(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】トルク差調整システム
(51)【国際特許分類】
B60L 9/18 20060101AFI20240111BHJP
B60K 1/02 20060101ALI20240111BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240111BHJP
F16H 48/10 20120101ALI20240111BHJP
F16H 48/34 20120101ALI20240111BHJP
【FI】
B60L9/18 P
B60K1/02
B60L15/20 S
F16H48/10
F16H48/34
(21)【出願番号】P 2019199973
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亮太
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-061306(JP,A)
【文献】特開2011-130628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 9/18
B60K 1/02
B60L 15/20
F16H 48/10
F16H 48/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左輪と右輪との間のトルク差を調整するためのトルク差調整システムであって、
前記車両の動力源となる第1のモータ及び前記第1のモータと異なる第2のモータと、
前記第1のモータからの動力を前記左輪及び前記右輪に分配するとともに、前記第2のモータからの動力を前記左輪及び前記右輪に分配する動力分配装置と、
前記第1のモータの出力トルクと前記第2のモータの出力トルクを制御する制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記第1のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度と前記第2のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度とに基づいてイナーシャトルクの差分を算出するイナーシャトルク演算部と、
前記イナーシャトルク演算部によって算出された前記イナーシャトルクの差分に基づいて前記第1のモータ及び前記第2のモータの夫々から出力する出力トルクを算出する出力トルク演算部と、
前記出力トルク演算部によって算出された前記出力トルクを前記第1のモータ及び前記第2のモータの夫々に出力させるトルク出力部と
を含む、トルク差調整システム。
【請求項2】
前記イナーシャトルク演算部は、
前記左輪の速度と前記右輪の速度とに基づいて前記第1のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度と前記第2のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度を算出する、請求項1に記載のトルク差調整システム。
【請求項3】
前記イナーシャトルク演算部は、
第1のモータの回転速度と第2のモータの回転速度とに基づいて前記第1のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度と前記第2のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度を算出する、請求項1に記載のトルク差調整システム。
【請求項4】
前記第1のモータから前記動力分配装置までの減速率及び前記第2のモータから前記動力分配装置までの減速率をそれぞれG、前記動力分配装置の中で前記第1のモータ側から左右タイヤに掛かる減速比をb1、前記動力分配装置の中で前記第2のモータ側から前記左右タイヤに掛かる減速比をb2とした場合に、
前記出力トルク演算部は、下記の数式1に基づいて
右のイナーシャトルクと左のイナーシャトルクとの差分(T
RI
-T
LI
)を補償する、請求項2又は3に記載のトルク差調整システム。
【数1】
【請求項5】
前記イナーシャトルク演算部は、
