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特許7417026水素製造用触媒及びその製造方法、並びに水素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】水素製造用触媒及びその製造方法、並びに水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/75 20060101AFI20240111BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240111BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240111BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20240111BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240111BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
B01J23/75 M
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J37/18
C01B3/04 Z
B01J23/755 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022112065
(22)【出願日】2022-07-12
【審査請求日】2022-10-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】390000022
【氏名又は名称】サンアロイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086335
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 榮一
(72)【発明者】
【氏名】森下 政夫
(72)【発明者】
【氏名】柳田 秀文
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111111779(CN,A)
【文献】特表2008-543555(JP,A)
【文献】特開2011-078947(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102500377(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/04
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアボラン(NHBH)から水素を生成するために用いられる水素製造用触媒であって、
強磁性のコバルト(Co)と、鉄(Fe)又はニッケル(Ni)のいずれか一方を含有した磁性合金からなり、
前記磁性合金は、前記コバルト(Co)を92~85mol%、前記鉄(Fe)を8~15mol%含有する合金、又は前記コバルト(Co)を96~92mol%、前記ニッケル(Ni)を4~mol%含有する合金からなり、当該磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントがボーア磁子単位で1.55~1.87μBの範囲にある、
ことを特徴とする水素製造用触媒。
【請求項2】
アンモニアボラン(NHBH)から水素を生成するために用いられる水素製造用触媒の製造方法であって、
前記触媒は、コバルト(Co)と、鉄(Fe)及びニッケル(Ni)のいずれか一方を含む磁性合金からなり、
前記磁性合金は、
コバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液と、鉄イオンを含む硝酸鉄の水溶液を混合した水溶液及びニッケルイオンを含む酢酸ニッケルの水溶液のいずれか一方の水溶液を混合した混合水溶液を作製し、
前記混合水溶液を、蒸発乾固若しくは噴霧乾燥して乾燥物を作製し、
次いで、前記乾燥物を加熱処理して熱分解して酸化物を作製し、
前記酸化物を水素雰囲気中で水素還元して製造される
ことを特徴とする水素製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記酢酸コバルトの水溶液と前記硝酸鉄の水溶液が混合された混合水溶液は、コバルト成分を92~85mol%含有し、鉄成分を8~15mol%含有するように混合されたことを特徴とする請求項2記載の水素製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記酢酸コバルトの水溶液と前記酢酸ニッケルの水溶液が混合された混合水溶液は、コバルト成分を96~85mol%含有し、ニッケル成分を4~15mol%含有するように混合されたことを特徴とする請求項2記載の水素製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記混合水溶液を乾燥して作製された乾燥物は、500℃~600℃の酸素雰囲気中で加熱処理されて酸化物とされ、
前記酸化物は、750℃~850℃の水素雰囲気中で水素還元される
ことを特徴する請求項2記載の水素製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
アンモニアボラン(NHBH)から水素を生成する水素の製造方法であって、
請求項1記載の水素製造用磁性触媒とアンモニアボラン(NHBH)とが溶解混合された水溶液を作製し、
次いで、前記水溶液を加水分解し、前記アンモニアボラン(NHBH)から水素ガス(H)を生成することを特徴とする水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造用触媒及びその製造方法、さらには、水素含有化合物から水素を製造する水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境破壊を抑制するエネルギー源として水素が注目され、水素を燃料とする燃料電池が注目され、実用化されている。
【0003】
水素は、常温、常圧の環境下において気相であり、所定の反応量の体積が固相に比較して数百倍~千倍であるばかりか、爆発性を有するため、安全に且つ大量に貯蔵し、運搬することが困難である。このような水素ガスが有する問題点を解消し、安全で容易に取り扱いを可能とするため、燃料電池の燃料としては、天然ガス、メタノール、ガソリンなどを改質して得られる水素ガスが用いられている。
【0004】
この種の燃料は、安全性に問題があるばかりか、燃料電池の燃料として用いたとき起電力が十分でなく、電力の供給源として十分な性能を実現できない。
【0005】
そこで、自動車の駆動源として用いられる燃料電池や民生用の携帯端末装置の電源に用いられる燃料電池にあっては、高濃度に水素を貯蔵する水素含有化合物から、安価に、安定して高能率で水素を生成し、さらには、電池自体の小型化を実現することが望まれている。
【0006】
このような従来用いられている水素含有媒体が有する問題点に鑑み、安全性に優れ、取り扱いが容易で、燃料電池の燃料として用いたとき十分な起電力を実現し得る燃料について鋭意研究され、高濃度に水素を含有する水素含有化合物が提案されている。この種の水素含有化合物として、大量な水素の貯蔵を可能としたホウ素をベースにした化合物が提案されている。その一つとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水素化ホウ素化合物ある。他の一つとして、ボラン(BH)とアンモニア(NH)の錯体をベースにした化合物であるアンモニアボラン(NHBH)が提案されている(特許文献1、2)。
【0007】
この種の水素含有化合物に含有された水素は、例えば、水素含有化合物を溶解した水溶液に触媒として白金(Pt)等の貴金属を加え、この水溶液を加水分解することにより生成される。
【0008】
触媒に用いるPt等の貴金属は、資源量が乏しく高価であるため、アンモニアボラン等の水素含有化合物から安価に安定して水素の生成を行うことが困難となる。
【0009】
本件出願の発明者等は、水素含有化合物から水素を生成するために用いる触媒として、Pt等の貴金属に代わる触媒として、強磁性Coナノ結晶をドープしたタングステン炭化物を用いることを提案している(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-286549号公報
【文献】特開2009-176556号公報
【文献】特開2018-223932号公報
【文献】特願2021-171539号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、本件出願の発明者等が提案した水素製造の触媒に用いられるCoは、リチウム電池正極の材料等に用いられ、その需要が急速に拡大し資源量が逼迫している。
【0012】
そのため、水素製造の触媒として用いることを提案したCoを含む触媒に用いられるCoの使用割合を削減し、Co資源量の節約が望まれている。
【0013】
ここで、本発明者等は、アンモニアボラン(NHBH)などの水素含有化合物から水素を生成する際に用いられる触媒の特徴を鋭意研究した結果、触媒金属とHイオン(プロトン)の磁気的相互作用に着目し、安価に、しかも安定して入手、あるいは供給可能な新規な水素製造用触媒を実現し、提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、アンモニアボラン(NHBH)などの水素含有化合物から水素を生成する際に用いられる触媒の作用、その機能に着目し、鋭意研究の結果、水素製造の触媒に用いて有益な水素製造用触媒を実現し、提案するものである。
本発明者等が提案する触媒は、アンモニアボラン(NHBH)から水素を生成するために用いられる水素製造用触媒であって、強磁性のコバルト(Co)と、他の強磁性金属を少なくとも1種含有した磁性合金からなり、この磁性合金は、コバルト(Co)を92~85mol%、鉄(Fe)を8~15mol%含有する合金、又はコバルト(Co)を96~92mol%、ニッケル(Ni)を4~mol%含有する合金からなり、この磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントがボーア磁子単位で1.55~1.87μBの範囲とされたことを特徴とする。
【0015】
この磁性合金を構成する前記他の強磁性金属として、鉄(Fe)又はニッケル(Ni)を用いることができる。そして、磁性合金は、Coと、Fe及びNiのいずれか一方を含有して構成される。
【0016】
本書面で提案される水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒は、以下に示す手順で製造される。
【0017】
水素製造用磁性触媒を製造するに当たり、まず、コバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液と、ニッケルイオンを含む酢酸ニッケルの水溶液及び鉄イオンを含む硝酸鉄の水溶液のいずれか一方を混合した混合水溶液を作製する。
【0018】
