IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図1
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図2
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図3
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図4
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図5
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図6
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図7
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図8
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図9
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図10
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図11
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図12
  • 特許-スクリューロータの製造方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】スクリューロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/32 20060101AFI20240111BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20240111BHJP
   F04C 25/02 20060101ALI20240111BHJP
   F04C 18/16 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
B23C3/32
B23Q17/20 A
F04C25/02 M
F04C18/16 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022051247
(22)【出願日】2022-03-28
(65)【公開番号】P2023144333
(43)【公開日】2023-10-11
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 忠司
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-281181(JP,A)
【文献】国際公開第2004/089569(WO,A1)
【文献】米国特許第06122824(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00- 9/00
B23F 1/00-23/12
B23Q 1/00-41/08
F04C 2/00-29/12
B23G 1/02
B23P15/00-15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のワーク(35)に複数の螺旋溝(40)を形成することによって、スクリュー圧縮機用のスクリューロータ(30)を製造する方法であって、
複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれを、上記ワーク(35)の第1端(31)側の端部を含む第1部分(41)と、上記ワーク(35)の第2端(32)側の端部を含む第2部分(42)とに区分し、
上記ワーク(35)の第1端(31)を工作機械(60)の保持部(61)に取り付ける第1取り付け工程(84)と、
上記第1取り付け工程(84)の終了後に、複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれの上記第1部分(41)を切削加工によって仕上げる第1仕上げ工程(92)と、
上記第1仕上げ工程(92)の終了後に、上記ワーク(35)を上記保持部(61)から取り外す取り外し工程(94)と、
上記取り外し工程(94)において上記保持部(61)から取り外した上記ワーク(35)の第2端(32)を、上記保持部(61)に取り付ける第2取り付け工程(95)と、
上記第2取り付け工程(95)の終了後に、複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれの上記第2部分(42)を切削加工によって仕上げる第2仕上げ工程(98)とを行う
スクリューロータの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリューロータ(30)の製造方法において、
複数の上記螺旋溝(40)のうちの一つを特定螺旋溝(40a)とし、
上記第1仕上げ工程(92)の終了後、且つ上記取り外し工程(94)の開始前に、上記ワーク(35)の中心軸(33)方向における上記特定螺旋溝(40a)の上記第1部分(41)の位置を計測する第1計測工程(93)と、
上記第2取り付け工程(95)の終了後、且つ上記第2仕上げ工程(98)の開始前に、上記ワーク(35)の中心軸(33)方向における上記特定螺旋溝(40a)の上記第1部分(41)の位置を計測する第2計測工程(96)と、
上記ワーク(35)の中心軸(33)まわりの角度であって、上記第1仕上げ工程(92)の終了時点に対する上記第2取り付け工程(95)の終了時点の上記ワーク(35)の周方向の位置の変化量を示す変位角度を、上記第1計測工程(93)において計測した上記第1部分(41)の位置と、上記第2計測工程(96)において計測した上記第1部分(41)の位置とに基づいて算出し、算出した上記変位角度を用いて上記第1仕上げ工程(92)における加工原点を補正する補正工程(97)とを行い、
上記第2仕上げ工程(98)では、上記補正工程(97)において補正された加工原点に基づいて切削加工を行う
スクリューロータの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のスクリューロータ(30)の製造方法において、
上記補正工程(97)では、上記スクリューロータ(30)の設計値から定まる上記スクリューロータ(30)の中心軸(33)方向における上記螺旋溝(40)の位置と上記スクリューロータ(30)の回転角度との相関関係と、上記第1計測工程(93)において計測した上記第1部分(41)の位置と、上記第2計測工程(96)において計測した上記第1部分(41)の位置とを用いて、上記変位角度を算出する
