(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】燃料電池触媒用炭素系担体、これを含む触媒、これを含む膜電極アセンブリー、及びこれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20240110BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20240110BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240110BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240110BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240110BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240110BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240110BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/96 M
B01J32/00
B01J35/10 301G
B01J37/08
C01B32/05
H01M4/88 K
H01M4/90 M
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2022529557
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 KR2021013006
(87)【国際公開番号】W WO2022085963
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】10-2020-0136421
(32)【優先日】2020-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【氏名又は名称】相田 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100199004
【氏名又は名称】服部 洋
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンホ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュンヨン
(72)【発明者】
【氏名】ソン カヨン
(72)【発明者】
【氏名】コン ナコン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュソン
(72)【発明者】
【氏名】ナム キョンシク
(72)【発明者】
【氏名】パク チャンミ
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012627(JP,A)
【文献】国際公開第2018/182048(WO,A1)
【文献】特表2017-524634(JP,A)
【文献】特開2015-042614(JP,A)
【文献】特表2021-535064(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/039268(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0028169(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/96
B01J 32/00
B01J 35/10
B01J 37/08
C01B 32/05
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池触媒用炭素系担体(carbon-based support)であって、
前記炭素系担体はソリッドタイプ(solid type)の担体であり、
前記炭素系担体は、100~450m
2/gの外表面積(external surface area)、0.25~0.65cm
3/gのメソ細孔容積(mesopore volume)、及び0.01~0.05cm
3/gの微小孔容積(micropore volume)を有する(前記外表面積、前記メソ細孔容積、及び前記微小孔容積のそれぞれは無作為に取られた5個のサンプルからBET(Brunauer-Emmett-Teller)分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて得た測定値の算術平均である)、
炭素系担体。
【請求項2】
前記炭素系担体は、150~600m
2/gのBET表面積(BET surface area)を有する(前記BET表面積は無作為に取られた5個のサンプルから前記BET分析器を用いて得た測定値の算術平均である)、
請求項1に記載の炭素系担体。
【請求項3】
前記炭素系担体は、XRD分析によって得られる(002)ピークを用いてブラッグの法則(Bragg’s law)によって算出されるd-spacing値が3.38~3.62Åである、
請求項1に記載の炭素系担体。
【請求項4】
前記炭素系担体はアセチレンブラック担体である、
請求項1に記載の炭素系担体。
【請求項5】
請求項1に記載の炭素系担体と、
前記炭素系担体上に分散されている触媒金属粒子(catalytic metal particles)とを含む、
触媒。
【請求項6】
アノード(anode)と、
カソード(cathode)と、
前記アノードと前記カソードとの間の高分子電解質膜と、
を含み、
前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方は請求項5に記載の触媒を含む、
膜電極アセンブリー。
