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  • 特許-無線機およびその音量調整方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】無線機およびその音量調整方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/40 20150101AFI20240111BHJP
   H03G 3/30 20060101ALI20240111BHJP
   H04M 1/00 20060101ALI20240111BHJP
   H04M 1/60 20060101ALI20240111BHJP
   H04R 3/02 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
H04B1/40
H03G3/30 C
H04M1/00 H
H04M1/60 C
H04R3/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020024008
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021129257
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000100746
【氏名又は名称】アイコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】森下 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩和
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-061344(JP,A)
【文献】特開2015-091120(JP,A)
【文献】特開2013-048323(JP,A)
【文献】特開2012-039311(JP,A)
【文献】特開2017-098626(JP,A)
【文献】特開2015-126313(JP,A)
【文献】特開2003-224627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/40
H03G 3/30
H04M 1/00
H04M 1/60
H04R 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送話用のマイクロフォンおよび受話用のスピーカを同一筐体に備え、予め定める無線通信回線を使用して同時双方向通話が可能な無線機において、
前記マイクロフォンのためのアンプゲインの値が予め設定可能に構成されており、
前記アンプゲインの値を変更するマイクゲイン調整部を備え、
前記マイクゲイン調整部は、
前記スピーカのボリウム値が予め定める値以上である場合、前記アンプゲインの上限値が前記ボリウム値に応じた値として定められており、
予め設定されたアンプゲインの値が前記上限値以上であれば前記上限値を前記アンプゲインの値として変更し、
前記予め設定されたアンプゲインの値が前記上限値未満であれば前記予め設定されたアンプゲインの値を前記アンプゲインの値として使用する
ことを特徴とする無線機。
【請求項2】
前記ボリウム値と前記上限値との対応関係を示す制御テーブルとを備え、
前記マイクゲイン調整部は、前記制御テーブルを参照して上限値を読み出すことを特徴とする請求項 1 に記載の無線機。
【請求項3】
前記予め定める無線通信回線は、携帯電話回線であり、当該携帯電話回線を利用したIP トランシーバーであることを特徴とする請求項1 または2 記載の無線機。
【請求項4】
ハンディタイプの無線機であることを特徴とする請求項1 ~ 3 の何れか1 項に記載の無線機。
【請求項5】
送話用のマイクロフォンおよび受話用のスピーカを同一筐体に備え、前記マイクロフォンのためのアンプゲインの値を変更するマイクゲイン調整部を有し、予め定める無線通信回線を使用して同時双方向通話が可能な無線機の音量調整方法において、
前記マイクロフォンのためのアンプゲインの値が予め設定可能に構成されており、
ユーザによる前記スピーカのボリウム調整を検知するステップと、
前記マイクゲイン調整部が前記アンプゲインの値を変更するステップとを含み、
前記スピーカのボリウム値が予め定める値以上である場合、前記アンプゲインの上限値が前記ボリウム値に応じた値として定められており、
予め設定されたアンプゲインの値が前記上限値以上であれば前記上限値を前記アンプゲインの値として変更し、
前記予め設定されたアンプゲインの値が前記上限値未満であれば前記予め設定されたアンプゲインの値を前記アンプゲインの値として使用することを特徴とする無線機の音量調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機と、その音量調整方法とに関し、特にハウリング防止のためのゲインコントロールに関する。
