(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】回転電機用ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/28 20060101AFI20240110BHJP
H02K 1/30 20060101ALI20240110BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H02K1/28 Z
H02K1/30 A
H02K15/02 H
(21)【出願番号】P 2021501769
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020002989
(87)【国際公開番号】W WO2020170734
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019030427
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
(72)【発明者】
【氏名】井手上 薫樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕太
(72)【発明者】
【氏名】堂薗 健次
(72)【発明者】
【氏名】池邨 将史
(72)【発明者】
【氏名】神谷 敏彦
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-119556(JP,A)
【文献】特開2017-221078(JP,A)
【文献】特開2013-074736(JP,A)
【文献】特開平03-143250(JP,A)
【文献】特開2017-022849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/28
H02K 1/30
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアと、前記ロータコアを支持するコア支持部材と、を備え、前記コア支持部材が、筒状に形成された筒状部と、非回転部材に対して回転可能に支持されて前記筒状部を径方向の内側から支持する支持部と、を備えた回転電機用ロータの製造方法であって、
前記支持部が、前記筒状部における軸方向の一部の領域である接続領域に接続されていると共に、前記接続領域から前記径方向の内側に延在するように形成され、前記筒状部の外周面における、前記径方向に沿う径方向視で前記ロータコアと重複する部分を嵌合面部とし、前記嵌合面部における前記径方向視で前記接続領域と重複する重複領域を含む特定領域の直径が、前記嵌合面部における前記特定領域以外の領域である一般領域の直径より小さく形成され、前記特定領域の前記軸方向の長さが、前記重複領域の前記軸方向の長さより長く設定されて
おり、前記一般領域と、前記特定領域における少なくとも前記重複領域と、のそれぞれの前記軸方向に沿う断面形状が直線状である、前記コア支持部材を用い、
前記ロータコアの内周面の直径が前記一般領域の直径よりも大きくなるように前記ロータコアを膨張させた状態で、前記コア支持部材を前記ロータコアに対して前記径方向の内側に挿入し、
その後、前記ロータコアを前記筒状部に対して相対的に収縮させて、前記筒状部の前記外周面と前記ロータコアの前記内周面とを嵌合させる、回転電機用ロータの製造方法。
【請求項2】
前記ロータコアと前記コア支持部材とが同じ温度の状態で、前記特定領域の直径は、前記ロータコアの内周面の直径以上であり、前記一般領域の直径は、前記ロータコアの内周面の直径より大きい、請求項1に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項3】
前記特定領域は、前記重複領域の全体を含むように設定されている、請求項1
又は2に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項4】
前記特定領域の前記軸方向の長さは、前記重複領域に対して前記軸方向の両側に、前記筒状部の前記径方向の厚さに相当する長さを加えた長さに設定されている、請求項
3に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項5】
前記特定領域の前記軸方向の長さは、前記重複領域に対して前記軸方向の一方側に、前記筒状部の前記径方向の厚さに相当する長さを加えた長さに設定されている、請求項
3に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項6】
前記軸方向の一方側を軸方向第1側とし、前記軸方向の他方側を軸方向第2側として、
前記一般領域が、前記特定領域に対して前記軸方向第1側に形成され、
