(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240110BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240110BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2022538278
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 CN2020124464
(87)【国際公開番号】W WO2022000889
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】202010617393.6
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522057847
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【氏名又は名称】白井 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】白艶
(72)【発明者】
【氏名】張樹濤
(72)【発明者】
【氏名】潘海竜
(72)【発明者】
【氏名】王壮
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105958062(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110061225(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105070908(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103633308(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103825016(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109686931(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110676452(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110336020(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108075115(CN,A)
【文献】特開平09-055210(JP,A)
【文献】特開平08-138670(JP,A)
【文献】特開平08-171935(JP,A)
【文献】特開2009-137834(JP,A)
【文献】特開2010-114088(JP,A)
【文献】特開2019-091692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源材料と正極前駆体材料に対して第1の焼結処理を行って、第1の焼結生成物を得るステップと、
前記第1の焼結生成物の表面にニッケル源材料及び/又はマンガン源材料である被覆剤を被覆し、その後、第2の焼結処理を行って
、正極材料を得るステップとを含
み、
前記リチウム源材料は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、及びシュウ酸リチウムからなる群のうちの1種又は複数種であり、前記正極前駆体材料は、Ni
a
Co
b
Mn
c
Al
d
M
y
(OH)
2
で示される化合物であり、MはY、Sr、Mo、La、Al、Zr、Ti、Mg、B、Nb、Ba、Si、P、W元素のうちの1種又は複数種であり、且つaは0.5~0.92、bは0.02~0.06、cは0.01~0.03、dは0.01~0.03、yは0.00~0.01である、ことを特徴とする正極材料の製造方法。
【請求項2】
前記マンガン源材料はMn(OH)
2、MnO、MnO
2、Mn
2O
3、Mn
3O
4、Mn
2O
7、及びMnCO
3からなる群から選ばれる1種又は複数種であり、前記ニッケル源材料はNi(OH)
2、NiSO
4、NiCO
3、NiF
2、NiCl
2、NiBr
2、NiI
2、及びNi
2O
