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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】インキュベータ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/38 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
C12M1/38 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019183137
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021058113
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】橋本 克紀
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄大
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05792427(US,A)
【文献】実開昭60-044600(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0044310(KR,A)
【文献】特表2002-513507(JP,A)
【文献】特開2017-205078(JP,A)
【文献】特開2017-169502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
F25D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に培養空間が形成されるとともに、外部に向けて開放可能に設けられたインキュベータ用扉を一重扉として備えたインキュベータにおいて、
上記インキュベータ用扉の培養空間側の内面を加熱する第1ヒータと、上記インキュベータ用扉の外部側の外面を加熱する第2ヒータと、これら第1、第2ヒータを制御する温度制御手段とを備え、
上記温度制御手段は、上記第1ヒータと上記第2ヒータとを各々独立して制御することを特徴とするインキュベータ。
【請求項2】
上記温度制御手段は、上記第1ヒータによって上記培養空間を所定温度に維持するよう制御し、
上記第2ヒータによってインキュベータ用扉の外面を加熱することで、上記インキュベータ用扉の内面の温度が上記培養空間の露点温度を下回ることがないようにしたことを特徴とする請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項3】
上記培養空間の温度を検出する温度検出手段を備え、上記温度制御手段は上記温度検出手段の検出結果に基づいて上記第1ヒータを制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインキュベータ。
【請求項4】
上記インキュベータは、内部に作業空間が形成されたアイソレータに接続可能であって、上記インキュベータ用扉は、上記作業空間に向けて開放可能に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインキュベータ。
【請求項5】
上記インキュベータ用扉を外部より覆う保温カバーを備え、
上記温度制御手段は、上記第2ヒータによって、上記保温カバーが装着された状態では、上記保温カバーが装着されない状態よりも、上記インキュベータ扉の外面を低い温度に加熱することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のインキュベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインキュベータに関し、詳しくは内部に培養空間が形成されるとともに、外部に向けて開閉可能に設けられたインキュベータ用扉を備えたインキュベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞等の培養のため、内部に形成された培養空間を上記細胞等の培養に好適な環境に維持したインキュベータが用いられており、このようなインキュベータは、細胞等の出し入れのために外部に向けて開閉可能に設けられたインキュベータ用扉を備えている。
このようなインキュベータの培養空間は、外部の環境に比べて高温多湿に設定され、このためインキュベータの培養空間と外部との温度差が原因で培養空間の内壁に結露が生じ、結露した水分から雑菌が発生する恐れがある。