前記特定領域が、前記重複領域と、前記重複領域に対して前記
軸方向第1側に隣接する領域とに亘って形成されている、請求項3に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項7】
前記特定領域における前記一般領域と隣接する端部に、前記一般領域の側へ向かうに従って直径が次第に大きくなるように傾斜面が形成されている、請求項1から
6のいずれか一項に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項8】
前記一般領域と、前記特定領域における前記傾斜面以外の部分と、のそれぞれの前記軸方向に沿う断面形状が直線状である、請求項
7に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【請求項9】
前記ロータコアの膨張を、前記ロータコアを前記コア支持部材よりも高温に加熱することで行う、請求項1から
8のいずれか一項に記載の回転電機用ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータコアと、前記ロータコアを支持するコア支持部材と、を備えた回転電機用ロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、背景技術について説明する。以下の説明において、かっこ書きの符号又は名称は、先行技術文献における符号又は名称とする。かかる回転電機用ロータの従来例が、特開2013-095390号公報(特許文献1)に記載されている。特許文献1の回転電機用ロータでは、コア支持部材(ロータ支持部材22)が、筒状に形成された筒状部(ロータ保持部25)と、筒状部を径方向内側(R1)から支持する支持部(径方向延在部26)とを備えている。このような回転電機用ロータでは、支持部は、筒状部における軸方向の一部の領域である接続領域に接続されていると共に、接続領域から径方向の内側に延在するように形成されている。そして、筒状部の外周面にロータコアの内周面を嵌合させて回転電機用ロータを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、筒状部の外周面にロータコアの内周面を嵌合させる場合に、例えば焼嵌め等によってロータコアを筒状部に締結させる場合がある。このような焼嵌めを行う場合、ロータコアを加熱して膨張させた状態でロータコアの径方向内側に筒状部を挿入した後、ロータコアを冷却させて収縮させることで嵌合させる。このようにロータコアを筒状部に嵌合させた場合、ロータコアと筒状部とに相互に径方向の荷重が作用することになる。この際、筒状部における支持部との接続領域から離れた領域では、筒状部が径方向内側にわずかに変形することが許容されるため、ロータコアと筒状部とに相互作用する径方向荷重が弱まる傾向にある。これに対して、筒状部における支持部との接続領域に近い領域では、支持部の存在によって筒状部が径方向内側に変形することができないため、ロータコアと筒状部とに相互作用する径方向荷重が弱まることがない。そのため、支持部との接続領域に近い領域での径方向荷重が、その他の領域に比べて相対的に大きくなり、当該領域に応力集中が生じ易い。ロータコアは、薄板を積層して構成されているため、軸方向の一部の領域に大きな径方向荷重が作用して応力集中が生じると、一部の薄板が変形する等の問題が生じる可能性があった。
【0005】
そこで、ロータコアと筒状部とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りを低減することができる回転電機用ロータの製造方法の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた、ロータコアと、前記ロータコアを支持するコア支持部材と、を備え、前記コア支持部材が、筒状に形成された筒状部と、非回転部材に対して回転可能に支持されて前記筒状部を径方向の内側から支持する支持部と、を備えた回転電機用ロータの製造方法の特徴構成は、前記支持部が、前記筒状部における軸方向の一部の領域である接続領域に接続されていると共に、前記接続領域から前記径方向の内側に延在するように形成され、前記筒状部の外周面における、前記径方向に沿う径方向視で前記ロータコアと重複する部分を嵌合面部とし、前記嵌合面部における前記径方向視で前記接続領域と重複する重複領域を含む特定領域の直径が、前記嵌合面部における前記特定領域以外の領域である一般領域の直径より小さく形成された、前記コア支持部材を用い、前記ロータコアの内周面の直径が前記一般領域の直径よりも大きくなるように前記ロータコアを膨張させた状態で、前記コア支持部材を前記ロータコアに対して前記径方向の内側に挿入し、その後、前記ロータコアを前記筒状部に対して相対的に収縮させて、前記筒状部の前記外周面と前記ロータコアの前記内周面とを嵌合させる点にある。
