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特許7417010癌免疫増強用のVIPR2アンタゴニストペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】癌免疫増強用のVIPR2アンタゴニストペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/12 20060101AFI20240110BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240110BHJP
   C07K 7/00 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
A61K38/12 ZNA
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 111
C07K7/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023542946
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2023013061
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2022057810
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】西山 成
(72)【発明者】
【氏名】キイッテイクウス ワララット
(72)【発明者】
【氏名】坂元 孝太郎
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/200259(WO,A1)
【文献】RAVINDRANATHAN, S. et al.,643 Vasoactive intestinal peptide as a novel immune checkpoint molecule in activated T cells.,J. Immunother. Cancer,2021年11月,Vol.9 Suppl.2,p.A672
【文献】FNU, T.P. et al.,Inhibition of Vasoactive Intestinal Peptide Signaling with More Potent Inhibitors Augments T-Cell Ac,Blood,2021年11月,Vol.136 Suppl.1,p.1868-1870
【文献】MAR, C. et al.,VIP impairs acquisition of the macrophage proinflammatory polarization profile.,J. Leukoc. Biol.,2016年12月,Vol.100 No.6,p.1385-1393
【文献】KITTIKULSUTH, W. et al.,Vasoactive intestinal peptide blockade suppresses tumor growth by regulating macrophage polarization,Sci. Rep.,2023年01月17日,Vol.13,Article number: 927
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/12
A61P 35/00
A61P 37/04
A61P 43/00
C07K 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
c[X-Pro-X-Tyr-Leu-Pro-c(X-X-Leu-Cys10]-X11)-X12-X13 (1)
(式中、Xは、システイン、又はMpa(3-メルカプトプロピオン酸)を表し、
が、プロリン、セリン、又はリジンを表し、
が、リジンを表し、
が、チロシン、又はアルギニンを表し、
11 が、アスパラギン酸を表し、
12及びX13が、それぞれ独立にロイシン、イソロイシン又はノルロイシンを表し、 がシステインの場合はN末端アミノ基がアセチル化され、C末端カルボキシ基がアミド化されている。)
で表されるアミノ酸配列からなる環状ペプチド、又は薬理学的に許容されるその塩を含む、癌免疫増強のための組成物であって、
前記癌免疫が、腫瘍関連マクロファージの腫瘍抑制分極(M1分極)を含み、M1/M2マクロファージ比を増加させるための当該組成物。
【請求項2】
が、プロリンであり、Xが、チロシンである、請求項1に記載の癌免疫増強のための組成物。
【請求項3】
前記環状ペプチドが配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載の癌免疫増強のための組成物。
【請求項4】
前記癌免疫が、固形癌の増殖を抑制することを含む請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、2022年3月31日に日本国において出願された特願2022-057810に基づき優先権を主張し、当該出願に記載された内容は、本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は癌免疫増強のための組成物に関し、より詳細には、癌免疫増強のためのVIPR2アンタゴニストペプチドを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
癌免疫増強のための薬剤として、主にT細胞(例えばCD8陽性T細胞)の活性化を促す免疫チェックポイント阻害剤が知られているが、その効果は大腸癌や膵臓癌などの固形癌に対しては十分とはいえない。その理由の一つは固形癌の腫瘍微小環境(TME)であり、T細胞の腫瘍内への浸潤のハードルとなっている。一方で腫瘍内まで浸潤する腫瘍関連マクロファージ(TAM)と癌の関係が近年注目されている。TAMは、サイトカインやケモカインを分泌する能力に応じて、M1様とM2様の表現型に分けられる。M1様TAMはクラスII主要組織適合性複合体(MHCII)を多く含み、抗原提示細胞として、癌に対するT細胞の機能を活性化する腫瘍抑制性のマクロファージである。しかし、腫瘍が進行すると、腫瘍細胞は多くのサイトカインを放出し、M2様TAMへの分極を促進する。すると、M2様TAMは抗炎症性のサイトカインや成長因子を放出し、腫瘍の成長を助ける。実際に臨床知見として、M2様TAMの増加は、患者の生存率の低下と関連していることが報告されている。さらに、腫瘍微小環境におけるM1/M2マクロファージの比率が高いことは、大腸癌患者の予後の改善と相関していることも報告されている。そのため、M2マクロファージをM1表現型に再分極させる治療法は、腫瘍治療に有益であると考えられる。
【0004】
26アミノ酸のペプチドである血管作動性腸管ペプチド(VIP)は、腫瘍細胞や免疫細胞から放出され、免疫機能を調節する役割を果たしている。VIPが強力な抗炎症性サイトカイン活性を持ち、炎症反応を抑制することはよく知られている。VIPは、その受容体であるVIPR1及びVIPR2(別名VPAC1及びVPAC2)を介して、マウスやヒトのマクロファージにおいて、LPS培養後に抗炎症性サイトカイン遺伝子の発現を活性化し、逆に炎症性サイトカイン遺伝子の発現を抑制する。また、ウイルス感染症やリンパ腫モデルにおいても、VIPシグナルを阻害することでCD8陽性T細胞の増殖と機能が促進され、良好な予後が得られることがいくつかの証拠によって示されている。しかし、腫瘍モデルにおけるマクロファージの分極と機能に対するVIPR1とVIPR2の役割については、まだ不明である。
【0005】
一方、本発明者らは、新規なVIPR2アンタゴニストペプチド群を見出し、これらについて開示している(非特許文献1及び特許文献1参照)。その中の代表的な二環性ペプチドであるKS-133(非特許文献2に開示。後述する実施例ではSeq-10(配列番号2)と称する。)は、精神疾患モデルマウスにおける認知機能の低下を抑制することも報告している(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sakamoto K et al.Biochem Biophys Res Commun(2018),503:1973-1979.
