(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】トランスアクスル油温センサの故障判定装置
(51)【国際特許分類】
F16N 29/00 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
F16N29/00 B
(21)【出願番号】P 2023524999
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2022035180
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 良
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英信
(72)【発明者】
【氏名】三浦 徹
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-019484(JP,A)
【文献】特開2010-116994(JP,A)
【文献】特開平09-065501(JP,A)
【文献】特開2007-056815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16N 1/00-99/00
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24,
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を出力する駆動機器とドライブシャフトとの間に動力を伝達するトランスアクスルと、前記トランスアクスルに隣接して配置された発電機と、を有する車両に備えられ、前記トランスアクスルの油温を検出するトランスアクスル油温センサの故障判定装置であって、
前記発電機の油温を検出する発電機油温検出部と、
前記トランスアクスル油温センサの故障を判定する故障判定部と、
前記トランスアクスルの作動を停止した前記車両の放置時間を測定する放置時間測定部と、を備え、
前記故障判定部は、
前記放置時間が第1所定時間以上経過した後の前記車両始動時の前記トランスアクスルの油温と前記発電機の油温との差が所定の閾値以上の場合に、前記トランスアクスル油温センサが故障であると判定する
ことを特徴とするトランスアクスル油温センサの故障判定装置。
【請求項2】
前記発電機油温検出部の故障を検出する発電機故障検出部を備え、
前記故障判定部は、前記発電機油温検出部が故障中でない場合に、前記トランスアクスル油温センサの故障判定を実行する
ことを特徴とする請求項1記載のトランスアクスル油温センサの故障判定装置。
【請求項3】
前記故障判定部は、
前記放置時間が第1所定時間以上経過した後の前記車両の始動から、前記トランスアクスルの油温と前記発電機の油温との差が前記閾値以上であることが第2所定時間以上継続した場合に、前記トランスアクスル油温センサが故障であると判定する
ことを特徴とする請求項2記載のトランスアクスル油温センサの故障判定装置。
【請求項4】
前記車両の外気温度を検出する外気温度検出部を備え、
前記故障判定部は、外気温度に基づいて前記第1所定時間を変更する
ことを特徴とする請求項2に記載のトランスアクスル油温センサの故障判定装置。
【請求項5】
前記車両の外気温度を検出する外気温度検出部を備え、
前記故障判定部は、外気温度に基づいて前記閾値を変更する
ことを特徴とする請求項2に記載のトランスアクスル油温センサの故障判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトランスアクスルの油温を検出する油温センサの故障を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動系に備えられたトランスアクスルには、潤滑油(作動油)が封入されている。変速機は、封入されている潤滑油の粘性によって作動特性が変化するため、潤滑油の温度を精度良く検出することが必要である。潤滑油の温度は、一般的に温度センサによって検出されている。
油温センサ(温度センサ)の故障としては、例えば油温が変化したにも拘わらず油温センサの出力が実際の油温に対してずれたドリフト状態などがある。
【0003】
特許文献1には、自動変速機の油温センサの故障判定装置が記載されている。特許文献1には、車両の始動時に外気温度センサから外気温度を入力し、外気温度よりも油温センサによって検出したトランスアクスルの油温が低い場合に、油温センサが故障であると判定する判定装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献1では、車両が走行を開始してから所定時間経過後に外気温度よりもトランスアクスルの油温が低い場合に、油温センサが故障であると判定することにより、トランスアクスルの油温を高めた状態で判定することで、油温センサの故障判定の精度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、油温センサが高温の場合には、始動時に外気温度よりも油温センサの検出温度が高くなり、油温センサが故障であることが判定できない。