次いで、前記混合水溶液を、蒸発乾固若しくは噴霧乾燥して乾燥物を作製し、この乾燥物を加熱処理して熱分解して酸化物を作製し、この酸化物を水素雰囲気中で水素還元する。水素還元された酸化物は、前記強磁性のコバルト(Co)と、強磁性のニッケル(Ni)又は鉄(Fe)のいずれか一方を含む粉末状の磁性合金とされる。
【0019】
前記混合水溶液として、前記酢酸コバルトの水溶液と前記硝酸鉄の水溶液を混合して作製した混合水溶液が用いられる。この混合水溶液は、コバルト成分を99~47(50)mol%含有し、鉄成分を1~53mol%含有するように、酢酸コバルトの水溶液と前記硝酸鉄の水溶液とを混合して作製される。
【0020】
また、前記混合水溶液として、前記酢酸コバルトの水溶液と前記酢酸ニッケルの水溶液を混合して作製した混合水溶液が用いられる。この混合水溶液は、コバルト成分を99~48mol%含有し、ニッケル成分を1~52mol%含有するように、前記酢酸コバルトの水溶液と前記硝酸鉄の水溶液とを混合して作製される。
【0021】
なお、前記混合水溶液を乾燥処理して作製された乾燥物は、500℃~600℃の酸素雰囲気中で加熱処理されて酸化物とされる。この酸化物は、750℃~850℃の水素雰囲気中で水素還元されることにより、強磁性のコバルト(Co)と、強磁性のニッケル(Ni)及び鉄(Fe)のいずれか一方を含有した粉末状の磁性金属とされる。
【0022】
本発明者等が提案する上述したいずれ一の磁性金属を、水素含有化合物である例えばアンモニアボラン(NHBH)の水溶液に混合し、この混合水溶液を加水分解することにより、前記水素含有化合物から水素ガス(H)が生成される。
【0023】
したがって、上述の作成工程を経て製造される磁性合金は、水素製造用磁性触媒として用いられる。
【発明の効果】
【0024】
本書面で提案する水素製造用磁性触媒は、親水性を有することから、高濃度に水素の貯蔵を可能とするアンモニアボラン(NHBH)等の水素含有化合物を加水分解する際の触媒として用いて好適である。この磁性触媒は、高濃度に水素の貯蔵を可能とするアンモニアボラン等の水素含有化合物に含有された水素(H)ガスの転換率を向上し、安定して高能率で水素(H)ガスの生成を可能とする。
【0025】
そして、本書面で提案する磁性触媒は、Pt等の貴金属を用いるものではなく、さらに、資源が逼迫していくコバルト(Co)の削減を図り、資源として豊富な素材を用いているので、安価に、しかも安定して供給することが可能となる。
【0026】
また、本書面で提案する水素製造用触媒は、磁性を有するので、水素生成の触媒として利用した後、磁力を用いて回収ことが容易である。再利用を可能とすることにより、一層低コストで水素生成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】アンモニアボランから水溶液中に放出されたプロトンの核スピンと、磁性金属が溶解された水溶液中に磁性金属の単磁区結晶の電子スピンとの磁気的相互作用のモデルを模式的に示す図である。
図2】プロトンに作用する加速度aと、プロトンと磁性合金の成分である合金粒子の単磁区結晶との間の距離rとの関係を示す図である。
図3】プロトンと合金粒子の単磁区結晶との間の距離rが0.03~0.06nmにあるときの、プロトンに作用する合金粒子の磁力によるポテンシャルエネルギーUmagを示す図である。
図4】(a)に示すコバルト(Co)と鉄(Fe)又はニッケル(Ni)との磁性合金をアンモニアボラン(NHBH)の加水分解の触媒に用いたときの水素生成速度(HER)と、(b)に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者等は、アンモニアボラン(NHBH)などの水素含有化合物の水溶液中に生成されるHイオン(プロトン)と、この水溶液中に溶解された触媒として機能する磁性金属の磁気的相互作用に着目し、水素含有化合物から水素分子を脱離して水素を生成するために用いて有益な水素製造用磁性触媒を実現したものである。
【0029】
そこで、アンモニアボランから放出されたプロトンの核スピンと、磁性合金を構成する合金粒子の単磁区結晶(Single domain)の電子スピンとの磁気的相互作用を、図1に示すモデルを参照して説明する。
【0030】
このモデルでは、アンモニアボランを溶解した水溶液と、磁性合金を溶解した溶解液を混合した混同水溶液を用いた。
【0031】
プロトンの核スピンと合金粒子の単磁区結晶の電子スピンの磁気的相互作用を示す図1において、アンモニアボランから放出されたプロトンと磁性合金の単磁区結晶の距離をrで示す。そして、上記混合水溶液中で水和してヒドロニウムイオン(H)としてブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡を移動するプロトンが、この混合水溶液中に溶解した磁性合金の磁力により磁気吸引されて、磁性合金に接近する接近軌道に変化する臨界距離をrcとする。
【0032】
図1を参照し、アンモニアボランが溶解された水溶液中に放出されたプロトン(H)と、その水溶液中に溶解された磁性合金の単磁区結晶(Single domain)との磁気双極子相互作用(dipole interaction)によるポテンシャルエネルギーUmagは、以下の式(1)によって定義される。
【0033】
Umag=-(Mferro・M/2πμ) ・・・(1)
【0034】
式(1)において、MFerroは合金粒子の磁気モーメントであり、Mはプロトンの磁気モーメントであり、図1において、rはプロトン(H)と磁性金属の単磁区結晶(Single domain)との間の距離である。
【0035】
したがって、磁性合金の単磁区結晶とプロトンとに働く磁力(F)は、ポテンシャルエネルギーUmagを、磁性合金粒子の単磁区結晶とプロトンとの間の距離rで微分し、下記の式(2)によって定義される。
【0036】
F=du/dr=3MFerro・M/2πμ ・・・(2)
【0037】
この磁力Fをプロトンの質量mpで割ることにより、プロトンの加速度aが、下記の式(3)によって求められる。
【0038】
a=F/mp=3MFerro・M/2πμ ・・・(3)
【0039】
ここで、プロトンの質量mは、1.671×10-27(kg)である。真空の透磁率μは、4π×10-7(Hm-1)である。
【0040】
図1に示す反応モデルを参照して、強磁性の金属粒子の磁力がプロトンに及ぼす影響についてシミュレーションした。このシミュレーションは、強磁性の金属粒子として、コバルト(Co)と鉄(Fe)とを含有する強磁性の磁性合金を用いて行った。
【0041】
このシミュレーションに用いた磁性合金は、コバルト(Co)を92.39wt%、鉄(Fe)を7.61wt%含有して構成されている。この磁性合金の磁力がプロトンに及ぼす影響は、この種の磁性合金において、単磁区の大きさとして一般的な直径を60nmとする合金粒子を用いて確認を行った。
【0042】
図4に示す周知のスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線に基づくと、本シミュレーションで用いる上述の割合でコバルト(Co)と鉄(Fe)を含有するCo-Fe合金の原子1個当たりの平均磁気モーメントは、ボーア磁子を単位として、1.808μBである。ここで、この磁性合金の直径を60nmとする合金粒子に含まれるモル数(n)は、その密度に基づき1.680×10-17molとなる。したがって、この合金粒子に含まれる原子数(N)は1.012×10個である。原子1個当たりの平均磁気モーメントは1.808μであり、この平均磁気モーメントのN倍が直径を60nmとする合金粒子の磁気モーメントMFerroであり、下記の式(4)で示される。
【0043】
Ferro=1.345×10-21(Wbm) ・・・(4)
【0044】
プロトンの磁気モーメントMは、下記の式(5)で与えられる。
【0045】
=6.33×10-33(Wbm) ・・・(5)
【0046】
式(4)で示される値と、式(5)示される値をそれぞれ式(3)に代入し、プロトンに作用する加速度aと、プロトンと上述した合金粒子の単磁区結晶との間の距離rとの関係を計算した。その計算した結果を図2に示す。
【0047】
前述の式(3)より、プロトンと合金粒子の単磁区結晶との距離rが2.3646μmのとき、プロトンに作用する加速度aは9.807ms-2となり、この値は、重力加速度gに小数点以下3桁まで一致することが分かった。このシミュレーションの結果から、上述したシミュレーションの手法は、プロトンの核スピンと磁性金属を構成する合金粒子の電子スピン間の引力相互作用の評価に用いて有効であることが分った。
【0048】
ところで、プロトンは、水溶液中で水和し、ヒドロニウムイオン(H)として存在することが知られている。このプロトンの水和エンタルピーΔHadは、-260.7±2.5(kcal mol-1)である。すなわち、プロトン1個当たりの水和エンタルピーは、-1.811(aJ(Had)-1)である。したがって、プロトンは、水溶液中でHととしてブラウン運動している。また、プロトンは、このブラウン運動と同時に、あるHから離脱して、別のHO分子へ水和する運動を行っている。この離脱と水和の移動距離は0.06~0.08nmである。なお、HO分子中において、O-H結合の距離は、0.0957nmである。プロトンが水溶液中で水和することを考慮しても、上述したプロトンの核スピンと磁性金属を構成する合金粒子の電子スピン間の引力相互作用の評価の方法は有効である。
【0049】
そこで、前述したコバルト(Co)を92.39wt%、鉄(Fe)を7.61wt%含有して構成され、直径を60nmとする強磁性の合金粒子が近距離のプロトンに対して及ぼす磁力によるポテンシャルエネルギーUmagをシミュレーションした。
【0050】
図3に、プロトンと合金粒子との間の距離rが0.03~0.06nmにあるときの、プロトンに作用する合金粒子の磁力によるポテンシャルエネルギーUmagの変化を示す。
【0051】
図3に示すように、ポテンシャルエネルギーUmagは、プロトンと合金粒子の単磁区結晶との間の距離rの減少に伴い負側に深くなった。
【0052】
ここで、上記距離rが0.04552nmのとき、プロトンのポテンシャルエネルギーUmagは-1.811(aJ(Had)-1)となり、プロトンの水和エンタルピーΔHadと等しくなった。この距離rを臨界距離rcと定義する。すなわち、距離rが臨界距離rcよりも小さいとき、ポテンシャルエネルギーUmagは、水和エンタルピーΔHadよりも深くなり、プロトンは水和するよりも磁性体に引き付けられる。すなわち、コバルト(Co)を92.39wt%、鉄(Fe)を7.61wt%含有して構成された磁性合金は、その表面から0.04552nm以内のプロトンを引き付けて水素を高速に生成することができる。
【0053】
一方、プロトンと合金粒子の単磁区結晶との間の距離rが臨界距離rcよりも大きいとき、プロトンは水和する方が安定であり、Hとしてブラウン運動する。すなわち、プロトンがブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性体への接近軌道に変化する距離rが臨界距離rcである。
【0054】
そして、1molのアンモニアボランNHBH(cr)の固体粉末が、水溶液に溶解し、水和分子NHBH(aq)を経て、3モルの気体水素H(g)を生成する加水分解反応は、熱力学平衡論に基づき、左辺の始状態と右辺の終状態として、下記の式(6)によつて定義される。
【0055】
