(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】青果物の剥皮方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20240111BHJP
【FI】
A23L19/00 A
(21)【出願番号】P 2020214643
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2022-09-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業研究支援センター「革新的技術開発・緊急開発事業(うち先導プロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591062146
【氏名又は名称】一般社団法人長野県農村工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141450
【氏名又は名称】堀内 剛
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 潤
(72)【発明者】
【氏名】木下 友花
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】堀西 朝子
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-000218(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0042096(US,A1)
【文献】特開2015-050951(JP,A)
【文献】特開2013-243959(JP,A)
【文献】特開昭51-110056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
青果物の外皮をアルカリ処理することなく剥離する際に、
前記青果物を0.05質量%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する20℃以下の界面活性剤含有水に少なくとも15時間浸漬する界面活性剤処理を施した後、
前記青果物を加熱処理することなく前記外皮を構成するペクチン、セルロース及びヘミセルロースの分解酵素の少なくとも一種を含有する酵素含有液に浸漬し、前記青果物の本体から前記外皮を剥離する酵素処理を施すことを特徴とする青果物の剥皮方法。
【請求項2】
前記界面活性剤含有水は、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が1.0質量%以下であって、
前記界面活性剤処理が
24時間以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の青果物の剥皮方法。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、Hydrophilic Lipophilic Balance値(HLB値)が12~18のものを用いる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の青果物の剥皮方法。
【請求項4】
前記分解酵素として、プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの少なくとも一種の酵素活性を有するものを用いることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の青果物の剥皮方法。
【請求項5】
前記青果物としての果実類又は果菜類を用いるとき、前記界面活性剤処理を施した前記果実類又は前記果菜類を、プロトペクチナーゼの活性を有する分解酵素を含有し且つポリガラクツロナーゼ活性が300Unit/g以下の酵素含有液に浸漬することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の青果物の剥皮方法。
【請求項6】
前記青果物としての根菜類を用いるとき、前記界面活性剤処理を施した前記根菜類を、セルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼの活性を有する分解酵素を含有し且つセルラーゼ活性が300Unit/g以下及び/又はヘミセルラーゼ活性が500Unit/g以下の酵素含有液に浸漬することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の青果物の剥皮方法。
【請求項7】
前記分解酵素として、プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼのいずれか二種又は三種の酵素活性を併有するものを用いることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の青果物の剥皮方法。
【請求項8】
前記酵素処理では、前記界面活性剤処理を施した前記青果物を、温度が40℃以下で且つ前記酵素含有液に少なくとも30分浸漬する
ことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の青果物の剥皮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の有する風味を損ねることなく安全に且つ簡単に剥皮でき、美麗な外観の剥皮した青果物を得ることのできる青果物の剥皮方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケーキ等の菓子や缶詰等に利用される果実、煮物等に利用される野菜類や根菜類は、剥皮されて利用に供されている。青果物の剥皮は、従来、加熱された苛性ソーダ溶液に青果物を浸漬処理することによって行われていた。しかし、高温の苛性ソーダ溶液への青果物の浸漬作業は、作業者にとって危険を伴う作業である。しかも、得られた剥皮青果物に微量の苛性ソーダ成分が残存していても、剥皮青果物の風味を著しく損ねるため、苛性ソーダ溶液に浸漬処理して得た剥皮青果物に十分な洗浄を行うことが必要となる。しかし、洗浄により風味成分が洗い流されて洗浄後の剥皮青果物の風味が低下するおそれがある。剥皮青果物の生産コストも高くなる。
【0003】
このような苛性ソーダを使用せずに青果物の剥皮方法として、下記特許文献1には、ブドウ果実に対して、グリセリン脂肪酸エステルとレシチン等の界面活性剤含有溶液に浸漬する界面活性剤処理と、重曹(炭酸水素ナトリム)水溶液に浸漬する弱アルカリ処理とを独立かつ連続して行う方法が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、ビワ果実の剥皮方法として、ビワ果実を洗浄処理し、続いて果皮の分解酵素を有する酵素液と界面活性剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルとを含有する混合液で処理し、次いでビワ果実の少なくとも外果皮を除去する処理を行う方法が提案されている。
【0005】
根菜類の剥皮は、従来、ナイフ等の刃物を用いて人手で行われており、多くの労力を必要としていた。このような根菜類を含む青果物を、刃物を用いることなく剥皮できる青果物の剥皮方法が下記特許文献3に提案されている。この方法は、青果物の表面にドライアイスや氷等の粉末状又は粒子状の研削材を衝突させて、青果物の外果皮に分解酵素を導入するための導入口を青果物の表面に形成する表面処理を行う第1の工程と、この第1の工程を行った後の青果物に形成した導入口から外果皮の分解酵素を導入する外果皮崩壊処理を行う第2の工程と、第2の工程を行った後の青果物の外果皮を除去する外果皮除去処理を行う第3の工程とを順次行い、青果物を加熱する工程を含まないというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6034912号公報
【文献】特許第5991676号公報
【文献】特開2020-218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献1で提案された方法によれば、ブドウ果肉を損傷することなく安全に且つ簡単に果実の果皮を剥離できる。しかしながら、依然として重曹溶液等の弱アルカリ水溶液を用いており、得られたブドウ果肉の洗浄を十分に行うことが必要である。微量の重曹が残存しているブドウ果肉は、重曹の呈する苦みにより風味が損なわれるからである。一方、ブドウ果肉に微量の重曹が残存しないように十分に洗浄すると、ブドウ果肉の風味成分が洗い流されて風味が低下するおそれがある。更に、このようにブドウ果肉の洗浄を過剰に行うと、最終的に得られるブドウ果肉の生産コストが高くなる。
【0008】
更に、前述した特許文献2で提案されたビワ果実の剥皮方法によれば、アルカリ処理を施すことなくビワ果実を剥皮できる。しかし、果皮の分解酵素液と界面活性剤との混合液を繰り返して使用すると、ビワ果実が次第に剥皮され難くなり、混合液の更新を度々行うことを要し、工業的には不利であることが判明した。
【0009】
また、前述した特許文献3で提案された剥皮方法によれば、根菜類を含む青果物をアルカリ処理することなく剥皮できることから、剥皮した青果物の洗浄を軽いものにでき、青果物の加熱による変質等の防止と良好な風味の保持とを図ることができる。しかしながら、この方法では、青果物の表面にドライアイスや氷等の粉末状又は粒子状の研削材を衝突させて、青果物の外果皮に分解酵素を導入するための導入口を青果物の表面に均一に形成することを要し、工業的に多量の青果物を処理する際に、導入口が未形成の青果物や不均一に形成された青果物が発生し、未剥皮の青果物や剥皮が不均一の青果物が発生するおそれがある。更に、研削材を各青果物に均一に噴射する噴射装置を必要とし、剥皮装置が複雑化するおそれがある。
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、青果物の有する風味を損ねることなく安全に且つ簡単に剥皮でき、美麗な外観の剥皮青果物を工業的に安定して得ることのできる青果物の剥皮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた本発明の青果物の剥皮方法は、青果物の外皮をアルカリ処理することなく剥離する際に、前記青果物を0.05質量%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する20℃以下の界面活性剤含有水に少なくとも15時間浸漬する界面活性剤処理を施した後、前記青果物を加熱処理することなく前記外皮を構成するペクチン、セルロース及びヘミセルロースの分解酵素の少なくとも一種を含有する酵素含有液に浸漬し、前記青果物の本体から前記外皮を剥離する酵素処理を施すことを特徴とするものである。
【0012】
