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特許7416784第四アンモニウム塩を用いた5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造及び分離法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】第四アンモニウム塩を用いた5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造及び分離法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/46 20060101AFI20240110BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20240110BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20240110BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20240110BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20240110BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20240110BHJP
   C07D 307/48 20060101ALI20240110BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C07D307/46
B01D61/02 500
B01D61/04
B01D61/14 500
B01D61/44 500
B01D61/58
C07D307/48
C07B61/00 300
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021524114
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2019068860
(87)【国際公開番号】W WO2020011996
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】102018000007204
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】592081988
【氏名又は名称】ノバモント・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】NOVAMONT SOCIETA PER AZIONI
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】カプッツィ,ルイジ
(72)【発明者】
【氏名】カロテヌート,ジュゼッピーナ
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ,アドリアーノ
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532339(JP,A)
【文献】特表2017-505310(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067785(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 307/46
B01D 61/02
B01D 61/04
B01D 61/14
B01D 61/44
B01D 61/58
C07D 307/48
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒の不在下で行われる、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の製造及び分離法であって、
1)6個の炭素原子を有する単糖類ならびに6個の炭素原子を有する単位から形成される二糖類、オリゴ糖類及び多糖類、又はこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の糖を、水及び少なくとも一種の第四アンモニウム塩の存在下、80~130℃の温度で脱水し、第四アンモニウム塩、HMF及び全ての未反応糖を含む反応混合物を得る工程と;
2)前記反応混合物を、ナノ濾過、逆浸透、電気透析及びそれらの組合せからなる群から選ばれる少なくとも一つの膜分離操作に付し、HMFを含む水性透過液及び第四アンモニウム塩を含む保持液を得る工程と
を含む方法
【請求項2】
工程2)が一つ又は複数のナノ濾過操作を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、工程2)の前に、高分子量化合物を除去するための予備精製工程を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記予備精製工程が、デカンテーション、遠心分離、精密濾過又は限外濾過から選ばれる一つ又は複数の操作を含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
工程1)の終了時、分離工程2)の前に、反応混合物を水で希釈する工程を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第四アンモニウム塩が式RR’Nを有し、式中、
- Rは、同じ又は異なり、置換又は非置換C-C16アルキル基を表し;
- R’は、水素、置換又は非置換C-C16アルキル基、置換又は非置換単環式アリール基からなる群に属し;
- Xは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、水酸化物、BF 及びPF から選ばれるアニオンを表す、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第四アンモニウム塩が220g/mol以上の分子質量を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程2)の膜がナノ濾過膜である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程1)の開始時における第四アンモニウム塩と糖との間の重量比が5:1未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記糖がフルクトースであり、工程1)の開始時、水が第四アンモニウム塩とフルクトースの合計に対して10重量%未満の量で存在している、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程1)が酸触媒の存在下で実施される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程1)の反応時間が1分~240分を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
HMFの組成物であって、前記HMFの純度が98.5重量%より高く、少なくとも一種の第四アンモニウム塩を、窒素原子に換算して、HMFの重量に対して0より多い量かつ0.25重量%未満の量で含むHMFの組成物。
【請求項14】
前記組成物がさらに、出発糖の脱水反応の副産物として形成される、有機酸、少なくとも1個のケト又はアルデヒド官能基を有する化合物(HMFとは異なる)、二量体、オリゴマー及びフミンからなる群から選ばれる一種又は複数種の成分を、HMFの重量に対して合計1重量%未満の量で含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物がフルフラールを含み、フルフラールとHMFとの間の重量比が0.10%未満である、請求項13~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、HMFの重量に対して3重量%未満の量のフルクトースを含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