3からなる群から選ばれる1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1の焼結生成物の重量と、前記被覆剤中のニッケル元素及びマンガン元素の総重量との比が、1:(0.0008~0.0015)である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2の焼結処理は、温度150~250℃、処理時間4~8hである、ことを特徴とする請求項3の製造方法。
【請求項5】
前記第1の焼結処理は、温度700~1000℃、焼結時間8~20hであ
る、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1の焼結処理の温度は800~950℃である、ことを特徴とする請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
複数の単結晶粒子で形成される準単結晶正極材料であり、前記単結晶粒子の粒子径が0.10~2μm、前記準単結晶正極材料の粒子径D50が2~7.5μmであり、
ニッケルコバルトマンガン
アルミン酸リチウ
ムと、前記ニッケルコバルトマンガンアルミン酸リチウム上に被覆される被覆層とを含み、前記被覆層はニッケル源材料及び/又はマンガン源材料を焼結して形成したマンガン酸リチウム及び/又はニッケル酸リチウムで
ある、ことを特徴とする正極材料。
【請求項8】
前記正極材料の化学一般式はLi
xNi
aCo
bMn
cAl
dM
yR
zO
2であり、式中、1.00≦x≦1.35、0<y≦0.01、0<z≦0.01、0<a≦0.92、0<b≦0.06、0<c≦0.03、0<d≦0.03、a+b+c+d+z=1であり、MはY、Sr、Mo、La、Al、Zr、Ti、Mg、B、Nb、Ba、Si、P、W元素のうちの1種又は複数種であり、RはNi元素及び/又はMn元素である、ことを特徴とする請求項7に記載の正極材料。
【請求項9】
前記ニッケルコバルトマンガンアルミン酸リチウムの粒子径D50は2~7.5μmであり、前記被覆層中の粒子物の粒子径は0.01~0.45μmである、ことを特徴とする請求項7に記載の正極材料。
【請求項10】
正極材料を含むリチウムイオン電池であって、
前記正極材料は請求項7~9のいずれか1項に記載の正極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池製造の分野に関し、具体的には、正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高容量及び高エネルギー密度を有することから、電気自動車、ハイブリッドカーやエネルギー貯蔵システムに広く使用されており、リチウムイオン電池の主な構成部分の1つとしての正極材料は、リチウムイオン電池の性能に大きく影響する。
【0003】
一般的な二次球状正極材料では、極板の作製における圧延工程において二次球状粒子にクラックが発生しやすく、この結果、サイクルが素早く減衰し、電池の使用寿命が短くなり、そして、電解液が正極材料粒子の内部と直接接触してガス発生量が大きくなり、その結果、膨らみなど安全上の問題が生じる。その合成プロセスとして三段焼結プロセス(即ち一回目の焼結、一回目の被覆、二回目の焼結、水洗乾燥、二回目の被覆、三回目の焼結)が一般的であるが、二段焼結(即ち一回目の焼結、水洗乾燥、一回目の被覆、二回目の焼結)も使用される。上記従来のプロセスでは、被覆剤として一般的な被覆剤、例えば炭素被覆剤が使用され、正極材料の製造においては、複数回の被覆と複数回の焼結及び水洗プロセスを必要とするので、合成プロセスが繁雑になり、周期が長く、エネルギー消費量が大きく、中間工程で材料が多く損失され、収率が低下し、水汚染が起こるなどの問題が生じ、且つ水洗により残留アルカリが除去されるが、サイクル容量損失も起こる。
【0004】
上記問題の存在のため、プロセスが短く、環境にやさしく、正極材料の収率は高く、サイクル容量損失が少ない正極材料の製造方法を提供することが必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、合成プロセスが繁雑であり、エネルギー消費量が大きく、環境に悪く、正極材料の収率が低く、しかも、サイクル容量損失を引き起こすという従来の正極材料の製造方法に存在する問題を解決するために、正極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成させるために、本発明の一態様は、リチウム源材料と正極前駆体材料に対して第1の焼結処理を行って、第1の焼結生成物を得るステップと、第1の焼結生成物の表面にニッケル源材料及び/又はマンガン源材料である被覆剤を被覆し、その後、第2の焼結処理を行って、正極材料を得るステップとを含む、正極材料の製造方法を提供する。
