IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メビオン・メディカル・システムズ・インコーポレーテッドの特許一覧

<>
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図1
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図2
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図3
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図4
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図5
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図6
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図7
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図8
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図9
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図10
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図11
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図12
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図13
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図14
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図15
  • 特許-粒子線治療における自動処置 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】粒子線治療における自動処置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【請求項の数】 42
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021147833
(22)【出願日】2021-09-10
(62)【分割の表示】P 2019545952の分割
【原出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2022002712
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】15/441,170
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508147706
【氏名又は名称】メビオン・メディカル・システムズ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ゲリット・タウンセンド・ズワート
(72)【発明者】
【氏名】マーク・アール・ジョーンズ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・クーリー
(72)【発明者】
【氏名】スタンレー・ジェイ・ローゼンタール
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521721(JP,A)
【文献】特開2016-55161(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023205(WO,A1)
【文献】特開2012-10759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線治療システムであって、
粒子線の出力の方向を定めるための粒子線出力デバイスと、
照射目標を含む患者を支持するための処置台であって、移動できるように構成された、処置台と、
前記粒子線出力デバイスが前記処置台に対して移動できるように設置された可動デバイスであって、前記粒子線出力デバイスの異なる位置が、第1のビーム野と第2のビーム野とを含む前記粒子線のためのビーム野を画定し、各ビーム野が、前記粒子線が前記照射目標に対して移動することができる最大範囲を定める平面を含む、可動デバイスと、
前記可動デバイスの自動制御を行って、前記第1のビーム野において前記粒子線による前記照射目標の処置ができるように前記粒子線出力デバイスを配置し、前記照射目標を前記粒子線によって処置した後、前記可動デバイスの自動制御を行って、前記第2のビーム野において前記粒子線による前記照射目標のさらなる処置ができるように前記粒子線出力デバイスの位置を変更するための制御システムと、
を備え、
前記第1のビーム野と前記第2のビーム野とは、重複領域において少なくとも部分的に重複し、
前記制御システムは、粒子加速器の自動制御を行って、前記重複領域における前記粒子線の累積強度が目標ビーム強度に達するか又は目標ビーム強度から規定量を超える量だけ逸脱しないように、前記第1のビーム野において前記粒子線が照射されるときおよび前記第2のビーム野において前記粒子線が照射されるときに前記粒子線の強度を制御するように構成される粒子線治療システム。
【請求項2】
前記粒子線を前記照射目標に対して移動させるための構成要素を備える走査システムをさらに備え、
前記制御システムは、前記構成要素のうちの1つまたは複数の自動制御を行って前記粒子線による前記照射目標の前記処置ができるように前記粒子線を配置し、前記照射目標を前記粒子線によって処置した後、前記構成要素のうちの1つまたは複数の自動制御を行って、前記粒子線による前記照射目標の前記さらなる処置ができるように前記粒子線の位置を変更するように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項3】
前記1つまたは複数の構成要素は、1つまたは複数の走査磁石を備える、請求項2に記載の粒子線治療システム。
【請求項4】
前記1つまたは複数の構成要素は、エネルギーディグレーダーを備え、前記エネルギーディグレーダーは、前記粒子線の経路に対して進入し退避することが可能な1つまたは複数の構造を備える、請求項2に記載の粒子線治療システム。
【請求項5】
前記粒子線出力デバイスは、前記粒子加速器を備える、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項6】
前記制御システムは、前記処置台を制御して並進運動を実現するように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項7】
前記制御システムは、前記処置台を制御して回転運動を実現するように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項8】
処置中に前記照射目標を撮像するための撮像システムをさらに備え、
前記制御システムは、前記粒子線出力デバイスを前記処置向けに配置した後、前記粒子線による前記照射目標の前記処置の前に、前記撮像システムを制御して患者の1つまたは複数の第1の画像を撮影するように構成され、前記制御システムは、前記さらなる処置向けに前記粒子線出力デバイスの位置を変更した後、前記さらなる処置の前に、前記撮像システムを制御して前記患者の1つまたは複数の第2の画像を撮影するように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項9】
前記制御システムは、前記第1の画像を使用して、前記粒子線治療システムの処置空間内の前記照射目標の第1の場所を特定するように構成され、前記制御システムは、前記第2の画像を使用して、前記処置空間内の前記照射目標の第2の場所を特定するように構成される、請求項8に記載の粒子線治療システム。
【請求項10】
前記制御システムは、処置計画システムから処置計画を受信し、前記処置計画を解釈して前記可動デバイスの制御を実現するように構成され、前記処置計画は、処置中に前記可動デバイスの位置を特定する情報を含む、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項11】
前記制御システムは、前記粒子線治療システム内に画定されるアイソセンターとは無関係に前記可動デバイスの自動制御を行うように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項12】
前記可動デバイスまたは前記処置台の自動制御は、人間の介入なしで実現される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項13】
前記粒子線出力デバイスは、前記粒子加速器を備え、前記粒子加速器は、超伝導電磁石構造を有するシンクロサイクロトロンを備える、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項14】
前記粒子線出力デバイスは、前記粒子加速器を備え、前記粒子加速器は、超伝導電磁石構造を有する可変エネルギーシンクロサイクロトロンを備える、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項15】
前記粒子線出力デバイスはビームスプレッダーを備える、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項16】
前記ビームスプレッダーは、1つもしくは複数の走査磁石または1つもしくは複数の散乱箔を備える、請求項15に記載の粒子線治療システム。
【請求項17】
前記粒子線出力デバイスと前記患者との間に、構成可能なコリメータをさらに備え、前記構成可能なコリメータは、前記粒子線の第1の部分が前記患者に到達するのを妨げる一方で前記患者に到達する前記粒子線の第2の部分をコリメートするようにエッジを画定するように制御可能なリーフを備え、前記構成可能なコリメータは、前記粒子線の単一スポットサイズほどの小さい領域をトリミングするように制御可能である、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項18】
前記制御システムは、前記粒子線出力デバイスの運動に対する自動制御を行って、第1の場所から第2の場所への前記粒子線出力デバイスの並進運動を実現し、前記粒子線による前記照射目標の処置ができるように前記粒子線を配置し、前記粒子線による前記照射目標の前記処置の後で、前記粒子線出力デバイスのさらなる運動に対する自動制御を行って、前記第2の場所から第3の場所への前記粒子線出力デバイスの並進運動を実現し、前記粒子線による前記照射目標の処置ができるように前記粒子線の位置を変更するように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項19】
前記制御システムは、前記粒子線出力デバイスの運動に対する自動制御を行って、前記粒子線出力デバイスを第1の配向から第2の配向に回動させ、前記粒子線による前記照射目標の処置ができるように前記粒子線を配置し、前記粒子線による前記照射目標の前記処置の後で、前記粒子線出力デバイスのさらなる運動に対する自動制御を行って、前記粒子線出力デバイスを前記第2の配向から第3の配向に回動させ、前記粒子線による前記照射目標の処置ができるように前記粒子線の位置を変更するように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項20】
前記粒子線を前記照射目標に対して移動させるための構成要素を備える走査システムであって、前記構成要素の少なくともいくつかは、前記照射目標に向かう移動および前記照射目標から離れる移動ができるように設置される、走査システムをさらに備え、
前記制御システムは、前記構成要素のうちの前記少なくともいくつかの自動制御を行って、前記粒子線による前記照射目標の前記処置ができるように前記粒子線を配置し、前記粒子線による前記照射目標の前記処置の後で、前記構成要素のうちの前記少なくともいくつかの自動制御を行って、前記粒子線による前記照射目標の前記さらなる処置ができるように前記粒子線の位置を変更するように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項21】
前記構成要素のうちの前記少なくともいくつかが設置されたキャリッジをさらに備え、前記キャリッジは、前記粒子線の経路に沿って移動することが可能になるように少なくとも1つのトラックに装着される、請求項20に記載の粒子線治療システム。
【請求項22】
前記キャリッジは、前記少なくとも1つのトラックに沿って移動して、前記粒子線によって生成されるスポットのサイズを制御するように制御可能である、請求項21に記載の粒子線治療システム。
【請求項23】
前記キャリッジは、前記可動デバイスまたは前記処置台の少なくとも一方の移動と連携して前記少なくとも1つのトラックに沿って移動するように制御可能である、請求項21に記載の粒子線治療システム。
【請求項24】
前記可動デバイスは回転可能なガントリーを備える、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項25】
前記可動デバイスは、1つまたは複数のロボットアームを備える、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項26】
前記粒子線を前記照射目標に対して移動させるための走査構成要素を備える走査システムであって、前記走査構成要素は、前記粒子線のビームラインに沿って移動可能なキャリッジ上に設置される、走査システムをさらに備え、
前記制御システムは、前記キャリッジの自動制御を行って、前記粒子線による前記照射目標の前記処置ができるように前記粒子線を配置し、前記粒子線による前記照射目標の前記処置の後で、前記キャリッジの自動制御を行って、前記粒子線による前記照射目標の前記さらなる処置ができるように前記粒子線の位置を変更するように構成される、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項27】
照射目標を含む患者を支持するための処置台であって、移動できるように構成された、処置台と、
粒子線の出力の方向を定めるための粒子線出力デバイスであって、前記処置台に対して移動できるように配置された、粒子線出力デバイスと、
前記粒子線出力デバイスが前記処置台に対して移動できるように設置された可動デバイスと、
前記粒子線出力デバイスおよび前記処置台のアイソセントリック回転を超える自由度を使用して前記粒子線出力デバイスおよび前記処置台の配置を制御するための制御システムと、
を備え、
前記制御システムは、前記可動デバイスの自動制御を行って、前記粒子線の第1のビーム野を使用して前記照射目標の第1の部分を処置し、前記照射目標の前記第1の部分を前記粒子線によって処置した後、前記可動デバイスの自動制御を行って、前記粒子線の位置を変更し、前記粒子線の第2のビーム野を使用して前記照射目標の第2の部分を処置するように構成され、
前記制御システムは、粒子加速器の自動制御を行って、重複領域における前記粒子線の累積強度が目標ビーム強度に達するか又は目標ビーム強度から規定量を超える量だけ逸脱しないように、前記第1のビーム野において前記粒子線が照射されるときおよび前記第2のビーム野において前記粒子線が照射されるときに前記粒子線の強度を制御するように構成される粒子線治療システム。
【請求項28】
前記粒子線出力デバイスは、前記粒子線を前記照射目標に対して走査するための走査構成要素を備え、前記走査構成要素は1つまたは複数の走査磁石を備え、
前記制御システムは、前記走査構成要素のうちの1つまたは複数の動作を制御することによって前記粒子線の位置を制御するように構成される、請求項27に記載の粒子線治療システム。
【請求項29】
前記制御システムは、ユーザ介入なしに前記粒子線出力デバイスおよび前記処置台の配置を制御するように構成される、請求項27に記載の粒子線治療システム。
【請求項30】
前記制御システムは、前記粒子線出力デバイスおよび前記処置台の配置を複数のビーム野について自動的に制御するように構成される、請求項27に記載の粒子線治療システム。
【請求項31】
前記粒子線出力デバイスは、第1の位置と第2の位置との間を直線的に移動するように制御可能である、請求項27に記載の粒子線治療システム。