また、始動から所定時間経過してトランスアクスルの油温を高めてから判定すると、始動時にすぐに故障判定をすることができないといった問題点がある。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、始動時にすぐに故障判定が可能なトランスアクスルの油温センサ故障判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明のトランスアクスル油温センサの故障判定装置は、動力を出力する駆動機器と、ドライブシャフトとの間に動力を伝達するトランスアクスルと前記トランスアクスルに隣接して配置された発電機と、を有する車両に備えられ、前記トランスアクスルの油温を検出するトランスアクスル油温センサの故障判定装置であって、前記発電機の油温を検出する発電機油温検出部と、前記トランスアクスル油温センサの故障を判定する故障判定部と、前記トランスアクスルの作動を停止した前記車両の放置時間を測定する放置時間測定部と、を備え、前記故障判定部は、前記放置時間が第1所定時間以上経過した後の前記車両始動時の前記トランスアクスルの油温と前記発電機の油温との差が所定の閾値以上の場合に、前記トランスアクスル油温センサが故障であると判定することを特徴とする
これにより、トランスアクスルと略同一に油温が変化する発電機の油温検出部を利用して、始動時にトランスアクスル油温センサの故障判定を行うことができる。
【0009】
好ましくは、前記発電機油温検出部の故障を検出する発電機故障検出部を備え、前記故障判定部は、前記発電機油温検出部が故障中でない場合に、前記トランスアクスル油温センサの故障判定を実行しないとよい。
これにより、発電機油温検出部が故障していないことを前提にして、トランスアクスル油温センサの故障判定を確実に行うことができる。
【0010】
好ましくは、前記故障判定部は、前記放置時間が第1所定時間以上経過した後の前記車両の始動時に、前記トランスアクスルの油温と前記発電機の油温との差が前記閾値以上であることが、第2所定時間以上継続した場合に、前記トランスアクスル油温センサが故障であると判定するとよい。
これにより、トランスアクスル油温センサまたは発電機油温検出部の検出温度が一時的に変動した場合での、トランスアクスル油温センサの故障の誤判定を抑制することができる。
【0011】
好ましくは、前記車両の外気温度を検出する外気温度検出部を備え、前記故障判定部は、外気温度に基づいて前記第1所定時間を変更するとよい。
これにより、トランスアクスルの油温と発電機の油温とが略同一になるような放置時間を設定することができ、トランスアクスル油温センサの故障判定の信頼性を高めることができる。
【0012】
好ましくは、前記車両の外気温度を検出する外気温度検出部を備え、前記故障判定部は、外気温度に基づいて前記閾値を変更するとよい。
これにより、放置後のトランスアクスル油温センサの故障判定用の閾値を適切に設定して、トランスアクスル油温センサの故障判定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトランスアクスル油温センサの故障判定装置によれば、車両を第1所定時間以上放置した後の始動時におけるトランスアクスルの油温と発電機の油温とに基づいて故障判定を行うので、始動してすぐに故障判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のトランスアクスルの油温センサ故障判定装置が採用された車両の走行駆動系の全体構成図である。
【
図2】油温センサ故障判定装置において実行される故障判定制御の手順を示すフローチャートである。
【
図3】油温センサ故障判定時における各種データの推移例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をハイブリッド車両(以下、車両1という)に適用した実施形態を説明する。
図1は本実施形態の油温センサ故障判定システム(故障判定装置)が採用された車両1の走行駆動系の全体構成図である。
【0016】
本実施形態の車両1は、走行駆動源としてフロントモータ2(駆動機器)、リヤモータ5及びエンジン3(駆動機器)を備えたハイブリッド車である。
車両1は、フロントモータ2の出力またはフロントモータ2及びエンジン3の出力により前輪4を駆動し、リヤモータ5の出力により後輪6を駆動するように構成された4輪駆動車である。
【0017】
エンジン3の出力軸はトランスアクスル7を介して前輪4の駆動軸であるドライブシャフト8と連結されている。トランスアクスル7は、ケース7a内にデフ7bと動力伝達経路を断接可能なクラッチ9とが内蔵されるとともに、潤滑油が封入されている。クラッチ9の接続時にはエンジン3の駆動力がトランスアクスル7及びドライブシャフト8を経て前輪4に伝達され、クラッチ9の切断時にはエンジン3と前輪4との連結が切り離される。
【0018】
フロントモータ2の駆動軸はトランスアクスル7を介してドライブシャフト8と連結されて、フロントモータ2の駆動力がトランスアクスル7からドライブシャフト8を経て前輪4に伝達されるように構成されている。また、トランスアクスル7のクラッチ9より動力伝達方向の上流側(エンジン3側)にはモータジェネレータ10(発電機)が連結され、エンジン3の駆動により発電する。また、モータジェネレータ10は、クラッチ9の切断時において、エンジン3を始動するスタータモータとしても機能する。リヤモータ5は減速機11を介して後輪6のドライブシャフト12と連結され、その駆動力が減速機11からドライブシャフト12を経て後輪6に伝達されるようになっている。