2,5-フランジカルボン酸への酸化のための、請求項13~16のいずれか1項に記載のHMFの組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に至ったプロジェクトは、欧州連合ホライズン2020研究・イノベーションプログラム(European Union Horizon 2020 research and innovation programme)の一環として、合意書番号(Grant Agreement No.)第745766号の下、新バイオ産業共同事業官民パートナーシップ(Bio Based Industries Joint Undertaking Public-Private Partnership)から資金提供を受けた。
【0002】
本発明は、第四アンモニウム塩を用いて糖から5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を製造及び分離するための方法に関する。
特に、本発明は、高純度の5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が高収率で糖から製造及び分離できる効率的な方法に関する。
【背景技術】
【0003】
HMFは、再生可能資源から、例えば2,5-フランジカルボン酸、2,5-ジメチルフラン及び2,5-(ジヒドロキシメチル)フランなどのいくつかの有用な中間体を得るための非常に重要な材料である。
【0004】
HMFを得るための最も直接的な合成経路は、フルクトース及びグルコースなどの6個の炭素原子を有する単糖類、又はこれらから誘導されるサッカロース(ショ糖)及びイヌリンなどの二糖類及び多糖類の酸触媒脱水で、単糖単位あたり3個の水分子の除去によってHMFが得られる。
【0005】
12 → HMF + 3H
変換は様々な種類の溶媒中で実施できる。すなわち、水、非プロトン性双極性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド)、水と有機溶媒(例えば、2-ブタノール、4-メチル-2-ペンタノン)を含む二相系、イオン性液体(例えば、N-メチル-2-ピロリドン、メチルスルホネート、1-エチル-3-メチルイミダゾールクロリド、1-ブチル-3-メチルイミダゾールクロリド、1-ブチル-3-メチルイミダゾールテトラフルオロボレート)などの溶媒中である。
【0006】
変換を実施するために様々な触媒系がこれまで使用されてきた。例えば、無機酸タイプの酸触媒、酸イオン交換樹脂、ゼオライト、担持ヘテロポリ酸、金属塩化物(例えば、FeCl、CrCl、SnCl)などである。
【0007】
しかしながら、触媒の酸性度は、HMFの再水和とその後のフラグメント化によるレブリン酸及びギ酸の生成、あるいはそのオリゴマー化又はポリマー化による更なる副産物の生成にも有利に働きうる。これらの副産物は全体的な反応収率の低下の一因となる。
【0008】
アルキルアンモニウム塩も最近この種の反応のための触媒又は溶媒として提案されており(中国特許出願公開第101811066号;“Tetrahedron Letters”,53,2012,pp.983-985;“Carbohydrate Research”,346,2011,pp.2019-2023)、HMFの収率は使用される出発糖に応じて45%から70%の範囲である。
【0009】
いずれの場合も、これらの溶媒と触媒のいくつかの組合せを用いて、特にフルクトースからHMFへの良好な変換を得ることができるが、HMFの高い水中溶解度、低い融点(30℃~34℃)及び相対的熱不安定性のために、HMFを反応媒体及び副産物から分離し、そして高純度の単離生成物として得ることは、なお困難なままである。実際、文献に報告されているHMFの収率は、一般的に反応混合物を分析して計算され(例えばHPLCにより)、実際に単離され精製された生成物の量に基づいて決定されたものではない。
【0010】
例えば、ジメチルスルホキシドのような高沸点水溶性溶媒を使用すると、一般的に分別蒸留とその後のカラムクロマトグラフィーによる分離が必要となる。二相有機水/溶媒系、イオン性液体又はアンモニウム塩を使用すると、一般的に生成物を分離及び回収するために相当量の有機溶媒を用いた手間のかかる抽出が必要となる。
【0011】
特別なアルキルアンモニウム塩と特定の触媒との組合せによって高収率のHMFを得ることを可能にするイタリア特許出願公開第2013A000003号に記載されている方法においても、HMF、塩及び触媒を回収し、使用された溶媒をリサイクルするためには複雑な操作がなお必要である。
【0012】
具体的には、これまで文献に記載されている方法は、実験室規模でグラムのオーダーの量の材料を製造するには使用可能であったかもしれないが、工業規模で大量のHMFを製造するには、実用的観点又はプロセス経済学的観点のいずれかから実際不適切である。また、国際特許出願公開第2016/059205A1号に記載されている方法も、HMFを工業規模で合成することを可能にしているが、それでもなお反応生成物を回収するために有機溶媒の使用又は蒸留操作を必要とする。
【0013】
出願人は、今回驚くべきことに、HMFを、糖、第四アンモニウム塩及び水を含む反応混合物を加熱することによって製造することにより、触媒の不在下でも高い反応収率が得られるだけでなく、製造されたHMFを例えば膜濾過操作のような膜分離操作によって反応混合物から容易に分離できることも見出した。糖の脱水工程中及びHMFの分離工程中両方の穏やかなプロセス条件は、HMFから副産物への変換を最小限にすることを可能にする。同時に、膜を用いるHMFの分離操作は有機溶媒がなくても有効であるので、その後の塩の回収操作は結果的にかなり簡素化される。
【0014】
このように、得られる方法は、高純度のHMFを工業規模でも高収率で製造及び分離するのに適切であるほか、有機溶媒の助けを必要としないので、公知方法と比べて環境的観点からもプロセス経済学的観点からも更なる利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】中国特許出願公開第101811066号
【文献】イタリア特許出願公開第2013A000003号
【文献】国際特許出願公開第2016/059205A1号
【非特許文献】
【0016】
【文献】“Tetrahedron Letters”,53,2012,pp.983-985
【文献】“Carbohydrate Research”,346,2011,pp.2019-2023
【発明の概要】
【0017】
そこで、本発明の一つの目的は、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の製造及び分離法であり、該方法は、
1)6個の炭素原子を有する単糖類及び6個の炭素原子単位から形成される二糖類、オリゴ糖類もしくは多糖類、又はこれらの混合物を含む群、あるいはそれらからなる群から選ばれる少なくとも一種の糖を、水、少なくとも一種の第四アンモニウム塩、及び任意に酸触媒の存在下、80℃~130℃の温度で、好ましくは撹拌を続けながら1分~240分間脱水し、第四アンモニウム塩、HMF及びおそらくは未反応糖を含む反応混合物を得る工程と;
2)前記反応混合物を、ナノ濾過、逆浸透、電気透析及びそれらの組合せからなる群から選ばれる膜を用いる一つ又は複数の分離操作に付し、HMFを含有する水性透過液及び第四アンモニウム塩を含む保持液を得る工程と
を含み、脱水工程1)及び工程2)の分離操作のどちらも有機溶媒の不在下で行われる。
【0018】
工程2)で得られた、第四アンモニウム塩、何らかのおそらくは未反応糖及び任意の酸触媒を含む保持液は、好都合なことに、そのものとして、又はまず洗浄及び/又は様々な精製処理を受けた後、適切な量の新鮮な糖及び水を加え、方法の工程1)で再使用することができる。
【0019】
工程2)で膜分離を用いて実施される前記分離操作を通じて、保持液中の相当量の塩を有機溶媒の不在下で効果的に分離できるので、その後のHMF精製操作が実質的に簡素化される。