スクリューロータの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つに記載のスクリューロータ(30)の製造方法において、
複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれでは、該螺旋溝(40)の伸長方向における上記第1部分(41)の長さが、該螺旋溝(40)の伸長方向における上記第2部分(42)の長さよりも長い
スクリューロータの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のスクリューロータ(30)の製造方法において、
複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれにおいて、上記第1部分(41)は該螺旋溝(40)の吐出側端(44)を含む部分であり、
複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれにおいて、上記第2部分(42)は該螺旋溝(40)の吸入側端(45)を含む部分である
スクリューロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクリューロータの製造方法、スクリューロータ、及びスクリュー圧縮機
に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スクリュー圧縮機用のスクリューロータを、5軸マシニングセンタを用いて製造することが記載されている。5軸マシニングセンタでは、回転主軸に取り付けられたエンドミル等の切削工具と、保持部に取り付けられたワークのそれぞれを移動させながら、ワークの切削加工が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4229213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリューロータに形成された螺旋溝は、スクリューロータの軸方向の中央部から両端部へ向かって深さが次第に浅くなる形状の溝である。そのため、ワークの一端が保持部に固定されている場合、螺旋溝のうちワークの他端寄りの部分を加工する際には、切削工具の回転中心軸とワークの中心軸とのなす角度が小さくなり、ワークを保持する保持部が、切削工具を保持する回転主軸に接近する。
【0005】
一方、5軸マシニングセンタでは、切削工具を保持する回転主軸と、ワークを保持する保持部との干渉を避ける必要がある。そのため、従来は、スクリューロータを加工するために、螺旋溝のうちワークの他端寄りの部分を加工するときでも保持部が回転主軸と接触しない構造の特殊な5軸マシニングセンタを用いる必要があった。
【0006】
本開示の目的は、一般的な構造の工作機械を用いてスクリューロータの加工を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、円柱状のワーク(35)に複数の螺旋溝(40)を形成することによって、スクリュー圧縮機用のスクリューロータ(30)を製造する方法であって、複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれを、上記ワーク(35)の第1端(31)側の端部を含む第1部分(41)と、上記ワーク(35)の第2端(32)側の端部を含む第2部分(42)とに区分し、上記ワーク(35)の第1端(31)を工作機械(60)の保持部(61)に取り付ける第1取り付け工程(84)と、上記第1取り付け工程(84)の終了後に、複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれの上記第1部分(41)を切削加工によって仕上げる第1仕上げ工程(92)と、上記第1仕上げ工程(92)の終了後に、上記ワーク(35)を上記保持部(61)から取り外す取り外し工程(94)と、上記取り外し工程(94)において上記保持部(61)から取り外した上記ワーク(35)の第2端(32)を、上記保持部(61)に取り付ける第2取り付け工程(95)と、上記第2取り付け工程(95)の終了後に、複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれの上記第2部分(42)を切削加工によって仕上げる第2仕上げ工程(98)とを行う、スクリューロータ(30)の製造方法である。
【0008】
第1の態様では、第1仕上げ工程(92)の後に第2仕上げ工程(98)が行われる。第1仕上げ工程(92)では、工作機械(60)の保持部(61)に第1端(31)が取り付けられたワーク(35)を対象に、螺旋溝(40)の第1部分(41)の切削加工が行われる。そのため、第1仕上げ工程(92)において、ワーク(35)を保持する保持部(61)は、保持部(61)以外の工作機械(60)の構造体から離間した状態に保たれる。また、第2仕上げ工程(98)では、工作機械(60)の保持部(61)に第2端(32)が取り付けられたワーク(35)を対象に、螺旋溝(40)の第2部分(42)の切削加工が行われる。そのため、第2仕上げ工程(98)において、ワーク(35)を保持する保持部(61)は、保持部(61)以外の工作機械(60)の構造体から離間した状態に保たれる。
【0009】
従って、第1の態様によれば、一般的な構造の工作機械(60)を用いてスクリューロータ(30)を加工する場合であっても、ワーク(35)を保持する保持部(61)を、保持部(61)以外の工作機械(60)の構造体から離間した状態に保ちながら、スクリューロータ(30)の螺旋溝(40)の全体を加工できる。
【0010】
本開示の第2の態様は、上記第1の態様において、複数の上記螺旋溝(40)のうちの一つを特定螺旋溝(40a)とし、上記第1仕上げ工程(92)の終了後、且つ上記取り外し工程(94)の開始前に、上記ワーク(35)の中心軸(33)方向における上記特定螺旋溝(40a)の上記第1部分(41)の位置を計測する第1計測工程(93)と、上記第2取り付け工程(95)の終了後、且つ上記第2仕上げ工程(98)の開始前に、上記ワーク(35)の中心軸(33)方向における上記特定螺旋溝(40a)の上記第1部分(41)の位置を計測する第2計測工程(96)と、上記ワーク(35)の中心軸(33)まわりの角度であって、上記第1仕上げ工程(92)の終了時点に対する上記第2取り付け工程(95)の終了時点の上記ワーク(35)の周方向の位置の変化量を示す変位角度を、上記第1計測工程(93)において計測した上記第1部分(41)の位置と、上記第2計測工程(96)において計測した上記第1部分(41)の位置とに基づいて算出し、算出した上記変位角度を用いて上記第1仕上げ工程(92)における加工原点を補正する補正工程(97)とを行い、上記第2仕上げ工程(98)では、上記補正工程(97)において補正された加工原点に基づいて切削加工を行う、スクリューロータ(30)の製造方法である。
