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特許7417252硬質ポリウレタンフォーム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】硬質ポリウレタンフォーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20240111BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20240111BHJP
   C08K 7/26 20060101ALI20240111BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20240111BHJP
【FI】
C08G18/00 K
C08G18/00 H
C08L75/04
C08K7/26
C08G101:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019233244
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021102664
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】307036856
【氏名又は名称】アクア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】上田 勉
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-524051(JP,A)
【文献】特開昭51-080352(JP,A)
【文献】特開平08-231673(JP,A)
【文献】特開2000-109538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00- 18/87
C08L 75/00- 75/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート及びポリオールの反応物であるポリウレタン樹脂マトリックスと、該ポリウレタン樹脂マトリックス中に分散された、3~30重量%の中空無機粒子及び発泡剤に由来する多数の独立気泡と、30.0~33.0kg/mの密度とを、有する硬質ポリウレタンフォームであって、
前記中空無機粒子の粒子径が1200~3800nmである、硬質ポリウレタンフォーム
【請求項2】
前記中空無機粒子の含有量が、ポリウレタン樹脂に対して5~15重量%である請求項1に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項3】
前記中空無機粒子の粒子径が1600~3800nmである請求項1又は2に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項4】
前記中空無機粒子がアルミナシリケート粒子及びシリカセラミックス粒子から成る群から選択される少なくとも一種である請求項1~3のいずれか一項に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項5】
前記発泡剤がシクロペンタンである請求項1~4のいずれか一項に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項6】
ポリオール、触媒及び整泡剤を含む第1ポリオール混合物に、ポリウレタン樹脂に対して3~30重量%になる量の中空無機粒子及び発泡剤を添加して、第2ポリオール混合物を得る工程;
第2ポリオール混合物に対し、ポリイソシアネートを添加して反応させる工程を包含する、30.0~33.0kg/mの密度を有する硬質ポリウレタンフォームの製造方法であって、
前記中空無機粒子の粒子径が1200~3800nmである、硬質ポリウレタンフォームの製造方法
【請求項7】
前記中空無機粒子は、発泡剤中に均一に分散された分散体の状態で、第1ポリオール混合物に添加される請求項6に記載の硬質ポリウレタンフォームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が低減された硬質ポリウレタンフォームに関する。硬質ポリウレタンフォームは冷蔵庫や冷凍庫などの断熱材に使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン層破壊物質の使用規制の強化に伴い、硬質ポリウレタンフォームの発泡剤としてCFC-11を使用することが禁止されている。現在の代替発泡剤は、ノンフロンの発泡剤として、シクロペンタンを使用している。
【0003】
しかしながら、シクロペンタンは、CFC-11に比べて熱伝導率が高く、これを発泡剤として使用した硬質ポリウレタンフォームは断熱性能に劣る。また、シクロペンタン発泡剤の沸点は49.2℃と高沸点であり、冷蔵庫など低温域では、ウレタンフォームセル内のガスが液化状態となり、フォーム物性も劣っている。
【0004】
特許文献1には、表面を塩化ビニリデン樹脂でコートした、スチレン系或いは塩化ビニリデン系真空小径体をウレタンフォーム中に分散することで、断熱性に優れた硬質ウレタンフォームを提供することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-3360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中空粒子を硬質ウレタンフォームに含有させて、ウレタンフォームの断熱性を向上させる試みは従来から行われている。しかしながら、中空粒子の外殻が有機物質で形成された有機粒子である場合、発泡前混合物の流動性及び成形性が低下しやすい問題がある。また、中空有機粒子は強度、耐熱性が低く、破損、変形し易い問題がある。
【0007】
つまり、硬質ウレタンフォームのフォーム物性を維持したい場合は、中空有機粒子の添加量は低く制限する必要があり、硬質ウレタンフォームの熱伝導率が充分に低減しない。逆に、中空有機粒子の含有量を熱伝導率が向上するレベルまで高めた場合は、硬質ウレタンフォームのフォーム物性が悪化してしまう。
