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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】運行最適化システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240111BHJP
   G08G 1/13 20060101ALI20240111BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
G08G1/00 D
G08G1/13
G01C21/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019236554
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105824
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508169476
【氏名又は名称】株式会社ベクトル総研
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴野 一則
(72)【発明者】
【氏名】高倉 望
(72)【発明者】
【氏名】疋田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】山田 武志
(72)【発明者】
【氏名】末松 孝司
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-72513(JP,A)
【文献】国際公開第2005/106139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
G09B 23/00 - 29/14
G06Q 10/00 - 10/30
G06Q 30/00 - 30/08
G06Q 50/00 - 99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起点から少なくとも1箇所の終点まで繰り返し車両を走行させることで運搬を行わせるための運行最適化システムであって、
使用する車両の台数及び前記車両の運搬可能量を設定する車両設定部と、
解析対象とする時間内に運搬する運搬量を設定する運搬量設定部と、
前記起点と前記終点との間の走行経路及び走行時間に関する条件を設定する走行条件設定部と、
前記走行経路上に前記車両を待機させる待機場所及び待機可能な車両台数を設定する待機条件設定部と、
上記設定に基づいて運搬状況をシミュレーションする解析演算部とを備え、
前記解析演算部によって、設定された前記車両の台数における前記車両の運行間隔が出力されることを特徴とする運行最適化システム。
【請求項2】
前記走行経路上で待機する前記車両の台数が出力されることを特徴とする請求項1に記載の運行最適化システム。
【請求項3】
前記解析対象とする時間の開始時刻が設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の運行最適化システム。
【請求項4】
前記走行時間は前記車両が走行する時間帯に合わせて設定されることを特徴とする請求項3に記載の運行最適化システム。
【請求項5】
前記起点及び前記終点に前記車両が滞在する滞在時間を設定する滞在時間設定部を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の運行最適化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起点から少なくとも1箇所の終点まで繰り返し車両を走行させることで運搬を行わせるための運行最適化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設現場などから発生した土砂や廃棄物を捨て場や処分場まで運搬させるためには、多くのダンプカーやトラックなどの車両を、繰り返し往復させることになる。この際に、何台の車両をどのように走行させれば、渋滞などの混雑の発生を抑えて、効率よく運搬できるようになるかが問題になる。
【0003】