【0011】
第2の態様では、第1仕上げ工程(92)と取り外し工程(94)の間に、第1計測工程(93)が行われ、第2取り付け工程(95)と第2仕上げ工程(98)の間に、第2計測工程(96)と補正工程(97)とが順に行われる。補正工程(97)では、第1計測工程(93)において計測した第1部分(41)の位置と、第2計測工程(96)において計測した第1部分(41)の位置とに基づいて、ワーク(35)の変位角度が算出される。また、補正工程(97)では、算出された変位角度に基づいて、第1仕上げ工程(92)における加工原点が補正される。第2仕上げ工程(98)では、補正工程(97)において補正された加工原点に基づいて、螺旋溝(40)の第2部分(42)の切削加工が行われる。そのため、螺旋溝(40)の第1部分(41)と第2部分(42)の相対的な位置の誤差が、小さい値に抑えられる。
【0012】
本開示の第3の態様は、上記第2の態様において、上記補正工程(97)では、上記スクリューロータ(30)の設計値から定まる上記スクリューロータ(30)の中心軸(33)方向における上記螺旋溝(40)の位置と上記スクリューロータ(30)の回転角度との相関関係と、上記第1計測工程(93)において計測した上記第1部分(41)の位置と、上記第2計測工程(96)において計測した上記第1部分(41)の位置とを用いて、上記変位角度を算出する、スクリューロータ(30)の製造方法である。
【0013】
第3の態様の補正工程(97)では、変位角度を算出するために、スクリューロータ(30)の設計値から定まる相関関係が用いられる。この相関関係は、スクリューロータ(30)の中心軸(33)方向における螺旋溝(40)の位置と、スクリューロータ(30)の回転角度との相関関係である。
【0014】
本開示の第4の態様は、上記第1~第3のいずれか一つの態様において、複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれでは、該螺旋溝(40)の伸長方向における上記第1部分(41)の長さが、該螺旋溝(40)の伸長方向における上記第2部分(42)の長さよりも長い、スクリューロータ(30)の製造方法である。
【0015】
第4の態様では、各螺旋溝(40)における第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)が、ワーク(35)の中心軸(33)方向の中央よりもワーク(35)の第2端(32)に近い位置に形成される。
【0016】
本開示の第5の態様は、上記第4の態様において、複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれにおいて、上記第1部分(41)は該螺旋溝(40)の吐出側端(44)を含む部分であり、複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれにおいて、上記第2部分(42)は該螺旋溝(40)の吸入側端(45)を含む部分である、スクリューロータ(30)の製造方法である。
【0017】
第5の態様では、各螺旋溝(40)における第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)が、ワーク(35)の中心軸(33)方向の中央よりも螺旋溝(40)の吸入側端(45)に近い位置に形成される。
【0018】
本開示の第6の態様は、上記第1~第5のいずれか一つの態様の製造方法によって製造されたスクリューロータ(30)である。
【0019】
第6の態様のスクリューロータ(30)は、上記第1~第5のいずれか一つの態様の製造方法によって製造される。
【0020】
本開示の第7の態様は、上記第6の態様のスクリューロータ(30)と、上記スクリューロータ(30)の上記螺旋溝(40)に噛み合う複数の平板状のゲート(52)が放射状に配置されたゲートロータ(51)とを備え、複数の上記ゲート(52)のそれぞれには、上記スクリューロータ(30)の上記螺旋溝(40)の壁面と摺動する線状の部分であるシールライン(53)が形成され、上記スクリューロータ(30)の複数の上記螺旋溝(40)のそれぞれにおいて、上記第1部分(41)と上記第2部分(42)の境界線(43)は、上記螺旋溝(40)の吸入側端(45)から吐出側端(44)へ向かって上記境界線(43)を通過する上記ゲート(52)の上記シールライン(53)と交わるような形状である、スクリュー圧縮機(10)である。
【0021】
第7の態様では、第6の態様のスクリューロータ(30)と、ゲートロータ(51)とが、スクリュー圧縮機(10)に設けられる。スクリューロータ(30)の各螺旋溝(40)における第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)の形状は、螺旋溝(40)の吸入側端(45)から吐出側端(44)へ向かって境界線(43)を通過するゲート(52)のシールライン(53)と交わるような形状である。そのため、第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)をゲート(52)が通過する過程でゲート(52)に作用する力が小さく抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、シングルスクリュー圧縮機の概略の縦断面図である。
図2図2は、図1のII-II断面を示す、シングルスクリュー圧縮機の用断面図である。
図3図3は、スクリューロータの正面図である。
図4図4は、シングルスクリュー圧縮機におけるスクリューロータとゲートロータの配置を示す、スクリューロータおよびゲートロータの斜視図である。
図5図5は、図4の要部の拡大図である。
図6図6は、シングルスクリュー圧縮機におけるスクリューロータとゲートロータの配置を示す、スクリューロータおよびゲートロータの正面図である。
図7図7は、スクリューロータの製造方法を示す工程図である。
図8図8は、スクリューロータを加工中の工作機械における保持部と回転主軸の相対的な位置を示す説明図である。
図9図9は、第1取り付け工程において工作機械の保持部に取り付けられたスクリューロータの正面図である。
図10図10は、図9のX-X断面を示すスクリューロータの断面図である。
図11図11は、第2取り付け工程において工作機械の保持部に取り付けられたスクリューロータの正面図である。
図12図12は、図1のXII-XII断面を示すスクリューロータの断面図である。
図13図13は、第2計測工程の対象となるスクリューロータの正面図と断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態について説明する。以下では、先ずシングルスクリュー圧縮機(10)の構成を説明し、次にスクリューロータ(30)の製造方法を説明する。
