(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】フッ素化過酸化物の調製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 407/00 20060101AFI20240110BHJP
C07C 409/16 20060101ALI20240110BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C07C407/00
C07C409/16
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020558584
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2019060554
(87)【国際公開番号】W WO2019207020
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハッセンスタブ-リーデル, ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ニッセン, ヤン ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】ベッカーズ, ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】スタインハウアー, ジモン
(72)【発明者】
【氏名】ドルース, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】パーニス, ホルガー
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04075073(US,A)
【文献】特開昭63-139151(JP,A)
【文献】Journal of Fluorine Chemistry,Vol.7, No.4,p375-383,doi:10.1016/S0022-1139(00)82097-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R
1R
2R
3C-O-O-CR
4R
5R
6(式中、R
1~R
6は、F
、CF
3
及びC
2
F
5
からなる群から独立して選択される)の化合物の製
造方法であって、ハイポフルオライ
トR
1R
2R
3COF
及びR
4R
5R
6CO
FをCOF
2の非存在下で反応させる工程を含
み、前記ハイポフルオライトR
1
R
2
R
3
COF及びR
4
R
5
R
6
COFは、AgF、AgF
2
、CuF、CuF
2
、BaF
2
、CsF、NiF
2
からなる群から選択される無機フルオリドと反応される、方法。
【請求項2】
前記化合物は、(CF
3)
3C-O-O-CF
3、(C
2F
5)(CF
3)
2C-O-O-CF
3、(C
2F
5)
2(CF
3)C-O-O-CF
3、(C
2F
5)
3C-O-O-CF
3、(CF
3)
3C-O-O-C(CF
3)
3、(C
2F
5)(CF
3)
2C-O-O-C(CF
3)
3、(C
2F
5)
2(CF
3)C-O-O-C(CF
3)
3、(C
2F
5)
3C-O-O-C(CF
3)
3、(C
2F
5)(CF
3)
2C-O-O-C(C
2F
5)(CF
3)
2、(C
2F
5)
2(CF
3)C-O-O-C(C
2F
5)(CF
3)
2、(C
2F
5)
3C-O-O-C(C
2F
5)(CF
3)
2、(C
2F
5)
2(CF
3)C-O-O-C(C
2F
5)
2(CF
3)、(C
2F
5)
3C-O-O-C(C
2F
5)
2(CF
3)、(C
2F
5)
3C-O-O-C(C
2F
5)
3
、CF(CF
3)
2-O-O-CF(CF
3)
2、CF
3CF
2-O-O-CF
3CF
2、CF
3-O-O-CF
3CF
2、
及びCF
3-O-O-CF
3からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハイポフルオライトR
1R
2R
3COF及
びR
4R
5R
6CO
Fは、AgF及びAgF
2の混合物と反応される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
AgF及びAgF
2の前記混合物は、銀ウールを元素フッ素で処理することにより
