(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】偏光発光を有する発光ダイオードの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 71/12 20230101AFI20240110BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20240110BHJP
H10K 50/115 20230101ALI20240110BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20240110BHJP
H10K 71/18 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
H10K71/12
H05B33/14 Z
H10K50/115
H10K50/86
H10K71/18
(21)【出願番号】P 2022524567
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 EP2019079361
(87)【国際公開番号】W WO2021083477
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504415913
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツア フォルデルング デア アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】シュリッケ ヘンドリク
(72)【発明者】
【氏名】ニーハウス ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シュローエン、クリストフ
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-142296(JP,A)
【文献】特表2015-522837(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0165291(US,A1)
【文献】特開2007-158117(JP,A)
【文献】HIKMET, R. A. M., et al.,Polarized-Light-Emitting Quantum-Rod Diodes,Adv. Mater.,米国,Wiley,2005年05月24日,17,1436-1439,https://doi.org/10.1002/adma.200401763
【文献】AMIT, Y., et al. ,Semiconductor nanorod layers aligned through mechanical rubbing,Phys. Status. Solidi. A,米国,Wiley,2011年12月02日,209,235-242,https://doi.org/10.1002/pssa.201127572
【文献】RIZZO, A., et al. ,Polarized Light Emitting Diode by Long-Range Nanorod Self-Assembling on a Water Surface,ACS Nano,米国,ACS Publications,2009年05月15日,3(6),1506-1512,https://doi.org/10.1002/pssa.201127572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 71/12
H05B 33/14
H10K 50/115
H10K 50/86
H10K 71/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光発光を有する発光ダイオードを製造する方法であって、
- 長尺半導体ナノ粒子が分散する液体を、少なくとも2つの電極を有する基材の表面に塗布し、上記基材の上記表面に塗布した上記長尺半導体ナノ粒子を、上記電極により生成された電場内で整列させること;
- 上記整列した長尺半導体ナノ粒子を、上記基材の上記表面から半完成発光ダイオードの表面に移送すること;
- 上記長尺半導体ナノ粒子を有する上記半完成発光ダイオードに1又は2以上の構成要素をマウントすることにより、上記発光ダイオードを完成させること;
を有する、方法。
【請求項2】