【文献】Sakamoto K et al.Frontiers in Pharmacology(2021),12:75158
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2021/200259号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、例えば、腫瘍関連マクロファージの分極と機能に対するVIPR2シグナルの役割とそのメカニズムを調べることにより、新規な癌免疫増強手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、VIPアンタゴニストが、少なくともVIPR2を介して、癌に対するマクロファージの機能を高める役割を果たしているという発見に基づき、創作された。すなわち、本発明は、VIPR2の機能を阻害することにより腫瘍関連マクロファージの腫瘍抑制分極(M1分極)を促進する手段を提供するものであり、具体的には以下の実施形態を含む。
【0010】
式(1):
c[X-Pro-X-Tyr-Leu-Pro-c(X-X-Leu-Cys10]-X11)-X12-X13 (1)
(式中、Xは、システイン、Mpa(3-メルカプトプロピオン酸)又はD体システインを表し、Xは、N-メチル化グリシン、N-メチル化アラニン、2-アゼチジン-2-カルボン酸、プロリン、ヒドロキシプロリン、3,4-デヒドロプロリン、ピペコリン酸、セリン又はリジンを表し、Xは、チロシン、プロリン又はアルギニンを表し、X及びX11は、リジンとアスパラギン酸、オルニチンとグルタミン酸、アスパラギン酸とリジン、グルタミン酸とオルニチン、リジンとグルタミン酸、又はグルタミン酸とリジンのいずれかの組み合わせを表し、X12及びX13は、それぞれ独立にロイシン、イソロイシン又はノルロイシンを表し、XとCys10は、それぞれの側鎖の間でジスルフィド結合を形成し、XとX11は、それぞれの側鎖の間でアミド結合を形成し、それによって式(1)のペプチドは分子内に2つの環状構造を有し、N末端アミノ基及びC末端カルボキシ基は、修飾されていても欠失していてもよい。)で表されるアミノ酸配列からなる環状ペプチド、その誘導体若しくは修飾体又は薬理学的に許容されるそれらの塩を含む、癌免疫増強のための組成物。
【0011】
上記式(1)の環状ペプチドにおいて、Xが、システインを表し、Xが、プロリン又はセリンを表し、Xが、リジンを表し、Xが、チロシンを表し、X11が、アスパラギン酸を表し、X12及びX13が、それぞれ独立にロイシン、イソロイシン又はノルロイシンを表し、N末端アミノ基がアセチル化され、C末端カルボキシ基がアミド化されていることが好ましい。
【0012】
当該組成物は、腫瘍関連マクロファージの腫瘍抑制分極(M1分極)を促進すること、すなわち、M1/M2マクロファージ比を増加させるために用いることが好ましく、固形癌、例えば、免疫チェックポイント阻害剤を用いて治療等を行おうとしている対象の癌(大腸癌など)の治療に用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組成物によれば、例えば、VIPR2の機能を阻害することにより腫瘍関連マクロファージの腫瘍抑制分極(M1分極)を促進し、新規な癌免疫増強の手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、マウス大腸癌細胞株CT26の培養上清(CT26-CM)がマウスのマクロファージであるRAW264.7細胞のM2マクロファージへの分極とVIPR1及びVIPR2(別名VPAC1及びVPAC2)の発現に与える影響を評価した結果である。(A)はM1マクロファージマーカー;(B)はM2マクロファージマーカー;(C)は免疫チェックポイントマーカー;(D)はVIPR1及びVIPR2の遺伝子発現(Relative gene expression:相対的遺伝子発現)をリアルタイムPCRで評価した結果である。(E)は対照培地又はCT26-CMで培養して4日目のRAW264.7細胞におけるVIPR1及びVIPR2のタンパク質発現レベルを示す代表的なウェスタンブロット画像である。
図2図2は、VIPR1及びVIPR2の両方に作用するアンタゴニストが、CT26-CMで培養したRAW264.7細胞の分極に与える影響を評価した結果である。(A)はM1マクロファージマーカー;(B)はM2マクロファージマーカー;(C)は免疫チェックポイントマーカーの相対的遺伝子発現(Relative gene expression)の結果である。(D)マクロファージの貪食作用;(E)マクロファージの貪食作用の%表記(Phagocytosis (% gate))である。
図3図3は、VIPR1及びVIPR2の両方に作用するアンタゴニストが、T細胞とB細胞を欠く免疫不全SCIDマウスにおいて、皮下に移植されたマウス大腸癌細胞株CT26の増殖を抑制することを示す結果である。(A)腫瘍の体積(Tumor volume);(B)M1マクロファージの存在率(M1 macrophage (%CD45))、(C)M2マクロファージの存在率(M2 macrophage (%CD45)、(D)NK細胞の存在率(NK cells (%CD45))、(E)M1/M2のTAM比率(M1/M2 ratio (normalized to control));(F)マクロファージの貪食作用(Phagocytosis (%CD45))である。
図4図4は、VIPR1及びVIPR2の両方に作用するアンタゴニストを単独又はマウス抗PD-1抗体と併用で皮下投与した時、T細胞とB細胞を欠く免疫不全SCIDマウスにおいて、皮下に移植されたマウス大腸癌細胞株CT26の増殖を抑制することを示す結果である。(A)腫瘍の体積(Tumor volume);(B)M1マクロファージ(M1 macrophade)の存在率、(C)M2マクロファージ(M2 macrophage)の存在率、(D)M1/M2のTAM比率(M1/M2 ratio (normalized to control))、(E)NK細胞(NK cells)存在率、(F)マクロファージの貪食作用(Phagocytosis (%CD45))である。
図5-1】図5-1は、VIPR1又はVIPR2の発現を各siRNAでノックダウンした時(A~C)のマクロファージの分極(Relative gene expression:相対的遺伝子発現)を示す結果である。
図5-2】図5-2は、VIPR1又はVIPR2の発現を各siRNAでノックダウンした時(D)又はVIPR2選択的なアゴニストであるBAY55-9837で活性化した時(E)のマクロファージの分極(Relative gene expression:相対的遺伝子発現)を示す結果である。
図6図6は、腫瘍関連マクロファージが腫瘍間質に存在し,VIPR1よりもVIPR2の発現強度に相関して、その浸潤度合いが高いことがヒト大腸癌標本で確認された結果である。
図7図7は、対照群及びVIPハイブリッド群から分離した腫瘍浸潤性白血球(TIL)におけるPD-1マクロファージのフローサイトメトリー解析(n=4-5/群)の結果である。データは平均±SEMで表した。
図8図8は、VIPR2選択的なアンタゴニストKS-133が、CT26-CMで培養したRAW264.7細胞の分極に与える影響を評価した結果である。(A)はM1マクロファージマーカー;(B)はM2マクロファージマーカーの相対的遺伝子発現(Relative gene expression)である。
図9図9は、VIPR2選択的なアンタゴニストKS-133を単独又はマウス抗PD-1抗体と併用で皮下投与した時、Balb/cマウスにおいて、皮下に移植されたマウス大腸癌細胞株CT26の増殖を抑制することを示す結果である。グラフの縦軸は腫瘍の体積(Tumor volume)を、横軸は処置後日数(Days after Treatment)を示す。
図10図10は、KS-133の抗癌試験終了後に、各投与群のマウスから摘出した腫瘍の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
(定義)
本明細書においてペプチドは、2つ以上のアミノ酸がアミド結合(ペプチド結合)で結合しているものを指し、例えば2~20アミノ酸がアミド結合したものとすることができる。また、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシ末端)である。ペプチド結合を形成するカルボニル基に隣接する1番目の炭素原子をCα炭素と称する。