、入手可能である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
銀ウールを元素フッ素で処理することにより、AgF
及びAgF
2の混合物を調製することを含む第1の工程と、次いで、ハイポフルオライ
トR
1R
2R
3COF
及びR
4R
5R
6CO
FをCOF
2の非存在下でAgF
及びAgF
2の前記混合物と反応させることを含む第2の工程とを含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
ハイポフルオライトR
1R
2R
3COF及
びR
4R
5R
6CO
Fに対する
AgF及びAgF
2
の混合物のモル比は、0.9よりも
高い、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式R
1
R
2
R
3
C-O-O-CR
4
R
5
R
6
(式中、R
1
~R
6
は、F、CF
3
及びC
2
F
5
からなる群から独立して選択される)の化合物の製造方法であって、ハイポクロライトR
1R
2R
3COCl及
びR
4R
5R
6COCl
を、
COF
2
及びテトラフルオロヒドラジンN
2F
4の非存在下で
、光化学反応
で反応さ
せる工程を含む、方法。
【請求項8】
前記光化学反応は、200~400nmの波
長のUV光での照射下で実施される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
式R
1
R
2
R
3
C-O-O-CR
4
R
5
R
6
(式中、R
1
~R
6
は、F、CF
3
及びC
2
F
5
からなる群から独立して選択される)の化合物の製造方法であって、ハイポクロライ
トR
1R
2R
3COCl
及びR
4R
5R
6COC
lをCOF
2
の非存在下で、光化学反応で反応させる工程を含む
、方法。
【請求項10】
前記光化学反応は、200~400n
mの波長のUV光での照射下で実施される、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
ハイポクロライトR
1R
2R
3COCl及び/又はR
4R
5R
6COClが、アルコールR
1R
2R
3COH及び/
又はR
4R
5R
6CO
H(式中、R
1~R
6は、F
、CF
3
及びC
2
F
5
からなる群から独立して選択される)の、AgF、AgF
2、CuF、CuF
2、BaF
2、CsF、NiF
2からなる群から選択される無機フルオリドと
の反応、及びその後、ClFの存在下における反応で調製される工程を更に含む、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
式R
1R
2R
3C-O-O-CR
4R
5R
6(式中、R
1~R
6は、F
、CF
3
及びC
2
F
5
からなる群から独立して選択される)の化合物の製
造方法であって、ハイポクロライ
トR
1R
2R
3COCl
及びR
4R
5R
6COC
lを光化学反応で反応させる工程を含む方法。
【請求項13】
式R
1R
2R
3C-O-O-CR
4R
5R
6(式中、R
1~R
6は、F
、CF
3
及びC
2
F
5
からなる群から独立して選択される)の化合物の製
造方法であって、ハイポフルオライトR
1R
2R
3COF及
びR
4R
5R
6COF
をAgF及びAgF
2の混合物と反応させる工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、欧州特許出願公開第18 169 194.0号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、カルボニルフルオリド(COF2)の使用を回避する、過フッ素化された又は部分的にフッ素化された過酸化物の調製に関する。
【背景技術】
【0003】
フッ素化過酸化物が知られている。例えば、CF3-O-O-CF3は、誘電絶縁ガスとして、SF6及びN2の代替として国際公開第2014/096414号パンフレットに記載されており、その製造は、米国特許出願公開第2007/0049774号明細書に記載されている。欧州特許出願公開第3 078 657号明細書及び同第3 309 147号明細書は、両方とも特定のフッ素化過酸化物化合物及びそれらの調製方法を開示している。例えば、これらの文献は、適切なカルボニルフルオリド及び分子フッ素間の反応、適切なカルボニルフルオリド、COF2及び分子フッ素間の反応並びに適切なカルボニルフルオリド、オキシフルオリド及び分子フッ素間の反応を開示している。