【請求項32】
前記粒子線出力デバイスは、前記処置台に対して回動するように制御可能である、請求項27に記載の粒子線治療システム。
【請求項33】
前記粒子線出力デバイスは、前記処置台に対して回転するように制御可能である、請求項27に記載の粒子線治療システム。
【請求項34】
前記粒子線出力デバイスは粒子加速器を備える、請求項27に記載の粒子線治療システム。
【請求項35】
前記粒子線出力デバイスは、30cm×30cm以下のビーム野を生成するように構成される、請求項27に記載の粒子線治療システム。
【請求項36】
粒子線の出力の方向を定めるための粒子線出力デバイスと、
照射目標を含む患者を支持するための処置台であって、移動できるように構成された、処置台と、
前記粒子線出力デバイスが前記処置台に対して移動できるように設置された可動デバイスであって、前記粒子線出力デバイスの異なる位置が、第1のビーム野と第2のビーム野とを含む前記粒子線のためのビーム野を画定し、各ビーム野が、前記粒子線が前記照射目標に対して移動することができる最大範囲を定める平面を含む、可動デバイスと、
前記可動デバイスの自動制御を行って、前記第1のビーム野において前記粒子線による前記照射目標の処置ができるように前記粒子線出力デバイスを配置し、前記照射目標を前記粒子線によって処置した後、前記可動デバイスの自動制御を行って、前記第2のビーム野において前記粒子線による前記照射目標のさらなる処置ができるように前記粒子線出力デバイスの位置を変更するための制御システムと、
を備え、
前記粒子線出力デバイスは、粒子加速器を備え、
前記第1のビーム野および前記第2のビーム野は、重複しない粒子線治療システム。
【請求項37】
前記可動デバイスに対する前記自動制御は、並進運動を含む、請求項36に記載の粒子線治療システム。
【請求項38】
前記粒子線出力デバイスは、前記粒子線を伝送チャネルを介して供給するためのビームスプレッダーを備える、請求項36に記載の粒子線治療システム。
【請求項39】
前記粒子加速器は、前記粒子線を生成するように構成されている、請求項36に記載の粒子線治療システム。
【請求項40】
前記粒子線出力デバイスは、20cm×20cm以下のビーム野を生成するように前記可動デバイスに設置される、請求項36に記載の粒子線治療システム。
【請求項41】
前記粒子加速器は、重量が5トン~30トンの範囲内であり、かつ4.5立方メートル未満の体積を占有するシンクロサイクロトロンを備える、請求項36に記載の粒子線治療システム。
【請求項42】
前記粒子線治療システムの1つまたは複数の構成要素の位置を検出し、位置に関する情報を前記制御システムに提供するための衝突回避システムをさらに備え、
前記制御システムは、前記情報に基づいて前記1つまたは複数の構成要素の動作を制御するように構成される、請求項36に記載の粒子線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、自動処置を実現する粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子線治療はアイソセントリックに行われており、患者における照射目標の近似中心が、処置空間における、アイソセンターと呼ばれる一意の場所に配置される。放射線源は、放射線源の中心軸がアイソセンターを指し示すように配置される。放射線源はアイソセンターの周りを回転させられ、患者もこれと同じアイソセンターの周りを回転させられる。放射線源および患者をこのように配置することによって、目標は、それぞれ異なるビーム野に対応するある回数の照射を受けることがある。その結果、目標への放射線量が増大される可能性があり、一方、周囲の正常組織への放射線が低減される可能性がある。
【0003】
処置計画システム(TPS)による作業を行う線量測定士が照射を選択する場合がある。TPSでは、患者の生体構造および放射線源に関する情報、ならびにその他の利用可能な情報を使用して選択された照射ごとの予定線量を決定する。照射回数は一般に、放射線照射プロセスに過度の負担をかけずに治療の質を向上させるように選択されている。従来、放射線の最初の照射の前に患者および/または放射線放出体の配置を検証することによって照射ごとに処置が施される。放射線療法士は、最初の照射の前および連続する各照射間に処置室に入り、処置計画の指定に応じて患者および/または放射線放出体の位置を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8791656号明細書
【文献】米国特許第7728311号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0094638号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0371511号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射線療法士によるこの必要な手動介入によって、照射を何度も実施するのが困難になり、かつそのように照射を実施するのに時間がかかる。さらに、照射が重複することがある領域では処置の質が影響を受けることがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例示的な粒子線治療システムは、粒子線の出力の方向を定めるための粒子線出力デバイスと、照射目標を含む患者を支持するための処置台であって、移動できるように構成された、処置台と、粒子線出力デバイスが処置台に対して移動できるように設置された可動デバイスと、可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の自動制御を行って、粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線または照射目標の少なくとも一方を配置し、粒子線による照射目標の処置の後で、可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の自動制御を行って、粒子線による照射目標のさらなる処置ができるように粒子線または照射目標の少なくとも一方の位置を変更するための制御システムと、を備える。例示的な粒子線治療システムは、以下の特徴のうちの1つまたは複数を単独でまたは組み合わせて含んでもよい。
【0007】
例示的な粒子線治療システムは、粒子線を照射目標に対して移動させるための構成要素を備える走査システムを含んでもよい。制御システムは、構成要素のうちの1つまたは複数の自動制御を行って粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線を配置し、粒子線による照射目標の処置の後で、構成要素のうちの1つまたは複数の自動制御を行って、粒子線による照射目標のさらなる処置ができるように粒子線の位置を変更するように構成されてもよい。1つまたは複数の構成要素は、1つまたは複数の走査磁石を備えてもよい。1つまたは複数の構成要素は、エネルギーディグレーダーを備えてもよく、エネルギーディグレーダーは、粒子線の経路に対して進入し退避することが可能な1つまたは複数の構造を備える。
【0008】
制御システムは、可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の自動制御を行って、粒子線の第1のビーム野を使用して照射目標の第1の部分を処置し、粒子線による照射目標の第1の部分の処置の後で、可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の自動制御を行って、粒子線または照射目標の少なくとも一方の位置を変更し、粒子線の第2のビーム野を使用して目標の第2の部分を処置するように構成されてもよい。
【0009】
粒子線出力デバイスは、粒子加速器を備えてもよい。第1のビーム野と第2のビーム野との間の領域において、第1のビーム野用の粒子線と第2のビーム野用の粒子線とは少なくとも部分的に重複してもよい。制御システムは、粒子加速器の自動制御を行って、第1のビーム野用の粒子線と第2のビーム野用の粒子線との重複ポイントにおける累積強度が目標ビーム強度に達するように第1のビーム野用の粒子線と第2のビーム野用の粒子線との強度を制御するように構成されてもよい。
【0010】
粒子線出力デバイスは、粒子加速器を備えてもよい。第1のビーム野と第2のビーム野との間の領域において、第1のビーム野用の粒子線と第2のビーム野用の粒子線とは少なくとも部分的に重複してもよい。制御システムは、粒子加速器の自動制御を行って、第1のビーム野用の粒子線と第2のビーム野用の粒子線との重複ポイントにおける累積強度が目標ビーム強度から規定量を超える量だけ逸脱しないように第1のビーム野用の粒子線と第2のビーム野用の粒子線との強度を制御するように構成されてもよい。
【0011】
制御システムは、処置台を制御して並進運動を実現するように構成されてもよい。制御システムは、処置台を制御して回転運動を実現するように構成されてもよい。
【0012】
例示的な粒子線治療システムは、処置中に照射目標を撮像するための撮像システムを備えてもよい。制御システムは、粒子線または照射目標の少なくとも一方を処置向けに配置した後、粒子線による照射目標の処置の前に、撮像システムを制御して患者の1つまたは複数の第1の画像を撮影するように構成されてもよく、制御システムは、さらなる処置向けに粒子線または照射目標の少なくとも一方の位置を変更した後、さらなる処置の前に、撮像システムを制御して患者の1つまたは複数の第2の画像を撮影するように構成されてもよい。制御システムは、第1の画像を使用して、粒子線治療システムの処置空間内(たとえば、陽子線センター内)の照射目標の第1の場所を特定するように構成されてもよく、制御システムは、第2の画像を使用して、処置空間内の照射目標の第2の場所を特定するように構成されてもよい。
【0013】
制御システムは、処置計画システムから処置計画を受信し、処置計画を解釈して可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の制御を実現するように構成されてもよい。処置計画は、処置中に可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の位置を特定する情報を含んでもよい。
【0014】
制御システムは、粒子線治療システム内に画定されるアイソセンターとは無関係に可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の自動制御を行うように構成されてもよい。可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の自動制御は、人間の介入なしで実現されてもよい。
【0015】
粒子線出力デバイスは、粒子加速器を備えてもよい。制御システムは、粒子加速器の動作の自動制御を行って粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線または照射目標の少なくとも一方を配置し、粒子線による照射目標の処置の後で、粒子加速器の動作の自動制御を行って、粒子線による照射目標のさらなる処置ができるように粒子線または照射目標の少なくとも一方の位置を変更するように構成されてもよい。
【0016】
粒子線出力デバイスは、超伝導電磁石構造を有するシンクロサイクロトロンを備えてもよい。粒子線出力デバイスは、超伝導電磁石構造を有する可変エネルギーシンクロサイクロトロンを備えてもよい。粒子線出力デバイスはビームスプレッダーを備えてもよい。ビームスプレッダーは、1つまたは複数の走査磁石または1つまたは複数の散乱箔を備えてもよい。
【0017】
例示的な粒子線治療システムは、粒子線出力デバイスと患者との間に、構成可能なコリメータを備えてもよい。構成可能なコリメータは、粒子線の第1の部分が患者に到達するのを妨げ、一方、患者に到達する粒子線の第2の部分をコリメートするようにエッジを画定するように制御可能なリーフを備えてもよい。構成可能なコリメータは、粒子線の単一スポットサイズほどの小さい領域をトリミングするように制御可能であってもよい。
【0018】
制御システムは、粒子線出力デバイスの運動に対する自動制御を行って、第1の場所から第2の場所への粒子線出力デバイスの並進運動を実現し、粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線を配置し、粒子線による照射目標の処置の後で、粒子線出力デバイスのさらなる運動に対する自動制御を行って、第2の場所から第3の場所への粒子線出力デバイスの並進運動を実現し、粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線の位置を変更するように構成されてもよい。
【0019】
制御システムは、粒子線出力デバイスの運動に対する自動制御を行って、粒子線出力デバイスを第1の配向から第2の配向に回動させ、粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線を配置し、粒子線による照射目標の処置の後で、粒子線出力デバイスのさらなる運動に対する自動制御を行って、粒子線出力デバイスを第2の配向から第3の配向に回動させ、粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線の位置を変更するように構成されてもよい。
【0020】
例示的な粒子線治療システムは、粒子線を照射目標に対して移動させるための構成要素を備える走査システムを備えてもよく、構成要素の少なくともいくつかは、照射目標に向かう移動および照射目標から離れる移動ができるように設置される。制御システムは、構成要素のうちの少なくともいくつかの自動制御を行って、粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線を配置し、粒子線による照射目標の処置の後で、構成要素のうちの少なくともいくつかの自動制御を行って、粒子線による照射目標のさらなる処置ができるように粒子線の位置を変更するように構成されてもよい。
【0021】
例示的な粒子線治療システムは、構成要素のうちの少なくともいくつかが設置されたキャリッジを備えてもよく、キャリッジは、粒子線の経路に沿って移動することが可能になるように少なくとも1つのトラックに装着される。キャリッジは、少なくとも1つのトラックに沿って移動して、粒子線によって生成されるスポットのサイズを制御するように制御可能であってもよい。キャリッジは、可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の移動と連携して少なくとも1つのトラックに沿って移動するように制御可能であってもよい。
【0022】
可動デバイスは回転可能なガントリーを備えてもよい。可動デバイスは、1つまたは複数のロボットアームを備えてもよい。
【0023】
例示的な粒子線治療システムは、粒子線を照射目標に対して移動させるための構成要素を備える走査システムを備えてもよく、走査構成要素は、粒子線のビームラインに沿って移動可能なキャリッジ上に設置される。制御システムは、キャリッジの自動制御を行って、粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線を配置し、粒子線による照射目標の処置の後で、キャリッジの自動制御を行って、粒子線による照射目標のさらなる処置ができるように粒子線の位置を変更するように構成されてもよい。
【0024】
例示的な方法は、照射目標を含む患者を処置台上で支持するステップであって、処置台が移動できるように構成される、ステップと、粒子線出力デバイスを処置台に対して移動できるように可動デバイス上に設置するステップであって、粒子線出力デバイスが、照射目標を処置するように粒子線の出力の方向を定めるためのものである、ステップと、可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の自動制御を行って、粒子線による照射目標の処置ができるように粒子線または照射目標の少なくとも一方を配置し、粒子線による照射目標の処置の後で、可動デバイスまたは処置台の少なくとも一方の自動制御を行って、粒子線による照射目標のさらなる処置ができるように粒子線または照射目標の少なくとも一方の位置を変更するステップと、を含む。粒子線は、陽子線であってもよい。
【0025】
