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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】エンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020525585
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2019023085
(87)【国際公開番号】W WO2019244711
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018118324
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】馬場 誠
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 諒
(72)【発明者】
【氏名】徳山 彰
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-156621(JP,A)
【文献】特開2008-049404(JP,A)
【文献】特開平07-204921(JP,A)
【文献】特開2016-005860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りにエンドミル回転方向に回転される軸状のエンドミル本体と、
このエンドミル本体の先端部外周に形成されて、上記エンドミル本体の先端側から後端側に向けて延びる切屑排出溝と、
この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部に形成された外周刃を有する切刃とを備え、
上記外周刃は、上記軸線回りの回転軌跡の上記軸線に沿った断面が、上記エンドミル本体の外周側に凸となる凸曲線状をなしていて、
この外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径が、上記切刃の最大直径である上記切刃の外径の1/2よりも大きく、上記外径の3倍以下とされており、
上記外周刃は上記エンドミル本体の後端側に向かうに従い上記エンドミル回転方向とは反対側に捩れていて、この外周刃の捩れ角が40°以上とされ、
さらに上記外周刃の径方向すくい角が-20°以上で0°以下とされていることを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
上記外周刃の径方向すくい角が-10°以上で-3°以下とされていることを特徴とする請求項に記載のエンドミル。
【請求項3】
上記外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線は、上記エンドミル本体の先端側に向かうに従い漸次内周側に向かって延びていることを特徴とする請求項1または2に記載のエンドミル。
【請求項4】
上記外周刃が形成された部分の上記軸線に直交する断面における上記エンドミル本体の芯厚は、同じ断面における上記外周刃の直径の70%以上で85%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項のうちいずれか一項に記載のエンドミル。
【請求項5】
上記外周刃の上記軸線方向の長さが、上記外径の0.75倍以上で2倍以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項のうちいずれか一項に記載のエンドミル。
【請求項6】
上記切刃は、上記エンドミル本体の先端部に、上記軸線回りの回転軌跡の上記軸線に沿った断面が上記軸線上に中心を有して上記外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の先端に接する凸曲線状をなす底刃をさらに有しており、
この底刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径に対して、上記外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径が、5倍以上で20倍以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1から請求項のうちいずれか一項に記載のエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミルに関する。