【0024】
-シングルスクリュー圧縮機-
本実施形態のシングルスクリュー圧縮機(10)(以下では、単に「スクリュー圧縮機」という)は、蒸気圧縮冷凍サイクルを行う冷凍装置の冷媒回路に設けられる。スクリュー圧縮機(10)は、蒸発器において蒸発した冷媒を吸入して圧縮し、圧縮した冷媒を凝縮器へ向けて吐出する。また、スクリュー圧縮機(10)は、二段圧縮を行う。
【0025】
〈スクリュー圧縮機の全体構成〉
図1及び図2に示すように、スクリュー圧縮機(10)は、一つのスクリューロータ(30)と、二つのゲートロータ組立体(50)とを備える。また、スクリュー圧縮機(10)は、ケーシング(11)と、電動機(17)と、駆動軸(18)とを備える。
【0026】
図1に示すように、ケーシング(11)は、両端が閉塞された円筒状に形成される。ケーシング(11)は、その長手方向が概ね水平方向となる姿勢で配置される。ケーシング(11)は、円筒部(16)を備える。円筒部(16)は、円筒状に形成された部分である。円筒部(16)は、ケーシング(11)の長手方向の中央付近に配置される。円筒部(16)には、スクリューロータ(30)が収容される。
【0027】
ケーシング(11)には、吸入口(12)と吐出口(13)とが形成される。吸入口(12)は、ケーシング(11)の一端部(図1における左端部)の上部に形成される。吐出口(13)は、ケーシング(11)の他端部(図1における右端部)の上部に形成される。
【0028】
ケーシング(11)の内部には、低圧室(14)と高圧室(15)とが形成される。低圧室(14)は、円筒部(16)よりもケーシング(11)の一端寄りに形成され、吸入口(12)と連通する。高圧室(15)は、円筒部(16)よりもケーシング(11)の他端寄りに形成され、吐出口(13)と連通する。
【0029】
電動機(17)は、低圧室(14)に設けられる。駆動軸(18)は、電動機(17)とスクリューロータ(30)を連結する。電動機(17)は、スクリューロータ(30)を回転駆動する。
【0030】
図2に示すように、各ゲートロータ組立体(50)は、ゲートロータ(51)と、支持部材(54)とを一つずつ備える。ゲートロータ組立体(50)は、樹脂製の平板状の部材である。支持部材(54)は、金属製の部材である。支持部材(54)は、ゲートロータ(51)の背面と接するように設けられ、ゲートロータ(51)を支持する。
【0031】
図2において、スクリューロータ(30)の右側に配置されたゲートロータ組立体(50)は、ゲートロータ(51)の前面が上を向いている。また、図2において、スクリューロータ(30)の左側に配置されたゲートロータ組立体(50)は、ゲートロータ(51)の前面が下を向いている。
【0032】
〈スクリューロータ〉
図3に示すように、スクリューロータ(30)は、金属製の円柱状の部材である。スクリューロータ(30)は、図3における左端が第1端(31)であり、図3における右端が第2端(32)である。ケーシング(11)の円筒部(16)において、スクリューロータ(30)は、第1端(31)が高圧室(15)側に位置し、第2端(32)が低圧室(14)側に位置する。
【0033】
スクリューロータ(30)には、複数本(本実施形態では、6本)の螺旋溝(40)が形成される。各螺旋溝(40)は、スクリューロータ(30)の中心軸(33)方向に螺旋状に延びる溝である。6本の螺旋溝(40)は、スクリューロータ(30)の周方向に等角度間隔で配置される。各螺旋溝(40)は、スクリューロータ(30)の外周面だけに開口する。従って、本実施形態のスクリューロータ(30)において、各螺旋溝(40)は、スクリューロータ(30)の端面に開口しない。
【0034】
スクリューロータ(30)の各螺旋溝(40)は、第1側壁面(46)と、第2側壁面(47)と、底壁面(48)とを有する。第1側壁面(46)と第2側壁面(47)は、互いに向かい合う。第1側壁面(46)は、スクリューロータ(30)の第1端(31)側に位置する。第2側壁面(47)は、スクリューロータ(30)の第2端(32)側に位置する。
【0035】
各螺旋溝(40)は、スクリューロータ(30)の第1端(31)側の端が吐出側端(44)であり、スクリューロータ(30)の第2端(32)側の端が吸入側端(45)である。各螺旋溝(40)の深さは、吸入側端(45)と吐出側端(44)のそれぞれからスクリューロータ(30)の中心軸(33)方向の中央に向かって、次第に深くなる。また、各螺旋溝(40)の深さは、吸入側端(45)と吐出側端(44)のそれぞれにおいてゼロになる。
【0036】
各螺旋溝(40)は、第1部分(41)と第2部分(42)に区分される。図3では、各螺旋溝(40)の第2部分(42)にドットが付されている。第1部分(41)は、吐出側端(44)を含む部分である。第2部分(42)は、吸入側端(45)を含む部分である。螺旋溝(40)の伸長方向(吸入側端(45)から吐出側端(44)に向かう方向)における第1部分(41)の長さは、螺旋溝(40)の伸長方向における第2部分(42)の長さよりも長い。
【0037】
各螺旋溝(40)の壁面には、第1部分(41)と第2部分(42)の境目である境界線(43)が形成される。この境界線(43)は、螺旋溝(40)の壁面に形成された微少な(例えば10~30μm程度の)段差である。境界線(43)を構成する段差は、できるだけ小さい方が望ましい。しかし、加工時の誤差を完全に無くすことは不可能なので、段差をゼロにすることは不可能である。
【0038】
各螺旋溝(40)の壁面に形成された境界線(43)は、螺旋溝(40)の壁面とシール平面(55)との交線に対して、僅かな角度(例えば、1~3°程度)だけ傾斜している。シール平面(55)については、後述する。
【0039】
〈ゲートロータ〉
図4に示すように、ゲートロータ(51)には、複数枚(本実施形態では、11枚)のゲート(52)が放射状に設けられる。各ゲート(52)は、概ね矩形状の平板状の部分である。ゲート(52)は、スクリューロータ(30)の螺旋溝(40)に進入し、螺旋溝(40)の壁面と摺動して圧縮室(21,22)を形成する。
【0040】
図6にも示すように、各ゲート(52)の側面には、シールライン(53)が形成される。シールライン(53)は、ゲート(52)の基端から先端に向かって延びる直線状の領域である。螺旋溝(40)に進入したゲート(52)は、シールライン(53)が螺旋溝(40)の壁面と摺動する。
【0041】
ゲートロータ(51)では、全てのゲート(52)のシールライン(53)が、一つの平面上に位置する。ゲートロータ(51)の全てのシールライン(53)が位置する平面が、シール平面(55)である。シール平面(55)は、ゲートロータ(51)の前面に対して所定の距離S(例えば、1~2mm)だけオフセットした平面である。
