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特許7416887電気火花放電加工用電極線及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電気火花放電加工用電極線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/24 20060101AFI20240110BHJP
   C25D 3/22 20060101ALI20240110BHJP
   C25D 7/06 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
B23H7/24
C25D3/22 101
C25D7/06 R
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022161304
(22)【出願日】2022-10-06
(65)【公開番号】P2023060828
(43)【公開日】2023-04-28
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】202111210891.X
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520414398
【氏名又は名称】▲寧▼波博徳高科股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningbo bode hightech Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 桐
(72)【発明者】
【氏名】羅 孝奇
(72)【発明者】
【氏名】梁 志寧
(72)【発明者】
【氏名】林 火根
(72)【発明者】
【氏名】陳 益波
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109909568(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103537768(CN,A)
【文献】国際公開第2020/229046(WO,A1)
【文献】特開2021-049637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/24
C25D 3/22
C25D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄銅芯材を含む電気火花放電加工用電極線であって、
黄銅芯材の外の銅亜鉛合金層及び表面層を更に含み、表面層がシート形状又は粒子状で銅亜鉛合金層の表面に分布しており、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には、露出している銅亜鉛合金層があり、表面層がCuO、ZnO、Cu(OH)CO及びCu-Zn金属間化合物からなる混合物であり、
前記表面層は、CuOの質量分率が4%~9.5%であり、ZnOの質量分率が44%~55%であり、Cu (OH) CO の質量分率が2%~10%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が31%~44.5%であることを特徴とする電気火花放電加工用電極線。
【請求項2】
前記表面層の中には、若干の微細孔が分布しており、電極線の断面における各微細孔のサイズは、0.01~2μmであることを特徴とする請求項1に記載の電気火花放電加工用電極線。
【請求項3】
前記表面層は、銅亜鉛合金層の表面の60%~95%の領域を被覆していることを特徴とする請求項1に記載の電気火花放電加工用電極線。
【請求項4】
前記表面層の厚さは、2~7μmであることを特徴とする請求項1に記載の電気火花放電加工用電極線。
【請求項5】
前記銅亜鉛合金層の成分は、β’+γ相又はβ’相であることを特徴とする請求項1に記載の電気火花放電加工用電極線。
【請求項6】
前記銅亜鉛合金層の厚さは、4~10μmであることを特徴とする請求項1に記載の電気火花放電加工用電極線。
【請求項7】
直径が0.6~0.9mmである黄銅芯材を製造するステップ1)と、
ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面に、一層の亜鉛めっき層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、電気めっきプロセスにおいて、糖類の有機添加剤が吸着され、亜鉛イオンの陰極還元反応を阻害ことにより、亜鉛めっき層の結晶化速度が遅くなり、亜鉛めっき層の粒子が微細化され、糖類の有機添加剤の成分を含む緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が得られ、前記糖類の有機添加剤の濃度が8~25g/Lであり、電気めっき速度が200~400m/minであり、電流が965~1350Aであり、電圧が5.2~7Vであり、亜鉛メッキ層の厚さが4.5~9μmであるステップ2)と、
電気めっきの後に得られたワイヤーブランクに対して、伸線ダイスにより直径が0.47~0.62mになるように第1次の引き伸ばし及び押し出しを行い、緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることになり、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層を備える第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得するステップ3)と、
若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が200~400℃であり、熱処理の時間が2h~10hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得するステップ4)と、
熱処理後のワイヤーブランクに対して第2次の引き伸ばし及び押し出しを行うことにより、表面層がシート形状又は粒子状で分布しており、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には、露出している銅亜鉛合金層があり、直径が0.15~0.30mである電極線の完成品を取得するステップ5)と、を備えることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の電気火花放電加工用電極線の製造方法。
【請求項8】
前記糖類の有機添加剤は、スクロース、ラクトース又は/及びマルトースであることを特徴とする請求項に記載の電気火花放電加工用電極線の製造方法。
【請求項9】
ステップ3)における第1次の引き伸ばし及び押し出しの加工率は、35%~65%の間であり、ステップ5)における第2次の引き伸ばし及び押し出しの加工率は、55%~95%の間であることを特徴とする請求項に記載の電気火花放電加工用電極線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電気火花ワイヤカット加工技術分野に関し、特に、電気火花放電加工用電極線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EDM(Electrical Discharge Machining)と略称される電気火花放電加工は、1943年にソビエト連邦のラザレンコによって最初に発明され、その主な原理は、電極間で生じる連続的な電気火花により電極材料を侵食することで加工を行うことである。
【0003】
電気火花放電加工は、工具電極のタイプ及びワークピースに対する工具電極の稼働方式に基づいて電気火花成型加工、電気火花研削加工、電気火花ワイヤカット加工等に分けることができる。
【0004】