【請求項7】
ソリッドタイプの炭素系未処理担体(carbon-based raw support)を準備する段階と、
前記未処理担体を、前記熱処理によって活性化した担体が下記の式1~3を満たすように熱処理する段階と、
を含む、
炭素系担体の製造方法。
[式1]
S
EX_AS≧S
EX_RS×3
[式2]
V
MESO_AS≧V
MESO_RS×1.2
[式3]
V
MICRO_AS≦V
MICRO_RS×1.1
ここで、S
EX_ASは前記活性化した担体の外表面積、S
EX_RSは前記未処理担体の外表面積、V
MESO_ASは前記活性化した担体のメソ細孔容積、V
MESO_RSは前記未処理担体のメソ細孔容積、V
MICRO_ASは前記活性化した担体の微小孔容積、V
MICRO_RSは前記未処理担体の微小孔容積であり、
前記外表面積、前記メソ細孔容積、及び前記微小孔容積のそれぞれは無作為に取られた5個のサンプルからBET分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて得られた測定値の算術平均である。
【請求項8】
前記熱処理段階は、前記活性化した担体が下記の式4をもっと満たすように遂行する、
請求項7に記載の炭素系担体の製造方法。
[式4]
S
BET_AS≧S
BET_RS×2
ここで、S
BET_ASは前記活性化した担体のBET表面的、S
BET_RSは前記未処理担体のBET表面積であり、
前記BET表面積は、無作為に取られた5個のサンプルから前記BET分析器を用いて得た測定値の算術平均である。
【請求項9】
前記熱処理段階は、前記活性化した担体が下記の式5及び式6をもっと満たすように遂行する、
請求項7に記載の炭素系担体の製造方法。
[式5]
DS
AS≦DS
RS×1.1
[式6]
I
AS≧I
RS×0.5
ここで、DS
ASは前記活性化した担体のXRD分析によって得られる(002)ピークを用いてブラッグの法則(Bragg’s law)によって算出されるd-spacing値、DS
RSは前記未処理担体のXRD分析によって得られる(002)ピークを用いてブラッグの法則によって算出されるd-spacing値、I
ASは前記活性化した担体のXRD分析によって得られる(002)ピークの強度(intensity)、I
RSは前記未処理担体のXRD分析によって得られる(002)ピークの強度である。
【請求項10】
前記熱処理段階に先立ち、
前記未処理担体に対する熱重量分析(Thermogravimetric analysis)を遂行する段階と、
前記熱重量分析の結果から、20重量%の重量減少が発生した第1温度を把握する段階と、
をさらに含み、
前記熱処理段階は、空気(air)中で下記の式7を満たす第2温度で遂行する、
請求項7に記載の炭素系担体の製造方法。
[式7]
T
1-40℃≦T
2≦T
1+40℃
ここで、T
1は前記第1温度、T
2は前記第2温度である。
【請求項11】
前記熱処理段階は0.5~8時間遂行する、
請求項10に記載の炭素系担体の製造方法。
【請求項12】
前記未処理担体はアセチレンブラックを含む、
請求項7に記載の炭素系担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池触媒用炭素系担体、これを含む触媒、これを含む膜電極アセンブリー、及びこれを製造する方法に関し、より具体的には、ソリッドタイプ(solid type)特有の優れた耐久性を有しながらも、多孔性タイプ(porous type)に劣らず、触媒活性を増加させることができる炭素系担体、これを含む触媒、これを含む膜電極アセンブリー、及びこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電極アセンブリー(Membrane-Electrode Assembly:MEA)とセパレーター(separator)[‘バイポーラプレート(bipolar plate)’とも言う]とからなる単位セル(unit cell)の積層構造を用いて電気を発生させる高分子電解質膜燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell:PEMFC)は高いエネルギー効率性及び環境に優しい特徴によって化石エネルギーを代替することができる次世代エネルギー源として注目されている。
前記膜電極アセンブリーは、一般的にアノード(anode)(‘燃料極’ともいう)、カソード(cathode)(‘空気極’ともいう)、及びこれらの間の高分子電解質膜(polymer electrolyte membrane)を含む。
水素ガスのような燃料がアノードに供給されれば、アノードでは水素の酸化反応によって水素イオン(H+)と電子(e-)とが生成される。生成された水素イオンは高分子電解質膜を介してカソードに伝達され、生成された電子は外部回路を介してカソードに伝達される。カソードに供給される酸素が前記水素イオン及び前記電子と結合して還元することにより水が生成される。
【0003】
膜電極アセンブリーの電極形成のために使用される触媒の活性表面積を増加させるための努力の一環として、電気伝導性を有する炭素系担体の表面上に触媒金属粒子(catalytic metal particles)を分散させた触媒が開発された。
このような炭素系担体は、ソリッドタイプの担体[例えば、アセチレンブラック(acetylene black)]、及び多孔性タイプの担体[例えば、ファーネスブラック(furnace black)]に分類されることができる。
ソリッドタイプの担体は、多孔性タイプの担体に比べて優れた耐久性を有する反面、相対的に小さい比表面積を有する。担体の小さい比表面積は、その上に噴射される触媒金属粒子の数を制限し、よって触媒の活性表面積を増加させるのに限界がある。
