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特許7416967底部に埋め込まれた金属メッシュを備える調理器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】底部に埋め込まれた金属メッシュを備える調理器具
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A47J27/00 101B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022550780
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(86)【国際出願番号】 US2021019418
(87)【国際公開番号】W WO2021173672
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】62/980,719
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512054182
【氏名又は名称】マイヤー インテレクチュアル プロパティーズ リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】518299806
【氏名又は名称】チェン,スタンリー,キン スイ
(73)【特許権者】
【識別番号】522332777
【氏名又は名称】タレンガ,ロベルト
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン,スタンリー,キン スイ
(72)【発明者】
【氏名】タレンガ,ロベルト
【審査官】高橋 武大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/142151(WO,A1)
【文献】特開平05-091950(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10252157(DE,A1)
【文献】特開平07-289439(JP,A)
【文献】特開平10-179383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00、36/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.実質的に水平で、内部底面および前記内部底面の反対側の外部底面を有する底部と、
b.前記底部から上方に延び、前記底部を取り囲んで流体保持内部領域を形成する実質的に直立した側壁と、
c.前記外部底面に埋め込まれた、銅からなる第1の金属メッシュと、
d.前記外部底面、および、前記第1の金属メッシュの少なくとも一部に埋め込まれた、強磁性ステンレス鋼からなる第2の金属メッシュと、
を備え、
e.前記外部底面は、前記第1および第2の金属メッシュの露出部分と、前記第1および第2の金属メッシュ内の空間を通って延在する前記外部底面の部分とから本質的に構成され、前記第2の金属メッシュは少なくとも部分的に前記第1の金属メッシュに埋め込まれている、調理器具物品。
【請求項2】
前記第1および第2の金属メッシュ以外の容器が、実質的にアルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれかで形成され、酸化アルミニウム層で覆われた1つ以上の内面部分および外面部分を有する、請求項1に記載の調理器具物品。
【請求項3】
前記第1の金属メッシュが約0.5から約1mmの厚さを有し、前記第2の金属メッシュが前記第1の金属メッシュの厚さよりも小さい厚さを有する、請求項1に記載の調理器具物品。
【請求項4】
前記第1の金属メッシュまたは前記第2の金属メッシュの一方が、約0.5から約1mmの厚さを有する、請求項1に記載の調理器具物品。
【請求項5】
前記第1の金属メッシュまたは前記第2の金属メッシュの一方が、約3mmから約4mmの幅の開口部を有する、請求項に記載の調理器具物品。
【請求項6】
前記第1の金属メッシュまたは前記第2の金属メッシュの一方が、約0.5mmから約1mmの開口部の間の金属の幅を有する、請求項に記載の調理器具物品。
【請求項7】
