(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ペプチド-核酸複合体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240110BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240110BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20240110BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240110BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20240110BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240110BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240110BHJP
C12N 11/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12P21/02 C
C07K17/00
C07K19/00
C40B40/10
C12N15/54
C12N15/09 200
C12N11/00
(21)【出願番号】P 2020555580
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2019043640
(87)【国際公開番号】W WO2020095985
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018209874
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」拠点「世界に誇る社会システムと技術革新で新産業を創るWellbeing Research Campus」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】上野 真吾
(72)【発明者】
【氏名】一木 隆範
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/001086(WO,A1)
【文献】特表2016-523978(JP,A)
【文献】特表2016-519118(JP,A)
【文献】特開2018-015013(JP,A)
【文献】国際公開第18/168999(WO,A1)
【文献】J. Org. Chem.,2007年,Vol.72,pp.3909-3912
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C07K 17/00
C07K 19/00
C12N 11/00
C12P 21/00
C12Q 1/6876
C40B 40/10
C12Q 1/686
C12N 15/54
C12N 9/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドと、前記ペプチドをコードする核酸と、を含むペプチド-核酸複合体の製造方法であって、
(A1)トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、
前記ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を準備する工程と、
(B1)前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された前記核酸から、無細胞タンパク質合成系を用いて、前記ペプチドのドメインと、前記トランスペプチダーゼのドメインと、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフとを含むキメラタンパク質を合成する工程と、
(C1)前記トランスペプチダーゼドメインによるペプチド転移反応により、前記ペプチド-核酸複合体を形成させる工程と、
を含む、ペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項2】
前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第3のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、請求項1に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項3】
前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、請求項1に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項4】
前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、請求項1に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項5】
前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸が、固相担体に固定化されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項6】
ペプチドと、前記ペプチドをコードする核酸と、を含むペプチド-核酸複合体の製造方法であって、
(A2)トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、
前記ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を準備する工程と、
(B2)前記トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された前記核酸から、無細胞タンパク質合成系を用いて、前記ペプチドのドメインと、前記トランスペプチダーゼのドメインと、前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとを含むキメラタンパク質を合成する工程と、
(C2)前記トランスペプチダーゼドメインによるペプチド転移反応により、前記ペプチド-核酸複合体を形成させる工程と、
を含む、ペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項7】
前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、請求項6に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項8】
前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列が、この順で、配置されている、請求項6に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項9】
前記核酸が、さらに、前記第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含み、
前記プロテアーゼは、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有しており、
前記工程(B2)の後、且つ前記工程(C2)の前に、さらに、
(D2)前記プロテアーゼを用いて、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する工程、
を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項10】
前記トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸が、固相担体に固定化されている、請求項6~9のいずれか一項に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
【請求項11】
(a)ペプチドと、
(b)前記ペプチドのコード配列を含む核酸と、
(c)トランスペプチダーゼによるペプチド転移反応により、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフとN末端基質モチーフとが、結合して生じる配列と、を含み、
前記(b)の核酸が、前記(a)のペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフ又は前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含み、
前記(c)の配列が、前記(a)のペプチドと前記(b)の核酸との間に位置する、
ペプチド-核酸複合体。
【請求項12】
前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする配列であり、
前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第3のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、
請求項
11に記載のペプチド-核酸複合体。
【請求項13】
前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする配列であり、
前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、
請求項
11に記載のペプチド-核酸複合体。
【請求項14】
前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする配列であり、
前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、
請求項
11に記載のペプチド-核酸複合体。
【請求項15】
前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフをコードする配列であり、
前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、
請求項
11に記載のペプチド-核酸複合体。
【請求項16】
前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフをコードする配列であり、
前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列が、この順で、配置されている、
請求項
11に記載のペプチド-核酸複合体。
【請求項17】
前記(b)の核酸が、前記第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列をさらに含み、
前記プロテアーゼは、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有している、
請求項
15又は
16に記載のペプチド-核酸複合体。
【請求項18】
請求項11~
17のいずれか一項に記載のペプチド-核酸複合体が固定化された固相担体。
【請求項19】
請求項
18に記載の固相担体を含む反応槽を備えた、ペプチドアレイ。
【請求項20】
前記反応槽1個当たり、1種類の前記ペプチド-核酸複合体を含む、請求項
19に記載のペプチドアレイ。
【請求項21】
トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、
ペプチドをコードする第1のコード配列と、
前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、
前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸。
【請求項22】
5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第3のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
21に記載の核酸。
【請求項23】
5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
21に記載の核酸。
【請求項24】
前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
21に記載の核酸。
【請求項25】
トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、
ペプチドをコードする第1のコード配列と、
前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、
前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸。
【請求項26】
5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
25に記載の核酸。
【請求項27】
5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
25に記載の核酸。
【請求項28】
前記核酸は、さらに、前記第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含み、
前記プロテアーゼは、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有する、
請求項
25~
27のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項29】
請求項
21~
28のいずれか一項に記載の核酸が固定化された固相担体。
【請求項30】
下記(a)~(d)を含む、ペプチド-核酸複合体の作製キット。
(a)任意のペプチドをコードする第1のコード配列若しくは前記第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトと、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む核酸
(b)前記(a)の核酸における、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列を含む領域を増幅可能なプライマーセットであって、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方に、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフが付加されている、プライマーセット
(c)核酸増幅試薬
(d)無細胞タンパク質合成反応液
【請求項31】
前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第3のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
30に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
【請求項32】
前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
30に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
【請求項33】
前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
30に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
【請求項34】
下記(a)~(d)を含む、ペプチド-核酸複合体の作製キット。
(a)任意のペプチドをコードする第1のコード配列若しくは前記第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトと、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む核酸
(b)前記(a)の核酸における、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列を含む領域を増幅可能なプライマーセットであって、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方に、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフが付加されている、プライマーセット
(c)核酸増幅試薬
(d)無細胞タンパク質合成反応液
【請求項35】
前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、請求項
34に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
【請求項36】
前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイトが、この順で、配置されている、請求項
34に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
【請求項37】
前記(a)の核酸は、さらに、前記第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含み、
前記プロテアーゼは、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有する、
請求項
34~
36のいずれか一項に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド-核酸複合体に関する。さらに、ペプチド-核酸複合体を固定化した固定化担体、及び前記固定化担体を含む反応槽を備えたペプチドアレイに関する。また、ペプチド-核酸複合体の製造方法、前記製造方法に使用可能な核酸、及びキットに関する。
本願は、2018年11月7日に、日本に出願された特願2018-209874号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
新規機能性ペプチドは、医薬品、洗剤、食品加工、研究開発用試薬、臨床分析、さらにはバイオエネルギー、バイオセンサーなど様々なバイオ応用分野への貢献が期待されている。
【0003】
新規機能性ペプチドの取得に際しては、ペプチドの構造情報から人知によりデザインするペプチド工学的手法が主流であった。しかし、より有用なペプチドを取得するためには従来手法よりも効率的にスクリーニングする必要があり、ペプチドのランダムな分子構造改変と淘汰を繰り返す進化分子工学的手法が期待されている。
【0004】
進化分子工学的手法の一つであるcDNAディスプレイ法は、遺伝子型-表現型の対応付けの方法であり、核酸リンカーが、ペプチド(表現型)と、これをコードするmRNAと、逆転写したcDNA(遺伝子型)と、を結ぶものである。mRNA/cDNA-ペプチド連結体構造は、非常に安定であるため、該核酸リンカーを用いることにより、様々な環境下でスクリーニングを実施することが可能となった。
【0005】
ペプチドとこれをコードするポリヌクレオチドとを連結する方法としては、ピューロマイシンリンカーを用いる方法が知られている(特許文献1参照)。ピューロマイシンは、アミノアシル-tRNAの3’末端と類似する構造を有するペプチド合成阻害剤であり、所定の条件下ではリボソーム上で伸長中のペプチドのC末端に特異的に共有結合する。
【0006】
ピューロマイシンリンカーを用いてmRNA/cDNA-リンカー-ペプチド複合体のライブラリーを構築し、有用タンパク質をスクリーニングする方法は、以下の一連の工程を有する。
先ず、ピューロマイシンを有するリンカーとmRNAとを連結させ、無細胞翻訳系を用いてmRNAからペプチドを合成し、合成されたペプチドとこれをコードするmRNAとがピューロマイシンを介して結合している複合体(mRNA-リンカー-ペプチド複合体)が生じる(非特許文献1参照)。
次いで、このmRNA-リンカー-ペプチド複合体のライブラリーを製造した後、製造したmRNA-リンカー-ペプチド複合体を逆転写酵素により逆転写し、cDNAを合成することにより、mRNA/cDNA-リンカー-ペプチド複合体のライブラリーを製造する。
次いで、このmRNA/cDNA-リンカー-ペプチド複合体のライブラリーを用いて、所望の機能をもつペプチドを選択し、選択したmRNA/cDNA-リンカー-ペプチド複合体中のcDNAの塩基配列を解析することによりペプチドを同定する(非特許文献2参照)。
【0007】
上記mRNA/cDNA-リンカー-ペプチド複合体のライブラリーを基板上に固定したペプチドアレイは、網羅的解析により、短期間で機能性タンパク質又は機能性ペプチドを取得するためのツールとして重要である。
【0008】
また、cDNA-ペプチド複合体を作製する方法としては、ベンジルグアニン修飾DNAからSNAPタグ融合ペプチドを無細胞合成することで、ベンジルグアニンとSNAPタグとの共有結合を介して、cDNAとペプチドとを結合させる方法も知られている(非特許文献3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Nemoto N et al., In vitro virus: bonding of mRNA bearing puromycin at the 3'-terminal end to the C-terminal end of its encoded protein on the ribosome in vitro. FEBS Lett. 1997 Sep 8;414(2):405-8.
【文献】Yamaguchi J et al., cDNA display: a novel screening method for functional disulfide-rich peptides by solid-phase synthesis and stabilization of mRNA-protein fusions. Nucleic Acids Res. 2009 Sep;37(16):e108.
【文献】Diamante L et al., In vitro affinity screening of protein and peptide binders by megavalent bead surface display. Protein Eng Des Sel. 2013Oct;26(10):713-24.
【文献】Mankowska SA et al., A Shorter Route to Antibody Binders via Quantitative in vitro Bead-Display Screening and Consensus Analysis. Sci Rep. 2016 Nov 7;6:36391.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ピューロマイシンリンカーを用いる方法では、ピューロマイシンリンカーの調製が煩雑であるという問題がある。
また、ベンジルグアニン修飾DNAを用いる方法では、20kDaのSNAPタグを介してタンパク質にDNAを連結するため、提示されたタンパク質の立体構造や機能が損なわれる恐れがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ペプチド-核酸複合体を製造する新規な製造方法、当該製造方法により製造されるペプチド-核酸複合体、並びに当該製造方法に使用可能な核酸、及びキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]ペプチドと、前記ペプチドをコードする核酸と、を含むペプチド-核酸複合体の製造方法であって、(A1)トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、前記ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を準備する工程と、(B1)前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された前記核酸から、無細胞タンパク質合成系を用いて、前記ペプチドのドメインと、前記トランスペプチダーゼのドメインと、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフとを含むキメラタンパク質を合成する工程と、(C1)前記トランスペプチダーゼドメインによるペプチド転移反応により、前記ペプチド-核酸複合体を形成させる工程と、を含む、ペプチド-核酸複合体の製造方法。