【0017】
本明細書において「任意のアミノ酸、又はその誘導体」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、非天然構造を有する人工のアミノ酸、アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物、さらに官能基を有するカルボン酸も含む。非天然アミノ酸の例として、D体アミノ酸、主鎖の構造が天然型と異なるα/α-二置換アミノ酸(2-アミノイソ酪酸といったα-メチル化アミノ酸など)、N-アルキル-アミノ酸(N-メチル化アミノ酸など)、N-置換グリシン(ペプトイド)、主鎖が伸長しているアミノ酸(βホモアミノ酸やγホモアミノ酸)、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(シクロヘキシルアラニンやアリルグリシンや2-(2-ピリジル)-グリシンや3-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-アラニンなど)、側鎖の一部が置換されているアミノ酸(ノルロイシンやジアミノプロパン酸や3-(2-ピリジル)-アラニンなど)、側鎖に余分の官能基を有するアミノ酸;側鎖に余分のCやアルキル基やメチル基を有するアミノ酸(ホモノルロイシンやγ-メチルロイシンなど)、側鎖にハロゲン原子(F、Cl、Br、I)を有するアミノ酸(3-クロロ-アラニンなど)、側鎖にハロゲン原子(F、Cl、Br、I)を有するカルボン酸(3-クロロプロパン酸など)、側鎖に官能基を有するカルボン酸(3-ブテン酸など)、側鎖に余分のNやアミノ基を有するアミノ酸(β-アジドアラニンやオルニチンなど)、側鎖に余分のOやメトキシ基を有するアミノ酸(O-メチル-セリンやO-メチル-スレオニンなど)、側鎖に余分のヒドロキシ基を有するアミノ酸(3-ヒドロキシ-フェニルアラニンなど)、側鎖に余分のカルボキシ基(-COOH)を有するアミノ酸(3-カルボキシ-フェニルアラニンなど)、側鎖に余分のSを有するアミノ酸(エチオニンなど)、側鎖中のカルボン酸官能基がエステルで保護されているアミノ酸(アスパラギン酸-4-メチルエステルなど)、側鎖のチオ基(-S-)が酸化されてスルフィニル基(-S(=O)-)やスルホニル基(-S(=O)-)に変換されているアミノ酸(メチオニンスルホキシド)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書において、「VIPR2」はマウス、ラット、イヌ、サル、ヒトなどの哺乳類のタンパク質、「血管作動性腸管ペプチド受容体2」を意味する。
【0019】
本明細書において、「癌免疫」は、典型的には、癌細胞(腫瘍細胞)に対する免疫機構を意味する。宿主の免疫機構は癌細胞を認識して、排除することが可能である。癌免疫には細胞障害性T細胞(CTL)や液性免疫などの獲得免疫系だけでなく、NK細胞やNKT細胞、マクロファージ、顆粒球などの自然免疫も関与しており、癌の成長を抑制できることが知られている。好ましい実施形態における「癌免疫」には、腫瘍関連マクロファージ(TAM)の制御が挙げられる。マクロファージは食細胞の1つで骨髄や末梢血に由来し、侵入した病原微生物や異常細胞を貪食して退治するが、癌微小環境にいるマクロファージはその環境で性質が変わり、宿主免疫を活性化して抗腫瘍活性を有するM1型マクロファージと、免疫や炎症の抑制や創傷治癒、組織リモデリング、血管新生、腫瘍成長促進等の機能を有するM2型マクロファージに分極している。M1型とM2型は決定的なものでなく、サイトカイン(細胞間の情報伝達ホルモンのようなもの)などの刺激で移行しあうことが分かっている。本実施形態の癌免疫は、M2型からM1型へのマクロファージ分極を促進することが好ましい。ある特定の実施形態では、M1マクロファージは、M2マクロファージと比較して、INFγ、IL-12、IL-23、TNFα、IL-6、IL-1、CSCL9、CXCL10及びCXCL11からなる群から選択される炎症性サイトカイン及びケモカインの増加した分泌を呈する。ある特定の実施形態では、M1マクロファージは、M2マクロファージと比較して、IL-10、TGFβ、PGE2、CCL2、CCL17、CCL18、CCL22及びCCL24からなる群から選択される免疫抑制性サイトカイン及びケモカインの減少した分泌を呈する。ある特定の実施形態では、M1マクロファージは、M2マクロファージと比較して、増加した腫瘍関連抗原を発現する。ある特定の実施形態では、M1マクロファージは、M2マクロファージと比較して、CD8T細胞及び/又はNK細胞の刺激を増加させる。
【0020】
(環状ペプチド)
本発明の1つの有効成分である環状ペプチドは特許文献1に開示されており、その内容は全て参照により本願に組み込まれるものとする。特許文献1に開示されたペプチドは、非特許文献1に開示されたVIpep-3のVIPR2結合活性にかかわる特徴(ファーマコフォア)を維持又は増強しつつ、二環状化により安定化されたものである。これらの文献に開示されたペプチドはいずれも本発明の新規用途に用いることが可能である。
【0021】
これらの環状ペプチドの中でも、癌免疫増強のために特に適した実施形態の環状ペプチドは、下記式(1):
c[X-Pro-X-Tyr-Leu-Pro-c(X-X-Leu-Cys10]-X11)-X12-X13 (1)で表されるアミノ酸配列からなる。
式(1)において、Xは、システイン、Mpa(3-メルカプトプロピオン酸)又はD体システインを表し、Xは、N-メチル化グリシン、N-メチル化アラニン、2-アゼチジン-2-カルボン酸、プロリン、ヒドロキシプロリン、3,4-デヒドロプロリン、ピペコリン酸、セリン又はリジンを表し、Xは、チロシン、プロリン又はアルギニンを表し、X及びX11は、リジンとアスパラギン酸、オルニチンとグルタミン酸、アスパラギン酸とリジン、グルタミン酸とオルニチン、リジンとグルタミン酸、又はグルタミン酸とリジンのいずれかの組み合わせを表し、X12及びX13は、それぞれ独立にロイシン、イソロイシン又はノルロイシンを表し、XとCys10は、それぞれの側鎖の間でジスルフィド結合を形成し、XとX11は、それぞれの側鎖の間でアミド結合を形成し、それによって式(1)のペプチドは分子内に2つの環状構造を有し、N末端アミノ基及びC末端カルボキシ基は、修飾されていても欠失していてもよい。
【0022】
さらに好ましい実施形態の環状ペプチドは、上記式(1)において、Xが、システインを表し、Xが、プロリン又はセリンを表し、Xが、リジンを表し、Xが、チロシンを表し、X11が、アスパラギン酸を表し、そして、X12及びX13が、それぞれ独立にロイシン、イソロイシン又はノルロイシンを表す。N末端アミノ基はアセチル化され、C末端カルボキシ基はアミド化されている。
【0023】
上記式(1)に含まれる個々の環状ペプチドとしては、例えば、以下のような例を挙げることができる。
c(Mpa-Pro-Pro-Tyr-Leu-Pro-c[Lys-Tyr-Leu-Cys)-Asp]-Leu-Ile-NH(配列番号1)
Ac-c[Cys-Pro-Pro-Tyr-Leu-Pro-c(Lys-Tyr-Leu-Cys10]-Asp11)-Leu12-Ile13-NH(配列番号2)及び特許文献1の段落0056から段落0059に記載されたペプチドである。
【0024】
本発明に係るペプチドは、上記式(1)で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換された相同性を有するペプチドであっても、VIPR2に対する結合活性を有するものは包含する。本明細書において、「1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換されているペプチド」という場合、それらのアミノ酸の個数は、そのペプチドがVIPR2結合活性を有する限りは特に限定されないが、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1個若しくは2個である。欠失、付加、及び/又は置換されている場所は、ペプチドの末端であっても、中間であってもよく、1ヶ所であっても2ヶ所以上であってもよい。
【0025】