【0019】
また、本実施形態のトランスアクスル7のケース7aとモータジェネレータ10のケースとは一体化するように接続されており、トランスアクスル7とモータジェネレータ10とが相互に熱伝導がし易い構造になっている。
【0020】
エンジン3には、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されたエンジンコントロールユニット14が接続され、このエンジンコントロールユニット14によりエンジン3のスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等が制御される。
【0021】
フロントモータ2、リヤモータ5及びモータジェネレータ10は例えば三相交流電動機であり、それらの電源として走行駆動用の蓄電池15が備えられている。蓄電池15は、例えばリチウムイオン電池等の二次電池から構成され、その充電率の算出や温度の検出を行うバッテリモニタリングユニット15aを内蔵している。
【0022】
フロントモータ2及びモータジェネレータ10はフロントモータコントロールユニット16を介して蓄電池15に接続されている。フロントモータコントロールユニット16には、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bが備えられている。蓄電池15の直流電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより三相交流電力に変換されてフロントモータ2やモータジェネレータ10に供給される。また、フロントモータ2による回生電力やモータジェネレータ10による発電電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより直流電力に変換されて蓄電池15に充電される。
【0023】
リヤモータ5はリヤモータコントロールユニット17を介して蓄電池15に接続されている。リヤモータコントロールユニット17には、リヤモータ用インバータ17aが備えられている。蓄電池15の直流電力は、リヤモータ用インバータ17aにより三相交流電力に変換されてリヤモータ5に供給され、リヤモータ5による回生電力は、リヤモータ用インバータ17aにより直流電力に変換されて蓄電池15に充電される。
また、車両1には、蓄電池15を外部電源によって充電する充電機13が備えられている。
【0024】
車両1には、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であるハイブリッドコントロールユニット18が備えられている。ハイブリッドコントロールユニット18は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されている。このハイブリッドコントロールユニット18により、エンジン3、フロントモータ2、モータジェネレータ10、リヤモータ5の各運転状態、及びトランスアクスル7のクラッチ9の断接状態等が制御される。ハイブリッドコントロールユニット18の入力側には、バッテリモニタリングユニット15a、フロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17、エンジンコントロールユニット14、車両1の走行速度を検出する車速センサ20、及び図示しないアクセル開度を検出するアクセル開度センサが接続されており、これらの機器からの検出及び作動情報が入力される。
【0025】
また、ハイブリッドコントロールユニット18の出力側には、フロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17、トランスアクスル7のクラッチ9、及びエンジンコントロールユニット14が接続されている。
そして、ハイブリッドコントロールユニット18は、アクセル開度センサや車速センサ20等の各種検出量等に基づき、車両1の走行モードをEVモード、シリーズモード、パラレルモードの間で切り換える。例えば、高速領域のようにエンジン3の効率が高い領域では、走行モードをパラレルモードとする。また、中低速領域では、蓄電池15の充電率SOCや車両走行駆動用の要求トルク等に基づきEVモードとシリーズモードとの間で切り換える。
【0026】
EVモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を切断すると共にエンジン3を停止し、蓄電池15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。
【0027】
シリーズモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を切断した上で、エンジン3を運転してモータジェネレータ10を駆動し、その発電電力及び蓄電池15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。なお、モータジェネレータ10による発電電力のうち余剰電力は、蓄電池15に充電される。
