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特許7417248多彩模様形成用の塗料、多彩模様形成用の塗料とエナメル塗料のセット品、多彩模様形成用の塗料の成膜方法、塗装物品および多彩模様形成用の塗料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】多彩模様形成用の塗料、多彩模様形成用の塗料とエナメル塗料のセット品、多彩模様形成用の塗料の成膜方法、塗装物品および多彩模様形成用の塗料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20240111BHJP
   C09D 7/60 20180101ALI20240111BHJP
   C09D 5/29 20060101ALI20240111BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20240111BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/60
C09D5/29
C09D7/40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019204131
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021075643
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】592084071
【氏名又は名称】大橋化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129104
【弁理士】
【氏名又は名称】舩曵 崇章
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】高山 啓勝
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-086942(JP,A)
【文献】特開2008-012492(JP,A)
【文献】特開2008-142691(JP,A)
【文献】特開2007-182048(JP,A)
【文献】特開2001-240807(JP,A)
【文献】特開2001-347217(JP,A)
【文献】特開平09-003368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目開き寸法100μmの篩を通過するミクロ着色フレークを~20重量%と、
目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しない複数色のマクロ着色フレークを1~15重量%と、を含み、
前記ミクロ着色フレークおよび前記マクロ着色フレークが、合成樹脂と顔料を含んでおり、
複数色の前記マクロ着色フレークは、
目開き寸法600μmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しない複数色の小径着色フレークと、
目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法600μmの篩を通過しない複数色の大径着色フレークと、を含んでいる、
多彩模様形成用の塗料。
【請求項2】
ミクロ着色フレークおよびマクロ着色フレークが、アクリルシリコーン系樹脂と顔料を含んでいる、
請求項1に記載の多彩模様形成用の塗料。
【請求項3】
外壁などの被塗装面の塗り替え用に用いられる、
請求項1または請求項2に記載の多彩模様形成用の塗料。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の多彩模様形成用の塗料と、エナメル塗料のセット品であって、
多彩模様形成用の塗料に含まれるミクロ着色フレークとクリヤー塗料を固形分比率100:39で配合した色差測定用塗料の塗膜と、エナメル塗料の塗膜と、の色差ΔEが5.0以内である、
多彩模様形成用の塗料とエナメル塗料のセット品。
【請求項5】
外壁などの被塗装面の表面にエナメル塗料を塗布して成膜する、エナメル塗膜成膜工程と、
このエナメル塗膜成膜工程で成膜されたエナメル塗膜の表面に、請求項1~のいずれか1項に記載の多彩模様形成用の塗料を塗布して成膜する、多彩模様塗膜成膜工程と、
を備えた、多彩模様形成用の塗料の成膜方法。
【請求項6】
多彩模様塗膜成膜工程では、
多彩模様形成用の塗料に含まれるミクロ着色フレークとクリヤー塗料を固形分比率100:39で配合した色差測定用塗料の塗膜と、エナメル塗膜成膜工程で用いるエナメル塗料の塗膜と、の色差ΔEが5.0以内である、多彩模様形成用の塗料を用いる、