本願は、2018年6月21日に、日本に出願された特願2018-118324号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
3軸加工機による金型等の切削加工に用いられるエンドミルとしては、例えば特許文献1に記載されているようなボールエンドミルが一般的に知られている。ボールエンドミルでは、軸線回りに回転される軸状のエンドミル本体の先端部外周に、通常は複数条の切屑排出溝が周方向に間隔をあけてエンドミル本体の先端から後端側に延びるように形成されている。
【0003】
切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部には切刃が形成される。切刃は、軸線方向の先端部に、軸線回りの回転軌跡が軸線上に中心を有する半球状をなす底刃を備える。切刃は、軸線方向の後端部に、上記底刃に連なり、軸線回りの回転軌跡が軸線を中心とする円筒面状をなす外周刃を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-337718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボールエンドミルを用いて、金型等のエンドミル本体の軸線に対する傾斜角が小さい縦壁を3軸加工機により切削加工する場合には、エンドミル本体を軸線に垂直な方向に送り出して等高線加工を行う。等高線加工では、回転軌跡が半球状をなす底刃の後端側部分によって上記縦壁を切削する。等高線加工による切削を、切削面が重なり合うようにして所定のピッチでエンドミル本体を軸線方向に移動させて段階的に繰り返すことにより縦壁を形成する。
【0006】
切刃の最大外径である工具径、すなわち底刃の回転軌跡がなす半球の直径が小さいと、上記ピッチを大きくした場合には、重なり合った切削面同士の境界部分が突出してしまって加工面粗さを損なう結果となる。そのため、縦方向のピッチを小さくせざるを得ず、加工効率が損なわれる結果となる。一方、上記工具径が大きいボールエンドミルは、エンドミル本体も大きくなるため、回転駆動力も大きくしなければならないとともに、コスト高になる。
【0007】
本発明は、被削材の縦壁を切削加工する場合に、同一工具径のボールエンドミルと比較して、軸線方向への移動ピッチを大きくして加工効率を高めることが可能なエンドミルを提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、軸線回りにエンドミル回転方向に回転される軸状のエンドミル本体と、このエンドミル本体の先端部外周に形成されて、上記エンドミル本体の先端側から後端側に向けて延びる切屑排出溝と、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部に形成された外周刃を有する切刃とを備え、上記外周刃は、上記軸線回りの回転軌跡の上記軸線に沿った断面が、上記エンドミル本体の外周側に凸となる凸曲線状をなしていて、この外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径が、上記切刃の最大直径である上記切刃の外径の1/2よりも大きく、上記外径の3倍以下とされており、上記外周刃は上記エンドミル本体の後端側に向かうに従い上記エンドミル回転方向とは反対側に捩れていて、この外周刃の捩れ角が40°以上とされ、さらに上記外周刃の径方向すくい角が-20°以上で0°以下とされていることを特徴とするエンドミルが提供される。
【0009】
このような構成のエンドミルでは、外周刃の軸線回りの回転軌跡の軸線に沿った断面がエンドミル本体の外周側に凸となる凸曲線状をなしていて、この凸曲線の曲率半径が切刃の最大直径である切刃の外径の1/2よりも大きくされている。これにより、回転軌跡が半球状とされたボールエンドミルの底刃のように曲率半径(半径)が切刃の外径の1/2とされているのと比べて、切刃の外径が同じ場合には、縦壁切削の際の移動ピッチを大きくしても切削面同士の境界部分が大きく突出するのを抑制することができる。
【0010】
上記構成のエンドミルでは、外周刃の捩れ角が20°以上とされるとともに、外周刃の径方向すくい角が0°以下とされているので、外周刃の刃先強度を確保しつつ鋭い切れ味を外周刃に与えて切削負荷を低減できる。このため、エンドミル本体を大型化することなく、エンドミル本体を軸線方向に大きな移動ピッチで移動させても優れた加工面粗さを得ることができる。上記エンドミルによれば、被削材の縦壁を効率的かつ高品位に切削加工することが可能となる。外周刃の捩れ角は、20°以上60°以下、あるいは20°以上50°以下としてもよい。
