(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】低温潤滑物質用途のためのTCDエステル
(51)【国際特許分類】
C10M 105/34 20060101AFI20240110BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20240110BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20240110BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C10M105/34
C10M105/38
C10N30:08
C10N40:30
(21)【出願番号】P 2022544086
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2021051964
(87)【国際公開番号】W WO2021152001
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】102020102162.3
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507254975
【氏名又は名称】オーキュー・ケミカルズ・ゲゼルシャフト・ミト・べシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】クービチュケ・イェンス
(72)【発明者】
【氏名】ランゲ・ホルスト
(72)【発明者】
【氏名】バルツァレク・クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ライマー・ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】プリュス・ギーナ
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第934889(DE,C1)
【文献】特開平04-218592(JP,A)
【文献】特開2015-137229(JP,A)
【文献】特開平09-241214(JP,A)
【文献】特開昭54-144354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温用途における潤滑剤としての、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノール
と奇数の炭素数を有する脂肪族
の直鎖状C5~C9モノカルボン酸とのエステルの使用。
【請求項2】
低温用途における潤滑剤としての、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-ジメタノールと脂肪族の直鎖状C7もしくはC9モノカルボン酸とのエステルの使用。
【請求項3】
オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノール
と奇数の炭素数を有する脂肪族の
直鎖状C5~C9モノカルボン酸またはこれらのモノカルボン酸の混合物とのエステルを70重量%以上かつ100重量%以下含む、低温潤滑剤組成物。
【請求項4】
オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-ジメタノールと脂肪族の直鎖状C7もしくはC9モノカルボン酸またはこれらのモノカルボン酸の混合物とのエステルを70重量%以上かつ100重量%以下含む、低温潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温用途における潤滑剤としての、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノール(TCD-M)または-ジメタノール(TCD-DM)と脂肪族C2~C18モノカルボン酸とのエステルの使用に関する。さらに、本発明は、これらのエステルを含む低温潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の冷凍は、主として、機械的冷媒圧縮機の使用に基づいており、そこでは、第1のプロセスステップにおいて、様々な冷媒が凝縮または圧縮される。通常、圧縮によって、気体から液体への冷媒の相転移が誘発され、その際に生じる熱は環境に放出される。液体の冷媒が第2のステップにおいて、冷却の位置に移送され、ここで蒸発され、蒸発に必要なエネルギーがその後この位置から抽出される。冷媒として、装置環境及び所望の冷却能力に応じて、大きな比蒸発エンタルピーを有する物質、例えばジエチルエーテル、アンモニア、二酸化炭素、低級アルカン又はハロゲン化炭化水素を使用することができるが、特に後者は、それらの気候を害する効果のために、当然なこととしてますます後景に退いている。
【0003】