そこでインキュベータを、培養空間を形成する内側容器と内側容器を覆う外側容器とからなる二重の容器によって構成し、それらの間に断熱材を充填して断熱性を高めたものが知られている(特許文献1)。
この特許文献1ではさらに、扉についても上記内側容器を開閉する内扉と上記外側容器を開閉する外扉とからなる二重扉とし、さらに外扉には、内扉側に面した当該外扉の内側にヒータを設けて、内扉を加熱することにより培養空間の内壁および内扉の内面への結露を防止するようになっている。
一方、インキュベータとしては、上記特許文献1のような据置型の他に、移動可能に設けて、内部に無菌環境の作業空間が形成されたアイソレータに接続するとともに、当該アイソレータの内部に向けて扉を開閉操作することにより、細胞等の培養物を出し入れするよう構成したものが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平6-23279号公報
【文献】特開2017-219281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献2のアイソレータは内部の無菌性を維持する必要があることから、作業者は外部からグローブを介して作業しなければならず、作業性が悪いことから、上記特許文献1のような二重扉のインキュベータをアイソレータに接続すると操作が煩雑になる。そこで、従来よりアイソレータに接続するインキュベータのインキュベータ用扉は一重扉で構成されている。
しかしながら、アイソレータの内部は外部と気温が変わらないため、インキュベータ用扉をアイソレータの内部に向けて開放すると、インキュベータの扉の内面に結露が生じることがあり、その都度作業者が拭きとらなければならないという問題があった。
このような問題に鑑み、本発明は一重扉であってもインキュベータ用扉の内面への結露の発生を可及的に防止することが可能なインキュベータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかるインキュベータは、内部に培養空間が形成されるとともに、外部に向けて開放可能に設けられたインキュベータ用扉を一重扉として備えたインキュベータにおいて、
上記インキュベータ用扉の培養空間側の内面を加熱する第1ヒータと、上記インキュベータ用扉の外部側の外面を加熱する第2ヒータと、これら第1、第2ヒータを制御する温度制御手段とを備え、
上記温度制御手段は、上記第1ヒータと上記第2ヒータとを各々独立して制御することを特徴とするインキュベータ。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、インキュベータ用扉の外面を加熱する第2ヒータを設けたことで、当該インキュベータ用扉の外部の温度が内面に影響せず、一重扉であっても内面への結露の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明にかかるインキュベータを備えた細胞培養システム1の構成を示す正面図
図2】インキュベータとアイソレータとを接続手段によって接続した状態を示す平断面図
図3】インキュベータ用扉の内部構造を示す縦断面図
図4】第1ヒータの配線パターンを説明する説明図
図5】保温カバーの装着状態を示す平断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1は細胞等の培養を行うための細胞培養システム1の構成図を示し、内部に形成された作業空間S1で細胞等への作業を行うアイソレータ2と、内部に形成された培養空間S2で上記細胞等を培養するインキュベータ3とを接続手段4によって接続した構成を有している。
上記アイソレータ2の作業空間S1は無菌状態に維持され、アイソレータ2の上部には無菌エアを作業空間S1に供給するための図示しない無菌エア供給手段や、作業後に作業空間S1内を除染するための過酸化水素蒸気等の除染媒体を供給する図示しない除染手段が設けられている。
またアイソレータ2の正面には、作業空間S1での作業を視認することができるように透明な窓2aが設けられており、また当該窓2aには作業者が装着して作業空間S1内での作業を行うためのグローブ2bが設けられている。
さらに上記アイソレータ2には、上記インキュベータ3を接続した側面と対向する側面にパスボックス5が設けられており、細胞等の培養に必要な器具や、培養すべき細胞等をアイソレータ2に搬入する際に用いられる。
アイソレータ2の作業空間S1と上記パスボックス5の収容空間とは図示しない開閉扉によって区画され、外部より持ち込んだ器具等をパスボックス5内に収容すると、図示しない除染手段から除染媒体を供給して当該パスボックス5の内部でこれらの器具を除染してから上記開閉扉を開放するようになっており、これにより除染された器具等を上記アイソレータ2に搬入することが可能となっている。