[2]前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第3のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、[1]に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
[3]前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、[1]に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
[4]前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、[1]に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
[5]前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸が、固相担体に固定化されている、[1]~[4]のいずれか一つに記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
[6]ペプチドと、前記ペプチドをコードする核酸と、を含むペプチド-核酸複合体の製造方法であって、(A2)トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、前記ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を準備する工程と、(B2)前記トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された前記核酸から、無細胞タンパク質合成系を用いて、前記ペプチドのドメインと、前記トランスペプチダーゼのドメインと、前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとを含むキメラタンパク質を合成する工程と、(C2)前記トランスペプチダーゼドメインによるペプチド転移反応により、前記ペプチド-核酸複合体を形成させる工程と、を含む、ペプチド-核酸複合体の製造方法。
[7]前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、[6]に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
[8]前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列が、この順で、配置されている、[6]に記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
[9]前記核酸が、さらに、前記第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含み、前記プロテアーゼは、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有しており、前記工程(B2)の後、且つ前記工程(C2)の前に、さらに、(D2)前記プロテアーゼを用いて、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する工程、を含む、[6]~[8]のいずれか一つに記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
[10]前記トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸が、固相担体に固定化されている、[6]~[9]のいずれか一つに記載のペプチド-核酸複合体の製造方法。
[11](a)ペプチドと、(b)前記ペプチドのコード配列を含む核酸と、(c)トランスペプチダーゼによるペプチド転移反応により、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフとN末端基質モチーフとが、結合して生じる配列と、を含み、前記(c)の配列が、前記(a)のペプチドと前記(b)の核酸との間に位置する、前記ペプチド-核酸複合体。
[12]前記(b)の核酸が、前記(a)のペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフ又は前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、[11]に記載の核酸-ペプチド複合体。
[13]前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする配列であり、前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第3のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、[12]に記載の核酸-ペプチド複合体。
[14]前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする配列であり、前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、[12]に記載の核酸-ペプチド複合体。
[15]前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする配列であり、前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、[12]に記載の核酸-ペプチド複合体。
[16]前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフをコードする配列であり、前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、[12]に記載の核酸-ペプチド複合体。
[17]前記第3のコード配列が、前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフをコードする配列であり、前記(b)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列が、この順で、配置されている、[12]に記載の核酸-ペプチド複合体。
[18]前記(b)の核酸が、前記第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列をさらに含み、前記プロテアーゼは、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有している、[16]又は[17]に記載の核酸-ペプチド複合体。
[19][11]~[18]のいずれか一つに記載のペプチド-核酸複合体が固定化された固相担体。
[20][19]に記載の固相担体を含む反応槽を備えた、ペプチドアレイ。
[21]前記反応槽1個当たり、1種類の前記ペプチド-核酸複合体を含む、[20]に記載のペプチドアレイ。
[22]トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸。
[23]5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第3のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、[22]に記載の核酸。
[24]5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、[22]に記載の核酸。
[25]前記核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、[22]に記載の核酸。
[26]トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸。
[27]5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、[26]に記載の核酸。
[28]5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列が、この順で、配置されている、[26]に記載の核酸。
[29]前記核酸は、さらに、前記第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含み、前記プロテアーゼは、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有する、[26]~[28]のいずれか一つに記載の核酸。
[30][22]~[29]のいずれか一つに記載の核酸が固定化された固相担体。
[31]下記(a)~(d)を含む、ペプチド-核酸複合体の作製キット。
(a)任意のペプチドをコードする第1のコード配列若しくは前記第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトと、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む核酸
(b)前記(a)の核酸における、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列を含む領域を増幅可能なプライマーセットであって、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方に、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフが付加されている、プライマーセット
(c)核酸増幅試薬
(d)無細胞タンパク質合成反応液
[32]前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第3のコード配列、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、[31]に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
[33]前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、[31]に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
[34]前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置されている、[31]に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
[35]下記(a)~(d)を含む、ペプチド-核酸複合体の作製キット。
(a)任意のペプチドをコードする第1のコード配列若しくは前記第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトと、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む核酸
(b)前記(a)の核酸における、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列を含む領域を増幅可能なプライマーセットであって、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方に、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加されている、プライマーセット
(c)核酸増幅試薬
(d)無細胞タンパク質合成反応液
[36]前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、及び前記第2のコード配列が、この順で、配置されている、[35]に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
[37]前記(a)の核酸において、5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイトが、この順で、配置されている、[35]に記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
[38]前記(a)の核酸は、さらに、前記第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含み、前記プロテアーゼは、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有する、[35]~[37]のいずれか一つに記載のペプチド-核酸複合体の作製キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ペプチド-核酸複合体を製造する新規な製造方法、当該製造方法により製造されるペプチド-核酸複合体、並びに当該製造方法に使用可能な核酸、及びキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本発明の第1実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(A1)の一例を説明する図である。トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸の一例を示す。
【
図1B】本発明の第1実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(B1)の一例を説明する図である。
【
図1C】本発明の第1実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(C1)の一例を説明する図である。
【
図2A】本発明の第2実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(A1)の一例を説明する図である。トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸の一例を示す。
【
図2B】本発明の第2実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(B1)の一例を説明する図である。
【
図2C】本発明の第2実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(C1)の一例を説明する図である。
【
図3A】本発明の第3実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(A1)の一例を説明する図である。トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸の一例を示す。
【
図3B】本発明の第3実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(B1)の一例を説明する図である。
【
図3C】本発明の第3実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(C1)の一例を説明する図である。
【
図4A】本発明の第4実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(A2)の一例を説明する図である。トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸の一例を示す。
【
図4B】本発明の第4実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(B2)の一例を説明する図である。
【
図4C】本発明の第4実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(C2)の一例を説明する図である。
【
図5A】本発明の第5実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(A2)の一例を説明する図である。トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸の一例を示す。
【
図5B】本発明の第5実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(B2)の一例を説明する図である。
【
図5C】本発明の第5実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(C2)の一例を説明する図である。
【
図6A】本発明の第4実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(D2)の一例を説明する図である。
【
図6B】本発明の第5実施形態にかかるペプチド-核酸複合体の製造方法における工程(D2)の一例を説明する図である。
【
図7】合成例1で合成したペンタグリシンが付加されたDNAプライマーのポリアクリルアミド電気泳動の写真である。
【
図8】合成例2でPCRに用いた鋳型DNAの構造を示す。
【
図9】実験例2で無細胞タンパク質翻訳を行った、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズのポリリン酸キナーゼ活性の測定結果を示す。
【
図10】実験例6で、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズの抗体染色を行った結果を示す。
【
図11】実験例6で、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズの抗体染色を行った結果を示す、蛍光顕微鏡写真である。
【
図12A】実施例で作製したペプチドアレイの蛍光顕微鏡写真を示す。
【
図12B】実施例で作製したペプチドアレイの各ウェルの蛍光強度の推移を示す。
【
図13】実験例9で、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズによるプロテインキナーゼA(PKA)活性の阻害効果を測定した結果を示す。
【
図14A】実験例14で、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズに、蛍光標識細胞外小胞を反応させて、蛍光顕微鏡観察した結果を示す。
【
図14B】実験例14で、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズに、蛍光標識細胞外小胞を反応させて、蛍光強度を検出した結果を示す。
【
図15】エマルションPCR及びエマルション無細胞タンパク質翻訳後に、実験例18で、ポリリン酸キナーゼ活性を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[定義]
本明細書において、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、相互に互換的に使用され、ヌクレオチドがホスホジエステル結合によって結合したヌクレオチドポリマーを意味する。「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、DNAとRNAとの組み合わせから構成されてもよい。また、「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、天然ヌクレオチドのポリマーであってもよく、天然ヌクレオチドと非天然ヌクレオチド(天然ヌクレオチドの類似体、塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの部分が修飾されているヌクレオチド(例えば、ホスホロチエート骨格)等)とのポリマーであってもよく、非天然ヌクレオチドのポリマーであってもよい。
本明細書において、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」の塩基配列は、特に明示しない限り、一般的に認められている1文字コードで記載される。本明細書において、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」の塩基配列は、特に明示しない限り、5’側から3’側に向かって記載される。
本明細書において、「ポリヌクレオチド」又は「核酸」を構成するヌクレオチド残基は、単に、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、又はウラシル等と記載されるか、あるいはそれらの1文字コードで記載される場合がある。
【0016】
本明細書において、「遺伝子」という用語は、特定のタンパク質をコードする少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを意味する。遺伝子は、エクソン及びイントロンの両方を含み得る。
【0017】
本明細書において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、相互に互換的に使用され、アミド結合によって結合したアミノ酸のポリマーを意味する。「ポリペプチド」、「ペプチド」又は「タンパク質」は、天然アミノ酸のポリマーであってもよく、天然アミノ酸と非天然アミノ酸(天然アミノ酸の化学的類似体、修飾誘導体等)とのポリマーであってもよく、非天然アミノ酸のポリマーであってもよい。
本明細書において、「ポリペプチド」、「ペプチド」又は「タンパク質」のアミノ酸配列は、特に明示しない限り、一般的に認められている1文字コード又は3文字コードで記載される。本明細書において、「ポリペプチド」、「ペプチド」又は「タンパク質」のアミノ酸配列は、特に明示しない限り、N末端側からC末端側に向かって記載される。
【0018】
本明細書において、アミノ酸配列における置換変異を表す場合、元のアミノ酸の一文字表記、続いて1~4桁の数字による位置番号、次に置換されたアミノ酸の一文字表記により表現することがある。例えば、アミノ酸番号94位においてプロリン(P)がセリン(S)に置換される変異が生じている場合、「P94S」と表され、これは、「アミノ酸番号94位のProのSerへの置換」と同義である。
【0019】
本明細書において、「トランスペプチダーゼ」という用語は、ペプチド結合の切断を触媒し、直接又は複数の反応中間体を経て、新規のペプチド結合を形成することができる酵素を意味する。トランスペプチダーゼは、特定のアミノ酸配列を有するトランスペプチダーゼ認識モチーフを認識し、トランスペプチダーゼ認識モチーフ内のペプチド結合を切断し、前記切断後のトランスペプチダーゼ認識モチーフのC末端と、特定のアミノ酸配列を有するトランスペプチダーゼN末端基質モチーフのN末端との間で新たなペプチド結合を形成する触媒活性を有する。トランスペプチダーゼの好ましい例としては、ソルターゼ又はブテラーゼが挙げられる。
【0020】
本明細書において、「ソルターゼ」という用語は、トランスペプチダーゼ活性を有する原核生物の一群の酵素群及びその改変体を意味する。ソルターゼは、特定のアミノ酸配列を有するソルターゼ認識モチーフを認識し、ソルターゼ認識モチーフ内のペプチド結合を切断し、前記切断後のソルターゼ認識モチーフのC末端と、特定のアミノ酸配列を有するソルターゼN末端基質モチーフのN末端との間で新たなペプチド結合を形成する触媒活性を有する。