【0007】
この製造方法の特徴構成によれば、筒状部におけるロータコアと径方向視で重複する嵌合面部のうち、径方向視で支持部との接続領域と重複する重複領域を含む特定領域の直径が、一般領域の直径よりも小さいため、筒状部の外周面とロータコアの内周面とを嵌合させた状態で、特定領域においてロータコアと筒状部とに相互作用する径方向荷重を、一般領域よりも直径を小さくした分だけ弱めることができる。そのため、筒状部の一般領域に作用する径方向荷重と特定領域に作用する径方向荷重との差を小さくすることができ、その結果、ロータコアと筒状部とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】筒状部の内周面の直径と重複領域の直径と特定領域の直径との関係を示す図
【
図5】別実施形態における回転電機用ロータの部分断面図
【
図6】別実施形態における特定領域の端部の形状を示す図
【
図7】別実施形態における特定領域の端部の形状を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.実施形態
回転電機用ロータの製造方法の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、回転電機用ロータ1は、ロータコア2と、ロータコア2を支持するコア支持部材3とを備えている。なお、以下の説明では、特に区別して明記している場合を除き、「軸方向L」、「径方向R」、「周方向」は、回転電機用ロータ1の軸心を基準として定義している。そして、「軸方向第1側L1」は、軸方向Lの一方側(
図1における左側)を表し、「軸方向第2側L2」は、軸方向第1側L1とは反対側(
図1における右側)を表している。また、「径方向内側R1」は、径方向Rの内側へ向かう方向を表し、「径方向外側R2」は、径方向Rの外側へ向かう方向を表している。
【0010】
ロータコア2は、円環板状に形成されている複数枚の電磁鋼板6を軸方向Lに積層して構成されている。本実施形態では、ロータコア2の軸方向Lの両端部には、エンドプレート7が配置されている。
【0011】
コア支持部材3は、筒状に形成された筒状部11と、回転電機用ロータ1を収容するケース13に対して回転可能に支持されて筒状部11を径方向Rの内側から支持する支持部12とを備えている。本実施形態では、筒状部11と支持部12とは一体的に形成されている。筒状部11の外周面F1は、ロータコア2の内周面F2と嵌合している。支持部12は、筒状部11における軸方向Lの一部の領域である接続領域A1に接続されていると共に、接続領域A1から径方向Rの内側に延在するように形成されている。
【0012】
筒状部11は、接続領域A1を有する接続部16と、接続部16から軸方向第1側L1に延在するように形成されている第1延在部17と、接続部16から軸方向第2側L2に延在するように形成されている第2延在部18とを備えている。第1延在部17は、ロータコア2の軸方向第1側L1の端部より軸方向第1側L1まで延在し、第2延在部18は、ロータコア2の軸方向第2側L2の端部より軸方向第2側L2まで延在している。
【0013】
また、コア支持部材3は、第1延在部17の軸方向第1側L1の端部から径方向外側R2に突出するように形成された第1突出部21を有している。更に、コア支持部材3は、第2延在部18の軸方向第2側L2の端部に設けられたかしめ部22を有している。かしめ部22は、筒状部11に対して軸方向第2側L2からロータコア2が嵌合された後、第2延在部18の軸方向第2側L2の端部が径方向外側R2に屈曲されて形成される。このような第1突出部21とかしめ部22とによって、コア支持部材3に対するロータコア2の軸方向Lへの移動が規制されている。
【0014】
支持部12は、径方向Rに延在する円環板状の円環部26と、円環部26の径方向内側R1の端部から軸方向第1側L1に突出する第1被支持部27と、円環部26の径方向内側R1の端部から軸方向第2側L2に突出する第2被支持部28と、を備えている。本実施形態では、回転電機用ロータ1は、ケース13に収容されており、第1被支持部27とケース13との間に第1軸受29が配置され、第2被支持部28とケース13との間に第2軸受30が配置されている。支持部12は、第1軸受29及び第2軸受30を介して、ケース13に回転自在に支持されている。本実施形態では、ケース13が、非回転部材に相当する。
【0015】
円環部26は、その径方向外側R2の端部に、径方向外側R2に向かうに従って軸方向Lの幅が広くなる幅広部26Aを有しており、この幅広部26Aの径方向外側R2の端部が、筒状部11の接続部16に接続されている。本実施形態では、筒状部11の内周面は軸方向Lと平行となるように形成されており、径方向外側R2に向かうに従って軸方向Lの幅が広くなる部分と軸方向Lと平行となる部分との境界が、筒状部11と支持部12との境界となっている。