前記第1の金属メッシュまたは前記第2の金属メッシュの一方が、約0.5mmから約1mmの開口部の間の金属の幅を有する、請求項に記載の調理器具物品。
【請求項8】
調理器具容器を形成するための方法であって、
a.アルミニウムディスクを用意するステップと、
b.強磁性ステンレス鋼のメッシュおよび銅のメッシュを用意するステップと、
c.前記アルミニウムディスクを深絞り加工して、流体を保持することができる容器であって、内部底面および外部底面を有する容器を形成するステップと、
d.前記銅のメッシュを前記容器の前記外部底面に少なくとも部分的に延在させるために、前記銅のメッシュを、前記アルミニウムディスクまたは前記容器の一方の一部に埋め込むステップと、
e.前記強磁性ステンレス鋼のメッシュを、前記銅のメッシュと、前記銅のメッシュの孔の間にある前記アルミニウムディスクの部分または前記容器の前記外部底面の部分の一方とに埋め込むステップと、
を含む、調理器具容器を形成するための方法。
【請求項9】
前記銅のメッシュおよび前記強磁性ステンレス鋼のメッシュは、前記容器の前記外部底面または前記アルミニウムディスクの中央部の一方に同時に埋め込まれる、請求項に記載の調理器具容器を形成するための方法。
【請求項10】
前記強磁性ステンレス鋼のメッシュを埋め込むステップにおいて、前記強磁性ステンレス鋼のメッシュが前記銅のメッシュの部分を少なくとも部分的に変形させる、請求項に記載の調理器具容器を形成するための方法。
【請求項11】
前記第2の金属メッシュが前記第1の金属メッシュに対して斜めになっている、請求項1に記載の調理器具物品。
【請求項12】
前記第2の金属メッシュが前記第1の金属メッシュと整列しており、前記第2の金属メッシュが前記第1の金属メッシュからオフセットしている、請求項1に記載の調理器具物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理器具に関し、特に、実質的にアルミニウム、アルミニウム合金で形成され、その両方が任意に陽極酸化されて硬いアルミナまたは酸化アルミニウムの表面を形成している鍋およびフライパンに関する。
【0002】
調理器具容器の多くの形態は、金属の組み合わせを利用するが、アルマイト調理器具は、一般にアルミニウムのみで形成されている。磁性鉄材料などの追加の金属により、アルマイト調理器具を誘導加熱源で使用することができ、誘導加熱源は、容器に熱を伝えるために高温の表面または炎を提供するのではなく、電磁放射のエネルギーの伝達により容器を直接加熱するものである。電磁波は、誘導加熱源の導電性コイルから発生し、金属の表皮層に入ると渦電流が発生し、調理器具容器の底に抵抗加熱を引き起こす。
【0003】
銅はアルミニウムよりも熱伝導率がかなり高いが、アルミニウムに組み込むには、調理器具容器を形成するために使用される板材に高度な加工を施す必要がある。
【0004】
アルマイト調理器具は、一般的に、IH調理のために接着された磁性金属の底部が必要であるが、アルマイト処理時に形成される非常に硬い酸化アルミニウムの外面により、傷をつけない仕上がりになるという利点を有する。このような調理器具には、誘導特性を提供するために他の金属も使用できるが、酸化アルミニウム皮膜を形成するために使用される酸性の陽極酸化溶液の攻撃性により、通常、底部に接着される追加の金属層をマスキングする追加の工程が必要とされる。
【0005】
したがって、本発明の第1の目的は、他の利点をもたらす追加の金属を組み込んだ内面および外面の酸化アルミニウムのハーネスおよび耐久性から実質的に利益を受けるアルマイト調理器具を提供することである。
【0006】
特に、調理器具が底面全体で均一に加熱されるように、横方向の熱伝導を高める銅層を設けること、また、調理器具をインダクションレンジで加熱できるように、磁性ステンレス鋼などの、磁性、すなわち強磁性合金を設けることを目的とする。
【0007】
本発明のさらなる目的は、最小限の追加製造工程とコストで、これらの利点の1つまたはいくつかを提供することである。
【発明の概要】
【0008】
本発明において、第1の目的は、内部底面および当該内部底面の反対側の外部底面を有する実質的に水平な底部と、底部から上方に延び、底部を包囲して流体保持内部領域を形成する実質的に直立の側壁と、を備え、第1の金属メッシュが外部底面に埋め込まれ、第2の金属メッシュが外部底面、および、第1の金属メッシュの少なくとも一部に埋め込まれる調理器具物品を提供することによって達成される。