【0007】
さらに、マンガン源材料はMn(OH)2、MnO、MnO2、Mn2O3、Mn3O4、Mn2O7、及びMnCO3からなる群から選ばれる1種又は複数種であり、ニッケル源材料はNi(OH)2、NiSO4、NiCO3、NiF2、NiCl2、NiBr2、NiI2、及びNi2O3からなる群から選ばれる1種又は複数種である。
【0008】
さらに、第1の焼結生成物の重量と、被覆剤中のニッケル元素及びマンガン元素の総重量との比が、1:(0.0008~0.0015)である。
【0009】
さらに、第2の焼結処理は、温度150~250℃、処理時間4~8hである。
【0010】
さらに、第1の焼結処理は、温度700~1000℃、焼結時間8~20hであり、好ましくは、第1の焼結処理の温度は800~950℃である。
【0011】
さらに、リチウム源材料は水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、及びシュウ酸リチウムからなる群のうちの1種又は複数種であり、正極前駆体材料は、NiaCobMncAldMy(OH)2で示される化合物であり、MはY、Sr、Mo、La、Al、Zr、Ti、Mg、B、Nb、Ba、Si、P、W元素のうちの1種又は複数種であり、且つaは0.5~0.92、bは0.02~0.06、cは0.01~0.03、dは0.01~0.03、yは0.00~0.01である。
【0012】
本出願の別の態様は正極材料をさらに提供し、正極材料は、複数の単結晶粒子で形成される準単結晶正極材料であり、単結晶粒子の粒子径が0.10~2μmであり、準単結晶正極材料の粒子径D50が2~7.5μmであり、
ニッケル・コバルト・マンガン・リチウム複合酸化物と、ニッケルコバルトマンガンアルミン酸リチウム上に被覆される被覆層とを含み、被覆層はニッケル源材料及び/又はマンガン源材料を焼結して形成したマンガン酸リチウム及び/又はニッケル酸リチウムであり、又は正極材料は、本出願による上記製造方法で製造される。
【0013】
さらに、正極材料の化学一般式はLixNiaCobMncAldMyRzO2であり、式中、1.00≦x≦1.35、0<y≦0.01、0<z≦0.01、0<a≦0.92、0<b≦0.06、0<c≦0.03、0<d≦0.03、a+b+c+d+z=1であり、MはY、Sr、Mo、La、Al、Zr、Ti、Mg、B、Nb、Ba、Si、P、W元素のうちの1種又は複数種であり、RはNi元素及び/又はMn元素である。
【0014】
さらに、ニッケルコバルトマンガンアルミン酸リチウムの粒子径D50は2~7.5μmであり、被覆層中の粒子物の粒子径は0.01~0.45μmである。
【0015】
本出願のさらなる態様は、正極材料を含むリチウムイオン電池をさらに提供し、正極材料は本出願による上記正極材料を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の技術案を用いると、上記製造方法において、特定の被覆剤を用いて、二段焼結プロセス(即ち一回目の焼結、一回目の被覆、二回目の焼結)と組み合わせて準単結晶正極材料を合成し、該準単結晶正極材料は形態が単結晶正極材料と類似した複数の一次粒子が凝集したものである。上記製造方法を用いると、合成プロセスを簡素化させ、エネルギー消費量を低下させ、収率を向上させ、水洗プロセスを省略し(被覆剤と正極材料表面での残留アルカリが発生してサイクル容量を有するニッケル酸リチウム又はマンガン酸リチウムを生成する)残留リチウムを減少させるとともに、サイクル容量の損失を回避し、電解液と粒子内部での副反応の発生を減少させ、サイクル維持率を向上させて、電池寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本出願の一部を構成する明細書の図面は本発明をさらに解釈するために提供され、本発明の模式的な実施例及びその説明は本発明を解釈するために使用され、本発明を不適に限定するものではない。
【0018】
【