請求項に記載の多彩模様形成用の塗料の成膜方法。
【請求項7】
エナメル塗膜の表面に、請求項1~のいずれか1項に記載の多彩模様形成用の塗料によって多彩模様塗膜が成膜されてなる、
塗装物品。
【請求項8】
エマルション樹脂溶液と、
目開き寸法100μmの篩を通過するミクロ着色フレークと、
目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しない複数色のマクロ着色フレークと、を混合して塗料化する塗料化工程を備えており、
前記塗料化工程では、
前記ミクロ着色フレークを塗料中に~20重量%となるように配合するとともに、前記マクロ着色フレークを塗料中に1~15重量%となるように配合し、
前記ミクロ着色フレークおよび前記マクロ着色フレークが、アクリルシリコーン系樹脂と顔料を含んでおり、
前記マクロ着色フレークとして、小径着色フレークと、中径着色フレークと、大径着色フレークと、を用いる、多彩模様形成用の塗料の製造方法であって、
前記小径着色フレークは、
アクリルシリコーン系樹脂のエマルジョンおよび着色顔料を含む液体原料を、基材に塗布して乾燥させた後、基材から剥離して粉砕して得られた着色フレークを、目開き寸法600μmの篩にかけ、これを通過したものをさらに目開き寸法212μm の篩にかけてこれを通過しない粉体として得られたものであり、
前記中径着色フレークは、
前記着色フレークを、目開き寸法1.4mmの篩にかけ、これを通過したものをさらに目開き寸法212μmの篩にかけてこれを通過しない粉体として得られたものであり、
前記大径着色フレークは、
前記着色フレークを、目開き寸法2.8mmの篩にかけ、これを通過したものをさらに目開き寸法600μmの篩にかけてこれを通過しない粉体として得られたものである、
多彩模様形成用の塗料の製造方法。
【請求項9】
塗料化工程では、
小径着色フレークを塗料中に1~15重量%、
中径着色フレークを塗料中に0.1~10重量%、
大径着色フレークを塗料中に0.1~5重量%、となるようにそれぞれ配合する、
請求項に記載の多彩模様形成用の塗料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多彩模様形成用の塗料、多彩模様形成用の塗料とエナメル塗料のセット品、多彩模様形成用の塗料の成膜方法、塗装物品および多彩模様形成用の塗料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サイディングボード外壁(サンディング外壁とも称される)の仕上げ材として、従来から用いられてきたエナメル塗料ではなく、高級意匠の仕上げ材や下地の意匠を活かす仕上げ材が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、建築外装材を補修する方法として「意匠性を有するサイディングボードの旧塗膜上の汚染物質を除去した後、下塗塗膜(クリヤー塗膜)を形成し、この下塗塗膜の表面に上塗塗膜(クリヤー塗膜)を形成する建築外装材の補修方法」が開示されおり、これによって「既存の多彩模様等の高い意匠性を保ったまま建築外装材の塗膜の補修を行うことが可能」とある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6284291号公報(請求項1、請求項2、発明の効果)
【文献】特開2006‐326494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された方法では、下塗塗膜および上塗塗膜がクリヤー塗膜であるため、旧塗膜上の汚染物質が残存しないよう除去工程に充分時間をかける必要があった。汚染物質が残存していた場合には、補修後であっても汚れが目立っていた。また、下地のクラックなどは隠すことができなかった。さらに、クリヤー塗膜を紫外線等が透過するため、下地が劣化しやすいという課題もあった。
【0006】
この点に関し、サイディング外壁のクラックや汚れを隠蔽し、紫外線等の下地への透過を防止するために、エナメル塗料を用いることが考えられる。しかしながら、仕上がり外観は単一色となってしまい、下地のパターンは活かせても模様を活かすことができず、意匠性が低下していた。
【0007】
そこで、エナメル塗料などの上に、意匠性に優れた多彩模様塗料を塗布することが考えられる。多彩模様塗料は住宅などの外壁に用いられることが多い塗料で、JIS K‐5667に「多彩模様塗料は、液状又はゲル状の2色以上の色の粒が懸濁したもので、1回の塗装で散らし模様ができる塗料である」(JIS K 5567‐2003 1.適用範囲、備考)と記載されている。
【0008】
上記多彩模様塗料を施工する方法として、吹き付け塗装とローラー塗装がある。なかでも吹き付け塗装は、施工性が良く均一な色柄を得ることができる(塗装ムラが少ない)。しかしながら、吹き付け塗装では塗料の飛散問題があるため、特に住宅密集地では、ローラー塗装が行われることが多い。