【0009】
上記インキュベータ3は、細胞等の播種された培養容器を収容して当該細胞の培養を行うために用いられ、内部に形成された培養空間S2は当該細胞等の培養に適した環境に維持されている。なおインキュベータ3は、台車3Aにより移動可能となっている。
またインキュベータ3は、図2に示されるように、上記培養容器を収容するための筐体部3aと、当該筐体部3aに形成された開口部3bに対して外部に向けて開放可能に設けられたインキュベータ用扉11とを備えており、筐体部3aの内部には断熱材が充填されている。
また上記培養空間S2の環境を維持するための環境維持手段として、上記培養空間S2を例えば温度37℃に維持するための庫内ヒータ6や、上記培養空間S2を例えば相対湿度95%以上に維持するための加湿器7が設けられている。
さらに、培養空間S2には温度検出手段として温度センサ8が設けられており、温度調節器20は当該センサ8による検出結果に基づいて上記庫内ヒータ6および後述する第1ヒータ34を制御し、培養空間S2の環境を維持することが可能となっている。
なお培養空間S2の温度や湿度については、培養する細胞等によって変更することが可能である。
【0010】
図2は、上記アイソレータ2と上記インキュベータ3とを接続手段4を介して接続した状態を示しており、この状態でアイソレータ2のアイソレータ用扉12とインキュベータ3のインキュベータ用扉11とを開放することで、無菌状態を維持したままアイソレータ2とインキュベータ3との間で培養容器の受け渡しを行うことを可能としたものとなっている。
上記アイソレータ2の側面に形成した開口に、上記接続手段4を構成する筒状部材13が外部に突出させて装着されており、その内側はアイソレータ2の作業空間S1を外部に開放する開口部を形成している。
また上記アイソレータ2にインキュベータ3を連結させる連結手段18を備え、上記アイソレータ2における上記筒状部材13の周囲部の筒状部材13を挟んだ対向位置には、それぞれクランプ18aが設けられている。
これに対し上記インキュベータ3には、上記インキュベータ用扉11の周囲部に、上記クランプ18aに対応する位置に、それぞれ係合部材18bが設けられている。
このような構成により、上記インキュベータ3とアイソレータ2とを接続させた状態で、上記クランプ4aを回動させて上記係合部材4bに係合させることにより、インキュベータ3をアイソレータ2に引きつけて連結し、接続状態を維持することが可能となっている。
【0011】
上記アイソレータ2のアイソレータ用扉12は、当該アイソレータ2の作業空間S1側に設けられており、その一端は上記筒状部材13に設けられた軸支部14に対して回動可能に軸支され、開放状態では軸支部14を支点として上記作業空間S1側に向けて回動するようになっている。
また上記アイソレータ用扉12は、閉鎖状態とした際に上記筒状部材13の内側に嵌合するように設けられ、筒状部材13の内面にはインキュベータ用扉11が嵌合する部分にシール部材15が設けられている。
そしてアイソレータ用扉12にはロック機構付きのハンドル16が設けられ、軸支部14とは反対側に設けられた係合部材19に係合することで、アイソレータ用扉12を閉鎖状態に維持できるようになっており、作業者が上記アイソレータ2に設けられたグローブ2bを用いてアイソレータ2の内部より開閉操作をすることが可能となっている。
【0012】
次に、上記インキュベータ3の前面に形成された開口部3bの周囲には、上記接続手段4を構成する断面C型の環状部材21が設けられており、上記インキュベータ用扉11は一端が上記環状部材21に設けられた軸支部22に対して回動可能に軸支されている。
これにより、インキュベータ3を外部に設置した状態でインキュベータ用扉11を操作すると、軸支部22を支点としてインキュベータ3の外部に向けて回動し、開放されるようになっている。
一方上記接続手段4によってインキュベータ3をアイソレータ2と接続した状態では、インキュベータ用扉11はインキュベータ3の外部である筒状部材13および上記作業空間S1内に向けて回動し、開放されるようになっている。
上記環状部材21を構成する環状の外周側フランジ部21aおよび内周側フランジ部21bはそれぞれ外部に向けて突出しており、このうち外周側フランジ部21aは上記アイソレータ2に設けられた筒状部材13の内側に嵌合するように設けられている。
一方、上記筒状部材13の先端側の内面にはシール部材17が設けられており、これによりアイソレータ2とインキュベータ3とを接続状態にすると、環状部材21の外周側フランジ部21aが筒状部材13の内側に嵌合してシール部材17に密着し、筒状部材13の内側には外部から気密を保った状態で区画された接続空間S3が形成されるようになっている。
