IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人公立小松大学の特許一覧

<>
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図1
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図2
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図3
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図4
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図5
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図6
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図7
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図8
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図9
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図10
  • 特許-視覚誘発電位の測定方法及び測定装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】視覚誘発電位の測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/378 20210101AFI20240111BHJP
【FI】
A61B5/378
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020032600
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021132989
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】520481002
【氏名又は名称】公立大学法人公立小松大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(72)【発明者】
【氏名】橋本 泰成
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-302270(JP,A)
【文献】特開2019-017853(JP,A)
【文献】特表平04-501214(JP,A)
【文献】特開2018-068511(JP,A)
【文献】特開平02-168932(JP,A)
【文献】特開平10-071206(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0062676(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/369-5/386
A61M 21/00-21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳波を測定する脳波計と、AD変換器を有し、前記脳波計により検出した脳波信号を処理する信号処理部と、前記被験者に視覚刺激を与える視覚刺激装置と、脳波計により検出した被験者の自発脳波の一種であるアルファ波に基づいて視覚刺激装置の動作タイミングを制御する制御手段とを備える視覚誘発電位の測定装置を用いて、前記被験者に装着した電極により前記被験者の脳波を測定する視覚誘発電位の測定方法であって、
前記電極により前記被験者の自発脳波の一種であるアルファ波を検出し、
前記AD変換器からt秒間データを受け取り、
以下の式(1)により受け取ったデータを位相に変換する処理を行い、検出した前記アルファ波の位相を計算し、
p(t)=tan-1{y(t)/x(t)} (1)
式(1)中、t:時間、x(t):入力データ(μV)、y(t):x(t)をヒルベルト変換した信号、p(t):x(t)の瞬時位相(rad)、ただし 、閉区間 (0,2π)内の値とし、
予め設定された位相の時刻と同期したパルス信号を作成し、
前記パルス信号の平均周期から待機時間Tを算出し、
前記被験者の脳波の測定開始から所定時間Tを待機した後、前記視覚刺激装置へ刺激命令の信号を出力し、
前記位相の算出結果に基づいて前記アルファ波の所定の位相に合わせて前記視覚刺激装置から視覚刺激信号を出力し、前記被験者に視覚刺激を与えると共に、前記被験者の視覚誘発電位である脳波を計測することを特徴とする視覚誘発電位の測定方法。
【請求項2】
前記被験者の後頭部の中央を中心に後頭部4箇所以上から前記脳波を測定することを特徴とする請求項1に記載の視覚誘発電位の測定方法。