このような限界を克服するために、ソリッドタイプの炭素系担体の比表面積を増加させるための研究が遂行されている。例えば、ソリッドタイプの炭素系担体の比表面積を増加させるための一つの方案として、韓国公開特許第10-2012-0021408号公報(以下、“先行技術”)は前記担体を水蒸気雰囲気で熱処理することを提案している。しかし、このような方式で熱処理された担体からは満足な活性表面積を有する触媒を製造することができなかった。
【0004】
先行技術の技術的限界の原因を明かすための研究を繰り返えした結果、前記先行技術に提案された熱処理方式は、担体の微小孔(micropores)及びメソ細孔(mesopores)全部の表面積及び容積をかなり増加させることはできるが、メソ細孔(mesopores)の表面積及び容積のみを選択的に増加させることはできないことを見つけた。ここで、前記メソ細孔は2~50nmの孔径を有する細孔を意味し、前記微小孔は2nm未満の孔径を有する細孔を意味する。
しかし、一般的に、触媒金属粒子を担体上に分散させるとき、メソ細孔に入った触媒金属粒子は触媒活性にある程度に貢献することができる反面、微小孔に入った触媒金属粒子は触媒活性に対する貢献度がほとんどないか極めて小さい。また、微小孔に比べて、メソ細孔が触媒の物質伝達能力をよりよく改善させることができる。これは、前記先行技術の方式で熱処理された(すなわち、メソ細孔よりは微小孔が増加した)ソリッドタイプの炭素系担体が十分な活性表面積及び優れた物質伝達能力を有する触媒を提供することができない理由である。
したがって、微小孔よりはメソ細孔のみを選択的に増加させることができるソリッドタイプの炭素系担体の熱処理条件を捜し出すことが何よりも重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明はこのような関連技術の制限及び欠点に起因した問題点を防止することができる燃料電池触媒用炭素系担体、これを含む触媒、これを含む膜電極アセンブリー、及びこれを製造する方法に関するものである。
本発明の一観点は、ソリッドタイプ担体特有の優れた耐久性を有しながらも、増加した表面積及び容積のメソ細孔によって、多孔性タイプ担体に劣らず、触媒活性を増加させることができる燃料電池触媒用炭素系担体を提供することである。
本発明の他の観点は、優れた耐久性を有するだけでなく担体の増加したメソ細孔によって触媒金属粒子の分散度が向上することにより、高触媒活性を有する燃料電池用触媒を提供することである。
本発明のさらに他の観点は、高耐久性だけでなく優れた性能を有する膜電極アセンブリーを提供することである。
本発明のさらに他の観点は、ソリッドタイプ担体特有の優れた耐久性を有しながらも、増加した表面積及び容積のメソ細孔によって、多孔性タイプ担体に劣らず、触媒活性を増加させることができる燃料電池触媒用炭素系担体を製造する方法を提供することである。
以上で言及した本発明の観点の他にも、本発明の他の特徴及び利点が以下で説明され、そのような説明から本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に明確に理解可能であろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような本発明の一観点によれば、前記炭素系担体はソリッドタイプ(solid type)の担体であり、100~450m2/gの外表面積(external surface area)、0.25~0.65cm3/gのメソ細孔容積(mesopore volume)、及び0.01~0.05cm3/gの微小孔容積(micropore volume)を有する燃料電池触媒用炭素系担体が提供される。前記外表面積、前記メソ細孔容積、及び前記微小孔容積のそれぞれは無作為に取られた5個のサンプルからBET(Brunauer-Emmett-Teller)分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて得た測定値の算術平均である。
前記炭素系担体は、150~600m2/gのBET表面積を有することができる。前記BET表面積は無作為に取られた5個のサンプルから前記BET分析器を用いて得た測定値の算術平均である。
前記炭素系担体は、XRD分析によって得られる(002)ピークを用いてブラッグの法則(Bragg’s law)によって算出されるd-spacing値が3.38~3.62Åであることができる。
前記炭素系担体はアセチレンブラック担体であってもよい。
本発明の他の観点によれば、前記炭素系担体と、前記炭素系担体上に分散されている触媒金属粒子(catalytic metal particles)とを含む触媒が提供される。
【0007】
本発明のさらに他の観点によれば、アノード(anode)と、カソード(cathode)と、前記アノードと前記カソードとの間の高分子電解質膜とを含み、前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方は前記触媒を含む膜電極アセンブリーが提供される。
本発明のさらに他の観点によれば、ソリッドタイプの炭素系未処理担体(carbon-based raw support)を準備する段階と、前記未処理担体を、前記熱処理によって活性化した担体が下記の式1~3を満たすように熱処理する段階とを含む炭素系担体の製造方法が提供される。
[式1]
SEX_AS≧SEX_RS×3
[式2]
VMESO_AS≧VMESO_RS×1.2
[式3]
VMICRO_AS≦VMICRO_RS×1.1
ここで、SEX_ASは前記活性化した担体の外表面積、SEX_RSは前記未処理担体の外表面積、VMESO_ASは前記活性化した担体のメソ細孔容積、VMESO_RSは前記未処理担体のメソ細孔容積、VMICRO_ASは前記活性化した担体の微小孔容積、VMICRO_RSは前記未処理担体の微小孔容積であり、
【0008】