【0016】
そして、この回転電機用ロータ1は、ロータコア2の内周面F2と嵌合する、筒状部11の外周面F1の形状に特徴を有している。ここで、筒状部11の外周面F1における、径方向Rに沿う径方向視でロータコア2と重複する部分を嵌合面部A2とする。本実施形態では、筒状部11の外周面F1における、ロータコア2に備えられている複数枚の電磁鋼板6と径方向視で重複する部分を嵌合面部A2とし、ロータコア2の軸方向Lの両端部に配置されている一対のエンドプレート7と径方向視で重複する部分は嵌合面部A2に含めていない。しかし、筒状部11の外周面F1における、ロータコア2に備えられている複数枚の電磁鋼板6と径方向視で重複する部分に加えて、一対のエンドプレート7の少なくとも一方と径方向視で重複する部分も嵌合面部A2としてもよい。
【0017】
そして、筒状部11の外周面F1は、嵌合面部A2における径方向視で接続領域A1と重複する重複領域A3を含む特定領域A4の直径D1が、嵌合面部A2における特定領域A4以外の領域である一般領域A5の直径D2より小さい。より詳しくは、ロータコア2とコア支持部材3とが同じ温度の状態で、特定領域A4の直径D1は、ロータコア2の内周面F2の直径D3以上であり、一般領域A5の直径D2は、ロータコア2の内周面F2の直径D3より大きい。ここで、特定領域A4の直径D1と一般領域A5の直径D2との差は、ごくわずかに設定される。本実施形態では、特定領域A4の直径D1と一般領域A5の直径D2との差を、数十マイクロメートル、具体的には、20~30マイクロメートルとしている。尚、他の直径と比較する場合の特定領域A4の直径D1は、特定領域A4における後述する端部31(傾斜面F3)以外の部分の直径D1とする。また、本実施形態では、特定領域A4の周方向の全領域に亘って、特定領域A4の直径D1が一般領域A5の直径D2より小さい。
【0018】
本実施形態では、
図2に示すように、ロータコア2とコア支持部材3とが同じ温度の状態で、嵌合面部A2における特定領域A4の直径D1及び一般領域A5の直径D2の双方が、ロータコア2の内周面F2の直径D3より大きい。またこのような寸法の設定に際しては、製造誤差を考慮して、特定領域A4の直径D1、一般領域A5の直径D2、及び内周面F2の直径D3のそれぞれに対して公差が設定されている。ここでは、特定領域A4の直径D1及び一般領域A5の直径D2に対して、第1公差±αが設定されている。また、内周面F2の直径D3に対して、第2公差±βが設定されている。なお、ここでは、特定領域A4の直径D1の公差と一般領域A5の直径D2の公差とを同じ値としているが、特定領域A4の直径D1の公差と一般領域A5の直径D2の公差とを異なる値としてもよい。
【0019】
そして、本実施形態では、好適な一例として、外周面F1における特定領域A4の直径D1及び一般領域A5の直径D2、及び、内周面F2の直径D3は、次のように設定されている。つまり、特定領域A4の直径D1の設計上の値を第1設計値、一般領域A5の直径D2の設計上の値を第2設計値、内周面F2の直径D3の設計上の値を第3設計値とする。そして、第1設計値(直径D1)から第1公差αを引いた値と、第3設計値(直径D3)に第2公差βを加えた値と、が等しくなるように設定されている。また、第2設計値(直径D2)から第1公差αを引いた値より、第3設計値(直径D3)に第2公差βを加えた値が、小さくなるように設定されている。
【0020】
また、特定領域A4の設定に関して、特定領域A4の軸方向Lの長さは、重複領域A3の軸方向Lの長さより長く設定されている。そして、特定領域A4は、重複領域A3の全体を含むように設定されている。詳しくは、特定領域A4の軸方向Lの範囲は、重複領域A3の軸方向Lの範囲の全体を含むように設定されている。更に、本例では、特定領域A4の周方向の範囲が、重複領域A3の周方向の範囲の全体を含むように設定されている。本実施形態では、幅広部26Aの径方向外側R2の端部における軸方向Lの両端部のそれぞれから径方向外側R2に向かうに従って軸方向Lの外側に向かうように設定角度θだけ傾いた2本の仮想線と、筒状部11の外周面F1との2つの交点によって挟まれた範囲を、特定領域A4に設定している。本実施形態では、設定角度θは45度に設定されている。より詳しくは、特定領域A4の軸方向第1側L1の端部は、幅広部26Aの径方向外側R2の端部であって軸方向第1側L1の端部から、径方向外側R2に向かうに従って軸方向第1側L1に向かうように設定角度θだけ傾いた仮想線と筒状部11の外周面F1との交点に設定されている。一方、特定領域A4の軸方向第2側L2の端部は、筒状部11の外周面F1の軸方向第2側L2の端部に設定されている。これは、幅広部26Aの径方向外側R2の端部であって軸方向第2側L2の端部から、径方向外側R2に向かうに従って軸方向第2側L2に向かうように設定角度θだけ傾いた仮想線と筒状部11の外周面F1との交点が存在しないためである。