前記車両の操作状態又は車両状態に基づいて前記第1のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度と前記第2のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度を算出する、請求項1~4のいずれか一項に記載のトルク差調整システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トルク差調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の左右側で対となる各車輪への駆動力を前記車両の挙動変化に応じて配分する車両制御装置が開示されている。かかる車両制御装置は、個別に回転駆動可能に設けられ、第1及び第2出力軸をそれぞれ有する第1及び第2電動モータと、前記第1出力軸に接続される第1回転要素及び他の第2,第3回転要素により形成される第1差動装置と、前記第2出力軸に接続される第1回転要素及び他の第2,第3回転要素により形成される第2差動装置と、前記第1差動装置の第2回転要素と前記第2差動装置の第3回転要素とを接続して形成され、前記車輪のいずれか一方に接続される第1出力要素と、前記第1差動装置の第3回転要素と前記第2差動装置の第2回転要素とを接続して形成され、前記車輪のいずれか他方に接続される第2出力要素と、前記車両の車体に設けられ、前記車両の挙動変化を検出する挙動変化検出手段と、前記挙動変化検出手段の検出結果に基づいて前記各電動モータの目標トルクを算出するとともに、前記各電動モータを制御するコントローラとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示する車両制御装置では、第1差動装置と第2差動装置(動力分配装置)の構成に起因して車体旋回時に車体旋回を阻害するイナーシャトルクが生じる。
【0005】
上述した実情を鑑みて動力分配装置の構成に起因して車体旋回時に生じる車体旋回を阻害するイナーシャトルクを補償できるトルク差調整システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくとも一実施形態に係るトルク差調整システムは、車両の左輪と右輪との間のトルク差を調整するためのトルク差調整システムであって、前記車両の動力源となる第1のモータ及び前記第1のモータと異なる第2のモータと、前記第1のモータからの動力を前記左輪及び前記右輪に分配するとともに、前記第2のモータからの動力を前記左輪及び前記右輪に分配する動力分配装置と、前記第1のモータの出力トルクと前記第2のモータの出力トルクを制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記第1のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度と前記第2のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度とに基づいてイナーシャトルクの差分を算出するイナーシャトルク演算部と、前記イナーシャトルク演算部によって算出された前記イナーシャトルクの差分に基づいて前記第1のモータ及び前記第2のモータの夫々から出力する出力トルクを算出する出力トルク演算部と、前記出力トルク演算部によって算出された前記出力トルクを前記第1のモータ及び前記第2のモータの夫々に出力させるトルク出力部とを含む。
【0007】
上記の構成によれば、イナーシャトルク演算部が第1のモータから動力分配装置に入力される回転速度と第2のモータから動力分配装置に入力される回転速度とに基づいてイナーシャトルクの差分を算出し、出力トルク演算部がイナーシャトルク演算部によって算出されたイナーシャトルクの差分に基づいて第1のモータ及び第2のモータの夫々から出力する出力トルクを算出する。そして、トルク出力部が出力トルク演算部によって算出された第1のモータ及び第2のモータの夫々から出力する出力トルクを第1のモータ及び第2のモータの夫々から出力させる。これにより、トルク差調整システムは、動力分配装置の構成に起因して車体旋回時に生じる車体旋回を阻害するイナーシャトルクを補償できる。
【0008】
本発明の一実施形態では、前記イナーシャトルク演算部は、前記左輪の速度と前記右輪の速度とに基づいて前記第1のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度と前記第2のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度を算出する。
【0009】
上記の構成によれば、イナーシャトルク演算部は、左輪の速度と右輪の速度に基づいて第1のモータから動力分配装置に入力される回転速度と第2のモータから動力分配装置に入力される回転速度を算出できる。
【0010】
本発明の一実施形態では、前記イナーシャトルク演算部は、第1のモータの回転速度と第2のモータの回転速度とに基づいて前記第1のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度と前記第2のモータから前記動力配分装置に入力される回転速度を算出する。
【0011】