電気火花ワイヤカット加工の基本的な原理は、以下の通りである。電気火花を発生させるためには、ワークピース(工作物)と工具電極間に十分高い電圧を印加する必要があり、当該電圧はワークピースと工具電極間のギャップの絶縁破壊電圧よりも高い必要がある。ワークピースと工具電極間に電圧を印加する初期段階では、非常に強い電界が発生し、正と負のイオンがワークピースと工具電極の間の最も近い場所に集まる。電界の働きにより、電子と正イオンが電界により非常に高い速度に加速され、電子が正電極に移動し、正イオンが負電極に移動することで、イオンチャネルが形成され、ワークピースと工具電極の間の絶縁媒体を破壊する。この段階では、電子と正イオンが何度も衝突し、それぞれ高速で正極と負極の表面に衝突し、運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、プラズマ領域が形成され、非常に高い温度を生成し、温度が10000℃に達することができる。ワークピースと工具電極は、一部の材料が高温により瞬時に溶融又は気化し、ワークピースと工具電極の両方に腐食ピットが形成され、同時にワークピースと工具電極の間の液体絶縁媒体も高温により気化し、上述したプロセスにおいては、材料と液体媒体の気化により、体積が急速に膨張する気泡が発生され、その後、電流が遮断され、温度の急激な低下により気泡が爆発し、放電ピットの中の残りの溶融材料が液体絶縁媒体の中に洗い流され、電気火花により侵食された材料が液体絶縁媒体において冷却されて小さな球体に形成され液体絶縁媒体に洗い流され、絶縁状態が断続的に回復され、放電サイクルが形成される。当該プロセスは、秒毎に数万回から数十万回繰り返す。
【0005】
電気火花ワイヤカット加工は、カットワイヤの材質とワイヤの送給方向により、高速ワイヤ送給電気火花放電加工と低速ワイヤ送給電気火花放電加工に分けることもできる。高速ワイヤ送給電気火花放電加工は、一般的には、融点の高いモリブデンワイヤを用い、往復運動して放電加工を行い、そのメリットが低コストであり、そのデメリットがモリブデンワイヤを繰り返し使用するプロセスにおける損耗により、加工精度や加工表面の粗さが悪いことである。低速ワイヤ送給電気火花放電加工は、単方向ワイヤ送給であり、一般的には、電極線として銅又は銅合金材料が用いられ、単方向ワイヤ送給であるため、電極線の損耗がワイヤ送給で補うことができるので、高速ワイヤ送給よりもコストが高い。一般的な低速ワイヤ送給放電加工では、最初のカットで荒削りを行い、そして例えば7回以下のような複数回のトリミングで加工プロセスを完成させるが、複数回のトリミングで仕上げ加工を行うことができるため、ワークピースのカット寸法精度が比較的高く、ワークピースの表面粗さが比較的良い。
【0006】
低速ワイヤ送給電気火花放電加工においては、カット速度、カット精度及び表面粗さを高めることは、ユーザーが追求してきたものである。市場で一般的に用いられている黄銅電極線は、低コストであり、基本的な加工ニーズを満たすことができるが、カット速度が遅く、加工精度及び表面粗さの性能が普通であるという短所がある。製造業の高度化に伴い、製品の品質に対する要求が益々高くなり、黄銅電極線がもはやニーズを満たすことができなくなるため、多くの顧客がメッキ線の使用に目を向け始めている。市場に出回っているメッキ線は、一般的には、メッキ構造の成分及び用途に基づいて3つの種類に分けることができる。
【0007】
第一種類は、高精度型メッキ線であり、当該メッキ線のメッキが純亜鉛又は高亜鉛合金である。亜鉛及び高亜鉛合金は、ある程度の延性があるため、メッキ表面が通常滑らかであり、メッキが比較的薄く、仕上げ加工において放電が安定し、静電容量効果によるワークピースの小さな亀裂を減らすことができ、カットワークピースの表面粗さが比較的良く、通常用いられる4カット以上の仕上げ加工に一般的に使われている。亜鉛メッキ層が電気火花腐食に耐えず、脱落しやすく、カット速度が遅いことが短所である。
【0008】
第二種類は、高速型メッキ線であり、当該メッキ線のメッキが通常β相又はβ+γ相であり、又は、β’+γ相又はβ’相の成分と呼ばれ、メッキが厚く、亜鉛メッキに比べ、耐食性がより高く、気化フラッシング効果が強く且つ持続的であり、カット速度が速いが、比較的厚いメッキ及び比較的深い亀裂が電極線の表面の導電率を大幅に低下させ、仕上げの比較的弱い放電エネルギーでは、高速電極線による放電ができなくなり、短絡を発生させるとともに、仕上げ時の放電均一性が悪くさせるので、4カット以上の仕上げ加工には適合しない。
【0009】
第三種類は、改良型メッキ線であり、当該メッキ線が高精度メッキ線に比べ速度が速く、高速型メッキ線に比べマルチカットの仕上げ加工にも適合でき、現在の市場では、比較的に多く用いられているメッキ線の一種類である。
【0010】
客観的に言えば、加工効率に対するユーザーの追求は永遠に変わらないが、上述した従来技術のメッキ線には、依然として共通の欠点がある。即ち、メッキは、銅亜鉛合金であり、銅亜鉛合金の性能に制限され、カット速度を高める必要があれば、メッキの厚さ、亀裂の深さ、亀裂の幅及び亀裂の数を増やす必要があるが、これらは、何れもメッキ線の仕上げ加工性能に影響を与え、加工ワークピースの表面粗さを悪くさせ、つまり、上述した従来技術のメッキ線では、速いカット速度及び加工ワークピースの良好な表面粗さの両方を実現することが困難であり、改良することが急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする技術課題は、カット速度を高め、カットワークピースの表面粗さも高めることができる電気火花放電加工用電極線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの技術案は、黄銅芯材を含み、黄銅芯材の外の銅亜鉛合金層及び表面層を更に含み、表面層がシート形状又は粒子状で銅亜鉛合金層の表面に分布しており、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には、露出している銅亜鉛合金層があり、表面層が、CuO、ZnO、Cu(OH)CO及びCu-Zn金属間化合物からなる混合物である電気火花放電加工用電極線を提供することである。
【0013】
上述した構造により、本発明の電気火花放電加工用電極線は、以下のメリットを有する。
【0014】
出願人は、研究から次のことが分かった。即ち、電気火花ワイヤカットの加工速度は、電気火花の放電時間、放電間隔、電流の大小、材料の融点及び気化点等の要素に関連している。放電時間が長ければ長いほど、電気火花の持続時間が長くなり、腐食ピットが大きくなる。放電間隔が小さければ小さいほど、放電周波数が高くなり、同じ時間内の腐食ピットの数が多くなる。放電時に電流が大きければ大きいほど、電気火花による発熱量が大きくなり、腐食ピットも大きくなる。上述した要素は全てカット速度を速くさせる。同時に、カットするワークピースと電極線の材料性能もカット速度に影響を与える。ワークピース材料の融点と気化点が低い場合、電気火花により腐食されて大きくて深いピットを形成する可能性が高くなるが、電極線材料の気化点が低い場合、電極線材料が腐食されている際、より気化しやすく、より高い気化圧力が発生され、腐食ピットにおける溶融した金属材料を液体絶縁媒体によりよく洗い流すことができる。
【0015】
また、出願人は、研究から次のことが分かった。即ち、より重要なのは、電気火花の腐食ピットも材料の熱伝導率に関連している。熱伝導率の低い材料は、電気火花により発生された熱を電極線の表面により集中させることができるので、電極線の表面の材料が気化される際、より強い気化圧力が発生し、フラッシング効果を更に高め、カット速度を高めることができる。
【0016】
また、出願人は、研究から次のことが分かった。即ち、工作機械の放電加工条件とカット材料がともに一致している場合、カット速度とカットワークピースの表面粗さを高めるために、電極線から着手する必要がある。
【0017】
従来技術の電極線の芯材は、通常黄銅である。メッキ電極線のメッキ材料の主な成分は、亜鉛又は銅亜鉛合金である。室温では、CuZn37黄銅のような黄銅の熱伝導率は、116.7W・(m・K)-1であり、亜鉛の熱伝導率は、116W・(m・K)-1であり、銅の熱伝導率は、386.4W・(m・K)-1である。従来技術に比べ、本発明の電気火花放電加工用電極線は、表面層のCuO、ZnO等の成分の熱伝導率がより低く、室温では、CuOの熱伝導率が32.6W・(m・K)-1であり、ZnOの熱伝導率が29.98 W・(m・K)-1 であるが、高温では、ZnO の熱伝導率が更に低下する。よって、本発明の電気火花放電加工用電極線は、上述した構造又は成分を用いた後、電気火花放電加工時、電気火花により発生した熱が電極線の表面層の表面により集中するため、表面層の中のCuO、ZnO、Cu(OH)CO及びCu-Zn金属間化合物が気化又は分解される際に発生されるガスがより強い気化圧を有し、フラッシング効果がより良く、シート形状又は粒子状で電極線の表面に分布する表面層により、放電プロセスにおけるフラッシング効果の持続性を効果的に改善し、本発明の電極線の高いカット速度を保証することができる。