例示的な粒子線治療システムは、照射目標を含む患者を支持するための処置台であって、移動できるように構成された、処置台と、粒子線の出力の方向を定めるための粒子線出力デバイスであって、処置台に対して移動できるように配置された、粒子線出力デバイスと、粒子線出力デバイスおよび処置台のアイソセントリック回転を超える自由度を使用して粒子線出力デバイスおよび処置台の配置を制御するための制御システムと、を備える。例示的な粒子線治療システムは、以下の特徴のうちの1つまたは複数を単独でまたは組み合わせて含んでもよい。
【0026】
粒子線出力デバイスは、粒子線を照射目標に対して走査するための走査構成要素を備えてもよく、走査構成要素は1つまたは複数の走査磁石を備える。制御システムは、走査構成要素のうちの1つまたは複数の動作を制御することによって粒子線の位置を制御するように構成されてもよい。制御システムは、ユーザ介入なしに粒子線出力デバイスおよび処置台の配置を制御するように構成されてもよい。制御システムは、粒子線出力デバイスおよび処置台の配置を複数のビーム野について自動的に制御するように構成されてもよい。粒子線出力デバイスは、第1の位置と第2の位置との間を直線的に移動するように制御可能であってもよい。粒子線出力デバイスは、処置台に対して回動するように制御可能であってもよい。粒子線出力デバイスは、処置台に対して回転するように制御可能であってもよい。粒子線出力デバイスは粒子加速器を備えてもよい。粒子線出力デバイスは、30cm×30cm以下のビーム野を生成するように構成されてもよい。
【0027】
例示的な粒子線治療システムは、照射目標を含む患者を支持するための処置台であって、移動できるように構成された、処置台と、粒子線の出力の方向を定めるための装置と、装置を処置台に対して移動させるように装置が設置された可動デバイスであって、装置が、30cm×30cm以下のビーム野を生成するように処置台に対して設置される、可動デバイスと、照射目標の第1の部分を粒子線によって処置できるように装置または処置台の少なくとも一方を自動的に配置し、粒子線による照射目標の第1の部分の処置の後で、照射目標の第2の部分を粒子線によって処置できるように装置または処置台の少なくとも一方の位置を自動的に変更するための制御システムと、を備える。例示的な粒子線治療システムは、以下の特徴のうちの1つまたは複数を単独でまたは組み合わせて含んでもよい。
【0028】
自動配置プロセスまたは自動位置変更プロセスの少なくとも一方は、並進運動を含んでもよい。装置は、粒子線を伝送チャネルを介して供給するためのビームスプレッダーを備えてもよい。装置は、粒子線を生成するように構成された粒子加速器を備えてもよい。装置は、20cm×20cm以下のビーム野を生成するように設置されてもよい。装置は、重量が5トン~30トンの範囲内であり、かつ4.5立方メートル未満の体積を占有するシンクロサイクロトロンを備えてもよい。
【0029】
例示的な粒子線治療システムは、粒子線治療システムの1つまたは複数の構成要素の位置を検出し、位置に関する情報を制御システムに提供するための衝突回避システムを備えてもよい。制御システムは、情報に基づいて1つまたは複数の構成要素の動作を制御するように構成されてもよい。制御システムは、粒子線の自動制御を行って、第1のビーム野用の粒子線と第2のビーム野用の粒子線との重複ポイントにおける累積強度が、目標ビーム強度の範囲内のままであるように粒子線の強度を制御するように構成されてもよい。
【0030】
本開示で説明する2つ以上の特徴は、この概要節で説明する特徴を含み、本明細書では具体的には説明しない実装形態を形成するように組み合わされてもよい。
【0031】
本明細書で説明する様々なシステムまたはその一部の制御は、1つまたは複数の非一時的機械可読記憶媒体上に記憶され、1つまたは複数の処理デバイス(たとえば、マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路、フィールドプログラマブルゲートアレイなどのプログラムされた論理など)上で実行可能である命令を含むコンピュータプログラム製品を介して実現されてもよい。本明細書で説明するシステムまたはその一部は、1つまたは複数の処理デバイスと、上述の機能の制御を実現するための実行可能な命令を記憶するためのコンピュータメモリと、を含む場合がある装置、方法、または電子システムとして実現されてもよい。
【0032】
1つまたは複数の実装形態の詳細は、添付の図面および以下の説明に記載されている。他の特徴および利点は、説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】粒子線治療システムにおいて使用されてもよい例示的なシンクロサイクロトロンの構成要素の切断側面図である。
図2】粒子線治療システムにおいて走査を実現するために使用されてもよい例示的な構成要素の側面図である。
図3】粒子線治療システムにおいて走査を実現するために使用されてもよい例示的な構成要素の斜視図である。
図4】走査構成要素の一部であってもよい例示的な走査磁石の側面図である。
図5】走査構成要素の一部であってもよい例示的な走査磁石の斜視図である。
図6】走査構成要素の一部であってもよいエネルギーディグレーダーの一種である例示的なレンジモジュレーターの斜視図である。
図7】レンジモジュレーターにおいて実現されてもよいプレートの運動の例を示す斜視図である。
図8】処置空間の視野からの粒子線治療システムの例示的な実装形態の構成要素の正面図である。
図9】粒子線治療システムの別の例示的な実装形態の構成要素の斜視図である。
図10】ビーム野の概念的斜視図である。
図11】処置空間の視野からの図8の粒子線治療システムの構成要素の斜視図である。
図12】強度変調陽子線治療(IMPT)中にそれぞれ異なる角度から照射目標に入射する粒子線を示す図である。
図13】粒子線治療システムを使用して患者の処置を自動化する例示的なプロセスを示すフローチャートである。
図14】制御システム、粒子線治療システム構成要素、および処置計画システム(TPS)を示すシステム図である。
図15】粒子加速器の2つの異なるビーム野全体にわたる処置を概念的に示すブロック図である。
図16】2つのビーム野の重複領域における2つのビーム野用の粒子線の重複を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
様々な図面における同じ参照記号は同じ要素を示す。
【0035】
本明細書では、連続的なビーム野全体にわたる処置(たとえば、粒子線の供給)を自動化するように構成された粒子線治療システムの例について説明する。さらに、処置は、単一のアイソセンターに対する患者または加速器の移動に限定されない。つまり、いくつかの実装形態では、システムの構成要素は、ビーム位置および患者位置に影響を与える構成要素を含み、アイソセンターを基準とせずに、いくつかのビーム野全体にわたる治療を含む、照射目標内の任意の適切なポイントにおける処置を自動化するようにコンピュータ制御されてもよい。処置プロセスを自動化し、アイソセントリック処置に対する依存を低減させることによって、処置の融通性が増し、粒子線治療システムのさらなる小型化が推進され得る。
【0036】
上述のように処置を自動化するように構成可能な粒子線治療システムの例には、陽子線治療システムまたはイオン治療システムがある。いくつかの実装形態では、実際に処置を施す陽子線治療システムの構成要素は、場合によっては粒子加速器自体を含み、陽子線センターと呼ばれる単一の処置室内に配置される。いくつかの実装形態では、陽子線センターは体積が30フィート(ft)×30ft×30ft(30ft)以下である。いくつかの実装形態では、陽子線センターは体積が37フィート(ft)×32ft×28ft以下である。いくつかの実装形態では、(「スプレッダー」とも呼ばれる)ビームスプレッダーは、患者に陽子線治療を施せるように設置される。限定はしないが、ビームスプレッダーの例には、1つまたは複数の走査磁石(その例を本明細書で説明する)、あるいは1つまたは複数の散乱箔がある。散乱箔は、患者内の目標に適用される分散ビームを生成するように粒子線を散乱させる。走査磁石は、粒子線のより集中したバージョンを少なくとも2次元において患者内の目標を横切らせる。
【0037】
ビームスプレッダーによって生成されるビーム野は、少なくとも部分的に、ビームスプレッダーと患者内のアイソセンターとの間の距離に基づく。この場合、(照射野とも呼ばれる)ビーム野は、スプレッダーからの放射線、この場合は粒子線の照射に対応する。ビーム野は、概念的に、粒子線の照射が照射目標に対してX方向およびY方向において移動できる最大範囲を定める平面によって表されることがある。ビーム野のサイズ(たとえば、面積)は、ビームスプレッダーと患者内のアイソセンターとの間の距離に基づくことがある。ビームスプレッダーが1つまたは複数の走査磁石を含む実装形態では、ビーム野のサイズは、走査磁石を通過する電流の量に基づくこともある。すなわち、走査磁石を通過する電流が多いほど、より大きくビームを偏向させることができ、より大きいビーム野が得られる。
【0038】
陽子線センターのサイズが比較的小さいので、ビーム野のサイズは限定される。すなわち、陽子線センターが比較的小さいので、ビームスプレッダーと処置台上の患者との間の距離は比較的短い。いくつかの実装形態では、ビームスプレッダーから患者内のアイソセンターまでの距離は、2メートル(m)以下、1.7m以下、1.5m以下、1m以下などであってもよい。この比較的短い距離の結果として、ビーム野のサイズも比較的小さい。たとえば、いくつかの実装形態では、ビーム野のサイズは30センチメートル(cm)×30cm以下、20cm×20cm以下などであってもよい。さらに、大きいビーム偏向角度は処置に使用されないことが多く、ビーム野のサイズがさらに限定される。
【0039】
ビーム野の比較的小さいサイズは、照射目標(たとえば、患者内の腫瘍)がビーム野のサイズを超えている場合、処置に影響を与えることがある。この理由で、従来の陽子線治療関係業者は、ビーム野をできるだけ大きくすることを試みている。これに対して、本明細書で説明する例示的な小型システム、具体的には単一の陽子線センターにおいて陽子線治療を施す小型システムでは、ビーム野のサイズをある限界を超えて大きくすることは、いくつかの例では、物理的な制限に起因して困難な場合がある。したがって、本明細書で説明する例示的なシステムは、複数のビーム野を使用して照射目標を自動的に処置するように構成される。場合によっては、粒子線および目標の移動は、粒子加速器またはスプレッダーおよび処置台のアイソセントリック回転を超える自由度であり、様々なビーム野を自動的に、場合によってはユーザ介入なしに処置することが可能になる。
【0040】
例示的な粒子線治療システムは、可動デバイス上に設置された粒子加速器、この例ではシンクロサイクロトロンを含む。いくつかの例では、可動デバイスは、加速器を患者の位置の周りを少なくとも部分的に、場合によっては、全体的に回転させるのを可能にし、シンクロサイクロトロンから粒子線が患者内の任意の目標に入射するのを可能にするガントリーである。ガントリーを含む任意の適切なデバイスが、粒子加速器を保持し、患者に対する回転運動、並進運動、および/または回動において粒子加速器を移動させるために使用されてもよい。たとえば、粒子加速器は、患者に対する運動を可能にするために1つまたは複数のトラックに装着されてもよい。別の例では、粒子加速器は、患者に対する運動を可能にするために1つまたは複数のロボットアームに装着されてもよい。いずれの場合も、本明細書で説明する粒子線治療システムは、ガントリーとの併用、回転ガントリーとの併用、または本明細書で説明する例示的なガントリー構成との併用に限定されない。いくつかの実装形態では、ビームスプレッダーはシンクロサイクロトロンに装着され、シンクロサイクロトロンとともに移動可能である。いくつかの実装形態では、ビームスプレッダーは、シンクロサイクロトロンから独立しており、かつシンクロサイクロトロンが本明細書において可動であると記載されているように可動であるデバイス、たとえばガントリーに装着される。スプレッダーは、患者に対するビームの方向を定めるという点で粒子線出力デバイスの一例である。粒子線出力デバイスの他の例は、本明細書では、限定はしないが、粒子線を生成しその出力の方向を定める粒子加速器自体(またはその構成要素)を含むものと記載される。
【0041】
いくつかの実装形態では、例示的なシンクロサイクロトロンは、高磁場超伝導電磁石構造を有する。概して、超伝導体は、しきい値温度よりも低い温度に冷却されたときにすべてではないにしても大部分の電気抵抗を失う要素または金属合金である。その結果、電流は実質的に阻害されずに超伝導体内を流れる。したがって、超伝導コイルは、超伝導状態において同じサイズの通常のワイヤよりもずっと大きい電流を伝導させることができる。超伝導コイルが伝導させることができる電流の量が多いので、超伝導コイルを使用する磁石は、粒子を加速するための高磁(B)場を生成することができる。さらに、所与の運動エネルギーを有する荷電粒子の曲げ半径が、荷電粒子に印加される磁場の増大に正比例して小さくなるので、高磁場超伝導電磁石構造は、シンクロサイクロトロンを小型化し、たとえば、比較的小さくかつ軽量にするのを可能にする。より具体的には、使用する磁場が高いほど、粒子旋回半径がより小さくなり、それによって比較的小さい体積内で(すなわち、より大きい非超伝導シンクロサイクロトロンに対して)より多くの旋回が可能になる。その結果、旋回回数が増すにつれて増大する所望の粒子エネルギーを、比較的小型で軽量であるシンクロサイクロトロンを使用して実現することができる。いくつかの実装形態では、シンクロサイクロトロンは、患者に対する陽子線センターにおける任意の適切な位置から患者内の任意の目標に到達するのに十分なエネルギーを有する粒子線を生成するように構成される。
【0042】
一例として、いくつかの実装形態では、シンクロサイクロトロンの加速キャビティ内で(たとえば、キャビティの中央において)生成される最大磁場は、4テスラ(T)から20Tの間であってもよい。いくつかの実装形態では、シンクロサイクロトロンの重量は40トン未満である。たとえば、シンクロサイクロトロンは、重量が5トンから30トンの範囲内であってもよい。いくつかの実装形態では、シンクロサイクロトロンは、4.5立方メートル未満の体積を占有する。たとえば、シンクロサイクロトロンは、0.7立方メートルから4.5立方メートルの範囲の体積を占有してもよい。いくつかの実装形態では、シンクロサイクロトロンは、エネルギーレベルが少なくとも150MeVである陽子線またはイオンビームを生成する。たとえば、シンクロサイクロトロンは、出力エネルギーレベルが150MeVから300MeVの範囲内であり、たとえば230MeVである陽子線またはイオンビームを生成してもよい。シンクロサイクロトロンのそれぞれに異なる実装形態は、説明しない値を含む、サイズ、体積、およびエネルギーレベルのそれぞれに異なる値、またはそれらの値の組合せを有してもよい。有利なことに、本明細書で説明するシンクロサイクロトロンは小型であるので、処置を1つの部屋内、すなわち、陽子線センター内で実施することが可能になる。
【0043】
この場合、従来、シンクロサイクロトロンを含む粒子加速器は、本明細書で説明する例示的な小型加速器よりもかなり大型であった。粒子加速器およびビームライン(たとえば、ビーム成形)構成要素を小型にすることによって、いくつかの例では、いくつかの従来のシステムによって可能であった位置よりも患者の近くでシステムを動作させることが可能になる。たとえば、加速器のサイズが小さいので、ガントリー(または他の適切なデバイス)上に設置することができ、それによってシステム全体のコストおよび複雑さが低減する。しかし、いくつかの例では、そのような取付けは、ビームライン(たとえば、ノズル)構成要素に利用可能な空間を制限することがあり、比較的小型のビームラインを構成せざるを得ない。いくつかの例では、このことが、本明細書で説明するエネルギーディグレーダーが、患者に比較的近いノズル内またはノズル上に設置され、本明細書で説明するように、同じくノズル内またはノズル上に設置されたコリメータ(それ自体が小型である)が、ビームエッジを先鋭にするために使用される1つの理由である。
【0044】
いくつかの実装形態では、本明細書で説明するように、ノズルは、内側ガントリー上に設置され、内側ガントリーは、粒子加速器を保持する「外側」ガントリーの掃引内であり、外側ガントリーの移動に同期して移動し、外側ガントリー上で加速器の出力を受け取るようにノズルを配置する。いくつかの実装形態では、ノズルは、患者に対して内側ガントリー上で、たとえば、C字形トラックに沿って移動できるように設置される。いくつかの実装形態では、内側ガントリーがない場合があり、本明細書において内側ガントリーまたはノズルに装着されると記載されるすべての構成要素が外側ガントリーに装着される。
