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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
F16H7/08 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019108589
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020200895
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】石川 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 修
(72)【発明者】
【氏名】榑松 勇二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将成
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-125430(JP,A)
【文献】特開2018-165571(JP,A)
【文献】特開2001-012569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方側に開口したプランジャ穴を有するプランジャと、前記プランジャを摺動可能に収容する前方側に開口したプランジャ収容穴を有するハウジングと、前記プランジャと前記プランジャ収容穴の間に形成される圧油室に伸縮自在に収納され前記プランジャを前方側に向けて付勢するメイン付勢手段と、前記圧油室内のオイル圧が高まった時に前記圧油室内のオイルを前記プランジャの外部にリリーフするリリーフ機構とを備えたテンショナであって、
前記リリーフ機構は、前記プランジャ穴内を前記圧油室と調整空間とに区画するとともに前記圧油室および前記調整空間を連通させる内部リリーフ孔が形成された区画部と、前記プランジャに形成され前記調整空間を外部空間と連通する外部リリーフ孔と、少なくとも一部が前記内部リリーフ孔内に位置された状態で前後方向に摺動可能に配置されたピストンと、前記ピストンを前記圧油室側に向けて付勢するピストン付勢手段と、前記ピストン付勢手段によって前方側に向けて付勢されて配置され前記ピストンの前記調整空間側への移動を規制するピストン規制部材とを備え、
前記ピストン規制部材は、前記調整空間から前記外部リリーフ孔を介して排出されるオイルの量を規制可能なオリフィス機能を有し、
前記外部リリーフ孔は、前記プランジャ穴の前方側の天面に開口するように形成されており、
前記ピストン規制部材は、前記プランジャ穴の前方側の天面と当接する面と前記調整空間側の面とを連通する連通部と、前記天面と当接する面に設けられ前記連通部より流路面積が小さいオリフィス溝とを有し、
前記オリフィス溝は、前記ピストン規制部材が前記ピストン付勢手段によって前記プランジャ穴の前方側の天面に押し付けられることで前記連通部及び前記外部リリーフ孔と連通してオリフィスを構成するように形成されていることを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記ピストン付勢手段がコイルバネよりなり、
前記ピストン規制部材は、前記調整空間側の面に連続して後方側に向けて延びるように形成された軸部を有し、前記軸部が前記コイルバネの内周側に位置されるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記ピストンは、前記内部リリーフ孔内に配置される本体部と、前記本体部の前端側に設けられたフランジ部とを有し、
前記フランジ部は、前記ピストンの移動によって前記調整空間の容積が変化するように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記プランジャは、円筒状のプランジャ本体と、前記プランジャ本体の前端側に取り付けられたキャップ部材とを備え、前記外部リリーフ孔が前記キャップ部材に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のテンショナ。
【請求項5】
前記ピストン規制部材が樹脂材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行するチェーンやベルト等に適正張力を付与するテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、チェーン等の張力を適正に保持するためにテンショナを用いることが慣用されている。例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンをテンショナレバーによって摺動案内を行なうチェーンガイド機構において、チェーン等の張力を適正に保持するために、テンショナによってテンショナレバーを付勢するものが公知である。
【0003】