【0010】
本発明の他の態様は、金属メッシュがステンレス鋼であり、一部が外部底面に露出していることを特徴とする。
【0011】
本発明の上記および他の目的、効果、特徴、ならびに利点は、添付の図面と併せてとらえたその実施形態の以下の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】外部底面の調理面に金属メッシュを埋め込んだ状態を示す反転した調理器具物品の透視図である。
図2図2A図2Fは、調理器具物品の外部底面の調理面に埋め込むことができる金属メッシュを形成する工程における平面図と側面立面図の組み合わせである。
図3】調理器具物品を形成するための工程を示すフローチャートである。
図4図4A図4Dは、図3のフローチャートの一部に対応する、調理器具容器が形成される前にメッシュを取り付けるまたは埋め込む方法の初期ステップを概略的に示す図である。
図5図5A図5Dは、図3のフローチャートの残りの部分に対応する調理器具容器の形成方法における残りのステップを模式的に示す図である。
図6】調理器具物品を形成するための代替工程のフローチャートである。
図7図7Aおよび図7Bは、図6のフローチャートにおける工程を模式的に示す図である。
図8】調理器具物品を形成するための代替工程のフローチャートである。
図9図9Aおよび図9Bは、図8のフローチャートにおける工程を模式的に示す図である。
図10図10Aおよび図10Bは、図10Cを含むフローチャートの一部における工程の代替セットを示す。
図11図11Aおよび図11Bは、調理器具容器が形成される際に、調理器具容器または平面金属シートに埋め込むために第1および第2のメッシュが配置される本発明の追加の代替実施形態の平面図であり、図11Cは、図11Aまたは図11Bに示されるように第1および第2のメッシュを配向させた後、埋込工程から得られる調理器具の概略断面立面図である。
図12図12Aは、調理器具容器が形成される際に、調理器具容器または平面金属シートに埋め込むための第1および第2のメッシュが配置された本発明の他の実施形態の概略平面図であり、図12Bは、埋込工程の前の図12Aの概略立面図であり、一方、図12Cは、各メッシュが工程においてどのように変形し得るかを示すための、埋込工程後の概略断面図である。
図13】本発明の異なる実施形態において水の加熱速度を決定するための試験方法を示す概略立面図である。
図14】加熱時間に対して図13のサーマルプローブによる温度測定値をプロットしたグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
同様の参照数字が様々な図において同様の構成要素を示す図1図14を参照すると、本明細書において一般に100と示される、埋め込まれた金属メッシュを備える新規かつ改良された陽極酸化調理器具容器が図示されている。
【0014】
本発明にしたがって、図1図5B図5D図7B図9Bおよび図13に示されるように、調理器具物品または調理器具容器100は、使用中に下向きになる外部底面101a、および、調理中に食材を支えるために上向きになる反対側の内部底面101bを備えるベースまたは底部101を有する。周囲壁102は、内部底面101bの周囲から実質的に直立して延び、流体を保持することができる容器を提供する。周囲壁102は、リム105で終端している。周囲壁の内面は102bと指定される一方、周囲壁の外面は102aと指定される。第1の金属メッシュ110は、外部底面101aに埋め込まれている。調理器具容器100は、実質的にアルミニウムの合金を含むアルミニウムで形成されてもよく、実質的に酸化アルミニウムからなる陽極酸化された外面を有していてもよい。内部底面101bは、成形工程の後に追加されるクラッド層または非粘着性コーティングなどの異なる金属の層であってもよい。また、調理器具物品100は、例えばクラッドメタルで形成して内部底面101bとしてステンレス層を設け、外部底面101aはアルミニウムまたはアルミニウム合金であってもよい。
【0015】