【0011】
ただし、エンドミルの外周刃の回転軌跡がなす凸曲線の曲率半径が大きくなりすぎると、外周刃が軸線方向に広い範囲に亙って被削材に食い付いた状態となって切削抵抗の増大を招く。切削抵抗が大きくなると、ビビリ振動が発生して加工面粗さを損なうおそれがある。そのため、外周刃の回転軌跡がなす凸曲線の曲率半径は切刃の外径の3倍以下とされる。また、外周刃の径方向すくい角が小さくなりすぎても、同様に切削抵抗が増大するため、外周刃の径方向すくい角は-20°以上とされる。
【0012】
上記外周刃の捩れ角を40°以上としてもよい。この構成によれば、さらに鋭い切れ味を外周刃に与えて一層の切削抵抗を低減でき、加工面粗さを向上させることができる。外周刃の捩れ角は、40°以上60°以下、あるいは40°以上50°以下としてもよい。
上記外周刃の径方向すくい角を-10°以上で-3°以下としてもよい。この構成によれば、切削抵抗の一層低減でき、かつ外周刃の刃先強度を確保することができる。
【0013】
上記外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線は、上記エンドミル本体の先端側に向かうに従い漸次内周側に向かって延びていてもよい。この構成によれば、3軸加工機においてエンドミル本体を被削材の縦壁の傾斜に沿って軸線方向先端側に所定のピッチで移動させることで、エンドミル本体と縦壁とを干渉させることなく切削加工を行うことが可能となる。
【0014】
上記外周刃が形成された部分の上記軸線に直交する断面における上記エンドミル本体の芯厚を、同じ断面における上記外周刃の直径の70%以上で85%以下としてもよい。この構成によれば、切屑排出溝に十分な大きさを確保して良好な切屑排出性を得ることができる。外周刃が形成された部分におけるエンドミル本体の剛性が高くなるので、切削抵抗によるビビリ振動の発生やエンドミル本体の撓みを防ぐことができる。したがって、上記エンドミルによれば、加工面粗さをさらに向上させることができる。
【0015】
上記外周刃の上記軸線方向の長さを、上記外径の0.75倍以上で2倍以下の範囲内としてもよい。この構成によれば、1回の等高線加工における縦壁の加工幅は十分に確保しつつ、縦壁に続いて被削材に水平な底面や縦壁よりも傾斜が緩やかな傾斜面が形成されている場合でも、これら底面や傾斜面の極近くまで3軸加工機によって切削加工を行うことができる。
【0016】
上記切刃は、上記エンドミル本体の先端部に、上記軸線回りの回転軌跡の上記軸線に沿った断面が上記軸線上に中心を有して上記外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の先端に接する凸曲線状をなす底刃をさらに有していてもよい。この場合には、例えば上述のように縦壁に続いて水平な底面が形成されているときに、これら縦壁と底面との間の隅角部の切削を上記底刃を用いて3軸加工機により行うことができる。
【0017】
上記の凸曲線状の底刃がエンドミル本体の先端部に形成されている場合には、底刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径に対して、上記外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径は、5倍以上で20倍以下の範囲内とされるのが望ましい。この範囲よりも外周刃の曲率半径が大きいと、底刃の曲率半径が小さくなりすぎて欠損を生じるおそれがある。一方、外周刃の曲率半径がこの範囲よりも小さいと、底刃と外周刃の曲率半径が略同じとなってボールエンドミルによる切削加工と変わらなくなる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のエンドミルによれば、同一工具径のボールエンドミルと比較して、軸線方向への移動ピッチを大きくして加工効率を高めることができる。本発明のエンドミルによれば、3軸加工機によって被削材の縦壁を切削加工する場合でも、加工効率を向上でき、優れた加工面粗さを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態を示すエンドミル本体の先端部の側面図である。
図2図2は、図1に示す実施形態のさらに先端部の拡大側面図である。
図3図3は、図1に示す実施形態の中心部を示す軸線方向先端側から見た拡大正面図である。