NHBH(cr)+2HO(l)=BO (aq)+NH (aq)+3H(g)
ΔrH/kj=-155.983±6.016 ・・・(6)
【0056】
式(6)において、標準反応エンタルピーΔrHは、負の発熱反応である。
なお、固体のアンモニアボランNHBH(cr)の標準生成エントロピーΔrSは、未だ測定されていない。
上記式(6)において、左辺は、1モルの固体アンモニアボラン(NHBH(cr))と2モルの液体分子(H0(l)であり、一方、右辺は合わせて2モルのイオン(BO (aq)))とNH (aq)及び3モルの気体分子(H(g))からなり、標準反応エンタルピーΔrSが正であることは疑いの余地がない。したがって、標準反応ギブスエネルギーΔrGは負であり、平衡論の立場として自発反応である。
【0057】
上述のシミュレーションより、水素含有化合物であるアンモニアボランの加水分解反応が進行するためには、水溶液中のアンモニアボラン(NHBH(aq))分子を、合金粒子が吸着して分解し、プロトンを放出させ、この放出されたプロトンが還元されて原子状水素となり、これら原子状水素が合体し水素分子となり、この水素分子が気体として脱離する必要がある。
【0058】
したがって、アンモニアボランから放出されたプロトン、及びHから離脱して別のHO分子へ水和するために、移動中のプロトンを、磁性金属の合金粒子が磁気吸引する必要がある。
【0059】
そこで、本発明者等は、上述したシミュレーションに基づく知見から、水素含有化合物を溶解した水溶液中でプロトンを接近軌道に磁気吸引するに足る磁気モーメントを有する強磁性の磁性合金を実現したものである。
【0060】
特に、この磁性金属を、安定して、しかも安価に供給できるようにするため、資源量の乏しいCoの使用割合の削減を図りながら、アンモニアボラン等の水素含有化合物から効率よく水素の生成を可能とする触媒として機能する金属材料を実現したものである。
【0061】
ところで、水素製造用の触媒として用いられるコバルトCoと、鉄系の金属である鉄Fe及びニッケルNiのいずれか一方を含有し、粒子サイズをナノサイズで製造される磁性合金は、製造条件により様々な粒子径をもって製造される。
【0062】
そして、このような様々な粒子径を有する磁性合金を水素製造の触媒として用いたとき、水素含有化合物の水溶液中に溶解したプロトンがブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁気吸引されて磁性合金に接近する軌道に変化する臨界距離rcは、触媒として用いる磁性合金が有する様々の粒子径に応じて変化する。したがって、臨界距離rcは、触媒として用いる磁性金属が有する粒子径の分布に応じた分布幅を有する。
【0063】
しかし、構成する金属の種類、含有割合、作製方法を同様にするとき磁性合金を触媒に用いたときの臨界距離rcの分布幅は、同様となる。
【0064】
したがって、前述した直径を60nmとする合金粒子を単磁区粒子径とする磁性合金を用いて水素製造をシミュレーションして求めた臨界距離rcを、プロトンを効率よく磁性合金に集合させるためのパラメ-タ-とすることにより、作製する磁性合金の触媒特性の相対比較に好適であり、水素製造用の磁性合金の設計に有効である。すなわち、ブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンを磁気吸引するに足る平均磁気モーメントを有する磁性合金の設計に有効となる。
【0065】
上述した知見に基づいて提案される本実施の形態に係る水素製造用の触媒は、水素含有化合物であるアンモニアボラン(NHBH)からから水素を生成するために用いられる水素製造用の触媒であって、強磁性のコバルト(Co)と鉄系の金属であるニッケル(Ni)及び鉄(Fe)のいずれ一方を含有した磁性合金であって、Coを48~99wt%含有し、鉄系金属を1~52wt%含有して構成され、この合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントがボーア磁子単位で1.1~2.3の範囲としたものである。
【0066】
本実施の形態に係る磁性合金は、前述した知見に基づき、Coを48~99wt%含有し、強磁性金属を1~52wt%の範囲で含有することにより、この合金を構成する合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントをボーア磁子単位で1.1~2.3μBとすることができる。
【0067】
磁性合金は、上述の含有範囲でCoと他の強磁性金属を含有して構成することにより、アンモニアボランからから水素を生成するための触媒として用いたとき、実用的な速度で水素の生成を行うことができた。
【0068】
少なくとも1原子当たりの平均磁気モーメントをボーア磁子単位で1.1μB以上とすることにより、Coの使用量を大きく削減しながら、実用的な速度での水素の生成を行うことができる。
【0069】
また、1原子当たりの平均磁気モーメントをボーア磁子単位で2.3μBを実現することにより、大きな速度での水素生成を実現しながらCoの使用量を削減することができる。
【0070】
そして、Coと、Ni及びFeのいずれ一方を含有して構成した磁性合金は、前述したシミュレーションの結果から、Coの含有割合が48Wt%を以下であると、この磁性合金を構成する成分としての合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントがボーア磁子単位で1.1μB以上とすることが困難となり、アンモニアボランから実用的な速度で水素を生成するための触媒として用いることができない。
【0071】
また、Coの含有割合が99Wt%を超えると、十分に大きく且つ実用的な速度でアンモニアボランから水素生成を行うことができるが、Coの使用量の削減を図る目的を達成することが困難となる。
【0072】
本実施の形態に係る水素製造用磁性触媒として用いられる磁性合金は、コバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液と、ニッケルイオンを含む酢酸ニッケルの水溶液及び鉄イオンを含む硝酸鉄の水溶液のいずれか一方を混合した混合水溶液を用いて作製される。
【0073】
CoとFeを含有する磁性合金は、酢酸コバルトの水溶液と硝酸鉄の水溶液を混合した混合水溶液が用いて作製される。この混合水溶液は、コバルト成分を99~47mol%含有し、鉄成分を1~53mol%含有するように、酢酸コバルトの水溶液と前記硝酸鉄の水溶液とを混合して作製される。
【0074】
また、CoとNiを含有する磁性合金は、酢酸コバルトの水溶液と酢酸ニッケルの水溶液を混合した混合水溶液が用いて作製される。この混合水溶液は、コバルト成分を99~48mol%含有し、ニッケル成分を1~52mol%含有するように、酢酸コバルトの水溶液と硝酸鉄の水溶液とを混合して作製される。
【0075】
上述したように各成分を混合した混合水溶液は、蒸発乾固若しくは噴霧乾燥されることにより乾燥物が生成される。ここで得られた乾燥物は、酸化物に熱分解される。乾燥物の酸化物への熱分解は、500℃~600℃の酸素雰囲気中で2時間程度保持することにより行われる。
【0076】
上記乾燥物を熱分解して作製された酸化物は、水素還元されることにより、粒径をナノメートル(nm)サイズの合金粒子の集合体である合金粉末として形成される。ここで、水素還元は、上述の工程で得られた酸化物を、750℃~850℃の水素雰囲気中、望ましくは800℃の水素雰囲気中で3時間程度保持することによって行われる。
【0077】
ここで、コバルト成分を99~50mol%含有し、鉄成分を1~53mol%含有するように酢酸コバルトの水溶液と硝酸鉄の水溶液を混合した水溶液を用いて作製される磁性合金は、Coを48~99wt%含有し、Feを1~52wt%含有して構成される。この磁性合金は、合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントがボーア磁子単位で約1.1~2.3μBの範囲とすることができる。
【0078】
また、コバルト成分を99~48mol%含有し、ニッケル成分を1~52mol%含有するように酢酸コバルトの水溶液と、酢酸ニッケルの水溶液を混合した水溶液を用いて作製される磁性合金は、Coを48~99wt%含有し、Niを1~52wt%含有して構成される。この磁性合金は、合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントをボーア磁子単位で約1.1~1.8μBの範囲とすることができる。
【0079】
本実施の形態により製造される磁性合金は、この合金を構成する合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントをボーア磁子単位で1.1~2.3μBとされるので、アンモニアボランの水溶液から水素を生成する触媒に用いて有用であり、Coの使用量の削減を図ることができる。
【0080】
本実施の形態に係る磁性合金は、この磁性合金が有する磁力が水溶液中に溶出されたプロトンに作用して水素の生成に寄与するものであるので、水溶液に溶解されたとき、水溶液中にプロトンを溶出する水素含有化合物から水素を生成するための触媒として用いることができる。
【0081】
特に本実施の形態に係る磁性合金は、前述したアンモニアボランのほか、ホウ素(B)をベースにした水溶性の水素含有化合物から水素を生成するための触媒に用いて有用である。
【0082】
なお、本実施の形態に係る水素製造用触媒として用いられる磁性金属は、酸化物の微粒子を担持体とし、この担持体の表面に分散担持するようにしてもよい。この担持体として酸化アルミニウム(Al)や二酸化ケイ素(SiO)等の酸化物を用いことができる。本実施の形態を構成する磁性金属は、担持体の表面に分散担持されることにより、分散性を向上でき、触媒活性を向上できる。
【実施例
【0083】
以下に、本書面で提案する水素製造用磁性触媒の具体的な実施例を示す。
【0084】
(実施例1)
実施例1は、水素含有化合物であるアンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒であって、Coを92.39wt%、Feを7.61wt%含有した磁性合金であって、以下のように、水熱合成によって生成される。
【0085】
この磁性合金は、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液と、鉄イオンを含む硝酸鉄水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、CoとFeがモル比で92:8となるように酢酸コバルトと硝酸鉄を混合して作製した。この混合水溶液は、蒸発乾固され乾燥物とされる。この乾燥物は500℃の酸素雰囲気中で2時間保持され酸化物に熱分解される。熱分解された酸化物は800℃の水素雰囲気中で2時間保持され水素熱還元され、室温での構造を最密六方格子(hcp)とし、ナノ粒子サイズの微細な合金粉末とされる。ここで得られた合金粉末は、Coを92.39wt%含有し、Feを7.61wt%含有する強磁性の磁性合金とされる。
【0086】
本実施例1に係るCoを92.39wt%、Feを7.61wt%含有して構成された磁性合金は、この磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの磁気モーメントがボーア磁子単位で1.818μBとし、価電子濃度が8.92とする。
