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特許7416716円柱上皮幹細胞のための幹細胞培養系およびそれに関連した使用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】円柱上皮幹細胞のための幹細胞培養系およびそれに関連した使用法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20240110BHJP
   C12N 5/095 20100101ALN20240110BHJP
【FI】
C12N5/074 ZNA
C12N5/095
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020555734
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 US2018067858
(87)【国際公開番号】W WO2019133810
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】62/611,176
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/724,937
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520232699
【氏名又は名称】トラクト ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】511248249
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ヒューストン システム
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マッケオン フランク
(72)【発明者】
【氏名】デュレバ マルチン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセント マシュー ピー.
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-513469(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043604(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/079146(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170849(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0273055(US,A1)
【文献】Nature, 2015, Vol.522, pp.173-178, Supplementary Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
A61K 35/00-35/768
CAPLUS/WPIDS/REG/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱上皮組織から上皮幹細胞を単離するための方法であって、以下:
(i)上皮幹細胞コロニーを形成するために、円柱上皮組織試料に由来する解離した上皮細胞を培養する工程であって、解離した細胞および細胞コロニーが、ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤、Wntアゴニスト R-スポンディン1、上皮増殖因子(EGF)、インスリン(もしくはインスリン模倣物)またはIGF、野生型BRAFまたは変異型BRAFの生物学的活性を選択的に阻害する薬剤、VEGF受容体阻害剤、ニコチンアミド、ノッチアゴニスト ジャギド-1、TGFβ受容体阻害剤、および骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニスト ノギンを含む培地において培養される、工程;
(ii)細胞コロニーから単一上皮幹細胞を単離する工程;ならびに
(iii)精製された上皮幹細胞クローンの培養物を形成するために、工程(ii)からの単離された単一上皮幹細胞を個々に培養する工程であって、
上皮幹細胞クローンの各々が、円柱上皮組織試料中に存在する上皮幹細胞のクローン増大を表す、工程
を含み、それによって、上皮幹細胞を単離する、方法。
【請求項2】
円柱上皮組織試料に由来する細胞が、分裂不活性フィーダー細胞と、流体中でまたは直接、接触している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
円柱上皮組織試料に由来する細胞が、細胞外マトリックスまたは合成マトリックスと接触している、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
培地が、Oct4プロモーターによって駆動される遺伝子の転写を活性化することができる薬剤、選択的PDGFRα/β阻害剤、およびc-Junのリン酸化を阻害する選択的JNK阻害剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
培地がフィーダー細胞を含まない、請求項4記載の方法。
【請求項6】
円柱上皮組織試料に由来する細胞が、(細胞外マトリックスなどの)バイオマトリックス、または合成マトリックスと接触している、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
上皮幹細胞が、正常円柱上皮組織から採取された組織試料から単離される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
上皮幹細胞が、炎症または自己免疫の患者に由来するような罹患円柱上皮組織から採取された組織試料から単離される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
上皮幹細胞が、腫瘍から採取された円柱上皮組織試料から単離される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項記載の方法によって円柱上皮組織試料から単離された上皮幹細胞の少なくとも106個の子孫細胞を含む幹細胞培養物であって、
子孫細胞が、上皮幹細胞であり、組織試料から単離された上皮幹細胞のエピジェネティック形質および遺伝形質を維持している、幹細胞培養物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項記載の方法によって円柱上皮組織試料から単離された上皮幹細胞の継代数10(P10)以上の子孫細胞を含む幹細胞培養物であって、
子孫細胞が、上皮幹細胞であり、組織試料から単離された上皮幹細胞のエピジェネティック形質および遺伝形質を維持している、幹細胞培養物。
【請求項12】
円柱上皮幹細胞を単離し、培養物中での多数の継代の間、そのエピジェネティクスを安定的に維持するための限定培養培地であって、
ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;Wntアゴニスト R-スポンジン1;上皮増殖因子(EGF);インスリン(もしくはインスリン模倣物)またはIGF;野生型BRAFまたは変異型BRAFの生物学的活性を選択的に阻害する薬剤;VEGF受容体阻害剤;ニコチンアミド;ノッチアゴニスト ジャギド-1、TGFβ受容体阻害剤;および骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニスト ノギンを含み、共培養されたフィーダー細胞の存在下で、円柱上皮組織起源の上皮幹細胞のエピジェネティック的に安定的な成長および増殖を支持する、限定培養培地。
【請求項13】
請求項12記載の培養培地を利用してまたは請求項1~9のいずれか一項記載の方法によって単離されたクローン円柱上皮幹細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年12月28日出願の米国仮特許出願第62/611,176号、および2018年8月30日出願の米国仮特許出願第62/724,937号に基づく優先権を主張する。これらの出願の内容全体が参照によって本明細書中に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
初代細胞、具体的には、幹/前駆細胞集団の単離および長期増大は、発生生物学および幹細胞生物学を含む様々な生物学の領域ならびに医科学における基礎的な重要な基本技術である。上皮組織内の細胞は、高度に再生性であり、多くのヒトのがんおよび炎症性/自己免疫疾患に過度に関係する。上皮細胞には、扁平、円柱、および立方という3種の主な形がある。これらは、単層扁平上皮、単層円柱上皮、単層立方上皮、多列上皮として、単細胞の層に配置される場合もあれば、重層(多層)扁平上皮、重層(多層)円柱上皮、または重層(多層)立方上皮として、2細胞以上の厚さの層に配置される場合もある。全ての腺が、上皮細胞から構成されている。上皮細胞の機能には、分泌、選択的吸収、保護、経細胞輸送、および感知が含まれる。例示すると、腸上皮は、胃腸管の小腸および大腸(結腸)の両方の管腔表面または裏打ちを形成する細胞の層である。それは、単純円柱上皮から構成される。それは、有益物質の吸収および有害物質に対する障壁の提供という二つの重要な機能を有する。いくつかの疾患および状態は、腸上皮の機能障害によって引き起こされ、いくつかの疾患および状態は、これらの細胞に関する問題を引き起こし、次いで、それがさらなる合併症をもたらす。
【0003】
胃腸管、膵臓、肝臓、およびその他の円柱上皮の幹細胞は、集合的に、要素状態でのクローニングに抵抗する。初代細胞、具体的には、幹/前駆細胞集団の単離および長期増大は、発生生物学および幹細胞生物学を含む様々な生物学の領域ならびに医科学における基礎的な重要な基本技術である。重層上皮組織および円柱上皮組織の細胞は、高度に再生性であり、多くのヒトがんに過度に関係するが、成体幹細胞のクローニングは、これらの細胞を未熟状態で維持することが困難であるため、限定されている。
【0004】
胚性幹細胞(ESC)および誘導多能性幹細胞(iPSC)は、再生医学のための長期的な見込みのある戦略であるが、奇形腫のリスク、系統特異性のための複雑なガイドプロトコル、および最終的に生成された系統の限定された再生能力を含む、困難な課題に直面している。Muller et al.Development(1993)118:1343-51(非特許文献1);Helgason et al.Blood(1996)87:2740-9(非特許文献2);Bonde et al.Transplantation(2008)86:1803-9(非特許文献3);Iuchi et al.PNAS(2006)103:1792-7(非特許文献4);Amabile et al.Blood(2013)121:1255-64(非特許文献5);およびSuzuki et al.Mol Ther(2013)21:1424-31(非特許文献6)。iPSCの成功および見込みは、再生性組織に固有の幹細胞を利用する努力に大きい影を落としている。Greenらは、生着時に重層上皮を形成する表皮幹細胞をクローニングする方法を開発し、これらの方法は、角膜、胸腺、および気道の上皮に成功裡に適用された。Rama et al.NEJM(2010)363:147-155(非特許文献7);Senoo et al.Cell(2007)129:523-536(非特許文献8);およびKumar et al.Cell(2011)147:525-538(非特許文献9)。しかしながら、円柱上皮組織の幹細胞は、増殖性増大中に未熟性を維持するようなクローニングに抵抗し、その代わり、再生性の分化する「オルガノイド」として進展せざるを得ない。Matsuura et al.Stem Cells(2006)24:624-630(非特許文献10);Sato et al.Nature(2009)459:262-5(非特許文献11);Ootani et al.Nat Med(2009)15:701-706(非特許文献12);Sato et al.Nature(2011)469:415-418(非特許文献13);Fordham et al.Cell Stem Cell(2013)13:734-744(非特許文献14);およびMiddendorp et al.Stem Cells(2014)32:1083-1091(非特許文献15)。再生医学における明確な可能性および絶え間ない改善(Yin et al.Nat Methods(2014)11:106-112(非特許文献16))にも関わらず、オルガノイド中のクローン原性細胞の極めて低い百分率は、増殖の動力学を制限し、基本的な幹細胞を探究するための利用可能性も制限する。
【0005】
罹患上皮組織(即ち、がん、または例えばIBD、喘息、COPD等の炎症性疾患)から幹細胞を単離する限定された能力も、等しく問題である。ヒトがんの大多数が、上皮組織に由来する。がん幹細胞(「CSC」)という概念が1990年代後期に導入されて以来、それは、腫瘍の開始、増殖、最終的には、薬剤耐性の基礎となる機序として受け入れられるようになった。これらの幹細胞は、より良性の型のがんの、より侵襲性の型への進行の機序的な説明を助けるため、がんの研究および治療の全てのアプローチに影響を及ぼした。抗がん薬の大多数が、標的指向薬物、化学療法、および放射線治療を含む既存のがん治療に対してしばしば抵抗性である重要なCSCを排除することができないため、腫瘍細胞の大部分を死滅させるものの、最終的には、持続的な臨床応答を誘導することができない。生存CSCは、新しい腫瘍および転移を発生させ、疾患の再発を引き起こす。再発性腫瘍は、より悪性なり、急速に蔓延するようになり、放射線治療および以前に使用された薬物に対して抵抗性になり、そのため、がん患者の予後を不良にする。
【0006】
複雑にする要因は、多くの腫瘍が、ある範囲の腫瘍促進活性およびある範囲の薬物感受性を表す、CSCの不均一な集団を含有していると考えられることである。従って、CSCまたは不均一なCSC集団からのCSCのサブセットの特別な生存は、多くの治療失敗の説明を提供し、がん治療の増強のための新しい方向性を強調することができた。持続的な臨床応答をもたらすことができる真に有効な処置を開発するためには、CSCを標的とし死滅させることができる薬物を開発することが重要である。腫瘍を形成し永続させる能力が異なる別個の腫瘍細胞亜集団の同定、単離、および照合を容易にする技術的進歩のため、CSCは最近正確に同定され始めたばかりである。従って、薬物スクリーニングにおいて有用であるため、円柱上皮CSCの単離ならびに安定的な継代および増大のための方法および試薬が必要とされている。
【0007】
患者特異的な診断および処置の戦略(例えば、炎症性疾患および化生/腫瘍)のため、または再生医学のため、患者毎の過程において行われるために十分にスケーラブルであり、効率的であり、最終的に、入手可能であるよう、培養物中での増大および継代の繰り返しの間、組織生検材料中に存在していた時の幹細胞のエピジェネティックメモリを保存し、インビボ特徴を忠実に保存する条件の下で、特に、小さい生検材料から、円柱上皮幹細胞を迅速に単離/クローニングするための系および試薬を提供することが、本発明の目的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Muller et al.Development(1993)118:1343-51
【文献】Helgason et al.Blood(1996)87:2740-9
【文献】Bonde et al.Transplantation(2008)86:1803-9
【文献】Iuchi et al.PNAS(2006)103:1792-7
【文献】Amabile et al.Blood(2013)121:1255-64
【文献】Suzuki et al.Mol Ther(2013)21:1424-31
【文献】Rama et al.NEJM(2010)363:147-155
【文献】Senoo et al.Cell(2007)129:523-536
【文献】Kumar et al.Cell(2011)147:525-538
【文献】Matsuura et al.Stem Cells(2006)24:624-630
【文献】Sato et al.Nature(2009)459:262-5
【文献】Ootani et al.Nat Med(2009)15:701-706
【文献】Sato et al.Nature(2011)469:415-418
【文献】Fordham et al.Cell Stem Cell(2013)13:734-744
【文献】Middendorp et al.Stem Cells(2014)32:1083-1091
【文献】Yin et al.Nat Methods(2014)11:106-112
【発明の概要】
【0009】
一つの局面において、本発明は、
(1)幹細胞コロニーを形成するために、円柱上皮組織試料に由来する解離した上皮細胞を培養する工程であって、解離した細胞および細胞コロニーが、
(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリン(もしくはインスリン模倣物)またはIGF;(e)BRAF阻害剤;および(f)VEGF阻害剤を含み、
任意で、ニコチンアミドをさらに含み;
任意で、ノッチアゴニストをさらに含み;
任意で、Oct4活性化剤をさらに含み;
任意で、PDGFRα/β阻害剤、好ましくは、選択的PDGFRα/β阻害剤をさらに含み;
任意で、JNK阻害剤をさらに含み;
任意で、TGFβシグナリング経路阻害剤(例えば、TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤)をさらに含み;
任意で、骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストをさらに含む培地において培養され、
組織試料に由来する細胞が、任意で、分裂不活性フィーダー細胞と、流体中でもしくは直接、接触しているか、またはフィーダー細胞の非存在下で培養され;
組織試料に由来する細胞が、任意で、(基底膜マトリックスなどの)細胞外マトリックス、またはその他のバイオマトリックスまたは合成マトリックスと接触している、工程;
(2)細胞コロニーから単一幹細胞を単離する工程、ならびに
(3)培地中で、(任意で)フィーダー細胞および/または基底膜マトリックスと接触している、精製された幹細胞クローンの培養物を形成するために、工程(2)からの単離された単一幹細胞を個々に培養する工程;
であって、幹細胞クローンの各々が、円柱上皮組織試料中に存在する上皮幹細胞のクローン増大を表す、工程
を含み、それによって、円柱上皮幹細胞を単離する、
上皮組織、好ましくは、円柱上皮組織、例えば、正常組織または罹患組織から幹細胞を単離する方法
を提供する。
【0010】
ある種の好ましい態様において、培地は、(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリンまたはIGF;(e)BRAF阻害剤;(f)VEGF阻害剤;(g)ニコチンアミド;および(h)ノッチアゴニストを含む。
【0011】
ある種の好ましい態様において、培地は、(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリンまたはIGF;(e)BRAF阻害剤;(f)VEGF阻害剤;(g)ニコチンアミド;および(h)ノッチアゴニストを含み、組織試料に由来する細胞は、分裂不活性フィーダー細胞と、流体中でまたは直接、接触している。
【0012】
ある種の好ましい態様において、培地は、(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリンまたはIGF;(e)BRAF阻害剤;(f)VEGF阻害剤;(g)ニコチンアミド;(h)ノッチアゴニスト;(i)TGFβシグナリング経路阻害剤(例えば、TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤);および(j)骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストを含む。
【0013】
ある種の好ましい態様において、培地は、(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリンまたはIGF;(e)BRAF阻害剤;(f)VEGF阻害剤;(g)ニコチンアミド;(h)ノッチアゴニスト;(i)TGFβシグナリング経路阻害剤(例えば、TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤);および(j)骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストを含み、組織試料に由来する細胞は、分裂不活性フィーダー細胞と、流体中でまたは直接、接触している。
【0014】
ある種の好ましい態様において、培地は、(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリンまたはIGF;(e)BRAF阻害剤;(f)VEGF阻害剤;(g)ニコチンアミド;(h)ノッチアゴニスト;(i)TGFβシグナリング経路阻害剤(例えば、TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤);(j)骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニスト;(k)Oct4活性化剤;(l)PDGFRα/β阻害剤、好ましくは、選択的PDGFRα/β阻害剤;および(m)JNK阻害剤を含む。
【0015】
ある種の好ましい態様において、培地は、(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリンまたはIGF;(e)BRAF阻害剤;(f)VEGF阻害剤;(g)ニコチンアミド;(h)ノッチアゴニスト;(i)TGFβシグナリング経路阻害剤(例えば、TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤);(j)骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニスト;(k)Oct4活性化剤;(l)PDGFRα/β阻害剤、好ましくは、選択的PDGFRα/β阻害剤;および(m)JNK阻害剤を含み、組織試料に由来する細胞は、分裂不活性フィーダー細胞と、流体中でまたは直接、接触している。
【0016】
ある種の好ましい態様において、培地は、(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリンまたはIGF;(e)BRAF阻害剤;(f)VEGF阻害剤;(g)ニコチンアミド;(h)ノッチアゴニスト;(i)TGFβシグナリング経路阻害剤(例えば、TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤);(j)骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニスト;(k)Oct4活性化剤;(l)PDGFRα/β阻害剤、好ましくは、選択的PDGFRα/β阻害剤;および(m)JNK阻害剤を含み、培養系は、フィーダー細胞を含まない(即ち、組織試料に由来する細胞およびその子孫のみを含む)。
【0017】
「フィーダー細胞を含まない」という語句は、本明細書中で使用されるように、フィーダー細胞を欠いている培養培地および/もしくは細胞培養物、ならびに/またはそれらによって生成された条件培地をさす。
【0018】
一つの局面において、本発明は、
(1)幹細胞コロニーを形成するために、円柱上皮組織試料に由来する解離した上皮細胞を培養する工程であって、解離した細胞および細胞コロニーが
(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)インスリンまたはIGF;(e)BRAF阻害剤;および(f)VEGF阻害剤
を含み、
任意で、ニコチンアミドをさらに含み;
任意で、ノッチアゴニストをさらに含み;
任意で、Oct4活性化剤をさらに含み;
任意で、PDGFRα/β阻害剤、好ましくは、選択的PDGFRα/β阻害剤をさらに含み;
任意で、JNK阻害剤をさらに含み;
任意で、TGFβシグナリング経路阻害剤(例えば、TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤)をさらに含み;
任意で、骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストをさらに含む培地において培養され、
培養系がフィーダー細胞を含まず(即ち、組織試料に由来する細胞およびその子孫のみを含み);
組織試料に由来する細胞が、任意で、(基底膜マトリックスなどの)細胞外マトリックス、またはその他のバイオマトリックス、または合成マトリックスと接触している、工程;
(2)細胞コロニーから単一幹細胞を単離する工程;ならびに
(3)培地中で、(任意で)フィーダー細胞および/または基底膜マトリックスと接触している、精製された幹細胞クローンの培養物を形成するために、工程(2)からの単離された単一幹細胞を個々に培養する工程;
であって、幹細胞クローンの各々が、円柱上皮組織試料中に存在する上皮幹細胞のクローン増大を表す、工程:
を含み、それによって、円柱上皮幹細胞を単離する、
上皮組織、好ましくは、円柱上皮組織、例えば、正常組織または罹患組織から幹細胞を単離するフィーダーフリーの方法
を提供する。
【0019】
ある種の態様において、ノッチアゴニストは、ジャギド-1であり、0.1μM~50μM、好ましくは、0.1μM~10μM、より好ましくは、0.5μM~5μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、ノッチアゴニストは、ジャギド-1以外であり、0.1μM~50μMジャギド-1、好ましくは、0.1μM~10μMジャギド-1、より好ましくは、0.5μM~5μMジャギド-1のEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0020】
ある種の態様において、ROCK阻害剤は、Y-27632であり、0.25μM~125μM、好ましくは、0.25μM~25μM、より好ましくは、1.25μM~10μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、ROCK阻害剤は、Y-27632以外であり、0.25μM~125μM Y-27632、好ましくは、0.25μM~25μM Y-27632、より好ましくは、1.25μM~10μM Y-27632のEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0021】
ある種の態様において、ROCK阻害剤は、GSK429286Aであり、25nM~12.5μM、好ましくは、25nM~2.5μM、より好ましくは、125nM~1.25μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、ROCK阻害剤は、GSK429286A以外であり、25nM~12.5μM GSK429286A、好ましくは、25nM~2.5μM GSK429286A、より好ましくは、125nM~1.25μM GSK429286AのEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0022】
ある種の態様において、ROCK阻害剤は、前記の濃度のY-27632とGSK429286Aとの組み合わせ、またはEC50等価濃度の1種もしくは複数種のその他のROCK阻害剤である。
【0023】
ある種の態様において、BMPアンタゴニストは、ノギンであり、10ng/mL~5μg/mL、好ましくは、10ng/mL~1μg/mL、より好ましくは、50ng/mL~500ng/mLの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、BMPアンタゴニストは、ノギン以外であり、10ng/mL~5μg/mLノギン、好ましくは、10ng/mL~1μg/mLノギン、より好ましくは、50ng/mL~500ng/mLノギンのEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0024】
ある種の態様において、WNTアゴニストは、R-スポンジン1であり、12.5ng/mL~6.25μg/mL、好ましくは、12.5ng/mL~1.25μg/mL、より好ましくは、62.5ng/mL~625ng/mLの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、WNTアゴニストは、R-スポンジン1以外であり、12.5ng/mL~6.25μg/mL R-スポンジン1、好ましくは、12.5ng/mL~1.25μg/mL R-スポンジン1、より好ましくは、62.5ng/mL~625ng/mL R-スポンジン1のEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0025】
ある種の態様において、分裂促進性増殖因子は、EGFであり、1ng/mL~500ng/mL、好ましくは、1ng/mL~100ng/mL、より好ましくは、5ng/mL~50ng/mLの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、分裂促進性増殖因子は、EGF以外であり、1ng/mL~500ng/mL EGF、好ましくは、1ng/mL~100ng/mL EGF、より好ましくは、5ng/mL~50ng/mL EGFのEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0026】
ある種の態様において、TGFβシグナリング経路阻害剤は、SB431542であり、0.2μM~100μM、好ましくは、0.2μM~20μM、より好ましくは、1.0μM~10μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、TGFβシグナリング経路阻害剤は、SB431542以外であり、0.2μM~100μM SB431542、好ましくは、0.2μM~20μM SB431542、より好ましくは、1.0μM~10μM SB431542のEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0027】
ある種の態様において、培養物は、0.5μg/mL~250μg/mL、好ましくは、0.5μg/mL~50μg/mL、より好ましくは、2.5μg/mL~25μg/mLの濃度でインスリンを含む。他の態様において、インスリンの代わりに、培養培地は、0.5μg/mL~250μg/mLインスリン、好ましくは、0.5μg/mL~50μg/mLインスリン、より好ましくは、2.5μg/mL~25μg/mLインスリンのEC50等価濃度でIGFまたはインスリン模倣物を含む。
【0028】
ある種の態様において、VEGF阻害剤は、チボザニブであり、50nM~25μM、好ましくは、50nM~5μM、より好ましくは、250nM~2500μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、VEGF阻害剤は、チボザニブ以外であり、50nM~25μMチボザニブ、好ましくは、50nM~5μMチボザニブ、より好ましくは、250nM~2500μMチボザニブのEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0029】
ある種の態様において、B-raf阻害剤は、GDC-0879であり、50nM~25μM、好ましくは、50nM~5μM、より好ましくは、250nM~2500μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、B-raf阻害剤は、GDC-0879以外であり、50nM~25μM GDC-0879、好ましくは、50nM~5μM GDC-0879、より好ましくは、250nM~2500μM GDC-0879のEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0030】
ある種の態様において、ニコチンアミドは、1nM~500nM、好ましくは、1nM~100nM、より好ましくは、5nM~50nMの濃度で培養培地中に提供される。
【0031】
ある種の態様において、PDGFRα/β阻害剤は、CP673451であり、0.1μM~50μM、好ましくは、0.1μM~10μM、好ましくは、0.5μM~5μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、PDGFRα/β阻害剤は、CP673451以外であり、0.1μM~50μM CP673451、好ましくは、0.1μM~10μM CP673451、より好ましくは、0.5μM~5μM CP673451のEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0032】
ある種の態様において、OCT4活性化剤は、OAC1であり、0.1μM~50μM、好ましくは、0.1μM~10μM、より好ましくは、0.5μM~5μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、OCT4活性化剤は、OAC1以外であり、0.1μM~50μM OAC1、好ましくは、0.1μM~10μM OAC1、より好ましくは、0.5μM~5μM OAC1のEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0033】
ある種の態様において、JNK阻害剤は、JNK-IN-8であり、0.1μM~50μM、好ましくは、0.1μM~10μM、より好ましくは、0.5μM~5μMの濃度で培養培地中に提供される。他の態様において、JNK阻害剤は、JNK-IN-8以外であり、0.1μM~50μM JNK-IN-8、好ましくは、0.1μM~10μM JNK-IN-8、より好ましくは、0.5μM~5μM JNK-IN-8のEC50等価濃度で培養培地中に提供される。
【0034】
本明細書中で使用されるように、「EC50等価濃度」とは、2種の薬剤の培養細胞に対するEC50の差を調整した後、培養細胞に対して同一の生物学的効果を与える、参照薬剤に対して相対的な薬剤の濃度を意味する。従って、例えば、Y-27632より5倍高い(即ち、有効性が低い)培養細胞に対するEC50を有するROCK阻害剤は、1.25μM~10μMのY-27632と同一の範囲の細胞培養物に対する生物学的効果を与えるため、6.25μM~50μMの濃度を必要とし得る。特定の受容体、酵素、経路等の阻害剤である薬剤のケースにおいては、EC50の代わりにIC50を使用することができる。
【0035】
ある種の態様において、疾患、障害、または異常状態を有する患者に由来する上皮組織は、疾患、障害、または異常状態に罹患している。ある種の態様において、円柱上皮幹細胞は、成体円柱上皮幹細胞である。ある種の態様において、円柱上皮幹細胞は、胎児円柱上皮幹細胞である。
【0036】
ある種の態様において、培地はノッチアゴニストを含まない。
【0037】
ある種の態様において、工程(1)において、(上皮)細胞は、酵素による酵素消化を通して組織から解離させられる。例えば、酵素には、コラゲナーゼ、プロテアーゼ、ディスパーゼ、プロナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、アキュターゼ、またはトリプシンが含まれ得る。
【0038】
ある種の態様において、工程(1)において、(上皮)細胞は、(上皮)細胞を囲む細胞外マトリックスの溶解を通して組織から解離させられる。
【0039】
ある種の態様において、分裂不活性化された細胞は、3T3-J2細胞のような、分裂不活性化された線維芽細胞、好ましくは、ヒトまたはマウスの線維芽細胞である。分裂不活性化は、マイトマイシンCもしくはその他の化学的な分裂阻害剤の投与、γ線照射、X線照射、および/またはUV光照射によって達成され得る。
【0040】
ある種の態様において、細胞外マトリックスは、ラミニン含有基底膜マトリックス(例えば、MATRIGEL(商標)基底膜マトリックス(BD Biosciences))のような基底膜マトリックスであり、好ましくは、グロースファクターリデュースト(growth factor-reduced)である。他の態様において、バイオポリマーは、コラーゲン、キトサン;フィブロネクチン、フィブリン、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0041】
ある種の態様において、基底膜マトリックスは、三次元成長を支持しないか、または三次元成長を支持するために必要な三次元マトリックスを形成しない。
【0042】
ある種の態様において、培地は、例えば、5%~15%、例えば、10%FBSの濃度で、血清、好ましくは、FBS(さらに好ましくは、熱不活性化されていないFBS)をさらに含む。
【0043】
