(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】エチルベンゼン脱水素触媒活性を維持するためのシステム及びプロセス
(51)【国際特許分類】
C07C 5/32 20060101AFI20240110BHJP
C07C 15/46 20060101ALI20240110BHJP
B01J 23/78 20060101ALI20240110BHJP
B01J 38/00 20060101ALI20240110BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C07C5/32
C07C15/46
B01J23/78 Z
B01J38/00 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021561914
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 US2019028159
(87)【国際公開番号】W WO2020214181
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】516148335
【氏名又は名称】ルーマス テクノロジー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ポードルバラック, ゲーリー, ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】シュウィント, ケビン, ジョン
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0118557(US,A1)
【文献】特表平08-512320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 5/32
C07C 15/46
B01J 23/78
B01J 38/00
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルベンゼンを脱水素化するためのプロセスであって、
蒸気ストリーム及びエチルベンゼンストリームを混合してエチルベンゼン/蒸気フィード混合物を形成する工程、
上記エチルベンゼン/蒸気フィード混合物を、アルカリ金属促進触媒を含む脱水素反応器に供給して、上記エチルベンゼンの一部をスチレンに変換する工程、
上記蒸気ストリーム、上記エチルベンゼンストリーム、又は上記エチルベンゼン/蒸気フィード混合物のうち少なくとも1種を含むフィードストリームに、アルカリ金属液、アルカリ金属化合物液、又はアルカリ金属を含む溶液から選択される液体を注入する工程であって、該液体は、上記脱水素反応器の上流で上記フィードストリーム中に気化及び分散する工程、
注入の上流の地点から注入ノズルまで上記液体を液体状態に維持する工程、及び、
上記注入ノズルを通して上記液体の注入と純水ストリームの注入とを交互に行う工程
を含むプロセス。
【請求項2】
上記アルカリ金属促進触媒がカリウム促進触媒を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
上記アルカリ金属を含む溶液が、水中に0.02~0.5重量%のアルカリ金属を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
上記注入工程が、
上記注入ノズルを通して上記液体を分散させて、上記フィードストリーム中に分散した液体の小滴を形成する工程、及び
上記液体を上記フィードストリーム中に蒸発させる工程
を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
上記分散小滴の初期粒径が75ミクロン以下である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
上記注入ノズルが、上記フィードストリーム内の中央に設置されている、請求項4に記載のプロセス。
【請求項7】
上記フィードストリームの周囲に配置され、かつ上記フィードストリームの中央に向かって上記フィードと並流で噴霧するよう構成された2つ以上の注入ノズルを通して上記液体を分散させる工程を含む、請求項4に記載のプロセス。
【請求項8】
上記注入工程が、上記液体を不活性ガスで微粒化する工程を含む、請求項4に記載のプロセス。
【請求項9】
