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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】植生マットおよび設置構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
E02D17/20 102B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020059797
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156109
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000226747
【氏名又は名称】日新産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友人
(72)【発明者】
【氏名】石田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】長沼 寛
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-309581(JP,A)
【文献】特開2008-196208(JP,A)
【文献】特開平10-140571(JP,A)
【文献】特開2017-198050(JP,A)
【文献】特開2017-206824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌に敷設され、縦横に延在する植生マットであって、
柔軟性を有する底層シートと、
前記底層シートの表面側に結合された、柔軟性を有する表層シートと、
植生材料を内包する袋状または筒状の袋体を充填すべく、前記底層シートと前記表層シートとの間に設けられ、各々が横方向に延びるとともに縦方向に配列する複数の長筒部と、
前記複数の長筒部と交互に縦方向に配列し、隣接する長筒部を連結する複数の連結部と、
前記袋体から流出した植生材料を保持するように、前記袋体の外面と前記長筒部の内面と間に介在する保持部と、を備え、
前記袋体を前記各長筒部に充填したときに、前記表層シートの変形に伴う前記底層シートの変形を抑えるように、前記各長筒部の縦方向に沿った断面視において、前記表層シートの長さが前記底層シートの長さよりも大きいことを特徴とする植生マット。
【請求項2】
前記各連結部の縦方向に沿った断面視において、前記表層シートの長さが前記底層シートの長さと略同一であることを特徴とする請求項1に記載の植生マット。
【請求項3】
前記表層シートおよび前記底層シートは、ネット体であることを特徴とする請求項1または2に記載の植生マット。
【請求項4】
前記表層シートは、前記底層シートよりも厚手の素材で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の植生マット。
【請求項5】
前記底層シートの裏面側に配置される種子付シートをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の植生マット。
【請求項6】
土壌に敷設され、縦横に延在する植生マットであって、
柔軟性を有する底層シートと、
前記底層シートの表面側に結合された、柔軟性を有する表層シートと、
植生材料を内包する袋状または筒状の袋体を充填すべく、前記底層シートと前記表層シートとの間に設けられ、各々が横方向に延びるとともに縦方向に配列する複数の長筒部と、
前記複数の長筒部と交互に縦方向に配列し、隣接する長筒部を連結する複数の連結部と、
前記袋体から流出した植生材料を保持するように、前記袋体の外面と前記長筒部の内面と間に介在する保持部と、を備えることを特徴とす植生マット。
【請求項7】
土壌に敷設され、請求項1からのいずれか一項に記載の植生マットと、
前記植生マットの各長筒部に収容された複数の袋体と、を備え、
前記植生マットの表層シートが縦方向に波状に隆起するように変形するととともに、底層シートが平面全体に亘って土壌の表面形状に沿っていることを特徴とする設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面、斜面、その他の緑化すべき土壌表面に敷設されて土壌緑化を促進するための植生マット、および、該植生マットの設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
各種法面や新規造成地等の施工面においては、その緑化を積極的に行って、法面等の景観や環境を保全すると共に土砂の流失を防止することが行われている。従来、土、種子、肥料、保水材などの植生材料(または植生基材)を保持する植生マットが土壌にアンカーなどを用いて固定されることにより、緑化が行われている。
【0003】