特許文献1には、多くの仮置き場に仮置きされた除染除去物を、それより少数の中間貯蔵施設へ短期間で運搬するために、混雑度が小さくなるように中間貯蔵施設とリンクさせる仮置き場との関係を調整し、混雑度が改善されたリンクに対して運搬車両の配車を決める物資の効率的運搬方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6012381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際の運搬においては、起点や終点以外の走行経路上に車両が待機する事態が発生することになり、待機車両が増え過ぎると、近隣から苦情が寄せられるようになるが、特許文献1に開示された物資の効率的運搬方法では、このような課題を解決することができない。
【0006】
そこで、本発明は、走行経路上に車両を待機させる条件を設定することが可能な運行最適化システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の運行最適化システムは、起点から少なくとも1箇所の終点まで繰り返し車両を走行させることで運搬を行わせるための運行最適化システムであって、使用する車両の台数及び前記車両の運搬可能量を設定する車両設定部と、解析対象とする時間内に運搬する運搬量を設定する運搬量設定部と、前記起点と前記終点との間の走行経路及び走行時間に関する条件を設定する走行条件設定部と、前記走行経路上に前記車両を待機させる条件を設定する待機条件設定部と、上記設定に基づいて運搬状況をシミュレーションする解析演算部とを備え、前記解析演算部によって、設定された前記車両の台数における前記車両の運行間隔が出力されることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記走行経路上で待機する前記車両の台数が出力される構成とすることができる。また、前記解析対象とする時間の開始時刻が設定される構成とすることもできる。さらに、前記走行時間は前記車両が走行する時間帯に合わせて設定される構成とすることができる。そして、前記起点及び前記終点に前記車両が滞在する滞在時間を設定する滞在時間設定部を備えた構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された本発明の運行最適化システムは、解析演算部によって運搬状況をシミュレーションするための設定として、走行経路上に車両を待機させる条件が待機条件設定部によって設定できるようになっている。
【0010】
このように走行経路上に車両を待機させる条件を設定することができれば、実際の運搬状況に即した最適な運行計画を作成することができるようになる。特に、走行経路上で待機する車両の台数を出力できるようにすることで、近隣などに与える影響を予め予測したり、影響を抑えた運行計画を作成しなおしたりすることができるようになる。
【0011】
また、解析対象とする時間の開始時刻を設定できるようにすることで、例えば少しの残業時間を追加することによって余剰時間の発生を抑えて、大幅に運行効率が改善できる運行計画を見つけ出すことができるようになる。
【0012】
さらに、走行経路の走行時間を車両が走行する時間帯に合わせて設定することができれば、実際に渋滞が起きやすい時間帯などの実走行時間などが反映できるようになり、より実情に合った運行計画が作成できるようになる。
【0013】
また、起点及び終点に車両が滞在する滞在時間を設定する滞在時間設定部を備えていれば、土砂などの運搬物の積込みや積降ろしの時間、起点や終点内で待機したり走行したりする時間なども考慮することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態の運行最適化システムの概要を示した説明図である。
図2】本発明の実施の形態の運行最適化システムの処理の流れを説明するフローチャートである。
図3】運行最適化システムの解析モデルの概要を模式的に示した説明図である。
図4】運行最適化システムの解析結果の概要を模式的に示した説明図である。
図5】運行最適化システムの入力条件を例示した説明図である。
図6】走行経路を区間に分割する方法を例示した説明図である。
図7】起点及び終点の滞在時間を説明する図であって、(a)は起点となる現場の滞在時間の説明図、(b)は終点となる捨て場の滞在時間の説明図である。
図8】運行最適化システムで実行されるシミュレーションの全体の処理の流れを説明するフローチャートである。
図9】シミュレーションの詳細な処理の流れを説明するフローチャートである。
図10】ケース1の検討条件と出力される結果を表形式で説明する図である。
図11】ケース1の最適な運行計画を模式的に示した図である。
図12】ケース1の最適な運行計画を他の出力結果と比較して示した説明図である。
図13】ケース1からケース4の検討条件と出力される結果を表形式で説明する図である。