上記の構成によれば、イナーシャトルク演算部は、第1のモータの回転速度と第2のモータの回転速度とに基づいて第1のモータから動力分配装置に入力される回転速度と第2のモータから動力分配装置に入力される回転速度を算出できる。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記第1のモータから前記動力分配装置までの減速率及び前記第2のモータから前記動力分配装置までの減速率をそれぞれG、前記動力分配装置の中で前記第1のモータ側から左右タイヤに掛かる減速比をb1、前記動力分配装置の中で前記第2のモータ側から前記左右タイヤに掛かる減速比をb2とした場合に、前記出力トルク演算部は、下記の数式1に基づいて右のイナーシャトルクと左のイナーシャトルクとの差分(T
RI
-T
LI
)を補償する。
【0013】
【0014】
上記の構成によれば、上記の数式1に示される第1のモータと第2のモータのイナーシャトルクの差分を補償するので、車体旋回時に生じる車体旋回を阻害する第1のモータと第2のモータのイナーシャトルクを適切に補償できる。
【0015】
本発明の一実施形態では、前記車両の操作状態又は車両状態に基づいて前記第1のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度と前記第2のモータから前記動力分配装置に入力される回転速度を算出する。
【0016】
上記の構成によれば、車両の操作状態または車両状態に基づいて第1のモータから動力分配装置に入力される回転速度と第2のモータから動力分配装置に入力される回転速度を算出できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の少なくとも一実施形態に係るトルク差調整システムによれば、動力分配装置の構成に起因して車体旋回時に生じる車体旋回を阻害するイナーシャトルクを補償できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るトルク差調整システムを搭載した電動車両の構成を概略的に示す概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るトルク差調整システムの機械構成を概略的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るトルク差調整システムの制御構成を概略的に示すブロック図である。
【
図4】
図2に示した動力分配装置の入出力特性を示す特性線図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るトルク差調整システムを搭載した電動車両の旋回挙動を概略的に示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る動力分配装置の構成を詳細に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
本発明の一実施形態に係るトルク差調整システム1は、駆動用バッテリ110に充電された電気を動力源とする、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)又はプラグインハイブリッド自動車(PHV,PHEV)等の電動車両100に搭載される。本発明の一実施形態に係るトルク差調整システム1が搭載される電動車両100は、後輪二輪がモータによって駆動されるリアドライブの電動車両であるが、これに限られるものではなく、例えば全輪がモータによって駆動される四輪ドライブの電動車両であってもよい。
【0021】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るトルク差調整システム1は、車両の左輪5Lと右輪5Rとの間のトルク差を調整するためのトルク差調整システムであって、車両の動力源となる第1のモータ11及び第1のモータ11と異なる第2のモータ12、動力分配装置3と制御装置4とを備えている。
【0022】
第1のモータ11及び第2のモータ12は同一の定格出力のモータであって、同一のモータイナーシャを有している。第1のモータ11及び第2のモータ12は例えば交流モータであって、第1のモータ11と駆動用バッテリ110との間には第1のインバータ21を備え、第2のモータ12と駆動用バッテリ110との間には第2のインバータ22を備えている。第1のインバータ21及び第2のインバータ22は、駆動用バッテリ110に充電された直流電力を交流電力に変換するものであり、第1のモータ11の出力トルクと第2のモータ12の出力トルクを任意に調整可能である。