このようなチェーンガイド機構に用いられる公知のテンショナとして、図9に示すように、後方側に開口したプランジャ穴421を有するプランジャ420と、プランジャ420を収容する前方側に開口したプランジャ収容穴431を有するハウジング430と、プランジャ420およびプランジャ収容穴431の間に形成される圧油室411に伸縮自在に収納されプランジャ420を前方側に向けて付勢するメイン付勢手段445と、圧油室411内のオイル圧を調整する圧力調整機構480とを備えたテンショナ410が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
この特許文献1に記載のテンショナ410では、圧力調整機構480は、円筒状のシリンダ内周面482を有したシリンダ部481と、シリンダ部481内に設置されプランジャ420およびハウジング430の間に形成される空間を圧油室411と調整空間412とに区画するピストンユニット485と、ピストンユニット485を圧油室411側に向けて付勢するピストンスプリング486と、ピストンユニット485の調整空間412側への移動を規制する第1規制部483と、ピストンユニット485の圧油室411側への移動を規制する第2規制部484を備えている。
また、プランジャ420が、プランジャ穴421を有した円筒状のプランジャ本体422と、プランジャ本体422の前端側に取り付けられプランジャ穴421の前端側の底部を構成するキャップ部材426とから構成されている。キャップ部材426には、調整空間412とプランジャ420の外部を連通させる外部リリーフ孔427が形成されている。
【0005】
そして、このテンショナ410では、圧油室411内のオイル圧が上昇した際に、ピストンユニット485が調整空間412側に移動するとともに圧油室411内のオイルがシリンダ部481とピストンユニット485との間の微小間隙を介して調整空間412内に流入することで、圧油室411内のオイル圧の安定化を図っている。また、調整空間412内のオイルは、キャップ部材426に設けられた外部リリーフ孔427から適時排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-165571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載のテンショナ410では、圧油室411内のオイル圧が過大になり、過大なチェーン張力を与えることは抑制できるものの、チェーンバタつき等に起因する大きな衝撃荷重によりプランジャ420が大きく押し戻された場合には、外部リリーフ孔427がシリンダ部481とピストンユニット485との間の微小間隙よりはるかに大きい流路面積を有するため、調整空間412にオイルが充満した状態であっても、圧油室411のオイル圧上昇に伴うピストンユニット485の移動によりオイルが速やかに外部に排出され、オイルによる減衰効果を充分に得ることができない。すなわち、プランジャ420はチェーンからの衝撃荷重に追従して往復動し、ピストンスプリング486の押圧力以外の反力(プランジャ420の押し付け力)を発揮することができず、チェーンバタつきの発生あるいはチェーンの押し過ぎによる騒音の発生や、チェーンと走行面におけるフリクション性が悪化するといった問題があることが判明した。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決するものであり、圧油室内のオイル圧を安定させることができ、しかも、衝撃荷重に対して適切な反力、減衰力が安定して発揮されチェーンバタつきや騒音の発生を抑制することのできるテンショナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、後方側に開口したプランジャ穴を有するプランジャと、前記プランジャを摺動可能に収容する前方側に開口したプランジャ収容穴を有するハウジングと、前記プランジャと前記プランジャ収容穴の間に形成される圧油室に伸縮自在に収納され前記プランジャを前方側に向けて付勢するメイン付勢手段と、前記圧油室内のオイル圧が高まった時に前記圧油室内のオイルを前記プランジャの外部にリリーフするリリーフ機構とを備えたテンショナであって、前記リリーフ機構は、前記プランジャ穴内を前記圧油室と調整空間とに区画するとともに前記圧油室および前記調整空間を連通させる内部リリーフ孔が形成された区画部と、前記プランジャに形成され前記調整空間を外部空間と連通する外部リリーフ孔と、少なくとも一部が前記内部リリーフ孔内に位置された状態で前後方向に摺動可能に配置されたピストンと、前記ピストンを前記圧油室側に向けて付勢するピストン付勢手段と、前記ピストン付勢手段によって前方側に向けて付勢されて配置され前記ピストンの前記調整空間側への移動を規制するピストン規制部材とを備え、前記ピストン規制部材は、前記調整空間から前記外部リリーフ孔を介して排出されるオイルの量を規制可能なオリフィス機能を有し、前記外部リリーフ孔は、前記プランジャ穴の前方側の天面に開口するように形成されており、前記ピストン規制部材は、前記プランジャ穴の前方側の天面と当接する面と前記調整空間側の面とを連通する連通部と、前記天面と当接する面に設けられたオリフィス溝とを有し、前記オリフィス溝は、前記ピストン規制部材が前記ピストン付勢手段によって前記プランジャ穴の前方側の天面に押し付けられることで前記連通部及び前記外部リリーフ孔と連通してオリフィスを構成するように形成された構成とされることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