【0013】
上記インキュベータ用扉11を軸支する軸支部22は、上記環状部材21の外周側フランジ部21aと内周側フランジ部21bとの間に設けられ、またインキュベータ用扉11の外面11bには、上記軸支部22とは反対側となる位置に、上記環状部材21に設けられた係合部材23と係合するハンドル24が設けられている。
そして、インキュベータ用扉11の内面側には外周縁に沿って溝が形成されるとともに、当該溝には樹脂製のシール部材25が設けられており、上記インキュベータ用扉11を閉鎖状態とすると、当該インキュベータ用扉11に設けた上記シール部材25が上記環状部材21の内周側フランジ部21bの先端に押し付けられて、インキュベータ3の培養空間S2が気密を保った状態で外部から密閉されるようになっている。
【0014】
そして、上記アイソレータ2のアイソレータ用扉12およびインキュベータ3のインキュベータ用扉11を閉鎖状態とし、上記アイソレータ2の筒状部材13の内側に、上記インキュベータ3の環状部材21の外周側フランジ部21aを嵌合させると、インキュベータ用扉11とアイソレータ用扉12と筒状部材13で区画された接続空間S3が形成されるようになっている。
ここで、この接続空間S3に面する部材、例えばアイソレータ用扉12やインキュベータ用扉11の外面および筒状部材13の内周面のうち、それまで外部に露出していた部分は、アイソレータ2の作業空間S1とインキュベータ3の培養空間S2とを連通させる前に除染する必要がある。
そこで本実施例では、上記筒状部材13の内側に図示しない除染手段から除染媒体を供給して、上記接続空間S3を除染するようになっている。
そして除染手段によって接続空間S3を除染した後に、アイソレータ用扉12およびインキュベータ用扉11を開放すると、アイソレータ2の作業空間S1とインキュベータ3の培養空間S2とを無菌状態を維持したまま連通させることが可能となっている。
【0015】
図3は閉鎖状態となっているインキュベータ用扉11の一部を拡大した図となっている。
本実施例のインキュベータ用扉11は、軸支部22を支点としてインキュベータ3に対して回動可能に設けられた本体部31と、当該本体部31の内部に形成された内部空間S4を閉鎖する蓋部32と、上記内部空間S4に設けられた板状の断熱材33と、上記内部空間S4に設けられて上記インキュベータ用扉11の内面11aを加熱する第1ヒータ34および外面11bを加熱する第2ヒータ35とによって構成されている。
上記本体部31はアルミニウム製で、外面11b側は平坦に形成されており、その裏側となる内面11a側の外周部分には上記シール部材25が環状に設けられ、当該環状のシール部材25の内周側に培養空間S2に向けて突出する環状の側壁部36が設けられている。
上記環状の側壁部36の先端部分は、内周側半分が低い段差部36aが形成され、当該段差部36aに薄板状のステンレス製プレートからなる上記蓋部32が嵌め込まれている。
これにより本体部31の内部、すなわち上記側壁部36と、この側壁部36に取り囲まれた本体部31の部分と、上記蓋部32とによって上記内部空間S4が形成されている。
このように、本実施例のインキュベータ用扉11は、上記シール部材25によってシールされる部分の内側に、上記内部空間S4が形成される構成となっているが、例えば上記蓋部32に上記環状のシール部材25を設けて、当該蓋部32を環状部材21の内周側フランジ部21bの先端に当接させるような構成としてもよい。
【0016】
上記内部空間S4には、ほぼ全域にわたって板状の断熱材33が収容され、上記本体部31に接着等の手段によって固定されている。上記断熱材33としては、板状の発泡ポリエチレンや発泡ポリスチレン等の断熱作用を有する公知の素材を用いることができる。
上記断熱材33と上記蓋部32との間に第1ヒータ34が設けられており、上記断熱材33と上記側壁部36を含む本体部31との間には第2ヒータ35が設けられている。
上記第1、第2ヒータ34、35は電熱線からなるヒータ線によって構成されており、温度制御手段としての温度調節器20により制御されるようになっている。
上記第1ヒータ34は、上記蓋部32に接触させて配線されており、当該第1ヒータ34によって上記蓋部32を加熱することで、インキュベータ用扉11の培養空間S2側の内面11aを加熱するようになっており、その輻射熱によって培養空間S2を加温させるようになっている。
上記第1ヒータ34の出力は、上記インキュベータ3の培養空間S2に設けられた温度センサ8が検出した温度に基づいて温度調節器20によって制御され、培養空間S2を予め設定された培養に適した所定温度に維持するようになっている。