図4図4は、図1におけるZZ断面図(エンドミル本体の先端から軸線方向後端側に5mmの位置の断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1ないし図4は、本発明の一実施形態に係るエンドミルを示す。
本実施形態のエンドミル10は、エンドミル本体1と、エンドミル本体1の表面に形成される硬質皮膜(図示省略)とを含む。エンドミル10は、硬質皮膜を備えない構成であってもよい。
本実施形態において、エンドミル本体1は、例えば超硬合金や高速度工具鋼等の硬質な金属材料によって一体に形成されて、軸線Oを中心とした略円柱の軸状をなしている。エンドミル本体1の先端部(図1および図2において左側部分)には刃部2が形成される。刃部2以外の後端部(図1において右側部分)は円柱状のままのシャンク部3とされている。
【0021】
本実施形態のエンドミル10は、シャンク部3が例えば3軸加工機であるマシニングセンタ等の工作機械の主軸に把持されて、軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、通常は軸線Oに垂直な方向に送り出されることにより、上記刃部2によって被削材に比較的小さな切り込み量で仕上げ加工や中仕上げ加工等の切削加工(転削加工)を行う切削工具(転削工具)である。本実施形態のエンドミル10は、例えば金属材料からなる金型等の被削材に凹曲面や凸曲面の曲面加工やポケット加工、深掘り加工、面取り加工等の各種切削加工を施す。
【0022】
刃部2には、刃部2の先端から後端側に向けて延びる切屑排出溝4が形成されている。本実施形態では、複数(4つ)の切屑排出溝4が周方向に間隔をあけて形成されている。これらの切屑排出溝4は、エンドミル本体1の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に向かうように捩れている。
【0023】
切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面は、図4に示すように外周側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に向かうように延びている。切屑排出溝4の壁面の外周側辺稜部には切刃5として、外周刃6が周方向に等間隔に形成されている。すなわち、本実施形態のエンドミル10は4枚刃のソリッドエンドミルである。外周刃6は周方向に不等間隔に形成されていてもよい。
【0024】
切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く上記壁面は外周刃6のすくい面とされる。外周刃6を介してすくい面に交差する刃部2の外周面は外周刃6の逃げ面とされる。本実施形態では外周刃6に負の径方向すくい角αと正の捩れ角βが与えられる。なお、複数の切屑排出溝4にそれぞれ形成される複数(4つ)の外周刃6は、軸線O回りの回転軌跡が互いに一致させられる。
【0025】
切屑排出溝4の先端部には、刃部2の内周側に延びる凹溝状のギャッシュ7が形成されている。ギャッシュ7のエンドミル回転方向Tを向く壁面の先端から外周側に延びる辺稜部には、外周刃6の先端にそれぞれ連なる底刃8が、切刃5として形成されている。ギャッシュ7のエンドミル回転方向Tを向く壁面は底刃8のすくい面とされる。底刃8のすくい面に底刃8を介して連なる刃部2の先端面は底刃8の逃げ面とされる。
【0026】
本実施形態では、複数の底刃8は、図3に示すように軸線O方向先端側から見て、周方向に交互に位置する長底刃8Aと短底刃8Bとからなる。長底刃8Aは、外周刃6の先端からエンドミル回転方向Tに凸となる凸曲線を描きつつ軸線Oを越えて延びる。短底刃8Bは、外周刃6の先端からエンドミル回転方向Tに凸となる凸曲線を描きつつ軸線Oを越えずに延びる。本実施形態の場合、2つの長底刃8Aは軸線Oに交差することはなく、これらの長底刃8Aの内周端同士は軸線Oに対する径方向に互いに行き違っている。
【0027】
外周刃6は、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面が、図1に鎖線で示すようにエンドミル本体1の外周側に凸となる凸曲線状をなしている。外周刃6の回転軌跡の断面がなす凸曲線は、本実施形態では凸円弧であり、エンドミル本体1の先端側に向かうに従い漸次内周側に向かうように延びている。底刃8の軸線O回りの回転軌跡は、外周刃6の回転軌跡に外周刃6の先端において接して軸線O上に中心を有する1つの凸半球状面に位置している。
【0028】