図1】実施例1で合成される準単結晶四元系正極材料のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
なお、矛盾しない限り、本出願の実施例及び実施例の特徴は互いに組み合わせてもよい。以下、実施例を参照して本発明を詳しく説明する。
【0020】
背景技術で記載されたように、従来の正極材料の製造方法には、合成プロセスが繁雑であり、エネルギー消費量が大きく、環境に悪く、正極材料の収率が低く、しかも、サイクル容量損失を引き起こすという問題が存在する。上記技術的課題を解決するために、本出願は、リチウム源材料と正極前駆体材料(ニッケル、コバルト、マンガン、及びアルミを含有する前駆体材料)に対して第1の焼結処理を行って、第1の焼結生成物を得るステップと、第1の焼結生成物の表面にニッケル源材料及び/又はマンガン源材料である被覆剤を被覆し、その後、第2の焼結処理を行って、正極材料を得るステップとを含む正極材料の製造方法を提供する。
【0021】
第1の焼結処理においては、リチウム源材料と正極前駆体材料から準単結晶ニッケル・コバルト・マンガン・リチウム酸化物が形成される。第1の焼結生成物の表面にニッケル源材料とマンガン源材料を含有する被覆剤を被覆し、第2の焼結を行う。第2の焼結においては、準単結晶ニッケル・コバルト・マンガン・リチウム酸化物の表面の残留アルカリ(Li2CO3とLiOH)が被覆剤と化学反応してマンガン酸リチウムとニッケル酸リチウムを生成し、複数種の単結晶粒子物が凝集してなる準単結晶正極材料を形成する。ここで、マンガン酸リチウム及びニッケル酸リチウム自体には所定のサイクル容量を有する。
【0022】
上記製造方法では、特定の被覆剤を用いて、二段焼結プロセス(即ち一回目の焼結、一回目の被覆、二回目の焼結)と組み合わせて準単結晶正極材料を合成し、該準単結晶正極材料は形態が単結晶正極材料と類似した複数の一次粒子が凝集したものである。上記製造方法を用いると、合成プロセスを簡素化させ、エネルギー消費量を低下させ、収率を向上させ、水洗プロセスを省略し(被覆剤が正極材料の表面の残留アルカリと反応して、サイクル容量を有するニッケル酸リチウム又はマンガン酸リチウムを生成する)残留リチウムを減少させるとともに、サイクル容量の損失を回避し、電解液と粒子内部での副反応の発生を減少させ、サイクル維持率を向上させて、電池寿命を延ばすことができる。
【0023】
マンガン源材料及びニッケル源材料としては、本分野でよく使用されるマンガン含有化合物又はニッケル含有化合物が使用されてもよい。好ましい実施例では、マンガン源材料はMn(OH)2、MnO、MnO2、Mn2O3、Mn3O4、Mn2O7及びMnCO3からなる群から選ばれる1種又は複数種であり、ニッケル源材料はNi(OH)2、NiSO4、NiCO3、NiF2、NiCl2、NiBr2、NiI2、及びNi2O3からなる群から選ばれる1種又は複数種である。
【0024】
好ましい実施例では、第1の焼結生成物の重量と、被覆剤中のニッケル元素及びマンガン元素の総重量との比が、1:(0.0008~0.0015)である。第1の焼結生成物の重量と被覆剤中のニッケル元素及びマンガン元素の総重量との比は上記範囲を含むが、それに制限されるものではないが、上記範囲に限定されると、正極材料中の残留アルカリ量をさらに低下させ、準単結晶粒子の粒度を小さくすることに有利であり、さらに正極材料のサイクル特性のさらなる向上や使用寿命の延長に寄与する。
【0025】
上記第1の焼結と第2の焼結は好気性焼結であり、本分野でよく使用される装置やプロセスを利用して実現可能である。上記製造方法で製造される正極材料は、プロセスがシンプルであり、エネルギー消費量が低く、正極材料の収率が高く、サイクル特性に優れるなどの利点がある。好ましい実施例では、正極前駆体材料とリチウム源材料中のリチウム元素とのモル比が1:(1.00~1.35)である。正極前駆体材料とリチウム源材料中のリチウム元素とのモル比が上記範囲に限定されると、正極材料のエネルギー密度、電気容量や構造安定性のさらなる向上に有利である。
【0026】
上記製造方法では、リチウム源材料及び正極前駆体材料は本分野でよく使用されるものを利用できる。好ましい実施例では、リチウム源材料は水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、及びシュウ酸リチウムからなる群のうちの1種又は複数種であり、正極前駆体材料はNiaCobMncAldMy(OH)2で示される化合物であり、MはY、Sr、Mo、La、Al、Zr、Ti、Mg、B、Nb、Ba、Si、P、W元素のうちの1種又は複数種であり、且つaは0.5~0.92、bは0.02~0.06、cは0.01~0.03、dは0.01~0.03、yは0.00~0.01である。