【0021】
上記のとおり、本実施形態では設定角度θを45度に設定しているため、特定領域A4の軸方向Lの長さD4は、重複領域A3に対して軸方向Lの両側に、筒状部11の径方向Rの厚さD5に相当する長さを加えた長さに設定されている。本実施形態では、筒状部11における重複領域A3よりも軸方向第2側L2の長さが前記長さD5より短いため、特定領域A4は、重複領域A3に対して軸方向Lの両側に、筒状部11の径方向Rの厚さD5に相当する長さを加えた長さより短くなっている。このように、重複領域A3に対して軸方向Lの両側に筒状部11の径方向Rの厚さD5に相当する長さを加えた長さの範囲が、少なくとも軸方向Lの一方側において筒状部11の軸方向Lの端部に達する場合には、当該軸方向Lの端部までを特定領域A4とする。なお本実施形態では、筒状部11の径方向Rの厚さとして、軸方向Lにおいて幅広部26Aの軸方向第1側L1の端部が位置する部分における筒状部11の径方向Rの厚さを用いている。
【0022】
また本実施形態では、特定領域A4における一般領域A5と隣接する端部に、一般領域A5の側へ向かうに従って直径D1が次第に大きくなるように傾斜面F3が形成されている。本実施形態では、特定領域A4における軸方向第1側L1の端部31に、傾斜面F3が形成されている。図示の例では、この傾斜面F3の軸方向Lに沿う断面形状が、一般領域A5の軸方向第2側L2の端部から、径方向内側R1に向かうに従って軸方向第2側L2に向かうように傾斜した直線状に形成されている。
【0023】
次に、回転電機用ロータ1の製造方法について説明する。本実施形態では、回転電機用ロータ1を製造する場合に、ロータコア2を膨張させた状態で、コア支持部材3をロータコア2に対して径方向内側R1に挿入する第1工程と、当該第1工程の後に、ロータコア2を筒状部11に対して相対的に収縮させて、筒状部11の外周面F1とロータコア2の内周面F2とを嵌合させる第2工程と、を実行する。本実施形態では、ロータコア2の膨張を、ロータコア2をコア支持部材3よりも高温に加熱することで行う。すなわち、いわゆる焼嵌めによって筒状部11の外周面F1とロータコア2の内周面F2とを嵌合させる。
【0024】
第1工程は、
図3に示すように、ロータコア2の内周面F2の直径D3が、筒状部11における一般領域A5の直径D2よりも大きくなるようにロータコア2を膨張させた状態で、コア支持部材3をロータコア2に対して径方向内側R1に挿入する工程である。本実施形態の第1工程では、ロータコア2をコア支持部材3よりも高温に加熱することで、ロータコア2の内周面F2の直径D3が筒状部11における一般領域A5の直径D2よりも大きくなるように膨張させる。そして、ロータコア2がこのように膨張した状態で、ロータコア2の内周面F2に対して径方向内側R1に、コア支持部材3の筒状部11を挿入する。本実施形態では、ロータコア2に対して軸方向第1側L1から筒状部11を挿入し、ロータコア2の軸方向第1側L1の端部を第1突出部21に当接させる。その後、第2工程を実行する。このようにロータコア2の内周面F2に対して径方向内側R1に筒状部11を挿入した状態では、筒状部11の外周面F1における嵌合面部A2が、径方向視でロータコア2と重複し、当該径方向視で接続領域A1が重複領域A3と重複している。
【0025】
第2工程は、
図4に示すように、ロータコア2をコア支持部材3の筒状部11に対して相対的に収縮させて、筒状部11の外周面F1とロータコア2の内周面F2とを嵌合させる工程である。本実施形態の第2工程では、第1工程において加熱して膨張させたロータコア2を冷却させることで収縮させる。筒状部11の外周面F1とロータコア2の内周面F2とが径方向Rに対向している状態でロータコア2を収縮させることにより、筒状部11の外周面F1とロータコア2の内周面F2とが嵌合する。ここでは、筒状部11の外周面F1とロータコア2の内周面F2とが締まり嵌め状態となるように嵌合させる。すなわち、筒状部11がロータコア2に対して径方向内側R1にないと仮定した場合において、ロータコア2の内周面F2の直径D3が特定領域A4の直径D1と同じ又は特定領域A4の直径D1より小さくなるように、ロータコア2を筒状部11に対して相対的に収縮させる。このようにすることで、筒状部11の外周面F1をロータコア2の内周面F2に締まり嵌め状態で嵌合させる。本実施形態では、この第2工程の後、
図4に示すように、第2延在部18の軸方向第2側L2の端部を径方向外側R2に屈曲させてかしめ部22を形成する。これにより、コア支持部材3に対するロータコア2の軸方向Lへの移動を規制する。
【0026】