前記界面活性剤含有水は、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が1.0質量%以下であって、前記界面活性剤処理が24時間以下であることが好ましい。
【0013】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、Hydrophilic Lipophilic Balance値(HLB値)が12~18のものが好適に用いることができる。
【0014】
前記分解酵素として、プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの少なくとも一種の酵素活性を有するものを用いることが好ましい。
【0015】
前記青果物としての果実類又は果菜類を用いるとき、前記界面活性剤処理を施した前記果実類又は前記果菜類を、プロトペクチナーゼの活性有する分解酵素を含有し且つポリガラクツロナーゼ活性が300Unit/g以下の酵素含有液に浸漬することにより、果実類又は果菜類の剥皮を簡単にできる
【0016】
前記青果物としての根菜類を用いるとき、前記界面活性剤処理を施した前記根菜類を、セルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼの活性を有する分解酵素を含有し且つセルラーゼ活性が300Unit/g以下及び/又はヘミセルラーゼ活性が500Unit/g以下の酵素含有液に浸漬することにより、根菜類の剥皮を簡単にできる。
【0017】
前記分解酵素として、プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼのいずれか二種又は三種の酵素活性を併有するものを用いることが好ましい。
【0018】
前記酵素処理では、前記界面活性剤処理を施した前記青果物を、温度が40℃以下で且つ前記酵素含有液に少なくとも30分浸漬することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の青果物の剥皮方法によれば、青果物に重曹等のアルカリ成分を用いたアルカリ処理や青果物に損傷を与える加熱処理を施すことがなく、剥皮処理を終了した剥皮青果物に簡単な洗浄を施すことで足り、簡単な設備で且つ過剰な洗浄で剥皮青果物の風味成分が洗い流されることを防止でき、良好な風味で且つ美麗な外観の剥皮青果物を得ることができる。しかも、この剥皮方法では、界面活性剤処理と酵素処理とを各々独立して行っているので、界面活性剤含有水及び酵素含有液の各々を再利用でき、剥皮コストを抑制できて安価な剥皮青果物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0021】
本発明の対象は外皮の剥離を要する青果物である。具体的には、果実類としてブドウ、モモ、ネクタリン、ナシ、ビワ、スモモ、セイヨウスモモ、サクランボ、杏、梅、ブルーベリー、キウイ、パイナップル、果菜類としてトマト、キュウリ、カボチャ、スイカ、根菜類としてショウガ、ニンジン、里芋、ゴボウ、レンコン、大根、カブ、ジャガイモ、サツマイモ、その他として栗(渋皮の剥離)、クルミ(甘皮の剥離)、タケノコを挙げることができる。
【0022】
特に、ブドウ、ナシ、モモ、ネクタリンが好ましい。ブドウとしては、表面がワックス層で覆われた外皮を有し、この外皮を剥離した果肉が食されるもの、例えば巨峰、ピオーネ、藤稔、ナガノパープル、シャインマスカット、ナイアガラ等を挙げることができる。これらのブドウのうち、外皮を剥離して粒状の果肉状態でケーキ等の菓子や缶詰に用いられる場合、種無しのものが好ましい。ナシとしては、幸水、二十世紀、菊水、真寿、なつひめ、秀麗、あきばえ、あきづき、なつしずく、端秋、あきあかり、豊水等の日本梨、オーロラ、マルゲットマリーラ等の西洋梨、ヤーリー等の中国梨を挙げることができる。モモとしては、表面に毛茸が生えているもの、例えばあかつき、なつっこ、白桃(川中島白桃、だて白桃を含む)、白鳳(川中島白鳳を含む)、黄金桃、もちづき、ワッサー等を挙げることができる。表面がワックス層で覆われたネクタリンとして、ハルコ、サマークリスタル、メイグランド等のネクタリンを挙げることができる。
【0023】
これらの青果物のうち、通常種や芯を取り出して食するものは、種や芯を取り出すことなく本発明の剥皮処理を施すことが好ましい。種や芯を取り出した青果物に本発明の剥皮処理を施すと、切断した部分から青果物の本体が損傷されて得られた剥皮青果物の本来形状が損なわれるおそれがあるからである。
尚、ブドウに本発明の剥皮処理を施す場合、ブドウを房から取り外すことなく本発明の剥皮処理を施すことができる。
【0024】