【0042】
上述したように、各螺旋溝(40)の壁面に形成された境界線(43)は、螺旋溝(40)の壁面とシール平面(55)との交線に対して傾斜している。そのため、図5に示すように、螺旋溝(40)の吸入側端(45)から吐出側端(44)へ向かって相対的に移動するゲート(52)のシールライン(53)は、ゲート(52)が第2部分(42)から第1部分(41)へ向かって境界線(43)を跨ぐ過程において、この境界線(43)と一点で交差する。このように、本実施形態のスクリューロータ(30)において、螺旋溝(40)の壁面に形成された境界線(43)の形状は、螺旋溝(40)の吸入側端(45)から吐出側端(44)へ向かって境界線(43)を通過するゲート(52)のシールライン(53)と交わるような形状である。
【0043】
〈圧縮室〉
図1及び図2に示すように、スクリュー圧縮機(10)では、スクリューロータ(30)と、ゲートロータ(51)と、ケーシング(11)の円筒部(16)とによって、圧縮室(21,22)が形成される。圧縮室(21,22)は、スクリューロータ(30)の螺旋溝(40)の壁面と、ゲートロータ(51)のゲート(52)の前面と、円筒部(16)の内周面とによって囲まれた閉空間である。本実施形態のスクリュー圧縮機(10)では、図2におけるスクリューロータ(30)の下側の圧縮室が第1圧縮室(21)であり、図2におけるスクリューロータ(30)の上側の圧縮室が第2圧縮室(22)である。
【0044】
〈スクリュー圧縮機の運転動作〉
スクリュー圧縮機(10)では、電動機(17)によってスクリューロータ(30)が駆動される。スクリューロータ(30)が回転すると、スクリューロータ(30)と噛み合ったゲートロータ(51)が回転する。ゲートロータ(51)が回転すると、ゲートロータ(51)のゲート(52)は、スクリューロータ(30)の螺旋溝(40)に進入し、進入した螺旋溝(40)の吸入側端(45)から吐出側端(44)へ向かって相対的に移動する。その結果、圧縮室(21,22)の容積が次第に縮小し、圧縮室(21,22)内の冷媒が圧縮される。
【0045】
本実施形態のスクリュー圧縮機(10)は、二段圧縮を行う。具体的に、吸入口(12)を通って低圧室(14)へ流入した冷媒は、第1圧縮室(21)へ流入して圧縮される。第1圧縮室(21)において圧縮された冷媒は、第1圧縮室(21)から吐出され、ケーシング(11)内に形成された通路を通って第2圧縮室(22)へ流入する。第2圧縮室(22)へ流入した冷媒は、圧縮された後に高圧室(15)へ吐出される。高圧室(15)へ流入した冷媒は、吐出口(13)を通ってスクリュー圧縮機(10)の外部へ吐出される。
【0046】
-スクリューロータの製造方法-
本実施形態のスクリューロータの製造方法について説明する。
【0047】
図7に示すように、本実施形態の製造方法では、前段工程(71)と後段工程(72)とが順に行われる。後段工程(72)では、第1溝加工工程(81)と第2溝加工工程(91)とが順に行われる。第1溝加工工程(81)では、第1荒削り工程(82)と、第1取り外し工程(83)と、第1取り付け工程(84)と、第2荒削り工程(85)とが順に行われる。第2溝加工工程(91)では、第1仕上げ工程(92)と、第1計測工程(93)と、第2取り外し工程(94)と、第2取り付け工程(95)と、第2計測工程(96)と、補正工程(97)と、第2仕上げ工程(98)とが順に行われる。
【0048】
〈前段工程〉
前段工程(71)では、鋳物であるワーク(35)の外周面と端面の切削加工が行われる。前段工程(71)におけるワーク(35)の加工は、旋盤を用いて行われる。前段工程(71)では、ワーク(35)の外径と全長がスクリューロータ(30)の設計値となるように、ワーク(35)の加工が行われる。また、前段工程(71)では、駆動軸(18)を挿し通すための孔をワーク(35)に形成する加工も行われる。
【0049】
〈後段工程〉
後段工程(72)では、前段工程(71)において加工されたワーク(35)に螺旋溝(40)を形成する加工が行われる。後段工程(72)におけるワーク(35)の加工は、工作機械(60)である5軸マシニングセンタを用いて行われる。この後段工程(72)では、工作機械(60)の回転主軸(62)に取り付けられたエンドミル(63)を用いて、工作機械(60)の保持部(61)に取り付けられたワーク(35)の加工が行われる。
【0050】
第1溝加工工程(81)では、円柱状のワーク(35)に螺旋溝(40)を掘る加工が行われる。第2溝加工工程(91)では、螺旋溝(40)の形状がスクリューロータ(30)の設計値となるように、螺旋溝(40)の第1側壁面(46)と第2側壁面(47)と底壁面(48)の仕上げ加工が行われる。第2溝加工工程(91)では、エンドミル(63)の側面によってワーク(35)を切削するスワーフ加工が行われる。
【0051】
なお、以下の説明では、完成品であるスクリューロータ(30)の第1端(31)となるワーク(35)の端部を、ワーク(35)の第1端(31)という。また、完成品であるスクリューロータ(30)の第2端(32)となるワーク(35)の端部を、ワーク(35)の第2端(32)という。
【0052】
〈第1荒削り工程〉
第1荒削り工程(82)は、ワーク(35)の第2端(32)を工作機械(60)の保持部(61)に取り付けた状態で行われる。第1荒削り工程(82)では、各螺旋溝(40)のうちの吸入側端(45)を含む一部分が、切削加工によって形成される。なお、各螺旋溝(40)のうち第1荒削り工程(82)において形成される部分の長さ(螺旋溝(40)の伸長方向の長さ)は、完成品であるスクリューロータ(30)の螺旋溝(40)の第2部分(42)と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
〈第1取り外し工程〉
第1取り外し工程(83)では、第1荒削り工程(82)の終了後に、ワーク(35)が工作機械(60)の保持部(61)から取り外される。
【0054】
〈第1取り付け工程〉
第1取り付け工程(84)では、第1取り外し工程(83)において工作機械(60)の保持部(61)から取り外されたワーク(35)が、再び保持部(61)に取り付けられる。この第1取り付け工程(84)では、ワーク(35)の第1端(31)が工作機械(60)の保持部(61)に取り付けられる。
【0055】
〈第2荒削り工程〉
第2荒削り工程(85)では、工作機械(60)の保持部(61)に取り付けられたワーク(35)に対して、螺旋溝(40)の残りの部分を形成する加工が行われる。この第2荒削り工程(85)では、各螺旋溝(40)のうち第1荒削り工程(82)において形成されなかった残りの部分が形成される。第2荒削り工程(85)の終了時点において、ワーク(35)は、全ての螺旋溝(40)の全体が形成された状態になる。
