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特許7416913正極活物質、その製造方法、およびこれを含むリチウム二次電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】正極活物質、その製造方法、およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240110BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022511374
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 KR2020010795
(87)【国際公開番号】W WO2021034020
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】10-2019-0102918
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(73)【特許権者】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】511038879
【氏名又は名称】ポスコ ケミカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 サン チョル
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 クオン ヤン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039567(WO,A1)
【文献】特開2009-218217(JP,A)
【文献】特表2018-531500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次粒子を含む2次粒子形態のリチウム金属酸化物粒子であり、
前記1次粒子表面の少なくとも一部にボロン化合物を含むコーティング層が位置し、
前記ボロン化合物は非晶質構造を含む、正極活物質。
【請求項2】
前記ボロン化合物は、LiおよびBを含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
少なくとも一部にボロン化合物を含む前記1次粒子は、前記リチウム金属酸化物粒子の内部に位置する、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム金属酸化物粒子の粒子強度は151MPa~200MPaである、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
下記式1で表される前記リチウム金属酸化物粒子の空隙率は0.3%~7%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極活物質。
[式1]
空隙率(%)=(リチウム金属酸化物粒子断面Aの空隙面積/リチウム金属酸化物粒子断面Aの面積)×100
(式1中、Aはリチウム金属酸化物粒子の直径を含む断面の面積である)
【請求項6】
前記1次粒子の平均粒径(D50)は、同一温度で焼成し前記1次粒子表面の少なくとも一部にボロン化合物を含むコーティング層が位置しない場合と比較して1.3倍~2.5倍増加した、請求項1~5のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記1次粒子の平均粒径(D50)は、0.3μm~2μmである、請求項6に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム金属酸化物粒子は複数(plural)であり、
平均粒径(D50)が10μm~30μmである大粒子、
平均粒径(D50)が1μm~6μmである小粒子、および
前記大粒子および前記小粒子が混合されたバイモーダル粒子のうちの少なくとも一つである、請求項1~7のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記大粒子のX線回折による(110)面の回折ピークの半値幅FWHM(110)は0.14°~0.18°であり、
前記小粒子のX線回折による(110)面の回折ピークの半値幅FWHM(110)は0.15°~0.19°である、請求項8に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記ボロン化合物は、LiBO、LiBO、Li、Li、Li6.52180.7、Li7.4180.7、Li7.8180.9およびLiのうちの少なくとも一つを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記2次粒子内前記ボロン化合物の含量は0.001モル~0.01モルである、請求項1~10のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記2次粒子内金属のうちのニッケルの含量は0.65モル~0.99モルである、請求項1~11のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項13】
前記リチウム金属酸化物は、前記2次粒子内にAlおよびZrのうちの少なくとも一つをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項14】
前記リチウム金属酸化物粒子の表面に位置する表面層をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項15】
前記表面層は、B、Zr、Al、W、Nb、P、Ce、Ti、Ta、Co、SiおよびMnからなるグループより選択された一つ以上を含む、請求項14に記載の正極活物質。
【請求項16】
ボロン化合物を含むコーティング層形成物質を製造する段階;
共沈反応器内金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階;および
前記コーティング層形成物質、前記金属前駆体およびリチウム原料物質を混合した後に焼成して正極活物質を得る段階;
を含み、
前記コーティング層形成物質は微粒子粉末として提供される、正極活物質の製造方法。
【請求項17】
前記微粒子粉末の平均粒径は0.1μm~1.5μmである、請求項16に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項18】
前記ボロン化合物を含むコーティング層形成物質を製造する段階は、
前記ボロン化合物を構成する原料物質を混合して焼成する段階;および
前記焼成された焼成物を粉砕する段階を含む、請求項16又は17に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項19】
前記正極活物質を得る段階は、
前記コーティング層形成物質、前記金属前駆体およびリチウム原料物質を混合した後に焼成して焼成体を製造する段階;および
前記焼成体表面に位置する表面層を形成する段階を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項20】