「ソルターゼ」として同定される酵素は、様々なグラム陽性菌から単離されている。天然には、これらの酵素は、細胞壁ソーティング反応を触媒する。細胞壁ソーティング反応では、ソルターゼ認識モチーフを有する表面タンパク質が切断され、タンパク質のC末端が、ペプチドグリカンのペンタグリシン架橋に共有結合される。ソルターゼを有するグラム陽性菌としては、アクチノマイセス(Actinomyces)属、バチルス(Bacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、セルロモナス(Cellulomonas)属、クロストリジウム(Clostridium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、及びストレプトミセス(Streptomyces)属等に属する細菌が挙げられる。ソルターゼは、グラム陽性菌ゲノム由来の61のソルターゼの配列アラインメント及び系統樹解析に基づいて、A、B、C、及びDと称する4クラスに分類されている(Dramsi S,Trieu-Cuot P,Bierne H,Sorting sortases:a nomenclature proposal for the various sortases of Gram-positive bacteria.Res Microbiol.156(3):289-97,2005)。これらのクラスは、ソルターゼが、Comfort及びClubb(Comfort D,Clubb RT.A comparative genome analysis identifies distinct sorting pathways in gram-positive bacteria.Infect Immun. 72(5):2710-22,2004)によっても分類された以下のサブファミリー:クラスA(サブファミリー1)、クラスB(サブファミリー2)、クラスC(サブファミリー3)、クラスD(サブファミリー4及び5)に対応する。前述した参照文献は、多数のソルターゼ及び認識モチーフを開示している。
【0021】
本明細書において、「ブテラーゼ」という用語は、トランスペプチダーゼ活性を有する、クリトリア・テルナテア(Clitoria ternatea)から単離された酵素(Nguyen GK et al., Nat Protoc. 2016 Oct;11(10):1977-1988、特表2017-515468号公報)、及びそのホモログ(オーソログ及びパラログを含む)、並びにそれらの改変体を意味する。
【0022】
本明細書において、「トランスペプチダーゼ認識モチーフ」という用語は、トランスペプチダーゼにより認識される特定のアミノ酸配列を有する領域を意味する。トランスペプチダーゼ認識モチーフは、トランスペプチダーゼにより認識されてモチーフ内のペプチド結合が切断される。トランスペプチダーゼ認識モチーフは、トランスペプチダーゼの種類により異なったものであり得る。本明細書において、ソルターゼのトランスペプチダーゼ認識モチーフは、ソルターゼ認識モチーフとも記載する。本明細書において、ブテラーゼのトランスペプチダーゼ認識モチーフは、ブテラーゼ認識モチーフとも記載する。
【0023】
本明細書において、「トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ」という用語は、ペプチドのN末端に位置し、トランスペプチダーゼによるペプチド転移反応に供される特定のアミノ酸配列を有するN末端領域を意味する。トランスペプチダーゼN末端基質モチーフを有するペプチドは、トランスペプチダーゼの触媒作用により、トランスペプチダーゼによる切断後のトランスペプチダーゼ認識モチーフのC末端に結合される。
【0024】
本明細書において、「5’末端に隣接する」又は「3’末端に隣接する」という用語は、ある塩基配列の5’末端又は3’末端に、他のヌクレオチド残基を介することなく、対象の塩基配列が連結されていることを意味する。すなわち、「配列Aの5’末端に配列Bが隣接する」場合、配列Aの5’末端と配列Bの3’末端とが、他の配列を介することなく、直接連結されている。同様に、本明細書において、「N末端に隣接する」又は「C末端に隣接する」という用語は、あるアミノ酸配列のN末端又はC末端に、他のアミノ酸残基を介することなく、対象のアミノ酸配列が連結されていることを意味する。
【0025】
本明細書において、「5’側に位置する」又は「3’側に位置する」という用語は、ある塩基配列の5’側又は3’側に、他のヌクレオチド残基を介して又は他のヌクレオチド残基を介することなく、対象の塩基配列が配置されていることを意味する。すなわち、「配列Aの5’側に配列Bが位置する」場合、5’側から3’側に向かって、配列B、配列Aの順に配置されており、配列Aと配列Bとの間に、他のヌクレオチド残基が介在していてもよく、介在していなくてもよい。配列Aと配列Bとの間に、他のヌクレオチド残基がする場合、当該介在するヌクレオチド残基の数及び種類は限定されず、例えば、スペーサーコード配列、タンパク質コード配列、他のORF等が介在していてもよい。同様に、本明細書において、「N末端側に位置する」又は「C末端側に位置する」という用語は、あるアミノ酸配列のN末端側又はC末端側に、他のアミノ酸残基を介して又は他のアミノ酸残基を介することなく、対象のアミノ酸配列が配置されていることを意味する。
【0026】
本明細書において、ポリヌクレオチド又は核酸に関して用いる「機能的に連結」という用語は、第一の塩基配列が第二の塩基配列に十分に近くに配置され、第一の塩基配列が第二の塩基配列又は第二の塩基配列の制御下の領域に影響を及ぼしうることを意味する。例えば、ポリヌクレオチド又は核酸がプロモーターに機能的に連結するとは、当該ポリヌクレオチド又は核酸が、当該プロモーターの制御下で発現するように連結されていることを意味する。
【0027】
本明細書において、ポリペプチド又は核酸に関して用いる「タンパク質を発現し得る」という用語は、ポリヌクレオチド又は核酸に、無細胞タンパク質合成系を適用した場合に、該ポリヌクレオチド又は核酸から該タンパク質が合成され得る状態にあることを意味する。
【0028】
本明細書において、「サイレント変異」という用語は、コードするタンパク質のアミノ酸配列が変化しない遺伝子変異を指す。
【0029】
本明細書において、アミノ酸配列どうしの配列同一性(又は相同性)は、2つのアミノ酸配列を、対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くアミノ酸配列全体に対する一致したアミノ酸の割合として求められる。アミノ酸配列どうしの配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。例えば、アミノ酸配列の配列同一性の値は、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTPにより得られたアライメントを元にした計算によって得ることができる。
【0030】
本明細書において、「キメラタンパク質」という用語は、由来が異なる2種以上のペプチドを含むタンパク質を意味する。
【0031】
本明細書において、「プライマーセット」という用語は、核酸増幅反応において、目的の核酸を増幅するために用いられる1組のプライマーを意味する。核酸増幅反応がPCRにより行われる場合、プライマーセットには、フォワードプライマー及びリバースプライマーが含まれる。「フォワードプライマー」とは、鋳型核酸のアンチセンス鎖にアニーリングするプライマーを意味し、「リバースプライマー」とは、鋳型核酸のセンス鎖にアニーリングするプライマーを意味する。
【0032】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0033】
<ペプチド-核酸複合体の製造方法>
≪第1の態様≫
一実施形態において、本発明は、ペプチドと、前記ペプチドをコードする核酸と、を含むペプチド-核酸複合体の製造方法を提供する。前記製造方法は、(A1)トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、前記ペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を準備する工程と、(B1)前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された前記核酸から、無細胞タンパク質合成系を用いて、前記ペプチドのドメインと、前記トランスペプチダーゼのドメインと、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフとを含むキメラタンパク質を合成する工程と、(C1)前記キメラタンパク質の前記トランスペプチダーゼドメインによるペプチド転移反応により、前記ペプチド-核酸複合体を形成させる工程と、を含む。
【0034】
〔第1実施形態〕
図1A~
図1Cに基づき、本態様にかかる製造方法の第1実施形態の概略を説明する。
まず、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加された核酸100(以下、「NS付加核酸100」という場合がある。)を準備する(
図1A;工程(A1))。NS付加核酸100は、任意のペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む。NS付加核酸100では、5’側から3’側に向かって、第1のコード配列、第3のコード配列、及び第2のコード配列が、この順で、配置されている。また、NS付加核酸100において、これらのコード配列は、前記第1のコード配列から翻訳される前記ペプチドのドメインと、第2のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼのドメインと、第3のコード配列から翻訳される前記トランスペプチダーゼ認識モチーフと、を含むキメラタンパク質を発現し得るように配置されている。
次に、NS付加核酸100から、無細胞タンパク質合成系を用いて、キメラタンパク質101を合成する(
図1B;工程(B1))。キメラタンパク質101は、ペプチド10のドメイン、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22、及びトランスペプチダーゼ20のドメインを含んでいる。キメラタンパク質101において、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、ペプチド10のドメインのC末端側に位置している。キメラタンパク質101では、N末端側からC末端側に向かって、ペプチド10、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22、及びトランスペプチダーゼ20が、この順で配置されている。
次に、キメラタンパク質101のトランスペプチダーゼ20のドメインによるペプチド転移反応により、前記ペプチド-核酸複合体102を形成させる(
図1C;工程(C1))。このようにして、ペプチド-核酸複合体を製造することができる。
以下、本実施形態の製造方法の各工程について説明する。
【0035】
[工程(A1)]
工程(A1)は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、前記ペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を準備する工程である。
【0036】
(トランスペプチダーゼ)
トランスペプチダーゼは、特に限定されないが、ソルターゼが好ましい。ソルターゼは、ソルターゼ認識モチーフを認識して切断し、前記切断後のソルターゼ認識モチーフのC末端に、ソルターゼN末端基質モチーフのN末端を結合し得るものであれば、特に制限なく使用することができる。公知のソルターゼとしては、ソルターゼA、ソルターゼB、ソルターゼC、及びソルターゼDが知られている。本実施形態の製造方法では、これらのいずれのソルターゼも用いることができる。これらのソルターゼの塩基配列及びアミノ酸配列は、GenBank等の公知のデータベースから入手可能である。
ソルターゼのN末端基質モチーフとしては、例えば、1個以上のグリシン((G)n)又はアラニン((A)n)(nは1以上の整数)が挙げられる。中でも、ソルターゼのN末端基質モチーフは、1個以上のグリシンが好ましい。N末端基質モチーフにおけるグリシン残基の数は、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~6又は1~5がさらに好ましい。
【0037】
ソルターゼAは、例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)又は化膿レンサ球菌(S.pyrogenes)由来のものであってもよい。例えば、黄色ブドウ球菌のソルターゼAの配列は、NCBI RefSeq Acc.No.NP_187332.1;GenBank Acc.No.AAD48437から入手可能である。
ソルターゼAの認識モチーフとしては、例えば、XAPXBXC又はXAPXBXCGのアミノ酸配列を含むものであり得る。前記において、XAは、ロイシン、イソロイシン、バリン若しくはメチオニンであり;XBは、任意のアミノ酸であり;XCは、トレオニン、セリン若しくはアラニンであり;Pは、プロリンであり;Gは、グリシンである。好ましい態様において、XAは、ロイシンであり;XCは、トレオニンであり;XBは、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、アラニン、グルタミン、リシン又はメチオニンであり得る。例えば、ソルターゼAの認識モチーフの具体例としては、LPXTG(配列番号1)(LPATG(配列番号2)、LPNTG(配列番号3)など)、LPXAG(配列番号4)(LPNAG(配列番号5)など)、LPXTA(配列番号6)(LPNTA(配列番号7)など)、LGXTG(配列番号8)(LGATG(配列番号9)など)、IPXTG(配列番号10)(IPNTG(配列番号11)、IPETG(配列番号12)など)(Xは任意のアミノ酸を表す。)等が挙げられる。これらの中でも、ソルターゼAの認識モチーフとしては、LPXTG(配列番号1)が好ましい。
【0038】
ソルターゼAは、野生型のタンパク質に制限されず、トランスペプチダーゼ活性を有する限り、改変体であってもよい。例えば、黄色ブドウ球菌のソルターゼAの改変体は、120位にHis、184位にCys、及び197位にArgを含み、認識モチーフは、TLXTC(配列番号13)であってもよい。ソルターゼAの改変体は、野生型ソルターゼA又はその触媒ドメインのアミノ酸配列に対して、80%以上(例えば、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つトランスペプチダーゼ活性を有するものであってもよい。あるいは、ソルターゼAの改変体は、野生型ソルターゼAのアミノ酸配列において、1個又は複数個(例えば、2~15個:2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、若しくは15個)のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つトランスペプチダーゼ活性を有するものであってもよい。
例えば、黄色ブドウ球菌の野生型ソルターゼAと比較して、LPETG(配列番号14)モチーフへの結合活性が最大140倍増大した黄色ブドウ球菌のソルターゼAの改変体が見出されており(Chen, I., et al., PNAS 108(28):11399-11404,2011)、そのようなソルターゼAを用いてもよい。例えば、ソルターゼAの改変体は、黄色ブドウ球菌の野生型ソルターゼAに対して、P94S若しくはP94R、E106G、F122Y、K154R、D160N、D165A、G174S、K190E、及びK196Tからなる群より選択される少なくとも1個の変異を有するものであってもよい。中でも、P94S若しくはP94R、D160N、D165A、G174S、及びK196Tからなる群より選択される少なくとも1個の変異を有するものが好ましく、前記の全ての変異を有するものがより好ましい。
【0039】
また、ソルターゼAは、認識モチーフが改変されたものであってもよい。例えば、Piotukhら(J Am Chem Soc. 2011 Nov 9; 133(44): 17536-9)には、認識モチーフがXPXTG(配列番号15)であるソルターゼAの改変体が記載されている。Dorrら(Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Sep 16; 111(37): 13343-8.)には、認識モチーフがLAXTG(配列番号16)又はLPXSG(配列番号17)であるソルターゼAの改変体が記載されている。本実施形態の製造方法で用いるトランスペプチダーゼは、これらのソルターゼAの改変体であってもよい。
【0040】
ソルターゼBは、例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、炭疽菌(B.anthracis)、又はリステリア・モノサイトゲネス(L.monocytogenes)由来のものであってもよい。
ソルターゼBの認識モチーフは、NPXATXBのアミノ酸配列を含むものであり得る。前記において、XAは、グルタミン又はリシンであり;XBは、アスパラギン又はグリシンであり;Nは、アスパラギンであり;Pは、プロリンであり;Tは、トレオニンである。ソルターゼBの認識モチーフの具体例としては、例えば、NPQTN(配列番号18)、NPKTG(配列番号19)、NSKTA(配列番号20)、NPQTG(配列番号21)、NAKTN(配列番号22)、及びNPQSS(配列番号23)等が挙げられる。
【0041】
ソルターゼCは、認識モチーフとしてLPXTG(配列番号1)を使用し得る。ソルターゼCは、共通配列NA-[E/A/S/H]-TG(配列番号24)を有するモチーフを認識すると推定される(Comfort D and Clubb RT. Infect Immun.,72(5):2710-22,2004)。
【0042】
ソルターゼDは、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、トロフェリマ・ウィッペリ(Tropheryma whipplei)、サーモビフィダ・フスカ(Thermobifidafusca)、及びビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longhum)等に由来するものであってもよい。ソルターゼDの認識モチーフとしては、LPXTA(配列番号6)又はLAXTG(配列番号16)が挙げられる。
【0043】
QVPTGV(配列番号25)の認識モチーフを有するソルターゼについては、Barnett及びScott(Barnett, TC and Scott, JR, Journal of Bacteriology, Vol. 184, No.8, p.2181-2191, 2002)に記載されている。
【0044】
ソルターゼは、グラム陰性菌、例えば、コルウェリア・サイクレリスラエ(Colwellia psychrerythraea)、ミクロブルビファー・デグラダンス(Microbulbifer degradans)、ブラディリゾビウム・ジャポニカム(Bradyrhizobium japonicum)、シェワネラ・オネイデンシス(Shewanella oneidensis)、及びシュワネラ・プトレファシエンス(Shewanella putrefaciens)等のソルターゼであってもよい。これらは、LP[Q/K]T[A/S]Tの認識モチーフを有し得る。
また、ソルターゼは、古細菌(Archea)(例えば、メタン生成菌(Methanobacterium thermoautotrophicum))由来のものであってもよい。
【0045】
トランスペプチダーゼは、ブテラーゼであってもよい。ブテラーゼは、ブテラーゼ認識モチーフを認識して切断し、前記切断後のブテラーゼ認識モチーフのC末端に、ブテラーゼN末端基質モチーフのN末端を結合し得るものであれば、特に制限なく使用することができる。公知のブテラーゼとしては、ブテラーゼ1(Nguyen GK et al., Nat Protoc. 2016 Oct;11(10):1977-1988、特表2017-515468号公報)が知られている。ブテラーゼ1の配列は、GenBank Acc.No.KF918345から入手可能である。
ブテラーゼのN末端基質モチーフとしては、例えば、XEXFが挙げられる。前記において、XEは、任意のアミノ酸であり;XFは、ロイシン、イソロイシン、バリン若しくはシステインである。ブテラーゼの認識モチーフは、例えば、XDHVのアミノ酸配列を含むものであり得る。前記において、XDは、アスパラギン若しくはアスパラギン酸であり;Hは、ヒスチジンであり;Vは、バリンである。
ブテラーゼは、野生型のタンパク質に制限されず、トランスペプチダーゼ活性を有する限り、改変体であってもよい。ブテラーゼの改変体は、野生型ブテラーゼ又はその触媒ドメインのアミノ酸配列に対して、80%以上(例えば、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つトランスペプチダーゼ活性を有するものであってもよい。あるいは、ブテラーゼの改変体は、野生型ブテラーゼのアミノ酸配列において、1個又は複数個(例えば、2~15個:2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、若しくは15個)のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つトランスペプチダーゼ活性を有するものであってもよい。
【0046】
これらの中でも、トランスペプチダーゼは、ソルターゼ又はブテラーゼが好ましく、ソルターゼA(野生型及び改変型を包含する)又はブテラーゼ1(野生型及び改変型を包含する)がより好ましく、ソルターゼAがさらに好ましい。
【0047】
(トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸:NS付加核酸)
NS付加核酸は、5’末端及び3’末端のいずれか一方に、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸である。
図1Aに示すNS付加核酸100では、核酸30aの5’末端に、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加されている。
図1Aにおいて、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21は、(X
1)
n(nは1以上)のアミノ酸配列を有するペプチドとして例示されている。トランスペプチダーゼがソルターゼである場合、前記X
1は、グリシン又はアラニンであることが好ましく、グリシンであることがより好ましい。トランスペプチダーゼがブテラーゼ1である場合、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21は、X
EX
F(X
Eは、任意のアミノ酸であり、X
Fは、ロイシン、イソロイシン、バリン若しくはシステインである)で表されてもよい。
【0048】
NS付加核酸100は、任意のペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む。
【0049】
第1のコード配列がコードするペプチドは、特に限定されず、任意のペプチドであってよい。ペプチドとしては、例えば、生理活性ペプチド及び機能性ペプチド等が挙げられるが、これらに限定されない。生理活性ペプチド及び機能性ペプチドとしては、例えば、酵素、酵素阻害分子、酵素活性化分子、ホルモン、レセプター、サイトカイン、抗体、抗原、アプタマー、蛍光タンパク質、アジュバント、毒素、リガンド、接着性ペプチド、キレート形成性ペプチド、膜透過性ペプチド、ドミナントネガティブペプチド、及び抗菌性ペプチド等が挙げられるが、これらに限定されない。第1のコード配列は、目的のペプチド10をコードするものであればよく、野生型遺伝子であってもよく、改変型遺伝子であってもよく、サイレント変異を有するものであってもよい。
第1のコード配列は、DNAライブラリー等の複数種類のDNAの混合物由来のものであってもよい。第1のコード配列は、例えば、変異DNAライブラリー由来のものであり得る。変異DNAライブラリーとしては、Error-prone PCR(エラープローンPCR)を利用したライブラリー、Gene assembly mutagenesisを利用したライブラリー、Random insertion and deletion mutagenesisを利用したライブラリー、DNA shufflingを利用したライブラリー、Family shufflingを利用したライブラリー、Staggered Extension Process in vitro recombinationを利用したライブラリー、ITCHY Hybrid protein libraries、SCRATCHY Hybrid Protein Libraries、Sequence Homology-independent Protein Recombinationを利用したライブラリー、ホスホロアミダイト法による混合塩基合成を利用したライブラリー等が挙げられる。