このようにロータコア2を嵌合させることで、ロータコア2の内周面F2の直径D3が、特定領域A4の直径D1と同じ又は特定領域A4の直径D1より小さくなるように、且つ、一般領域A5の直径D2より小さくなるように、収縮しようとする。これにより、ロータコア2と筒状部11とに相互に径方向Rの荷重が作用することになる。この際、筒状部11における支持部12との接続領域A1から離れた領域では、筒状部11が径方向内側R1にわずかに変形することが許容されるため、ロータコア2と筒状部11とに相互作用する径方向荷重が弱まる傾向にある。これに対して、筒状部11における支持部12との接続領域A1に近い領域では、支持部12の存在によって筒状部11が径方向内側R1に変形することができない。
【0027】
しかしながら、本実施形態の構成によれば、特定領域A4の直径D1が、一般領域A5の直径D2よりも小さいため、特定領域A4においてロータコア2と筒状部11とに相互作用する径方向荷重を、一般領域A5よりも直径を小さくした分だけ弱めることができる。そのため、筒状部11の一般領域A5に作用する径方向荷重と特定領域A4に作用する径方向荷重との差を小さくすることができ、その結果、ロータコア2と筒状部11とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りを低減することができている。なお、
図1においては、分り易さのために、ロータコア2の内周面F2と特定領域A4との間に隙間が形成されているように図示しているが、実際は、
図4に示すように、ロータコア2の内周面F2と特定領域A4とは接触しており、隙間は形成されない。
【0028】
2.その他の実施形態
次に、回転電機用ロータの製造方法のその他の実施形態について説明する。
【0029】
(1)上記の実施形態では、支持部12と筒状部11との接続領域A1が、筒状部11の軸方向Lの中央部に対して軸方向Lの一方側に偏った位置に設定されている構成を例として説明した。しかし、支持部12と筒状部11との接続構成は、これには限定されない。例えば、
図5に示すように、支持部12と筒状部11との接続領域A1が、筒状部11における軸方向Lの中央部に設けられた構成としてもよい。
図5に示す例では、特定領域A4は、重複領域A3に対して軸方向Lの両側において、重複領域A3の軸方向Lの端部から筒状部11の径方向Rの厚さD5に相当する長さまでの範囲が確保されている。
【0030】
(2)上記の実施形態では、特定領域A4の軸方向Lの長さD4が、重複領域A3に対して軸方向Lの両側に、筒状部11の径方向Rの厚さD5に相当する長さを加えた長さに設定された構成を例として説明したが、特定領域A4の軸方向Lの長さD4の設定は、これには限定されない。例えば、特定領域A4の軸方向Lの長さD4を、重複領域A3に対して軸方向Lの両側に、筒状部11の径方向Rの厚さより短い長さ、又は、筒状部11の径方向Rの厚さより長い長さを加えた設定としてもよい。また、特定領域A4の軸方向Lの長さD4を、重複領域A3の軸方向Lの長さD3と同じ長さ、又は、重複領域A3の軸方向Lの長さD3より短い長さに設定してもよい。また、特定領域A4の軸方向Lの範囲を、重複領域A3に対して軸方向Lの一方側にのみ延長した範囲に設定してもよい。また、特定領域A4の軸方向Lの範囲を、重複領域A3の軸方向Lの範囲の一部のみを含む範囲に設定してもよい。
【0031】
(3)上記の実施形態では、特定領域A4における一般領域A5と隣接する端部31に、軸方向Lに沿う断面形状が直線状の傾斜面F3を形成した構成を例として説明した。しかし、この特定領域A4の端部31の形状はこれには限定されない。例えば、
図6に示すように、特定領域A4の端部31に、一般領域A5の側へ向かうに従って次第に径方向外側R2へ向かう傾斜が大きくなった後、当該傾斜が次第に小さくなるような湾曲した傾斜面F3(S字状の傾斜面)が形成されていてもよい。或いは
図7に示すように、特定領域A4の端部31に、傾斜面F3が形成されず、段差部F4が形成されていてもよい。
【0032】
(4)上記の実施形態では、ロータコア2が、円環板状に形成されている複数枚の電磁鋼板6を軸方向Lに積層して構成されている例について説明した。しかし、ロータコア2の構成は、これには限定されない。例えば、磁性粉体を用いた焼結コアや圧粉コアによりロータコア2が構成されていてもよい。
【0033】
(5)上記の実施形態では、特定領域A4の周方向の全領域に亘って、特定領域A4の直径D1を一般領域A5の直径D2より小さくした。しかし、特定領域A4の直径D1はこれに限定されない。例えば、特定領域A4に、直径D1が一般領域A5の直径D2と同じ同径領域と、直径D1が一般領域A5の直径より小さい小径領域とが含まれていてもよい。例えば、特定領域A4に同径領域と小径領域とが含まれる場合において、同径領域と小径領域とが周方向に交互に配置されていてもよい。