しかし、それらに記載の製造方法は、試薬としてカルボニルフルオリド(COF2及び/又は他の適切なカルボニルフルオリド)を使用する。カルボニルフルオリドは、短期暴露の限界値が2ppmで非常に有毒であると説明されており、水と激しく反応し、且つ高価である。更に、米国特許第4,075,073号明細書は、テトラフルオロヒドラジンN2F4の存在下でペルフルオロ-t-ブチルハイポフルオライトを光分解することにより、ビス(ペルフルオロ-t-ブチル)ペルオキシドを合成する方法について開示している。テトラフルオロヒドラジンは、フッ素原子スカベンジャーであり、これは、調製することが難しく、非常に危険であり、有機材料の存在下で爆発することが知られている。
【0004】
したがって、過フッ素化された及び部分的にフッ素化された過酸化物の改善された製造方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、過フッ素化された又は部分的にフッ素化された過酸化物の改善された調製方法を提供することである。本発明により、この目的及び他の目的が達成される。本発明の方法は、改善された収率、改善された純度、改善された選択性、改善された安全性プロファイル、改善された商品コスト及び/又は改善されたエネルギー消費の点で有利である。
【0006】
したがって、本発明の第1の態様は、式R1R2R3C-O-O-CR4R5R6(式中、R1~R6は、F又は過フッ素化された若しくは部分的にフッ素化された直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基から独立して選択される)の化合物の製造の方法であって、ハイポフルオライトR1R2R3COF若しくはR1R2R3COFとR4R5R6COFの混合物並びに/又はハイポクロライトR1R2R3COCl若しくはR1R2R3COClとR4R5R6COClの混合物をCOF2の非存在下で反応させる工程を含む方法に関する。
【0007】
用語「非存在下」は、反応を進行させるために反応混合物にCOF2が添加されないことであると理解されたい。しかしながら、例えば、初期の反応からの不純物又は本発明の方法で形成された副産物として、COF2の痕跡が存在することを除外するべきではない。
【0008】
一実施形態によれば、本発明による方法は、COF2及びF2の非存在下で実施される。
【0009】
別の実施形態によれば、本発明による方法は、任意のカルボニルフルオリドの非存在下、特に式R’R’’R’’’CC(O)F(式中、R’、R’’及びR’’’は、F又は過フッ素化された若しくは部分的にフッ素化された直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基から独立して選択される)の任意のカルボニルフルオリドの非存在下で実施される。別の実施形態によれば、本発明による方法は、任意の非常に有害な化合物の非存在下、特に三フッ化塩素ClF3の非存在下で実施される。
【0010】
別の実施形態によれば、本発明による方法は、任意のフッ素原子スカベンジャーの非存在下、特にテトラフルオロヒドラジンN2F4の非存在下で実施される。
【0011】
式R1R2R3C-O-O-CR4R5R6の化合物は、対称の過酸化物(すなわち、基R1R2R3C及びCR4R5R6は、同一である)であり得る。この場合、本発明の方法に使用されるハイポフルオライト及び/又はハイポクロライトは、同一である、すなわち1種のタイプのみのハイポフルオライト及び/又はハイポクロライトが反応で使用される。このような対称の過酸化物を調製するための方法が好ましい。
【0012】
式R1R2R3C-O-O-CR4R5R6の化合物は、非対称(すなわち、基R1R2R3C及びCR4R5R6は、異なる)でもあり得る。この場合、2つの異なるハイポフルオライト及び/又はハイポクロライトの混合物が本発明の方法に使用される。
【0013】