特許文献1は、法面の安定緑化を図るための植生用マットを開示する。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。植生用マット(1)は、植物繊維よりなる厚手のマット(3)と、腐食性の薄手のシート(4)とからなる。マット(3)とシート(4)との間に、植生基材(51)を充填した水溶性素材よりなる袋体(5)が並列に配置される。袋体(5)には、種子、肥料、土壌改良材、保水材に撥水抑制材を加えた植生基材(51)が充填される。隣接する袋体(5)の間において、マット(3)とシート(4)とが締結部材(6)によって固定される。植生用マット(1)が敷設された状態では、植生袋(5)が厚手のマット(3)に覆われていることにより、法面(2)に対する植生基材(51)の密着性がよく、水溶性の植生袋(5)が溶失してしまった後も植生基材(51)を流亡させることなく法面(2)に安定に定着させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2784760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような従来の植生用マット(以下、植生マット)では、表層側のマットと土壌側のシートとで袋体を保持する際、マットおよびシートの両方が袋体の外形状に沿って波状に変形する。そのため、植生マットを土壌に敷設した際、植生マットが土壌表面から浮き上がって、隣接する袋体の間で植生マット裏面と土壌表面との間に隙間が生じることが避けられない。そして、植生マット敷設後の約1ヶ月、経時後の早期の植生状態について、袋体の間の隙間が生じた領域において、植生植物の被覆率が他の箇所と比べて明らかに低いことが、発明者らによって観測されている。そこで、発明者らは、袋体間の領域における植生植物の被覆率を改善し、土壌緑化をより迅速且つ効果的に行うことを可能とすることを本発明の課題とした。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、土壌緑化をより迅速かつ効果的に行うことを可能とする植生マットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態の植生マットは、土壌に敷設され、縦横に延在する植生マットであって、
柔軟性を有する底層シートと、
前記底層シートの表面側に結合された、柔軟性を有する表層シートと、
前記底層シートと前記表層シートとの間に設けられ、各々が横方向に延びるとともに縦方向に配列する複数の長筒部と、
前記複数の長筒部と交互に縦方向に配列し、隣接する長筒部を連結する複数の連結部と、を備え、
植生材料を内包する袋状または筒状の袋体を前記各長筒部に充填したときに、前記表層シートの変形に伴う前記底層シートの変形を抑えるように、前記各長筒部の縦方向に沿った断面視において、前記表層シートの長さが前記底層シートの長さよりも大きいことを特徴とする。
【0008】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記各連結部の縦方向に沿った断面視において、前記表層シートの長さが前記底層シートの長さと略同一であることを特徴とする。
【0009】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態のの植生マットにおいて、前記表層シートおよび前記底層シートは、ネット体であることを特徴とする。
【0010】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記表層マットは、前記底層マットよりも厚手の素材で形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記底層シートの裏面側に配置される種子付シートをさらに備えることを特徴とする。
【0012】
本発明のさらなる形態の植生マットは、上記形態の植生マットにおいて、前記袋体から流出した植生材料を保持するように、前記袋体の外面と前記長筒部の内面と間に介在する保持部をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の一形態の設置構造は、土壌に敷設され、上記形態の植生マットと、
前記植生マットの各長筒部に収容された複数の袋体と、を備え、