【0034】
(6)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0035】
3.上記実施形態の概要
以下、上記において説明した回転電機用ロータの製造方法の概要について説明する。
【0036】
ロータコア(2)と、前記ロータコア(2)を支持するコア支持部材(3)と、を備え、前記コア支持部材(3)が、筒状に形成された筒状部(11)と、非回転部材(13)に対して回転可能に支持されて前記筒状部(11)を径方向(R)の内側から支持する支持部(12)と、を備えた回転電機用ロータ(1)の製造方法は、前記支持部(12)が、前記筒状部(11)における軸方向(L)の一部の領域である接続領域(A1)に接続されていると共に、前記接続領域(A1)から前記径方向(R)の内側に延在するように形成され、前記筒状部(11)の外周面(F1)における、前記径方向(R)に沿う径方向視で前記ロータコア(2)と重複する部分を嵌合面部(A2)とし、前記嵌合面部(A2)における前記径方向視で前記接続領域(A1)と重複する重複領域(A3)を含む特定領域(A4)の直径(D1)が、前記嵌合面部(A2)における前記特定領域(A4)以外の領域である一般領域(A5)の直径(D2)より小さく形成された、前記コア支持部材(3)を用い、前記ロータコア(2)の内周面(F2)の直径(D3)が前記一般領域(A5)の直径(D2)よりも大きくなるように前記ロータコア(2)を膨張させた状態で、前記コア支持部材(3)を前記ロータコア(2)に対して前記径方向(R)の内側に挿入し、その後、前記ロータコア(2)を前記筒状部(11)に対して相対的に収縮させて、前記筒状部(11)の前記外周面(F1)と前記ロータコア(2)の前記内周面(F2)とを嵌合させる。
【0037】
本構成によれば、筒状部(11)におけるロータコア(2)と径方向視で重複する嵌合面部(A2)のうち、径方向視で支持部(12)との接続領域(A1)と重複する重複領域(A3)を含む特定領域(A4)の直径(D1)が、一般領域(A5)の直径(D2)よりも小さいため、筒状部(11)の外周面(F1)とロータコア(2)の内周面(F2)とを嵌合させた状態で、特定領域(A4)においてロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重を、一般領域(A5)よりも直径を小さくした分だけ弱めることができる。そのため、筒状部(11)の一般領域(A5)に作用する径方向荷重と特定領域(A4)に作用する径方向荷重との差を小さくすることができ、その結果、ロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りを低減することができる。
【0038】
ここで、前記ロータコア(2)と前記コア支持部材(3)とが同じ温度の状態で、前記特定領域(A4)の直径(D1)は、前記ロータコア(2)の内周面(F2)の直径(D3)以上であり、前記一般領域(A5)の直径(D2)は、前記ロータコア(2)の内周面(F2)の直径(D3)より大きいと好適である。
【0039】
本構成によれば、筒状部(11)の外周面(F1)とロータコア(2)の内周面(F2)とを嵌合させた状態で、筒状部(11)の外周面(F1)における特定領域(A4)と一般領域(A5)とを含む嵌合面部(A2)の全体を、ロータコア(2)の内周面(F2)と接触させることができる。従って、上記のようにロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りを低減しつつ、コア支持部材(3)の筒状部(11)とロータコア(2)との締結力を適切に確保することができる。
【0040】
また、前記特定領域(A4)の前記軸方向(L)の長さ(D4)は、前記重複領域(A3)の前記軸方向(L)の長さ(A3)より長く設定されていると好適である。
【0041】
本構成によれば、軸方向(L)において重複領域(A3)より広い範囲を特定領域(A4)とすることになる。これにより、支持部(12)の存在によってロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重が大きくなり易い領域を特定領域(A4)に含め易くなる。従って、ロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りをより低減することができる。
【0042】
また、前記特定領域(A4)は、前記重複領域(A3)の全体を含むように設定されていると好適である。
【0043】