好ましい実施形態では、第2の金属メッシュ210もまた調理器具容器100の外部底面101aに埋め込まれ、第1の金属メッシュ110の中に入り第1の金属メッシュ110を変形させることができる。第2のメッシュ210は、外部底面101aと第1のメッシュ110の両方を変形させることが望まれる。これにより、第1のメッシュ110と第2のメッシュ210とが、密接に連結され、絡み合うことになる。
【0016】
第1メッシュ110または第2メッシュ210が強磁性合金である場合、調理器具容器を形成する例えばアルミニウムまたは非強磁性鋼またはステンレス鋼などの母材金属がそうでなくても、調理器具容器100を誘導調理できるようにするものである。強磁性合金は、インダクションコイルからのエネルギーの効果的なレシーバとなるために、少なくとも一部が外側外面にあり、他の導電性材料の層で覆われていないようにするべきである。
【0017】
アルミニウムは、インダクションレンジの渦電流によって加熱される強磁性ステンレス鋼などの埋め込まれたメッシュから上方への熱の良好な伝導体である。しかしながら、インダクションバーナーは、一般的に調理器具容器100の直径よりもはるかに小さい直径の小さなコイルを有するので、熱を横方向に拡げることも好ましい。調理器具容器100がインダクションコイル上で一次加熱する場合、側壁102に近い内部底面101bの縁部よりも中央部が先に熱くなることがある。
【0018】
アルミニウムまたはアルミニウム合金製の調理器具容器の外部底面101aに、まず銅のメッシュ110を埋め込んで、熱の横方向の伝導性を向上させることができることが発見された。その後、強磁性ステンレス鋼のメッシュ210を、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の調理器具容器の外部底面101aと、そこに埋め込まれた銅のメッシュ110の両方に埋め込むことができることも発見された。
【0019】
銅およびその多くの合金は、アルミニウム合金よりも硬いので、アルミニウム製の容器に第1のメッシュとして銅のメッシュ110を埋め込む際に、表面101aのアルミニウムの外層が銅のメッシュ110の開口部101を通して変形して押し付けられる。同様に、ステンレス鋼は、湿った銅合金よりも硬くて強いので、ステンレス鋼のメッシュを埋め込む過程で、銅のメッシュやベース101のアルミニウム金属も変形する可能性がある。
【0020】
その後、第2または強磁性ステンレス鋼のメッシュ210が銅のメッシュ110に埋め込まれると、インダクションコイルからの誘導渦電流によって強磁性ステンレス鋼のメッシュ210に熱が発生し、その熱は、埋込工程で形成された密接かつ複数の接触領域により、底部101のアルミニウムよりも銅のメッシュ110内で横方向に効率的に拡散すると考えられる。
【0021】
クラッドメタルやステンレス鋼の板の貼り付けなどを使用した、他のIH対応調理器具の方法と比較して、ステンレス鋼や銅金属の使用量が少なく、軽量で使用者が扱いやすい調理器具を実現した。
【0022】
図2A図2Fは、金属メッシュ110または210のいずれかが、平面金属シート20から開始することによって任意に形成されることを概略的に示している。図2Aに示すように、実質的に垂直なスリット21の列の重なり合った配列が、パンチング、エッチング、レーザー切断またはウォータージェット切断などによって、金属シートに形成される。次のステップである図2Bでは、こうして穿孔された金属メッシュ20がスリット軸に垂直な矢印201の方向に垂直に広げられ、図2Bおよび図2Eに平面視で示すように、スリット21が孔111を有する菱形面を形成して開口する。図2Cおよび図2Dは、図2Bに示すメッシュ110または210の直交する断面立面図であり、図2Fは、図2Eに平面視で示す展開されたメッシュの断面立面図である。しかしながら、エッチングプロセスによっても交差点におけるワイヤの溶接層によっても様々な有用な形態の金属メッシュを作製することができるので、本発明の様々な実施形態は、特定のプロセスによって形成された金属メッシュに限定されるものではない。
【0023】
メッシュ110または210の形成方法、および、メッシュ110の孔111(またはメッシュ210の孔211)の形状とは無関係に、メッシュは特定の厚み範囲および孔の間の間隔を有することが望ましい。
【0024】
メッシュの開口部111の幅が約3mmから約4mmで、これらの開口部の間の金属の幅が約0.5mmから約1mm、好ましくは約0.75mmである場合に、約0.5mmから1mmの厚さのステンレスのメッシュおよび銅のメッシュは、両方とも平面アルミニウムに上手く埋め込まれた。