【0045】
いくつかの例では、ノズル上で、患者の最も近くに設置される構成要素(たとえば、コリメータおよびエネルギーディグレーダー)は、潜在的な干渉を生じさせることがあり、したがって、それらの構成要素は比較的小型にされる場合がある。しかし、それらの構成要素のサイズは処置可能なビーム野サイズに比例する。すなわち、これらのより小型の構成要素がまたビーム野サイズを小さくすることがある。場合によっては、粒子線治療システムが複数のビーム野を使用して処置を施すのを可能にすることによって、より小型のビームライン要素が使用されてもよい。その結果、患者のずっと近くに配置されてもよいより小型のノズルが使用されてもよい。
【0046】
図1は、粒子線治療システムにおいて使用されてもよい例示的な超伝導シンクロサイクロトロンの構成要素10の断面を示す。この例では、構成要素10は超伝導磁石11を含む。超伝導磁石は超伝導コイル12および13を含む。超伝導コイルは、たとえば、中央ストランドの周りに巻かれた複数の超伝導ストランド(たとえば、4つのストランドまたは6つのストランド)で形成され、中央ストランド自体は超伝導体であっても、非超伝導体(たとえば、銅)であってもよい。超伝導コイル12および13の各々は、磁場(B)を発生させる電流を伝導させるためのコイルである。得られる磁場は磁気ヨーク14、15によって成形される。一例では、クライオスタット(図示せず)が液体ヘリウム(He)を使用して各コイルを超伝導温度、たとえば、約4ケルビン(K)に維持する。磁気ヨーク14、15(またはより小型の磁極片)がクライオスタットの内部に配置され、粒子が加速されるキャビティ16の形状を画定する。磁気シム(図示せず)が磁気ヨークまたは磁極片を通過してキャビティ内の磁場の形状および/または大きさを変更してもよい。
【0047】
いくつかの実装形態では、粒子加速器は、キャビティ16にイオン化プラズマ柱を供給するための粒子源17(たとえば、ペニングイオンゲージ-PIG源)を含む。水素ガスまたは水素ガスと希ガスとの組合せがイオン化されてプラズマ柱が生成される。電圧源がキャビティ16に可変無線周波数(RF)電圧を供給し、キャビティ内のプラズマ柱からの粒子のパルスを加速する。キャビティ内の磁場は、粒子にキャビティ内の軌道上を移動させるように成形される。いくつかの実装形態では、超伝導コイルによって生成される最大磁場は、本明細書で説明するように4テスラ(T)から20Tの範囲内であってもよい。例示的なシンクロサイクロトロンは、回転角が一様であり、半径が大きくなるにつれて強度が低下する磁場を使用する。いくつかの実装形態では、そのような磁場形状は、磁場の大きさとは無関係に実現することができる。
【0048】
上述のように、一例では、粒子加速器はシンクロサイクロトロンである。したがって、RF電圧は、粒子を加速キャビティ内で加速する際の粒子に対する相対論的効果(たとえば、粒子の質量を増大させる)を考慮した周波数範囲全体にわたって掃引される。超伝導コイルに電流を通すことによって生成される磁場は、キャビティの形状とともに、プラズマ柱から加速された粒子をキャビティ内の軌道上で加速させ、旋回数が増えるにつれてエネルギーが増大する。
【0049】
例示的なシンクロサイクロトロンでは、磁場再生装置(図示せず)は、キャビティ内部の既存の磁場を調整し、それによって、プラズマ柱から加速された粒子の連続する軌道の、ピッチおよび角度などの場所を変更し、それによって、最終的に粒子がクライオスタットを通過する抽出チャネルに出力されるようにキャビティの外部の近く(たとえば、キャビティの内縁部)に配置される。再生装置は、キャビティ内のポイントにおいて磁場を増大させることがあり(たとえば、キャビティの領域において約2テスラ程度の磁場「バンプ」を生成することがある)、それによって、そのポイントにおける粒子の連続する各軌道を外側の抽出チャネルの入口ポイントに向かって進行させ、最終的に粒子を抽出チャネルに到達させる。抽出チャネルは、キャビティ内で加速された粒子をキャビティから受け取り、受け取られた粒子をパルス粒子線においてキャビティから出力する。抽出チャネルは、磁石と、粒子線を粒子加速器から走査システムまたは散乱システムの方へ送るためのその他の構造と、を含んでもよい。
【0050】
上述のように、超伝導コイル(メインコイルと呼ばれる)は比較的高い磁場を生成することができる。例示的な実装形態では、メインコイルによって(たとえば、加速キャビティの中央において)生成される最大磁場は、4T~20T以上の範囲内であってもよい。たとえば、超伝導コイルは、以下の大きさのうちの1つもしくは複数のまたはそれを超える大きさの磁場を生成する際に使用されてもよい。4.0T、4.1T、4.2T、4.3T、4.4T、4.5T、4.6T、4.7T、4.8T、4.9T、5.0T、5.1T、5.2T、5.3T、5.4T、5.5T、5.6T、5.7T、5.8T、5.9T、6.0T、6.1T、6.2T、6.3T、6.4T、6.5T、6.6T、6.7T、6.8T、6.9T、7.0T、7.1T、7.2T、7.3T、7.4T、7.5T、7.6T、7.7T、7.8T、7.9T、8.0T、8.1T、8.2T、8.3T、8.4T、8.5T、8.6T、8.7T、8.8T、8.9T、9.0T、9.1T、9.2T、9.3T、9.4T、9.5T、9.6T、9.7T、9.8T、9.9T、10.0T、10.1T、10.2T、10.3T、10.4T、10.5T、10.6T、10.7T、10.8T、10.9T、11.0T、11.1T、11.2T、11.3T、11.4T、11.5T、11.6T、11.7T、11.8T、11.9T、12.0T、12.1T、12.2T、12.3T、12.4T、12.5T、12.6T、12.7T、12.8T、12.9T、13.0T、13.1T、13.2T、13.3T、13.4T、13.5T、13.6T、13.7T、13.8T、13.9T、14.0T、14.1T、14.2T、14.3T、14.4T、14.5T、14.6T、14.7T、14.8T、14.9T、15.0T、15.1T、15.2T、15.3T、15.4T、15.5T、15.6T、15.7T、15.8T、15.9T、16.0T、16.1T、16.2T、16.3T、16.4T、16.5T、16.6T、16.7T、16.8T、16.9T、17.0T、17.1T、17.2T、17.3T、17.4T、17.5T、17.6T、17.7T、17.8T、17.9T、18.0T、18.1T、18.2T、18.3T、18.4T、18.5T、18.6T、18.7T、18.8T、18.9T、19.0T、19.1T、19.2T、19.3T、19.4T、19.5T、19.6T、19.7T、19.8T、19.9T、20.0T、20.1T、20.2T、20.3T、20.4T、20.5T、20.6T、20.7T、20.8T、20.9T以上。さらに、超伝導コイルは、4Tから20Tの範囲外であるかまたは4Tから20Tの範囲内であるが本明細書では具体的に示されない磁場を生成する際に使用されてもよい。
【0051】
図1に示す実装形態などのいくつかの実装形態では、比較的大型の強磁性磁気ヨーク14、15は、超伝導コイルによって生成される浮遊磁場用の帰路として働く。いくつかのシステムでは、磁気シールド(図示せず)がヨークを囲む。リターンヨークとシールドとはともに、浮遊磁場を低減させる働きをし、それによって、浮遊磁場が粒子加速器の動作に悪影響を与える可能性を低下させる。
【0052】
いくつかの実装形態では、リターンヨークおよびシールドは、アクティブリターンシステムによって置き換えられるかまたは増強されてもよい。例示的なアクティブリターンシステムは、電流をメイン超伝導コイル内の電流とは逆方向に伝導させる1つまたは複数のアクティブリターンコイルを含む。いくつかの例示的な実装形態では、超伝導メインコイルごとのアクティブリターンコイルがあり、たとえば、メイン超伝導コイルごとに1つの2つのアクティブリターンコイルがある。各アクティブリターンコイルはまた、対応するメイン超伝導コイルの外側を同心状に囲む超伝導コイルであってもよい。
【0053】
上述のように、アクティブリターンコイルでは、メインコイルを通過する電流の方向とは逆方向に電流が通過する。したがって、アクティブリターンコイルを通過する電流は、メインコイルによって生成される磁場とは逆の極性を有する磁場を生成する。その結果、アクティブリターンコイルによって生成される磁場は、対応するメインコイルから得られる比較的強力な浮遊磁場の少なくとも一部を低減させることができる。
【0054】
アクティブリターンシステムを使用することによって、比較的大型の強磁性磁気ヨーク14、15をより小型でより軽量である磁極片によって置き換えることができる。したがって、シンクロサイクロトロンのサイズおよび重量を、性能を犠牲にせずにさらに低減させることができる。使用されてもよいアクティブリターンシステムの一例が「Active Return System」という名称の特許文献1に記載されており、この出願の内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0055】
粒子加速器の抽出チャネルの出力部の所または出力部の近くに、走査システムおよび/または散乱システムなどの1つまたは複数のビーム成形要素があってもよい。これらのシステムの構成要素は、処置中に患者の比較的近くに位置するようにノズル上に設置され、または場合によっては取り付けられてもよい。しかし、いくつかの実装形態では、加速器または外側ガントリー自体のより近くに(たとえば、加速器または外側ガントリー上に)ビームスプレッダーが装着されてもよい(たとえば、加速器が設置されない場合に外側ガントリーに設置される)。
【0056】
図2を参照すると、例示的な実装形態では、(図1の構成を有する場合がある)シンクロサイクロトロン21の抽出チャネル20の出力部の所に、照射目標の全体または一部にわたって粒子を走査するために使用されてもよい例示的な走査構成要素22がある。図3はまた、図2の構成要素の例を示す。これらには、限定はしないが、走査磁石24、イオンチャンバ25、エネルギーディグレーダー26、および構成可能なコリメータ28が含まれる。たとえば、ビームスポットサイズを変更するための1つまたは複数の散乱体を含む、抽出チャネルのビーム下流側であってもよい他の構成要素は、図2または図3には示されていない。
【0057】
例示的な動作では、走査磁石24は例示的なビームスプレッダーであり、2つの次元(たとえば、デカルトXY次元)において粒子線を配置し、照射目標の少なくとも一部(たとえば、断面)にわたって粒子線を移動させるようにその2つの次元において制御可能である。イオンチャンバ25は、ビームの線量を検出し、その情報を制御システムにフィードバックしてビームの移動を調整する。エネルギーディグレーダー26は、材料(たとえば、1つまたは複数の個々のプレート)を粒子線の経路に対して進入させ退避させて粒子線のエネルギーを変更し、したがって、粒子線が照射目標に侵入する深さを変更するように制御可能である。このようにして、エネルギーディグレーダーは、粒子線を照射目標の深さ方向層に配置し、たとえば、その層に向けて配置することができる。いくつかの実装形態では、エネルギーディグレーダーは、プレートの代わりにまたはプレートに加えてウェッジまたは他の種類の構造を使用する。たとえば、エネルギーディグレーダー26は、材料(たとえば、1つまたは複数の個々のウェッジ)を粒子線の経路に対して進入させ退避させて粒子線のエネルギーを変更し、したがって、粒子線が照射目標に侵入する深さを変更するように制御可能であってもよい。
【0058】
いくつかの実装形態では、様々なサイズを有するそれぞれ異なるエネルギーディグレーダー、たとえば、様々な面積を有するプレートまたはウェッジがあってもよい。いくつかの実装形態では、本明細書で説明する制御システムは、ビーム野サイズに基づいて様々なサイズのエネルギーディグレーダーをビーム野に対して進入させ退避させる際に交換してもよい。
【0059】
図4および図5は、例示的な走査磁石24の図を示す。この例示的な実装形態では、走査磁石24は、X方向における粒子線の移動を制御する2つのコイル41と、Y方向における粒子線の移動を制御する2つのコイル42と、を含む。いくつかの実装形態では、コイルの一方のセットまたは両方のセットを通過する電流を変化させ、それにより、電流によって生成される磁場を変化させることによって制御が実現される。磁場を適切に変化させることによって、粒子線を照射目標を横切ってX方向および/またはY方向に移動させることができる。走査磁石は、本明細書で説明する自動処置プロセスにおいて粒子線の場所および/または方向を制御するように活用されてもよい。
【0060】
いくつかの実装形態では、走査磁石は、粒子加速器に対して物理的に移動可能ではない。いくつかの実装形態では、走査磁石は(たとえば、ガントリーによる移動に加えて)粒子加速器に対して物理的に移動可能であってもよい。いくつかの実装形態では、走査磁石は、粒子線が、走査中の照射目標の層の少なくとも一部、場合によってはこの層の全体にわたって中断されずに動けるように、粒子線を連続的に移動させるように制御可能であってもよい。いくつかの実装形態では、走査磁石は、間隔を置いてまたは特定の時間に制御可能である。いくつかの実装形態では、粒子線を配置し、走査中にX方向および/またはY方向における粒子線の移動の全体または一部を制御するための2つ以上の異なる走査磁石があってもよい。いくつかの実装形態では、走査磁石24は、空芯、強磁性(たとえば、鉄)芯、または空気と強磁性材料との組合せである芯を有してもよい。
【0061】
再び図2を参照すると、走査磁石24には電流センサー27が接続されるか、または他の方法で関連付けられてもよい。たとえば、電流センサーは、走査磁石と通信してもよいが、接続はされない。いくつかの実装形態では、電流センサーは磁石に印加される電流をサンプリングし、この電流は、X方向におけるビーム走査を制御するためのコイルへの電流および/またはY方向におけるビーム走査を制御するためのコイルへの電流を含んでもよい。電流センサーは、粒子線におけるパルスの発生に対応する時間に、または粒子線においてパルスが発生する割合を超える割合で、磁石内の電流をサンプリングしてもよい。後者の場合、磁石電流を特定するサンプルが、後述のイオンチャンバによるパルスの検出と相関付けられる。たとえば、イオンチャンバを使用してパルスが検出される時間は、電流センサーからのサンプルに時間的に相関付けられてもよく、それによってパルスの時間における磁石コイル内の電流が特定される。したがって、磁石電流を使用した場合、各パルスが供給され、したがってある粒子の照射が行われた照射目標上(たとえば、照射目標の深さ方向層上)の場所を判定することが可能になることがある。深さ方向層の場所は、ビーム経路内のエネルギーディグレーダーの構成(たとえば、プレートの数)に基づいて判定されてもよい。
【0062】
動作時には、照射が行われる場所ごとに、磁石電流の大きさ(たとえば、磁石電流の値)が、線量(たとえば、強度)とともに、記憶されてもよい。加速器上に位置してもよく、または加速器から離れて位置してもよく、メモリと1つまたは複数の処理デバイスとを含んでもよいコンピュータシステムが、磁石電流を照射目標内の座標と相関付けてもよく、それらの座標が線量とともに記憶されてもよい。たとえば、この場所は、深さ方向層番号およびデカルトXY座標または(Z座標に対応する深さ方向層を含む)デカルトXYZ座標によって特定されてもよい。いくつかの実装形態では、磁石電流の大きさと座標位置との両方が各場所における線量とともに記憶されてもよい。前述の情報は、加速器上のメモリまたは加速器から離れたメモリのいずれかに記憶されてもよい。この情報は、本明細書で説明するように、走査時に、隣接する/連続的なビーム野間の重複領域を含む、同じ線量または異なる線量の複数回の照射を同じ場所に加えて目標累積線量を実現するために使用されてもよい。
【0063】
いくつかの実装形態では、イオンチャンバ25が、入射放射線によって生じるガス内に生成されたイオン対の数を検出することによって照射目標上の位置に粒子線によって照射される線量(たとえば、1つまたは複数の個々の線量)を検出する。イオン対の数は、粒子線によって供給される線量に対応する。この情報は、コンピュータシステムにフィードバックされ、この線量が供給された時間とともにメモリに記憶される。この情報は、上述のように、線量が供給された場所および/またはその時間における磁石電流の大きさと相関付けられ、この位置と関連付けられて記憶される。