【0020】
工程2)の前記分離操作は、フルクトースが出発糖として使用されるとさらに簡素化される。フルクトースは実際、工程1)中に実質的に完全にHMFに変換されるので、脱水副産物の形成をさらに削減し、透過液中のHMFの収率及び純度を改良するのに役立つ。
【0021】
最小量の第四アンモニウム塩と二次的成分は、本発明による方法を通じて得られたHMF組成物を、例えばフランジカルボン酸などの酸化誘導体を高純度で製造するための出発物質として使用するのに特に適切なものにする。次に、この後者の酸化誘導体は、例えば重合反応のモノマーとして都合よく使用できる。
【0022】
そこで、本発明はHMF組成物にも関し、該組成物中の前記HMFの純度は98.5重量%より高く、前記組成物は少なくとも一種の第四アンモニウム塩を、窒素原子に換算して、HMFの重量に対して0より多い量、好ましくは0.001%より多い量、かつ0.25%未満の量、好ましくは0.15%未満の量、なおさらに好ましくは0.02%(いずれも重量%)未満の量で含む。HMFの純度は、例えば外部較正を用いたHPLC/UV分析によって決定される。例えば、HPLC/UV分析は、“Phenomenex Gemini NX-C18”タイプのカラム(150mm×3.0mm×5μm;流量:0.5mL/分;カラム温度:30℃)と、溶離液として(A)1体積%のHCOOH水溶液及び(B)アセトニトリルを下記グラジエント:
【0023】
【化1】
【0024】
で用いて実施できる。
窒素含量は、例えば、元素分析又は導電率インジケーターを用いるイオンクロマトグラフィー分析(IC-CD)によって決定される。第四アンモニウム塩由来の窒素の量は、例えば、Metrosep C4-100タイプのカラム(100mm×4.0mm×5μm;流量:1.0mL/分;カラム温度:30℃)と、溶離液として硝酸水溶液(7.5mmol/L)と20%v/vアセトニトリルの混合物を用いるIC-CDクロマトグラフィー分析を実施し、外部標準に対するアンモニウムカチオンの定量化後、化学量論的に決定できる。
【0025】
本発明の主題を形成する前記HMF組成物は、さらに任意に、出発糖の脱水反応で副産物として形成される、有機酸、少なくとも1個のケトン又はアルデヒド官能基を有する化合物(HMF以外)、二量体、オリゴマー及びフミンを含む群から選ばれる一つ又は複数の成分を含み、前記成分は、好都合なことに、HMFの重量に対して、全体で例えば0.0001%~1%以下、好ましくは0.5%以下、なおさらに好ましくは0.2%(いずれも重量%)以下の量で存在する。
【0026】
そのような成分の例は、レブリン酸、フリル-ヒドロキシメチルケトン、酢酸、ギ酸、ジヒドロキシ-酢酸、ジヒドロキシアセトン、ヒドロキシ[5-ヒドロキシメチル)フラン-2-イル]酢酸、4-ヒドロキシペンタ-3-エン酸(4-hydroxypent-3-enoic acid)、2-ヒドロキシ酢酸、3-メチルブタン酸、2-ケト-グルコン酸、5-ヒドロキシ-3-メチルヘキサ-3,5-ジエン酸、3-メチル-5-ケト-3-ヘキサン酸、(3z)-4-ヒドロキシペンタ-3-エン酸、3-(2H)-フラノン、2-ケトグルコン酸、3-メチルグルコン酸、フルフラール、ジフルクトース二無水物、5,5’-(オキシメタンジイル)ジフラン-2-カルバルデヒド、フルクトピラノース、2,6-アンヒドロ-β,δ-フルクトフラノースである。
【0027】
本発明によるHMF組成物中のフルクトース含量(製造工程の残留物として存在しうる)は、好都合なことに、HMFの重量に対して3重量%以下、好ましくは2重量%以下、さらに好ましくはHMFの重量に対して1重量%以下である。フルクトース含量は、例えば、Metrosep Carb 2(250mm×4.0mm×5μm;流量:0.7mL/分;カラム温度30℃)のようなカラムとNaOH水溶液のアイソクラティック溶離を用いるIC-PAD分析によって決定できる。
【0028】
一つの特に有利な側面に従って、本発明による方法によって得られるHMF組成物は、フルフラールをHMFの重量に対して0.10重量%以下、さらに好ましくは0.05%以下、なおさらに好ましくは0.025%以下の量で含有する。フルフラールは実際、容易に酸化されて2-フランカルボン酸になる。これは、重合過程における制限不純物(limiting impurity)で、鎖の末端メンバーとして作用する。
【0029】
重合過程における更なる制限不純物はフリルヒドロキシメチルケトンを含み、本発明による方法によって得られた組成物中のHMFに対するその重量パーセンテージは、好ましくは1%以下、好ましくは0.5%以下、なおさらに好ましくは0.2%以下である。
【0030】
前記HMF組成物を水溶液の形態で得ることは、例えば有機溶媒の除去のような予備処理が必要ないので、例えばEP 2 601 182 B1(欧州登録特許)に記載されている方法のように、水性環境中及び酸素(又は酸素含有ガス)と適切な触媒の存在下でフランジカルボン酸を製造するための方法に使用するのに特に好都合である。
【0031】
そのようなHMFの酸化法は、金属触媒(例えば白金族に属するもの、すなわち白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム)の存在を必要とするが、これらはHMF組成物中の相当量の窒素の存在によって阻害されうる。何らかの理論に縛られるのではないが、窒素化合物はそのような貴金属と錯体を形成できるので、触媒を阻害し、2,5-フランジカルボン酸に対するその選択性を低下させると考えられている。
【0032】
そこで、本発明の別の目的は、2,5-フランジカルボン酸を好ましくは水性環境中及び酸素(又は酸素含有ガス)と金属触媒の存在下で製造するためのHMF組成物の使用であって、該組成物は、98.5重量%を超える前記HMFの純度を有し、少なくとも一種の第四アンモニウム塩を、窒素原子に換算して、HMFの重量に対して0より多い量、好ましくは0.001%より多い量、かつ0.25%未満の量、好ましくは0.15%未満の量、なおさらに好ましくは0.02%(いずれも重量%)未満の量で含む。
【0033】
次に、本発明によるHMFの合成法をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本方法による脱水によってHMFを得るために使用できる糖の例は、フルクトース、グルコース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、サッカロース、マルトース、ラクトース、セロビオースなどの二糖類、3単位~10単位のフルクトースを含有するオリゴフルクトースなどのオリゴ糖類、及びフルクタン(例えばイヌリン)、デンプン、セルロースなどの多糖類である。
【0035】
オリゴフルクトースの具体例は式GFnを有するもので、式中、Gはグルコース単位、Fはフルクトース単位、そしてnは3~10のフルクトース単位の数を表す。
好適な多糖類は、プロセス温度(すなわち80℃~130℃)で水に可溶性の、例えばイヌリンのような多糖類である。しかしながら、水に難溶性又は不溶性のオリゴ糖類及び多糖類も、好ましくは事前の加水分解処理後、例えば酸又は酵素加水分解の後に使用できる。
【0036】
本発明による方法で好適に使用される糖は、フルクトース、グルコース、サッカロース、イヌリン又はそれらの混合物を含む群、あるいはそれらからなる群から選ばれる。
一つの特に好適な糖はフルクトースである。混合物の中では、互いに異なる糖の混合物、例えばイヌリンの加水分解から誘導されたもの、特にグルコースとフルクトースの混合物が好適である。
【0037】
本発明による第四アンモニウム塩に関する限り、式RR’Nの第四アンモニウム塩が好適である。式中、
- Rは、同じでも又は異なっていてもよいが、置換又は非置換C-C16アルキル基を表し;
- R’は、水素、置換又は非置換C-C16アルキル基、置換又は非置換単環式アリール基を含む群に属し;
- Xは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、水酸化物、BF 、PF から選ばれるアニオンを表す。
【0038】