このような上記アミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換されたアミノ酸配列として、前記アミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の相同性を有しているものが挙げられる。
【0026】
本発明に係るペプチドは、本発明の課題を解決するものである限り、その種々の誘導体、及び/又は修飾体も包含する。係る誘導体としては、ペプチドの飽和脂肪鎖が不飽和脂肪鎖に置換されているもの、ペプチドの原子の一部が放射性または非放射性の同位体原子を含む他の原子に置換されているもの、ペプチドのアミド結合がチオアミド結合(-NH-C(=S)-)に置換されているもの、ペプチドのアミド結合がアルケン(-C=C-)に置換されているもの、ペプチドのアミド結合がアルキル(-C-C-)に置換されているもの、ペプチドのアミド結合がヒドロキシエチレン(-C(-OH)-C-)に置換されているもの、ペプチドのアミド結合がエステル(-O-C(=O)-)に置換されているもの、ペプチドのアミド結合がアルケン(-C=C-)に置換されているもの、ペプチドのアミド結合が(-C-NH-)に置換されているもの、又はペプチドのアミド結合が(-C(=O)-C-)に置換されているものなどが挙げられ、係る修飾体としては、ペプチドのα位炭素が二置換されているもの、ペプチドのアミド結合がN-アルキル化されているもの、ペプチドの官能基の一部がハロゲン化、シアノ化、ニトロ化、オキソ化、ヒドロキシ化、アミノ化、デアミノ化、デヒドロ化、アミド化、アセチル化、メトキシ化、プレニル化、アルキル化などの修飾を受けているもの(例えば、ペプチドのアミノ基の一部がアセチル化、ホルミル化、ミリストイル化、パルミトイル化、ピログルタミン酸化、アルキル化又はデアミノ化されているもの、ペプチドのカルボキシ基の一部がN-ピロリジニル化やN-ピペリジニル化されていたり、アミド(アミド、メチルアミド、エチルアミド、p-ニトロアニリド、β-ナフチルアミド等)やエステル(メチルエステル、エチルエステル、チオエステル等)になっているものなど)、ペプチドのSがスルホキシドS(=O)又はスルホンS(=O)になっているもの、ペプチドがケミカルリンカーを介して多量体化しているもの、ペプチドがビオチン標識化されているもの、ペプチドが蛍光標識化されているもの、ペプチドが発光標識化されているもの、さらにはアルキル鎖、ポリエチレングリコール、抗体、レクチン類、糖鎖、酵素、膜透過性ペプチド、低分子化合物、又はタンパク質のユビキチン化を誘導する分子などとペプチドを融合させたもの等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明に係るペプチドは、ペプチドの塩も包含する。ペプチドの塩としては、生理学的に許容される塩基や酸との塩が用いられ、例えば、無機酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸等)の付加塩、有機酸(p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、カルボン酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等)の付加塩、無機塩基(水酸化アンモニウム、又はアルカリ、若しくはアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩等)、アミノ酸の付加塩等が挙げられる。
【0028】
本発明に係るペプチドは、プロドラッグであってもよい。プロドラッグは、生体内における生理条件下で酵素や胃酸などによる反応によって本発明に係るペプチドに変換される化合物、すなわち酵素的に酸化、還元、加水分解などを起こして本発明に係るペプチドに変化する化合物、胃酸などにより加水分解などを起こして本発明に係るペプチドに変化する化合物をいう。
【0029】
本発明に係るペプチドのプロドラッグとしては、本発明に係るペプチドのアミノ基がアシル化、アルキル化またはリン酸化された化合物(例えば、本発明に係るペプチドのアミノ基がエイコサノイル化、アラニル化、ペンチルアミノカルボニル化、(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)メトキシカルボニル化、テトラヒドロフラニル化、ピロリジルメチル化、ピバロイルオキシメチル化、又はtert-ブチル化された化合物)、本発明に係るペプチドのヒドロキシ基がアシル化、アルキル化、リン酸化、又はホウ酸化された化合物(例えば、本発明に係るペプチドのヒドロキシ基がアセチル化、パルミトイル化、プロパノイル化、ピバロイル化、スクシニル化、フマリル化、アラニル化、又はジメチルアミノメチルカルボニル化された化合物)、本発明に係るペプチドのヒドロキシ基やカルボキシ基がエステル化、又はアミド化された化合物(例えば、本発明に係るペプチドのヒドロキシ基やカルボキシ基がC1-6アルキルエステル化、フェニルエステル化、カルボキシメチルエステル化、ジメチルアミノメチルエステル化、ピバロイルオキシメチルエステル化、エトキシカルボニルオキシエチルエステル化、フタリジルエステル化、(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)メチルエステル化、シクロヘキシルオキシカルボニルエチルエステル化、又はメチルアミド化された化合物)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの化合物は自体公知の方法によって本発明に係るペプチドから製造することができる。
【0030】
本発明に係るペプチドのプロドラッグは、広川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻分子設計163~198頁に記載されているような生理的条件で本発明に係るペプチドに変化するものであってもよい。
【0031】
本明細書において、プロドラッグは塩を形成していてもよく、係る塩としては、本発明に係るペプチドの塩として例示したものが挙げられる。
【0032】
本発明に係るペプチドは、結晶であってもよく、結晶形が単一であっても結晶形混合物であっても本発明に係るペプチド本発明に係るペプチドに包含される。結晶は、自体公知の結晶化法を適用して、結晶化することによって製造することができる。
【0033】
本発明に係るペプチドは、薬学的に許容され得る共結晶や共結晶塩であってもよい。ここで共結晶、又は共結晶塩とは、各々が異なる物理的特性(例えば、構造、融点、融解熱、吸湿性、溶解性及び安定性等)を持つ、室温で二種、又はそれ以上の独特な固体から構成される結晶性物質を意味する。共結晶、又は共結晶塩は、自体公知の共結晶化法に従い製造することができる。
【0034】
(環状ペプチドを含む組成物)
本発明の1つの有効成分としての環状ペプチド、その誘導体若しくは修飾体は、医薬、診断薬、研究用試薬として組成物の形態で使用することが可能である。組成物(例えば、医薬組成物)の投与形態は特に限定されず、経口的投与でも非経口的投与でもよい。非経口投与としては、例えば、経粘膜投与(経鼻、経口腔、経眼、経肺、経膣、又は経直腸投与)、注射投与(静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射等)、経皮投与等が挙げられる。組成物中のペプチドは、代謝及び排泄されやすい性質に鑑みて、各種の修飾を行うことができる。例えば、ペプチドにアルキル鎖、ポリエチレングリコール、又は糖鎖などを付加することで、血中滞留時間を長くする、抗原性を低下させることができる。また、ポリ乳酸・グリコール(PLGA)などの生体内分解性の高分子化合、多孔性ヒドロキシアパタイト、リポソーム、表面修飾リポソーム、不飽和脂肪酸で調製したエマルジョン、ナノパーティクル、ナノスフェア等を徐放化基剤として用い、これにペプチドを内包させてもよい。経皮投与する場合、弱い電流を皮膚表面に流して角質層を透過させることもできる(イオントフォレシス法)。
【0035】