【0008】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、熱伝導率が低減され、フォーム物性にも優れた硬質ポリウレタンフォームを提供することにある。フォーム物性としては、具体的には、発泡密度、高温環境及び低温環境における寸法安定性及び圧縮強度等が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリイソシアネート及びポリオールの反応物であるポリウレタン樹脂マトリックスと、該ポリウレタン樹脂マトリックス中に分散された、3~30重量%の中空無機粒子及び発泡剤に由来する多数の独立気泡と、30.0~33.0kg/mの密度とを、有する硬質ポリウレタンフォームを提供する。
【0010】
ある一形態においては、前記中空無機粒子の含有量が、ポリウレタン樹脂に対して5~15重量%である。
【0011】
ある一形態においては、前記中空無機粒子の粒子径が1200~9300nmである。
【0012】
ある一形態においては、前記中空無機粒子がアルミナシリケート粒子及びシリカセラミックス粒子から成る群から選択される少なくとも一種である。
【0013】
ある一形態においては、前記発泡剤がシクロペンタンである。
【0014】
また、本発明は、ポリオール、触媒及び整泡剤を含む第1ポリオール混合物に、ポリウレタン樹脂に対して3~30重量%になる量の中空無機粒子及び発泡剤を添加して、第2ポリオール混合物を得る工程;及び
第2ポリオール混合物に対し、ポリイソシアネートを添加して反応させる工程を包含する、30.0~33.0kg/mの密度を有する硬質ポリウレタンフォームの製造方法を提供する。
【0015】
ある一形態においては、前記中空無機粒子は、発泡剤中に均一に分散された分散体の状態で、第1ポリオール混合物に添加される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱伝導率が低減され、フォーム物性にも優れた硬質ポリウレタンフォームが提供される。本発明の硬質ポリウレタンフォームは、冷蔵庫及び冷凍庫などの断熱材として広く用いることができる。
【0017】
ポリイソシアネートは、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、これらの変性体、例えば、多価アルコールや多価アミンと反応させたウレタン変性体やウレア変性体、触媒存在下又は加熱下に反応させたカルボジイミド変性体やウレトンイミン変性体など或いはそれらの混合物である。
【0018】
ポリオールは、蔗糖、ソルビトール、ペンタエリスリット、グリセリン、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール、アンモニア、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、トリメチルジエチレントリアミン、ポリエーテルポリアミン、トルエンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、キシレンジアミンなどの多価アミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン或いはそれらの混合物に、水を加え或いは加えずに、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加重合して得られるポリエーテルポリオールである。
【0019】
中空無機粒子としては、例えば、外殻を構成する材料がアルミナシリケート、シリカセラミックス、シリカであるものなどが挙げられる。これらの中でも、流動性を良好に維持する観点から、アルミナシリケート中空粒子及びシリカセラミックス中空粒子が好ましい。中空無機粒子は強度に優れており、複合材の製造過程で生じる剪断力、応力に耐えることができる。また、物性面においても高い安定性を有し、複合材料の物性を向上させることができる。
【0020】
中空無機粒子の平均粒子径は、1200~9300nm、得られる硬質ポリウレタンフォームの熱伝導率を低下させる観点から、好ましくは1600~7600nm、より好ましくは3000~5000nmである。中空無機粒子の平均粒子径が1200nm未満であると、発泡前混合物の流動性及び成形性が低下しやすくなり、9300nmを超えると、粒子同士の凝集が発生しやすくなる。
【0021】
中空無機粒子の平均粒子径は、例えば、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)を利用するレーザー回折式粒度分布測定装置を使用して、測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置の具体例としては、マイクロトラック・ベル社製「MT3000II」(商品名)シリーズが挙げられる。
【0022】
中空無機粒子の空隙率は25%以上である。中空無機粒子の空隙率が25%未満であると、得られる硬質ポリウレタンフォームの熱伝導率の低減が不十分になる。中空無機粒子の空隙率は、好ましくは30~70%、より好ましくは40~60%である。
【0023】
中空無機粒子の含有量は、ポリウレタン樹脂に対して、3~30重量%である。ポリウレタン樹脂に対する中空無機粒子の含有量が3重量%未満であると、得られる硬質ポリウレタンフォームの熱伝導率の低減が不十分になり、30重量%を超えると、発泡前混合物の流動性及び成形性が低下してフォーム物性が悪くなる。中空無機粒子の上記含有量は、好ましくは5~20重量%、より好ましくは10~15%である。
【0024】
中空無機粒子は、発泡剤に分散させた分散体の状態で使用することが好ましい。中空無機粒子の分散液を使用することにより、発泡時の粒子間凝集を抑制することができ、発泡前混合物の流動性及び成形性が低下し難くなる。
【0025】
発泡剤は、シクロペンタン及び水等を使用することができる。その使用量は、ポリオールに対して0.1~10重量%、好ましくは0.5~5重量%である。
【0026】