ある種の態様において、ROCK阻害剤には、Rhoキナーゼ阻害剤VI(Y-27632、(R)-(+)-トランス-N-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド))、ファスジル(Fasudil)もしくはHA1077(5-(1,4-ジアゼパン-1-イルスルホニル)イソキノリン)、またはHI 152((S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピンジヒドロクロリド)が含まれる。
【0044】
ある種の態様において、BMPアンタゴニストには、ノギン、DAN、DANシスチンノットドメインを含むDAN様タンパク質(例えば、ケルベロスおよびグレムリン(Gremlin))、コーディン、コーディンドメインを含むコーディン様タンパク質、フォリスタチン、フォリスタチンドメインを含むフォリスタチン関連タンパク質、スクレロスチン/SOST、デコリン、またはa-2マクログロブリンが含まれる。ある種の好ましい態様において、BMPアンタゴニストは、ノギンである。
【0045】
ある種の態様において、Wntアゴニストには、R-スポンディン(spondin)1、R-スポンディン2、R-スポンディン3、R-スポンディン4、R-スポンディン模倣物、Wntファミリータンパク質(例えば、Wnt-3a、Wnt 5、Wnt-6a)、ノリン(Norrin)、またはGSK阻害剤(例えば、CHIR99021)が含まれる。
【0046】
ある種の態様において、分裂促進性増殖因子には、EGF、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、TGFa、BDNF、HGF、および/またはFGF(例えば、FGF7もしくはFGF10)が含まれる。
【0047】
ある種の態様において、TGFβ受容体阻害剤には、SB431542(4-(4-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル)-4-(ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)ベンズアミド)、A83-01、SB-505124、SB-525334、LY 364947、SD-208、またはSJN 2511が含まれる。
【0048】
ある種の態様において、TGFβ(シグナリング)阻害剤は、ALK5、ALK4、TGFβ受容体型キナーゼ1、およびALK7からなる群より選択される1種または複数種のセリン/トレオニンプロテインキナーゼと結合し、その活性を低下させる。
【0049】
ある種の態様において、TGFβ(シグナリング)阻害剤は、1nM~100μM、10nM~100μM、100nM~10μM、またはおよそ1μMの濃度で添加される。
【0050】
ある種の態様において、BRAF阻害剤は、AMG542、ARQ197、ARQ736、AZ628、CEP-32496、GDC-0879、GSK1120212、GSK2118436(ダブラフェニブ、Tafinlar)、LGX818(エンコラフェニブ)、NMS-P186、NMS-P349、NMS-P383、NMS-P396、NMS-P730、PLX3603(RO5212054)、PLX4032(ベムラフェニブ、Zelboraf)、PLX4720(ジフルオロフェニル-スルホンアミン)、PF-04880594、PLX4734、RAF265(CHIR-265)、RO4987655、SB590885、ソラフェニブ、ソラフェニブトシル酸塩、およびXL281(BMS-908662)からなる群より選択される。例示的なBRAF阻害剤は、Selleckchem(http://www.selleckchem.com/BRAF.html)からも入手可能であり、ベムラフェニブ(PLX4032、RG7204);ソラフェニブトシル酸塩;PLX-4720;ダブラフェニブ(GSK2118436);GDC-0879;リフィラフェニブ(Lifirafenib)(BGB-283);CCT196969;RAF265(CHIR-265);AZ 628;NVP-BHG712;SB590885;ZM 336372;ソラフェニブ;GW5074;TAK-632;Raf265誘導体;CEP-32496;エンコラフェニブ(LGX818);PLX7904;LY3009120;RO5126766(CH5126766)、およびMLN2480を含む。
【0051】
ある種の態様において、VEGF阻害剤は、アフリベルセプト、ペガプタニブ、チボザニブ、3-(4-ブロモ-2,6-ジフルオロ-ベンジルオキシ)-5-[3-(4-ピロリジン-1-イル-ブチル)-ウレイド]-イソチアゾール-4-カルボン酸アミドヒドロクロリド、アキシチニブ、N-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[(1-メチルピペリジン-4-イル-)メトキシ]キナゾリン-4-アミン、VEGF-R2およびVEGF-R1の阻害剤、アキシチニブ、N,2-ジメチル-6-(2-(1-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)チエノ[3,2-b]ピリジン-7-イルオキシ)ベンゾ[b]チオフェン-3-カルボキサミド、RET/PTC発がんキナーゼのチロシンキナーゼ阻害剤、N-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[(1-メチルピペリジン-4-イル)メトキシ]キナゾリン-4-アミン、汎VEGF-Rキナーゼ阻害剤;プロテインキナーゼ阻害剤、マルチターゲットヒト上皮受容体(HER)1/2および血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1/2受容体ファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、セジラニブ、ソラフェニブ、バタラニブ、グルファニド二ナトリウム(glufanide disodium)、VEGFR2選択的モノクローナル抗体、アンジオザイム(angiozyme)、siRNAベースのVEGFR1阻害剤、5-((7-ベンジルオキシキナゾリン-4-イル)アミノ)-4-フルオロ-2-メチルフェノールヒドロクロリド、それらの誘導体、ならびにそれらの組み合わせより選択される。
【0052】
ある種の好ましい態様において、VEGF阻害剤は、VEGF受容体阻害剤であり、さらに好ましくは、チボザニブ(AV-951)、AZD2932、ミドスタウリン(pkc412)、BAW2881(NVP-BAW2881)、ニンテダニブ(BIBF 1120)、SU5402、SU1498、BFH772、ソラフェニブ、スニチニブ、ドビチニブ(TKI258)、セマキサニブ(Semaxanib)(SU5416)、ヒペリシン、バタラニブ、ZM306416、AAL993、SU4312、DMXAA、またはフォレチニブ(Foretinib)などのVEGF受容体型キナーゼ阻害剤である。
【0053】
ある種の態様において、BRAF阻害剤およびVEGF受容体型キナーゼ阻害剤は、VEGFRキナーゼおよびRAFキナーゼの二重阻害剤であるソラフェニブなどの、同一の化合物である。
【0054】
PDGFRα/βの例示的な選択的阻害剤は、CP-673451
である。
【0055】
例示的なJNK阻害剤には、SP600125(アントラ[1-9-cd]ピラゾール-6(2H)-オン)、JNK-IN-8(3-[[4-(ジメチルアミノ)-1-オキソ-2-ブテン-1-イル]アミノ]-N-[3-メチル-4-[[4-(3-ピリジニル)-2-ピリミジニル]アミノ]フェニル]-ベンズアミド);およびJNK阻害剤IX(N-(3-シアノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チエン-2-イル)-1-ナフタレンカルボキサミド)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0056】
ある種の態様において、Oct4活性化剤は、
からなる群より選択される。
【0057】
別の局面において、本発明は、上皮幹細胞の単一細胞クローン、または本発明の培地を含むものなどそのインビトロ培養物を提供し、ここで、上皮幹細胞は、それが由来した上皮組織の分化した細胞型に関連したマーカーの発現を実質的に欠く。
【0058】
別の局面において、本発明は、非胚性上皮幹細胞の単一細胞クローン、または本発明の培地を含むものなどそのインビトロ培養物を提供し、ここで、非胚性上皮幹細胞は、高い核/細胞質比と共に、小さく丸い細胞形を特徴とする未熟な未分化の形態学を有する。
【0059】
関連する局面において、本発明は、本発明の単一細胞クローンのライブラリーもしくはコレクション、または(本発明の培地を含むものなど)そのインビトロ培養物も提供する。ある種の態様において、ライブラリーまたはコレクションは、同一の組織/器官型に由来する単一細胞クローンを含んでいてよい。ある種の態様において、ライブラリーまたはコレクションは、同一の型の組織/器官型から単離されているが、集団の異なるメンバーに由来する単一細胞クローンを含んでいてよい。ある種の態様において、集団の1種または複数種(好ましくは、各々)のメンバーは、(HLA-A、HLA-B、およびHLA-Dなどの)少なくとも1個の組織型決定遺伝子座においてホモ接合性である。ある種の態様において、少なくとも1個の組織型決定遺伝子座(例えば、前記のHLA遺伝子座)は、例えば、組織型決定遺伝子座(例えば、HLA-A、HLA-B、およびHLA-D等)によってコードされる組織抗原を欠くユニバーサルドナー細胞株(例えば、肝細胞)を生成するため、TALENテクノロジーまたはCRISPRテクノロジー(下記を参照すること)を介して、クローニングされた幹細胞において改変される。Torikaiら(参照によって本明細書に組み入れられる、Blood,122(8):1341-1349,2013)を参照すること。ある種の態様において、集団は、民族、年齢、性別、疾患状態、または集団の共通の特徴によって定義され得る。ライブラリーまたはコレクションは、少なくとも約20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、150、180、200、250、300、またはそれ以上のメンバーを有し得る。
【0060】
別の局面において、本発明は、(1)本発明の方法のいずれかを使用して、対象の疾患、障害、または異常状態に罹患した組織に相当する組織から上皮幹細胞を単離する工程;(2)任意で、変更された上皮幹細胞を生成するため、上皮幹細胞における少なくとも1種の遺伝子の発現を変更する工程;(3)単離された上皮幹細胞もしくは変更された上皮幹細胞またはそれらのクローン増大を対象へ再導入する工程、を含む、疾患、障害、または異常状態を有し、処置を必要とする対象を処置する方法であって、対象における疾患、障害、または異常状態の少なくとも一つの有害効果または症状が緩和される、方法を提供する。
【0061】
ある種の態様において、変更された上皮幹細胞を生成するため、上皮幹細胞における少なくとも1種の遺伝子の発現が、遺伝学的に、組換えによって、かつ/またはエピジェネティック的に変更される。
【0062】
ある種の態様において、上皮幹細胞が単離される組織は、健常な成体または胎児(即ち、非胚)対象に由来する。
【0063】
ある種の態様において、上皮幹細胞が単離される組織は、対象に由来する。ある種の態様において、上皮幹細胞が単離される組織は、疾患、障害、または異常状態によって影響された患部組織である。
【0064】
ある種の態様において、上皮幹細胞が単離される組織は、疾患、障害、または異常状態によって影響された患部組織に隣接している。
【0065】
ある種の態様において、少なくとも1種の遺伝子が、対象の疾患、障害、または異常状態によって影響された組織において低発現されており、その少なくとも1種の遺伝子の発現が、変更された上皮幹細胞において増強される。
【0066】
ある種の態様において、少なくとも1種の遺伝子が、対象の疾患、障害、または異常状態によって影響された組織において過剰発現されており、その少なくとも1種の遺伝子の発現が、変更された上皮幹細胞において低下させられる。
【0067】
ある種の態様において、工程(2)は、外来性のDNAまたはRNAを上皮幹細胞へ導入することによって達成される。
【0068】
さらに別の局面において、本発明は、(1)本発明の方法のいずれかを使用して、対象から上皮幹細胞を単離する工程;(2)単一細胞クローン増大を介して上皮幹細胞の細胞株を生成する工程;(3)細胞株に由来する被験細胞を多数の候補化合物と接触させる工程;および(4)被験細胞において予定された表現型変化を生成する1種または複数種の化合物を同定する工程、を含む、化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【0069】
本発明の別の局面は、本発明の培養培地系を利用して罹患上皮組織から単離された上皮幹細胞またはその子孫の使用であって、幹細胞もしくはその子孫の成長もしくは増殖を正常な再生性上皮幹細胞と比べて選択的に阻害するか、または上皮幹細胞を、正常上皮組織に分化するよう、正常エピジェネティック状態へ復帰させる薬剤の同定のための、使用、を提供する。罹患上皮組織は、例えば、炎症性疾患または腫瘍を有する患者に由来し得る。ある種の態様において、同定された薬剤が、例えば、薬学的に許容される賦形剤による製剤化によって、ヒト患者のような哺乳動物対象への投与のために製剤化される方法が、さらに提供される。
【0070】
本発明の別の局面は、本発明の培養培地系を利用して正常上皮組織から単離された上皮幹細胞またはその子孫の使用であって、幹細胞の成長、増殖、および/または再生能力を促進する薬剤の同定のための、使用、を提供する。ある種の態様において、同定された薬剤が、例えば、薬学的に許容される賦形剤による製剤化によって、ヒト患者のような哺乳動物対象への投与のために製剤化される方法が、さらに提供される。
【0071】
[本発明1001]
上皮組織、好ましくは、円柱上皮組織から幹細胞を単離するための方法であって、以下:
(i)幹細胞コロニーを形成するために、円柱上皮組織試料に由来する解離した上皮細胞を培養する工程であって、解離した細胞および細胞コロニーが、ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤、Wntアゴニスト、分裂促進性増殖因子、インスリン(もしくはインスリン模倣物)またはIGF、BRAF阻害剤、VEGF阻害剤、ニコチンアミド、ノッチアゴニスト、TGFβシグナリング経路阻害剤、および骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストを含む培地において培養される、工程;
(ii)細胞コロニーから単一幹細胞を単離する工程;ならびに
(iii)精製された幹細胞クローンの培養物を形成するために、工程(ii)からの単離された単一幹細胞を個々に培養する工程であって、
幹細胞クローンの各々が、円柱上皮組織試料中に存在する上皮幹細胞のクローン増大を表す、工程
を含み、それによって、上皮幹細胞を単離する、方法。
[本発明1002]
組織試料に由来する細胞が、分裂不活性フィーダー細胞と、流体中でまたは直接、接触している、本発明1001の方法。
[本発明1003]
組織試料に由来する細胞が、細胞外マトリックスまたは合成マトリックスと接触している、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
培地が、Oct4活性化剤、PDGFRα/β阻害剤(好ましくは、選択的PDGFRα/β阻害剤)、およびJNK阻害剤をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1005]
培地がフィーダー細胞を含まない、本発明1004の方法。
[本発明1006]
組織試料に由来する細胞が、(細胞外マトリックスなどの)バイオマトリックス、または合成マトリックスと接触している、本発明1004または1005の方法。
[本発明1007]
幹細胞が、正常上皮組織から採取された組織試料から単離される、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
幹細胞が、炎症または自己免疫の患者に由来するような罹患上皮組織から採取された組織試料から単離される、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1009]
幹細胞が、腫瘍から採取された組織試料から単離される、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1010]
本発明1001~1009のいずれかの方法によって単離された上皮幹細胞。
[本発明1011]
本発明1001~1009のいずれかの方法によって組織試料から単離された上皮幹細胞の少なくとも10 6 個の子孫細胞を含む幹細胞培養物であって、
子孫細胞が、上皮幹細胞であり、組織試料から単離された上皮幹細胞のエピジェネティック形質および遺伝形質を維持している、幹細胞培養物。
[本発明1012]
本発明1001~1009のいずれかの方法によって組織試料から単離された上皮幹細胞の継代数10(P10)以上の子孫細胞を含む幹細胞培養物であって、
子孫細胞が、上皮幹細胞であり、組織試料から単離された上皮幹細胞のエピジェネティック形質および遺伝形質を維持している、幹細胞培養物。
[本発明1013]
本発明1001~1009のいずれかの方法によって単離された上皮幹細胞から分化した、培養物中に単離された分化した組織。
[本発明1014]
円柱上皮幹細胞を単離し、培養物中での多数の継代の間、そのエピジェネティクスを安定的に維持するための限定培養培地であって、
ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;Wntアゴニスト;分裂促進性増殖因子;インスリン(もしくはインスリン模倣物)またはIGF;BRAF阻害剤;VEGF阻害剤;ニコチンアミド;ノッチアゴニスト、TGFβシグナリング経路阻害剤;および骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストを含み、共培養されたフィーダー細胞の存在下で、円柱上皮組織起源の幹細胞のエピジェネティック的に安定的な成長および増殖を支持する、限定培養培地。
[本発明1015]
円柱上皮幹細胞を単離し、培養物中での多数の継代の間、そのエピジェネティクスを安定的に維持するための限定培養培地であって、
基本培地;ならびにROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤、Wntアゴニスト、分裂促進性増殖因子、インスリンまたはIGF、BRAF阻害剤、VEGF阻害剤、Oct4活性化剤、PDGFRα/β阻害剤、JNK阻害剤、および(任意で)TGFβシグナリング経路阻害剤の各々を含み、共培養されたフィーダー細胞の非存在下で、円柱上皮組織起源の幹細胞のエピジェネティック的に安定的な成長および増殖を支持する、限定培養培地。
[本発明1016]
本発明1014もしくは1015の培養培地を利用してまたは本発明1001~1009のいずれかの方法によって単離されたクローン円柱上皮幹細胞。
[本発明1017]
本発明1014もしくは1015の培養培地を利用してまたは本発明1001~1009のいずれかの方法によって罹患上皮組織から単離された上皮幹細胞またはその子孫の使用であって、幹細胞もしくはその子孫の成長もしくは増殖を正常な再生性上皮幹細胞と比べて選択的に阻害するか、または上皮幹細胞を正常上皮組織へ分化するような正常エピジェネティック状態へ復帰させる薬剤の同定のための、使用。
[本発明1018]
罹患上皮組織が、炎症性疾患または腫瘍を有する患者に由来する、本発明1017の使用。
[本発明1019]
本発明1014もしくは1015の培養培地を利用してまたは本発明1001~1009のいずれかの方法によって正常上皮組織から単離された上皮幹細胞またはその子孫の使用であって、幹細胞の成長、増殖、および/または再生能力を促進する薬剤の同定のための、使用。
[本発明1020]
同定された薬剤が哺乳動物対象への投与のために製剤化される、本発明1017、1018、または1019のいずれかの使用。
実施例および図/図面において記載された態様、ならびに本発明の異なる局面の下で記載された態様を含む、本明細書中に記載された任意の態様が、適用可能な場合、一つまたは複数の他の態様と組み合わせられてもよいことが企図される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】肝臓、腸、膵臓、胃などの様々なヒト円柱上皮、ならびにバレット食道および食道がんなどの罹患上皮に由来する幹細胞の代表的なイメージ。
図2】上皮幹細胞は、高度にクローン原性である。単一細胞を組織培養プレートの各ウェルに選別したところ、単一細胞のおよそ70%がコロニーを発生させることができ、次いで、コロニーを系譜へ増大させることができる。
図3A】単一細胞由来ヒト結腸幹細胞系譜は、腸の全ての細胞型へ分化する。この図面は、MGM培地において培養された結腸幹細胞を、トランズウェルメンブレンに蒔き、コンフルエントに到達させたことを示す。次いで、ウェル内の培地を除去することによって、気液界面を作製した。
図3B】単一細胞由来ヒト結腸幹細胞系譜は、腸の全ての細胞型へ分化する。この図面は、細胞極性形成後に、単一幹細胞由来系譜が、杯細胞(MUC2陽性)、内分泌細胞(CHGA陽性)、パネート細胞(DEFA6陽性)、および腸細胞(ビリン陽性)へ分化することを例示する。
図4図4A:年齢と無関係に30人全ての患者から、1個のISCGSコロニーから出発して、およそ6日で、10億個のISCGS細胞を生成することができる。図4B:全ての年齢に由来するISCGSが、区別不可能な形態学および同一の多分化能を示した。16歳、56歳、および77歳の患者のISCGSの系譜株を、10日間、気液界面(ALI)培養物中で分化させた。
図5A】コピー数多形研究において、高齢患者(40~70歳)に由来するISCGSクローンを試料採取することによって、腸上皮における多クローン性を例示する。本発明者らは、まず、30人全ての患者に由来するISCGSが高度にクローン原性であることを示した。患者によって50~70%のクローン原性が観察された。単一細胞由来コロニーを、数千個の細胞を含む単一細胞由来系譜に増大させることができ、それは、ルーチンのゲノム分析のために十分なDNAを提供する。本発明者らは、高密度SNPアレイを使用して、UCを有するかまたは有しない成人患者11人に由来する1~23個のクローンを試料採取した。本発明者らは、クローンの大部分が、同一患者の血液と比較して、染色体変化をほとんど示さないことを見出した。しかしながら、44歳非IBD患者に由来する23個のクローンのうち1個のクローンは、2種の推定がん遺伝子SOS1およびXPO1の増幅を示し、クローンの残りは全て野生型であった。さらに、56歳UC患者に由来する7個のクローンのうち1個のクローンは、はるかに有意な染色体変化を示した。その結果、ERBB4、ALK、およびMYCNなどの推定がん遺伝子を含む16種の遺伝子が増幅されている。
図5B】コピー数多形研究において、高齢患者(40~70歳)に由来するISCGSクローンを試料採取することによって、腸上皮における多クローン性を例示する。本発明者らは、まず、30人全ての患者に由来するISCGSが高度にクローン原性であることを示した。患者によって50~70%のクローン原性が観察された。単一細胞由来コロニーを、数千個の細胞を含む単一細胞由来系譜に増大させることができ、それは、ルーチンのゲノム分析のために十分なDNAを提供する。本発明者らは、高密度SNPアレイを使用して、UCを有するかまたは有しない成人患者11人に由来する1~23個のクローンを試料採取した。本発明者らは、クローンの大部分が、同一患者の血液と比較して、染色体変化をほとんど示さないことを見出した。しかしながら、44歳非IBD患者に由来する23個のクローンのうち1個のクローンは、2種の推定がん遺伝子SOS1およびXPO1の増幅を示し、クローンの残りは全て野生型であった。さらに、56歳UC患者に由来する7個のクローンのうち1個のクローンは、はるかに有意な染色体変化を示した。その結果、ERBB4、ALK、およびMYCNのような推定がん遺伝子を含む16種の遺伝子が増幅されている。
図5C】コピー数多形研究において、高齢患者(40~70歳)に由来するISCGSクローンを試料採取することによって、腸上皮における多クローン性を例示する。この図面は、図5Aおよび5Bからの同一の患者の数個の他のクローンが野生型ゲノムを示したことを示す。
図6図6A:UC患者に由来する野生型クローンおよび変異体クローンにおけるゲノム変化を調査するため、本発明者らは、ISCGSのプールおよび系譜に対してエクソーム配列決定を実施した。これらの細胞の、本発明者らのゲノム分析は、エクソーム配列決定を使用したコピー数多形(CNV)および点変異の査定からなっていた。本発明者らは、変異体系譜および野生型系譜ならびにプールされた細胞および静脈血に由来する同一患者のDNA試料を使用してCNVおよび点変異を決定した28。有意に、プールされたISCGSは、中間部欠失および増幅の形態の極めて低いCNVを示した。プールされた幹細胞におけるCNVのこの程度は、同一の患者の野生型幹細胞系譜において観察されたものの範囲内であった。図6B:UC患者に由来する野生型クローンおよび変異体クローンにおけるゲノム変化を調査するため、本発明者らは、ISCGSのプールおよび系譜に対してエクソーム配列決定を実施した。これらの細胞の、本発明者らのゲノム分析は、エクソーム配列決定を使用したコピー数多形(CNV)および点変異の査定からなっていた。本発明者らは、変異体系譜および野生型系譜ならびにプールされた細胞および静脈血に由来する同一患者のDNA試料を使用してCNVおよび点変異を決定した28。有意に、プールされたISCGSは、中間部欠失および増幅の形態の極めて低いCNVを示した。プールされた幹細胞におけるCNVのこの程度は、同一の患者の野生型幹細胞系譜において観察されたものの範囲内であった。図6C:UC患者に由来する野生型クローンおよび変異体クローンにおけるゲノム変化を調査するため、本発明者らは、ISCGSのプールおよび系譜に対してエクソーム配列決定を実施した。これらの細胞の、本発明者らのゲノム分析は、エクソーム配列決定を使用したコピー数多形(CNV)および点変異の査定からなっていた。本発明者らは、変異体系譜および野生型系譜ならびにプールされた細胞および静脈血に由来する同一患者のDNA試料を使用してCNVおよび点変異を決定した28。有意に、プールされたISCGSは、中間部欠失および増幅の形態の極めて低いCNVを示した。プールされた幹細胞におけるCNVのこの程度は、同一の患者の野生型幹細胞系譜において観察されたものの範囲内であった。
図7】安全性に関する懸念のため、培養された腸幹細胞を移植前にスクリーニングする過程を示す模式図である。
図8図8A:内視鏡的生検材料に由来する結腸幹細胞のクローン分析。1mmの内視鏡的生検材料から単一細胞由来コロニーの「ライブラリー」を生成し、その後、三次元腸上皮を生成するワークフロー。典型的な内視鏡的生検材料の白色光イメージング、典型的な生検材料に由来する100~300個のコロニーの代表的なイメージ、気液界面環境において分化したこれらの幹細胞から生成されたインビトロ腸上皮の平面図。スケールバー、1000μm。図8B:内視鏡的生検材料に由来する結腸幹細胞のクローン分析。個々のコロニーが、プールから試料採取され、別々の株として分離して成長させられる。図8C:ヘマトキシロンエオシン染色、ならびに分泌細胞マーカーであるムチン2、クロモグラニンA、およびデフェンシンα6に対する抗体の免疫蛍光を介した、インビトロで分化した結腸上皮の組織学的分析。スケールバー、50μm。
図9図9A:インビトロの結腸幹細胞の不死性および急速な増大。個々のウェルへ選別された単一GFP標識結腸幹細胞のクローン原性。図9B:インビトロの結腸幹細胞の不死性および急速な増大。2000個の継代された結腸幹細胞を蒔いてから10日後に成長したローダミンレッド染色コロニーのほぼ不変の数を明らかにするクローン原性アッセイ。図9C:インビトロの結腸幹細胞の不死性および急速な増大。単一細胞の、およそ60日での、10億個の細胞への急速な増大。
【発明を実施するための形態】
【0073】
例示的な態様の詳細な説明
1.概要
本明細書中に記載された本発明は、器官の円柱上皮に由来する非胚(例えば、成体または胎児)上皮幹細胞を、培養物中に単離し、かつ/または維持する方法に関する。様々な組織または器官からそのように単離された上皮幹細胞は、インビトロで無限に自己再生するかまたは増殖することができ、多能性であり、幹細胞が単離された組織または器官に通常見出される様々な分化した細胞型へ分化することができる。そのように単離された上皮幹細胞を含む(インビトロ培養物を含む)培養物も、本発明の範囲内である。
【0074】
さらに、単離された上皮幹細胞は、単一の単離された幹細胞のクローン増大を通して増殖し、クローン(例えば、インビトロ培養物)を生じることができ、それらのクローンの中の少なくとも約40%、70%、または90%、またはそれ以上の細胞が、単一細胞起源のクローンとしてさらに継代され得る。従って、本発明の方法を使用して単離された幹細胞は、感染またはトランスフェクションを通した外来性遺伝材料の導入などの標準的な分子生物学技術を通して、独特に、インビトロで操作され得る。
【0075】
本明細書中で使用されるように、「上皮幹細胞」には、成体の組織または器官から単離された成体幹細胞、および出生前の組織または器官から単離された胎児幹細胞が含まれる。
【0076】
関連する態様において、本明細書中に記載された本発明の方法は、胎児のまたは出生前の組織または器官から胎児幹細胞を単離する。ある種の態様において、胎児の組織または器官が幹細胞の起源である時、特に、胎児がヒト胎児である時、本発明の方法は、胎児を破壊せず、胎児の正常な発達も損なわない。他の態様において、胎児組織の起源は、中絶胎児、死亡胎児、浸軟児材料、またはそれらから切り出された細胞、組織、もしくは器官から得られる。
【0077】
本発明の方法は、ヒト、非ヒト哺乳類、非ヒト霊長類、(マウス、ラット、ケナガイタチ、ハムスター、モルモット、ウサギを含むが、これらに限定されるわけではない)齧歯類、(ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラクダを含むが、これらに限定されるわけではない)家畜、トリ、爬虫類、魚、ペットもしくはその他のコンパニオンアニマル(例えば、ネコ、イヌ、トリ)、またはその他の脊椎動物等に由来する組織を含む、上皮幹細胞を含有している任意の動物円柱上皮組織に適用可能である。
【0078】
「円柱上皮細胞」は、細長い円柱形であり、幅の少なくとも4倍の高さを有する。核は、細長く、一般的には、細胞の基部の近くに位置する。円柱上皮は、胃および腸の裏打ちを形成する。ここでの細胞は、吸収のために表面積を最大化するため、微絨毛を保有している場合があり、これらの微絨毛は刷子縁を形成している場合がある。粘液線毛クリアランスの機能において粘液を移動させるため、線毛を有する細胞も存在する。他の線毛細胞は、ファロピウス管、子宮、および脊髄の中心管に見出される。鼻、耳、および味蕾にあるような、いくつかの円柱細胞は、感覚受容に特化している。内耳の有毛細胞は、微絨毛に類似している不動毛を有する。杯細胞は、修飾型の円柱細胞で、十二指腸の円柱上皮細胞の間に見出される。それらは潤滑剤として機能する粘液を分泌する。単層非線毛円柱上皮は、吸収機能を示す傾向がある。
【0079】
単層円柱上皮は、単層である円柱上皮である。ヒトにおいて、単層円柱上皮は、胃、小腸、および大腸を含む消化官の大部分の器官を裏打ちしている。単層円柱上皮は、子宮を裏打ちしている。単層円柱上皮は、線毛および非線毛という2つのカテゴリーへさらに分類される。線毛円柱上皮は、線毛を介して粘液およびその他の物質を移動させ、上気道、ファロピウス管、子宮、および脊髄の中心部に見出される。
【0080】
線毛円柱上皮は、卵管の管腔を裏打ちしており、線毛によって生成された流れが、卵子を子宮に向かって推進する。
【0081】
非線毛上皮は、胃腸管のセクションを裏打ちしているのが見出されており、刷子縁を有する場合がある。
【0082】
「多列円柱上皮」は、細胞の単層のみを含むが、重層上皮のような様式で位置する細胞核を有する、円柱上皮である。多列円柱上皮は、例えば、気管、気管支、男性尿道、およびその他の少数の場所を裏打ちしているのが見出される。
【0083】
ある種の態様において、上皮組織は、健常または正常な個体から単離される。
【0084】
ある種の態様において、上皮組織は、疾患組織(例えば、疾患によって影響された組織)、障害組織(例えば、障害によって影響された組織)、またはその他の異常状態を有する組織から単離される。
【0085】
本明細書中で使用されるように、「疾患」という用語には、生物の身体に影響し、一般的には、特定の症状および兆候に関連している、異常状態または医学的状態が含まれる。疾患は、(パピローマウイルス感染もしくは性行為感染症を含む感染性疾患のように)外的因子によって、または(自己免疫疾患もしくはがんのように)内的機能障害によって引き起こされ得る。広い意味において、「疾患」には、罹患した者に、疼痛、機能障害、苦痛、社会的問題、もしくは死亡を引き起こすか、またはその者と接触した者について類似した問題を引き起こす状態も含まれ得る。このより広い意味において、それには、損傷、能力障害、障害、症候群、感染、孤立性の症状、異常行動、ならびに構造および機能の非定型の変動が含まれ得るが、他の情況において、他の目的のため、これらは、区別可能なカテゴリーと見なされ得る。ある種の好ましい態様において、幹細胞は、腫瘍生検材料から単離される。
【0086】
ある種の態様において、上皮組織は、疾患、障害、またはその他の異常状態を有する個体から単離されるが、上皮組織自体は、疾患、障害、または異常状態に罹患していなくてもよい。例えば、上皮組織は、炎症性腸疾患または胃がんを有する患者から、炎症状態またはがんにまだ罹患していない(IBDのケースにおいては)腸または(腫瘍のケースにおいては)胃の健康な部分から単離されてもよい。ある種の態様において、上皮組織は、疾患、障害、または異常組織の近位であってもよいしまたは遠位であってもよい。
【0087】
ある種の態様において、上皮組織は、例えば、個体の遺伝子組成、家族歴、生活習慣選択(例えば、喫煙、食事、運動の習慣)、以前のウイルス感染等に基づき、疾患、障害、もしくはその他の異常状態を発症する素因を有するか、または疾患、障害、もしくはその他の異常状態を発症するリスクが高いが、まだ、疾患、障害、もしくはその他の異常状態を発症していないか、または疾患、障害、もしくはその他の異常状態の検出可能な症状を示していない個体から単離される。
【0088】
本発明の別の局面は、本発明の方法のいずれかによって単離された上皮幹細胞、またはそのインビトロ培養物を提供する。
【0089】
さらに別の局面において、本発明は、単離された上皮幹細胞の単一細胞クローン、またはそのインビトロ培養物をさらに提供し、ここで、単一細胞クローンの中の細胞の少なくとも約40%、50%、60%、70%、または約80%が、単一細胞として単離された時、単一細胞クローンを生じるために増殖することができる。
【0090】
各単一細胞クローンは、成長段階およびその他の成長条件に依って、少なくとも約10個、100個、103個、104個、105個、106個、またはそれ以上の細胞を含み得る。
【0091】
関連する局面において、本発明は、単離された上皮幹細胞の単一細胞クローンまたはそのインビトロ培養物を提供し、ここで、上皮幹細胞は、単一細胞として単離された時、約50世代、70世代、100世代、150世代、200世代、250世代、300世代、350世代、または約400世代、またはそれ以上の間、自己再生することができる。
【0092】
ある種の態様において、インビトロ培養物は、本発明の培地(例えば、下記のような本発明の修飾培地)を含む。本発明の培地を記載している以下のセクションを参照すること。そこに記載された各培地は、参照によって本明細書中に組み入れられる。ある種の態様において、上皮幹細胞は、それが最初に生検された上皮組織の分化した細胞型、またはがん幹細胞のケースにおいては、その組織起源の腫瘍へ分化することができる。例えば、本発明の単離された上皮幹細胞は、それが由来する生検材料の上皮組織に通常見出される1種または複数種の細胞型へ分化することができる。
【0093】
ある種の態様において、上皮幹細胞は、そのような上皮幹細胞が由来した組織に見出される構造または部分構造に類似している組織化された構造へ分化することができる。例えば、本発明の単離された肝幹細胞は、肝上皮に類似している肝組織様構造へ分化することができ、本発明の単離された胃腸幹細胞は、胃腸上皮に類似しているGI組織様構造へ分化することができる。
【0094】
ある種の態様において、上皮幹細胞は、高い核/細胞質比と共に小さい丸い細胞の形を特徴とする未熟な未分化の形態学を有する。
【0095】
本発明のさらなる局面は、(1)対象の疾患、障害、または異常状態によって影響された組織に相当する再生性組織から非胚(例えば、成人)幹細胞を単離するため、本発明の方法のいずれかを使用する工程;(2)変更された上皮幹細胞を作製するため、上皮幹細胞における少なくとも1種の遺伝子の発現を変更する工程;(3)変更された上皮幹細胞もしくはクローン増大、またはその培養物由来組織移植片を、対象へ再導入する工程、を含む、疾患、障害、または異常状態を有し、処置を必要とする対象を処置する方法であって、対象における疾患、障害、もしくは異常状態の少なくとも一つの有害効果もしくは症状が緩和される方法、または傷害を受けた再生性組織を再生させ/交換する手段としての方法を提供する。他の事例において、移植される細胞/組織は、パピローマウイルス感染などのウイルス感染に抵抗性であるよう遺伝学的に改変されていてもよい。
