(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】回転子、回転子の製造方法、モータ、圧縮機、および冷凍装置
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240111BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2021176586
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】堀 敬憲
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 清隆
(72)【発明者】
【氏名】小川 達也
(72)【発明者】
【氏名】小谷 健斗
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-057443(JP,A)
【文献】特開2015-186302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(C)の周りに回転可能に設けられる、モータ(100)の回転子(10)であって、
前記回転軸の延伸方向に延びる開口(22)が形成された筒状のコア(20)と、
前記開口に収容された磁石(40)と、
前記コアの前記回転軸の延伸方向における端部に固定された環状のバランスウエイト(30)と
、
前記バランスウエイトを前記コアに対して固定する締結具(60)と、
を備え、
前記バランスウエイトは、
凹部(34)が前記コアに対向する面に形成された第1部(35a)と、凹部が形成されていない第2部(35b)とを有し、
前
記コアに対する位置決め孔である第1孔(32)が、前記回転軸に沿って見た場合に、前記第2部であって前記コアの前記開口と対向しない位置に形成さ
れ、
前記コアは、
前記回転軸に沿って見た場合に、前記第1孔に対向する位置に、前記第1孔とともに前記バランスウエイトの前記コアに対する位置決め孔となる第2孔が形成され、
前記締結具は、
前記バランスウエイトに形成された前記第1孔とは異なる第3孔(33)と、前記コアに形成された前記第2孔とは異なる第4孔(23a)とに収容され、前記第1孔に収容されていない、
回転子。
【請求項2】
前記回転軸に沿って見た場合に、
前記第1孔は、
前記回転軸と前記バランスウエイトの重心(CG)とを結ぶ直線上に形成されている、
請求項1に記載の回転子。
【請求項3】
前記バランスウエイトは、
前記第2部の内周側に、前記回転軸に平行な平坦面(31a)を有する、
請求項1
または2に記載の回転子。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の回転子の製造方法であって、
第1孔に柱状のジグ(90)を挿入することにより、コアに対してバランスウエイトが位置決めされる工程を備える、
回転子の製造方法。
【請求項5】
固定子(70)と、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の回転子と
を備える、
モータ(100)。
【請求項6】
請求項
5に記載のモータを備える、
圧縮機(200)。
【請求項7】
請求項
6に記載の圧縮機を備える、
冷凍装置(300)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
回転子、回転子の製造方法、モータ、圧縮機、および冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの運転時に回転軸周りに生じるアンバランスを調整するためのバランスウエイトを有する回転子が知られている。特許文献1(特開2007-154657号公報)は、バランスウエイトを有するモータが用いられた圧縮機を開示している。特許文献1が開示するモータの回転子は、永久磁石が収容された回転子コアと、回転子コアの回転軸の延伸方向の両端面に固定された円板状のバランスウエイトとを備える。このバランスウエイトは、アンバランスを調整するための半円状の凹部が形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アンバランスを調整するための凹部が形成されたバランスウエイトは、回転軸の周方向における位置決めを行った上で回転子コアに固定するための位置決め用の印が形成されていることが好ましい。しかし、位置決め用の印の態様によっては、回転子コアに収容された永久磁石が割れたり欠けたりする等して破損した場合に、破損した永久磁石の一部が位置決め用の印からモータ内に流出する等して、モータの正常な運転が阻害されるおそれがある。