本構成によれば、径方向視で接続領域(A1)と重複する重複領域(A3)の全体を含むように特定領域(A4)の範囲が設定されることになる。これにより、支持部(12)の存在によってロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重が大きくなり易い重複領域(A3)を特定領域(A4)に含めることができる。従って、ロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りを適切に低減することができる。
【0044】
また、前記特定領域(A4)の前記軸方向(L)の長さ(D4)は、前記重複領域(A3)に対して前記軸方向(L)の両側に、前記筒状部(11)の前記径方向(R)の厚さ(D5)に相当する長さを加えた長さに設定されていると好適である。
【0045】
本構成によれば、径方向視で接続領域(A1)と重複する重複領域(A3)に加えて、その軸方向(L)の両側にあって支持部(12)の存在による影響を受ける領域までを特定領域(A4)とすることになる。これにより、支持部(12)の存在によってロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重が大きくなり易い領域を適切に特定領域(A4)に含めることができる。従って、ロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りをより適切に低減することができる。
【0046】
また、前記特定領域(A4)の前記軸方向(L)の長さ(D4)は、前記重複領域(A3)に対して前記軸方向(L)の一方側に、前記筒状部(11)の前記径方向(R)の厚さ(D5)に相当する長さを加えた長さに設定されていると好適である。
【0047】
本構成によれば、径方向視で接続領域(A1)と重複する重複領域(A3)に加えて、その軸方向(L)の一方側にあって支持部(12)の存在による影響を受ける領域までを特定領域(A4)とすることになる。これにより、重複領域(A3)に対して軸方向(L)の一方側において、支持部(12)の存在によってロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重が大きくなり易い領域を特定領域(A4)に含めることができる。また、特定領域(A4)における、重複領域(A3)に対して軸方向(L)の一方側とは反対側に存在する領域が、軸方向(L)の幅を厚さ(D5)に相当する長さより短くなるように、筒状部(11)に対して支持部(12)を接続する等、支持部(12)の筒状部(11)に対する接続位置の自由度を高めることができる。従って、ロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りを適切に低減することができながら、支持部(12)の筒状部(11)に対する接続位置の自由度を高めることができる。
【0048】
また、前記特定領域(A4)における前記一般領域(A5)と隣接する端部(31)に、前記一般領域(A5)の側へ向かうに従って直径(D1)が次第に大きくなるように傾斜面(F3)が形成されていると好適である。
【0049】
本構成によれば、特定領域(A4)と一般領域(A5)との境界部分に、ロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重が大きい領域が生じる可能性を低減できる。従って、ロータコア(2)と筒状部(11)とに相互作用する径方向荷重の軸方向位置による偏りを更に適切に低減することができる。
【0050】
また、前記ロータコア(2)の膨張を、前記ロータコア(2)を前記コア支持部材(3)よりも高温に加熱することで行うと好適である。
【0051】
本構成によれば、熱膨張を利用して、ロータコア(2)の内周面(F2)の直径(D3)が一般領域(A5)の直径(D2)よりも大きくなるようにロータコア(2)を膨張させることができる。またその後、コア支持部材(3)をロータコア(2)に対して径方向(R)の内側に挿入し、前記ロータコア(2)を冷却させることで、ロータコア(2)を筒状部(11)に対して相対的に収縮させて、筒状部(11)の外周面(F1)とロータコア(2)の内周面(F2)とを嵌合させることができる。すなわち、本構成によれば、いわゆる焼嵌めによって、筒状部(11)とロータコア(2)とを適切に嵌合させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示に係る技術は、ロータコアと、前記ロータコアを支持するコア支持部材と、を備えた回転電機用ロータの製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:回転電機用ロータ
2:ロータコア
3:コア支持部材
11:筒状部
12:支持部
13:ケース(非回転部材)
A1:接続領域
A2:嵌合面部
A3:重複領域
A4:特定領域
A5:一般領域
D1:特定領域の直径
D2:一般領域の直径
D3:内周面の直径
D4:長さ
D5:厚さ
F1:外周面
F2:内周面
F3:傾斜面
L:軸方向
R:径方向