【0096】
例えば、方法の工程(2)は、単離された上皮幹細胞における標的遺伝子の発現を増加させるかまたは減少させる外来性のDNAまたはRNAを上皮幹細胞へ導入することによって達成され得る。当技術分野において認識されている分子生物学技術のいずれかを、例えば、インビトロまたはエクスビボで、細胞における遺伝子発現を変更するために使用することができる。そのような方法には、非限定的に、標的細胞において機能障害性であるかもしくは欠損しているタンパク質もしくはその機能性断片のコード配列をコードしていてもよいし、または標的遺伝子の機能を破壊するRNA(アンチセンスRNA、siRNA、miRNA、shRNA、リボザイム等)をコードしていてもよいウイルスベースまたは非ウイルスベースのベクターによるトランスフェクションまたは感染が含まれ得る。
【0097】
ある種の態様において、上皮幹細胞が単離される組織は、健常対象に由来する。好ましくは、健常対象は、処置を必要とする対象とHLA型が適合している。
【0098】
ある種の態様において、上皮幹細胞が単離される組織は、対象に由来し、単離された上皮幹細胞は、対象に対して自己である。
【0099】
ある種の態様において、上皮幹細胞が単離される組織は、疾患、障害、または異常状態によって影響された患部組織である。
【0100】
ある種の態様において、上皮幹細胞が単離される組織は、疾患、障害、または異常状態によって影響された患部組織に隣接している。
【0101】
ある種の態様において、少なくとも1種の遺伝子が、対象の疾患、障害、または異常状態によって影響された組織において低発現されており、その少なくとも1種の遺伝子の発現が、変更された上皮幹細胞において増強される。
【0102】
ある種の態様において、少なくとも1種の遺伝子が、対象の疾患、障害、または異常状態によって影響された組織において過剰発現されており、その少なくとも1種の遺伝子の発現が、変更された上皮幹細胞において低下させられる。
【0103】
別の局面において、本発明は、正常であるかまたはがん/疾患状態に由来するかに関わらず、再生性組織の幹細胞の分化、エピジェネティクス、生存等のような、細胞の「表現型」を変更する薬剤または条件についてスクリーニングする方法も提供する。例示的な態様において、方法は、(1)対象の再生性組織から(がん幹細胞を含む)上皮幹細胞を単離するため、本発明の方法のいずれかを使用する工程;(2)単一細胞クローン増大を介して上皮幹細胞から1個または複数個の幹細胞株を作製する工程;(3)細胞株に由来する被験細胞を1種または複数種の候補化合物と接触させる工程;および(4)被験細胞において予定された表現型変化を生じる化合物を同定する工程、を含む。本発明のこのスクリーニング法は、標的の同定およびバリデーションのために使用され得る。例えば、処置を必要とする患者から単離された上皮幹細胞における可能性のある標的遺伝子は、異常に機能して(過剰発現または低発現のいずれか)、疾患、障害、または異常状態に関連した表現型を引き起こし得る。本発明の方法を使用して単離された上皮幹細胞のクローン増大は、表現型を補正するか、緩和するか、または逆転させることができる1種または複数種の化合物を同定するため、可能性のある化合物(低分子化合物等)のアレイを試験するため、本発明のスクリーニング法を受けることができる。
【0104】
別の態様において、上皮幹細胞は、疾患、障害、または異常状態によって影響された再生性組織などの、処置を必要とする患者の再生性組織から単離されてもよい。本発明の方法を使用して単離された上皮幹細胞のクローン増大は、表現型を補正するか、緩和するか、または逆転させることができる1種または複数種の化合物を同定するため、可能性のある化合物(低分子化合物、またはsiRNAのライブラリーなどのRNAベースのアンタゴニスト等)のアレイを試験するため、本発明のスクリーニング法を受けることができる。有効な化合物によって影響された標的遺伝子は、例えば、マイクロアレイ、RNA-Seq、またはPCRベースの発現プロファイル分析によって、さらに同定され得る。
【0105】
本発明の方法を使用して単離された上皮幹細胞およびそのクローン増大は、毒物学的な分析および試験を、ある種の医薬または医学的介入を受容する予定の個々の患者のために個別化することができるような、毒物学的なスクリーニングまたは研究のためにさらに有用であり得る。
【0106】
本発明の方法を使用して単離された上皮幹細胞およびそのクローン増大は、既存の状態を処置するかまたはそのような状態が発症するのを防止する/遅延させるため、自己幹細胞またはHLA型適合健常ドナーから単離された幹細胞のいずれかが、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで、再生性の組織または器官へ分化するよう誘導され得る、再生医学のためにも有用であり得る。そのような幹細胞は、誘導された分化の前に遺伝学的に操作されてもよい。
【0107】
本発明の方法を使用して単離された上皮幹細胞およびそのクローン増大は、インビトロまたはインビボの疾患モデルにおいて使用され得る。例えば、単離された腸幹細胞が、気液界面(ALI)において分化して、腸上皮様構造を生じるよう誘導され得、その構造が、本明細書中に記載されたスクリーニング法のいずれかにおいて使用され得る。本発明のスクリーニング法のようなインビボの方法を実施するために適当なヒト化疾患モデルを確立するため、単離された上皮幹細胞(例えば、ヒトに由来するもの)を、SCIDまたはヌードマウスまたはラットへ導入することもできる。
【0108】
2.幹細胞を得、かつ/または培養する方法
本発明の一つの局面は、既に一般的に記載されたような、上皮組織から上皮幹細胞を単離する方法に関する。
【0109】
例示すると、方法の1工程は、上皮細胞クローンを形成するために、(任意で)分裂不活性フィーダー細胞の第1の集団および/または細胞外マトリックス、例えば、基底膜マトリックスと接触している、上皮組織に由来する解離した上皮細胞を培養する工程を含む。
【0110】
ある種の態様において、(上皮)細胞は、非限定的に、コラゲナーゼ、プロテアーゼ、ディスパーゼ、プロナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、アキュターゼ、および/またはトリプシンのうちの1種または複数種を含む酵素による酵素消化を通して、組織から解離させられる。
【0111】
これらの酵素または機能的等価物は、当技術分野において周知であり、ほぼ全てのケースにおいて、市販されている。
【0112】
他の態様において、(上皮)細胞は、(上皮)細胞を囲む細胞外マトリックスの溶解を通して、組織試料から解離させられ得る。本発明のこの態様のために適当な1種の試薬には、その後の生化学的分析のため、BD MATRIGEL(商標)Basement Membrane Matrixにおいて培養された細胞の回収を可能にする、BD(商標)Cell Recovery Solution(BDカタログ番号354253)としてBD Biosciences(San Jose,CA)によって販売されている非酵素専用溶液が含まれる。
【0113】
ある種の態様において、培養系は、フィーダー細胞を含み、フィーダー細胞には、例示すると、マウス3T3-J2細胞などの、ある種の致死的に照射された線維芽細胞が含まれ得る。他のフィーダー細胞には、ヒト皮膚線維芽細胞、(ヒト)脂肪組織由来間葉系幹細胞、(ヒト)骨髄由来間葉系幹細胞、(ヒト)羊膜上皮細胞、(マウスまたはヒト)胚フィーダー細胞、(ヒト)骨髄間質細胞、HELA細胞、および(ヒト)羊膜細胞が含まれる。フィーダー細胞は、基底膜マトリックスの上にフィーダー細胞層を形成することができる。
【0114】
他の態様において、フィーダー細胞が使用され得る態様において、フィーダー細胞条件培地を代わりに使用することができる。
【0115】
適当な3T3-J2細胞クローンは、当技術分野において周知であり(例えば、Todaro and Green,"Quantitative studies of the growth of mouse embryo cells in culture and their development into established lines." /.Cell Biol.17:299-313,1963を参照すること)、公に容易に利用可能である。例えば、Waisman Biomanufacturing(Madison,Wisconsin)は、cGMPガイドラインに従って作製され試験された、照射された3T3-J2フィーダー細胞を販売している。これらの細胞は、物質移動合意書(Material Transfer Agreement)の下で、ベンダーによって、Dr.Howard Greenの研究室から最初に得られ、例えば、皮膚遺伝子治療および創傷治癒臨床試験を支持するために十分な品質を有する。また、ベンダーによると、3T3細胞の各バイアルは、完全に準拠しているクリーンルームにおいて製造された最低3×106個の細胞を含有しており、マイコプラズマフリーおよび低内毒素であることが認証されている。さらに、細胞バンクは、マウスウイルスを含む外来因子について完全に試験済みであった。これらの細胞は、ケラチノサイト培養サポートのためにスクリーニングされており、マイトマイシンCを含有していない。
【0116】
本発明の方法は、線維芽細胞のマウス3T3-J2クローンなどのフィーダー細胞の使用を提供する。一般に、特定の表現型に限定されることなく、フィーダー細胞層は、幹細胞の培養を支持するため、かつ/または分化を阻害するため、しばしば使用される。フィーダー細胞層は、一般に、関心対象の細胞と共培養され、その成長のために適当な表面を提供する細胞の単層である。フィーダー細胞層は、関心対象の細胞が成長することができる環境を提供する。フィーダー細胞は、しばしば、その増殖を防止するため、(例えば、(致死的)照射またはマイトマイシンCによる処理によって)分裂不活性化される。
【0117】
ある種の態様において、フィーダー細胞は、適切にスクリーニングされ、GMPグレードのヒトフィーダー細胞、例えば、本発明の臨床グレードの幹細胞を支持するために十分なものである。GMP品質のFBSを含む培地において成長させられたGMPグレードのヒトフィーダー細胞については、Crookら(参照によって組み入れる、Cell Stem Cell l(5):490-494,2007)を参照すること。
【0118】
ある種の態様において、幹細胞をフィーダー細胞から容易に区別し、単離することができるよう、幹細胞が欠いているマーカーによってフィーダー細胞を標識することができる。例えば、フィーダー細胞は、GFPまたはその他の類似の蛍光マーカーなどの蛍光マーカーを発現するよう改変されていてよい。蛍光標識されたフィーダー細胞は、例えば、FACS選別を使用して、幹細胞から単離され得る。
【0119】
当技術分野において公知の多数の物理的分離方法のいずれかを、フィーダー細胞から本発明の幹細胞を分離するために使用することができる。FACS以外の、そのような物理的方法には、特異的に発現されたマーカーに基づく様々なイムノアフィニティ法が含まれ得る。例えば、本発明の幹細胞は、それらが発現する特異的な幹細胞マーカーに基づき、そのようなマーカーに特異的な抗体を使用して、単離され得る。
【0120】
一つの態様において、本発明の幹細胞は、例えば、これらのマーカーのうちの1種に対する抗体を利用してFACSによって単離され得る。蛍光活性化細胞選別(FACS)は、特定の細胞型または系統に特徴的なマーカーを検出するために使用され得る。当業者に明白であるように、これは、蛍光標識された抗体を通して達成されてもよいし、または一次抗体に対する結合特異性を有する蛍光標識された二次抗体を通して達成されてもよい。適当な蛍光標識の例には、FITC、Alexa Fluor(登録商標)488、GFP、CFSE、CFDA-SE、DyLight 488、PE、PerCP、PE-Alexa Fluor(登録商標)700、PE-Cy5(TRI-COLOIT)、PE-Cy5.5、PI、PE-Alexa Fluor* 750、およびPE-Cy7が含まれるが、これらに限定されるわけではない。蛍光マーカーのリストは、例のために提供されるに過ぎず、限定するためのものではない。
【0121】
例えば、幹細胞に特異的な抗体を使用するFACS分析が、精製された幹細胞集団を提供することは、当業者に明白であろう。しかしながら、いくつかの態様において、フィーダー以外を選択するもののような、他の同定可能マーカーのうちの1種または複数種を使用してさらなるFACS分析を実施することによって、細胞集団をさらに精製することが望ましいかもしれない。
【0122】
ある種の競合法について、フィーダーの存在は、これらの競合法における細胞の継代を複雑にし得るため、フィーダー細胞の使用は望ましくないと考えられる。例えば、各継代でフィーダー細胞から細胞を分離しなければならず、新しいフィーダー細胞が各継代で必要とされる。さらに、フィーダー細胞の使用は、所望の細胞へのフィーダー細胞の混入をもたらし得る。
【0123】
しかしながら、本発明の単離された幹細胞は、単一細胞として継代され得、実際、好ましくは、単一細胞クローンとして継代されるため、フィーダー層の使用は、必ずしも本発明の不利ではない。従って、継代中のフィーダー混入という潜在的リスクは、排除はされないとしても、最小化される。
【0124】
ある種の態様において、基底膜マトリックスは、ラミニン含有基底膜マトリックス(例えば、MATRIGEL(商標)基底膜マトリックス(BD Biosciences))、好ましくは、グロースファクターリデューストである。
【0125】
ある種の態様において、基底膜マトリックスは、三次元成長を支持しないか、または三次元成長を支持するために必要な三次元マトリックスを形成しない。従って、基底膜マトリックスを蒔く時、三次元成長を支持するため、基底膜マトリックスを特別な形または形態で支持体上に沈着させること、例えば、ドームの形または形態を形成させ、凝固後にそのような形または形態を維持することは、一般的には、必要とされない。ある種の態様において、基底膜マトリックスは、(平底組織培養ディッシュまたはウェルなどの)平面または支持構造の上に均一に分布させられるかまたは拡散させられる。
【0126】
ある種の態様において、基底膜マトリックスは、まず解凍され、低温(例えば、約0~4℃)のフィーダー細胞成長培地で適切な濃度(例えば、10%)に希釈され、蒔かれ、適切なCO2含量(例えば、約5%)を有する組織培養インキュベータにおいて37℃に加温することによって、平面上で凝固させられる。次いで、置かれたフィーダー細胞が、基底膜マトリックス上で、一晩、サブコンフルエントまたはコンフルエントなフィーダー細胞層を形成するよう、適切な密度で、致死的に照射されたフィーダー細胞が、凝固した基底膜マトリックス上に蒔かれる。フィーダー細胞は、好ましくは、高グルコース(例えば、約4.5g/L)を有し、L-グルタミンなし、ピルビン酸ナトリウムなしの基本組織培養培地(例えば、DMEM(Invitrogenカタログ番号11960;高グルコース(4.5g/L)、L-グルタミンなし、ピルビン酸ナトリウムなし)、10%仔ウシ血清(熱不活性化されていない)、1種または複数種の抗生物質(例えば、1%ペニシリン-ストレプトマイシン)、およびL-グルタミン(例えば、約1.5mM、または1~2mM、または0.5~5mM、または0.2~10mM、または0.1~20mM)を含む培地(例えば、3T3-J2成長培地)などのフィーダー細胞培地において培養される。
【0127】
本発明の方法によると、上皮細胞コロニーは、起源組織に由来する解離した細胞を、本発明の幹細胞培地において、数日(例えば、3~4日または約10日)培養した後に検出可能になる。
【0128】
ある種の態様において、単一細胞は、例えば、酵素消化によって、これらの上皮細胞コロニーから単離され得る。この目的のために適当な酵素には、温められた0.25%トリプシン(Invitrogenカタログ番号25200056)などのトリプシンが含まれる。ある種の態様において、酵素消化は、上皮細胞クローンの中の本質的に全ての細胞が、他の細胞から解離され、単一細胞になるような、実質的に完全なものである。ある種の態様において、方法は、修飾成長培地中で致死的に照射されたフィーダー細胞の第2の集団および第2の基底膜マトリックスと接触している、単離された単一細胞を、(好ましくは、単一細胞を洗浄し、再懸濁させた後)修飾成長培地中で培養する工程を含む。任意で、単離された単一細胞は、単一細胞がフィーダー細胞および基底膜マトリックスの上に蒔かれる前に、適切なサイズ(例えば、40ミクロン)のセルストレーナーに通過させられてもよい。
【0129】
ある種の態様において、単離された単一幹細胞の単一細胞クローンまたはクローン増大が形成されるまで、修飾成長培地は定期的に(例えば、毎日、2日毎、3日毎、または4日毎等)交換される。
【0130】
ある種の態様において、幹細胞の単一コロニーは、例えば、クローニングリングを使用して単離され得る。単離された幹細胞クローンは、系譜細胞株、即ち、単一幹細胞に由来する細胞株を開発するために増大させられ得る。
【0131】
ある種の態様において、単一幹細胞は、単一幹細胞のクローン増大から単離され得、単一幹細胞として再び継代され得る。
【0132】
3.培地
本発明は、再生性組織幹細胞のための幹細胞培養培地を作製するため、多数の因子が添加された基本培地を含む、本発明の幹細胞の単離、培養、および/または分化のための様々な細胞培養培地を提供する。基本培地または修飾培地に添加され得る因子を、最初に以下に記載する。次いで、本発明の具体的な非限定的な態様を例示するため、本発明のいくつかの例示的な基本培地および修飾培地が、さらなる詳細と共に記載される。
【0133】
ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤
特定の理論に拘束されることは望まないが、特に、単一幹細胞を培養する時、ROCK阻害剤の添加は、アノイキスを防止し得る。ROCK阻害剤は、(R)-(+)-トランス-N-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド)ジヒドロクロリド一水和物(Y-27632、Sigma-Aldrich)、5-(1,4-ジアゼパン-1-イルスルホニル)イソキノリン(ファスジルまたはHA1077、Cayman Chemical)、(1S,)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-l,4-ジアゼピンジヒドロクロリド(Hl 152,Tocris Bioscience)、およびN-(6-フルオロ-1H-インダゾール-5-イル)-2-メチル-6-オキソ-4-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン-3-カルボキサミド(GSK429286A、Stemgent)であり得る。
【0134】
ある種の態様において、Y27632についての最終濃度は、約1~5μMまたは2.5μMである。
【0135】
Rhoキナーゼ阻害剤、例えば、'Y-21632は、幹細胞培養の最初の7日間、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、または7日毎に培養培地に添加され得る。
【0136】
Wntアゴニスト
Wntシグナリング経路は、Wntタンパク質リガンドがフリズルド(Frizzled)受容体ファミリーメンバーの細胞表面受容体に結合した時に起こる一連のイベントによって定義される。これは、細胞内βカテニンを分解するため、アキシン、GSK-3、およびタンパク質APCを含むタンパク質の複合体を阻害するディシブルド(Dishevelled)(Dsh)ファミリータンパク質の活性化をもたらす。得られた濃縮された核βカテニンは、転写因子のTCF/LEFファミリーによる転写を増強する。「Wntアゴニスト」には、本明細書中で使用されるように、Wntシグナリングカスケードのタンパク質/遺伝子のいずれかの活性をモジュレートする(例えば、Wntシグナリング経路の正の制御因子の活性を増強するか、またはWntシグナリング経路の負の制御因子の活性を阻害する)こと等によって、細胞におけるTCF/LEFによって媒介される転写を直接または間接的に活性化する薬剤が含まれる。
【0137】
Wntアゴニストは、Wntファミリータンパク質、細胞内βカテニン分解の阻害剤、およびTCF/LEFの活性化剤の全てを含む、フリズルド受容体ファミリーメンバーに結合し、それを活性化する真のWntアゴニストより選択される。Wntアゴニストは、Wntアゴニストの非存在下でのWnt活性のレベルと比べて、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約50%、少なくとも約70%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、または1000倍、またはそれ以上、細胞におけるWnt活性を刺激することができる。当業者に公知であるように、Wnt活性は、例えば、pTOPFLASHおよびpFOPFLASHのTcfルシフェラーゼレポーター構築物によって、Wntの転写活性を測定することによって決定され得る(参照によって本明細書中に組み入れられる、Korinek et al,Science 275:1784-1787,1997を参照すること)。
【0138】
代表的なWntアゴニストには、Wnt-1/Int-l、Wnt-2/Irp(Int-1関連タンパク質)、Wnt-2b/13、Wnt-3/Int-4、Wnt-3a(R&D systems)、Wnt-4、Wnt-5a、Wnt-5b、Wnt-6(Kirikoshi et al,Biochem.Biophys.Res.Com.,283:798-805,2001)、Wnt-7a(R&D systems)、Wnt-7b、Wnt-8a/8d、Wnt-8b、Wnt-9a/14、Wnt-9b/14b/15、Wnt-10a、Wnt-10b/12、Wnt-11、およびWnt-16を含む、分泌型糖タンパク質が含まれ得る。ヒトWntタンパク質の概要は、"The Wnt Family of Secreted Proteins," R&D Systems Catalog,2004(参照によって本明細書中に組み入れられる)に提供される。
【0139】
さらに、Wntアゴニストには、Wntシグナリング経路の活性化および制御に関与しており、少なくとも4種のメンバー、即ち、R-スポンディン1(NU206、Nuvelo,San Carlos,CA)、R-スポンディン2(R&D systems)、R-スポンディン3、およびR-スポンディン4を含む、R-スポンディンファミリーの分泌型タンパク質が含まれる。Wntアゴニストには、フリズルド4受容体に高い親和性で結合し、Wntシグナリング経路の活性化を誘導するため、Wntタンパク質と同様に機能する分泌型制御性タンパク質である(ノリエ病タンパク質(Norrie Disease Protein)またはNDPとしても公知の)ノリン(R&D systems)も含まれる(Kestutis Planutis et al,BMC Cell Biol.8:12,2007)。
【0140】
Wntアゴニストには、参照によって本明細書中に組み入れられる、Liuら(Angew Chem.Int.Ed.Engl.44 13):1987-1990,2005)に記載されるような、以下の構造:
のWntシグナリング経路の低分子アゴニスト、アミノピリミジン誘導体(N4-[(2H-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)メチル)-6-(3-メトキシフェニル)ピリミジン-2,4-ジアミン)がさらに含まれる。
【0141】
GSK阻害剤には、低分子干渉RNA(siRNA、Cell Signaling)、リチウム(Sigma)、ケンパウロン(Biomol International,Leost et al.,Eur.J.Biochem.267:5983-5994,2000)、6-ブロモインディルビン-30-アセトキシム(Meyer et al.,Chem.Biol.10:1255-1266,2003)、SB 216763、およびSB 415286(Sigma-Aldrich)、ならびにGSK-3のアキシンとの相互作用を防止するFRATファミリーメンバーおよびFRAT由来ペプチドが含まれる。概要は、Meijerら(参照によって本明細書中に組み入れられる、Trends in Pharmacological Sciences 25:471-480,2004)によって提供される。GSK-3阻害のレベルを決定するための方法およびアッセイは、当技術分野において公知であり、例えば、Liaoら(参照によって本明細書中に組み入れられる、Endocrinology 145(6):2941-2949,2004)に記載されたような方法およびアッセイを含み得る。
【0142】
ある種の態様において、Wntアゴニストは、Wntファミリーメンバー、(R-スポンディン1などの)R-スポンディン1~4、ノリン、Wnt3a、Wnt-6、およびGSK阻害剤のうちの1種または複数種より選択される。
【0143】
ある種の態様において、Wntアゴニストは、R-スポンディン1を含むかまたはそれからなる。R-スポンディン1は、少なくとも約50ng/mL、少なくとも約75ng/mL、少なくとも約100ng/mL、少なくとも約125ng/mL、少なくとも約150ng/mL、少なくとも約175ng/mL、少なくとも約200ng/mL、少なくとも約300ng/mL、少なくとも約500ng/mLの濃度で、本発明の培養培地に添加され得る。ある種の態様において、R-スポンディン1は、約125ng/mLである。
【0144】
ある種の態様において、例えばR-スポンディン1~R-スポンディン4、任意のWntファミリーメンバー等の、本明細書中で言及された具体的なタンパク質ベースのWntアゴニストのいずれかは、それぞれのWntアゴニスト活性の少なくとも約80%、85%、90%、95%、99%を保持している、天然の、合成の、もしくは組換え作製された、それらの相同体もしくは断片、および/またはグローバルアライメント技術(例えば、Needleman-Wunschアルゴリズム)もしくはローカルアライメント技術(例えば、Smith-Watermanアルゴリズム)のいずれかに基づく、当技術分野において認められている配列アライメントソフトウェアによって測定されるような、少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、97%、99%のアミノ酸配列同一性を有する、それらの相同体もしくは断片に交換されてもよい。本明細書中で言及された代表的なWntアゴニストの配列は、SEQ ID NO.10~17に表される。
【0145】
本発明の幹細胞の培養中、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、またはそれ以上で培地を交換しながら、毎日、2日毎、3日毎にWntファミリーメンバーを培地に添加することができる。
【0146】
ある種の態様において、Wntアゴニストは、R-スポンディン、Wnt-3a、およびWnt-6、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される。ある種の態様において、R-スポンディンおよびWnt-3aは、Wntアゴニストとして共に使用される。ある種の態様において、R-スポンディン濃度は、約125ng/mLであり、Wnt3a濃度は、約100ng/mLである。
【0147】
分裂促進性増殖因子
本発明のために適当な分裂促進性増殖因子には、上皮増殖因子(EGF)(Peprotech)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFa、Peprotech)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Peprotech)、脳由来神経栄養因子(BDNF、R&D Systems)、およびケラチノサイト増殖因子(KGF、Peprotech)を含む増殖因子のファミリーが含まれ得る。
【0148】
EGFは、多様な培養された外胚葉細胞および中胚葉細胞のための強力な分裂促進因子であり、インビボおよびインビトロの特定の細胞ならびに細胞培養物中のいくつかの線維芽細胞の分化に対して顕著な効果を及ぼす。EGF前駆体は、細胞を刺激する53アミノ酸ペプチドホルモンを生成するためにタンパク質分解的に切断される、膜結合型分子として存在する。EGFは、1~500ng/mLの濃度で本発明の培養培地に添加され得る。ある種の態様において、培地中の最終EGF濃度は、少なくとも約1、2、5、10、20、25、30、40、45、または50ng/mLであり、約500、450、400、350、300、250、200、150、100、50、30、20ng/mLを超えない。ある種の態様において、最終EGF濃度は、約1~50ng/mL、または約2~50ng/mL、または約5~30ng/mL、または約5~20ng/mL、または約10ng/mLである。
【0149】
FGF10またはFGF7などのFGFについても、同一の濃度が使用され得る。複数種のFGF、例えば、FGF7およびFGF10が使用される場合、前記のFGFの濃度は、培地中の使用された全てのFGFの合計濃度をさすことができる。
【0150】
ある種の態様において、例えばEGF、TGFa、bFGF、BDNF、KGF等の、本明細書中で言及された具体的な分裂促進性増殖因子のいずれかは、それぞれの分裂促進性増殖因子活性の少なくとも約80%、85%、90%、95%、99%を保持している、天然の、合成の、もしくは組換え作製された、それらの相同体もしくは断片、および/またはグローバルアライメント技術(例えば、Needleman-Wunschアルゴリズム)もしくはローカルアライメント技術(例えば、Smith-Watermanアルゴリズム)のいずれかに基づく、当技術分野において認められている配列アライメントソフトウェアによって測定されるような、少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、97%、99%のアミノ酸配列同一性を有する、それらの相同体もしくは断片に交換されてもよい。
【0151】
本明細書中で言及された代表的な分裂促進性増殖因子の配列は、SEQ ID NO.18~27に表される。
【0152】
本発明の幹細胞の培養中、例えば、毎日、培地を交換しながら、毎日、2日毎に、分裂促進性増殖因子を培地に添加することができる。
【0153】
bFGFファミリーの任意のメンバーが使用され得る。ある種の態様において、FGF7および/またはFGF10が使用される。FGF7は、KGF(ケラチノサイト増殖因子)としても公知である。ある種の態様において、EGFおよびKGFまたはEGFおよびBDNFなどの分裂促進性増殖因子の組み合わせが、本発明の培養培地に添加される。ある種の態様において、EGFおよびKGFまたはEGFおよびFGF10などの分裂促進性増殖因子の組み合わせが、本発明の培養培地に添加される。
【0154】
BMP阻害剤
骨形成タンパク質(BMP)は、2種の異なる受容体型セリン/トレオニンキナーゼ、I型およびII型の受容体からなる受容体複合体に、二量体リガンドとして結合する。II型受容体は、I型受容体をリン酸化して、この受容体型キナーゼの活性化をもたらす。I型受容体は、その後、(SMADなどの)特異的な受容体基質をリン酸化して、転写活性をもたらすシグナル伝達経路をもたらす。
【0155】
BMP阻害剤には、本明細書中で使用されるように、その受容体を通してBMPシグナリングを阻害する薬剤が含まれる。一つの態様において、BMP阻害剤は、例えば、BMP分子のBMP受容体との結合を防止するかまたは阻害することによって、BMP活性が中和されるよう、BMP分子に結合して複合体を形成する。そのようなBMP阻害剤の例には、BMPリガンドに特異的な抗体またはその抗原結合部分が含まれ得る。そのようなBMP阻害剤の他の例には、BMPリガンドに結合し、リガンドが細胞表面上の天然BMP受容体に結合することを防止する可溶性BMP受容体などのBMP受容体のドミナントネガティブ変異体が含まれる。
【0156】
あるいは、BMP阻害剤には、アンタゴニストまたは逆アゴニストとして機能する薬剤が含まれ得る。この型の阻害剤は、BMP受容体に結合し、BMPの受容体との結合を防止する。そのような薬剤の例は、BMP受容体に特異的に結合し、BMPの抗体結合型BMP受容体との結合を防止する抗体である。
【0157】
ある種の態様において、BMP阻害剤は、阻害剤の非存在下でのBMP活性のレベルと比べて、最大でも90%、最大でも80%、最大でも70%、最大でも50%、最大でも30%、最大でも10%、または約0%(ほぼ完全な阻害)まで、細胞におけるBMP依存性活性を阻害する。当業者に公知であるように、例えば、Zilberbergら(参照によって本明細書中に組み入れられる、"A rapid and sensitive bioassay to measure bone morphogenetic protein activity," BMC Cell Biology 8:41,2007)に例証されるように、BMP活性は、BMPの転写活性を測定することによって決定され得る。
【0158】
ノギン(Peprotech)、コーディンおよびコーディンドメインを含むコーディン様タンパク質(R&D systems)、フォリスタチンおよびフォリスタチンドメインを含むフォリスタチン関連タンパク質(R&D systems)、DANおよびDANシスチンノットドメインを含むDAN様タンパク質(例えば、ケルベロスおよびグレムリン)(R&D systems)、スクレロスチン/SOST(R&D systems)、デコリン(R&D systems)、ならびにα2マクログロブリン(R&D systems)を含む、またはUS 8,383,349に記載されたような、天然BMP結合タンパク質のいくつかのクラスが公知である。本発明の方法において使用するための例示的なBMP阻害剤は、ノギン、DAN、ならびにケルベロスおよびグレムリンを含むDAN様タンパク質(R&D systems)より選択される。これらの拡散性(diffusible)タンパク質は、変動する程度の親和性で、BMPリガンドに結合し、BMPのシグナリング受容体へのアクセスを阻害することができる。
【0159】
前記BMP阻害剤のいずれかは、望ましい時、単独でまたは組み合わせられて、本発明の培養培地に添加され得る。
【0160】
ある種の態様において、BMP阻害剤は、ノギンである。ノギンは、少なくとも約10ng/mL、または少なくとも約20ng/mL、または少なくとも約50ng/mL、または少なくとも約100ng/mL(例えば、100ng/mL)の濃度で、それぞれの培養培地に添加され得る。
【0161】
ある種の態様において、ノギン、コーディン、フォリスタチン、DAN、ケルベロス、グレムリン、スクレロスチン/SOST、デコリン、およびα2マクログロブリンなどの本明細書中で言及された具体的なBMP阻害剤のいずれかは、それぞれのBMP阻害活性の少なくとも約80%、85%、90%、95%、99%を保持している、天然の、合成の、もしくは組換え作製された、それらの相同体もしくは断片、および/またはグローバルアライメント技術(例えば、Needleman-Wunschアルゴリズム)もしくはローカルアライメント技術(例えば、Smith-Watermanアルゴリズム)のいずれかに基づく、当技術分野において認められている配列アライメントソフトウェアによって測定されるような、少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、97%、99%のアミノ酸配列同一性を有する、それらの相同体もしくは断片に交換されてもよい。
【0162】
本明細書中で言及された代表的なBMP阻害剤の配列は、SEQ ID NO.1~9に表される。
【0163】
本発明の幹細胞の培養中、適宜、毎日、2日毎、3日毎、または4日毎に、培養培地を交換しながら、毎日、2日毎、3日毎、または4日毎に、BMP阻害剤を培養培地に添加することができる。
【0164】
BRAF阻害剤
本明細書中に記載された態様に従って使用され得るBRAF阻害剤には、野生型BRAFまたは変異型BRAF(例えば、BRAFV600E、BRAFV600K、BRAFV600D、BRAFV600L、BRAFV600R)の生物学的活性(例えば、シグナル伝達活性)の少なくとも一部分を選択的に阻害する薬剤が含まれ得る。いくつかの局面において、BRAF阻害剤は、BRAFのみに選択的であってもよいし、またはRAF/MEK/ERK経路の1種もしくは複数種の付加的な標的に対する阻害活性を有していてもよい。例えば、一つの局面において、BRAF阻害剤は、RAFキナーゼ阻害剤であってもよく、即ち、阻害剤は、BRAFに加えて、ARAF、CRAF、またはその両方などのRAFキナーゼに対する阻害活性を有していてもよい。ある種の態様において、BRAF阻害剤は、増加した逆説的MAPK活性化活性を有するよう選択される。従って、本明細書中に記載された態様に従って使用されるBRAF阻害剤は、MAPK逆説活性化剤として機能し得る、即ち、BRAF阻害剤は、MAPKシグナリングの増加を引き起こす。いくつかの局面において、MAPK逆説活性化剤は、標的BRAFキナーゼが野生型BRAFキナーゼである時、増加したMAPKシグナリングを示すBRAF阻害剤である。