請求項1~15のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極;
負極活物質を含む負極;および
前記正極および負極の間に位置する電解質
を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
正極活物質、その製造方法、およびこれを含むリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、ITモバイル機器および小型電力駆動装置(e-bike、小型EVなど)の爆発的な需要増大、走行距離400km以上の電気車要求に応えてこれを駆動するための高容量、高エネルギー密度を有する二次電池開発が全世界的に活発に行われている。
【0003】
この中でも特に電気自動車は急加速による高出力特性が非常に重要である。従来はこのような高出力電池を製造するために、主に負極活物質の性能改善のための研究が行われたが、最近は正極活物質に対しても出力特性を向上させるための研究が活発である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、1次粒子の表面にリチウムイオン伝導性素材をコーティングすることによってリチウム二次電池の出力特性を大きく向上させることができる正極活物質を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態による正極活物質は、1次粒子を含む2次粒子形態のリチウム金属酸化物粒子であり、前記1次粒子表面の少なくとも一部にボロン化合物を含むコーティング層が位置し、前記ボロン化合物は非晶質構造を含むことができる。
【0006】
他の実施形態による正極活物質の製造方法は、ボロン化合物を含むコーティング層形成物質を製造する段階、共沈反応器内金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階、および前記コーティング層形成物質、前記金属前駆体およびリチウム原料物質を混合した後に焼成して正極活物質を得る段階を含み、前記ボロン化合物を含むコーティング層形成物質は平均粒径が0.3μm~1μmの範囲であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本実施形態による正極活物質はリチウムイオン伝導性を有するボロン化合物を含むコーティング層が1次粒子の表面に位置するためこれを適用するリチウム二次電池の出力特性を大きく向上させることができる。
【0008】
なお、本実施形態によると、正極活物質の粒子強度が増加するため電解液との副反応を抑制することができ、これにより、熱的安定性が向上して高温寿命および高温増加率特性を顕著に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態による2次粒子の一部に対する概略図である。
図2】コーティング層を形成するボロン化合物の一例のLiBOに対するXRD測定結果を示したものである。
図3a】実施例1で製造した正極活物質に対する断面分析結果を示したものである。
図3b図3aで1次粒子表面部に対するEELS分析結果を示したものである。
図3c図3bでボロン検出領域のスペクトル一部を拡大して示したものである。
図4a】比較例4で製造した正極活物質に対する断面分析結果を示したものである。
図4b図4aで1次粒子表面部に対するEELS分析結果を示したものである。
図5】比較例1の正極活物質に対する平均粒径分析結果を示したものである。
図6】実施例1の正極活物質に対する平均粒径分析結果を示したものである。
図7】実施例1の正極活物質に対する粒子強度測定結果を示したものである。
図8】比較例1の正極活物質に対する粒子強度測定結果を示したものである。
図9】実施例1および比較例1の正極活物質に対して充電電圧を4.5Vまで増加させて充放電後、初期充放電を比較するグラフを示したものである。
図10】実施例1および比較例1の正極活物質に対する高温寿命特性測定結果を示したものである。
図11】実施例1および比較例1の正極活物質に対する高温抵抗増加率測定結果を示したものである。
図12a】実施例1によって製造された正極活物質の1次粒子表面に対してTEM構造分析を行った結果を示したものである。
図12b図12aのTEM分析結果で正極活物質の1次粒子と1次粒子表面に位置するコーティング層が共に存在する領域を拡大して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、これは例示として提示されるものであって、これによって本発明が制限されず、本発明は後述の請求範囲の範疇によって定義される。
【0011】
一実施形態による正極活物質は、1次粒子を含む2次粒子形態のリチウム金属酸化物粒子であり、前記1次粒子表面の少なくとも一部にボロン化合物を含むコーティング層が配置されてもよい。
【0012】
前記ボロン化合物は非晶質構造を含むことができる。本実施形態の正極活物質は前述のように非晶質構造のボロン化合物を含むコーティング層がリチウム金属酸化物粒子の表面に位置するため粒子強度を増加させ、空隙率を小さくすることができる。
【0013】
前記リチウム金属酸化物大粒子の粒子強度は151MPa~200MPa、より具体的には160MPa~195MPaまたは170MPa~190MPaの範囲であってもよい。リチウム金属酸化物の粒子強度が前記範囲を満たす場合、2次粒子の構造が緻密で、空隙率が小さい粒子である。本実施形態では1次粒子表面の少なくとも一部にボロン化合物を含むコーティング層が位置するため粒子の構造が緻密でありながらも2次粒子の内部、即ち、1次粒子の間にもリチウムイオンの移動が容易なため初回放電容量を向上させることができ、高出力特性を有するリチウム二次電池を実現することができる。また、リチウム金属酸化物の粒子強度が前記範囲を満たす場合、リチウム二次電池の充電および放電中にクラック発生を抑制することができ、これによって電解液との副反応を抑制することができるので寿命特性も向上させることができる。
【0014】
一方、前記リチウム金属酸化物粒子の空隙率は0.3%~7%、より具体的には0.4%~6%、あるいは0.6%~5.6%の範囲であってもよい。
【0015】
ここで、前記リチウム金属酸化物粒子の空隙率は下記のような方法で測定することができ、下記式1のように表現することができる。
【0016】
例えば、前記空隙率は、リチウム金属酸化物粒子の真ん中をFIB(Focused Ion Beam)ミリング法のような方法で切断した後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いてリチウム金属酸化物粒子内空隙を面積として測定することによって計算することができる。
【0017】
[式1]
空隙率(%)=(リチウム金属酸化物粒子断面Aの空隙面積/リチウム金属酸化物粒子断面Aの面積)×100
(式1中、Aはリチウム金属酸化物粒子の直径を含む断面の面積である)
【0018】
本実施形態では、前記のように1次粒子の少なくとも一部にボロン化合物を含むコーティング層が位置するため正極活物質の出力特性を画期的に向上させることができる。これは前記ボロン化合物が1次粒子と1次粒子の間の境界部を通してもリチウムイオンが移動する経路を形成するためである。また、1次粒子と1次粒子の間の空の空間を満たして粒子の空隙率を減少させることができて、出力特性を向上させることができる。