【0025】
メッシュの開口部とメッシュの厚さの比率は、好ましくは約3:1~6:1、開口部の幅は約3から5mmであることに留意されたい。
【0026】
この比率では、メッシュの厚みと同程度の深さの範囲、0.5から5mm程度で、アルミニウム容器の底部に局所的な加工硬化が生じるようである。
【0027】
図3は、調理器具容器100を形成する位置方法のフローチャート、図中の工程フローチャートに対応する追加の実施形態であり、上述したいずれかの方法により、調理器具容器100の外部底面101aに第1メッシュ110が埋め込まれ、その後、第2メッシュ210が第1メッシュ110に埋め込まれる。第2のメッシュ210が第1のメッシュ110よりも硬く、圧縮時の降伏強度が高い場合、第1のメッシュ110は、第1のメッシュ110と第2のメッシュ210との間の領域で、調理器具容器100の外部底面101aの下の領域も変形させ得る追加の変形を受けることになる。第1のメッシュ110および第2のメッシュ210によるアルミニウムの底部101の補強は、容器の底部を補強して反りを防止し、寸法安定性を向上させると考えられる。しかしながら、例えばよく焼鈍されたシートのように、非常に成形しやすいアルミニウムまたはアルミニウム合金を使用して容器を形成することができる点で、さらなる利点があり得る。よく焼鈍されたシートは、より容易に複雑な形状に深絞り加工することができる。しかしながら、各メッシュを埋め込む工程は、例えば使用者が調理器具容器100を冷水で冷却したり、調理の段階で調理器具容器100に冷たい液体を加えたりすることによって、容器100が加熱されたり非一様に冷却されたりするときに、底部101が変形や反りに対してより強くなるように、他の柔らかいアルミニウムまたはアルミニウム合金をより強く加工させるものである。
【0028】
図4A図5Dは、図3のフローチャートに対応する調理器具容器100を形成する際の様々な段階を示す図である。
【0029】
図4A図4Dに示されるように、また図5A図5Dに示されるように、第1のメッシュ110および第2のメッシュ210の構成要素は、調理器具容器100を形成するために深絞りされる前に、金属10またはクラッドメタルの平面シートに取付または埋め込まれることができる。図4Aは、メッシュ110または210のいずれかを平面視で示している。メッシュ110および/または210のいずれかまたは両方の層は、スポット溶接、または、平面シート10に形成または加工されたポケットまたは溝401に配置するなどのプロセスによって、金属シート10の表面に取付けられることができる。図4Bは、メッシュ110および/または210の取付前のシート10を概略断面立面図で示している。図4Cは、図5Aに断面図で示される深絞り加工のステップの前に、メッシュ110および/または210が取付けられ、または埋め込まれた、反転されたプリフォーム130としての金属シート10を示す。プリフォーム130は、一般に、図4Dに平面視で図示されたディスクの形態である。
【0030】
図5Aに示すように、プリフォーム130(任意にクラッド層10cを含んでもよい)は、雄型510と雌型520の概ね嵌合した成形ダイの間で深絞りされ、このときプリフォーム130の周囲は矢印525でクランプされる。成形ダイ510および520は、内部底面101bにわずかな凸形状を与えるだけでなく、任意にリム105を成形することもできる。深絞りは、壁102のみを膨脹または成形するためのしごき用ダイと同様に、異なるダイを用いて1つまたは複数のステップで実施することができる。得られた調理器具容器100は、図5Bに断面図、図5Dに透視図、図5Cに底面図が示されている。
【0031】
第1のメッシュ110および第2のメッシュ210の構成要素は、図6のフローチャートのステップにしたがって、調理器具を形成するために深絞りされた後、金属またはクラッド金属に取付けられるかまたは埋め込まれることができる。図7Aは、深絞り、スピニングまたは鋳造などの任意のプロセスによって形成することができる容器100’の底部に挿入するために、メッシュ層110および210を下側ダイ520の上に配置した、同様の成形ダイの使用を示している。図7Bは、完成した容器100を断面図で示したものである。
【0032】