【背景技術】
【0002】
前記ハウリングは、スピーカから出力された音響がマイクロフォンで拾われ、それが再びスピーカから放出されることを繰返すハウリングループが形成されることで生じる発振現象である。したがって、不規則な雑音環境では無く、比較的静寂で、かつ周囲に反響する壁などがある場合に起り易い。また、スピーカとマイクロフォンとが対面している状況で生じ易く、対面していなくても、近接している状況でも生じ易い。
【0003】
たとえば、ハンディタイプの無線機では、送話用のマイクロフォンと受話用のスピーカとが同一筐体に設けられ、しかも極めて近接して配置される。これは、ユーザが、たとえば携帯電話の場合には、前記マイクロフォンとスピーカとを、それぞれ口と耳とに着けて使用するが、無線機の場合、ユーザはスピーカに正対して聞き取りを行い、そのままスピーカに向けて話し掛けてしまうので、設計上、マイクロフォンとスピーカとを近接配置しなければならないという事情から生じている。
【0004】
一方、無線機では、従来から、プレストークスイッチを押して、交互に通話を行うことが主流であった。しかしながら、特許文献1で示すような、同時双方向通話可能な無線機が登場している。その無線機の場合、ボリウム(音量)が予め定める値以上になると、スピーカから出力された音声がマイクロフォンで拾われて通話相手先に送信され、通話相手先でも同様のことが発生して、一定量以上の音が自機に戻って来ることが繰返されて、前記ハウリングが発生し易い。
【0005】
そこで、特許文献1では、同時双方向通話する場合、スピーカの出力音量を所定の低音量にし、かつマイクロフォンの感度も所定の低感度にすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】登録実用新案第2581171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の従来技術では、ともかく、ハウリングのループを断ち切るために、マイクロフォンとスピーカとの両方のアンプゲインを低下させている。そのため、ハウリングを抑えられるものの、スピーカ(受話)音量が小さくなってしまう。前記ボリウム(音量)を大きくするのは、工事現場や道路沿い、或いは地下鉄の中などの騒音環境にあると考えられ、そのような環境で強制的にボリウム(音量)を下げてしまうと、余計に聞き取り難くなってしまうという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、ハウリングを抑えつつも、騒音環境下でも明瞭に受話を行うことができる無線機およびその音量調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の無線機は、送話用のマイクロフォンおよび受話用のスピーカを同一筐体に備え、予め定める無線通信回線を使用して同時双方向通話が可能な無線機において、前記マイクロフォンのためのアンプゲインの値が予め設定可能に構成されており、前記アンプゲインの値を変更するマイクゲイン調整部を備え、前記マイクゲイン調整部は、前記スピーカのボリウム値が予め定める値以上である場合、前記アンプゲインの上限値が前記ボリウム値に応じた値として定められており、予め設定されたアンプゲインの値が前記上限値以上であれば前記上限値を前記アンプゲインの値として変更し、前記予め設定されたアンプゲインの値が前記上限値未満であれば前記予め設定されたアンプゲインの値を前記アンプゲインの値として使用することを特徴とする。
【0010】
また本発明の無線機の音量調整方法は、送話用のマイクロフォンおよび受話用のスピーカを同一筐体に備え、前記マイクロフォンのためのアンプゲインの値を変更するマイクゲイン調整部を有し、予め定める無線通信回線を使用して同時双方向通話が可能な無線機の音量調整方法において、前記マイクロフォンのためのアンプゲインの値が予め設定可能に構成されており、ユーザによる前記スピーカのボリウム調整を検知するステップと、前記マイクゲイン調整部が前記アンプゲインの値を変更するステップとを含み、前記スピーカのボリウム値が予め定める値以上である場合、前記アンプゲインの上限値が前記ボリウム値に応じた値として定められており、予め設定されたアンプゲインの値が前記上限値以上であれば前記上限値を前記アンプゲインの値として変更し、前記予め設定されたアンプゲインの値が前記上限値未満であれば前記予め設定されたアンプゲインの値を前記アンプゲインの値として使用することを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、予め定める無線通信回線を使用して同時双方向通話が可能な無線機において、該無線機周りの環境にもよるが、特にハンディタイプのように、送話用のマイクロフォンおよび受話用のスピーカを同一筐体に備える場合、ボリウム(音量)、すなわちアンプゲインが予め定める値以上になると、前述のようにしてハウリングが発生し易い。