前記植生マットの表層シートが縦方向に波状に隆起するように変形するととともに、底層シートが平面全体に亘って土壌の表面形状に沿っていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一形態(第0007段落)の植生マットによれば、各長筒部の縦方向に沿った断面視において、表層シートの長さが底層シートの長さよりも大きいことにより、各長筒部に袋体を充填したときに、表層シートを優先的に変形させて長筒部を膨らませることで、底層シートの変形を効果的に抑えることができる。そして、植生マットを土壌に敷設して長筒部に袋体を充填した際、長筒部の表層シートのみを底層シートから独立して変形させ、底層シートを土壌表面に沿うように維持し、植生マットの裏面が土壌表面から浮き上がらないように植生マットを敷設することが可能となる。すなわち、本発明の植生マットは、土壌への敷設の際、植生マットと土壌表面との間の隙間を軽減させることにより、植生植物の活着性の低下を抑え、袋体間の領域における植生植物の被覆率を改善したものである。さらに、本発明の植生マットによれば、土壌への敷設の際、植生マットと土壌表面との間の密着性が向上することにより、表面雨水の流速軽減効果が向上し、土壌の浸食防止の効果も発揮することができる。したがって、本発明の植生マットは、土壌緑化をより迅速かつ効果的に行うことを可能とする。
【0015】
本発明のさらなる形態(第0008段落)の植生マットによれば、上記発明の効果に加えて、各連結部の縦方向に沿った断面視において、表層シートの長さが底層シートの長さと略同一であることにより、表層シートおよび底層シートを密着させて連結部を1枚のシートのように配置することができる。すなわち、土壌への植生マットの敷設の際、連結部は、表層シートおよび底層シートからなるより厚いシートとして土壌の保護能力を効果的に発揮することができる。
【0016】
本発明のさらなる形態(第0009段落)の植生マットによれば、上記発明の効果に加えて、表層シートおよび底層シートをネット体としたことにより、植生マットを軽量化し、その取り扱い性を改善することができる。
【0017】
本発明のさらなる形態(第0010段落)の植生マットによれば、上記発明の効果に加えて、表層マットが底層マットよりも厚手の素材で形成されていることにより、表層マットが土壌表面を保護するように機能し、底層マットが袋体の土壌表面への密着性を確保するように機能する。
【0018】
本発明のさらなる形態(第0011段落)の植生マットによれば、上記発明の効果に加えて、底層シートの裏面側に種子付シートが配置されたことにより、土壌表面の緑化を促進することが可能である。
【0019】
本発明のさらなる形態(第0012段落)の植生マットによれば、上記発明の効果に加えて、袋体から植生材料が流出したときに、保持部が植生材料を保持することにより、植生材料を長筒部の内部により長く留めることが可能となる。
【0020】
本発明の一形態(第0013段落)の設置構造によれば、上記形態の植生マットに係る発明の効果を設置構造として発揮することができる。すなわち、本発明の設置構造では、植生マットの表層シートが縦方向に波状に隆起するように変形するととともに、底層シートが平面全体に亘って土壌の表面形状に沿っていることにより、植生マット裏面が土壌表面に接地して、植生植物の活着性の低下を抑え、袋体間の領域における植生植物の被覆率を改善したものである。さらに、本発明の設置構造によれば、植生マットと土壌表面との間の密着性が向上したことにより、表面雨水の流速軽減効果が向上し、土壌の浸食防止の効果も発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態の植生マットの概略斜視図。
図2図1の植生マットの部分拡大斜視図。
図3図1の植生マットの(a)平面図および(b)底面図。
図4図3の植生マットのA-A断面図。
図5図1の植生マットを法面の土壌表面に設置した直後の設置構造を示す模式図。
図6図5の設置構造から経時した後の設置構造を示す模式図。
図7】本発明の従来例の植生マットを法面の土壌表面に設置した直後の設置構造を示す模式図。
図8図7の設置構造から経時した後の設置構造を示す模式図。
図9】本発明の植生マットに係る実証試験による設置直後の設置構造の(a)全体写真、(b)実施例の拡大写真および(c)比較例の拡大写真。
図10】本発明の植生マットに係る実証試験による設置22日後の設置構造の(a)全体写真、(b)実施例の拡大写真および(c)比較例の拡大写真。
図11】本発明の植生マットに係る実証試験による設置30日後の設置構造の(a)全体写真、(b)実施例の拡大写真および(c)比較例の拡大写真。
図12】本発明の変形例の植生マットの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状寸法を説明する上での概念図または概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0023】
本実施形態の植生マット100は、土壌表面を植生植物で緑化すべく土壌に敷設される。植生植物は、例えば、牧草類や在来植物等を種子から導入してもよく、または周辺に自生する植物の自然侵入を促してもよい。また、植生マット100は、法面の土壌表面に敷設されることによって、法面の景観の改善や土砂の流出防止の効果を発揮することも目的とする。しかしながら、本発明の植生マット100は、法面以外のいかなる土壌表面において使用されてもよい。さらに、本明細書の「土壌」は、軟岩、礫質土などのあらゆる種類の地面を含むものである。また、本明細書の「植生材料」は、植生に用いられる材料であって、種子、肥料、土壌改良材、保水材、撥水抑制材、土砂、生育基盤材などを少なくとも1つ含むものである。