切刃5の直径、すなわち切刃5が軸線O回りになす円の直径は、外周刃6の後端において最大となる。外周刃6の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面がなす上記凸曲線の曲率半径Rは、切刃5の最大直径である切刃5の外径Dの1/2よりも大きく、外径Dの3倍以下とされている。本実施形態では、上記凸曲線の曲率半径Rは切刃5の外径Dと等しくされている。
【0029】
外周刃6は、エンドミル本体1の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れていて、上述のように正の捩れ角βが与えられている。外周刃6の捩れ角βは20°以上とされ、好ましくは30°以上、望ましくは40°以上とされている。本実施形態では、外周刃6の径方向すくい角αは上述のように負角とされているが、この径方向すくい角αは-20°以上で0°以下とされて、望ましくは-10°以上で-3°以下とされている。
【0030】
外周刃6が形成された部分の軸線Oに直交する断面におけるエンドミル本体1の刃部2の芯厚Dwは、図4に示すように軸線Oに直交する断面において切屑排出溝4のエンドミル本体1外周側を向く底面に内接する芯厚円Uの直径である。芯厚Dwは、同じ断面における外周刃6の直径dの70%以上で85%以下とされている。また、外周刃6の軸線O方向の長さLは、切刃5の最大直径である外径Dの0.75倍以上で2倍以下の範囲内とされている。
【0031】
さらに、外周刃6の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面がなす上記凸曲線の曲率半径Rは、底刃8の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面がなす凸曲線(凸円弧)の曲率半径rに対しては、5倍以上で20倍以下の範囲内とされている。
【0032】
このような構成のエンドミルによって、金型等の軸線Oに対する傾斜角が小さい縦壁の切削加工を行う場合には、まず縦壁の例えば上端部に刃部2の位置を合わせて軸線Oに垂直な方向にエンドミル本体1を送り出すことにより、等高線加工を行う。次いで、エンドミル本体1を、刃部2による切削面同士が重なり合うように軸線O方向の先端側に所定のピッチで移動させて再び等高線加工を行う。以後、上記の等高線加工を繰り返すことによって縦壁を切削加工する。
【0033】
上記構成のエンドミルでは、外周刃6の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面がエンドミル本体1の外周側に凸となる凸曲線状をなしていて、この凸曲線の曲率半径Rが切刃5の最大直径である切刃5の外径Dの1/2よりも大きくされている。このため、回転軌跡が半球状とされたボールエンドミルの底刃のように曲率半径(半径)が切刃の外径の1/2とされているのと比べ、切刃5の外径Dが同じであれば、上述のような縦壁切削の際の移動ピッチを大きくしても切削面同士の境界部分が大きく突出するのを抑えることができる。
【0034】
上記構成のエンドミルでは、外周刃6の捩れ角βが20°以上の正角とされるとともに、外周刃6の径方向すくい角αは0°以下の負角とされている。従って、外周刃6には刃先強度を確保しつつ鋭い切れ味を与えることができるので、切削負荷を低減できる。また、エンドミル本体1を大型化することなく、軸線O方向に少ない移動ピッチで移動させたときに優れた加工面粗さを得ることができる。このため、エンドミル本体1の回転駆動力やコストの増大を招くことなく、上述のような被削材の縦壁の仕上げ切削加工や中仕上げ切削加工を効率的に、しかも高品位に行うことが可能となる。
【0035】
なお、外周刃6の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径Rが大きくなりすぎると、外周刃6が軸線O方向に広い範囲に亙って被削材に食い付いた状態となり、切削抵抗の増大を招いてビビリ振動が発生してしまうため、加工面粗さを却って損なうおそれがある。このため、外周刃6の回転軌跡がなす凸曲線の曲率半径Rは切刃5の最大直径である外径Dの3倍以下とされる。また、外周刃6の径方向すくい角αが小さくなりすぎても、同様に切削抵抗の増大を招くおそれがあるので、外周刃6の径方向すくい角αは-20°以上とされる。
【0036】
さらに、外周刃6の捩れ角βを30°以上、または40°以上とすることにより、一層鋭い切れ味を外周刃6に与えて切削抵抗をさらに低減でき、加工面粗さを向上させることができる。外周刃6の捩れ角βを大きくしすぎると、外周刃6の剛性が低下してチッピングを生じやすくなる。そのため、外周刃6の捩れ角βは60°以下であることが好ましく、50°以下であることがより好ましい。また、外周刃6の径方向すくい角αを-10°以上で-3°以下とすることによっても、切削抵抗を一層低減できるとともに、刃先強度を確実に確保することが可能となる。