本請求項1に係る発明によれば、ピストンの移動に伴って調整空間から排出されるオイルの量がオリフィス機能を備えたピストン規制部材によって規制されるため、オイルによる減衰効果を確実に得ることができる。これにより、圧油室内のオイル圧を安定させることができるとともにプランジャの移動量(振幅)や速度に応じてピストンユニットの挙動を安定させること、すなわちテンショナの反力(プランジャの押し付け力)を最適化することができる。したがって、チェーンバタつきの発生あるいはチェーンの押し過ぎによる騒音の発生やチェーンと走行面におけるフリクション性の悪化を抑制することができる。
また、ピストンの移動に伴って調整空間から排出されるオイルの量がオリフィスを構成するオイル排出路の流路抵抗に応じて規制されるため、オイルによる減衰効果を一層確実に得ることができる。
また、ピストン規制部材がプランジャ穴の天面と当接されることによりオイル排出路が形成されるため、外部リリーフ孔の形成位置や連通部から外部リリーフ孔に至るオイル排出路についての構造上の制約が緩和され、高い設計自由度を得ることができる。
【0011】
本請求項2に係る発明によれば、ピストン付勢手段を構成するコイルバネの径を大きく設計することが可能であるため、コイルバネの姿勢の安定性を確保できるとともに、コイルバネによる付勢力を大きく設計することもでき、プランジャ穴の前方側の天面とピストン規制部材の前端面との間に隙間が生ずることを確実に回避することができる。
本請求項3に係る発明によれば、オイル排出量がオリフィスにより規制されているため、ピストンが圧油室から離間する方向に向けて移動して調整空間の容積が減少する時にオイルによる減衰効果を確実に得ることができる。
【0013】
本請求項4に係る発明によれば、プランジャ本体を前方側および後方側の両側から加工することが可能であるため、プランジャ本体を容易に製造することができ、また、プランジャ本体の前方側からピストン等の構成部材をプランジャ本体内に設置することが可能であるため、部品の組み付けを容易に達成することができる。
【0014】
本請求項5に係る発明によれば、ピストン規制部材が樹脂材料からなることにより、ピストンとの接触時の衝撃を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のテンショナを組み込んだタイミングシステムを示す説明図である。
図2】本発明のテンショナの一構成例を示す斜視図である。
図3図2に示すテンショナをプランジャの中心軸を含む取付面に平行な平面で切断したときの断面図である。
図4図3の一部を概略的に示す拡大断面図である。
図5図1に示すテンショナにおけるピストン規制部材の構成を示す基体部の一面側から見た斜視図である。
図6】圧油室のオイル圧が上昇した時のリリーフ機構の状態を示す断面図である。
図7】ピストン規制部材の他の構成例を示す基体部の一面側から見た斜視図である。
図8】ピストン規制部材のさらに他の構成例を示す基体部の一面側から見た斜視図である。
図9】従来のテンショナの一構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のテンショナについて、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明のテンショナ110は、複数のスプロケットS1~S3に掛け回された伝動チェーンCHの弛み側にテンショナレバーGを介して適正な張力を付与し、走行時に生じる振動を抑止するために、自動車エンジンのタイミングシステム等に用いられるチェーン伝動装置に組み込まれるものであって、エンジンブロック(図示しない)に取り付けられる。
【0017】
図2は、本発明のテンショナの一構成例を示す斜視図である。図3は、図2に示すテンショナをプランジャの中心軸を含む取付面に平行な平面で切断したときの断面図である。
このテンショナ110は、後方側に開口したプランジャ穴121を有するプランジャ120と、プランジャ120を摺動可能に収容する前方側に開口したプランジャ収容穴131を有するハウジング130と、プランジャ120とプランジャ収容穴131との間に形成される圧油室111に伸縮自在に収納されプランジャ120を前方側に向けて付勢するメイン付勢手段145と、圧油室111内のオイル圧が高まった時に圧油室111内のオイルをプランジャ120の外部にリリーフするリリーフ機構150とを備えている。
【0018】