前記長尺半導体ナノ粒子が半導体ナノロッド又は半導体ナノワイヤである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電極が前記基材の前記表面に存在する;請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電極の少なくとも1つが前記基材中に埋め込まれている;請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記電極が分岐し、相互嵌合電極配置を形成する;請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記電極が相互に重ね合わせた配置にある;請求項1、2又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記電場が交番電場である;請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記移送が、前記整列した長尺半導体ナノ粒子を前記基材の前記表面から中間担体の表面に移送し、次いで、上記中間担体の上記表面から前記半完成発光ダイオードの前記表面に移送することを有する;請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記中間担体が、スタンプ、熱脱離粘着テープ又はポリマーフィルムである;請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記移送が、前記整列した長尺半導体ナノ粒子が存在する前記基材の前記表面を、前記半完成発光ダイオードの前記表面と接触させ、次いで、前記長尺半導体ナノ粒子の少なくとも一部が前記半完成発光ダイオードの前記表面に残っている状態で、前記基材を前記半完成発光ダイオードから除くことを有する;請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記移送が、複数の層を、前記基材の前記表面に存在する前記整列した長尺半導体ナノ粒子に塗布し、これらの層は前記半完成発光ダイオードを形成するものであり、次いで、前記長尺半導体ナノ粒子の少なくとも一部が前記半完成発光ダイオードの前記表面に残っている状態で、前記基材を前記半完成発光ダイオードから除くことを有する;請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高偏光度を有する偏光を放射する発光ダイオード(「LED」)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ技術の分野ではコロイド半導体ナノ粒子の使用が知られている。半導体ナノ粒子の形状、サイズ及び組成を変えることにより、その電気光学的特性を制御することが可能である。半導体ナノ粒子は、高い量子収率を有する狭い発光スペクトルを特徴とする。放射は、光励起(フォトルミネセンス)又は電荷注入(エレクトロルミネセンス)により引き起こされる。
【0003】
半導体ナノ粒子及びディスプレイ技術におけるその使用についての総説は、U.Baninら、Angew.Chem.、2018、130、4354-4376頁に見出すことができる。
【0004】
半導体ナノ粒子をディスプレイ用途に使用する場合には、2つの基本原理を区別することが可能である。第一に、より短い波長の光を用いて半導体ナノ結晶を励起することによりそのフォトルミネセンスを利用することができる。第二に、(例えばLEDの成分としての)半導体ナノ結晶は、電気エネルギーの光への直接変換によるエレクトロルミネセンスにより作動させることができる。
【0005】
現在の液晶ディスプレイ(LCD)の幾つかにおいては、半導体ナノ粒子は、例えば、背景照明ユニットの構成要素である。LED(例えば、青色LED)により放射される発光は、半導体ナノ粒子にフォトルミネセンスを誘発する。半導体ナノ粒子により放射されるこの発光及びLEDにより放射される発光は混ざることができ、例えば、白色光となり、液晶含有セルに供給される。
【0006】
「量子ドット」LEDにおいて、半導体ナノ粒子は、電極と任意のさらなる機能層(例えば、電子輸送層、正孔輸送層(Lochtransportschichiten)、正孔注入層(Lochinjektionsschichiten)、電子注入層等)の間のエミッタ層内に存在する。
【0007】
既知の合成法(例えば湿式化学法)により所定のサイズ及び形状の半導体ナノ粒子を製造することが可能である。適切な合成条件の確立により、球状の、長尺の(例えば、ロッド形状の又はワイヤ形状の)、板状のナノ粒子、又は、複雑な形状を有する他のナノ粒子を、狭いサイズ分布で選択的に得ることが可能である。(例えばコア-シェル構造の形態の)ヘテロ構造の半導体ナノ粒子の使用により、電気光学的特性を制御できることがさらに知られている。
【0008】
偏(例えば、線形又は円偏)光は、多くの分野の用途、例えば、ディスプレイ技術(例えば、3Dプロジェクション、ホログラフィー又はモビリティ業界における所謂ヘッドアップディスプレイ(「HUD」))及び科学分野において重要な役割を有している。
【0009】
線形偏光は、例えば、非偏光-放射光源からの光の線形偏光フィルタによるフィルタリングにより生成させることができる。この概念は高偏光度を達成できるものの、異なる偏光面を持つ光がまず生成され、次いでフィルタにより遮断されるため、比効率的である。レーザーは偏光を放射するが、面照明用途には不適切である。