【0064】
いくつかの実装形態では、走査システムは、開ループに従って動作し、その場合、走査磁石を制御することによって、粒子線が、照射目標を放射線によって実質的に覆うように照射目標全体にわたって自由に中断されずに移動させられる。放射線が供給されると、粒子線治療制御システムによって制御される線量測定によって、場所当たりの放射線の量および放射線が供給された場所に対応する情報が記録される(たとえば、記憶される)。放射線が供給された場所は、座標または1つまたは複数の磁石電流値として記録されてもよく、供給された放射線の量は、グレイ単位の線量として記録されてもよい。システムが開ループに従って動作するので、放射線の供給は、粒子加速器の動作と(たとえば、その無線周波数(RF)サイクルと)同期しない。蓄積された線量が不十分な目標上の場所は、所望の線量に達するまで粒子線によって任意の適切な回数だけ処置することができる。同じ場所のそれぞれ異なる処置は、同じビーム角度から(たとえば、同じ照射/ビーム野から)行われてもよく、または本明細書で説明する強度変調陽子線治療(IMPT)と同様に、それぞれ異なるビーム角度(照射/ビーム野)から行われてもよい。
【0065】
構成可能なコリメータ28は、図2および図3に示すように、走査磁石のビーム下流側にかつエネルギーディグレーダーのビーム下流側に位置してもよい。構成可能なコリメータは、走査中に粒子線が移動する間、スポットごとに粒子線をトリミングしてもよい。たとえば、構成可能なコリメータは、互いに対向し、孔形状を形成するようにキャリッジに対して進入および退避可能であるリーフのセットを含んでもよい。孔形状を超える粒子線の部分は遮断され、患者に到達しない。患者に到達するビームの部分は少なくとも部分的にコリメートされ、それによって比較的厳密なエッジをビームに形成する。一例では、構成可能なコリメータ内のリーフの各セットは、エッジの第1の側の粒子線の第1の部分が複数のリーフによって遮断され、エッジの第2の側の粒子線の第2の部分が複数のリーフによって遮断されないように、粒子線の経路に進入可能なエッジを画定するように制御可能である。各セット内のリーフは、走査中に、単一のスポットほどの小さい領域をトリミングするように個々に制御可能であり、また、より大きいマルチスポット領域をトリミングするために使用することもできる。
【0066】
図6は、エネルギーディグレーダー26の例示的な実装形態であるレンジモジュレーター60を示す。いくつかの実装形態では、レンジモジュレーター60は、構成可能なコリメータと患者との間の走査磁石のビーム下流側に配置されてもよい。図6に示すようないくつかの実装形態では、レンジモジュレーターは一連のプレート61を含む。プレートは、以下の例示的な材料、すなわち、ポリカーボネート、炭素、ベリリウム、またはその他の低原子番号材料のうちの1つまたは複数で作られてもよい。しかし、これらの例示的な材料の代わりにまたはそれらに加えて他の材料が使用されてもよい。
【0067】
プレートのうちの1つまたは複数がビーム経路に対して進入および退避可能であり、それによって粒子線のエネルギー、したがって、照射目標内の粒子線の浸透深さに影響を与える。すなわち、各プレートは、ビームを通過させるが、プレートを通過する結果として、ビームのエネルギーが、プレートの形状(たとえば、厚さ)および組成(たとえば、材料)に基づく量だけ低減する。一例では、粒子線の経路に進入させるプレートが増えるほど、プレートによって吸収されるエネルギーが多くなり、粒子線が有するエネルギーが少なくなる。逆に、粒子線の経路に進入させるプレートが少なくなるほど、プレートによって吸収されるエネルギーが少なくなり、粒子線が有するエネルギーが増える。より高エネルギーの粒子線は一般に、より低エネルギーの粒子線よりも深く照射目標に浸透する。この場合、「より高い」および「より低い」は相対的な用語を示し、特定の数値的な意味合いを有しない。
【0068】
各プレートを粒子線の経路に対して物理的に進入させ退避させる。たとえば、図7に示すように、プレート70は、粒子線73の経路内の位置と粒子線の経路の外部の位置との間を矢印72の方向に沿って移動する。プレートはコンピュータ制御される。概して、粒子線の経路に進入させるプレートの数は、照射目標の走査が行われる深さに相当する。したがって、粒子線はプレートを適切に制御することによって目標の内部に配置することができる。
【0069】
一例として、照射目標は、断面または深さ方向層に分割することができ、各断面または各深さ方向層は照射深さに相当する。レンジモジュレーターの1つまたは複数のプレートは、照射目標へのビーム経路に対して進入させ退避させることができ、照射目標のこれらの断面または深さ方向層の各々を照射するための適切なエネルギーが実現される。レンジモジュレーターは、照射目標(たとえば、断面)の一部の走査中に粒子線に対して静止していてもよく、またはレンジモジュレーターのプレートは走査中に動いてもよい。たとえば、粒子線は、走査プロセス中の1つまたは複数のプレートの(照射野とも呼ばれる)ビーム野に対する進入および退避をたどってもよい。
【0070】
再び図2を参照すると、アセンブリ30は、たとえば、イオンチャンバと、エネルギーディグレーダーと、構成可能なコリメータと、を含み、キャリッジ23に設置され、または場合によっては結合されてもよい。いくつかの実装形態では、キャリッジ23は、照射目標に対して移動できるように1つまたは複数のトラック、この例では2つのトラック29a、29bに装着される。いくつかの例では、キャリッジは、ノズルの一部であってもよく、またはノズルに装着されてもよく、それによって、走査システムのいくつかの構成要素を患者に向かって移動させるかまたは患者から離れるように移動させることが可能になる。いくつかの実装形態では、キャリッジ23は、照射目標に対して移動できるようにそれぞれ異なる機構を使用して設置されてもよくまたはそれぞれ異なる構成において設置されてもよい。移動はビームラインに沿って行われ、たとえば、粒子線の経路に沿って行われてもよい。この移動は、いくつかのビーム野および任意のアイソセンター全体にわたって、かつビーム野およびアイソセンターとは無関係に処置に対応するように、粒子線の配置に対するさらなる制御を可能にし、したがって、さらなる自由度を有効にする。
【0071】
移動はまた、これらの構成要素を処置台上の患者から離れる方向に移動させるのを可能にして、ノズルおよび/または患者を次の照射/処置すべきビーム野のために自動的に移動させるのを可能にする。これにより、ノズルを、次のビーム野のために患者に向かって戻すことができる。
【0072】
コリメータおよびエネルギーディグレーダーを照射目標に向かって移動させるかまたは照射目標から離れるように移動させると、粒子線が空気中を移動する距離、したがって、照射目標内の粒子線のスポットのサイズが影響を受ける。すなわち、空気中を通過すると、ビームスポットサイズが大きくなることがある。したがって、キャリッジを照射目標から離れるように移動させると、粒子線が空気中を伝わる距離が長くなり、したがって、スポットサイズが大きくなる。逆に、キャリッジを照射目標に向かって移動させると、粒子線が空気中を伝わる距離が短くなり、したがって、スポットサイズが小さくなる。いくつかの実装形態では、キャリッジ23は、本明細書で説明するようなガントリーおよび/または処置台の移動と連携して移動して粒子線を処置向けに配置し、患者に近接した位置で処置を実現するように制御可能である。
【0073】
エネルギーディグレーダーおよび構成可能なコリメータを含む、走査システムのいくつかの構成要素は、粒子線治療システムの内側ガントリー80(図8参照)のノズル81上に設置されるかまたはノズル81に結合されてもよく、粒子線治療システムの他の構成要素の動作も制御する1つまたは複数のコンピューティングデバイス(たとえば、図14参照)などの制御システムによって制御されてもよい。図9は、エネルギーディグレーダーおよび構成可能なコリメータを含む(場合によっては、走査磁石を含まない)、走査システムのいくつかの構成要素が設置されてもよいノズル91を含む内側ガントリー90を有する粒子線治療システムの別の実装形態を示す。どちらの例でも、ノズルは、患者および粒子加速器に対して内側ガントリー(80または90)のトラックに沿って移動可能であり、患者に対して伸縮可能であり、それによってノズル上に取り付けられた構成要素も伸縮する。
【0074】
レンジモジュレーターの動作は、自動粒子線治療処置およびその変形態様を実現するように本明細書で説明する他の走査構成要素、粒子加速器、およびガントリーの動作と調和させられかつ他の走査構成要素などの動作によって制御されてもよい。たとえば、レンジモジュレーターは、粒子線を、照射目標に対する深さ方向(たとえば、デカルトZ)次元において配置するために使用されてもよく、ビームスプレッダー、たとえば走査磁石などの他の走査構成要素は、粒子線を、深さ方向次元に直交する照射目標に対する2つの他の次元(たとえば、デカルトX、Y次元)において配置するために使用されてもよい。システムの走査構成要素および他の可動部品を使用した配置は、アイソセントリックであってもアイソセントリックでなくてもよい自動多ビーム野処置粒子線治療に対応する。可変エネルギーシンクロサイクロトロンが使用される場合、ビームエネルギー、したがって深さ方向位置に対する制御は、加速器自体において実施されてもよい。
【0075】
上述のように、粒子線は、レンジモジュレーターから、構成可能なコリメータを通過して患者に到達する。空気中を通過するとビームスポットサイズが大きくなることがある。ビームが空気中を通過する距離が長いほど、このスポットサイズの増大が大きくなることがある。したがって、いくつかの実装形態では、ビームが空気中を通過可能である最大距離を短くすると有利である。上述のように、いくつかの例では、患者に最も近いノズル上に設置された構成要素(たとえば、コリメータおよびエネルギーディグレーダー)は、ビームが空気中を通過する量を低減させることがある。しかし、いくつかの例では、これらの構成要素は、患者に近接するので比較的小型にされることがある。これらの構成要素のサイズは、処置可能なビーム野サイズに比例する。すなわち、これらの構成要素が小さいほどビーム野サイズが相対的に小さくなることがある。
【0076】
上述のように、(照射野とも呼ばれる)ビーム野はビームスプレッダーからの放射線の照射に基づく。ビーム野は、概念的に、粒子線の照射が照射目標に対してX方向およびY方向において移動できる最大範囲を定める平面によって表されることがある。たとえば、図10は、照射目標101の前方のビーム野100を示す。目標は、ビーム野の後方にあることを示すように点線で示されている。矩形の平面が示されているが、ビーム野は任意の適切な形状を有してもよい。物理的なシステム制限に起因して、シンクロサイクロトロンによって生成された粒子線は、ビーム野の境界を跨いで移動することができるが、境界を越えることはできない。上述のように、ノズルのサイズを小さくすると、エアギャップを縮小することが可能であるが、小型化された構成要素が存在することに起因してビーム野も縮小することがある。
【0077】
いくつかの状況では、ビーム野は処置すべき照射目標よりも小さいことがある(このことは図10には当てはまらないが、たとえば、後述の図15および図16を参照されたい)。したがって、いくつかの例では、本明細書で説明するプロセスは、手動による加速器の再構成、手動によるスプレッダーの再構成、および/または手動による患者の位置変更を必要とせずに複数のビーム野を使用して照射目標全体を処置するために粒子線治療システムの構成要素の移動を自動化する。2つ以上のビーム野を使用する境界の近くの処置は、TPSから受け取られた指示に基づいて、境界の近くのビーム野を使用してコンピュータ制御されてもよい。そのような処置は、アイソセンターの場所とは無関係であってもよい。例示的な実装形態について以下により詳しく説明する。
【0078】
図8および図11は、ガントリー上に設置された粒子加速器を含む粒子線治療システム82の一例の一部を示し、この例では、本明細書で説明する構成を有する超伝導シンクロサイクロトロンが使用される。いくつかの実装形態では、ガントリーは鋼であり、患者の両側に位置する2つのそれぞれの軸受上で回転できるように設置された2つの脚部(図示せず)を有する。ガントリーは、ガントリーの脚部の各々に接続され、患者が位置する処置領域にわたるのに十分な長さを有し、両端がガントリーの回転脚部に取り付けられた鋼トラスを含んでもよい。粒子加速器は、鋼トラスによって支持されてもよい。使用されてもよいガントリー構成の例は、「Charged Particle Radiation Therapy」という名称の特許文献2に記載されており、この特許の内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0079】
図9は、特許文献2に記載されたガントリー構成の例を示し、自動処置を実現するように本明細書で説明するように制御可能な粒子線治療システムの代替実装形態の構成要素を含む。図9の例示的な粒子線治療システムは、ノズル91と、処置台92と、患者内の目標に放射線を供給するために患者の周りを少なくとも部分的に回転できるように外側ガントリー94上に取り付けられた粒子加速器93(たとえば、本明細書で説明する種類のシンクロサイクロトロン)と、を有する内側ガントリー90を含む。処置台92は、本明細書で説明するように患者を回転させ並進させるように制御可能でありかつ構成される。
【0080】
図9の例では、粒子加速器はまた、アーム96に沿った矢印95の方向への粒子加速器の直線運動(たとえば、並進運動)も可能にするように外側ガントリー94に装着される。したがって、加速器は、加速器、したがってビームを処置向けに配置するために、処置台、したがって患者に対して、アーム96に沿った第1の場所からアーム96に沿った第2の場所、アーム96に沿った第3の場所などまで移動可能である。この並進運動は、本明細書で説明する制御システムによって制御され、本明細書で説明する自動粒子線治療システムにおいて粒子線を配置するための追加の自由度として使用されてもよい。図9では(矢印95に沿った)単一次元並進運動が示されているが、粒子線治療システムは、2次元並進運動および/または(たとえば、デカルト座標系のX方向、Y方向、およびZ方向に沿った)3次元並進運動向けに構成されてもよい。
【0081】
図9にも示すように、粒子加速器93は、ガントリーに対する回動のためのジンバル99に接続されてもよい。この回動は、加速器、したがってビームを処置向けに配置するために使用されてもよい。この回動は、本明細書で説明する制御システムによって制御されてもよく、本明細書で説明する自動粒子線治療システムにおいて粒子線を配置するための1つまたは複数の追加の自由度として使用されてもよい。いくつかの実装形態では、回動は、加速器が自動処置中に第1の配向から第2の配向、第3の配向などに移動するのを可能にしてもよい。粒子加速器は、1次元、2次元、および3次元における患者に対する回動を可能にするように設置されてもよい。
【0082】
本明細書で説明するように、いくつかの実装形態では、粒子加速器全体を外側ガントリー(または他のデバイス)に設置するのではなく、スプレッダーのみが、加速器の代わりにまたは加速器に加えて設置されてもよく、かつスプレッダーのみを照射目標に対して移動させてもよく、またはスプレッダーを加速器と組み合わせて照射目標に対して移動させてもよい。スプレッダーが単独で設置される場合、スプレッダーを、本明細書で説明する加速器と同様に移動させてもよく、たとえば、直線的(並進)、回転的、および/または回動的移動を行ってもよい。ビーム配置に対する制御は、本明細書で説明するように設置されたスプレッダーの移動を制御することによって本明細書で説明するように実現されてもよい。
【0083】
図8および図11に示す例示的な粒子線治療システム実装形態はまた、粒子加速器が患者に対して1次元、2次元、および/または3次元において並進運動できるように粒子加速器を設置してもよい。図8および図11に示す例示的な粒子線治療システム実装形態はまた、粒子加速器が患者に対して1次元、2次元、および/または3次元において回動できるように粒子加速器を設置してもよい。
【0084】