上記蒸発工程が、上記分散小滴を上記フィードストリーム中に約10mの距離内で蒸発させる工程を含む、請求項
4に記載のプロセス。
【請求項10】
エチルベンゼン脱水素反応器において触媒活性を維持するためのシステムであって、
アルカリ金属、アルカリ金属化合物液、及びアルカリ金属を含む溶液のうち少なくとも1種から選択される液体アルカリフィードを液体状態に維持するよう構成された液体アルカリフィード、
蒸気ストリーム、エチルベンゼンフィードストリーム、及びエチルベンゼン/蒸気フィードストリームから選択されるプロセスフィードストリームに上記液体アルカリフィードを液体として注入してアルカリ含有フィードを形成するための注入ノズル、
上記注入ノズルに流体的に接続された水フィードストリーム、
上記液体アルカリフィード及び上記水フィードストリームを上記注入ノズルに交互に供給するよう構成された制御システム、及び、
アルカリ金属促進触媒を含み、かつ上記アルカリ含有フィード又は上記アルカリ含有フィードを含む混合物を受け入れるための入口を有する脱水素反応器
を含むシステム。
【請求項11】
上記液体アルカリフィードが、上記注入ノズルの上流で上記液体アルカリフィードを液体として維持するために蒸気トレース、断熱、又は冷却材トレースされている、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
上記注入ノズルが、上記プロセスフィードストリームの軸中心に近接して設置されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
上記プロセスフィードストリームの周囲に設置された2つ以上の注入ノズルを含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
上記ノズルが、上記液体アルカリフィードを、初期粒径が75ミクロン以下である小滴の形態で分散させるよう構成されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項15】
上記注入ノズルに流体的に接続された不活性ガスフィードストリームをさらに含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項16】
上記注入ノズルが、上記脱水素反応器から上流へ約5m~10m離れて主エチルベンゼン/蒸気フィードストリーム中に配置されている、請求項10に記載のシステム。
【請求項17】
上記注入ノズルが、液体小滴の噴霧を上記プロセスフィードストリームの中央部内に維持するよう構成されている、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される実施形態は、概して、エチルベンゼンの脱水素化によるスチレンの生成等、アルキル芳香族の脱水素化によるアルケニル芳香族の生成に関する。より具体的には、本明細書中の実施形態は、脱水素反応器内で触媒活性を維持するためのプロセス及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
エチルベンゼンを脱水素化してスチレンを製造する際、酸化鉄触媒が不活化する。触媒が不活化する主な理由の1つは、触媒におけるカリウム促進剤の移動である。カリウムの移動を抑制し、触媒を長期間にわたって活性化状態に維持するために、エチルベンゼン/水(蒸気)混合フィードとともに少量のカリウム溶液を注入することが提案されている。該溶液をEBフィードへと輸送するキャリアとしては、蒸気、メタン、及び不活性ガスが提案されている。しかしながら、水酸化カリウム又はカリウム塩の溶液を加熱し気化させると、塩が析出して移送管が詰まるおそれがある。
【0003】
特許文献1には、0.1~10ppmの「触媒寿命延長剤」を注入することで、カリウム又はクロム安定化脱水素触媒の寿命を延長できると教示されている。寿命延長剤としては酢酸カリウムが挙げられている。
【0004】
特許文献2には、約0.01~100ppmのアルカリ金属又はアルカリ金属化合物を注入するなど、アルカリ金属又はアルカリ金属化合物を連続的に注入することで、鉄系/アルカリ金属安定化触媒の寿命を延長できると教示されている。化合物としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、及び酸化カリウム等が挙げられている。また、金属としては、カリウム又はナトリウム金属が挙げられている。特許文献2によれば、不活性窒素を用いて気化アルカリ金属又はアルカリ金属化合物を反応器フィードストリーム中に輸送することができる。