【0027】
好ましい実施例では、第1の焼結処理は、温度700~1000℃、焼結時間8~20hである。第1の焼結処理の温度及び焼結時間は上記範囲を含むが、これに制限されるものではないが、上記範囲に限定されると、正極材料の構造安定性のさらなる向上に有利である。より好ましくは、第1の焼結処理の温度は800~950℃である。
【0028】
好ましい実施例では、上記製造方法は、第1の焼結処理で得た生成物に対して第1の破砕及び第1の選別処理を行い、粒度が38μm以上の粒子を除去し、前記第1の焼結生成物を得るステップと、第2の焼結処理で得た生成物に第2の破砕及び第2の選別処理を行い、粒度が38μm以上の粒子を除去し、正極材料を得るステップとをさらに含む。第1の焼結処理を経た生成物と第2の焼結処理を経た生成物を破砕して選別することにより、正極材料の構造や電気化学的特性の安定性の向上に有利である。
【0029】
第1の焼結と第2の焼結によって、複数の単結晶粒子が凝集して形成した準単結晶正極材料が形成され得る。好ましい実施例では、第2の焼結処理は温度150~250℃、処理時間4~8hである。第2の焼結処理の温度及び処理時間を上記範囲に限定すると、被覆層とニッケルコバルトマンガンアルミン酸リチウムとの結合強度のさらなる向上に有利であり、さらに正極材料の構造安定性を向上させ、その使用寿命を延ばす。
【0030】
本出願の別の態様は正極材料をさらに提供し、該正極材料は、複数の単結晶粒子が凝集して形成した準単結晶正極材料であり、且つ単結晶粒子の粒子径が100~2000nmであり、準単結晶正極材料の粒子径D50が2~7.5μmであり、ニッケルコバルトマンガンアルミン酸リチウムと、ニッケルコバルトマンガンアルミン酸リチウム上に被覆される被覆層とを含み、被覆層はニッケル源材料及び/又はマンガン源材料を焼結してなるマンガン酸リチウム及び/又はニッケル酸リチウムであり、又は、上記正極材料は本出願による上記製造方法で製造される。
【0031】
上記組成を有する、又は本出願による製造方法で製造される正極材料は、電気化学的特性サイクル特性がよく、構造が安定的であり、使用寿命が長いなどの利点がある。好ましくは、準単結晶正極材料の粒子径D100粒度は38μm以下である。
【0032】
好ましい実施例では、正極材料の化学一般式はLixNiaCobMncAldMyRzO2であり、式中、1.00≦x≦1.35、0<y≦0.01、0<z≦0.01、0<a≦0.92、0<b≦0.06、0<c≦0.03、0<d≦0.03、a+b+c+d+z=1であり、MはY、Sr、Mo、La、Al、Zr、Ti、Mg、B、Nb、Ba、Si、P、W元素のうちの1種又は複数種であり、RはNi元素及び/又はMn元素である。上記組成を有する正極材料は、各元素成分をより大きく相乗作用させることができ、それにより、正極材料の総合的特性のさらなる向上に有利である。
【0033】
より好ましくは、ニッケルコバルトマンガンアルミン酸リチウムの粒子径は2~7.5μmであり、被覆層中の粒子物の粒子径は0.01~0.45μmである。
【0034】
本出願のさらなる態様は正極材料を含むリチウムイオン電池をさらに提供し、正極材料は上記正極材料を含む。
【0035】
上記組成を有する、又は本出願による製造方法で製造される正極材料は、電気化学的サイクル特性がよく、構造が安定的であり、使用寿命が長いなどの利点がある。このため、この正極材料を用いて製造されるリチウムイオン電池も、同様に優れた電気化学的特性を持つ。
【0036】
以下、具体的な実施例を参照して本出願をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本出願が特許する範囲を制限するものとして理解できない。
【0037】
実施例1
(1)前駆体Ni0.92Co0.05Mn0.02Al0.01(OH)2とリチウム源を、所定の割合で乾式混合し、前駆体とリチウム源中のLi元素を1:1.05のモル比で混合した後、850℃、酸素ガスの雰囲気下、一次焼結を10h行い、冷却して粉砕し、400メッシュの篩にかけて、一回目の焼結による準単結晶正極材料を得た。
【0038】