【0018】
当業者は、カットワークピースの表面が多数の小さな腐食ピットから構成されていることを知っている。本願の出願人は、研究から次のことが分かった。即ち、仕上げプロセスにおいては、ワークピースの表面粗さを保証するために、カット速度を下げ、腐食ピットのサイズを小さくする必要がある。本発明の電極線の表面層に含まれているCuO、ZnO、Cu(OH)CO及びCu-Zn金属間化合物の成分は、表面層の導電率を低下させることができ、荒削りでは、放電エネルギーが非常に大きいため、導電率の一部を低下させることは、荒削りに与える影響が少ない。仕上げカットの数が増えるにつれ、放電エネルギーが益々小さくなり、導電率の一部が減らされた表面層により電子の移動を妨げる効果が益々明らかになり、イオンチャネルの形成を遅らせ、ひいては放電時間が短縮され、電気火花の腐食ピットが小さくなり、メッキ線の仕上げ性能を確保し、カットワークピースの表面粗さを改善し、大幅に高めることができる。
【0019】
即ち、本発明の電気火花放電加工用電極線は、速いカット速度と高いワークピースの表面粗さの両方を実現することができ、良い調和統一とも呼ばれる。
【0020】
また、前記表面層は、CuOの質量分率が4%~9.5%であり、ZnOの質量分率が44%~55%であり、Cu(OH)COの質量分率が2%~10%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が31%~44.5%である。上述したコンポーネントが採用されると、表面層の導電率を下げる効果がより顕著であり、カットワークピースの表面粗さを更に改善し、高めることができる。
【0021】
また、前記表面層内には、若干の微細孔が分布しており、電極線の断面における各微細孔のサイズは、0.01~2μmである。上述した構造が採用されると、表面層の中の微細孔により、電極線の表面と液体絶縁媒体の間の接触面積を大幅に増加させ、電極線の冷却効果を更に高め、荒加工における電極線のカット速度を大幅に高めることができる。
【0022】
また、前記表面層は、銅亜鉛合金層の表面の60% ~95%の領域を被覆している。上述した構造が採用されると、相対的に言えば、表面層が電極線の表面を被覆する面積が大きければ大きいほど、カット速度が比較的速くなり、カットワークピースの表面粗さが比較的より良い。
【0023】
また、前記表面層の厚さは、2~7μmである。上述した構造が採用されると、被覆層の厚さは、好ましい範囲であり、仕上げに必要な導電率を保つことができる。よって、仕上げプロセスにおける1回の放電サイクルでイオンチャネルがスムーズに形成され、電気火花放電が発生し、ドレッシングツールが所定の位置に到着し、カットワークピースの表面粗さを更に高めることができる。
【0024】
また、前記銅亜鉛合金層の成分は、β’+γ相又はβ’相である。上述した相の構造が採用されると、本発明の電極線の気化のフラッシング効果及び持続性を更に高め、カット速度を更に高めることができる。
【0025】
また、前記銅亜鉛合金層は、厚さが4~10μmである。上述した銅亜鉛合金層の厚さが採用されると、本発明の電極線の気化のフラッシング効果及び持続性を更に高め、カット速度を更に高めることができる。
【0026】
本発明が解決しようとするもう1つの技術課題は、上述した何れか1つの技術案の電気火花放電加工用電極線の製造方法を提供することである。当該製造方法により製造された電極線は、黄銅芯材、黄銅芯材の外の銅亜鉛合金層及び表面層を含み、表面層がシート形状又は粒子状で銅亜鉛合金層の表面に分布しており、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には、露出している銅亜鉛合金層があり、表面層がCuO、ZnO、Cu(OH)CO及びCu-Zn金属間化合物からなる混合物である。当該電極線は、カット速度及びカットワークピースの表面粗さを高めることができる。
【0027】
本発明のもう1つの技術案は、上述した何れか1つの技術案の電気火花放電加工用電極線の製造方法を提供することである。当該製造方法は、
直径が0.6~0.9mmである黄銅芯材を製造するステップ1)と、
ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛めっき層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、電気めっきプロセスにおいて、糖類の有機添加剤が吸着され、亜鉛イオンの陰極還元反応を阻害することにより、亜鉛めっき層の結晶化速度が遅くなり、亜鉛めっき層の粒子が微細化され、糖類の有機添加剤の成分を含む緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が取得され、前記糖類の有機添加剤の濃度が8~25g/Lであり、電気めっき速度が200~400m/minであり、電流が965~1350Aであり、電圧が5.2~7Vであり、亜鉛メッキ層の厚さが4.5~9μmであるステップ2)と、
電気めっきの後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.47~0.62mmになり、緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層を備える第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得するステップ3)と、
若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が200~400℃であり、熱処理の時間が2h~10hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ被覆層の熱処理後のワイヤーブランクを取得するステップ4)と、
熱処理後のワイヤーブランクに対して第2次の引き伸ばし及び押し出しを行うことにより、表面層がシート形状又は粒子状分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には、露出している銅亜鉛合金層があり、直径が0.15~0.30mmである電極線の完成品を取得するステップ5)とを備える。
【0028】
上述したステップを用いると、製造された電気火花放電加工用電極線は、黄銅芯材、黄銅芯材の外の銅亜鉛合金層及び表面層を含み、表面層がシート形状又は粒子状で銅亜鉛合金層の表面に分布しており、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には、露出している銅亜鉛合金層があり、表面層がCuO、ZnO、Cu2(OH)2CO3及びCu-Zn金属間化合物からなる混合物である。
【0029】
上記の方法で製造された電極線材料は、気化点が低い。また、電極線材料が腐食されると、より気化しやすくなり、より高い気化圧力が発生し、腐食ピットにおける溶融した金属材料を液体絶縁媒体によりよく洗い流すことができ、その熱伝導率が低いため、電気火花により発生した熱が電極線の表面により集中し、電極表面の材料が気化される際、より強い気化圧力が発生し、フラッシング効果とカット速度を更に高めることができる。当該電極線の表面層に含まれているCuO、ZnO、Cu(OH)CO、Cu-Zn金属間化合物の成分は、表面層の導電率を低下させることができるので、荒削りでは、放電エネルギーが非常に大きいため、導電率の一部を低下させることは、荒削りに与える影響が少ない。仕上げカットの数が増えるにつれ、放電エネルギーが益々小さくなり、導電率の一部が減らされた表面層により電子の移動を妨げる効果が益々明らかになり、イオンチャネルの形成を遅らせ、ひいては放電時間が短縮され、電気火花の腐食ピットが小さくなり、ひいてはカットワークピースの表面粗さを改善し保証することができる。即ち、当該電極線は、カット速度及びカットワークピースの表面粗さを高め、速いカット速度とワークピースの高い表面粗さの両方の調和統一を実現することができる。
【0030】
また、前記糖類の有機添加剤は、スクロース、ラクトース又は/及びマルトースを指す。上述したステップが採用されると、ステップ2)の亜鉛メッキ層は、緻密性と硬さと脆性がより良く、表面層がCuO、ZnO、Cu(OH)CO及びCu-Zn金属間化合物からなる混合物を有することを更に保証することができる。