【0005】
特許文献3には、カリウム塩の注入は慎重に行わなければならず、さもないとカリウム塩が注入装置に堆積するおそれがあると教示されている。実施例において、10%酢酸カリウム溶液を注入する場合には、気化装置の温度を200℃~480℃とする必要があった。
【0006】
特許文献4には、Cs化合物を用いてFe系脱水素触媒の寿命を延長できると開示されている。
【0007】
水酸化カリウム又はカリウム塩の溶液を加熱し気化させると、塩が析出して移送管が詰まるおそれがある。この問題に対する解決策として、特許文献3をはじめとする上述の特許文献に研究が提示されている。しかしながら、融点が非常に高いので、カリウム塩を揮発させることは難しい。例えば、KOHは360℃で溶融し、K2CO3は891℃で溶融し、酢酸Kは292℃で溶融し、K2SO4は1069℃で溶融する。そのため、特許文献3のシステムでは、何らかの運転トラブルがあったり、酢酸カリウム以外の化合物が使用されたりする場合、依然として詰まりが生じやすいおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6936743号明細書
【文献】米国特許第5739071号明細書
【文献】米国特許第8648007号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/0224029号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、注入システムの詰まりを避けるために、カリウムを純金属、溶解した水酸化物、又は溶解塩のうちいずれかとして注入するプロセス及びシステムを開発した。本明細書中の実施形態は、既存のシステムとは異なり、溶融カリウム金属、又はカリウム塩もしくは水酸化カリウムの溶液を、反応器に入るEBフィード、主蒸気ライン、又は主EB/蒸気フィードに直接注入できる。カリウム又はカリウム溶液への熱伝達を制限するよう注入ノズルを設計できるため、カリウム又はカリウム溶液は、ノズルを通過して蒸気、EB、又はEB/蒸気の高温ストリーム中に入るまで沸騰しない。注入後、カリウム又はカリウム化合物は触媒床に到達する前にプロセス管内で蒸発し、フィードストリームと充分に混ざり合うので、カリウムが触媒床全体に良好に分散する。従来の方法では、物質を気化させてから反応器フィードに注入することに焦点が当てられていたが、本明細書中の実施形態では異なる手法が用いられ、注入前のカリウム、カリウム化合物、又はカリウム溶液をあえて気化させない。
【0010】
一つの態様において、本明細書に開示される実施形態は、エチルベンゼンを脱水素化するためのプロセスに関する。上記プロセスは、蒸気ストリーム及びエチルベンゼンストリームを混合してエチルベンゼン/蒸気フィード混合物を形成する工程を含んでもよい。次いで、上記エチルベンゼン/蒸気フィード混合物を、アルカリ金属促進触媒を含む脱水素反応器に供給して、エチルベンゼンの一部をスチレンに変換してもよい。上記蒸気ストリーム、上記エチルベンゼンストリーム、又は上記エチルベンゼン/蒸気フィード混合物のうち少なくとも1種を含むフィードストリームに、アルカリ金属液、アルカリ金属化合物液、又はアルカリ金属を含む溶液から選択される液体を注入してもよい。注入後、上記液体は、上記脱水素反応器の上流で上記フィードストリーム中に気化及び分散する。上記液体(上記アルカリ金属、上記アルカリ金属化合物液、又は上記アルカリ金属を含む溶液)は、注入の上流の地点から注入ノズルまで液体状態に維持してもよい。上記注入ノズルを通して上記液体を液体形態で分散させて、上記フィードストリーム中に分散した液体の小滴を形成する。その後、上記液体は、上記蒸気状フィードストリーム中に蒸発及び/又は溶解する。
【0011】
別の態様において、本明細書中に開示される実施形態は、エチルベンゼン脱水素反応器において触媒活性を維持するためのシステムに関する。上記システムは、液体アルカリフィードストリームを含んでもよく、該フィードストリームは必要に応じて加熱又は断熱されて、アルカリ金属、アルカリ金属化合物液、及びアルカリ金属を含む溶液のうち少なくとも1種から選択される液体アルカリフィードを液体状態に維持する。上記システムはまた、蒸気ストリーム、エチルベンゼンフィードストリーム、及びエチルベンゼン/蒸気フィードストリームから選択されるプロセスフィードストリームに上記液体アルカリフィードを液体として注入してアルカリ含有フィードを形成するための注入ノズルを含んでもよい。また、上記システムは、アルカリ金属促進触媒を含み、かつ上記アルカリ含有フィード又は上記アルカリ含有フィードを含む混合物を受け入れるための入口を有する脱水素反応器を含む。