【0024】
本実施形態の植生マット100は、緑化すべき土壌を被覆可能に縦横に所定の大きさおよび所定の厚みを有し、縦横に延在する平面形状を有する柔軟なマットである。図1乃至図4を参照して、植生マット100の構成要素について説明する。図1は、本発明の一実施形態の植生マット100の概略斜視図である。図2は、該植生マット100の部分拡大斜視図である。図3(a),(b)は、該植生マット100の平面図および底面図である。図4は、該植生マット100のA-A断面図である。なお、本明細書では、植生マット100が法面に敷設されたときに法面の傾斜方向に沿う方向を「縦」方向とし、法面の等高線方向に沿う方向を「横」方向として定義する。さらに、植生マット100が法面に敷設されたときに法面の法肩側(上方または高所側)に配置される側を「上」位置とし、法面の法尻側(下方または低所側)に配置される側を「下」位置として定義する。
【0025】
植生マット100は、植生植物で緑化される土壌と反対側に設置される表面、および、土壌側に設置される裏面を有している。当該植生マット100は、柔軟性を有する底層シート101と、該底層シート101の表面側に結合された、柔軟性を有する表層シート102と、該底層シート101の裏面側に結合された、柔軟性を有する種子付シート105とを備える。すなわち、植生マット100は、裏面側から種子付シート105、底層シート101および表層シート102の3層構造を有する。そして、植生マット100は、底層シート101および表層シート102の間に、植生材料を内包する袋状または筒状の袋体110を保持するように構成され、土壌の緑化を確実に行うものである。本実施形態では、袋体110は、生育基盤材を内包する植生袋であるが、肥料を主に含む肥料袋等であってもよい。図1乃至4は、説明の便宜上、袋体110を保持した状態の植生マット100を示している。本実施形態では、袋体110の外袋は、植生植物の根が通過することを許容する通根性を有し、且つ、設置後に1から数回の降雨によって分解する水解性を有する素材で形成された。また、図1に示すように、植生マット100は、縦方向に長尺であり、(袋体110を抜いた状態で)ロール状に巻いて収容され得る。当該植生マット100を法面に敷設する場合、植生マット100の一旦を法面の法肩側で支持し、ロール部分を法尻側に転がすようにして植生マット100を展開することで、植生マット100を法面に簡単に設置することが可能である。
【0026】
底層シート101は、平面状に延在し、縦糸および横糸を略直交に編み込んで形成したネット体(または網状体)から構成されている。底層シート101は、植生マット100の敷設が完了するまで、その形状を維持可能な程度の強度を有していればよい。また、底層シート101は、袋体110の土壌表面または種子付シート105との密着性を上げるためにできるだけ薄手であることが好ましい。本実施形態では、底層シート101は、(本発明の限定を意図しないが、)直径約1~2mmの麻繊維を約5mm~20mmの目合いに編んだものである。薄手の麻ネットは、植生マット100の設置後の経時とともに分解され易い。なお、底層シート101は、薄手の麻ネットの代わりに、薄手の樹脂ネットで形成されてもよい。また、ネットの編み方は、当該実施形態に限定されず、任意に変更されてもよい。
【0027】
表層シート102は、平面状に延在し、縦糸および横糸を略直交に編み込んで形成したネット体(または網状体)から構成されている。表層シート102は、ステープル、Cリングなどの複数の締結部材106によって底層シート101に結合されている。なお、締結部材106のよる締結の代わりに接着剤を用いて、表層シート102が底層シート101に接着されてもよい。表層シート102は、植生マット100自体の強度を確保するとともに、土壌表面を保護するために十分な厚みを有していることが好ましい。また、表層シート102は、導入する植生植物の発芽を阻害しない目合いを有していることが好ましい。本実施形態では、表層シート102は、(本発明の限定を意図しないが、)直径約5~10mmのヤシ繊維を約10mm~30mmの目合いに編んだものであり、底層シート101よりも厚手の素材で形成されている。厚手のヤシネットは、薄手の麻ネットよりも分解され難いので、植生マット100の設置後に長期的に土壌を覆って、土壌表面を保護することが可能である。なお、表層シート102は、厚手のヤシネットの代わりに、金網、厚手の麻ネット、厚手の樹脂ネットで形成されてもよい。また、ネットの編み方は、当該実施形態に限定されず、任意に変更されてもよい。
【0028】