【0087】
すなわち、Co-Fe合金を構成する純Feは、図4に示すように、原子の構造において、3dに6個と4sに2個の電子を有することにより価電子濃度は8とする。そして、純Coは、図4に示すように、3dに7個と4sに2個の電子を有することにより価電子濃度は9とする。
【0088】
そして、Coを92.39wt%、Feを7.61wt%含有する実施例1の磁性合金の価電子濃度は、磁性金属を構成する純Feと純Coの組成平均で定義することができ8.92である。そして、価電子濃度を8.92とする磁性合金の1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で1.818μBが示される。
【0089】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で1.818μBとして作製された実施例1に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0090】
そして、アンモニアボランから水素を生成するに当たり、まず、上記磁性合金の粉末を純水に混合し、磁性合金の混合液を準備する。
【0091】
純水に混合される磁性合金は、粒径を32μm以下に分級したものが用いられる。この粒径を32μm以下に分級された合金粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入される。合金粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、磁性合金含有の混合液とされる。
【0092】
磁性合金として、粒径を32μm以下に分級したものを用いることにより、水溶液中に混合される合金粒子の粒径の均一化が図られ、その表面積の均一化が図られる。合金粒子の粒径が均一化され、表面積が均一化されることにより、個々の合金粒子に磁気吸引されるプロトンも均一化され、磁性合金が溶解された水溶液中での水素生成の均一化を図ることができ、安定した水素生成を実現できる。
【0093】
そして、磁性合金の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に混合し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0094】
上述したようにして作製した磁性合金の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液2.5ml(図4参照)を加水分解した。
【0095】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
【0096】
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、4.195(L(H)min-1(mol of M)-1を達成する。なお、ここでMは、触媒としての磁性金属及び合金である。
【0097】
上述したように、1.818μBの磁気モーメントを有する本実施例1の磁性金属であって、直径を60nmとされた微粒子を含む磁性合金を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.04552nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させ、水素(H)ガスを生成する水素生成反応速度(RHER)を4.195(L(H)min-1(mol of M)-1とする実用化可能な速度での水素生成を実現した。
【0098】
ところで、酢酸コバルトと硝酸鉄を混合した混合水溶液を乾燥物とするための加熱処理工程と、この乾燥物を酸化処理した酸化物を水素還元する処理工程とを含む製造工程を経て作製される磁性金属は、粒径をナノ粒子サイズとした一定の粒径分布を有する微細な微粒子として作製される。
【0099】
そして、一定の粒径分布を有して作製された磁性金属を、アンモニアボランから水素を生成するための触媒として用いたとき、上述の臨界距離rcも、磁性金属を構成する合金粒子の粒径の分布幅に応じた分布幅をもつ。但し、構成する金属の種類、含有割合、作製方法を同様にして作成された磁性合金を触媒に用いたときの臨界距離rcの分布幅は、同様となる。
【0100】
したがって、単磁区を維持できる粒子径を60nmとした合金粒子を含む磁性合金を触媒として用いてアンモニアボランから水素を生成する生成工程をシミュレーションして求められた臨界距離rcは、プロトンを効率よく磁性金属に集合させるためのパラメータとし、触媒特性の相対比較に用いて好適であり、触媒設計に有効である。
【0101】
実施例1に係る磁性合金は、この磁性合金を構成するCoの一部をFeで置換することにより、資源量の乏しいCoの使用割合の削減を図りながら、アンモニアボラン等の水素含有化合物から効率のよい水素の生成を可能とする。
【0102】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と同様に、水素含有化合物であるアンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒であって、Coを96.02wt%、Niを3.98wt%含有した磁性合金であって、以下のように、水熱合成によって生成される。
【0103】
この磁性合金は、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液と、ニッケルイオンを含む酢酸ニッケル水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、CoとNiがモル比で96:4となるように酢酸コバルトと酢酸ニッケルを混合して作製した。この混合水溶液は、蒸発乾固され乾燥物とされる。この乾燥物は500℃の酸素雰囲気中で2時間保持され酸化物に熱分解される。熱分解された酸化物は800℃の水素雰囲気中で2時間保持され水素熱還元され、室温での構造を最密六方格子(hcp)とした微細な合金粉末とされる。ここで得られた合金粉末は、Coを96.02wt%含有し、Niを3.98wt%含有する強磁性の磁性合金とされる。
【0104】
本実施例2に係るCoを96.02wt%、Niを3.981wt%含有して構成された磁性合金は、この磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの磁気モーメントがボーア磁子単位で1.66μBとし、価電子濃度が9.04とする。
【0105】
すなわち、Co-Ni合金を構成する純Niは、図4に示すように、原子の構造において、3dに8個と4sに2個の電子を有することにより価電子濃度は10とする。そして、純Coは、図4に示すように、3dに7個と4sに2個の電子を有することにより価電子濃度は9とする。
【0106】
そして、Coを96.02wt%、Niを3.92wt%含有する実施例2の磁性合金の価電子濃度は、磁性金属を構成する純Niと純Coの組成平均で定義することができ8.92である。そして、価電子濃度を9.04とする磁性合金の1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で1.66μBが示される。
【0107】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で1.66μBとして作製された実施例2に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0108】
そして、アンモニアボランから水素を生成するに当たり、まず、上記磁性合金の粉末を純水に混合した磁性合金の混合液を準備する。
【0109】
純水に混合される磁性合金には、実施例1と同様に、粒径を32μm以下に分級し粒径の均一化が図られた合金粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された合金粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入される。合金粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、磁性合金含有の混合液とされる。
【0110】
そして、磁性合金の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に溶解し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0111】
上述したようにして作製した磁性合金の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液2.5ml(図4参照)を加水分解した。
【0112】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、3.441(L(H)min-1(mol of M)-1を達成する。なお、ここでMは、触媒としての磁性金属及び合金である。
【0113】
上述したように、1.66μBの磁気モーメントを有する本実施例2の磁性金属であって、直径を60nmとされた微粒子を含む磁性合金を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.04439nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させて水素(H)ガスを生成させる水素生成反応速度(RHER)を3.441(L(H)min-1(mol of M)-1とする実用化可能な速度での水素生成を実現した。
【0114】
実施例2に係る磁性合金は、この磁性合金を構成するCoの一部をNiで置換することにより、資源量の乏しいCoの使用割合の削減を図りながら、アンモニアボラン等の水素含有化合物から効率よく水素の生成を可能とする。
【0115】
(実施例3)
実施例3は、前記実施例と同様に、水素含有化合物であるアンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒であって、Coを92.03wt%、Niを7.97wt%含有した磁性合金であって、以下のように、水熱合成によって生成される。
【0116】
この磁性合金は、実施例2と同様に、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液と、ニッケルイオンを含む酢酸ニッケル水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、CoとNiがモル比で92:8となるように酢酸コバルトと酢酸ニッケルを混合して作製した。この混合水溶液は、前記実施例2と同様の工程及び条件で蒸発乾固され、この乾燥物を熱分解し、次いで水素熱還元されることによって、室温での構造を最密六方格子(hcp)とした微細な合金粉末とされる。ここで得られた合金粉末は、Coを92.03wt%含有し、Niを7.97wt%含有する強磁性の磁性合金とされる。
【0117】
本実施例3に係るCoを92.03wt%、Niを7.981wt%含有して構成された磁性合金は、この磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの磁気モーメントをボーア磁子単位で1.59μBとし、価電子濃度が9.08とする。