【0009】
しかしながら、多彩模様塗料のローラー塗装は、施工性が悪く、塗装面に対して均一な色柄を得ることは非常に困難であった(塗装ムラの問題)。そのため、砂骨ローラーなどでの塗布直後に、ヘラやコテで引き押さえを行って均一に仕上げるという方法(上記特許文献2)があるものの、引き押さえの工程が増えてしまい施工コストがアップしていた。
【0010】
また、ローラー塗装では、多彩模様塗料をローラーに含ませる際、液状又はゲル状の色彩粒子がローラー表面に付着しにくいという問題があった。そのため、網目状の穴あきローラー(砂骨ローラーや海綿ローラー等の多孔質状ローラー)を用いて多彩模様塗料を含ませることが行われていた。しかし、砂骨ローラーや海綿ローラー等は、一般的に用いられているウールローラーや刷毛よりも高価であり、施工コストがアップするという課題もあった。
【0011】
本発明は、上述の事柄に留意してなされたものであって、安価なウールローラーや刷毛を用いて塗布することが容易で塗装ムラが少ない(目立ちにくい)多彩模様形成用の塗料、多彩模様形成用の塗料の成膜方法などを提供することを目的とする。特に、サイディングボード外壁の仕上げや補修(塗り替え)に最適な多彩模様形成用の塗料、多彩模様形成用の塗料の成膜方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、目開き寸法200μmの篩を通過するミクロ着色フレークを2~20重量%と、目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しない複数色のマクロ着色フレークと、を含む、多彩模様形成用の塗料とした。ミクロ着色フレークは、目開き寸法100μmの篩を通過するものを用いることが好ましい。
ここで、本発明の塗料を「多彩模様形成用の塗料」としたのは、本発明の塗料が「液状又はゲル状の2色以上の色の粒が懸濁したもの」には該当せず、厳密には、前述したJIS K‐5667で定義される「多彩模様塗料」の範疇には属さないと考えられることによる。
【0013】
この多彩模様形成用の塗料は、安価なウールローラーや刷毛を用いて塗布することが容易であり、しかも模様となる着色フレークの片寄りによる塗装ムラが少なく(目立ちにくく)綺麗に仕上がる。
従来の多彩模様塗料を用いた場合、塗装後に仕上がった塗膜は、模様となる着色粒子同士に間隔があり、着色粒子の少ない部分では下地色を覆い隠さず、下地色も多色感の模様の一部として利用していた。そのため、着色粒子と下地色の色調差が大きくなった場合、仕上がった塗膜の着色粒子同士の間隔が不均一になると塗装ムラとなっていた。
しかし、上記多彩模様形成用の塗料は、ミクロ着色フレークによって下地をほぼ覆い隠すことで、色調に統一感を持たせることができ、塗装ムラの軽減が可能となった。
【0014】
ミクロ着色フレークおよびマクロ着色フレークが、アクリルシリコーン系樹脂と顔料を含んでいる多彩模様形成用の塗料とすることが好ましい。
【0015】
アクリルシリコーン系樹脂は耐候性に特に優れる。そのため、アクリルシリコーン系樹脂と顔料を含んだ着色フレークとすることで、着色フレークの経時的な色調変化が少なく、耐久性に優れた塗膜を実現することができる。
【0016】
また、複数色のマクロ着色フレークは、前記ミクロ着色フレークと同じ色調の着色フレークを含んでいる、多彩模様形成用の塗料とすることも好ましい。
【0017】
この多彩模様形成用の塗料は、マクロ着色フレークの片寄りによる塗装ムラがより目立ちにくくなる。
【0018】
上記多彩模様形成用の塗料は、外壁などの被塗装面の塗り替え用に好適である。特に、サイディング外壁の塗り替え用に最適である。
【0019】
上記課題は、上記いずれかに記載の多彩模様形成用の塗料と、エナメル塗料のセット品であって、多彩模様形成用の塗料に含まれるミクロ着色フレークとクリヤー塗料を固形分比率100:39で配合した色差測定用塗料の塗膜と、エナメル塗料の塗膜と、の色差ΔEが5.0以内である、多彩模様形成用の塗料とエナメル塗料のセット品によっても解決される。エナメル塗料は、多彩模様形成用の塗料の下地塗料として用いられる。
【0020】
上記多彩模様形成用の塗料の成膜方法として、具体的には、外壁などの被塗装面の表面にエナメル塗料を塗布して成膜する、エナメル塗膜成膜工程と、このエナメル塗膜成膜工程で成膜されたエナメル塗膜の表面に、上記いずれかに記載の多彩模様形成用の塗料を塗布して成膜する、多彩模様塗膜成膜工程と、を備えた方法とすることができる。
【0021】
この成膜方法によって、サイディング外壁のクラックや汚れを隠蔽し、紫外線等の下地への透過を防止することができる。また、安価なウールローラーなどを用いて綺麗に塗布することができる。