【0019】
一方、前記1次粒子の平均粒径(D50)は、同一焼成温度で焼成し前記1次粒子表面の少なくとも一部にボロン化合物を含むコーティング層が位置しない場合と比較して1.3倍~2.5倍の範囲に増加したものであってもよい。
【0020】
より具体的には、前記1次粒子の平均粒径(D50)は、0.3μm~2μm、より具体的には、0.4μm~1.5μmまたは0.5μm~1.3μmの範囲であってもよい。
【0021】
前記1次粒子の平均粒径(D50)が前記のように増加して前記範囲を満たす場合、2次粒子の結晶性が増加する。このように結晶性が増加すると、リチウムイオンの脱・挿入が有利であり、寿命特性を向上させることができる。また、正極活物質表面の残留リチウム含量を低減させることができて非常に有利である。
【0022】
本実施形態の正極活物質において、前記リチウム金属酸化物粒子は複数(plural)であってもよい。より具体的には、前記リチウム金属酸化物粒子は、平均粒径(D50)が10μm~30μmの範囲である大粒子、平均粒径(D50)が1μm~6μmの範囲である小粒子、および前記大粒子および前記小粒子が混合されたバイモーダル粒子のうちの少なくとも一つであってもよい。
【0023】
前記大粒子の平均粒径(D50)は、例えば、10μm~30μmまたは12μm~20μmの範囲であってもよい。前記小粒子の平均粒径(D50)は、例えば、1μm~6μmまたは2μm~5μmの範囲であってもよい。また、前記バイモーダル粒子は前記大粒子および小粒子を例えば、5:5~9:1または6:4~8:2の重量比で混合したものであってもよい。
【0024】
本実施形態で、前記大粒子のX線回折による(110)面の回折ピークの半値幅FWHM(110)は0.14°~0.18°の範囲であってもよい。また、前記小粒子のX線回折による(110)面の回折ピークの半値幅FWHM(110)は0.15°~0.19°の範囲であってもよい。前記大粒子および前記小粒子の(110)面に対するFWHM(110)が前記範囲を満たす場合、正極活物質の結晶性が優れることを示す。したがって、本実施形態の正極活物質は構造が安定であり、これをリチウム二次電池に適用する場合、寿命特性が非常に優れるという長所がある。
【0025】
一方、1次粒子表面の少なくとも一部に位置するコーティング層に含まれるボロン化合物は、例えば、LiBO、LiBO、Li、Li、Li6.52180.7、Li7.4180.7、Li7.8180.9およびLiのうちの少なくとも一つであってもよい。特に、本実施形態で、ボロン化合物がLiBOである場合、イオンの伝導度に優れ、リチウム副産物と反応せず正極活物質の1次粒子表面に効果的に拡散してコーティング層を形成することができる。
【0026】
その次に、前記2次粒子内前記ボロン化合物の含量は0.001モル~0.01モル、より具体的には、0.003~0.005モルまたは0.004~0.006モルの範囲であってもよい。2次粒子内に含まれるボロン化合物の含量が0.001モル未満である場合、1次粒子表面にコーティング層が効果的に形成されず正極活物質の性能改善ができないという問題点がある。また、ボロン化合物の含量が0.01モルを超過する場合、1次粒子の表面にコーティング層が過多に形成され、これによって出力および寿命特性が減少するという問題点がある。
【0027】
前記2次粒子内金属のうちのニッケルの含量は0.65モル~0.99モルの範囲、より具体的には、0.65モル~0.92モルまたは0.7モル~0.91モルの範囲であってもよい。このようにニッケルの含量が0.65モル以上である場合、ニッケルが0.5モル以下である正極活物質では得られない高出力特性を実現することができる。
【0028】
より具体的には、前記リチウム金属酸化物は、例えば、下記化学式1で表すことができる。
【0029】
[化学式1]
LiNiCoMnM1M2
上記化学式1中、M1およびM2はそれぞれZr、Ti、Mg、Al、Ni、Mn、Zn、Fe、Cr、MoおよびWのうちの少なくとも一つであり、xは0.90≦x≦1.07、aは0.65≦a≦0.99、bは0<b≦0.3、cは0<c≦0.3、dは0<d<0.01、eは0<e<0.01であり、a+b+c+d+e=1である。
【0030】
このとき、前記bは0<b≦0.2または0<b≦0.1であってもよく、cは0<c≦0.2または0<c≦0.1であってもよい。
【0031】
なお、前記M1はZrであり、前記M2はAlであってもよい。M1がZrであり、M2がAlである場合、本実施形態の正極活物質は、前記リチウム金属酸化物全体を基準にして、Zrを0.05重量部~0.6重量部、そしてAlを0.01~0.4重量部の範囲で含むことができる。
【0032】
本実施形態の正極活物質は、前記2次粒子の表面に位置する表面層をさらに含むことができる。前記表面層は、例えば、B、Zr、Al、W、Nb、P、Ce、Ti、Ta、Co、SiおよびMnからなるグループより選択された一つ以上を含むことができる。このように2次粒子表面に位置する表面層をさらに含む場合、正極活物質と電解液との副反応を抑制してリチウム二次電池が劣化するのを顕著に低減させることができる。
【0033】
本発明の他の一実施形態では、コーティング層形成物質を製造する段階、共沈反応器内に金属塩水溶液を投入して金属前駆体を得る段階、および前記コーティング層形成物質、前記金属前駆体およびリチウム原料物質を混合した後に焼成して正極活物質を得る段階を含む正極活物質の製造方法を提供する。
【0034】
特に、本実施形態で、前記コーティング層形成物質は、微粒子粉末として提供されてもよい。前記微粒子粉末の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm~1.5μm、より具体的には、0.3μm~1μmの範囲であってもよい。
【0035】
より具体的には、前記コーティング層形成物質を製造する段階は、ボロン化合物を構成する原料物質を混合して焼成する段階、および前記焼成された焼成物を粉砕する段階を含む。このとき、ボロン化合物を構成する原料物質を混合して焼成する段階は、例えば、400℃~700℃の温度範囲で2時間~7時間行うことができる。前述のような条件で焼成を行う場合、リチウムイオンがよく移動できるリチウムイオン伝導体を効果的に製造することができるという利点がある。
【0036】
このようにコーティング層形成物質を固体状態の微粒子形態に製造して金属前駆体およびリチウム原料物質と混合して正極活物質を製造する場合、2次粒子の内部、より具体的には、1次粒子の表面までボロン化合物が浸透してコーティング層を形成することができる。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態による2次粒子の一部に対する概略図を示したものである。
【0038】
図1を参照すれば、本実施形態のように、コーティング層形成物質を固体状態の微粒子形態に製造した後、金属前駆体およびリチウム原料物質と混合して正極活物質を製造する場合、1次粒子の表面、即ち、1次粒子間の界面の間にボロン化合物の浸透が可能である。したがって、リチウムイオン伝導性の高いボロン化合物が1次粒子の界面の間に存在するため正極活物質の出力特性を画期的に向上させることができる。