このような青果物に対し、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有水に浸漬する界面活性剤処理を施す。このポリグリセリン脂肪酸エステルしては、ジグリセリン脂肪酸エステルを含む。これらポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えばジグリセリンカプリレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンミリスチレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンオレート、ジグリセリンベヘネート、ジグリセリンカプレート、ポリグルセリンカプリレート、ポリグリセリンラウレート、ポリグリセリンミリスチレート、ポリグリセリンステアレート、ポリグリセリンオレート、ポリグリセリンベヘネート、ポリグリセリンカプレート、ポリグリセリンポリリシノレート等が挙げられる。具体的には、ポエム(登録商標)DL-100、ポエム(登録商標)DM-100、ポエム(登録商標)DS-100A、ポエム(登録商標)DO-100V、リケマールS-100、リケマールB-100、リケマールL-71-D、リケマールO-71-D(E)、ポエム(登録商標)J-4081V、ポエム(登録商標)J-0021、ポエム(登録商標)J-0081HV、ポエム(登録商標)J-0381V、ポエム(登録商標)PR-100(いずれも商品名:理研ビタミン株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルCE-19D、リョートー(登録商標)ポリグリエステルL-10D、リョートー(登録商標)ポリグリエステルL-7D、リョートー(登録商標)ポリグリエステルSWA-10D(いずれも商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、サンソフト(登録商標)Q-14S、サンソフト(登録商標)Q-12S(いずれも商品名:太陽化学株式会社製)等が挙げられる。
【0025】
好ましいポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、Hydrophilic Lipophilic Balance値(HLB値)が12~18のものである。このHLB値は、HLB=20(1-S/N)の式で計算される値である。式中、Sはエステルのけん化値であり、Nは脂肪酸中和値である。
【0026】
HLB値が12~18のポリグリセリン脂肪酸エステルは、具体的にリョートー(登録商標)ポリグリエステルSWA―15D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルSWA―10D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルSFS―10DB(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルO―15D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルM―10D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルM―7D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルCE―19D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルL―10D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、リョートー(登録商標)ポリグリエステルL―7D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、SYグリスターMSW-7S(商品名:阪本薬品工業株式会社製)、SYグリスターMO-7S(商品名:阪本薬品工業株式会社製)、SYグリスターMO-5S(商品名:阪本薬品工業株式会社製)、SYグリスターMCA-750(商品名:阪本薬品工業株式会社製)、SYグリスターML-750(商品名:阪本薬品工業株式会社製)、SYグリスターML-500(商品名:阪本薬品工業株式会社製)、SYグリスターMM-750(商品名:阪本薬品工業株式会社製)、ポエム(登録商標)J-0021(商品名:理研ビタミン株式会社製)、ポエム(登録商標)J-0081HV(商品名:理研ビタミン株式会社製)、NIKKOL Hexaglyn 1-L(商品名:日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL DECAGLYN 1-L(商品名:日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL DECAGLYN 1-M(商品名:日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL DECAGLYN 1-OV(商品名:日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL DECAGLYN 1-SV(商品名:日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL DECAGLYN 1-50SV(商品名:日光ケミカルズ株式会社製)、サンソフト(登録商標)Q-12S(商品名:太陽化学株式会社製)、サンソフト(登録商標)Q-14S(商品名:太陽化学株式会社製)等を挙げることができる。
【0027】
これらポリグリセリン脂肪酸エステルのうちでは、ポリグリセリンラウレートであって、HLB値が17であるリョートー(登録商標)ポリグリエステルL-7D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)、HLB値が15.5であるサンソフトQ-12S(商品名:太陽化学株式会社製)、或いはポリグリセリンモノミリスチレートであって、HLB値が14.5であるサンソフトQ-14S(商品名:太陽化学株式会社製)が特に好ましい。
【0028】