図14】一例としてケース2でシミュレーションした運搬状況の出力例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施の形態の運行最適化システムの概要を示した。本実施の形態の運行最適化システムは、起点から少なくとも1箇所の終点まで繰り返し車両を走行させることで運搬物の運搬を行わせる際の最適な運行計画を策定するためのシステムである。
【0016】
本実施の形態では、主に建設現場で発生する土砂や汚泥などの運搬物を、複数のダンプカーやトラックなどの車両で運搬する場合について説明する。要するに車両は、土砂等が発生する起点となる建設現場と、終点となる土砂などの捨て場との間を、繰り返し往復することになる。
【0017】
図1には、起点となる建設現場を「搬出元」として表示し、終点となる複数の捨て場を「搬出先1」及び「搬出先2」として表示している。そして、搬出元と搬出先とを結ぶ走行経路が、それぞれ地図上に表示されている。この走行経路は、往路と復路とで異なっていてもよい。
【0018】
さらに、走行経路の途中には、安全に車両を待機させることが可能な車両待機場所を設定することができる。また、車両待機場所を、巡回走行して待機させるためのエリアとして設定することもできる。
【0019】
要するに本実施の形態の運行最適化システムは、例えば1日の運搬量となる搬出元から発生する土砂などの量を設定したり残りの土砂量などを演算したりする搬出元計算と、搬出先に降ろされる土砂量などを設定したり演算したりする搬出先計算とに基づいて、複数の車両による複数回の往復の繰り返し運転によって生じる運搬状況をシミュレーションして、最適な運行計画を見出すためのシステムである。
【0020】
図2は、本実施の形態の運行最適化システムの処理の流れの概略を説明するフローチャートである。まず、ステップS1で、搬出元や搬出先の設定や解析対象とする時間(例えば1日)の設定や、解析に必要となる各種データの読み込みなどが行われる。
【0021】
続いてステップS11では、搬出元の設定が行われる。搬出元の設定では、例えば解析対象時間(1日)に発生する土砂や汚泥などの運搬予定土砂量や、土砂の積込み作業が開始される時刻などが設定される。
【0022】
また、ステップS12では、搬出元である建設現場で使用される建設機械の台数や、運搬車両の待機可能な台数などが設定される。土砂の積み込みなどで使用されるバックホウやブルドーザーなどの建設機械の台数が多ければ、同時に多くの車両に積み込みが行えたり、積込み時間の短縮が図れたりするようになる。
【0023】
また、搬出元の場内に待機させることができる車両台数が多ければ、場外に待機させなければならなくなる車両の台数を抑えることができるようになる。このような積込み作業時間や場内に待機可能な車両台数などは、それまでに蓄積された実測値に基づく平均値などの実績データから取り込むことができる(ステップS13)。
【0024】
一方ステップS21では、搬出先の設定が行われる。搬出先の設定では、例えば解析対象時間(1日)に受け入れ可能な土砂などの土量や、土砂の積降ろし作業が開始される時刻などが設定される。
【0025】
また、ステップS22では、搬出先である捨て場で使用される建設機械の台数や待機車両台数などが設定される。さらに、積降ろし作業時間や場内に待機可能な車両台数などは、実績データから取り込むことができる(ステップS23)。
【0026】
続いてステップS2では、搬出元と搬出先(搬出先1,搬出先2)との間の走行経路となるルートが設定される。ルートは、搬出先ごとに設定され、それぞれ往路と復路の両方の設定が行われる。
【0027】
そして、ステップS3では、運搬車両の台数を設定する。運搬車両は、台数のほかに、1台に1度に積載できる運搬可能量(積載量)が設定される。複数の種類の運搬車両を使用する場合は、種類ごとに運搬可能量が設定される。また、ルートごとに使用する運搬車両を特定することができる。例えば、搬出元と搬出先1との間を往復する車両を、搬出元と搬出先2との間の運搬に使用しないなどの設定をすることができる。さらに、運搬車両に運搬を開始させる開始時刻や終了時刻なども設定される。
【0028】
続いてステップS4では、ステップS2で設定されたルートの時間帯ごとの走行時間などが設定される。走行時間などのデータには、交通のオープンデータや、それまでに得られた走行データの実測値などを使用することができる。そして、ステップS5では、ルート上の待機場所の位置や、そこに待機可能な車両台数などの設定がされる。