図8および図11の例では、患者は処置台84上に配置される。この例では、処置台84は、患者を支持するプラットフォームを含む。プラットフォームは、患者を所定の位置に保持し、処置台を移動させる間および処置中に患者を実質的に動かないように維持するための1つまたは複数の拘束装置(図示せず)を含んでもよい。プラットフォームは、詰め物をされてもされなくてもよく、かつ/または患者の一部の形状に対応する形状(たとえば、くぼみ)を有しても有しなくてもよい。たとえば、患者は、処置の前に、患者の後ろ半分の輪郭に整合する型の中に配置されてもよく、得られた成形構造が処置台のプラットフォームに組み込まれてもよい。このような型は、限定はしないが処置中を含む、処置台を移動させる間、患者の動きを少なくする場合がある。
【0085】
処置台は、処置台を自動的に処置空間(たとえば、粒子線処置が実施される陽子線センター)内のある位置から処置空間内の別の位置まで移動させるための移動機構を含んでもよい。それぞれ異なる位置は、それぞれ異なる回転位置、それぞれ異なる物理的な場所(ある物理的な場所から別の物理的な場所への並進運動)、または回転位置と並進位置との組合せであってもよい。たとえば、移動機構は、処置台を6自由度において移動させるように制御可能であるロボットアーム85を含んでもよい。
【0086】
処置台の移動は自動化され、患者が処置台上に所定の位置にいる間に行われる。たとえば、患者が載った処置台をそれぞれ異なる処置位置間を移動させてもよい。いくつかの実装形態では、患者は、処置位置間を移動する間、処置台から離れることはない。たとえば、患者は、処置の前に処置台上に位置してもよく、患者の第1の部分を処置できるように処置台を第1の位置に移動させてもよく、患者が第1の位置において処置されてもよく、患者が処置台上に位置する間、患者の第2の異なる部分を処置できるように処置台を第2の異なる位置に移動させてもよく、患者が第2の位置において処置されてもよく、患者が処置台上に位置する間、患者の第3のさらに異なる部分を処置できるように処置台を第3のさらに異なる位置に移動させてもよく、以後、処置が終了するまで同様の手順が実行される。患者が処置台上に位置する間、任意の適切な回数の処置台移動および処置が、場合によっては人間の介入なしに実現されてもよい。処置すべき患者のそれぞれ異なる「部分」は、たとえば、それぞれ異なる腫瘍、1つの腫瘍のそれぞれ異なる領域、または1つの腫瘍の同じ領域であってもよく、強度変調陽子線治療(「IMPT」)中と同様にそれぞれ異なる角度から処置されてもよい。
【0087】
この場合、IMPTの間、粒子線がそれぞれ異なる方向から照射目標に照射され、それによって、線量全体のうちのある割合が各方向から供給される。その結果、照射目標の外側の体積に供給される線量を減らすことができる。たとえば、図12は、3つの異なる角度から照射目標121に照射される粒子線120を示す。この例では、線量は累積され、したがって、総線量の3分の1がある角度から照射されてもよく、総線量の3分の1が別の角度から照射されてもよく、総線量の3分の1がさらに別の角度から照射されてもよい。すなわち、粒子線は、3分の1の線量を照射するために水平128に対して角度を有する平面内のビーム野の部分全体にわたって角度123で走査されてもよく、粒子線は、3分の1の線量を照射するために水平128に対して角度を有する別の平面内のビーム野の部分全体にわたって角度124で走査されてもよく、粒子線は、3分の1の線量を照射するために水平128に対して角度を有するさらに別の平面内のビーム野の部分全体にわたって角度125で走査されてもよい。その結果、周囲の組織127に照射される放射線の量が適切な角度で拡散され、それによって、周囲の組織が危険な量の放射線にさらされる可能性が低下する。3つの角度および線量のみが示されているが、任意の適切な数の角度および角度当たりの適切な線量が使用されてもよい。
【0088】
図8図9、および図11を参照すると、内側ガントリーは、ビームの出力を患者の方に向けるように処置台に対して移動するように構成されてもよい。これらの例では、内側ガントリーはC字形であり、その運動は、シンクロサイクロトロンが設置された「外側」ガントリーの運動と一致する。前述のように、内側ガントリーはノズルを含み、ビームを成形し場合によっては調整するために1つまたは複数のビームライン構成要素(たとえば、レンジモジュレーターおよび構成可能なコリメータ)が設置されるノズルを含む。いくつかの実装形態では、内側ガントリーはサブミリビーム配置に対応する。いくつかの実装形態では、内側ガントリーがなく、本明細書において内側ガントリー上に設置されると記載されたすべての構成要素が、加速器または外側ガントリーに装着されてもよい。
【0089】
いくつかの実装形態では、処置台の運動の一部またはすべてが、患者が処置台上の所定の位置に位置する間に行われる。前述のように、患者が載った処置台を、処置位置間で自動的に移動させてもよい。いくつかの実装形態では、粒子線治療システムは、患者内の適切な場所に処置の方向を定めるために処置間に患者を撮像する。いくつかの実装形態では、これらの画像は、患者が処置台上に位置する間に撮影される。たとえば、図13のプロセスを参照すると、患者は処置の前に処置台上に位置してもよく(130)、照射目標または第1のビーム野を含む患者内の照射目標の一部を処置するための第1の位置に処置台を移動させてもよく(131)、患者が処置台上に位置する間に第1の位置における患者の画像を撮影してもよく(132)、患者が、画像に基づいて第1の位置において処置されてもよい(130)。さらなる処置が実施される場合(134)、患者が処置台上に位置する間に照射目標または第2のビーム野を含む照射目標の一部を処置するための第2の異なる位置に処置台を移動させてもよく、患者が処置台上に位置する間に第2の位置における患者の画像が撮影されてもよく、患者が撮影された画像に基づいて第2の位置において処置されてもよく、患者が処置台上に位置する間に照射目標または第3のビーム野を含む照射目標の一部を処置するための第3のさらに異なる位置に処置台を移動させてもよく、患者が処置台上に位置する間に第3の位置における患者の画像が撮影されてもよく、患者が撮影された画像に基づいて第3の位置において処置されてもよく、処置が終了するまで同様の手順が実施される。いくつかの実装形態では、上記に提示した順序付けとは異なる順序付けが使用されてもよく、または説明した患者位置追跡技法とは異なる患者位置追跡技法が使用されてもよい。いくつかの実装形態では、各処置の後の撮像は必要とされない。
【0090】
いくつかの実装形態では、粒子線治療システムは、腫瘍などの照射目標の場所を判定するように構成される。照射目標(たとえば、腫瘍)の初期位置およびマッピングは、処置前撮像動作において取得されてもよく、処置前撮像動作は、陽子線センターの内部で行われてもまたは外部で行われてもよい。いくつかの実装形態では、図13に関して説明するように、患者は、初期撮像から、処置中の位置変更を含め、処置全体にわたって処置台上に位置していてもよい。さらに、いくつかの実装形態では、初期撮像から最終的な処置までプロセス全体が自動化され、人間の介入の必要性がなくなるか、または少なくとも低減する。
【0091】
いくつかの実装形態では、処置前撮像動作は、3次元(3D)撮像システムなどの撮像システムを使用して実行されてもよい。いくつかの実装形態では、3D撮像システムは、コンピュータ断層撮影(CT)システムであるが、他の実装形態では、CTシステムの代わりにまたはCTシステムに加えて、様々な種類の撮像システムが使用されてもよい。動作時には、たとえば、呼吸などの患者の運動に起因する指標の運動をたどるのを可能にするためにそれぞれ異なる時点で画像が撮影されてもよい。この場合、指標は、所定の構造を含み、所定の構造は、患者の内部または外部に位置し、撮像システムによって撮影された画像において特定することができ、患者内の照射目標の場所を判定するために使用できる。
【0092】
CTの例では、画像は、器官、腫瘍、および骨などの内部の解剖学的構造を含んでもよく、それらの構造のいずれかが照射目標(または後述の指標)であってもよい。撮像システムは、患者、または患者の選択された部分、一般には陽子線治療を適用すべき患者の部位の1つまたは複数の画像を撮影する。いくつかの実装形態では、処置台上には1つまたは複数の指標が配置されてもよい。指標の例には、限定はしないが、CT画像などの画像上に出現する金属またはその他の材料が含まれてもよい。指標は、患者の周りの領域に、たとえば、陽子線治療を適用すべき患者の部位の周りの領域に配置されてもよい。いくつかの実装形態では、三角法プロセスを使用してCT画像と処置空間との両方における照射目標の位置を特定するのを可能にするために患者に対して少なくとも3つの指標が配置される。いくつかの実装形態では、CT画像は、歯、骨などの患者の人体構造の構造要素を特定し、それらの構造要素を指標として指定するために使用されてもよい。いくつかの実装形態では、指標は、上記のもの、たとえば、解剖学的構造および/または処置台、患者、フレームなどに固定された構造要素のうちの任意の2つ以上の組合せであってもよい。
【0093】
CTの例では、画像は3Dであり、それによって、画像は単独で、または組み合わされて、指標の場所および3Dにおける照射目標(たとえば、腫瘍)の場所に関する情報を提供する。この情報は、指標および照射目標の相対位置と、個々の指標間の角度および距離、ならびに個々の指標と照射目標との間の角度および距離と、を示す。いくつかの実装形態では、位置情報は、3D画像内の指標および照射目標を特定し、指標の場所を判定し、指標の場所に基づいて(場合によっては、指標のサイズおよび/または形状に基づいて)照射目標のサイズ、形状、および場所を判定することによって取得される。この情報は、コンピュータメモリに記憶され、処置時に、処置空間(「現実世界」)内の目標の場所を特定するために使用されてもよい。
【0094】
CTシステムを使用した初期撮像の後、患者を処置位置に移動させてもよい。処置台は、患者が処置台上に位置する間に自動的に移動してもよく、または患者が新しい処置台に移動してもよい。(この例では)CTシステムによって撮影された3D画像に部分的に基づいて、処置を施すべき場所が判定される。
【0095】
図8を参照すると、X線システムなどの1つまたは複数の処置部位(陽子線センター)撮像システム86は、処置空間内の処置位置において1つまたは複数の画像を撮影するように制御される。この処置部位撮像システムは、指標の場所、したがって、処置空間内の照射目標の位置を検出するために、単独で使用されてもよく、またはコンピューティングシステムと組み合わされて使用されてもよい。指標の場所は、処置空間を画定する座標系内の1つまたは複数の基準点に対して検出される。言い換えれば、処置空間(たとえば、陽子線センター)は、3D座標系内に画定されてもよく、指標の場所は、その3D座標系内の座標によって特定されてもよい。
【0096】
たとえば、処置部位撮像システムからの画像(たとえば、X線画像)を解析して、処置空間を画定する3D XYZデカルト座標系における指標の場所を判定してもよい。撮像システムによって得られる指標の1つまたは複数の画像を解析して、処置空間の3D座標系において指標がどこに位置するかを特定してもよい。その座標系における指標の得られた座標は、たとえば、コンピュータシステム(図示せず)上のコンピュータメモリに記憶されてもよい。
【0097】
処置空間の3D座標系における指標の場所は、3D CT画像内の指標の場所に揃えられる。このことは、処置空間の仮想シミュレーション(たとえば、レンダリング)を使用してコンピュータシステムによって自動的に行われてもよい。たとえば、指標の実際の場所がシミュレーションにおいて特定されてもよく、3D CT画像から得られた指標が、CT画像から得られた他の構造とともに、シミュレーションにおける対応するポイントに配置されてもよい。CT画像から得られる指標およびその他の構造を処置空間の3D座標系に配置することによって、その同じ空間内の照射目標の場所を特定することが可能になる。
【0098】
より詳細には、処置空間(たとえば、処置空間の3D座標系)における指標の場所は既知であり、3D CT画像から得られ、照射目標を含む、指標および構造が、シミュレーションにおける3D座標系にマッピングされる。マッピングの一部として、CT画像から得られた指標が、処置空間の3D座標系における指標の場所に揃えられる。さらに、指標に対する照射目標の場所が3D CT画像から判明する。たとえば、各指標に対する照射目標の距離および角度が判明する。この情報が与えられた場合、処置空間の3D座標系における照射目標の場所および配向を判定することができる。この情報は、粒子線を照射目標に向けるために使用される。
【0099】
処置空間の3D座標系における指標の位置を(たとえば、X線によって)特定し、それらの指標を元のCT画像において得られる指標と相関付ける前述のプロセスは、自動化され、患者を支持する処置台を処置空間内で移動させるたびに繰り返されてもよい。いくつかの実装形態では、プロセスがコンピュータ制御されており、患者が動いていないことを確認するために患者の位置が監視されるので、ある位置について画像が撮影された後、患者を移動させる新しい位置ごとに新しい画像を撮影する必要がなくなることがある。たとえば、新しい場所における患者の位置を判定するために、処置台の移動精度および患者が動かないことに依拠する場合がある。
【0100】
この場合、患者のそれぞれ異なる部位を処置するかまたはIMPTのように患者をそれぞれ異なる角度から処置するために、処置台を処置位置間で自動的に移動させてもよい。いくつかの実装形態では、新しい位置ごとに、たとえばX線システムによって新しい画像が撮影され、元のCT画像に対して解析される。得られる位置情報は、現実世界空間、たとえば、処置空間(たとえば、陽子線センター)の3D座標系における処置すべき場所を特定する。目標の場所を知ることによって、陽子線治療システムの様々な構成要素を制御して粒子線および/または患者を配置し、適切な目標領域に適切な処置を施すことができる。いくつかの例示的な実装形態では、様々な構成要素を制御して目標の任意の部分に対して処置を施すことができ、様々な構成要素は、規定のアイソセンターに対する処置に制限されない。
【0101】
いくつかの実装形態では、指標の有無にかかわらずに照射目標の場所を特定し、位置変更またはその他のイベントに続く目標の運動をたどるために、処置部位撮像システムのみが使用されてもよい。
【0102】
図8を参照すると、衝突回避システム88を制御して粒子線治療システムの様々な構成要素、処置空間内の患者およびその他の構造の場所を特定し、その情報を制御システムにフィードバックしてもよい。より詳細には、前述のように、いくつかの実装形態では、システムは、ビームスプレッダー、粒子加速器およびその構成要素、ならびに処置台が粒子線の照射間にそれぞれ異なる位置に自動的に移動するように制御されるという点で自動化される。この自動移動は、人間が粒子線の照射間にシステム(たとえば、ノズル、加速器、および/または処置台の位置)を再構成する必要がなくなるという点で有利である。しかし、自動化では一般に、システムの様々な可動部分間の調和を図ることが必要になり、このことは、本明細書で説明する制御システムによって実現されてもよい。安全上の理由で、衝突回避システム88は、処置台、粒子加速器、エネルギーディグレーダーおよびコリメータを収容するキャリッジなどのシステム構成要素の動きをたどり、その動きに関する情報を制御システムに中継する。制御システムは、その情報に基づいて、2つの構成要素同士が衝突するかまたは構成要素と患者もしくは処置空間内の他の構造/物体とが衝突する可能性があることを検出した場合、介入して構成要素のうちの1つもしくは複数の軌道を変更するかまたは構成要素のうちの1つもしくは複数の動きを停止する。
【0103】
いくつかの実装形態では、衝突回避システム88は、1つまたは複数のセンサー、3D撮像システム、レーザ配置、ソナー、超音波、またはそれらの任意の適切な組合せを使用して実現されてもよい。いくつかの実装形態では、本明細書で説明するデバイス検出システムの代わりに、またはそれらに加えて、他の種類のデバイス検出システムが使用されて、衝突回避を実現してもよい。
【0104】
前述のことに加えて、いくつかの実装形態では内側ガントリー上に配置されるノズルが、衝突を回避するために患者または処置空間内の他の物体から退避されてもよい。いくつかの例では、ノズル動作のこの態様は、衝突回避システムからのフィードバック情報に基づいて制御システムによって制御されてもよい。
【0105】