【0039】
一方、前記正極活物質を得る段階は、より具体的には、前記コーティング層形成物質、前記金属前駆体およびリチウム原料物質を混合した後に焼成して焼成体を製造し、その後に水洗する段階および水洗された焼成体に表面層を形成する段階をさらに含むことができる。
【0040】
前記水洗する段階は表面に存在する残留リチウムを除去するためであって、例えば、蒸留水を用いて行うことができる。
【0041】
その次に、前記水洗された焼成体は乾燥して水分などを除去することができる。前記乾燥は、例えば、80℃~300℃の温度範囲で、1時間~30時間行うことができる。
【0042】
その次に、前記乾燥された焼成体に表面層を形成する段階を行うことができる。
【0043】
具体的には、前記リチウム金属酸化物粒子の外面を囲む表面層を形成する段階は、前記リチウム金属酸化物粒子および表面層形成のための原料物質を混合して混合物を製造する段階と前記混合物を熱処理は段階を含むことができる。
【0044】
前記表面層形成のための原料物質は、例えば、B、Zr、Al、W、Nb、P、Ce、Ti、Ta、Co、SiおよびMnからなるグループより選択された一つ以上であってもよい。前記リチウム金属酸化物粒子および表面層形成のための原料物質を混合して混合物を製造する段階は、乾式混合または湿式混合方式に限られない。
【0045】
その次に、前記熱処理する段階は、例えば、200℃~800℃の温度範囲で、1時間~10時間、空気(Air)、酸素(O)または窒素(N)雰囲気で行うことができる。
【0046】
本実施形態の正極活物質を製造するためのより詳細な条件については後述の実施例でより具体的に説明する。
【0047】
本発明の他の一実施形態では、前述の本発明の一実施形態による正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極および前記正極および負極の間に位置する電解質を含むリチウム二次電池を提供する。
【0048】
前記正極活物質に関する説明は前述の本発明の一実施形態と同一なため省略する。
【0049】
前記正極活物質層は、バインダーおよび導電材を含むことができる。
【0050】
前記バインダーは、正極活物質粒子を互いによく付着させ、また正極活物質を電流集電体によく付着させる役割を果たす。
【0051】
前記導電材は電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさず電子伝導性材料であればいずれのものでも使用可能である。
【0052】
前記負極は集電体および前記集電体の上に形成された負極活物質層を含み、前記負極活物質層は負極活物質を含む。
【0053】
前記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にインターカレーション/デインターカレーションすることができる物質、リチウム金属、リチウム金属の合金、リチウムをドープおよび脱ドープすることができる物質、または遷移金属酸化物を含む。
【0054】
前記リチウムイオンを可逆的にインターカレーション/デインターカレーションすることができる物質としては、炭素物質であって、リチウムイオン二次電池で一般に使用される炭素系負極活物質はいずれのものでも使用することができ、その代表的な例としては、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらを共に使用することができる。
【0055】
前記リチウム金属の合金としては、リチウムとNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Si、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、AlおよびSnからなる群より選択される金属の合金が使用できる。
【0056】
前記リチウムをドープおよび脱ドープすることができる物質としては、Si、SiO(0<x<2)、Si-Y合金(前記Yはアルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、Siではない)、Sn、SnO、Sn-Y(前記Yはアルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、Snではない)などが挙げられる。
【0057】
前記遷移金属酸化物としては、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物などが挙げられる。前記負極活物質層はまたバインダーを含み、選択的に導電材をさらに含んでもよい。
【0058】
前記バインダーは、負極活物質粒子を互いによく付着させ、また負極活物質を電流集電体によく付着させる役割を果たす。
【0059】
前記導電材は電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こさず電子伝導性材料であればいずれのものでも使用可能である。
【0060】
前記集電体としては、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタニウム箔、ニッケル発泡体(foam)、銅発泡体、伝導性金属がコーティングされたポリマー基材、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるものを使用することができる。
【0061】
前記負極と正極は、活物質、導電材および結着剤を溶媒中で混合して活物質組成物を製造し、この組成物を電流集電体に塗布して製造する。このような電極製造方法は当該分野に広く知られた内容であるので本明細書で詳細な説明は省略する。前記溶媒としてはN-メチルピロリドンなどを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0062】
前記電解質は、非水性有機溶媒とリチウム塩を含む。
【0063】
前記非水性有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動できる媒質の役割を果たす。
【0064】
前記リチウム塩は、有機溶媒に溶解されて、電池内でリチウムイオンの供給源として作用して基本的なリチウム二次電池の作動を可能にし、正極と負極の間のリチウムイオンの移動を促進する役割を果たす物質である。
【0065】
リチウム二次電池の種類によって正極と負極の間にセパレータが存在してもよい。このようなセパレータとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンまたはこれらの2層以上の多層膜が使用でき、ポリエチレン/ポリプロピレン2層セパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレン3層セパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層セパレータなどのような混合多層膜が使用できるのはもちろんである。
【0066】