好ましくは、R1~R6は、F、CF3、C2F5及びC3F8からなる群から独立して選択される。具体的には、調製される化合物は、(CF3)3C-O-O-CF3、(C2F5)(CF3)2C-O-O-CF3、(C2F5)2(CF3)C-O-O-CF3、(C2F5)3C-O-O-CF3、(CF3)3C-O-O-C(CF3)3、(C2F5)(CF3)2C-O-O-C(CF3)3、(C2F5)2(CF3)C-O-O-C(CF3)3、(C2F5)3C-O-O-C(CF3)3、(C2F5)(CF3)2C-O-O-C(C2F5)(CF3)2、(C2F5)2(CF3)C-O-O-C(C2F5)(CF3)2、(C2F5)3C-O-O-C(C2F5)(CF3)2、(C2F5)2(CF3)C-O-O-C(C2F5)2(CF3)、(C2F5)3C-O-O-C(C2F5)2(CF3)、(C2F5)3C-O-O-C(C2F5)3、(i-C3F7)(CF3)2C-O-O-CF3、(i-C3F7)2(CF3)C-O-O-CF3、(i-C3F7)3C-O-O-CF3、(i-C3F7)(CF3)2C-O-O-C(CF3)3、(i-C3F7)2(CF3)C-O-O-C(CF3)3、(i-C3F7)3C-O-O-C(CF3)3、(i-C3F7)(CF3)2C-O-O-C(i-C3F7)(CF3)2、(i-C3F7)2(CF3)C-O-O-C(i-C3F7)(CF3)2、(i-C3F7)3C-O-O-C(i-C3F7)(CF3)2、(i-C3F7)2(CF3)C-O-O-C(i-C3F7)2(CF3)、(i-C3F7)3C-O-O-C(i-C3F7)2(CF3)、(i-C3F7)3C-O-O-C(i-C3F7)3、(i-C3F7)(CF3)(C2F5)C-O-O-CF3、(i-C3F7)(CF3)(C2F5)C-O-O-C(CF3)3、(i-C3F7)(CF3)(C2F5)C-O-O-C(i-C3F7)(CF3)2、(i-C3F7)(CF3)(C2F5)C-O-O-C(i-C3F7)(C2F5)(CF3)、(i-C3F7)(CF3)(C2F5)C-O-O-C(i-C3F7)2(CF3)、(i-C3F7)(CF3)(C2F5)C-O-O-C(i-C3F7)3及びCF(CF3)2-O-O-CF(CF3)2、CF3CF2-O-O-CF3CF2、CF3-O-O-CF3CF2、CF3-O-O-CF3からなる群から選択される。
【0014】
また、好ましくは、ハイポフルオライトR1R2R3COF及び/若しくはR4R5R6COF並びに/又はハイポクロライトR1R2R3COCl及び/若しくはR4R5R6COClは、無機フルオリド又は無機クロリドと、より好ましくはAgF、AgF2、CuF、CuF2、BaF2、CsF、NiF2からなる群から選択される無機フルオリドと、より好ましくはAgF及びAgF2の混合物と反応される。
【0015】
好ましい実施形態によれば、AgF及びAgF2の混合物は、銀ウールを元素フッ素で処理することによって調製される。AgF/AgF2の混合物を調製する工程は、好ましくは、ステンレス鋼容器で実施され得る。好ましい実施形態によれば、ガス状フッ素は、圧力が好ましくは約2バールの値に監視されている間、銀ウールに少しずつ添加され得る。フッ素の消費量が1時間当たり数ミリバールまで低下したとき、フッ素の添加を停止することができる。この手順は、周囲温度で開始され得、温度は、150℃まで上昇され得る。フッ化銀触媒の調製には数日かかる場合がある。フッ素のおよそ95モル%が消費されると、調製工程が完了すると考えられる。
【0016】
任意の理論に縛られることを望むものではないが、本発明者らは、上に開示された方法によって得られたフッ化銀材料が、COF2の非存在下において、ハイポフルオリド化合物を本発明による対応する過酸化物に問題なく変換する一方、商業的フッ化銀がより非効果的であると考えている。
【0017】
1つの好ましい実施形態によれば、本発明の1つの目的は、式R1R2R3C-O-O-CR4R5R6の化合物の製造の方法であって、銀ウールを元素フッ素で処理することにより、AgF/AgF2の混合物を調製することを含む第1の工程と、次いで、ハイポフルオライトR1R2R3COF若しくはR1R2R3COFとR4R5R6COFの混合物並びに/又はハイポクロライトR1R2R3COCl若しくはR1R2R3COClとR4R5R6COClの混合物をCOF2の非存在下で前記AgF/AgF2の混合物と反応させることを含む第2の工程とを含む方法を含む(R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、上記で開示された意味を有する)。
【0018】
この好ましい実施形態で使用される無機フルオリドは、より好ましくは、少なくとも化学量論量で使用され、すなわち、それは、触媒量でのみ存在するわけではない。触媒と異なり、無機フルオリド又はクロリドは、反応において恒久的な化学変化を受けており、好ましくは別の工程で回収及び再生される。好ましくは、ハイポフルオライトR1R2R3COF及び/若しくはR4R5R6COF並びに/又はハイポクロライトR1R2R3COCl及び/若しくはR4R5R6COClに対する無機フルオリドのモル比は、0.5よりも高く、より好ましくは0.6、0.7、0.8又は0.9よりも高く、最も好ましくは1.0よりも高い。有利には、それは、1.5よりも高い、更に2.5のモル比で過剰に使用することもできる。