【0031】
また、ステップ3)における第1次の引き伸ばし及び押し出しの加工率は、35%~65%の間であり、ステップ5)における第2次の引き伸ばし及び押し出しの加工率は、55%~95%の間である。上述したステップを用いると、さらに第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクの緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れるようにさせることにより、表面層の被覆率を保証することができる。また、第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われた後の電極線の表面層のシート形状又は粒子状での分布は、速いカット速度及び高い表面粗さに対する要求をより満たすことができる。30°以上の鋭角とは、30°以上且つ90°以下の鋭角であることが理解されやすい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る電極線の第1次の引き伸ばし及び押し出しを行って得られた若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層のワイヤーブランクの形状及び構造の模式図である。
図2】本発明に係る電極線の第1次の引き伸ばし及び押し出しを行って得られた若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層のワイヤーブランクの断面の構造模式図である。
図3】本発明に係る電極線の第1次の引き伸ばし及び押し出しを行って得られたワイヤーブランクに対して熱処理が行われた後のワイヤーブランクの断面の構造模式図である。
図4】本発明に係る電極線の第2次の引き伸ばし及び押し出しを行って得られた電極線の完成品の断面の構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の具体的な実施形態を更に説明する。なお、これらの具体的な実施形態に対する説明は、本発明を理解するためのものであり、本発明を制限しない。また、後述の本発明のそれぞれの実施形態に係る技術特徴は、互いに矛盾しない限り、組み合わせることができる。
【0034】
図1図2図3図4に示されている。
【0035】
本発明の電気火花放電加工用電極線の具体的な実施形態を説明する前に、本発明の電気火花放電加工用電極線及びその製造方法の構造特徴、構成成分及び製造原理等を補足説明する。
【0036】
上述した黄銅芯材2は、通常CuZn37黄銅又はCuZn40黄銅等の芯材が用いられている。
【0037】
電極線の表面に分布しているシート形状は、ブロック形状として理解することもできる。
【0038】
CuOの中国語名称は、酸化銅である。ZnOの中国語名称は、酸化亜鉛である。Cu(OH)COの中国語名称は、塩基性炭酸銅であり、一般的には、緑青と呼ばれている。
【0039】
上述した、得られた若干の亀裂1を持つ亜鉛めっき層3の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクは、次のように理解することができる。即ち、従来技術における電極線の亜鉛めっき層は、すなわち糖類の有機添加剤を添加しない場合は、非常に良い延性及び塑性・靭性を有し、伸線ダイスにより引き伸ばし及び押し出しが行われると、亜鉛めっき層が均一的に薄くなるが、亀裂が発生しない。言い換えれば、電極線業界における従来技術の電気めっきプロセスでは、一般的には、ホウ酸及び硫酸アルミニウムをpH緩衝剤として添加し、塩化アンモニウムを導電性塩として添加する。ホウ酸も硫酸アルミニウムも塩化アンモニウムも、いずれも糖類を含まない無機添加剤である。これに対し、本発明の電気めっきプロセスでは、ホウ酸、硫酸アルミニウム、塩化アンモニウム等の無機添加剤を添加せず、糖類の有機添加剤を添加する。当該の糖類の有機添加剤は、吸着され、亜鉛イオンの陰極還元反応を阻害することにより、陰極分極作用が増加し、亜鉛めっき層の結晶化速度が遅くなり、めっき層の粒子が微細化され、緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層を取得することができる。また、糖類の有機添加剤が亜鉛めっき層の中に吸着され、めっき層の内部応力を高めるので、亜鉛めっき層の硬さ及び脆性が増加する。よって、緻密で硬くて脆い亜鉛メッキ層は、伸線ダイスにより引き伸ばし及び押し出しが行われる際に非常に壊れやすくなり、即ち、若干の亀裂1(または複数本の亀裂1)が現れ、亀裂1は、軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角のような角度に沿って割れる。電極線の軸線に対し、亀裂を横方向の亀裂と斜め方向の亀裂として理解することができる。
【0040】
別の方面から論述すると、電気めっきによる金属結晶の形成プロセスは、結晶の核心即ち結晶核の生成のプロセスと結晶成長プロセスという、同時に行われる2つのプロセスに分けることができる。これらの2つのプロセスの速度は、金属の結晶化の粗さと細かさの程度を決める。電気めっきプロセスにおいては、結晶核の生成速度が結晶核の成長速度よりも大きい場合、結晶が緻密で配列が密集しためっき層を取得することができる。電気めっきプロセスにおいては、電極の局部の表面に吸着が起こると、当該部分の電極表面で電極反応を行うことが非常に困難であり、電極反応が停止又は遅くなり、これが電極の有効面積を減らすことに相当し、電極を通る有効電流密度が大きくなり、よって、分極の働きを増加させる。同時に、電極の表面全体に吸着が起こると、反応粒子は、界面の吸着層を通った後に反応が発生するので、電極反応がより困難になり、これは、電気化学反応プロセスが阻害され停滞させられることに相当し、よって、分極の働きを増加させる。この部分で言及されている電極は、ステップ1)で製造された黄銅芯材を指していることが理解されやすい。本発明は、金属が結晶化する際の陰極分極の働きを高めることにより、結晶核の生成速度を高めるので、結晶の緻密なメッキ層を取得するのに便利である。結晶が緻密で且つ糖類の有機添加剤が吸着されている亜鉛メッキ層は、非常に硬くて脆くなり、伸線ダイスにより引き伸ばし及び押し出しが行われたときに非常に割れやすく、即ち、若干の亀裂1が現れる。
【0041】
前記糖類の有機添加剤は、スクロース、ラクトース又は/及びマルトースであることが好ましい。単独のスクロース、単独のラクトース又は単独のマルトースであっても良く、それらの2つの混合又はそれらの3つの混合であってもよいことが理解されたい。
【0042】
前記表面層4の中には、若干の微細孔6が分布している。電気めっきプロセスにおいては、亜鉛めっき層3が徐々に厚くなり、金属が絶えずに結晶化して成長し、次に、糖類の有機添加剤が亜鉛めっき層3の中に均一的に吸着される。よって、亜鉛めっき層3の中の糖類の有機添加剤は、高温で分解して微細孔6を形成する。表面層4の内部の微細孔6は、表面層4と合金層5との界面の微細孔6に比べ、分布がより均一であり、サイズが比較的小さい。微細孔6は、微細孔構造とも呼ばれる。
【0043】
電気めっきの開始時、糖類の有機添加剤は、まず黄銅芯材2の外の表面に吸着されるが、黄銅芯材2の表面は、完全に滑らかではなく、製造過程において木目、かすり傷等のような幾つかの欠陥が必然的に存在する。よって、黄銅芯材2の表面の欠陥に吸着される糖類の有機添加剤は、比較的多い。第1次の引き伸ばし及び押し出しと熱処理が行われた後、銅亜鉛合金層5及び表面層4が形成される。この時、元の黄銅芯材2の表面の欠陥に吸着された糖類の有機添加剤が熱処理において高温で分解され、銅亜鉛合金層5及び表面層4の形成につれ、その界面には、サイズが比較的に大きく、分布の不均一な微細孔6が形成される。表面層4は、被覆層とも呼ばれる。
【0044】
以下、実施例を用いながら、本発明の電気火花ワイヤカット加工用電極線及びその製造方法を更に詳しく説明する。
【0045】
(実施例1)
製造プロセスは、次の通りである。
【0046】
1)直径が0.82mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0047】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、6.8μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、25g/Lであり、電気めっきの速度は、240m/minであり、電流は、1200Aであり、電圧は、6.2Vである。