【請求項3】
被験者に装着した電極により前記被験者の脳波を測定する脳波計と、
AD変換器を有し、前記脳波計により検出した脳波信号を処理する信号処理部と、
記被験者に視覚刺激を与える視覚刺激装置と、
前記脳波計により検出した前記被験者の自発脳波の一種であるアルファ波に基づいて前記刺激装置の動作タイミングを制御する制御手段とを備え、
前記信号処理部は、増幅回路と、バンドパスフィルタと、AD変換器とを備え、前記AD変換器で処理されたデータは、前記制御手段に入力され、
前記制御手段は、前記アルファ波の位相を計算する位相計算手段を有し、前記AD変換器からt秒間データを受け取り、
前記位相計算手段では、以下の式(1)により受け取ったデータを位相に変換する処理を行い、検出した前記アルファ波の位相を計算し、
p(t)=tan-1{y(t)/x(t)} (1)
式(1)中、t:時間、x(t):入力データ(μV)、y(t):x(t)をヒルベルト変換した信号、p(t):x(t)の瞬時位相(rad)、ただし 、閉区間 (0,2π)内の値とし、
予め設定された位相の時刻と同期したパルス信号を作成し、
前記パルス信号の平均周期から待機時間Tを算出し、
前記被験者の脳波の測定開始から所定時間Tを待機した後、前記視覚刺激装置へ刺激命令の信号を出力し、前記視覚刺激装置から視覚刺激信号を出力し、前記位相計算手段で得られた所定の位相に合わせて前記視覚刺激装置から視覚刺激信号を出力するように制御することを特徴とする視覚誘発電位の測定装置。
【請求項4】
前記脳波計は、後頭部の中央を中心に後頭部4箇所以上から前記脳波信号を測定する可能に構成されていることを特徴とする請求項に記載の視覚誘発電位の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波測定における視覚誘発電位を測定する方法及び視覚誘発電位の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人から計測される脳波は、大きく自発脳波と誘発脳波に分けられる。自発脳波は、外的刺激が提示されていない状態における自発性な活動として測定される。誘発脳波は、外部から感覚性の刺激によって誘発され、刺激と関連付けて測定される。
【0003】
光刺激などによって誘発される脳波を、視覚誘発電位(Visual Evoked Potential:VEP)と呼び、網膜から脳の視覚野にかけての様々な障害の評価、診断、予後の観測に利用される。例えば、視診経炎の患者での視覚誘発電位(VEP)は、健常者と比較して35ミリ秒ほど遅れることが知られている。(例えば、非特許文献1)。
【0004】
視覚誘発電位(VEP)は、基本的に後頭部(一次視覚野)の脳活動を反映していると考えられる。一方で、一次視覚野からは自発脳波の一種であるアルファ波が発生している。つまり後頭部の脳波を計測すると、視覚誘発電位(VEP)もアルファ波も同時に測定される。アルファ波は、脳波信号のうちの所定の範囲内の周波数(例えば、8~13Hz)の成分である。
【0005】
例えば、視覚に刺激を与えて大脳に誘発される電位を測定する視覚誘発電位測定手段を備える大脳誘発電位測定装置が周知されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の場合、視覚誘発電位測定手段は、目に強い光刺激を与えるキセノン管と、このキセノン管を瞬間的に発光させるパルス電圧発生回路と、光刺激を与えたタイミングを基準にして、その後に大脳に誘発される電位を測定して記憶する大脳誘発電位測定回路とを備える。また、キセノン管に代わって、LEDを使用して、目に光刺激を与えることもできる。LEDを使用する視覚誘発電位測定手段は、たとえば、100μsec~100msecの間、LEDに約20mAのパルス電流を流すように、パルス電圧発生回路を設計する。
【0006】
従来の視覚誘発電位(VEP)では、アルファ波とは関係なく、1Hzなどおよそ一定の時間間隔で光刺激を印加している。この方法では、図11に示すように、アルファ波はゆらぎを持った正弦波様の形状となるため、そのアルファ波の位相に対してほぼランダムに刺激が印加されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-323333号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Halliday,A.M.,McDonald,W.I.,& Mushin,J. “Delayed visual evoked response in optic neuritis” The Lancet,299(7758),1972,p.982-985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、視覚誘発電位(VEP)は光刺激に対して時間的に固定されて出現し、アルファ波は自発的に8~13Hz程度のゆらぎをもちながら出現しているため、従来の視覚誘発電位(VEP)測定方法において、アルファ波やその他の脳活動や生体反応を除外して視覚誘発電位(VEP)だけを抽出するには、繰り返し刺激を行って、加算平均した波形を計算する必要があり、測定は長時間になるという問題点があった。また、測定の間被験者は光を注視し続けなければならず、集中力が低下してきた場合は、更に測定に時間がかかってしまう。そして、病院での検査技師のような検者によっても、長時間被験者の様子に気を配りながら計測することは負担となるという問題点があった。