例えば冷凍システムのような低温用途で機械部品を保護するためには、「摩擦のない(reibungslosen)」かつメンテナンスの少ない運転を保証することができる潤滑剤を使用しなければならない。その際、様々な物質が潤滑剤として使用されている。例えば、鉱油を、またはエステル、例えばジカルボン酸ジエステルおよびペンタエリスリトールテトラエステルをベースとする潤滑剤。代替は、例えばナタネ油エステルなどの天然エステルのクラスに見出すことができる。エステルは、良好な潤滑化特性を特徴とし、鉱油ベースの製品とは対照的に、通常、より生分解性である。これまでのところ、十分な潤滑化特性そのものに加えて、改善された二次特性、例えば広い作用温度範囲、均一なレオロジー特性、十分に高い粘度および改善された化学的安定性も有するエステル油は得られていない。
【0004】
例えば冷凍システムのような低温用途における潤滑油に関して種々のアプローチが特許文献に記載されている。
【0005】
例えば、DE4437007A1(特許文献1)は、とりわけ40℃で50~50,000mm2/sの動粘性率を有する潤滑物質として使用するための、生分解性オリゴエステルを開示しており、該エステルは、8~20個の炭素原子を有する三環性ジオール、4~20個の炭素原子を有する飽和直鎖状もしくは分枝状ジカルボン酸および1~30個の炭素原子を有する脂肪族アルコールから製造される。
【0006】
さらに別の特許文献EP2342312B1(特許文献2)には、2-プロピルヘプタン酸を少なくとも1つの2,2-置換1,3-プロパンジオールおよび/または少なくとも1つのそれらのダイマー、トリマーもしくはポリマーおよび/または2,2-置換-1,3-プロパンジオールのもしくはそれらのダイマー、トリマーもしくはポリマーの少なくとも1つのアルコキシル化種でエステル化することにより得られる少なくとも1種のエステルを含む潤滑剤ベース混合物の使用が開示されており、当該潤滑剤は内燃機関およびタービンエンジンに適している。
【0007】
さらに、EP0406479B1(特許文献3)は、塩素不含のハイドロフルオロカーボン冷媒を使用する圧縮機のための潤滑物質の使用を開示しており、当該冷媒は、主成分として1種または複数のエステルを含有し、それらは、(a)ネオペンチルグリコールを、(b)5~10個の炭素原子を含有する少なくとも1つの直鎖状の一価飽和脂肪酸および7~9個の炭素原子を含有する少なくとも1つの分岐鎖状の飽和脂肪酸からの混合物と反応させることによって得られ、ここで、分岐状の一価飽和脂肪酸の割合は、使用される一価の飽和脂肪酸の全量の50モル%以上である。
【0008】
低い温度での潤滑剤としての物質の既に知られている使用にもかかわらず、低温用途において潤滑剤として機能することができるさらに別の物質クラスへの需要が依然として高まっている。さらに、十分な潤滑剤効果に加えて、一定のレオロジー特性を有するより広い作用温度範囲も有する低温潤滑剤組成物に対する需要が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】DE4437007A1
【文献】EP2342312B1
【文献】EP0406479B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、従来公知の物質の欠点を少なくとも部分的に克服し、一定の潤滑剤特性を有する広い温度範囲にわたって信頼性のある使用を可能にするエステルに関する新規な使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明によれば、請求項1に記載の低温用途における潤滑剤としての本発明によるエステルの使用が提案される。さらに、請求項9に記載の低温潤滑剤組成物が提案される。前記使用および組成物の有利なさらなる実施態様は、それぞれの従属請求項に記載される。それらは、文脈が明確に反対のことを示していない限り、任意に組み合わせることができる。
【0012】
本発明によれば、低温用途における潤滑剤として、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールまたは-ジメタノールと脂肪族C2~C18モノカルボン酸とのエステルが使用される。驚くべきことに、上記のTCDモノエステルおよびジエステルの群が、より低い温度でも作動される用途における潤滑剤としての使用に特に適していることが見出された。特に、前記エステルは、広い温度範囲にわたって、特に非常に低い温度でも、特に好適なレオロジー特性および熱特性を有する。これらのエステルは、特に低い凝固点を示し、温度の関数として粘度のわずかな変化のみを示す。さらに、本発明に従って使用できるエステルは、全体として十分に高い粘度を提供することができ、その結果、高温および低温範囲における困難な環境条件においてさえも、潤滑剤膜の引き剥がれが予期されない。これらの粘度特性は、冷凍用圧縮機または一般的に機械式エンジンまたは伝動装置のメンテナンスコストの低下に寄与し、機械パーツの寿命の延長に寄与することができる。さらに別の利点として、本発明による潤滑剤は化学的に非常に安定であることを挙げることができる。
【0013】