リチウム二次電池は使用するセパレータと電解質の種類によってリチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池およびリチウムポリマー電池に分類でき、形態によって円筒形、角型、コイン型、パウチ型などに分類でき、サイズによってバルクタイプと薄膜タイプに分けられる。これら電池の構造と製造方法はこの分野に広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【実施例
【0067】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、これは例示として提示されるものであって、これによって本発明が制限されず、本発明は後述の請求範囲の範疇によって定義される。
【0068】
(製造例1)-コーティング層形成物質の製造および特性確認
ボロン化合物を構成する原料であるLiOH・HOとHBOを量論比で秤量して混合した後、これを600℃大気下で4時間焼成して合成した。
【0069】
図2には製造例1によって製造されたコーティング層形成物質に対するXRD測定結果を示した。図2を参照すると、LiBO相が結晶構造としてよく形成されることが分かる。
【0070】
前述のように合成されたコーティング層形成物質をビードミル(bead mill)を通じて平均粒径が0.5μm~0.7μmの範囲になるように粉砕して、LiBO組成のコーティング層形成物質を製造した。
【0071】
前述のように製造されたコーティング層形成物質に対して下記のような方法で特性テストを行った。
【0072】
合成されたコーティング層形成物質粉末を用いて直径10mmを有するペレット(pellet)を作った後、約720℃で熱処理した。その次に、その表面を研磨(polishing)して厚さ0.5mmで製造した。ペレット(pellet)両面には3μm厚さでAu薄膜を真空熱蒸着して電極を形成した。
その後、2プローブ法(2 probe method)でACインピーダンスアナライザ(AC impedance analyzer)を用いて7MHzから1Hzまで半円を測定した。測定された半円の直径からイオン伝導度を計算した。このとき、計算されたイオン伝導度は約1.2×10-6S/cmであった。
【0073】
LiBOは2.16g/cmの理論密度と約750℃のm.p.を有し、オルトボレート(orthoborate、BO 3-)ユニット(unit)で構成されている。また、LiOと反応しない。したがって、ハイニッケル系正極活物質に存在するリチウム副産物とも反応せず正極活物質の1次粒子界面に拡散できる。
【0074】
(実施例1)LiBO 0.005モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
1)正極活物質前駆体の製造
ニッケル原料物質としてはNiSO・6HO、コバルト原料物質としてはCoSO・7HO、マンガン原料物質としてはMnSO・HOを用いた。これら原料を蒸留水に溶解させて2.5Mの金属塩水溶液を製造した。
共沈反応器を準備した後、共沈反応時金属イオンの酸化を防止するためにNをパージ(purging)し、反応器温度は50℃を維持した。
前記共沈反応器に金属塩水溶液およびキレーティング剤としてNH(OH)を投入した。また、pH調節のためにNaOHを使用した。共沈工程によって得られた沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、100℃オーブンで24時間乾燥して正極活物質前駆体を製造した。
製造された前駆体の組成は(Ni0.71Co0.10Mn0.19)(OH)であり、平均粒径(D50)は11.0μmであった。
【0075】
2)正極活物質の製造
前記1)で製造した正極活物質前駆体1モルを基準にして、LiOH・HO(三全化学、battery grade)1.05モル、ZrO(Aldrich、4N)0.0022モル、Al(OH)(Aldrich、4N)0.007モル、LiBO 0.005モルを均一に混合して混合物を製造した。
前記混合物をチューブ炉(tube furnace)に装入して酸素を流入させながら焼成した後、常温に冷却した。
その次に、冷却生成物を蒸留水を用いて水洗した後にろ過し乾燥させ、その後、HBO(Aldrich)を乾式混合した。前記混合物を300~350℃で5時間熱処理してボロン(B)が表面にコーティングされた正極活物質を製造した。
【0076】
(実施例2)LiBO 0.0025モル含むNi 71mol%小粒径正極活物質製造
1)正極活物質前駆体の製造
実施例1の1)と同一であり、前駆体の平均粒径(D50)が4μmになるように実施した。
【0077】
2)正極活物質の製造
LiBOを0.0025モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0078】
(実施例3)LiBO 0.003モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.003モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0079】
(実施例4)LiBO 0.001モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.001モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0080】
(実施例5)LiBO 0.007モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.007モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0081】
(実施例6)LiBO 0.01モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.01モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0082】
(比較例1)LiBOが含まれていないNi 71mol%大粒径正極活物質製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを投入しないことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0083】
(比較例2)LiBOが含まれていないNi 71mol%小粒径正極活物質製造
実施例2の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを投入しないことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0084】
(実施例7)LiBO 0.0015モル含むNi 71mol%小粒径正極活物質製造
実施例2の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.0015モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0085】
(実施例8)LiBO 0.001モル含むNi 71mol%小粒径正極活物質製造
実施例2の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.001モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0086】