【0048】
電気めっき溶液の処方は、硫酸亜鉛450~550g/Lのような従来技術であり、以下の実施例2~15は、何れも同じであり、簡潔にするために、以下の実施例2~15では、繰り返して説明しない。本発明では、当該電気めっき溶液の処方に糖類の有機添加剤(本実施例における糖類の有機添加剤は、濃度が25g/Lである)を添加する。
【0049】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.6mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0050】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が400℃であり、熱処理の時間が6hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0051】
ステップ4)の熱処理原理及びプロセスに対して、次のように簡単に説明する。即ち、熱処理の初期段階では、黄銅芯材の中の銅とメッキ層の中の亜鉛が互いに拡散して亜鉛銅合金を形成するが、この時点では、銅含有量は、比較的低い。また、メッキ層の中の糖類の有機添加剤は、緻密なメッキ層が環境の中のOである酸素を隔離するので、高温で分解してCである炭素、HOである水を生成し、メッキ層の中には、微細孔が形成される。その後、炉内の空気雰囲気の中のOは、微細孔に沿って外から内側へメッキ層に浸透し、微細孔の中のCと反応してCOを生成し、微細孔の周辺の銅、亜鉛と反応してCuO、ZnOを生成する。微細孔の遮断により、芯材の中の銅がメッキ層に拡散し続けることができないため、微細孔を境界として黄銅芯材の外の銅亜鉛合金層及び表面層を形成する。なお、表面層の中の微細孔は、サイズが比較的小さく、表面層と合金層の界面の微細孔は、サイズが比較的大きい。
【0052】
また、表面層は、黄銅芯材の中の銅元素の補充が得られないため、その後の熱処理プロセスにおいて、表面層における微細孔から比較的遠く離れた領域では、銅、亜鉛の元素が高温でCu-Zn金属間化合物を形成する。銅亜鉛合金層は、微細孔による遮断がないため、銅亜鉛元素と黄銅芯材は、互いに妨げられることなく拡散し、安定したβ’相又はβ’+γ相を形成する。なお、β’は、β相の低温相であり、β相は、高温相であり、両者が温度の変化に伴って互いに転化することが理解されやすい。冷却プロセスにおいては、表面層の外層の銅の一部が環境の中のO、CO、HOと反応してCuO、Cu(OH)COを生成することにより、連続した銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層の熱処理後のワイヤーブランクを取得する。上述した2つの段落で説明した熱処理の原理及びプロセスは、以下の実施例2~15のものと同じであり、簡潔にするために、以下の実施例2~15で繰り返して説明しない。
【0053】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には、露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、77%であり、表面層の厚さは、4μmであり、表面層の中の各微細孔(表面層の中の微細孔、および表面層と銅亜鉛合金層の微細孔を含み、以下、実施例2~15も同じであるため、繰り返して説明しない)のサイズは、0.078~1.8μmである。表面層は、CuOの質量分率が4.3%であり、ZnOの質量分率が53.8%であり、Cu(OH)COの質量分率が9.3%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が32.6%であり、銅亜鉛合金層の厚さが8μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’相である。
【0054】
(実施例2)
製造プロセスは、次の通りである。
【0055】
1)直径が0.9mmであるCuZn40黄銅芯材を製造する。
【0056】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、9μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、28g/Lであり、電気めっきの速度は、200m/minであり、電流は、1350Aであり、電圧は、7Vである。
【0057】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.62mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0058】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が400℃であり、熱処理の時間が10hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0059】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、80%であり、表面層の厚さは、7μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.080~2.8μmである。表面層は、CuOの質量分率が4%であり、ZnOの質量分率が55%であり、Cu(OH)COの質量分率が10%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が31%であり、銅亜鉛合金層の厚さが10μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’相である。
【0060】
(実施例3)
製造プロセスは、次の通りである。
【0061】
1)直径が0.8mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0062】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、6.5μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、22g/Lであり、電気めっきの速度は、250m/minであり、電流は、1150Aであり、電圧は、6.5Vである。
【0063】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.6mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0064】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が320℃であり、熱処理の時間が3.5hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0065】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、78%であり、表面層の厚さは、3μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.035~1.6μmである。表面層は、CuOの質量分率が7.2%であり、ZnOの質量分率が48.7%であり、Cu(OH)COの質量分率が5.1%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が39%であり、銅亜鉛合金層の厚さが6.8μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’+γ相である。
【0066】
(実施例4)
製造プロセスは、次の通りである。
【0067】
1)直径が0.8mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0068】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、7.8μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、26g/Lであり、電気めっきの速度は、235m/minであり、電流は、1260Aであり、電圧は、6.7Vである。