【0029】
要するに本実施の形態の運行最適化システムは、使用する車両の台数及び車両の運搬可能量をステップS3で設定する車両設定部と、解析対象とする時間内に運搬する運搬量をステップS11やステップS21などで設定する運搬量設定部と、起点と終点との間の走行経路及び走行時間などのルートに関する条件をステップS2やステップS4で設定する走行条件設定部と、走行経路上に車両を待機させる条件をステップS5で設定する待機条件設定部と、これらの設定に基づいてステップS6で運搬状況をシミュレーションする解析演算部とを備えている。また、起点及び終点に車両が滞在する滞在時間は、ステップS11-S13やステップS21-S23などで滞在時間設定部によって設定される。
【0030】
このような車両設定部、運搬量設定部、走行条件設定部、待機条件設定部、滞在時間設定部及び解析演算部は、例えば、キーボードやマウスなどの入力部と、演算処理や制御指示を行うための演算処理部と、実績データや車両データなどが記憶されたデータベース部と、表示部となるディスプレイなどから構成されるシステムに組み込まれる。
【0031】
そして、ステップS7では、ステップS6でシミュレーションした設定が、場外となる車両待機場所の目標として設定した待機車両台数を超えていないかなどの目標値が満足されているか否かをチェックして、必須条件が満たされていない場合はシミュレーションを繰り返し、満たされている場合は、最適な運行計画として結果を出力する(ステップS8)。
【0032】
図3は、上記フローチャートで概略を説明した運行最適化システムを、模式的に示した解析モデルを使って説明する図である。搬出元計算では、1箇所の搬出元Aで使用するバックホウ(BH1,BH2)やブルドーザー(BD)の種類や台数などが設定される。
【0033】
また、搬出先計算では、例えば3箇所の搬出先B,C,Dで使用する建設機械の種類や台数などが設定される。そして、走行経路は、走行距離や走行にかかる時間が設定されればシミュレーションを行うことができるので、ノード間を直線で示すことができる。
【0034】
また、走行経路上には、車両待機場所が設定される。通常、車両待機場所は、復路の搬出元Aに比較的近い場所に設定される。そして図4は、運行最適化システムの解析結果を模式的に示した説明図である。
【0035】
図4で丸印と進行方向を示す三角矢印で示された運搬車両は、この解析結果では、往路を走行して辿り着いた搬出先の場内に3台が待機し、搬出先からの復路上の車両待機場所に2台が場外待機し、搬出元の場内には3台が待機している運搬状況を示している。この場内に待機可能な車両台数は、工事敷地や工事段階に応じて変化する。そして、この設定では、場外の待機可能な車両台数は3台のため、2台しか場外待機が発生しない運行計画であれば、最適な結果と言える。
【0036】
続いて、図5図7を参照しながら、より詳細な入力条件などの説明を行う。図5は、運行最適化システムの入力条件を一覧表形式で例示した説明図である。この例では、搬出先となる捨て場の役割が異なっていて、捨て場1には残土だけを降ろすことができ、捨て場2には汚泥のみを降ろすことができる。
【0037】
入力条件の車両台数は、シミュレーションを行う際に最初に設定される車両台数を示している。この例では、搬出元と捨て場1との運搬に4台の車両を使用し、搬出元と捨て場2との運搬に4台の車両を使用することを初期条件としている。この車両台数によるシミュレーションを行った結果、シミュレーション前に設定された目標値を満たす最適解が得られなければ、車両台数を変更して、再度シミュレーションが行われることになる。
【0038】
「現場への車両の到着時刻・間隔」を設定することによって、何時から積込み作業が開始できるかが特定される。また、車両の運行間隔となる現場への搬入間隔などの設定も行うことができる。
【0039】
さらに、「運搬土砂の積込み量」では、残土運搬に使用される車両と汚泥運搬に使用される車両の1台当たりの運搬可能量が設定される。また、各捨て場の受け入れ時間や搬出元となる現場での積込み時間や1日の運搬予定土量の設定なども行われる。さらに、想定する土砂運搬回数についても、1台あたりと総回数を設定することができる。
【0040】
また、現場や各捨て場に待機させることが可能となる車両の上限や、同時に積込み又は積降ろし可能となる車両の上限なども設定できる。さらに、実績データに基づいて、現場や捨て場での滞在時間の平均や、場外道路である走行経路の平均速度や片道の走行距離なども、入力条件として設定できる。これらの実績データは、過去の類似する工事で蓄積された実測値や、交通のオープンデータなどから取得することができる。また、実測値が無い場合は、経験的に妥当と考えられる値を使用することもできる。