【0019】
また、好ましくは、ハイポフルオライトR1R2R3COF及び/若しくはR4R5R6COF並びに/又はハイポクロライトR1R2R3COCl及び/若しくはR4R5R6COClは、光化学反応で反応され、より好ましくは、光化学反応は、200~400nmの波長、最も好ましくは200~300nmのUV光での照射下で実施される。
【0020】
用語「光化学反応」は、光、好ましくはUV光の吸収によって引き起こされる化学反応を意味するものとする。
【0021】
本発明の1つの他の目的は、式R1R2R3C-O-O-CR4R5R6(式中、R1~R6は、F又は過フッ素化された若しくは部分的にフッ素化された直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基からなる群から独立して選択される)の化合物の製造の方法であって、ハイポクロライトR1R2R3COCl又はR1R2R3COClとR4R5R6COClの混合物を光化学反応で反応させる工程を含む方法である。
【0022】
ハイポクロライトR1R2R3COCl及び/又はR4R5R6COClは、商業的に入手することができ、好ましくは、これらは、アルコールR1R2R3COH及び/若しくはR4R5R6COH又はケトンR1R2C(O)及び/若しくはR3R4C(O)(式中、R1~R6は、F又は過フッ素化された若しくは部分的にフッ素化された直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基からなる群から独立して選択される)の、AgF、AgF2、CuF、CuF2、BaF2、CsF、NiF2からなる群から選択される無機フルオリドとの、好ましくはCsFとの反応及びその後、一フッ化塩素(ClF)の存在下における反応で調製され得る。したがって、アルコールR1R2R3COH及び/若しくはR4R5R6COH又はケトンR1R2C(O)及び/若しくはR3R4C(O)は、第1の工程で無機フルオリド、好ましくはCsFと反応されて、対応するR1R2R3COCs及び/又はR4R5R6COCsを形成し、その後、これがClFと反応されて、対応するハイポクロライトを形成する。
【0023】
別の態様では、本発明は、式R1R2R3C-O-O-CR4R5R6(式中、R1~R6は、F又は過フッ素化された若しくは部分的にフッ素化された直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基からなる群から独立して選択される)の化合物の製造の方法であって、ハイポフルオライトR1R2R3COF及び/又はR4R5R6COFをAgF、AgF2又はAgF及びAgF2の混合物と反応させる工程を含む方法に関する。好ましくは、AgF、AgF2又はAgF及びAgF2の混合物は、ハイポフルオライトR1R2R3COF及び/又はR4R5R6COFと比較して1.0よりも高いモル比で使用される。
【0024】
本発明に関連して、用語「含む」は、「からなる」の意味を含むことを意図する。本開示において、単数形の表記は、複数形を含むことが意図される。表現「...~...を含む」は、限界値を含むものとして理解されなければならない。
【0025】
本開示において、「アルキル」は、好ましくは、1~5個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖の飽和炭化水素を指す。アルキル基の好ましい例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル及びtert-ブチルである。
【0026】
用語「過フッ素化されたアルキル」は、全ての水素原子がフッ素で置き換えられている、好ましくは1~5個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖の飽和炭化水素を指す。好ましい例は、CF3、CF3CF2、CF3CF2CF2、(CF3)2CF、CF3CF2CF2CF2、CF3CF2(CF3)CF2、(CF3)3Cである。
【0027】
用語「部分的にフッ素化されたアルキルは、少なくとも1個の水素原子がフッ素で置き換えられている、好ましくは1~5個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖の飽和炭化水素を指す。好ましい例は、CH2F、CHF2、CF3CH2、CF3CHF、CF3CH2CH2、CF3CF2CH2、(CF3)2CHである。