【0069】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.61mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0070】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が350℃であり、熱処理の時間が10hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0071】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、82%であり、表面層の厚さは、5.6μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.06~1.75μmである。表面層は、CuOの質量分率が5.2%であり、ZnOの質量分率が51.8%であり、Cu(OH)COの質量分率が7.8%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が35.2%であり、銅亜鉛合金層の厚さが8.3μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’相である。
【0072】
(実施例5)
製造プロセスは、次の通りである。
【0073】
1)直径が0.78mmであるCuZn40黄銅芯材を製造する。
【0074】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、6.3μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、20g/Lであり、電気めっきの速度は、270m/minであり、電流は、1080Aであり、電圧は、5.9Vである。
【0075】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.6mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0076】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が375℃であり、熱処理の時間が5hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0077】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、85%であり、表面層の厚さは、3.5μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.05~1.78μmである。表面層は、CuOの質量分率が4.9%であり、ZnOの質量分率が52.4%であり、Cu(OH)COの質量分率が8.2%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が34.5%であり、銅亜鉛合金層の厚さが6.3μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’相である。
【0078】
(実施例6)
製造プロセスは、次の通りである。
【0079】
1)直径が0.76mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0080】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、6.1μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、24g/Lであり、電気めっきの速度は、275m/minであり、電流は、1090Aであり、電圧は、6Vである。
【0081】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.57mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0082】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が330℃であり、熱処理の時間が3hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0083】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、81%であり、表面層の厚さは、3.4μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.038~1.65μmである。表面層は、CuOの質量分率が6.8%であり、ZnOの質量分率が49.6%であり、Cu(OH)COの質量分率が5.8%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が37.8%であり、銅亜鉛合金層の厚さが6μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’+γ相である。
【0084】
(実施例7)
製造プロセスは、次の通りである。
【0085】
1)直径が0.74mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0086】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、5.9μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、18g/Lであり、電気めっきの速度は、280m/minであり、電流は、1030Aであり、電圧は、5.8Vである。
【0087】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.56mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0088】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が300℃であり、熱処理の時間が4.5hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0089】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、76%であり、表面層の厚さは、2.8μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.024~1.62μmである。表面層は、CuOの質量分率が8.0%であり、ZnOの質量分率が46.9%であり、Cu(OH)COの質量分率が4.1%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が41%であり、銅亜鉛合金層の厚さが6.2μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’+γ相である。
【0090】
(実施例8)
製造プロセスは、次の通りである。
【0091】
1)直径が0.72mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0092】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、5.8μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、16g/Lであり、電気めっきの速度は、285m/minであり、電流は、1020Aであり、電圧は、5.75Vである。