【0050】
第2のコード配列は、トランスペプチダーゼ20をコードする配列であればよく、野生型遺伝子であってもよく、改変型遺伝子であってもよく、サイレント変異を有するものであってもよい。
第3のコード配列は、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22をコードする配列であればよく、野生型遺伝子であってもよく、改変型遺伝子であってもよく、サイレント変異を有するものであってもよい。
【0051】
NS付加核酸100では、5’側から3’側に向かって、第1のコード配列、第3のコード配列、及び第2のコード配列が、この順で、配置されている(
図1(A)参照)。また、これらの配列は、NS付加核酸100において、第1のコード配列から翻訳されるペプチド10のドメインと、第2のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼ20のドメインと、第3のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼ認識モチーフ22と、を含むキメラタンパク質101であって、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22が、ペプチド10のドメインのC末端側に位置するキメラタンパク質を発現し得るように配置されている(
図1B参照)。すなわち、第1のコード配列と、第3のコード配列と、第2のコード配列とは、1つのORF内で、任意の塩基配列を介して、又は介さないで、5’側から3’側に向かって前記の順でインフレームに連結されている。
【0052】
NS付加核酸100は、第1のコード配列、第2のコード配列及び第3のコード配列に加えて、他の塩基配列を有していてもよい。他の塩基配列としては、例えば、第1のコード配列、第2のコード配列及び第3のコード配列を含むORFの転写及び/又は翻訳を制御する制御配列が挙げられる。そのような制御配列としては、プロモーター、ターミネーター、転写促進配列、翻訳促進配列、シャイン・ダルガノ配列等が挙げられる。制御配列は、後述する工程(B1)で用いる無細胞タンパク質合成系に応じて、前記ORFの転写及び/又は翻訳を制御可能なものを適宜選択することができる。
プロモーターとしては、例えば、T7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーター等が挙げられる。前記ORFは、プロモーターの制御下で発現されるように、プロモーターに機能的に連結されていることが好ましい。
【0053】
NS付加核酸100は、第1のコード配列と第3のコード配列との間、及び第3のコード配列と第2のコード配列との間のいずれか又は両方に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。例えば、第2のコード配列と第3のコード配列との間に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。スペーサーを有することにより、NS付加核酸100から発現されたキメラタンパク質101において、トランスペプチダーゼ20がトランスペプチダーゼ認識モチーフ22に結合しやすくなる。
【0054】
核酸30aに、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21を付加する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加されたプライマーを用いて、PCR法等で、核酸30aを増幅することにより、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加された核酸30a(NS付加核酸100)を得ることができる。
トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21は、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方に付加すればよい。例えば、フォワードプライマーの5’末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21を付加してもよく、リバースプライマーの5’末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21を付加してもよい。
【0055】
プライマーに、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21を付加する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、クリックケミストリ―で用いられる各種方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、Huisgen反応による方法(核酸-アジド及びペプチド-アルキンの組合せを用いてもよく、核酸-アルキン及びペプチド-アジドの組合せを用いてもよい);銅フリーのシクロオクチン、DBCO、又はBARAC等を用いる方法;等が挙げられる。
また、クリックケミストリ―に限定されず、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等を介して、活性化剤及び架橋化剤等により、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21と核酸30aとを結合してもよい。さらに、臭素又ヨウ素を用いた求核置換反応、アルデヒド/ケトンとヒドラジドとの反応、プロペルギルエステルとアミノ基との反応、光架橋反応等を用いてもよい。
【0056】
また、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21の核酸30aへの付加は、核酸30aの末端官能基に、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21を結合する方法で行ってもよい。例えば、PCR法等により、核酸30aを増幅した後、核酸30aの末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21を付加してもよい。トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21を付加する方法は、上記と同様の方法を用いることができる。
【0057】
本工程で準備されるNS付加核酸100は、固相担体に固定化されていてもよい。固相担体としては、特に限定されず、例えば、ビーズ(磁気ビーズ、金ナノ粒子、アガロースビーズ、プラスチックビーズ等)、マイクロウェルプレート等が挙げられる。中でも、回収や任意位置への配置が容易であることから、固相担体としては磁気ビーズが好ましい。
核酸を固相担体に固定化する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、アビジン-ビオチン結合を利用する方法;核酸をアミノ基、ホルミル基、SH基、などの官能基で修飾し、固相担体をアミノ基、ホルミル基、エポキシ基などを有するシランカップリング剤で表面処理したものを利用する方法;金-チオール結合を利用する方法等を用いることができる。中でも、アビジン-ビオチン結合を利用する方法が好適に用いられる。
核酸30aをPCR法により増幅する場合、増幅後の核酸30aが固相担体に固定化されるように、一方のプライマーが固相担体に固定化されたプライマーセットを用いてもよい。例えば、フォワードプライマーの5’末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加されている場合、リバースプライマーの5’末端を固相担体に固定化することができる。あるいは、リバースプライマーの5’末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加されている場合、フォワードプライマーの5’末端を固相担体に固定化することができる。プライマーを固相担体に固定化する方法としては、上記で挙げた方法と同様の方法を用いることができる。
【0058】
(エマルションPCR)
PCRは、エマルションPCRであってもよい。例えば、一方のプライマーがビーズに固定化されたプライマーセットを用いて、PCR法により核酸30aを増幅する場合、エマルションPCRを行うことができる。エマルションPCRは、1分子の鋳型核酸又はプライマーを固定化した1個のビーズをエマルション内に区画化し、エマルション内で、プライマーを用いてPCRを行う手法である。一方のプライマーがビーズに固定化されている場合、1個のビーズごとに1個のエマルション内に区画化し、エマルション内でPCRを行うことにより、ビーズ表面に1種類の核酸を増幅及び固定することができる。また、プライマーがビーズに固定化されていない場合、1分子の鋳型核酸を、1個のエマルション内に区画化し、エマルション内でPCRを行ってもよい。これにより、エマルション内で同一種類の核酸を増幅することができる。
【0059】
エマルションPCRで用いるエマルションの種類は特に限定されないが、調製が容易であること及び以降の操作が簡易になること等の理由から油中水(W/O)型エマルションを用いることが好ましい。エマルションは、常法により調製すればよく、例えば、核酸30a、ビーズに固定化されたプライマーセット、DNAポリメラーゼ等の核酸増幅に必要な試薬を含む水性成分に、油性成分、乳化剤を混合し、撹拌することによりW/O型エマルションを得ることができる。これにより、1分子の核酸30a及び1個のビーズを、1個のエマルション粒子内に区画化することができる。エマルションの調製には、例えば、攪拌処理(磁気攪拌子、プロペラ式などの使用)、ホモジナイズ(ホモジナイザー、乳鉢などの使用)、超音波処理(ソニケーターなどの使用)などを利用できる。
【0060】
エマルション粒子の大きさは特に限定されず、1分子の核酸30a及び1個のビーズを内包できる大きさであればよい。エマルション粒子の平均粒径は、例えば、1μm~100μmが好ましく、5μm~50μmがより好ましく、10μm~30μmが特に好ましい。プライマーがビーズに固定されていない場合、エマルション粒子の平均粒径は、1分子の鋳型核酸を内包できる大きさであればよく、例えば1nm以上、例えば10nm以上、又は例えば50nm以上であることができる。平均粒径の上限は、上記と同様に、例えば100μm以下、例えば50μm以下、又は例えば30μm以下であることができる。
エマルション粒子の数は前記水性成分の体積からエマルション1個の体積を割ることにより算出される。よって、エマルション1個あたり平均1分子以下の鋳型核酸が含まれるようにW/O型エマルションを調製するためには、全体におけるエマルションの数以下の分子数の核酸30aを用意すればよい。
【0061】
エマルションの調製に用いられる乳化剤としては、例えば、ゴールドシュミット社製ABIL(登録商標)WE09、ABIL(登録商標)WS08、ABIL(登録商標)EM90等が挙げられる。エマルションの調製に用いられる油性成分としては、通常、ミネラルオイル(鉱物油)が用いられる。
【0062】
エマルションPCR後は、エマルションを破壊し、NS付加核酸100が固定化されたビーズを回収してもよい。回収後は、適切な洗浄バッファー等を用いて、ビーズを洗浄してもよい。NS付加核酸100がビーズに固定化されていない場合も、同様に、エマルションを破壊し、NS付加核酸100を回収してもよい。
【0063】
本実施形態の製造方法では、1個のビーズにつき、1種類のNS付加核酸100を提示させられることから、ビーズに固定化したプライマーを用いたエマルションPCRにより、NS付加核酸100を準備することが好ましい。
ただし、1個のビーズにつき、1種類のNS付加核酸100を提示させる方法は、エマルションPCRに限定されない。例えば、1分子の核酸30a及び1個のビーズを、1個の反応槽内に区画化し、PCR反応を行う方法を用いてもよい。
【0064】
[工程(B1)]
工程(B1)は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸から、無細胞タンパク質合成系を用いて、前記ペプチドのドメインと、前記トランスペプチダーゼのドメインと、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフとを含むキメラタンパク質を合成する工程である。
【0065】
(キメラタンパク質)
キメラタンパク質101は、核酸30aから転写・翻訳されるタンパク質である。キメラタンパク質101は、ペプチド10のドメインと、トランスペプチダーゼ20のドメインと、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22と、を含んでいる。キメラタンパク質101において、N末端側からC末端側に向かって、ペプチド10のドメイン、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22、及びトランスペプチダーゼ20のドメインは、この順で配置されている。
図1Bにおいて、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、ZX
1(Zはトランスペプチダーゼ認識モチーフにおけるC末端アミノ酸残基を除く配列を示し、X
1はトランスペプチダーゼ認識モチーフにおけるC末端アミノ酸残基を示す。)のアミノ酸配列を有するペプチドとして例示されている。トランスペプチダーゼがソルターゼである場合、前記X
1は、グリシン又はアラニンであることが好ましく、グリシンであることがより好ましい。Zとしては、上記のソルダーゼ認識モチーフとして例示した配列からC末端アミノ酸残基を除いた配列が挙げられ、具体的には、LPXT(配列番号31)(LPAT(配列番号32)、LPNT(配列番号33)など)、LPXA(配列番号34)(LPNA(配列番号35)など)、LPXT(配列番号36)(LPNT(配列番号37)など)、LGXT(配列番号38)(LGAT(配列番号39)など)、IPXT(配列番号40)(IPNT(配列番号41)、IPET(配列番号42)など)(Xは任意のアミノ酸を表す。)等が例示される。トランスペプチダーゼがブテラーゼである場合、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、X
DHV(X
Dは、アスパラギン又はアスパラギン酸であり;Hは、ヒスチジン;Vは、バリンである。)で表されてもよい。
【0066】
(無細胞タンパク質合成系)
キメラタンパク質101は、無細胞タンパク質合成系を用いて、NS付加核酸100から合成される。
無細胞タンパク質合成系とは、生細胞を用いるのではく、生細胞由来の(或いは遺伝子工学的手法で得られた)リボソームや転写・翻訳因子などを用いて、鋳型である核酸(DNAやmRNA)からそれがコードするmRNAやタンパク質をin vitroで合成可能な系である。無細胞タンパク質合成系では、一般的に、細胞破砕液を必要に応じて精製して得られる細胞抽出液が使用される。前記細胞抽出液には、一般的に、タンパク質合成に必要なリボソーム、開始因子などの各種因子、tRNA、RNAポリメラーゼ、アミノアシルtRNA合成酵素などの各種酵素が含まれる。タンパク質の合成を行う際には、前記細胞抽出液に、各種アミノ酸;ATP、GTPなどのエネルギー源;クレアチンリン酸などのタンパク質合成に必要なその他の物質を添加する。また、別途用意したリボソーム、各種因子、及び/又は各種酵素などを必要に応じて補充してもよい。
広く利用されている無細胞タンパク質合成系としては、例えば、大腸菌S30抽出液の系(原核細胞の系)、コムギ胚芽抽出液の系(真核細胞の系)、及びウサギ網状赤血球可溶化物の系(真核細胞の系)等が挙げられる。これらの無細胞タンパク質合成系に必要な試薬は、キットとしても市販されており、容易に利用することが可能である。
【0067】
無細胞タンパク質合成系は、タンパク質合成に必要な各分子(因子)を再構成した転写/翻訳系であってもよい(例えば、Shimizu, Y. et al.: Nature Biotech., 19, 751-755, 2001)。再構成した無細胞タンパク質合成系では、細菌のタンパク質合成系を構成する3種類の開始因子、3種類の伸長因子、終結に関与する4種類の因子、各アミノ酸をtRNAに結合させる20種類のアミノアシルtRNA合成酵素、及びメチオニルtRNAホルミル転移酵素からなる31種類の因子の遺伝子を大腸菌ゲノムから増幅し、これらを用いてタンパク質合成系をin vitroで再構成している。
【0068】
無細胞タンパク質合成系を用いた、NS付加核酸100からのキメラタンパク質101の合成は、エマルション中で行ってもよい。NS付加核酸100がビーズに固定化されている場合、1個のビーズを、1個のエマルション粒子内に区画化することができる。前記工程(A1)において、1個のビーズにつき、1種類のNS付加核酸100が提示されている場合、1個のエマルション粒子内に、1種類のNS付加核酸100と、前記NS付加核酸100から合成されたキメラタンパク質101とを共存させることができる。
NS付加核酸100がビーズに固定化されていない場合も、1分子のNS付加核酸100を、1個のエマルション粒子内に区画化し、前記エマルション内で無細胞タンパク質合成系によるキメラタンパク質101の合成を行ってもよい。この場合も、1個のエマルション粒子内に、1種類のNS付加核酸100と、前記NS付加核酸100から合成されたキメラタンパク質101とを共存させることができる。
エマルションの作製方法、及びエマルション粒子の大きさ等は、上記「[工程(A1)]」で例示したものと同様とすることができる。
【0069】
本実施形態の製造方法では、1区画に、1種類のNS付加核酸100及び前記核酸から合成されたキメラタンパク質101を共存させられることから、エマルション内で、無細胞タンパク質合成を行うことが好ましい。
ただし、1区画に、1種類のNS付加核酸100及び前記核酸から合成されたキメラタンパク質101を共存させる方法は、エマルション内での無細胞タンパク質合成に限定されない。例えば、1種類のNS付加核酸100を提示する1個のビーズを、1個の反応槽内に区画化し、無細胞タンパク質合成を行う方法を用いてもよい。
【0070】
[工程(C1)]
工程(C1)は、工程(B1)で合成されたキメラタンパク質のトランスペプチダーゼドメインのペプチド転移反応により、ペプチド-核酸複合体を形成させる工程である。
【0071】
前記工程(B1)において、NS付加核酸100から合成されたキメラタンパク質101は、トランスペプチダーゼ20のドメインとトランスペプチダーゼ認識モチーフ22とを含んでいる。そのため、キメラタンパク質101内のトランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、トランスペプチダーゼ20のドメインにより認識され、モチーフ内の所定箇所で切断され、配列22’と配列22”とに分割されるとともに、配列22’のC末端が、トランスペプチダーゼ20のドメイン内のシステイン残基とチオエステル結合で連結される。これにより、ペプチド10のドメイン及び配列22’を含むタンパク質Aと、トランスペプチダーゼ20及び配列22”を含むペプチド転移反応生成物103とが、チオエステル結合で連結した状態となる。
次いで、ペプチド転移反応により、前記タンパク質Aにおける配列22’のC末端には、NS付加核酸100のトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端が結合される。これにより、ペプチド10と前記ペプチドをコードする核酸30aとを含む、ペプチド-核酸複合体102が形成される。同時に、ペプチド転移反応生成物103が形成される。
【0072】
図1Cの例では、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、
図1Bと同様にZX
1からなる配列として表されている。トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21は、(X
1)nで表されている。
キメラタンパク質101中のトランスペプチダーゼ20のドメインのトランスペプチダーゼ活性により、まず、ZとX
1との間のペプチド結合が切断される。これにより、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22が、配列22’と配列22”とに分割される。配列22’は、Zからなる配列であり、配列22”は、X
1からなる配列である。次いで、配列22’のC末端のアミノ酸残基と、NS付加核酸100のトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端アミノ酸X
1との間で新たなペプチド結合が形成される。これにより、ペプチド-核酸複合体102及びペプチド転移反応生成物103が生成される。
【0073】
トランスペプチダーゼがブテラーゼである場合、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、XDHV(XDは、アスパラギン又はアスパラギン酸であり;Hは、ヒスチジンであり;Vは、バリンである。)で表されてもよい。トランスペプチダーゼがブテラーゼ1である場合、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21は、XEXF(XEは、任意のアミノ酸であり;XFは、ロイシン、イソロイシン、バリン若しくはシステインである。)で表されてもよい。
この場合、キメラタンパク質101中のトランスペプチダーゼ20のドメインのトランスペプチダーゼ活性により、まず、XDとHとの間のペプチド結合が切断される。これにより、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、XD(上記配列22’に対応)とHV(上記配列22”に対応)とに分割される。次いで、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22の切断C末端のアミノ酸残基(XD)と、NS付加核酸100のトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端アミノ酸配列XEXFとの間で新たなペプチド結合が形成される。これにより、ペプチド-核酸複合体102及びペプチド転移反応生成物103が生成される。
【0074】
本工程により得られるペプチド-核酸複合体102は、(a)ペプチド10と、(b)トランスペプチダーゼによるペプチド転移反応により、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22とトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21とが、結合して生じる配列と、(c)ペプチド10をコードする核酸30aと、を含んでいる。また、前記(b)の配列は、ペプチド10と核酸30aとの間に位置している。
本明細書において、「トランスペプチダーゼ認識モチーフとトランスペプチダーゼN末端基質モチーフとが、結合して生じる配列」(以下、「TPR-NS配列」という場合がある)とは、トランスペプチダーゼにより、トランスペプチダーゼ認識モチーフが切断して生じた配列のC末端に、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフのN末端が結合することにより生じる配列を意味する。
図1Cの例では、TPR-NS配列は、Z(X
1)
nで表される配列である。トランスペプチダーゼがソルターゼである場合、通常、TPR-NS配列は、トランスペプチダーゼ認識モチーフと同じ配列を含んでいる。したがって、TPR-NS配列としては、上記ソルターゼ認識モチーフとして挙げた配列と同様のものが挙げられる。