【0028】
本発明に従って調製された化合物は、電気化学デバイス、より具体的には電子ディスプレイ又はエネルギー貯蔵及び放出デバイスにおける電解質成分として使用することができる。化合物は、以下の電気化学デバイスの1つにおける電解質成分として使用され得る:
- エレクトロクロミックデバイス:車又は住宅用窓、日除け、眼鏡、
- エレクトロクロミックフラットスクリーン:テレビ、タブレット、スマートフォン、接続デバイス、
- 二次リチウム電池、リチウム-硫黄電池、リチウム-空気電池、ナトリウム電池、
- 高電圧電池、
- スーパーキャパシタ、特に電解質を使用する二重層スーパーキャパシタ、
- ソーラーパネル又は有機型(OPV)などのエネルギー発生機。
【0029】
好ましくは、電気化学デバイスは、リチウムイオン電池、リチウム-硫黄電池又はスーパーキャパシタであり得る。
【0030】
本発明に従って調製された化合物は、誘電絶縁ガスとしてSF6の代わりにも使用され得る。
【0031】
参照により本明細書に組み込まれるいずれかの特許、特許出願及び刊行物の開示が、用語を不明瞭にさせ得る程度まで本発明の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0032】
ここで、本発明は、実例として与えられ、いかなる方法でも本明細書又は特許請求の範囲を限定することを意図されていない実施例において更に説明される。
【実施例】
【0033】
実施例1:フッ化銀(AgF/AgF2)触媒の調製
銀ウール(約20g)をステンレス鋼容器中において元素フッ素で処理した。ステンレス鋼ライン内の圧力を監視しながら、ステンレス鋼ガス分配ライン及びステンレス鋼容器のガス入口バルブを介して2バールの圧力まで少しずつガス状フッ素を銀ウールに添加した。フッ素ガスの消費速度に応じて、反応容器の温度を最初の周囲温度から150℃まで上昇させながら、この手順を続けた。フッ素の消費速度が1時間当たり数ミリバールまで低下したとき、フッ素の添加を停止させた。フッ素のおよそ95モル%が消費されるまで、フッ化銀触媒の調製に数日かかった。過剰なフッ素を、ソーダライムで満たされたチューブを介して耐フッ素性ポンプシステムによって除去した。
【0034】
実施例2:ペルフルオロtert-ブチルハイポフルオライト((CF3)3C-OF)の調製
ペルフルオロtert-ブタノール(4.2g、17.8mmol)を、慎重に乾燥させたCsF(200g)を備えたステンレス鋼容器で凝縮し、室温に到達させた。容器を鋼ラインに接続する前に混合物を十分に振とうした。-78℃において、圧力が300mbarに達し、フッ素がそれ以上消費されなくなるまで元素フッ素を少しずつ添加した。-78℃で更に20分後、容器を-196℃に保持しながら、過剰なフッ素を除去した。
【0035】
実施例3:フッ化銀を用いた(CF3)3C-O-O-C(CF3)3の調製
実施例2からの反応混合物を、実施例1に従って新たに調製したフッ化銀触媒(22g)を入れた第2の鋼容器に蒸留した。-45℃で5日後、ペルフルオロビス(tert-ブチル)ペルオキシドを反応容器から蒸留し、-78°Cに保持された冷却トラップにトラップした(2.6g、5.5mmol、62%)。
【0036】
実施例4:ペルフルオロtert-ブチルハイポクロライト((CF3)3C-OCl)の調製
ペルフルオロtert-ブタノール(2.36g、10mmol)を、慎重に乾燥させたCsF(200g)を備えたステンレス鋼容器で凝縮し、室温に到達させた。容器をステンレス鋼ラインに接続する前に混合物を十分に振とうした。容器を液体窒素で冷却し、ガス状ClF(13mmol)を添加した。反応混合物を0℃までゆっくりと温めた。12時間後、混合物を頻繁に振とうしながら、混合物を-78℃まで冷却し、過剰なClFを、ソーダライムで満たされたチューブを介して耐フッ素性ポンプシステムによって除去した。収量:9.2mmol、92%ハイポクロライト
【0037】
実施例5:UV照射下での(CF3)3C-O-O-C(CF3)3の調製
実施例4のハイポクロライト(1mmol)を石英フラスコ(1L)に蒸留し、キセノン高圧ランプを使用して-78℃で30分間照射した。反応混合物のトラップトゥートラップ蒸留により、-78℃トラップでペルフルオロビス(tert-ブチル)ペルオキシド(0.3mmol、57%)を得て、揮発性副生成物Cl2、(CF3)2CO及びCF3Clを、-196℃に冷却されたトラップで収集した。