【0093】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.55mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0094】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が340℃であり、熱処理の時間が8hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0095】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、86%であり、表面層の厚さは、3.2μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.042~1.68μmである。表面層は、CuOの質量分率が5.6%であり、ZnOの質量分率が51.5%であり、Cu(OH)COの質量分率が7.4%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が35.5%であり、銅亜鉛合金層の厚さが5.9μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’相である。
【0096】
(実施例9)
製造プロセスは、次の通りである。
【0097】
1)直径が0.7mmであるCuZn40黄銅芯材を製造する。
【0098】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、5.5μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、15g/Lであり、電気めっきの速度は、300m/minであり、電流は、990Aであり、電圧は、5.7Vである。
【0099】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.53mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0100】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が285℃であり、熱処理の時間が5.5hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0101】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、80%であり、表面層の厚さは、2.5μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.017~1.25μmである。表面層は、CuOの質量分率が8.4%であり、ZnOの質量分率が46.2%であり、Cu(OH)COの質量分率が3.6%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が41.8%であり、銅亜鉛合金層の厚さが6μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’+γ相である。
【0102】
(実施例10)
製造プロセスは、次の通りである。
【0103】
1)直径が0.68mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0104】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、5.4μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、15g/Lであり、電気めっきの速度は、320m/minであり、電流は、988Aであり、電圧は、5.68Vである。
【0105】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.53mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0106】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が330℃であり、熱処理の時間が9hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0107】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、95%であり、表面層の厚さは、2.9μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.036~1.4μmである。表面層は、CuOの質量分率が5.9%であり、ZnOの質量分率が50.9%であり、Cu(OH)COの質量分率が7.1%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が36.1%であり、銅亜鉛合金層の厚さが5.8μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’相である。
【0108】
(実施例11)
製造プロセスは、次の通りである。
【0109】
1)直径が0.66mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0110】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、5.3μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、12g/Lであり、電気めっきの速度は、345m/minであり、電流は、985Aであり、電圧は、5.65Vである。
【0111】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.51mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0112】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が280℃であり、熱処理の時間が6hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0113】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、75%であり、表面層の厚さは、2.3μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.014~1.22μmである。表面層は、CuOの質量分率が8.7%であり、ZnOの質量分率が45.7%であり、Cu(OH)COの質量分率が3.3%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が42.3%であり、銅亜鉛合金層の厚さが5.5μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’+γ相である。
【0114】
(実施例12)
製造プロセスは、次の通りである。
【0115】
1)直径が0.66mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0116】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、5.2μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、11g/Lであり、電気めっきの速度は、350m/minであり、電流は、980Aであり、電圧は、5.6Vである。
【0117】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.5mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0118】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が320℃であり、熱処理の時間が8hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0119】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、89%であり、表面層の厚さは、2.6μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.024~1.18μmである。表面層は、CuOの質量分率が6.4%であり、ZnOの質量分率が50.3%であり、Cu(OH)COの質量分率が6.6%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が36.7%であり、銅亜鉛合金層の厚さが5.3μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’相である。
【0120】