上記の組成物は、有効成分をそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる担体、賦形剤、添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては、例えば、液剤(注射剤など)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤等が挙げられる。これらの製剤は、速放性製剤又は徐放性製剤等の放出制御製剤(徐放性マイクロカプセルなど)であってもよい。製剤化は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜使用し、常法により行うことができる。製剤化に用いられる成分の例としては、精製水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等の薬学的に許容される有機溶剤、動植物油、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コーンスターチ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラ癌ト、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、高級アルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン等が挙げられるが、これらに限定されない。ペプチドが経粘膜吸収されにくい場合は、難吸収性薬物の吸収を改善する吸収促進剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル類、ラウリル硫酸ナトリウム、サポニン等の界面活性剤;グリココール酸、デオキシコール酸、タウロコール酸等の胆汁酸塩;EDTA、サリチル酸類等のキレート剤;カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、混合ミセル等の脂肪酸類;エナミン誘導体、N-アシルコラーゲンペプチド、N-アシルアミノ酸、シクロデキストリン類、キトサン類、一酸化窒素供与体等を用いてもよい。
【0036】
丸剤又は錠剤は、糖衣、胃溶性、腸溶性物質で被覆することもできる。注射剤は、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、アルコール類等を含むことができる。さらに、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解剤、溶解補助剤、防腐剤等を加えることができる。必要に応じ、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量用いることもできる。
【0037】
本発明の組成物は、癌免疫増強作用を有することから、癌の治療に特に適している。特に腫瘍微小環境に存在する腫瘍関連マクロファージの集団がM2型に偏向している場合に、このマクロファージ集団をM1型に分極させるために用いることが好ましい。例えば、マクロファージのM1型への分極を生体外で行い、同M1型マクロファージを生体に戻してもよい。本明細書において「癌」とは、当技術分野でその一般的な意味を有し、全タイプの癌を意味する。癌の非限定的な例は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、肝臓癌、肺癌、膀胱癌、膵臓癌又は大腸癌、肉腫、リンパ腫、黒色腫、白血病、胚細胞癌及び芽細胞腫などの癌腫又は腺癌である。特に、癌は固形癌でも非固形癌でもよいが、癌微小環境の発達した固形癌が好ましく、中でも大腸癌が特に好ましい。
【0038】
本発明において、「癌免疫増強」は、例えば、癌に対して免疫による攻撃力を高めること、癌によってブレーキがかかった免疫の攻撃力を回復させること(免疫チェックポイント阻害療法など)、である。本発明の組成物において、当該更なる癌免疫増強を発揮させるために、本発明に係るペプチド以外にも、例えば免疫チェックポイント阻害薬などを更に併用等(組成物に含有することも含む)することもできる。免疫チェックポイント阻害剤は、例えば、PD-1阻害薬(ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)など)、CTLA-4阻害薬(イピリムマブ(ヤーボイ)など)、PD-L1阻害剤(アベルマブ(バベンチオ)、アテゾリズマブ(テセントリク)、アベルマブ(バベンチオ)など)、が挙げられる。
【0039】
本発明の組成物は、上記疾患に有用な各種の化学療法、外科的治療、放射線療法といった他の医薬や治療法と組み合わせて併用してもよい。
【0040】
本発明の組成物を哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル、ブタ等)、特にヒトに投与する場合の投与量は、症状、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば、30μg~1000mg、100μg~500mg、100μg~100mgを1回、又は数回に分けて投与することができる。
【0041】
以下に示す実施例は、単なる例示であって、上述した実施形態と共に本発明を詳細に説明することのみを意図しており、本発明を限定するものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、係る変更も本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0042】
(ペプチド合成)
本実施例に使用した全てのペプチドの化学合成は、株式会社スクラム(東京、日本)に委託し、9-フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)をαアミノ基の保護基として用いる標準的な固相合成法を自動合成機SyroII(Biotage社製)で実施した。C末端に位置する側鎖保護アミノ酸-レジンを合成カラムに入れて、装置をセットした。続いて、Fmoc基で保護した次アミノ酸に1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロフォスフェート(HATU)/ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を加えて活性化し、カラムに入れて反応させた。反応終了後に洗浄し、20%ピペリジンを用いて、Fmoc基を脱保護した。本工程を繰り返すことで、ペプチド鎖を伸長し、最終アミノ酸のFmoc基を脱保護した後、装置からペプチドレジンを取り出した。直鎖の側鎖保護ペプチドレジンをジメチルホルムアミド(DMF)にて膨潤させ、2%ヒドラジン溶液中で5~10分間反応させることで、リジンの側鎖の保護基(Dde)とアスパラギン酸の側鎖の保護基(ODmab)を脱保護した後、カップリング試薬であるOxima Pureとジイソプロピルカルボジイミド(DIC)を加え、50℃で3時間反応させた。レジンを洗浄後、TFAを加えて、チオール基の保護基を脱保護すると同時にレジンから単環ペプチドを切り出した。SunFire C18カラム(10×150mm)(Waters社製)を用いたRT-HPLCによって、単環ペプチドを精製した後、凍結乾燥した。単環ペプチドをTris-HClバッファー(pH8.5)とアセトニトリルの混液に溶解後、DMSOを添加し、室温で36時間撹拌することで、ジスルフィド結合によって、ペプチドを環状化した。SunFire C18カラム(10×150mm)(Waters社製)を用いたRT-HPLCによって、二環ペプチドを精製した後、凍結乾燥した。最終的に得られたペプチドの分子量は、microflex(Bruker社)を用いて測定し、目的物を同定した。
【0043】
本実施例で合成したペプチドの理論分子量、実測分子量、純度、環状化タイプ、配列を表1に示す。また、これらの中でSeq-1及びSeq-10のアミノ酸配列を以下に示す。なお、表1及び以下のアミノ酸配列において、D体表記のないアミノ酸はL体を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
Seq-1:c(Mpa-Pro-Pro-Tyr-Leu-Pro-c[Lys-Tyr-Leu-Cys)-Asp]-Leu-Ile-NH(配列番号1)
Seq-10:Ac-c[Cys-Pro-Pro-Tyr-Leu-Pro-c(Lys-Tyr-Leu-Cys10]-Asp11)-Leu12-Ile13-NH (配列番号2)
【0046】