このとき、ミクロ着色フレークを、下地であるエナメル塗膜の色に近い色調とすることが好ましく、エナメル塗膜と同じ色調にすることがより好ましい。
【0022】
より具体的には、多彩模様塗膜成膜工程では、多彩模様形成用の塗料に含まれるミクロ着色フレークとクリヤー塗料を固形分比率100:39で配合した色差測定用塗料の塗膜と、エナメル塗膜成膜工程で用いるエナメル塗料の塗膜と、の色差ΔEが5.0以内である、多彩模様形成用の塗料を用いる、多彩模様形成用の塗料の成膜方法とすることが好ましい。
【0023】
上記課題は、エナメル塗膜の表面に上記いずれかに記載の多彩模様形成用の塗料によって多彩模様塗膜が成膜されてなる塗装物品によっても解決される。
【0024】
多彩模様形成用の塗料の製造方法として、エマルション樹脂溶液と、目開き寸法200μmの篩を通過するミクロ着色フレークと、目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しない複数色のマクロ着色フレークと、を混合して塗料化する塗料化工程を備えており、前記塗料化工程では、ミクロ着色フレークを塗料中に2~20重量%となるように配合する、多彩模様形成用の塗料の製造方法を提案する。ここで、前記複数色のマクロ着色フレークには、前記ミクロ着色フレークと同じ色調の着色フレークが含まれていてもよい。
【0025】
このとき、複数色のマクロ着色フレークとして、目開き寸法600μmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しない小径着色フレークと、目開き寸法1.4mmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しない中径着色フレークと、目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法600μmの篩を通過しない大径着色フレークと、を用いる、多彩模様形成用の塗料の製造方法とすることが好ましい。
【0026】
このとき、塗料化工程では、小径着色フレークを塗料中に1~15重量%、中径着色フレークを塗料中に0.1~10重量%、大径着色フレークを塗料中に0.1~5重量%、となるようにそれぞれ配合する、多彩模様形成用の塗料の製造方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、安価なウールローラーや刷毛を用いて容易に塗布することができ塗装ムラが少ない(目立ちにくい)多彩模様形成用の塗料、多彩模様形成用の塗料の成膜方法などを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を例示説明する。多彩模様形成用の塗料は、ミクロ着色フレークとマクロ着色フレークを含む。
なお、本発明は以下の実施形態などに限定されるものではない。
【0029】
1.ミクロ着色フレーク
ミクロ着色フレークは、目開き寸法200μmの篩を通過する大きさの着色フレークである。ミクロ着色フレークは、着色フレークを篩にかけて得ることができる。着色フレークは、樹脂を主成分とする着色されたフレーク状の粉体である。このような着色フレークは、例えば、液状原料を可剥離性のある基材等に薄く塗布し、乾燥させた後に基材等から剥離して粉砕することで得られる。以下、着色フレークの製作方法を例示説明する。
【0030】
まず始めに、着色フレークの元となる液状原料を作成する。液状原料は、結合材としての合成樹脂あるいは合成樹脂エマルション、着色成分となる着色顔料などを含むものを用いることができる。これに加えて、体質顔料、骨材、増粘剤、レベリング剤などを含んでいてもよい。
【0031】
合成樹脂あるいは合成樹脂エマルションには、アクリル樹脂、エチレン‐アクリル樹脂、酢酸ビニル‐アクリル樹脂、スチレン‐アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ウレタン‐アクリル樹脂、シリコン‐アクリル樹脂等公知の合成樹脂のほか、クロロプレンラテックス、アクリルブタジエンラテックスなどのゴムラテックスを用いることができる。なかでも、耐候性の面から、アクリルシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。例えば、アクリルシリコーン樹脂やセラミック変性アクリルシリコーン樹脂は好適である。アクリルシリコーン樹脂として、例えば、旭化成株式会社製「ポリデュレックスH‐7650」が挙げられる。
【0032】