【0010】
より効率的な偏光放射光源は、偏光を放射するエミッタを使用する場合に得ることができる。
【0011】
整列させた長尺半導体ナノ粒子の層(特に、半導体ナノロッド及び半導体ナノワイヤ、すなわち、>1のアスペクト比を有するナノ粒子)は、フォトルミネセンスを介して、又は、あるいはエレクトロルミネセンスを介して、偏光を放射することが知られている。長尺半導体ナノ粒子を含有する偏光放射LEDの製造において生じる課題の1つは、LEDのエミッタ層内に半導体ナノ粒子を高度に均一に整列させることである。LEDエミッタ層内の長尺ナノ粒子の整列が高度の均一性を有する場合にのみ、LEDは高偏光度を示す。
【0012】
R.Hikmetら、Adv.Mater.、17、2005、1436-1439頁は、ナノロッドを含有するエミッタ層を有する発光ダイオード(LED)の製造を記述する。半導体ナノロッドが分散した液は、半完成LEDにスピンコーティングにより塗布される。半導体ナノロッドを、塗布した液体の擦りつけ(Verreiben)により機械的に整列させる。これが完了した後に、ナノロッド含有LEDは、エレクトロルミネセンス分光法により測定される約0.25の偏光度を持つ。
【0013】
同様に、A.Rizzoら、ACS Nano、2009、3、1506-1512頁は、ナノロッド含有エミッタ層を有する発光ダイオード(LED)の製造を記述する。半導体ナノロッドは液体表面に整列される。液体表面に存在するナノロッドは、スタンプ(Stempel)により取り込まれ、製造途中の半完成段階のLEDに移送される。これが完了した後に、ナノロッド含有LEDは、エレクトロルミネセンス分光法により測定される約0.25の偏光度を持つ。
【0014】
US7,700,200B2は、そのエミッタ層内に存在する半導体ナノ粒子を有するLEDを記述する。
【0015】
US10,036,921B2は偏光の放射源を記述し、整列したナノロッドが上記放射源内に存在する。
【0016】
US9,557,573B2は、配列したピクセルを有し、各ピクセルが整列したナノロッドを含む装置を記述する。
【0017】
WO2015/144288A1は偏光放射用の機器を記述し、この装置は、整列した半導体ナノロッドが内部に存在する溝を有する基材を有する。この機器の製造のためには、半導体ナノロッドが分散する液体を上記基材の溝に導入する。上記液体が蒸発した後に、整列したナノロッドが上記基材の溝内に存在することになる。
【0018】
US2019/165291A1は、そのエミッタ層内に存在する整列した半導体ナノロッドを有する発光ダイオードを記述する。この発光ダイオードの製造プロセスにおいて、まず半完成ダイオードが提供される。この半完成ダイオードは2つの電極を有する。半導体ナノロッドが分散する液体を半完成LEDに塗布する。上記ナノロッドは、上記2つの電極により生成される電場内で整列する。完成のためには、LEDの作動においてアノード及びカソードとして機能する電極、及び、さらなる機能層(例えば、電子及び正孔輸送層)を半完成LEDに付加する。従って、完成品LEDは少なくとも4つの電極を有し、これらの電極の2つのみがLEDの作動に必要とされ、他の2つの電極は、製造プロセスにおいて半導体ナノロッドの整列のためにのみ使われる。従って、この発光ダイオードは、LEDの実際の作動に不要な構成要素を含み、又は、状況によっては作動に悪影響を与えることさえあり、さらにはLEDの体積の望ましくない増大につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、効率的な方法により発光ダイオード(LED)を製造することである。この製造方法により、高偏光度を持つ偏光を放射することができるLEDが製造される一方、LEDの作動に不要な構成要素の組み込みが可能な限り回避されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、偏光発光(偏光放射)を有する発光ダイオードを製造する方法であって、
- 長尺半導体ナノ粒子が分散する液体を、少なくとも2つの電極を有する基材の表面に塗布し、上記基材の表面に塗布した上記長尺半導体ナノ粒子を、上記電極により生成される電場内で整列させること;
- 上記整列した長尺半導体ナノ粒子を、上記基材の表面から半完成発光ダイオードの表面に移送すること;
- 上記長尺半導体ナノ粒子を有する上記半完成発光ダイオードに1又は2以上の構成要素をマウントすることにより、発光ダイオードを完成させること;
を有する、方法により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1は、電場の上記電極への印加により基材上に整列した半導体ナノロッドの光電子スペクトルを示す。本発明に係る発光ダイオードについて測定したスペクトルを