【0165】
数種のBRAFキナーゼ阻害剤が、当技術分野において記載されており、それらのいずれかが、本明細書中に記載された方法、包帯材、および組成物において使用するために適当であり得る。適当なBRAF阻害剤には、1,2-ジ-シクリル置換アルキン化合物または誘導体;1-メチル-5-(2-(5-(トリフルオロメチル)-1H-イミダゾール-2-イル)ピリジン-4-イルオキシ)-N-(4--(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-アミン);2,6-二置換キナゾリン、キノキサリン、キノリン、およびイソキノリン化合物または誘導体;4-アミノ-5-オキソ-8-フェニル-5H-ピリド-[2,3-D]-ピリミジン化合物または誘導体;4-アミノ-チエノ[3,2-C]ピリジン-7-カルボン酸化合物または誘導体;5-(4-アミノフェニル)-イソキノリン化合物または誘導体;ベンゼンスルホンアミドチアゾール化合物または誘導体;ベンズイミダゾール化合物または誘導体;二環式化合物または誘導体;ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン化合物または誘導体の架橋誘導体、二環式ヘテロ環式誘導体、またはスピロ二環式ヘテロ環式誘導体;シンナミドおよびヒドロ-シンナミド化合物または誘導体;二置換イミダゾール化合物または誘導体;縮合三環式ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン化合物または誘導体;ヘテロアリール化合物または誘導体;ヘテロ環式化合物または誘導体;1H-ベンゾ[D]イミダゾール化合物または誘導体;イミダゾ[4,5-B]ピリジン化合物または誘導体;N-(6-アミノピチジン(pytidin)-3-イル)-3-(スルホンアミド)ベンズアミド化合物または誘導体;N-[3-(1-アミノ-5,6,7,8-テトラヒドロ-2,4,4B-トリアザフルオレン-9-イル)-フェニル]ベンズアミド化合物または誘導体;窒素含有二環式ヘテロアリール化合物または誘導体;ヘテロ環式置換ビスアリール尿素化合物または誘導体のN-オキシド;ωカルボキシルアリール置換ジフェニル尿素化合物または誘導体;オキサゾール化合物または誘導体;フェネチルアミド化合物または誘導体;フェニルスルホンアミド置換ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン化合物または誘導体;フェニルトリアゾール化合物または誘導体;ヘテロ環式化合物または誘導体;1h-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン化合物または誘導体;プリン化合物または誘導体;ピラゾール[3,4-B]ピリジン化合物または誘導体;ピラゾール化合物または誘導体;ピラゾリン化合物または誘導体;ピラゾロ[3,4-b]ピリジン、ピロロ[2,3-b]ピリジン化合物または誘導体;ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン化合物または誘導体;ピラゾロ[5,1-c][1,2,4]トリアジン化合物または誘導体;ピラゾリル化合物または誘導体;ピリミジン化合物または誘導体;ピロール化合物または誘導体;ピロロ[2,3-B]ピリジン化合物または誘導体;置換6-フェニル-ピリド[2,3-D]ピリミジン-7-オン化合物または誘導体;置換ベンズアゾール化合物または誘導体;置換ベンズイミダゾール化合物または誘導体;置換ビスアリール尿素化合物または誘導体;チエノピリジン化合物または誘導体;チエノピリミジン、チエノピリジン、またはピロロピリミジン化合物または誘導体;チオフェンアミド化合物または誘導体、ならびにその他の適当なアリールおよび/またはヘテロアリール化合物または誘導体が含まれ得るが、これらに限定されるわけではない。いくつかの局面において、本明細書中に記載された適当なBRAF阻害剤は、化合物もしくは誘導体自体を含んでいてもよいし、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和化合物であってもよい。
【0166】
国際特許出願公開番号WO2011117381、WO2011119894、WO2011117381、WO2011097594、WO2011097526、WO2011085269、WO2011090738、WO2011025968、WO2011025927、WO2011023773、WO2011028540、WO2010111527、WO2010104973、WO2010100127、WO2010078408、WO2010065893、WO2010032986、WO2009115572、WO2009108838、WO2009111277、WO2009111278、WO2009111279、WO2009111280、WO2009108827、WO2009111260、WO2009100536、WO2009059272、WO2009039387、WO2009021869、WO2009006404、WO2009006389、WO2008140850、WO2008079277、WO2008055842、WO2008034008、WO2008115263、WO2008030448、WO2008028141、WO2007123892、WO2007115670、WO2007090141、WO2007076092、WO2007067444、WO2007056625、WO2007031428、WO2007027855、WO2007002433、WO2007002325、WO2006125101、WO2006124874、WO2006124780、WO2006102079、WO2006108482、WO2006105844、WO2006084015、WO2006076706、WO2006050800、WO2006040569、WO2005112932、WO2005075425、WO2005049603、WO2005037285、WO2005037273、WO2005032548;ならびに米国特許第8,642,759号、米国特許第8,557,830号、米国特許第8,504,758号、米国特許第7,863,288号、米国特許第7,491,829号、米国特許第7,482,367号、および米国特許第7,235,576号を含むが、これらに限定されるわけではない、いくつかの特許および特許出願は、本明細書中に記載された態様に従って使用され得る例示的なBRAF阻害剤を開示しており;これら全ての明細書が、本明細書中に完全に示されたかのごとく、参照によって本明細書中に組み入れられる。
【0167】
ある種の態様において、BRAF阻害剤は、AMG542、ARQ197、ARQ736、AZ628、CEP-32496、GDC-0879、GSK1120212、GSK2118436(ダブラフェニブ、Tafinlar)、LGX818(エンコラフェニブ)、NMS-P186、NMS-P349、NMS-P383、NMS-P396、NMS-P730、PLX3603(RO5212054)、PLX4032(ベムラフェニブ、Zelboraf)、PLX4720(ジフルオロフェニル-スルホンアミン)、PF-04880594、PLX4734、RAF265(CHIR-265)、804987655、SB590885、ソラフェニブ、ソラフェニブトシル酸塩、またはXL281(BMS-908662)より選択される分子の群より選択され得る。
【0168】
いくつかの態様において、BRAF阻害剤は、式(I)または式(II):
またはそれらの薬学的に許容される塩の構造を有し、式中、
R1はH、シアノで置換されていてもよいC3-C6シクロアルキル、シアノで置換されていてもよいC1-C3アルキル、-C(O)NH2、ヒドロキシ、-X1NHC(O)OR1a、-X1NHC(O)NHR1aであり、X1はハロ、C1-C4アルキル、またはハロ置換C1-C4アルキルより各々独立に選択される1~3個の基で置換されていてもよいC1-C4アルキレンであり、R1aはH、C1-C4アルキル、またはハロ置換C1-C4アルキルであり;
R1bはHまたはメチルであり;
R2はHまたはハロゲンであり;
R3はH、ハロゲン、C1-C4アルコキシ、C1-C4アルキル、ハロ置換C1-C4アルコキシ、またはハロ置換C1-C4アルキルであり;
R4はハロゲン、H、またはC1-C4アルキルであり;
R5はC1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキル、C3-C8分岐型アルキル、ハロ置換C1-C6アルキル、ハロ置換C3-C8分岐型アルキル、C3-C6シクロアルキル-(C1-C3)-アルキレン、またはフェニルであり、該フェニルはハロ、CH3、またはCF3より各々独立に選択される1~3個の置換基で置換されていてもよく;
R6はH、C1-C4アルキル、またはハロゲンであり;
R7はH、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキル、1-メチル-(C3-C6)-シクロアルキル、1-(ハロ置換メチル)-(C3-C6)-シクロアルキル、C3-C8分岐型アルキル、ハロ置換C1-C6アルキル、ハロ置換C3-C8分岐型アルキル、またはフェニルであり、該フェニルはハロゲン、C1-C4アルキル、またはハロ置換C1-C4アルキルより選択される1~3個の置換基で置換されていてもよく、好ましくは、R7はH、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキル、1-メチル-(C3-C6)-シクロアルキル、C3-C8分岐型アルキル、またはフェニルであり、該フェニルはハロゲン、C1-C4アルキル、またはハロ置換C1-C4アルキルより選択される1~3個の置換基で置換されていてもよい。
【0169】
式(I)の化合物の一つの具体的な態様において、
R1はシアノで置換されていてもよいC1-C3アルキル、-C(O)NH2、ヒドロキシ、-X1NHC(O)OR1aであり、X1はハロ、C1-C4アルキル、またはハロ置換C1-C4アルキルより各々独立に選択される1~3個の基で置換されていてもよいC1-C4アルキレンであり、R1aはH、C1-C4アルキル、またはハロ置換C1-C4アルキルであり;
R2はHまたはハロゲンであり;
R3は、H、ハロゲン、C1-C4アルコキシ、C1-C4アルキル、ハロ置換C1-C4アルコキシ、またはハロ置換C1-C4アルキルであり;
R4はハロゲン、H、またはC1-C4アルキルであり;
R5はC1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキル、C3-C8分岐型アルキル、ハロ置換C1-C6アルキル、またはハロ置換C3-C8分岐型アルキルであり;
R6はH、C1-C4アルキル、またはハロゲンであり;
R7は、H、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキル、1-メチル-(C3-C6)-シクロアルキル、1-(ハロ置換メチル)-(C3-C6)-シクロアルキル、C3-C8分岐型アルキル、ハロ置換C1-C6アルキル、またはハロ置換C3-C8分岐型アルキルまたはフェニルであり、該フェニルはハロゲン、C1-C4アルキル、またはハロ置換C1-C4アルキルより選択される1~3個の置換基で置換されていてもよく、好ましくは、R7はH、C1-C6アルキル、C3-C6シクロアルキル、1-メチル-(C3-C6シクロアルキル、またはフェニルであり、該フェニルはハロゲン、C1-C4アルキル、またはハロ置換C1-C4アルキルより選択される1~3個の置換基で置換されていてもよい;またはそれらの薬学的に許容される塩。
【0170】
好ましい態様において、
R1が-CH2-(S)-CH(CH3)NHC(O)OCH3であり;
R1bがHであり;
R2がHであり;
R3がClであり;
R4がHであり;
R5がCH3であり;
R6がFであり;
R7がイソプロピルである、
式(II)の化合物またはその薬学的に許容される塩(本明細書中で「LGX818」または「エンコラフェニブ」とも呼ばれる)が提供される。
【0171】
別の態様において、
R2がHまたはFであり;
R3がH、ハロゲン、C1-C2アルコキシル、C1-C2アルキル、ハロ置換C1-C2アルコキシル、またはハロ置換C1-C2アルキルであり;
R4がHまたはメチルであり;
R5がC1-C4アルキル、C3-C6シクロアルキル、C3-05分岐型アルキル、ハロ置換C1-C4アルキル、ハロ置換C3-C6分岐型アルキル、またはC3-C6シクロアルキル-(C1-C3)-アルキレンであり;
R6がH、C1-C2アルキル、またはハロゲンであり;
R7がC3-C6シクロアルキル、1-メチル-(C3-C6)-シクロアルキル、またはC3-C6分岐型アルキルである、
式(II)の化合物またはそれらの薬学的に許容される塩が提供される。
【0172】
別の態様において、
R2がHであり;
R3がH、Cl、F、メトキシ、メチル、またはジフルオロメトキシであり;
R4がHであり;
R5がメチル、シクロプロピル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec-ブチル、イソブチル、トリフルオロメチル、または3,3,3-トリフルオロプロピルであり;
R6がH、メチル、F、またはClであり;
R7がt-ブチル、シクロプロピル、または1-メチルシクロプロピルである、
式(II)の化合物またはそれらの薬学的に許容される塩が提供される。
【0173】
いくつかの態様において、BRAF阻害剤は、式(III):
の化合物、およびそれらの薬学的に許容される塩であり、式中、
aは0、1、2、または3であり;
R1は各々同一であるかまたは異なり、ハロ、アルキル、ハロアルキル、-OR6、-CO2R6、-NR6R7、および-CNより独立に選択され;
環AはC3-C6シクロアルキル、フェニル、5~6員複素環、および5~6員ヘテロアリールより選択され、該複素環および該ヘテロアリールは各々N、O、およびSより選択される1個または2個のヘテロ原子を有し;
Q1、Q2、Q3、およびQ4は各々CH、CR2、またはNであり、Q1、Q2、Q3、およびQ4のうちの1個以下がNであり;
R2は各々同一であるかまたは異なり、ハロ、アルキル、ハロアルキル、および-OR6より独立に選択され;
Wは-O-および-S-より選択され;
R3はH、アルキル、ハロアルキル-、-アルキレン-OH、-NR6R7、-C3-C6シクロアルキル、-アルキレン-C(O)-OH、-アルキレン-NH2、およびHetより選択され;
R3がC3-C6シクロアルキルである時、C3-C6シクロアルキルは、同一であるかまたは異なり、ハロ、C1-C3アルキル、ハロ-(C1-C3)-アルキル、OH、O-(C1-C3)-アルキル、オキソ、S-(C1-C3)-アルキル、SO2、NH2、N(H)(C1-C3)-アルキル、およびN(C1-C3アルキル)2より独立に選択される1個または2個の置換基で置換されていてもよく;
Hetは、N、O、およびSより選択される1個または2個のヘテロ原子を有し、同一であるかまたは異なり、ハロ、C1-C3アルキル、ハロ-(C1-C3)-アルキル、O-(C1-C3)-アルキル、C1-C3アルキレン-O-(C1-C3)-アルキル、OH、C1-C3アルキレン-OH、オキソ、SO2((C1-C3)-アルキル)、C1-C3アルキレン-SO2((C1-C3)-アルキル)、NH2、N(H)((C1-C3)-アルキル)、N(C1-C3アルキル)2、CN、および-CH2CNより各々独立に選択される1個または2個の置換基で置換されていてもよい5~6員複素環であり;
R4はH、アルキル、ハロアルキル、アルケニル、-OR6、-R5-OR6、-R5-CO2R6、-R5-SO2R6、-R5-Het、-R5-C(O)-Het、-N(H)R8、-N(CH3)R8、および-R5-NR6R7より選択され;R5は各々同一であるかまたは異なり、独立にC1-C4アルキレンであり;
R6および各R7は各々同一であるかまたは異なり、H、アルキル、ハロアルキル、-C(O)-アルキル、および-C(O)-シクロアルキルより独立に選択され;
R8はH、(-OHで置換されていてもよい)アルキル、ハロアルキル、C3-C6シクロアルキル、-R5-(C3-C6)-シクロアルキル、Het2、-R5-Het2、-R5-OR6、-R5-O-R5-OR6、-R5-C(O)2R6、-R5-C(O)NR6R7、-R5-N(H)C(O)-R6、-R5-N(H)C(O)-R5-OR6、-R5-N(H)C(O)2-R5-R5-NR5R7、-R5-S(O)2R6、-R5-CN、および-R5-N(H)S(O)2R6より選択され;
R8がC3-C6シクロアルキルである時、C3-C6シクロアルキルは、同一であるかまたは異なり、ハロ、C1-C3アルキル、ハロ-(C1-C3)-アルキル、OH、O-(C1-C3)-アルキル、オキソ、S-(C1-C3)-アルキル、SO2(C1-C3)-アルキル、NH2、N(H)-(C1-C3)-アルキル、およびN(C1-C3アルキル)2、およびN(H)-SO2-(C1-C3)-アルキルより独立に選択される1個または2個の置換基で置換されていてもよく、
Het2は、N、O、およびSより選択される1個または2個のヘテロ原子を有し、1個、2個、3個、4個、もしくは5個のC1-C3アルキル、または同一であるかもしくは異なり、ハロ、C1-C3アルキル、ハロ-(C1-C3)-アルキル、O-(C1-C3)-アルキル、C1-C3アルキレン-O-(C1-C3アルキル)、OH、C1-C3アルキレン-OH、オキソ、SO2(C1-C3アルキル)、C1-C3アルキレン-SO2(C1-C3アルキル)、NH2、N(H)-(C1-C3アルキル)、N(C1-C3アルキル)2、N(H)SO2-(C1-C3アルキル)、C(O)(C1-C3アルキル)、CO2(C1-C4アルキル)、CN、および-CH2CNより各々独立に選択される1個もしくは2個の置換基で置換されていてもよい4~6員複素環であり;
R9およびR19は、Hおよびアルキルより独立に選択される。
【0174】
好ましい態様において、
aが2であり;
R1がFであり;
R2が各々Fであり;
R3がt-ブチルであり;
R4がN(H)R8であり;
R8がHであり;
WがSである
式(III)の化合物またはそれらの薬学的に許容される塩(本明細書中で「GSK2118436」、「ダブラフェニブ」、または「Tafinlar」と呼ばれる)が提供される。
【0175】
いくつかの態様において、BRAF阻害剤は、式(IV):
の化合物であり、式中、
R2、R4、R5、およびR6は水素、ハロゲン、置換されていてもよい低級アルキル、置換されていてもよい低級アルケニル、置換されていてもよい低級アルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクロアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-CN、-NO2、-CRaRbR26、および-LR26からなる群より独立に選択され;
R3は水素、ハロゲン、置換されていてもよい低級アルキル、置換されていてもよい低級アルケニル、置換されていてもよい低級アルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクロアルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、-CN、-NO2、-CRaRbR26、-LR26、および-A-Ar-L1-R24からなる群より選択され;
Aは-O-、-S-、-CRaRb-、-NR1-、-C(O)-、-C(S)-、-S(O)-、および-S(O)2-からなる群より選択され;
R1は水素、低級アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、-C(O)R7、-C(S)R7、-S(O)2R7、-C(O)NHR7、-C(S)NHR7、および-S(O)2NHR7からなる群より選択され、低級アルキルはフルオロ、-OH、-NH2、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、および-NR8R9からなる群より選択される1個または複数個の置換基で置換されていてもよく、低級アルコキシル、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、またはジアルキルアミノのアルキル鎖はフルオロ、-OH、-NH2、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、フルオロ置換低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、およびシクロアルキルアミノからなる群より選択される1個または複数個の置換基で置換されていてよく、但し、アルコキシのO、チオアルキルのS、またはモノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノのNに結合したアルキル鎖炭素の置換基はフルオロであり、さらに、R1が低級アルキルである時、-NR1-のNに結合した低級アルキル炭素の置換基はフルオロであり、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールはハロゲン、-OH、-NH2、低級アルキル、フルオロ置換低級アルキル、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、フルオロ置換低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、およびシクロアルキルアミノからなる群より選択される1個以上の置換基で置換されていてもよく;R7は低級アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリールからなる群より選択され、低級アルキルはフルオロ、-OH、-NH2、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、および-KR8R9からなる群より選択される1個または複数個の置換基で置換されていてもよく、但し、-C(O)NHR7、-C(S)NHR7、または-S(O)2NHR7のNに結合したアルキル炭素の置換基はフルオロであり、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、またはジアルキルアミノのアルキル鎖はフルオロ、-OH、-NH2、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、フルオロ置換アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、およびシクロアルキルアミノからなる群より選択される1個または複数個の置換基で置換されていてもよく、但し、アルコキシのO、チオアルキルのS、またはモノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノのNに結合したアルキル鎖炭素の置換基はフルオロであり、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリールはハロゲン、-OH、-NH2、低級アルキル、フルオロ置換低級アルキル、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、フルオロ置換低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、およびシクロアルキルアミノからなる群より選択される1個または複数個の置換基で置換されていてもよく;
Arは置換されていてもよいアリーレンおよび置換されていてもよいヘテロアリーレンからなる群より選択され;
各存在位置のLは-(alk)a-S-(alk)b-、-(alk)a-O-(alk)b-、-(alk)a-NR25-(alk)b-、-(alk)a-C(O)-(alk)b-、-(alk)a-C(S)-(alk)b-、-(aUc)a-S(O)-(alk)b-、-(alk)a-S(O)2-(alk)b-、-(alk)a-OC(O)-(alk)b-、-(alk)a-C(O)O-(alk)b-、-(alk)a-OC(S)-(alk)b-、-(alk)a-C(S)O-(alk)b-、-(alk)a-C(O)NR25-(alk)b-、-(alk)a-C(S)NR25-(alk)b-、-(alk)a-S(O)2NR25-(alk)b-、-(alk)a-NR25C(O)-(alk)b-、-(alk)a-NR25C(S)-(alk)b-、-(alk)a-NR25S(O)2-(alk)b-、-(alk)a-NR25C(O)O-(alk)b-、-(alk)a-NR25C(S)O-(alk)b-、-(alk)a-OC(O)NR25-(alk)b-、-(alk)a-OC(S)NR25-(alk)b-、-(alk)a-NR25C(O)NR25-(alk)b-、-(alk)a-NR25C(S)NR25-(alk)b-、および-(alk)a-NR25S(O)2NR25-(alk)b-からなる群より独立に選択され;aおよびbは独立に0または1であり;alkはC1-C3アルキレン、またはフルオロ、-OH、-NH2、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、および-NR8R9からなる群より選択される1個もしくは複数個の置換基で置換されたC1-C3アルキレンであり、低級アルキル、または低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、もしくはジアルキルアミノのアルキル鎖はフルオロ、-OH、-NH2、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、フルオロ置換低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、およびシクロアルキルアミノからなる群より選択される1個または複数個の置換基で置換されていてもよく、但し、アルコキシのO、チオアルキルのS、またはモノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノのNに結合したアルキル鎖炭素の置換基はフルオロであり;
L1は-(CRaRb)v-またはLであり、vは1、2、または3であり;各存在位置のRaおよびRbは水素、フルオロ、-OH、-NH2、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、および-NR8R9からなる群より独立に選択され、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、もしくはジアルキルアミノのアルキル鎖はフルオロ、-OH、-NH2、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、フルオロ置換低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、およびシクロアルキルアミノからなる群より選択される1個もしくは複数個の置換基でされていてもよく、但し、アルコキシのO、チオアルキルのS、もしくはモノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノのNに結合したアルキル鎖炭素の置換基はフルオロであるか;または同一のもしくは異なる炭素上のRaおよびRbのうちの2個は共に3~7員単環式シクロアルキルもしくは5~7員単環式ヘテロシクロアルキルを形成しており、RaおよびRbのその他のものは水素、フルオロ、-OH、-NH2、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、および-NR8R9からなる群より独立に選択され、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、もしくはジアルキルアミノのアルキル鎖はフルオロ、-OH、-NH2、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、フルオロ置換低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、およびシクロアルキルアミノからなる群より選択される1個もしくは複数個の置換基で置換されていてもよく、但し、アルコキシのO、チオアルキルのS、もしくはモノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノのNに結合したアルキル鎖炭素の置換基はフルオロであり、3~7員単環式シクロアルキルもしくは5~7員単環式ヘテロシクロアルキルはハロゲン、-OH、-NH2、低級アルキル、フルオロ置換低級アルキル、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、フルオロ置換低級アルキルチオ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、およびシクロアルキルアミノからなる群より選択される1個もしくは複数個の置換基でされていてもよく;
R8およびR9は、それらが付着している窒素と共に、フルオロ、-OH、-NH2、低級アルキル、フルオロ置換低級アルキル、低級アルコキシ、フルオロ置換低級アルコキシ、低級アルキルチオ、およびフルオロ置換低級アルキルチオからなる群より選択される1個または複数個の置換基で置換されていてもよい5~7員ヘテロシクロアルキルを形成しており;
各存在位置のR25は水素、置換されていてもよい低級アルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクロアルキル、置換されていてもよいアリール、および置換されていてもよいヘテロアリールからなる群より独立に選択され;
各存在位置のR24およびR26は水素(但し、水素はLまたはLiのS(O)、S(O)2、C(O)、またはC(S)のいずれにも結合していない)、置換されていてもよい低級アルキル、置換されていてもよい低級アルケニル(但し、R24またはR26が置換されていてもよい低級アルケニルである時、それらのアルケン炭素はLまたはL1のN、S、O、S(O)、S(O)2、C(O)、またはC(S)に結合していない)、置換されていてもよい低級アルキニル(但し、R24またはR26が置換されていてもよい低級アルキニルである時、そのアルキン炭素はLまたはL1のN、S、O、S(O)、S(O)2、C(O)、またはC(S)に結合していない)、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいヘテロシクロアルキル、置換されていてもよいアリール、および置換されていてもよいヘテロアリールからなる群より独立に選択される。
【0176】
好ましい態様において、
R2がHであり;
R3が-A-Ar-L1-R24であり;
Aが-C(O)-であり;
Arが2,4-ジフルオロフェニルであり;
L1が-SO2-であり;
R4がHであり;
R5が4-クロロフェニルであり;
R6がHであり;
R24がn-プロピルである
式(III)の化合物またはその薬学的に許容される塩(本明細書中で「PLX4032」、「ベムラフェニブ」、または「Zelboraf」と呼ばれる)が提供される。
【0177】
他の態様において、当業者は、インビトロの、インビボの、インシリコの、または当技術分野において公知のその他のスクリーニング法を使用して、新規BRAF阻害剤を生成するかまたは同定することができる。例えば、野生型BRAFのBRAF阻害剤は、MAPKシグナリングカスケードのBRAFより下流の分子(例えば、MEKおよび/またはERK)のリン酸化を検出するためのアッセイを使用して、低分子、ペプチド、または核酸のトレーニングセットから同定され得る。BRAF阻害剤は、BRAF発現および/またはシグナリング機能を抑制するかまたは阻害し、それによって、MEKおよびERKのリン酸化を低下させるよう機能することができる。キナーゼ活性アッセイ(例えば、R&D Systems、Promega、Life Technologiesによって販売されているもの);ウエスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、免疫組織化学などのイムノアッセイにおいて使用するためのリン酸化型特異的抗体;質量分析、プロテオミクス、およびリン酸化タンパク質多重アッセイを含むが、これらに限定されるわけではない、そのような態様において使用され得る数種のリン酸化アッセイが利用可能である。ある種の態様において、本明細書中に記載された態様において使用するためのBRAF阻害剤は、MAPK経路を活性化する候補阻害剤の能力を測定するスクリーニング法を使用して同定され得る。
【0178】
VEGF阻害剤
ある種の態様において、VEGF阻害剤は、アフリベルセプト、ペガプタニブ、チボザニブ、3-(4-ブロモ-2,6-ジフルオロ-ベンジルオキシ)-5-[3-(4-ピロリジン-1-イル-ブチル)-ウレイド]-イソチアゾール-4-カルボン酸アミドヒドロクロリド、アキシチニブ、N-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[(1-メチルピペリジン-4-イル-)メトキシ]キナゾリン-4-アミン、VEGF-R2およびVEGF-R1の阻害剤、アキシチニブ、N,2-ジメチル-6-(2-(1-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)チエノ[3,2-b]ピリジン-7-イルオキシ)ベンゾ[b]チオフェン-3-カルボキサミド、RET/PTC発がんキナーゼのチロシンキナーゼ阻害剤、N-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[(1-メチルピペリジン-4-イル)メトキシ]キナゾリン-4-アミン、汎VEGF-Rキナーゼ阻害剤;プロテインキナーゼ阻害剤、マルチターゲットのヒト上皮受容体(HER)1/2および血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1/2受容体ファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、セジラニブ、ソラフェニブ、バタラニブ、グルファニド二ナトリウム、VEGFR2選択的モノクローナル抗体、アンジオザイム、siRNAベースのVEGFR1阻害剤、5-((7-ベンジルオキシキナゾリン-4-イル)アミノ)-4-フルオロ-2-メチルフェノールヒドロクロリド、ならびにそれらの誘導体、ならびにそれらの組み合わせより選択される。
【0179】
ある種の好ましい態様において、VEGF阻害剤は、VEGF受容体阻害剤であり、さらに好ましくは、チボザニブ(AV-951)、AZD2932、ミドスタウリン(pkc412)、BAW2881(NVP-BAW2881)、ニンテダニブ(BIBF 1120)、SU5402、SU1498、BFH772、ソラフェニブ、スニチニブ、ドビチニブ(TKI258)、セマキサニブ(SU5416)、ヒペリシン、バタラニブ、ZM306416、AAL993、SU4312、DMXAA、またはフォレチニブなどのVEGF受容体型キナーゼ阻害剤である。
【0180】
ある種の態様において、VEGF受容体阻害剤は、アファチニブ、イマチニブ、ダコミチニブ、ダサチニブ、ポナチニブ、KD-019、ボスチニブ、ラパチニブジトシレート、AZD9291、ネラチニブ、ポジオチニブ(poziotinib)、S-222611、スラミンヘキサナトリウム、AL-6802、BGB-102、PB357、ピロチニブ(Pyrotinib)、スニチニブ、ソラフェニブトシル酸塩、パゾパニブ、レゴラフェニブ、アパチニブ、アキシチニブ、カルボザンチニブ(carbozantinib)、レンバチニブ、ニンテダニブ、バンデタニブ、チボザニブ、アンロチニブ(anlotinib)、ミドスタウリン、ムパルフォスタット(muparfostat)、BMS-690514、ENMD-2076、ゴルバチニブ(golvatinib)、ルシタニブ(lucitanib)、モテサニブ、ネクパリニブ(necuparinib)、RAF265、ファミチニブ(famitinib)、テラチニブ(telatinib)、X82、ALNVSP、アルチラチニブ(altiratinib)、ABT348、MGCD516、OB318、ODM203、HHGV678、LY-3012207、CS2164、イロラセルチブ(ilorasertib)、ラドチニブ(radotinib)、バフェチニブ(bafetinib)、NRCAN-019、ABL001、メタチニブ(metatinib)トロメタミン、レバスチニブ(rebastinib)トシル酸塩、またはVX-15などのマルチチロシンキナーゼ阻害剤である。
【0181】
TGFβまたはTGFβ受容体の阻害剤
TGFβシグナリングは、細胞成長、細胞運命、およびアポトーシスを含む多くの細胞機能に関与している。シグナリングは、典型的には、I型受容体をリクルートし、リン酸化するII型受容体へのTGFβスーパーファミリーリガンドの結合によって開始する。次いで、核内転写因子として機能し、標的遺伝子発現を制御するSMADを、1型受容体がリン酸化する。あるいは、TGFβシグナリングは、例えば、p38 MAPキナーゼを介して、MAPキナーゼシグナリング経路を活性化することができる。
【0182】
TGFβスーパーファミリーリガンドには、骨形成タンパク質(BMP)、増殖分化因子(GDF)、抗ミュラーホルモン(AMH)、アクチビン、nodal、およびTGFβが含まれる。