着色顔料には、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄(酸化第二鉄:ベンガラ)、フタロシアニンブルー、オーカー、群青、カーボンブラック、黒色酸化鉄などを用いることができる。体質顔料には、例えば、炭酸カルシウム、クレー、タルク、カオリン、ベントナイト、珪石粉、珪藻土、ホワイトカーボンなどを用いることができる。
【0033】
骨材としては、珪砂のように産出時において細かい粒のもの、例えば、寒水石、御影石、大理石等の天然石を粉砕して細粒としたもののほか、ガラスビーズ、プラスチックビーズ、寒水砂あるいは珪砂を核として塗料を被覆したもの、釉薬を被覆したものを用いることができる。
【0034】
着色フレークを製作する方法として、例えば、液状原料を平坦な可剥離性のある基材の上に一定膜厚が確保できる塗装手段(例えば、フィルムアプリケーター:JIS‐K5101)により塗布して乾燥させた後、基材から剥離し、粉砕手段により粉砕することが考えられる。
【0035】
このようにして得られた着色フレークを、目開き寸法200μmの篩にかけ、そこを通過したものをミクロ着色フレークとして用いることができる。
【0036】
ミクロ着色フレークは、単一色の着色フレークで構成してもよい。例えば、白色の着色フレーク単独、灰色(N‐70)の着色フレーク単独、黒色の着色フレーク単独といった具合である。
【0037】
ミクロ着色フレークは、下地(多彩模様形成用の塗料を塗布する面)の色に近い色調とすることが好ましく、下地と同じ色調にすることがより好ましい。
下地としてエナメル塗膜を用いる場合、具体的には、多彩模様形成用の塗料に含まれるミクロ着色フレークとクリヤー塗料を所定の比率で混合した色差測定用塗料の塗膜と、エナメル塗料の塗膜と、の色差ΔEが5.0以内であることが好ましい。以下、色差ΔEの測定方法について詳説する。
【0038】
色差測定用塗料は、クリヤー塗料とミクロ着色フレークを、クリヤー塗料樹脂固形分:ミクロ着色フレークを重量比で39:100の割合になるように混合して得る。クリヤー塗料の樹脂はアクリルシリコーン樹脂(例えば、旭化成株式会社製「ポリデュレックスH‐7650」)を用いることが好ましい。そして、得られた色差測定用塗料を、アプリケーターを用いて40milの塗布厚設定で白厚紙に塗布、乾燥させて色差測定用塗料の塗膜を得る。
一方、下地に用いるエナメル塗料を、アプリケーターを用いて10milの塗布厚設定で白厚紙に塗布、乾燥させてエナメル塗料の塗膜を得る。
上記色差測定用塗料の塗膜と上記エナメル塗料の塗膜の色差ΔEを、色差計(コニカミノルタ製 CR‐400)を用いて測定する。
塗装ムラを少なくする観点からは、色差ΔEが5.0以内であることが好ましく、色差ΔE4.0以内であることがより好ましく、色差ΔE3.0以内であることが最も好ましい。
【0039】
2.マクロ着色フレーク
マクロ着色フレークは、目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しない大きさの着色フレークである。本発明の多彩模様形成用の塗料には、複数色のマクロ着色フレークが用いられる。
【0040】
具体的には、前述した着色フレークを目開き寸法2.8mmの篩にかけ、これを通過したものをさらに目開き寸法212μmの篩にかけて、目開き寸法212μmの篩の上に残ったもの(目開き寸法212μmの篩を通過しなかったもの)をマクロ着色フレークとして用いることができる。このようなマクロ着色フレークを複数色準備し、例えば、それぞれを所定の割合で混合して塗料に配合することなどができる。
【0041】
例えば、白色のマクロ着色フレーク、灰色(N‐70)のマクロ着色フレーク、黒色のマクロ着色フレークの三色のマクロ着色フレークをそれぞれ準備し、それぞれを塗料に配合することができる。
複数色のマクロ着色フレークのうち一色はミクロ着色フレークと同じ色調とすることができる。例えば、ミクロ着色フレークが灰色(N‐70)であれば、複数色のマクロ着色フレークのうち1色に、これと同じ色調である灰色(N‐70)を用いることができる。
【0042】
また、マクロ着色フレークについて、小径着色フレークと中径着色フレークと大径着色フレークに、篩によって分別し、それぞれの粒径や塗料中の配合割合などを管理することができる。
【0043】
例えば、目開き寸法600μmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しないものを小径着色フレーク、目開き寸法1.4mmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しないものを中径着色フレーク、目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法600μmの篩を通過しないものを大径着色フレークとすることができる。
【0044】