R基は、好ましくはC-Cアルキル基から選ばれ、同じでも又は異なっていてもよく;メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル及びイソブチル基が好適である。
R’は、好ましくは、水素(H)及び直鎖又は分枝鎖の置換又は非置換C-C16アルキル基から選ばれ;メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ベンジル、フェニル、ヘキシル、オクチル、ドデシル及びペンタデシル基が好適である。
【0039】
可能性あるR及びR’アルキル基の置換基は、好ましくは、ハロゲン、炭素基(carbonic group)、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、RR’N基から選ばれる。
【0040】
は、ハロゲン化物又は水酸化物アニオンを表す。
本発明の一側面によれば、220g/mol以上、好ましくは250g/mol以上、なおさらに好ましくは270g/mol以上のモル質量を有する第四アンモニウム塩が好適である。
【0041】
都合よく使用される第四アンモニウム塩は、フッ素化及び非フッ素化鎖を有するテトラアルキルアンモニウム塩、不斉脂肪族及び非脂肪族基を有するアンモニウム塩、ビス第四アンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩を含む群から選ばれる。これらのうち、テトラアルキルアンモニウム塩が特に好適である。
【0042】
本発明による方法で都合よく使用できるテトラアルキルアンモニウム塩は、テトラアルキルアンモニウムのハロゲン化物又は水酸化物で、好ましくは、C-C15、さらに好ましくはC-Cアルキル基を有し、任意にヒドロキシル基で置換されていてもよい。好適なテトラアルキルアンモニウム塩は塩化物及び臭化物で、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、(2-ヒドロキシエチル)トリメチル-アンモニウムクロリド(コリンクロリド)、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド及びテトラブチルアンモニウムブロミドなどである。臭化物が特に好適である。
【0043】
テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド及びテトラブチルアンモニウムブロミドが特に好適である。
本発明の一側面によれば、好適なテトラアルキルアンモニウム塩はテトラブチルアンモニウムブロミドである。
【0044】
本発明による方法で使用するための糖と第四アンモニウム塩との間の重量比は、好ましくは1:10~3:1、さらに好ましくは1:6~2:1、なおさらに好ましくは1:5~1:1の範囲である。工程1)の出発時点の第四アンモニウム塩と糖との間の重量比は5:1以下が好都合である。
【0045】
糖と第四アンモニウム塩は、脱水工程1)に、任意の順序及び同じ又は異なる温度で、任意に水及び/又は触媒の存在下で供給できる。例えば、糖と第四アンモニウム塩を互いに接触させ、予備混合してプレミックスにしてから脱水工程に供給することもできる。
【0046】
本発明による方法の一側面によれば、プレミックスを生成させる前記予備混合は、脱水温度未満の温度、好ましくは周囲温度(20℃及び1気圧)~90℃、さらに好ましくは60℃~90℃、なおさらに好ましくは70℃~90℃、なおさらに好ましくは80℃~90℃の範囲内の温度で、均一混合物が得られるまで実施される。
【0047】
別の側面によれば、プレミックスを生成させる前記予備混合は、糖及び/又はアンモニウム塩を反応温度に等しい又はそれより高い温度、好ましくは80℃~100℃の範囲に上げてから実施される。予備混合は、塩を90℃以上の温度に上げてから実施されるのが好都合である。この場合、アンモニウム塩を90℃~100℃の範囲の温度に、都合よくは使用される塩に対して1%~50%、好ましくは1.5%~40%、さらに好ましくは2%~30%、なおさらに好ましくは2%~20%(いずれも重量%)の量の水の存在下で加熱し、その後、糖(任意に糖を溶液状態に維持するのに足る量の水と予備混合されている)を加えるのが好適である。
【0048】
代替として、第四アンモニウム塩と糖を別々に脱水工程に供給することもできる。この場合、それぞれ反応温度に等しい温度で供給されるのが好都合である。あるいは、二つのうちの一つ(好ましくは塩)を反応温度より高い温度に予熱し、他方を低い温度で加えるというのでもよい。
【0049】
第四アンモニウム塩と糖を別々に脱水工程に供給する場合と、第四アンモニウム塩と糖を事前に一緒に予備混合する場合のどちらも、本発明の好適な側面によれば、糖と塩の少なくとも一つは水と予備混合されてから脱水工程に供給される。
【0050】
脱水工程中の反応混合物の水分含量は、系を流体状態にしておくことができるようなものでなければならないが、HMFの再水和現象を促進して結果的にレブリン酸及びギ酸に分解するようなものであってはならない。
【0051】
当業者であれば、使用される糖及び塩に基づいて、必要な水の量を容易に決定することができる。例えば、フルクトースとテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)が使用される本発明の一つの好適な側面によれば、工程1)の出発時点で水は第四アンモニウム塩と前記フルクトースの合計に対して10重量%以下で存在する。この量の水を塩及び/又は糖にそれらを加熱する前に加えるのが好都合である。
【0052】
本発明による方法の工程1)は、脱水工程の前に第四アンモニウム塩と糖の少なくとも一つを予熱する予備工程を先に行うのが好都合である。前記脱水は好ましくは90℃~120℃の温度で実施される。
【0053】
本願によれば、工程1)は“脱水工程”、工程2)は“分離工程”と呼ばれる。
脱水工程は、分離工程のように有機溶媒を添加せずに実施されるので、HMFを製造及び単離する全工程で有機溶媒の存在が不要である。
【0054】
本発明によれば、“有機溶媒の不在”という表現は、HMFの重量に対して5重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下の量の有機溶媒しか存在し得ないことを意味する。
【0055】
第四アンモニウム塩と糖が高融点であるにもかかわらず、本方法の操作条件下で反応混合物は70℃~90℃付近で共融点が形成されるため、固体ではなく流体の形態である。このことは、一つの可能性ある予熱領域からの混合物の移動と、脱水工程へのその供給も容易にする。方法が連続的に実施される場合、糖と塩は、脱水工程が実施される反応器とは別の反応器内で予備混合及び予熱されるのが実際好都合である。予熱された流体混合物はその後、通常のポンプ装置を用いて工程1)の反応器(一つ又は複数)に都合よく供給できる。方法がバッチモードで実施される場合、前記予熱及び脱水工程は、同じ反応器で実施されるのが好都合である。
【0056】
脱水工程1)中、反応混合物は、好ましくは80℃~120℃の範囲内の温度で、典型的には1分~240分間の反応時間の間、撹拌され続ける。脱水工程は、例えば窒素下などの不活性環境中でも好適に実施される。
【0057】
脱水工程は、反応時間を短くし、高温に伴う分解生成物の形成を回避するために、85℃~110℃の温度で実施されるのが好都合である。添加触媒なしで操作する場合、温度は、その代わりに95℃~120℃、さらに有益には100℃~120℃の値に保持される。
【0058】
脱水工程の時間は操作様式に基づいて変動する。脱水工程がバッチモードで実施される場合、反応時間は、より好ましくは10分~120分間である。連続的に実施される場合、脱水反応器(一つ又は複数)内での保持時間は、好ましくは1分~120分間、さらに好ましくは2分~90分間である。
【0059】
操作は、大気圧(1bar)又はわずかに高い圧力、好ましくは5barまで、例えば2又は3barで実施されるのが好都合である。別の態様によれば、圧力は、1bar(0.1MPa)未満、例えば400~900ミリバール(0.04~0.09MPa)の値に保持して、反応環境から一部の水を除去することもできる。