【0183】
TGFβ阻害剤には、本明細書中で使用されるように、TGFβシグナリング経路の活性を低下させる薬剤が含まれる。当技術分野において公知のTGFβシグナリング経路を破壊する多くの異なる方式が存在し、そのいずれかを、本発明において使用することができる。例えば、TGFβシグナリングは、低分子干渉RNA戦略によるTGFβ発現の阻害;フューリン(TGFβ活性化プロテアーゼ)の阻害;ノギン、DAN、またはDAN様タンパク質によるBMPの阻害などの、生理学的阻害剤による経路の阻害;モノクローナル抗体によるTGFβの中和;TGFβ受容体型キナーゼ1(アクチビン受容体様キナーゼ、ALK5としても公知)、ALK4、ALK6、ALK7、またはその他のTGFβ関連受容体型キナーゼの低分子阻害剤による阻害;生理学的阻害剤Smad 7の過剰発現による、またはSmadを活性化不能にするSmadアンカーとしてのチオレドキシンを使用することによる、Smad 2およびSmad 3のシグナリングの阻害:によって破壊され得る(Fuchs,Inhibition of TGFβ Signaling for the Treatment of Tumor Metastasis and Fibrotic Diseases.Current Signal Transduction Therapy 6(1):29-43(15),2011)。
【0184】
例えば、TGFβ阻害剤は、TGFβ受容体型キナーゼ1、ALK4、ALK5、ALK7、またはp38:より選択されるセリン/トレオニンプロテインキナーゼを標的とし得る。ALK4、ALK5、およびALK7は、全て、TGFβスーパーファミリーの密接に関連する受容体である。ALK4は、GI番号91を有し;(TGFβ受容体型キナーゼ1としても公知の)ALK5はGI番号7046を有し;ALK7はGI番号658を有する。これらのキナーゼのいずれかの阻害剤は、これらのキナーゼのうちの1種(または複数種)の酵素活性の低下を達成するものである。ALKおよびp38キナーゼの阻害は、B細胞リンパ腫に関係していることが以前に示されている(Bakkebo et al,"TGF-β-induced growth inhibition in B-cell lymphoma correlates with Smad 1/5 signaling and constitutively active p38MAPK," BMC Immunol.11:57,2010)。
【0185】
ある種の態様において、TGFβ阻害剤は、R-SMADまたはSMAD1~5(即ち、SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD4、もしくはSMAD5)などのSmadタンパク質に結合し、その活性を阻害するものであり得る。
【0186】
ある種の態様において、TGFβ阻害剤は、TGFβ受容体型キナーゼ1、ALK4、ALK5、ALK7、またはp38より選択されるSer/Thrプロテインキナーゼに結合し、その活性を低下させるものであり得る。
【0187】
ある種の態様において、本発明の培地は、ALK5の阻害剤を含む。
【0188】
ある種の態様において、TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤は、BMPアンタゴニストを含まない(即ち、BMPアンタゴニスト以外の薬剤である)。
【0189】
物質がTGFβ阻害剤であるか否かを決定する様々な方法が公知である。例えば、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を駆動するヒトPAI-1プロモーターまたはSmad結合部位を含むレポーター構築物によって細胞が安定的にトランスフェクトされる細胞アッセイが、使用され得る。対照群と比べたルシフェラーゼ活性の阻害は、化合物の活性の尺度として使用され得る(参照によって本明細書中に組み入れられる、De Gouville et al,Br.J.Pharmacol.145(2):166-177,2005)。別の例は、キナーゼ活性の測定のためのALPHASCREEN(登録商標)ホスホセンサーアッセイである(参照によって本明細書中に組み入れられる、Drew et al,J.Biomol.Screen.16(2):164-173,2011)。
【0190】
本発明のために有用なTGFβ阻害剤は、タンパク質、ペプチド、低分子、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、抗体またはその抗原結合部分であり得る。阻害剤は、天然に存在するものであってもよいしまたは合成であってもよい。本発明の情況において使用され得る低分子TGFβ阻害剤の例には、下記表1にリストされた低分子阻害剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0191】
(表1)受容体型キナーゼを標的とする低分子TGF阻害剤
【0192】
前記表1にリストされた阻害剤のうちの1種もしくは複数種、またはそれらの組み合わせは、本発明においてTGFβ阻害剤として使用され得る。ある種の態様において、組み合わせには、SB-525334およびSD-208およびA83-01;SD-208およびA83-01;またはSD-208およびA83-01が含まれ得る。
【0193】
当業者は、他のキナーゼを標的とするために主として設計されているが、高濃度ではTGFβ受容体型キナーゼも阻害する、多数のその他の低分子阻害剤が存在することを認識するであろう。例えば、SB-203580は、高濃度(例えば、およそ10μM以上)でALK5を阻害することができるp38 MAPキナーゼ阻害剤である。TGFβシグナリング経路を阻害するそのような阻害剤も、本発明において使用され得る。ある種の態様において、A83-01は、10nM~10μM、または20nM~5μM、または50nM~1μMの濃度で培養培地に添加され得る。ある種の態様において、A83-01は、約500nMで培地に添加され得る。ある種の態様において、A83-01は、350~650nM、450~550nM、または約500nMの濃度で培養培地に添加され得る。ある種の態様において、A83-01は、25~75nM、40~60nM、または約50nMの濃度で培養培地に添加され得る。
【0194】
SB-431542は、80nM~80μM、100nM~40μM、または500nM~10μM、または1~5μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、SB-431542は、約2μMで培養培地に添加され得る。
【0195】
SB-505124は、40nM~40μM、80nM~20μM、または200nM~1μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、SB-505124は、約500nMで培養培地に添加され得る。
【0196】
SB-525334は、10nM~10μM、または20nM~5μM、または50nM~1μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、SB-525334は、約100nMで培養培地に添加され得る。
【0197】
LY 364947は、40nM~40μM、または80nM~20μM、または200nM~1μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、LY 364947は、約500nMで培養培地に添加され得る。
【0198】
SD-208は、40nM~40μM、または80nM~20μM、または200nM~1μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、SD-208は、約500nMで培養培地に添加され得る。
【0199】
S JN 2511は、20nM~20μM、または40nM~10μM、または100nM~1μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、A83-01は、およそ200nMで培養培地に添加され得る。
【0200】
p38阻害剤
「p38阻害剤」には、少なくとも1種のp38アイソフォームに結合し、その活性を低下させる薬剤などの、直接または間接的に、p38シグナリングを負に制御する阻害剤が含まれ得る。p38プロテインキナーゼ(GI番号1432を参照すること)は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)のファミリーの一部である。MAPKは、環境ストレスおよび炎症性サイトカインなどの細胞外刺激に応答し、遺伝子発現、分化、分裂、増殖、および細胞生存/アポトーシスなどの様々な細胞の活性を制御するセリン/トレオニン特異的プロテインキナーゼである。p38 MAPKは、αアイソフォーム、βアイソフォーム、β2アイソフォーム、γアイソフォーム、およびδアイソフォームとして存在する。
【0201】
細胞p38の活性化または阻害のよく確立されている尺度を提供するThrl80/Tyrl82におけるリン酸化のリン酸化型特異的抗体による検出;生化学的組換えキナーゼアッセイ;腫瘍壊死因子α(TNFa)分泌アッセイ;およびp38阻害剤のためのDiscoverRxハイスループットスクリーニングプラットフォームなどの、物質がp38阻害剤であるか否かを決定する様々な方法が公知である。いくつかのp38活性アッセイキットも存在する(例えば、Millipore、Sigma-Aldrich)。
【0202】
ある種の態様において、高濃度(例えば、100nM超、1μM超、10μM超、または100μM超)のp38阻害剤は、TGFβを阻害する効果を有し得る。他の態様において、p38阻害剤は、TGFβシグナリングを阻害しない。
【0203】
様々なp38阻害剤は、当技術分野において公知である(例えば、表1を参照すること)。いくつかの態様において、直接または間接的に、p38シグナリングを負に制御する阻害剤は、SB-202190、SB-203580、VX-702、VX-745、PD-169316、RO-4402257、およびBIRB-796からなる群より選択される。
【0204】
ある種の態様において、培地は、(a)ALK4、ALK5、およびALK7からなる群からのキナーゼのうちの1種または複数種に結合し、その活性を低下させる阻害剤と;(b)p38に結合し、その活性を低下させる阻害剤との両方を含む。
【0205】
ある種の態様において、培地は、ALK5に結合し、その活性を低下させる阻害剤と、p38に結合し、その活性を低下させる阻害剤とを含む。
【0206】
一つの態様において、阻害剤は、その標的(例えば、TGFβおよび/またはp38)に結合し、細胞アッセイによって査定されるように、対照と比較して、10%超;30%超;60%超;80%超;90%超;95%超;または99%超、その活性を低下させる。標的阻害を測定するための細胞アッセイの例は、前記のように、当技術分野において周知である。
【0207】
TGFβおよび/またはp38の阻害剤は、2000nM以下;1000nM未満;100nM未満;50nM未満;30nM未満;20nM未満、または10mM未満のIC50値を有し得る。IC50値とは、その標的の生物学的または生化学的な機能の阻害における阻害剤の有効性をさす。IC50は、キナーゼを50%阻害するために必要とされる特定の阻害剤の量を示す。IC50値は、前記のアッセイ法に従って計算され得る。TGFβおよび/またはp38の阻害剤は、天然基質または修飾型基質、酵素、受容体、2000Daまで、好ましくは、800Da以下の小さい天然または合成の有機分子などの小さい有機分子、ペプチド模倣物、無機分子、ペプチド、ポリペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチドアプタマー、および低分子を含むこれらの構造的または機能的な模倣物を含む様々な形態で存在し得る。
【0208】
ある種の態様において、TGFβおよび/またはp38の阻害剤は、アプタマーであってもよい。本明細書中で使用されるように、「アプタマー」という用語は、高度に特異的な三次元コンフォメーションをとることができるオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNA)の鎖をさす。アプタマーは、細胞外および細胞内のタンパク質を含むある種の標的分子に対して、高い結合親和性および特異性を有するよう設計される。アプタマーは、例えば、試験管内進化法(SELEX)過程を使用して作製され得る(例えば、参照によって本明細書中に組み入れられる、Tuerk and Gold,Systematic evolution of ligands by exponential enrichment: RNA ligands to bacteriophage T4 DNA Polymerase.Science 249:505-510,1990を参照すること)。
【0209】
ある種の態様において、TGFβおよび/またはp38の阻害剤は、50~800Da、80~700Da、100~600Da、または150~500Daの分子量を有する小さい合成分子であり得る。
【0210】
ある種の態様において、TGFβおよび/またはp38の阻害剤には、ピリジニルイミダゾールまたは2,4-二置換テリジン(teridine)またはキナゾリンが含まれ、例えば、
が含まれる。
【0211】
本発明に従って使用され得るTGFβおよび/またはp38の阻害剤の具体的な例には、SB-202190、SB-203580、SB-206718、SB-227931、VX-702、VX-745、PD-169316、RO-4402257、BIRB-796、A83-01 SB-431542、SB-505124、SB-525334、LY 364947、SD-208、SJ 2511(表2を参照すること)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0212】
例えば、SB-202190は、50nM~100μM、または100nM~50μM、または1μM~50μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、SB-202190は、およそ10μMで培養培地に添加され得る。
【0213】
SB-203580は、50nM~100μM、または100nM~50μM、または1μM~50μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、SB-203580は、およそ10μMで培養培地に添加され得る。
【0214】
VX-702は、50nM~100μM、または100nM~50μM、または1μM~25μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、VX-702は、およそ5μMで培養培地に添加され得る。
【0215】
VX-745は、10nM~50μM、または50nM~50μM、または250nM~10μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、VX-745は、およそ1μMで培養培地に添加され得る。
【0216】
PD-169316は、100nM~200μM、または200nM~100μM、または1μM~50μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、PD-169316は、およそ20μMで培養培地に添加され得る。
【0217】
RO-4402257は、10nM~50μM、または50nM~50μM、または500nM~10μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、RO-4402257は、およそ1μMで培養培地に添加され得る。
【0218】
BIRB-796は、10nM~50μM、または50nM~50μM、または500nM~10μMの濃度で培養培地に添加され得る。例えば、BIRB-796は、およそ1μMで培養培地に添加され得る。
【0219】
表2中の他の因子について適用可能な濃度については、表1および関連する前記の本文を参照すること。
【0220】
(表2)例示的なTGFβおよび/またはp38の阻害剤
【0221】
従って、いくつかの態様において、直接または間接的に、TGFβおよび/またはp38のシグナリングを負に制御する阻害剤は、1nM~100μM、10nM~100μM、100nM~10μM、または約1μMの濃度で培養培地に添加される。例えば、1種または複数種の阻害剤の合計濃度は、10nM~100μM、100nM~10μM、または約1μMである。
【0222】
Oct4活性化剤
Oct4活性化剤は、Oct4プロモーターの転写調節下のルシフェラーゼ遺伝子などの、Oct4プロモーターによって駆動されるレポーター遺伝子を活性化することができ、より好ましくは、Oct4プロモーターおよびNanogプロモーターによって駆動されるレポーター遺伝子の両方を活性化することができる薬剤である。さらに、初期化因子の四つ組(Oct4、Sox2、c-Myc、およびKlf4)と共に初期化混合物に添加された時、Oct4活性化剤は、iPSC初期化効率を増強し、初期化過程を加速する。例示的なOct4活性化剤は、例えば、米国特許出願第20150191701号およびLi et al.(2012)"Identification of Oct4-activating compounds that enhance reprogramming efficiency".PNAS 109(51):20853-8に教示されている。
【0223】
ある種の態様において、Oct4活性化剤は、以下の式:
で表され、式中、
X1はC(R12)またはNであり;
X2はC(R4)またはNであり;
X3はC(R5)またはNであり;
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のヘテロアリールより独立に選択され、R2およびR3は共に置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルまたは置換もしくは非置換のヘテロアリールを形成していてもよい。
【0224】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルより独立に選択される。
【0225】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、置換もしくは非置換のアルキル、または置換もしくは非置換のヘテロアルキルより独立に選択される。
【0226】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル、置換もしくは非置換の2~10員ヘテロアルキル、または置換もしくは非置換の3~8員ヘテロシクロアルキルより独立に選択される。
【0227】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、置換もしくは非置換のC1~C10アルキル、または置換もしくは非置換の2~10員ヘテロアルキルより独立に選択される。
【0228】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、または置換ヘテロシクロアルキルより独立に選択される。
【0229】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、非置換アルキル、または非置換ヘテロアルキルより独立に選択される。
【0230】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、非置換C1~C10アルキル、非置換2~10員ヘテロアルキル、または非置換3~8員ヘテロシクロアルキルより独立に選択される。
【0231】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-NH2、-CF3、-CCl3、-OH、-SH、-SO3H、-C(O)OH、-C(O)NH2、非置換C1~C10アルキル、または非置換2~10員ヘテロアルキルより独立に選択される。
【0232】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、非置換C1~C10アルキル、または非置換2~10員ヘテロアルキルより独立に選択される。
【0233】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-N(CH3)2、非置換C1~C5アルキル、または非置換C1~C5アルコキシより独立に選択される。
【0234】
ある種の好ましい態様において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、水素、ハロゲン、-N(CH3)2、非置換C1~C5アルキル、メトキシ、エトキシ、またはプロポキシより独立に選択される。
【0235】
ある種の態様において、Oct4活性化剤は、以下:
からなる群より選択される。
【0236】
ある種の態様において、Oct4活性化剤は、構造:
を有するOAC1である。
【0237】
PDGFRα/β阻害剤
ある種の態様において、培地は、PDGFR阻害剤、好ましくは、PDGFRα/β阻害剤を含む。
【0238】
例示的なPDGFRα/β阻害剤は、GZD856(Zhang et al.Cancer Lett.2016 May 28;375(1):172-178):
である。
【0239】
ある種の態様において、PDGFRα/β阻害剤は、(無細胞アッセイにおいて)250nM以下、より好ましくは、100nM以下のIC50を有する強力な阻害剤であり、スニチニブリンゴ酸塩、ポナチニブ(AP24534)、テラチニブ(Telatinib)、アムバチニブ(Amuvatinib)(MP-470)、Ki8751、レゴラフェニブ(Regorafenib)、クレノラニブ(Crenolanib)(CP-868596)、CP-673451、アキシチニブ(Axitinib)、およびニンテダニブ(Nintedanib)(BIBF 1120)より選択され得る。
【0240】
ある種の態様において、PDGFRα/β阻害剤は、(無細胞アッセイにおいて)250nM以下、より好ましくは、100nM以下のIC50を有するPDGFRα/βの強力な選択的な阻害剤であり、他の血管新生受容体より、100倍を超える選択性、より好ましくは、他の血管新生受容体より、200倍、300倍、またはさらには400倍を超える選択性を示す。PDGFRα/βの例示的な選択的阻害剤は、CP-673451:
である。
【0241】
JNK阻害剤
ある種の態様において、培養培地はJNK阻害剤を含む。マイトジェン活性化キナーゼJNK1/2/3は、細胞外刺激を伝達し、協調的な細胞応答へと統合するシグナリングモジュール内の鍵となる酵素である。ある種の態様において、JNK阻害剤は、250nM以下、より好ましくは、100nMのIC50で、阻害剤に曝された細胞において、JNKキナーゼを阻害する、即ち、JNKキナーゼの直接基質c-Junのリン酸化を阻害する。
【0242】
ある種の態様において、少なくとも1種のアポトーシス阻害剤は、JNK阻害剤である。任意のJNK阻害剤が、本発明の製剤、組成物、方法において使用するために企図される。JNK阻害剤は、当業者に一般に公知である(例えば、米国特許第6,949,544号;第7,129,242号;第7,326,418号、第8,143,271号、および第8,530,480号を参照すること)。
【0243】
ある種の態様において、JNK阻害剤は、好ましくは、JNKキナーゼ内の保存されたシステイン残基の共有結合性修飾に依存する様式で、c-Junのリン酸化を阻害する選択的JNK阻害剤である。
【0244】
ある種の態様において、JNK阻害剤は、JNK-IN-5、JNK-IN-6、JNK-IN-7、JNK-IN-8、JNK-IN-9、JNK-IN-10、JNK-IN-11、JNK-IN-12、SP-600125、またはAS601245である。
【0245】
例示的なJNK阻害剤には、SP600125(アントラ[1-9-cd]ピラゾール-6(2H)-オン)、JNK-IN-8(3-[[4-(ジメチルアミノ)-1-オキソ-2-ブテン-1-イル]アミノ]-N-[3-メチル-4-[[4-(3-ピリジニル)-2-ピリミジニル]アミノ]フェニル]-ベンズアミド);およびJNK阻害剤IX(N-(3-シアノ-4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チエン-2-イル)-1-ナフタレンカルボキサミド)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0246】
ノッチアゴニスト
本発明の培養培地は、ノッチアゴニストを付加的に含んでいてよい。ノッチシグナリングは、細胞運命決定においても、細胞の生存および増殖においても、重要な役割を果たすことが示されている。ノッチ受容体タンパク質は、ジャギド-1、ジャギド-2、デルタ-1、またはデルタ様-1、デルタ様-3、デルタ様-4等を含むが、これらに限定されるわけではない、多数の表面結合型リガンドまたは分泌型リガンドと相互作用することができる。リガンドが結合すると、ノッチ受容体は、ADAMプロテアーゼファミリーのメンバーを含む連続切断イベントによって活性化され、γセクレターゼであるプレシニリン(presinilin)によって制御される膜内切断によっても活性化される。その結果として、ノッチの細胞内ドメインが核へ移行し、そこで、下流遺伝子を転写的に活性化する。
【0247】
「ノッチアゴニスト」には、本明細書中で使用されるように、ノッチアゴニストの非存在下でのノッチ活性のレベルと比べて、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約50%、少なくとも約70%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約3倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、またはそれ以上、細胞におけるノッチ活性を刺激する分子が含まれる。当技術分野において公知であるように、ノッチ活性は、例えば、Hsiehら(参照によって本明細書中に組み入れられる、Mol.Cell.Biol.16:952-959,1996)によって記載された4xwtCBF1-ルシフェラーゼレポーター構築物によって、ノッチの転写活性を測定することによって決定され得る。
【0248】
ある種の態様において、ノッチアゴニストは、ジャギド-1、デルタ-1、およびデルタ様-4、またはそれらの活性断片または誘導体より選択される。ある種の態様において、ノッチアゴニストは、アミノ酸配列CDDYYYGFGCNKFCRPR(SEQ ID NO:36)を有するDSLペプチド(Dontu et al.,Breast Cancer Res.,6:R605-R615,2004)である。DSLペプチド(ANA spec)は、10μM~100nM、または少なくとも10μM、100nM以下の濃度で使用され得る。ある種の態様において、ジャギド-1の最終濃度は、約0.1~10μM;または約0.2~5μM;または約0.5~2μM;または約1μMである。
【0249】
ある種の態様において、ジャギド-1、ジャギド-2、デルタ-1、およびデルタ様-4のような本明細書中で言及された具体的なノッチアゴニストのいずれかは、それぞれのWntアゴニスト活性の少なくとも約80%、85%、90%、95%、99%を保持している、天然の、合成の、もしくは組換え作製された、それらの相同体もしくは断片、および/またはグローバルアライメント技術(例えば、Needleman-Wunschアルゴリズム)もしくはローカルアライメント技術(例えば、Smith-Watermanアルゴリズム)のいずれかに基づく、当技術分野において認められている配列アライメントソフトウェアによって測定されるような、少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、97%、99%のアミノ酸配列同一性を有する、それらの相同体もしくは断片に交換されてもよい。
【0250】
本明細書中で言及された代表的なノッチアゴニストの配列は、SEQ ID NO.28~35に表される。
【0251】
ノッチアゴニストは、幹細胞の培養の最初の1~2週間、1日毎、2日毎、3日毎、または4日毎に培養培地に添加され得る。
【0252】
ニコチンアミド
本発明の培養培地には、ニコチンアミド、またはメチルニコチンアミド、ベンズアミド、ピラジンアミド、チミン、もしくはナイアシンなどの、その類似体、前駆体、もしくは模倣物が付加的に補足されてもよい。ニコチンアミドは、1~100mM、5~50mM、または、好ましくは、5~20mMの最終濃度で培養培地に添加され得る。例えば、ニコチンアミドは、およそ10mMの最終濃度で培養培地に添加され得る。類似した濃度のニコチンアミドの類似体、前駆体、または模倣物を、単独でまたは組み合わせて使用することもできる。
【0253】
細胞外マトリックス(ECM)
「基底膜マトリックス」と交換可能に本明細書中で使用される細胞外マトリックス(ECM)とは、結合組織細胞によって分泌され、プロテオグリカン、コラーゲン、エンタクチン(ニドゲン)、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、フィブリリン、ラミニン、およびヒアルロン酸を含み得る、多様な多糖、水、エラスチン、およびタンパク質を含む。ECMは、本発明の幹細胞の選択および培養のために役立つ適当な基質および微小環境を提供することができる。
【0254】
ある種の態様において、本発明の幹細胞は、ECMに付着しているかまたは接触している。種々の型のECMが、当技術分野において公知であり、異なる型のプロテオグリカン、および/またはプロテオグリカンの異なる組み合わせを含む、異なる組成を含み得る。ECMは、ある種の線維芽細胞などのECM産生細胞を培養することによって提供され得る。細胞外マトリックス産生細胞の例には、コラーゲンおよびプロテオグリカンを主に産生する軟骨細胞;IV型コラーゲン、ラミニン、間質プロコラーゲン、およびフィブロネクチンを主に産生する線維芽細胞;ならびにコラーゲン(I型、III型、およびV型)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、およびテネイシンCを主に産生する結腸筋線維芽細胞が含まれる。
【0255】
ある種の態様において、少なくともいくつかのECMは、フィーダー細胞層としてのMATRIGEL(商標)基底膜マトリックス(BD Biosciences)の上で成長させられ得るマウス3T3-J2クローンによって産生される。
【0256】
あるいは、ECMは、商業的に提供され得る。市販されている細胞外マトリックスの例は、細胞外マトリックスタンパク質(Invitrogen)およびMATRIGEL(商標)基底膜マトリックス(BD Biosciences)である。幹細胞を培養するためのECMの使用は、幹細胞の長期生存および/または未分化幹細胞の継続的な存在を増強することができる。代替物は、フィブリン基質もしくはフィブリンゲル、または最初の細胞が枯渇したグリセリン処理された同種移植片などの足場であり得る。
【0257】
ある種の態様において、本発明の方法において使用するためのECMは、2種の異なる型のコラーゲン、またはコラーゲンおよびラミニンなどの、少なくとも2種の別個の糖タンパク質を含む。ECMは、合成ヒドロゲル細胞外マトリックスであってもよいし、または天然に存在するECMであってもよい。ある種の態様において、ECMは、ラミニン、エンタクチン、およびコラーゲンIVを含むMATRIGEL(商標)基底膜マトリックス(BD Biosciences)によって提供される。
【0258】
培地
本発明の方法において使用される細胞培養培地には、炭酸ベースの緩衝剤によって約pH7.4(例えば、約pH7.2~7.6)に緩衝された培養培地などの、任意の細胞培養培地が含まれ得る。ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM、例えば、L-グルタミンを含まず、高グルコースを含むDMEM)、最小必須培地(MEM)、ノックアウト-DMEM(KO-DMEM)、グラスゴー最小必須培地(G-MEM)、イーグル基礎培地(BME)、DMEM/ハムF12、Advanced DMEM/ハムF12、イスコフ修飾ダルベッコ培地、および最小必須培地(MEM)、ハムF-10、ハムF-12、培地199、およびRPMI 1640培地を含むが、これらに限定されるわけではない、多くの市販の組織培養培地が、本発明の方法のために適当である可能性がある。
【0259】
細胞は、5~10%CO2(例えば、少なくとも約5%、10%以下のCO2、または約5%CO2)を含む雰囲気において培養され得る。ある種の態様において、細胞培養培地は、L-グルタミン、インスリン、ペニシリン/ストレプトマイシン、および/またはトランスフェリンが補足されたDMEM/F12(例えば、3:1混合物)またはRPMI 1640である。ある種の態様において、無血清培養のために最適化されており、インスリンを既に含むAdvanced DMEM/F12またはAdvanced RPMIが使用される。Advanced DMEM/F12またはAdvanced RPMI培地に、L-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンがさらに補足されてもよい。ある種の態様において、細胞培養培地には、本明細書中に記載された、1種または複数種の精製された、天然の、半合成の、および/または合成の因子が補足される。ある種の態様において、細胞培養培地には、使用前に熱不活性化されていない約10%ウシ胎仔血清(FBS)が補足される。例えば、B-27(登録商標)無血清サプリメント(Invitrogen)、N-アセチルシステイン(Sigma)、および/またはN2無血清サプリメント(Invitrogen)、またはNeurobasal(Gibco)、TeSR(StemGent)などの付加的なサプリメントが、培地に添加されてもよい。
【0260】
ある種の態様において、培地は、混入を防止するための1種または複数種の(ペニシリン/ストレプトマイシンなどの)抗生物質を含有していてもよい。ある種の態様において、培地は、0.1内毒素単位/mL未満の内毒素含量を有していてもよいし、または0.05内毒素単位/mL未満の内毒素含量を有していてもよい。培養培地の内毒素含量を決定する方法は、当技術分野において公知である。
【0261】
本発明による細胞培養培地は、細胞外マトリックス上での上皮幹細胞の生存および/または増殖および/または分化を可能にする。「細胞培養培地」という用語は、本明細書中で使用されるように、「培地」、「培養培地」、または「細胞培地」と同義である。
【0262】
本発明の修飾(成長)培地は、基本培地中に、(a)ROCK(Rhoキナーゼ)阻害剤;(b)Wntアゴニスト;(c)分裂促進性増殖因子;(d)TGFβ阻害剤またはTGFβ受容体阻害剤のようなTGFβシグナリング経路阻害剤;および(e)インスリンまたはIGFを含み;培地は、任意で、骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストをさらに含む。
【0263】
従って、一つの局面において、本発明は、L-グルタミンを補足されたDMEM:F12 3:1培地中に、インスリンまたはインスリン様増殖因子;T3(3,3',5-トリヨード-L-チロシン);ヒドロコルチゾン;アデニン;EGF;および10%ウシ胎仔血清(熱不活性化なし)を含む基本培地(基本培地)を提供する。
【0264】
ある種の態様において、基本培地は、約1.35mM L-グルタミンを補足されたDMEM:F12 3:1培地中に、約5μg/mLインスリン;約2×10"9M T3(3,3',5-トリヨード-L-チロシン);約400ng/mLヒドロコルチゾン;約24.3μg/mLアデニン;約10ng/mL EGF;および10%ウシ胎児血清(熱不活性化なし)を含む。
【0265】
ある種の態様において、直前の段落において言及された培地成分の各々についての濃度は、独立に、それぞれの記述された値より2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、95%高いかもしくは低いか、またはそれぞれの記述された値より2倍、3倍、5倍、10倍、20倍高い。例えば、例示的な培地において、インスリン濃度は、(記述された5μg/mLより20%高い)6μg/mLであってよく、EGF濃度は、(記述された10ng/mLより50%低い)5ng/mLであってよく、残りの各成分は、前記の記述された濃度と同一の濃度を有する。
【0266】
関連する局面において、本発明は、コレラ腸毒素を含有している基本培地を提供する。他の態様において、基本培地は、コレラ腸毒素を含有していない。
【0267】
基本培地は、ペニシリン/ストレプトマイシンおよび/またはゲンタマイシンなどの1種または複数種の抗生物質をさらに含んでいてもよい。
【0268】
基本培地は、前記の因子のうちの1種または複数種を添加することによって、修飾成長培地(または、単に、修飾培地)を作製するため、使用され得る。
【0269】
4.代表的な培地因子のタンパク質配列