本発明によるエステルの群は、低温用途における潤滑剤として使用することができる。潤滑剤とも呼ばれる潤滑物質は、潤滑化のために使用され、機械的可動部品間の摩擦および摩耗を低減する役割を果たす。この場合、可動部品は、エンジンまたは伝動装置または類似の可動機械構造の機械的構成要素である。低温用途には、例えば、冷凍システムまたは冷凍機が含まれ、これらは、圧縮機により、より冷たいさらに冷却すべき場所の熱エネルギーをより暖かい周囲に運ぶ。従って、冷凍システムの目的は、システムの特定の領域を、周囲温度未満の温度に冷却することである。当該用途は、低温用途であり、そこでは、用途に必要な潤滑化される機械部品が、少なくとも一時的に、0℃以下、好ましくは-20℃未満の温度で、さらに好ましくは-40℃で運転されるように設計される。
【0014】
エステルの本発明に従う使用は、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールまたはオクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-ジメタノールと脂肪族C2~C18モノカルボン酸とのエステルに基づくことができる。従って、本発明におけるエステルのアルコール成分として、以下の構造式に従うオクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノール(TCD M)
【0015】
【化1】
またはその対応するジアルコール誘導体であるオクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメタノール(TCD DM)
【0016】
【化2】
を使用することができる。略語TCDは、トリシクロデカン(TriCycloDecane)を表す。従って、エステル化に使用されるTCD基本骨格に応じて、TCD Mの場合にはモノエステルを、またはTCD DMの使用の場合にはジエステルを形成することができる。さらに、TCD DM中のアルコール基の位置に関して具体的な記述がないことにより、TCD DMの基本骨格に関して、異なる構造異性体が存在し得ることが明らかである。
【0017】
本発明によるエステルは、基本骨格としての上記アルコールと脂肪族C2~C18モノカルボン酸とから得られ、これは基本骨格の1つまたは存在する場合には2つのアルコール基と、エステル化合物(R’-CO-OR)を形成した。従って、以下のエステル基本構造は本発明における使用に適し得る:
【0018】
【化3】
モノカルボン酸の脂肪族残基RおよびR’は、アルキル鎖に2~18個の炭素原子を有することができ(カルボン酸基の炭素原子を含めて)、例えばエタン-、プロパン-、ブタン-、ペンタン-、ヘキサン-、ヘプタン-、およびオクタデカンまでのそれらの同族の代表物質の群から選択することができる。従って、この同族系列のカルボン酸代表物質をエステル化に使用することができる。本発明において使用できるカルボン酸は、分岐状であっても、または非分岐状であってもよい。本発明によらないカルボン酸は、特に、1超のカルボン酸基を有するポリカルボン酸、環状のおよび芳香族のまたは不飽和のアルケン-またはアルキンカルボン酸である。
【0019】
前記使用の好ましい実施形態において、モノカルボン酸は、直鎖状または分岐状C2~C9モノカルボン酸またはそれらのうちの混合物からなる群から選択することができる。特に、対応する短鎖モノカルボン酸の短鎖脂肪族鎖を有するTCDエステルが、潤滑剤用途のために特に適切であり得る。とりわけ、これらのカルボン酸からのエステルは、低い凝固点、ならびに広い温度範囲にわたる十分な粘度を有することができる。凝固点の記述のために、さらに本願では、潤滑剤がかろうじて流動性である温度、すなわちエステルの凝固の直前の温度を表す流動点を参照する。これらのエステルの凝固点は、とりわけ、-35℃未満、好ましくは-50℃未満、さらに好ましくは-70℃未満であり得る。特に好ましい粘度特性は、例えば、エステルのこの群が好ましい粘度指数を有することにあり得る。例えば、この群のエステルの粘度指数は、好ましくは40超、さらに好ましくは50超、さらに好ましくは70超であることができる。さらに、この群のエステルは、良好な潤滑化特性が高い温度でも、非常に低い温度に至っても保持されることを特徴とする。
【0020】
前記使用の好ましい実施形態では、前記モノカルボン酸は、直鎖状モノカルボン酸の群から選択することができる。驚くべきことに、本発明による直鎖状モノカルボン酸からのエステルは、特により低い凝固点を有し得ることが見出された。特に、これらのエステルの凝固点は、分岐状モノカルボン酸から得られたエステルの凝固点よりも大幅に低いことができる。さらに、これらのエステルはまた、改善された粘度特性を有することができる。従って、例えば、これらのモノカルボン酸のエステルの粘度指数は、分岐状モノカルボン酸から得られたエステルの粘度指数よりも大幅に高いことができる。
【0021】