【0028】
パラレルモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を接続した上で、エンジン3を運転して駆動力をトランスアクスル7から前輪4に伝達すると共に、エンジン駆動力に余剰があるときには、フロントモータ2で回生し、エンジン駆動力が足りないときには、蓄電池15の電力を使ってフロントモータ2でアシストする。
【0029】
また、ハイブリッドコントロールユニット18は、上記各種検出量及び作動情報に基づき車両1の走行に必要な総要求出力を算出し、その総要求出力を、EVモード及びシリーズモードではフロントモータ2側とリヤモータ5側とに配分し、パラレルモードではフロントモータ2側とエンジン3側とリヤモータ5側とに配分する。そして、それぞれに配分した要求出力、及びフロントモータ2から前輪4までのトランスアクスル7のギヤ比、エンジン3から前輪4までのトランスアクスル7のギヤ比、リヤモータ5から後輪6までの減速機11のギヤ比に基づき、フロントモータ2、エンジン3、リヤモータ5のそれぞれの要求トルクを設定し、各要求トルクを達成するようにフロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17及びエンジンコントロールユニット14に指令信号を出力する。
【0030】
フロントモータコントロールユニット16及びリヤモータコントロールユニット17ではハイブリッドコントロールユニット18からの指令信号に基づき、要求トルクを達成するためにフロントモータ2及びリヤモータ5の各相のコイルに流すべき目標電流値を算出する。そして、目標電流値に基づきフロントモータ用インバータ16a及びリヤモータ用インバータ17aをスイッチング制御して各コイルの電流値を目標電流値に制御し、それぞれの要求トルクを達成する。尚、モータジェネレータ10の発電時も同様であり、負側の要求トルクから求めた目標電流値に基づきモータジェネレータ用インバータ16bをスイッチング制御し、これにより目標電流値を達成する。
【0031】
エンジンコントロールユニット14ではハイブリッドコントロールユニット18からの指令信号に基づき、要求トルクの達成のためのスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等の目標値を算出し、それらの目標値に基づく制御により要求トルクを達成する。
本実施形態の車両1には、トランスアクスル7の潤滑油温度(油温)を検出するT/A油温センサ30(トランスアクスル油温センサ)が備えられている。また、モータジェネレータ10の冷却用の油温を検出するジェネレータ油温センサ(以下、GEN油温センサ32という(発電機油温検出部))が備えられている。
【0032】
また、フロントモータコントロールユニット16は、GEN油温センサ32からモータジェネレータ10の油温を入力し、起動時にモータジェネレータ10の故障を判定するGEN油温センサ故障検出機能を有している(発電機故障検出部)。
ハイブリッドコントロールユニット18は、例えばフリーランカウンタにより、車両1の電源OFFでの放置時間、所謂ソーク時間を測定する放置時間測定部33が備えられている。
【0033】
ハイブリッドコントロールユニット18には、T/A油温センサ30の故障を判定する故障判定部31が備えられている。
以下、
図2、3を用いて、故障判定部31における油温センサ故障判定制御について説明する。本実施形態では、トランスアクスル7の油温が実際に変化したにも拘わらずT/A油温センサ30の検出値が実際の油温に対してずれたドリフト状態をT/A油温センサ30の故障であると判定する。
図2は、故障判定部31において実行される油温センサ故障判定制御の手順を示すフローチャートである。
【0034】
本実施形態の油温センサ故障判定制御は、車両1の電源ON時に実行される。
始めに、車両1の電源スイッチであるイグニッションスイッチ(IGスイッチ)がONであるか否かを判別する。IGスイッチがONである場合には、ステップS20に進む。IGスイッチがOFFである場合には、ステップS100に進む。
【0035】
ステップS20では、ハイブリッドコントロールユニット18の電源電圧が10V以上であるか否かを判別する。この閾値である10Vは、ハイブリッドコントロールユニット18が正常に作動する範囲での電源電圧の下限値付近の値である。電源電圧が10V以上である場合には、ステップS30に進む。電源電圧が10V未満である場合には、ステップS100に進む。
【0036】
ステップS30では、T/A油温センサ30の検出情報が使用可能であるか否かを判別する。T/A油温センサ30の検出情報が使用可能であるか否かについては、例えば、ハイブリッドコントロールユニット18において起動時(電源ON時)に、T/A油温センサ30の検出値をA/D変換している回路にて故障していないことを判定した場合にT/A油温センサ30の検出情報が使用可能であると判定したり、T/A油温センサ30の出力値に基づいて判定したりする。T/A油温センサ30の出力値に基づいて判定する場合には、例えばT/A油温センサ30の出力値である油温Tt/aが、地絡時の出力値T1より大きくかつ断線または天絡時の出力値T2未満である場合に使用可能であり、地絡時の出力値T1以下あるいは断線または天絡時の出力値T2以上である場合には使用不能であるとする。T/A油温センサ30の検出情報が使用可能である場合には、ステップS40に進む。T/A油温センサ30の検出情報が使用不能である場合には、ステップS100に進む。