このようなポリグリセリン脂肪酸エステル(以下、PGEと称する。)を含有する界面活性剤含有水に、上述した青果物を浸漬する界面活性剤処理を施す。この界面活性剤含有水には、PGEを0.05質量%以上含有している。界面活性剤含有水中のPGEの含有量が0.05質量%未満の場合、青果物の剥皮速度が遅く、得られた剥皮青果物の剥皮程度も不十分である。PGEの含有量の上限は1.0質量%程度とすることが好ましい。PGEの含有量が1.0質量%を超える界面活性剤含有水を用いても、青果物の剥皮速度及び剥皮程度はほぼ飽和状態となっている。青果物の剥皮速度及び剥皮程度の観点から、界面活性剤含有水中のPGEの好ましい含有量は、0.1~1.0質量%である。
【0029】
PGEを含有する界面活性剤含有水の温度は20℃以下に保持する。温度が20℃を超える界面活性剤含有水で処理すると、得られる剥皮青果物が腐敗し易くなる。剥皮青果物に付着した雑菌の増殖によるものと推察される。界面活性剤含有水の温度を0℃未満とすると、界面活性剤含有水が凍り易くなる傾向があり、0℃以上とすることが好ましい。特に、界面活性剤含有水の温度を4~15℃とすることが好ましい。
【0030】
このような界面活性剤含有水に青果物を少なくとも15時間浸漬する。浸漬時間が15時間未満の場合、得られた剥皮青果物の剥皮程度が不十分となり、残存外皮の脱離作業が困難となる。この浸漬時間を、24時間を超える長時間としても、後述する酵素処理での剥皮程度は略飽和状態となっており、酵素処理が終了した青果物に残存する残存外皮の脱離作業の容易性も略同一であるので、浸漬時間の上限を24時間とすることが、剥皮処理の作業手順の観点からも好ましい。
【0031】
PGE含有の界面活性剤含有水に浸漬して界面活性剤処理を施した青果物(以下、界面活性剤処理青果物という)を、界面活性剤含有水から分離した後、加熱処理することなく外皮を構成するペクチン、セルロース及びヘミセルロースの分解酵素の少なくとも一種を含有する酵素含有液に浸漬し、界面活性剤処理青果物の本体から外皮を剥離する酵素処理を施す。この酵素処理により、外皮を界面活性剤処理青果物の本体から簡単に剥離できる。分解酵素が外皮を分解しつつ、外皮直下の本体の一部も分解することにより、外皮を本体から簡単に剥離できるものと推察される。
尚、分離したPGE含有の界面活性剤含有水は、新たな青果物の界面活性剤処理に再利用できる。
【0032】
ここで、界面活性剤処理青果物に、熱水に浸漬する加熱処理を施すと、後述する酵素処理を施して最終的に得られた剥皮青果物の一部に外皮の内壁膜の一部が残留したり、剥皮青果物の一部に褐変が生じたりすることある。界面活性剤処理により生じた界面活性剤処理青果物の外皮の微細な傷が急激に拡大することにより内壁膜が残留したり、急激な加熱により剥皮青果物に褐変が生じたりしたものと考えられる。
【0033】
このようにして界面活性剤処理青果物には、その外皮を構成するペクチン、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種の分解酵素を含有する酵素含有液に浸漬し、界面活性剤処理青果物の本体から外皮を剥離する酵素処理を施す。
【0034】
この酵素処理で用いる、界面活性剤処理青果物の外皮を構成するペクチン、セルロース及びヘミセルロースの分解酵素のうち、ペクチンの分解酵素としては、プロトペクチンからの水溶性ペクチン遊離を触媒するプロトペクチナーゼ、ペクチンに含まれるガラクツロン酸のメチルエステルを加水分解する反応を触媒するペクチンエステラーゼ、ペクチンに含まれるポリガラクツロン酸を加水分解するポリガラクツロナーゼ等を挙げることができる。
ペクチナーゼは、高等植物の細胞壁に含まれているペクチンのポリガラクツロナンを分解する分解酵素群の総称であり、主なものとして次の三種の分解酵素が挙げられる。ポリガラクツロナーゼはペクチンに含まれるポリガラクツロン酸を加水分解する。ペクチンリアーゼはペクチンのホモガラクツロナンをβ-脱離により分解する。ペクチンエステラーゼはペクチンに含まれるガラクロツロン酸のメチルエステルを加水分解する。
一方、プロトペクチナーゼは、プロトペクチンからの水溶性ペクチンの遊離を触媒する酵素の総称であり、上述したポリガラクツロナーゼやペクチンリアーゼ以外にも、アラビナーゼ等のヘミセルラーゼに分類される酵素がプロトペクチナーゼ活性を持つことも知られている。
【0035】
セルロースの分解酵素としては、セルラーゼを挙げることができる。セルラーゼは、一種類の分解酵素ではなく、数種類の分解酵素の総称であり、これらの分解酵素群が協調してセルロースを分解する。天然セルロースがグルコースにまで分解される機構には、次の三種類のセルラーゼが関与していると考えられている。Cx-酵素(CMCase)非結晶構造のセルロースにランダムに作用してポリマーを加水分解し、セロデキストリン、セロビオース、グルコースを生成する)、C1-酵素(アビセラーゼ)(結晶構造のセルロースに作用して非還元末端からセロビオース単位で切断する作用)、β-グルコシダーゼ(セロビオースをグルコースに分解)等が挙げられる。
【0036】
ヘミセルロースの分解酵素としては、ヘミセルラーゼを挙げることができる。ヘミセルラーゼは、一種類の分解酵素ではなく、数種類の分解酵素の総称である。ヘミセルロースとは、植物組織からアルカリ抽出される多糖類の総称であり、主な多糖類として、キシラン、アラビノキシラン、キシログルカン及びグルコマンナンがある。これらの多糖類を加水分解する酵素を一般的にヘミセルラーゼと称し、代表的な分解酵素名としてはキシラナーゼ、ガラクタナーゼが挙げられる。