【0023】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る動力分配装置3は、第1のモータ11からの動力を左輪5L及び右輪5Rに分配するとともに、第2のモータ12からの動力を左輪5L及び右輪5Rに分配するように構成されている。ここで、左輪の車軸5L1及び左タイヤのイナーシャ(以下「左タイヤ等のイナーシャ」という)と右輪の車軸5R1及び右タイヤのイナーシャ(以下「右タイヤ等イナーシャ」という)は同一である。
【0024】
図3に示すように、制御装置4は、第1のモータ11及び第2のモータ12の出力トルクを制御するように構成されている。制御装置4は、例えば、電動車両制御装置40(以下、「EV-ECU40」という)と、第1のモータ制御装置41(以下「第1のMCU41」という)及び第2のモータ制御装置42(以下「第2のMCU42」という)とを備えている。
【0025】
EV-ECU40は、演算装置、命令や情報を格納するレジスタ、周辺回路等から構成されるプロセッサ(図示せず)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリ(図示せず)のほか入出力インターフェースによって構成される。
【0026】
EV-ECU40には、ステアリング情報(例えば操舵角)、車速情報(例えば車輪速)、アクセルペダル情報(例えば踏込量)やブレーキペダル情報(例えば踏込量)等の情報が入力される。EV-ECU40には、例えばイナーシャトルク演算部401、出力トルク演算部402及びトルク出力部403が設けられている。
【0027】
イナーシャトルク演算部401は、第1のモータ11から動力分配装置3に入力される回転速度と第2のモータ12から動力分配装置3に入力される回転速度とに基づいてイナーシャトルクの差分を算出するように構成されている。
【0028】
左タイヤ等のイナーシャトルクTLIt、右タイヤ等のイナーシャトルクTRItは下記の数式2で表すことができる。
【0029】
【0030】
また、車軸上の第1のモータ11のイナーシャトルクTLIm、第2のモータ12のイナーシャトルクTRImは下記の数式3で表すことができる。
【0031】
【0032】
よって、左のイナーシャトルクTRIと右のイナーシャトルクTLIは下記の数式4で表すことができる。
【0033】
【0034】
これにより、右のイナーシャトルクTRIと左のイナーシャトルクTLIの差分TIは下記の数式5で表すことができる。
【0035】
【0036】
出力トルク演算部402は、イナーシャトルク演算部401によって算出されたイナーシャトルクの差分に基づいて第1のモータ11の出力トルク及び第2のモータ12の出力トルクを算出するように構成されている。
【0037】
ここで、
図4に示すように、第1のモータ11から動力分配装置3までの減速率及び第2のモータ12から動力分配装置3までの減速率をそれぞれG、動力分配装置3の中で第1のモータ11側から左右輪の車軸5L1に到る減速率をb
1、第2のモータ12側から左右輪の車軸5R1に到る減速率をb
2とすると、左輪5Lの車軸トルクT
L、右輪5Rの車軸トルクT
Rは、下記の数式6で示すことができる。
【0038】
【0039】
よって、左輪5LのイナーシャトルクTLI、右輪5RのイナーシャトルクTRIは、下記の数式7に示す通りとなる。
【0040】
【0041】
これにより、これらの符号を反対にしたものを左輪5Lの車軸トルクTL、右輪5Rの車軸トルクTRに付与することによりイナーシャトルクを補償する。
【0042】
トルク出力部403は出力トルク演算部402によって算出された第1のモータ11の出力トルクと第2のモータ12の出力トルクを出力する部分であり、第1のモータ11の出力トルクは第1のMCU41に出力され、第2のモータ12の出力トルクは第2のMCU42に出力される。
【0043】
第1のMCU41はトルク出力部403から出力された第1のモータ11の出力トルクを第1のモータ11が出力するように第1のインバータ21を制御し、第2のMCU42はトルク出力部403から出力された第2のモータ12の出力トルクを第2のモータ12が出力するように第2のインバータ22を制御するように構成されている。
【0044】
上述した本発明の一実施形態に係るトルク差調整システム1は、第1のモータ11から動力分配装置3に入力される回転速度と第2のモータ12から動力分配装置3に入力される回転速度とに基づいてイナーシャトルクの差分を算出し、イナーシャトルクの差分に基づいて第1のモータ11の出力トルクと第2のモータ12の出力トルクとを算出する。そして、第1のモータ11の出力トルクは第1のMCU41に出力され、第2のモータ12の出力トルクは第2のMCU42に出力される。そして、第1のMCU41はトルク出力部403から出力された第1のモータ11の出力トルクを第1のモータ11が出力するように第1のインバータ21を制御し、第2のMCU42はトルク出力部403から出力された第2のモータ12の出力トルクを第2のモータ12が出力するように第2のインバータ22を制御する。これにより、本発明の一実施形態に係るトルク差調整システム1によれば、