【0037】
ステップS40では、T/A油温センサ30の回路が故障中でないか否かを判別する。本ステップでは、例えば、ステップS30において行ったT/A油温センサ30の出力値による判定を一定時間(数100msec)継続している場合にT/A油温センサ30の回路が故障中でないと判定すればよい。T/A油温センサ30の回路が故障中でない場合には、ステップS50に進む。T/A油温センサ30の回路が故障中である場合には、ステップS100に進む。
【0038】
ステップS50では、モータジェネレータ10の油温(GEN油温)情報が使用可能であるか否かを判別する。なお、GEN油温情報が使用可能であるか否かは、起動時にフロントコントロールユニット16が判定し、この判定結果をハイブリッドコントロールユニット18がフロントコントロールユニット16から入力する。GEN油温情報が使用可能である場合には、ステップS60に進む。GEN油温情報が使用不能である場合には、ステップS100に進む。
【0039】
ステップS60では、前回の車両1の電源OFFから電源ONまでの経過時間、即ち車両1の放置時間であるソーク時間が8時間以上であるか否かを判別する。なお、この判定用の閾値である8時間(第1所定時間)は、例えば夜間の放置時間を想定しており、トランスアクスル7の油温とモータジェネレータ10の油温とが十分に略同一になるような時間である。ソーク時間が8時間以上である場合には、ステップS70に進む。ソーク時間が8時間未満である場合には、ステップS100に進む。
【0040】
ステップS70では、フロントコントロールユニット16を介してGEN油温センサ32からモータジェネレータ10の油温Tgeを入力するとともに、T/A油温センサ30からトランスアクスル7の油温Tt/aを入力し、始動時におけるモータジェネレータ10の油温Tgeとトランスアクスル7の油温Tt/aとの差の絶対値(|Tge-Tt/a|)が閾値(10℃)より大きいか否かを判別する。この閾値である10℃は、適宜変更してもよい。モータジェネレータ10の油温Tgeとトランスアクスル7の油温Tt/aとの差の絶対値(|Tge-Tt/a|)が閾値(10℃)より大きい場合には、ステップS80に進む。モータジェネレータ10の油温Tgeとトランスアクスル7の油温Tt/aとの差の絶対値(|Tge-Tt/a|)が閾値(10℃)未満である場合には、ステップS90に進む。
ステップS80では、T/A油温センサ30がドリフト状態である故障判定をする。そして、本ルーチンを終了する。
【0041】
ステップS90では、T/A油温センサ30が正常である正常判定をする。そして、本ルーチンを終了する。
【0042】
ステップS100では、今回の始動時における油温センサ故障判定制御において、T/A油温センサ30が正常であるか否かを判定できなかった判定未完了とする。そして、そして、本ルーチンを終了する。
【0043】
そして、ハイブリッドコントロールユニット18は、故障判定部31における故障判定制御の判定結果に基づいて、警告表示やエンジン3、各モータ2、5の出力を制御する。例えば、T/A油温センサ30が故障判定された場合には、高油温と誤判定してフロント側(エンジン3やフロントモータ2)の出力を抑制する制御を行う可能性があるため、トランスアクスル油温を80℃として設定する。
【0044】
本実施形態の故障判定部31を備えた車両1では、例えば
図3に示すように、車両1の電源OFF(IG-OFF)から電源ON(IG-ON)までの時間がソーク条件(第1所定時間以上であること)を成立した場合に、モータジェネレータ10の油温Tgeとトランスアクスル7の油温Tt/aとの差の絶対値|Tge-Tt/a|を演算し、その値が閾値10℃より大きい場合には、T/A油温センサ30の故障判定をする。
【0045】
なお、車両の電源OFFから電源ONまでは、T/A油温センサ30の故障判定は未判定(判定不能)である。
また、
図3に示すように、ソーク条件が成立した車両1の始動から第2所定時間(温度差判定時間、例えば数msec)経過するまでの間、モータジェネレータ10の油温Tgeとトランスアクスル7の油温Tt/aとの温度差が閾値10℃より大きいか否かを判定している。即ち、始動時に瞬間的に温度差を判定しているのではなく、始動時に温度差が閾値10℃より大きい状態が僅かな時間(第2所定時間)継続した場合に故障判定をする。
【0046】
以上のように、本実施形態の車両1のハイブリッドコントロールユニット18は、トランスアクスル7の油温を検出するT/A油温センサ30の故障を判定する故障判定部31を備えている。
【0047】
故障判定部31は、車両電源OFFの状態で第1所定時間(8時間)以上放置した後の始動時に、T/A油温センサ30が検出したトランスアクスル7の油温Tt/aとモータジェネレータ10の油温Tgeとの差が閾値10℃以上である場合にT/A油温センサ30が故障であると判定する。