種子付シート105は、複数の種子が貼り付けられた、平面状に延在するシート体から構成されている。種子付シート105は、接着剤等の任意の結合手段(図示せず)によって底層シート101の裏面に接合される。本実施形態では、種子付シート105は、紙、織布または不織布から形成されている。種子付シート105の寸法形状は、底層シート101の寸法形状とほぼ等しい。また、種子付シート105は、水解性(水溶性、水脆弱性)シートで形成され得る。水解性シートは、降雨により水解する、または、水溶する等、設置後に短期間(1~数回の降雨)で容易にその形状や強度を失うことができるものである。例えば、水解性の不織布および織布は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ乳酸、レーヨン、コットン、または、これらの混合物を、水溶性の接着剤(ポリビニルアルコール、PVA)等で結合したものである。
【0029】
また、植生マット100は、 底層シート101と表層シート102との間に設けられ、各々が横方向に延びるとともに縦方向に配列する複数の長筒部103と、該複数の長筒部103と交互に縦方向に配列し、隣接する長筒部103を連結する複数の連結部104と、を備える。複数の締結部材106が横方向に列をなし、当該締結部材106の列の間に長筒部103および連結部104が縦方向に交互に定められる。
【0030】
各長筒部103は、2枚のネットが重ね合わされた袋状に形成されている。そして、各長筒部103は、その長手方向が植生マット100の横方向に沿うように一端から他端に亘って延在している。該長筒部103の長手方向の端部の一端または両端が開口し、筒状の袋体110を挿入可能に構成されている。図4に示すように、各長筒部103の縦方向に沿った断面視(長筒部103の長手方向に直交する断面)において、表層シート102の長さが底層シート101の長さよりも大きい。表層シート102の長さは、自身の変形のみで袋体110を収容可能であるように、袋体110の大きさに基づいて任意に定められる。他方、各連結部104の縦方向に沿った断面視において、表層シート102の長さが底層シート101の長さと略同一である。これにより、連結部104は、底層シート101および表層シート102を密着させて1枚のシートのように配置される。また、当該連結部104において、底層シート101および表層シート102が互いに貼り付けられてもよいし、そうでなくてもよい。なお、本実施形態では、表層シート102の縦方向の寸法形状は、底層シート101の縦方向の寸法形状の約1.1~1.3倍とした。
【0031】
表層シート102と底層シート101との間の長さの差分が変形代として機能する。つまり、袋体110を各長筒部103に充填したときに、表層シート102が優先的に表面側に膨らむように変形する一方で、底層シート101がその平面形状を維持することが可能である。そして、長筒部103は、膨らんだときに断面略半円状の筒形状を有し、表層シート102の変形に伴って底層シート101が変形することが抑えられる。
【0032】
また、長筒部103の(長手方向に直交する)断面視において、袋体110の外袋の下側外面と長筒部103の内面と間に、袋体110内部の植生材料を保持するための保持部111が介在している。保持部111は、長筒部103または袋体110の長手方向に亘って延在する、断面視円弧状またはカップ状を有する長尺片である。保持部111は、袋体110の水解性の外袋とは異なり、非水解性の素材から構成されている。保持部111は、例えば、麻シート、ヘッシャン、綿シート、密目の樹脂ネット等から形成され得る。保持部111は、袋体110の外袋が水解した後、植生材料の長筒部103からの流出を抑え、植生材料を長筒部103内部に長期間留めるように機能する。保持部111は、袋体110の外袋外面に貼り付けられてもよく、あるいは、長筒部103の法尻側の内面に貼り付けられてもよい。
【0033】
次に、本実施形態の植生マット100を法面Gの土壌表面に敷設した設置構造10について説明する。本実施形態の植生マット100および設置構造10の特徴を従来例と対比して説明するために、まず、図7および図8を参照して、従来の植生マット2およびその設置構造1について説明し、次いで、図5および図6を参照して設置構造10について説明する。
【0034】
図7は、従来例の植生マット2を法面Gの土壌表面に設置した直後の設置構造1を示す。従来例の植生マット2は、同じ縦横寸法の底層シート3および表層シート4を単純に重ね合わせて締結部材9で締結したものである。また、底層シート3の裏面には、種子付シート7が設けられている。底層シート3および表層シート4の間に、袋体8を収容するための長筒部5が形成される。隣接する各長筒部5は連結部6によって連結される。各長筒部5に袋体8を充填すると、各長筒部5の底層シート3および表層シート4の両方が膨らむように変形する。そして、底層シート3および表層シート4の両方が縦方向全体に亘って波状に隆起する。その結果、当該設置構造1では、図7に示すように、各長筒部5の最も膨出した部位のみが土壌表面に接触し、連結部6などの他の部位が土壌表面から浮き上がってしまう。このように、植生マット2と土壌表面との間に隙間が存在すると、雨水等による流水が土壌表面上を流れ、その流速が十分に軽減されず、土壌の浸食や種子の流出を抑えることができない。また、網状の植生マット2が土壌表面から浮いていると、土壌から伸び出た植生植物が網目に絡み取られて、成長が阻害される虞もある。その結果、図8に示すように、植生植物Pは、袋体8を保持する長筒部5には繁茂し易いが、長筒部5以外の部位(特に、連結部6)では植生植物Pの被覆率が低くなることが避けられない。すなわち、従来型の植生マット2では、マット全体として、植生植物Pによる被覆効果が十分に発揮されないことが分かっている。