前記使用の好ましい態様内において、前記モノカルボン酸は、奇数の炭素数を有するモノカルボン酸の群から選択され得る。特に、脂肪族鎖中に奇数の炭素数を有するモノカルボン酸とのエステルの凝固点は、特に好適な潤滑化特性を示し得る。例えば、これらのエステルの凝固点は、偶数の炭素数を有する脂肪族鎖を有するモノカルボン酸からのエステルの凝固点よりも大幅に低いことができる。
【0022】
前記使用の好ましい態様の範囲内において、前記モノカルボン酸は、C5~C9モノカルボン酸の群から選択され得る。TCDおよび中程度の炭素数を有するモノカルボン酸からのエステルの群は、潤滑剤が特に低い温度でのみ凝固するということに寄与し得る。さらに、これらのエステルは、特に好適な粘度指数を有することができ、これらの化合物の粘度指数は、好ましくは70超であり得る。これらの物理的および流動学的特性は、より低い温度で改善された潤滑化特性を得ることに寄与し得る。
【0023】
前記使用のさらに好ましい特性において、前記モノカルボン酸は、奇数の炭素数を有する直鎖状のC5~C9モノカルボン酸の群から選択され得る。特に、5、7または9個の炭素原子を有する炭素鎖を有する脂肪族モノカルボン酸は、TCDに対するエステル成分として、特に好適な潤滑剤をもたらし得る。これらのモノカルボン酸は、TCDモノアルコールまたはジオールのいずれかと、特に低い凝固点を有するエステルをもたらすことができる。これらのエステルは、さらに、1g/cm3を超える値を有する好適な密度を有することもできる。さらに、中程度の炭素数を有するモノカルボン酸からのこれらのエステルは、特に好適な高い粘度指数を有することができる。
【0024】
前記使用の好ましい実施形態において、前記エステルは、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールのエステルであってよい。特に、冷凍システムまたは他の低温用途のための潤滑剤の分野において、1つだけのアルコール基を有するTCDのエステルが特に適していることが判明した。これらのエステルは、-70℃未満の特に低い凝固点を有することができる。さらに、これらのエステルは、特に適切な粘度プロファイルを示すことができ、これらのエステルの粘度指数は、100以上の範囲にあることができる。これらの特性は、冷凍システム、エンジン、伝動装置またはタービンが、マイナスの温度であっても、特に少ないメンテナンスでおよび長い寿命で作動できることをもたらし得る。
【0025】
前記使用のさらなる好ましい実施形態内において、前記エステルは、奇数の炭素数を有する直鎖状C5~C9モノカルボン酸のエステルであり得る。特に、中程度の炭素数を有する直鎖状モノカルボン酸とのTCDのモノエステルは、特に好適な潤滑剤をもたらすことができる。特に、この群のエステルは、非常に低い凝固点および高い粘度指数を有することができる。さらに、これらのエステルは、特に好適な低い固有粘度(Grundviskositaet)を有し、これは、非常に低い温度でさえもエステルの絶対粘度が高すぎないことをもたらす。非常に冷たい温度でさえも、十分に低い粘度の潤滑剤膜が形成され、これは、機械部品を摩耗から非常に良好に保護することができる。
【0026】
さらに、本発明は、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールまたは-ジメタノールと脂肪族の直鎖状または分岐状C2~C9モノカルボン酸またはこれらのモノカルボン酸の混合物とのエステルを70重量%以上かつ100重量%以下で含む低温潤滑剤組成物に関する。同様に、本発明は、高い重量割合の本発明において使用可能なエステルを有する低温潤滑剤組成物に関する。これらの潤滑剤組成物は、広い温度範囲にわたって使用することができ、適切な粘度を有し、非常に低い温度でのみ凝固する。この広い温度適用範囲に加えて、これらの潤滑剤は、とりわけ、低温で好適な粘性特性を示し、その結果、冷却システムの機械部品は、非常に低い温度で持続的に使用される場合でさえも、摩耗に対して非常に効果的に保護され得る。さらに、潤滑剤組成物は、化学的に極めて安定であり、その結果、不利な作動条件においてさえ、わずかな程度の潤滑剤の化学的分解が生じるだけである。本発明による潤滑剤組成物のさらなる利点については、潤滑剤エステルの本発明による使用の利点が詳細にわたって参照される。本発明に従って使用できるエステルに加えて、前記潤滑剤組成物はさらに、当業者に公知のさらに別の添加剤を有することができる。
【0027】
潤滑剤組成物の好ましい実施形態では、前記エステルは、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールと、奇数の炭素数を有する脂肪族の直鎖状C5~C9モノカルボン酸またはそれらの混合物とのエステルであり得る。上記群のモノカルボン酸とのTCDのモノエステルからの潤滑剤組成物は、冷凍用途に特に適した潤滑剤特性を有することができる。これらのエステルを有する潤滑剤は、特に好適な粘性および化学的特性、例えば非常に低い凝固点および低い温度においてさえも好適な粘度を有することができる。従って、これらの潤滑剤組成物は、広い温度範囲で運転することができ、冷凍機の改善された耐用年数をもたらし得る。前記潤滑剤組成物は、好ましくは、85重量%以上、さらには95重量%以上の、本発明に従って使用できるエステルからなることができる。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.低温用途における潤滑剤としての、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールまたは-ジメタノールと脂肪族C2~C18モノカルボン酸とのエステルの使用。