前記外表面積、前記メソ細孔容積、及び前記微小孔容積のそれぞれは無作為に取られた5個のサンプルからBET分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて得られた測定値の算術平均である。
前記熱処理段階は、前記活性化した担体が下記の式4をもっと満たすように遂行することができる。
[式4]
SBET_AS≧SBET_RS×2
ここで、SBET_ASは前記活性化した担体のBET表面的、SBET_RSは前記未処理担体のBET表面積である。
【0009】
前記BET表面積は、無作為に取られた5個のサンプルから前記BET分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて得た測定値の算術平均である。
前記熱処理段階は、前記活性化した担体が下記の式5及び式6をもっと満たすように遂行することができる。
[式5]
DSAS≦DSRS×1.1
[式6]
IAS≧IRS×0.5
ここで、DSASは前記活性化した担体のXRD分析によって得られる(002)ピークを用いてブラッグの法則(Bragg’s law)によって算出されるd-spacing値、DSRSは前記未処理担体のXRD分析によって得られる(002)ピークを用いてブラッグの法則によって算出されるd-spacing値、IASは前記活性化した担体のXRD分析によって得られる(002)ピークの強度(intensity)、IRSは前記未処理担体のXRD分析によって得られる(002)ピークの強度である。
【0010】
炭素系担体の製造方法は、前記熱処理段階に先立ち、前記未処理担体に対する熱重量分析(Thermogravimetric analysis)を遂行する段階と、前記熱重量分析の結果から、20重量%の重量減少が発生した第1温度を把握する段階とをさらに含むことができ、前記熱処理段階は、空気(air)中で下記の式7を満たす第2温度で遂行することができる。
[式7]
T1-40℃≦T2≦T1+40℃
ここで、T1は前記第1温度、T2は前記第2温度である。
前記未処理担体はアセチレンブラックを含むことができる。
このような本発明についての一般的敍述は本発明を例示するか説明するためのものであるだけで、本発明の権利範囲を限定しない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ソリッドタイプの炭素系担体を、触媒活性の増加に有意に貢献することができるメソ細孔の表面積及び容積が微小孔の表面積及び容積より多く増加することができるようにする特定の条件下で熱処理することにより、ソリッドタイプ担体特有の優れた耐久性を有しながらも、多孔性タイプ担体に劣らず、触媒活性を増加させることができる炭素系担体を提供することができる。
また、本発明によれば、優れた耐久性だけでなく高い触媒活性を有する燃料電池用触媒を提供することができる。
また、本発明によれば、高耐久性だけでなく優れた性能を有する膜電極アセンブリーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
添付図面は本発明の理解を助けてこの明細書の一部を構成するためのものであり、本発明の実施例を例示し、発明の詳細な説明とともに本発明の原理を説明する。
【
図1】3種の未処理アセチレンブラック担体の熱重量分析(TGA)結果を示すグラフである。
【
図2】未処理アセチレンブラック担体及び実施例1のXRDグラフである。
【
図3】未処理アセチレンブラック担体及び実施例1の活性化したアセチレンブラック担体のそれぞれのBET等温曲線を示すグラフである。
【
図4】未処理アセチレンブラック担体及び実施例1の活性化したアセチレンブラック担体のそれぞれの細孔分布曲線を示すグラフである。
【
図5】(a)及び(b)は実施例1の活性化したアセチレンブラック担体から製造された触媒の透過電子顕微鏡(TEM)写真及び高解像度透過電子顕微鏡(HR-TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。ただ、以下で説明する実施例は本発明の明確な理解を助けるための例示的目的で提示するものであるだけで、本発明の範囲を制限しない。
本発明の燃料電池用炭素系担体は基本的にソリッドタイプの担体である。本発明の一実施例によれば、前記ソリッドタイプの炭素系担体は、球形(sphere shape)、多面形(polyhedral shape)、及び卵型(egg shape)からなる群から選択されるいずれか一形態を有することができる。
前述したように、アセチレンブラックのようなソリッドタイプの担体は、ファーネスブラックのような多孔性タイプの担体に比べて優れた耐久性を有する反面、相対的に小さい比表面積を有する。
【0014】
ここで、“ソリッドタイプの担体”はBET測定方法で測定した外表面積及び微小孔容積がそれぞれ450m2/g以下及び0.05cm3/g以下の担体と定義され、“多孔性タイプの担体”はBET測定方法で測定した外表面積及び微小孔容積がそれぞれ450m2/g超過及び0.05cm3/g超過の担体と定義される。
本発明によれば、ソリッドタイプの炭素系担体を、触媒活性の増加に有意に貢献することができるメソ細孔の表面積及び容積が微小孔の表面積及び容積より多く増加することができるようにする(または、メソ細孔の表面積及び容積のみを選択的に実質的に増加させることができる)特定の条件下で熱処理することにより、ソリッドタイプ担体特有の優れた耐久性を有しながらも、多孔性タイプ担体に劣らず、触媒活性を増加させることができる炭素系担体を提供することができる。前述したように、前記メソ細孔は2~50nmの孔径を有する細孔を意味し、前記微小孔は2nm未満の孔径を有する細孔を意味する。
具体的には、本発明の炭素系担体の製造方法は、ソリッドタイプの炭素系未処理担体(例えば、アセチレンブラック)を準備する段階、及び前記未処理担体を特定の条件下で熱処理する段階を含む。
前記特定条件は前記熱処理によって活性化した担体が下記の式1~3を満たすようにする条件である。