【0010】
従って、本発明の目的は、測定時間を短縮し、効率化を図ることで被験者及び検者の負担を低減することができる視覚誘発電位の測定方法及び測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、被験者に装着した電極により被験者の脳波を測定する視覚誘発電位の測定方法は、電極により被験者の自発脳波の一種であるアルファ波を検出し、検出したアルファ波の位相を計算し、位相の算出結果に基づいてアルファ波の所定の位相に合わせて被験者に視覚刺激を与えると共に、被験者の脳波を計測する。
【0012】
検出したアルファ波の位相に基づいてアルファ波の所定の位相に合わせて被験者に視覚刺激を与えると共に、被験者の脳波を計測することにより、アルファ波の特定の位相に合わせて(一定の脳活動の状態の時だけに)視覚誘発電位(VEP)を発生させることができ、ノイズを少なくすると共に、加算回数が少なくても視覚誘発電位(VEP)をできる。そのため、測定時間を短縮し、被験者及び検者の負担を低減することができる。
【0013】
アルファ波の検出開始から所定時間を待機した後、被験者に視覚刺激を与えることが好ましい。
【0014】
被験者の後頭部の中央を中心に後頭部4箇所以上から前記脳波を測定することが好ましい。
【0015】
本発明によれば、視覚誘発電位の測定装置は、被験者に装着した電極により被験者の脳波を測定する脳波計と、脳波計により検出する際に被験者に視覚刺激を与える視覚刺激装置と、脳波計により検出した被験者の自発脳波の一種であるアルファ波に基づいて視覚刺激装置の動作タイミングを制御する制御手段とを備え、制御手段は、アルファ波の位相を計算する位相計算手段を有し、位相計算手段で得られた所定の位相に合わせて視覚刺激装置から視覚刺激信号を出力するように制御する。
【0016】
制御手段は、被験者の脳波の測定開始から所定時間を待機した後、視覚刺激装置から視覚刺激信号を出力するように制御することが好ましい。
【0017】
脳波計は、後頭部の中央を中心に後頭部4箇所以上から脳波信号を測定することを可能にするように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、検出したアルファ波の位相に基づいてアルファ波の所定の位相に合わせて被験者に視覚刺激を与えると共に、被験者の脳波を計測することにより、アルファ波の特定の位相に合わせて(一定の脳活動の状態の時だけに)視覚誘発電位(VEP)を発生させることができ、ノイズを少なくすると共に、加算回数が少なくても視覚誘発電位(VEP)を検出できる。そのため、測定時間を短縮し、被験者及び検者の負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る視覚誘発電位の測定装置の構成を概略的に示す図である。
図2図1の視覚誘発電位の測定装置における信号処理過程を概略的に示すブロック図である。
図3図2中のバンドパスフィルタの構成例を示す回路図である。
図4】本発明の視覚誘発電位の測定方法を示すフローチャートである。
図5】測定信号及び処理結果を示す図である。
図6】視覚刺激に用いたパターンを示す図である。
図7】本発明の刺激印加時刻の一例を概略的に示すイメージ図である。
図8】視覚誘発電位(VEP)測定例を示す図である。
図9】脳波計の電極配置位置を概略的に示す頭部俯瞰図である。
図10】加算回数とSN比の関係を示す比較図である。
図11】従来の視覚誘発電位の測定方法において視覚刺激印加時刻を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る視覚誘発電位の測定装置及び視覚誘発電位の測定方法の実施形態を、図を参照して説明する。
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係る視覚誘発電位の測定装置を概略的に示しており、図2図1の視覚誘発電位の測定装置における信号処理過程を示しており、図3はバンドパスフィルタの構成例を示している。
【0022】