(2)ステップ(1)で得た一回目の焼結による準単結晶正極材料と、被覆剤Mn(OH)
2中のMn元素とを、1:0.0008の質量比で均一に乾式混合した後、200℃、酸素ガスの雰囲気下、二次焼結6hを行い、冷却して粉砕し、400メッシュの篩にかけて、準単結晶正極材料M-NCMAを得て、SEM像を
図1に示す。
【0039】
実施例2
(1)前駆体Ni0.92Co0.05Mn0.02Al0.01(OH)2とリチウム源を、所定の割合で乾式混合し、前駆体とリチウム源中のLi元素を、1:1.05モル比で混合した後、850℃、酸素ガスの雰囲気下、一次焼結を10h行い、冷却して粉砕し、400メッシュの篩にかけて、一回目の焼結による準単結晶正極材料を得た。
【0040】
(2)ステップ(1)で得た一回目の焼結による準単結晶正極材料と、被覆剤Ni(OH)2中のNi元素とを、1:0.00085の質量比で均一に乾式混合し、200℃、酸素ガスの雰囲気下、二次焼結6hを行い、冷却して粉砕し、400メッシュの篩にかけて、最終的な準単結晶正極材料N-NCMAを得た。
【0041】
実施例3
(1)前駆体Ni0.92Co0.05Mn0.02Al0.01(OH)2とリチウム源を、所定の割合で乾式混合し、前駆体とリチウム源中のLi元素を1:1.05のモル比で混合した後、850℃、酸素ガスの雰囲気下、一次焼結を10h行い、冷却して粉砕し、篩にかけて、一回目の焼結による準単結晶正極材料を得た。
【0042】
(2)ステップ(1)で得た一回目の焼結による準単結晶正極材料を、被覆剤Mn(OH)2、及びNi(OH)2中のMn、及びNi元素と、それぞれ、1:0.0004及び1:0.000425の質量比で均一に乾式混合し、200℃、酸素ガスの雰囲気下、二次焼結6hを行い、冷却して粉砕し、篩にかけて、最終的な準単結晶正極材料MN-NCMAを得た。
【0043】
実施例4
実施例2との区別として、一回目の焼結による準単結晶正極材料と、被覆剤Ni(OH)2中のNi元素とを、1:0.0015の質量比で均一に乾式混合した。
【0044】
実施例5
実施例2との区別として、一回目の焼結による準単結晶正極材料と、被覆剤Ni(OH)2中のNi元素とを、1:0.0025の質量比で均一に乾式混合した。
【0045】
実施例6
実施例2との区別として、正極前駆体材料とリチウム源材料中のリチウム元素とのモル比は1:1.35であった。
【0046】
実施例7
実施例2との区別として、正極前駆体材料とリチウム源材料中のリチウム元素とのモル比は1:0.8であった。
【0047】
実施例8
実施例2との区別として、正極前駆体材料とリチウム源材料中のリチウム元素とのモル比は1:1.6であった。
【0048】
実施例9
実施例2との区別として、一回目の焼結の温度は950℃であった。
【0049】
実施例10
実施例2との区別として、一回目の焼結の温度は1050℃であった。
【0050】
実施例11
実施例2との区別として、二回目の焼結の温度は150℃であった。
【0051】
実施例12
実施例2との区別として、二回目の焼結の温度は250℃であった。
【0052】
実施例13
実施例2との区別として、二回目の焼結の温度は300℃であった。
【0053】
実施例14
実施例2との区別として、第1の焙焼後、破砕して選別し、200メッシュの篩にかけて、第2の焙焼を直接行った。
【0054】
実施例15
実施例2との区別として、第1の焙焼後、破砕して選別し、200メッシュの篩にかけて、第2の焙焼後、破砕選別を行わなかった。
【0055】
比較例1
(1)前駆体Ni0.92Co0.05Mn0.02Al0.01(OH)2とリチウム源を、所定の割合で乾式混合し、前駆体とリチウム源中のLi元素を1:1.05のモル比で混合した後、850℃、酸素ガスの雰囲気下、一次焼結を10h行い、冷却して粉砕し、篩にかけて、一回目の焼結による準単結晶正極材料を得た。
【0056】
比較例2
(1)前駆体Ni0.92Co0.05Mn0.02Al0.01(OH)2とリチウム源を、所定の割合で乾式混合し、前駆体とリチウム源中のLi元素を1:1.05のモル比で混合した後、850℃、酸素ガスの雰囲気下、一次焼結を10h行い、冷却して粉砕し、篩にかけて、一回目の焼結による準単結晶正極材料を得た。
【0057】