トランスペプチダーゼがブテラーゼである場合、TPR-NS配列としては、X
DX
EX
F(X
Dは、アスパラギン又はアスパラギン酸であり;X
Eは、任意のアミノ酸であり;X
Fは、ロイシン、イソロイシン、バリン又はシステインである。)で表される配列が挙げられる。
【0075】
キメラタンパク質101では、トランスペプチダーゼ20のドメインが、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22のC末端側に位置しているため、ペプチド転移反応により、トランスペプチダーゼ20のドメインが除去される。そのため、ペプチド-核酸複合体102は、ペプチド10が、TPR-NS配列を介して、核酸30bに結合した構造を有している(
図1C参照)。
【0076】
工程(C1)は、トランスペプチダーゼがトランスペプチダーゼ活性を発現し得る条件下で行えばよく、通常、前記工程(B1)と同時に行うことができる。
【0077】
[他の工程]
本実施形態の製造方法は、上記工程(A1)~(C1)に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程は、特に限定されず、例えば、核酸、キメラタンパク質又はペプチド-核酸複合体の回収工程、洗浄工程、精製工程等が例示される。
【0078】
本実施形態の製造方法によれば、リンカーの調製等の煩雑な作業を要することなく、ペプチド-核酸複合体を製造することができる。また、本実施形態の製造方法により得られたペプチド-核酸複合体では、ペプチドと核酸との間にTPR-NS配列が存在する。TPR-NS配列は、通常、5~10アミノ酸程度の短い配列であるため、ペプチド-核酸複合体において、ペプチドの立体構造や機能が損なわれる可能性は低い。したがって、ペプチド-核酸複合体は、ペプチドアレイにより所望の機能を有するペプチドをスクリーニングするために好適に用いることができ、且つスクリーニングされたペプチドをコードする核酸を簡易に同定することができる。
【0079】
〔第2実施形態〕
図2A~
図2Cに基づき、本態様にかかる製造方法の第2実施形態の概略を説明する。
本実施形態では、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加された核酸として、5’側から3’側に向かって、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、ペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする第3のコード配列と、がこの順で配置された核酸30bに、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加されたもの(以下、「NS付加核酸200」という場合がある。)を用いる(
図2A参照)。
NS付加核酸200は、第2のコード配列と第1のコード配列との間、及び第1のコード配列と第3のコード配列との間のいずれか又は両方に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。例えば、第2のコード配列と第1のコード配列との間に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。スペーサーを有することにより、NS付加核酸200から発現されたキメラタンパク質201において、トランスペプチダーゼ20がトランスペプチダーゼ認識モチーフ22に結合しやすくなる。
【0080】
本実施形態の製造方法は、前記第1実施形態におけるNS付加核酸100に代えて、NS付加核酸200を用いること以外は、前記第1実施形態と同様に行うことができる。
【0081】
無細胞タンパク質合成系を用いて、NS付加核酸200から合成されたキメラタンパク質201は、N末端側からC末端側に向かって、トランスペプチダーゼ20のドメイン、ペプチド10のドメイン、及びトランスペプチダーゼ認識モチーフ22が、この順で配置された構成を有している(
図2B参照)。
キメラタンパク質201中のトランスペプチダーゼ20によるペプチド転移反応により、NS付加核酸200及びキメラタンパク質201から、ペプチド-核酸複合体202及びペプチド転移反応生成物203が生成される。
【0082】
キメラタンパク質201では、トランスペプチダーゼ20のドメインが、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22のN末端側に位置しているため、ペプチド転移反応により、トランスペプチダーゼ20のドメインが除去されることがない。そのため、ペプチド-核酸複合体202は、トランスペプチダーゼ20及びペプチド10を含むキメラタンパク質が、TPR-NS配列を介して、核酸30bに結合した構造を有している(
図2C参照)。
【0083】
〔第3実施形態〕
図3A~
図3Cに基づき、本態様にかかる製造方法の第3実施形態の概略を説明する。
本実施形態では、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加された核酸として、5’側から3’側に向かって、ペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、トランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする第3のコード配列と、がこの順で配置された核酸30cに、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が付加されたもの(以下、「NS付加核酸300」という場合がある。)を用いる(
図3A参照)。
NS付加核酸300は、第1のコード配列と第2のコード配列との間、及び第2のコード配列と第3のコード配列との間のいずれか又は両方に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。例えば、第2のコード配列と第3のコード配列との間に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。スペーサーを有することにより、NS付加核酸300から発現されたキメラタンパク質301において、トランスペプチダーゼ20がトランスペプチダーゼ認識モチーフ22に結合しやすくなる。
【0084】
本実施形態の製造方法は、前記第1実施形態におけるNS付加核酸100に代えて、NS付加核酸300を用いること以外は、前記第1実施形態と同様に行うことができる。
【0085】
無細胞タンパク質合成系を用いて、NS付加核酸300から合成されたキメラタンパク質301は、N末端側からC末端側に向かって、ペプチド10のドメイン、トランスペプチダーゼ20のドメイン、及びトランスペプチダーゼ認識モチーフ22が、この順で配置された構成を有している(
図3B参照)。
キメラタンパク質301中のトランスペプチダーゼ20によるペプチド転移反応により、NS付加核酸300及びキメラタンパク質301から、ペプチド-核酸複合体302及びペプチド転移反応生成物303が生成される。
【0086】
キメラタンパク質301では、トランスペプチダーゼ20のドメインが、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22のN末端側に位置しているため、ペプチド転移反応により、トランスペプチダーゼ20のドメインが除去されることがない。そのため、ペプチド-核酸複合体302は、ペプチド10及びトランスペプチダーゼ20を含むキメラタンパク質が、TPR-NS配列を介して、核酸30cに結合した構造を有している(
図3C参照)。
【0087】
本態様にかかる上記第1~第3の実施形態における核酸30a,30b,30cは、第1のコード配列が、第3のコード配列の5’側に位置している点で共通する。また、核酸30a,30b,30cから発現されるキメラタンパク質101,201,301は、ペプチド10のドメインが、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22のN末端側に位置している点で共通する。
【0088】
トランスペプチダーゼとして、C末端に位置するトランスペプチダーゼ認識モチーフに対して適合性が高いトランスペプチダーゼ(例えば、ブテラーゼ1)を用いる場合、第2の実施形態又は第3の実施形態が好ましい。
【0089】
≪第2の態様≫
一実施形態において、本発明は、ペプチドと、前記ペプチドをコードする核酸と、を含むペプチド-核酸複合体の製造方法を提供する。前記製造方法は、(A2)トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、前記ペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を準備する工程と、(B2)前記トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された前記核酸から、無細胞タンパク質合成系を用いて、前記ペプチドのドメインと、前記トランスペプチダーゼのドメインと、前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとを含むキメラタンパク質を合成する工程と、(C2)前記キメラタンパク質の前記トランスペプチダーゼドメインによるペプチド転移反応により、前記ペプチド-核酸複合体を形成させる工程と、を含む。
【0090】
〔第4実施形態〕
図4A~
図4Cに基づき、本態様にかかる製造方法の第4実施形態の概略を説明する。
まず、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22が付加された核酸400(以下、「TPR付加核酸400」という場合がある。)を準備する(
図4A;工程(A2))。TPR付加核酸400は、任意のペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む。TPR付加核酸400では、5’側から3’側に向かって、第3のコード配列、第1のコード配列、及び第2のコード配列が、この順で、配置されている。また、TPR付加核酸400において、これらのコード配列は、第1のコード配列から翻訳される前記ペプチドのドメインと、第2のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼのドメインと、第3のコード配列から翻訳される前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフと、を含むキメラタンパク質を発現し得るように配置されている。
次に、NS付加核酸400から、無細胞タンパク質合成系を用いて、キメラタンパク質401を合成する(
図4B;工程(B2))。キメラタンパク質401は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21、ペプチド10のドメイン、及びトランスペプチダーゼ20のドメインを含んでいる。キメラタンパク質401において、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21は、ペプチド10のドメインのN末端側に位置している。キメラタンパク質401では、N末端側からC末端側に向かって、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21、ペプチド10、及びトランスペプチダーゼ20が、この順で配置されている。
次に、キメラタンパク質401のトランスペプチダーゼ20のドメインによるペプチド転移反応により、前記ペプチド-核酸複合体402を形成させる(
図4C;工程(C2))。このようにして、ペプチド-核酸複合体を製造することができる。
以下、本実施形態の製造方法の各工程について説明する。
【0091】
[工程(A2)]
工程(A2)は、トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、前記ペプチドをコードする第1のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を準備する工程である。
【0092】
工程(A2)は、NS付加核酸100に代えてTPR付加核酸400を用いること以外は、前記第1の態様の第1実施形態の工程(A1)と同様に行うことができる。
【0093】
TPR付加核酸は、5’末端及び3’末端のいずれか一方に、トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸である。
図4Aに示すTPR付加核酸400では、核酸30dの5’末端に、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22が付加されている。
図4Aにおいて、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、ZX
1のアミノ酸配列を有するペプチドとして例示されている。ZX
1の説明は、前記第1の態様の第1実施形態において説明したとおりである。また、本実施形態において、ZとX
1との間の結合は、エステル結合であってもよい(Williamson DJ et al., Nat Protoc. 2014 Feb;9(2):253-62.)。したがって、TPR付加核酸400において、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、ZとX
1との間がエステル結合で連結されたものを包含する。後述の実施形態5におけるTPR付加核酸500についても同様である。
トランスペプチダーゼがブテラーゼである場合、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、X
DHV(X
Dは、アスパラギン又はアスパラギン酸であり;Hは、ヒスチジンであり;Vは、バリンである。)で表されてもよい。
【0094】
第1のコード配列及び第2のコード配列は、前記第1の態様の第1実施形態で説明したものと同様である。
第3のコード配列は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21をコードする配列であればよく、野生型遺伝子であってもよく、改変型遺伝子であってもよく、サイレント変異を有するものであってもよい。
【0095】
TPR付加核酸400では、5’側から3’側に向かって、第3のコード配列、第1のコード配列、及び第2のコード配列が、この順で、配置されている(
図4A参照)。また、これらの配列は、TPR付加核酸400において、第1のコード配列から翻訳されるペプチド10のドメインと、第2のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼ20のドメインと、第3のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21と、を含むキメラタンパク質401であって、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が、ペプチド10のドメインのN末端側に位置するキメラタンパク質を発現し得るように配置されている(
図4B参照)。すなわち、第3のコード配列と、第1のコード配列と、第2のコード配列とは、1つのORF内で、任意の塩基配列を介して、又は介さないで、5’側から3’側に向かって前記の順でインフレームに連結されている。
【0096】
TPR付加核酸400は、第1のコード配列、第2のコード配列及び第3のコード配列に加えて、他の塩基配列を有していてもよい。他の塩基配列としては、例えば、第1のコード配列、第2のコード配列及び第3のコード配列を含むORFの転写及び/又は翻訳を制御する制御配列が挙げられる。制御配列としては、前記第1の態様の第1実施形態の工程(A1)で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0097】
TPR付加核酸400は、第1のコード配列と第3のコード配列との間、及び第3のコード配列と第2のコード配列との間のいずれか又は両方に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。例えば、第1のコード配列と第2のコード配列との間に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。スペーサーを有することにより、TPR付加核酸400から発現されたキメラタンパク質401において、トランスペプチダーゼ20がトランスペプチダーゼ認識モチーフ22に結合しやすくなる。
【0098】
TPR付加核酸400は、第3のコード配列の5’末端に隣接して、プロテアーゼ認識モチーフ41をコードする第4のコード配列を含む、TPR付加核酸400’であってもよい(
図6A参照)。プロテアーゼ認識モチーフ41には、プロテアーゼ認識モチーフ41とトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21との間の結合を切断する活性を有するプロテアーゼの認識モチーフを用いる。例えば、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が(G)
n(nは1以上の整数)で表される配列である場合、プロテアーゼ認識モチーフ41としては、TEVプロテアーゼの認識モチーフ(ENLYFQG(配列番号27))、Factor Xaプロテアーゼの認識モチーフ(I(E/D)GR(配列番号28))等を用いることができる。
TPR付加核酸400が、第3のコード配列の5’末端に隣接して、第4のコード配列を有するTPR付加核酸400’であることにより、TPR付加核酸400’から発現されるキメラタンパク質401’は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端に隣接して、プロテアーゼ認識モチーフ41が配置される(
図6A参照)。そのため、キメラタンパク質401’においては、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端側に、開始コドンから翻訳されるメチオニン(M)等のアミノ酸残基を有する場合であっても、プロテアーゼ40で処理を行うことにより、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21をキメラタンパク質のN末端に露出させることができる(
図6A参照)。
【0099】
核酸30dに、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22を付加する方法は、特に限定されず、第1の態様の第1実施例の工程(A1)において、核酸30aにトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21を付加する方法として例示した方法と同様の方法を用いることができる。
【0100】
本工程で準備されるTPR付加核酸400は、固相担体に固定化されていてもよく、固定化されていなくてもよいが、固相担体に固定化されていることが好ましい。固相担体としては、特に限定されず、第1の態様の第1実施形態の工程(A1)で例示したものと同様のものが挙げられる。核酸を固相担体に固定化する方法についても、第1の態様の第1実施例の工程(A1)で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0101】
本実施形態の製造方法でも、第1の態様の第1実施形態の工程(A1)と同様に、1個のビーズにつき、1種類のTPR付加核酸400を提示させられることから、少なくとも一方のプライマーがビーズに固定化されたプライマーセットを用いたエマルションPCRにより、TPR付加核酸400を準備することが好ましい。
ただし、1個のビーズにつき、1種類のTPR付加核酸400を提示させる方法は、エマルションPCRに限定されない。例えば、1分子の核酸30d及び1個のビーズを、1個の反応槽内に区画化し、PCR反応を行う方法を用いてもよい。
プライマーがビーズに固定化されていない場合も、1分子の鋳型DNAを、1個のエマルション粒子内に区画化し、エマルションPCRを行ってもよい。
【0102】
[工程(B2)]
工程(B2)は、トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸から、無細胞タンパク質合成系を用いて、前記ペプチドのドメインと、前記トランスペプチダーゼのドメインと、前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとを含むキメラタンパク質を合成する工程である。
【0103】
工程(B2)は、NS付加核酸100に代えて、TPR付加核酸400を用いること以外は、第1の態様の第1実施形態の工程(B1)と同様に行うことができる。
【0104】
本実施形態において、キメラタンパク質401は、核酸30dから転写及び翻訳されるタンパク質である。キメラタンパク質401は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21と、ペプチド10のドメインと、トランスペプチダーゼ20のドメインと、を含んでいる。キメラタンパク質401では、N末端側からC末端側に向かって、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21、ペプチド10のドメイン、及びトランスペプチダーゼ20のドメインが、この順で配置されている(
図4B参照)。
【0105】
無細胞合成系において、任意のアミノ酸を結合させた開始tRNAを用いることで、N末端に任意のアミノ酸を有するタンパク質を合成することができる。例えば、グリシンを結合させた開始tRNAを用いることで、N末端がグリシンのタンパク質を合成することができる(例えば、Goto Y and Suga H, J Am Chem Soc. 2009 Apr 15;131(14):5040-1;国際公開第2007/058376号)。
【0106】
[工程(C2)]
工程(C2)は、工程(B2)で合成されたキメラタンパク質のトランスペプチダーゼドメインによるペプチド転移反応により、ペプチド-核酸複合体を形成させる工程である。
【0107】
工程(C2)は、NS付加核酸100に代えてTPR付加核酸400を用い、キメラタンパク質101に代えてキメラタンパク質401を用いること以外は、第1の態様の第1実施形態の工程(C1)と同様に行うことができる。
【0108】
前記工程(B2)において、TPR付加核酸400から合成されたキメラタンパク質401は、トランスペプチダーゼ20のドメインとトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21とを含んでいる。一方、TPR付加核酸400は、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22を含んでいる。そのため、TPR付加核酸400内のトランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、トランスペプチダーゼ20のドメインにより認識され、モチーフ内の所定箇所で切断される。これにより、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22が、配列22’と配列22”とに分割されるとともに、配列22’のC末端が、トランスペプチダーゼ20のドメイン内のシステイン残基とチオエステル結合で連結される。これにより、配列22’を含む核酸A及びキメラタンパク質401がチオエステル結合で連結した状態となる。また、配列22”を含むペプチド転移反応生成物403が生成される。
次いで、前記核酸Aにおける配列22’のC末端には、キメラタンパク質401のトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端が結合される。これにより、ペプチド10と、前記ペプチドをコードする核酸30dとを含む、ペプチド-核酸複合体402が形成される。
【0109】