【0118】
Co-Ni合金を構成する純Niは、図4に示すように、原子の構造において、3dに8個と4sに2個の電子を有することにより価電子濃度は10とする。そして、純Coは、図4に示すように、3dに7個と4sに2個の電子を有することにより価電子濃度は9とする。
【0119】
そして、Coを92.03wt%、Niを7.98wt%含有する実施例3の磁性合金の価電子濃度は、磁性金属を構成する純Niと純Coの組成平均で定義することができ9.08である。そして、価電子濃度を9.08とする磁性合金の1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で1.59μBが示される。
【0120】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で1.59μBとして作製された実施例3に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0121】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で1.59μBとして作製された実施例3に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0122】
そして、アンモニアボランから水素を生成するに当たり、まず、上記磁性合金の粉末を純水に混合し、磁性合金の混合液を準備する。
【0123】
純水に混合される磁性合金には、前記各実施例と同様に、粒径を32μm以下に分級し粒径の均一化が図れた金属粉末が用いられる。この粒径が32μm以下に分級された合金粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入される。合金粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、磁性合金含有の混合液とされる。
【0124】
そして、磁性合金の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に溶解し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0125】
上述したようにして作製した磁性合金の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液を加水分解した。
【0126】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、2.523(L(H)min-1(mol of M)-1を達成する。
【0127】
上述したように、1.59μBの磁気モーメントを有する本実施例3の磁性金属であって、直径を60nmとされた微粒子を含む磁性合金を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.043755nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させて反応させて、水素(H)を生成する水素生成反応速度(RHER)を3.441(L(H)min-1(mol of M)-1とする実用化可能な速度での水素生成を実現した。
【0128】
実施例3に係る磁性合金は、この磁性合金を構成するCoの一部をNiで置換することにより、資源量の乏しいCoの使用割合の削減を図りながら、アンモニアボラン等の水素含有化合物から効率よく水素の生成を可能とする。
【0129】
(実施例4)
実施例4は、前記実施例1~3と同様に、水素含有化合物であるアンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒であって、Coを85.05wt%、Niを14.95wt%含有した磁性合金であって、以下のように、水熱合成によって生成される。
【0130】
この磁性合金は、実施例2、3と同様に、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液と、ニッケルイオンを含む酢酸ニッケル水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、CoとNiがモル比で85:15となるように酢酸コバルトと酢酸ニッケルを混合して作製した。この混合水溶液は、前記実施例2と同様の工程及び条件で蒸発乾固され、この乾燥物を熱分解し、次いで水素熱還元されることによって、室温での構造を最密六方格子(hcp)とした微細な合金粉末とされる。ここで得られた合金粉末は、Coを85.05wt%含有し、Niを14.95wt%含有する強磁性の磁性合金とされる。
【0131】
このCoを85.05wt%、Niを14.95wt%含有して構成された磁性合金は、この磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの磁気モーメントをボーア磁子単位で1.55μBとし、価電子濃度が9.15とする。
【0132】
すなわち、Coを85.05wt%、Niを14.9wt%含有する実施例4の磁性合金の価電子濃度は、磁性金属を構成する純Niと純Coの組成平均で定義することができ9.15である。そして、価電子濃度を9.15とする磁性合金の1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で1.55μBが示される。
【0133】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で1.55μBとして作製された実施例4に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0134】
まず、アンモニアボランから水素を生成するため、前記各実施例と同様に、上記磁性合金の粉末を純水に混合し、磁性合金の混合液を準備する。
【0135】
純水に混合される磁性合金には、32μm以下の粒径に分級され、粒径の均一化が図られたた合金粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された合金粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入される。合金粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、磁性合金含有の混合液とされる。
【0136】
そして、磁性合金の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に溶解し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0137】
上述したようにして作製した磁性合金の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液2.5mlを加水分解した。
【0138】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、1.1515(L(H)min-1(mol of M)-1を達成する。
【0139】
上述したように、1.55μBの磁気モーメントを有する本実施例4の磁性金属であって、直径を60nmとされた微粒子を含む磁性合金を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.043755nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)+、すなわち、プロトンを直径60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させ、水素(H)ガスを生成する水素生成反応速度(RHER)を1.515(L(H)min-1(mol of M)-1とする実用化可能な速度での水素生成を実現した。
【0140】
実施例4に係る磁性合金は、この磁性合金を構成するCoの一部をNiで置換することにより、資源量の乏しいCoの使用割合の削減を図りながら、アンモニアボラン等の水素含有化合物から効率よく水素の生成を可能とする。
【0141】
(実施例5)
実施例5は、前記実施例1~4と同様に、水素含有化合物であるアンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒であって、Coを50.10wt%、Niを49.90wt%含有した磁性合金であって、以下のように、水熱合成によって生成される。
【0142】
この磁性合金は、実施例2~4と同様に、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液と、ニッケルイオンを含む酢酸ニッケル水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、CoとNiがモル比で50:50となるように酢酸コバルトと酢酸ニッケルを混合して作製した。この混合水溶液は、前記実施例2~4と同様の工程及び条件で蒸発乾固され、この乾燥物を熱分解し、次いで水素熱還元されることによって、室温での構造を面心六方格子(fcc)とした微細な合金粉末とされる。ここで得られた合金粉末は、Coを50.10wt%含有し、Niを49.90wt%含有する強磁性の磁性合金とされる。
【0143】
本実施例5に係るCoを50.10wt%、Niを49.90wt%含有して構成された磁性合金の価電子濃度は、磁性金属を構成する純Niと純Coの組成平均で定義され9.5となる。そして、価電子濃度を9.5とする磁性合金の1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で1.18μBが示される。
【0144】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で1.18μBとして作製された実施例5に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0145】
そして、アンモニアボランから水素を生成するため、前記各実施例と同様に、上記磁性合金の粉末を純水に混合し、磁性合金の混合液を準備する。
【0146】
純水に混合される磁性合金には、粒径が32μm以下となるように分級され、粒径の均一化が図れた合金粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された合金粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入される。合金粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、磁性合金含有の混合液とされる。
【0147】
そして、磁性合金の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に溶解し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0148】
上述したようにして作製した磁性合金の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液を加水分解した。
【0149】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、1.515(L(H)min-1(mol of M)-1を達成する。