(実施例9)LiBO 0.005モル含むNi 71mol%小粒径正極活物質製造
実施例2の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.005モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0087】
(実施例10)LiBO 0.007モル含むNi 71mol%小粒径正極活物質製造
実施例2の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.007モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0088】
(比較例3)LiBOが含まれていないNi 71mol%バイモーダル型正極活物質製造
比較例1の大粒径正極活物質と比較例2の小粒径正極活物質を重量比で7:3範囲で均一混合してバイモーダル型正極活物質を製造した。
【0089】
(実施例11)LiBOが含まれているNi 71mol%バイモーダル型正極活物質製造
実施例1の大粒径正極活物質と実施例2の小粒径正極活物質を重量比で7:3範囲で均一混合してバイモーダル型正極活物質を製造した。
【0090】
(実施例12)リチウム金属酸化物粒子の表面にボロンを含む表面層が位置しなく、LiBO 0.005モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.005モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造し、HBOを用いた乾式表面コーティング工程は省略した。
【0091】
(参考例1)前駆体製造後、焼成粉末にほう酸を混合して製造された正極活物質
1)正極活物質前駆体の製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
【0092】
2)正極活物質の製造
前記1)で製造した正極活物質前駆体1モルを基準にして、LiOH・HO(三全化学、battery grade)1.05モル、ZrO(Aldrich、4N)0.0022モル、Al(OH)(Aldrich、4N)0.007モルを均一に混合して混合物を製造した。
前記混合物をチューブ炉(tube furnace)に装入して酸素を流入させながら焼成した後、常温に冷却した。
その次に、冷却生成物を蒸留水を用いて水洗した後にろ過し乾燥させ、その後、HBO(Aldrich)を0.005モル乾式混合した。その後、再び蒸留水を正極活物質重量に対して10wt%添加して追加的に混合した。これを真空乾燥機内で10mTorr以下の真空度を維持しながら100℃まで昇温させて1次的に水を乾燥した。その後、2次に190℃まで昇温して最終的に正極活物質を製造した。
【0093】
(参考例2)LiBO 0.0005モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.0005モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0094】
(参考例3)LiBO 0.015モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
その後、LiBOを0.015モル添加したことを除いては実施例1の2)と同様な方法で正極活物質を製造した。
【0095】
(比較例4)-粒径が1.7μmであるLiBO 0.005モル含むNi 71mol%大粒径正極活物質製造
1)正極活物質前駆体の製造
実施例1の1)と同様な方法で正極活物質前駆体を製造した。
【0096】
2)正極活物質の製造
前記1)で製造した正極活物質前駆体1モルを基準にして、LiOH・HO(三全化学、battery grade)1.05モル、ZrO(Aldrich、4N)0.0022モル、Al(OH)(Aldrich、4N)0.007モル、LiBO 0.005モルを均一に混合して混合物を製造した。
このとき、LiBOは前記製造例1と同様な方法で製造され平均粒径が1.7μmに粉砕されたものを使用した。
前記混合物をチューブ炉(tube furnace)に装入して酸素を流入させながら焼成した後、常温に冷却した。
その次に、冷却生成物を蒸留水を用いて水洗した後にろ過し乾燥させ、その後、HBO(Aldrich)を乾式混合した。前記混合物を300~350℃で5時間熱処理してボロン(B)が表面にコーティングされた正極活物質を製造した。
【0097】
(実験例1)1次粒子表面部成分測定(Electron Energy Loss Spectroscopy、EELS)
実施例1および比較例4で製造した正極活物質をFIB(Focused Ion Beam、SEIKO 3050SE)で断面を切断しSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy、JEOL ARM 200F)分析装備で正極活物質断面を分析して図3a、図4aに示した。
【0098】
その次に、図3a、図4aに示されたように正極活物質の1次粒子表面部に対して、EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy、GATAN GIF Quantum ER 965)装備を用いて表面部にボロン化合物を含むコーティング層形成有無を分析した。結果は図3b、図4bに示した。
【0099】
図3bを参照すれば、1次粒子の表面にはリチウムおよびボロンが共に存在するのを確認することができる。ボロンの検出有無をより明確に確認するために、図3bでのボロン検出領域のスペクトル一部を拡大して図3cに示した。
【0100】
図3cを参照すれば、1次粒子の表面にボロンが位置することがより明確に分かる。但し、リチウムとボロンの場合、元のピーク位置に比べて正の方向に移動(shift)され、これは、試片の酸化によって現れる一般的なことであって、約5-10eV程度正の方向に移動(shift)された。
【0101】
図3bおよび図3cの結果から、1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成されたことが分かる。これにより、本実施形態による正極活物質で、1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成されたのを確認することができる。
【0102】
しかし、図4bを参照すれば、比較例4のように平均粒径(D50)が1.7μmであるLiBOを用いてリチウム金属酸化物の表面にコーティング層を形成した場合には、正極活物質で、1次粒子の表面に位置するコーティング層にボロンが存在しないのを確認することができる。
【0103】
(実験例2)正極活物質の1次粒子平均粒径分析(SEM)
実施例1および比較例1によって製造した正極活物質に対してSEM分析を通じて1次粒子の平均粒度(D50)を測定した。図5には比較例1の正極活物質に対する結果を示し、図6には実施例1の正極活物質に対する結果を示した。
【0104】
図5を参照すれば、比較例1によって製造された正極活物質で、1次粒子の平均粒径(D50)は約0.2μm~1μmの範囲であることが分かる。
【0105】