[式1]
SEX_AS≧SEX_RS×3
[式2]
VMESO_AS≧VMESO_RS×1.2
[式3]
VMICRO_AS≦VMICRO_RS×1.1
ここで、SEX_ASは前記活性化した担体の外表面積、SEX_RSは前記未処理担体の外表面積、VMESO_ASは前記活性化した担体のメソ細孔容積、VMESO_RSは前記未処理担体のメソ細孔容積、VMICRO_ASは前記活性化した担体の微小孔容積、VMICRO_RSは前記未処理担体の微小孔容積である。
【0015】
すなわち、本発明の製造方法によれば、主にメソ細孔によって決定される担体の外表面積(SEX)が前記熱処理によって3倍以上増加し、担体のメソ細孔容積(VMESO)は前記熱処理によって1.2倍以上増加し、担体の微小孔容積(VMICRO)は1.1倍以下にだけ増加する。
具体的には、前記特定の条件下で熱処理された本発明の炭素系担体は、100~450m2/gの外表面積(SEX_AS)、0.25~0.65cm3/gのメソ細孔容積(VMESO_AS)、及び0.01~0.05cm3/gの微小孔容積(VMICRO_AS)を有する。
前記熱処理のための特定の条件は前記熱処理によって活性化した担体が下記の式4をもっと満たすようにする条件であることができる。
[式4]
SBET_AS≧SBET_RS×2
ここで、SBET_ASは前記活性化した担体のBET表面的、SBET_RSは前記未処理担体のBET表面的である。
【0016】
すなわち、本発明の一実施例による製造方法によれば、担体のBET表面積(SBET)は前記熱処理によって2倍以上増加することはするが、前記外表面積(SEX)の増加程度よりは不十分に増加することが好ましい。
例えば、前記特定の条件下で熱処理された本発明の一実施例による炭素系担体は、150~600m2/gのBET表面積(SBET_AS)を有することができる。
本発明で、前記外表面積(SEX)、前記メソ細孔容積(VMESO)、前記BET表面積(SBET)、及び前記微小孔容積(VMICRO)のそれぞれは、無作為に取られた5個のサンプルからBET分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて得た測定値の算術平均である。前記BET分析によれば、サンプルにガス(一般的に、窒素)を吸着させた後、BET(Brunauer-Emmett-Teller)理論に基づいて前記サンプルの前記物理的特性を測定する。
前記熱処理のための特定の条件は、前記熱処理によって活性化した担体が下記の式5及び式6をもっと満たすようにする条件であることができる。
[式5]
DSAS≦DSRS×1.1
[式6]
IAS≧IRS×0.5
ここで、DSASは前記活性化した担体のXRD分析によって得られる(002)ピークを用いてブラッグの法則(Bragg’s law)によって算出されるd-spacing値、DSRSは前記未処理担体のXRD分析によって得られる(002)ピークを用いてブラッグの法則によって算出されるd-spacing値、IASは前記活性化した担体のXRD分析によって得られる(002)ピークの強度(intensity)、IRSは前記未処理担体のXRD分析によって得られる(002)ピークの強度である。
【0017】
例えば、前記XRD分析は下記の条件下でShimadzu社のXRD分析器(XRD-7000)によって遂行することができる。
-X-rayソース:Cu-Kα(波長=1.54056Å)
-電圧:40kV
-電流:30mA
すなわち、本発明の一実施例による製造方法によれば、前記未処理担体のd-spacing値(DSRS)は3.2997~4.2269Åであることができ、前記d-spacing値(DSRS)は前記熱処理によって多くとも10%程度のみ増加することが好ましい。また、前記未処理担体の(002)ピーク強度(IRS)は前記熱処理によって多くとも50%程度のみ減少することが好ましい。
例えば、前記特定の条件下で熱処理された本発明の炭素系担体は、前記条件でXRD分析を遂行する場合、3.38~3.62Åのd-spacing値(DSAS)を有することができる。
上述した熱処理条件(等)を満たすためには、何よりも前記熱処理を空気(air)中で遂行する必要がある。
【0018】
前述したように、仮に水蒸気雰囲気で熱処理を遂行すれば、メソ細孔の表面積及び容積だけでなく微小孔の表面積及び容積も急激に増加する。前述したように、触媒金属粒子を担体上に分散させるとき、メソ細孔に入った触媒金属粒子は触媒活性にある程度に貢献することができる反面、微小孔に入った触媒金属粒子は触媒活性に対する貢献度がほとんどないか極めて小さい。よって、このような微小孔の表面積及び容積の増加はメソ細孔の表面積及び容積増加による触媒活性増加を相殺させる。結果的に、水蒸気雰囲気で熱処理される担体からは、満足な活性表面積を有する触媒を製造することができない。
一方、非活性気体雰囲気で熱処理を遂行する場合には、担体の細孔を活性化させる効果が低いという問題がある。よって、非活性気体雰囲気で熱処理される担体も十分な外表面積(SEX)及びメソ細孔容積(VMESO)を有することができない。
上述した熱処理条件(等)を満たすのに熱処理温度も重要な(critical)工程因子の一つである。これは、前記未処理担体の種類または物性によって決定されなければならない工程因子である。
【0019】
したがって、本発明の方法は、前記熱処理段階の先立ち、前記未処理担体の種類及び/または物性に基づいて熱処理温度を決定する段階をさらに含むことができる。より具体的には、本発明の方法は、前記熱処理段階に先立ち、前記未処理担体に対する熱重量分析(Thermogravimetric analysis)(TGA)を遂行する段階、及び前記熱重量分析の結果から20重量%の重量減少(weight loss)が発生した第1温度を把握する段階をさらに含むことができる。このように把握された前記第1温度に基づいて下記の式7を満たす第2温度で本発明の熱処理を遂行することができる。