【0035】
これに対し、図5は、本実施形態の植生マット100を法面Gの土壌表面に設置した直後の設置構造10を示す模式図である。図5に示す設置構造10において、1または複数の植生マット100が法面Gの土壌表面にアンカー等(図示せず)で固定されている。設置構造10において、植生マット100の縦方向が法面Gの傾斜方向に沿うとともに、横方向が法面Gの等高線方向に沿うように植生マット100が法面Gに設置されている。すなわち、複数の長筒部103が傾斜方向に並列している。各長筒部103には、植生植物の種子や植生材料を内包する袋体110が収容されている。なお、設置方法について、予め袋体110を長筒部103に保持する植生マット100を法面Gに敷設してアンカー等で固定することで、設置構造10を構築することができる。あるいは、法面Gに植生マット100を敷設してアンカー等で固定し、各長筒部103に袋体110を詰めることで、設置構造10を構築することもできる。
【0036】
図5に示すように、植生マット100の各長筒部103が袋体110を収容して膨らんでいる。長筒部103において、底層シート101が(土壌表面に沿って)略直状に延びているとともに、表層シート102が円弧状に膨らんでいる。また、連結部104において、底層シート101および表層シート102が(土壌表面に沿って)略直状に延びている。つまり、連結部104は、長筒部103の変形に伴う張力を受けていない。すなわち、植生マット100の表層シート102が縦方向に波状に隆起するように変形するととともに、底層シート101が平面全体に亘って土壌の表面形状に沿っている。そして、植生マット100全体において、底層シート101および種子付シート105の裏面が、法面Gの土壌表面に対してほぼ隙間なく密着し、土壌表面を保護している。また、底層シート101が土壌表面からほとんど浮いていないので、土壌から伸び出た植生植物が網目に絡み取られることもない。すなわち、本実施形態の設置構造10では、植生マット100の土壌表面への密着性が確保されることにより、植生植物の定着が促進するとともに、雨水等による土壌表面を流れる流水の流速が軽減される。その結果、土壌の浸食や種子の流出防止効果が発揮される。
【0037】
図6は、図5の設置構造10から経時した後の設置構造10を示す模式図である。本実施形態では、袋体110の外袋および種子付シート105が水解性シートで形成されていることから、経時後の降雨によって消失している。他方、袋体110の下方に位置する非水解性の保持部111が残存し、植生材料の流出を抑えるように植生材料を保持している。そして、経時後の設置構造10では、植生マット100の裏面全体が土壌表面に密着していることにより、図6に示すように、植生植物Pが植生マット100全体に亘って繁茂している。すなわち、本実施形態の設置構造10は、植生マット100の長筒部103および連結部104の全体に亘って法面Gを効果的に緑化している。
【0038】
発明者らは、上述した本発明の植生マットの作用効果を確認するために実証試験を行った。実証試験は、外部からの立ち入りが禁止された敷地内において、植生植物で法面の土壌緑化を試み、その経時的な結果を観察することによって実施された。実施例の植生マットは、上記実施形態の植生マット100と同様の構成とした。比較例の植生マットは、図7で説明した従来の植生マットと同様の断面形状を有するように、同じ縦横寸法の網状の底層シートおよび網状の表層シートを重ね合わせたものであり、底層シートの裏面側に、実施例と同様の種子付シートを配置したものである。また、比較例の植生マットの底層シートおよび表層シートは、樹脂製の2枚のネット体を結合したものであり、長筒部の下側の目合いが上側の目合いよりも細かくなっている。長筒部の下側の密な目合いは、上記実施形態の保持部111と同様に、植生材料を保持するように機能する。
【0039】
図9(a)~(c)は、本発明の植生マットに係る実証試験による設置直後の設置構造の全体写真、実施例の拡大写真および比較例の拡大写真である。図9(a)に示すように、比較条件をなるべく近付けるべく、実施例の植生マットおよび比較例の植生マットを法面の隣接した場所に設置した。図9(a)の左側が、実施例を示し、右側が比較例を示している。図9の設置構造から22日、30日経時後の植生植物の被覆率について視覚的に観察するとともに、連結部の生育本数(本/平方メートル)、平均草丈(cm)を測定した。連結部は、太線で包囲された領域として例示され、複数箇所の連結部で各種データが採取された。なお、実施例と比較例とでは、底層シートおよび表層シートの目合いや材質が相違するが、植生植物の生育には大きな影響を及ぼさないと考えられる。