【0012】
上記液体フィードを液体状態に維持するために、上記アルカリフィードストリームは、上記注入ノズルの上流で蒸気トレース、断熱、又は冷却材トレースされていてもよい。上記蒸気トレース、断熱等は、上記注入ノズルまで、又は可能な限り近くまで継続してもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、上記システムは、上記注入ノズルに流体的に接続された水フィードストリームをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態において、上記液体アルカリフィード及び上記水フィードストリームを上記注入ノズルに交互に供給するために、制御システムを備えていてもよい。
【0014】
別の態様において、本明細書に開示される実施形態は、反応器において触媒活性を維持するためのプロセスに関する。上記プロセスは、反応器入口の上流で、不活性物質及び/又は反応物質を含む蒸気状フィードストリームに、触媒再生化合物を含む液体を注入する工程を含んでもよい。上記液体を上記反応器の上流のフロー管内で上記蒸気状フィードストリーム中に気化及び分散させて、上記触媒再生化合物と不活性物質又は反応物質の少なくとも1種とを含む蒸気状混合物を形成してもよい。上記反応器中の触媒が所期の反応を行うのと同時に、上記反応器内に含まれる触媒を上記蒸気状触媒再生化合物と接触させて、上記反応器内の上記触媒の活性を高めてもよい。
【0015】
以下の説明及び添付の特許請求の範囲から他の態様及び利点が明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本明細書中の実施形態に係るエチルベンゼンを脱水素化してスチレンを生成するためのシステムを示す簡略化プロセスフロー図である。
【
図2】本明細書中の実施形態に係る脱水素化プロセスに化合物を注入するためのシステムを示す簡略化プロセスフロー図である。
【
図3】本明細書中の実施形態に係る脱水素化プロセスのフローストリームへの化合物の注入をシミュレートした結果を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に開示される実施形態は、概して、アルキルベンゼン等のアルキル芳香族の脱水素化によるアルケニル芳香族の生成、例えば、エチルベンゼンの脱水素化によるスチレンの製造に関する。より具体的には、本明細書中の実施形態は、脱水素反応器内で触媒活性を維持するためのプロセス及びシステムに関する。さらにより具体的には、本明細書中の実施形態は、反応システムへの触媒再生化合物の注入に関する。例えば、本明細書中の実施形態は、脱水素反応器内で触媒活性を維持するためのカリウム又はカリウム化合物の注入に関するものであってもよい。
【0018】
エチルベンゼンの脱水素化によるスチレンの生成に関連して本明細書中の実施形態を以下に説明する。しかしながら、当業者であれば、本明細書に開示されるプロセスは、他のアルキル芳香族炭化水素を脱水素化してアルケニル芳香族炭化水素を生成するプロセス、例えば、クメンを脱水素化してα-メチルスチレンを生成、エチルトルエンを脱水素化してビニルトルエンを生成、及び他の多数のアルケニル芳香族化合物を生成するプロセスに適用できることが容易に理解できる。ブタンを脱水素化してブタジエンを生成するプロセスや、アルキル芳香族の脱アルキル化、アンモニアの合成、無水マレイン酸の合成等の他の変換プロセスも、本明細書中の実施形態から恩恵を受け得る。
【0019】
ここで
図1を参照すると、スチレンプラントの脱水素反応エリアの典型的な構造を示す簡略化フロー図が示されている。スチレンモノマーは、吸熱反応であるエチルベンゼン(EB)フィードの脱水素化により製造される。エチルベンゼンと水との共沸混合物を気化させたものをフローライン24を通して反応ゾーンに供給する。反応ゾーンは、2~4個の脱水素反応器26、28を含んでもよい。各反応器26からの流出物は、蒸気で再加熱されてから次の反応器26又は最終反応器28に進入してもよい。反応器流出物の再加熱に用いる蒸気は一般的に主蒸気(Main Steam:MS)と呼ばれ、フローライン32及びコイル38を通して蒸気過熱器30から供給され、最終的に気化EB/水混合物とともに第1の反応器26の入口34に進入する。気化EB/水混合物もまた、交換器36において最終反応器28からの流出物により予熱してもよい。
