式(I)による構造で修飾されたRNAを提供すること;および式(I)による構造で修飾された前記RNAを前記個体に投与することを含む。一実施形態では、RNAは、リンパ節内注射によって投与されるか、または皮内投与される。目的の抗原は、任意の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)であり得、好ましくは上記で定義されたとおりである。好ましい実施形態では、前記RNAは、好ましくは非経口投与によって、例えば静脈内、筋肉内、皮下、リンパ節内、皮内、リンパ内、または腹腔内注射によって、好ましくはリンパ管(1つまたは複数)、脾臓、および/またはリンパ節(1つまたは複数)、好ましくは鼠径リンパ節(1つまたは複数)への注射などのリンパ系への注射によって、裸のRNAの形態で投与される。好ましくは、投与されたRNAは、個体の未成熟樹状細胞によって取り込まれる。好ましくは、免疫応答は防御的および/または治療的であり、例えば癌性疾患または感染症などの疾患を治療および/または予防するために有用である。一実施形態では、目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I)による構造で修飾されたRNAを提供する工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる。代替的実施形態では、前記工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの存在下で行われる。
【0376】
(V)個体において免疫応答を誘導する方法が提供され、前記方法は、目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、第1の態様で定義された式(I)による構造で修飾されたRNAを提供すること;式(I)による構造で修飾された前記RNAを未成熟抗原提示細胞に移入すること;および抗原提示細胞を前記個体に投与することを含む。一実施形態では、目的の抗原(例えばインフルエンザウイルス(A型、B型、もしくはC型)、CMV、またはRSVなどのウイルスの抗原)またはその抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、式(I)による構造で修飾されたRNAを提供する工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる。代替的実施形態では、前記工程は、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの存在下で行われる。本発明のこの態様では、RNAは、上述したように当業者に公知の任意の核酸導入法、例えばリポフェクション、エレクトロポレーション、またはマイクロインジェクションなどのトランスフェクションによってインビトロで未成熟抗原提示細胞に移入される。好ましくは、未成熟抗原提示細胞は未成熟樹状細胞である。RNAがインビトロで移入される未成熟抗原提示細胞は、個体、例えば免疫化される患者から単離し得るか、または造血幹細胞から分化させ得、造血幹細胞は個体から単離し得る。未成熟抗原提示細胞または造血幹細胞は、白血球除去によって個体から単離し得る。好ましくは、未成熟抗原提示細胞は未成熟樹状細胞である。好ましくは、未成熟抗原提示細胞は、免疫化される個体から単離され、RNAは、前記単離した細胞に移入され、細胞は、好ましくは非経口投与によって、例えば静脈内、筋肉内、皮下、リンパ節内、リンパ内、または腹腔内注射、好ましくはリンパ管(1つまたは複数)、脾臓および/またはリンパ節(1つまたは複数)、好ましくは鼠径リンパ節(1つまたは複数)への注射などのリンパ系への注射によって前記個体に戻される。
【0377】
標的疾患に対するワクチン接種への適合性を含む、免疫反応を誘発する能力は、インビボ試験によって容易に決定され得る。例えば、組成物、例えばワクチン組成物または医薬組成物を実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギなどの哺乳動物に投与し、組成物の投与前および組成物の投与後の所定の時点で、例えば投与の1、2、3、4、5、6、7、および8週間後に前記動物から血液試料を採取し得る。血液試料から血清を生成し、投与/免疫化後に生じた抗体の発生を決定し得る。例えば、抗体の濃度を測定し得る。さらに、T細胞を哺乳動物の血液および/またはリンパ系から単離し、それを、免疫化に使用される抗原に対する反応性に関して試験し得る。当業者に公知の任意の読み出しシステムを使用してよく、例えば増殖アッセイ、サイトカイン分泌アッセイ、細胞傷害活性を試験するアッセイ、またはテトラマー解析などを使用し得る。さらに、免疫反応性の増加は、上記のように、抗原特異的T細胞の数、それらの潜在的細胞傷害能、またはそれらのサイトカイン分泌パターンを測定することによっても決定され得る。
【0378】
本出願の実施例に示されるように、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の5'キャップ化合物を使用することによって、β-S-ARCAキャップ1構造を1工程でRNAに組み込み、それによりチオ置換のプラスの作用を、キャップ1を規定する2'-O-メチル化と組み合わせることがことが可能であることを見出した。