【0041】
図6は、走行経路を区間に分割する方法を例示した説明図である。搬出元(現場)である出発地点と、搬出先となる捨て場とは、1本の直線で繋いだモデルとすることができるが、この直線を複数の区間に分割することによって、より実態に合った解析を行うことができるようになる。
【0042】
すなわち、出発地点から捨て場までのルートには、通常、一般道や高速道路や渋滞がよく起きる道路などが含まれており、区間ごとに平均速度の実績が異なることになる。このような場合に、ルートを複数の区間に分割することで、より実績データを反映させやすくすることができる。
【0043】
続いて図7は、起点となる現場と、終点となる捨て場の滞在時間を説明する図である。まず図7(a)に、現場の滞在時間の内訳を示した。現場の場外では運搬車両が待機していて、無線などで連絡が入れば建設現場の敷地内に入れる状態になっている。
【0044】
現場に入場した運搬車両は、構内を走行して土砂の積込み場所まで移動する。この搬入の際の移動時間を現場滞在時間に加算することができる。また、バックホウなどの建設機械による積込み作業の時間も、現場滞在時間に加算される。さらに、積込みが終了して運搬車両が構内を出るまでの出庫にかかる時間も、現場滞在時間に加算することができる。
【0045】
一方図7(b)には、捨て場の滞在時間の内訳を示した。捨て場の場外から構内に入場した運搬車両は、構内を走行して土砂の積降ろし場所まで移動する。この搬入の際の移動時間を捨場滞在時間に加算することができる。また、土砂を積降ろし、ブルドーザーなどの建設機械によって敷き均す作業の時間も、捨場滞在時間に加算される。さらに、積降ろしが終了して運搬車両が構内を出るまでの出庫にかかる時間も、捨場滞在時間に加算することができる。
【0046】
このよう詳細な設定に基づいて、ステップS6(図2)のシミュレーションは行われる。このシミュレーションには、例えば離散系・連続系統合型の汎用シミュレーションソフトウェアを使用することができる。離散系・連続系統合型のシミュレータであれば、様々なプロセス(手続き)をモデル化することで、運行最適化システムに適したシミュレーションを実行することができる。
【0047】
また、シミュレーションには、プロセス型のシミュレータを使用することもできる。プロセス型のシミュレータであっても、手続きや処理などの様々なプロセスをモデル化し、時間経過に伴ってそのモデル化された各プロセスを処理する過程を表現することができる。さらに、特許文献1に開示されているような公知の交通シミュレータを使用することもできる。
【0048】
そして、本実施の形態の運行最適化システムでは、離散系・連続系統合型の汎用シミュレーションソフトウェアであるWITNESS(製品名:伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)を使用してシミュレーションを行った。図8には、運行最適化システムで実行されるシミュレーションの全体の処理の流れを示し、図9には、シミュレーションの詳細な処理の流れを示した。
【0049】
ステップS61の入力処理では、運搬車両を使用する台数(総台数)や1回目の到着時刻などの車両情報が入力される。また、搬出元である現場から1日に発生する運搬予定土砂量など、上述した各種設定のなかで、シミュレーションに必要となる設定値が取り込まれる。
【0050】
このシミュレーションは、解析対象とする時間となる開始時刻から終了時刻までの各対象時刻tに対して、繰り返し行われる(ステップS62)。例えば、30秒単位、1分単位、2分単位、5分単位など、任意の間隔を設定して時間をループさせることができる。
【0051】
また、使用する運搬車両についても、設定された車両台数分の動きをそれぞれシミュレーションするために、車両ループによってそれぞれの状態を解析させる(ステップS63)。すなわち、ステップS64に示すように、時間ループの対象時刻tであれば、特定された車両Ciの稼働開始時刻が終了時刻を過ぎていないかを確認し、シミュレーションを行うための結合子Aに移行する。
【0052】
結合子Aでシミュレーションされた結果は、結合子Bから戻り、車両ループ(ステップS65)によって1台目から設定された台数までの計算が繰り返される。さらに、設定された台数分の運搬車両の計算が終了した後には、終了時刻に至るまでの時間ループが繰り返される(ステップS66)。
【0053】
