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  • 特許-スチールコードおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】スチールコードおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/06 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
D07B1/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019175269
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021050451
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】末藤 亮太郎
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-522903(JP,A)
【文献】特開2000-119977(JP,A)
【文献】特開2010-180483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/00 - 9/00
B60C 1/00 - 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯ストランドと複数本の側ストランドとが撚り合わされて、または、芯ストランド無しで複数本の側ストランドが撚り合わされて形成されていて、前記芯ストランドおよび前記側ストランドは複数本の素線が撚り合わされて形成されているスチールコードにおいて、前記スチールコードを分解してそれぞれの前記側ストランドを取り出して測定されたストランド撚りピッチを用いて、下記(1)式により算出されるそれぞれの前記側ストランド間での前記ストランド撚りピッチのバラつきVが20%以下であることを特徴とするスチールコード。
バラつきV=(ストランド撚りピッチの最大値Px-ストランド撚りピッチの最小値Pn)/ストランド撚りピッチの平均値PM×100(%)・・・(1)
【請求項2】
前記バラつきVが15%以下であり、破断伸びが2.4%以下である請求項1に記載のスチールコード。
【請求項3】
コンベヤベルトに作用する張力を負担する心体層を構成する心体として使用される請求項1または2に記載のスチールコード。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のスチールコードの製造方法であって、それぞれの前記側ストランドを構成する素線として、フリー状態にした時に巻き径が100mm以上になるように制御された素線を使用し、複数本の前記制御された素線を撚り合わせてそれぞれの前記側ストランドを形成し、前記芯ストランドとそれぞれの前記側ストランドとを撚り合わせる、または、前記芯ストランド無しでそれぞれの前記側ストランドを撚り合わせることを特徴とするスチールコードの製造方法(ただし、それぞれの前記側ストランドは撚り合わせる前にらせん状に予め成形されているものを除く)。
【請求項5】
前記巻き径を250mm以上にする請求項4に記載のスチールコードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコードおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、コード強力を十分に発現させ易くしたスチールコードおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ、コンベヤベルト、ゴムホース等のゴム製品には、補強材としてスチールワイヤを撚り合わせたスチールコードが埋設して使用されている。例えば、芯ストランドの外周面に複数本の側ストランドを撚り合わせたストランド構造のスチールコードが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
複数本のストランドを撚り合せたスチールコードでは、同じ仕様であっても種々の要因に起因してコード強力(切断強度)にばらつきが生じ、スチールコードが本来有しているコード強力を十分に発現できない場合がある。そこで、本願発明者は、コード強力を十分に発現できない原因を種々分析、検討することで本願発明を創作するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-205925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コード強力を十分に発現させ易くしたスチールコードおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のスチールコードは、芯ストランドと複数本の側ストランドとが撚り合わされて、または、芯ストランド無しで複数本の側ストランドが撚り合わされて形成されていて、前記芯ストランドおよび前記側ストランドは複数本の素線が撚り合わされて形成されているスチールコードにおいて、前記スチールコードを分解してそれぞれの前記側ストランドを取り出して測定されたストランド撚りピッチを用いて、下記(1)式により算出されるそれぞれの前記側ストランド間での前記ストランド撚りピッチのバラつきVが20%以下であることを特徴とするスチールコード。
バラつきV=(ストランド撚りピッチの最大値Pxストランド撚りピッチの最小値Pn)/ストランド撚りピッチの平均値PM×100(%)・・・(1)
【0007】
本発明のスチールコードの製造方法は、上記に記載のスチールコードの製造方法であって、それぞれの前記側ストランドを構成する素線として、フリー状態にした時に巻き径が100mm以上になるように制御された素線を使用し、複数本の前記制御された素線を撚り合わせてそれぞれの前記側ストランドを形成し、前記芯ストランドとそれぞれの前記側ストランドとを撚り合わせる、または、前記芯ストランド無しでそれぞれの前記側ストランドを撚り合わせることを特徴とする。ただし、それぞれの前記側ストランドは撚り合わせる前にらせん状に予め成形されているものを除く。