(実施例13)
製造プロセスは、次の通りである。
【0121】
1)直径が0.65mmであるCuZn40黄銅芯材を製造する。
【0122】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、5.1μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、11g/Lであり、電気めっきの速度は、360m/minであり、電流は、975Aであり、電圧は、5.55Vである。
【0123】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.49mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0124】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が320℃であり、熱処理の時間が2hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0125】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、76%であり、表面層の厚さは、2.2μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.015~1.05μmである。表面層は、CuOの質量分率が7.8%であり、ZnOの質量分率が47.6%であり、Cu(OH)COの質量分率が4.5%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が40.1%であり、銅亜鉛合金層の厚さが5.2μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’+γ相である。
【0126】
(実施例14)
製造プロセスは、次の通りである。
【0127】
1)直径が0.63mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0128】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、5μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、10g/Lであり、電気めっきの速度は、385m/minであり、電流は、970Aであり、電圧は、5.5Vである。
【0129】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.47mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0130】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が260℃であり、熱処理の時間が4hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0131】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、72%であり、表面層の厚さは、2.1μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.012~0.95μmである。表面層は、CuOの質量分率が9.2%であり、ZnOの質量分率が44.6%であり、Cu(OH)COの質量分率が2.7%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が43.5%であり、銅亜鉛合金層の厚さが5μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’+γ相である。
【0132】
(実施例15)
製造プロセスは、次の通りである。
【0133】
1)直径が0.6mmであるCuZn37黄銅芯材を製造する。
【0134】
2)ステップ1)で得られた黄銅芯材の表面には、一層の亜鉛メッキ層を電気めっきし、電気めっき溶液には、糖類の有機添加剤を添加し、前記糖類の有機添加剤は、スクロース又は/及びラクトース又は/及びマルトースであり、メッキ層の厚さは、4.5μmであり、糖類の有機添加剤の濃度は、8g/Lであり、電気めっきの速度は、400m/minであり、電流は、965Aであり、電圧は、5.2Vである。
【0135】
3)電気めっき後に得られたワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第1次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.48mmになる。緻密で硬くて脆い亜鉛めっき層が軸線に垂直する角度及び軸線と30°以上をなす鋭角に沿って割れることにより、若干の亀裂を持つ亜鉛めっき層の第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクを取得する。
【0136】
4)若干の亀裂を持つ、第1次の引き伸ばし及び押し出しで得られたワイヤーブランクに対して熱処理を行い、熱処理の温度が200℃であり、熱処理の時間が6hであり、炉内を150℃以下に冷却させて炉から出し、熱処理プロセスにおいて、連続的に空気を入れることにより、連続する銅亜鉛合金層及び若干の亀裂を持つ表面層を有する熱処理後のワイヤーブランクを取得する。
【0137】
5)熱処理後のワイヤーブランクは、伸線ダイスにより第2次の引き伸ばし及び押し出しが行われ、直径が0.25mmになり、表面層がシート形状又は粒子状で分布し、表面層のシート形状又は粒子状の間の隙間には露出している銅亜鉛合金層がある電極線の完成品を取得する。なお、表面層の被覆率は、70%であり、表面層の厚さは、2μmであり、表面層の中の各微細孔のサイズは、0.010~0.92μmである。表面層は、CuOの質量分率が9.5%であり、ZnOの質量分率が44%であり、Cu(OH)COの質量分率が2%であり、Cu-Zn金属間化合物の質量分率が44.5%であり、銅亜鉛合金層の厚さが4μmであり、銅亜鉛合金層の成分がβ’+γ相である。
【0138】
(比較例1~5)
比較例1:市販で購入した0.25mm仕様の黄銅電極線である。
【0139】
比較例2:市販で購入した0.25mm仕様の亜鉛メッキ電極線であり、そのメッキ層が純亜鉛メッキ層である。
【0140】
比較例3:市販で購入した0.25mm仕様のガンマ電極線であり、そのメッキ層がγ相であり、このタイプの電極線が市場で一般的に使用されているメッキ層電極線である。
【0141】
比較例4:市販で購入した0.25mmの高速型電極線であり、そのメッキ層がβ’+γ相である。
【0142】
比較例5:市販で購入した0.25mmの高速型電極線であり、そのメッキ層がβ’相である。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【0145】
<低速ワイヤ送給放電加工のテスト>
テストを行う低速ワイヤ送給マシーンは、市場で広く使用されているスイスAgieCharmilles CUT E350工作機械であり、加工材料がSKHー9であり、加工ワークピースの厚さが30mmであり、形状が6*6mmの正方形のポンチであり、0.25mm仕様の電極線を使用し、カットが1回であり、仕上げカットが4回(つまり、荒カットが1回、仕上げカットが4回であり、合計で5回のカットで加工する)である条件でベニヤ加工を行う。
【0146】
表3においては、実施例1~15の電極線で加工されたワークピースと比較例1~5の電極線で加工されたワークピースを比較すると、本発明の電極線は、カット速度及び加工ワークピースの表面粗さで明らかな優位性を有する。即ち、比較例1に比べ、本発明の電極線は、カット速度を18.69%~27.41%向上させ、加工ワークピースの表面粗さを20.58%~28.03%向上させることができた。
【0147】
【表3】
【0148】
上述した内容は、本発明の好ましい実施形態に過ぎず、本発明を制限しない。当業者にとっては、本発明に対して様々な変更及び変化を行うことができる。本発明の精神及び原則から逸脱しない限り、行われた如何なる補正、等価置換、改良等は、何れも本発明の保護請求の範囲に属する。
【符号の説明】
【0149】
1 亀裂
2 黄銅芯材
3 亜鉛めっき層
4 表面層
5 銅亜鉛合金層
6 微細孔
図1
図2
図3
図4