本実施形態のプランジャ120は、鉄等の金属からなる円筒状のプランジャ本体122と、プランジャ本体122の前端側に取り付けられ合成樹脂や金属等からなるキャップ部材126とにより構成されている。
【0019】
プランジャ本体122には、プランジャ穴121内を圧油室111と調整空間112とに区画するとともに圧油室111および調整空間112を連通させる内部リリーフ孔125が形成された区画部123が形成されている。
区画部123は、プランジャ本体122の中心軸上において円柱状の内部リリーフ孔125を形成するようにプランジャ穴121の内周壁から内周側に環状に突出する環状凸部124が形成されることで構成されている(図4参照。)。環状凸部124は軸方向の中央付近に形成されているが、環状凸部124の形成位置は特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
本実施形態のテンショナ110においては、環状凸部124に対して前方側に位置される空間によって調整空間112が形成され、環状凸部124に対して後方側に位置される空間とプランジャ収容穴131とによって形成される空間によって圧油室111が形成されている。
【0020】
キャップ部材126は、プランジャ穴121の前方側の天面を構成するキャップ部材126の内面に開口するように形成され調整空間112とテンショナ110の外部空間とを連通させる外部リリーフ孔127を有する。外部リリーフ孔127は、例えばプランジャ120の中心軸上において軸方向に延びるように形成された貫通孔により構成されている。
本実施形態においては、外部リリーフ孔127は、キャップ部材126の内面に開口するように形成された構成とされているが、外部リリーフ孔127は、キャップ部材126の内周面に開口するように形成されていてもよく、従って、外部リリーフ孔127の形成位置等の具体的構成は特に限定されない。
【0021】
ハウジング130は、プランジャ収容穴131を有した柱状の本体部132と、本体部132と一体に形成されテンショナ110の取付対象であるエンジンブロックに固定するための取付部134とを備えている。本体部132の一面および取付部134の一面は連続した平坦面とされており、エンジンブロックに対する取付面136を構成している。
本体部132の底部133には、外部から圧油室111にオイルを供給するためのオイル供給路135が形成されている。オイル供給路135は、一端が取付面136に開口し他端がプランジャ収容穴131の底面に開口している。
【0022】
また、ハウジング130のプランジャ収容穴131には、オイル供給路135を通じて外部から圧油室111へのオイルの流入を許容するとともに、オイル供給路135からのオイルの流出を防止する逆止弁を構成するチェックバルブ140が配置されている。
チェックバルブ140は、プランジャ収容穴131の底面に密着して配置されたボールシート141と、ボールシート141に密着可能に着座する球状のチェックボール142と、チェックボール142の前方に配置されチェックボール142の移動を規制するリテーナ143とから構成されている。
なお、チェックボール142をボールシート141側に向けて付勢するボールスプリングをチェックボール142とリテーナ143との間に配置してもよい。
【0023】
メイン付勢手段145は、例えば丸線がコイル状に巻回されてなるコイルバネによって構成されている。メイン付勢手段145は、その前端が環状凸部124の後端面に当接され後端がリテーナ143のフランジ部の前端面に当接された状態で、コイル軸がプランジャ120の中心軸に沿って延びるように圧油室111内に配置されている。また、これにより、メイン付勢手段145は、ボールシート141およびリテーナ143をハウジング130の底壁に押し付けている。
【0024】
リリーフ機構150は、図4にも示すように、プランジャ本体122に形成された区画部123と、キャップ部材126に形成された外部リリーフ孔127と、少なくとも一部が区画部123の内部リリーフ孔125の内側に位置された状態で前後方向に摺動可能に配置されたピストン151と、調整空間112内に収納されピストン151を圧油室111側に向けて付勢するピストン付勢手段155と、ピストン151の調整空間112側への移動を規制するピストン規制部材160とを備えている。
【0025】
ピストン151は合成樹脂や金属等からなり、円柱状のピストン本体部152と、ピストン本体部152の調整空間112側の一端に形成されたフランジ部153とを有する。ピストン本体部152は、他端部が区画部123を構成する環状凸部124の後端面より突出する状態で、内部リリーフ孔125内に設置されている。フランジ部153の後端面は、区画部123を構成する環状凸部124の前端面に係止されており、従って、区画部123は、ピストン151の圧油室111側(後方側)への移動を規制する規制部としても機能する。
【0026】