すなわち、本実施例の第1ヒータ34は、インキュベータ3の培養空間S2の環境を維持するための上記環境維持手段の庫内ヒータとしても機能するようになっている。
【0017】
図4は第1ヒータ34の配線パターンの一例を示したものとなっており、断熱材33を培養空間S2側から見た図となっている。
この第1ヒータ34の配線パターンにおいて、断熱材33の外周縁側となる位置では、隣接するヒータ線の間隔が狭くなるように配線することが望ましく、温度が下がりやすい外周部分をより効率的に加熱するものとなっている。なお、第2ヒータ35についても同様に配線することができる。
【0018】
上記第2ヒータ35は、上記本体部31および側壁部36に接触させて配線されており、当該第2ヒータ35によって上記本体部31および側壁部36を加熱するようになっており、インキュベータ用扉11の外部側の外面11bおよびシール部材25を加熱するものとなっている。
そして、上記第2ヒータ35の出力は、上記インキュベータ用扉11の内面11aの温度が、上記培養空間S2の露点温度を下回ることがないよう設定されている。
【0019】
ここで上記培養空間S2に充満する水蒸気は、培養空間S2の温度と相対湿度から求められる露点温度を下回ると水滴に変化し、インキュベータ用扉11の内面11aの温度が上記露点温度を下回った場合に、水蒸気が内面11aに触れることで結露が発生する。
そこで、上記結露を防止するには内面11aの温度を上記培養空間S2の露点温度以上に維持しなければならず、そのため上記第1ヒータ34は、培養空間S2の温度を所定温度に維持するために制御され、温度センサ8の検出結果に応じて加熱と停止を繰り返すようになっている。
しかしながら、加熱を停止させると、外部の温度の影響により内面11aの温度が低下して、第1ヒータ34の温度が培養空間S2の露点温度を下回ることもある。
これに対し、匡体部3aにも庫内ヒータ6を埋め込んで同様に制御するとともに、当該筐体部3aには十分な量の断熱材を充填しているため、庫内ヒータ6の停止時にも外部の温度の影響を受けることはない。
【0020】
一方、本発明におけるインキュベータ用扉11では、アイソレータ2の内部の作業空間S1、特に筒状部材13の内側で開閉動作を行わなければならず、匡体部3aのように厚く形成することができないため、インキュベータ用扉11には断熱材を十分に充填することはできない。
そこで、上記第2ヒータ35によりインキュベータ用扉11の外面11bを加熱して、断熱材の代わりに外部の温度の影響を受けないようにしている。
また、第2ヒータ35については、細胞培養システム1の設置環境やアイソレータ2内の作業環境S1の温度に対して、培養状態におけるインキュベータ用扉11の内面11aに結露が発生せず、かつ内面11aの温度が上記培養空間S2の露点温度を下回ることがないような温度を維持するために必要な外面11bの温度を事前の検証により求め、当該温度を維持するように温度調節器20により出力が設定されている。
このように第2ヒータ35によってインキュベータ用扉11の外面11bを加熱することで、断熱材の量を削減し、インキュベータ用扉11を薄く作製することが可能となっている。
なお、本実施例ではアイソレータ2に接続した状態では、第2ヒータ35の出力は一定に維持させているが、作業空間S1に培養空間S2に設けた温度センサ8と同様の温度検出手段を設けて、作業空間S1すなわち外部の温度の変化に応じて第2ヒータ35の出力を可変させることもできる。
【0021】
上記側壁部36に接触させた第2ヒータ35は、側壁部36を加熱することで、その外周に配置された環状のシール部材25を加熱するようになっている。
上記シール部材25は樹脂製で、熱伝導性が低く昇温しにくい性質を有しているため、上記側壁部36を介してシール部材25を加熱することにより、インキュベータ用扉11が閉鎖状態の際に、培養空間S2に暴露される部分での結露の発生を防止するものとなっている。
【0022】
次に、図5は上記インキュベータ3をアイソレータ2より離脱させた状態を示した図を示し、インキュベータ用扉11を保温カバー37によって覆った状態を示している。
上記保温カバー37は、例えばインキュベータ3の筐体部3aと同様に断熱材を充填して作成され、上記インキュベータ3の開口部に設けられた上記環状部材21の外周側フランジ部21aと嵌合するようになっている。
上記保温カバー37の内周面には上記外周側フランジ部21aの外周面と密着するシール部材38が設けられ、保温カバー37をインキュベータ3に装着することで保温カバー37の内部が外部より区画されるようになっている。