図1は脱水素化システムの一例であり、エチルベンゼンを脱水素化するための他のプロセス及びシステムもまた、本明細書中の実施形態から恩恵を受け得る。
【0020】
上述の通り、反応器26、28に含まれる触媒は、触媒成分又は共触媒成分の移動によって活性を失い得る。化合物を注入して触媒の活性を維持又は保持しやすくすることで、運転停止及び触媒交換が必要となるまでの触媒寿命及び反応システムの総稼働時間を延ばすことが望ましい。例えば、カリウム安定化脱水素触媒は、反応器にカリウム又はカリウム化合物を導入することによって恩恵を受け得る。本明細書中の実施形態は、注入システム又は関連配管におけるカリウム又はカリウム塩の蓄積を最小限に抑えるか、あるいは蓄積させることなく、カリウムを有用な形態で提供することができる。
【0021】
従って、本明細書に開示されるプロセス及びシステムを用いて、溶融カリウム金属、又はカリウム塩もしくは水酸化カリウムの溶液を、気化させた反応器フィードストリームに1つ以上の注入システム50を介して直接注入してもよい。例えば、液体金属又は溶液を、反応器26に入るエチルベンゼン(EB)フィード24/25、主蒸気ライン40、又は主EB/蒸気フィード42に1つ以上の注入システム50を介して導入してもよい。いくつかの実施形態において、例えば、溶融液体カリウムをEB/蒸気ストリームに注入してもよい。
【0022】
カリウム金属は約63.5℃で溶融する。蒸気トレースした容器を用いてカリウム金属を保管してもよく、蒸気トレース又は断熱した配管によって金属を液体状態に維持し、プロセスユニットに流入させることができる。液体カリウムは、例えば
図1に示すストリーム42等、脱水素反応器へのEB/蒸気フィードを含む管に直接計量供給してもよい。カリウムはおよそ759℃で沸騰する。一般に、脱水素反応器へのフィードの温度は500℃~約650℃の範囲である。EB/蒸気のプロセス温度は、カリウムを溶融状態に保つ程の高温だが、カリウムを沸騰させる程の高温ではない。
【0023】
カリウム金属は、例えば、EB/蒸気フィード混合物中にノズルを通して窒素又は別の適当な不活性ガスで噴霧又は微粒化してもよい。カリウム金属はノズルに繋がる配管で沸騰又は気化することはないため、汚染堆積物が残存してラインが詰まることはない。システムへのカリウムの期待供給速度は、反応器の大きさ及び触媒量にもよるが、例えば50~1000g/時であってもよく、従って、供給速度は、一般的に入手可能な部材で制御してもよい。
【0024】
他の実施形態において、カリウム塩又は水酸化カリウムの溶液を反応器26の上流でEB/蒸気ストリームに注入してもよい。水に溶解したカリウム塩は、注入ノズルに繋がる管で沸騰し始めるか、あるいはほとんどが気化する可能性があり、その結果、析出したカリウム塩又は水酸化カリウムが管に堆積してシステムを詰まらせる。50重量%KOH水溶液の沸点は約145℃であり、これは反応器へのフィードの温度である500℃~650℃よりもはるかに低い。しかしながら、本明細書中の実施形態によれば、カリウム溶液を反応器フィードに断熱管を通して注入することで、溶液が沸騰することがなく、ノズルが汚染されることもないような充分に低い温度にカリウム溶液を維持する。
【0025】
図2に、カリウム溶液を沸騰させずに注入するためのシステム50の簡略化フロー図を示す。主EB/蒸気フィード8は、反応器入口6へ向かって管7を通過している。カリウム溶液1は注入ノズルアセンブリを通して供給される。注入ノズルアセンブリは、供給管4、ノズル5、シェル2、及び断熱材3を含んでもよい。断熱層3は、取り囲んで供給管4内のカリウム溶液の温度をノズル5に至るまでずっと沸点未満の温度に維持する。ノズル5において、溶液をEB/蒸気フィード8中に微粒化する。カリウム溶液がノズル5に至るまでずっと管4内で液体として維持されるため、ノズル汚染を最小限に抑えるか、あるいは排除することができる。
【0026】