【0004】
本開示は、破損した永久磁石が流出することを抑制できる回転子、この回転子の製造方法、この回転子を備えるモータ、このモータを備える圧縮機、およびこの圧縮機を備える冷凍装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点の回転子は、回転軸の周りに回転可能に設けられる、モータの回転子である。回転子は、コアと、磁石と、バランスウエイトとを備える。コアは、回転軸の延伸方向に延びる磁石収容孔が形成された筒状の部材である。磁石は、開口に収容されている。バランスウエイトは、コアの回転軸の延伸方向における端部に固定された環状の部材である。バランスウエイトは、凹部がコアに対向する面に形成された第1部と、凹部が形成されていない第2部とを有する。バランスウエイトは、コアに対する位置決め孔である第1孔が、回転軸Cに沿って見た場合に、第2部であってコアの磁石収容孔と対向しない位置に形成されている。
【0006】
本回転子によれば、バランスウエイトに第1孔が形成されているため、回転軸の周方向におけるバランスウエイトの位置決めが容易であることに加えて、割れたり欠けたりする等して破損した磁石が外部に流出することを抑制できる。
【0007】
より詳細には、第1孔が、回転軸に沿って見た場合に、コアの磁石収容孔と対向しない位置に形成されているため、磁石が第1孔を介して回転子の外部に露出しない。また、第1孔が、回転軸に沿って見た場合に、第2部に形成されているため、磁石が第1孔および凹部を介して回転子の外部と連通することもない。このため、回転子がモータに用いられた場合等に、磁石が破損をしても、破損した磁石が第1孔から流出することがない。加えて、磁石の破損の要因となる物(ストレス要因)が、第1孔を介して磁石と接触することも抑制される。
【0008】
したがって、本回転子は、破損した磁石が第1孔から流出することを抑制できる。
【0009】
第2観点の回転子は、第1観点の回転子であって、回転軸に沿って見た場合に、第1孔は、回転軸とバランスウエイトの重心とを結ぶ直線上に形成されている。
【0010】
本回転子によれば、第1孔が回転軸とバランスウエイトの重心とを結ぶ直線上に形成されることで、バランスウエイトの重心の周方向における位置(角度)を第1孔によって判断することができるため、回転軸の周方向におけるバランスウエイトの位置決めがさらに容易になる。
【0011】
また、第1孔が回転軸とバランスウエイトの重心とを結ぶ直線上に形成されることで、凹部の周方向における位置を把握することなく、回転軸とバランスウエイトの重心の位置とに基づいて第1孔を第2部に(言い換えると凹部を避けて)容易に形成できる。
【0012】
第3観点の回転子は、第1観点または第2観点の回転子であって、回転軸に沿って見た場合に、コアは、第1孔に対向する位置に、第1孔とともにバランスウエイトのコアに対する位置決め孔になる第2孔が形成されている。
【0013】
本回転子によれば、第1孔と、第2孔とに挿入することができる柱状のジグを用いた位置決めができる。このため、本回転子によれば、回転子コアに対するバランスウエイトの位置決めが容易である。
【0014】
また、本回転子では、第1孔がバランスウエイトの主面上に形成される。これにより、第1孔がバランスウエイトの外周面や内周面に形成される場合と比べて、モータに用いられた際に回転子に生じる撹拌抵抗が抑制される。
【0015】
第4観点の回転子は、第3観点の回転子であって、バランスウエイトをコアに対して固定する締結具をさらに備える。締結具は、バランスウエイトに形成された第1孔とは異なる第3孔と、回転子コアに形成された第2孔とは異なる第4孔とに収容されている。
【0016】
本回転子によれば、第1孔と、第2孔とを用いた位置決めをした状態で、締結具によりバランスウエイトと回転子コアとを固定できる。このため、本回転子によれば、バランスウエイトの回転子コアへの固定が容易である。
【0017】
第5観点の回転子は、第1乃至第4観点のいずれか1つの回転子であって、バランスウエイトは、第2部の内周側に、回転軸に平行な平坦面を有する。
【0018】
本回転子によれば、凹部の形状に加えて平坦面の大きさを調整することにより、回転軸の周りにおける回転子コアのアンバランスを調整できる。このため、本回転子では、平坦面を有さない場合と比べて、より細かなアンバランスの調整が可能である。
【0019】
第6観点の回転子の製造方法は、第1乃至第5観点のいずれか1つの回転子の製造方法であって、第1孔に柱状のジグを挿入することにより、コアに対してバランスウエイトが位置決めされる工程を備える。
【0020】