図1に示すように、視覚誘発電位の測定装置100は、脳波計10と、脳波信号を処理する信号処理部20と、脳波計10により検出する際に被験者Pに視覚刺激を与える視覚刺激装置30と、脳波計10により検出した被験者Pの自発脳波の一種であるアルファ波に基づいて視覚刺激装置30の動作タイミングを制御する制御手段40とを備えている。
【0023】
脳波計10は、被験者Pに装着した電極10aにより被験者Pの脳波を測定するものであり、複数(例えば4個)の電極10aが備えられており、脳波の微小電圧をストリーミングすることにより、脳波データが取得されるようになっている。電極10aは4個以上が好ましい。
【0024】
信号処理部20は、図2に示すように、増幅回路21と、バンドパスフィルタ22と、AD変換器23とを備えている。バンドパスフィルタ22は、例えば、図3に示すような回路から構成されている。増幅回路21とバンドパスフィルタ回路22では、脳波信号を20,000倍程度まで増幅すると共にフィルタで処理してアルファ波の帯域である8~13Hzの信号に変換するように構成されている。AD変換器23で処理されたデータは、制御手段40に入力される。本実施例において、増幅回路21は、ミユキ技研社製BA1104-Eを利用しているが、他社の脳波用アンプでも良い。また、AD変換器23についても市販のものを利用している(例えば、National Instruments社製USB-6210)。
【0025】
視覚刺激装置30は、光信号又は色信号からなる刺激パターン31を発生し、被験者Pの視覚神経系を刺激するディスプレイからなる。視覚刺激装置30としては、例えば、24インチカラー液晶ディスプレイ(EIZO社製 FlexScan)を用いた。なお、これに限定されるものではない。他のディスプレイを用いても良い。
【0026】
制御手段40は、脳波計10により検出した被験者Pのアルファ波の位相に基づいてアルファ波の所定の位相に合わせて視覚刺激装置30の動作タイミングを制御するように構成されている。この制御手段40としては、例えば、コンピュータを用いることができる。制御手段40において、AD変換器23から入力されたデータを処理し、待機時間T秒後に視覚刺激装置30への刺激命令を出力する。
【0027】
次に、図4図6を参照しながら、本発明の視覚誘発電位の測定方法を説明する。図4は本発明の視覚誘発電位の測定方法において、視覚誘発電位の測定装置100の動作を示している。図5は測定信号及び処理結果例を示している。図6は視覚刺激に用いた刺激パターン31を示している。図7は本発明の刺激印加時刻の一例を示している。図8は実際の測定データの例を示している。
【0028】
図3に示すように、本発明の視覚誘発電位の測定方法において、まず、被験者Pの脳波を計測する(ステップS1)。次に、事前に設定した計測時間を超えているか否かを判断する(ステップS2)。ここで、事前に設定した計測時間を超えたと判断された場合は、処理を終了する。一方、事前に設定した計測時間を超えていないと判断された場合は、次のステップS3へ進み、ステップS3でAD変換器から0.6秒間データを受け取る。次に、ステップS4で、式(1)により受け取ったデータを位相に変換する処理を行う。
p(t)=tan-1{y(t)/x(t)} (1)
式(1)中、t:時間
x(t):入力データ(μV)
y(t):x(t)をヒルベルト変換した信号
p(t):x(t)の瞬時位相(rad)
ただし、閉区間[0,2π)内の値とする。
【0029】
次に、ステップS5で、予め設定された位相の時刻と同期したパルス信号をさせする。次いで、パルス信号の平均周期から式(2)で待機時間Tを算出する(ステップS6)。
【数1】
式(2)中、T:待機時間(s)
Tmi:パルス平均周期(s)
Ds:システム遅れ時間(s)
(システム遅れ時間は、AD変換器及びフィルタ、コンピュータ(制御手段40)の特性によって異なるが、0.1秒前後となる。)
【0030】
次いで、脳波の測定開始からT秒待機した後、視覚刺激装置30へ刺激命令の信号を出力する(ステップS7)。刺激は白黒の市松模様の明度を反転させるパターンリバーサル刺激を利用している(図6参照)。市松模様の1つの格子の大きさは1辺5.2mmの正方形とし、格子数は縦・横ともに24マス×24マスとする。パターン全体は、1辺が12.5cmの正方形となる。被験者Pはこの視覚刺激装置30(ディスプレイ)から60cm程度離れて刺激パターンを見るものとし、刺激パターンの中央部付近を見るように指示される。反転させる時刻を刺激時刻として、この時刻はプログラムで制御され、アルファ波の位相によって決まるが、結果的には平均でおよそ1秒間に1回程度の頻度で反転する。白い部分の光の強さが、80カンデラ/平方メートル程度になるようにディスプレイを事前に調節しておく。図7は本発明の刺激印加時刻の一例を示しており、図7に示すように、被験者Pの脳波を測定する際に、アルファ波の所定の位相に合わせて被験者Pに視覚刺激を与える。
【0031】
そして、視覚刺激と同時に被験者Pの脳波(視覚誘発電位)の測定を行う。実際の測定データを図8に示している。