図8は、図4A図5Dに示すように深絞りの段階で銅のメッシュ110を埋め込むが、同様の成形ダイ510、520を用いて図9Aおよび図9Bに示すように第2のまたはステンレス鋼のメッシュ120を埋め込む別の代替実施形態のフローチャートである。下側成形ダイ520と、調理器具容器100の外部底面101aに既に埋め込まれているメッシュ110との間に、第2のメッシュ210のみを配置する。
【0033】
図10A図10Cのフローチャートは、銅のメッシュ110がアルミニウム調理器具本体100に埋め込まれた後、少なくとも外面が硬質アルマイト処理された調理器具本体100を提供するためのプロセスステップを示すものである。ステンレス鋼の第2のメッシュ210は、硬質陽極酸化の工程の後に埋め込むことができる。プロセスは、容器100’が形成された後に銅のメッシュ110を埋め込む図10Aの初期ステップ、または、平面シート10に銅のメッシュを埋め込んでから容器100を形成する図10Bのステップを代替案として展開することができる。
【0034】
次いで、容器400は、酸性浴中で高電流を印加する従来の方法によって陽極酸化することができ、これにより、表面の外側のアルミニウムスキンを硬くて耐久性のある酸化アルミニウム層に変換することができる。銅のメッシュの露出部分は、この陽極酸化プロセス中に少なくとも部分的に可溶性の銅の酸化物に劣化するが、劣化の速度は、陽極酸化プロセス中にアルミニウムを酸化アルミニウムに変換するのに要する時間に比べて、比較的小さい。したがって、銅のメッシュがもともと少なくとも約0.5mm、より好ましくは少なくとも約1mmの厚さを有する場合、銅のごく一部が酸化するのみである。陽極酸化工程の後に残る多孔質または軟質の銅酸化物は、その後の研磨工程によって容易に除去される。しかしながら、研磨工程では、アルミニウム容器から相当量の酸化アルミニウムは除去されない。その後、ステンレス鋼のメッシュは、外部底面101aを覆う酸化アルミニウムの中に入り込むことができる。調理器具容器100の内部は、内部を硬質陽極酸化することが望ましくなければ、この工程の間、任意にカバーまたはマスキングされる。
【0035】
陽極酸化処理後にステンレス鋼のメッシュ210を埋め込む範囲では、メッシュの開口部211の間のグリッド材の部分が比較的薄く、間隔が空いていること、および、メッシュ材210が陽極酸化アルミニウムと比較してかなり硬いことが重要である。
【0036】
メッシュの開口部211の幅が約3mmから約4mmで、これらの開口部の間の金属の幅が約0.5mmから約1mm、好ましくは約0.75mmである場合、約0.5から1mmの厚さのステンレス鋼のメッシュが陽極酸化アルミニウムに上手く埋め込まれた。
【0037】
調理器具を誘導熱源に適合させる他の方法と比較して、図3図6図8および図10の工程フローチャートに対応する追加の実施形態は、上述したいずれかの方法により調理器具容器の外部底面101aの底部に第1のメッシュ110を埋め込み、次に、第2のメッシュ210を第1のメッシュ110に埋め込む。第2のメッシュ210が第1のメッシュ110よりも硬く、圧縮時の降伏強度が高い場合、第1のメッシュ110は、第1のメッシュと第2のメッシュとの間の領域において、調理器具容器の底部をも変形させる追加の変形を受ける。
【0038】
銅およびその多くの合金は、アルミニウム合金よりも硬いので、銅はアルミニウム容器に第1のメッシュ110として埋め込むことができる。次に、または同時に、ステンレス鋼のメッシュ210を、銅のメッシュと、銅のメッシュのセグメントの間の調理器具容器の部分に埋め込むことができる。
【0039】
図11Aおよび図11Bは、調理器具容器100の外部底面101aの上に整列される第1のメッシュ110および第2のメッシュ210を概略平面図で表している。埋込時の第1のメッシュ110は、深絞り加工に好まれ得るより柔らかいアルミニウム合金を加工硬化させ、第1のまたは銅のメッシュ110で容器の底部を補強することができる。
【0040】
銅のメッシュ110は、ステンレス鋼のメッシュ210によって変形させられながら、メッシュの開口部から押し出されることによって、外部底面101aの下のアルミニウムをさらに加工硬化させるために、加工硬化するとともに、膨張する。このステップでは、銅のメッシュ110は、より硬いステンレス鋼のメッシュ120をその中に埋め込むことによって生じる変形によって、強度および剛性を高めるために加工硬化される。