図14を参照すると、粒子線治療システム構成要素141の制御は、限定はしないが、スプレッダー、たとえば1つまたは複数の走査磁石または散乱箔、外側および内側ガントリー、処置台、ノズル、ビーム成形要素、たとえば、エネルギーディグレーダーおよびコリメータ、ビーム成形要素が設置されたキャリッジ、(限定はしないが、ビームターゲッティング用のシステムを含む)撮像システム、衝突回避システム、およびシンクロサイクロトロン(並進配置と配向配置の両方)の動作および配置および位置変更を含んでもよい。そのような制御は制御システム140によって実現されてもよい。制御システム140は、本明細書で説明するような1つまたは複数のコンピュータシステムおよび/またはその他の制御電子機器を含んでもよい。たとえば、粒子線治療システムおよびその様々な構成要素の制御は、ハードウェアまたはハードウェアとソフトウェアとの組合せを使用して実現されてもよい。たとえば、本明細書で説明するようなシステムは、様々なポイントに配置された様々なコントローラおよび/または処理デバイスを含んでもよく、たとえば、コントローラまたは他の種類の処理デバイスが制御可能な各デバイスまたはシステムに埋め込まれてもよい。中央コンピュータは、様々なコンピュータまたは他の種類の処理デバイス間で動作を調和させてもよい。中央コンピュータ、コントローラ、および/または処理デバイスは、様々なソフトウェアルーチンを実行して試験、較正、および粒子線治療処置を制御し、試験、較正、および粒子線治療処置の調和を図ってもよい。
【0106】
前述のように処置を自動化するために、粒子線治療システムと通信する例示的なTPS142が、患者の位置および粒子線(たとえば、陽子線)出力デバイスの位置のセットによって処置セッションを定義する。一例では、位置の各セットは、少なくとも、処置台の位置と出力デバイスの位置との一意の組合せを含んでもよく、出力デバイスの位置は、出力ガントリーの位置(たとえば、[処置台位置、ビーム位置])に少なくとも部分的に基づいて定義される。このセットにおける要素ごとに、少なくとも照射目標の一部に放射線のパターンが照射される。患者の動きは回転に限定されないが、少なくとも1つの並進を含み、システムが直線状の目標の処置を向上させることが可能になる。TPSは、本明細書で説明する種類の1つもしくは複数のコンピュータシステムおよび/または他の制御電子機器上に実装されてもよく、任意の適切な有線媒体または無線媒体を使用して制御システム140と通信するように構成されてもよい。いくつかの実装形態では、これによって、小さいビーム野を有する粒子線治療システムが大きい照射目標を効果的かつ効率的に処置するのが可能になる。
【0107】
上述のように、粒子線治療システムは、比較的小さいビーム野サイズを有してもよく、このサイズは、粒子線/陽子線出力デバイス(たとえば、スプレッダー、加速器、またはビーム供給が可能な他の何らかのデバイス)と患者との間の距離によって少なくとも部分的に決定される。いくつかの実装形態では、粒子線治療システムは、スプレッダー-患者アイソセンター間距離が1mから2m(たとえば、1.5mまたは2m未満)の範囲内であり、ビーム野面積が約20cm×20cm以下である。いくつかの実装形態では、粒子線治療システムは、ソース-軸間距離が1mから2m(たとえば、1.5mまたは2m未満)の範囲内であり、ビーム野面積が約30cm×30cm以下である。スプレッダー-患者アイソセンター間距離およびビーム野面積の他の値が実現されてもよい。
【0108】
本明細書で説明する例示的な実装形態では、スポットサイズは、ビームダイバージェンスに対するビームラインの寄与を決定するエネルギーディグレーダーと患者との間の距離によって決定される。これは、短くした方が有利となり得る距離であり、ノズルに装着された構成要素を小型化すると有利となり得る理由である。いくつかの実装形態では、規定のアイソセンターの下流側処置を実施することが可能である。
【0109】
図15は、照射目標159に対するビーム野150の例を示し、照射目標159は患者の腫瘍であってもよい。したがって、この例では、シンクロサイクロトロン151は、照射目標全体を処置するのに十分な大きさのビーム野を有しない。通常、粒子線155は、第1の処置についてはこの第1のビーム野150全体にわたって走査され、次いで放射線療法師が処置室に入り、ノズルもしくは他の出力デバイスおよび/または患者の位置を変更し、次のアイソセンターにおいて第2のビーム野152全体にわたって粒子線155を走査する。このプロセスは、上述のように目標全体を処置するために繰り返される。
【0110】
しかし、本明細書で説明する粒子線治療システムは、少なくともいくつかの場合には(すなわち、システムは、必要に応じて放射線療法士の介入を禁止しない)、放射線療法士が処置間に患者またはノズルの位置を変更することを必要としない。たとえば、粒子線治療システムを制御するコンピュータシステム(たとえば、制御電子機器)は、照射目標用の処置計画を受け取る。処置計画は、それぞれ異なるビーム野(たとえば、150、152)を使用する処置を自動化する。いくつかの例では、処置計画はまた、患者用のアイソセンターの場所またはビーム配置によって左右されない。ただし、他の例ではアイソセンターが使用されてもよい。
【0111】
いくつかの実装形態では、粒子線治療システムの動作は、陽子線センターの外部に配置されたボタンによって制御されてもよい。たとえば、このボタンを1回押すと、処置を開始することができ、いくつかの例では、処置は、中断せず、かつ人間の介入を必要とせずに、複数のビーム野全体にわたり、かつ複数のビーム野を使用して、処置領域全体が処置されるまで継続してもよい。いくつかの例示的な実装形態では、照射目標の処置全体が約5分未満で行われることがあり、このことは、本明細書で説明する自動化された(たとえば、人間の介入のない)ビーム野順序付けによって可能になる。いくつかの実装形態では、処置プロセスに人間の介入が含まれてもよい。たとえば、粒子線治療システムの様々な構成要素が、前の処置の後に自動的に配置されるたびに、人間が、陽子線センターの内部または外部に配置されたボタン(または複数のボタン)を押して放射線の照射、したがって新しい処置を開始してもよい。
【0112】
動作時には、コンピュータシステムがTPSからの指示を解釈しかつ/または実行して粒子線治療システムの1つまたは複数の構成要素を制御し、患者(したがって目標)および粒子線を処置向けに適切な場所に配置する。自動処置を実現するために患者および粒子線を配置するように自動的に制御されることがある粒子線治療システムの構成要素の例には、スプレッダーおよび/または(並進運動もしくは回動を含む)シンクロサイクロトロン、(シンクロサイクロトロンおよび/またはスプレッダーを単独でまたは組み合わせて回転させるための)外側ガントリー、(ビーム成形要素を含むノズルを配置するための)内側ガントリー、ノズル、走査磁石または散乱箔(たとえば、ビームスプレッダー)、レンジモジュレーター、構成可能なコリメータ、ノズルの構成要素が結合されたキャリッジ、処置台、処置部位撮像システム、ならびに衝突回避システムが含まれ得るが、必ずしもこれらのうちの1つまたは複数に限定されない。
【0113】
さらに、シンクロサイクロトロンの構成要素は、処置中に粒子線の強度を制御し、たとえば変更することによって処置に対応してもよい。強度の変更は、粒子線のパルス当たりの粒子の数を制御することによって実現されてもよい。たとえば、粒子線の所望の強度を選択するように、RF電圧掃引が変更されるかまたはイオン源の動作が制御されてもよい。出力粒子線の強度を制御するために本明細書で説明するシンクロサイクロトロンによって使用されることがあるプロセスの例は、「Controlling Intensity of a Particle Beam」という名称の特許文献3に記載されており、この出願の内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0114】
粒子線治療システムの動作を指示するコンピュータシステム140は、適切なコマンドおよび制御プロトコルを使用して、一例では、スプレッダーおよび/または(並進運動もしくは回動を含む)シンクロサイクロトロン、(シンクロサイクロトロンおよび/またはスプレッダーを単独でまたは組み合わせて回転させるための)外側ガントリー、ノズル、走査磁石または散乱箔(たとえば、ビームスプレッダー)、レンジモジュレーター、構成可能なコリメータ、ならびにノズルの構成要素が結合されたキャリッジのうちの1つまたは複数の配置を含む動作を制御し、粒子線を処置空間(たとえば、陽子線センター)内の適切な場所に配置して、ある放射線線量を目標に照射する。粒子線治療システムの動作を指示するコンピュータシステムは、適切なコマンドおよび制御プロトコルを使用して、一例では、処置台の動作を制御して患者、したがって照射目標を処置空間内の適切な場所に配置し、粒子線を介して、ある放射線線量を照射する。粒子線治療システムの動作を指示するコンピュータシステムは、適切なコマンドおよび制御プロトコルを使用して、一例では、シンクロサイクロトロンの動作を制御して、処置計画において規定された場所に必要な放射線線量を照射するのに適切な特性(たとえば、強度、エネルギーなど)を有する粒子線を生成する。TPSにおける指示は、放射線をいつどこで照射すべきかを示し、適切な放射線を供給するのに必要な様々なシステム構成要素の位置を定める。コンピュータシステムはまた、適切なコマンドおよび制御プロトコルを使用して、一例では、部位撮像システムおよび衝突回避システムの動作を指示して自動処置を実現する。
【0115】
スプレッダーおよび/または(並進運動もしくは回動を含む)シンクロサイクロトロン、(シンクロサイクロトロンおよび/またはスプレッダーを単独でまたは組み合わせて回転させるための)外側ガントリー、ノズル、走査磁石または散乱箔(たとえば、ビームスプレッダー)、レンジモジュレーター、構成可能なコリメータ、ノズルの構成要素が結合されたキャリッジ、ならびに処置台の運動を含む、動作に対する制御は、粒子加速器もしくは処置台の単純なアイソセントリック回転を超えるか、またはスプレッダーおよび処置台の単純なアイソセントリック回転を超える複数自由度によって患者およびビームを配置するのを可能にする。たとえば、いくつかの実装形態では、ガントリーの回転は1自由度を実現し、走査磁石の運動または走査磁石によって実現される運動は2自由度を実現し、レンジモジュレーターの運動またはレンジモジュレーターによって実現される運動は1自由度を実現し、処置台の運動は6自由度を実現し、したがって10自由度が得られる。いくつかの実装形態では、本明細書で説明するように、スプレッダーおよび/または粒子加速器(したがって、粒子線)は、さらなる運動自由度が得られるように1次元、2次元、および/または3次元において並進可能(たとえば、直線運動で移動可能)であってもよい。本明細書で説明するように、いくつかの実装形態では、スプレッダーおよび/もしくは粒子加速器(したがって、粒子線)は、回動可能であるか、またはジンバル(たとえば、単一の軸の周りでの物体の回転を可能にする回動支持体)に取り付けられてもよく、それによって1つまたは複数のさらなる運動自由度が得られる。キャリッジの運動に対する制御は、さらなる自由度をもたらすことがある。
【0116】
上述のように、コンピュータシステムは、スプレッダーおよび/または(並進運動もしくは回動を含む)シンクロサイクロトロン、(シンクロサイクロトロンおよび/またはスプレッダーを単独でまたは組み合わせて回転させるための)外側ガントリー、ノズル、走査磁石または散乱箔(たとえば、ビームスプレッダー)、レンジモジュレーター、構成可能なコリメータ、ノズルの構成要素が結合されたキャリッジ、ならびに処置台のうちの1つまたは複数の運動を含む動作を制御して、粒子線および/または患者を処置向けに配置し、かつさらなる連続的な処置向けに粒子線および/または患者の位置を自動的に変更する。患者を移動させたときには、コンピュータシステムが、部位撮像システムが患者(したがって、照射目標)を新しい位置で自動的に撮像し、新しい位置における照射目標の場所を判定するように指示し制御してもよい。移動は、回動、回転、および/または並進を含んでもよい。たとえば、患者の配向の変化はIMPT処置に関連する場合がある。新しい位置における照射目標の場所の判定は、上述のように実施されてもよく、または他の適切な方法を使用して実施されてもよい。その後、処置を進めてもよい。移動の間、衝突回避システムが上述のように動作して、システムの構成要素同士が衝突する可能性を低下させる。衝突回避システムは、システムの一部であるまたはシステムの一部ではない処置空間内で物体同士が衝突する可能性を低下させる働きをする。
【0117】
いくつかの実装形態では、患者を監視することによって、患者が処置位置間で動いていないと判定された場合、各移動後の照射目標の位置を特定するために再撮像またはその他のプロセスを実行する必要はない場合がある。
【0118】
患者台の運動は、ビーム野全体にわたって行われる処置に応じて生じる。たとえば、いくつかの実装形態では、TPSは、第1のビーム野の自動処置と、それに続く第2のビーム野の処置と、それに続く第3のビーム野の処置と、などを指示してもよい。さらなる一般化のために、いくつかの実装形態では、システムの可動部分は、ビームスポットごとに構成されてもよく、それによって、ビーム照射がビーム野によって制限されないという点でビーム照射は事実上無ビーム野になる。さらに、粒子線治療システムは、システムアイソセンターが定義されている場合、システムアイソセンターとは無関係に、必要に応じて、粒子線を同じ2つのビーム野間を複数回にわたって往復させるように制御されてもよい。この例では、本明細書の他の箇所で説明するように、すべての構成要素の運動ならびに撮像およびセンサーに対する制御が自動化され、それによって、放射線療法士が患者またはスプレッダーおよび/もしくは粒子加速器の位置を手動で変更することなく、処置プロセス全体を実行することが可能になる。
【0119】
図16を参照すると、互いに異なり隣接するビーム野161、162は領域166で重複してもよい。互いに隣接するビーム野は、目標170を処置するためのビーム野であってもよい。この重複領域は、それぞれ異なるビーム野からの粒子線、この例ではビーム野162用の粒子線164およびビーム野161用の粒子線165を受けてもよい。粒子線、具体的には陽子線が累積されるので、是正措置が施されない場合、ビーム重複によって、重複領域に過度の放射線が蓄積されることがある。同様に、重複領域が回避されるか、またはビームが重複領域に正しく照射されない場合、照射される処置用の放射線が不十分になる場合がある(たとえば、ギャップ)。したがって、例示的な粒子線治療システムは、重複領域において粒子線の強度を変更するように制御されてもよく、それによってビーム重複が可能になり、しかも、互いに隣接するビーム野間の重複領域に適切な線量が確実に照射される。
【0120】
より詳細には、いくつかの実装形態では、TPSは、互いに隣接するビーム野間の重複領域におけるビームの強度を指定する指示を処置計画において与えてもよい。たとえば、重複領域では、それぞれ異なるビーム野からの粒子線は、重複領域の外側の、ビーム野内の粒子線よりも低い強度(たとえば、より低い濃度の陽子線)を有してもよい。ビームの強度は、フェザリング効果においてビーム野の中心から遠ざかるにつれて低下してもよい。この例では、ビーム強度は、ビームが領域166などの重複領域において、それぞれ異なるビーム野全体にわたって粒子の一様な分布を生成するように制御される。いくつかの実装形態では、この一様な分布は、一方または両方のビーム野の非重複領域における分布と同じであるが、分布は単一のビーム野内でも変動することがあるので、そうである必要はない。具体的には、制御システムは、粒子加速器の自動制御を行って、2つ以上の粒子線間の重複領域における累積強度が目標ビーム強度に到達するかまたは目標強度の既定範囲内になり、目標強度から既定量よりも多い量だけ逸脱する(たとえば、目標強度よりも高くなるかまたは目標強度よりも低くなる)ことがなくなるようにそれぞれ異なるビーム野用の粒子線の強度を制御するように構成される。
【0121】
いくつかの例では、図16に示すようなある量の重複が考えられ、互いに隣接するビーム野間の重複領域におけるビーム強度または重複領域の近くのビーム強度の変更を含む、粒子線に対する適切な制御によって対処される。図16の例では、強度は、ビーム164および165を表す線の陰影によって表される。図示のように、線は非重複領域において最も暗く、そのビーム野についての最大(または適切な)強度を表す。線は、重複領域に進入するにつれて徐々に明るくなり、それぞれの粒子線の強度(たとえば、粒子の濃度)の低下を表す。たとえば、粒子線165の場合、矢印167の方向における走査の間粒子線を移動させると、粒子線が重複領域166に進入するときに粒子線165の強度が低下し、重複領域166の端部における最小値まで低下し続け、最も遠いビーム野162に至る。同様に、粒子線164の場合、矢印168の方向における走査の間粒子線を移動させると、粒子線が重複領域166に進入するときに粒子線164の強度が低下し、重複領域166の端部における最小値まで低下し続け、最も遠いビーム野161に至る。どちらの場合も、粒子線の強度は、重複領域における両方のビームからの累積結果が粒子の一様な分布(または必要に応じた他の任意の分布)になるように重複領域において制御される。