Seq-1とSeq-10は、VIpep-3(非特許文献1参照)のC末端3残基(Leu-Arg-Ser)を除去し、1位-10位間のS-S結合と7位-11位間のアミド結合によって二環化したペプチドである。
【0047】
(参考例)VIPR2シグナルの阻害による腫瘍関連マクロファージの分極と大腸癌の増殖についての解析
材料と方法
<動物>
すべての実験手順は、香川大学が制定した動物の管理と使用に関するガイドラインに基づいて行った。5週齢の免疫不全SCIDマウス(日本クレア株式会社から購入)を、12時間の明暗サイクルで飼育し、標準的な餌と水を自由に摂取させた。すべての手術および実験手順は,香川大学の動物管理・使用委員会の承認を得た。
【0048】
<細胞株と試薬>
CT-26大腸癌細胞(ATCCから入手)は、10%ウシ胎児血清(FBS)、100IU/mLペニシリン、100IU/mLストレプトマイシンを含むRPMI(和光純薬株式会社製)で培養した。GFPタグ付きのCT-26細胞(CT-26-GFP)を作製するために、pEGFP-C1プラスミド(クロンテック社製)を、製造者の推奨に従って、リポフェクタミン3000(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製)によりCT-26細胞にトランスフェクトした。その後、CT-26-GFP細胞をセルソーティング(ベックマン・コールター株式会社)によって選択し、600μg/mLのジェネティシン(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製)、10%FBS、100IU/mLペニシリン、100IU/mLストレプトマイシンを含むRPMIで培養することでGFPを安定発現するCT-26細胞を樹立した。RAW264.7細胞は、10%FBS、100IU/mLペニシリン、100IU/mLストレプトマイシンを含むDMEM(シグマ・アルドリッチ社製)で培養した。
【0049】
<CT-26の培養上清(CT26-CM)の調製>
4×10個のCT-26細胞を、10%FBS、100IU/mLペニシリン、100IU/mLストレプトマイシンを含む20mLのRPMI培地で3日間培養した。上澄み液を回収し、400gで5分間遠心分離した。その後、上澄み液を分注し、使用するまで-80℃で保存した。
【0050】
<CT26-CMで培養したRAW264.7細胞とその性状評価>
マウスマクロファージRAW264.7細胞(24×10個)を20%CT26-CM存在下で培養した。その際、VIPR1及びVIPR2アンタゴニストであるVIPhyb(Gozes I et al.Cell Mol Neurobiol 1995,15:675-687)(1μM及び3μMの用量)又は選択的VIPR2アゴニストであるBAY55-9837(Tsutsumi M,et al. Diabetes 2002,51:1453-1460)(100nMの用量)を添加した。
【0051】
VIPR1に対するsiRNAまたはVIPR2に対するsiRNAの細胞へのトランスフェクトは、Lipofectamine RNAimax(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製)を用いて、メーカーの推奨に従って行った。CT26-CM培養後3日目にVIPR1またはVIPR2のmRNA発現を解析し、ノックダウン効率を評価した。M1およびM2遺伝子の発現は、CT26-CM培養後4日目に測定した。
【0052】
<リアルタイムPCR>
RAW264.7細胞から、ISOGEN(ニッポンジーン株式会社製)を用いてメーカーの指示に従ってRNAを抽出した。cDNAを調製して、7300 Fast Real-Time PCR System(アプライドバイオシステムズ、サーモフィッシャーサイエンティフィク社)とLight Cycler Fast Start DNA Master kit(アプライドバイオシステムズ社)を用いたリアルタイムPCRにより、以下のマーカー解析に用いた。M1マーカー:TNF-α、iNOS、CXCL10;M2マーカー:Mrc-1、IL-1rn、CCL22;VIP受容体サブタイプ:VIPR1、VIPR2;免疫チェックポイントマーカー:SIRP-α、PD-1、PD-L1;及びβ-actinの遺伝子発現。相対的なmRNAの発現量は、2-ΔΔCt法を用いて決定した。対照群のデータを用いてΔΔCt値を算出した。プライマー配列を以下の表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
<マクロファージの癌細胞を貪食する能力の評価>
CT26-CMで4日間培養したRAW264.7細胞を、PKH-26(PKH26赤色蛍光細胞リンカーキット、一般細胞膜標識用、MERCK、PKH26GL-1KT)で標識したCT26細胞(シグマ・アルドリッチ社、メーカーの指示に従って)と1:2の割合で混合し、2時間共培養した。その後、CD11b-FITC(eBioscience、サーモフィッシャーサイエンティフィク社)を用いて、RAW264.7細胞を標識した。RAW264.7細胞が貪食によって取り込んだCT26細胞の量をPKH-26で検出した。貪食能はCytExpert Software(ベックマン・コールター社)を用いてCytoFLEX(ベックマン・コールター社)で解析した。
【0055】
<抗癌試験>
CT-26-GFP(1×10個)を6週齢のSCIDマウスの皮下(s.c.)に移植した。腫瘍ができた時点で、PBS又はVIPhyb(10μg/日、s.c.毎日、KareBay Biochem社製)を2週間投与した。抗PD-1抗体との併用試験では,マウスを次の4つのグループに分けた:1)PBS、2)VIPhyb(10μg/日、毎日)、3)抗PD-1抗体(200μg/日、i.p.、3回/週、Bio X cell社製)、4)VIPhybと抗PD-1抗体の併用療法を2週間行った.腫瘍の大きさは1週間ごとに測定し、腫瘍の体積は、長さ×(幅×幅)/2で算出した。
【0056】
<腫瘍中の細胞種の解析>
抗癌試験に供したマウスの腫瘍を、各治療の12~14日後に摘出し、PBS中でコラゲナーゼIV(シグマ・アルドリッチ社)、ディスパーゼII(シグマ・アルドリッチ社)及びDNaseI(サーモフィッシャーサイエンティフィク社)と混合し、37℃で酵素分解した後、100及び70μmのセルストレーナー(サーモフィッシャーサイエンティフィク社)を用いて腫瘍懸濁液を調製した。FACSバッファー(PBS中の5%FBS、0.1%アジ化ナトリウム)を加えて、4℃で400gの遠心分離を行った。白血球は、Histopaque(登録商標)-1083(シグマ・アルドリッチ社)を用いて、400g、30分、室温で勾配遠心分離することにより、腫瘍懸濁液からさらに分離し、白血球を回収した。
【0057】
<フローサイトメトリー>
腫瘍浸潤性白血球(TIL)は、一連の抗体で染色する前に、氷上で10分間、1μg/10細胞のCD16/CD32(eBioscience、サーモフィッシャーサイエンティフィク社)でブロックした。抗体の情報は以下の表3に示した。各抗体の最適な濃度は、各実験の前に決定した。死細胞は、LIVE/DEADTMfixable near-IR dead cell stain kit(サーモフィッシャーサイエンティフィク社)で染色した。白血球集団は以下のように定義した。M1マクロファージ(CD45、CD3e、CD11b、F4/80、MHCIIhigh)、M2マクロファージ(CD45、CD3e、CD11b、F4/80、MHCIIlow、CD206)、ナチュラルキラー(NK)細胞(CD45、CD3e、CD11b,CD335)、CT-26のマクロファージ貪食(CD45、CD3e、CD11b、F4/80、CT-26-GFP)、PD-1マクロファージ(CD45、CD3e、CD11b、PD-1)である。細胞懸濁液をFASC緩衝液中で、4℃にて20分間関連抗体で染色し、2回洗浄し、CytExpert Software(ベックマン・コールター社)を用いてCytoFLEX(ベックマン・コールター社)で分析した。陰性コントロールを用いてゲートを設定し、真の陽性染色のレベルを決定した。
【0058】
【表3】
【0059】
<ウェスタンブロッティング分析>