図2に示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において、前記長尺半導体ナノ粒子は、外部整列基材(すなわち、最終的なLED内に組み込まれないもの)上の電場内で整列される。上記電場内でのその整列の後、前記長尺ナノ粒子は、移送工程において上記外部基材の表面から除かれ、半完成LEDの表面に移送される。以下により詳細に記述されるように、整列したナノ粒子は、上記基材の表面からまず中間担体の表面に移送され、当該中間担体から上記半完成LEDの表面に(間接移送)、又は、あるいは上記基材の表面から上記半完成LEDの表面に直接移送される。未だ組み込まれていない構成要素を上記半完成LEDにマウントした後、使用可能なLEDが得られる。驚くべきことに、上記電場内で上記外部基材上において整列したナノ粒子は、通常の移送方法(例えば、熱剥離テープ(Thermal-Release-Tape)又はスタンプ)により極めて効率的に上記半完成LED内に移送できる一方、均一な整列を維持することが見出された。本発明の方法においては、LEDの作動に不要な構成要素の組み込みが回避される。本発明の方法により、極めて高い偏光度を持つ偏光を放射することができるLEDが得られる。放射される偏光は例えば線形偏光である。
【0023】
前記長尺半導体ナノ粒子は、特に半導体ナノロッド又は半導体ナノワイヤである。
発光ダイオードに適切な半導体ナノロッド又はナノワイヤは当業者に既知である。
【0024】
前記半導体ナノ粒子は、例えば、1又は2種以上の化合物半導体及び/又は1又は2種以上の元素半導体を有する。
【0025】
前記化合物半導体は、例えば、II-VI族半導体、III-V族半導体、I-III-VI族半導体、IV-VI族半導体又はペロブスカイトである。
【0026】
II-VI、III-V及びIV-VI族化合物半導体のいずれも、二元化合物であってよく、又は、あるいは三元又は四元化合物であってもよい。
【0027】
II-VI族半導体に関しては、例えば下記の化合物が挙げられる:
CdS、CdSe、CdTe、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、(Zn,Cd)S、(Zn,Cd)S、(Zn,Cd)Se、(Zn,Cd)Te、Cd(S,Se)、Cd(Se,Te)、Zn(S,Se)、Zn(Se,Te)、HgS、HgSe、HgTe、(Hg,Cd)Te。
【0028】
III-V族半導体に関しては、例えば下記の化合物が挙げられる:
InP、InSb、InAs、GaP、GaAs、GaSb、GaN、AlN、InN、(Al,Ga)As、(In,Ga)N。
【0029】
I-III-VI族半導体に関しては、例えば下記の化合物が挙げられる:
CuInSe2、CuInS2。
【0030】
IV-VI族半導体に関しては、例えば下記の化合物が挙げられる:
PbS、PbSe、PbTe、SnS、SnSe、SnTe。
【0031】
元素半導体の例としては、Si、Ge又は(例えば「カーボンナノロッド」の形態の)炭素が挙げられる。
【0032】
前記半導体ナノ粒子は、例えば、上記の半導体材料の1種のみを有してよい。電気光学的特性を制御・調節するためには、あるいは半導体ナノ粒子が、第1半導体材料(例えば第1半導体化合物)及び第2半導体材料(例えば第2半導体化合物)が存在するヘテロ構造を有することが好ましいかもしれない。例えば、第1半導体材料は、少なくとも部分的に第2半導体材料に(rod-in-rod又はdot-in-rodヘテロ構造の形態で)囲まれている。例えば、長尺ナノ粒子の両端に第1半導体材料が存在し、両端の間に第2半導体材料が存在する(例えば、ダンベル形状半導体ナノワイヤ)。半導体ナノロッド又はナノワイヤのかかるヘテロ構造は当業者に既知であり;例えば、U.Baninら、Angew.Chem.、2018、130、4354-4376頁を参照されたい。前記半導体ナノ粒子が、第1半導体材料が少なくとも部分的に第2半導体材料に囲まれているヘテロ構造の形態である場合には、第2半導体材料が第1半導体材料よりも大きなバンドギャップを有することが好ましいかもしれない。
【0033】
前記長尺半導体ナノ粒子は、例えば、1nm~50nm、より好ましくは2nm~30nmの範囲の幅を有する。前記長尺半導体ナノ粒子のアスペクト比(すなわち、幅に対する長さの比)は、好ましくは少なくとも1.25である。長尺ナノ粒子のアスペクト比の決定には、ナノ粒子の「最も薄い位置」の幅が使用される。前記半導体ナノロッドは、例えば≦200nm、例えば5nm~200nmの範囲の長さを有する。ナノロッドと比較して、ナノワイヤはより大きな長さを有し、μmレンジ(例えば、最大10μm)であってもよい。ナノロッドの長さと幅は、電子顕微鏡(例えば、走査型又は透過型電子顕微鏡)により測定される。
【0034】
長尺形状のため、単一の長尺半導体ナノ粒子により放射される光は、例えば、偏光依存分光法(polarisationsabhaengige Spektroskopie)により測定される少なくとも0.3の偏光度を有する。