そして、解析対象とする時間の設定された台数の運搬車両を使ったシミュレーションが終了した結果を、ステップS61で設定した条件における解析結果として出力する(ステップS67)。
【0054】
図9は、図8の結合子Aから結合子Bまでの処理の流れを説明するフローチャートである。ステップS101では、車両状態を分岐させる判定を行う。この分岐判定は、対象時刻tに車両Ciが滞在している位置に基づいて行われる。
【0055】
対象時刻tが車両Ciの稼働開始時刻であれば、車両Ciは搬出元となる現場に到着していることになる(ステップS102)。また、車両Ciが搬出元に滞在しているときは、土砂の積込みなどの運搬作業や場内走行などの場内処理が行われていることになる(ステップS103)。
【0056】
さらに、往路や復路の場外道路に車両Ciが滞在しているときは、車両走行処理が行われる(ステップS104)。この往路及び復路の各走行経路は、各捨て場などの搬出先idごとに設定される。
【0057】
そして、搬出先idに車両Ciが滞在しているときは、土砂の積降ろしなどの運搬作業や場内走行などの場内処理が行われる(ステップS105)。このようにして車両状態が特定されると、ステップS102,S103では、車両Ciが搬出元の場内に滞在しているという車両状態に維持又は変更する変更処理が行われる(ステップS106)。
【0058】
一方、搬出元の近辺に車両Ciが到着していて、時間調整処理が行われない場合(ステップS107)も、そのままステップS106に移行する。これに対して、時間調整処理が行われる場合は、場外の車両待機場所での時間調整処理が行われる(ステップS108)。
【0059】
さらに、搬出先での運搬作業が終了したとき(ステップS105)には、その車両Ciがもう1往復可能な時刻なのか、また運搬すべき土砂が搬出元に残っているのかなどの往復可能判定が行われる(ステップS109)。
【0060】
要するに、運搬車両が搬出元や搬出先に到着したときに、受け入れの終了時刻を過ぎていたり、搬出元に運搬すべき土砂が残っていなっかたりした場合には、搬出元に戻る必要がなくなるため、その車両Ciの1日の作業は終了したという車両状態に変更される。これに対して、往復可能と判定された場合は、搬出先idを出た場外道路に車両状態が変更される。
【0061】
このようにして車両状態が変更(ステップS106)されるとともに、運搬状況を更新する処理(ステップS110)がなされて、結合子BからステップS65(図8)の時間ループに戻される。
【0062】
次に、本実施の形態の運行最適化システムを使用した検討例について説明する。図10には、ケース1として、検討条件と出力される結果を表形式で示している。このケース1では、場外の待機車両が解析対象とする時間内で常に2台以下になることを目標値として、最適な運搬車両の台数と運行間隔とをシミュレーションによって導き出す。そして、目標値との検証結果を出力する。
【0063】
ここで、条件としては、運搬開始時刻、搬出元となる建設現場から発生する1日の搬出土砂等の量、現場内に待機可能な車両台数、現場で使用される積込み重機の台数や能力、運搬のルートや走行距離、走行速度の実績データなどが設定される。
【0064】
図11は、ケース1の最適な運行計画として出力された結果を模式的に示した図である。この図の右側には、開始時刻から終了時刻までの1日の待機車両の台数を、場内と場外とに分けて表示している。ここで、下段の場外の待機車両台数の推移を見ると、2台を超える時間帯は発生しておらず、目標値を満たした運行計画になっていると言える。そして、このような運行が行えるのは、10台の運搬車両を使用し、運行間隔を5分とした場合である。このような出力結果は、図1に示すような地図上に重ねて出力させる表示形態とすることで、分かりやすく可視化させることもできる。
【0065】
これに対して図12には、ケース1の最適な運行計画が導き出されるまでのそれ以外の出力結果を例示して比較した説明図である。図の右側の上部には、目標値を満たすことができなかったシミュレーション結果が示されている。この比較例では、12台の運搬車両を使用しているが、場外の待機車両台数が4台になる時間帯が4箇所発生し、目標値の2台以下が達成できない運行計画であったことがわかる。要するに、使用する運搬車両が多すぎると、計画通りの処理をすぐに実行できずに待ち(ボトルネック)が生じることがある。その「待ち」が、場外待機車両の増加や作業時間の増加や遅延などの諸問題を引き起こすことがあるため、事前に運行最適化システムによって最適な運行計画の検討を行う。