【発明の効果】
【0008】
前記スチールコードを分解してそれぞれの前記側ストランドを取り出して測定されたストランド撚りピッチを用いて、上述した(1)式により算出されるストランド撚りピッチのバラつきVが大きい程、コード強力のバラつきが大きくなることが判明した。そこで、このストランド撚りピッチのバラつきVを20%以下にした本発明のスチールコードによれば、スチールコードが本来有しているコード強力を十分に発現させ易くなる。
【0009】
本発明のスチールコードの製造方法によれば、それぞれの前記側ストランドを構成する素線として、フリー状態にした時に巻き径が100mm以上になるように制御された素線を使用することで、前記ストランド撚りピッチのバラつきVを20%以下にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のスチールコードを例示する横断面図である。
図2図1のスチールコードを例示する斜視図である。
図3】スチールコードを分解して取り出したストランドを例示する説明図である。
図4】フリー状態の素線を例示する説明図である。
図5】スチールコードの別の実施形態を例示する横断面図である。
図6】コンベヤベルトの横断面図である。
図7図6のコンベヤベルトの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のスチールコードおよびその製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1図2に例示する本発明のスチールコード1は、例えばゴム製品に埋設されて補強材として使用される。この実施形態ではスチールコード1は、芯ストランド2の外周面に複数本の側ストランド3を撚り合わせたストランド構造であり、いわゆる7×7構造である。このスチールコード1は、1本の芯ストランド2の外周面に6本の側ストランド3が撚り合わされて形成されている。芯ストランド2は、中心の1本の素線2aのまわりに6本の素線2aを撚り合わせて形成されている。側ストランド3は、中心の1本の素線3aのまわりに6本の素線3aを撚り合わせて形成されている。素線2a、3aはスチールワイヤである。
【0013】
この実施形態では、芯ストランド2を構成する素線2aの素線撚り方向と、側ストランド3を構成する素線3aの素線撚り方向と、芯ストランド2の外周面に撚り合わせる側ストランド3のストランド撚り方向とは同じ撚り方向になっている。それぞれの素線2a、3aの外径は例えば0.2mm~1.0mm程度である。
【0014】
本発明では、スチールコード1を分解して取り出したそれぞれの側ストランド3をフリー状態にした時のストランド撚りピッチPについて特別な工夫をしている。即ち、この測定されたストランド撚りピッチPを用いて、下記(1)式により算出されるそれぞれの側ストランド3間でのストランド撚りピッチPのバラつきVを20%以下にしている。
バラつきV=(ストランド撚りピッチの最大値Pxストランド撚りピッチの最小値Pn)/ストランド撚りピッチの平均値PM×100(%)・・・(1)
【0015】
このバラつきVは以下のように算出される。
【0016】
まず、スチールコード1を分解して図3に例示するように、それぞれの側ストランド3を取り出す。この実施形態では、スチールコード1は、6本の側ストランド3と1本の芯ストランド2とに分解される。
【0017】
それぞれの側ストランド3は、芯ストランド2のまわりに所定のストランド撚りピッチで撚り合わされているが、分解してフリー状態(重力以外が作用せずに静置した状態)にした時のストランド撚りピッチPにはバラつきがある。そこで、フリー状態のそれぞれの側ストランド3のストランド撚りピッチPを測定する。側ストランド3の1本毎に複数か所(例えば3~5か所)でストランド撚りピッチPを測定し、それぞれの測定値の単純平均を、その側ストランド3のストランド撚りピッチPとする。尚、1本の側ストランド3におけるストランド撚りピッチPのバラつきは非常に小さいので無視できる程度である。
【0018】
この実施形態では、ストランド撚りピッチPが、それぞれの側ストランド3ではP1、P2、P3、P4、P5、P6になっている。芯ストランド2は、実質的にストランド撚りピッチが無い(無限大である)。
【0019】
次いで、それぞれのストランド撚りピッチP1~P6のうちの最大値Pxと最小値Pnを特定する。この実施形態では最大値PxはP6、最小値PnはP5になっている。
また、それぞれのストランド撚りピッチP1~P6の単純平均値PMを算出する。これらの最大値Px、最小値Pn、平均値PMを上述した(1)式に代入することでバラつきVが算出される。
【0020】
本願発明者の種々の分析、検討の結果、同じ仕様のスチールコード1であっても、このバラつきVが大きくなると、スチールコード1のコード強力(切断強度)が低下することが判明した。そこで、このバラつきVを20%以下にして、フリー状態のそれぞれの側ストランド3のストランド撚りピッチPを均等化する。これにより、スチールコード1が本来有しているコード強力を損なうことがなく、十分に発現させることが可能になる。
【0021】
通常のスチールコードでは、バラつきVが30%~50%程度なので、本発明のスチールコード1ではバラつきVが意図的に小さく設定されている。スチールコード1のコード強力を、より十分に発現させるには、バラつきVを15%以下にするとよい。
【0022】
このスチールコード1を製造するには、まず、1本の芯ストランド2と、6本の側ストランド3を準備する。その後、1本の芯ストランド2の外周面にそれぞれの側ストランド3を撚り合わせてスチールコード1が形成される。
【0023】