このように上記保温カバー37をインキュベータ3に装着すると、上記インキュベータ用扉11の外面11bに対する外部の温度の影響による温度低下が抑制されることとなり、第2ヒータ35による加熱温度を低く抑えることが可能で、省電力化を図ることができる。
【0023】
上記インキュベータ3には保温カバー37の装着を検出する近接センサ39からなる検出手段が設けられており、近接センサ39が保温カバー37に設けた反応用ブロック39aを検出することによって保温カバー37の装着を認識すると、検出信号が温度調節器20に入力されることで上記第2ヒータ35の出力制御を行うようになっている。
具体的には、上記保温カバー37がインキュベータ3に装着されている場合、上述したようにインキュベータ用扉11の外面11bの温度低下が抑制されることから、温度調節器20は第2ヒータ35の出力を事前に設定した低出力に切り換える。
これに対し、上記保温カバー37がインキュベータ3より離脱した状態では、インキュベータ用扉11の外面11bが外部の温度の影響で低下されるため、温度調節器20は第2ヒータ35を高出力に切り換えるようになっている。
なお、反応用ブロック39aをアイソレータ2の筒状部材13等に配置し、インキュベータ3がアイソレータ2から離脱したことを認識するようにしてもよい。
その場合、離脱した検出信号を温度調節器20に入力することで、保温カバー37が装着された状態では上記第2ヒータ35を低出力に切り換え、逆にインキュベータ3がアイソレータ2に接続されたことを認識した場合には、その検出信号を温度調節器20に入力することで、保温カバー37を取り外した後に上記第2ヒータ35を高出力に切り換えるよう制御することもできる。
【0024】
以下、上記構成を有するインキュベータ3の使用方法について説明すると、まず上記インキュベータ3では、上記温度調節器20が第1、第2ヒータ34、35の作動および出力を制御して、インキュベータ用扉11の全体が加温された状態となっている。
具体的には、第1ヒータ34については、温度調節器20が培養空間S2に設けられた温度センサ8が検出した温度に基づいて、培養に適した所定温度を維持するようにインキュベータ用扉11の内面11aを加熱し、庫内ヒータ6とともに培養空間S2を加温した状態となっている。
一方、第2ヒータ35については、保温カバー37を装着しない状態にあっては、温度調節器20は高出力の設定によりインキュベータ用扉11の外面11bを加熱させており、上記インキュベータ用扉11の内面11aの温度が上記培養空間S2の露点温度を下回ることがないよう、インキュベータ用扉11の外面11bの温度を維持させる。
【0025】
次に、作業者はインキュベータ3をアイソレータ2まで移動させ、上記接続手段4によってインキュベータ3とアイソレータ2とを接続する。具体的には、上記インキュベータ3の環状部材21の外周側フランジ部21aを上記アイソレータ2に設けられた筒状部材13に嵌合させ、その後アイソレータ2のクランプ18aを操作してインキュベータ3をアイソレータ2に連結させる。
これにより、アイソレータ2とインキュベータ3との間には、上記筒状部材13の内側に密閉された接続空間S3が形成され、当該接続空間S3に図示しない除染手段から除染媒体を供給して除染を行い、当該接続空間S3を無菌状態とする。
【0026】
接続空間S3の除染が終了すると、作業者はアイソレータ2のグローブ2bを装着してアイソレータ用扉12を開放する。その結果、閉鎖状態のインキュベータ用扉11の外面11bがアイソレータ2の作業空間S1に面することとなる。
このようにインキュベータ用扉11が閉鎖状態にされている間も、アイソレータ2では作業空間S1を無菌状態に維持するために無菌エア供給手段によって陽圧に維持するとともに、上方から下方に向けてラミナーフローを形成して粉塵の拡散が防止されている。
このラミナーフローは閉鎖状態となっているインキュベータ用扉11の外面11bの熱を奪うこととなるが、これを考慮して上記外面11bは第2ヒータ35によって加熱されているため、インキュベータ用扉11の内面11aの熱が奪われることはなく、結露の発生が防止されるようになっている。
【0027】
続いて、アイソレータ2の作業空間S1において所要の作業が終了すると、作業者はハンドル24を操作してインキュベータ用扉11を開放し、培養容器に収容された細胞をアイソレータ2の作業空間S1からインキュベータ3の培養空間S2へと移載する。
培養容器の移載は、培養空間S2の温度低下を防止するために極力迅速に行う必要があり、このためインキュベータ用扉11の開閉は迅速に行われるが、本発明におけるインキュベータ用扉11は、一重扉として構成されているため操作性は良く迅速性が損なわれることはない。それでも培養空間S2と作業空間S1とが連通する間、培養空間S2の温度は低下してしまうこととなる。