図5に示すように、動力分配装置3の構成に起因して車体旋回時に生じる車体旋回を阻害するイナーシャトルクを補償できる。
【0045】
本発明の一実施形態に係るトルク差調整システム1では、イナーシャトルク演算部401Aは、左輪5Lと右輪5Rの回転速度に基づいて第1のモータ11から動力分配装置3に入力される回転速度と第2のモータ12から動力分配装置3に入力される回転速度を算出する。
【0046】
このようにすれば、イナーシャトルク演算部401Aは、第1のモータ11の回転速度と第2のモータ12の回転速度とに基づいて第1のモータ11から動力分配装置3に入力される回転速度と第2のモータ12から動力分配装置に入力される回転速度を算出できる。
【0047】
本発明の一実施形態に係るトルク差調整システム1では、イナーシャトルク演算部401Bは、第1のモータ11と第2のモータ12の回転速度とに基づいて第1のモータ11から動力分配装置3に入力される回転速度と第2のモータ12から動力分配装置3に入力される回転速度を算出する。
【0048】
このようにすれば、イナーシャトルク演算部401Bは、第1のモータ11の回転速度と第2のモータ12の回転速度とに基づいて第1のモータ11から動力分配装置3に入力される回転速度と第2のモータ12から動力分配装置3に入力される回転速度を算出できる。
【0049】
第1のモータ11の回転角加速度、第2のモータ12の回転角加速度は、下記の数式8によって求められる。
【0050】
【0051】
これにより、例えば車輪速センサによって車両旋回時における左輪5Lと右輪5Rの回転速度ωL、ωRが検出されると、第1のモータ11と第2のモータ12の回転角加速度、が求められる。同様に、例えば第1のモータ11と第2のモータ12に設けられたレゾルバ(図示せず)によって車両旋回時における第1のモータ11と第2のモータ12の回転速度ωLm,ωRmが検出されると、左輪5Lと右輪5Rの回転角加速度が求められる。
【0052】
第1のモータ11のイナーシャトルクTLIm、第2のモータ12のイナーシャトルクTRImは、下記の数式9によって求められる。
【0053】
【0054】
そして、T’LIm,T’RImは、数式10によって求められる。
【0055】
【0056】
よって、モータのイナーシャトルクTLIm,TRImは、数式11によって求められる。
【0057】
【0058】
これを整理すると、モータのイナーシャトルクTLIm,TRImは、数式12によって求められる。
【0059】
【0060】
第2のモータ12のイナーシャトルクTRImと第1のモータ11のイナーシャトルクTLImとの差分は、下記の数式13によって求められる。
【0061】
【0062】
数式13に左右のタイヤのイナーシャトルクを加算すると下記の数式14によって示される。
【0063】
【0064】
このようにすれば、上記の数式14に示される第1のモータ11と第2のモータ12のイナーシャトルクの差分を補償するので、車体旋回時に生じる車体旋回を阻害する第1のモータ11と第2のモータのイナーシャトルクを適切に補償できる。
【0065】
本発明の一実施形態では、車両の操作状態又は車両状体に基づいて第1のモータ11から動力分配装置3に入力される回転速度と第2のモータ12のモータから動力分配装置3に入力される回転速度を算出する。
【0066】
上述した本発明の一実施形態によれば、車両の操作状態又は車両状態に基づいて第1のモータ11から動力分配装置3に入力される回転速度と第2のモータ12から動力分配装置に入力される回転速度を算出できる。
【0067】
本発明の一実施形態に係るトルク差調整システム1では、イナーシャトルク演算部401Cは、車両の操作状態または車両状態(例えば、車速速度、操舵角)に基づいてイナーシャトルクの差分を算出するように構成されている。
【0068】
イナーシャトルク演算部401Cは、重心半径、外輪旋回半径、内輪旋回半径、スリップアングル、車輪速などからイナーシャトルクの差分を算出する。
【0069】
図6に示すように、本発明の一実施形態に係る動力分配装置3は、第1の減速ギア列31、第2の減速ギア列32、差動ギア列33を含んで構成されている。
【0070】
第1の減速ギア列31は、インプットギア311、カウンターギア312、アウトプットギア313及びデフドライブギア314を含んで構成されている。インプットギア311は、第1のモータ11の出力軸に取り付けられ、インプットギア311にはカウンターギア312が噛み合い、インプットギア311からカウンターギア312に動力が伝達される。カウンターギア312と同軸上にアウトプットギア313が設けられ、カウンターギア312とアウトプットギア313は同一方向に同一速度で回転する。アウトプットギア313にはドライブギアが噛み合い、アウトプットギア313からデフドライブギア314に動力が伝達される。