カリウム溶液の沸騰を防ぐのに必要な断熱材の種類及び断熱層の厚さは、使用するカリウム塩又は化合物、及び管を通って注入ノズルへ向かう溶液の期待流速に依存することになる。溶液の沸点が高いほど、また溶液の流速が速いほど、必要な断熱材は少ない。溶液の流速によって、カリウムを0.01~10重量ppmの濃度で反応器フィードに注入することを目標としてもよい。いくつかの実施形態において、溶液供給ラインを断熱してもよい。他の実施形態において、溶液供給ラインは、水等の冷熱交換媒体との熱交換により冷却してもよい。例えば、熱交換トレースにより冷却してもよく、熱交換トレースは、溶液供給管に巻き付けられた環状配管又はコイルを含んでもよい。環状配管又はコイルは、大幅に高温のEB、蒸気、又はEB/蒸気配管及びフィードとの熱交換をなくすために、少なくともEB、蒸気、又はEB/蒸気注入位置に近接した(例えば、少なくとも数フィート以内の)溶液供給ラインを包囲してもよい。
【0027】
上述した通り、
図2に示すシステムを用いて、カリウム溶液を連続的又は断続的にフィードストリームに注入してもよい。ジャケット2を含む管4を使用することもでき、この場合、熱交換媒体3が管を循環して、カリウム溶液を注入ノズル5まで液体として維持する。また、当業者であれば、上記記載に基づき、ジャケット2を用いて環状領域で加熱媒体3(蒸気トレース等)を供給して、カリウム金属を注入ノズル5まで溶融状態に維持することも想定できる。断続的に注入を行う場合、連続的に水を流すことで、管4を通る溶液又は流体の移動を維持してもよい。
【0028】
また、溶融カリウム注入及びカリウム溶液注入のいずれの場合でも、確実に溶液又はカリウムを気化させ、反応器フィードと混合させることが重要である。従って、ノズルの噴霧角度は、良好な散布となるよう、かつ注入金属又は溶液を適当な粒径で微粒化して、EB/蒸気供給管壁に蓄積させずに混合及び気化させるよう構成できる。
【0029】
いくつかの実施形態において、EB/蒸気供給管の中央に単一の中央噴霧ノズル5が設置されていてもよい。他の実施形態において、複数の注入ノズルを管の周囲に配置して、供給ラインの中央に向かって噴霧してもよい。この方法は、供給管の直径が非常に大きい(数インチ)場合にカリウムを散布するのに良い方法となり得る。しかしながら、いずれの実施形態でも、堆積物や腐食を最小限に抑えるために、塩溶液又は溶融金属が可能な限り管壁から離れているように噴霧ノズルの向きを合わせるべきである。
【0030】
いくつかの実施形態において、かなり希釈されたカリウム塩又は水酸化カリウムの溶液を用いると有利であることがわかった。例えば、0.02~0.5重量%溶液を用いてもよい。直感に反するように思われるが、濃縮した溶液よりも溶液の沸点が低くなり得るため、溶液粘度を低くすると、溶液をより細かい小滴として噴霧して分散/気化しやすくするのに役立つことがわかった。また、溶液濃度を低くするということは、純水又は実質的な純水を注入装置から連続的に供給して、注入装置をきれいに保つことができることを意味する。いくつかの実施形態においては、触媒活性を維持するために、カリウム塩又は水酸化カリウムを断続的に導入し得る。溶液がかなり希釈されていても、このことがプロセス条件に影響することはほとんどない。さらに、希釈溶液では、同量のカリウムを導入するのに流速を速めなければならないことがあるため、カリウム溶液を沸点未満に維持するための断熱要件を低減することができる。
【0031】
上述した通り、本明細書中の実施形態は、触媒活性を維持しつつ、エチルベンゼン等のアルキルベンゼンを脱水素化するためのプロセスに関する。上記プロセスは、蒸気ストリーム及びエチルベンゼンストリームを混合してアルキルベンゼン/蒸気フィード混合物を形成する工程を含んでもよい。次いで、アルカリ金属促進触媒を含む脱水素反応器にアルキルベンゼン/蒸気フィード混合物を供給して、アルキルベンゼンの一部を脱水素化(例えば、エチルベンゼンを脱水素化してスチレンを生成)してもよい。
【0032】
アルカリ金属促進触媒の活性を維持するために、本明細書中の実施形態に係るプロセスは、蒸気ストリーム、アルキルベンゼンフィードストリーム、又はアルキルベンゼン/蒸気フィード混合物のうち少なくとも1種を含むフィードストリームに、アルカリ金属液、アルカリ金属化合物液、又はアルカリ金属を含む溶液から選択される液体を注入する工程を含む。上記液体は、フィードストリームに液体として注入され、脱水素反応器の上流でフィードストリーム中に気化及び分散する。
【0033】