【0056】
〈第1仕上げ工程〉
図8に示すように、第1仕上げ工程(92)では、工作機械(60)の保持部(61)に第1端(31)が取り付けられたワーク(35)に対して、各螺旋溝(40)の第1部分(41)の形状を、スクリューロータ(30)の設計値にするための切削加工が行われる。第1仕上げ工程(92)では、荒加工と、中仕上げ加工と、仕上げ加工とが順に行われる。
【0057】
第1仕上げ工程(92)において、工作機械(60)は、保持部(61)に取り付けられたワーク(35)と、回転主軸(62)に取り付けられたエンドミル(63)との相対的な位置を変化させながら、ワーク(35)の切削加工を行う。
【0058】
図8に実線で示すように、螺旋溝(40)のうち、保持部(61)に取り付けられたワーク(35)の第1端(31)寄りの部分を加工する際には、工作機械(60)の保持部(61)と回転主軸(62)が離れている。一方、図8に二点鎖線で示すように、エンドミル(63)によって切削される部分がワーク(35)の第2端(32)に近づくにつれて、工作機械(60)の保持部(61)と回転主軸(62)の間隔が狭くなってゆく。
【0059】
そこで、第1仕上げ工程(92)では、各螺旋溝(40)のうちワーク(35)の第1端(31)側の一部分である第1部分(41)を対象として、この第1部分(41)の壁面の切削加工を行う。そのため、工作機械(60)では、保持部(61)と回転主軸(62)が干渉することなく、第1仕上げ工程(92)におけるワーク(35)の加工が行われる。
【0060】
図10は、第1仕上げ工程(92)における加工が終了した時点のワーク(35)の断面を示す。このワーク(35)の断面は、ワーク(35)の中心軸(33)に対して距離Sだけオフセットした平面における断面である。距離Sは、ゲートロータ(51)の前面に対するシール平面(55)のオフセット量である。
【0061】
第1仕上げ工程(92)では、図10の点OをZ軸の原点として、ワーク(35)の切削加工が行われる。Z軸の原点Oは、工作機械(60)の保持部(61)に取り付けられたワーク(35)の中心軸(33)上に位置する。また、Z軸の原点Oは、保持部(61)の端面からの距離がL1Dの点である。距離L1Dは、スクリューロータ(30)の設計値から定まる。
【0062】
図10における上側の中央に位置する一つの螺旋溝(40)を、特定螺旋溝(40a)とする。第1仕上げ工程(92)では、図10に示す断面における特定螺旋溝(40a)の幅方向の中点のZ軸座標をゼロにすることを目標に、各螺旋溝(40)の第1部分(41)の壁面(46,47,48)が加工される。なお、Z軸は、工作機械(60)の保持部(61)に取り付けられたワーク(35)の中心軸(33)と重なる座標軸である。
【0063】
〈第1計測工程〉
第1計測工程(93)では、第1仕上げ工程(92)における加工が終了し、且つ工作機械(60)の保持部(61)に第1端(31)が取り付けられた状態のワーク(35)を対象に、特定螺旋溝(40a)の第1部分(41)の、ワーク(35)の中心軸(33)方向(Z軸方向)の位置が計測される。ここでは、第1計測工程(93)について、図9及び図10を参照しながら説明する。図10は、図9に示すワーク(35)の断面である。
【0064】
第1計測工程(93)では、ワーク(35)の全長Lが計測される。なお、ワーク(35)の全長Lの計測は、前段工程(71)が終了してから第1計測工程(93)が始まるまでの間に行われてもよい。
【0065】
また、第1計測工程(93)では、特定螺旋溝(40a)の第1部分(41)の位置を特定する指標として、図10に示す断面における特定螺旋溝(40a)の第1部分(41)の壁面のZ軸座標が計測される。図10に示す特定螺旋溝(40a)の第1側壁面(46)のZ軸座標の計測値を「-WD1M」とし、同図に示す特定螺旋溝(40a)の第2側壁面(47)のZ軸座標の計測値を「WS1M」とする。もし、加工誤差がゼロであれば、WS1M=WD1Mとなる。しかし、加工誤差がゼロであることは実際には有り得ないので、WS1M≠WD1Mとなる。
【0066】
図10に示す断面における特定螺旋溝(40a)の幅方向の中央のZ軸座標を座標値C1Mとする。座標値C1Mは、(WS1M-WD1M)/2である(C1M=(WS1M-WD1M)/2)。もし、加工誤差がゼロであれば、座標値C1Mはゼロである。しかし、加工誤差がゼロであることは実際には有り得ないので、座標値C1M≠0(ゼロ)となる。
【0067】
〈第2取り外し工程〉
第2取り外し工程(94)では、第1計測工程(93)の終了後に、ワーク(35)が工作機械(60)の保持部(61)から取り外される。
【0068】
〈第2取り付け工程〉
第2取り付け工程(95)では、第2取り外し工程(94)において工作機械(60)の保持部(61)から取り外されたワーク(35)が、再び保持部(61)に取り付けられる。図11に示すように、第2取り付け工程(95)では、ワーク(35)の第2端(32)が工作機械(60)の保持部(61)に取り付けられる。
【0069】
〈第2計測工程〉
第2計測工程(96)では、第2取り付け工程(95)において工作機械(60)の保持部(61)に第2端(32)が取り付けられた状態のワーク(35)を対象に、特定螺旋溝(40a)の第1部分(41)の、ワーク(35)の中心軸(33)方向(Z軸方向)の位置が計測される。ここでは、第2計測工程(96)について、図11及び図12を参照しながら説明する。図12は、図11に示すワーク(35)の断面である。
【0070】
先ず、第2計測工程(96)では、工作機械(60)の保持部(61)に第2端(32)が取り付けられた状態のワーク(35)を対象に、Z軸の原点Oが特定される。具体的には、保持部(61)の端面からの距離が(L-L1D)の点を、第2取り付け工程(95)の終了後におけるZ軸の原点Oとする。上述したように、Lはワーク(35)の全長の実測値であり、L1Dはスクリューロータ(30)の設計値から定まる距離である。
【0071】
第2計測工程(96)では、特定螺旋溝(40a)の第1部分(41)の位置を特定する指標として、図12に示す断面における特定螺旋溝(40a)の第1部分(41)の壁面のZ軸座標が計測される。図12に示す特定螺旋溝(40a)の第1側壁面(46)のZ軸座標の計測値を「WD2M」とし、同図に示す特定螺旋溝(40a)の第2側壁面(47)のZ軸座標の計測値を「-WS2M」とする。
【0072】
〈補正工程〉
補正工程(97)では、ワーク(35)の変位角度θを算出し、算出した変位角度θに基づいて第1仕上げ工程(92)における加工原点を補正する処理が行われる。
【0073】