【0122】
したがって、重複領域を回避する必要はなく、適切な線量の放射線が重複領域に照射され、ビーム野間の重複領域は、処置プロセスの自動動作の障害となる必要はない。上述の構成可能なコリメータが、互いに隣接するビーム野間の重複領域または他の箇所でビームを成形するために適宜使用されてもよい。重複領域内の強度の変更は、事実上、ビーム配置エラー/不確実性の恐れによる軽減であることに留意されたい。粒子線の自動配置が照射目標のすべての場所で厳密に制御される場合、図16に関して説明したように線量分布を制御する必要がない場合がある。
【0123】
上述のように、処置台および/または粒子線の運動の組合せによって、相対的な回転運動、相対的な回動、および/または相対的な並進運動が生成されてもよい。回転運動はたとえば、IMPT処置において使用されてもよく、一方、並進運動は、たとえばビーム野全体にわたって処置するために使用されてもよい。回転運動および並進運動、またはその組合せは、これらの文脈に限定されず、IMPTおよびビーム野全体にわたる処置以外にも適用可能であってもよい。いくつかの実装形態では、システムは、5cm以上、たとえば5cm~50cm以上の有効並進運動を実現してもよく、それによって、潜在的に複数のビーム野にわたる可能性がある人間の脊柱などの比較的長い領域の処置が可能になる。
【0124】
例示的な粒子線治療システムは、所与の処置計画に適切な、患者とビーム位置との任意の数の組合せを実現するように制御されてもよい。患者とビーム位置との組合せは、処置台(または患者)の単一の位置とビームの単一の位置との一意の組合せを含んでもよい。一例として、単一の処置セッションでは、例示的な粒子線治療システムは、患者とビーム位置との任意の適切な数の組合せを実現するように制御されてもよい。この例には、限定はしないが、患者とビーム位置との2つ以上の組合せ、患者とビーム位置との5つ以上の組合せ、患者とビーム位置との10個以上の組合せ、患者とビーム位置との100個以上の組合せ、および患者とビーム位置との10000個以上の組合せが含まれる。繰返しになるが、患者とビーム位置との各組合せは、粒子線治療システム(処置台、ガントリー、走査構成要素など)の構成要素に対するコンピュータ(たとえば、自動)制御、部位撮像システムおよび衝突回避システムなどの撮像システムに対するコンピュータ制御によって実現される。TPSは制御を行うための適切な指示を与えてもよい。いくつかの実装形態では、TPSは、粒子線治療システムの機能を事前に認識し、医療専門家によって推奨される放射線線量ならびに照射目標(たとえば、腫瘍)の場所、形状、および他の関連する特性の知識に基づいて処置計画についての指示を自動的に決定してもよい。本明細書で説明する粒子線治療システムは、ビーム配置を可能にする、本明細書で説明する様々な構成要素に起因するビーム野の数を限定するのではなく、いくつかの例では、粒子線配置に対する厳密な制御を可能にし、それによって、ビーム野の数を効果的に(ビームおよび患者の位置ごとに1つに)増やし、粒子線治療が施される精度を高める。
【0125】
処置セッションについての時間は、限定はしないが、目標のサイズ、照射すべき線量、実現すべき患者とビーム位置との組合せの数などを含む任意の数の因子に基づいて異なる。場合によっては、平均処置時間は15分未満であってもよく、いくつかの例では45分未満であってもよい。
【0126】
本明細書で説明する例示的な粒子線治療システムの動作、粒子線治療システムのすべてのまたはいくつかの構成要素の動作は、1つまたは複数のデータ処理装置、たとえば、プログラム可能なプロセッサ、コンピュータ、複数のコンピュータ、および/もしくはプログラム可能な論理構成要素によって実行されるように、または1つもしくは複数のデータ処理装置の動作を制御するために、1つもしくは複数のコンピュータプログラム製品、たとえば1つもしくは複数の非一時的機械可読媒体において具体化される1つもしくは複数のコンピュータプログラムを使用することによって、少なくとも部分的に(適宜)制御することができる。
【0127】
コンピュータプログラムは、コンパイラ型言語またはインタプリタ型言語を含む任意の形態のプログラミング言語で書くことができ、スタンドアロンプログラムとしての展開、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、もしくはコンピューティング環境において使用するのに適した他のユニットとしての展開を含む、任意の形態で展開することができる。コンピュータプログラムは、1つの場所において1つのコンピュータ上もしくは複数のコンピュータ上で実行されるように展開するか、または複数の場所にわたって分散させ、ネットワークによって相互接続することができる。
【0128】
本明細書で説明する例示的な粒子線治療システムの動作のすべてまたは一部の実現に関連する処置は、1つまたは複数のプログラム可能なプロセッサにより1つまたは複数のコンピュータプログラムを実行して本明細書で説明する機能を実行することによって実施することができる。動作のすべてまたは一部は、専用論理回路、たとえばFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)および/またはASIC(特定用途向け集積回路)を使用して実現することができる。
【0129】
コンピュータプログラムの実行に適したプロセッサは、一例として、汎用マイクロプロセッサと専用マイクロプロセッサとの両方と、任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つまたは複数のプロセッサと、を含む。概して、プロセッサは、読取り専用記憶領域もしくはランダムアクセス記憶領域またはその両方から指示およびデータを受信してもよい。コンピュータ(サーバを含む)の要素は、指示を実行するための1つまたは複数のプロセッサ、ならびに指示およびデータを記憶するための1つまたは複数の記憶領域デバイスを含む。概して、コンピュータは、データを記憶するための大容量PCBなどの1つまたは複数の機械可読記憶媒体、たとえば磁気ディスク、光磁気ディスク、または光学ディスクを含むか、あるいはデータの受信もしくは転送またはその両方を行うようにそのような機械可読記憶媒体に動作可能に結合される。コンピュータプログラムの指示およびデータを具現化するのに適した非一時的機械可読記憶媒体は、一例として、半導体記憶領域デバイス、たとえば、EPROM、EEPROM、およびフラッシュ記憶領域デバイス、磁気ディスク、たとえば、内部ハードディスクまたは取外し可能ディスク、光磁気ディスク、ならびにCD-ROMディスクおよびDVD-ROMディスクを含む、すべての形態の非揮発性記憶領域を含む。
【0130】
本明細書で使用するあらゆる「電気的接続」は、介在する構成要素を含むが、それにもかかわらず接続された構成要素間に電気信号を流すのを可能にする直接的な物理的接続または有線もしくは無線接続を暗示する場合がある。信号が流れるのを可能にする電気回路を伴うあらゆる「接続」は、「接続」を修飾するために「電気」という語が使用されるかどうかにかかわらず、特に明記しない限り、電気的接続であり、必ずしも直接的な物理的接続とは限らない。
【0131】
前述の実装形態のうちの任意の2つ以上が、適切な粒子加速器(たとえば、シンクロサイクロトロン)と適切に組み合わせて使用されてもよい。同様に、前述の実装形態のうちの任意の2つ以上の実装形態の個々の特徴が適切に組み合わされて使用されてもよい。
【0132】
本明細書で説明するそれぞれ異なる実装形態の要素は、上記には具体的に示されていない他の実装形態を形成するように組み合わされてもよい。要素は、本明細書で説明するプロセス、システム、装置などから、その動作に悪影響を与えずに省略されてもよい。様々な別個の要素が、本明細書で説明する機能を実行するための1つまたは複数の個々の要素として組み合わされてもよい。
【0133】
いくつかの実装形態では、本明細書で説明する粒子線治療システムにおいて使用されるシンクロサイクロトロンは、可変エネルギーシンクロサイクロトロンであってもよい。いくつかの実装形態では、可変エネルギーシンクロサイクロトロンは、粒子線が加速される磁場を変化させることによって出力粒子線のエネルギーを変化させるように構成される。たとえば、電流は、対応する磁場を生成するように複数の値のうちのいずれかに設定されてもよい。例示的な実装形態では、超伝導コイルの1つまたは複数のセットが可変電流を受け取ってキャビティ内で可変磁場を生成する。いくつかの例では、コイルの1つのセットが固定電流を受け取り、一方、コイルの1つまたは複数の他のセットが可変電流を受け取り、それによって、コイルセットによって受け取られる総電流が変動する。いくつかの実装形態では、コイルのすべてのセットが超伝導体である。いくつかの実装形態では、固定電流用のセットなどのコイルのいくつかのセットは超伝導体であり、一方、可変電流用の1つまたは複数のセットなどのコイルの他のセットは、非超伝導(たとえば、銅製)コイルである。
【0134】
概して、可変エネルギーシンクロサイクロトロンでは、磁場の大きさが電流の大きさによってスケーリング可能である。コイルの総電流を所定の範囲内に調整すると、対応する所定の範囲内で変動する磁場を発生させることができる。いくつかの例では、電流を連続的に調整することによって、磁場を連続的に変化させ、出力ビームエネルギーを連続的に変化させることができる。代替として、コイルに印加される電流が非連続的で段階的に調整されるとき、それに応じて磁場および出力ビームエネルギーも非連続的(段階的)に変動する。磁場を電流に対してスケーリングすると、ビームエネルギーの変化を比較的厳密に実現させることができ、したがって、エネルギーディグレーダーの必要性が低下する。粒子線治療システムに使用されてもよい可変エネルギーシンクロサイクロトロンの例は、「Particle Accelerator That Produces Charged Particles Having Variable Energies」という名称の特許文献4に記載されており、この出願の内容は参照によって本明細書に組み込まれる。可変エネルギーシンクロサイクロトロンを使用する実装形態
【0135】
いくつかの実装形態では、本明細書で説明する粒子線治療システムにおいてシンクロサイクロトロン以外の粒子加速器が使用されてもよい。たとえば、サイクロトロン、シンクロトロン、線形加速器などで、本明細書で説明するシンクロサイクロトロンを置き換えてもよい。回転ガントリーについて説明したが(たとえば、外側ガントリー)、本明細書で説明する例示的な粒子線治療システムは、回転ガントリーとの使用に限定されない。つまり、粒子加速器が、本明細書ではガントリーの種類として特徴付けられる、粒子加速器の運動を実現するための任意の種類のロボット機構または他の制御可能な機構上に適宜設置されてもよい。たとえば、粒子加速器および/またはスプレッダーは、患者に対する加速器および/またはスプレッダーの回転運動、回動、および/または並進運動を実現するための1つまたは複数のロボットアーム上に設置されてもよい。いくつかの実装形態では、粒子加速器および/またはスプレッダーは、トラック上に設置されてもよく、トラックに沿った移動がコンピュータ制御されてもよい。この構成では、患者に対する加速器および/またはスプレッダーの回転運動および/または並進運動および/または回動はまた、適切なコンピュータ制御によって実現することができる。
【0136】
いくつかの実装形態では、粒子加速器自体は、本明細書で説明するような患者に対する移動を行わなくてもよい。たとえば、いくつかの実装形態では、粒子加速器は、据置型機器であってもよく、または少なくとも、患者に対して移動できるように取り付けられなくてもよい。このような例では、粒子加速器は、その粒子線を抽出チャネルから伝送チャネルに出力してもよい。伝送チャネルは、内部に含まれる磁場を制御して粒子線を1つまたは複数の処置室などの1つまたは複数の遠隔場所に送るための磁石などを含んでもよい。各処置室では、伝送チャネルは、本明細書で説明するように移動できるように設置されたビームスプレッダーまたはその他の装置に(たとえば、外側ガントリーまたはその他のデバイスに)ビームを送ってもよい。したがって、ビームスプレッダーは、本明細書における他の箇所で説明した加速器の所定の位置に配置されてもよい。しかし、いくつかの例では、粒子線治療システムのこの実装形態の構成および動作は、加速器、スプレッダー、および伝送チャネルの配置を除いて、本明細書における他の箇所で適宜説明した粒子線治療システムの他の実装形態の構成および動作と同じである。
【0137】
たとえば、粒子線治療システムの動作を指示するコンピュータシステム140は、適切なコマンドおよび制御プロトコルを使用して、一例では、(並進運動、回動、および/または回転運動を含む)ガントリー設置型スプレッダー、ビーム成形要素、レンジモジュレーター、構成可能なコリメータ、ビーム成形要素が結合されたキャリッジ、ノズル、ならびに処置台のうちの1つまたは複数の配置を含む動作を制御して、粒子線を処置空間内の適切な場所に配置し、ある放射線線量を目標に照射する。粒子線治療システムの動作を指示するコンピュータシステムは、適切なコマンドおよび制御プロトコルを使用して、一例では、処置台の動作を制御して、患者、したがって照射目標を処置空間内の適切な場所に配置し、粒子線を介して、ある放射線線量を照射する。粒子線治療システムの動作を指示するコンピュータシステムはまた、適切なコマンドおよび制御プロトコルを使用して、一例では、シンクロサイクロトロンの動作を制御して、処置計画において規定された場所に必要な線量の放射線を照射するのに適切な特性(たとえば、強度、エネルギーなど)を有する粒子線を生成する。TPSにおける指示は、放射線をいつどこで照射すべきかを示し、適切な放射線を供給するのに必要な様々なシステム構成要素の位置を定める。粒子線治療システムの他の可能な動作は、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0138】
本明細書で説明する制御システムが実現され得る粒子線治療システムの別の例示的な実装形態は、「Charged Particle Radiation Therapy」という名称の特許文献2に記載されており、この特許の内容は参照によって本明細書に組み込まれる。参照によって組み込まれる内容は、限定はしないが、特許文献2に記載されたシンクロサイクロトロンおよびシンクロサイクロトロンを保持するガントリーシステムの説明が含まれる。
【0139】
本明細書では具体的に説明しない他の実装形態も以下の特許請求の範囲内である。
【符号の説明】
【0140】
10 構成要素
11 超伝導磁石
12、13 超伝導コイル
14、15 磁気ヨーク
16 キャビティ
17 粒子源
20 抽出チャネル
21 シンクロサイクロトロン
22 走査構成要素
23 キャリッジ
24 走査磁石
25 イオンチャンバ
26 エネルギーディグレーダー
27 電流センサー
28 構成可能なコリメータ
29a、29b トラック
42 コイル
60 レンジモジュレーター
61 プレート
70 プレート
72 矢印
73 粒子線
80 内側ガントリー
81 ノズル
82 粒子線治療システム
84 処置台
85 ロボットアーム
86 部位撮像システム
88 衝突回避システム
90 内側ガントリー
91 外側ガントリー、ノズル
92 処置台
93 粒子加速器
94 外側ガントリー
95 矢印
96 アーム
100 ビーム野
101 照射目標
120 粒子線
121 照射目標
123 角度
124 角度
125 角度
127 周囲の組織
128 水平
140 制御システム
141 システム構成要素
142 TPS
150 ビーム野
151 粒子加速器
152 ビーム野
155 粒子線
159 目標
161、162 ビーム野
164、165 粒子線
166 重複領域
167 矢印
170 目標
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16