【0379】
本発明を、本発明の好ましい実施形態を例示する以下の実施例によって説明するが、特許請求の範囲で定義される本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。添付の特許請求の範囲に含まれない実施例は、比較目的でのみ提供される。
以下、参考形態の例を付記する。
[1]
式(I):
【化1】
式(I)
[式中、R
1
は、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクリル、置換されていてもよいアリール、および置換されていてもよいヘテロアリールからなる群より選択され;
R
2
およびR
3
は、H、ハロ、OH、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より独立して選択されるか、またはR
2
とR
3
が一緒になってO-X-O[Xは、置換されていてもよいCH
2
、置換されていてもよいCH
2
CH
2
、置換されていてもよいCH
2
CH
2
CH
2
、置換されていてもよいCH
2
CH(CH
3
)、および置換されていてもよいC(CH
3
)
2
からなる群より選択される]を形成するか、またはR
2
は、R
2
が結合している環の4'位の水素原子と結合して-O-CH
2
-または-CH
2
-O-を形成し;
R
4
およびR
6
は、O、S、Se、およびBH
3
からなる群より独立して選択され;
R
5
は、S、Se、およびBH
3
からなる群より選択され;
R
7
は、2~9個の塩基を有するモノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドであり;
R
8
は、H、ハロ、または置換されていてもよいアルコキシであり;
nは1、2、または3であり;ならびに
Bはプリンまたはピリミジン塩基部分である]
による5'キャップ構造を有する5'キャップ化合物。
[2]
R
1
が、置換されていてもよいC
1-4
アルキル、置換されていてもよいC
2-4
アルケニル、および置換されていてもよいアリールからなる群より選択される、[1]に記載の5'キャップ化合物。
[3]
R
2
およびR
3
が、H、F、OH、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より独立して選択される、[1]または[2]に記載の5'キャップ化合物。
[4]
R
2
が、H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシおよび2-メトキシエトキシからなる群より選択される、[1]~[3]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[5]
R
8
が、H、F、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、および2-メトキシエトキシからなる群より選択される、[1]~[4]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[6]
Bが、天然に存在するプリンまたはピリミジン塩基部分またはそれらの修飾形態である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[7]
Bが、グアニン、アデニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびそれらの修飾形態からなる群より、好ましくはグアニン、アデニン、シトシン、ウラシル、およびそれらの修飾形態からなる群より、より好ましくはグアニン、アデニン、シトシン、およびそれらの修飾形態からなる群より、より好ましくはグアニン、アデニン、およびそれらの修飾形態からなる群より選択される、[1]~[6]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[8]
前記修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分が、1つ以上のアルキル基、好ましくは1つ以上のC
1
-
4
アルキル基、より好ましくは1つ以上のメチル基で修飾されている、[7]に記載の5'キャップ化合物。
[9]
前記修飾されたプリンまたはピリミジン塩基部分が、N
7
-アルキル-グアニン、N
6
-アルキル-アデニン、5-アルキルシ-トシン、5-アルキル-ウラシル、およびN(1)-アルキル-ウラシルからなる群より、好ましくはN
7
-C
1-4
アルキル-グアニン、N
6
-C
1-4
アルキル-アデニン、5-C
1-4
アルキル-シトシン、5-C
1-4
アルキル-ウラシル、およびN(1)-C
1-4
アルキル-ウラシルからなる群より、より好ましくはN
7
-メチル-グアニン、N
6
-メチル-アデニン、5-メチル-シトシン、5-メチル-ウラシル、およびN(1)-メチル-ウラシルからなる群より選択される、[7]または[8]に記載の5'キャップ化合物。
[10]
前記天然に存在するプリンまたはピリミジン塩基部分が、GまたはA、好ましくはGである、[6]~[9]のいずれか一項に記載の5'キャップ化合物。