第7観点のモータは、固定子と、第1乃至第5観点のいずれか1つの回転子とを備える。
【0021】
本モータによれば、破損した磁石によりモータの正常な運転が阻害されることが抑制される。
【0022】
第8観点の圧縮機は、第6観点のモータを備える。
【0023】
第9観点の冷凍装置は、第7観点の圧縮機を備える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】第1バランスウエイト30および締結具60を外した状態の回転子10の平面図である。
【
図4】回転子10の第1バランスウエイト30の平面図((a))と、IV-IV線における断面図((b))と、底面図((c))である。
【
図6】回転子10の製造方法を説明する部分断面図である。
【
図10】変形例Aに係る回転子10の第1バランスウエイト30の平面図((a))と、X-X線における断面図((b))と、底面図((c))である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の一実施形態の回転子10、回転子10を備えるモータ100、モータ100を備える圧縮機200、および圧縮機200を備える冷凍装置300について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
(1)回転子10の構成
図1、
図2に示されるように、回転子10は、主として、回転子コア20、第1バランスウエイト30、永久磁石40、第2バランスウエイト50、および締結具60を有する。回転子10は、後述するモータ100の回転軸Cの周りに、
図1に矢印Rで示される回転方向(平面視において反時計回り)へ回転可能に設けられる。回転子10には、モータ100が備えるシャフト70を取り付けるためのシャフト貫通孔11が形成されている。
【0027】
(1-1)回転子コア20
回転子コア20は、外周形状が同じ複数の鋼板(図示省略)を、回転軸Cの延伸方向に積層することにより形成されている。回転子コア20は、筒状を有する。回転子コア20には、主として、1つのシャフト収容孔21、複数の磁石収容孔22、および複数の締結具収容孔23が形成されている。シャフト収容孔21、磁石収容孔22、および締結具収容孔23は、回転軸Cの延伸方向に延び、回転子コア20を貫くように形成された開口である。回転子コア20は、コアの一例である。
【0028】
シャフト収容孔21は、シャフト70が貫通し、シャフト70を保持するための孔である。回転軸Cに沿って見た場合(言い換えると、回転軸Cの延伸方向から見た場合)、シャフト収容孔21は、円形状を有する。シャフト収容孔21は、軸心が回転軸Cに重なるように形成される。
【0029】
磁石収容孔22は、永久磁石40が挿入された状態で収容され、永久磁石40を保持するための孔である。磁石収容孔22は、回転子コア20の外周面近くに形成されている。回転軸Cに沿って見た場合、磁石収容孔22は、扁平な略直方体形状の孔である。本実施形態では、回転子コア20は、6個の磁石収容孔22を有する。
図3に示されるように、6個の磁石収容孔22は、回転軸Cを中心にして等間隔で(言い換えると、回転軸Cを中心として周方向に60°おきに)配置されている。
【0030】
締結具収容孔23は、締結具60が挿入された状態で収容され、主に、締結具60を保持するための孔である。回転軸Cに沿って見た場合、締結具収容孔23は、円形状を有する。本実施形態では、回転子コア20は、6個の締結具収容孔23を有する。
図3に示されるように、6個の締結具収容孔23は、回転軸Cを中心とする所定半径Dの円周上に等間隔で(回転軸Cを中心として周方向に60°おきに)。
【0031】
なお、詳細は後述するが、本実施形態では、6つの締結具収容孔23の内、3つの締結具収容孔23に締結具60が収容される。以下では、6つの締結具収容孔23の内、締結具60が収容される締結具収容孔23を区別して説明する場合には、これを締結具収容孔23aと呼ぶことがある。また、6つの締結具収容孔23の内、締結具収容孔23aとは異なる1つの締結具収容孔23は、回転子10の製造に際して、第1バランスウエイト30の位置決めに用いられる。以下では、第1バランスウエイト30の位置決めに用いられる締結具収容孔23を区別して説明する場合には、これを締結具収容孔23bと呼ぶことがある。
【0032】
締結具収容孔23aは、第4孔の一例である。締結具収容孔23bは、第2孔の一例である。
【0033】
(1-2)第1バランスウエイト30
第1バランスウエイト30は、第2バランスウエイト50とともに回転軸Cの周りにおける回転子コア20のアンバランスを調整するための部材である。また、第1バランスウエイト30は、磁石収容孔22に収容された永久磁石40が上面25側から外れることを抑制するための部材でもある。