【0048】
トランスアクスル7とモータジェネレータ10とは隣接して配置されており、第1所定時間以上放置した後では、トランスアクスル7の油温Tt/aとモータジェネレータ10の油温Tgeとがいずれも外気温度と略同一になる。しかしながら、この温度差|Tge-Tt/a|が閾値以上である場合には、T/A油温センサ30またはGEN油温センサ32のいずれかが固着異常のような故障であると判定することができる。
【0049】
特に本実施形態では、第1所定時間以上放置した後の始動時に検出したトランスアクスル7の油温Tt/aとモータジェネレータ10の油温Tgeとに基づいて故障判定されるので、第1所定時間以上放置した後の始動時にすぐに故障判定が可能になる。
【0050】
また、油温センサ故障判定制御のステップS50において、GEN油温センサ32によるモータジェネレータ10の油温Tgeが利用不能であるか否かを判別しており、モータジェネレータ10の油温Tgeが利用可能である場合にのみ、T/A油温センサ30が故障であると判定することが可能になる。
【0051】
このように、故障判定部31は、GEN油温センサ32の故障が検出されていない場合にT/A油温センサ30の故障判定を実行するので、GEN油温センサ32が故障していないことを前提にして、T/A油温センサ30の故障判定を確実に行うことができる。
【0052】
また、故障判定部31は、GEN油温センサ32の故障が検出された場合に、T/A油温センサ30の故障判定を実行しないので、GEN油温センサ32が故障していてT/A油温センサ30が正常である場合に、T/A油温センサ30が故障であるとの誤判定を防止することができる。
【0053】
また、故障判定部31は、第1所定時間(8時間)以上の放置後の車両1の始動から、トランスアクスル7の油温Tt/aとモータジェネレータ10の油温Tgeとの差が閾値(10℃)以上であることが、第2所定時間(数msec)以上継続した場合に、T/A油温センサ30が故障であると判定している。
【0054】
これにより、T/A油温センサ30またはGEN油温センサ32の検出温度が始動時に瞬間的に変動した場合での、T/A油温センサ30の故障の誤判定を抑制することができる。
【0055】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0056】
例えば、車両1に外気温度を検出する外気温度センサ40(外気温度検出部)を備え、故障判定部31は、外気温度に基づいて、放置時間である第1所定時間(8時間)を変更してもよい。例えば電源OFF時の外気温度が高くなるに伴って第1所定時間を短く設定すればよい。
これにより、トランスアクスル7の油温Tt/aとモータジェネレータ10の油温Tgeとが略同一になるような放置時間を短く設定することができ、第1所定時間を適切に設定してT/A油温センサ30の故障判定の信頼性を高めるとともに、T/A油温センサ30の故障判定の機会を増加させることができる。
【0057】
また、外気温度に基づいて故障判定用の閾値(10℃)を変更してもよい。例えば、始動時の外気温度が高くなるに伴って閾値を小さく設定すればよい。
外気温度が高い状態では、第1所定時間放置後の始動時に十分にトランスアクスル7の油温Tt/aとモータジェネレータ10の油温Tgeとが略同一になっているので、故障判定用の閾値を小さく設定することで、T/A油温センサ30の故障判定精度を向上させることができる。
【0058】
また、油温センサ故障判定制御における判定用の各種閾値等の詳細については適宜変更してもよい。本発明は、油温センサ故障判定制御において、少なくともステップS60、S70の判定を行えばよい。
【0059】
また、上記実施形態は、EVモード、シリーズモード、パラレルモードを切り替え可能なハイブリッド車に本発明を適用しているが、トランスアクスル油温センサを有する車両に本発明を広く適用できる。
また、外部充電又は外部給電が可能なプラグインハイブリッド車両(PHEV)に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 車両
2 フロントモータ(モータ)
3 エンジン
7 トランスアクスル
8 ドライブシャフト
10 モータジェネレータ(発電機)
16 フロントコントロールユニット(発電機故障検出部)
18 ハイブリッドコントロールユニット
30 T/A油温センサ(トランスアクスル油温センサ)
31 故障判定部
32 GEN油温センサ(発電機油温検出部)
33 放置時間測定部
40 外気温度センサ(外気温度検出部)
【要約】
車両1のトランスアクスル7の油温を検出するT/A油温センサ30の故障判定装置であって、車両1にモータジェネレータ10の冷却用油温を検出するGEN油温センサ32を備えるとともに、ハイブリッドコントロールユニット18にT/A油温センサ30の故障を判定する故障判定部31と車両1の放置時間を測定する放置時間測定部33とを備え、故障判定部31は、第1所定時間以上放置した後の車両1の始動時にトランスアクスル7の油温とモータジェネレータ10の油温を入力し、GEN油温センサ32の正常時において、トランスアクスル7の油温とモータジェネレータ10の油温との差が所定の閾値以上場合に、T/A油温センサ30が故障であると判定する。