【0041】
銅や銅の合金は、一般的にアルミニウムやアルミニウム合金、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高いので、渦電流によって直接加熱されるステンレス鋼のメッシュと銅の横方向のメッシュ網とを密接に接続することにより、調理器具の底部の横方向の熱伝達を強化し、一方で、アルミニウムの調理器具の底部は、容器内部の調理面への縦方向の熱伝達を提供すると考えられる。
【0042】
より好ましい実施形態では、銅のメッシュを底部に埋め込んだ後、ステンレス鋼のメッシュを、底部に埋め込み、銅のメッシュの間の底部の部分の中に入り込ませ、さらに銅のメッシュの中に入り込ませている。ステンレス鋼のメッシュと銅のメッシュを同時に埋め込むことが、工程を省く経済性からより好ましい。
【0043】
メッシュの変形と、異なる構成のメッシュを使用した調理器具容器の底部の加工硬化を、図11A図12Bに模式的に示す。これらの図において、第1のメッシュは、110と指定され、グリッド材1112の間にメッシュの開口部1111を有する。第2のメッシュは、210と指定され、グリッド材2112の間にメッシュの開口部2111を有する。埋込後のメッシュの形状は、図11Cおよび図12Cの断面図において、1112’または2112’と指定される。また、図11Cにおいて、変形したメッシュは、埋込工程の潜在的な結果を指定するために、末尾のサフィックスa、bまたはcで指定される。
【0044】
図11Aおよび図11Bは、第1のメッシュ110または第2のメッシュ210の硬度および降伏強度に対して弱いメッシュが、開口部の直径に対するグリッド材の幅のアスペクト比が同じでより広いグリッド材1112を有するとして図示している。メッシュ110および210は、図11Aのように整列させることも、図11Bに示すように斜めにすることもできる。整列させるということは、メッシュのセグメントが平行方向に走るように整列させることを意味する。各メッシュの他方に対する整列および間隔を変化させて、調理器具容器100の外部底面101aに異なる装飾パターンを形成することができる。
【0045】
図11A図11Cから、調理器具の底部またはベース101のいくつかの領域では、第1のメッシュ110および第2のメッシュ210は、外部底面101a、および、第2のメッシュ210が埋め込まれていない第1のメッシュのためのケース(表面)1112’cに直接埋め込まれることを理解されたい。他の領域では、1112’aが埋め込まれている第1のメッシュ領域は、その上に埋め込まれたメッシュ2112’aを有する。これらの状態は、図11Cにおいて、異なる領域で、断面図で模式的に示されている。図11Cの中央では、より硬いステンレス鋼のまたは第2のメッシュセグメント2112’bが埋め込まれているが、それ自体は変形していない。右端では、銅のメッシュ1112’cの第2のおよびより大きなセグメントは、アルミニウムの底部の中に入り込む(貫通する)際にわずかに変形する可能性がある。これらの図は、予想される材料の変形の範囲を説明するための概略図であり、特定の合金および前処理条件によって異なる。
【0046】
左端では、銅のメッシュ1112’aの変形は、アルミニウムの底部101の中に入り込む(貫通する)際に最初に変形し、その後、ステンレス鋼のメッシュのセグメント2112’aが上から中に入り込む際に、2回目の変形が生じるので、最大となっている。これは、メッシュ210または110のいずれかが中に入ったアルミニウム基板またはベース101の領域が変位しなければならないので、孔1111および2111上のベースの部分が上方に押し出され、表面101aにおける底部101の表面形状を乱すことによって生じる。しかしながら、このより硬くて強いメッシュの間における変形や上方への押出は、アルミニウムのベースまたは底部101を容易に加工硬化させるという利点がある。
【0047】
金属の平面シート10から容器100を形成する絞り工程では、シートが合金組成または熱処理に基づいて比較的延性であり、深絞り時に降伏して破れないことが好ましいことが理解されるべきである。深絞り加工は、容器の側壁を変形させるが、底部は平坦なままであり、この工程で変形しない。そのため、硬度が低く、いずれかの方法による加工硬化や他の補強をしないと反りが大きくなる可能性がある。