【0037】
さらにまた、本実施形態では、外周刃6の回転軌跡の断面がなす凸曲線が、エンドミル本体1の先端側に向かうに従い漸次エンドミル本体1の内周側に向かって延びるように形成されている。このため、3軸加工機によって軸線Oに対する傾斜角が小さな被削材の縦壁を切削する場合には、この縦壁の傾斜に沿ってエンドミル本体1を軸線O方向先端側に所定のピッチで移動させることで、エンドミル本体1と縦壁とを干渉させることなく切削加工を行うことができる。従って、4軸以上の複雑な制御を要する加工機を用いることなく、このような縦壁の切削加工を行うことができる。
【0038】
また、本実施形態では、外周刃6が形成された部分の軸線Oに直交する断面におけるエンドミル本体1の刃部2の芯厚Dwが、同じ断面における外周刃6の直径dの70%以上で85%以下とされている。このため、切屑排出溝4に十分な大きさ(容量)を確保して良好に切屑を排出し、円滑な切削を行うことができる。また、上記構成により、外周刃6が形成された刃部2におけるエンドミル本体1の剛性を高めることができて、切削抵抗によるエンドミル本体1のビビリや撓みを防ぐことができるので、加工面粗さを一層向上できる。
【0039】
さらに、本実施形態では、外周刃6の軸線O方向の長さLが、切刃5の外径Dの0.75倍以上で2倍以下の範囲内とされている。これにより、1回の等高線加工における縦壁の加工幅は十分に確保して加工効率を維持することができる。また、縦壁に続いて軸線O方向先端側に軸線Oに垂直な被削材の底面や縦壁よりも傾斜が緩やかな傾斜面が形成されている場合でも、被削材の底面や傾斜面の極近くまでエンドミル本体1を移動させることができて3軸加工機により縦壁の切削加工を行うことが可能となる。
【0040】
また、本実施形態では、切刃5が、エンドミル本体1の先端部に、凸曲線状の底刃8をさらに有する。凸曲線状の底刃8は、軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面が、軸線O上に中心を有する。凸曲線状の底刃8は、外周刃6の回転軌跡の断面がなす凸曲線の先端に接する。このため、例えば被削材の縦壁に続いて軸線Oに垂直な底面が形成されている場合に、縦壁と底面との間の隅角部の切削加工を、この底刃8を用いて3軸加工機により連続して行うことができる。
【0041】
なお、エンドミル本体1の先端部に回転軌跡が半球状をなす底刃8が形成されている場合には、底刃8の回転軌跡の断面がなす凸曲線(凸円弧)の曲率半径(半径r)に対して、外周刃6の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径Rが大きすぎると、相対的に底刃8の曲率半径rが小さくなりすぎて底刃8に欠損を生じるおそれがある。
【0042】
その一方で、底刃8の曲率半径(半径r)に対して外周刃6の曲率半径Rが相対的に小さすぎると、底刃8と外周刃6の曲率半径r、Rが略等しくなり、ボールエンドミルによる切削加工と変わらなくなってしまう。このため、本実施形態のようにエンドミル本体1の先端部に底刃8が形成されている場合には、底刃8の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径rに対して、外周刃6の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径Rは、5倍以上で20倍以下の範囲内とされるのが望ましい。
【0043】
なお、本実施形態では、外周刃6の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面がなす凸曲線が凸円弧とされているが、楕円弧や放物線等の凸曲線であってもよい。また、本実施形態では、外周刃6の回転軌跡の断面がなす凸曲線が、エンドミル本体1の先端側に向かうに従い漸次内周側に向かって延びているが、エンドミル本体1の先端側に向かうに従い一旦外周側に延びて拡径した後に、漸次内周側に向かって延びるように形成されていてもよい。この場合に切刃5の最大直径となる外径Dは、外周刃6が最も拡径した位置の外径となる。
【実施例
【0044】