【0012】
そこで本発明では、音量制御手段は、検知ステップで、前記スピーカのボリウム調整値を検知し、その調整値が予め定める値以上、つまり受話音量を一定以上にすることを判定ステップで判定すると、ゲイン低下のステップで、前記マイクロフォンのためのアンプゲイン、つまりマイク感度を低下させる。したがって、同時双方向通話で前記受話音量を一定以上にしてハウリングのループが形成される可能性のある場合、予めアンプゲインを下げて、そのループの形成を阻止しておくことで、ハウリングを未然に防止し、前記同時双方向通話を快適に行うことができるようになる。
【0013】
また、前記アンプゲインを下げるにあたって、マイクロフォンのためのアンプのゲインのみを低下させる。これは、スピーカのボリウムが上げられる、つまり受話音量が大きくされる場合は、騒音環境下にあると考えられ、話者は大きな声で話すと考えるためである。また、騒音環境下で送話するときは、マイクロフォンの感度は出来るだけ下げて使用する方が、環境騒音を拾わず、送話音声と騒音との音量差を確保し、受話側での騒音を減らすことができる。こうして、送話への支障を招くこと無く、つまり通話相手先が聞き取り難くなるようなことは無く、またハウリング防止のために受話音量を下げることもなく、騒音環境下でも明瞭に受話を行うことができるようになる(受話側の了解度を向上することができる。)。
【0014】
また本発明の無線機では、前記音量制御手段は、前記スピーカのボリウムおよび前記マイクロフォンのためのアンプゲインを、複数段階で切換えることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、前記音量制御手段は、ハウリング防止のためにマイクロフォンのアンプゲインを下げてゆくにあたって、ハウリングの発生する可能性の少ないボリウム(音量)の範囲では、ゲイン調整は行わず、スピーカのボリウムが予め定める値以上になると、たとえばボリウムを1dB上げるとマイクロフォンのアンプゲインを1dB下げるというような連続的な調整を行うのでは無く、ボリウムを1~3dBの何れかで上げるとマイクロフォンのアンプゲインを一律3dB下げるというような段階的な切換えを行う。
【0016】
したがって、音量制御手段の制御が容易であるとともに、ユーザが適正音量にするために細かにボリウム(音量)調整を行っても、通話相手先で聞こえる音量は急激には変わらず、違和感を無くすことができる。
【0017】
さらにまた、本発明の無線機では、前記予め定める無線通信回線は、携帯電話回線であり、当該携帯電話回線を利用したIPトランシーバーであることを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、携帯電話の3Gや4GのLTE回線のデータ回線を利用したIPトランシーバーは、同時双方向通話が可能で、ハウリングが生じ易いので、本発明が特に好適である。
【0019】
また本発明の無線機は、ハンディタイプの無線機であることを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、ハンディタイプの無線機は、送話用のマイクロフォンおよび受話用のスピーカを同一筐体に備え、それらが近接配置されるので、ハウリングが起り易く、本発明が好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の無線機およびその音量調整方法は、以上のように、送話用のマイクロフォンおよび受話用のスピーカを同一筐体に備え、予め定める無線通信回線を使用して、同時双方向通話が可能な無線機およびその音量調整方法において、前記スピーカのボリウムを予め定める値以上に制御する場合、前記マイクロフォンのためのアンプゲインを低下させる。
【0022】
それゆえ、同時双方向通話で受話音量を一定以上にしてハウリングのループが形成される可能性のある場合、予めマイクロフォンのアンプだけゲインを下げて、そのループの形成を阻止しておくことで、ハウリングを未然に防止し、前記同時双方向通話を快適に行うことができるようになる。また、ボリウム(音量)を上げる状況では、話者は、声を大きくするので、前記マイクロフォンのアンプゲインを下げても、通話相手先が聞き取り難くなるようなことは無く、一方、スピーカのボリウムはそのままで保持されるので、受話音量は下がらず、騒音環境下でも明瞭に受話を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の一形態に係る無線機の外観図である。
図2】前記無線機の電気的構成を示すブロック図である。