トランスペプチダーゼがブテラーゼである場合、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、XDHV(XDは、アスパラギン又はアスパラギン酸であり;Hは、ヒスチジンであり;Vは、バリンである。)で表されてもよい。トランスペプチダーゼがブテラーゼ1である場合、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21は、XEXF(XEは、任意のアミノ酸であり、XFは、ロイシン、イソロイシン、バリン若しくはシステインである。)で表されてもよい。
この場合、キメラタンパク質101中のトランスペプチダーゼ20のドメインのトランスペプチダーゼ活性により、まず、TPR付加核酸400中のトランスペプチダーゼ認識モチーフ22におけるXDとHとの間のペプチド結合が切断される。これにより、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22は、XD(上記配列22’に対応)とHV(上記配列22”に対応)とに分割される。次いで、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22の切断C末端のアミノ酸残基(XD)と、キメラタンパク質401のトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端アミノ酸配列XEXFとの間で新たなペプチド結合が形成される。これにより、ペプチド-核酸複合体102及びペプチド転移反応生成物103が生成される。
【0110】
本工程により得られるペプチド-核酸複合体402は、トランスペプチダーゼ20及びペプチド10を含むキメラタンパク質が、TPR-NS配列を介して、核酸30dに結合した構造を有している(
図4C参照)。
【0111】
[他の工程]
本実施形態の製造方法は、上記工程(A2)~(C2)に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程は、特に限定されず、例えば、核酸、キメラタンパク質又はペプチド-核酸複合体の回収工程、洗浄工程、精製工程等が例示される。核酸30dが、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含む場合には、下記工程(D2)を含むことが好ましい。
【0112】
(工程(D2))
工程(D2)は、前記プロテアーゼを用いて、前記プロテアーゼ認識モチーフと前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する工程である。工程(D2)は、前記工程(B2)の後、且つ前記工程(C2)の前に行われる。
【0113】
核酸30dが、第3のコード配列の5’末端に隣接して、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含む場合、当該核酸30dから発現されるキメラタンパク質401’は、第3のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端側に隣接して、第4のコード配列から翻訳されるプロテアーゼ認識モチーフ41を含む(
図6A参照)。そのため、プロテアーゼ認識モチーフ41のC末端アミノ酸残基とトランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端アミノ酸残基との間のペプチド結合を切断する活性を有するプロテアーゼ40を用いて、キメラタンパク質401’を処理することにより、前記ペプチド結合を切断することができる。
したがって、キメラタンパク質401’においては、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端側に、開始コドンから翻訳されるメチオニン(M)等のアミノ酸残基を有する場合であっても、プロテアーゼ40で処理を行うことにより、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21がN末端に露出したキメラタンパク質401を得ることができる(
図6A参照)。
【0114】
プロテアーゼ40は、工程(D2)において、外部から添加してもよく、プロテアーゼ40をコードするコード配列を核酸30dに含ませ、前記工程(B2)において、キメラタンパク質401’とは別個のタンパク質として発現させてもよい。
【0115】
本実施形態の製造方法によれば、リンカーの調製等の煩雑な作業を要することなく、ペプチド-核酸複合体を製造することができる。本実施形態の製造方法により得られるペプチド-核酸複合体は、ペプチドアレイにより所望の機能を有するペプチドをスクリーニングするために好適に用いることができ、且つスクリーニングされたペプチドをコードする核酸を簡易に同定することができる。
【0116】
〔第5実施形態〕
図5A~
図5Cに基づき、本態様にかかる製造方法の第5実施形態の概略を説明する。
本実施形態では、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22が付加された核酸として、5’側から3’側に向かって、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21をコードする第3のコード配列と、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、ペプチドをコードする第1のコード配列と、がこの順で配置された核酸30eに、トランスペプチダーゼ認識モチーフ22が付加されたもの(以下、「TPR付加核酸500」という場合がある。)を用いる(
図5A参照)。
TPR付加核酸500は、第3のコード配列と第2のコード配列との間、及び第2のコード配列と第1のコード配列との間のいずれか又は両方に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。例えば、第3のコード配列と第2のコード配列との間に、任意のスペーサーをコードする配列を有していてもよい。スペーサーを有することにより、TPR付加核酸500から発現されたキメラタンパク質501において、トランスペプチダーゼ20がトランスペプチダーゼ認識モチーフ22に結合しやすくなる。
【0117】
本実施形態の製造方法は、前記第4実施形態におけるTPR付加核酸400に代えて、TPR付加核酸500を用いること以外は、前記第4実施形態と同様に行うことができる。
【0118】
無細胞タンパク質合成系を用いて、TPR付加核酸500から合成されたキメラタンパク質501は、N末端側からC末端側に向かって、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21、トランスペプチダーゼ20のドメイン、及びペプチド10のドメインが、この順で配置された構成を有している(
図5B参照)。
キメラタンパク質501中のトランスペプチダーゼ20によるペプチド転移反応により、TPR付加核酸500及びキメラタンパク質501から、ペプチド-核酸複合体502及びペプチド転移反応生成物503が生成される。
【0119】
ペプチド-核酸複合体502は、ペプチド10及びトランスペプチダーゼ20を含むキメラタンパク質が、TPR-NS配列を介して、核酸30eに結合した構造を有している(
図5C参照)。
【0120】
本実施形態の製造方法は、前記第4実施形態と同様に、工程(B2)の後、且つ工程(C2)の前に、さらに、工程(D2)を含んでいてもよい。すなわち、核酸30eは、第3のコード配列の5’末端に隣接して、プロテアーゼ認識モチーフ41をコードする第4のコード配列を含んでいてもよい(
図6B参照)。この場合、TPR付加核酸500’から発現されるキメラタンパク質501’は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端に隣接して、プロテアーゼ認識モチーフ41が配置される(
図6B参照)。そのため、キメラタンパク質501’においては、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21のN末端側に、開始コドンから翻訳されるメチオニン(M)等のアミノ酸残基を有する場合であっても、プロテアーゼ40で処理を行うことにより、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21がN末端に露出したキメラタンパク質501を得ることができる(
図6B参照)。
【0121】
第2の態様にかかる上記第4~第5の実施形態における核酸30d,30eは、第3のコード配列が、第1のコード配列及び第2のコード配列の5’側に位置している点で共通する。また、核酸30d,30eから発現されるキメラタンパク質401,501は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ21が、ペプチド10及びトランスペプチダーゼ20のN末端側に位置している点で共通する。
【0122】
<ペプチド-核酸複合体>
一実施形態において、本発明は、(a)ペプチドと、(b)前記ペプチドのコード配列を含む核酸と、(c)トランスペプチダーゼによるペプチド転移反応により、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフとN末端基質モチーフとが、結合して生じる配列と、を含み、前記(c)の配列が、前記(a)のペプチドと前記(b)の核酸との間に位置する、前記ペプチド-核酸複合体を提供する。前記ペプチド-核酸複合体は、トランスペプチダーゼを前記(a)のペプチドのN末端側若しくはC末端側に又は前記(c)の配列と前記(a)のペプチドの間に含むことができる。
さらに詳細に説明する。
【0123】
[(a)ペプチド]
ペプチドは、特に限定されず、任意のペプチドであってよい。ペプチドは、(b)の核酸によってコードされるペプチドである。ペプチドとしては、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」の第1の態様の第1実施形態において例示したものと同様のものが例示される。(a)のペプチドは、キメラタンパク質に含まれるペプチドのドメインであってもよい。当該キメラタンパク質は、前記ペプチド以外のドメインを含み得る。前記キメラタンパク質は、例えば、トランスペプチダーゼのドメインを含んでいてもよい。前記キメラタンパク質としては、N末端側からC末端側に向かって、ペプチドのドメイン、及びトランスペプチダーゼのドメインが、この順で、配置された構成を有するキメラタンパク質;並びにN末端側からC末端側に向かって、トランスペプチダーゼのドメイン、及びペプチドのドメインが、この順で、配置された構成を有するキメラタンパク質等が挙げられる。前記トランスペプチダーゼとしては、ソルターゼ又はブテラーゼが好ましく、ソルターゼA又はブテラーゼ1がより好ましく、ソルターゼAがさらに好ましい。
【0124】
[(b)核酸]
核酸は、前記(a)のペプチドをコードする核酸である。核酸は、前記(a)のペプチドをコードするものであればよく、野生型遺伝子であってもよく、改変型遺伝子であってもよく、サイレント変異を有するものであってもよい。また、上記「ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で例示したようなDNAライブラリー等の複数種類のDNAの混合物由来のものであってもよい。
【0125】
核酸は、前記ペプチドコード配列に加えて他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、例えば、トランスペプチダーゼをコードする配列、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフをコードする配列、及びトランスペプチダーゼ認識モチーフをコードする配列が挙げられる。核酸の例としては、5’側から3’側に向かって、任意のペプチドをコードする第1のコード配列、トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(1);5’側から3’側に向かって、前記第2のコード配列、前記第1のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(2);並びに5’側から3’側に向かって、前記第1のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(3)が挙げられる。
また、核酸の例としては、5’側から3’側に向かって、トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列、任意のペプチドをコードする第1のコード配列、及びトランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(4);並びに5’側から3’側に向かって、前記第3のコード配列、前記第2のコード配列、及び前記第1のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(5)が挙げられる。これらの場合、核酸は、トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列の5’末端に隣接する、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列をさらに含んでいてもよい。
核酸がトランスペプチダーゼとしてソルターゼをコードする場合、前記に例示した核酸(1)~(5)のいずれであってもよいが、核酸(1)であることが好ましい。核酸がトランスペプチダーゼとしてブテラーゼをコードする場合、前記に例示した核酸の中でも、核酸(2)~(5)であることが好ましい。
【0126】
核酸は、さらに、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、上記<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げたものと同様のものが挙げられる。例えば、前記各コード配列間に任意のスペーサーをコードする配列を含んでいてもよい。また、前記コード配列の発現を制御するプロモーター配列等の制御配列等を含んでいてもよい。
【0127】
核酸の具体例としては、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で例示した核酸30a,30b,30c,30d,30eが挙げられる(
図1~5参照)。
【0128】
[(c)TPR-NS配列]
(c)の配列は、トランスペプチダーゼの認識モチーフとN末端基質モチーフとが、結合して生じる配列(TPR-NS配列)であり、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」において説明したものと同様である。トランスペプチダーゼとしては、ソルターゼ又はブテラーゼが好ましく、ソルターゼA又はブテラーゼ1がより好ましく、ソルターゼAがさらに好ましい。TPR-NS配列は、トランスペプチダーゼの種類により適宜選択することができる。例えば、トランスペプチダーゼがソルターゼである場合、TPR-NS配列の好ましい具体例としては、LPXT(G)n(nは1以上の整数である。)が挙げられる。前記nとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましく、1~6又は1~5がさらに好ましい。あるいは、上記ソルターゼ認識モチーフとして挙げた配列と同様のものが挙げられる。
トランスペプチダーゼがブテラーゼである場合、TPR-NS配列としては、XDXEXF(XDは、アスパラギン又はアスパラギン酸であり;XEは、任意のアミノ酸であり;XFは、ロイシン、イソロイシン、バリン又はシステインである。)で表される配列が挙げられる。
【0129】
本実施形態のペプチド-核酸複合体は、(a)のペプチドと、(b)の核酸との間に、(c)の配列が位置していることを特徴とする。本実施形態のペプチド-核酸複合体は、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で説明した方法により製造することができる。本実施形態のペプチド-核酸複合体の具体例としては、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で例示したペプチド-核酸複合体102,202,302,402,502が挙げられる(
図1~5参照)。
【0130】
本実施形態のペプチド-核酸複合体は、ペプチドと当該ペプチドをコードする核酸とが複合体を形成しているため、所望の機能を有するペプチドを同定した後、当該ペプチドをコードする核酸を容易に取得することができる。
【0131】
<ペプチド-核酸複合体が固定化された固相担体>
一実施形態において、本発明は、前記実施形態のペプチド-核酸複合体が固定化された固相担体を提供する。
固相担体としては、特に限定されないが、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げたものと同様のものが挙げられる。中でも、固相担体としては、ビーズが好ましく、磁気ビーズがより好ましい。固相担体がビーズである場合、1個のビーズには、1種類のペプチド-核酸複合体が固定化されていることが好ましい。
【0132】
ペプチド-核酸複合体を固相担体に固定化する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。ペプチド-核酸複合体は、核酸の5’末端又は3’末端が、固相担体に固定化されていることが好ましい。固定化方法としては、例えば、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げたものと同様のものが挙げられる。中でも、アビジン-ビオチン結合を利用する方法が好適に用いられる。
【0133】
(使用例)
本実施形態の固相担体は、後述のように反応槽に配置して用いてもよく、それ自体をペプチドアレイとして用いてもよい。以下に、本実施形態のペプチド-核酸複合体を用いて、所望のペプチドをコードする核酸を同定する具体例を記載するが、これに限定されない。
【0134】
・特定物質に対して結合性親和性の高いペプチドのスクリーニング例
ペプチド-核酸複合体に、標識物質を結合させた特定物質を接触させる。例えば、ペプチド-核酸複合体を含む溶液に、標識物質を結合させた特定物質を添加して撹拌する。標識物質としては、公知の物質を特に制限なく用いることができ、例えば、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、オレゴングリーン等の蛍光色素;ホースラディッシュペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ等の酵素;ルミノール、アクリジン色素等の化学又は生物発光化合物;32P、131I、125I等の放射性同位体などを用いることができる。
【0135】
次いで、ペプチドと特定物質との結合を標識物質に基づいて検出し、結合親和性の高いペプチドを含むペプチド-核酸複合体を回収する。固相担体がビーズである場合、標識物質の検出及びペプチド-核酸複合体の回収には、フローサイトメトリーを好適に利用することができる。
【0136】
・特定の酵素活性を有するペプチドのスクリーニング例
固相担体としてのビーズに固定化したペプチド-核酸複合体と、酵素基質と、を含有するエマルションを調製する。エマルションは、例えば、内水相の水中油中水(W/O/W)型エマルジョンとすることができる。1個のエマルション粒子に、平均1個以下のビーズが内包されるように、エマルション粒子の大きさを調整する。次いで、エマルション内で酵素反応を行い、酵素反応を認めるエマルションを特定し、当該エマルションに内包されるペプチド-核酸複合体を回収する。酵素反応により蛍光が生ずる反応系とすれば、酵素反応の検出及びペプチド-核酸複合体の回収には、フローサイトメトリーを好適に利用することができる。
【0137】
<ペプチドアレイ>
一実施形態において、本発明は、前記実施形態の固相担体を含む反応槽を備えた、ペプチドアレイを提供する。
【0138】
本実施形態において、固相担体は、例えば、ビーズであってもよく、ペプチド-核酸複合体が固定化されたビーズが反応槽に配置されてもよい。あるいは、固相担体は、反応槽の壁面であってもよい。反応槽1個当たりには、1種類のペプチド-核酸複合体が配置されるようにすることが好ましい。例えば、固相担体がビーズである場合、1種類のペプチド-核酸複合体を固定化した1個のビーズを、1個の反応槽に配置することが好ましい。
【0139】
ビーズを配置する反応槽は、例えば、ビーズ配置用反応槽を設けたマイクロウェルプレート等のビーズ配置用基板であってもよい。ビーズが磁気ビーズである場合、ビーズ配置用基板は、磁気ビーズ配置用基板であることが好ましく、前記磁気ビーズ配置用基板に用いられる基板材料下に、磁性体板が配設されていることがより好ましい。かかる構造の磁気ビーズ配置用基板を用いることにより、反応槽内に磁気ビーズを容易にかつ高い精度で配置することができる。具体的には、該ビーズ配置用基板の下部に磁石を配置し、該基板上にDNAを固定した磁気ビーズを分散させた分散液を滴下する。磁気ビーズ及び磁性体薄膜による磁力の作用により、反応槽内へ磁気ビーズが誘引されることにより配置されやすくなる。さらに磁石を適宜基板に対し平行方向に動かすことで磁気ビーズが分散し、反応槽内への充填率が向上する。磁石によりビーズ配置用基板に印加する磁場の強さは、所望の効果を得る上で、好ましくは100~10000ガウスである。
また、磁石を取り除いた後も磁性体板の磁化は残るため、磁気ビーズは安定した配置を保持し続けることが可能となる。
かかる磁性体の材料としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄および鉄合金などの金属を好適に用いることができる。
【0140】
反応槽1個当たり、ビーズ1個を配置する観点から、反応槽の直径はビーズの直径とほぼ同じであることが好ましい。しかしながら、ビーズの微小反応槽への充填率は該微小反応槽の直径に依存するため、反応槽の直径がビーズの直径よりも若干広い方が充填率が高い。さらに、反応槽の直径はビーズの直径の1~2倍であることが好ましい。また、反応槽1個当たり、ビーズ1個を配置する観点から、反応槽の深さは、ビーズの直径の1~2倍であることが好ましい。反応槽は、親水化されていることが好ましい。例えば、該反応槽を酸素プラズマ照射などにより親水化処理することにより、ビーズを分散させた液を反応槽内部に充填することが容易になり、充填率が向上する。
【0141】
本実施形態のペプチドアレイは、所望の機能を有するペプチドを同定し、当該ペプチドをコードする核酸を単離するために好適に用いることができる。所望の機能を有するペプチドの同定は、反応槽中で、所望の反応を行い、所望の反応結果を示す反応槽を特定することにより行うことができる。反応槽を特定した後は、当該反応槽から、ペプチド-核酸複合体を回収することにより、所望の機能を有するペプチドをコードする核酸を取得することができる。
【0142】
<核酸>
≪第1の態様≫
一実施形態において、本発明は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を提供する。
【0143】
本実施形態の核酸は、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む。これらのコード配列については、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で説明したものと同様である。
【0144】
本実施形態の核酸は、さらに、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、上記<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げたものと同様のものが挙げられる。例えば、前記各コード配列間に任意のスペーサーをコードする配列を含んでいてもよい。また、前記コード配列の発現を制御するプロモーター配列等の制御配列等を含んでいてもよい。
【0145】
本実施形態の核酸は、第1のコード配列から翻訳されるペプチドのドメインと、第3のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼ認識モチーフと、を含むキメラタンパク質であって、トランスペプチダーゼ認識モチーフが、ペプチドドメインのC末端側に位置するキメラタンパク質を発現し得る。すなわち、第1のコード配列と、第3のコード配列は、同じORF内に配置されており、第3のコード配列は、第1のコード配列の3’側に配置されている。