【0032】
本発明の視覚誘発電位の測定方法と従来の測定方法で、比較実験を行った。比較実験では、被験者Pを若年健常者4名(22歳~24歳)に対して、一般的な方法で視覚誘発電位(VEP)を測定した。脳波電極の配置は、国際10-20法のPz、Oz、O1、O2とし(図9参照)、接地電極は前頭部、基準電極は右耳朶とし、単極導出によって脳波を測定した。この場合、電極は銀製の皿電極である。デジタル脳波計(g.USBamp、g.tec社、オーストリア)により、脳波を増幅し、AD変換した。AD変換後のデータはパーソナルコンピュータに保存した。サンプリング周波数は256Hz、測定時のアンチエイリアスフィルタは100Hzのローパスフィルタとした。
【0033】
比較実験でも視覚刺激装置40には、パターンリパーサル刺激を用いた。刺激のタイミング以外は、上述した同様なデータ処理方法で行った。刺激頻度は1秒間に1回として、1セットは50回とした。これを一人の被験者につき30セット実施した。結果として刺激回数1500回分の脳波を取得した。
【0034】
次に、手順(1)として、1500回のデータの内、ランダムに250回分を抽出し、加算平均処理を実施し、視覚誘発電位(VEP)を算出した(図8参照)。ここではVEP波形のもっとも顕著な特徴と言えるP100の値(電圧値)を真値とした。P100は、光による刺激の後、約100ms秒後に現れる波形であり、臨床検査でも利用されている。
【0035】
手順(2)として、250回分データからランダムにデータを間引き、200回分、150回分、100回分、50回分のデータセットをそれぞれ作成した。またそれぞれのデータセットを使って、視覚誘発電位(VEP)を加算平均処理により算出し、同じ時刻(刺激から約100ms秒後)の電圧値を抽出した。それぞれ電圧値を真値と比較し、割合を算出した。本実施形態ではこれをSN比とした。真値のSN比は100%として、例えば、真値の半分の電圧値(ピーク値)しかなかった場合は50%とした。
【0036】
4名の被験者Pの視覚誘発電位(VEP)を計算し、シグナル(VEP)とノイズの比率(SN比)を計測した。ランダム抽出による結果の偏りを抑えるため、手順(1)から手順(2)を100回繰り返し、SN比を平均して算出した。その結果、図10に示すように、データの回数(加算回数)が少なくなるとSN比が下がることが確認できた。加算回数が100回~150回の場合、13%~32%程度SN比が改善されることが分かった。図10中の「*」は統計処理により危険率5%で有意であると判定されたことを表す。
【0037】
上述したように、事前の2~3分の視覚誘発電位(VEP)測定を実施し、その結果から、位相を被験者Pごとに適切に選んで、被験者Pごとに固定した場合は従来の測定法よりSN比で30%程度向上できることが示されている。
【0038】
このように本実施形態においては、視覚誘発電位の測定装置100は、被験者Pに装着した電極により被験者Pの脳波を測定する脳波計10と、脳波信号を処理する信号処理部20と、脳波計10により検出する際に被験者Pに視覚刺激を与える視覚刺激装置30と、脳波計10により検出した被験者Pの自発脳波の一種であるアルファ波に基づいて視覚刺激装置30の動作タイミングを制御する制御手段40とを備えている。
【0039】
視覚誘発電位(VEP)を測定する際に、事前に2~3分の視覚誘発電位(VEP)測定を実施し、その結果から、位相を被験者Pごとに適切に選ぶようにする。即ち、検出したアルファ波の位相に基づいてアルファ波の所定の位相に合わせて被験者Pに視覚刺激を与えると共に、被験者Pの脳波を計測することにより、アルファ波の特定の位相に合わせて(一定の脳活動の状態の時だけに)視覚誘発電位(VEP)を発生させることができ、ノイズを少なくすると共に、加算回数が少なくても視覚誘発電位(VEP)をできる。そのため、測定時間を短縮し、被験者P及び検者の負担を低減することができる。
【0040】
なお、上述した実施の形態においては、事前に2~3分の視覚誘発電位(VEP)測定を実施する例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。3分より長い時間に設定するようにしてもよい。
【0041】
以上述べた実施形態は本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の視覚誘発電位の測定方法は、脳波測定の測定時間を短縮し、効率化を図ることで被験者及び検者の負担を低減する目的に利用できる。
【符号の説明】
【0043】
10 脳波計
20 信号処理部
21 増幅回路
22 バンドパスフィルタ
23 AD変換器
30 視覚刺激装置
31 刺激パターン
40 制御手段
100 視覚誘発電位の測定装置
P 被験者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11