【0040】
図10(a)~(c)は、設置から22日経過した後の設置構造の全体写真、実施例の拡大写真および比較例の拡大写真である。図10(b)に示すように、実施例では、経時によって、袋体の外袋および種子付シートが瓦解し、長筒部において中身の植生材料が露出している。一方で、保持部が長筒部内の法尻側に位置し、植生材料を保持している。実施例では、連結部において地肌の露出を確認できるが、土壌の約60%が植生植物に被覆されている。図10(c)に示すように、比較例では、経時によって、袋体の外袋および種子付シートが瓦解し、長筒部において中身の植生材料が露出している。一方で、長筒部の下側の密部が、植生材料を法尻側から保持している。比較例では、連結部において地肌の露出が多く確認でき、土壌の約20%しか植生植物に被覆されていない。図10によれば、設置から22日経過後の設置構造において、実施例が比較例よりも高い被覆率を示していることが分かる。
【0041】
図11(a)~(c)は、設置から30日経過した後の設置構造の全体写真、実施例の拡大写真および比較例の拡大写真である。図11に示すように、実施例では、連結部において地肌の露出がほぼ見られず、土壌のほぼ100%が植生植物に被覆されている。比較例では、連結部において地肌の露出が確認でき、土壌の約50%しか植生植物よる被覆が進んでいない。図11によれば、設置から30日経過後の設置構造において、実施例が比較例よりも高い被覆率を示していることが分かる。
【0042】
すなわち、実施例の植生マットは、比較例の植生マットと比べて、連結部において植生植物による高い被覆率を示している。また、実施例の方が比較例と比べて、植生植物が密に生えており、その草丈も大きいことを視覚的に確認することができる。
【0043】
以下の表は、植生マットの連結部における生育本数、平均草丈の観測結果を示している。観測は、実施例および比較例について、複数箇所の連結部を任意に選択し、単位面積当たりの植生植物の本数を数え、各植生植物の草丈を計測することよって行われた。測定結果によれば、実施例の植生マットの生育本数および平均草丈は、比較例の植生マットの生育本数および平均草丈の約2倍である。実施例の植生マットは、設置後約1ヶ月の段階で、植生植物の密度および成長の点において良好な結果を示している。すなわち、この試験によって、本発明の植生マットの導入により、従来よりも法面をより早く緑化することが可能であるとともに、袋体間の領域における植生植物の被覆率が大幅に改善されたことが実証された。
【0044】
【表1】
【0045】
以下、本発明の一実施形態の植生マット100の作用効果について説明する。
【0046】
本実施形態の植生マット100によれば、各長筒部103の縦方向に沿った断面視において、表層シート102の長さが底層シート101の長さよりも大きいことにより、各長筒部103に袋体110を充填したときに、表層シート102を優先的に変形させて長筒部103を膨らませることで、底層シート101の変形を効果的に抑えることができる。そして、植生マット100を土壌に敷設して長筒部103に袋体110を充填した際、長筒部103の表層シート102のみを底層シート101から独立して変形させ、底層シート101を土壌表面に沿うように維持し、植生マット100の裏面が土壌表面から浮き上がらないように植生マット100を敷設することが可能となる。また、各連結部104の縦方向に沿った断面視において、表層シート102の長さが底層シート101の長さと略同一であることにより、表層シート102および底層シート101を密着させて1枚のシートのように連結部104を配置することができる。土壌への植生マット100の敷設の際、連結部104は、表層シート102および底層シート101からなるより厚いシートとして土壌の保護能力を効果的に発揮することができる。すなわち、本実施形態の植生マット100は、土壌への敷設の際、植生マット100と土壌表面との間の隙間を軽減させることにより、植生植物Pの活着性の低下を抑え、袋体110間の領域における植生植物Pの被覆率を改善したものである。さらに、本実施形態の植生マット100によれば、土壌への敷設の際、植生マット100と土壌表面との間の密着性が向上することにより、表面雨水の流速軽減効果が向上し、土壌の浸食防止や種子等の流出防止の効果も発揮することができる。したがって、本実施形態の植生マット100は、法面Gの土壌緑化をより迅速かつ効果的に行うことを可能とする。