【0060】
好適な態様によれば、本発明による方法は、脱水工程1)の前に、糖と水を40℃~70℃の温度、さらに好ましくは55℃~65℃の温度で予備混合する工程を含む。この予備混合操作は、そのような温度での糖の増大した溶解度を利用して、出発物質を脱水工程に連続的に供給し、使用される水の量を低減することを可能にする。前記連続的態様によれば、難溶性又は不溶性の多糖類と水の予備混合は、例えば酸又は酵素を用いた予備的加水分解操作の後に行われるのが好都合である。
【0061】
より高温(例えば105℃~110℃)で操作すると、糖からHMFへの良好な変換(例えば90%より高い)が触媒の不在下でも達成できる。適切な酸触媒の存在下で操作すると、反応温度及び時間が実質的に低減され、HMFの分解の可能性がさらに限定的になる。
【0062】
前記触媒は、脱水工程中に供給されても又は脱水工程の前に第四アンモニウム塩及び/又は糖と予備混合されてもよい。好ましくは、それは脱水工程に供給される前に水と予備混合される。
【0063】
原則的に本発明による方法で使用できる酸触媒は、ブレンステッド酸及びルイス酸などである。無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸)、有機酸(例えば、シュウ酸、レブリン酸、マレイン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸)、酸イオン交換樹脂(例えば、Amberlyst(登録商標)、Lewatit(登録商標)、Diaion(登録商標)タイプのもの)、ゼオライト(例えばTiOで改質されたもの)、ヘテロポリ酸(例えばリンタングステン酸)(シリカ又はアルミナ上に担持されていてもよい)、金属酸化物(例えば、二酸化チタン(IV)、酸化ジルコニウム)(シリカ又はアルミナ上に担持されていてもよい)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化亜鉛、三塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化クロム、三フッ化ホウ素)、金属リン酸塩(例えば、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン)、及びドープされた水酸化ジルコニウム(例えば、硫酸塩及びタングステン酸塩)が使用できる。
【0064】
例えば上記の無機酸又は有機酸のような均一触媒が使用される場合、前記触媒は典型的には水性透過液中に残るので、公知技術を用いる分離及び精製処理により、そこからそれらを回収できる。不均一タイプの触媒、すなわち反応環境に不溶性の触媒が使用される場合、前記触媒は典型的には保持液中に残るので、回収し、可能な精製及び/又は再活性化処理後、再度脱水工程に戻すことができる。
【0065】
脱水反応の収率を最大化するために特に好適な酸触媒は、無機酸、リン酸ジルコニウムZr(HPO、リン酸チタンTi(HPO、シリカに担持された二酸化チタン(IV)TiO、及びシリカに担持されたリンタングステン酸H[P(W10]を含む群から選ばれる。無機酸のうち、硝酸及び硫酸が特に好適である。
【0066】
本発明の一側面によれば、方法の脱水工程は、下記群から選ばれる少なくとも一種の酸触媒の存在下で実施される。
i)150m/g~900m/gの比表面積を有するシリカに担持され、150℃~900℃の温度で焼成された二酸化チタン(IV)、TiO
ii)150m/g~900m/gの比表面積を有するシリカに担持され、150℃~900℃の温度で焼成されたリンタングステン酸、H[P(W10];
iii)リン酸ジルコニウム、Zr(HPO
iv)リン酸チタン、Ti(HPO
【0067】
タイプi)の触媒は、例えば、Inorganica Chimica Acta,2012,380,pp.244-251に記載されているように、所望の比表面積を有するシリカと、チタンイソプロポキシドの有機溶媒(例えばジオキサン)中溶液から、濾過によって触媒を分離し、所望温度でそれを焼成することによって製造できる。
【0068】
タイプii)の触媒は、所望の比表面積を有するシリカにリンタングステン酸の水溶液を含浸させた後、水を80℃~200℃の範囲内の温度で除去し、所望温度で焼成することによって製造できる。
【0069】
本発明による方法で使用するのに適切な触媒i)及びii)の比表面積は、好ましくは100m/g~350m/gである。比表面積は、S.Brunauer,P.H.Emmett及びE.Teller,J.Am.Chem.Soc.,1938,60,309に記載されているBET法に従って、材料の表面に吸着されたガスの量を測定することによって測定できる。メソポーラス材料の比表面積(50m/g~400m/gの値)は、触媒サンプルを100℃及び10-6トル(およそ0.13MPa)の真空中で一晩脱ガスした後、77K及びP/Po約0.3で吸着された窒素の量を測定し、窒素の横断面積を16.2Åと仮定することによって決定される。マイクロポーラス材料の比表面積(400m/g~1000m/gの値)は、触媒サンプルを100℃及び10-6トル(およそ0.13MPa)の真空下で一晩脱ガスした後、4.2K及びP/Po約0.3で吸着されたヘリウムの量を測定し、ヘリウムの横断面積を1Åと仮定することによって決定される。
【0070】
触媒iii)は、例えば、Chemistry - A European Journal,2008,vol.14,pp.8098に記載のようにして製造できる。
触媒iv)は、例えば、Advanced Materials,1996,8,pp.291-303,又はActa Chem.Scand.,1986,A40,pp.507-514に報告されているようにして製造できる。
【0071】
使用される酸触媒の量は、好ましくは、糖に対して0.1重量%~20重量%、好ましくは0.2重量%~10重量%、好ましくは0.5重量%~2重量%である。担持触媒(i~ii)の場合、活性相(触媒活性を促進できる不活性担体上の化学種と理解される)の量は、糖に対して好ましくは0.4重量%~10重量%である。シリカ上に担持されたリンタングステン酸H[P(W10]の場合、活性相の量は、糖に対して0.5重量%~2重量%であるのが好都合である。
【0072】
脱水工程の反応は、好ましくは、適切な撹拌手段及び加熱手段を備え、効果的な混合をもたらすのに適切で、熱交換のための十分な表面を提供できる一つ又は複数の反応器内で実施される。脱水工程は、同じ又は異なる、そして直列に配置されていてもよい一つ又は複数の反応器内で実施できる。
【0073】
本発明の一側面によれば、工程1)の反応過程中、反応器内の糖/アンモニウム塩の比率が一定に維持されるように、新鮮な糖(おそらくは水と混合されている)を少しずつ供給し、反応の進行に従って系の粘度をモニターする。
【0074】
本発明の一側面によれば、脱水工程1)の終了時、工程2)の膜による分離操作前に、前記第四アンモニウム塩の一部を除去するのが好都合でありうる。この任意の除去は、例えば一つ又は複数の遠心分離又は沈降操作によって実施できる。これによって、塩の一部(そのものとして又は事前の精製操作後に工程1)にリサイクルできる)を迅速に回収することが可能になるだけでなく、その後の分離操作も容易にすることができる。前記除去操作は、低分子量のテトラアルキルアンモニウム塩、例えば250g/mol以下、又は好ましくは220g/mol以下(例えばテトラエチルアンモニウムブロミド)が使用される場合に特に有益である。
【0075】
本発明の一側面によれば、副反応を最小限に抑えるために、所望の糖変換レベルで工程1)の脱水反応を、反応混合物の温度を反応温度未満、すなわち80℃未満、好ましくは60℃未満、さらに好ましくは40℃未満、なおさらに好ましくは周囲温度(20~25℃)以下に下げることによってクエンチングする。
【0076】