変位角度θは、ワーク(35)の中心軸(33)まわりの角度である。変位角度θは、第1仕上げ工程(92)の終了時点のワーク(35)に対する、第2取り付け工程(95)の終了時点のワーク(35)の、ワーク(35)の周方向の位置の変化量を示す。
【0074】
補正工程(97)では、スクリューロータ(30)の設計値から定まるスクリューロータ(30)の中心軸(33)方向における螺旋溝(40)の位置とスクリューロータ(30)の回転角度との相関関係と、第1計測工程(93)において計測した第1部分(41)の位置と、第2計測工程(96)において計測した第1部分(41)の位置とを用いて、変位角度θが算出される。
【0075】
ワーク(35)の変位角度θを算出する処理について、図13を参照しながら説明する。
【0076】
図13(a)は、変位角度θが0°であると仮定した場合の、第2取り付け工程(95)の終了時点のワーク(35)を示す。この場合、図12の断面における螺旋溝(40)の第1側壁面(46)のZ軸座標の絶対値W2DMは、第1計測工程(93)において測定した第1側壁面(46)のZ軸座標の絶対値W1DMと一致する(W2DM=W1DM)。また、この場合、図12の断面における螺旋溝(40)の第2側壁面(47)のZ軸座標の絶対値W2SMは、第1計測工程(93)において測定した第2側壁面(47)のZ軸座標の絶対値W1SMと一致する(W2SM=W1SM)。
【0077】
しかし、第2取り外し工程(94)の直前におけるワーク(35)と、第2取り付け工程(95)の直後におけるワーク(35)とについて、ワーク(35)の周方向における位置が完全に一致することは、実際には有り得ない。そのため、実際のスクリューロータの製造方法では、図13(b)に示すように、W2DM≠W1DMであり、W2SM≠W1SMである。
【0078】
図12に示す断面における特定螺旋溝(40a)の幅方向の中央のZ軸座標を座標値C2Mとする。座標値C2Mは、(WD2M-WS2M)/2である(C2M=(WD2M-WS2M)/2)。そして、第2取り付け工程(95)におけるワーク(35)の周方向の変位が無いとき(図13(a)を参照)と、第2取り付け工程(95)におけるワーク(35)の周方向の変位が有るとき(図13(b)を参照)とを比較した場合における、図12に示す断面における特定螺旋溝(40a)の、ワーク(35)の中心軸(33)方向の変位量Eは、(C2M-C1M)である(E=C2M-C1M)。
【0079】
スクリューロータ(30)の螺旋溝(40)は、スクリューロータ(30)の第1端(31)側から第2端(32)側へ向かって螺旋状に延びる溝である。スクリューロータ(30)を設計する際には、スクリューロータ(30)の中心軸(33)方向に対する螺旋溝(40)の傾斜角度が定められる。従って、スクリューロータ(30)の中心軸(33)方向における螺旋溝(40)の断面の位置と、スクリューロータ(30)の回転角度との間には、スクリューロータ(30)の設計値から定まる相関関係がある。そこで、この相関関係と、ワーク(35)の中心軸(33)方向における特定螺旋溝(40a)の変位量Eと用いて、ワークの変位角度θが算出される。
【0080】
補正工程(97)では、算出したワーク(35)の変位角度θに基づいて、第1仕上げ工程(92)における加工原点が補正される。図13に示す例において、第1仕上げ工程(92)における加工原点は、ワーク(35)が同図の反時計方向に変位角度θだけ回転していることを前提とする加工原点に補正される。
【0081】
〈第2仕上げ工程〉
第2仕上げ工程(98)では、工作機械(60)の保持部(61)に第2端(32)が取り付けられたワーク(35)に対して、各螺旋溝(40)の第2部分(42)の形状を、スクリューロータ(30)の設計値にするための切削加工が行われる。第2仕上げ工程(98)では、荒加工と、中仕上げ加工と、仕上げ加工とが順に行われる。また、第2仕上げ工程(98)における切削加工は、補正工程(97)において補正された加工原点に基づいて行われる。
【0082】
ここで、補正工程(97)を行った場合でも、各螺旋溝(40)の第1部分(41)と第2部分(42)の位置の誤差を完全に無くすことは、実際には不可能である。そのため、第2仕上げ工程(98)を経たワーク(35)(言い換えると、完成品であるスクリューロータ(30))では、各螺旋溝(40)の壁面(46,47,48)に、第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)である微少な段差が形成される。
【0083】
-実施形態の特徴(1)-
本実施形態のスクリューロータ(30)の製造方法では、第1仕上げ工程(92)の後に第2仕上げ工程(98)が行われる。
【0084】
第1仕上げ工程(92)では、工作機械(60)の保持部(61)に第1端(31)が取り付けられたワーク(35)を対象に、螺旋溝(40)の第1部分(41)の切削加工が行われる。そのため、第1仕上げ工程(92)において、ワーク(35)を保持する保持部(61)は、保持部(61)以外の工作機械(60)の構造体(具体的には、切削工具が取り付けられた回転主軸(62))から離間した状態に保たれる。
【0085】
また、第2仕上げ工程(98)では、工作機械(60)の保持部(61)に第2端(32)が取り付けられたワーク(35)を対象に、螺旋溝(40)の第2部分(42)の切削加工が行われる。そのため、第2仕上げ工程(98)において、ワーク(35)を保持する保持部(61)は、保持部(61)以外の工作機械(60)の構造体から離間した状態に保たれる。
【0086】
従って、本実施形態の製造方法によれば、一般的な構造の工作機械(60)を用いてスクリューロータ(30)を加工する場合であっても、ワーク(35)を保持する保持部(61)を、保持部(61)以外の工作機械(60)の構造体から離間した状態に保ちながら、スクリューロータ(30)の螺旋溝(40)の全体を加工できる。
【0087】
-実施形態の特徴(2)-
本実施形態のスクリューロータ(30)の製造方法では、第1仕上げ工程(92)と第2取り外し工程(94)の間に、第1計測工程(93)が行われ、第2取り付け工程(95)と第2仕上げ工程(98)の間に、第2計測工程(96)と補正工程(97)とが順に行われる。
【0088】
補正工程(97)では、第1計測工程(93)において計測した第1部分(41)の位置と、第2計測工程(96)において計測した第1部分(41)の位置とに基づいて、ワーク(35)の変位角度が算出される。また、補正工程(97)では、算出された変位角度に基づいて、第1仕上げ工程(92)における加工原点が補正される。第2仕上げ工程(98)では、補正工程(97)において補正された加工原点に基づいて、螺旋溝(40)の第2部分(42)の切削加工が行われる。そのため、螺旋溝(40)の第1部分(41)と第2部分(42)の相対的な位置の誤差が、小さい値に抑えられる。その結果、各螺旋溝(40)において第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)を構成する段差を、小さく抑えることができる。