ピストン付勢手段155は、例えば平角線がコイル状に巻回されてなるコイルバネによって構成されており、ピストン151のフランジ部153の前端面上にコイル軸がプランジャ120の中心軸に沿って延びるよう配置されている。
【0027】
ピストン規制部材160は、図5にも示すように、円板状の基体部161と、基体部161の他面(調整空間112側に位置される面)に連続して後方に向かって延びるロッド状の軸部165とを有している。
ピストン規制部材160は、基体部161の一面がキャップ部材126の内面に当接し、軸部165がピストン付勢手段155の内周側に延びる状態すなわちピストン付勢手段155の内部に挿通されてコイル軸に沿って延びる状態で、配置されている。
ピストン規制部材160の基体部161は、ピストン付勢手段155のバネ受け部を兼ねており、ピストン付勢手段155の前端が基体部161の他面に当接されている。また、これにより、ピストン規制部材160は、ピストン付勢手段155によって前方側に向けて付勢されキャップ部材126に押し付けられている。
【0028】
ピストン規制部材160の基体部161には、キャップ部材126の内面と当接される一面と調整空間112側に位置される他面とを連通する連通部162が形成されている。
連通部162は、基体部161の厚み方向に延びる複数の貫通孔(本実施形態では3つの貫通孔)により構成されている。複数の貫通孔は、例えば同一円周上において周方向に等間隔毎に並んで形成されている。
【0029】
ピストン規制部材160の基体部161の一面には、複数の貫通孔の各々から基体部161の中心に向かって径方向に直線状に延びるオリフィス溝163が形成されている。
従って、本実施形態のテンショナ110においては、オリフィス溝163と、基体部161の一面が当接されるキャップ部材126の平坦な内面とによって、キャップ部材126とピストン規制部材160との間に、調整空間112と外部リリーフ孔127とを連通させるオイル排出路170がオリフィスを構成するように形成されている。
【0030】
以上において、ピストン規制部材160は、優れた耐熱性を有する樹脂材料で形成されていることが好ましい。このような樹脂材料としては、ナイロン46、ナイロン66、ガラス繊維強化ナイロンといったポリアミド樹脂などを例示することができる。
【0031】
本実施形態のテンショナ110では、まず、通常時には、図4に示すように、ピストン付勢手段155の付勢力によって、ピストン151におけるフランジ部153の後端面(圧油室111側の端面)が環状凸部124の前端面に接触し、フランジ部153の後端面と環状凸部124の前端面の間がシールされて、圧油室111内のオイルが調整空間112に漏れ出すことが阻止された状態とされる。
【0032】
一方、圧油室111内のオイル圧が上昇した時には、図6に示すように、圧油室111内のオイル圧の上昇によってピストン151が前方側に向けて押されて移動する。これにより、ピストン151におけるフランジ部153の後端面と環状凸部124の前端面とが離間してピストン151と環状凸部124との間のシールが解除され、ピストン本体部152の外周面と内部リリーフ孔125の周面との間の微小間隙を通して、圧油室111のオイルが調整空間112に流入する。
調整空間112内のオイルは、ピストン規制部材160における連通部162を介してオイル排出路170に流入し、外部リリーフ孔127を介して排出される。この際、オイル排出路170がオリフィスを構成していることから、ピストン151の移動に伴って調整空間112から排出されるオイルの量がオイル排出路170の流路抵抗に応じて規制されるとともに、調整空間112の容積がピストン151の移動量に応じて減少することで、オイルによる減衰効果を確実に得ることができる。例えば、プランジャ振幅が小さい場合は、調整空間112内のオイルはオイル排出路170(オリフィス)を通して適時排出されるため、ピストン151はスムーズに動いてテンショナ110の反力を一定に保つことができる。一方、プランジャ振幅が大きい場合には、調整空間112からのオイル排出がピストン151の動きに追いつかず、調整空間112の圧力が上昇してピストン151が動きにくくなる。これにより、圧油室111内のオイル圧が安定化するとともにピストン151の挙動が安定化、すなわちテンショナ110の反力(プランジャ120の押し付け力)の適正化が図られる。したがって、チェーンバタつきの発生あるいはチェーンの押し過ぎによる騒音の発生やチェーンと走行面におけるフリクション性の悪化が抑制される。
【0033】
以上、本発明の一実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、テンショナ110が自動車エンジン用のタイミングシステムに組み込まれるものとして説明したが、テンショナ110の具体的用途はこれに限定されない。
また、上述した実施形態では、テンショナ110がテンショナレバーGを介して伝動チェーンCHに張力を付与するものとして説明したが、プランジャ120の先端で直接的に伝動チェーンCHの摺動案内を行い、伝動チェーンCHに張力を付与するようにしてもよい。