[式7]
T
1-40℃≦T
2≦T
1+40℃
ここで、T
1は前記第1温度、T
2は前記第2温度である。
3種の未処理アセチレンブラック担体の熱重量分析(TGA)結果を示すグラフである
図1に示すように、20重量%の重量減少が発生する地点(point)から急激な重量減少が観察され、20重量%の重量減少が現れる第1温度(T
1)は未処理アセチレンブラック担体の種類別に著しい差がある。すなわち、
図1の例で、Aタイプの未処理アセチレンブラック担体の第1温度(T
1)は約500℃、Bタイプの未処理アセチレンブラック担体の第1温度(T
1)は約519℃、Cタイプの未処理アセチレンブラック担体の第1温度(T
1)は約477℃である。
前述したように、本発明の熱処理温度である前記第2温度(T
2)はT
1±40℃の範囲の温度であることができ、より具体的にはT
1±20℃の範囲の温度であることができる。熱処理温度である前記第2温度(T
2)がT
1+40℃を超えれば、炭素の酸化が進行してメソ細孔の表面積及び容積だけでなく微小孔の表面積及び容積も急激に増加する。一方、熱処理温度である前記第2温度(T
2)がT
1-40℃未満であれば、熱処理効果が小さくてメソ細孔表面積及び容積の十分な増加を期待することができない。
本発明の一実施例によれば、前記熱処理は前記第2温度(T
2)で0.5~8時間遂行することができる。
前記熱処理によって得られる本発明のソリッドタイプの炭素系担体上に触媒金属粒子を通常の方法で分散させることにより本発明の触媒が得られる。
【0020】
前記触媒金属粒子は白金または白金系合金を含むことができる。前記白金系合金は、(i)Pt-Co、Pt-Pd、Pt-Mn、Pt-Sn、Pt-Mo、Pt-Cr、Pt-W、Pt-Ir、Pt-Ru、Pt-Ni、Pt-Feなどの2元合金(binary alloy)、(ii)Pt-Ru-W、Pt-Ru-Ni、Pt-Ru-Mo、Pt-Ru-Ir、Pt-Co-Mn、Pt-Co-Ni、Pt-Co-Fe、Pt-Co-Ir、Pt-Co-S、Pt-Co-P、Pt-Fe-Ir、Pt-Fe-S、Pt-Fe-P、Pt-Au-Co、Pt-Au-Fe、Pt-Au-Ni、Pt-Ni-Ir、Pt-Cr-Irなどの3元合金(ternary alloy)、または(iii)Pt-Ru-Rh-Ni、Pt-Ru-Sn-W、Pt-Ru-Ir-Niなどの4元合金(quaternary alloy)であることができるが、これらに限定されるものではない。
前述したように、ソリッドタイプの未処理炭素系担体を、触媒活性の増加に有意に貢献することができるメソ細孔の表面積及び容積が微小孔の表面積及び容積より多く増加することができるようにする特定の条件下で熱処理することによって得られる本発明の炭素系担体は、ソリッドタイプ担体特有の優れた耐久性を有しながらも、多孔性タイプ担体に劣らず、触媒活性を増加させることができる。したがって、このような本発明の炭素系担体上に触媒金属粒子を分散させることによって得られる本発明の燃料電池用触媒は優れた耐久性だけでなく高触媒活性を有することができる。
【0021】
以下では、本発明の触媒を用いて電極及びこれを含む膜電極アセンブリーを形成する方法を具体的に説明する。
まず、本発明によって製造された触媒をアイオノマーとともに分散媒に分散させて電極スラリーを準備する。
本発明の触媒とともに分散媒に分散されるアイオノマーは水素イオン伝達のためのものであり、電極と高分子電解質膜との間の接着力向上のためのバインダーとしての機能も果たす。前記アイオノマーは、フッ素系アイオノマーまたは炭化水素系アイオノマーであることができ、スルホン酸基、カルボキシル基、ボロン酸基、リン酸基、イミド基、スルホンイミド基、スルホンアミド基、及びスルホン酸フルオライド基からなる群から選択される1種以上のイオン伝導性基を有することができる。
【0022】
例えば、前記アイオノマーは、ポリ(ペルフルオロスルホン酸)、ポリ(ペルフルオロカルボン酸)などのようなフッ素系アイオノマーであることができる。
代案として、前記アイオノマーは、スルホン化ポリイミド(sulfonated polyimide:S-PI)、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン(sulfonated polyarylethersulfone:S-PAES)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(sulfonated polyetheretherketone:SPEEK)、スルホン化ポリベンズイミダゾール(sulfonated polybenzimidazole:SPBI)、スルホン化ポリスルホン(sulfonated polysulfone:S-PSU)、スルホン化ポリスチレン(sulfonated polystyrene:S-PS)、スルホン化ポリホスファゼン(sulfonated polyphosphazene)、スルホン化ポリキノキサリン(sulfonated polyquinoxaline)、スルホン化ポリケトン(sulfonated polyketone)、スルホン化ポリフェニレンオキサイド(sulfonated polyphenylene oxide)、スルホン化ポリエーテルスルホン(sulfonated polyether sulfone)、スルホン化ポリエーテルケトン(sulfonated polyether ketone)、スルホン化ポリフェニレンスルホン(sulfonated polyphenylene sulfone)、スルホン化ポリフェニレンスルフィド(sulfonated polyphenylene sulfide)、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン(sulfonated