【0048】
調理器具の底部が柔らかくなった結果、金属が比較的薄い場合や調理器具の冷却または加熱にムラがある場合、成形金型本来の形状から反ってしまうことが問題となる。
【0049】
図12A図12Cは、アルミニウムのベース101の表面変形と加工硬化をより多く提供する別の実施形態を示す図である。第1のメッシュ110および第2のメッシュ210は、ほぼ同じグリッド材の幅を有し、開口部1111、2111の直径に対するグリッド材の幅のアスペクト比がほぼ同じである。メッシュ110および120は、整列しており、すなわち向きが斜めになっているのではなく、オフセットしている。これにより、各開口部の4辺上のメッシュ110の各セグメントは、直交する方向に交差する第2のメッシュ210のセグメントを有する。図12Aの断面線B-Bとそれに対応する断面図を考慮すると、メッシュが重なっていない領域がまだ存在する。しかしながら、表面上の完全にメッシュのない領域がより小さく、より広いピッチで配置されていることを考えると、これらの領域において、アルミニウムの押出および加工硬化がより多く発生する可能性がある。図12Cは、ステンレス鋼のメッシュ210が中に入って銅のメッシュ110が平らになっているオーバーラップ領域における最も激しい変形の断面図である。埋込工程により、押し出されたアルミニウムは、第1のメッシュ110の孔1111の間から上方に押し出されるように内側に押し込まれる。外部底面101aは、図11Cに示されるように、より小さいステンレス鋼のメッシュ210と比較して、工程でより歪んだ状態になる。
【0050】
また、図11Cから、ステンレス鋼のメッシュ210は、銅のメッシュ100と同様の厚さであるが、それを完全に通過するのではなく、変形を受けた後に銅のメッシュ210によって囲まれるチャネルをその内部に形成することができることに留意されたい。ステンレス鋼のメッシュ210の少なくとも一部と銅のメッシュ110とのこの即時かつ密接な接触は、インダクションコイルの領域から側壁102に隣接する調理器具容器100の縁部へ熱を横方向に拡げるための、銅のメッシュ210へのより方向性のある熱伝達を導く可能性がある。
【0051】
ベース101の基板と銅のまたは第1のメッシュ110の変形は、外部底面101aの下の基板またはベース101の表面ゾーンを加工硬化させることを理解されたい。さらに、より強いステンレス鋼のメッシュ120が埋め込まれることで、銅のメッシュ110は、加工硬化されるとともに、その中に変形するより硬い鋼のメッシュに応じて変形する。この第2の変形または銅のメッシュ110はまた、外部底面101aの下の基板またはベース101の表面ゾーンの追加の加工硬化を提供する。この工程によって作製された調理器具容器100は、加熱された後の衝撃冷却によって引き起こされる反りの熱歪に対してより耐性があると考えられる。
【0052】
銅およびステンレス鋼の両方がアルミニウムおよびアルミニウム合金よりも重いので、メッシュを使用すると調理器具の重量が減少し、消費者がより大きな調理器具容器を使用することが容易になることを理解されたい。本発明の共埋込プロセスによって、ステンレス鋼の使用量が減少するが、アルミニウムの加工硬化は、容器が加熱されて底部が膨張するとき、または、調理器具容器100の反りにつながり得る急速かつ不均一な冷却時に、寸法安定性のために追加の鋼または銅を提供する必要性を低減することができる。
【0053】
図14は、図13で構成された容器100の中心部の水温上昇をプロットしたグラフ図である。銅のメッシュおよびステンレス鋼のメッシュを用いた場合、ステンレス鋼のメッシュのみと比較して、時間(Y軸)に対して水温(X軸)の上昇がほぼ同じであることが分かる。銅のメッシュは、強磁性体であるステンレス鋼のメッシュがインダクションコイルからエネルギーを受け取り、渦電流により発熱することを阻害しない。
【0054】
本発明を好ましい実施形態に関連して説明したが、本発明の範囲を定められた特定の形態に限定することを意味するものではなく、逆に、添付の請求項によって定義される本発明の主旨および範囲内にあり得るような代替物、修正物および等価物を対象とすることを意図するものである。
図1
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図14