図2に示されるように、第1バランスウエイト30は、回転子コア20の上面25に取り付けられる。
【0034】
第1バランスウエイト30は、所定の厚みを有する環状の板状部材である。回転軸Cに沿って見た場合、第1バランスウエイト30の外周は、回転子コア20の外周よりもわずかに小さい直径の円形状に形成されている。第1バランスウエイト30は、1個の開口31、1個の位置決め孔32、複数の締結具開口33、および凹部34が形成されている。以下では、回転軸Cに沿って見た場合、第1バランスウエイト30の凹部34が形成された部分(
図4の(c)においてハッチングが施された部分)を第1部35aと呼び、第1バランスウエイト30の凹部34が形成されていない部分(
図4の(c)においてハッチングが施されていない部分)を第2部35bと呼ぶ。
【0035】
開口31は、シャフト70を通す孔である。回転軸Cに沿って見た場合、開口31は、円形状を有する。開口31は、回転軸Cに沿って見た場合の中心が回転軸Cに位置するように形成されている。開口31の内周径は、シャフト収容孔21の内周径より大きい。
【0036】
位置決め孔32は、回転子10が製造される際の第1バランスウエイト30の回転軸Cの周方向における位置決めに用いられる孔である。回転軸Cに沿って見た場合、位置決め孔32は、円形状を有する。位置決め孔32の内周径は、締結具収容孔23の内周径より大きい。
図5に示されるように、位置決め孔32は、回転軸Cに沿って見た場合、第2部35bであって磁石収容孔22と対向しない位置に形成される。本実施形態では、位置決め孔32は、回転軸Cに沿って見た場合、6つの締結具収容孔23の内の1つ(締結具収容孔23b)と重なり合う位置に形成されている。より詳細には、位置決め孔32は、6つの締結具収容孔23と同じく、回転軸Cを中心とする半径Dの円周上に形成されている。
【0037】
位置決め孔32は、第1孔の一例である。
【0038】
本実施形態では、位置決め孔32は、回転軸Cに沿って見た場合、回転軸Cと第1バランスウエイト30の重心CG(
図4の(a)参照)とを結ぶ直線上に形成されている。
【0039】
締結具開口33は、位置決め孔32とは異なる孔であり、締結具60が収容される孔である。回転軸Cに沿って見た場合、締結具開口33は、円形状を有する。締結具開口33の内周径は、締結具収容孔23の内周径より大きい。本実施形態では、第1バランスウエイト30は、3個の締結具開口33を有する。3個の締結具開口33は、回転軸Cを中心にして等間隔(回転軸Cを中心として周方向に120°おきに)で形成されている。3つの締結具開口33は、位置決め孔32が締結具収容孔23の1つ(締結具収容孔23b)と重なり合う状態において、他の3つ締結具収容孔23(締結具収容孔23a)と重なり合う位置に形成されている。より詳細には、3つの締結具開口33は、6つの締結具収容孔23と同じく、回転軸Cを中心とする半径Dの円周上に形成されている。また、3つの締結具開口33の内の1つは、回転軸Cに沿って見た場合、回転軸Cを中心として、位置決め孔32から時計回りに60°の位置に形成されている。また、3つの締結具開口33の内の他の1つは、回転軸Cに沿って見た場合、回転軸Cを中心として、位置決め孔32から反時計回りに60°の位置に形成されている。
【0040】
締結具開口33は、第3孔の一例である。
【0041】
凹部34は、回転子コア20の回転軸Cの周りにおけるアンバランスを調整するために、第1バランスウエイト30の肉厚を部分的に減らして形成された部分である。本実施形態では、凹部34は、回転軸Cに沿って見た場合、回転軸Cを中心とした所定幅の略半円弧形状に形成されている。凹部34は、第1バランスウエイト30が回転子コア20に取り付けられた状態で、回転子コア20に対向する面に形成される。
【0042】
図5に示されるように、回転軸Cの延伸方向における磁石収容孔22の上面25側の端部は、少なくとも一部が第1バランスウエイト30の第2部35bによって塞がれる。これにより、磁石収容孔22に収容された永久磁石40が磁石収容孔22の上面25側から抜けることが抑制される。
【0043】
(1-3)永久磁石40
永久磁石40は、回転子コア20を着磁する。回転軸Cに沿って見た場合、永久磁石40は、略平板状を有する。永久磁石40は、フェライト磁石である。
【0044】
永久磁石40は、磁石の一例である。
【0045】
(1-4)第2バランスウエイト50
第2バランスウエイト50は、第1バランスウエイト30とともに回転軸Cの周りにおける回転子コア20のアンバランスを調整するための部材である。また、第2バランスウエイト50は、磁石収容孔22に収容された永久磁石40が下面26側から外れることを抑制するための部材である。