polyphenylene sulfide sulfone)、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホンニトリル(sulfonated polyphenylene sulfide sulfone nitrile)、スルホン化ポリアリーレンエーテル(sulfonated polyarylene ether)、スルホン化ポリアリーレンエーテルニトリル(sulfonated polyarylene ether nitrile)、スルホン化ポリアリーレンエーテルエーテルニトリル(sulfonated polyarylene ether ether nitrile)、ポリアリーレンエーテルスルホンケトン(sulfonated polyarylene ether sulfone ketone)などのような炭化水素系アイオノマーであることができる。
【0023】
前記分散媒は、水、親水性溶媒、有機溶媒、またはこれらの中で2種以上の混合物であることができる。
前記親水性溶媒は、炭素数1~12の線形または分岐形の飽和または不飽和炭化水素を主鎖として含み、アルコール、ケトン、アルデヒド、カーボネート、カルボキシレート、カルボン酸、エーテル及びアミドからなる群から選択される1種以上の官能基を有する化合物であることができる。
前記有機溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)またはこれらの中で2種以上の混合物であることができるが、これらに制限されない。
次いで、前記電極スラリーを基材(substrate)上にコーティングし、前記コーティングされた電極スラリーを乾燥させる。
本発明の一実施例によれば、前記電極は、デカール転写法(decal transfer method)によって高分子電解質膜上に形成することができる。
デカール転写法によれば、前記電極スラリーがコーティングされる前記基材は離型フィルム(release film)であり、本発明の電極形成方法は、前記乾燥段階で前記離型フィルム上に形成された電極を前記高分子電解質膜上に転写する段階、及び前記離型フィルムを除去する段階をさらに含む。
【0024】
具体的には、マスクフィルムを用いて前記離型フィルム上に前記電極スラリーを所定の形態及び大きさにコーティングした後、後続の乾燥工程によって前記電極スラリーから前記分散媒を除去する。次いで、前記乾燥工程で形成された電極が高分子電解質膜に接触するように前記離型フィルムと前記電極を前記高分子電解質膜上に積層した後、加熱プレス(hot pressing)工程を遂行することにより、前記電極を前記高分子電解質膜上に転写し、次いで前記離型フィルムを除去する。
デカール転写法を用いて膜電極アセンブリーを製造する場合、アノードとカソードのそれぞれを前記のような方法で離型フィルム上にそれぞれ形成した後、高分子電解質膜の一面及び他面に前記アノードと前記カソードを同時に転写することが一般的である。
前記高分子電解質膜は、アイオノマーから形成された単一膜タイプ(single membrane type)またはアイオノマーで含浸された多孔性支持体を含む強化複合膜タイプ(reinforced composite membrane type)であることができる。前記高分子電解質膜のアイオノマーと前記電極スラリーのアイオノマーは同種のアイオノマーであることが好ましいが、本発明がこれに制限されるものではなく、異種のアイオノマーを前記高分子電解質膜及び前記電極の製造にそれぞれ使うこともできる。
【0025】
本発明の他の実施例によれば、前記電極は直接コーティング法(direct coating method)で高分子電解質膜上に形成することができる。
直接コーティング法によれば、前記電極スラリーがコーティングされる前記基材が高分子電解質膜である。例えば、マスクフィルムを用いて前記高分子電解質膜上に前記電極スラリーを所定の形態及び大きさにコーティングした後、前記電極スラリーから前記分散媒を除去するための乾燥工程を遂行する。次いで、前記乾燥工程によって電極が一旦形成されれば、前記マスクフィルムを除去する。
直接コーティング法を用いて膜電極アセンブリーを製造する場合、アノードとカソードを高分子電解質膜の一面及び他面に順次形成することができる。
上述したように、前記電極スラリーを用いてデカール転写法または直接コーティング法によって高分子電解質膜の一面及び他面にアノード及びカソードをそれぞれ形成することにより、本発明の膜電極アセンブリー(MEA)を製造することができる。
例えば、本発明の膜電極アセンブリー(MEA)は、アノード、カソード、及びこれらの間の高分子電解質膜を含み、前記アノード及び前記カソードの少なくとも一方は本発明の触媒を含むことができる。
【0026】
以下、具体的な実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただ、下記の実施例は本発明の理解を助けるためのものであるだけで、これによって本発明の権利範囲が制限されてはいけない。
実施例1
未処理アセチレンブラック担体に対する熱重量分析(TGA)を遂行し、20重量%の重量減少が発生した第1温度(T1)が500℃であることを把握した。次いで、熱処理温度である第2温度(T2)をT1±40℃の範囲である500℃に設定し、前記未処理アセチレンブラック担体を5時間熱処理した。具体的には、前記未処理担体を収容しているボート(boat)をファーネス(furnace)に入れた。空気雰囲気で前記ファーネスの温度を5℃/minの速度で500℃まで上げた後、5時間の間に前記未処理担体に対する熱処理を遂行することにより、ソリッドタイプの活性化したアセチレンブラック担体を得た。
比較例1