【0047】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の実施形態や変形例を取り得る。以下、本発明の別実施形態を説明する。なお、各図面において、符番が共通する構成要素に関しては、特別な説明がない限り、同一または類似の特徴を有する。
【0048】
(1)本発明の植生マットの構成は、上記実施形態に限定されない。図12は、本発明の別実施形態の植生マット200の概略斜視図である。植生マット200は、柔軟性を有する底層シート201と、該底層シート201の表面側に結合された、柔軟性を有する表層シート202とを備える。底層シート201と表層シート202との間には、各々が横方向に延びるとともに縦方向に配列する複数の長筒部203が設けられている。袋体210を各長筒部203に充填したときに、表層シート202の変形に伴う底層シート201の変形を抑えるように、各長筒部203の縦方向に沿った断面視において、表層シート202の長さが底層シート201の長さよりも大きい。また、植生マット200には、該複数の長筒部203と交互に縦方向に配列し、隣接する長筒部203を連結する複数の連結部204が設けられている。各連結部204の縦方向に沿った断面視において、表層シート202の長さが底層シート201の長さと略同一である。
【0049】
別実施形態の植生マット200では、底層シート201および表層シート202は、一実施形態の植生マット100と異なる形態の樹脂製ネットで形成されている。具体的には、長筒部203は、目が粗い粗部203a、および、目が細かい密部203bを組み合わせてなる。なお、粗部203aおよび密部203bは、縦横両方またはいずれかの目の大きさが相対的に異なる領域として定められている。粗部203aは、植生マット100の平面視において、長筒部203の長手方向に直交する幅方向の一端側に偏って形成されている。特には、マット平面における縦方向の略上側半分を粗部203aが占め、残りの略下側半分を密部203bが占めている。これにより、植生マット100が法面に敷設されたときに、長筒部203の外周の一部を占める粗部203aが植生マット200の上側に位置し、長筒部203の外周の残りを占める密部203bが下側に位置する。本実施形態では、粗部203aの目合いの大きさが、縦横約20mm×約12.5mmであり、密部203bの目合いの大きさが、縦横約3mm×約12.5mmであるが、本発明は特定の寸法に限定されるものではない。
【0050】
当該植生マット200が法面に設置されたとき、この長筒部203の下側約半分の密部203bによって袋体210を保持するようにしたので、袋体210の外袋が水解して消失しても、内容物の植生材料が保留されたままとなる。つまり、網目を細かく形成した下側約半分の密部203bが植生材料を法面から流出させないように受け止める。他方、法面の法肩側の網目が粗いので、植生植物Pの発芽および成長がネットによって邪魔されることがない。すなわち、本発明の植生マットは、他の技術構成と組み合わせて用いられて、さらなる効果を発揮することができる。
【0051】
(2)上記実施形態では、底層シートは、麻ネットから構成されたが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、底層シートは、少なくとも設置が完了するまで形状を維持できればよく、水解性または水溶性材料から形成されてもよい。
【0052】
(3)上記実施形態の植生マットは、長筒部を含むネット体の層によって形成されたが、本発明はこれに限定されない。例えば、底層シートおよび表層シートの少なくとも一方は、不織布または織布シートで構成されてもよい。
【0053】
(4)上記実施形態の植生マットは、底層シートの裏面側に種子付シートを備えるが、本発明において、種子付シートが省略されてもよい。また、種子付シートは、植生マットではなく、法面などの土壌表面に直接敷設されてもよい。
【0054】
(5)上記実施形態で図示した植生マットでは、連結部において、表層シートと底層シートとが重なり合うように描写されているが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、表層シートが金網などの比較的硬質な材料である場合、土壌に設置した際、表層シートが土壌形状に沿って十分に変形せずに、表層シートが底層シートから浮き上がってしまうことがある。本発明は、このような形態をも、その技術的範囲に包含するものである。すなわち、本発明では、連結部において表層シートおよび底層シートが離れて形成されてもよい。
【0055】
なお、本発明は上述した複数の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0056】
10 設置構造
100 植生マット
101 底層シート
102 表層シート
103 長筒部
104 連結部
105 種子付シート
106 締結部材
110 袋体
111 保持部
P 植生植物
G 法面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12