図2に示されるように、第2バランスウエイト50は、回転子コア20の下面26に取り付けられる。
【0046】
第2バランスウエイト50は、第1バランスウエイト30と略同じ形状である。第2バランスウエイト50と第1バランスウエイト30との相違点は位置決め孔32の有無であり、第2バランスウエイト50は位置決め孔32を有さない。第2バランスウエイト50は、開口51、締結具開口53、および凹部54を有する。開口51は、第1バランスウエイト30の開口31に対応し、締結具開口53は、第1バランスウエイト30の締結具開口33に対応し、凹部54は第1バランスウエイト30の凹部34に対応する。これらは互いに同様の形状であるため、詳細な説明は省略する。シャフト貫通孔11は、シャフト収容孔21、開口31、51から構成される。
【0047】
回転軸Cの延伸方向における磁石収容孔22の下面26側の端部は、少なくとも一部が第2バランスウエイト50によって塞がれる。これにより、磁石収容孔22に収容された永久磁石40が磁石収容孔22の下面26側から抜けることが抑制される。
【0048】
(1-5)締結具60
締結具60は、回転子コア20に対して第1バランスウエイト30及び第2バランスウエイト50を固定する。本実施形態では、締結具60は、リベットである。締結具60は、回転子コア20の上面25側の第1バランスウエイト30の締結具開口33、回転子コア20の締結具収容孔23a、および回転子コア20の下面26側の第2バランスウエイト50の締結具開口53を通るように挿入される。その後、締結具60の端部をかしめる等の方法によって、回転子コア20と、第1バランスウエイト30及び第2バランスウエイト50とが相互に固定される。
【0049】
(1-6)第1バランスウエイト30の位置決め
回転子10の製造方法は、次に述べる、位置決め孔32を使った第1バランスウエイト30の位置決め工程を備えることができる。
【0050】
初めに、第1バランスウエイト30の位置決め孔32が、回転軸Cに沿って見た場合、締結具収容孔23bと重なり合うように、第1バランスウエイト30位置を調整する。
【0051】
次に、位置決め孔32が締結具収容孔23bと重なり合った状態で、
図6に示されるように、位置決め孔32と締結具収容孔23bとに柱状のジグ90を挿入する。これにより、回転子コア20に対して第1バランスウエイト30が位置決めされた状態となる。言い換えると、締結具収容孔23bは、位置決め孔32とともに第1バランスウエイト30の回転子コア20に対する位置決め孔となる。締結具収容孔23bは、あらかじめ6つの締結具収容孔23の内から決められていてもよいし、位置決め工程において、回転子コア20のアンバランスに応じて6つの締結具収容孔23の内から選択されてもよい。
【0052】
回転子10では、3つの締結具開口33は、位置決め孔32が締結具収容孔23の1つ(締結具収容孔23b)と重なり合う状態において、他の3つの締結具収容孔23(締結具収容孔23a)と重なり合う位置に形成されている。このため、締結具収容孔23を、締結具60の収容だけでなく第1バランスウエイト30の位置決めに用いることができる。この結果、回転子10では、回転子コア20にジグ90を挿入するための孔を特別に設ける必要がなく、製造コストの増加が抑制される。
【0053】
(2)モータ100の構成
図6に示されるように、モータ100は、主として、回転子10と、固定子80とを有する。回転子10は、回転軸Cの周りに回転可能に設けられる。回転子10のシャフト貫通孔11には、円柱形状のシャフト70が焼き嵌めによって固定されている。固定子80は、回転子10の外側において、回転子10を囲むように配置される。回転子10と固定子80との間には隙間が形成される。固定子80は、主として、固定子コア81と、コイル82とを有する。
【0054】
固定子コア81は、例えば、電磁鋼板等の強磁性体の材料から形成される。固定子コア81は、バックヨーク81aと、複数のティース81bとを有する。バックヨーク81aは、略円筒形状を有する。ティース81bは、バックヨーク81aの内周面から、バックヨーク81aの径方向に突出する。固定子コア81では、9個のティース81bが、バックヨーク81aの周方向において、等間隔に配置される。
【0055】
コイル82は、例えば、それぞれのティース81bに巻線が巻かれることによって形成される。周方向において隣接する2つのティース81bの間には、コイル82の巻線が収容される空間が形成されている。ティース81bとコイル82との間には、絶縁フィルム等の絶縁部材が配置される。固定子コア81は、9個のコイル82を有する。しかし、コイル82の数は特に限定されない。