図3】前記無線機の音量制御動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の一形態の無線機1の外観図である。この無線機1は、DCR(デジタル簡易無線)による無線機と、携帯電話回線、たとえば3Gや4GのLTE回線を利用したIPトランシーバーとして使用可能である。最大送信電力は、たとえばDCRでは5Wであり、LTE回線では数十~数百mWである。LTE回線は、この無線機1のメーカーや採用企業などが、大手携帯電話会社の専有周波数帯域の一部を借り受けて使用するもので、そのため、無線機1は、SIMカードのスロットを備える。そして、無線機1は、DCRでは、プレストークスイッチ22,23の操作による通話相手先との交互の通話が可能であり、LTE回線では、同時双方向の通話が可能である。また、LTE回線で同時双方向通話を行いながら、DCRでの交互通話も可能であり、その場合、LTE回線の通信相手先では、DCRでの通話をモニター可能である。
【0025】
そのため、筐体21の左側面には、2つの前記プレストークスイッチ22,23が設けられ、どちらのスイッチにどちらの回線を割当てるかは、設定によって選択可能である。筐体21の天面には、DCR通信用のアンテナ31、チャネル選択つまみ25、およびボリウム(音量)調整つまみ26などが配置される。携帯電話回線のアンテナ41,42(図2参照)は、筐体21内に設けられている。
【0026】
筐体21の正面の略上半分には、円形のスピーカ51が埋込まれており、その下方には表示パネル52や各種キースイッチ53等が設けられている。円形のスピーカ51の周縁で、筐体21正面の矩形のスペースでの空き空間(図1では左下の部分)には、マイクロフォン54が設けられている。こうして、無線機1は、送話用のマイクロフォン54および受話用のスピーカ51を同一の筐体21に備え、予め定める無線通信回線である前記携帯電話のLTE回線を利用したIPトランシーバーのモードでは、ユーザがスピーカ51部分に正対した状態で、同時双方向通話が可能となっている。勿論、筐体21において、スピーカ51とマイクロフォン54との間には、直接の音の回り込みを抑えるための遮音の構造が設けられている。
【0027】
図2は、無線機1の電気的構成を示すブロック図である。無線機1の回路は、大略的に、DCR通信用の回路3と、LTE回線を介した通信用の回路4と、DCR通信とLTE回線を介した通信との両方で共用の回路5とを備えて構成される。したがって、大略的に、回路3,4は高周波の無線回路および変復調回路など、回路5は低周波の回路および電気機械変換回路ならびに制御回路で構成される。
【0028】
共用の回路5は、前記電気機械変換回路である前記スピーカ51およびマイクロフォン54と、それらのアンプ55,56と、電子ボリウム57と、音声信号処理回路58と、制御回路59と、前記ボリウム(音量)調整つまみ26とを備えて構成される。図2の構成では、前記のプレストークスイッチ22,23や表示パネル52およびキースイッチ53などは省略している。
【0029】
制御回路59は、CPUから成り、該無線機1の全体の制御を行うとともに、音声のデータのやり取りを行う。ボリウム(音量)調整つまみ26は、定電圧が印加された可変抵抗器で実現され、その摺動片からは、つまみ26の回転角度位置に対応した直流電圧が発生され、制御回路59のアナログ/デジタル変換ポートから取込まれる。制御回路59では、その電圧は、アナログ/デジタル変換器591でデジタルデータに変換され、対応して音量判定部592で電子ボリウム57の音量変更データに変換され、また後述するようにしてマイクゲイン調整部593においてマイクゲイン調整信号に変換される。このマイクゲイン調整部593におけるアンプ56の(マイク)ゲインは、前記キースイッチ53などからの初期設定などで予め設定される。
【0030】
スピーカ51には、固定ゲインのパワーアンプ55が接続されており、そのパワーアンプ55には前記音量変更データでゲイン(減衰率)が調整される電子ボリウム57を介して、音声信号処理回路58のデジタル/アナログ変換ポートからのアナログ音声信号が入力される。マイクロフォン54からのアナログ音声信号は、アンプ56において、前記マイクゲイン調整信号に応答したゲイン(増幅率)で増幅されて、音声信号処理回路58のアナログ/デジタル変換ポートに入力されて、デジタル音声信号に変換される。音声信号処理回路58は、デジタルシグナルプロセッサで実現されるCODEC(変復調)ICから構成され、音声信号を、スピーカ51およびマイクロフォン54側ではアナログで、制御回路59側ではデジタルでやり取りする、それらの間の変換回路である。
【0031】