本発明の培地および方法において使用されるいくつかの代表的な(非限定的な)タンパク質因子が、以下に提供される。リストされた各因子について、多数の相同体または機能的等価物が、当技術分野において公知であり、少数を挙げると、GenBank、EMBL、および/またはNCBI RefSeqなどの、公のデータベースから容易に検索され得る。付加的なタンパク質もしくはそれらのペプチド断片またはそれらをコードするポリヌクレオチド、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物に由来する機能的相同体は、例えば、NCBI BLASTpまたはBLASTnまたはその両方のような配列ベースの探索を通して、公の供給元から容易に検索され得る。
【0270】
【0271】
5.幹細胞を分化させる方法
単離された幹細胞(例えば、上皮幹細胞)は、その幹細胞が由来したまたは単離された組織または器官に通常存在する分化した細胞へ分化するよう誘導され得る。他の組織には、ファロピウス管、子宮内膜(子宮)、男性精巣輸出管、男性精巣上体、男性精管、男性射精管、男性尿道球腺、および精嚢腺が含まれる。分化した細胞は、分化した細胞に特徴的なマーカーを発現していてよく、そのような分化した細胞のマーカーを発現しない幹細胞から容易に区別され得る。
【0272】
6.マーカー
一般に、下記のマーカーの全部について、RNAレベルで遺伝子発現を測定することができる。さらに、ある種のマーカーの発現を、例えば、マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質に特異的な抗体を使用して、タンパク質発現によって検出することもできる。
【0273】
7.使用の方法
さらなる局面において、本発明は、薬物発見スクリーニング、毒性アッセイ、動物ベースの疾患モデル、または再生医学などの医学における、様々な培養物から単離された本発明の幹細胞の使用を提供する。
【0274】
クローニングされた幹細胞の遺伝子操作
例えば、本発明の方法によって単離された幹細胞は、1種または複数種の関心対象の標的遺伝子の発現をモジュレートすることができる外来性遺伝材料の導入を含む、多数の型の遺伝子操作のために適当である。そのような種類の遺伝子治療は、例えば、傷害を受けた組織または罹患組織の修復のための方法において使用され得る。簡単に説明すると、アデノウイルス、レンチウイルス、またはレトロウイルスの遺伝子送達媒体(下記を参照すること)を含む適当なベクターを、DNAおよび/またはRNAのような遺伝情報を本発明の幹細胞のいずれかへ送達するために使用することができる。当業者は、遺伝子治療において標的とされた特定の遺伝子を交換するかまたは修復することができる。例えば、非機能性遺伝子と交換するため、正常遺伝子を、罹患細胞のゲノム内の非特異的な位置へ挿入することができる。別の例において、異常遺伝子配列を、相同組換えを通して正常遺伝子配列に交換することができる。あるいは、選択的な復帰変異が、遺伝子をその正常機能に復帰させてもよい。さらなる例は、特定の遺伝子の制御(遺伝子がオンオフされる程度)の変更である。好ましくは、幹細胞は、遺伝子治療アプローチによってエクスビボで処理され、その後、哺乳動物、好ましくは、処置を必要とするヒトへ移入される。
【0275】
様々な型の核酸構築物による(例えば、ウイルスベクターによる)トランスフェクションおよび感染を含む、遺伝子操作のための当技術分野において認められている方法を、そのようにして単離された幹細胞に適用することができる。
【0276】
例えば、異種核酸(例えば、DNA)は、化学的材料または生物学的ベクター(ウイルス)を使用して、物理的処理(例えば、電気穿孔、ソノポレーション(sonoporation)、光学的トランスフェクション、プロトプラスト融合、インペイルフェクション(impalefection)、水力学的送達、ナノ粒子、マグネトフェクション)によって、本発明の幹細胞に導入され得る。化学ベースのトランスフェクションは、リン酸カルシウム、シクロデキストリン、ポリマー(例えば、DEAEデキストランもしくはポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマー)、デンドリマーなどの高度に分岐した有機化合物、(カチオン性リポソーム、リポフェクタミンを使用したリポフェクションなどのリポフェクション等の)リポソーム、または(化学的なもしくはウイルス性の機能性を有するかもしくは有しない)ナノ粒子に基づくものであってよい。
【0277】
核酸構築物は、関心対象の核酸分子を含み、一般に、導入された細胞における関心対象の核酸分子を発現させることができる。
【0278】
ある種の態様において、核酸構築物は、ポリペプチドなどの遺伝子産物をコードする核酸分子、またはポリペプチドの発現に拮抗する核酸(例えば、siRNA、miRNA、shRNA、アンチセンス配列、アプタマー、リボザイム等)が、標的細胞(例えば、単離された幹細胞)における核酸分子を発現させることができるプロモーターに機能的に連結されている発現ベクターである。
【0279】
「発現ベクター」という用語は、一般に、それが含有している遺伝子/核酸分子の、そのような配列と適合性の細胞における発現を達成することができる核酸分子をさす。これらの発現ベクターは、典型的には、適当なプロモーター配列を少なくとも含み、任意で、転写終結シグナルを含む。ポリペプチドをコードする核酸またはDNAまたはヌクレオチド配列は、本発明の方法において同定されるようなインビトロ細胞培養物への導入および発現が可能なDNA/核酸構築物へ組み入れられる。
【0280】
特定の細胞への導入のために調製されるDNA構築物は、典型的には、細胞によって認識される複製系、所望のポリペプチドをコードする意図されたDNAセグメント、ならびにポリペプチドをコードするセグメントに機能的に連結された、転写および翻訳の開始および終結の制御配列を含む。DNAセグメントは、別のDNAセグメントと機能的な関係に置かれている時、「機能的に連結」されている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーが、配列の転写を刺激する場合、それはコード配列に機能的に連結されている。シグナル配列のためのDNAが、ポリペプチドの分泌に関与するタンパク質前駆体として発現される場合、それはポリペプチドをコードするDNAに機能的に連結されている。一般に、機能的に連結されているDNA配列は連続しており、シグナル配列のケースにおいては、連続しておりかつリーディング相内にある。しかしながら、エンハンサーは、それが転写を管理するコード配列に隣接していなくてもよい。連結は、便利な制限部位、またはその代わりに挿入されたアダプターもしくはリンカーにおけるライゲーションによって達成される。
【0281】
適切なプロモーター配列の選択は、一般に、DNAセグメントの発現のために選択された宿主細胞に依る。適当なプロモーター配列の例には、当技術分野において周知の真核生物プロモーターが含まれる(例えば、Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition,2001を参照すること)。転写制御配列には、典型的には、細胞による認識される異種のエンハンサーまたはプロモーターが含まれる。適当なプロモーターには、CMVプロモーターが含まれる。発現ベクターは、複製系を含み、ポリペプチドをコードするセグメントのための挿入部位と共に転写および翻訳の制御配列が利用されてよい。細胞株および発現ベクターの実行可能な組み合わせの例は、Sambrook and Russell(2001(前記))およびMetzger et al.(1988)Nature 334:31-36に記載されている。
【0282】
本発明のいくつかの局面は、前記定義のようなヌクレオチド配列を含む核酸構築物または発現ベクターの使用に関し、ここで、ベクターは遺伝子治療のために適当なベクターである。Anderson(Nature 392:25-30,1998);Walther and Stein(Drugs 60:249-71,2000);Kay et al.(Nat.Med.7:33-40,2001);Russell(J.Gen.Virol.81:2573-604,2000);Amado and Chen(Science 285:674-6,1999);Federico(Curr.Opin.Biotechnol.10:448-53,1999);Vigna and Naldini(J.Gene Med.2:308-16,2000);Marin et al.(Mol.Med.Today 3:396-403,1997);Peng and Russell(Curr.Opin.Biotechnol.10:454-7,1999);Sommerfelt(J.Gen.Virol.80:3049-64,1999);Reiser(Gene Ther.7:910-3,2000);およびその中に引用された参照(全て、参照によって組み入れられる)に記載されたものなどの、遺伝子治療のために適当なベクターは、当技術分野において公知である。例には、レトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、およびヘルペスウイルスに基づくものなどの、組込み型および非組込み型のベクターが含まれる。
【0283】
特に適当な遺伝子治療ベクターには、アデノウイルス(Ad)ベクターおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが含まれる。これらのベクターは、多数の分裂性および非分裂性の細胞型を感染させる。さらに、アデノウイルスベクターは、高レベルのトランスジーン発現が可能である。しかしながら、細胞侵入後のアデノウイルスベクターおよびAAVベクターのエピソーム性のため、これらのウイルスベクターは、前記に示されたような、トランスジーンの一過性発現のみを必要とする治療的適用のために最も適している(Russell,J.Gen.Virol.81:2573-2604,2000;Goncalves,Virol J.2(1):43,2005)。好ましいアデノウイルスベクターは、Russell(2000(前記))によって概説されるように、宿主応答を低下させるために修飾されている。AAV遺伝子移入の安全性および効力は、ヒトにおいて広範囲に研究されており、肝臓、筋肉、CNS、および網膜において有望な結果が得られている(Manno et al,Nat.Medicine 2006;Stroes et al.,ATYB 2008;Kaplitt,Feigin,Lancet 2009;Maguire,Simonelli et al.NEJM 2008;Bainbridge et al.,NEJM 2008)。
【0284】
AAV2は、ヒトおよび実験モデルの両方において遺伝子移入研究のために最もよく特徴決定されている血清型である。AAV2は、骨格筋、ニューロン、血管平滑筋細胞、および肝細胞に対して天然の指向性を提示する。アデノ随伴ウイルスベースの非組込み型ベクターの他の例には、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびシュードタイプAAVが含まれる。AAV8およびAAV9などの非ヒト血清型の使用は、対象におけるこれらの免疫学的応答を克服するために有用であり得、臨床試験が着手されたばかりである(ClinicalTrials.gov識別番号:NCT00979238)。肝細胞への遺伝子移入のため、アデノウイルス血清型5、またはAAV血清型2、7、もしくは8は、有効なベクターであり、従って、好ましいAdまたはAAVの血清型であることが示されている(Gao,Molecular Therapy 13:77-87,2006)。
【0285】
本発明において適用するための例示的なレトロウイルスベクターは、レンチウイルスベースの発現構築物である。レンチウイルスベクターは、非分裂性細胞を感染させる独特の能力を有する(Amado and Chen,Science 285:674-676,1999)。レンチウイルスベースの発現構築物の構築および使用の方法は、米国特許第6,165,782号、第6,207,455号、第6,218,181号、第6,277,633号、および第6,323,031号、ならびにFederico(Curr.Opin.Biotechnol.10:448-53,1999)およびVigna et al.(J.Gene Med.2:308-16,2000)に記載されている。一般に、遺伝子治療ベクターは、発現されるべき本発明の遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列を含むという意味で、前記の発現ベクターであり、ヌクレオチド配列は前記のような適切な制御配列に機能的に連結されている。そのような制御配列は、プロモーター配列を少なくとも含むであろう。遺伝子治療ベクターに由来するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現のために適当なプロモーターには、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)インターミディエートアーリー(intermediate early)プロモーター、マウスモロニー白血病ウイルス(MMLV)、ラウス肉腫ウイルス、またはHTLV-1に由来するものなどのウイルス末端反復配列プロモーター(LTR)、サルウイルス40(SV 40)初期プロモーター、および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーターが含まれる。付加的な適当なプロモーターは、以下に記載される。
【0286】
有機または無機の低分子化合物の投与によって誘導され得る、いくつかの誘導性プロモーター系が、記載されている。そのような誘導性プロモーターには、メタロチオネインプロモーター(Brinster et al,Nature 296:39-42,1982;Mayo et al,Cell 29:99-108,1982)などの、重金属によって調節されるもの、RU-486(プロゲステロンアンタゴニスト)によって調節されるもの(Wang et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:8180-8184,1994)、ステロイドによって調節されるもの(Mader and White,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603-5607,1993)、テトラサイクリンによって調節されるもの(Gossen and Bujard,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547-5551,1992;米国特許第5,464,758号;Furth et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9302-9306,1994;Howe et al,J.Biol.Chem.270:14168-14174,1995;Resnitzky et al,Mol.Cell.Biol.14:1669-1679,1994;Shockett et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6522-6526,1995)、およびVP16の活性化ドメインとしてのtetRポリペプチドおよびエストロゲン受容体のリガンド結合ドメインから構成されたマルチキメラトランス活性化剤に基づくtTAER系(Yee et al,2002,US 6,432,705)が含まれる。
【0287】
RNA干渉(以下を参照すること)による特定の遺伝子のノックダウンのための低分子RNAをコードするヌクレオチド配列のために適当なプロモーターには、前述のポリメラーゼIIプロモーターに加えて、ポリメラーゼIIIプロモーターが含まれる。RNAポリメラーゼIII(pol III)は、5S、U6、アデノウイルスVA1、ヴォールト、テロメラーゼRNA、およびtRNAを含む、多様な小さい核および細胞質の非コードRNAの合成を担っている。これらのRNAをコードする多数の遺伝子のプロモーター構造が決定されており、RNA pol IIIプロモーターは、3つの型の構造へ分類されることが見出されている(概説については、Geiduschek and Tocchini-Valentini,Annu.Rev.Biochem.57:873-914,1988;Willis,Eur.J.Biochem.212:1-11,1993;Hernandez,J.Biol.Chem.276:26733-36,2001を参照すること)。siRNAの発現のために特に適当であるのは、5'隣接領域、即ち、転写開始部位の上流にのみ見出されるシス作用性要素によって転写が駆動される3型のRNA pol IIIプロモーターである。上流配列要素には、伝統的なTATAボックス(Mattaj et al.,Cell 55:435-442,1988)、近位配列要素、および遠位配列要素(DSE;Gupta and Reddy,Nucleic Acids Res.19:2073-2075,1991)が含まれる。
【0288】
3型pol IIIプロモーターの調節下にある遺伝子の例は、U6低分子核内RNA(U6 snRNA)遺伝子、7SK遺伝子、Y遺伝子、MRP遺伝子、HI遺伝子、およびテロメラーゼRNA遺伝子である(例えば、Myslinski et al,Nucl.Acids Res.21:2502-09,2001を参照すること)。
【0289】
遺伝子治療ベクターは、任意で、第2のまたはさらなるポリペプチドをコードする1種または複数種のさらなるヌクレオチド配列を含んでいてもよい。第2のまたはさらなるポリペプチドは、発現構築物を含有している細胞についての同定、選択、および/またはスクリーニングを可能にする(選択可能)マーカーポリペプチドであり得る。この目的のために適当なマーカータンパク質は、例えば、蛍光タンパク質GFP、および選択可能マーカー遺伝子HSVチミジンキナーゼ(HAT培地による選択のため)、細菌ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(ハイグロマイシンBによる選択のため)、Tn5アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(G418による選択のため)、およびジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)(メトトレキサートによる選択のため)、CD20、低親和性神経成長因子遺伝子である。これらのマーカー遺伝子を得るための起源およびそれらの使用の方法は、Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd edition),Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2001に提供されている。
【0290】
あるいは、第2のまたはさらなるヌクレオチド配列は、必要であると見なされた場合、トランスジェニック細胞に由来する、対象が治癒することを可能にする安全機序を提供するポリペプチドをコードするものであり得る。しばしば自殺遺伝子と呼ばれる、そのようなヌクレオチド配列は、ポリペプチドが発現されるトランスジェニック細胞を死滅させることができる毒性物質へプロドラッグを変換することができるポリペプチドをコードする。そのような自殺遺伝子の適当な例には、例えば、大腸菌(E.coli)シトシンデアミナーゼ遺伝子、または単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、および水痘帯状疱疹ウイルスに由来するチミジンキナーゼ遺伝子のうちの1種が含まれ、そのケースにおいては、対象におけるIL-10トランスジェニック細胞を死滅させるため、ガンシクロビルがプロドラッグとして使用されてもよい(例えば、Clair et al.,Antimicrob.Agents Chemother.31:844-849,1987を参照すること)。
【0291】
特定のポリペプチドの発現のノックダウンのためには、RNAi剤、即ち、RNA干渉が可能であるか、またはRNA干渉が可能であるRNA分子の一部であるRNA分子を好ましくはコードする所望のヌクレオチド配列の発現のため、遺伝子治療ベクターまたはその他の発現構築物が使用される。そのようなRNA分子は、siRNA(例えば、低分子ヘアピン型RNAを含む、低分子干渉RNA)と呼ばれる。所望のヌクレオチド配列は、標的遺伝子mRNAのある領域に対するアンチセンスRNAをコードするアンチセンスコードDNA、および/または標的遺伝子mRNAの同領域に対するセンスRNAをコードするセンスコードDNAを含む。本発明のDNA構築物において、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAは、それぞれアンチセンスRNAおよびセンスRNAを発現させることができる、本明細書中の前記定義の1種または複数種のプロモーターに機能的に連結されている。「siRNA」には、哺乳動物細胞において毒性でない短い二本鎖RNAである低分子干渉RNAが含まれる(Elbashir et al,Nature 411:494-98,2001;Caplen et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:9742-47,2001)。長さは、必ずしも、21~23ヌクレオチドに限定されない。それが毒性を示さない限り、siRNAの長さは特に限定されない。「siRNA」は、例えば、少なくとも約15、18、または21ヌクレオチド~25、30、35、または49ヌクレオチド長であり得る。あるいは、発現されるsiRNAの最終転写産物の二本鎖RNA部分は、例えば、少なくとも約15、18、または21ヌクレオチド~25、30、35、または49ヌクレオチド長であり得る。
【0292】
「アンチセンスRNA」は、好ましくは、標的遺伝子mRNAに相補的な配列を有し、標的遺伝子mRNAに結合することによってRNAiを誘導すると考えられるRNA鎖である。
【0293】
「センスRNA」は、アンチセンスRNAに相補的であり、その相補的なアンチセンスRNAにアニーリングしてsiRNAを形成する配列を有する。
【0294】
「標的遺伝子」という用語には、この情況において、本発明の系によって発現されるsiRNAのため、発現がサイレンシングされることになっており、任意選択され得る遺伝子が含まれる。この標的遺伝子として、例えば、配列は既知であるが、機能が解明されていない遺伝子、およびその発現が疾患の原因となると考えられる遺伝子が、好ましくは、選択される。siRNAの鎖の一方(アンチセンスRNA鎖)に結合することができる長さである、少なくとも15ヌクレオチド以上を有する遺伝子のmRNAの部分配列が決定されている限り、標的遺伝子は、そのゲノム配列が完全には解明されていないものであってもよい。従って、いくつかの配列(好ましくは、少なくとも15ヌクレオチド)が解明されている遺伝子、発現配列タグ(EST)、およびmRNAの一部分は、全長配列が決定されていなくても、「標的遺伝子」として選択され得る。
【0295】
2本のRNA鎖が対形成するsiRNAの二本鎖RNA部分は、完全に対合しているものに限定されず、(対応するヌクレオチドが相補的ではない)ミスマッチ、(対応する相補的なヌクレオチドが一方の鎖に欠けている)バルジ等のため、非対合部分を含有していてもよい。非対合部分は、siRNA形成に干渉しない程度に含有されていてよい。本明細書中で使用される「バルジ」には、1~2個の非対合ヌクレオチドが含まれ、2本のRNA鎖が対合しているsiRNAの二本鎖RNA領域は、好ましくは、1~7個、より好ましくは、1~5個のバルジを含有している。
【0296】
「ミスマッチ」という用語は、本明細書中で使用されるように、好ましくは、1~7個、好ましくは、1~5個、2本のRNA鎖が対合しているsiRNAの二本鎖RNA領域に含有されていてよい。ある種のミスマッチにおいて、ヌクレオチドの一方がグアニンであり、他方がウラシルである。そのようなミスマッチは、センスRNAをコードするDNAにおけるCからTへの変異、GからAへの変異、またはそれらの混合によるが、それらに特に限定されない。さらに、本発明において、2本のRNA鎖が対合しているsiRNAの二本鎖RNA領域は、バルジおよびミスマッチの両方を含有していてもよく、それらは、合わせて、好ましくは、1~7個、より好ましくは、1~5個である。そのような非対合部分(ミスマッチまたはバルジ等)は、アンチセンスコードDNAとセンスコードDNAとの間の下記の組換えを抑制し、下記のようなsiRNA発現系を安定させることができる。さらに、2本のRNA鎖が対合しているsiRNAの二本鎖RNA領域に非対合部分を含有していないステムループDNAを配列決定することは困難であるが、前記のようなミスマッチまたはバルジを導入することによって配列決定が可能になる。さらに、対合二本鎖RNA領域にミスマッチまたはバルジを含有しているsiRNAは、大腸菌または動物細胞において安定しているという利点を有する。
【0297】
siRNAが、RNAi効果のため、標的遺伝子発現のサイレンシングを可能にする限り、siRNAの末端構造は、平滑末端であってもよいしまたは付着(突出)末端であってもよい。付着(突出)末端構造は、3'突出のみに限定されず、RNAi効果を誘導することができる限り、5'突出構造も含まれ得る。さらに、突出ヌクレオチドの数は、既に報告された2個または3個に限定されず、突出がRNAi効果を誘導することができる限り、任意の数であり得る。例えば、突出部は、1~8個、好ましくは、2~4個のヌクレオチドからなる。本明細書中で、付着末端構造を有するsiRNAの全長は、対合二本鎖部分の長さと、両端の突出一本鎖を含む対の長さとの合計として表される。例えば、4ヌクレオチド突出を両端に有する19bp二本鎖RNA部分のケースにおいて、全長は23bpと表される。さらに、この突出配列は、標的遺伝子に対する低い特異性を有するため、必ずしも標的遺伝子配列と相補的(アンチセンス)または同一(センス)でない。さらに、siRNAが標的遺伝子に対する遺伝子サイレンシング効果を維持することができる限り、siRNAは、例えば、一方の末端の突出部分に、(tRNA、rRNA、もしくはウイルスRNAなどの天然RNA分子、または人工RNA分子であり得る)低分子量RNAを含有していてもよい。
【0298】
さらに、「siRNA」の末端構造は、必ず、前記のように両端においてカットオフ構造であり、二本鎖RNAの片側の末端がリンカーRNAによって接続されたステムループ構造を有し得る(「shRNA」)。二本鎖RNA領域(ステムループ部分)の長さは、例えば、少なくとも15、18、または21ヌクレオチド~25、30、35、または49ヌクレオチド長であり得る。あるいは、発現されるsiRNAの最終転写産物である二本鎖RNA領域の長さは、例えば、少なくとも15、18、または21ヌクレオチド~25、30、35、または49ヌクレオチド長である。
【0299】
さらに、ステム部分の対合を妨害しないような長さを有する限り、リンカーの長さは、特に限定されない。例えば、ステム部分の安定的な対合およびその部分をコードするDNAの間の組換えの抑制のため、リンカー部分は、クローバー型tRNA構造を有していてよい。リンカーがステム部分の対合を妨害する長さを有していたとしても、例えば、イントロンが、前駆体RNAの成熟RNAへのプロセシング中に切り出され、それによって、ステム部分の対合を可能にするよう、イントロンを含んでリンカー部分を構築することが可能である。ステムループsiRNAのケースにおいては、ループ構造のないRNAのいずれかの末端(ヘッドまたはテール)は、低分子量RNAを有していてよい。前記のように、この低分子量RNAは、tRNA、rRNA、snRNA、もしくはウイルスRNAなどの天然RNA分子、または人工RNA分子であり得る。
【0300】
アンチセンスおよびセンスのコードDNAから、それぞれ、アンチセンスおよびセンスのRNAを発現させるため、本発明のDNA構築物は、前記定義のプロモーターを含む。アンチセンスおよびセンスのコードDNAを発現することができる限り、構築物内のプロモーターの数および位置は、原則として、自由に選択されてよい。本発明のDNA構築物の単純な例として、プロモーターがアンチセンスおよびセンスのコードDNAの上流に位置するタンデム発現系が形成され得る。このタンデム発現系は、両端に前記のカットオフ構造を有するsiRNAを生成することができる。ステムループsiRNA発現系(ステム発現系)において、アンチセンスおよびセンスのコードDNAは、反対方向に配置され、これらのDNAは、1個の単位を構築するためにリンカーDNAを介して接続される。プロモーターは、ステムループsiRNA発現系を構築するため、この単位の片側に連結される。本明細書中で、リンカーDNAの長さおよび配列は特に限定されず、リンカーDNAは、その配列が終結配列でなく、その長さおよび配列が、前記のような成熟RNA産生中のステム部分の対合を妨害しない限り、任意の長さおよび配列を有し得る。一例として、前述のtRNA等をコードするDNAは、リンカーDNAとして使用され得る。
【0301】
タンデム発現系およびステムループ発現系の両方のケースにおいて、5'末端は、プロモーターからの転写を促進することができる配列を有する。より具体的には、タンデムsiRNAのケースにおいては、プロモーターからの転写を促進することができる配列を、アンチセンスおよびセンスのコードDNAの5'末端に付加することによって、siRNA作製の効率が改善され得る。ステムループsiRNAのケースにおいては、そのような配列は、上記の単位の5'末端に付加され得る。そのような配列からの転写物は、siRNAによる標的遺伝子サイレンシングが妨害されない限り、siRNAに付着している状態で使用され得る。この状態が遺伝子サイレンシングを妨害する場合には、トリミング手段(例えば、当技術分野において公知のリボザイム)を使用して、転写物のトリミングを実施することが好ましい。アンチセンスおよびセンスのRNAは、同一のベクターにおいて発現されてもよいし、または異なるベクターにおいて発現されてもよいことが、当業者には明白であろう。センスおよびアンチセンスのRNAの下流への過剰の配列の付加を回避するため、それぞれの鎖(アンチセンスおよびセンスのRNAをコードする鎖)の3'末端に、転写のターミネーターを置くことが好ましい。ターミネーターは、4個以上の連続するアデニン(A)ヌクレオチドの配列であり得る。
【0302】
ゲノム編集
ゲノム編集は、異種トランスジーンを導入することによって、または標的内在性遺伝子の発現を阻害することによって、本発明のクローニングされた幹細胞、例えば、クローニングされたがん(またはその他の疾患)幹細胞のゲノム配列を変化させるために使用され得る。そのような遺伝学的に改変された幹細胞は、再生医学(以下を参照すること)または創傷治癒のために使用され得る。従って、ある種の態様において、本発明の再生医学(以下を参照すること)の方法は、ゲノム配列がゲノム編集によって修飾された本発明の幹細胞の使用を含む。
【0303】
ゲノム編集は、ZFN/TALENテクノロジーまたはCRISPRテクノロジーなどの当技術分野において認められているテクノロジーを使用して実施され得る(全文およびそこに引用された全ての参照が参照によって本明細書中に組み入れられる、Gaj et al,Trends in Biotech.31(7):397-405,2013による概説を参照すること)。そのようなテクノロジーは、特定のゲノム位置においてエラープローン非相同末端結合(NHEJ)または相同組換え修復(HDR)を刺激するDNA二本鎖(DSB)切断を誘導することによって、多様な範囲の細胞型および生物において事実上任意の遺伝子を操作することを可能にし、それによって、広範囲の遺伝子修飾を可能にする。
【0304】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、非特異的なDNA切断ドメインに連結された、プログラム可能な配列特異的DNA結合モジュールから構成されているキメラヌクレアーゼである。それらは、ジンクフィンガーまたはTALエフェクターDNA結合ドメインをDNA切断ドメインと融合させることによって生成された人工的な制限酵素(RE)である。ジンクフィンガー(ZF)または転写活性化因子様エフェクター(TALE)を、任意の所望の標的DNA配列に結合するよう改変し、REのDNA切断ドメインに融合させ、それにより、所望の標的DNA配列に特異的な改変型制限酵素(ZFNまたはTALEN)を作製することができる。ZFN/TALENが細胞に導入される時、それはインサイチューでのゲノム編集のために使用され得る。実際、ZFNおよびTALENの多用途性は、ゲノムの構造および機能に影響するため、転写の活性化因子および抑制因子、リコンビナーゼ、トランスポサーゼ、DNAメチルトランスフェラーゼおよびヒストンメチルトランスフェラーゼ、ならびにヒストンアセチルトランスフェラーゼなどの、ヌクレアーゼ以外のエフェクタードメインに拡大され得る。
【0305】
Cys2-His2ジンクフィンガードメインは、真核生物に見出されるDNA結合モチーフの最も一般的な型の一つであり、ヒトゲノムにおいて2番目に高頻度にコードされるタンパク質ドメインを表す。個々のジンクフィンガーは、保存されたββα配置に約30個のアミノ酸を有する。特異的なDNA認識のためのジンクフィンガータンパク質の適用にとって鍵となったのは、3個を超えるジンクフィンガードメインを含有している非天然アレイの開発であった。この進歩は、9~18bp長のDNA配列を認識する合成ジンクフィンガータンパク質の構築を可能にする、高度に保存されたリンカー配列の構造ベースの発見によって容易になった。この設計は、複雑なゲノムに特異的な連続DNA配列を認識するジンクフィンガータンパク質を構築するための最適戦略であることが判明した。モジュール組み立てアプローチによって(例えば、大きいコンビナトリアルライブラリーの選択によってまたは合理的設計によって生成されたジンクフィンガーモジュールの予め選択されたライブラリーを使用して)適当なジンクフィンガーを得ることができる。64の可能なヌクレオチドトリプレットのほぼ全部を認識するジンクフィンガードメインが開発されており、予め選択されたジンクフィンガーモジュールは、これらの一連のDNAトリプレットを含有しているDNA配列を標的とするためにタンデムに連結され得る。あるいは、近隣フィンガーの間の環境依存的な相互作用を考慮に入れる、オリゴマライズドプールエンジニアリング(oligomerized pool engineering)(OPEN)などの選択ベースのアプローチを、ランダム化ライブラリーから新しいジンクフィンガーアレイを選択するために使用することができる。2種のアプローチの組み合わせも使用される。
【0306】
改変型ジンクフィンガーは市販されている。Sangamo Biosciences(Richmond,CA,USA)は、研究者がジンクフィンガーの構築およびバリデーションを全て回避することを可能にする、ジンクフィンガー構築のための専売プラットフォーム(CompoZr)を、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO,USA)と共同で開発しており、数千種のタンパク質が、既に利用可能である。広く、ジンクフィンガータンパク質テクノロジーは、事実上任意の配列のターゲティングを可能にする。
【0307】
TALエフェクターは、12番目および13番目のアミノ酸を例外として高度に保存された33~34アミノ酸配列のリピートを含有しているDNA結合ドメインを含む、植物病原性ザントモナス(Xanthomonas)菌によって分泌されるタンパク質である。これらの2個の位置は、高度に可変性であり(Repeat Variable DiresidueまたはRVD)、特異的なヌクレオチド認識との強力な相関を示す。アミノ酸配列とDNA認識との間のこの単純な関係は、適切なRVDを含有しているリピートセグメントの組み合わせを選択することによる、特異的なDNA結合ドメインの改変を可能にした。ジンクフィンガーと同様に、モジュラーTALEリピートは、連続DNA配列を認識するために共に連結されている。ヌクレアーゼ、転写活性化因子、および部位特異的リコンビナーゼを含む、多数のエフェクタードメインが、標的遺伝子修飾のためのTALEリピートとの融合のために利用可能にされている。カスタムTALEアレイの迅速な組み立ては、「ゴールデンゲート」分子クローニング、ハイスループット固相組み立て、およびライゲーション非依存的クローニング技術を含む戦略を使用することによって達成され得、それらは全て、クローニングされた幹細胞のゲノム編集のため、本発明において使用され得る。
【0308】
TALEリピートは、18,740種のヒトタンパク質コード遺伝子を標的とするTALENのライブラリーなどの、当技術分野において利用可能な多数のツールを使用して、容易に組み立てられ得る(Kim et al.,Nat.Biotechnol.31,251-258,2013)。カスタムデザインTALEアレイも、例えば、Cellectis Bioresearch(Paris,France)、Transposagen Biopharmaceuticals(Lexington,KY,USA)、およびLife Technologies(Grand Island,NY,USA)を通して市販されている。
【0309】