【0056】
モータ100が駆動すると、固定子80のそれぞれのコイル82が所定のシーケンスに従って順次選択的に励磁されることにより、回転子10が、回転軸Cの周りをシャフト70と共に回転する。
【0057】
(3)圧縮機200の構成
図7に示されるように、圧縮機200は、主として、ケーシング210と、圧縮機構215と、モータ100と、シャフト70と、吸入管219と、吐出管220とを備えるロータリー圧縮機である。ケーシング210は、圧縮機構215、モータ100およびシャフト70が収容される密閉容器である。吸入管219および吐出管220は、ケーシング210を貫通し、ケーシング210と気密状に連結される。
【0058】
圧縮機構215は、外部の冷媒回路800(後述)から吸入管219を介して吸入された低圧のガス冷媒を圧縮する。圧縮機構215によって圧縮された冷媒は、ケーシング210内部の高圧空間S1に吐出され、吐出管220を介して外部の冷媒回路800に高圧のガス冷媒として吐出される。圧縮機構215の内部には、圧縮室215aが形成される。圧縮機構215は、シャフト70に連結される。圧縮機構215は、回転するシャフト70によって供給される動力を利用して圧縮室215aの容積を増減させることにより、冷媒を圧縮する。
【0059】
モータ100は、圧縮機構215の上方または下方に配置される。モータ100の固定子80は、ケーシング210の内壁面に固定される。モータ100の回転子10は、固定子80の内側において回転自在に配置される。
【0060】
シャフト70は、その軸方向が鉛直方向に沿うように配置される。シャフト70は、モータ100の回転子10、および、圧縮機構215の圧縮室215aを形成する部材に連結される。モータ100の駆動によって回転子10が回転軸C周りに回転すると、シャフト70が回転して、圧縮機構215によって冷媒が圧縮される。
【0061】
(4)冷凍装置300の構成
冷凍装置300は、蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して、温度調整対象を冷却したり、加熱したりする装置である。冷凍装置300は、例えば、温度調整対象としての空調対象空間の空気を冷却したり加熱したりする空気調和装置である。ここでは、冷凍装置300が空気調和装置である場合を例に、冷凍装置300を説明する。ただし、冷凍装置300の種類は、空気調和装置に限定されるものではなく、給湯装置、床暖房装置、冷蔵装置等であってもよい。
【0062】
冷凍装置300は、
図8のように、主として冷媒回路800を備える。冷媒回路800は、主に、圧縮機200と、流路切換機構400と、熱源熱交換器500と、利用熱交換器600と、膨張機構700とを有する。冷媒回路800では、圧縮機200と、流路切換機構400と、熱源熱交換器500と、利用熱交換器600と、膨張機構700とが、冷媒配管により接続されている。
【0063】
流路切換機構400は、冷媒回路800の状態を、冷房状態と、暖房状態と、の間で切り換える機構である。限定するものではないが、流路切換機構400は、四路切換弁である。冷媒回路800が冷房状態にある時には、冷媒は、圧縮機200、流路切換機構400、熱源熱交換器500、膨張機構700、利用熱交換器600、流路切換機構400、圧縮機200の順に冷媒回路800を流れる(
図11の流路切換機構400内の実線を参照)。冷媒回路800が暖房状態にある時には、冷媒は、圧縮機200、流路切換機構400、利用熱交換器600、膨張機構700、熱源熱交換器500、流路切換機構400、圧縮機200の順に冷媒回路800を流れる(
図11の流路切換機構400内の破線を参照)。
【0064】
熱源熱交換器500は、熱源となる媒体(例えば空気)と冷媒との間で熱交換を行わせる熱交換器である。冷媒回路800の状態が冷房状態にある時、熱源熱交換器500は、冷媒の凝縮器(放熱器)として機能する。冷媒回路800の状態が暖房状態にある時、熱源熱交換器500は、冷媒の蒸発器(吸熱器)として機能する。
【0065】
利用熱交換器600は、温度調整対象(ここでは、空調対象空間の空気)と冷媒との間で熱交換を行わせる熱交換器である。冷媒回路800の状態が冷房状態にある時、利用熱交換器600は、冷媒の蒸発器(吸熱器)として機能する。冷媒回路800の状態が暖房状態にある時、利用熱交換器600は、冷媒の凝縮器(放熱器)として機能する。
【0066】