【0071】
第2の減速ギア列32は、第1の減速ギア列31と同様、インプットギア321、カウンターギア322、アウトプットギア323及びデフドライブギア324を含んで構成されている。インプットギア321は、第2のモータ12の出力軸に取り付けられ、インプットギア321にはカウンターギア322が噛み合い、インプットギア321からカウンターギア322に動力が伝達される。カウンターギア322と同軸上にアウトプットギア323が設けられ、カウンターギア322とアウトプットギア323は同一方向に同一速度で回転する。アウトプットギア323にはドライブギアが噛み合い、アウトプットギア323からデフドライブギア324に動力が伝達される。
【0072】
第1の減速ギア列31のインプットギア311、カウンターギア312、アウトプットギア313及びデフドライブギア314と第2の減速ギア列32のインプットギア321、カウンターギア322、アウトプットギア323及びデフドライブギア324はそれぞれ同じ歯数であり、インプットギア311,321の歯数をZi、カウンターギア312,322の歯数をZc、アウトプットギア313,323の歯数をZo及びデフドライブギア314,324の歯数をZdとすると、第1の減速ギア列31と第2の減速ギア列32の減速比は、下記の数式15で表すことができる。
【0073】
【0074】
差動ギア列33は、インプットサンギア331、アニュラスギア332、ピニオンギア大333、キャリア334、ピニオンギア小335及びアウトプットサンギア336を含んで構成される。
【0075】
インプットサンギア331は、第1の減速ギア列31を構成するデフドライブギア314と一体に回転するギアであり、第1のモータ11からの動力が伝達される。アニュラスギア332は、第2のギア列を構成するデフドライブギアと一体に回転するインターナルギアであり、第2のモータ12からの動力が伝達される。これにより、インプットサンギア331とアニュラスギア332とが差動歯車列への入口となる。インプットサンギア331とアニュラスギア332の両方はピニオンギア大333と噛み合わされ、ピニオンギア大333及びアニュラスギア332はインプットサンギア331の周りを回転する遊星歯車を構成する。ピニオンギア大333はキャリア334に回転自在に支持され、アニュラスギア332とインプットサンギア331との差動によってピニオン大ギア又はキャリア334が回転する。また、キャリア334にはピニオンギア小335が固定され、キャリア334の回転によってピニオンギア小335がアウトプットサンギア336の周りを回転する。ピニオンギア小335にはアウトプットサンギア336が噛み合わされ、ピニオンギア小335がアウトプットサンギア336の周りを回転する遊星歯車を構成する。そして、キャリア334の回転によって右輪の車軸5R1が回転し、アウトプットサンギア336の回転によって左輪の車軸5L1が回転する。
【0076】
インプットサンギア331の歯数をZS1、アニュラスギア332の歯数をZr1、ピニオンギア大333の歯数をZP1、ピニオンギア小335の歯数をZP2及びアウトプットサンギア336の歯数をZS2とすると、インプットサンギア331から右輪の車軸5R1に到る減速比b1、アニュラスギア332から左輪の車軸に到る減速比b2は、下記の数式16で表すことができる。
【0077】
【0078】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0079】
1 トルク差調整システム
11 第1のモータ
12 第2のモータ
21 第1のインバータ
22 第2のインバータ
3 動力分配装置
31 第1の減速ギア列
311 インプットギア
312 カウンターギア
313 アウトプットギア
314 デフドライブギア
32 第2の減速ギア列
321 インプットギア
322 カウンターギア
323 アウトプットギア
324 デフドライブギア
33 差動ギア列
331 インプットサンギア
332 アニュラスギア
333 ピニオンギア大
334 キャリア
335 ピニオンギア小
336 アウトプットサンギア
4 制御装置
40 電動車両制御装置(EV-ECU)
401 イナーシャトルク演算部
402 出力トルク演算部
403 トルク出力部
41 第1のモータ制御装置(第1のMCU)
42 第2のモータ制御装置(第2のMCU)
5L 左輪
5L1 左輪の車軸
5R 右輪
5R1 右輪の車軸
100 電動車両
110 駆動用バッテリ