いくつかの実施形態において、アルカリ金属促進触媒はカリウム促進触媒を含む。いくつかの実施形態において、アルカリ金属促進触媒は鉄系脱水素触媒を含んでもよい。米国特許第5739071号明細書には、例えばカリウムで促進されるFe2O3をはじめとする各種触媒等、好適な鉄系触媒の例が多数記載されている。また、例えばバナジウム又はバナジウム化合物の無水マレイン酸反応器への注入など、他の触媒システムも本明細書に開示される注入方法から恩恵を受け得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、アルカリ金属は溶液として注入される。該溶液は、例えば、非常に希釈されたアルカリ金属化合物又はアルカリ金属塩の水溶液であってもよい。例えば、アルカリ金属を含む溶液は、0.01~1.0重量%、例えば0.02~0.5重量%のアルカリ金属を水中に含む水溶液であってもよい。
【0035】
本明細書中の注入システムは、注入の上流の地点から注入ノズルまで上記液体(すなわち、アルカリ金属、アルカリ金属化合物液、又はアルカリ金属を含む溶液)を液体状態に維持するよう構成されていてもよい。そして、上記注入システムを用いて、注入ノズルを通して上記液体を分散させ、フィードストリーム中に分散した液体の小滴を形成してもよく、この時点で、注入された液体は蒸気状フィードストリーム中に溶解又は蒸発してもよい。
【0036】
様々な実施形態において、注入ノズルは、上記液体の小滴を分散させるよう構成されていてもよく、該小滴の初期粒径は、100ミクロン以下、75ミクロン以下、又は50ミクロン以下であってもよい。理解されるように、小滴の粒径は、上記液体が蒸気中に分散して溶解するか、あるいは別の方法で蒸発するにつれて、小さくなり得る。従って、「初期」粒径は、注入ノズルから吐出されたときの小滴粒子の粒径に関する。
【0037】
いくつかの実施形態において、注入ノズルは、フィードストリーム内の中央に(例えば、フィードストリーム管の長手軸に近接して)設置されていてもよい。他の実施形態において、上記液体は、フィードストリームの周囲に配置された2つ以上の注入ノズルを通して分散させてもよく、これらのノズルは、フィードストリームの中央に向かってフィード(EB、蒸気、又はEB/蒸気等)と並流で噴霧するよう構成されている。並流で注入すると、反応器に供給される大幅に大きな蒸気/炭化水素混合物とともに、上記液体を下流へと引き込むことができる。さらに、並流注入は、上記液体が配管壁に直接噴霧されないようにすることにより、移送配管に液体小滴が蓄積するのを最小限に抑えるよう構成してもよい。
【0038】
いくつかの実施形態において、触媒活性を維持又は復活させるには、アルカリ金属又はアルカリ金属化合物を連続的に注入しなくてはならない場合がある。他の実施形態において、触媒活性を維持又は復活させるには、アルカリ金属又はアルカリ金属化合物を断続的に注入しさえすればよい場合もある。いくつかの実施形態において、例えば、本明細書中のプロセスは、注入ノズルを通して上記液体の注入と純水ストリームの注入とを交互に行う工程を含んでもよい。言い換えれば、上記プロセスは、上記液体の注入を断続的に停止し、代わりに注入ノズルから純水を注入する工程を含んでもよい。水の注入は同様の方法で行ってもよく、この場合、水を注入ノズルまで液体として維持し、注入ノズルで散布する。純水液体ストリームが断続的に存在すると、配管壁及び注入ノズルをきれいに維持し、通常の運転又はトラブルによって生じてしまい得るアルカリ金属又はアルカリ金属化合物の蓄積物を除去しやすくなる。
【0039】
いくつかの実施形態において、上記液体を注入するプロセスは、上記液体を不活性ガスで微粒化する工程を含んでもよい。例えば、窒素、二酸化炭素、蒸気、アルゴン等、対象の反応システムに対して不活性と考えられるガスを使用してもよい。不活性ガスを、散布ノズルのすぐ上流又は散布ノズル内で上記液体と混合することで、上記液体が所望の初期粒径で蒸気/炭化水素移送管内に分散するのを向上できる。
【0040】
蒸気又は蒸気/炭化水素フィードストリーム中に小滴が分散した後、小滴は、フィードストリーム中に蒸気として蒸発及び分散してもよい。アルカリ金属又はアルカリ金属化合物を触媒床全体に分布させるために、かつ入口に近接した触媒粒子にのみ液体が沈降するのを避けるために、反応器入口の上流で上記液体を完全に気化することが望ましい。例えば、いくつかの実施形態において、微粒化及び初期粒径、ストリーム温度、初期液体小滴粒径、ならびに当業者が容易に認識できる他の要因にもよるが、上記液体の蒸発は、約5m、10m、又は15mの距離内で達成できることがわかった。従って、様々な実施形態において、注入ノズルアセンブリ及び関連部材は、反応器入口から上流へ適度に離れて、例えば、反応器入口の少なくとも5m上流、反応器入口の少なくとも10m上流、又は反応器入口の少なくとも15m上流に配置してもよい。いくつかの実施形態において、注入ノズルは、脱水素反応器入口から上流へ約5m~10m離れて主エチルベンゼン/蒸気フィードストリーム中に配置されている。