DCR通信用の回路3は、変復調回路32と、発振器33と、復調回路34と、送信パワーアンプ35と、受信高周波アンプ36と、送受信切換えスイッチ37,38と、前記アンテナ31とを備えて構成される。変復調回路32は、デジタルシグナルプロセッサで実現され、制御回路59からの送話音声に対応した変調信号の情報データを作成して発振器33に与え、送信高周波信号に変換させる。発振器33は、電圧制御発振器にフェイズロックループ回路を備えるICから成り、前記制御回路59からの制御信号に応じて、たとえば351MHzや467MHzのキャリア周波数に対応した局部発振信号を生成し、それに前記変調信号を重畳して、送信高周波信号を生成する。その送信高周波信号は、送受信切換えスイッチ37から送信パワーアンプ35に与えられ、最大電力が前記5Wの送信信号に増幅されて、送受信切換えスイッチ38からアンテナ31に与えられて送信される。
【0032】
アンテナ31の受信信号は、送受信切換えスイッチ38から受信高周波アンプ36に入力され、所定ゲインで増幅されて復調回路34に入力される。受信時には、前記発振器33から、前記送受信切換えスイッチ37を介して、該復調回路34には、前記キャリア周波数の局部発振信号が与えられており、該復調回路34は、受信高周波信号からその局部発振信号で目的の復調信号を含む中間周波帯域のデータを抽出する。その中間周波帯域のデータは、変復調回路32でデジタルの復調データに変換されて、制御回路59へ入力される。詳しくは、復調回路34は、受信高周波信号を局部発振信号で直交復調し、中間周波信号を得て、アナログ/デジタル変換し、そのデジタルの中間周波信号を、選択度を高めるためにデジタルフィルタを通すことで、前記目的の復調信号が含まれる中間周波帯域のデータを生成する。その中間周波帯域のデータは、変復調回路32で、再度アナログ/デジタル変換され、デジタルフィルタを通すことで、前記目的の復調信号、つまり送信側からの変調信号のデータを得ることができる。送受信切換えスイッチ37,38は、前記プレストークスイッチ22,23の操作による送受信の切換えに対応して、制御回路59によって切換え制御される。
【0033】
LTE回線を介した通信用の回路4は、変調方式が異なるものの、基本的にデジタル送受信機で、上述のDCRの回路3に類似しているが、携帯電話会社やチップメーカの仕様により、内部回路構成も異なるので、図2では、LTEモジュール43の集積回路で示している。本実施形態の無線機1では、このLTE回線を使用したIPトランシーバーのモードでは、2本のアンテナ41,42を使用するようになっており、前記LTEモジュール43に接続される。LTEモジュール43は、変調データおよび復調データを制御回路59とやり取りする。
【0034】
上述のように構成される無線機1において、注目すべきは、図1で示すように、送話用のマイクロフォン54および受話用のスピーカ51が同一の筐体21に近接して配され、予め定める無線通信回線であるLTE回線のデータ回線を利用したIPトランシーバーとして同時双方向通話を行うにあたって、制御回路59は、ボリウム(音量)調整つまみ26、すなわちスピーカ51のための電子ボリウム(アンプ)57のゲインを予め定める値以上に制御する場合、マイクロフォン54のためのアンプ56のゲインを低下させることである。したがって、制御回路59およびアンプ56は、音量制御手段を構成する。
【0035】
詳しくは、図3は、制御回路59による音量制御動作を説明するためのフローチャートであり、表1は、一実施形態の制御テーブルである。
【0036】
【表1】
制御回路59内のモード判定部594は、ユーザによるチャネル選択や通話モード選択から、前記LTE回線を使用した同時双方向通話であると判定すると、アナログ/デジタル変換器591からのボリウムデータをモニターしており、ステップS1でユーザがボリウム調整をしても、ステップS2でそれが予め定める値「21」未満では、ステップS3で、予め設定されている(マイク)ゲインにアンプ56を制御する。前記(マイク)ゲインは、+12~-12(表1では12~0)dBの範囲で設定可能となっている。
【0037】
なお、本実施形態では、スピーカ51用のアンプ55は、前述の通り固定ゲインであり、ボリウム(音量)調整は、その前段の電子ボリウム57による減衰率で調整されるものとする。そのため、表1で示すように、0dB(減衰無し)が最大音量で、-63dBが最少音量で、その間を、32のボリウム値(ステップ)で分割している。そのため、音量判定部592は、ボリウム値(ステップ)「10」までの微小レベルでは数dB刻みの離散値で制御し、ボリウム値(ステップ)「11」以上は1dB刻みの連続値で制御する。つまり、予め定める調整幅(ボリウムの1ステップ)当りの変化量は、極小音レベルでは大きく、或る程度の音量以上の良く使用される音量では小さく、細かな調整が可能になっている。
【0038】