膨張機構700は、膨張機構700を通過する高圧の冷媒(主に液体の冷媒)を減圧し、低圧の冷媒(液体と気体とからなる二相の冷媒)にする。膨張機構700は、例えば電子膨張弁である。ただし、膨張機構700の種類は電子膨張弁に限定されず、感温筒を有する温度自動膨張弁や、キャピラリチューブであってもよい。
【0067】
冷凍装置300の行う冷房運転と暖房運転とについて説明する。
【0068】
冷凍装置300が冷房運転を行う場合、圧縮機200は、低圧のガス冷媒を吸入して圧縮し、高圧のガス冷媒として吐出する。圧縮機200が吐出する高圧のガス冷媒は、流路切換機構400を通過して、凝縮器として機能する熱源熱交換器500に供給される。熱源熱交換器500は、熱源となる媒体と高圧のガス冷媒とを熱交換させて、高圧のガス冷媒を凝縮させ、高圧の液冷媒にする。熱源熱交換器500から流出する高圧の液冷媒は、膨張機構700を通過して低圧の気液二相冷媒となり、蒸発器として機能する利用熱交換器600に供給される。利用熱交換器600は、空調対象空間の空気と低圧の気液二相冷媒とを熱交換させて、気液二相冷媒に含まれる液冷媒を蒸発させ、低圧のガス冷媒にする。この際、空調対象空間の空気は、冷媒により冷却される。利用熱交換器600から流出する低圧のガス冷媒は、流路切換機構400を通過し、圧縮機200に再び吸入される。
【0069】
冷凍装置300が暖房運転を行う場合、圧縮機200は、低圧のガス冷媒を吸入して加圧し、高圧のガス冷媒として吐出する。圧縮機200が吐出する高圧のガス冷媒は、流路切換機構400を通過して、凝縮器として機能する利用熱交換器600に供給される。利用熱交換器600は、空調対象空間の空気と高圧のガス冷媒とを熱交換させて、高圧のガス冷媒を凝縮させ、高圧の液冷媒にする。この際、空調対象空間の空気は、冷媒により加熱される。利用熱交換器600から流出する高圧の液冷媒は、膨張機構700を通過して低圧の気液二相冷媒となり、蒸発器として機能する熱源熱交換器500に供給される。熱源熱交換器500は、熱源となる媒体と低圧の気液二相冷媒とを熱交換させて、気液二相冷媒に含まれる液冷媒を蒸発させ、低圧のガス冷媒にする。熱源熱交換器500から流出する低圧のガス冷媒は、流路切換機構400を通過し、圧縮機200に再び吸入される。
【0070】
なお、ここでは、冷凍装置300の一例としての空気調和装置が、冷房運転と暖房運転とを実行する装置である場合を例に説明したが、空気調和装置は、冷房運転と暖房運転との一方だけを行う装置であってもよい。この場合には、冷凍装置300の一例としての空気調和装置は、流路切換機構400を有していなくてもよい。
【0071】
(5)特徴
(5-1)
回転子10は、回転軸Cの周りに回転可能に設けられる、モータ100の回転子である。回転子10は、回転子コア20と、永久磁石40と、第1バランスウエイト30とを備える。回転子コア20は、回転軸Cの延伸方向に延びる磁石収容孔22が形成された筒状の部材である。永久磁石40は、開口に収容されている。第1バランスウエイト30は、回転子コア20の回転軸C方向における端部に固定された環状の部材である。第1バランスウエイト30は、凹部34が回転子コア20に対向する面に形成された第1部35aと、凹部が形成されていない第2部35bとを有する。第1バランスウエイト30は、回転子コア20に対する位置決め孔である位置決め孔32が、回転軸Cに沿って見た場合に、第2部35bであって回転子コア20の磁石収容孔22と対向しない位置に形成されている。
【0072】
回転子10によれば、第1バランスウエイト30に位置決め孔32が形成されているため、回転軸Cの周方向における第1バランスウエイト30の位置決めが容易であることに加えて、割れたり欠けたりする等して破損した永久磁石40が外部に流出することを抑制できる。
【0073】
より詳細には、位置決め孔32が、回転軸Cに沿って見た場合に、回転子コア20の磁石収容孔22と対向しない位置に形成されているため、永久磁石40が位置決め孔32を介して回転子10の外部に露出しない。また、位置決め孔32が、回転軸Cに沿って見た場合に、第2部35bに形成されているため、永久磁石40が位置決め孔32および凹部34を介して回転子10の外部と連通することもない。このため、永久磁石40が破損をしても、破損した永久磁石40が位置決め孔32から流出することがない。加えて、永久磁石40の破損の要因となる物(ストレス要因)が、位置決め孔32を介して永久磁石40と接触することも抑制される。
【0074】
したがって、回転子10は、破損した永久磁石40が位置決め孔32から流出することを抑制できる。また、回転子10がモータ100に用いられた場合に、破損した永久磁石40によりモータ100の正常な運転が阻害されることが抑制される。
【0075】
(5-2)