【0150】
上述したように、1.18μBの磁気モーメントを有する本実施例5の磁性金属であって、直径を60nmとされた微粒子を含む磁性合金を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.03966nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径を60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させ、水素(H)ガスを生成する水素生成反応速度(RHER)を1.515(L(H)min-1(mol of M)-1とする実用化可能な速度での水素生成を実現した。
【0151】
実施例5に係る磁性合金も、この磁性合金を構成するCoの一部を資源量が豊富なNiで置換することにより、資源量の乏しいCoの使用割合の削減を図りながら、アンモニアボラン等の水素含有化合物から効率よく水素の生成を可能とする。
【0152】
(実施例6)
実施例6は、前記実施例1と同様に、水素含有化合物であるアンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒であって、Coを85.67wt%、Feを14.33wt%含有した磁性合金であって、以下のように、水熱合成によって生成される。
【0153】
この磁性合金は、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液と、鉄イオンを含む硝酸鉄水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、CoとFeがモル比で85:15となるように酢酸コバルトと硝酸鉄を混合して作製した。この混合水溶液は、蒸発乾固され乾燥物とされる。この乾燥物は500℃の酸素雰囲気中で2時間保持され酸化物に熱分解される。熱分解された酸化物は800℃の水素雰囲気中で2時間保持され水素熱還元され、室温での構造を最密六方格子(hcp)とした微細な合金粉末とされる。ここで得られた合金粉末は、Coを86.67wt%含有し、Feを14.33wt%含有する強磁性の磁性合金とされる。
【0154】
本実施例6に係るCoを85.67wt%、Feを14.33wt%含有して構成された磁性合金は、この磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの磁気モーメントがボーア磁子単位で1.868μBとし、価電子濃度が8.85とする。
【0155】
すなわち、Coを85.67wt%、Feを14.33wt%含有する実施例6の磁性合金の価電子濃度は、磁性金属を構成する純Feと純Coの組成平均で定義することができ8.85である。そして、価電子濃度を8.85とする磁性合金の1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で1.818μBが示される。
【0156】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で1.818μBとして作製された実施例6に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0157】
そして、アンモニアボランから水素を生成するため、前記各実施例と同様に、上記磁性合金の粉末を純水に混合し、磁性合金の混合液を準備する。
【0158】
純水に混合される磁性合金には、粒径が32μm以下に分級され、粒径の均一化が図られた合金粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された合金粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入される。合金粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、磁性合金含有の混合液とされる。
【0159】
磁性合金の合金粉末として、粒径を32μm以下に分級したものを用いることにより、短時間で、純水に均一に溶解することができる。
【0160】
そして、磁性合金の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に混合し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0161】
上述したようにして作製した磁性合金の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液を加水分解した。
【0162】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
【0163】
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、2.247(L(H)min-1(mol of M)-1を達成する。
【0164】
上述したように、1.868μBの磁気モーメントを有する本実施例6の磁性金属であって、直径を60nmとされた微粒子を含む磁性合金を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.04602nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径を60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させ、水素(H)ガスを生成する水素生成反応速度(RHER)を2.247(L(H)min-1(mol of M)-1とする実用化可能な速度での水素生成を実現した。
【0165】
実施例6に係る磁性合金も、Coの一部をFeで置換し、資源量の乏しいCoの使用割合の削減を図りながら、アンモニアボラン等の水素含有化合物から効率よく水素の生成を可能とする。
【0166】
(実施例7)
実施例7は、前記実施例1、6と同様に、水素含有化合物であるアンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒であって、Coを66.21wt%、Feを33.79wt%含有した磁性合金であって、以下のように、水熱合成によって生成される。
【0167】
この磁性合金は、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液と、鉄イオンを含む硝酸鉄水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、コバルト(Co))と鉄(Fe)がモル比で65:35となるように酢酸コバルトと硝酸鉄を混合して作製した。この混合水溶液は、蒸発乾固され乾燥物とされる。この乾燥物は500℃の酸素雰囲気中で2時間保持され酸化物に熱分解される。熱分解された酸化物は800℃の水素雰囲気中で2時間保持され水素熱還元され、室温での構造を体心立方格子(bcc)とした微細な合金粉末とされる。ここで得られた合金粉末は、Coを66.21wt%含有し、Feを33.79wt%含有する強磁性の磁性合金とされる。
【0168】
本実施例7に係るCoを66.21wt%、Feを33.79wt%含有して構成された磁性合金は、この磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの磁気モーメントがボーア磁子単位で2.225μBとし、価電子濃度が8.65とする。
【0169】
すなわち、Coを66.21wt%、Feを33.79wt%含有する実施例7の磁性合金の価電子濃度は、磁性金属を構成する純Feと純Coの組成平均で定義することができ8.65である。そして、価電子濃度を8.65とする磁性合金の1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で2.225μBが示される。
【0170】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で2.225μBとして作製された実施例6に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0171】
そして、アンモニアボランから水素を生成するため、前記各実施例と同様に、上記磁性合金の粉末を純水に混合し、磁性合金の混合液を準備する。
【0172】
純水に混合される磁性合金には、粒径が32μm以下に分級され、粒径の均一化が図られた合金粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された合金粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入される。合金粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、磁性合金含有の混合液とされる。
【0173】
そして、磁性合金の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に混合し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0174】
上述したようにして作製した磁性合金の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液2.5ml(図4参照)を加水分解した。
【0175】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
【0176】
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、1.737(L(H)min-1(mol of M)-1を達成する。
【0177】
上述したように、2.225μBの磁気モーメントを有する本実施例7の磁性金属であって、直径を60nmとされた微粒子を含む磁性合金を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.0486nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させ、水素(H)ガスを生成する水素生成反応速度(RHER)を2.247(L(H)min-1(mol of M)-1とする実用化可能な速度での水素生成を実現した。
【0178】
実施例7に係る磁性合金も、Coの一部をFeで置換し、資源量の乏しいCoの使用割合の削減を図りながら、アンモニアボラン等の水素含有化合物から効率よく水素の生成を可能とする。
【0179】
(実施例8)
実施例8は、前記実施例1、6、7と同様に、アンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用磁性触媒であって、Coを48.65wt%、Feを51.38wt%含有した磁性合金であって、以下のように、水熱合成によって生成される。
【0180】