第2のコード配列は、前記第1のコード配列及び第3のコード配列と同一のORF内に配置されていてもよく、配置されていなくてもよいが、同一のORF内に配置されていることが好ましい。すなわち、本実施形態の核酸は、第1のコード配列から翻訳されるペプチドのドメインと、第2のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼのドメインと、第3のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼ認識モチーフと、を含むキメラタンパク質を発現し得ることが好ましい。
第2のコード配列が、前記第1のコード配列及び第3のコード配列と同一のORF内に配置されていない場合、各ORFは、それぞれ転写・翻訳を制御する制御配列を有していることが好ましい。
【0146】
本実施形態の核酸としては、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸であって、
5’側から3’側に向かって、第1のコード配列、第3のコード配列、及び第2のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(1);
5’側から3’側に向かって、第2のコード配列、第1のコード配列、及び第3のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(2);並びに
5’側から3’側に向かって、第1のコード配列、第2のコード配列、及び第3のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(3)、
が挙げられる。
核酸がトランスペプチダーゼとしてソルターゼをコードする場合、前記に例示した核酸(1)~(3)のいずれであってもよいが、核酸(1)であることが好ましい。核酸がトランスペプチダーゼとしてブテラーゼをコードする場合、前記に例示した核酸の中でも、核酸(2)又は核酸(3)であることが好ましい。
【0147】
本実施形態の核酸の好適な具体例としては、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で例示した、NS付加核酸100、NS付加核酸200、及びNS付加核酸300が挙げられる。
【0148】
≪第2の態様≫
一実施形態において、本発明は、トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む、核酸を提供する。
【0149】
本実施形態の核酸は、トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、ペプチドをコードする第1のコード配列と、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む。これらのコード配列については、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で説明したものと同様である。
【0150】
本実施形態の核酸は、さらに、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、上記<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げたものと同様のものが挙げられる。例えば、前記各コード配列間に任意のスペーサーをコードする配列を含んでいてもよい。また、前記コード配列の発現を制御するプロモーター配列等の制御配列等を含んでいてもよい。
【0151】
本実施形態の核酸は、第1のコード配列から翻訳されるペプチドのドメインと、第3のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼN末端基質モチーフと、を含むキメラタンパク質であって、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが、ペプチドドメインのN末端側に位置するキメラタンパク質を発現し得る。すなわち、第1のコード配列と、第3のコード配列は、同じORF内に配置されており、第3のコード配列は、第1のコード配列の5’側に配置されている。
第2のコード配列は、前記第1のコード配列及び第3のコード配列と同一のORF内に配置されていてもよく、配置されていなくてもよいが、同一のORF内に配置されていることが好ましい。すなわち、本実施形態の核酸は、第1のコード配列から翻訳されるペプチドのドメインと、第2のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼのドメインと、第3のコード配列から翻訳されるトランスペプチダーゼN末端基質モチーフと、を含むキメラタンパク質を発現し得ることが好ましい。当該キメラタンパク質において、トランスペプチダーゼのドメインは、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフのC末端側に位置していることが好ましい。
第2のコード配列が、前記第1のコード配列及び第3のコード配列と同一のORF内に配置されていない場合、各ORFは、それぞれ転写・翻訳を制御する制御配列を有していることが好ましい。
【0152】
本実施形態の核酸としては、トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸であって、
5’側から3’側に向かって、第3のコード配列、第1のコード配列、及び第2のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(4);並びに
5’側から3’側に向かって、第3のコード配列、第2のコード配列、及び第1のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸(5)、
が挙げられる。
核酸がトランスペプチダーゼとしてソルターゼ又はブテラーゼをコードする場合、前記に例示した核酸(4)及び核酸(5)のいずれであってもよい。
【0153】
本実施形態の核酸は、さらに、第3のコード配列の5’末端に隣接して、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含んでいてもよい。この場合、前記のキメラタンパク質において、第4のコード配列から翻訳されるプロテアーゼ認識モチーフは、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフのN末端側に隣接する。プロテアーゼ認識モチーフは、当該プロテアーゼ認識モチーフとトランスペプチダーゼN末端基質モチーフとの間の結合を切断する活性を有するプロテアーゼの認識モチーフを用いることができる。
【0154】
本実施形態の核酸の好適な具体例としては、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で例示した、TPR付加核酸400、TPR付加核酸400’、TPR付加核酸500、及びTPR付加核酸500’が挙げられる。
【0155】
上記実施形態のトランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸、又はトランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸は、固相担体に固定化されたものであってもよい。したがって、一実施形態において、本発明は、上記実施形態の核酸が固定化された固相担体もまた提供する。
【0156】
本実施形態の核酸は、又は前記核酸が固定化された固相担体は、ペプチド-核酸複合体の製造に、好適に用いることができる。
【0157】
<キット>
≪第1の態様≫
一実施形態において、本発明は、下記(a)~(d)を含む、ペプチド-核酸複合体の作製キットを提供する。
(a)任意のペプチドをコードする第1のコード配列若しくは前記第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトと、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む核酸
(b)前記(a)の核酸における、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列を含む前記核酸の領域を増幅可能なプライマーセットであって、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方に、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフが付加されている、プライマーセット
(c)核酸増幅試薬
(d)無細胞タンパク質合成反応液
【0158】
((a)核酸)
(a)の核酸は、任意のペプチドをコードする第1のコード配列若しくは前記第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトと、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼの認識モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む核酸である。これらのコード配列については、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で説明したものと同様である。
【0159】
第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトは、特に限定されず、任意の制限酵素サイトであってよい。前記クローニングサイトは、当該クローニングサイトに第1のコード配列を含む核酸断片が挿入された場合に、第1のコード配列から翻訳されるペプチドのドメインと、第3のコード配列から翻訳される前記トランスペプチダーゼ認識モチーフと、を含むキメラタンパク質であって、トランスペプチダーゼ認識モチーフが、ペプチドドメインのC末端側に位置するキメラタンパク質を発現し得る位置に配置される。すなわち、クローニングサイトは、第3のコード配列と同じORF内であって、第3のコード配列の5’側に配置される。
【0160】
(a)の核酸は、さらに、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、上記<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げたものと同様のものが挙げられる。例えば、前記各コード配列間に任意のスペーサーをコードする配列を含んでいてもよい。また、前記コード配列の発現を制御するプロモーター配列等の制御配列等を含んでいてもよい。
【0161】
(a)の核酸の例としては、5’側から3’側に向かって、第1のコード配列若しくはクローニングサイト、第3のコード配列、及び第2のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸;5’側から3’側に向かって、第2のコード配列、第1のコード配列、及び第3のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸;並びに5’側から3’側に向かって、第1のコード配列若しくはクローニングサイト、第2のコード配列、及び第3のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸、が挙げられる。
【0162】
(a)の核酸の好ましい具体例としては、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で例示した、核酸30a,30b,30c、並びに核酸30a,30b,30cのいずれかにおいて、第1のコード配列をクローニングサイトで置き換えたもの等が挙げられる。
【0163】
(a)の核酸は、プラスミドであってもよい。例えば、大腸菌由来のプラスミド(pBI系、pPZP系、pSMA系、pUC系、pBR系、pBluescript系プラスミド等)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(Yep13、Yep24、YCp50等)等を好適に使用できる。
【0164】
((b)プライマーセット)
(b)のプライマーセットは、(a)の核酸における、第1のコード配列若しくはクローニングサイト、第2のコード配列、及び第3のコード配列を含む領域(以下、「コード配列領域」という場合がある。)を増幅可能なプライマーセットである。当該プライマーのフォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方には、トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフが付加されている。
【0165】
(b)のプライマーセットは、(a)の核酸におけるコード配列領域と合わせて、これらのコード配列の転写及び/又は翻訳を制御する制御配列を含む領域を増幅できることが好ましい。当該領域を増幅可能なプライマーセットは、公知の方法に基づいて、設計することができる。プライマーへのトランスペプチダーゼN末端基質モチーフの付加は、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げた方法と同様の方法で行うことができる。
【0166】
本実施形態のキットにおいて、(b)のプライマーセットは、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方が、固相担体に固定化されていてもよい。この場合、(b)のプライマーセットは、下記(i)~(iv)のいずれかであり得る。
(i)5’末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加されたフォワードプライマーと、5’末端が固相担体に固定化されたリバースプライマーとのセット
(ii)5’末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加されたフォワードプライマーと、5’末端に固相担体に結合性を有する物質が付加されたリバースプライマーとのセット
(iii)5’末端が固相担体に固定化されたフォワードプライマーと、5’末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加されたリバースプライマーとのセット
(iv)5’末端が固相担体に結合性を有する物質が付加されたフォワードプライマーと、5’末端にトランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加されたリバースプライマーとのセット
【0167】
前記(i)及び(iii)において、プライマーを固相担体に固定化する方法としては、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げた方法と同様の方法を挙げるができる。前記(ii)及び(iv)において、固相担体に結合性を有する物質は、特に限定されず、固相担体の種類に応じて適宜選択可能である。例えば、アビジン-ビオチン結合を利用する場合、固相担体をストレプトアビジン修飾し、プライマーにビオチンを結合してもよい。また、プライマーをアミノ基、ホルミル基、SH基、などの官能基で修飾し、固相担体をアミノ基、ホルミル基、エポキシ基などを有するシランカップリング剤で表面処理してもよい。
【0168】
((c)核酸増幅試薬)
(c)の核酸増幅試薬は、PCR等の核酸増幅反応に用いられる試薬であり、好ましくはPCRに用いられる試薬である。具体的には、dNTP及びDNAポリメラーゼが挙げられる。DNAポリメラーゼとしては、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ等の熱安定性DNAポリメラーゼを用いることが好ましく、試験開始前の伸長を防ぐためにホットスタート機能を持つDNAポリメラーゼや、プルーフリーディング(校正)機能を持つDNAポリメラーゼを使用することがより好ましい。これらの試薬は市販されており、容易に入手可能である。
【0169】
((d)無細胞タンパク質合成反応液)
(d)の無細胞タンパク質合成反応液は、無細胞タンパク質合成系に用いられる反応液である。具体例としては、タンパク質合成に必要な成分を含む細胞抽出液等が挙げられる。タンパク質合成に必要な成分としては、例えば、リボソーム;開始因子などの各種因子;tRNA;RNAポリメラーゼ、アミノアシルtRNA合成酵素などの各種酵素等が挙げられる。例えば、大腸菌S30抽出液の系(原核細胞の系)、コムギ胚芽抽出液の系(真核細胞の系)、及びウサギ網状赤血球可溶化物の系(真核細胞の系)等が好適に挙げられる。これらの無細胞タンパク質合成系に必要な試薬は、キットとしても市販されており、容易に入手可能である。
【0170】
≪第2の態様≫
一実施形態において、本発明は、下記(a)~(d)を含む、ペプチド-核酸複合体の作製キットを提供する。
(a)任意のペプチドをコードする第1のコード配列若しくは前記第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトと、前記トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む核酸
(b)前記(a)の核酸における、前記第1のコード配列若しくは前記クローニングサイト、前記第2のコード配列、及び前記第3のコード配列を含む領域を増幅可能なプライマーセットであって、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方に、前記トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加されている、プライマーセット
(c)核酸増幅試薬
(d)無細胞タンパク質合成反応液
【0171】
((a)核酸)
(a)の核酸は、任意のペプチドをコードする第1のコード配列若しくは前記第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトと、トランスペプチダーゼをコードする第2のコード配列と、前記トランスペプチダーゼのN末端基質モチーフをコードする第3のコード配列と、を含む核酸である。これらのコード配列については、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で説明したものと同様である。
【0172】
第1のコード配列を含む核酸断片を挿入可能なクローニングサイトは、特に限定されず、任意の制限酵素サイトであってよい。前記クローニングサイトは、当該クローニングサイトに第1のコード配列を含む核酸断片が挿入された場合に、第1のコード配列から翻訳されるペプチドのドメインと、第3のコード配列から翻訳される前記トランスペプチダーゼN末端基質モチーフと、を含むキメラタンパク質であって、トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが、ペプチドドメインのN末端側に位置するキメラタンパク質を発現し得る位置に配置される。すなわち、クローニングサイトは、第3のコード配列と同じORF内であって、第3のコード配列の3’側に配置される。
【0173】
(a)の核酸は、さらに、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、上記<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げたものと同様のものが挙げられる。例えば、前記各コード配列間に任意のスペーサーをコードする配列を含んでいてもよい。また、前記コード配列の発現を制御するプロモーター配列等の制御配列等を含んでいてもよい。
【0174】
(a)の核酸の例としては、5’側から3’側に向かって、第3のコード配列、第1のコード配列若しくはクローニングサイト、及び第2のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸;5’側から3’側に向かって、第3のコード配列、第2のコード配列、及び第1のコード配列が、この順で、配置された構成を有する核酸、が挙げられる。
【0175】
(a)の核酸の好ましい具体例としては、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で例示した、核酸30d,30e、並びに核酸30d,30eのいずれかにおいて、第1のコード配列をクローニングサイトで置き換えたもの等が挙げられる。
【0176】
(a)の核酸は、さらに、前記第3のコード配列の5’末端に隣接して、プロテアーゼ認識モチーフをコードする第4のコード配列を含んでいてもよい。プロテアーゼ認識モチーフは、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で説明したものと同様である。
【0177】
本実施形態の核酸は、第1の態様における(a)の核酸と同様に、プラスミドであってもよい。プラスミドとしては、第1の態様において挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0178】
((b)プライマーセット)
(b)のプライマーセットは、(a)の核酸における、第1のコード配列若しくはクローニングサイト、第2のコード配列、及び第3のコード配列を含む領域(コード配列領域)を増幅可能なプライマーセットである。当該プライマーのフォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方には、トランスペプチダーゼの認識モチーフが付加されている。
【0179】
(b)のプライマーセットは、(a)におけるコード配列領域と合わせて、これらのコード配列の転写・翻訳を制御する制御配列を含む領域を増幅できることが好ましい。当該領域を増幅可能なプライマーセットは、公知の方法に基づいて、設計することができる。プライマーへのトランスペプチダーゼ認識モチーフの付加は、上記「<ペプチド-核酸複合体の製造方法>」で挙げた方法と同様の方法で行うことができる。
【0180】
本実施形態のキットにおいて、(b)のプライマーセットは、フォワードプライマー及びリバースプライマーのいずれか一方が、固相担体に固定化されていてもよい。この場合、(b)のプライマーセットは、下記(i)~(iv)のいずれかであり得る。
(i)5’末端にトランスペプチダーゼ認識モチーフが付加されたフォワードプライマーと、5’末端が固相担体に固定化されたリバースプライマーとのセット
(ii)5’末端にトランスペプチダーゼ認識モチーフが付加されたフォワードプライマーと、5’末端に固相担体に結合性を有する物質が付加されたリバースプライマーとのセット
(iii)5’末端が固相担体に固定化されたフォワードプライマーと、5’末端にトランスペプチダーゼ認識モチーフが付加されたリバースプライマーとのセット、
(iv)5’末端に固相担体に結合性を有する物質が付加されたフォワードプライマーと、5’末端にトランスペプチダーゼ認識モチーフが付加されたリバースプライマーとのセット
【0181】
前記(i)~(iv)において、プライマーを固相担体に固定化する方法、及び固相担体に結合性を有する物質としては、前記第1の態様において挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0182】
((c)核酸増幅試薬、(d)無細胞タンパク質合成反応液)
(c)の核酸増幅試薬、及び(d)の無細胞タンパク質合成反応液は、前記第1の態様におけるものと同様である。
【0183】
本実施形態のキットは、ペプチド-核酸複合体の製造に、好適に用いることができる。
【実施例】
【0184】
本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明の実施態様は、これら実施例の記載に限定されるものではない。
【0185】
1.ポリリン酸キナーゼを含む核酸-ペプチド複合体
[合成例1]ペンタグリシンが付加されたDNAプライマーの合成
下記組成の反応液を調製し、室温で10分間反応後、Micro Bio-Spin
TM 6(Promega)を用いてゲルろ過精製した。精製物のポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、ペンタグリシンが付加されたDNA(ペンタグリシン標識DNA)のバンドを確認した(