次に、本発明の実施例を挙げて、本発明の外周刃の回転軌跡の断面がなす凸曲線の曲率半径(以下、外周Rと称する。)、外周刃の径方向すくい角および外周刃の捩れ角による効果について実証する。本実施例では、上記実施形態に基づき、切刃の外径が10mm、外周Rが切刃の外径と等しく10mm、外周刃の捩れ角が40°~60°で、外周刃の径方向すくい角を変化させた6種のエンドミルを製造した。これらを実施例1~6として、表1に外径、外周R、径方向すくい角および捩れ角を示す。
【0045】
また、これら実施例1~6に対する比較例として、同じく切刃の外径が10mmで、外周Rが85mm(切刃の外径の8.5倍)、外周刃の径方向すくい角が-1.6°、捩れ角が20°のエンドミルと、切刃の外径が10mm、外周Rが10mm、外周刃の径方向すくい角が-2.5°、捩れ角が40°のエンドミルと、切刃の外径が10mm、外周Rが10mm、外周刃の径方向すくい角が-3.7°、捩れ角が20°のエンドミルと、切刃の外径が10mm、外周Rが5mm(切刃の外径の1/2)、外周刃の径方向すくい角が-5.3°、捩れ角が20°のエンドミルとを製造した。これらを順に比較例1、2、3、4として表1に併せて示す。比較例4はボールエンドミルである。
【0046】
そして、実施例1~6と比較例1~4のエンドミルにより、被削材の縦壁に対してエンドミル本体の軸線に垂直な方向にエンドミル本体を送り出す等高線加工を軸線方向先端側に所定のピッチで繰り返し、切削試験を実施した。被削材の切削面(加工面)について、送り方向と軸線方向の加工面粗さ(JIS B 0601-2013における最大高さ粗さRz(μm))を測定した。この結果も、表1に併せて示す。
【0047】
実施例1~6および比較例1~4のエンドミルは、エンドミル本体の基材がいずれも超硬合金であり、刃部の表面には硬質皮膜が被覆されている。また、被削材はJIS G 4404におけるSKD61相当材(硬度43HRC)である。切削加工は、水平面に対して60°傾斜させた縦壁を回転数8800min-1(切削速度276m/min)、送り速度2220mm/min、取り代0.1mmの等高線加工をピッチ0.2mmで繰り返した。また、エンドミル本体の突き出し量は40mmでホルダは大昭和精機株式会社製ミーリングホルダであり、水溶性の切削油剤を用いた湿式加工とした。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果より、まず外周Rが切刃の外径の8.5倍と大きい比較例1では、外周刃が軸線方向に広い範囲にわたって被削材に食いついてしまい、切削抵抗が増大してビビリ振動が発生した。そのため、比較例1のエンドミルでは、送り方向と軸線方向のいずれの加工面粗さも2.0μmを越えてしまった。
外周刃の径方向すくい角が正角である比較例2のエンドミルは、すくい角が強すぎるためにビビリ振動が発生した。そのために加工面粗さが2.0μmを越えてしまった。
外周刃の捩れ角が20°である比較例3のエンドミルは、捩れ角が弱すぎるために切削抵抗が大きくなり、ビビリ振動が発生した。そのために加工面粗さが2.0μmを越えてしまった。
外周Rが切刃の外径の1/2のボールエンドミルである比較例3では、送り方向の加工面粗さは2.0μmを越えることはなかったものの、エンドミル本体を軸線方向に移動させて等高線加工を行った際の切削面同士の境界部分が突出してしまい、軸線方向の加工面粗さが2.0μmを越えてしまった。
【0050】
比較例1~4に対して、本発明に係る実施例1~6では、ビビリ振動を生じることもなく、送り方向と軸線方向の加工面粗さはいずれも2.0μm以下であった。特に、外周刃の径方向すくい角が-10°以上で-3°以下とされた実施例1~3では、送り方向の加工面粗さが1.2μm以下、軸線方向の加工面粗さが1.7μm以下であり、さらに優れた加工面粗さが得られた。外周刃の捩れ角をそれぞれ30°、60°とした実施例5、6では、実施例1~3と比較すると加工面粗さがやや大きくなったが、送り方向と軸線方向の加工面粗さはいずれも2.0μm以下であった。
【符号の説明】
【0051】
1 エンドミル本体
2 刃部
3 シャンク部
4 切屑排出溝
5 切刃
6 外周刃
7 ギャッシュ
8 底刃
10 エンドミル
O エンドミル本体の軸線
T エンドミル回転方向
R 外周刃6の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面がなす凸曲線の曲率半径
D 切刃5の外径
r 底刃8の軸線O回りの回転軌跡の軸線Oに沿った断面がなす凸曲線の曲率半径
Dw 芯厚
d 外周刃6の直径
L 外周刃6の軸線O方向の長さ
α 外周刃6の径方向すくい角
β 外周刃6の捩れ角
図1
図2
図3
図4