さらに、伝動チェーンCHによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、長尺物に張力を付与することが求められる用途であれば、種々の産業分野において利用可能である。
また、上述した実施形態では、プランジャ120を収容するハウジング130が、エンジンブロック等に取り付けられる所謂テンショナボディであるものとして説明したが、ハウジング130の具体的態様は、上記に限定されず、テンショナボディに形成されたボディ穴内に挿入される円筒状の所謂スリーブであってもよい。
【0035】
本発明においては、ピストン規制部材は、オリフィス機能を備えた構成とされていれば、プランジャの天面と当接する一面にオリフィス溝が形成された構成のものに限定されるものではない。例えば、オリフィス溝は、プランジャに当接する他の面に形成されていてもよく、また、オリフィス溝に代えて、オイル排出量が規制されるよう、すなわち流路抵抗が得られるように構成された孔や切り欠きを備えた構成とされていてもよい。
また、オリフィスを構成するオイル排出路の流路構造は特に制限されるものではない。
【0036】
図7は、ピストン規制部材の他の構成例を示す基体部の一面側から見た斜視図である。
このピストン規制部材260は、プランジャの天面と当接する一面と調整空間側に位置される他面とを連通する連通部262を有し一面にオリフィス溝263が形成された円板状の基体部261と、基体部261の他面に連続して後方に向かって延びるロッド状の軸部265とを有する。連通部262は、基体部261の外周面に設けられた切り欠き溝部によって構成されている。オリフィス溝263は、断面V字状であって、連通部262から基体部261の中心に向かって螺旋状に延びるように形成されている。基体部261は、ピストン付勢手段のバネ受け部を兼ねており、ピストン規制部材260がピストン付勢手段によって前方側に向けて付勢されキャップ部材に押し付けられることにより、オリフィス溝263とキャップ部材の平坦な内面とによって、オイル排出路がオリフィスを構成するように形成される。
【0037】
図8は、ピストン規制部材のさらに他の構成例を示す基体部の一面側から見た斜視図である。
このピストン規制部材360は、プランジャの天面と当接する一面と調整空間側に位置される他面とを連通する連通部362を有し一面にオリフィス溝363が形成された円板状の基体部361と、基体部361の他面に連続して後方に向かって延びるロッド状の軸部365とを有する。連通部362は、基体部361の外周面における基体部361の中心を挟んで互いに対向する位置に設けられた2つの切り欠き溝部によって構成されている。オリフィス溝363は、基体部361の中心を通って径方向に直線状に延びるように形成されている。このピストン規制部材360においても、基体部361がピストン付勢手段のバネ受け部を兼ねており、ピストン規制部材360がピストン付勢手段によって前方側に向けて付勢されキャップ部材に押し付けられることにより、オリフィス溝363とキャップ部材の平坦な内面とによって、オイル排出路がオリフィスを構成するように形成される。
【符号の説明】
【0038】
110, 410 ・・・ テンショナ
111, 411 ・・・ 圧油室
112, 412 ・・・ 調整空間
120, 420 ・・・ プランジャ
121, 421 ・・・ プランジャ穴
122, 422 ・・・ プランジャ本体
123 ・・・ 区画部
124 ・・・ 環状凸部
125 ・・・ 内部リリーフ穴
126, 426 ・・・ キャップ部材
127, 427 ・・・ 外部リリーフ孔
130, 430 ・・・ ハウジング
131, 431 ・・・ プランジャ収容穴
132 ・・・ 本体部
133 ・・・ 底部
134 ・・・ 取付部
135 ・・・ オイル供給路
136 ・・・ 取付面
140 ・・・ チェックバルブ
141 ・・・ ボールシート
142 ・・・ チェックボール
143 ・・・ リテーナ
145, 445 ・・・ メイン付勢手段
150 ・・・ リリーフ機構
151 ・・・ ピストン
152 ・・・ ピストン本体部
153 ・・・ フランジ部
155 ・・・ ピストン付勢手段
160,260,360 ・・・ ピストン規制部材
161,261,361 ・・・ 基体部
162,262,362 ・・・ 連通部
163,263,363 ・・・ オリフィス溝
165,265,365 ・・・ 軸部
170 ・・・ オイル排出路
480 ・・・ 圧力調整機構
481 ・・・ シリンダ部
482 ・・・ シリンダ内周面
483 ・・・ 第1規制部
484 ・・・ 第2規制部
485 ・・・ ピストンユニット
486 ・・・ ピストンスプリング
CH ・・・ 伝動チェーン
G ・・・ テンショナレバー
S1~S3 ・・・ スプロケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9