この磁性合金は、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液と、鉄イオンを含む硝酸鉄水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、CoとFeがモル比で50:50となるように酢酸コバルトと硝酸鉄を混合して作製した。この混合水溶液は、蒸発乾固され乾燥物とされる。この乾燥物は500℃の酸素雰囲気中で2時間保持され酸化物に熱分解される。熱分解された酸化物は800℃の水素雰囲気中で2時間保持され水素熱還元され、室温での構造を体心立方格子(bcc)とした微細な合金粉末とされる。ここで得られた合金粉末は、Coを48.65wt%含有し、Feを51.38wt%含有する強磁性の磁性合金とされる。
【0181】
本実施例8に係るCoを48.65wt%、Feを51.38wt%含有して構成された磁性合金は、この磁性合金を構成する合金粒子の1原子当たりの磁気モーメントがボーア磁子単位で2.288μBとし、価電子濃度が8.5とする。
【0182】
すなわち、Coを48.65wt%、Feを51.38wt%含有する実施例7の磁性合金の価電子濃度は、磁性金属を構成する純Feと純Coの組成平均で定義することができ8.5である。そして、価電子濃度を8.5とする磁性合金の1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で2.288μBが示される。
【0183】
上述したように磁気モーメントをボーア磁子単位で2.288μBとして作製された実施例6に係る磁性合金を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0184】
なお、本実施例8に係る磁性合金は、前記各実施例と同様に、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)を生成する触媒として用いるため、アンモニアボランが溶解された水溶液中に溶解されたとき、アンモニアボランから放出されこの水溶液中でブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンを磁気吸引して磁気的影響を与えるに足る臨界距離rcまで確実に接近可能な大きさとされた合金粒子を含むものが用いられる。
【0185】
望ましくは、本実施例8に係る磁性合金は、アンモニアボランから水素を生成するための触媒として用いられるときに、水溶液中でブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンに磁気影響を与え磁気吸引し得る臨界距離rcを実現するため、前述したシミュレーションで示したように、直径を60nm以下とする微粒子を含むものを用いることが望ましい。」
【0186】
そして、アンモニアボランから水素を生成するため、前記各実施例と同様に、上記磁性合金の粉末を純水に混合し、磁性合金の混合液を準備する。
【0187】
純水に混合される磁性合金には、粒径が32μm以下に分級され、粒径の均一化が図られた合金粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された合金粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入される。合金粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、磁性合金含有の混合液とされる。
【0188】
磁性合金の合金粉末として、粒径を32μm以下に分級したものを用いることにより、短時間で、純水に均一に溶解することができる。
【0189】
そして、磁性合金の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に溶解し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0190】
上述したようにして作製した磁性合金の混合液と、前記アンモニアボランの水溶液を混合し、この混合水溶液を加水分解した。
【0191】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
【0192】
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、1.585(L(H)min-1(mol of M)-1を達成する。
【0193】
上述したように、2.288μBの磁気モーメントを有する本実施例8の磁性金属であって、直径を60nmとされた微粒子を含む磁性合金を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.0489nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させ、水素(H)ガスを生成する水素生成反応速度(RHER)を1.585(L(H)min-1(mol of M)-1とする実用化可能な速度での水素生成を実現した。
【0194】
実施例8に係る磁性合金は、Feの含有割合を大きくし、Coの削減を大きくしながらアンモニアボラン等の水素含有化合物から効率よく水素の生成を可能とすることにより、コスト削減に好適である。
【0195】
(比較例1)
比較例1は、純Niの金属粉末をアンモニアボランから水素を生成するための触媒として用いて水素の生成を行った。
【0196】
ここで触媒として用いる純Niの金属粉末は、ニッケルイオンを含む酢酸ニッケル水溶液を蒸発乾固し、この乾燥物を熱分解して酸化物を作製し、この熱分解した酸化物を水素熱還元して作製される。ここで作製された、純Niの金属粉末は、室温での構造を面心立方格子(fcc)されている。
【0197】
純Niの金属粉末は、Niがその原子の構造において、3dに8個、4sに2個の電子を有することにより、図4に示すように、価電子濃度は10とする。
【0198】
そして、価電子濃度を10とするNiの1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で0.6μBとする。
【0199】
ここで得られた純Niの金属粉末を触媒に用いて、以下の手順に従ってアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0200】
なお、純Niの金属粉末は、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)を生成する触媒として用いるため、アンモニアボランが溶解された水溶液中に溶解されたとき、アンモニアボランから放出されこの水溶液中でブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンを磁気吸引して磁気的影響を与えるに足る臨界距離rcまで確実に接近可能な大きさとされたNi粒子を含むものが用いられる。
【0201】
この純Niの金属粉末は、アンモニアボランから水素を生成するための触媒として用いられるときに、水溶液中でブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンに磁気影響を与え磁気吸引し得る臨界距離rcを実現するため、前述したシミュレーションで示したように、直径を60nm以下とする微粒子を含むものが用いられる。
【0202】
そして、アンモニアボランから水素を生成するため、前記各実施例と同様に、純Niの金属粉末を純水に混合した混合液を準備する。
【0203】
純水に混合される純Niの金属粉末として、粒径を32μm以下に分級した粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された金属粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入した。純Niの金属粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、純NI金属粉末含有の混合液とされる。
【0204】
そして、純Niに金属粉末の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に溶解し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0205】
上述したよう作製した純Niからなる金属粉末の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液を加水分解した。
【0206】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、1.199(L(H)min-1(mol of M)-1であった。
【0207】
上述したように、1.199μBの磁気モーメントを有する純Niの金属粉末であって、直径を60nmとされた微粒子を含む金属粉末を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.031745nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させ、水素(H)ガスを生成する水素生成反応速度(RHER)を1.199(L(H)min-1(mol of M)-1であった。
【0208】
純Niからなる金属粉末の磁気モーメントは0.6μBと小さく、プロトンが前述のブラウン運動から純Niの金属粒子に吸引指される接近軌道に変化するの臨界距離Rcも小さく、その結果、水素生成反応速度(RHER)も、前記実施例1~8に示す磁性金属に小さく、水素含有化合物から水素を生成するための触媒に用いるには実用的でない。
【0209】
(比較例2)
比較例2は、純Feの金属粉末をアンモニアボランから水素を生成するための触媒として用いて水素の生成を行った。
【0210】
ここで触媒として用いる純Feの金属粉末は、鉄イオンを含む硝酸鉄水溶液を蒸発乾固し、この乾燥物を熱分解して酸化物を作製し、この熱分解した酸化物を水素熱還元して作製される。ここで作製された、純Feの金属粉末は、室温での構造を体心立方格子(bcc)とされている。純Feの金属粉末は、図4に示すように、Feの原子の構造において、3dに6個、4sに2個の電子を有することにより価電子濃度は8とする。
【0211】
そして、価電子濃度を8とするFeの1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で2.2μBとする。
【0212】
この金属粉末を触媒に用いて、以下の手順にしたがってアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0213】
なお、純Feの金属粉末は、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)を生成する触媒として用いるため、アンモニアボランが溶解された水溶液中に溶解されたとき、アンモニアボランから放出されこの水溶液中でブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンを磁気吸引して磁気的影響を与えるに足る臨界距離rcまで確実に接近可能な大きさとされたFe粒子を含むものが用いられる。
【0214】
本例において、純Feの金属粉末は、水溶液中でブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンに磁気影響を与え磁気吸引し得る臨界距離rcを実現するため、前述したシミュレーションで示したように、直径を60nm以下とする微粒子を含むものが用いられる。
【0215】
そして、アンモニアボランから水素を生成するため、前記比較例1と同様に、純Feの金属粉末を純水に溶解した混合液を準備する。