実施例1と同種の未処理アセチレンブラック担体(すなわち、T1=500℃)を準備した後、熱処理温度である第2温度(T2)を550℃(=T1+50℃)に設定して熱処理を遂行したことを除き、前記実施例1と同様な方法でソリッドタイプの活性化したアセチレンブラック担体を得た。
比較例2
実施例1と同種の未処理アセチレンブラック担体(すなわち、T1=500℃)を準備した後、熱処理温度である第2温度(T2)を450℃(=T1-50℃)に設定して熱処理を遂行したことを除き、前記実施例1と同様な方法でソリッドタイプの活性化したアセチレンブラック担体を得た。
【0027】
比較例3
実施例1と同種の未処理アセチレンブラック担体(すなわち、T1=500℃)を準備した後、空気雰囲気ではない水蒸気雰囲気で熱処理を遂行したことを除き、前記実施例1と同様な方法でソリッドタイプの活性化したアセチレンブラック担体を得た。
[BET分析] BET分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて前記未処理アセチレンブラック担体及び実施例1及び比較例の活性化したアセチレンブラック担体の物理的特性、すなわちBET表面積(BET surface area)(SBET)、微小孔表面積(micropore surface area)(SMICRO)、外表面積(external surface area)(SEX)、全体細孔容積(total pore volume)(VT)、微小孔容積(micropore volume)(VMICRO)、及びメソ細孔容積(mesopore volume)(VMESO)をそれぞれ測定した。具体的には、各担体別に無作為に5個のサンプルを取り、前記物理的特性をそれぞれ測定した後、各物理的特性別にそのサンプル測定値の算術平均を計算し、その結果を下記の表1に示した。
[XRD分析]
【0028】
XRD分析器(Shimadzu、XRD-7000)[X-rayソース:Cu-Kα(波長=1.54056Å)]を用いて、前記未処理アセチレンブラック担体及び実施例1及び比較例の活性化したアセチレンブラック担体に対するXRD分析をそれぞれ実施した。(002)ピークを用いてブラッグの法則(Bragg’s law)によって算出されたd-spacing値(DS)を下記の表1に示した。また、前記未処理アセチレンブラック担体及び実施例1の活性化したアセチレンブラック担体のXRDグラフを
図2に示した。
【表1】
【0029】
表1に示すように、実施例1では、メソ細孔に相当する外表面積(SEX)及びメソ細孔容積(VMESO)は著しく増加したが、微小孔表面積(SMICRO)及び微小孔容積(VMICRO)はほとんど増加しなかった(すなわち、メソ細孔の表面積及び容積は有意に増加したが、微小孔の表面積及び容積はほとんど増加しなかった)。これに対して、比較例1及び3では、外表面積(SEX)及びメソ細孔容積(VMESO)が増加し、微小孔表面積(SMICRO)及び微小孔容積(VMICRO)の相当な増加も観察された(すなわち、メソ細孔の表面積及び容積に劣らず、微小孔の表面積及び容積もかなり増加した)。前述したように、触媒金属粒子を担体上に分散させるときにメソ細孔に入った触媒金属粒子は触媒の活性にある程度貢献することができるが、微小孔に入った触媒金属粒子は触媒の活性に対する貢献度がほとんどないか極めて小さいという点を勘案すると、このような微小孔表面積及び容積の増加はメソ細孔表面積及び容積の増加による触媒活性増加を相殺させ、結果的に担体熱処理による触媒活性の増加を期待しにくくする。
また、実施例1及び比較例2の活性化したアセチレンブラック担体のd-spacing値(DS)は未処理アセチレンブラック担体のd-spacing値(DS)と大きな差がない反面[例えば、実施例1の場合、熱処理によってd-spacing値(DS)がただ約0.6%のみ増加]、比較例1及び比較例3の活性化したアセチレンブラック担体のd-spacing値(DS)は未処理アセチレンブラック担体のd-spacing値(DS)に比べてかなり大きいこと[すなわち、熱処理によってd-spacing値(DS)がかなり増加したこと]を確認することができる。このようなd-spacing値(DS)のかなりの増加(例えば、10%を超える増加)は炭素の結晶構造に深刻な変化が引き起こされたことを示す。
【0030】
図2のXRDグラフに示すように、実施例1の(002)ピーク強度(I)は未処理アセチレンブラック担体の(002)ピーク強度(I)の50%以上であった[すなわち、活性化による(002)ピーク強度(I)の減少率が50%以下であった]。
具体的な記載は省略するが、前記未処理アセチレンブラック担体をT
1±40℃の範囲の温度(すなわち、460℃、480℃、520℃、及び540℃)で熱処理することによって得られた活性化したアセチレンブラック担体も前記実施例1の活性化したアセチレンブラック担体と類似した結果を示した。
[
BET等温曲線(BET Isotherm)及び細孔分布曲線]
BET分析器(Micromeritics、ASAP-2020)を用いて前記未処理アセチレンブラック担体及び実施例1の活性化したアセチレンブラック担体のBET等温曲線及び細孔分布曲線をそれぞれ得、これらを
図3及び
図4にそれぞれ示した。
図3のグラフから、Type II形態の等温曲線が実施例1の熱処理の後にType IV形態に変化したことを確認することができる。これは、微小孔よりはメソ細孔が増加したことを意味するものである。
また、
図4のグラフから、実施例1の熱処理によってメソ細孔の表面積及び容積が大きく増加したことを確認することができる。
【0031】
[
触媒の透過電子顕微鏡(TEM)分析]
図5の(a)及び(b)は実施例1の活性化したアセチレンブラック担体上に触媒金属粒子を分散させて得た触媒の透過電子顕微鏡(TEM)写真及び高解像度透過電子顕微鏡(HR-TEM)写真である。
図5の写真から分かるように、本発明のソリッドタイプの炭素系担体上に触媒金属粒子が均一に分布されていることを確認することができる。