【0041】
例えば上記液体を主蒸気ライン40に注入できる場合等の他の実施形態において、配管システムの混合部やベンド等の部分よりかなり前で上記液体をストリーム中に気化及び分散させることが好ましい。配管システムのそのような部分より前で上記液体を導入する距離が短すぎると、微粒化液同士が直接衝突して、望ましくない蓄積が生じたり、フローが制限されたり、配管部材が目詰まりしたりするおそれがある。従って、様々な実施形態において、注入ノズルアセンブリ及び関連部材は、ベンド、T継手等の配管部材から上流へ適度に離れて、例えば、配管部材の少なくとも5m上流、配管部材の少なくとも10m上流、又は配管部材の少なくとも15m上流で直管部に配置されていてもよい。
【0042】
本明細書中の実施形態はまた、反応器において触媒活性を維持するためのシステムに関する。上記システムは、液体アルカリフィードストリーム等の液体フィードストリームを含んでもよい。液体アルカリフィードストリームは、アルカリ金属、アルカリ金属化合物液、及びアルカリ金属を含む溶液のうち少なくとも1種から選択される液体アルカリフィードを液体状態に維持するよう構成されていてもよい。上記システムはまた、蒸気ストリーム、アルキル芳香族(エチルベンゼン)フィードストリーム、及びアルキル芳香族(エチルベンゼン)/蒸気フィードストリームから選択されるプロセスフィードストリームに液体アルカリフィードを液体として注入して、反応器の上流でアルカリ含有フィードを形成するための注入ノズルを含んでもよい。本明細書中のシステムはまた、アルカリ金属促進触媒を含み、かつアルカリ含有フィード又はアルカリ含有フィードを含む混合物を受け入れるための入口を有する脱水素反応器を含んでもよい。
【0043】
本明細書中の実施形態に係るシステムは、注入ノズルの上流でアルカリフィードを液体として維持するために蒸気トレース、断熱、又は冷却材トレースされているアルカリフィードストリームを含んでもよい。いくつかの実施形態において、注入ノズルは、プロセスフィードストリームの軸中心に近接して設置されていてもよい。他の実施形態において、2つ以上の注入ノズルがプロセスフィードストリームの周囲に設置されていてもよい。
【0044】
本明細書中のシステムはまた、注入ノズルに流体的に接続された水フィードストリームを含んでもよい。また、制御システム及び関連バルブを用いて、アルカリフィードストリームの代わりに液体水フィードストリームを断続的に注入してもよい。例えば、制御システムは、液体アルカリフィード及び水フィードストリームを注入ノズルに交互に供給するよう構成されていてもよい。
【実施例】
【0045】
水酸化カリウム水溶液(1996ppm KOH水溶液、重量基準)の注入をシミュレートした。主蒸気フィードを反応器に輸送する管に溶液が注入されるとしてシミュレートし、溶液を75ミクロンの小滴径で注入した。主蒸気ライン温度を860℃でシミュレートしたところ、小滴は管を約21.9フィート移動する間に蒸発することがわかった。シミュレートした小滴径を
図2に示す。図中、粒子軌跡を粒子滞留時間により着色した。
【0046】
上述した通り、本明細書中の実施形態によれば、液剤を蒸気状フィードストリームに注入することによって触媒活性を維持することができる。本明細書中の実施形態は、液剤を液体として蒸気状フィードストリームに送達することで、注入システム及び関連配管の内部及び周囲に塩や金属が蓄積するのを最小限に抑えるという利点がある。
【0047】
以上、エチルベンゼンの脱水素化に関して記載したが、本明細書に開示される注入システムは、少量の非揮発性成分を気相に注入する必要がある他の用途に用いてもよい。例えば、本明細書中のシステムを用いて、少量のバナジウムを無水マレイン酸反応器のフィードに注入してもよい。
【0048】
本開示には限られた数の実施形態しか示されていないが、本開示の利益を受ける当業者は、本開示の範囲から逸脱しない他の実施形態も考案され得ることを理解するであろう。従って、該範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。