小径着色フレークと中径着色フレークと大径着色フレークは、それぞれが、複数色の着色フレークで構成されることが好ましく、そのうちの一色はミクロ着色フレークと同じ色調の着色フレークとすることができる。例えば、ミクロ着色フレークが灰色(N‐70)であれば、小径着色フレークと中径着色フレークと大径着色フレークのそれぞれが、これと同じ色調である灰色(N‐70)の着色フレークを含んでいてもよい。
【0045】
3.多彩模様形成用の塗料の製造方法
上記ミクロ着色フレークと上記複数色のマクロ着色フレークを用いて、多彩模様形成用の塗料を製造する。具体的には、塗料化工程において、エマルション樹脂溶液とミクロ着色フレークと複数色のマクロ着色フレークを所定割合で混合、分散して塗料化する。マクロ着色フレークに関して、あらかじめ複数色のマクロ着色フレークを所定の割合で混合したものを用意しておいてもよい。
【0046】
ミクロ着色フレークとして、目開き寸法200μmの篩を通過するものを用いる。このとき、ミクロ着色フレークの配合量は塗料中に2~20重量%である。ミクロ着色フレークの配合量が塗料中2重量%未満であると、ローラー塗装時における塗装ムラが生じやすくなる。また、ミクロ着色フレークの配合量が塗料中20重量%を越えると、塗膜の多色感が得られにくくなる。ミクロ着色フレークの配合量は、塗料中に3~18重量%であることが好ましく、塗料中に4~16重量%であることがより好ましい。
【0047】
複数色のマクロ着色フレークの配合量は塗料中に1~15重量%であることが好ましい。複数色のマクロ着色フレークの配合量が塗料中1重量%未満であると、塗膜の多色感が得られにくくなる。また、複数色のマクロ着色フレークの配合量が塗料中15重量%を越えると、作業性が悪化するとともにローラー塗装時における塗装ムラが生じやすくなる。複数色のマクロ着色フレークの配合量は、塗料中に1.5~14重量%であることが好ましく、塗料中に1.9~12重量%であることがより好ましい。
【0048】
前述したように複数色のマクロ着色フレークを小径着色フレークと中径着色フレークと大径着色フレークに分別した場合には、小径着色フレークを塗料中に1~15重量%、中径着色フレークを塗料中に0.1~10重量%、大径着色フレークを塗料中に0.1~5重量%、となるようにそれぞれ配合することが好ましい。より好ましくは、小径着色フレークを塗料中に1~10重量%、中径着色フレークを塗料中に0.1~5重量%、大径着色フレークを塗料中に0.1~3重量%、となるようにそれぞれ配合することである。あらかじめ小径着色フレークと中径着色フレークと大径着色フレークを所定の割合で混合したものを用意しておいてもよい。
【0049】
なお、多彩模様形成用の塗料には、ミクロ着色フレークや複数色のマクロ着色フレークの他、耐候性や作業性を大きく阻害しない限りにおいて、着色ビーズやマイカなどの各種フィラーを添加してもよい。また、シリカやアクリルビーズなどの艶消し剤や、レベリング剤や分散剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0050】
4.多彩模様形成用の塗料の成膜方法
このようにして得られた多彩模様形成用の塗料の成膜方法としては、被塗装面に直接塗装することが可能であるが、下地塗装を施して成膜された下地塗膜の表面に塗布することが好ましい。このとき、下地(被塗装面や下地塗膜)の色に近い色調(下地と同じ色調を含む)のミクロ着色フレークを用いた多彩模様形成用の塗料を塗布することが好ましい。
具体的には、前述したように、下地としてエナメル塗膜を用いる場合、多彩模様形成用の塗料に含まれるミクロ着色フレークとクリヤー塗料を所定の比率で混合した色差測定用塗料の塗膜と、エナメル塗料の塗膜と、の色差ΔEが5.0以内であることが好ましい。
【0051】
多彩模様形成用の塗料の成膜方法として、例えば、外壁などの被塗装面の表面にエナメル塗料を塗布して成膜するエナメル塗膜成膜工程と、このエナメル塗膜成膜工程で成膜されたエナメル塗膜の表面に、多彩模様形成用の塗料を塗布して成膜する多彩模様塗膜成膜工程と、を備えた、多彩模様形成用の塗料の成膜方法とすることが好ましい。エナメル塗膜は下地塗膜となる。
被塗装面の表面に施されたエナメル塗装によって、被塗装面の汚れやクラックなどの欠点が隠されるとともに紫外線等の遮蔽効果が確保され、エナメル塗膜の表面に施された多彩模様形成用の塗料によって、高い意匠性が確保されるのである。多彩模様形成用の塗料は、安価なウールローラーや刷毛を用いて塗布することができ、しかも塗装ムラが少ない(目立ちにくい)という効果も奏するのである。
【実施例
【0052】
次に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、量比などは重量に基づく値である。
【0053】