CT26-CMの存在下、又は非存在下で培養したRAW264.7細胞を、RIPAバッファー(サーモフィッシャーサイエンティフィク社)を用いてメーカーの推奨に従って溶解し、溶解液を12,000rpmで10分間、4℃で遠心分離した。75μgのタンパク質を12%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロースフィルター膜に転写した。その後、Blocking Buffer(LI-COR社製)で膜を室温で1時間ブロッキングし,抗VIPR1抗体(1:200希釈)又は抗VIPR2抗体(1:200希釈)と4℃で一晩反応させた。洗浄後、IR-Dye800結合抗ウサギまたは抗マウス二次抗体(LI-COR社製)を用いて、室温で1時間反応させた。膜はOdyssey赤外線イメージングシステム(LI-COR社製)で可視化した。β-actinは内部コントロールとして使用した。
【0060】
<患者サンプルと組織処理>
香川大学医学部附属病院で病理組織学的検査により大腸癌と診断され、外科的切除を受けた患者から一連の大腸癌標本を入手した。すべてのプロトコールは、香川大学倫理委員会の承認を得た。また、試料採取の前に、すべての患者またはその保護者からインフォームド・コンセントを得た。
【0061】
<免疫蛍光染色>
大腸癌組織を4%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。これらの組織を脱パラフィンし、10%ヤギ抗血清で室温にて1時間ブロックした。その後、CD68(1:100希釈)、VIPR1(1:100希釈)又はVIPR2(1:100希釈)に対する抗体を用いて、4℃で一晩反応させた。その後、組織を洗浄し、Alexa flour 488 goat anti-mouse IgG(1:500、サーモフィッシャーサイエンティフィク社)又はAlexa flour 594 goat anti-rabbit IgG(1:500、サーモフィッシャーサイエンティフィク社)の二次抗体を用いて、室温で1時間、暗所で反応させた。核は4’,6-ジアミノ-2-フェニルインドール(DAPI)で10分間染色した。画像は蛍光顕微鏡(BZ9000;株式会社キーエンス製)で撮影した。
【0062】
<KS-133の抗癌試験>
CT-26(1×10個)を6週齢のBalb/cマウスの皮下(s.c.)に移植した。腫瘍ができた時点で、マウスを次の4つのグループに分けた:1)1%DMSO/PBS、2)KS-133(30μg/日、s.c.毎日)、3)抗PD-1抗体(200μg/日、i.p.、3回/週、Bio X cell社製)、4)KS-133と抗PD-1抗体の併用療法を3週間行った.腫瘍の大きさは1週間ごとに測定し、腫瘍の体積は、長さ×(幅×幅)/2で算出した。
【0063】
<データと統計解析>
2つのグループのデータを比較するために、Student’s t-testを使用した。複数のグループの比較は,一元配置または二元配置の分散分析(ANOVA)を行った後,Tukeyの多重比較検定を行った。すべての統計解析は,GraphPad Prism6(GraphPad Software Inc.)を用いて行った。p<0.05の値は統計的に有意であると考えられた。
【0064】
結果
<大腸癌細胞株であるCT-26の培養上清はマクロファージRAW264.7の極性をM2型に分極させる>
In vivoの腫瘍環境を模すため、大腸癌細胞株であるCT-26の培養上清の存在下でマクロファージRAW264.7細胞を培養し、マクロファージの分極とVIPR1及びVIPR2の発現を評価した。図1Aは、M1マクロファージマーカーであるTNF-α、iNOS、CXCL10のmRNA発現量、図1Bは、M2マクロファージマーカーであるMrc-1、IL-1rn、CCL-22のmRNA発現量、図1Cは、免疫チェックポイントマーカーであるSIRP-α、PD-1、PD-L1のmRNA発現量、図1Dは、VIPR1及びVIPR2のmRNA発現量、図1Eは、VIPR1及びVIPR2のタンパク質発現量を示す。データは平均±SEMで表した。コントロールと比較して*:p<0.05、**:p<0.01(two-way ANOVA)。
【0065】
図1Aに示すように、CT26-CMはM1マクロファージマーカーであるCXCL10のmRNAの発現を有意に低下させ、TNF-α及びiNOSのmRNAの発現には影響を与えなかった。一方、図1Bに示すように、M2マクロファージマーカーであるマンノース受容体(Mrc-1)、IL-1rn、CCL-22のmRNAの発現を有意に増加させた。そして、図1Cに示すように、免疫チェックポイントマーカーであるSIRP-αとPD-L1のmRNAの発現を増加させたが、PD-1のmRNAの発現には影響を与えなかった。(図1C)。
【0066】
さらに、CT26-CMがRAW264.7細胞のVIPR1及びVIPR2発現に与える影響を評価した。その結果、CT26-CMを添加したRAW264.7細胞では、VIPR1及びVIPR2のmRNAの発現がいずれも有意に増加していた(図1D)。同様に、VIPR1及びVIPR2のタンパク質発現量も有意に増加していた(図1E)。これらのデータは、大腸癌細胞株CT26から分泌された液性分子がマクロファージRAW264.7細胞に作用し、その極性をM2型に誘導すること、そしてVIPR1及びVIPR2の両方のタンパク質発現を亢進することを示している。
【0067】
<VIPR1とVIPR2に対するアンタゴニストは、CT26-CMで培養したRAW264.7細胞の極性をM1に誘導し、貪食作用を増加させる>
次に、VIPによるシグナル伝達がマクロファージの分極と機能に関与しているかどうかを調べた。図2は、VIPR1とVIPR2に対するアンタゴニストVIPhybが、CT26-CMで培養したRAW264.7細胞において、M1極性化を誘導し、マクロファージのCT-26に対する貪食を促進した結果を示す。1μM及び3μMのVIPhybのM1マクロファージマーカーのmRNA発現に対する影響を図2Aに、M2マクロファージマーカーのmRNA発現に対する影響を図2Bに、及び免疫チェックポイントマーカーのmRNA発現に対する影響を図2Cに示す(n=7~9/グループ)。図2Dは、RAW264.7細胞そのもの(Negative contorol)、標識化されたCT-26を貪食したRAW264.7細胞(VIPhyb非存在下:Contorol)、標識化されたCT-26を貪食したRAW264.7細胞(VIPhyb存在下)の代表的なFACSヒストグラムである。図2Eは、同貪食作用を定量化し比較した結果である。データは平均±SEMで表した。二元配置のANOVA又はStudent’s t-testでコントロールと比較して*:p<0.05。
【0068】
VIPR1とVIPR2に対する非選択的なアンタゴニストVIPhybは、3μMの濃度で、M1マクロファージマーカーであるTNF-α、iNOS、CXCL10のmRNAの発現を有意に増強し(図2A)、M2マクロファージマーカーの一つであるMrc-1のmRNAの発現を有意に減少させた(図2B)。また、VIPhybは、免疫チェックポイントマーカーのmRNAの発現には影響を及ぼさなかった(図2C)。さらに、VIPhybで処理したRAW264.7細胞のCT-26細胞に対する貪食作用はCT-26に対する貪食作用を増強した(図2D及びE)。これらのデータは、VIPR1及び/又はVIPR2のシグナルの阻害が、マクロファージの極性をM1型に誘導すること、マクロファージの貪食機能が促進されることを示している。
【0069】
<VIPR1とVIPR2に対するアンタゴニストは、SCIDマウスの皮下に移植されたCT-26腫瘍の成長を抑制し、腫瘍関連マクロファージのM1/M2比を向上させる>
T細胞とB細胞を欠く免疫不全のSCIDマウスの皮下にGFPを安定発現するCT-26大腸癌を移植し、VIPR1とVIPR2に対するアンタゴニストを投与し、その抗癌効果とTAMの機能に対する効果を評価した。図3Aは、腫瘍の体積変化を示す(n=5~6/グループ)。図3Bは、M1マクロファージの、図3Cは、M2マクロファージの、図3Dは、NK細胞の比率をそれぞれ示す。図3Eは、M1/M2マクロファージ比を、図3Fは、腫瘍を形成していたGFP安定発現CT26細胞が貪食された比率をフローサイトメトリーで解析した結果を示す(n=4~5/グループ)。データは平均±SEMで表した。*コントロールと比較してp<0.05;Student’s t-test。
【0070】