2.前記のモノカルボン酸が、直鎖状または分岐状C2~C9モノカルボン酸またはそれらからの混合物からなる群から選択される、上記1に記載の使用。
3.前記モノカルボン酸が、直鎖状モノカルボン酸の群から選択される、上記1または2に記載の使用。
4.前記モノカルボン酸が、奇数の炭素数を有するモノカルボン酸の群から選択される、上記1~3のいずれか1つに記載の使用。
5.前記モノカルボン酸が、C5~C9モノカルボン酸の群から選択される、上記1~4のいずれか1つに記載の使用。
6.前記モノカルボン酸が、奇数の炭素数を有する直鎖状C5~C9モノカルボン酸の群から選択される、上記1~5のいずれか1つに記載の使用。
7.前記エステルが、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールのエステルである、上記1~6のいずれか1つに記載の使用。
8.前記エステルが、奇数の炭素数を有する直鎖状C5~C9モノカルボン酸からのエステルである、上記7に記載の使用。
9.オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールまたは-ジメタノールと脂肪族の直鎖状または分岐状C2~C9モノカルボン酸またはこれらのモノカルボン酸の混合物とのエステルを70重量%以上かつ100重量%以下含む、低温潤滑剤組成物。
10.前記エステルが、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-メタノールと、奇数の炭素数を有する脂肪族の直鎖状C5~C9モノカルボン酸またはそれらの混合物とのエステルである、上記9に記載の潤滑剤組成物。
【0028】
本発明の対象のさらなる詳細、特徴および利点は、従属請求項、ならびに以下の説明、図面および関連の実施例から明らかとなる。図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、モノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としてのTCD M-エステルの凝固点の依存性に関するグラフを示す
【
図2】
図2は、モノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としてのTCD M-エステルの粘度指数の依存性に関するグラフを示す
【
図3】
図3は、モノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としてのTCD M-エステルの動粘性率の依存性に関するグラフを示す
【
図4】
図4は、モノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としてのTCD DM-エステルの凝固点の依存性に関するグラフを示す
【
図5】
図5は、モノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としてのTCD DM-エステルの粘度指数の依存性に関するグラフを示す
【
図6】
図6は、モノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としてのTCD DM-エステルの動粘性率の依存性に関するグラフを示す
【0030】
図1は、エステル形成に使用されたモノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としての、TCD M-エステルの凝固点(流動点)(℃)の依存性を示す。分岐状(三角形)または直鎖状(円)アルキル鎖を有するエステルについての結果を、別々に示す。凝固点の測定は、ASTM D 5950/D 5985に従って行った。-60℃未満の本発明によるモノエステルの凝固点が達成できることが明確に認められる。さらに、分岐状アルキル鎖を有するエステルと比較して、アルキル鎖中に同一の炭素数を有する非分岐状アルキル鎖を有するモノカルボン酸からのエステルは、より低い凝固点を与えることが分かる。これは、nC5-TCD M-エステルならびに2MBおよび3MBについての値を比較することによっても確認される。偶数の炭素数を有するカルボン酸からのエステルと比較して、モノエステルに関して、アルキル鎖中に奇数の炭素数を有するエステルは、より低い凝固点を有する。
【0031】