【0037】
本発明では、分解酵素として、外皮を構成するペクチン、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種の分解酵素、すなわちプロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼのいずれか一種の酵素活性を有するものを単独で用いてもよいが、ペクチン、セルロース及びヘミセルロースの二種又は三種の分解酵素、すなわちプロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの二種又は三種の酵素活性を併有するものが好ましい。この「併用」とは、二種類又は三種類の分解酵素を混合して使用すること、或いはプロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの二種又は三種の酵素活性を含む複合酵素を使用することを意味する。
尚、本発明で用いる分解酵素は、プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの少なくとも一種の酵素活性を有する分解酵素が含まれていればよく、他の酵素活性を有する分解酵素が含まれていてもよい。
【0038】
プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼのうちいずれか二種の酵素活性を含む複合酵素としては、二種の酵素活性のうち一種を主たる酵素活性とし、他の一種をその他の酵素活性とする複合酵素が好ましい。具体的には、協和化成株式会社製のセルラーゼTP5-協和(商品名)[主たる酵素活性:セルラーゼ、その他の酵素活性:ヘミセルラーゼ]、エイチビィアイ株式会社製のセルロシン(登録商標)TP25(商品名)[主たる酵素活性:ヘミセルラーゼに属するキシラナーゼ、その他の酵素活性:セルラーゼ]、新日本化学工業株式会社製のスミチーム(登録商標)C(商品名)[主たる酵素活性:セルラーゼ、その他の酵素活性:ヘミセルラーゼ]、三菱ケミカルフーズ株式会社製のスクラーゼ(登録商標)A(商品名)[主たる酵素活性:ペクチナーゼ、その他の酵素活性:ヘミセルラーゼに属するキシラナーゼ]を挙げることができる。
尚、セルラーゼTP5-協和には、他の酵素活性を有する酵素としてエステラーゼが含まれており、セルロシン(登録商標)TP25にも、他の酵素活性を有する酵素としてβ-1,3-グルカナーゼが含まれているが問題なく青果物の外皮を剥皮できる。
【0039】
また、プロトペクチナーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの三種の酵素活性を含む複合酵素としては、三種の酵素活性のうち一種を主たる酵素活性とし、他の二種をその他の酵素活性とする複合酵素が好ましい。具体的には、協和化成株式会社製のアクレモセルラーゼKM(商品名)[主たる酵素活性:セルラーゼ、その他の酵素活性:ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ]、新日本化学工業株式会社製のスミチーム(登録商標)SPC(商品名)[主たる酵素活性:ペクチナーゼ、その他の酵素活性:セルラーゼ、ヘミセルラーゼ]、新日本化学工業株式会社製のスミチーム(登録商標)AC(商品名)[主たる酵素活性:セルラーゼ、その他の酵素活性:ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ]、IGAバイオリサーチ株式会社製のプロトペクチナーゼIGA-C(商品名)[主たる酵素活性:プロトペクチナーゼ、その他の酵素活性:セルラーゼ、ヘミセルラーゼ]を挙げることができる。
尚、アクレモセルラーゼKM(商品名)は、アクレモニウム属菌が産生したアクレモニウムセルラーゼを含有する酵素である。
【0040】
上述した酵素を用いた酵素処理において、青果物としての果実類又は果菜類を剥皮するとき、上述した界面活性剤処理を施した果実類又は果菜類を、プロトペクチナーゼの活性を有する分解酵素を含有し且つポリガラクツロナーゼ活性が300Unit/g以下の酵素含有液に浸漬することが好ましい。ポリガラクツロナーゼ活性が300Unit/gを超える酵素含有液に果実類又は果菜類を浸漬すると、果実類又は果菜類の本体まで分解され易くなる傾向にある。ポリガラクツロナーゼ活性の下限は1Unit/g程度とすることが、果実類又は果菜類の剥皮程度を良好に保つことができ、且つ酵素処理を終了した果実類又は果菜類に付着した外皮の脱離を容易でき好ましい。
【0041】
また、青果物としての根菜類を剥皮するとき、上述した界面活性剤処理を施した根菜類を、セルラーゼ及び/又はヘミセルラーゼの活性を有する分解酵素を含有し且つセルラーゼ活性が300Unit/g以下及び/又はヘミセルラーゼ活性が500Unit/g以下の酵素含有液に浸漬することが好ましい。セルラーゼ活性が300Unit/gを超え及び/又はヘミセルラーゼ活性が500Unit/gを超える酵素含有液に根菜類を浸漬すると、根菜類の本体まで分解され易くなる傾向にある。セルラーゼ活性の下限は0.2Unit/g程度及び/又はヘミセルラーゼ活性の下限は10Unit/g程度とすることが、根菜類の剥皮程度を良好に保つことができ、且つ酵素処理を終了した根菜類に付着した外皮の脱離を容易にでき好ましい。
【0042】