これに対して、モード判定部594は、ステップS2で、ユーザの調整したボリウム値が予め定める値である「21」以上であると、その「21」以上のボリウム値を複数に区分した内の何れの区分に該当するか判断する。本実施形態では、「21~24」「25~28」「29~32」の3区分である。続いてステップS4に移り、モード判定部594は、テーブル595に記憶されている表1のテーブルを参照して、設定ボリウム値の区分に適した(マイク)ゲインの上限値を読出させ、前記マイクゲイン調整部593に設定させる。マイクゲイン調整部593は、現在設定の(マイク)ゲインが、ステップS4でテーブル595から設定された上限値未満であれば、ステップS3でその現在の設定値をアンプ56に設定し、上限値以上であれば、ステップS5で上限値に変更し、アンプゲインを低下させる。
【0039】
具体的に、ボリウム値が、「20」までが(マイク)ゲインは上限値の12dBまでの範囲で任意に設定可能となり、「21~24」の範囲では8dBを上限値として設定可能となり、「25~28」の範囲では4dBを上限値として設定可能となり、「29~32」の範囲では0dBを上限値として設定可能となる。またたとえば、前記(マイク)ゲインの初期値が、6dBに設定されている場合、ボリウム値が、「24」までが(マイク)ゲインはその6dB、「25」以上で下がってゆくことになる。
【0040】
このように構成することで、送話用のマイクロフォン54および受話用のスピーカ51を同一の筐体21に備える無線機1において、制御回路59は、同時双方向通話の際、ボリウム(音量)調整つまみ26によるスピーカ51のアンプ(57)のゲインの調整を検知し、その調整が予め定める値(「21」)以上、つまり受話音量を一定以上にすることを判定すると、マイクロフォン54のアンプ56のゲイン、つまりマイク感度を低下させるので、ハウリングを未然に防止し、前記同時双方向通話を快適に行うことができるようになる。
【0041】
また、本実施形態の制御回路59では、ハウリングループのアンプのゲインを下げるにあたって、マイクロフォン54のためのアンプ56のゲインのみを低下させている。これは、スピーカ51のアンプ(57)ゲインが上げられる、つまり受話音量(ボリウム)が大きくされる場合は、騒音環境下にあると考えられ、話者は大きな声で話すと考えるためである。また、騒音環境下で送話するときは、マイクロフォンの感度は出来るだけ下げて使用する方が、環境騒音を拾わず、送話音声と騒音との音量差を確保し、受話側での騒音を減らすことができる。こうして、送話への支障を招くこと無く、つまり通話相手先が聞き取り難くなるようなことは無く、またハウリング防止のために受話音量を下げることもなく、騒音環境下でも明瞭に受話を行うことができるようになる(受話側の了解度を向上することができる。)。
【0042】
さらにまた本実施形態の制御回路59は、ハウリング防止のためにマイクロフォン51のアンプ56のゲインを下げてゆくにあたって、ハウリングの発生する可能性の少ないスピーカ51のアンプ(57)のゲイン(ボリウム「0」~「20」)では、ゲイン調整は行わず、予め定める値(「21」)以上になると、スピーカ51のアンプ(57)のゲインを1~4dBの何れかで上げると、マイクロフォン54のアンプ56のゲインを一律4dB下げるというような段階的な切換えを行う。したがって、制御回路59の制御が容易である、すなわちボリウム(音量)操作に追従した処理の負荷が軽くて済み、処理能力の高くない安価な部品を使用することができる。また、ユーザが適正音量にするためにボリウム(音量)調整を行っても、通信相手先で聞こえる音量は急激には変わらず、大きな違和感を感じることもない。
【0043】
しかしながら、制御回路59の能力が高い場合は、たとえば予め定める値(「21」)以上になると、スピーカ51のアンプ(57)のゲインを1dB上げただけで、マイクロフォン54のアンプ56のゲインを1dB下げるというような連続的な切換えを行ってもよい。そうすることで、ユーザがボリウム(音量)調整を行うと、通信相手先で聞こえる音量も連動して変わり、違和感はより少ない。
【符号の説明】
【0044】
1 無線機
21 筐体
22,23 プレストークスイッチ
25 チャネル選択つまみ
26 ボリウム(音量)調整つまみ
3 DCR通信用の回路
31 DCR通信用のアンテナ
32 変復調回路
33 発振器
34 復調回路
35 送信パワーアンプ
36 受信高周波アンプ
37,38 送受信切換えスイッチ
4 LTE回線を介した通信用の回路
41,42 携帯電話回線のアンテナ
5 共用の回路
51 スピーカ
52 表示パネル
53 キースイッチ
54 マイクロフォン
55 (スピーカ用)アンプ
56 (マイクロフォン用)アンプ
57 電子ボリウム
58 音声信号処理回路
59 制御回路
591 アナログ/デジタル変換器
592 音量判定部
593 マイクゲイン調整部
594 モード判定部
595 テーブル
図1
図2
図3