1.着色フレークの作成
下記表1の配合表に基づき、着色フレークとなる液状原料を作成した。本実施例では、白色、灰色(N‐70)、黒色の三色の着色フレークを作成するため、液状原料も三種類作成した。
【0054】
【表1】
【0055】
得られた三種類の液状原料それぞれについて、フィルムアプリケーターを用いて膜厚設定10milでテフロン(登録商標)シート上に塗布し、乾燥させて成膜した。得られた乾燥塗膜をテフロン(登録商標)シートから剥がして粉砕装置を用いて細かく粉砕し、三色(白色、灰色(N‐70)、黒色)の着色フレークを得た。
【0056】
ミクロ着色フレークは、灰色(N‐70)の着色フレークを目開き寸法100μmの篩に掛けて、この篩を通過したものとした。
【0057】
また、マクロ着色フレーク(小径着色フレーク、中径着色フレーク、大径着色フレーク)については、三色の着色フレークそれぞれについて、目開き寸法600μmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しないものを小径着色フレーク用、目開き寸法1.4mmの篩を通過しかつ目開き寸法212μmの篩を通過しないものを中径着色フレーク用、目開き寸法2.8mmの篩を通過しかつ目開き寸法600μmの篩を通過しないものを大径着色フレーク用とした。表3の配合表にあるように、小径着色フレーク用の三色を所定割合で混合または配合したものを小径着色フレーク、中径着色フレーク用の三色を所定割合で混合または配合したものを中径着色フレーク、大径着色フレーク用の三色を所定割合で混合または配合したものを大径着色フレークとした。
【0058】
2.樹脂溶液の作成
多彩模様形成用の塗料に用いるエマルション樹脂溶液(クリヤー塗料A)の配合を下記表2に示す。エマルション樹脂としてアクリルシリコーン系樹脂を用いていること以外は、一般的なクリヤー塗料の配合と同様である。
【0059】
【表2】
【0060】
3.多彩模様形成用の塗料の製造
上記エマルション樹脂溶液(クリヤー塗料A)、ミクロ着色フレーク、および複数色のマクロ着色フレーク(小径着色フレーク、中径着色フレーク、大径着色フレーク)を用いて、下記表3の配合で塗料化した。複数色のマクロ着色フレークはミクロ着色フレークと同じ色調の着色フレーク(灰色:N‐70)を一部に含んでいる。詳細には、複数色のマクロ着色フレークを構成する小径着色フレーク、中径着色フレークおよび大径着色フレークのそれぞれが、ミクロ着色フレークと同じ色調の着色フレーク(灰色:N‐70)を一部に含んでいる。
【0061】
各実施例および比較例の多彩模様形成用の塗料について、通常のエナメル塗料(灰色:N‐70)を塗布して成膜した後、その表面に吹付け塗装、砂骨ローラー塗装およびウールローラー塗装をそれぞれ行い、作業性、塗装ムラおよび多色感を評価した。塗装ムラと多色感は、塗装後の塗装物から3~5m離れて、5~10人で目視確認して評価した。
【0062】
具体的には、評価者の8割以上が良好と判断した場合を○、5割以上8割未満が良好と判断した場合を△、2割以上5割未満が良好と判断した場合を△~×、2割未満が良好と判断した場合を×と評価した。
【0063】
なお、各実施例および各比較例について、多彩模様形成用の塗料に含まれるミクロ着色フレーク(灰色)とクリヤー塗料を固形分比率100:39で配合(ミクロ着色フレーク(灰色)と固形分39%のクリヤー塗料Aを1:1で配合)した色差測定用塗料の塗膜と、エナメル塗料(灰色:N‐70)の塗膜と、の色差ΔEは、5.0以内であった。
【0064】
【表3】
【0065】
実施例1~3は、吹き付け塗装、砂骨ローラー塗装およびウールローラー塗装のいずれにおいても、作業性、塗装ムラおよび多色感の全てについて非常に良好な結果が得られた。
【0066】
比較例1は、ミクロ着色フレークの量が1.0%と少ないため、砂骨ローラー塗装およびウールローラー塗装において、塗装ムラが生じやすい結果となった。
また、比較例2は、マクロ着色フレークを配合していないため、多色感が得られにくい結果となった。
さらに、比較例3は、ミクロ着色フレークを配合していないため、砂骨ローラー塗装およびウールローラー塗装において、作業性が劣り塗装ムラが生じやすい結果となった。
加えて、比較例4は、ミクロ着色フレークを配合しておらず、また、マクロ着色フレークとして小径着色フレークのみの配合であるため、多色感が得られにくい結果となった。
【0067】
以上、特定の実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されるものではなく、当該技術分野における熟練者等により、本出願の願書に添付された特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正が可能である。