一つの有益な態様によれば、脱水工程1)の終了時、分離工程2)の前に、方法は、第四アンモニウム塩、HMF及びおそらくは工程1)由来の未反応糖を含む反応混合物を水で希釈する工程を含む(希釈工程)。添加される水の量は、存在する反応副産物の量及び性質に応じて変動する。希釈は、工程1)の終了時に得られた反応混合物の乾燥重量と水との間の比率が好ましくは1:2.5~1:30(重量比)、さらに好ましくは1:3~1:15(重量比)、なおさらに好ましくは1:5~1:10を達成するように実施されるのが好都合である。脱水生成物中のそのような水分含量は、方法の次の分離工程中にHMFを第四アンモニウム塩から分離することを容易にする。本発明の好適な側面によれば、希釈工程は、2回以上に分割した水を等量又は異なる量で、及び同じ又は異なる温度で反応混合物に添加することを含む。
【0077】
本発明による方法の工程2)で、任意に希釈された反応混合物は、HMFを第四アンモニウム塩から分離するために一つ又は複数の膜分離操作を受ける。前記分離操作は、同じでも又は異なっていてもよいが、ナノ濾過、逆浸透及び電気透析を含む群から選ばれ;ナノ濾過及び電気透析が好適である。工程2)は、順番に又は並行して実施される二つ以上の上記膜分離操作を含むのが好都合でありうる。
【0078】
本発明の好適な側面によれば、任意の希釈の前又は後、いずれにしても分離工程2)の前に、本発明による方法は、脱水工程中に生成した、例えばHMFの分解反応後に生成したフミン及びオリゴマーなどの高分子量化合物を除去するために、脱水生成物を予備精製する任意工程を含む。この予備精製は、工程2)中の膜の過剰汚染の問題を回避するという利点を有する。
【0079】
前記予備精製は、公知技術に従って、例えば、沈降、遠心分離、精密濾過又は限外濾過を含む群から選ばれる一つ又は複数の操作手段によって実施できる。前記精製は、好ましくはセラミック膜を用いる限外濾過によって実施されるのが好都合である。
【0080】
本発明の一つの好適な態様によれば、前記工程2)は、少なくとも一つのナノ濾過膜を用いて実施される一つ又は複数のナノ濾過操作を含む。前記ナノ濾過操作は、HMFより高分子量の化合物、例えばそのオリゴマー及び/又はフミンを除去するために、限外濾過操作を先に行うのが好都合である。
【0081】
本発明の別の好適な態様によれば、前記工程2)は一つ又は複数の電気透析(ED)操作を含む。ED操作は、電気的に中性のHMFから塩(アニオン及びカチオン)を分離するイオン選択性膜を用いて実施される。従って、HMFは供給ストリーム中に回収されるが、塩イオンはブラインストリーム中に回収される。後者は、有益なことに、処理され、脱水工程で再使用できる。第四アンモニウム塩を含有するブラインストリームは、脱水工程で再使用される前に、例えば蒸発によって所望の値にまで濃縮されるのがさらに好都合である。
【0082】
特定の側面によれば、EDは、従来の電気透析装置で、好ましくはモノポーラ膜を用いて実施されるのが好都合である。ED後の供給ストリームはほぼ完全に脱イオン化されたHMFを含有し、単一の共通ストリーム中に回収されたカチオン及びアニオンは、ブライン室に運ばれる。
【0083】
前記ED操作は、その前に、好ましくは精密濾過、限外濾過及びナノ濾過から選ばれる一つ又は複数の濾過操作、例えば、HMFより高分子量の化合物、例えばそのオリゴマー及び/又はフミンを除去するために、限外濾過操作、好ましくはセラミック限外濾過を行うのが好都合である。
【0084】
方法の工程2)で分離操作を受ける混合物の特徴に応じて、当業者であれば、使用されるべき膜の種類を、その原材料、その電気化学的性質及びその多孔度を念頭に置いて選ぶことができる。選択された材料の特性に基づいて、当業者は、各分離操作中の最適な操作pH及び圧力条件を容易に選択でき、また1回又は複数回の透析濾過パス(すなわち、水の添加による保持液の希釈と分離操作の繰り返し)を実施することの望ましさを評価することもできるであろう。
【0085】
例えば、工程2)の分離は、天然由来(例えば、ゴム、多糖類)又は合成由来(例えばポリマー膜)の有機膜、又は例えばセラミック、金属又はガラス膜のような無機膜を用いて効果的に実施できる。
【0086】
有機膜のうち、ポリアミド、ポリイミド、ポリアルキレン、ポリエーテルイミド、ポリアレーンエーテル、ポリ(エーテルケトン)、ポリカーボネート、酢酸セルロース及び誘導体が好適である。適切な有機膜の具体例は、ポリスルホン、芳香族ポリアミド、ポリピペラジンアミド、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリフェニレン、ポリホスファゼン、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルクロリド(PVC)である。
【0087】
等方性(又は対称性)膜及び異方性(又は非対称性)膜及び複合膜も適切である。異方性膜が好適に使用される。
多孔質膜(すなわち1nm~10μmの孔径を有する膜、例えばマクロポーラス>50nm、メソポーラス2nm~50nm、ミクロポーラス1nm~2nm)が本方法では好適に使用される。緻密膜(孔径<1nmを有する)も、特に少なくとも一つの予備的な膜分離操作後に都合よく使用できる。予備精製工程ではマクロ又はメソポーラス膜が好適に使用されるが、HMFを含む透過液を主に第四アンモニウム塩を含む保持液から分離するための操作は(工程2)、好ましくはマイクロポーラス膜又は緻密膜を用いて実施される。工程2)で使用される前記膜は5nm以下の平均孔径を有するのが好都合であり、ナノ濾過操作の場合、2nm(約1000~1200Daの分子量カットオフ又はMWCOに相当)~0.7nm(約120~150Daに相当)、又は逆浸透操作の場合、1nm以下(約150~200Daに相当)の平均孔径を有するのがさらに好都合である。
【0088】
膜は様々な形状に形作ることができる。例えば、平板状、管状、キャピラリー又は中空繊維の形状などである。平膜は、それ自体でフィルタープレス型システム、回転システムに使用されても、又は表面積/占有体積比を増大するためにスパイラル型モジュールに巻き付けられてもよい。
【0089】
本発明による膜分離操作はバッチ又は連続モードで実施できる。状況に応じて、それぞれノーマル(垂直)フロー方式又はタンジェンシャルフロー方式を有する濾過法が好適に使用される。タンジェンシャルフロー方式による膜通過分離操作が好適である。
【0090】
ナノ濾過操作は、ポリスルホン、ポリピペラジン、アミド、ポリアミド、ポリイミドの群から選ばれる材料の膜を用いて、本発明に従って好適に実施される。
電気透析は、例えば、モノポーラ又はバイポーラ技術により、イオン膜を用いて、本発明に従って都合よく実施される。イオン膜は、架橋型又は多孔質のいずれかで、好ましくは、官能基で適切に置換されたポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアレーンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、PBI、ポリホスファゼン、PVDFから選ばれる材料に基づきうる。適用される技術に基づき、様々な構成が可能である。例えば、バイポーラEDは、2室又は3室構成と異なる種類及び数の膜を用いて運転できる。
【0091】
逆浸透は、例えば、芳香族ポリアミド又はポリピペラジンアミドに基づく膜を用いて、本発明に従って都合よく実施される。
本方法の工程2)に先立つ精製操作で有用な限外濾過操作に通常使用される膜の例は、ポリエチレン、PTFE、ポリプロピレン、PAN、酢酸セルロース、PES、PVDFに基づく膜である。
【0092】
分離操作又は工程2)の操作中、混合物は好ましくは周囲温度(20℃~25℃)~50℃、さらに好ましくは35℃~45℃の温度に保持される。
本発明の好適な態様によれば、脱水工程で使用される第四アンモニウム塩は、220g/mol以上、好ましくは250g/mol以上、なおさらに好ましくは270g/mol以上の分子質量を有し、分離工程2)は少なくとも一つのナノ濾過操作を含む。この側面に従って、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド及びテトラブチルアンモニウムブロミドを含む群から選ばれるテトラアルキルアンモニウム塩が特に好適である。なおさらに好適なテトラアルキルアンモニウム塩はテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)である。