このような酵素含有液を温度40℃以下に保持しつつ、界面活性剤処理青果物を少なくとも30分浸漬する。酵素含有液の温度が40℃を超えた場合、得られる剥皮青果物の品質の劣化、例えば軟化や色調不良が発生し易くなる。温度の下限は5℃とすることが好ましく、浸漬時間の上限を24時間程度とすることが好ましい。
【0043】
この酵素処理を終了した酵素含有液から剥皮青果物を分離する。分離した剥皮青果物には、外皮が付着しているが、シャワー等の流水処理やエアーを吹き付けるエアー処理、ラバーやブラシで軽く擦る等の簡単な処理で付着している外皮を脱離できる。外皮が脱離された剥皮青果物は、その風味を損ねない程度に簡単な流水洗浄を施すことにより、剥皮青果物に付着している酵素をある程度除去できる。この状態の剥皮青果物は直ちに食することができ、必要に応じて種や芯を取り出してもよい。
【0044】
但し、流水洗浄で酵素をある程度除去した剥皮青果物の表面には、微量の酵素が付着しており、放置すると剥皮青果物の分解が進行して褐変することがある。このため、剥皮青果物を保管する場合、表面に付着した酵素の失活処理を施すことが好ましい。酵素失活処理は、剥皮青果物を80℃以上に加熱処理することで行うことができる。酵素失活処理において、加熱による剥皮青果物の異変を防止すべく加熱時間を3分以下の短時間とすることが好ましい。
尚、剥皮青果物のうち、ブドウ果肉のようにシロップ漬等の二次加工品とする場合、剥皮青果物を浸漬したシロップ液等に施す加熱殺菌処理において酵素失活処理を兼ねてもよい。
【0045】
青果物と分離し回収したPGE含有の界面活性剤含有水は、新たな青果物の界面活性剤処理に再利用できる。また、剥皮青果物と分離し回収した酵素含有液も、PGEの混入量は微量であるから、新たな界面活性剤処理青果物の酵素処理に再利用できる。このように界面活性剤含有水及び酵素含有液を再利用しても、剥皮青果物の剥皮程度は十分に満足できるものである。但し、再利用は、雑菌の増加程度及び作業性の観点から5回程度とすることが好ましい。
【0046】
このように本発明の青果物の剥皮方法によれば、弱アルカリ水溶液処理を採用しなかったので、青果物の風味を十分に有し且つ外観が美麗な剥皮青果物を安全に得ることができる。しかも、PGE含有の界面活性剤含有水及び酵素含有液を再利用できることから工業的に有利である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を適用する実施例と本発明適用外の比較例とを記載する。
【0048】
(実施例1)
PGE(ポリグリセリン脂肪酸エステル)としてのサンソフト(登録商標)Q-14S(商品名:太陽化学株式会社製)を60℃程度の温水で一旦溶解し、規定濃度まで水で希釈して界面活性剤含有水とした。界面活性剤含有水中のPGEの濃度は0.3質量%である。この界面活性剤含有水に果実としてのブドウ(巨峰)を浸漬し、2~18℃に保持されている冷蔵庫内に一晩(概ね18時間)載置して界面活性剤処理を施した。
【0049】
界面活性剤含有水から分離したブドウを、直ちに酵素含有液(使用酵素:協和化成株式会社製のアクレモセルラーゼKM(商品名))に浸漬し、液温を25℃に保持しつつ2時間静置して酵素処理を施した。この酵素含有液のポリガラクツロナーゼ活性は17.6Unit/gである。酵素処理が終了して酵素含有液から分離したブドウは、外皮に大きな開裂が生じているものと、外観上、外皮に開裂が生じていないものとが混在していた。このようなブドウは流水中で外皮を脱離する流水洗浄を施して、粒状のブドウ果肉を得た。流水洗浄を施しても外観上外皮の開裂がないブドウについては、外皮をつまむ程度の作業により簡単に外皮の脱離が可能であった。得られた粒状のブドウ果肉は、ブドウ特有の風味、食感を有する美麗な外観のものであった。
【0050】
(実施例2)
実施例1の界面活性剤含有水のPGE濃度、温度、浸漬時間、及び酵素処理の酵素含有液のポリガラクツロナーゼ活性、温度、処理時間を下記表1に示すように変更した他は、実施例1と同様に界面活性剤処理及び酵素処理を施して、ブドウ(巨峰)に外皮の剥離処理を実施した。酵素処理後の脱離処理及び果肉外観の評価も表1に併せて示す。
【0051】
【0052】
(実施例3)
実施例1で分離した界面活性剤含有水と酵素含有液とを再利用して、実施例1と同様に界面活性剤処理及び酵素処理を施したところ、実施例1と同様に外皮の脱離が容易であって、ブドウ特有の風味、食感を有する美麗な外観の粒状のブドウ果肉を得ることができた。この界面活性剤含有水と酵素含有液との再利用は4回できた。
【0053】
(比較例1)
実施例1で用いた界面活性剤含有水と酵素含有液とを混合して混合液を得た。この混合液を26℃に保持しつつ、実施例1と同様なブドウを浸漬して2時間保持して第1回目の剥離処理を施した。ブドウ果肉に残存する外皮の脱離はやや困難であり、得られたブドウ果肉の表面が凹凸面となっていた。また、得られたブドウ果肉の一部表面に、外皮直下の色素が残存しているものがあったが、実用に供し得るものであった。
次いで、粒状のブドウ果肉と分離し回収した回収混合液に、新たなブドウを浸漬して同様に第2回目の剥離処理を施したところ、第1回目と同様にブドウ果肉に残存する外皮の脱離がやや困難であり、得られたブドウ果肉の表面が凹凸面となっていた。また、得られたブドウ果肉の表面に外皮直下の色素が広く残存しているものがあった。