【0035】
長尺半導体ナノ粒子は、市販されているか、又は、当業者に既知の方法により製造することができる。合成は、例えば有機性(好ましくは高沸点の)若しくは水性液体中で、又は、気相反応を介して行うことができる。半導体ナノロッド及びナノワイヤの製造に関する情報は、例えば下記の刊行物中に見出すことができる:
- U.Baninら、Angew.Chem.、2018、130、4354-4376頁;
- P.Yangら、Adv.Mater.、2014、26、2137-2184頁。
【0036】
上記液体中の半導体ナノ粒子の分散性を改善するために、任意で、ナノロッドの表面に有機化合物又はリガンドが存在してよい。これは当業者に既知である。
【0037】
その中に上記半導体ナノ粒子が分散する上記液体は有機化合物を有してよい。上記有機化合物は、好ましくは、25℃において液体である化合物である。この有機化合物は、例えば、脂肪族炭化水素、例えば、アルカン(例えば、C5-12-アルカン、より好ましくはC6-10-アルカン)又はアルケン;芳香族化合物(例えばトルエン);ハロゲン化化合物;アルコール;アミン;エーテル又はエステル、又は、これらの化合物の少なくとも2種の混合物であってよい。ナノ粒子が分散する上記液体が極性有機化合物を有する場合には、水が任意で存在してよい。ナノ粒子が分散する上記液体は、好ましくは5体積%未満の水を有する。なおより好ましくは、上記液体は無水である。
【0038】
ナノ粒子が分散する上記液体は溶融物(例えば溶融ポリマー)であってもよい。
【0039】
半導体ナノ粒子が分散する上記液体は基材の表面に塗布される。以下により詳細に記述するように、上記基材は、ナノロッドの整列に使用される少なくとも2つの電極を有する。
【0040】
上記液体は、当業者に既知の方法により上記基材表面に塗布される。例えば、上記長尺半導体ナノ粒子が分散する上記液体は、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング又はドロップコーティング(drop coating)により塗布される。
【0041】
上記基材は、例えば、プラスチック基材、ガラス基材、酸化シリコンウェハ又はセラミック基材である。あるいは、電極を互いに電気的に絶縁することができる他の材料を用いることも可能である。
【0042】
上記基材の電極は、電圧の印加及び電場の形成後に、上記電場の高い割合が、ナノロッド含有液体が塗布される基材表面と平行に流れるように好ましくは配置される。この目的に適した電極及び電極相互の相対配置は当業者に既知である。
【0043】
例えば、上記電極の少なくとも1つは分岐型電極(すなわち、分岐を有する電極)である。任意で、両方の電極が分岐してもよい。例えば、上記分岐型電極は、シャフトであって、それより2又はそれ以上のフィンガ(Finger)が分岐するシャフトを有する(以下、櫛歯電極とも記載する。)。フィンガの適切な幅及びフィンガ間の適切な距離は、ルーティンで行われる試験により決定することができる。
【0044】
好ましい態様において、上記電極は、相互嵌合電極構造(interdigitierte Elektrodenstruktur)(例えば、互いに噛み合うフィンガを有する2つの櫛歯電極)となるように配置される。あるいは、上記電極は相互に重ね合わせた配置であってよい。上記電極は、それらが接触しないように配置される。上記2つの電極が重ね合わせて配置される場合、例えば、第1電極が上記基材の表面上に存在し、上記第1電極の下に位置する第2電極が上記基材に埋め込まれていてよく;又は、例えば両電極が上記基材中に埋め込まれていてよい。
【0045】
例えば、(例えば相互嵌合電極構造の形態の)上記電極は上記基材の表面上に存在する。この場合、上記電極は塗布された上記ナノ粒子含有液体と接触する。
【0046】
あるいは、1つの電極が上記基材表面上に存在し、従って上記ナノ粒子含有液体と接触し、第2電極が上記基材中に埋め込まれ、従って上記液体と接触しないことも可能である。上記基材表面に存在する上記電極は、好ましくは分岐(例えば櫛様)構造を有する。埋め込まれた上記電極は、例えば、板状であっても又は分岐していてもよい。
【0047】
さらなる例示態様において、上記電極は上記基材に埋め込まれる。電極は、好ましくは上記基材中に完全に埋め込まれ、すなわち、上記電極は上記基材表面の下に位置し、基材表面に塗布される上記ナノ粒子含有液体と接触しない。しかしながら、埋め込まれた上記電極は上記基材表面と平面を形成してもよい。埋め込み電極の使用により、上記ナノ粒子含有液体が塗布される上記基材の表面を平面表面として構成する選択肢が開かれる。以下に記述するように、これは、上記長尺半導体ナノ粒子を、それらが電場中で整列した後に、上記基材の表面から半完成発光ダイオードに直接移送する場合(すなわち、上記整列したナノ粒子が存在する上記基材表面を、半完成LEDの表面と接触させることにより移送を行い、これによりナノ粒子を上記半完成LEDに移送する場合)に有利となり得る。上記基材に埋め込まれた上記電極は、例えば、各場合において、分岐(例えば櫛様)構造を有し、そのため相互嵌合電極構造となるように相互に相対的に配置されてよい。あるいは、上記埋め込み電極は上方電極及び下方電極の形態を取ることも可能であり、上記上方電極は上記下方電極よりも前記基材表面により近い位置にある。上記上方電極、すなわち上記基材表面により近いものは、例えば分岐(例えば櫛様)電極であり、上記下方電極は、例えば、板状又は同様に分岐(例えば櫛様)電極である。