【0066】
図13には、ケース1以外に行った検討例としてケース2からケース4の検討条件と出力される結果(目標値との検証結果)を、ケース1と並べて示した。ケース2では、場外待機車両が発生しないことを目標とし、複数ある選択可能なルートの中から最適な運搬ルートの選定を行わせた。この際の固定条件として、1日に使用する運搬車両の台数を設定した。
【0067】
図14に、ケース2でシミュレーションした運搬状況の出力例を示した。この出力例に示したように、解析対象時間内で場外に待機車両が発生しないかどうかを、分かりやすく可視化された画面で容易に確認することができるようになる。また、捨て場1との往復に使用する運搬車両の台数及び走行経路、並びに捨て場2との往復に使用する運搬車両の台数及び走行経路などをシミュレーションした運行計画の設定を、画面上で簡単に確認することができる。
【0068】
さらに、ケース3では、早出残業をおこなわせることで、場外待機車両が発生しないという目標が達成可能な運行計画が策定できるかをシミュレーションした。このケース3の出力される結果としては、早出残業となる前倒しされた運搬開始時刻と運行間隔とが出力される。
【0069】
そして、ケース4では、早出残業をおこなわせることで、運搬回数を1台あたり1回増やすことができるか否かを検討して、効率的な運搬が可能となる運行計画の導き出しを行った。上述したように、搬出先を運搬車両が出る際に、もう1往復が可能でなければ、その車両の運行は終了することになる。この終了時刻が早すぎると無駄が多くなるので、少しの時間の早出残業によってその無駄が解消できるか否かを検討することができる。例えば、1台の運搬車両の運搬回数が1時間の早出残業で4回から5回に増えるのであれば、工費や工期の削減に大きく貢献できる。また、時間帯ごとの平均速度のデータを利用することで、より正確な解析を行うことができるようになる。
【0070】
このように構成された本実施の形態の運行最適化システムは、解析演算部によって最適運行をシミュレーションするための設定として、現場と捨て場との間のルート上に車両を待機させる車両待機場所などの条件が待機条件設定部によって設定できるようになっている。
【0071】
このようにルート上に車両を待機させる条件を設定することができれば、実際の運搬状況に即した最適な運行計画を作成することができるようになる。特に、ルート上で待機する車両の台数を出力できるようにすることによって、近隣などに与える影響を予め予測して運搬業者に対応を求めたり、許容可能な待機車両台数に抑えた運行計画を作成しなおしたりすることができるようになる。
【0072】
また、解析対象とする時間の開始時刻と終了時刻とを設定できるようにすることで、例えば少しの残業時間を追加することによって運搬が打ち切りされる余剰時間の発生を抑えて、大幅に運行効率が改善できる運行計画を見つけ出すことができるようになる。
【0073】
さらに、運搬ルートの走行時間を車両が実際に走行する時間帯の状態に合わせて設定することができれば、実際に渋滞が起きやすい時間帯などの実走行時間などが考慮できるようになり、より実情に合った運行計画が作成できるようになる。
【0074】
例えば、実績データとして、GPS(Global Positioning System)による車両の位置情報と走行する時間帯とを関連付けた実測値を蓄積しておき、運搬ルートの走行時間のデータとして反映させることができる。また、搬出元となる現場や搬出先となる捨て場に車両が滞在する時間についても、車両の位置情報と滞在時間との関係を実測値として蓄積し、その後の運行計画の作成の際に反映させることができる。
【0075】
このようにして蓄積された実測値は、現場や捨て場に車両が滞在する滞在時間を設定する滞在時間設定部を備えていれば、土砂などの運搬物の積込みや積降ろしに実際にかかる時間や場内で待機したり走行したりする時間なども考慮することができるようになる。
【0076】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0077】
例えば前記実施の形態では、建設現場から土砂などを捨て場に運搬する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えばウッドチップなどを運搬する場合や、イベントの際にシャトルバスによって観客を輸送する場合にも、本発明の運行最適化システムによって最適な運行計画を策定することができる。
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