更に、粒状のブドウ果肉と分離し回収した回収混合液に、新たなブドウを浸漬して同様に第3回目の剥離処理を施したところ、ブドウ果肉に残存する外皮の脱離が困難なものが発生したので、以後の回収混合液の再利用を中止した。
【0054】
(実施例4)
実施例1の界面活性剤処理のPGEの種類、濃度、温度、浸漬時間、及酵素処理の酵素の種類、酵素含有液の活性、温度処理時間を下記表2に示すように変更した他は、実施例1と同様に界面活性剤処理及び酵素処理を施して、ブドウ(巨峰)に外皮の剥離処理を実施した。酵素処理後の脱離処理及び果肉外観の評価も表2に併せて示す。尚、評価は表1の場合と同様であり、表2の酵素処理で用いた酵素は下記表3に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
表2から明らかなように界面活性剤の種類及び酵素の種類を変更してもブドウ(巨峰)に外皮の剥皮は満足できるものであった。
【0058】
(比較例2)
水酸化ナトリウムを水に添加して0.5質量%に調整した水酸化ナトリウム溶液を沸騰し、ブドウ(巨峰)を添加して15秒間加熱処理した後、水酸化ナトリウム溶液から取り出したブドウを流水洗浄して水酸化ナトリウム成分を除去した。このような水酸化ナトリウム処理を施した多くのブドウの外皮に裂傷が確認された。次いで、水酸化ナトリウム処理を施したブドウを、酵素含有量0.1質量%の酵素含有液(使用酵素:協和化成株式会社製のアクレモセルラーゼKM(商品名))に浸漬し、2時間静置する酵素処理を施した。この酵素含有液のポリガラクツロナーゼ活性は17.6Unit/gである。その後、酵素処理を施したブドウ果実に流水洗浄を施して、外皮を脱離してブドウ果肉を得た。得られたブドウ果肉は、水酸化ナトリウム処理によりできた裂傷箇所からの果肉崩壊が顕著であり、ブドウ本来の球形を有していないものが多く、且つブドウ特有の香りの減少や食感の低下があった。
【0059】
(比較例3)
PGEとしてのポエム(登録商標)J-0081HV(商品名:理研ビタミン株式会社製)を加温した水に溶解し、PGEの濃度が2.0質量%の水溶液に調整した。この水溶液にブドウ果実(巨峰)を浸漬し、50℃程度に保持し70分浸漬する界面活性剤処理を施した。次いで、界面活性剤処理を施したブドウ果実を、重曹(炭酸水素ナトリウム)0.1質量%濃度の沸騰水溶液中に90秒間浸漬する重曹処理を施した。重曹処理を施したブドウを流水中で粗熱を取った。重曹処理を施したブドウは、外皮に開裂が生じているものと、外観上、外皮に開裂が生じていないものとが混在していた。外皮に開裂が生じているブドウは流水洗浄により外皮の脱離ができ、ブドウ果肉を得ることができた。得られたブドウ果肉はブドウ本来の球形を有していたが、ブドウ特有の香りの減少や食感の低下があった。一方、外皮に開裂が生じてないブドウ果実は、手作業で外皮の脱離を行ったが、外皮と果肉の離れ(実離れ)が悪い部分があり、簡単に剥皮できなかった。
【0060】
(比較例4)
実施例1において、界面活性剤含有水から取り出したブドウを、沸騰浴中に30秒間浸漬して裂傷拡張処理を施してから、酵素処理を施した他は実施例1と同様にして粒状のブドウ果肉を得た。得られたブドウ果肉の一部に、外皮の内壁膜の一部が残留していた。
【0061】
(実施例5)
下記表4に示す果実類について、表4に示すPGE含有液の界面活性剤処理及び酵素処理を施した。その際に、界面活性剤処理の温度を4℃とし、酵素処理の酵素として協和化成株式会社製のアクレモセルラーゼKM(商品名)を用いた。結果を表4に併せて示す。
尚、表4において、記号及び略語は下記の通りである。
「評価」:表1の場合と同様
「濃度(%)」:「濃度(質量%)」
「活性」:「酵素含有液のポリガラクツロナーゼ活性」
「PGE種類」:
Q-14S: サンソフト(登録商標)Q-14S(商品名)
太陽化学株式会社製
L-7D: リョートー(登録商標)ポリグリエステルL―7D(商品名)
三菱ケミカルフーズ株式会社製
【0062】
【0063】
表4から明らかなように、本発明に係る界面活性剤処理と酵素処理とにより多種類の果実類を安全に且つ簡単に剥皮でき、美麗な外観の剥皮果実類を得ることができる。
【0064】
(実施例6)
下記表5に示す果菜類について、表5に示すPGE含有液の界面活性剤処理及び酵素処理を施した。その結果を表5に併せて示す。表5において、界面活性剤処理で使用したPGEはリョートー(登録商標)ポリグリエステルL―7D(商品名:三菱ケミカルフーズ株式会社製)であり、酵素処理で用いた酵素は協和化成株式会社製のアクレモセルラーゼKM(商品名)であって、酵素含有液の活性はポリガラクツロナーゼ活性である。また、評価は表1の場合と同様である。
【0065】
【0066】
表5から明らかなように、本発明に係る界面活性剤処理と酵素処理とにより果菜類を安全に且つ簡単に剥皮でき、美麗な外観の剥皮果菜類を得ることができる。
【0067】
(実施例6)
下記表6に示す根菜類について、表6に示すPGE含有液の界面活性剤処理及び酵素処理を施した。その結果を表6に併せて示す。表6において、界面活性剤処理の温度は4℃であり、「濃度(%)」は「濃度(質量%)」である。また、評価は表1の場合と同様である。
【0068】
【0069】
表6から明らかなように、本発明に係る界面活性剤処理と酵素処理とにより根菜類を安全に且つ簡単に剥皮でき、美麗な外観の剥皮根菜類を得ることができる。
【0070】
本発明の青果物の剥皮方法で得られた剥皮青果物は、菓子等の材料や缶詰等の材料、或いは煮物の材料に用いることができる。