【0089】
-実施形態の特徴(3)-
スクリューロータ(30)の螺旋溝(40)は、スクリューロータ(30)の第1端(31)側から第2端(32)側へ向かって螺旋状に延びる溝である。スクリューロータ(30)を設計する際には、スクリューロータ(30)の中心軸(33)方向に対する螺旋溝(40)の傾斜角度が定められる。従って、スクリューロータ(30)の中心軸(33)方向における螺旋溝(40)の断面の位置と、スクリューロータ(30)の回転角度との間には、スクリューロータ(30)の設計値から定まる相関関係がある。この相関関係は、螺旋溝(40)が形成されたスクリューロータ(30)に特有の相関関係である。
【0090】
本実施形態のスクリューロータ(30)の製造方法では、上述したスクリューロータ(30)の設計値から定まる相関関係を用いて、第2取り付け工程(95)の終了時点のワーク(35)の変位角度θを算出する。そのため、変位角度θを比較的高い精度で算出することができ、螺旋溝(40)の第1部分(41)と第2部分(42)の相対的な位置の誤差を小さく抑えることができる。
【0091】
-実施形態の特徴(4)-
本実施形態の製造方法によって製造されるスクリューロータ(30)の各螺旋溝(40)では、第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)が、螺旋溝(40)の吸入側端(45)に比較的近い位置に形成される。具体的に、本実施形態のスクリューロータ(30)の各螺旋溝(40)において、第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)は、螺旋溝(40)の伸長方向の中央よりも吸入側端(45)に近い位置に形成される。
【0092】
第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)は、微少な段差である。そのため、ゲートロータ(51)のゲート(52)が螺旋溝(40)の壁面(46,47,48)と摺動しながら境界線(43)を通過する際に、螺旋溝(40)の壁面(46,47,48)とゲート(52)の間のシールが不充分になるおそれがある。
【0093】
一方、ゲート(52)が螺旋溝(40)の吸入側端(45)に比較的近い位置にある時期は、圧縮室(21,22)における圧縮行程の初期である。圧縮行程の初期において、圧縮室(21,22)における冷媒の圧力は、圧縮室(21,22)へ吸入される冷媒の圧力に対して、まだそれほど上昇していない。そのため、圧縮行程の初期において螺旋溝(40)の壁面(46,47,48)とゲート(52)の間のシールが不充分であっても、圧縮室(21,22)から漏れ出す冷媒の量は、非常に僅かである。
【0094】
従って、本実施形態の製造方法においてスクリューロータ(30)の螺旋溝(40)の第1部分(41)と第2部分(42)を個別に加工した場合でも、スクリュー圧縮機(10)の圧縮室(21,22)から漏れ出す冷媒の量を少なく抑えることができ、スクリュー圧縮機(10)の効率を高く保つことができる。
【0095】
-実施形態の特徴(5)-
本実施形態の製造方法によって製造されるスクリューロータ(30)において、各螺旋溝(40)の壁面に形成された境界線(43)は、螺旋溝(40)の壁面(46,47,48)とシール平面(55)との交線に対して傾斜している。そのため、螺旋溝(40)の吸入側端(45)から吐出側端(44)へ向かって相対的に移動するゲート(52)のシールライン(53)は、ゲート(52)が第2部分(42)から第1部分(41)へ向かって境界線(43)を跨ぐ過程において、この境界線(43)と一点で交差する(図5を参照)。
【0096】
本実施形態のスクリューロータ(30)の各螺旋溝(40)において、第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)は、微少な段差である。そのため、この境界線(43)が「螺旋溝(40)の壁面(46,47,48)とシール平面(55)との交線」の上に形成されていたとすると、螺旋溝(40)の内部を移動するゲート(52)が第2部分(42)から第1部分(41)へ向かって境界線(43)を跨ぐ過程において、そのゲート(52)のシールライン(53)の全体が、同時に段差である境界線(43)を通過することになる。シールライン(53)の全体が同時に境界線(43)を通過すると、ゲート(52)のシールライン(53)に衝撃的な力が作用し、ゲート(52)が損傷するおそれがある。
【0097】
これに対し、本実施形態のスクリューロータ(30)では、螺旋溝(40)における第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)が、螺旋溝(40)の吸入側端(45)から吐出側端(44)へ向かって境界線(43)を通過するゲート(52)のシールライン(53)と一点で交差する。そのため、第1部分(41)と第2部分(42)の境界線(43)をゲート(52)が通過する過程でゲート(52)に作用する力が小さく抑えられ、ゲート(52)が損傷する可能性を低減してスクリュー圧縮機(10)の信頼性を高く保つことができる。
【0098】
-実施形態の変形例-
本実施形態の製造方法によって、螺旋溝の吸入側端がスクリューロータの第1端に開口した形状のスクリューロータを製造してもよい。
【0099】
また、本実施形態の製造方法によって製造されるスクリューロータは、単段圧縮を行うスクリュー圧縮機に設けられてもよい。
【0100】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。また、明細書および特許請求の範囲の「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明したように、本開示は、スクリューロータの製造方法、スクリューロータ、及びスクリュー圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0102】
10 スクリュー圧縮機
30 スクリューロータ
31 第1端
32 第2端
33 中心軸
35 ワーク
40 螺旋溝
40a 特定螺旋溝
41 第1部分
42 第2部分
43 境界線
44 吐出側端
45 吸入側端
51 ゲートロータ
52 ゲート
53 シールライン
60 工作機械
61 保持部
84 第1取り付け工程
92 第1仕上げ工程
93 第1計測工程
94 取り外し工程
95 第2取り付け工程
96 第2計測工程
97 補正工程
98 第2仕上げ工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13