【0216】
純水に混合される純Feの金属粉末として、粒径が32μm以下に分級され、粒径の均一化が図られた粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された金属粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入した。純Niの金属粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、純NI金属粉末含有の混合液とされる。
【0217】
そして、純Feに金属粉末の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に混合し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0218】
上述したよう作製した純Niからなる金属粉末の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液を加水分解した。
【0219】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、1.071(L(H)min-1(mol of M)-1であった。
【0220】
上述したように、2.2μBの磁気モーメントを有する純Feの金属粉末であって、直径を60nmとされた微粒子を含む金属粉末を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.04776nmとし、この臨界距離rc以内に存在するプロトンを純Feの金属粒子に接近させ、水素(H)ガスを生成した。このときの水素生成反応速度(RHER)は、1.071(L(H)min-1(mol of M)-1であった。
【0221】
純Feからなる金属粉末は、磁気モーメント2.2μmとし、臨界距離rcを0.04776nmとし、前記実施例1及び実施例6~8のFe-Coからなる磁性金属と同等若しくはそれ以上に大きな磁気モーメントと臨界距離rcを有しながら水素生成反応速度(RHER)は、前記実施例1~8に係る磁性合金に比し小さいものであった。
【0222】
純Feの金属粉末を触媒に用いたとき、アンモニアボランから水素を生成する過程において赤錆の発生がみられた。これは、純Feが酸素との親和性が大きく、アンモニアボランから水素を生成する過程で酸化が進み触媒機能を劣化させたものとみられる。
【0223】
そのため、純Feの金属粉末は、理論上大きな大きな磁気モーメントと臨界距離を有しながら、アンモニアボランを含む水素含有化合物から水素を生成するための触媒として用いことができない。
【0224】
(比較例3)
比較例3として、純Coの金属粉末を触媒に用いてアンモニアボランから水素を生成した例を示す。
【0225】
ここで触媒として用いる純Coの金属粉末は、コバルトイオンを含む酢酸コバルト水溶液を蒸発乾固し、この乾燥物を熱分解して酸化物を作製し、この熱分解した酸化物を水素熱還元して作製される。ここで作製された、純Coの金属粉末は、室温での構造を最密六方格子(hcp)とされている。純Coの金属粉末は、図4に示すように、Coの原子構造において、3dに7個と4sに2個の電子を有することにより価電子濃度を9とする。
【0226】
そして、価電子濃度を9とするCoの1原子当たりの磁気モーメントは、図4に示すスレーター・ポーリング磁気モーメント曲線からボーア磁子単位で1.7μBとする。
【0227】
磁気モーメントをボーア磁子単位で1.7μBとする純Coの金属粉末を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した
【0228】
なお、純Coの金属粉末は、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)を生成する触媒として用いるため、アンモニアボランが溶解された水溶液中に溶解されたとき、アンモニアボランから放出されこの水溶液中でブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンを磁気吸引して磁気的影響を与えるに足る臨界距離rcまで確実に接近可能な大きさとされたCo粒子を含むものが用いられる。
【0229】
本例において、純Coの金属粉末は、ブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡にあるプロトンに磁気影響を与え磁気吸引し得る臨界距離rcを実現するため、前述したシミュレーションで示したように、直径を60nm以下とする微粒子を含むものが用いられる。
【0230】
そして、アンモニアボランから水素を生成するため、前記各実施例と同様に、純Coの金属粉末を純水に混合した混合液を準備する。
【0231】
純水に混合される純Coの金属粉末として、粒径を32μm以下に分級した粉末が用いられる。この粒径を32μm以下に分級された金属粉末を20mg計量し、1.0mlの純水に投入した。純Coの金属粉末が投入された純水は、スターラーを用いて攪拌され、純NI金属粉末含有の混合液とされる。
【0232】
そして、純Coに金属粉末の混合液とともに、アンモニアボランの水溶液を作製する。アンモニアボランの水溶液は、0.5mmolのアンモニアボランの粉末を1.5mlの純水に溶解し、アンモニアボランの水溶液を作製した。
【0233】
上述したよう作製した純Niからなる金属粉末の混合液1.0mlと、前記アンモニアボランの水溶液1.5mlを混合し、この混合水溶液を加水分解した。
【0234】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定した。この体積を、触媒として用いた本実施例の磁性金属1mol当たりに換算した。水素(H)ガスの発生量を時間の変化で評価し、水素生成反応速度(RHER)を評価した。
【0235】
なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果によると、水素生成反応速度(RHER)は、図4に示すように、1.071(L(H)min-1(mol of M)-1であった。
【0236】
上述したように、2.2μBの磁気モーメントを有する純Coの金属粉末であって、直径を60nmとされた微粒子を含む金属粉末を水素製造用触媒に用いることにより、前述した水素生成のシミュレーションで示したように、アンモニアボランの水溶液と磁性金属の水溶液を混合した混合水溶液中のプロトンのブラウン運動によるランダムウォーキング軌跡から磁性金属への接近軌道に変化する臨界距離rcを0.04776nmとし、この臨界距離rc以内に存在する水素イオン(H)、すなわち、プロトンを直径60nmとする微細な合金粒子を含む磁性金属に接近させ、水素(H)ガスを生成する水素生成反応速度(RHER)は3.646(L(H)min-1(mol of M)-1であった。
【0237】
純Coの金属粉末は、十分に実用可能な水素生成速度でアンモニアボランから水素を生成することができ、水素生成用の触媒に用いて有用である。
【0238】
純Coの金属粉末は、水性生成用の触媒として有用であるが、触媒の全部を資源量が逼迫するCoを用いるため、Coの使用量の削減を行うことができないばかりか、高価になってしまう。
【0239】
(実施例と比較例の評価)
ここで、本実施例の磁性金属と比較例に示す金属粉末を触媒として用いて、アンモニアボランから水素を生成したときの生成能力について対比評価する。
【0240】
前述した実施例1~8の磁性合金と比較例1~3の純金属をそれぞれ触媒として用いたときの水素生成速度(RHER)は、前述したように図4に示される。実施例1~8において、実施例1の磁性金属を触媒として用いたとき、水素生成反応速度(RHER)が最も大きかった。
【0241】
そして、実施例1のFe-Coの合金からなる磁性金属と、この実施例1の磁性金属と同種のFe-Coの合金からなる実施例6~8の磁性合金は、Feの含有量の増加に伴い水素生成反応速度(RHER)を減少させた。
【0242】
実施例1及び実施例6~8の磁性金属のうち、Feの含有割合が最も大きな実施例8に係る磁性金属の磁気モーメントと臨界距離rcが最大であった。
【0243】
一方、比較例2で示した純鉄(Fe)からなる金属粉末の磁気モーメントは、実施例8の磁性金属とほぼ同等の2.2μBを有し、臨界距離rcも実施例6~8の磁性金属とほぼ同等の0.04776nmを有する。
【0244】
このように、純鉄(Fe)の金属粉末は、実施例1及び実施例6~8の磁性金属と同等若しくはそれ以上に大きな磁気モーメントと臨界距離rcを有する。
【0245】
さらには、実施例2~5のNi-Coの合金からなる磁性合金以上の磁気モーメントと臨界距離rcを有する。
【0246】
しかし、比較例2の純鉄(Fe)の金属粉末は、酸素との親和性が高く、アンモニアボランから水素を生成する過程で赤錆の発生が観察され、水素生成反応速度(RHER)を劣化させ、水素生成の触媒として用いることができない。
【0247】
このように、Coの一部をFeやNi等の鉄系の金属で置換した磁性合金を水素生成用の触媒として用いる場合、磁気モーメントと臨界距離rcのみによって評価できない。
【0248】
この種の磁性合金を水素生成用の触媒として用いる場合、水素生成の過程で、酸化するなどして、触媒機能を劣化させないことが望まれる。
【0249】
特に、酸素との親和性が高く酸化しやすいFeでCoの一部を置換した磁性合金を触媒に用いる場合には、水素生成に要求される磁気モーメントと臨界距離rcのみに着目することなく、水素生成の過程で触媒としての機能を劣化させる要因も考慮する必要がある。
【0250】
そのため、Fe-Coからなる磁性合金を水素生成用触媒とするときには、水素生成の過程で酸化して錆、特に赤錆を生じさせないように構成することが望ましい。
【0251】
ここで提案するFe-Coからなる磁性金属にあっては、Feの含有割合を全重量比で50wt%以下にすることが望ましい。前記実施例8の磁性金属は、Feの含有割合を全重量比で48.65wt%とするが、水素生成の過程で水素生成速度(RHER)を著しく劣化させるような酸化による錆の発生は確認できなかった。
【0252】
なお、Fe-Coからなる磁性金属にあっては、Feの含有割合を全重量比で52wt%%とするとき、平均磁気モーメントは2.3μBとなる。
【産業上の利用可能性】
【0253】
本発明に係る水素製造用触媒として用いられる磁性合金は、親水であるので、アンモニアボランを純水に混合溶解して加水分解する際の触媒として有用である。
【要約】
【課題】
触媒金属とHイオン(プロトン)の磁気的相互作用に着目し、安価に、しかも安定して入手、あるいは供給可能な新規な水素製造用触媒を提供する。
【解決手段】
水素含有化合物であるアンモニアボラン(NHBH)からから水素を生成するために用いられる水素製造用の触媒であって、強磁性のコバルト(Co)と鉄系の金属であるニッケル(Ni)及び鉄(Fe)のいずれ一方を含有した磁性合金であって、Coを48~99.7wt%含有し、鉄系金属を0.3~52wt%含有して構成され、この磁性合金の成分である合金粒子の1原子当たりの平均磁気モーメントがボーア磁子単位で1.1~2.3の範囲とする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4