【0048】
電極の形成に適切な材料は当業者に既知である。例えば、上記基材の上記電極は、貴金属(例えば、白金、パラジウム、金又は銀)、銅、チタン、アルミニウム、インジウムスズ酸化物、フッ素ドープ酸化スズ(「FTO」)又は炭素(例えば、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノ粒子)を有する。
【0049】
上記電極に電圧を印加すると、上記電極間に電場が形成される。上記長尺半導体ナノ粒子はこの電場内で整列する。
【0050】
上記電場は、(AC電圧により生成される)AC電場又は(DC電圧により生成される)DC電場であってよい。
【0051】
上記電場は、上記長尺半導体ナノ粒子が十分に均一に整列するまで維持される。例えば、上記電場は、上記液体であって、それにより上記ナノ粒子が上記基材表面に塗布された液体が、本質的に完全に(例えば、上記液体の体積に対して、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の程度まで)蒸発するまで維持される。上記液体が溶融物である場合には、半導体ナノ粒子が十分に均一に整列するまでその溶融状態が維持される。
【0052】
上記長尺半導体ナノ粒子の上記基材の表面上における整列に適切な電場の強度は、ルーティンで行われる試験により当業者が決定することができる。
【0053】
上記電場内におけるナノ粒子の整列は、フォトルミネセンススペクトルを記録すること及び上記スペクトルから決定される偏光度により任意で確認することができる。
【0054】
整列した半導体ナノ粒子は上記基材の表面から半完成発光ダイオードに移送される。
【0055】
上記の移送により、整列した半導体ナノ粒子は上記基材の表面から除かれ、上記半完成LEDの表面にそれらが移送される。
【0056】
上記移送は間接移送でも直接移送でもよい。間接移送の場合、上記電場により整列した上記長尺半導体ナノ粒子は、上記基材の表面から中間担体の表面に移送され、次いで、上記中間担体の表面から上記半完成LEDの表面に移送される。直接移送の場合、上記電場により整列した上記長尺半導体ナノ粒子は、上記基材の表面から直接的に(すなわち中間担体を使用することなく)上記半完成LEDの表面に移送される。
【0057】
上記間接移送は通常下記の工程を有する:
(i) 前記中間担体の表面を、前記基材表面上に存在する前記整列した半導体ナノ粒子と接触させる工程;
(ii) 前記半導体ナノ粒子の少なくとも一部が前記中間担体の表面上に残っている状態で、前記中間担体が前記基材から除かれる工程;
(iii) 前記ナノ粒子が存在する前記中間担体の表面を、前記半完成LEDの表面と接触させる工程;
(iv) 前記半導体ナノ粒子の少なくとも一部が前記半完成LEDの表面上に残っている状態で、前記中間担体が前記半完成LEDから除かれる工程。
【0058】
間接移送のための適切な中間担体は当業者に既知である。例えば、上記中間担体は、スタンプ、熱脱離粘着テープ(熱剥離テープとも呼ばれる。)又はポリマーフィルムである。
【0059】
上記スタンプの接触表面は、例えばエラストマー、例えばPDMS等のポリシロキサンから製造される(エラストマースタンプ)。第1表面から標的表面への材料の移送のためのかかるスタンプは、当業者に既知である。
【0060】
移送を行う接触圧、温度及び/又は角度を変えることにより、移送工程を最適化することができる。当業者はルーティンの試験により適切なパラメータを決定することができる。
【0061】
熱脱離粘着テープは室温で強い粘着性を示し、移送完了に際し加熱することにより再び脱離させることができる。かかる熱脱離粘着テープは市販されている。
【0062】
間接移送は例えば次のように行うこともできる。すなわち、ポリマーフィルム(例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル又はポリメタクリル酸メチルのフィルム、又は、セルロース又はアセチルセルロース等の天然ポリマーのフィルム)を、前記基材表面に存在する前記整列したナノ粒子上に形成し、上記ポリマーフィルムを、粘着したナノ粒子とともに前記基材表面から除き、次いで前記半完成LEDの表面と接触させ、上記ポリマーフィルムを除くと、前記ナノ粒子は前記半完成LEDの表面上に残る。
【0063】