上述したバラつきVを20%以下にするためには、本願発明者の種々の分析、検討の結果、側ストランド3を構成する素線3aの状態が大きく影響することが判明した。即ち、図4に例示するように、フリー状態にした時に巻き径dが100mm未満の素線3aを、それぞれの側ストランド3に使用するとバラつきVが大きくなる。
【0024】
そこで、フリー状態にした時に巻き径dが100mm以上になるように制御された素線3aを使用する。このように巻き径dが制御された素線3aを使用することで、バラつきVを20%以下にすることが可能になる。巻き径dは250mm以上にすると、バラつきVをより小さくし易くなる。素線3aをフリー状態にした時に正確な円形になることはないので、この巻き径dは、フリー状態にしてコイル状になっている素線3aの内接円の直径(コイル内径)となる。
【0025】
素線3aは、図4に例示するようにストックボビン8に巻き取られてストックされる。巻き取られた素線3aを繰り出してフリー状態にした時の巻き径dは、ストックボビン8の巻芯外径Dに影響を受ける。したがって、この巻芯外径Dを適切に設定することで、フリー状態にした時の素線3aの巻き径dを100mm以上に制御することができる。
【0026】
尚、フリー状態にした時の素線3aの巻き径dは、バラつきが小さい方が好ましいので、所定の乖離限度内になるように制御するとよい。この所定の乖離限度は例えば100mm、より好ましくは80mmにする。フリー状態にした時の素線3aの巻き径dが150mmと250mmの場合は、両者の乖離が100mm(=250mm-150mm)となり、所定の乖離限度(100mm)内になる。一方、フリー状態にした時の素線3aの巻き径dが150mmと300mmの場合は、両者の乖離が150mm(=300mm-150mm)となるので、所定の乖離限度(100mm)から外れることになる。
【0027】
図5に例示するスチールコード1の別の実施形態は、芯ストランド2無しで複数本の側ストランド3が撚り合わされて形成されている。このスチールコード1は、図1に例示した実施形態とは、芯ストランド2を有していないことが実質的な相違点であり、上述したバラつきVなど、その他の仕様は同じである。そのため、このスチールコード1によっても、スチールコード1が本来有しているコード強力を損なうことがなく、十分に発現させることが可能になる。
【0028】
このスチールコード1を製造するには、まず、3本の側ストランド3を準備する。その後、それぞれの側ストランド3を撚り合わせてスチールコード1が形成される。使用する素線3aなど、その他については先の実施形態と実質的に同じである。
【0029】
スチールコード1の構造は、上述した実施形態に限らずストランド構造であればよい。その他に、7×19構造、19+7×7構造、7×W(19)構造等を採用することもできる。また、素線2aの撚り方向、素線3aの撚り方向および側ストランド3の撚り方向はすべて同じ方向に限らず、異なる方向にすることもでき、それぞれを任意の撚り方向に設定することができる。
【0030】
このスチールコード1は、図6図7に例示するコンベヤベルト7に使用することができる。多数本のスチールコード1は心体4として、横並び状態で埋設されて心体層5を構成している。多数本のスチールコード1は、コンベヤベルト7の長手方向に引き揃えられた状態で、上カバーゴム6aと下カバーゴム6bの間に埋設されている。即ち、上カバーゴム6aと下カバーゴム6bの間に、心体4となる多数本のスチールコード1がベルト幅方向に所定間隔で配置されて挟まれている。
【0031】
コンベヤベルト7がプーリ間に張設されて稼動する際には、心体4(心体層5)がコンベヤベルト7に作用する張力を負担する。このスチールコード1は、本来有しているコード強力を発現し易くなっているので、コンベヤベルト7の耐久性をより安定して確保できる。また、それぞれのスチールコード1のコード強力のバラつきが小さいので、過剰に余分な心体4を埋設する必要が無くなる。これに伴い、心体4の数を削減してコンベヤベルト7の軽量化および稼働に要する消費エネルギの削減に寄与する。
【0032】
このスチールコード1が埋設されるゴム製品としては、コンベヤベルト7の他に、タイヤ、ゴムホース、マリンホース、防舷材など、スチールコード1が補強材として埋設される種々のゴム製品を例示できる。
【実施例
【0033】
7×7構造のスチールコード(コード外径2.5mm)について、側ストランドを構成する素線(芯素線(1本)の外径0.30mm、側素線(6本)の外径0.28mm)の状態のみを表1のように異ならせて、4種類のサンプル(実施例1、2、比較例1、2)を作製した。それぞれのサンプルでは、側ストランドに使用する素線のフリー状態にした時の巻き径dを異ならせている。比較例1、2では、この巻き径を制御していない素線を使用し、実施例1、2では比較例1、2の素線の巻き径を意図的に制御した。比較例1、2では、この巻き径が100mm未満の素線が使用されている。
【0034】
製造したそれぞれのサンプル(スチールコード)を分解して取り出したそれぞれの側ストランド(第1側ストランド~第6側ストランド)をフリー状態にしてストランド撚りピッチを測定した。また、それぞれのサンプルをJIS G3510:1992に準拠して切断するまで長手方向に引張り、切断時における荷重をコード強力(kN)、切断時における伸びを切断伸び(%)として測定した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1の結果から、上述した(1)式により算出されたバラつきVが20%以下になっている実施例1、2は、比較例1、2に比して高いコード強力を発現していることが分かる。
【符号の説明】
【0037】
1 スチールコード
2 芯ストランド
2a 素線
3 側ストランド
3a 素線
4 心体
5 心体層
6a 上カバーゴム
6b 下カバーゴム
7 コンベヤベルト
8 ストックボビン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7