その他の成分として、触媒、整泡剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、安定剤、着色剤などの助剤を必要に応じて使用する。
【0027】
触媒は、ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N’-ジメチルアミノエチルエーテル、ジメチルシクロヘキシルアミン、テトラメチルヘキサメチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどの第3級アミン、酢酸錫、オクタン酸錫、ラウリン酸錫ジクロリド、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルトなどの有機金属化合物などである。触媒の使用量は、ポリオールの0.0001~10重量%ある。
【0028】
整泡剤は、有機けい素化合物系の界面活性剤であり、例えば、日本ユニカー社製のL-501、L-520、L-532、L-540、L-544、L-3550、L-5302、L-5305、L-5320、L-5340、L-5410、L-5420、L-5710、L-5720などであり、トーレ・シリコーン社製のSH-190、SH-192、SH-193、SH-194、SH-195、SH-200、SRX-253などであり、信越シリコーン社製のF-114、F-121、F-122、F-220、F-230、F-258、F-260B、F-305、F-306、F-317、F-341などであり、東芝シリコーン社製ではTFA-4200、TFA-4202などである。整泡剤の使用量は、ポリオールの0.1~10重量%である。
【0029】
本発明の硬質ポリウレタンフォームは、例えば、次の方法によって製造される。即ち、ポリオール、触媒、整泡剤及びその他の助剤を均一に混合して、第1ポリオール混合物を得る。第1ポリオール混合物に発泡剤及び中空無機粒子を添加し、均一に混合して、第2ポリオール混合物を得る。第2ポリオール混合物を調製する際に、好ましくは、中空無機粒子は発泡剤と同時に第1ポリオール混合物に添加する。より好ましくは、中空無機粒子は、発泡剤と均一に混合して予め分散体の状態にし、得られる分散体を第1ポリオール混合物に添加する。
【0030】
第2ポリオール混合物に対し、当量比が0.5~5.0になるようにポリイソシアネートを連続的に混合する。次いで、得られたフォーム原液を空隙又は型に注入すれば、フォーム原液は発泡硬化して硬質ポリウレタンフォームが製造される。
【0031】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例における配合量の単位、例えば「部」は、特に断らない限り、重量基準である。
【実施例
【0032】
<実施例1~
ポリオール混合物(ポリオール、触媒、整泡剤及び水の混合物)100部に、発泡剤であるシクロペンタン14部に所定量のアルミナシリケート中空粒子を加え、2000rpmで2分間撹拌して中空粒子分散体を得た。第1ポリオール混合物、中空粒子分散体、及びジフェニールメタンジイソシアネート124部を連続的に加えて、4,000rpmで4秒間急速撹拌してフォーム原液を得た。
【0033】
このフォーム原液を、パラフィン系離型剤を塗布し、40℃に加温した600mm×400mm×50mmの縦型アルミ箱に注入して自由発泡させ、アルミ箱からあふれたフォームを除いて、フォーム重量を測った。その重量の2割増しの重量になるように、フォーム原液を、同じ大きさの蓋の付いたアルミ箱に注入して封入発泡させ、硬質ポリウレタンフォームを得た。
【0034】
以下に示す物性測定方法に従って、このフォームのコア部の発泡密度、熱伝導率、低温寸法安定性、高温寸法安定性、圧縮強度を測定し、セル荒れは目視により評価した。結果を表1に示す。
【0035】
<物性測定方法>
発泡密度
サンプリングされたフォ-ムは、70×70×tmmにカットした後、スキン層を切り落としコア(Core:芯)状態とする。カットされたコアサンプルの重量と体積を化学天秤とノギスで測定し、次式に従って密度を計算する。
密度(kg/m)=サンプル重量/サンプル体積
【0036】
熱伝導率
サンプリングされたフォ-ムは、200×200×25mmにカットした後、スキン層を切り落としコア状態とする。コアサンプルを24℃に調温し、英弘精器社製熱伝導率計「FOX200」(商品名)を使用して、熱伝導率(mW/m・k)を測定する。
【0037】
寸法安定性
サンプリングされたフォ-ムは、75×75×25mmにカットした後、スキン層を切り落としコア(Core:芯)状態とする。各方向の寸法測定後、下記条件での寸法安定性を次式に従って計算する。
・耐熱性:70℃×48時間
・耐寒性:-30℃×48時間
寸法安定性(%)={(試験前寸法-試験後寸法)/試験前寸法}×100
【0038】
圧縮強度
サンプリングされたフォ-ムは、50×50×25mmにカットした後、スキン層を切り落としコア状態とする。引張試験機を用い圧縮強度を測定する。試験条件は、5mm/分の圧縮強度とし、10%変形時の値をもって次式により計算する。尚、圧縮方向は厚み方向とする。
10%変形時の圧縮強度(kgf/cm)=10%変形時荷重/サンプルの圧縮前受圧面積
【0039】
比較例
ポリオール混合物(ポリオール、触媒、整泡剤及び水の混合物)100部に発泡剤であるシクロペンタン14部、及びジフェニールメタンジイソシアネート124部を連続的に加えて、4,000rpmで4秒間急速撹拌してフォーム原液を得た。
【0040】
得られたフォーム原液を使用すること以外は上記実施例と同様にして硬質ポリウレタンフォームを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0041】
[表1]
【0042】
なお、実施例及び比較例で用いたポリオール、中空粒子の種類は、次の通りである。
ポリオール:住化コベストロウレタン株式会社製
中空粒子:太平洋セメント社製「E-SPHERES」、平均粒子径:1.6μm、3.8μm(マイクロトラック・ベル社製レーザー回折式粒度分布測定器「MT3000II」(商品名)により測定)、空隙率:40%