【0093】
本発明の別の好適な態様によれば、分離工程2)は、ポリピペラジンアミド膜又は例えば220g/mol未満の低分子量アンモニウム塩さえも容易に分離できるその他の類似膜を用いて実施される濾過操作を含む。この側面に従って、脱水工程1)は、好ましくは、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEAB)、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド及びテトラブチルアンモニウムブロミドを含む群から選ばれるテトラアルキルアンモニウム塩を使用する。なおさらに好適なテトラアルキルアンモニウム塩はテトラエチルアンモニウムブロミド(TEAB)及びテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)である。
【0094】
分離工程2)は、一つ又は複数の工程で実施されることを意図している。HMF分離を最大化するために、新鮮水を保持液に加え、任意に異なる膜を使用して、数回繰り返すことができる。
【0095】
方法の好適な側面によれば、工程2)の膜分離操作は、任意に、例えばクロマトグラフィーによって実施される一つ又は複数の更なる分離操作が後に続いてもよい。
本発明による5-ヒドロキシメチルフルフラールの合成法は、バッチ運転又は連続もしくは半連続モードのいずれかで実施できる。
【0096】
工程2)から得られた透過液は主にHMFと水を含有する。アンモニウム塩の一部、工程1)由来の触媒及びおそらくは未反応糖も含有しているかもしれない。
本発明の一側面によれば、分離工程2)の後、方法は、HMFを含有する水性透過液を濃縮する任意の工程を含む。前記濃縮工程は、存在する水を除去するために、公知技術に従って実施できる。その目的のために、逆浸透、パーベーパレーション(pervaporation)、蒸発、例えば蒸気圧縮式蒸発法(thermocompression evaporation)又は多重効用式蒸発法(multiple effect evaporation)から選ばれる一つ又は複数の操作が都合よく使用できる。例えば、透過液は、HMFから水分を除去するために、好ましくは減圧下で蒸発に付される。水をなるべく迅速に除去することを可能にし、HMFを周囲温度より非常に高い温度での長時間加熱に暴露するのを回避する温度及び圧力条件がなお好適である。好ましくは、前記濃縮工程は、透過液を少なくとも一つの逆浸透操作に付して実施される。
【0097】
工程2)から得られた保持液は主に第四アンモニウム塩と微量のHMFを含有する。工程1)由来の触媒も含有しているかもしれない。何らかのHMF残渣を除去するための精製工程におそらくは付された後、前記保持液は、新鮮な糖、水及び可能性ある別の塩の添加とともに方法の工程1)で再使用できる。この目的のために、水分含量は、再使用の前に、当業者が公知技術手段により、例えば希釈又は蒸発操作の手段により、調整することができる。なおさらに好適な側面によれば、様々な分離操作から得られた保持液は、例えばミキサー内にプールされる。新しい糖と、糖に対して10重量%~250重量%の量の水との混合物をこれらに加え、得られた混合物を再度方法の工程1)に付す。この方法は、方法が連続的に運転されている場合、さらに有益かつ好適である。
【0098】
方法の終了時点で得られたHMFは、一般的に高純度、例えば85%超、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の純度を有し、可能性あるその後の化学変換、例えば2,5-フランジカルボン酸への酸化に許容可能である。あるいは、より高純度が求められる場合、更なる精製法(例えば結晶化による)に付されてもよい。
【0099】
本発明の態様には、以下も含まれる。
態様1 5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の製造及び分離法であって、
1)6個の炭素原子を有する単糖類ならびに6個の炭素原子を有する単位から形成される二糖類、オリゴ糖類及び多糖類、又はこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の糖を、水及び少なくとも一種の第四アンモニウム塩の存在下、80~130℃の温度で脱水し、第四アンモニウム塩、HMF及び全ての未反応糖を含む反応混合物を得る工程と;
2)前記反応混合物を、ナノ濾過、逆浸透、電気透析及びそれらの組合せからなる群から選ばれる少なくとも一つの膜分離操作に付し、HMFを含む水性透過液及び第四アンモニウム塩を含む保持液を得る工程と
を含み、工程1)の脱水及び工程2)の分離操作のどちらも有機溶媒の不在下で行われる方法。
態様2 工程2)が一つ又は複数のナノ濾過操作を含む、態様1に記載の方法。
態様3 前記方法が、工程2)の前に、高分子量化合物を除去するための予備精製工程を含む、態様1~2のいずれかに記載の方法。
態様4 前記予備精製工程が、デカンテーション、遠心分離、精密濾過又は限外濾過から選ばれる一つ又は複数の操作を含む、態様5に記載の方法。
態様5 工程1)の終了時、分離工程2)の前に、反応混合物を水で希釈する工程を含む、態様1~4のいずれかに記載の方法。
態様6 前記第四アンモニウム塩が式R3R’N+X-を有し、式中、
- Rは、同じ又は異なり、置換又は非置換C1-C16アルキル基を表し;
- R’は、水素、置換又は非置換C1-C16アルキル基、置換又は非置換単環式アリール基からなる群に属し;
- X-は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、水酸化物、BF4-及びPF6-から選ばれるアニオンを表す、
態様1~5のいずれかに記載の方法。
態様7 前記第四アンモニウム塩が220g/mol以上の分子質量を有する、態様1~6のいずれかに記載の方法。
態様8 前記工程2)の膜がナノ濾過膜である、態様7に記載の方法。
態様9 工程1)の開始時における第四アンモニウム塩と糖との間の重量比が5:1未満である、態様1~8のいずれかに記載の方法。
態様10 前記糖がフルクトースであり、工程1)の開始時、水が第四アンモニウム塩とフルクトースの合計に対して10重量%未満の量で存在している、態様1~9のいずれかに記載の方法。
態様11 工程1)が酸触媒の存在下で実施される、態様1~10のいずれかに記載の方法。
態様12 工程1)の反応時間が1分~240分を含む、態様1~11のいずれかに記載の方法。
態様13 HMFの組成物であって、前記HMFの純度が98.5重量%より高く、少なくとも一種の第四アンモニウム塩を、窒素原子に換算して、HMFの重量に対して0より多い量かつ0.25重量%未満の量で含むHMFの組成物。
態様14 前記組成物がさらに、出発糖の脱水反応の副産物として形成される、有機酸、少なくとも1個のケト又はアルデヒド官能基を有する化合物(HMFとは異なる)、二量体、オリゴマー及びフミンからなる群から選ばれる一種又は複数種の成分を、HMFの重量に対して合計1重量%未満の量で含む、態様13に記載の組成物。
態様15 前記組成物がフルフラールを含み、フルフラールとHMFとの間の重量比が0.10%未満である、態様13~14のいずれかに記載の組成物。
態様16 前記組成物が、HMFの重量に対して3重量%未満の量のフルクトースを含む、態様13~15のいずれかに記載の組成物。
態様17 2,5-フランジカルボン酸の製造のための、態様13~16のいずれかに記載のHMFの組成物の使用。
次に、本発明による方法を非制限的実施例を基に説明する。
【実施例
【0100】
実施例1
工程1)
350gの水と11.5kgの第四アンモニウム塩(テトラブチルアンモニウムブロミド、TBAB)を、有効容量20L、サーモスタット(温度自動調節)ジャケット付き、そして撹拌手段を備えた容器に徐々に加え、その混合物を80℃の温度に上げた。次いで、5kgのフルクトースを加えた。混合物を撹拌しながら95~100℃に加熱し、50gの5M硫酸水溶液を加えた。混合物は、約15分間の反応時間の間、大気圧に保持された。