[11]
BがGまたはA、好ましくはGである、[1]~[7]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[12]
R
7
が、2、3、4、5、または6個の塩基を有するモノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドである、[1]~[11]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[13]
R
7
が、その5'末端を介してR
8
が結合している環に結合している、[1]~[12]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[14]
R
7
がリボモノヌクレオチドまたはリボオリゴヌクレオチドである、[1]~[13]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[15]
R
7
が、2'位に遊離OH基を有するリボヌクレオチドである、[14]に記載の5'キャップ化合物。
[16]
R
7
がリボオリゴヌクレオチドであり、前記リボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボース部分および前記リボオリゴヌクレオチドの5'末端のリボース部分の両方が2'位に遊離OH基を有する、[14]に記載の5'キャップ化合物。
[17]
R
7
がリボオリゴヌクレオチドであり、少なくとも前記リボオリゴヌクレオチドの5'末端のリボースの2'位のOH基が、H、ハロ、および置換されていてもよいアルコキシからなる群より選択される置換基で置換されており、ならびに前記リボオリゴヌクレオチドの3'末端のリボースが2'位に遊離OH基を有する、[14]に記載の5'キャップ化合物。
[18]
前記モノヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドとR
7
が結合している前記環との間のヌクレオチド間結合が、ホスフェート、ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、および非ヌクレオチドリンカーからなる群より選択される、[1]~[17]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[19]
前記オリゴヌクレオチド中のヌクレオチドの間のヌクレオチド間結合(1つまたは複数)が、ホスフェート、ホスホロチオエート、ボラノホスフェート、イミドホスフェート、アルキレンホスフェート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダイト、および非ヌクレオチドリンカーからなる群より選択される、[1]~[18]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[20]
前記置換基R
5
を含むP原子における立体化学的配置が、β-S-ARCAのD1ジアステレオマーのP
β
原子における立体化学的配置に対応する、[1]~[19]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物。
[21]
[1]~[20]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物を含む組成物またはキット。
[22]
[1]~[20]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物で修飾されたRNA。
[23]
[22]に記載のRNAを含む組成物または細胞。
[24]
前記RNAが、目的のペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、[22]に記載のRNAまたは[23]に記載の組成物もしくは細胞。
[25]
[24]に記載のRNA、組成物または細胞を使用する工程を含む、目的のペプチドまたはタンパク質を生成する方法。
[26]
[24]に記載のRNA、組成物または細胞を個体に投与する工程を含む、前記個体において目的のペプチドまたはタンパク質を発現する方法。
[27]
治療法で使用するための、[24]に記載のRNA、組成物または細胞。
[28]
[24]に記載のRNA、組成物または細胞を対象に投与する工程を含む、前記対象における疾患または障害を治療する方法。
[29]
対象における疾患または障害を治療する方法で使用するための、[24]に記載のRNA、組成物または細胞。
[30]
疾患または障害の治療が、タンパク質補充療法、ゲノム操作、遺伝的再プログラミング、および免疫療法からなる群より選択される、[28]に記載の方法、または[29]に記載の使用のためのRNA、組成物もしくは細胞。
[31]
前記RNA、組成物または細胞が、最大で1日1回、好ましくは最大で2日に1回、好ましくは最大で3日に1回、または最大で4日に1回、前記対象に投与される、[28]もしくは[30]に記載の方法、または[29]もしくは[30]に記載の使用のためのRNA、組成物もしくは細胞。
[32]