(2)ステップ(1)で得た一回目の焼結による準単結晶正極材料と水とを、1:1の質量比で、電気ミキサーにて600r/minで撹拌しながら5min水洗し、次に、150℃の電気オーブンで8h以上真空乾燥させ、乾燥後の材料と被覆剤Mn(OH)2中のMn元素とを、1:0.012の質量比で均一に乾式混合し、200℃、酸素ガスの雰囲気下、二次焼結6hを行い、冷却して粉砕し、篩にかけて、最終的な準単結晶正極材料を得た。
【0058】
実施例及び比較例1における合成準単結晶四元系正極材料の残留アルカリを表1、合成準単結晶四元系正極材料の電気的特性を表2に示す。
【0059】
【0060】
表1から分かるように、比較例1では、残留アルカリの含有量が高く、一方、実施例1~15では、一回の被覆と二回目の焼結により、残留アルカリが明らかに低下した。その原因として、準単結晶正極材料の表面の残留アルカリ(Li2CO3とLiOH)が被覆剤Mn(OH)2、及びNi(OH)2と化学反応して、マンガン酸リチウムとニッケル酸リチウムを生成し、マンガン酸リチウム及びニッケル酸リチウム自体には所定のサイクル容量を有するためであった。
【0061】
ボタン電池の作製:上記実施例1~15、比較例1及び比較例2で製造された正極材料をそれぞれ用いて、重量比95:2.5:2.5:5の正極材料、カーボンブラック導電剤、バインダPVDF、及びNMPを均一に混合して、電池正極スラリーを製造した。このスラリーを厚さ20~25umのアルミ箔上に塗布し、真空乾燥とロールプレスをして正極極板とし、リチウム金属シートを負極とし、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)1.5molを、ECとDMCの体積比が1:1である炭酸エチレン(EC)と炭酸ジメチル(DMC)混合溶媒1Lに溶解したものを電解液とし、組み立ててボタン電池とした。
【0062】
材料の電気的特性測定は、藍電社製の電池測定システムを用いて25℃で行われ、測定電圧の範囲が3V~4.5Vであり、初回充放電比容量と50サイクル容量維持率が測定された。測定結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表2の実施例1~15、比較例1及び比較例2の電気的特性から分かるように、実施例1~15の正極材料は、電気サイクル容量を損失せずに残留アルカリを低下させた。一方、比較例2では、水洗により残留アルカリを低下させたものの、比容量が低かった。その原因として、水洗により正極材料の表面の残留アルカリが除去され、正極材料中のリチウムの含有量が低下し、同様にMn(OH)2で被覆していても、マンガン酸リチウムが生成できず、このため、水洗により電気サイクル容量の損失が起こった。且つ、表2のサイクル維持率のデータから、実施例1、実施例2及び実施例3は高いサイクル維持率を有することが分かった。
【0065】
以上の説明から明らかなように、本発明の上記実施例は下記技術的効果を実現する。
【0066】
実施例1~5の比較から分かるように、一回目の焼結による準単結晶正極材料と、被覆剤中のNi及びMn元素の重量の和との比が本出願の好ましい範囲に限定されると、正極材料の総合的特性向上に有利であった。
【0067】
実施例1、6~8の比較から分かるように、正極前駆体材料とリチウム源材料中のリチウム元素とのモル比が本出願の好ましい範囲に限定されると、正極材料の総合的特性向上に有利であった。
【0068】
実施例1、9~13の比較から分かるように、第1の焼結と第2の焼結の温度が本出願の好ましい範囲に限定されると、正極材料の総合的特性向上に有利であった。
【0069】
実施例1、14及び15の比較から分かるように、第1の焼結と第2の焼結後で選別される粒子径が本出願の好ましい範囲に限定されると、正極材料の総合的特性向上に有利であった。
【0070】
なお、本出願の明細書及び特許請求の範囲に記載の「第1の」、「第2の」などの用語は、類似した対象を区別するものであり、必ずしも特定の順番又は優先順位を示すわけではなく。理解すべきものとして、ここで記載される本出願の実施形態がここで記載された順番と異なるもので実施できるように、適切な場合、このように使用される用語が交換可能である。
【0071】
以上は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するものではなく、当業者にとっては、本発明では様々な変更や変化が可能である。本発明の精神及び原則を逸脱することなく行われる修正、等同置換や改良などであれば、本発明の特許範囲に含まれるものとする。