図7)。
【0186】
<反応液の組成>
2μM アジド修飾DNA
200μM アルキン修飾ペンタグリシン
100μM アスコルビン酸ナトリウム
20μM 硫酸銅(II)
50% Tert-ブチルアルコール
【0187】
アジド修飾DNA:5’-[アジド]-CGCCAATCCGGATATAGTTC-3’(配列番号29)
アルキン修飾ペンタグリシン:(N)-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly-Gly(propargyl)-(C)(配列番号43)
【0188】
[合成例2]ペンタグリシン付加されたDNAの合成
下記組成のPCR反応液1及び2を調製し、30サイクル(98℃,10秒;55℃,5秒/72℃,2分)でPCRを行った。PCR産物をQIAquick(登録商標) PCR purification column(QIAGEN)を用いて精製した。PCR反応液1を用いたPCRにより、ペンタグリシンが付加されたDNA(以下、「ぺンタグリシン付加DNA」という)が得られた。PCR反応液2を用いたPCRにより、ペンタグリシンが付加されていないDNA(以下、「ペンタグリシン非付加DNAという)が得られた。
下記PCR反応液で用いた鋳型DNA(配列番号44)の構成を
図8に示す。
図8に示すように、鋳型DNAは、ポリリン酸キナーゼ遺伝子とソルターゼA遺伝子とソルターゼA認識モチーフ(LPETG(配列番号14))コード配列とを含むORFを有している。鋳型DNAにおいて、ソルターゼA認識モチーフ(LPETG(配列番号14))コード配列は、ポリリン酸キナーゼ遺伝子の3’側に位置している。鋳型DNAに含まれるソルターゼ遺伝子Aの塩基配列を配列番号30に示す。
【0189】
<PCR反応液1の組成>
20pg/μL 鋳型DNA
0.3μM ペンタグリシン付加DNAプライマー
0.3μM ビオチン標識DNAプライマー
0.2μM each dNTP Mix
0.025U/μL PrimeSTAR(登録商標) HS polymerase(タカラバイオ)
1xPrimeSTAR(登録商標) buffer(タカラバイオ)
【0190】
<PCR反応液2の組成>
20pg/μL 鋳型DNA
0.3μM ペンタグリシン非付加DNAプライマー
0.3μM ビオチン標識DNAプライマー
0.2μM each dNTP Mix
0.025U/μL PrimeSTAR(登録商標) HS polymerase(タカラバイオ)
1xPrimeSTAR(登録商標) buffer(タカラバイオ)
【0191】
[実験例1]ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズの作製
ストレプトアビジン修飾磁気ビーズ(MS300/streptavidin,JSR)15μLの上清を除去し、30μLの結合バッファー(10mM Tris-HCl,1mM EDTA,1M NaCl,0.05%(w/v)Tween20,pH7.4)で洗浄した。1pmolのペンタグリシン付加DNA又はペンタグリシン非付加DNAを溶解した30μLの結合バッファーに、磁気ビーズを懸濁し、室温で30分間撹拌した。次いで、磁気ビーズを100μLの結合バッファーで3回洗浄した後、磁気ビーズを30μLの結合バッファーに懸濁した。
【0192】
[実験例2]ペンタグリシン付加DNAの無細胞タンパク質翻訳
ペンタグリシン付加DNA又はペンタグリシン非付加DNAを固定化した磁気ビーズ 10μLの上清を除去し、無細胞タンパク質翻訳反応液(PUREfrex(登録商標) 1.0,ジーンフロンティア)10μLに懸濁した。37℃で3時間撹拌した後、磁気ビーズを100μLの結合バッファーで3回洗浄した。次いで、磁気ビーズを100μLの50mM Tris-HCl(pH7.5)で3回洗浄した後、10μLの50mM Tris-HCl(pH7.5)に懸濁した。
【0193】
[実験例3]ポリリン酸キナーゼ活性測定
無細胞タンパク質翻訳の処理を行った磁気ビーズ 10μL、酵素反応溶液(1mM ヘキサメタリン酸,0.1mM ADP,5mM MgSO4,50mM Tris-HCl,pH7.5)25μL、及びATP蛍光検出試薬(ATP Colorimetric/Fluorometric Assay Kit,BioVision,Inc.)25μLを混合し、ポリリン酸キナーゼの触媒反応の結果生じるATPに由来する蛍光シグナルを、蛍光プレートリーダーを用いて経時的に測定した。
【0194】
結果を
図9に示す。ペンタグリシン付加DNAを固定化した磁気ビーズでは、ポリリン酸キナーゼ活性が確認された。この結果は、ペンタグリシン付加DNAを固定化した磁気ビーズでは、ペンタグリシン付加DNAから無細胞翻訳されたポリリン酸キナーゼが、ビーズに固定化されていること示している。一方、ペンタグリシン非付加DNAを固定化した磁気ビーズでは、ビーズへの非特異的吸着によるものと思われる僅かなポリリン酸キナーゼ活性しか確認されなかった。
以上の結果より、ソルターゼAN末端基質モチーフが付加されたDNA(任意遺伝子、ソルターゼA遺伝子、及びソルターゼA認識モチーフを含む)を無細胞タンパク質翻訳することにより、任意遺伝子DNAに当該任意遺伝子から翻訳されたタンパク質を連結できることが実証された。
【0195】
2.CP05又はプロテインキナーゼインヒビター(PKI)を含む核酸-ペプチド複合体
[合成例3]ペンタグリシン付加されたDNAの合成(CP05遺伝子)
鋳型DNAとして、CP05ペプチド遺伝子(配列番号45、46)の5’末端にFactor Xaプロテアーゼ認識モチーフ(配列番号28)コード配列を連結したDNA(Xaモチーフ-CP05)を含むものを用いた。当該鋳型DNA(配列番号47)は、
図8に示す鋳型DNAにおいて、ポリリン酸キナーゼ遺伝子に代えて、Xaモチーフ-CP05を有する。CP05ペプチドの
前記鋳型DNAを用いたこと以外は、前記合成例1及び合成例2と同様に、ペンタグリシン付加されたDNAを合成した。
【0196】
[合成例4]ペンタグリシン付加されたDNAの合成(PKI遺伝子)
鋳型DNAとして、PKI遺伝子(配列番号48、49)の5’末端にFactor Xaプロテアーゼ認識モチーフ(配列番号28)コード配列を連結したDNA(Xaモチーフ-PKI)を含むものを用いた。当該鋳型DNA(配列番号50)は、
図8に示す鋳型DNAにおいて、ポリリン酸キナーゼ遺伝子に代えて、Xaモチーフ-PKIを有する。
前記鋳型DNAを用いたこと以外は、前記合成例1及び合成例2と同様に、ペンタグリシン付加されたDNAを合成した。
【0197】
[実験例4]ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズの作製
前記合成例3又は合成例4で合成したペンタグリシン付加されたDNAを用いたこと以外は、前記実験例2と同様に、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズ、及びペンタグリシン非付加DNA固定化磁気ビーズを作製した。
【0198】
[実験例5]ペンタグリシン付加DNAの無細胞タンパク質翻訳
ペンタグリシン付加DNA又はペンタグリシン非付加DNAを固定化した磁気ビーズ 15μLの上清を除去し、無細胞タンパク質翻訳反応液(PUREfrex(登録商標) 1.0,ジーンフロンティア)15μLに懸濁した。37℃で3時間撹拌した後、磁気ビーズを100μLのPBS-Tで5回洗浄した。次いで、磁気ビーズを100μLのPBS-Tに懸濁した。
【0199】
[実験例6]抗体染色
磁気ビーズ懸濁液25μLの分散媒を除去し、磁気ビーズを下記(a)~(c)のいずれかの溶液に懸濁した。
(a)PBS-Tで希釈したFITC標識抗cMyc抗体溶液(abcam#ab117599) 15μL。
(b)PBS-Tで希釈したFITC標識抗IsotypeControl抗体溶液(abcam#ab91356) 15μL。
(c)PBS-Tのみ 15μL。
【0200】
磁気ビーズを懸濁後、遮光下、室温で、1時間撹拌した。次いで、磁気ビーズを100μLのPBS-Tで3回洗浄した。次いで、磁気ビーズを100μLのPBSで1回洗浄した。次いで、磁気ビーズを15μLのPBSに懸濁し、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse Ti-E,浜松ホトニクスEM-CCDカメラ,B-2Aフィルター,キセノンランプ)で観察した。蛍光顕微鏡の撮像画像から、磁気ビーズの蛍光強度をImageJで解析した。
【0201】
結果を
図10及び
図11に示す。
図10に示すように、ペンタグリシン付加DNA固定化ビーズでは、FITC標識抗cMyc抗体を反応させた場合、蛍光強度が増強した。一方、ペンタグリシン非付加DNA固定化ビーズでも、FITC標識抗cMyc抗体を反応させた場合に、蛍光強度が若干増強したが、増強の程度は、ペンタグリシン付加DNA固定化ビーズと比較して小さかった。
図11は、各磁気ビーズの蛍光顕微鏡写真を示す。
図10及び
図11の結果より、ペンタグリシン付加DNA固定化ビーズでは、ビーズに固定されたcMycタグコード配列を含むDNAに、cMycタグを含むタンパク質が連結していると推測された。そのため、FITC標識抗cMyc抗体を反応させることにより、蛍光強度が大きく増強したと考えられた。
【0202】
3.ペプチドアレイの作製
前記実験例2で作製した核酸-ペプチド複合体固定化磁気ビーズを用いて、ペプチドアレイの作製を行った。実験例2で無細胞タンパク質翻訳処理した後の磁気ビーズ5μLを、酵素反応溶液(3.3mM ヘキサメタリン酸,0.33mM ADP,16.7mM MgSO4)9μL、及びATP蛍光検出試薬(ATP Colorimetric/Fluorometric Assay Kit,BioVision,Inc.)15μLと混合した。
直径4μm、深さ4μmの穴が1cm角に100万個形成された石英ガラス製チップに、前記で調製した磁気ビーズ懸濁液を滴下し、各ウェルを磁気ビーズ及びビーズ分散媒で満たした。チップ表面を、シリコーンオイル(信越化学,KF96-100cs)で被覆して各ウェルを密閉した。その後、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse Ti-E,浜松ホトニクスEM-CCDカメラ,Cy3フィルター,キセノンランプ)でタイムラプス撮影を行い、各ウェルの蛍光輝度上昇を観察した。各ウェルの蛍光輝度変化の解析は、ImageJで行った。
【0203】
結果を
図12A及び
図12Bに示す。蛍光輝度の上昇は、核酸-ペプチド複合体固定化磁気ビーズが充填されたウェルでのみ観察された。この結果により、本方法で作製した核酸-ペプチド複合体固定化磁気ビーズを用いて、ペプチドアレイが作製できることが確認された。
【0204】
4.PKIを含む核酸-ペプチド複合体のプロテインキナーゼA(PKA)阻害活性
[実験例7]ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズの作製
前記合成例4で合成したペンタグリシン付加DNA(PKI遺伝子含有)を用いたこと以外は、前記実験例2と同様に、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズを作製した。陰性対照磁気ビーズとして、前記合成例3で合成したペンタグリシン付加DNA(CD05遺伝子含有)を用いて、前記実験例2と同様に、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズを作製した。
【0205】
[実験例8]ペンタグリシン付加DNAの無細胞タンパク質翻訳
15μLのペンタグリシン付加DNA(PKI遺伝子含有)固定化磁気ビーズ若しくは15μLのペンタグリシン付加DNA(CD05遺伝子含有)固定化磁気ビーズの上清を除去し、無細胞タンパク質翻訳反応液(PUREfrex(登録商標) 1.0,ジーンフロンティア)15μLに懸濁した。37℃で3時間撹拌した後、磁気ビーズを100μLの結合バッファーで5回洗浄した。次いで、磁気ビーズを100μLの1×PKAバッファー(40mM Tris-HCl(pH7.5),20mM MgCl2,0.1mg/mL BSA)で5回洗浄した。次いで、磁気ビーズを3μLの1×PKAバッファーに懸濁した。
【0206】
[実験例9]PKA阻害活性測定
無細胞タンパク質翻訳処理した後の磁気ビーズ3μL、キナーゼ反応液7μL、及び2×RT検出液(Fluorospark(登録商標),富士フィルム和光)15μLを混合した。次いで、プロテインキナーゼAの触媒反応の結果生じるADPに由来する蛍光シグナルを、蛍光プレートリーダーを用いて測定した。
【0207】
キナーゼ反応液の組成を以下に示す。
<キナーゼ反応液>
0.06mU/μL Protein kinase A(SignalChem, #p51-10G)
5μM ATP
100μM Kemptide (Promega, V5601)
3.6×PKA buffer
【0208】
蛍光シグナルの測定条件を以下に示す。
30℃、60分
励起光:540BP20nm
蛍光:590BP20nm
【0209】
結果を
図13に示す。PKIを含む核酸-ペプチド複合体固定化ビーズでは、蛍光強度が低いまま維持された。PKIを含む核酸-ペプチド複合体固定化ビーズでは、陽性対照として、PKA反応液に、10μMのPKIを添加した場合とほぼ同じ蛍光強度に維持された。
一方、陰性対照磁気ビーズでは、反応時間の経過とともに、蛍光強度が上昇した。陰性対照磁気ビーズの蛍光強度は、PKIを添加しないPKA反応液とほぼ同等の上昇を示した。
これらの結果から、PKIを含む核酸-ペプチド複合体固定化ビーズでは、PKI核酸-PKIペプチドの複合体が形成されていることが確認された。
【0210】
5.CP05を含む核酸-ペプチド複合体のエクソソーム結合活性
[実験例10]ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズの作製
前記合成例3で合成したペンタグリシン付加DNA(CP05遺伝子含有)を用いたこと以外は、前記実験例2と同様に、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズ及びペンタグリシン非付加DNA固定化磁気ビーズを作製した。
【0211】
[実験例11]ペンタグリシン付加DNAの無細胞タンパク質翻訳
15μLのペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズの上清を除去し、無細胞タンパク質翻訳反応液(PUREfrex(登録商標) 1.0,ジーンフロンティア)15μLに懸濁した。37℃で3時間撹拌した後、磁気ビーズを100μLの結合バッファーで5回洗浄した。次いで、磁気ビーズを100μLのFactor Xaバッファー(20mM Tris-HCl(pH7.5),100mM NaCl)で1回洗浄した。次いで、磁気ビーズをFactor Xaバッファーに懸濁した。
【0212】
[実験例12]Factor Xaプロテアーゼ処理
磁気ビーズ懸濁液30μLに、Factor Xaプロテアーゼ(Promega)1μLを添加し、25℃で17時間攪拌した。
実験例11の無細胞タンパク質翻訳処理により、ペンタグリシン付加DNAから、cMycタグ-Factor Xaプロテアーゼ認識モチーフ-CP05-LPETG-ソルターゼAのキメラタンパク質が翻訳される。次いで、ソルターゼAによるペプチド転移反応により、ペンタグリシン付加DNAに、cMycタグ-Factor Xaプロテアーゼ認識モチーフ-CP05-LPETGが連結されて、ペプチド-核酸複合体が形成される。このペプチド-核酸複合体に、Factor Xaプロテアーゼを作用させると、Factor Xaプロテアーゼ認識モチーフで切断される。その結果、ペプチド-核酸複合体からcMycタグが切り離される。
【0213】
[実験例13]蛍光標識細胞外小胞(Extracellular Vesicles:EV)の調製
ヒト血漿150μLを遠心(1500×g,10分,25℃)し、上清を回収した。回収した上清を心(3000×g,10分,25℃)し、上清を回収した。回収した上清をさらに遠心(3000×g,10分,25℃)し、上清を回収した。次いで、回収した上清をExosome spin Column(Thermo Fischer Scientific)で精製した。次いで、精製サンプルを限外濾過カラム(MWCO 100K)で100μLに濃縮した。これに、PKH67(Sigma-Aldrich)を添加(終濃度2μM)し、遮光下、室温で、10分間反応させた。反応後、反応液をExosome Spin Column (Thermo Fischer Scientific)で精製した。精製したサンプルを蛍光標識EVとして用いた。
【0214】
[実験例14]蛍光標識EVサンプルとの反応及び蛍光顕微鏡観察
実験例12でFactor Xaプロテアーゼ処理した磁気ビーズを100μLのPBS-Tで5回洗浄した。次いで、磁気ビーズを15μLのPBS-Tに懸濁した。磁気ビーズ懸濁液から7.5μLの分散媒を除去し、実験例13で調製した蛍光標識EVサンプル50μLに、懸濁した。次いで、遮光下、室温で、1時間攪拌した。次いで、磁気ビーズを100μLのPBSで4回洗浄した。次いで、磁気ビーズを15μLのPBSに懸濁した。
【0215】
上記で調製した磁気ビーズ懸濁液を、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse Ti-E,浜松ホトニクスEM-CCDカメラ,B-2Aフィルター,キセノンランプ)で観察した。撮像画像から、磁気ビーズの蛍光強度をImageJで解析した。
【0216】
結果を
図14A及び
図14Bに示す。CP05は、EVの表面抗原であるCD63に対する結合性を有する。そのため、CP05を提示するペプチド-核酸複合体が形成されている場合には、CP05に蛍光標識EVが結合し、蛍光が観察されるはずである。
図14A及び
図14Bに示すように、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズでは、DNA非固定化磁気ビーズ及びペンタグリシン非付加DNA固定化磁気ビーズと比較して、高い蛍光強度を示した。この結果は、ペンタグリシン付加DNA固定化磁気ビーズでは、CP05を提示するペプチドー核酸複合体が形成されていることを示す。
【0217】
6.エマルションPCRによるペプチド-核酸複合体の作製
[実験例15]プライマー固定化ビーズの調製
ストレプトアビジン修飾磁気ビーズ(MS300/streptavidin,JSR)240μLの上清を除去し、1200μLの結合バッファー(10mM Tris-HCl,1mM EDTA,1M NaCl,0.05%(w/v)Tween20,pH7.4)で洗浄した。48pmolのビオチン標識DNAプライマーを溶解した、480μLの結合バッファーに、磁気ビーズを懸濁し、室温で1時間撹拌した。次いで、磁気ビーズを1200μLの結合バッファーで1回洗浄した。次いで、磁気ビーズを240μLの1×buffer for KOD Plus polymerase(東洋紡)で2回洗浄した。次いで、磁気ビーズを240μLの1×buffer for KOD Plus polymerase(東洋紡)に懸濁した。
【0218】
[実験例16]エマルションPCR
下記組成のPCR反応液3とオイル混合液1とを混合し、攪拌してエマルションを形成した。これを50μLずつ分注してPCRを行った。PCR条件は、95℃,5分、(94℃,30秒;55℃,1分;68℃,6分)で30サイクルとし、PCR反応後は、10℃で維持した。鋳型DNAは、前記合成例2と同じものを用いた。
【0219】
<PCR反応液3の組成>
プライマー結合磁気ビーズ 2.4e8粒子
鋳型DNA 1.2e8分子
ペンタグリシン付加DNAプライマー 180 pmol
DNAプライマー 180 pmol
2mM dNTP Mix 30μL
25mM MgSO4 18μL
10×KOD plus buffer(東洋紡) 30μL
1U/μL KOD plus polymerase(東洋紡) 12μL
Nuclease Free Water, up to 300μL
合計 300μL
【0220】
<オイル混合液1>
TEGOSOFT DEC(Evonik) 540μL
ミネラルオイル(ナカライテスク) 204μL
ABIL WE09(Evonik) 756μL
合計 1500μL
【0221】
PCR後、破砕バッファー(80% イソプロパノール,0.6M酢酸ナトリウム(pH5.2),1% Tween20)7.6mLを加えて混合した。磁石を用いて磁気ビーズを集め、上清を除去した。次いで、磁気ビーズを、TKバッファー(10mM Tris-HCl(pH7.5),50mM KCl,0.01% Tween20)4mLで5回洗浄した。磁気ビーズ上のPCR産物をSYBR Green Iで染色し、二本鎖DNA結合磁気ビーズをFACS(BD,FACSArea使用)で分取した。
【0222】
[実験例17]エマルション無細胞タンパク質翻訳
下記組成の無細胞タンパク質翻訳液及びオイル混合液2を混合し、攪拌してエマルションを形成した。37℃で、3時間反応した。陰性対照実験として、DNA未固定の磁気ビーズを用いて、同様の処理を行った。
【0223】
<無細胞タンパク質翻訳液>
エマルションPCRを行った磁気ビーズ5e6粒子をPUREfrex1.0反応溶液63μLに懸濁したものを無細胞タンパク質翻訳液として用いた。
【0224】
<オイル混合液2>
TEGOSOFT DEC(Evonik) 113μL
ミネラルオイル(ナカライテスク) 43μL
ABIL WE09(Evonik) 159μL
合計 315μL
【0225】
無細胞タンパク質翻訳反応後、破砕バッファー750μLを加えて混合した。磁石を用いて磁気ビーズを集め、上清を除去した。磁気ビーズを、破砕バッファー1.9mLで3回洗浄した。次いで、磁気ビーズを、洗浄バッファー250μLで5回洗浄した。次いで、磁気ビーズを、Tris-HCl(pH7.5)250μLで1回洗浄した。次いで、磁気ビーズを、Tris-HCl(pH7.5)6μLに懸濁した。
【0226】
[実験例18]ポリリン酸キナーゼ活性測定
無細胞タンパク質翻訳の処理を行った磁気ビーズ6μL、酵素反応溶液(3.3mMヘキサメタリン酸,0.33mM ADP,16.7mM MgSO4)9μL、及びATP蛍光検出試薬(ATP Colorimetric/Fluorometric Assay Kit,BioVision,Inc.)15μLを混合し、ポリリン酸キナーゼの触媒反応の結果生じるATPに由来する蛍光シグナルを、蛍光プレートリーダーを用いて経時的に測定した。
【0227】
結果を
図15に示す。ペンタグリシン付加DNAを固定化した磁気ビーズでは、ポリリン酸キナーゼ活性が確認された。この結果は、ペンタグリシン付加DNAを固定化した磁気ビーズでは、ペンタグリシン付加DNAから無細胞翻訳されたポリリン酸キナーゼが、ビーズに固定化されていること示している。一方、ペンタグリシン非付加DNAを固定化した磁気ビーズでは、ビーズへの非特異的吸着によるものと思われる僅かなポリリン酸キナーゼ活性しか確認されなかった。
以上の結果より、エマルションPCR及びエマルション無細胞タンパク質翻訳を用いた場合も、上記実験例1及び実験例2と同様に、任意遺伝子DNAに当該任意遺伝子から翻訳されたタンパク質を連結できることが実証された。
【符号の説明】
【0228】
10 ペプチド
20 トランスペプチダーゼ
21 トランスペプチダーゼN末端基質モチーフ
22 トランスペプチダーゼ認識モチーフ
22’ トランスペプチダーゼ認識モチーフの切断により生じる配列
22’ トランスペプチダーゼ認識モチーフの切断により生じる配列
30a,30b,30c,30d,30e 核酸
40 プロテアーゼ
100,200,300 トランスペプチダーゼN末端基質モチーフが付加された核酸(NS付加核酸)
101,201,301,401,401’,501,501’ キメラタンパク質
102,202,302,402,502 ペプチド-核酸複合体
103,203,303,403,503 ペプチド転移反応生成物
400,400’,500,500’ トランスペプチダーゼ認識モチーフが付加された核酸(TPR付加核酸)
【配列表】