回転軸Cに沿って見た場合に、位置決め孔32は、回転軸Cの中心と第1バランスウエイト30の重心CGとを結ぶ直線上に形成されている。
【0076】
位置決め孔32が回転軸Cと第1バランスウエイト30の重心CGとを結ぶ直線状に形成されることで、第1バランスウエイト30の重心CGの周方向における位置(角度)を、位置決め孔32によって判断することができるため、回転軸Cの周方向における第1バランスウエイト30の位置決めがさらに容易になる。
【0077】
また、上述のように位置決め孔32は、凹部34が形成されていない第2部35bに形成される必要があるが、位置決め孔32が回転軸Cと第1バランスウエイト30の重心CGとを結ぶ直線上に形成されることで、凹部34の周方向における位置を把握することなく、回転軸Cと第1バランスウエイト30の重心CGの位置とに基づいて位置決め孔32を第2部35bに(言い換えると凹部34を避けて)容易に形成できる。
【0078】
(5-3)
回転軸Cに沿って見た場合に、回転子コア20は、位置決め孔32に対向する位置に、位置決め孔32とともに第1バランスウエイト30の回転子コア20に対する位置決めに用いられる締結具収容孔23(23b)が形成されている。
【0079】
回転子10によれば、位置決め孔32と、締結具収容孔23bとに収容することができる柱状のジグ90を用いた位置決めができる。このため、回転子10によれば、回転子コア20に対する第1バランスウエイト30の位置決めが容易である。
【0080】
また、回転子10では、位置決め孔32が第1バランスウエイト30の主面上に形成される。これにより、位置決め孔32が第1バランスウエイト30の外周面や内周面に形成される場合と比べて、モータ100に用いられた際に回転子10に生じる撹拌抵抗が抑制される。
【0081】
(5-4)
第1バランスウエイト30を回転子コア20に対して固定する締結具60は、締結具開口33と、締結具収容孔23aとに収容されている。締結具開口33は、第1バランスウエイト30に形成された位置決め孔32とは異なる開口である。締結具収容孔23aは、回転子コア20に形成された締結具収容孔23bとは異なる孔である。
【0082】
回転子10によれば、位置決め孔32と、締結具収容孔23bとを用いた位置決めをした状態で、締結具60により第1バランスウエイト30と回転子コア20とを固定できる。このため、回転子10によれば、第1バランスウエイト30の回転子コア20への固定が容易である。
【0083】
(5-5)
回転子10の製造方法は、位置決め孔32に柱状のジグ90を挿入することにより、回転子コア20に対して第1バランスウエイト30が位置決めされる工程を備える。
【0084】
(6)変形例
(6-1)変形例A
第1バランスウエイト30は、
図10に示されるように、第2部35bの内周側に回転軸Cに平行な平坦面31aを有してもよい。
【0085】
変形例Aに係る回転子10によれば、凹部34の形状に加えて平坦面31aの大きさを調整することにより、回転軸Cの周りにおける回転子コア20のアンバランスを調整できる。このため、変形例Aに係る回転子10では、平坦面31aを有さない場合と比べて、より細かなアンバランスの調整が可能である。また、平坦面31aは、第1バランスウエイト30の位置決め用の印として用いることもできる。
【0086】
(6-2)変形例B
圧縮機200はロータリー圧縮機に限定されず、モータ100を用いることができればスクロール圧縮機等の他の形式の圧縮機でもよい。
【0087】
(6-3)変形例C
回転軸Cに沿って見た場合の凹部34の形状は、回転子コア20の回転軸Cの周りにおけるアンバランスを調整できれば、回転軸Cを中心とした所定幅の略半円弧形状に限定されない。
【0088】
(6-4)変形例D
締結具60は、リベットに限定されず、ボルトおよびナットであってもよい。
【0089】
(6-5)変形例E
各孔の数は、限定されない。
【0090】
―むすび―
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0091】
10 :回転子
20 :回転子コア(コア)
22 :磁石収容孔
23 :締結具収容孔
23a :締結具収容孔(第4孔)
23b :締結具収容孔(第2孔)
30 :第1バランスウエイト(バランスウエイト)
31a :平坦面
32 :位置決め孔(第1孔)
33 :締結具開口(第3孔)
34 :凹部
35a :第1部
35b :第2部
40 :永久磁石(磁石)
50 :第2バランスウエイト
60 :締結具
70 :固定子
90 :ジグ
100 :モータ
200 :圧縮機
300 :冷凍装置
C :回転軸
CG :第1バランスウエイトの重心
【先行技術文献】
【特許文献】
【0092】