VIPhybはコントロールと比較してSCIDマウスの皮下に移植された腫瘍の成長を有意に減少させた(図3A)。そして、腫瘍において、M1マクロファージを増加させる傾向(図3B)、M2マクロファージを減少させる傾向(図3C)を示した。一方、NK細胞には増減の傾向がみられなかった(図3D)。TMEにおけるM1/M2マクロファージの比率が患者の予後と相関していることはよく知られている。そこで、M1/M2腫瘍関連マクロファージの比率を解析したところ、VIPhyb投与群は対照群に比べてM1/M2腫瘍関連マクロファージの比率が高いことがわかった(図3E)。また、VIPアンタゴニスト投与群の腫瘍組織から回収されたマクロファージは、対照群の腫瘍組織から回収されたマクロファージと比較して、より多くのCT-26細胞(GFPを安定発現)を貪食していることがわかった(図3F)。これらの結果は、VIPR1及び/又はVIPR2のシグナルの阻害が、in vivoにおいてもマクロファージの極性をM1型に誘導すること、マクロファージの貪食機能が促進されることを示している。ところで、PD-1の発現は、マクロファージの食細胞活性に影響を与えることが報告されている。そこで、腫瘍から単離されたマクロファージにおけるPD-1の発現をさらに調べたところ、VIPアンタゴニスト投与マウスから単離されたTAMでは、PD-1がわずかに増加していた(図7参照)。
【0071】
<VIPR1とVIPR2に対するアンタゴニストと抗PD-1抗体を併用すると抗腫瘍活性が増大する>
VIPhybを投与したマウスの腫瘍から分離したマクロファージではPD-1が増加する傾向があったことから、VIPhybと抗PD-1抗体を併用することで、さらに腫瘍の成長を抑え、マクロファージの機能を高めるという追加的な効果が期待できるのではないかと考えた。図4は、免疫不全SCIDマウスにおけるCT-26腫瘍の成長に対するVIPhybと抗PD-1抗体の併用効果を調べた結果である。図4Aは、腫瘍の体積変化を示す(n=5~6/グループ)。図4Bは、M1マクロファージの、図4Cは、M2マクロファージの、図4Dは、NK細胞の比率をそれぞれ示す。図4Eは、M1/M2マクロファージ比を、図4Fは、腫瘍を形成していたGFP安定発現CT26細胞が貪食された比率をフローサイトメトリーで解析した結果を示す(n=4~5/グループ)。データは平均±SEMで表した。コントロールと比較して*:p<0.05、**:p<0.01;two-way ANOVA。
【0072】
興味深いことに、T細胞とB細胞を欠くSCIDマウスにおいても抗PD-1抗体の投与は腫瘍の成長を抑制した。そして、その抗腫瘍活性はVIPhybと併用投与することで増強された(図4A)。腫瘍におけるM1マクロファージマーカー(図4B)、M2マクロファージマーカー(図4C)、M1/M2マクロファージ比率(図4D)には、各群間で差がなかった。同様に、NK細胞の数も群間で差はなかった(図4E)。VIPhybと抗PD-1抗体の併用投与では、対照群に比べてマクロファージの貪食作用が増加する傾向が見られた(図4F)。
【0073】
<VIPR1ではなくVIPR2のシグナルがマクロファージの極性に影響を与える>
次に、VIPR1とVIPR2のいずれ、若しくは両方がマクロファージRAW264.7細胞のM2極性化に関与しているのかを調べた。その結果を図5-1及び図5-2に示す。まず、VIPR1に対するsiRNAとVIPR2に対するsiRNAによって、各受容体のmRNA発現量が低下することを確認した(図5-1のAおよびB、n=6~8/グループ)。続いて、それぞれのsiRNA存在下におけるM1マクロファージマーカーとM2マクロファージマーカーを評価した(図5-1のCおよびD)。そして、VIPR2選択的なアゴニストであるBAY55-9837のマクロファージRAW264.7細胞の極性に対する影響も評価した(図5-2のE、n=7~10/グループ)。データは平均±SEMで表した。*:コントロールと比較してp<0.05;Student’s t-testまたはtwo-way ANOVA。
【0074】
VIPR1に対するsiRNAとVIPR2に対するsiRNAは、いずれもM1マクロファージマーカーを変動させなかった。そして、VIPR1に対するsiRNAは、M2マクロファージマーカーも変動させなかった。一方、VIPR2に対するsiRNAは、M2マクロファージマーカーであるMrc-1およびIL-1rnのmRNAの発現を有意に減少させた。
【0075】
さらに、VIPR2選択的なアゴニストであるBAY55-9837は、M1マクロファージマーカーの一つであるiNOSのmRNAの発現を低下させる傾向を示し、M2マクロファージマーカーであるMrc-1およびIL-1rnのmRNAの発現を有意に増加させた。これらの結果は、VIPR1ではなくVIPR2のシグナルがマクロファージの極性に影響を与えることを示している。
【0076】
<ヒト大腸癌組織の腫瘍関連マクロファージにおけるVIPR1とVIPR2の発現解析>
ヒト大腸癌組織におけるVIPR1とVIPR2の分布を調べた。図6は、ヒト大腸癌標本の腫瘍間質におけるCD68(緑)とVIPR1(赤、図6Aは100×;図6Bは200×)、及びCD68(緑)とVIPR2(赤、図6Cは100×;図6Dは200×)の染色の代表的な画像である。核はDAPI(青)で染色した。
【0077】
図6に示すように、マクロファージマーカーであるCD68の発現は腫瘍間質で高発現していたが,隣接する正常組織ではCD68陽性細胞はほとんど見られなかった。一方,VIPR1とVIPR2の発現は,腫瘍間質と隣接する正常組織の間質に存在する細胞に認められた。腫瘍間質では,CD68を発現している細胞はVIPR1の染色に陽性ではなく(図6A及び図6B)、VIPR2の染色に陽性であった(図6C及び図6D)。
【0078】
<VIPR2選択的アンタゴニストKS-133は、CT26-CMで培養したRAW264.7細胞の極性をM1に誘導する>
図8は、VIPR2選択的アンタゴニストKS-133が、CT26-CMで培養したRAW264.7細胞において、M1極性化を誘導した結果を示す。1μM、3μM及び10μMのKS-133のM1マクロファージマーカーのmRNA発現に対する影響を図8Aに、M2マクロファージマーカーのmRNA発現に対する影響を図8Bに示す(n=5~7/グループ)。データは平均±SEMで表した。二元配置のANOVA又はStudent’s t-testでコントロールと比較して*:p<0.05。
【0079】
VIPR2選択的アンタゴニストKS-133は、10μMの濃度で、M1マクロファージマーカーであるiNOSのmRNAの発現を増強する傾向を示し、CXCL10のmRNAの発現を有意に増強した(図8A)。そして、M2マクロファージマーカーの一つであるMrc-1のmRNAの発現を有意に減少させた(図8B)。これらのデータは、KS-133によるVIPR2のシグナルの阻害が、マクロファージの極性をM1型に誘導することを示している。
【0080】
<VIPR2選択的アンタゴニストKS-133は単独投与と抗PD-1抗体との併用投与の両方で抗腫瘍活性を示す>
図9は、Balb/cマウスにおけるCT-26腫瘍の成長に対するKS-133の単独投与と抗PD-1抗体との併用投与による抗癌効果を調べた結果であり、腫瘍の体積変化を示す(n=5~6/グループ)。KS-133は単独投与と抗PD-1抗体との併用投与の両方で有意な抗腫瘍活性を示した。図10は、実験終了後にマウスから摘出した腫瘍を並べたものである。特にKS-133と抗PD-1抗体の併用投与群では腫瘍の大きさが顕著に縮小していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る環状ペプチドを含む組成物は、癌免疫増強のための組成物などの医薬品として使用される可能性がある。
【要約】
腫瘍関連マクロファージの分極と機能に対するVIPアンタゴニストの影響を解析し、新規な癌免疫増強剤を提供する。この癌免疫増強のための組成物は、式(1):
c[X-Pro-X-Tyr-Leu-Pro-c(X-X-Leu-Cys10]-X11)-X12-X13 (1)
で表されるアミノ酸配列からなる環状ペプチド、その誘導体若しくは修飾体又は薬理学的に許容されるそれらの塩を含む。

図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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