FokIエンドヌクレアーゼ(または切断特異性および/もしくは切断活性を改善するために設計された変異を有する、SharkeyなどのFokI切断ドメインバリアント)などの、REの末端に由来する非特異的DNA切断ドメインを、酵母アッセイにおいて活性である(植物細胞および動物細胞においても活性である)ハイブリッドヌクレアーゼを構築するために使用することができる。ZFN活性を改善するためには、ヌクレアーゼ発現レベルを増加させるための一過性低温培養条件を使用することができ;部位特異的ヌクレアーゼのDNA末端プロセシング酵素との共送達、ならびにZFNおよびTALENによって修飾された細胞の濃縮を可能にする蛍光代理レポーターベクターの使用も、使用することができる。ZFNによって媒介されるゲノム編集の特異性は、ニックを入れられたDNAの誘導がエラープローンNHEJ修復経路を活性化することなくHDRを刺激するという所見を活用する、ジンクフィンガーニッカーゼ(ZFニッカーゼ)の使用によっても改良され得る。
【0310】
TALE結合ドメインのアミノ酸配列とDNA認識との間の単純な関係は、設計可能なタンパク質を可能にする。公に利用可能なソフトウェアプログラム(DNAWorks)を、2段階PCRにおける組み立てのために適当なオリゴヌクレオチドを計算するために使用することができる。改変型TALE構築物を生成するための多数のモジュール組み立てスキームも、当技術分野において報告されており、公知である。両方法は、ジンクフィンガーDNA認識ドメインを生成するためのモジュール組み立て方法に概念的に類似している、DNA結合ドメインを改変するための体系的なアプローチを提示する。
【0311】
TALEN遺伝子は、組み立てられた後、(カチオン性脂質ベースの試薬を使用した電気穿孔もしくはトランスフェクション、プラスミドベクター、アデノウイルスベクター、AAVベクター、およびインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)などの様々なウイルスベクターの使用などの)当技術分野において認められている任意の方法を使用して、ベクターによって標的細胞に導入される。あるいは、TALENは、mRNAとして細胞に送達されてもよく、それは、TALEN発現タンパク質のゲノム組み込みの可能性を除去する。それは、遺伝子編集中の相同組換え修復(HDR)のレベルおよび遺伝質移入の成功も、劇的に増加させることができる。最後に、精製されたZFN/TALENタンパク質の細胞への直接送達も使用され得る。このアプローチは、挿入変異誘発のリスクを伴わず、核酸からの発現に頼る送達系より少ないオフターゲット効果をもたらし、それにより、本発明の幹細胞のような細胞における正確なゲノム改変を必要とする研究のため、最適に使用され得る。
【0312】
TALENは、細胞が修復機序によって応答する二本鎖切断(DSB)を誘導することによって、ゲノムを編集するために使用され得る。非相同末端結合(NHEJ)は、アニーリングのための配列オーバーラップがほとんどまたは全く存在しない二本鎖切断のいずれかの側に由来するDNAを再接続する。PCRによって増幅された2種の対立遺伝子の違いを検出する、単純なヘテロ二重鎖切断アッセイを実行することができる。切断産物が、単純アガロースゲル系またはスラブゲル系において可視化されてもよい。あるいは、DNAは、外来性二本鎖DNA断片の存在下で、NHEJを通してゲノムに導入され得る。
【0313】
トランスフェクトされた二本鎖配列が、修復酵素のための鋳型として使用されるため、相同組換え修復も、DSBにおいて外来DNAを導入することができる。TALENは、ノックアウトされた線虫(C.elegans)、ラット、およびゼブラフィッシュを生成するため、安定的に修飾されたヒト胚性幹細胞および誘導多能性幹細胞(iPSC)のクローンを生成するために使用されている。
【0314】
幹細胞ベースの治療のため、ZFNおよびTALENは、正確なゲノム修飾によって、疾患の根底にある原因を補正することができ、従って、症状を永久に排除することができる。例えば、ZFNによって誘導されたHDRは、欠陥標的遺伝子の修復または標的遺伝子のノックアウトのいずれかによって、X連鎖重症複合免疫不全(SCJD)、血友病B、鎌状赤血球症、α1アンチトリプシン欠損症、およびその他の多数の遺伝病に関連した疾患原因変異を直接補正するために使用され得る。さらに、これらの部位特異的ヌクレアーゼは、ヒトゲノム内の特定の「セーフハーバー(safe harbor)」位置において治療用トランスジーンを本発明の幹細胞へ安全に挿入するためにも使用され得る。そのような技術は、クローニングされた(罹患または正常)幹細胞の1種または複数種の遺伝子が、標的遺伝子発現を増加させるかまたは減少させる/排除するために操作される、自己幹細胞移植に基づく処置を含む遺伝子治療において、本発明の幹細胞と組み合わせられて使用され得る。
【0315】
あるいは、CRISPR/Cas系が、標的とされた遺伝子改変を本発明の幹細胞において効率的に誘導するために使用されてもよい。CRISPR/Cas(CRISPR関連)系または「クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regulatory Interspaced Short Palindromic Repeats)」は、複数の短い直接リピートを含有しており、細菌および古細菌に獲得免疫を提供する遺伝子座である。CRISPR系は、侵入してくる外来DNAの配列特異的なサイレンシングのため、crRNAおよびtracrRNAに頼る。「tracrRNA」という用語は、crRNAのプロセシングを促進する非コードRNAであり、RNAによってガイドされるCas9による切断を活性化するために必要とされるトランス活性化キメラRNAを表す。CRISPR RNAまたはcrRNAは、切断のための相補的DNA部位にCas9エンドヌクレアーゼをガイドする、2RNA構造を形成するため、tracrRNAと塩基対合する。
【0316】
三つの型のCRISPR/Cas系が存在し:II型系において、Cas9は、crRNA-tracrRNA標的認識時にDNAを切断する、RNAによってガイドされるDNAエンドヌクレアーゼとして役立つ。細菌において、CRISPR系は、RNAによってガイドされるDNA切断を介して、侵入してくる外来DNAに対する獲得免疫を提供する。CRISPR/Cas系は、crRNAを再設計することによって、事実上任意のDNA配列を切断するためにリターゲティングされ得る。実際、CRISPR/Cas系は、Cas9エンドヌクレアーゼおよび必要なcrRNA成分を発現するプラスミドの同時送達によって、ヒト細胞に直接移動可能であることが示されている。これらのプログラム可能なRNAによってガイドされるDNAエンドヌクレアーゼは、iPS細胞において証明された多重遺伝子破壊能力および標的特異的な組み込みを有し、従って、本発明の幹細胞においても同様に使用され得る。
【0317】
がん幹細胞
本発明の方法および試薬は、上皮組織試料/生検材料に由来するかまたはその他の円柱再生性組織に由来するがん由来がん幹細胞(CSC)の培養および単離も可能にし、それらのCSCは、一部には、そのようなCSCを大量に単一細胞クローンとして得ることができなかったために、以前には実施が不可能または非実用的であった多数の適用において使用され得る。
【0318】
例えば、本発明の方法を使用して1人の患者から確立されたCSCのライブラリーは、定方向の薬物発見の試みのための、同一患者の感受性クローンと抵抗性クローンとの間の比較を可能にする。ある種の遺伝子は、感受性クローンと比較して、抵抗性クローンにおいてアップレギュレートされているかまたはダウンレギュレートされているかもしれない。アップレギュレートされた遺伝子の阻害剤は、例えば、抵抗性クローンにおける標的遺伝子のダウンレギュレーションの能力を試験し、薬剤耐性に対する効果を決定することによって、薬物標的遺伝子としてさらにバリデートされ得る。反対に、抵抗性クローンにおけるダウンレギュレートされた遺伝子の回復または過剰発現も、薬剤耐性を克服し得る。
【0319】
従って、一つの局面において、本発明は、薬剤耐性CSCクローンにおいてアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子を同定するための、本発明の方法および培地を使用して単離されたCSCを使用した薬物発見方法を提供し、本方法は、(1)本発明の方法を使用して、(がん患者に由来するものなどの)がん組織から多数の細胞クローンを得る工程;(2)小さい百分率(例えば、最大でも1%、0.5%、0.2%、0.1%、0.05%、0.01%、またはそれ以下)の薬剤耐性クローンが生存する条件の下で、1種または複数種の化学的化合物(例えば、抗がん薬)と多数の細胞クローンを接触させる工程;(3)薬剤耐性クローンの遺伝子発現プロファイルを、感受性クローン(例えば、薬物処理に対して感受性であると推測される、工程(2)の前にランダムに選ばれた1個または複数個の細胞クローン)のものと比較し、それによって、生存する薬剤耐性クローンにおいてアップレギュレートまたはダウンレギュレートされている遺伝子を同定する工程、を含む。
【0320】
ある種の態様において、方法は、生存する薬剤耐性クローンにおけるアップレギュレートされた遺伝子の発現を阻害する工程をさらに含む。例えば、アップレギュレートされた遺伝子は、同一の型の腫瘍または異なる型の腫瘍に由来する、同一の患者または異なる患者に由来する、2個以上の生存する薬剤耐性クローンにおいて、共通してアップレギュレートされていてよい。ある種の態様において、アップレギュレートされた遺伝子は、CSCが単離された患者に特異的であってもよい。これは、患者のための個別化された医薬または処置計画の設計において有用であり得る。
【0321】
ある種の態様において、方法は、生存する薬剤耐性クローンにおけるダウンレギュレートされた遺伝子の発現を回復させるかまたは増加させる工程をさらに含む。例えば、ダウンレギュレートされた遺伝子は、同一の型の腫瘍または異なる型の腫瘍から、同一の患者から、または異なる患者に由来する2個以上の残存する薬剤耐性クローンにおいて、共通してダウンレギュレートされていてよい。ある種の態様において、ダウンレギュレートされた遺伝子は、CSCが単離される患者のために特異的であり得る。これも、患者のための個別化された医療または処置計画の設計において有用であり得る。
【0322】
関連する局面において、本発明は、薬剤耐性CSCの成長を阻害するかまたはその死滅を促進する候補化合物を同定するための、本発明の方法および培地を使用して単離されたCSCを使用した薬物発見方法を提供し、本方法は、(1)本発明の方法を使用して、(がん患者に由来するものなどの)がん組織から多数の細胞クローンを得る工程;(2)薬剤耐性クローンの小さい百分率(例えば、最大でも1%、0.5%、0.2%、0.1%、0.05%、0.01%、またはそれ以下)が残存する条件の下で、1種または複数種の化合物(例えば、抗がん薬)と多数の細胞クローンを接触させる工程;(3)残存した薬剤耐性クローンを多数の候補化合物と接触させる工程;および(4)薬剤耐性CSCの成長を阻害するかまたはその死滅を促進する1種または複数種の候補化合物を同定する工程、を含む。ある種の態様において、方法は、抵抗性細胞を標的とする候補薬物のために、ハイスループットスクリーニングフォーマットを使用して実施される。
【0323】
ある種の態様において、方法は、マッチする感受性クローン(例えば、薬物処理に対して感受性であると推測される、工程(2)の前にランダムに選ばれた1個または複数個の細胞クローン)、および/またはCSCが単離されたのと同一の患者に由来するマッチする正常細胞において同定された候補化合物の一般的な毒性を試験する工程をさらに含む。好ましくは、同定された候補化合物は、マッチする感受性クローンおよび/またはマッチする正常細胞と比較して、特異的にまたは優先的に薬剤耐性CSCの成長を阻害するかまたはその死滅を促進する。
【0324】
ある種の態様において、健常細胞は、本発明の方法および試薬を使用して、同様に単離された、患者マッチ正常幹細胞である。
【0325】
前記の態様は、多くのケースにおいて、薬剤耐性CSCが薬物感受性クローンと比較してよりゆっくり成長するという発見に部分的に基づく。特定の理論に拘束されることは望まないが、出願人は、遅い成長が、化学療法を回避するための薬剤耐性CSCにおける遺伝子発現変更の結果である可能性が高いと考える。従って、ある種の薬剤は、優先的に薬剤耐性細胞の成長を阻害するかまたは死滅させるが、第1にがんを処置するために使用される(シスプラチンまたはパクリタクセルなどの)標準的な化学療法薬物より低毒性であることが期待される。
【0326】
別の局面において、本発明は、疾患を処置することを必要とする患者のための適当または有効な処置を同定する方法を提供し、本方法は、(1)本発明の方法を使用して、患者から(がん組織のような)罹患組織から多数の幹細胞クローンを得る工程;(2)多数細胞クローンを1種または複数種の候補処理に供する工程;(3)1種または複数種の候補処置の各々の有効性を決定し、それによって、疾患を処置することを必要とする患者のための適当または有効な処置を同定する工程、を含む。これは、例えば、患者が、各々患者のために適当または有効であるかもしれないしまたは有効でないかもしれない、いくつかの可能な処置オプションを有する時、有用であり得る。
【0327】
関連する局面において、本発明は、疾患を処置することを必要とする患者を処置することための、多数候補処置の間の最も適当または有効な処置についてスクリーニングする方法を提供し、本方法は、(1)本発明の方法を使用して、患者から(組織などの)罹患組織から多数幹細胞クローンを得る工程;(2)多数の細胞クローンを候補処置に供する工程;(3)1種または複数種の候補処置の相対的な有効性を比較し、それによって、患者のために最も適当または有効な処置を同定する工程、を含む。例えば、これは、患者が、各々特異的な患者集団に対して有効であるが他の集団に対しては必ずしも有効でない、いくつかの別の処置オプションを有する時、有用であり得る。
【0328】
ある種の態様において、疾患は、がん、例えば、がん幹細胞を単離することができるがんのうちのいずれかである。
【0329】
ある種の態様において、処置は、1種または複数種の化学療法剤を利用するもののような化学療法計画である。ある種の態様において、処置は放射線治療である。ある種の態様において、処置は、がん細胞の表面リガンド(例えば、表面抗原)に特異的に結合する細胞結合剤(例えば、抗体)を使用したもののような免疫治療である。ある種の態様において、処置は、手術、化学療法、放射線治療、および/または免疫治療の組み合わせ治療である。
【0330】
ある種の態様において、疾患は、炎症性疾患、疾患関連幹細胞を単離することができる疾患、または本明細書中で言及された任意の疾患である。
【0331】
ある種の態様において、方法は、1種または複数種の同定された疾患の適当または有効な処置を使用して、患者を処置する工程をさらに含む。
【0332】
ある種の態様において、方法は、個々にまたは組み合わせて(例えば、連続的にまたは同時に)試験された候補化学療法剤の各々の有効性などの候補処置の各々の有効性を提供する報告を作成する工程をさらに含む。
【0333】
ある種の態様において、方法は最も有効な処置のための推奨を提供する工程をさらに含む。
【0334】
関連する局面において、本発明は、本発明の方法を実施するためのキットおよび試薬を提供する。
【0335】
ある種の態様において、(必ずしもがん幹細胞に限定されない)本発明の一般的なスクリーニング法は、ハイスループット/自動で実施される。ハイスループットのため、増大した幹細胞集団は、マルチウェルプレート、例えば、96穴プレートまたは384穴プレートにおいて培養され得る。分子のライブラリーは、蒔かれた幹細胞に影響する分子を同定するために使用される。好ましいライブラリーには、抗体断片ライブラリー、ペプチドファージディスプレイライブラリー、ペプチドライブラリー(例えば、LOPAP(商標)、Sigma Aldrich)、脂質ライブラリー(BioMol)、合成化合物ライブラリー(例えば、LOP AC(商標)、Sigma Aldrich)、または天然化合物ライブラリー(Specs、TimTec)が非限定的に含まれる。さらに、幹細胞の子孫において1種または複数種の遺伝子の発現を誘導するかまたは抑制する遺伝子ライブラリーを使用することができる。これらの遺伝子ライブラリーには、cDNAライブラリー、アンチセンスライブラリー、およびsiRNAまたはその他の非コードRNAライブラリーが含まれる。
【0336】
幹細胞は、好ましくは、一定の期間、複数の濃度の被験/候補薬剤に曝される。曝露期間の最後に、培養物は、増殖、形態学的変化、および細胞死の低下または喪失を含むが、これらに限定されるわけではない、細胞における変化などの、予定された効果について評価される。
【0337】
増大した幹細胞集団は、増大した幹細胞集団自体ではなく上皮がん細胞またはそこから単離された幹細胞を特異的に標的とする薬物を同定するためにも使用され得る。
【0338】
がん幹細胞の迅速なクローニングは、腫瘍破壊の免疫学的アプローチも可能にする。本明細書中に記載されたテクノロジーは、CSCの高効率クローニングを可能にし、従って、免疫の活性化を介してこれらの細胞を根絶させるためのアプローチを助ける情報を提供する可能性がある。
【0339】
例えば、CSC(薬物感受性または薬剤耐性のいずれか)を単離した時、そのようなCSCの1個以上のエピトープ、好ましくは、健常対照と比較してCSCに特異的なエピトープ(例えば、CSCの細胞表面またはsecretome上のエピトープ)は、これらのCSCを標的とするようリンパ球に指示するため、抗原提示細胞(APC)を予防接種するために使用され得る。免疫学的アプローチには、メラノーマに対して行われたような、免疫監視を抑制するCSCの細胞表面またはsecretome上の分子の同定およびターゲティングが含まれ得る。
【0340】
再生医学
本発明の幹細胞は、再生医学において、例えば、様々な傷害を受けた再生性の組織または器官の外傷後、放射線後、および/または手術後の修復において有用であり得る。
【0341】
さらに別の態様において、再生のための移植可能な上皮を生成するため、小さい生検材料または組織試料を成体ドナーから採取し、その中の幹細胞を単離し、増大させ、任意で、分化させることができる。幹細胞特質を失うことなく、有意な細胞死なしに、本発明の幹細胞を凍結させ、解凍し、培養に戻すことができるという事実は、移植目的のための本発明の幹細胞の適用可能性をさらに増す。
【0342】
従って、本発明は、哺乳動物、好ましくは、ヒトへの移植において使用するための、幹細胞またはそれらの増大したクローンまたはそれらの分化産物(または集合的に再生医学において使用するための「幹細胞」)を提供する。患者へ本発明の幹細胞の集団を移植する工程を含む、移植を必要とする患者を処置する方法も提供され、ここで、患者は哺乳動物、好ましくは、ヒトである。
【0343】
従って、本発明の別の局面は、細胞治療を通してヒトまたは非ヒト動物患者を処置する方法を提供する。そのような細胞治療には、適切な手段を通した、(本発明の組織マッチ幹細胞などの)本発明の幹細胞の患者への適用または投与が包含される。具体的には、処置のそのような方法は、傷害を受けた組織の再生または創傷治癒を含む。本発明によると、患者は、同種もしくは自己の幹細胞またはそれらのクローン増大によって処置され得る。「自己」細胞とは、例えば、組織再生を可能にするため、細胞治療のために再導入されるのと同一の生物に由来する細胞である。しかしながら、細胞は、それらが導入される組織と同一の組織から必ずしも単離されていない。自己細胞は、拒絶の問題を克服するため患者マッチを必要としない。「同種」細胞とは、同一の種であるが、例えば、組織再生を可能にするために細胞が細胞治療のために導入される個体とは異なる個体に由来する細胞である。それでも、ある程度の患者マッチは拒絶の問題を防止するために必要とされ得る。
【0344】
一般に、本発明の幹細胞は、注射または移植によって患者の身体に導入される。一般に、細胞は、それらが作用することが意図された組織へ直接注射されるであろう。あるいは、細胞は、門脈を通して注射されるであろう。本発明の細胞と薬学的に許容される担体とを含有している注射器は、本発明の範囲内に含まれる。本発明の細胞と薬学的に許容される担体とを含有している注射器に付着したカテーテルも、本発明の範囲内に含まれる。
【0345】
本発明の幹細胞も、組織の再生においても使用され得る。この機能を達成するため、細胞は、傷害を受けた組織へ直接注射されるかまたは植え込まれてよく、そこで、体内の位置によって、かつ/または起源組織へのホーミングの後に、増殖し、最終的に、必要とされる細胞型へ分化することができる。
【0346】
あるいは、本発明の幹細胞は、傷害を受けた組織へ直接注射されるかまたは植え込まれてよい。処置を受けることができる組織には、全ての傷害を受けた組織、具体的には、疾患、損傷、外傷、自己免疫反応、またはウイルスもしくは細菌の感染によって傷害を受けた組織が含まれる。本発明のいくつかの態様において、本発明の幹細胞は、肺、食道、胃、小腸、結腸、腸上皮化生、ファロピウス管、腎臓、膵臓、膀胱、肝臓、または胃の系、またはそれらの一部分/セクションを再生させるために使用される。
【0347】
ある種の態様において、患者は、ヒトであるが、あるいはネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、またはマウスなどの非ヒト哺乳動物であってもよい。
【0348】
ある種の態様において、本発明の幹細胞は、ハミルトン注射器などの注射器を使用して、患者へ注射される。当業者は、処置される特定の状態のための本発明の幹細胞の適切な投薬量が何であるかを承知しているであろう。
【0349】
ある種の態様において、本発明の幹細胞は、溶液で、マイクロスフェアで、または多様な組成物の微粒子で、再生を必要とする組織または損傷した器官の一部に血液を送る動脈へ投与される。
【0350】
一般に、そのような投与は、カテーテルを使用して実施されるであろう。カテーテルは、形成術および/または細胞送達のために使用される多様なバルーンカテーテルのうちの1種、または細胞を身体の特定の位置へ送達するという具体的な目的のために設計されたカテーテルであり得る。
【0351】
ある種の使用のため、幹細胞は、多数の異なる生分解性化合物から作成された直径約15μmのマイクロスフェアに封入されてもよい。この方法は、血管内に投与された幹細胞が傷害の部位に残存し、毛細血管網を通して初回通過で体循環へ入らないことを可能にし得る。毛細血管網の動脈側への保持は、脈管外空間への移動も容易にするかもしれない。
【0352】
ある種の態様において、幹細胞は、全身に、または局所的に、具体的には、幹細胞が差し向けられる組織または身体部分に流出する特定の静脈に送達するため、静脈を通して、血管樹へ逆行性に注射されてもよい。
【0353】
別の態様において、本発明の幹細胞は、生体適合性インプラントに付着して、傷害を受けた組織に植え込まれてもよい。この態様において、細胞は、患者への移植前に、生体適合性インプラントにインビトロで付着されられ得る。当業者には明白であるように、多数の接着剤のうちのいずれかが、移植前に細胞をインプラントへ付着させるために使用され得る。例に過ぎないが、そのような接着剤には、フィブリン、インテグリンファミリーの1種または複数種のメンバー、カドヘリンファミリーの1種または複数種のメンバー、セレクチンファミリーの1種または複数種のメンバー、1種または複数種の細胞接着分子(CAM)、免疫グロブリンファミリーの1種または複数種、および1種または複数種の人工接着剤が含まれ得る。このリストは例示のために提供されるに過ぎず、限定するためのものではない。1種または複数種の接着剤の組み合わせが使用されてもよいことは、当業者に明白であろう。
【0354】
別の態様において、本発明の幹細胞は、マトリックスの患者への移植前にマトリックスに包埋されてもよい。一般に、マトリックスは、患者の傷害を受けた組織に植え込まれるであろう。マトリックスの例には、コラーゲンベースのマトリックス、フィブリンベースのマトリックス、ラミニンベースのマトリックス、フィブロネクチンベースのマトリックス、および人工マトリックスが含まれる。このリストは、例示のために提供されるに過ぎず、限定するためのものではない。さらなる態様において、本発明の幹細胞は、マトリックス形成成分と共に患者へ植え込まれるかまたは注射されてもよい。これは、細胞が注射または移植の後にマトリックスを形成することを可能にし、幹細胞が患者の適切な位置で残存することを確実にし得る。マトリックス形成成分の例には、フィブリン糊液体アルキル、シアノアクリレートモノマー、可塑剤、デキストランなどの多糖、エチレンオキシド含有オリゴマーは、ポロクサマーおよびPluronicsなどのブロックコポリマー、トゥイーンおよびトリトン8などの非イオン性界面活性剤、ならびに人工マトリックス形成成分が含まれる。このリストは、例示のために提供されるに過ぎず、限定するためのものではない。1種または複数種のマトリックス形成成分の組み合わせが使用されてもよいことは、当業者に明らかであろう。
【0355】
さらなる態様において、本発明の幹細胞は、マイクロスフェア内に含有されていてもよい。この態様において、細胞はマイクロスフェアの中心に封入されてもよい。この態様において、細胞はマイクロスフェアのマトリックス材料に包埋されてもい。マトリックス材料には、アルギン酸、ポリエチレングリコール(PLGA)、およびポリウレタンを含むが、これらに限定されるわけではない、任意の適当な生分解性ポリマーが含まれ得る。このリストは、例示のために提供されるに過ぎず、限定するためのものではない。
【0356】
さらなる態様において、本発明の幹細胞は、移植のために意図された医療機器に付着させられてもよい。そのような医療機器の例には、ステント、ピン、縫合糸、スプリット(split)、ペースメーカー、人工関節、人工皮膚、およびロッド(rods)が含まれる。このリストは、例示のために提供されるに過ぎず、限定するためのものではない。細胞は、多様な方法で医療機器に付着させられてよいことが当業者には明らかであろう。例えば、幹細胞は、フィブリン、インテグリンファミリーの1種または複数種のメンバー、カドヘリンファミリーの1種または複数種のメンバー、セレクチンファミリーの1種または複数種のメンバー、1種または複数種の細胞接着分子(CAM)、免疫グロブリンファミリーの1種または複数種、および1種または複数種の人工接着剤を使用して付着させられ得る。このリストは、例示のために提供されるに過ぎず、限定するためのものではない。1種または複数種の接着剤の組み合わせが使用されてもよいことは、当業者に明白であろう。
【0357】
従って、細胞治療によるヒトまたは動物患者の処置の方法が本発明の範囲内に含まれる。「動物」という用語は、本明細書中で、全ての哺乳動物、好ましくは、ヒトの患者を示す。それには、胚および胎児の段階を含む全ての発達段階の個々の動物も含まれる。例えば、患者は、成人であってよく、または治療は小児科(例えば、新生児、子供、または青年)での使用のためであってもよい。そのような細胞療法には、適切な手段を通した患者への本発明によって生成された幹細胞の投与が包含される。具体的に、そのような処置の方法は、傷害を受けた組織の再生または創傷治癒を含む。「投与」という用語は、本明細書中で使用されるように、静脈内または注射などのよく認識されている投与の型をさし、本発明によって幹細胞から得られた組織改変肝臓の移植、例えば、手術、移植、または移植による投与もさす。細胞のケースにおいては、例えば、胸管を介した上腸間膜動脈、腹腔動脈、鎖骨下静脈への注入、上大静脈を介した心臓への注入、または横隔膜下リンパ管を介した細胞のその後の移動を有する腹腔への注入、または肝動脈血液供給または門脈への注入を介した肝臓部位への直接による個体への全身投与が可能であり得る。
【0358】
体重100kg当たり104~1013個の細胞が、1回の注入で投与されてよい。好ましくは、体重100kg当たり約1~5×104および1~5×107個の細胞が静脈内注入され得る。好ましくは、体重100kg当たり約1×104および1×106個の細胞が静脈内注入され得る。いくつかの態様において、本発明の幹細胞の単回投与が提供される。他の態様において、複数回投与が使用される。複数回投与は、例えば、3~7日連続の初期処置計画で提供され、次いで、他の時点で繰り返されてよい。
【0359】
遺伝子治療は、傷害を受けた組織または病変組織の修復に差し向けられた方法においてさらに使用され得ることが、当業者に明らかであろう。例えば、DNAおよび/またはRNAなどの遺伝情報を幹細胞へ送達するためアデノウイルスまたはレトロウイルスの遺伝子送達媒体が使用され得る。当業者は、遺伝子治療において標的とされた特定の遺伝子を交換するかまたは修復することができる。例えば、正常遺伝子を、非機能性遺伝子を交換するため、ゲノム内の非特異的な位置へ挿入することができる。別の例において、異常遺伝子配列を、相同組換えを通して正常遺伝子配列に交換することができる。あるいは、選択的復帰変異が、遺伝子を正常機能に戻すことができる。さらなる例は、特定の遺伝子の制御(遺伝子がオンオフされる程度)の変更である。好ましくは、幹細胞は、遺伝子治療アプローチによってエクスビボで処置され、その後、哺乳動物、好ましくは、処置を必要とするヒトに移入される。例えば、幹細胞に由来する細胞は、患者への移植の前に培養物中で遺伝学的に修飾され得る。
【0360】
毒性アッセイ
増大した幹細胞集団は、可能性のある新規薬物または既知もしくは新規の栄養補助食品の毒性アッセイにおけるCaco-2細胞などの細胞株の使用にさらに取って代わることができる。そのような毒性アッセイは、個別化された医療において有用であり得る患者マッチまたは組織/器官マッチ幹細胞を使用して実施され得る。
【0361】
細胞ベースの毒性試験は、器官特異的細胞傷害を決定するために使用される。
【0362】
試験され得る化合物には、がん化学防御剤、環境化学物質、栄養補助食品、および可能性のある毒物が含まれる。細胞は、一定期間、複数の濃度の試験薬剤に曝される。アッセイにおける試験薬剤の濃度範囲は、5日間の曝露および最も高い可溶濃度からの対数希釈を使用して、予備アッセイにおいて決定される。曝露期間の最後に、培養物は成長の阻害について評価される。データは、50パーセントだけ終点を阻害した濃度(TC50)を決定するため、分析される。
【0363】
ハイスループットの目的のため、上皮幹細胞は、例えば、96穴プレートまたは384穴プレートなどのマルチウェルプレートにおいて培養される。分子のライブラリーが、幹細胞に影響する分子を同定するために使用される。好ましいライブラリーには、抗体断片ライブラリー、ペプチドファージディスプレイライブラリー、ペプチドライブラリー(例えば、LOPAP(商標)、Sigma Aldrich)、脂質ライブラリー(BioMol)、合成化合物ライブラリー(例えば、LOP AC(商標)、Sigma Aldrich)、または天然化合物ライブラリー(Specs、TimTec)が含まれる。さらに、腺腫細胞の子孫における1種または複数種の遺伝子の発現を誘導するかまたは抑制する遺伝子ライブラリーが使用され得る。これらの遺伝子ライブラリーには、cDNAライブラリー、アンチセンスライブラリー、およびsiRNAまたはその他の非コードRNAのライブラリーが含まれる。細胞は、好ましくは、一定期間、複数の濃度の試験薬剤に曝される。曝露期間の最後に、培養物は評価される。「影響する」という用語は、増殖、形態学的変化、および細胞死の低下または喪失を含むが、これらに限定されるわけではない細胞の任意の変化をカバーするために使用される。
【0364】
動物モデル
本発明の別の局面は、本発明のがん幹細胞のような本発明の幹細胞を含む動物モデルを提供する。
【0365】
ある種の態様において、動物は、免疫不全(齧歯類、例えば、マウス、ラットなどの)非ヒト動物であるが、それは、そのような動物が拒絶反応を引き起こす可能性がより低いためである。免疫不全動物として、ヌードマウスおよびヌードラットなどの、機能性T細胞が欠損している非ヒト動物、ならびにSCIDマウスおよびNOD-SCIDマウスなどの、機能性のT細胞およびB細胞が欠損している非ヒト動物を使用することが好ましい。特に、優れた移植可能性を示す、T細胞、B細胞、およびNK細胞が欠損しているマウス(例えば、SCIDマウス、RAG2KOマウス、またはRAG1KOマウスと、NOD/SCID/gammacnu11マウス、NOD-scid、IL-2Rgnu11マウス、およびBALB/c- Ragnu11、IL-2Rgnu11マウスを含むIL-2Rgnu11マウスとの交雑によって得られた重症免疫不全マウス)が、好ましくは、使用される。
【0366】
非ヒト動物の年齢に関して、胸腺欠損ヌードマウス、SCIDマウス、NOD/SCIDマウス、またはNOGマウスが使用される時、4~100週齢のものが、好ましくは、使用される。
【0367】
NOGマウスは、例えば、(参照によって組み入れられる)WO 2002/043477に記載された方法によって作製されてもよいし、またはCentral Institute for Experimental AnimalsまたはJackson Laboratoryから得られてもよい(NSGマウス)。
【0368】
移植される細胞は、幹細胞塊/クローン、本発明の幹細胞から分化した組織セクション、単分散幹細胞、単離または凍結/解凍の後に培養された幹細胞、および別の動物に移植され動物から再び単離された幹細胞を含む任意の型の細胞であり得る。移植される細胞の数は、106個以下であってもよいし、より多数の細胞が移植されてもよい。ある種の態様において、皮下移植が、その単純な移植技術のため、望ましい。しかしながら、移植の部位は、特に限定されず、好ましくは、使用される動物によって適切に選択される。NOGに確立されたがん細胞株を移植するための手法は、特に限定されず、任意の従来の移植手法が使用され得る。
【0369】
そのような動物モデルは、例えば、薬物標的分子を探索し、薬物を査定するために使用され得る。薬物の査定方法には、薬物のスクリーニングおよび抗がん薬のスクリーニングが含まれる。標的分子を探索する方法には、ジーンチップ分析を使用して、がん幹細胞において高度に発現されたDNAおよびRNAなどの遺伝子(例えば、がん幹細胞マーカー)を同定する方法、およびプロテオミクスを使用して、がん幹細胞において高度に発現されたタンパク質、ペプチド、または代謝物質を同定する方法が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0370】
標的分子を探索するためのスクリーニング法には、細胞増殖阻害アッセイを使用して、低分子ライブラリー、抗体ライブラリー、マイクロRNAライブラリー、またはRNAiライブラリー等からがん幹細胞の成長を阻害する物質がスクリーニングされる方法が含まれる。阻害剤が得られた後、その標的を明らかにすることができる。
【0371】
従って、本発明は、薬物の標的分子を同定する方法も提供し、本方法は、(1)本発明のがん幹細胞を非ヒト動物(例えば、免疫不全マウスまたはラット)に移植することによって、非ヒト動物モデルを作製する工程;(2)薬物投与の前後に、がん幹細胞集団のがん発生過程に特徴的な組織構造を示すか、またはそれらの生物学的特性を示す組織セクションを収集する工程;(3)(2)において収集された組織セクション(前後)をDNA、RNA、タンパク質、ペプチドまたは代謝物質の発現について調査/比較する工程;および(4)組織セクションにおいて、がん幹細胞から形成された構造、がん幹細胞に起因するがん発生過程、またはがん幹細胞の生物学的特性に依って変動するDNA、RNA、タンパク質、ペプチド、または代謝物質を同定する工程、を含む。
【0372】
本発明は、薬物を査定する方法も提供し、本方法は、(1)本発明のがん幹細胞を非ヒト動物(例えば、免疫不全マウスまたはラット)に移植することによって、非ヒト動物モデルを作製する工程;(2)(1)の非ヒト動物モデルへ被験物質を投与する工程;(3)がん幹細胞集団のがん発生過程に特徴的な組織構造を示すか、またはそれらの生物学的特性を示す組織セクションを収集する工程;(4)組織セクションにおいて、経時的ながん幹細胞の変化、がん発生過程、またはその生物学的特性を観察する工程;(5)被験物質によって阻害されるがん幹細胞から形成された構造、がん幹細胞に起因するがん発生過程、またはがん幹細胞の生物学的特性を同定する工程、を含む。
【0373】
本発明は、薬物をスクリーニングする方法も提供し、本方法は、(1)本発明のがん幹細胞を非ヒト動物(例えば、免疫不全マウスまたはラット)に移植することによって、非ヒト動物モデルを作製する工程;(2)(1)の非ヒト動物モデルへ被験物質を投与する工程;(3)がん幹細胞集団のがん発生過程に特徴的な組織構造を示すか、またはそれらの生物学的特性を示す組織セクションを収集する工程;(4)組織セクションにおいて、経時的ながん幹細胞の変化、がん発生過程、またはその生物学的特性を観察する工程;(5)がん幹細胞から形成された構造、がん幹細胞に起因するがん発生過程、またはがん幹細胞の生物学的特性を阻害する被験物質を同定する工程、を含む。
【実施例
【0374】
8.例示的な実施例
本明細書中に記載された培地を試験し、これが、ヒトおよびその他の哺乳動物に由来する円柱上皮組織に由来する上皮幹細胞の頑強な成長を支持することを立証した。例えば、結腸幹細胞をクローニングした(図1、2、3A、および3Bを参照すること)。
【0375】
A.MGM培地
例示的な系は、MGMと呼ばれた培地である。MGM培地が試験され、これが、ヒト組織またはその他の哺乳動物に由来する上皮幹細胞の頑強な成長を支持することが立証された。例えば、円柱肺幹細胞、食道幹細胞、胃腸幹細胞、がん幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞は、全て、例示された実施例において、照射された3T3-J2フィーダーと共に、MGM培地を含むこの培養系において強健に成長することができる。