これに対し、図6を参照すれば、実施例1によって製造された正極活物質で、1次粒子の平均粒径(D50)は0.5μm~1.3μmの範囲で増加したのを確認することができる。
【0106】
即ち、正極活物質製造時、金属前駆体およびリチウム原料物質と共にLiBOを混合して焼成する場合を含んでLiBOが焼結剤(sintering agent)としての役割を果たすと思料される。このように同一焼成温度で製造される1次粒子の平均粒径(D50)が増加すると、エネルギー費用節減にも非常に有利であるだけでなく、2次粒子の結晶性が増加する。このように結晶性が増加すると、リチウムイオンの脱・挿入が有利であり、寿命特性を向上させることができる。また、正極活物質表面の残留リチウム含量を低減させることができて非常に有利である。
【0107】
(実験例3)X線回折評価
実施例1~2および比較例1~2によって製造された正極活物質に対して、CuKα線を使用してX線回折測定で格子定数を測定した。測定されたa軸長さおよびc軸長さと結晶軸間の距離比(c/a軸比)を下記表1に示した。
【0108】
また、正極活物質の半値幅(Full Width at Half Maximum)および結晶粒大きさ(crystalline size)を測定して、下記表1に示した。
【0109】
結晶学的考察のためにハイスコアプラスリートベルトソフトウェア(high score plus Rietveld software)を用いてリートベルト(Rietveld)分析を実施した。リートベルト(Rietveld)分析のためのXRD測定はCuKα線をターゲット線にして、X’Pert powder(PANalytical社)XRD装備を使用して測定した。測定条件は2θ=10°~110°、スキャンスピード(°/S)=0.328の条件で実施して、(003)面、(104)面、(006)面、(102)面および(101)面の強度を得た。
【0110】
(003)面および(104)面の強度(ピーク面積)測定結果からI(003)/I(104)を求めて、下記表1に示した。
【0111】
また、(006)面、(102)面および(101)面の強度測定結果から下記式1によってR-ファクターを求めて、下記表1に示した。
【0112】
この結果で、GOF(Goodness of Fit)値が1.3以内に計算されることによって、Rietveld構造分析結果は信頼できる数値であると言える。
【0113】
[式1]
R-ファクター={I(006)+I(102)}/I(101)
【0114】
【表1】
【0115】
表1を参照すると、大粒径正極活物質の実施例1および比較例1を比較すれば、a軸とc軸の長さは大きく変化しなかった。しかし、半値幅(Full Width at Half Maximum)は実施例1が比較例1に比べて顕著に減少し、結晶粒大きさは非常に増加した。これは、同一な焼成温度で結晶化がさらによく行われたことを意味する。このように結晶化がよく行われた正極活物質をリチウム二次電池に適用する場合、電池の寿命特性を向上させることができ、残留リチウムを低減させることができて非常に有利である。
【0116】
その次に、I(003)とI(104)のピーク面積比であるI(003)/I(104)を通じてLiとNi2+の陽イオン混合(cation mixing)程度を測定した。また、式1を通じてヘキサゴナルオーダー(hexagonal order)の程度が分かるR-ファクター値を求めた。
【0117】
実施例1の正極活物質は比較例1に比べてI(003)/I(104)比が増加し、R-ファクターは減少したので、陽イオン混合(cation mixing)は減少し、ヘキサゴナル構造もよく成長したのを確認することができる。
【0118】
一方、小粒径正極活物質である実施例2および比較例2を比較すれば、a軸とc軸の長さは大きく変化しなかった。しかし、大粒径活物質と同様に半値幅は著しく減少し、結晶粒大きさは増加したのを確認することができる。
【0119】
(実験例4)粒子強度測定
実施例1および比較例1によって製造した正極活物質に対して粒子強度を測定した。粒子強度は光学式顕微鏡と圧着用圧力ロッドが装着された装備(Micro particle compression test、Shimadzu社のMCT-W500)を用いて測定した。
【0120】
具体的には、粒子強度は正極活物質粒子15個を無作為に選んで測定した後、最大値、最小値およびノイズを除去した後、図7および図8に示した。
【0121】
図7は実施例1の正極活物質に対する粒子強度を測定したものであり、図8は比較例1の正極活物質に対する粒子強度を測定した結果である。
【0122】
図7を参照すれば、実施例1の正極活物質は約180MPaの粒子強度を示す。これに対し、図8を参照すれば、比較例1の正極活物質は約150MPaの粒子強度を示した。これによって、LiBOを含む正極活物質の場合、同一温度で焼成する場合に正極活物質の粒子強度を増加させることが分かる。正極活物質の粒子強度が増加する場合、リチウム二次電池の充電および放電中にクラック発生を抑制し、これによって電解液との副反応を抑制することができる。
【0123】
同様な方法で実施例1、3、4、5、6および比較例1によって製造された正極活物質に対して、粒子強度を測定した後、式2によって計算された粒子強度を下記表2に示した。
【0124】
[式2]
St=2.8×P/(πd
St:粒子強度(tensile strength(MPa))
P:印加圧力(test force(N))
d:粒子の直径(particle diameter(mm))
【0125】
(実験例5)電気化学特性評価
実施例1~12、比較例1~4および参考例1~3によって製造された正極活物質を用いて2032コイン型半電池を製造した後、電気化学評価を行った。
【0126】
(1)コイン型半電池製造
具体的には、正極活物質、ポリビニリデンフルオライドバインダー(商品名:KF1100)およびデンカブラック導電材を92.5:3.5:4の重量比で混合し、この混合物を固形分が約30重量%になるようにN-メチル-2-ピロリドン(N-Methyl-2-pyrrolidone)溶媒に添加して正極活物質スラリーを製造した。
前記スラリーをドクターブレード(Doctor blade)を用いて正極集電体であるアルミニウム箔(Al foil、厚さ:15μm)上にコーティングし、乾燥した後に圧延して正極を製造した。前記正極のローディング量は約14mg/cmであり、圧延密度は約3.1g/cmであった。
前記正極、リチウム金属負極(厚さ200μm、Honzo metal)、電解液とポリプロピレンセパレータを使用して通常の方法で2032コイン型半電池を製造した。前記電解液は1M LiPFをエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(混合比EC:DMC:EMC=3:4:3体積%)に溶解させて混合溶液を製造した後、ここにビニレンカーボネート(VC)1.5重量%を添加して使用した。
【0127】
(2)充放電特性評価
前記(1)で製造されたコイン型半電池を常温(25℃)で10時間エイジング(aging)した後、充放電テストを行った。
容量評価は170mAh/gを0.1C rateで評価基準容量とし、充放電条件は定電流(CC)/定電圧(CV)3V~4.3V、1/20Cカット-オフ条件を適用した。初期容量は0.1C充電/0.1C放電1回充放電を実施して、放電容量を測定した後、その結果を放電容量として下記表2に示した。