前記RNA、組成物または細胞が慢性患者または長期患者に、例えば少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも4ヶ月間、少なくとも5ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも2年間、少なくとも3年間、少なくとも4年間、少なくとも5年間、または少なくとも10年間、例えば最大2週間、最大3週間、最大4週間、最大1ヶ月間、最大2ヶ月間、最大3ヶ月間、最大4ヶ月間、最大5ヶ月間、最大6ヶ月間、最大12ヶ月間、最大2年間、最大3年間、最大4年間、最大5年間、最大10年間まで、または前記患者の全生涯などの長期間にわたって投与される、[28]、[30]もしくは[31]に記載の方法、または[29]~[31]のいずれか一つに記載の使用のためのRNA、組成物もしくは細胞。
[33]
細胞におけるRNAの安定性を高めるおよび/または細胞におけるRNAの発現を増加させる方法であって、
‐前記RNAに[1]~[20]のいずれか一つで定義された式(I)による構造を提供すること;および
‐式(I)による構造で修飾された前記RNAを前記細胞に移入すること
を含む方法。
[34]
前記RNAに式(I)による構造を提供する工程が、2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる、[33]に記載の方法。
[35]
RNAに5'キャップ構造を提供する方法であって、[1]~[20]のいずれか一つに記載の5'キャップ化合物の存在下で鋳型核酸を使用して転写反応を行うことを含む方法。
[36]
前記鋳型核酸がDNAである、[35]に記載の方法。
[37]
前記転写反応がインビトロで行われる、[35]または[36]に記載の方法。
[38]
前記転写反応が、T3、T7およびSP6 RNAポリメラーゼからなる群より選択されるRNAポリメラーゼを使用して行われる、[35]~[37]のいずれか一つに記載の方法。
[39]
前記RNAが、目的のペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、[35]~[38]のいずれか一つに記載の方法。
[40]
2'‐O‐リボースメチルトランスフェラーゼの非存在下で行われる、[35]~[39]のいずれか一つに記載の方法。
[41]
[35]~[40]のいずれか一つに記載の方法によって得られるRNA。
[42]
前記目的のペプチドまたはタンパク質が、エリスロポエチンなどのサイトカイン;インテグリンなどの接着分子;免疫グロブリン;免疫学的に活性な化合物、例えば抗原、例えば腫瘍関連抗原、病原体関連抗原(ウイルス抗原、例えばインフルエンザウイルス(インフルエンザウイルスA型、B型、もしくはC型)、サイトメガロウイルス(CMV)、または呼吸器合抱体ウイルス(RSV)の1つ以上の抗原など)、アレルゲン、または自己抗原;バソプレシン、インスリンまたは成長ホルモンなどのホルモン;VEGFAなどの成長因子;単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)、ヘキソサミニダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、プソイドコリンエステラーゼ、膵酵素、およびラクターゼなどの酵素;成長因子受容体などの受容体;α1-アンチトリプシンなどのプロテアーゼ阻害剤;BAXなどのアポトーシス調節因子;FOXP3などの転写因子;p53などの腫瘍抑制タンパク質;サーファクタントタンパク質などの構造タンパク質;OCT4、SOX2、c-MYC、KLF4、LIN28、またはNANOGなどの再プログラミング因子;クラスタ化された規則的な間隔の短いパリンドロームリピート‐CRISPR関連タンパク質9(CRISPR-Cas9)などのゲノム操作タンパク質;ならびにフィブリノゲンなどの血液タンパク質からなる群より選択される、[24]に記載のRNA、組成物もしくは細胞、[25]に記載の目的のペプチドもしくはタンパク質を生成する方法、[26]に記載の目的のペプチドまたはタンパク質を発現する方法、[27]および[29]~[31]のいずれか一つに記載の使用のためのRNA、組成物もしくは細胞、[28]、[30]および[31]のいずれか一つに記載の疾患もしくは障害を治療する方法、[38]もしくは[39]に記載の方法、または[39]に記載の方法によって得られる[41]に記載のRNA。
【実施例】
【0380】
略語
h:時間(1または複数)
mM:ミリモル(10-3mol/l)
NTP:ヌクレオシド三リン酸
【実施例1】
【0381】
キャップ類似体の合成
【0382】
共転写的にキャップされたインビトロ転写mRNAを得るために、
図2(OR=OCH
3)に示す本発明の5'キャップ化合物(化合物1、式(I)の化合物)を設計した。化合物1は、5'-5'三リン酸架橋のβ位にホスホロチオエート置換、逆方向への組み込みを回避するための末端2'-Oメチル化、キャップ1構造を反映する内部2'-Oメチル化、およびファージRNAポリメラーゼによる組み込みを可能にする追加のグアノシン部分を含む。修飾されたキャップトリヌクレオチドの合成および使用法を以下で説明する。
【0383】
本発明の5'キャップ化合物および他のキャップ類似体は、標準的な手順を使用して(pN)
2-4などの市販のオリゴヌクレオチドから出発して合成することができる。m