【0376】
MGM培地は、以下のような基本培地から出発する:
培地1L当たり:
DMEM 645ml
F12 215ml
FBS 100ml
L-グルタミン 10ml
アデニン 10ml
ペニシリン/ストレプトマイシン 10ml
インスリン 1ml
T3 1ml
ヒドロコルチゾン 2ml
コレラエンテロトキシン 1ml
EGF 1ml
ゲンタマイシン 5ml
ファンギゾン 1ml

付加的な成分:
1:R-スポンディン1
(Cat.4645-RS、R&D;最終濃度:125ng/ml、ストック:25ug/バイアル)
2:AV-951
(Cat.S1207、Selleckchem Inc;最終濃度:500nM、ストック:10mM)
3:GDC-0879
(Cat.S1104、Selleckchem Inc;最終濃度:500nM、ストック:10mM)
3:ヒトノギン
(Cat.120-10c、Peprotech;最終濃度:100ng/ml、ストック:100ug/ml)
(ストックとして5ml H2Oに500ugを溶解させる。)
4:ROCK阻害剤
(Cat.688000、Calbiochem;最終濃度:2.5 uM、ストック:2.5mM)
(ストックとして5.912ml H2Oに5mgを溶解させる。)
5:SB431542
(Cat.13031、Cayman chemical company;最終濃度:2uM、ストック:2mM)
(ストックとして6.5ml DMSOに5mgを溶解させる。)
6:ニコチンアミド
(Sigma、Cat.N0636-100G;最終濃度:10mM、ストック:5M)
(ストックとして10ml H2Oに6gを溶解させる。)
7:GSK429286A
(Cat.S1474、Selleckchem Inc;最終濃度:500nM、ストック:10mM)
【0377】
ろ過し、4℃で保管する。
【0378】
肺および子宮頚部を含む多様な異なる組織に由来する上皮幹細胞は、継代数25回を超えてSAM培地において継代され、インビトロおよびNSGマウスを使用する異種移植片モデルの両方において自己再生能力および多分化能を維持する。
【0379】
ろ過し、4℃で保管する。
【0380】
B.SGM-88+フィーダーフリー系
例示的なフィーダーフリー系は、SGM-88+と呼ばれる培地である。SGM-88+培地が試験され、これが、共培養するフィーダー細胞の必要なしに、ヒト組織またはその他の哺乳動物に由来する上皮幹細胞の頑強な成長を支持することが立証された。これは、以下の成分8~11の添加を伴って、上記のように生成される。
【0381】
SGM-88+培地(1リットル):
DMEM 645ml
F12 215ml
FBS 100ml
L-グルタミン 10ml
アデニン 10ml
ペニシリン/ストレプトマイシン 10ml
インスリン 1ml
T3 1ml
ヒドロコルチゾン 2ml
コレラエンテロトキシン 1ml
EGF 1ml
ゲンタマイシン 5ml
ファンギゾン 1ml

付加的な成分:
1:R-スポンディン1
(Cat.4645-RS、R&D;最終濃度:125ng/ml、ストック:25ug/バイアル)
2:AV-951
(Cat.S1207、Selleckchem Inc;最終濃度:500nM、ストック:10mM)
3:GDC-0879
(Cat.S1104、Selleckchem Inc;最終濃度:500nM、ストック:10mM)
3:ヒトノギン
(Cat.120-10c、Peprotech;最終濃度:100ng/ml、ストック:100ug/ml)
(ストックとして5ml H2Oに500ugを溶解させる。)
4:Y-27632
(Cat.688000、Calbiochem;最終濃度:2.5 uM、ストック:2.5mM)
(ストックとして5.912ml H2Oに5mgを溶解させる。)
5:SB431542
(Cat.13031、Cayman chemical company;最終濃度:2uM、ストック:2mM)
(ストックとして6.5ml DMSOに5mgを溶解させる。)
6:ニコチンアミド
(Sigma、Cat.N0636-100G;最終濃度:10mM、ストック:5M)
(ストックとして10ml H2Oに6gを溶解させる。)
7:GSK429286A
(Cat.S1474、Selleckchem Inc;最終濃度:250nM、ストック:10mM)
8:CP673451(Cat.S1536、Selleckchem Inc;最終濃度:1μM、ストック:10mM)
9:OAC1(Cat.S7217、Selleckchem Inc;最終濃度:1μM、ストック:10mM)
10:JNK-IN-8(Selleckchem Inc;最終濃度:1μM、ストック:10mM)
11:Jagged‐1(Cat.61298、AnaSpec Inc;最終濃度:1uM、ストック:1mg/バイアル)
【0382】
ろ過し、4℃で保管する。
【0383】
成分調製
DMEM(Invitrogen 11960)
高グルコース(4.5g/l)、L-グルタミンなし、ピルビン酸ナトリウムなし。
【0384】
F-12栄養混合物(HAM)(Invitrogen 11765)
L-グルタミンを含有している。
【0385】
アデニン(Calbiochem 1152 10g)
243mgのアデニンを100mlの0.05M HClに添加する(0.4mlの濃HClを100mlの蒸留H2Oで希釈する)。
溶解させるため、RTで約1時間撹拌する。
ろ過滅菌する。
10.0mlアリコートに分割する。
最終濃度:1.8×10-4M。
-20℃で保管する。
【0386】
FBS(Hyclone SH30910.03 500mL)
血清を熱不活性化しない。
血清を解凍し、50ml/チューブに等分し、-20℃で保管する。
【0387】
L-グルタミン(GIBCO 25030-081 100ml)
解凍し、10.0mlのアリコートに分割する。
-20℃で保管する。
【0388】
ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO 15140-122 100mL)
【0389】
ファンギゾン(Gibco、15290-018)
【0390】
ゲンタマイシン(Gibco、15710-064)
【0391】
インスリン(Sigma I-5500 50mg)
10mlの0.005N HClに50mgを溶解させる(ストック5mg/ml)。
1mlのアリコートを分配し、-20℃で保管する。
最終濃度5ug/ml。
【0392】
T3(3,3',5-トリヨード-L-チロシン)(SigmaT-2752 100mg)
13.6mgを15mlの0.02N NaOHに溶解させる。
体積をPBSで100mlにする(濃縮ストック2×10-4M)。
10mlのアリコートを分配し、-20℃で保管する。
0.1ml濃縮ストックを取り、体積をPBSで10mlにする。
1mlのアリコートに分配し、-20℃で保管する(ストック2×10-6M)。
最終濃度2×10-9M。
【0393】
ヒドロコルチゾン(SigmaH-0888 1gまたはCalbiochem/EMD386698)
5ml 95%ETOHに25mgを溶解させる(濃縮ストック5mg/ml)。
-20℃で保管する。
0.4mlの濃縮ストックを取り、無血清SBM培地で10mlにする。
1mlのアリコートに分配し、-20℃で保管する(ストック200μg/ml)。
最終濃度0.4ug/ml。
【0394】
コレラエンテロトキシン
(MP Biomedicals 190329 1mgまたはCalbiochem/EMD227036)
1mg(1バイアル)を1.18ml蒸留H2Oに溶解させる(濃縮ストック10-5M)。
4℃で保管する(凍結させない)。
10%FBSを含有している10ml SBM培地に0.1mlの濃縮ストックを添加する。
1mlのアリコートに分配し、-20℃で保管する(ストック10-7M)。
最終濃度10-10M。
【0395】
EGF(Upstate Biotechnology 01-107)
0.1%BSAの調製:
100mg BSA(SigmaA-2058;IgG不含、試験された細胞培養物5g)。
100ml蒸留H2Oに溶解させる。
0.22μ Nalgeneで無菌ろ過する。
使用頻度に依って4℃または-20℃のいずれかで保管する。
EGFの調製:
1mg EGFを1ml 0.1%BSAに溶解させる。
100μlアリコートに分配し、-80℃で保管する(濃縮ストック100μg/100μl)。
100μg濃縮ストックを0.1%BSAで10mlにする。
0.22μ Millipore Millex-GVを使用して無菌ろ過する。
1mlのアリコートに分配し、-20℃で保管する(ストック10μg/ml)。
最終濃度10ng/ml。
【0396】
C.基底状態腸幹細胞の幹細胞性およびゲノム安定性は年齢と無関係である
腸上皮の成体幹細胞は、高頻度に増殖する。変異は、年齢と共に正常幹細胞に蓄積する可能性がある。基底状態腸幹細胞のクローニングおよび培養の最近の技術的進歩は、これらの高度に増殖性の腸幹細胞の機能およびゲノムに対する年齢に関連する影響の正確な査定の機会を提供する。本発明者らの、単一幹細胞に由来する系譜をインビトロで無限に頑強に増大させる能力は、クローンレベルで、信頼性のある分析および腸幹細胞の完全ゲノムカバーを正確に実施するために十分なDNAを提供する。エクソーム配列決定分析を使用して、本発明者らは、染色体欠失、増幅、および遺伝子変異が、より高齢の個体および疾患の個体に由来する腸幹細胞クローンにおいて起こることを見出す。興味深いことに、野生型ゲノムを有する腸幹細胞クローンが、年齢に関わらず、全てのドナーにおいて同定された。これらの野生型幹細胞は、クローンとしてインビトロで継代され、安定的なゲノムを維持しながら、クローン原性および多能性によって証明される幹細胞性の変化なしに、およそ6週間で10億個の細胞に増大することができる。本発明者らの研究は、野生型幹細胞クローンが高齢患者および疾患患者に存在し、それらがはるかに若い個体に由来するものと同一の効率および安定性で、インビトロでクローニングされ増大することができることを示唆する。本発明者らの結果は、自己移植のための高齢または疾患の患者における野生型幹細胞クローンについてのスクリーニングの重要性を強調し、成体幹細胞ベースの個別化された医療の見込みを支持する。
【0397】
野生型またはトランスジェニックの表皮幹細胞を使用した自己移植が、重度の熱傷、慢性創傷、および接合部型表皮水疱症を有する患者において極めて成功することが立証されている。考えられる限りでは、腸などの他の再生性組織に由来する成体幹細胞は、重症型短腸症候群(SBS)を有する患者、先天性疾患を有する者、または炎症性腸疾患(IBD)を有する者における自己移植後の腸上皮機能を回復するために使用され得る。
【0398】
しかしながら、これらの患者由来成体幹細胞が自己移植のために使用される時には、注意する必要がある。高齢者の腸組織に存在する幹細胞がまだ非常に有能であることを示唆する魅力的な量の証拠が存在するが、それらの幹細胞挙動がより若い個体から採取されたものと類似しているか否かは不明である。高齢の幹細胞が本質的に機能障害性であるか否かは、全ての年齢の人々のための自己移植に基づく幹細胞治療の実際的な開発にとって相当に関連する問題である。さらに、高齢患者の腸幹細胞に蓄積した細胞傷害は、これらの幹細胞を前がん状態にするかまたは形質転換する可能性があるゲノムの変化をもたらし得る(Hsieh et al.,2013,Aging Cell(2013)12,pp269-279)。さらに、潰瘍性大腸炎(UC)などの腸障害のいくつかは、結腸直腸がんの発症に関係している(O'Conor Pm et al.,Bowel Dis.16,1411-1420)。従って、それは、高齢者患者または疾患患者に由来する腸幹細胞を、野生型腸幹細胞の先のスクリーニングおよび選択なしに自己移植のため利用するために関係がある。
【0399】
野生型腸幹細胞のクローニング、スクリーニング、および増大は、円柱上皮組織から幹細胞をクローニングし、インビトロ増大中に未熟性を維持することができないという成体幹細胞研究の有意な障壁のため、困難である。従って、腸幹細胞は、極めて低いクローン原性細胞の百分率を有する、再生性の、分化する「オルガノイド」として進展しなければならず、そのことは、増殖の動力学および基礎幹細胞を探究するための利用可能性を制限する。最近、それらの高度に未熟なクローン原性の状態で基底状態腸幹細胞(ISCGS)をクローニングすることを支持するための新しい技術が、開発された。これらの培養されたISCGSは、ゲノムおよびエピジェネティックなコミットメントプログラムの著しい安定性、維持されたクローン原性、ならびに無制限の複製増大を証明し、個別化された再生医学のための野生型ISCGSの選択的培養における大きな可能性を示唆した。
【0400】
この研究において、本発明者らは、広範囲の患者に由来する腸幹細胞を研究するために基底状態幹細胞クローニングテクノロジーを使用した。本発明者らは、高齢患者およびUC患者においては遺伝子変異を有するISCGSが得られる確率が増加しているが、それでも、それらから野生型ISCGSをクローニングすることは可能であることを見出した。さらに、高齢細胞環境から取り出された後、それらの挙動は、より若い個体から採取されたものと同一になる。従って、本発明者らの研究は、野生型ISCGSが、UCの状態でさえ全ての年齢の患者に存在し、それらはインビトロで頑強に安定的に継代され得ることを示唆しており、そのことは、腸幹細胞の固有の不死性が年齢と無関係であることを示唆している。
【0401】
結果
広範囲の年齢を有する患者に由来するISCGS
全ての年齢の患者から基底状態腸幹細胞(ISCGS)を成功裡にクローニングし培養することができるか否かを理解するため、本発明者らは、10~20歳の患者10人、30~50歳の患者10人、および50~80歳の患者10人を選んだ。これらの患者の腸上皮に由来する1mmの生検材料を酵素消化し、3T3J2フィーダーおよび特殊な培地を含む系に蒔いた。本発明者らは、およそ50個のコロニーが30人全ての患者の各々に由来し得ることを検出した。1個のISCGSコロニーから出発して、10億個のISCGS細胞を、およそ6日で年齢と無関係の30人全ての患者から生成することができる(図4A)。全ての年齢に由来するISCGSが、区別不可能な形態学および同一の多分化能を示した。16歳、56歳、および77歳の患者のISCGSの系譜株を、10日間、気液界面(ALI)培養において分化させた(図4B)。全てのISCGSが、高度に均一の3Dのヘビ状(serpentine)パターンを形成した。これらの分化したISCGSの組織学セクションは、杯細胞(ムチン2+)、内分泌細胞(クロモグラニンA+)、パネート細胞(デフェンシンα6+)によって特徴付けられる絨毛様構造の円柱上皮を明らかにし、このことから、広範囲の患者(10~80歳)に由来する単一のISCGSの子孫が、腸に典型的に見出される全ての上皮系統を生じさせ得ることが示された。
【0402】
クローニングされたISCGSのゲノム多様性
本発明者らは、次に、コピー数多形研究のため、高齢患者(40~70歳)に由来するISCGSクローンを試料採取することによって、腸上皮における多クローン性に取り組むことにした。本発明者らは、30人全ての患者に由来するISCGSが、高度にクローン原性であることをまず示した。50~70%のクローン原性が患者間に観察された(図5Aおよび5B)。従って、単一細胞由来コロニーを、数千個の細胞を含む単一細胞由来系譜に増大させることができ、それはルーチンのゲノム分析のために十分なDNAを提供する。本発明者らは、高密度SNPアレイを使用して、UCを有するかまたは有しない成人患者11人に由来する1~23個のクローンを試料採取した。本発明者らは、大部分のクローンが、患者マッチ血液と比較して染色体の変化をほとんど示さないことを見出した。しかしながら、44歳非IBD患者に由来する23個のクローンのうちの1個のクローンは、2種の推定がん遺伝子SOS1およびXPO1の増幅を示し、クローンの残りは全て野生型であった。さらに、56歳UC患者に由来する7個のクローンのうちの1個のクローンは、はるかに有意な染色体変化を示した。その結果、ERBB4、ALK、およびMYCNなどの推定がん遺伝子を含む16種の遺伝子が増幅される。興味深いことに、同一の患者の他の数個のクローンは、野生型ゲノムを示した。図5Cを参照すること。本発明者らのデータは、野生型ISCGSおよび変異体ISCGSの両方が、インビトロでクローニングされ、増大し得ることを示唆しており、従って、変異体ISCGSを先行して排除しておくことは自己移植のための使用前の必須の工程である。
【0403】
野生型ISCGSの長期培養
このUC患者に由来する野生型クローンおよび変異体クローンのゲノム変化をさらに調査するため、本発明者らは、ISCGSのプールおよび系譜に対してエクソーム配列決定を実施した。これらの細胞のゲノム分析は、エクソーム配列決定を使用したコピー数多形(CNV)および点変異の査定からなっていた。本発明者らは、変異体系譜および野生型系譜、ならびにプールされた細胞および静脈血に由来する患者マッチDNA試料を使用してCNVおよび点変異を決定した28。有意に、プールされたISCGSは、中間部欠失および増幅の形態で極めて低いCNVを示した。プールされた幹細胞におけるCNVのこの程度は、同一の患者の野生型幹細胞系譜において観察されたものの範囲内にあった(図6A、6B、および6C)。著しく対照的に、変異体幹細胞系譜におけるCNVは、例えばFHIT、PTPRD、p15/p16、およびERBB4等の一連のがん関連遺伝子に影響するさらに多くの中間部欠失および増幅を示した。これらの幹細胞系譜のエクソームは、クローン集団について予想される通り、約0.4~0.5に集中した点変異の対立遺伝子頻度を有し、同点変異の対立遺伝子頻度は、プールされた幹細胞においては、検出不可能であるかまたは約0.05である。これらの対立遺伝子頻度は、幹細胞系譜におけるゲノム分析の頑強性を強調する。CNVデータと一致して、野生型系譜は、血液と比較して非同義変異を示さなかった。変異体系譜は、LOHが存在しないことを示唆する0.5という対立遺伝子頻度で有意に多くの非同義変異を示した。これらのSNVには、発がんの駆動因子として関連付けられているノッチ変異およびRas変異が含まれる。総合すると、この潰瘍性大腸炎患者の変異体クローンにおけるCNVのイベントおよび非同義変異の有意に高い数は、この変異体クローンにおける幹細胞がこの患者のための自己移植アプローチのために適当ではないことを示唆する。従って、ポリクローナル腸上皮における野生型幹細胞クローンをクローニングし、移植のためにそれらを増大させることは重要である。本発明者らは、次に、培養中のこれらの野生型幹細胞のゲノムおよび機能の安定性を調査した。本発明者らは、初期継代(p1)および後期継代(p10)で正常幹細胞クローンの幹細胞を比較した。各継代は、およそ17回の細胞分裂を含む10日間インビトロで培養することを含む。継代数に関わらず、幹細胞は、胚細胞(Muc2+)、内分泌細胞(クロモグラニンA+)、およびパネート細胞(DEFA6)に適切に分化することができ、高いクローン原性能力(60%超)を維持していた。ISCGSの正常クローンのゲノム安定性をインビトロで査定するため、本発明者らは、100日間の連続的増殖の後にISCGSにおいて全エクソーム配列決定(平均150×)によるコピー数多形(CNV)および単一ヌクレオチド変動(SNV)を調査した(図6A)。単一のISCGS系譜が推定10億個の細胞に増大し得るP10で、コピー数異常は検出されなかった。従って、この低レベルの構造的変動は10回目の継代まで維持された。血液と比較することによって、ISCGS系譜は、10回目の継代まで少数(3個)の点変異を示し、そのうちの2個のSNPは、共通するバリアントであり、1個のSNPは同義変異である(図6B)。新しい欠失およびLOHイベントは継代中に見出さなかった。これらの結果は、これらの系譜が増殖増大の最初の100日以内にゲノム変化をほとんど持続させないことを示唆する。この結果は、ヒト胎児ISCGSのインビトロ増大(Wang and Yamamoto et al.,2015)において本発明者らが観察したものと一致している。従って、野生型の安定的で頑強な培養は年齢と無関係であり、これらの細胞は個別化された再生医学のための安全で信頼性のある幹細胞起源を提供する。
【0404】
考察
幹細胞ベースの自己移植は、IBD、壊死腸炎、瘻孔、NSAID誘発性傷害、または胃十二指腸出血を含む、損なわれた粘膜関門機能を特徴とする広範囲の胃腸管の障害を有する患者の転帰を改善するかもしれない(Hong et al.,"concise review:the potential use of intestinal stem cells to treat patients with intestinal failure".Stem Cells Translational Medicine,2017;Fredrik EO Holmberg et al.,2017;"Culturing human intestinal stem cells for regenerative applications in the treatment of inflammatory bowel disease;March 10,2017,EMBO)。高齢患者または疾患患者に関しては、これらの個体に由来するISCGSが腸上皮を機能的に再生させるために十分な数に増大し得るか否か、およびISCGSが治療目的のために使用される時、加齢または疾患に関連したゲノム変化が安全性に関する懸念をもたらすか否かのような、重要で未回答の疑問が存在する。
【0405】
現在の治療の方向は、患者自身の幹細胞を自己移植のために使用することである。高齢幹細胞が本質的に機能障害性であるならば、それは高齢の人々のためにこの型の治療を使用する能力を大いに制限するであろう。しかしながら、高齢幹細胞がなお完全な幹細胞性を維持している場合、換言すると、ISCGSの固有の不死性が年齢と無関係である場合には、年齢に関連する疾患のための再生医学のこのアプローチは極めて有望であり得る。本発明者らは、年齢10~80歳の広範囲の患者からISCGSをクローニングすることができることをここで示した。本発明者らは、自己再生能力または分化能力の年齢に関連する喪失を検出しなかった。およそ60日で、単一のISCGSは、著しい安定的な野生型ゲノムを有するこの研究に含まれた30人全ての患者について約10億個の細胞に増大することができ、このことから、腸障害を有する患者を標的とする自己移植のための理想的な幹細胞起源としてそれらが役立つことが示唆される。
【0406】
1980年代に、Howard Greenらは、培養された幹細胞を使用した細胞治療の最初の例を証明した。それらは、ヒト表皮が実験室において成長することができ、機能性の表皮を再構成するために熱傷患者に移植され得ることを示した。それ以来、この手法は、重度の熱傷を有する患者を救命することが繰り返し示されている。さらに、重度の皮膚水疱形成性疾患、表皮水泡症を癒すための遺伝学的に修飾された表皮幹細胞の長期的な有効性および安全性が、臨床的に示されている。表皮幹細胞の成功した臨床的使用は、インビトロおよびインビボで、広範囲に自己再生することができる手法において使用される長命の幹細胞の数との密接な相関を証明した。
【0407】
培養された腸細胞の自己移植が臨床的な環境において同一の成功を達成することができるか否かは不明なままである。これらのオルガノイドが付着し上皮の統合された一部になることを示す、実験的大腸炎のマウスモデルにおいて、腸幹細胞の小さい割合を含むオルガノイドの成功した移植を達成することができることが主張されたが、オルガノイド構造内の極めて限定的な数の幹細胞が、ヒトにおいて長期的な腸上皮再生を支持することができる可能性が高い。
【0408】
オルガノイド構造内のおよそ1%の腸幹細胞の存在と比較して、基底状態ISC培養は、70%を超えるISCGSを含む。培養された表皮幹細胞の臨床的使用を通して本発明者らが学習した以前のレッスンに基づき、ISCGSの使用が移植の効力および成功を有意に改善するであろうと考えられる。ISCGSテクノロジーの別の重要な利点は、単一細胞に由来する系譜を確立し、約60日で10億個の細胞に迅速に増大させる本発明者らの能力である。本発明者らは、加齢または腸障害は、いくつかの腸幹細胞クローンにおいてゲノム変化をもたらし、これらの変異細胞を移植のために適当でなくするかもしれないと予想することができる。本発明者らの研究において、UCを有する56歳の患者の例を使用して、本発明者らは、培養されたISCGSのポリクローナルな複雑性を証明し、1人の患者において野生型クローンおよび変異体クローンの共存を示した。単一細胞由来系譜をスクリーニングすることによって、本発明者らは、野生型ゲノムを有する系譜を確立し、この系譜がインビボで自己再生し、分化し、長期間にわたって警戒すべきゲノムの変化なしに増大し得ることを示した。
【0409】
総合すると、本発明者らのデータは、安全性に関する懸念のため、移植前に培養された腸幹細胞をスクリーニングすることの重要性を支持し、個別化された再生医学のための効率的で信頼性のある幹細胞起源のための解決策を提供する。図7を参照すること。
【0410】
D.内視鏡的生検材料を介して患者に由来する胃腸幹細胞をクローニングする効率的な方法
結腸クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患は、免疫系の疾患として見なされ処置される。しかしながら、最近の研究は、腸上皮がクローン病および潰瘍性大腸炎の病原におけるキーとなる、おそらく第1のプレーヤーである可能性を暗示している。炎症性腸疾患における腸上皮の正確な役割を査定するためには、免疫細胞、間質細胞、および微生物細胞の複雑な影響なしに、粘膜幹細胞を単離し、クローニングし、調査するための系が必要である。腸幹細胞の研究は、マウスモデルにおいて安定的な系統トレーサーとして使用される、例えばLgr5、Bmi1、およびその他の、幹細胞のマーカーの発見によってもたらされた急速なペースで進んでいる。さらに、胃腸管の上皮細胞を単離し、分析する方法は、誘導多能性幹細胞を腸系統へ誘導するか、またはいわゆるオルガノイドまたはミニ腸管を開発することによって最高になった。これらのトレーシングおよびインビトロのオルガノイド研究によって明らかにされた腸幹細胞の著しい特性にも関わらず、領域は、全体として、機能的欠陥を解決する研究、薬物発見、および再生医学の範囲のためのそのようなクローンの大規模増幅と同様に可能性のある病原性の不均一性の分析も可能にする、未熟な状態で患者特異的なヒト腸幹細胞を維持することができないことに苦しんでいる。
【0411】
本願において記載されるように、本発明者らは、ヒト腸粘膜の臨床的に標準的な1mmの生検材料に由来する100~300個の無関係な幹細胞クローンのライブラリーを生成するための頑強な方法を本発明において開発した(図8)。簡単に説明すると、生検材料を、酵素消化し、前記のMGM培地の存在下で、照射された3T3-J2フィーダー細胞上に(SGM-88培地を使用する場合はフィーダーなしで)蒔いた。分化を誘導するため、幹細胞をトランズウェルインサート(Corning,Corning,NY)に蒔いた。コンフルエンシーで、管腔側培地を除去し、培養をさらに6~12日間継続した(MGM培地)。本発明者らの方法は、これらのクローンをインビトロで事実上無限の数に未熟細胞として増大させ、60日未満でおよそ10億個の細胞に到達することを可能にする(図9)。重要なことに、本発明者らは、両方とも、多くの分化した細胞の中に比較的少数の幹細胞を与える、誘導多能性幹細胞アプローチまたはミニ腸管アプローチのいずれよりも多数の利点を与える、高度に未熟なクローン原性の状態でこれらの幹細胞クローンの各々を維持することができる。さらに、これらの幹細胞は、持続した幹細胞継代の数に関わらず、腸細胞、杯細胞、腸内分泌細胞、およびパネート細胞などの全ての細胞系統を含む腸様構造へ分化するよう誘導され得る。要約すると、この系の利点には、(1)未熟な細胞の高度に均一な均質の集団、(2)急速で均一な増殖、(3)内視鏡検査が支援する生検材料検索を使用して、トポロジー的に正確な、領域特異的な、領域に深く関連(regioncommitted)した幹細胞を生成する能力、(4)均一な体細胞の遺伝子型およびクロス研究の分析のための単一細胞「系譜」を容易に生成する能力、ならびに(5)両方の幹細胞系譜および対応する組織を疾患サインについて査定する能力が含まれる。本発明者らは、本発明者らの研究が、結局、腸疾患の基礎を解決し、最終的に、それらを処置する手段を同定するため、複数の実験室における広範囲の分析のための疾患に関係する幹細胞系譜を提供するであろうと期待する。
【0412】
要約
1mm生検材料に由来する単一の腸幹細胞は、試料採取され純粋な「系譜」として独立して増殖することができるコロニーを形成する。これらの単一細胞由来系譜は、長期的な自己再生(固有の不死性)および多分化能を含む幹細胞の重要な点の基準を全て満たす。これらの細胞は、その後の継代時に>70%の著しいクローン原性率を示し、従って、クローン原性率が<1%である「オルガノイド」とは対照的に、いわゆる基底状態幹細胞のほぼ均質の集団である。基底状態幹細胞の高いクローン原性は、オルガノイドと比べて250倍の有意性を有する高率の「増大可能性」与えるため、学術的な意味合いを超えている。従って、1個の基底状態幹細胞が、気液界面系での10,000個の三次元の腸培養物を確立するために十分な10億個の細胞に、60日未満で増殖することができる。これらの高度に未熟な幹細胞の別の有意な特性は、それらが由来する天然の粘膜の複雑な三次元上皮を自律的に形成するために必要な情報を全て保有しているという点である。総合すると、これは、複数のテクノロジーを介しておよび複数の実験室によって、分析するための、患者に由来する、遺伝学的に安定しておりかつ領域に深く関連した幹細胞を無制限に生成するための著しく単純な過程である。
【0413】
E.フィーダーフリー系におけるヒト胃腸幹細胞の未熟性の維持
胃腸管の幹細胞は、組織再生の非常に迅速な過程を駆動し、改変マウスモデルに基づく成体幹細胞の概念の中心にある。フィーダー依存的に基底状態でヒト腸幹細胞をクローニングし維持する能力は、インビトロ研究を補完する。ここで、本発明者らは、ヒト胃腸幹細胞のクローニングを達成するためのフィーダーフリー系を確立し、単一細胞に由来する系譜を確立し、粘膜細胞、壁細胞、主細胞、および神経内分泌細胞の形成を含む腸細胞、杯細胞、神経内分泌細胞、およびパネート細胞または胃小窩の形成を含めて、インビトロで腸絨毛を再構成するためにそれらの深く関連した多分化能を維持しながら、これらの系譜の長期的な自己再生を証明する努力を提示する。これらの胃腸幹細胞の、それぞれ、腸系統または胃系統への安定的な深い関連にも関わらず、完全なゲノム発現分析は、幹細胞維持の類似した戦略と一致している、相互の著しい類似を明らかにする。ゲノム異常なしに長期間インビトロで成体幹細胞の未熟性を維持するためにフィーダーに依存しないことは、再生医学および疾患モデリングのための使用というある種の利点を提供する。
【0414】
組織特異的な上皮幹細胞は、再生医学のための有望なツールである。培養された表皮幹細胞、角膜上皮幹細胞、および肺幹細胞は、臨床またはマウスモデルにおいて、生着において成功裡に使用された。ヒトの腸および結腸などの円柱上皮組織の幹細胞は、フィーダーベースの方法において高度に未熟な型で最近クローニングされた。誘導多能性幹細胞(iPSC)を腸系統に流入させるテクノロジーまたは再生性の分化したオルガノイド(例えば、「ミニ腸管」)の開発と比較して、フィーダー系においてクローニングされた「基底状態」幹細胞は、固有に不死であることが、長期培養にも関わらず自己再生、多能性、およびゲノム安定性の維持によって証明された。さらに、標準的な1mmの内視鏡的生検材料から腸上皮幹細胞を導出する能力は、このテクノロジーを、標準の患者モニタリングプロトコルと適合性にする。しかしながら、この系におけるマウス由来フィーダー細胞の調製は、有意な時間および努力を必要とする。さらに、フィーダーの関与は、これらの細胞のハイスループット薬物スクリーニング、ゲノム分析、および再生医学のための使用と非適合性であり得る。従って、成体幹細胞のためのフィーダーフリー培養系への移行は、必須で重要な改善を表すであろう。本発明の研究は、「基底状態」ヒト胃腸幹細胞(GSCGSおよびISCGS)を増殖させるためのフィーダーフリー系の開発およびバリデーションを報告する。このテクノロジーは、研究および臨床的適用において円柱上皮に由来する成体幹細胞を使用するための、容易に使用可能であり、頑強であり、複製可能な系を提供する。
【0415】
結果
ヒト胃腸幹細胞はフィーダーフリー系において自己再生する
(前記のようにSGM-88と名付けられた)特殊な培地は、マウス線維芽細胞フィーダー細胞の非存在下で、ヒト胃腸幹細胞の基底状態および高度にクローン原性の型の維持を支持するために開発された。これは、増殖因子、FLTの制御因子(血管内皮増殖因子受容体)、TGF-b/BMP(トランスフォーミング増殖因子b/骨形成タンパク質)、EGF(上皮増殖因子)、IGF(インスリン様増殖因子)、Wnt/b-カテニン、およびノッチ経路の新規の組み合わせを含有している。従って、以前にフィーダー細胞上で確立されたISCGSおよびGSCGSは、分化マーカーを発現することなく、高度に未熟な細胞としてこの培地において維持され得る。
【0416】
単一細胞移入によって決定されたように、細胞のクローン原性は、50%より高い。系譜は、クローン原性の変化なしに、数ヶ月間増殖することができた。この高いクローン原性は、本発明者らが増幅のための単一細胞「系譜」系を迅速に生成することを可能にする。
【0417】
腸および胃の幹細胞の多能性分化
ISCGSおよびGSCGSの系譜系を、10~30日間、気液界面(ALI)培養において分化させた。ISCGSは、高度に均一の3Dのヘビ状のパターンを形成した。分化したISCGSのセクションの組織学的分析は、胚細胞(Muc2+)、内分泌細胞(クロモグラニンA+)、パネート細胞(DEFA6+)細胞および偏向したビリン発現によって構成された絨毛様構造の円柱上皮を示した。対照的に、GSCGSは、ペプシノーゲンを産生する酵素原の(主)細胞、塩酸を分泌する壁細胞、胃腺頚部粘液細胞、ガストリン産生細胞(G細胞)。およびグルカゴン発現(A細胞)による3D腺パターンを生じた。これらの結果は、単一のISCGSまたはGSCGSの子孫が、典型的に小腸または胃に見出される全ての上皮系統を発生させることを示した。有意に、基底状態幹細胞は、Wntなどの因子の除去またはγセクレターゼ阻害剤などの因子の添加に頼る代わりに、ALIへの曝露の後に極性形成によって分化した(参照)。
【0418】
基底状態幹細胞およびALIによって分化した組織のトランスクリプトーム分析は、腸および胃の上皮について、予想通り、遺伝子発現の相違を証明したが、未分化のISCGSおよびGSCGSの遺伝子発現プロファイルは、1%未満だけ異なっていた(>2.0倍、P<0.5)。ISCGSは、CD133、Lgr5、およびLrig1などの腸幹細胞マーカーの高い発現を示した。そこでは、胃に由来するものは、胃上皮の典型的な幹細胞マーカーを有していた。
【0419】
フィーダー非依存性のゲノムおよび系統の安定性
このフィーダーフリー系におけるISCGSおよびGSCGSのゲノム安定性を査定するため、本発明者らは、連続的な増殖の20日後(2回目の継代:P2)、40日後(P3)、60日後(P6)、80日後(P8)、および100日後(P11)にISCGSおよびGSCGSの系譜において全エクソーム配列決定(平均150x)によるコピー数多形(CNV)および単一ヌクレオチド変動(SNV)を調査した。単一のISCGSまたはGSCGS系譜が推定10億~100億個の細胞に増大することができるP10で、コピー数異常は検出されなかった。従って、この低レベルの構造的変動は、10回目の継代まで維持された。P2と比較することによって、ISCGSおよびGSCGSの系譜は、10回目の継代まで、数個(0~3個)の点変異を示し、そのうち、2個のSNPは一般的なバリアントであり、1個のSNPは同義変異である。新しい欠失およびLOHイベントは継代中に見出さなかった。これらの結果は、これらの系譜が増殖増大の最初の100日以内にゲノムの変化をほとんど持続させないことを示唆する。
【0420】
本発明者らは、次に、ALI分化におけるISCGSおよびGSCGSの系譜の初期および後期の継代を比較した。胃および腸のマーカー染色を含む組織学的基準に基づき、本発明者らは、P2およびP10に由来する、ALIによって分化した上皮を区別することができなかった。さらに、本発明者らは、P2およびP10で試験された時、ISCGSおよびGSCGSの系譜がクローン原性を失わず(または獲得し)、50%を超えて安定的に残存することを見出している。最後に、本発明者らは、免疫不全(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ)マウスにおける皮下埋め込みの後、これらの基底状態の腸および胃の幹細胞の腫瘍形成性の証拠を見出さなかった。対照的に、ISCGSおよびGSCGSの系譜は、それらが由来するそれぞれの上皮(腸および胃)に類似している良好に分化した上皮を生成した。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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