【0128】
また、0.2C充電容量に対する0.2C放電容量比を求めて、その結果を初期効率として下記表2に示した。
【0129】
一方、図9には実施例1および比較例1の正極活物質に対して充電電圧を4.5Vまで増加させて充放電後、初期充放電を比較するグラフを示した。
【0130】
より具体的には、図9は、金属前駆体およびリチウム原料物質と共にLiBOを追加して正極活物質を製造する場合の効果をより明確に確認するためのものである。即ち、実施例1および比較例1の正極活物質に対して、充電電圧を一般的な測定範囲である4.3Vより高い4.5Vまで増加させて0.1C充電/0.1C放電条件で1回充放電後、初期充電および放電を比較するグラフを示した。
【0131】
図9を参照すれば、比較例1は充電容量230mAh/g、放電容量207mAh/gを示した。これに対し、実施例1は充電容量236mAh/g、放電容量212mAh/gであって初期充電および放電容量が全て増加するのを確認することができる。特に、充電時3.9V~4.2V領域で比較例1の正極活物質に比べて実施例1の正極活物質の場合に抵抗が少なく現れることが分かる。
【0132】
2C出力は、1C基準容量に対する2倍の定電流を印加して放電容量を測定し、これを4.3V-3V範囲内で2C/0.1C容量比に換算して測定した。
【0133】
その次に、高温寿命特性を確認するために、高温(45℃)で0.3C充電/0.3C放電条件で50回充放電を実施して、初回放電容量に対する50回放電容量比を求めて、その結果を下記表2に示した。一方、実施例1および比較例1の正極活物質に対しては図10に高温寿命特性を比較するグラフを示した。
【0134】
図10を参照すれば、実施例1の正極活物質は50回充放電後にも初期容量に対して99%で非常に優れた結果を示すのを確認することができる。これに対し、比較例1の正極活物質は50回充放電後、寿命特性が約96%に低下したことが分かる。
【0135】
また、高温抵抗(直流内部抵抗:DC-IR(Direct current internal resistance))増加率は高温初期抵抗値を測定した後、サイクル寿命50回後の抵抗値を測定してその上昇率を百分率(%)に換算して求める。結果を下記表2に示した。
【0136】
このとき、高温初期抵抗値は、電池を45℃で4.3V充電100%で0.5C放電電流を印加した後、60秒後の電圧値を測定してこれをオームの法則(R=V/I)を用いて求める。
【0137】
一方、実施例1および比較例1の正極活物質に対しては図11に高温抵抗増加率を比較するグラフを示した。
【0138】
図11を参照すれば、比較例1の正極活物質は高温(45℃)で50回充放電後、初期抵抗に比べて70%の抵抗増加率を示した。これに対し、実施例1の正極活物質は50回充放電後にも約40%であって比較例1の正極活物質と比較すると、約30%程度低い抵抗増加率を示した。したがって、抵抗増加率面でも非常に優れた結果を示すのを確認することができる。
【0139】
【表2】
【0140】
表2を参照すれば、1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成された実施例1、3~6および12によって製造された大粒径正極活物質の場合、1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成されていない比較例1に比べて全て粒子強度が大きく改善された。また、初期効率、2C出力、容量維持率および高温抵抗増加率が全て向上したのを確認することができる。
【0141】
但し、大粒子を有する正極活物質の中で1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成されても2次粒子内に含まれるボロン化合物の含量が0.001モル~0.01モルの範囲を逸脱する参考例2および3によって製造された正極活物質の場合には比較例1よりは出力特性、容量維持率および高温抵抗特性などの電気化学特性が優れるが、実施例と比較すれば電気化学特性が多少劣るのを確認することができる。
【0142】
また、1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成された実施例2および実施例7~10によって製造された小粒径正極活物質も、1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成されていない比較例2に比べて初期効率、2C出力、容量維持率および高温抵抗増加率が全て向上したのを確認することができる。
【0143】
なお、バイモーダル形態に正極活物質を製造した実施例11および比較例3の場合にも1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成された実施例11の正極活物質が、コーティング層が形成されていない比較例3に比べて電気化学的特性が全て優れることが分かる。
【0144】
一方、前駆体製造後、焼成する前にコーティング層形成物質を混合して焼成後に正極活物質を製造した実施例とは異なり、焼成粉末製造後にほう酸を混合して正極活物質を製造した参考例1の場合、粒子強度が顕著に低く電気化学特性、特に高温抵抗が顕著に増加して電池性能が非常に低下するのを確認することができる。
【0145】
その次に、LiBOの平均粒径(D50)が1.7μmであるコーティング層形成物質を用いて正極活物質を製造した比較例4の場合には粒子強度が顕著に低く出力特性、容量維持率および高温抵抗特性などの電気化学特性も非常に悪い結果を示した。
【0146】
これにより、本実施形態のように1次粒子の表面にボロン化合物を含むコーティング層が形成された正極活物質は、大粒径、小粒径およびバイモーダルのうちのいずれの形態で実施しても電池性能を大きく改善することができるのが分かる。
【0147】
(実験例6)TEM構造分析
実施例1によって製造された正極活物質の1次粒子表面に対してTEM構造分析を行って結果を図12aに示した。前記TEM構造分析は、球面収差補正透過電子顕微鏡(Cs-Corrected Transmission Electron Microscopy、JEOL社、JEM-ARM200F、x20K、200kV)を用いて結晶性を分析したものである。
【0148】
より綿密な観察のために、図12bには、図12aで正極活物質の1次粒子と1次粒子表面に位置するコーティング層が共に存在する領域を拡大して示した。図12bを参照すれば、1次粒子領域、即ち、活物質領域は櫛目のような一定の斜線パターンが観察され、これによって層状系結晶構造を示しているのを確認することができる。これに対し、1次粒子表面に位置するコーティング層、即ち、コーティング領域は一定のパターンがなくランダムな紋であり、これによって非晶質構造を含むのを確認することができる。
【0149】
本発明は前記実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せず他の具体的な形態に実施できるということが理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12a
図12b