【0101】
反応終了後、混合物を1:1の重量比で水に希釈した(クエンチング)。このようにして得られたクエンチング生成物を、HPLC-UVにより、“Phenomenex Gemini NX-C18”の150mm×3.0mm×5μmカラム(流量:0.5mL/分;カラム温度:30℃)と、溶離液として1体積%のHCOOH水溶液(A)とアセトニトリル(B)を、下記グラジエント(表1):
【0102】
【表1】
【0103】
で用いて分析した。
混合物は実質的に、HMF、TBAB、未反応フルクトース、水及び硫酸を含んでいた。反応終了時に得られた混合物中のHMF収率は、外部較正を用いたHPLC分析による測定で、出発フルクトースから得ることが可能な理論値と比較して83重量%であった。次にクエンチング生成物を、クエンチング生成物の重量の約10倍に等しい量の水を周囲温度で加えることにより、さらに希釈した。
【0104】
工程2)
得られた混合物(pH:3.8)を、直径20nm(公称カットオフ20,000Da)の細孔を有するセラミック膜を用い、操作温度25℃~45℃で予備的限外濾過工程に付した(膜表面積:0.36m;透過液流量400L/h/m)。透過工程後に2回の透析濾過工程を実施した。次に、透過液を、公称カットオフ150~300Daのポリアミド膜(膜表面積:2.4m)を25℃~45℃の温度で用い、30barの圧力を印加して行うナノ濾過工程に送った(透過液流量60~10L/h/m)。透過工程後の2回の透析濾過工程により、TBABに対して99.8%の塩分除去率(saline rejection)が達成された。
【0105】
最後に、ナノ濾過工程から得られた透過液を、HMF溶液を濃縮するために、平均温度35℃及び圧力30~35barでポリピペラジンアミド海水膜(膜表面積:2.8m)を用いて行う浸透濾過工程に送った(透過液流量26~20L/h/m)。透過工程後の2回の透析濾過工程により、約60.10g/lのHMFの溶液が得られた。この溶液のHPLC分析により、1重量%未満のTBAB濃度で約81.8%の5-ヒドロキシメチルフルフラールの回収率が確認された。
【0106】
実施例2
実施例1の手順を反復してナノ濾過工程を2回実施した。ナノ濾過の前に、限外濾過工程から得られた透過液のpHをNaOHの添加により約6.5の値に調整した。
【0107】
浸透濾過工程の終了時、得られたHMF組成物を前の実施例1のようなHPLC-UV分析に付したところ、99.8%の純度を示し、フルフラール、ヒドロキシメチルケトン及びレブリン酸の総含量は0.06重量%であった。
【0108】
IC-CDクロマトグラフィーによる該組成物の分析で、0.001重量%の窒素含量が得られた。窒素含量は、Metrosep C4-100カラム(100mm×4.0mm×5μm;流量:1.0mL/分;カラム温度:30℃)と、溶離液として硝酸水溶液(7.5mmol/L)と20%v/vアセトニトリルの混合物を用いてクロマトグラフィー分析を実施し、外部標準によりアンモニウムカチオンを定量化後、化学量論的に決定された。
【0109】
Metrosep Carb 2カラム(250mm×4.0mm×5μm;流量:0.7mL/分;カラム温度30℃)とNaOHの200mM水溶液のアイソクラティック溶離を用いて実施された同じ組成物のIC-PAD分析から、残留フルクトース含量が0.1%であることが判明した。
【0110】
実施例3 比較例
予熱と脱水反応は、撹拌オートクレーブ中で、反応物間で同じ重量比を維持し、WO2016/059205の実施例3に記載されているのと同じ手順に従って実施された。さらに詳しくは、693.8gのテトラエチルアンモニウムブロミド(TEAB)を、有効容量2L、オイルサーモスタットジャケットを備えたバッチ撹拌オートクレーブに供給した。同じオートクレーブに30.3gの蒸留水を加え、恒温槽の温度を100℃に設定した。内部混合物の温度が85℃に上がったら、278.2gのフルクトースをオートクレーブに装填した。予熱中、装填操作は窒素流下で実現された。
【0111】
脱水工程中(WO2016/059205の方法による工程1)、温度97℃で25.7gの水と混合された13.6gの不均一触媒(10%HPW/SiO)からなるスラリーをオートクレーブに装填した。この系はさらに約5分間この温度と圧力に保持されていた。次に真空を23mbarになるまで適用し、水を除去した。触媒の装填から乾燥までのオートクレーブ内での反応時間は約68分であった。生成物は、HMF、TEAB、未反応フルクトースと、水分含量7.13%(残留HOのg数/HMFのg数 残留HO/HMFパーセント重量比)からなるものであった。
【0112】
WO2016/059205の実施例3の分離工程2)にあるように、工程1)で得られた生成物を反応器から取り出して、温度70℃に保持されている容量5Lの第二の撹拌容器(抽出器)に送り、それに約2Lの2-ブタノンを装填した。2時間の混合後、有機相を回収し、真空下(100~300mbar)で10~16μmの多孔度を有するガラス濾過器(sintered glass filter)上に濾過し、抽出HMFを含有する有機溶媒からTEAB及びフルクトースを含有する固相を分離した。
【0113】
次に、HMFを液相から2-ブタノンを蒸発させることによって回収した。蒸発は、約65℃で第一段階400mbar及び第二段階150mbarの2段階で実施した。
約98重量%の純度を有するHMFが約89%の収率で得られた。
【0114】
IC-CDクロマトグラフィーによるHMF組成物の分析で、窒素含量1.05重量%が得られた。窒素含量は、本発明による上記実施例1に記載されているようにアンモニウムカチオンの定量化後に化学量論的に決定された。
【0115】
実施例4
工程1)
容量20Lのバッチ装置で約350グラムの水を90℃の温度に加熱した。水温が90℃に達したら約8kgのテトラエチルアンモニウムブロミド(TEAB)を装置に加え、水と混合した。85~90℃の温度で5kgのフルクトースを混合物に加えた。TEABの完全溶解が観察された。最後に、5M HSOの触媒溶液50gを1.8barの圧力で混合物に加えた。100~103℃への温度上昇が観察された。
【0116】
触媒の添加から始まる反応時間は15分であった。生成物中のHMFは実施例1に記載されているHPLC法を用いて定量化された。
脱水反応の終了時、混合物を水中で希釈して下記組成物を得た(pH=2.1):ヒドロキシメチルフルフラール10wt%及びテトラエチルアンモニウムブロミド(TEAB)22wt%(すなわち、HMF対TEABの重量比は1:2である)。
【0117】
工程2)
電気透析は、AR103/CR67膜からなる10個のセル対(cell-pairs)を有する3室モードで運転されるスタックで実施された。重カチオン膜CR64LMRを陽極に配置し、重アニオン膜AR103QDRを陰極の隣に配置した。スタックには、電極洗浄のための別個のストリーム、すなわち
ストリーム1:出発供給溶液;
ストリーム2:ブライン(出発液体はRO水);
ストリーム3:電極洗浄液(15mS/cmのHSO溶液)
を含有する3個のタンクから3個のポンプを介して供給された。
【0118】
印加電流は7.5アンペアに制限された。
4Lの出発供給溶液(すなわち工程1からの希釈混合物、33%乾燥質量)を供給溶液室に装填した(出発供給液の導電率:29167μs/cm)。工程温度は30℃に保持された。工程中、ブラインと供給溶液の導電率をモニターした。50分後にアンペア数の低下が観察されたが、全溶液の導電率は依然として高く、おそらくは膜汚染を示していた。
【0119】
スタックは初期電圧5Vで運転された。試験はアンペア数が0.5アンペアに降下するまで行われた。試験は最終供給液導電率が9875μS/cmのプラトーに達したら停止された。試験時間は250分であった。
【0120】
工程中の脱塩を確認する目的で、90分(±14200μS/cm)及び120分(±12000μS/cm)時点の中間サンプルを収集した。得られた結果を表2に報告する。
【0121】
【表2】
【0122】
HMF溶液からのTEABrの除去が、最終ブラインストリーム中で79.1%のTEAB回収率で得られた。