直接移送において、例えば、整列したナノ粒子が存在する上記基材の表面が上記半完成LEDの表面と接触し、次いで、前記半導体ナノ粒子の少なくとも一部が上記半完成LEDの表面上に残っている状態で、上記基材が上記半完成LEDから除かれる。移送を行う接触圧、温度及び/又は角度を変えることにより、移送工程を最適化することができる。当業者はルーティンの試験により適切なパラメータを決定することができる。上記基材表面から上記半完成LEDの表面への整列したナノ粒子の直接移送において、中間担体は不要である。
【0064】
直接移送のさらなる例示的変形において、複数の層を、上記基材の表面上に存在する整列した半導体ナノ粒子に塗布し、これらの層は上記半完成発光ダイオードを形成するものであり、次いで、前記整列した半導体ナノ粒子の少なくとも一部が上記半完成発光ダイオードの表面上に残っている状態で、上記基材が上記半完成LEDから除かれる。
【0065】
半完成LEDとは、LEDの構成要素を既に有するが、作動可能なLEDを得るためには、そこになお1又は2以上の構成要素を加える必要がある素子を意味するものとする。
【0066】
例えば、半完成LEDは1又は2以上の下記のLED構成要素を有する:電子輸送層(ETL)、正孔輸送層(HTL)、電子注入層(EIL)、正孔注入層(HIL)、カソード、アノード。
【0067】
発光ダイオードのこれらの構成要素に適切な材料は当業者に既知である。例えば、US2019/165291A1(段落[0083]~[0088])中に特定される材料を参照してもよい。
【0068】
正孔輸送層及び/又は正孔注入層は、例えば1又は2種以上の下記の化合物を有してよい:ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホナート(PEDOT/PSS)、ポリチオフェン、ポリアニリン、トリ[4-(5-フェニル-2-チエニル)フェニル]アミン、4,4’,4’’-トリ[2-ナフチル(フェニルアミノ)]トリフェニルアミン(2-TNATA)、4,4’,4’’-トリ(3-メチルフェニルアニリノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、Cu-フタロシアニン(CuPc)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ジフェニル-4,4’-ジアミン(TPD)、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化クロム、硫化モリブデン、硫化タングステン、セレン化モリブデン、セレン化タングステン、グラフェンオキシド、ポリビニルカルバゾール又はポリトリフェニルアミン。
【0069】
電子輸送層は、例えば無機酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、Al-Zn酸化物、Zn-Sn酸化物若しくはIn-Sn酸化物、又は、有機化合物、例えばトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウムを有する。
【0070】
電子注入層は、例えば1又は2種以上の下記の化合物を有する:LiF、(8-ヒドロキシキノリン)リチウム、アルカリ金属酸化物(例えば、酸化リチウム又はリチウムボロキシド)、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属フッ化物。
【0071】
例えば、移送された半導体ナノ粒子は、電子輸送層(ETL)又は正孔輸送層(HTL)又は半完成LED上に存在する。
【0072】
上記半完成LEDに移送された整列した半導体ナノ粒子は、最終LED内で偏光を放射するエレクトロルミネセンスエミッタ層として機能する。上記長尺ナノ粒子の非常に均一な整列により、放射された偏光は非常に高い偏光度を有する。
【0073】
半導体ナノ粒子が移送された後に、欠けているLED構成要素が半完成ナノ粒子含有製品に加えられる。加えられる構成要素は、例えば、1又は2以上の下記の構成要素であってよい(これらがナノ粒子移送の前に半完成LED中に存在しない場合):電子輸送層(ETL)、正孔輸送層(HTL)、電子注入層(EIL)、正孔注入層(HIL)、カソード、アノード。
【0074】
上記長尺半導体ナノ粒子は、上記基材の表面上の電場内で整列した後に、基材表面から半完成LEDの表面に移送されるため、本発明の方法により、整列用基材がもはやLED中に存在しないLEDが得られる。
【0075】
例示態様において、上記半完成LEDは、少なくとも正孔輸送層及びアノード及び任意で正孔注入層を有し、移送された半導体ナノ粒子は正孔輸送層上に存在し、移送後になお加えられるべき構成要素には、少なくとも電子輸送層及びカソード及び任意で電子注入層が含まれる。さらなる例示態様において、上記半完成LEDは、少なくとも電子輸送層及びカソード及び任意で電子注入層を有し、移送された半導体ナノ粒子は電子輸送層上に存在し、移送後になお加えられるべき構成要素には、少なくとも正孔輸送層及びアノード及び任意で正孔注入層が含まれる。