図2は、エステル形成に使用されたモノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としての、TCD M-エステルの粘度指数の依存性を示す。分岐状(三角形)または直鎖状(円)アルキル鎖を有するエステルについての結果を、別々に示す。粘度指数はASTM D 2270から明らかになる。本発明によるモノエステルの粘度指数は40を超えることが明確に認められる。さらに、非分岐状アルキル鎖を有するエステルと比較して、アルキル鎖中に同一の炭素数を有する分岐状アルキル鎖を有するモノカルボン酸からのエステルは、より低い粘度指数を与えることが分かる。偶数の炭素数を有するカルボン酸からのエステルと比較して、モノエステルに関して、アルキル鎖中に奇数の炭素数を有するエステルは、より高い粘度指数を有する。
【0032】
図3は、エステル形成に使用されたモノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としての、TCD DM-エステルの20℃での動粘性率の依存性を示す。分岐状(三角形)または直鎖状(円)アルキル鎖を有するエステルについての結果を、別々に示す。異なる温度での動粘性率は、ASTM D 445に従って得られた。本発明によるモノエステルの動粘性率が約10mm
2/sを超えることが明確に認められる。さらに、非分岐状アルキル鎖を有するエステルと比較して、アルキル鎖中に同一の炭素数を有する分岐状アルキル鎖を有するモノカルボン酸からのエステルは、より高い動粘性率を与えることが分かる。さらに、動粘性率の増加は、n-アルキルエステルに関する粘度の増加よりも大きい。炭素数5のデータ点については、2つの異なる立体異性体を測定した(MB、すなわちメチル酪酸を有するTCD DM-2MB-エステルおよびTCD DM-3MB-エステル)。
【0033】
図4は、エステル形成に使用されたモノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としての、TCD DM-エステルの凝固点(流動点)(℃)の依存性を示す。分岐状(三角形)または直鎖状(円)アルキル鎖を有するエステルについての結果を、別々に示す。-40℃未満の本発明によるジエステルの凝固点が達成できることが明確に認められる。さらに、分岐状アルキル鎖を有するエステルと比較して、アルキル鎖中に同一の炭素数を有する非分岐状アルキル鎖を有するモノカルボン酸からのエステルは、より低い凝固点を与えることが分かる(例えばC4)。偶数の炭素数を有するカルボン酸からのエステルと比較して、ジエステルに関して、アルキル鎖中に奇数の炭素数を有するエステルは、より低い凝固点を有する。
【0034】
図5は、エステル形成に使用されたモノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としての、TCD DM-エステルの粘度指数の依存性を示す。分岐状(三角形)または直鎖状(円)アルキル鎖を有するエステルについての結果を、別々に示す。本発明によるジエステルの粘度指数は20を超えることが明確に認められる。さらに、非分岐状アルキル鎖を有するエステルと比較して、アルキル鎖中に同一の炭素数を有する分岐状アルキル鎖を有するモノカルボン酸からのエステルは、より低い粘度指数を与えることが分かる。偶数の炭素数を有するカルボン酸からのエステルと比較して、ジエステルに関して、アルキル鎖中に奇数の炭素数を有するエステルは、より高い粘度指数を有する。
【0035】
図6は、エステル形成に使用されたモノカルボン酸のアルキル鎖中の炭素数の関数としての、TCD DM-エステルの20℃での動粘性率の依存性を示す。分岐状(三角形)または直鎖状(円)アルキル鎖を有するエステルについての結果を、別々に示す。本発明によるジエステルの動粘性率が約50mm
2/sを超えることが明確に認められる。さらに、非分岐状アルキル鎖を有するエステルと比較して、アルキル鎖中に同一の炭素数を有する分岐状アルキル鎖を有するモノカルボン酸からのエステルは、より低い動粘性率を与えることが分かる。i-アルキルエステルの動粘性率の増加は、n-アルキルエステルに関する粘度の増加よりも大きい。炭素数5のデータ点については、2つの異なる立体異性体を測定した(MB、すなわちメチル酪酸を有するTCD DM-2MB-エステルおよびTCD DM-3MB-エステル)。
【0036】
エステルの製造
エステルは次のように製造した:
1.理論的な水の除去に到達するまでの、10%モルの酸過剰でのアルコールと酸とのエステル化。チタンイソプロポキシドを触媒として使用した(ジオール1モル当たり0.45mmol)。反応において、トルエン(TCDアルコールを基準として40重量%)を水添加溶剤(Wasserschlepper)として使用した。エステル化においてより高い温度を達成するために、トルエンの添加は省略することができる。
2.真空における過剰の酸を除去するためのメインストリッピング(Main-Strip);
3.触媒の分解のためおよび脱色のための活性炭を用いた水蒸気ストリッピング(Steam-Strip)、後続の乾燥を伴う;
4.任意選択的な、酸価の低下のためのNaOHでの中和、および後続の乾燥。