2
7,2-OGpp
Spm
2'-OGpG(化合物1)については、市販の5'-リン酸化2'-O-メチル化ジグアノシン5',3'-ジヌクレオチド(pm
2'-OGpG)を入手し、さらに処理することなく出発物質として使用した。ジヌクレオチドを、3当量の2,2'-ジチオジピリジン/トリフェニルホスフィン活性化系の存在下でDMF中10当量のイミダゾールと反応させることによって対応するP-イミダゾリド誘導体(Im-pm
2'-OGpG)に変換した(
図1;Mukaiyama and Hashimoto 1971参照)。ヌクレオチドサブユニットである2'-O-メチルグアノシン5'-O-(2-チオジホスフェート)(m
2
7,2'-OMeGDPβS)は、先に記述されているように(Kowalska et al 2008)合成した。次に、m
2
7,2'-OMeGDPβSとP-イミダゾリドIm-p
m2'-OGpGを、過剰(8当量)のZnCl
2の存在下にDMF中で、2つのジアステレオ異性体(D1およびD2、RP HPLCカラムからの溶出順序に従って命名した)の混合物としてのキャップ類似体(m
2
7,2-OGpp
Spm
2'-OGpG、HPLC収率38%;
図2)にカップリングした。ジアステレオ異性体を、RP HPLC(Discovery Amide RP C16カラム)によって純粋なジアステレオ異性体D1およびD2に分離した。
分光データ:
m
2
7,2'-OGpp
Sp
2'-OGpG(化合物1)
【0384】
(D1):1H NMR(400MHz,D2O)δ9.07(s,1H)、8.16(s,1H)、8.07(s,1H)、5.97(d,J=2.24Hz,1H)、5.87(d,J=5.98Hz,1H)、5.82(d,J=5.48Hz,1H)、4.85-5.00(m,1H)、4.74-4.87(m,2H,HDOの信号と部分的にオーバーラップ)、4.61(t,J=5.35Hz,1H)、4.51(t,J=4.36Hz,2H)、4.12-4.48(m,9H)、4.07(s,3H)、3.58(s,3H)、3.43(s,3H);31P NMR(162MHz,D2O)δ 30.93(t,J=26.9Hz,1 P)-0.59(br.s.,1 P)-11.94(d,J=26.9Hz,1 P)-12.08(d,J=26.9Hz,1 P);
(D2):1H NMR(400MHz,D2O)δ 9.08(s,1H)、8.16(s,1H)、8.10(s,1H)、5.89(d,J=2.49Hz,1H)、5.87(d,J=5.98Hz,1H)、5.82(d,J=5.98Hz,1H)、4.97(m,1H)、4.58-4.55(~t,1H)4.85-4.73(m,2H,HDOの信号とオーバーラップ)、4.54-4.47(m,2H)、4.13-4.46(m,9H)、4.07(s,3H)、3.57(s,3H)、3.44(s,3H);31P NMR(162MHz,D2O)δ30.40(dt,J=26.9Hz,1 P)-0.60(br.s.,1 P)-11.98(d,J=26.9Hz,1 P)-12.43-12.06(d,J=26.9Hz,1 P)
HRMS C33H44N15O24P4S-[M-H]-の計算値m/z 1190.1360、実測値 1190.13936
【実施例2】
【0385】
キャップ類似体を使用したインビトロ転写によるキャップされたmRNAのインビトロ合成
【0386】
インビトロ転写中の異なるキャップ類似体の組み込みには、通常のβ-S-ARCAジヌクレオチドキャップの組み込みと同じプロトコルを使用することができる。ここに示す実施例では、3mMのキャップ類似体と7.5mMのNTPを転写反応に添加した。化合物1のジアステレオマー(D1/D2)の1つまたはβ-S-ARCAのジアステレオマー(D1/D2)の1つで生成されたRNAの収量(反応容量1mlあたりのmg RNA)と完全性を以下の表に示す。
【表1】
【実施例3】
【0387】
細胞培養物中の異なるキャップ付きmRNAからのタンパク質発現
【0388】
キャップ類似体組み込みの機能的アッセイとして、および得られたキャップ構造の翻訳可能性の試験として、ルシフェラーゼレポータをコードする異なるキャップ付きmRNAをヒト未成熟樹状細胞(hiDC)にトランスフェクトした。そのために、Kranz et al.,Nature 534,396-401(2016)に記載されているように、ウェルあたり700 ngのキャップされたRNAをリポソームで製剤化し、5E04 hiDCを含む96ウェルに添加した。その後、レポータ活性を72時間にわたって記録した。結果を
図3に示す。
【0389】
化合物1のD1またはD2ジアステレオマーで共転写的にキャップされたmRNAは機能的であり、対応するβ-S-ARCAのD1またはD2ジアステレオマーでキャップされたmRNAと同等のレベルでhiDCに翻訳され、本発明による式(I)の化合物に関しても、β-S-ARCA修飾の利点は依然として有効であることを示した(
図3)。
【実施例4】
【0390】
式(I)の5'キャップ化合物で修飾されたmRNAは、mRNAの安定性および翻訳効率の改善とIFIT1による免疫応答の回避を組み合わせる
【0391】