【0076】
本発明はまた、エミッタ層であって、長尺半導体ナノ粒子がその中に存在するエミッタ層を有する発光ダイオードに関し、上記長尺半導体ナノ粒子によりエレクトロルミネセンスを介して放射された光は、偏光依存分光法により測定される少なくとも0.35の偏光度を有する。
【0077】
上記偏光は好ましくは線形偏光である。
【0078】
偏光度PGは下記の関係式から求められる:
【数1】
【0079】
エレクトロルミネセンススペクトルは25℃で記録する。ピークの強度はピーク面積から決定する。
【0080】
例えば、偏光度は0.35~0.80である。
【0081】
上記長尺半導体ナノ粒子の好ましい特性に関しては、本発明の方法の記述において先に記載した詳細を参照してよい。上記ナノ粒子の表面に存在する適切なリガンドの選択により、上記長尺ナノ粒子の整列特性をさらに最適化することができる。
【0082】
本発明のLEDは、さらなる構成要素として、少なくとも2つの電極(カソード及びアノード)をさらに有する。上記LEDは、1又は2以上の下記の構成要素を任意で有する:電子輸送層(ETL)、正孔輸送層(HTL)、電子注入層(EIL)、正孔注入層(HIL)。発光ダイオードのこれらの機能層に適切な材料に関しては、先の記述を参照してよい。
【0083】
本発明のLEDは、好ましくは、上記の方法により得ることができるLEDである。
【0084】
本発明を、以下の実施例を参照してより詳細に記述する。
【実施例】
【0085】
半導体ナノロッドの分散液を、ドロップコーティングにより電極を有する基材に塗布した。半導体ナノロッドはCdSe/CdSdot-in-rod粒子である。このナノ粒子はCdSeナノ粒子上で長尺CdS構造を成長させることにより製造した。上記半導体ナノロッドは、(30+/-5)nmの長さ及び(4.4+/-0.8)nmの直径を有していた。上記基材はガラス基材であった。
【0086】
上記2つの電極(Au/Ti)は櫛形であり、上記基材の表面に、相互嵌合電極構造となるように相互に相対的に配置された。上記電極の高さは約50nm(約10nmのTi結合層上に約40nmのAu)であった。
【0087】
塗布後、上記電極をまず上記液体で完全に覆った。AC電場を上記電極に印加した(振幅:5-7.5V/μm)。液体が蒸発した後、電場を除いた。
【0088】
電場の印加の結果として、上記半導体ナノロッドは上記基材上に整列した。
【0089】
図1は、電場の上記電極への印加により基材上に整列した半導体ナノロッドの光電子スペクトルを示す。スペクトルは青色光(~450nm)による励起下で平行及び直行偏光方向にて記録した。0.4の偏光度PGが光電子スペクトルより確認された。
【0090】
中間担体として機能する熱脱離粘着テープを用いて、整列した半導体ナノロッドの層を上記基材の表面から除いた。
【0091】
その後、上記整列用基材から除いた上記ナノ粒子層を半完成LEDの表面に移送した。この目的のために、上記熱脱離粘着テープに粘着した半導体ナノロッドの層を上記半完成LEDの上層と接触させた。150℃に加熱した結果、上記ナノ粒子層が上記熱脱離粘着テープから脱離し、上記テープが除かれた。上記半完成LEDの上層は、ポリビニルカルバゾールを有する正孔輸送層(HTL)であった。上記半完成LEDはまた、ガラス基材上に存在するインジウムスズ酸化物電極及び正孔注入層(HIL)を有していた。正孔注入層はポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホナート(PEDOT:PSS)を含有するものであった。
【0092】
ナノロッドの移送の完了後、作動可能なLEDの完成のためになおかけている構成要素を加えた。この目的のために、電子輸送層としてのZnOナノ粒子及びアルミニウムカソード(厚さ約200nm)を、整列したナノロッドを有する半完成LEDに塗布した。
【0093】
最終LEDにおいて、整列した半導体ナノロッドはエミッタ層として機能する。偏光度の決定のために、エミッタ層内の上記長尺半導体ナノ粒子の平行偏光方向(paralleler Polarisationsrichtung)にて記録したエレクトロルミネセンスの総強度、及び、エミッタ層内の上記長尺半導体ナノ粒子の直行偏光方向(orthogonaler Polarisationsrichtung)にて記録したエレクトロルミネセンスの総強度を測定した。偏光度
【数2】
【0094】
は0.4であった。測定したスペクトルを
図2に示す。従って、本発明の方法は、作動時に非常に高い偏光度を有するLEDを提供する。上記長尺半導体ナノ粒子は、上記基材の表面の電場内で整列した後、基材表面から半完成LEDの表面に移送されたため、本発明の方法は、整列用基材をもはや有さないLEDを提供する。従って、LEDの作動に不要な構成要素の組み込みが回避される。