また上記インキュベータ用扉11は開放状態とされることで培養温度よりも温度が低い作業空間S1に位置することとなるため、当該インキュベータ用扉11の全体が作業空間S1の温度の影響を受けることとなる。
しかしながら、インキュベータ用扉11は上記第1、第2ヒータ34、35によって加熱されており、特に第2ヒータ35により継続して加熱されていることから、インキュベータ用扉11の温度は大きく低下されることはない。
したがって、その後インキュベータ用扉11を閉鎖状態としても、内面11aの温度が上記培養空間の露点温度を下回ることはなく、開閉動作に伴う内面11aへの結露の発生も防止されるようになっている。
またこのとき、インキュベータ用扉11の外周縁に設けられたシール部材25も、第2ヒータ35が側壁部36を介してシール部材25を加熱しているため、シール部材25における結露を防止することができる。
【0028】
そして、アイソレータ2からの培養容器の移載が完了し、インキュベータ用扉11が閉鎖状態にされた状態では、培養空間S2の温度はそれまでインキュベータ用扉11が開放されていたことから培養に適した所定温度よりも低下することとなる。
すると培養空間S2に設けられた温度センサ8の検出信号により、温度調節器20が第1ヒータ34の出力を上げることでインキュベータ用扉11の内面11aが加熱される。
すると、内面11aの輻射熱によって培養空間S2が加温され、その後温度調節器20は温度センサ8により培養空間S2の温度を監視しながら、当該温度が上記培養に適した所定温度を維持するように内面11aを加熱する。
【0029】
一方、インキュベータ用扉11を閉鎖し、アイソレータ用扉12が閉鎖されると、作業者はインキュベータ3をアイソレータ2より離脱させて、アイソレータ2より離隔した所要の培養位置まで移動させる。
その間に、作業者は上記インキュベータ用扉11に対して図5に示す保温カバー37を装着し、これにより保温カバー37によって覆われたインキュベータ用扉11の外面11bは温度変化が生じにくくなる。
すると、近接センサ39によって保温カバー37の装着を認識した温度調節器20は、タイマーを作動させて保温カバー37の内側が温まる所定時間経過後に第2ヒータ35を低出力に切り換え、外面11bの温度を所定の温度まで下げる。
その後インキュベータ3は、上記保温カバー37を装着したまま、収容した細胞が培養されるまで静置され、細胞が培養された後、インキュベータ3を再度アイソレータ2に接続して、インキュベータ3内の細胞を取り出すことができる。
【0030】
このように本実施例におけるインキュベータ3によれば、インキュベータ用扉11が一重扉であっても、培養空間S2に面する内面11aへの結露を防止することが可能となっている。
まず、インキュベータ用扉11の内面11aを第1ヒータ34によって培養空間S2が所定温度となるように加温することで、インキュベータ用扉11の閉鎖状態での結露の発生を防止することができる。
また、第2ヒータ35によって外面11bを加熱しているため、インキュベータ3の外面11bから内面11aの温度が奪われることはなく、内面11aの温度が上記培養空間S2の露点温度を下回ることがなく結露の発生を防止することができる。
これと同様、インキュベータ用扉11を開放状態として、外部(作業空間S1の内部)の雰囲気によってインキュベータ用扉11全体の温度が低下されるような場合でも、第1、第2ヒータ34、35によってインキュベータ用扉11の全体が加温された状態を維持するので、その後インキュベータ用扉11を閉鎖状態としても、内面11aへの結露を防止することができる。
【0031】
なお、上記実施例ではアイソレータ2にインキュベータ3を接続する細胞培養システム1について説明したが、インキュベータ3を据置型として使用する場合であっても、上述した構成のインキュベータ用扉11を用いることにより、インキュベータ用扉11の内面11aでの結露の発生を防止することが可能であり、これにより二重扉を一重扉とするとともに扉の厚さを薄くすることが可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 細胞培養システム 2 アイソレータ
3 インキュベータ 4 接続手段
11 インキュベータ用扉 12 アイソレータ用扉
20 温度調節器(温度制御手段) 33 断熱材
34 第1ヒータ 35 第2ヒータ
37 保温カバー S1 作業空間
S2 培養空間 S3 接続空間
S4 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5