上記のように、ルシフェラーゼmRNAを化合物1のD1もしくはD2ジアステレオマー、または対応するβ-S-ARCAのD1もしくはD2ジアステレオマーで共転写的にキャップした。さらに、NEBワクシニアキャッピング酵素キット(酵素的キャップ0/キャップ1 RNA)を使用して、三リン酸Luc mRNA(すなわちキャップ類似体の非存在下で転写された)を酵素的にキャップした。酵素的キャップ0構造を得るために、ワクシニアキャッピング酵素をそのまま使用し、酵素的キャップ1構造については、ワクシニアメチルトランスフェラーゼも添加した。その後、二本鎖RNAの量を減少させるまたは除去するために、得られたキャップ付きmRNA調製物を精製した。さらに、以前の実験で分析に干渉することが示されている、共転写的にキャップされたmRNA調製物中に存在する少量のキャップされていないRNAを、酵素的にキャップ0(ジヌクレオチドでキャップされたmRNAの場合)またはキャップ1構造(トリヌクレオチドでキャップされたmRNAの場合)に変換した。次に、得られたmRNA調製物をF12で製剤化し、Balb/cマウスに静脈内投与した。マウスあたり10μg RNAの用量で、1群あたり5匹のマウスを試験した。ルシフェラーゼ発現の強度と動態を、適用後6時間、24時間、および48時間の生物発光インビボイメージングによって観測した。
【0392】
この設定では、β‐S置換は、存在したとしても、β‐S-ARCA(D1)および(D2)キャップ0 RNAと比較して、酵素的にキャップされたキャップ0 RNAの同様の発現プロフィールによって観察されるように、わずかな影響しか及ぼさず、インビボ発現を駆動する主な因子は、キャップ1構造の2'-O-メチル化である。したがって、酵素的にキャップされたキャップ1 mRNA調製物は、測定したいずれの時点でも最も高いタンパク質発現をもたらす。しかし、化合物1でキャップされたRNAは、適用の20時間後に同様のタンパク質レベルを示し、その他の時点ではわずかにより低いレベル(すべてのキャップ0 RNAと比較して常により高いレベル)を示す。したがって、本発明の5'キャップ化合物は、チオ置換のプラスの作用とキャップ1を規定する2'-O-メチル化とを組み合わせる、β-S-ARCAキャップ1構造のRNAへの組み込みを可能にする。
【実施例5】
【0393】
インビボでの異なるキャップ付きmRNAからのタンパク質発現
【0394】
上記のように、1-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)を含むマウスエリスロポエチン(mEPO)mRNAを、ARCA Gまたはβ-S-ARCAのD1ジアステレオマー(D1と称する)で共転写的にキャップした。さらに、NEBワクシニアキャッピング酵素キット(酵素的キャップ0/キャップ1 RNA)を使用して、三リン酸mEPO mRNA(すなわちキャップ類似体の非存在下で転写された)を酵素的にキャップした。酵素的キャップ0構造(Eキャップ0と称する)を得るために、RNAトリホスファターゼおよびグアニリルトランスフェラーゼ活性を有するワクシニアキャッピング酵素をそのまま使用し、酵素的キャップ1構造(Eキャップ1と称する)については、2'-O-メチルトランスフェラーゼ活性を有するワクシニアメチルトランスフェラーゼも添加した。その後、二本鎖RNAの量を減少させるまたは除去するために、得られた異なるキャップ付きmRNA調製物を精製した。さらに、以前の実験で分析に干渉することが示されている、共転写的にキャップされたmRNA調製物中に存在する少量のキャップされていないRNAを、酵素的にキャップ0構造に変換し、次いでキャップ1構造に変換した。D1構造を使用したmRNAの調製において、酵素での処理後に得られた生成物をD1+Eキャップ1と称し、ARCA Gの場合は、酵素での処理後に得られた生成物をARCA G+Eキャップ1と称した。次にmRNA調製物をTransIT(登録商標)で製剤化し、Balb/cマウスに腹腔内注射した。マウスあたり3μg RNAの用量で、1群あたり5匹のマウスを試験した。適用後6時間、24時間、48時間および72時間に収集した血漿中で、mEPO mRNAの翻訳をELISAによって観測した。
【0395】
図5から分かるように、RNAにおける本発明のキャップ1構造の存在は、特に注射の24時間後に、キャップ0構造を有するRNAと比較して、mEPOのはるかに高い発現レベルをもたらす。さらに、
図5は、本発明のキャップ1構造を含むRNAを使用することによって、少なくとも72時間、高いmEPO血漿レベルを維持することが可能であることを示す。したがって、この実施例は、ペプチドまたはタンパク質の高い発現レベルを維持するために、ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRNAを少なくとも1日2回投与する必要がないことを明らかにする。むしろ、本発明を使用することによって、ペプチドまたはタンパク質の高い発現レベルを維持しながら、RNAを最大で1日1回、好ましくは最大で2日に1回、好ましくは最大で3日に1回、または最大で4日に1回投与することが可能である。これは、投与(例えば注射)の回数を有意に減らすことができるという患者にとっての利点を有し、これは、慢性または長期患者などの長期間にわたって治療(例えば医薬組成物)を受ける患者に関して特に有益である。