(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】硫酸カリウムの製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
C01D 5/00 20060101AFI20240111BHJP
C05D 1/02 20060101ALN20240111BHJP
C07C 29/80 20060101ALN20240111BHJP
C07C 31/22 20060101ALN20240111BHJP
【FI】
C01D5/00 Z
C05D1/02
C07C29/80
C07C31/22
(21)【出願番号】P 2020549178
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037141
(87)【国際公開番号】W WO2020059886
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018176646
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510238627
【氏名又は名称】バイオ燃料技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】梶間 央士
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1724613(CN,A)
【文献】国際公開第2006/043281(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0080891(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 5/00
C07C 29/80
C07C 29/88
C07C 31/22
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸カリウムの製造方法であって、
油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生され
、グリセリン、1価アルコール、水酸化カリウム、ならびに、油脂および/または脂肪酸もしくはその塩を含む廃グリセリンを受け入れる工程と、
前記廃グリセリンを含む原料に
濃硫酸を添加し、
pHが2以下で4時間以上反応させ、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む酸性グリセリン液と、脂肪酸アルキルエステルを含む第一の油分とを分離する工程と、
前記酸性グリセリン液を、カリウムを含むアルカリ性物質により中和して、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る工程と、
前記混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する工程と、
前記グリセリン含有液から、1価アルコールを回収する工程と、
前記分離した硫酸カリウムを洗浄する工程と、
を備え、
前記洗浄工程において、前記回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄する
ことを特徴とする硫酸カリウムの製造方法。
【請求項2】
硫酸カリウムの製造方法であって、
油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生される廃グリセリンを受け入れる工程と、
前記廃グリセリンを含む原料に濃硫酸を添加し、pHが2以下の反応液を得る工程と、
前記反応液を、カリウムを含むアルカリ性物質により中和して、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る工程と、
前記混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する工程と、
前記グリセリン含有液から、1価アルコールを回収する工程と、
前記分離した硫酸カリウムを洗浄する工程と、
を備え、
前記カリウムを含むアルカリ性物質が廃グリセリンおよび/または油滓を含み、
前記洗浄工程において、前記回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄する
ことを特徴とする硫酸カリウムの製造方法。
【請求項3】
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化工程を備え、
前記第二のエステル化工程において、前記硫酸カリウムを洗浄した廃液を原料として用いる、請求項1
または2に記載の硫酸カリウムの製造方法。
【請求項4】
硫酸カリウムの製造方法であって、
油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生され、グリセリン、1価アルコール、水酸化カリウム、ならびに、油脂および/または脂肪酸もしくはその塩を含む廃グリセリンを受け入れる工程と、
前記廃グリセリンを含む原料に硫酸を添加し、グリセリン、1価アルコール、硫酸カリウム、ならびに、油脂および/または遊離脂肪酸を含む混合液を得る工程と、
前記混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する工程と、
前記グリセリン含有液から、1価アルコールを回収する工程と、
前記分離した硫酸カリウムを洗浄する工程と、
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化工程と、
を備え、
前記洗浄工程において、前記回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄し、
前記第二のエステル化工程において、前記硫酸カリウムを洗浄した廃液であって、1価アルコール、ならびに、油脂および/または遊離脂肪酸を含む廃液を原料として用いる
ことを特徴とする硫酸カリウムの製造方法。
【請求項5】
前記混合液を得る工程は、
前記廃グリセリンを含む原料に濃硫酸を添加し、pHが2以下の反応液を得る工程と、
前記反応液を、カリウムを含むアルカリ性物質により中和して前記混合液を得る工程と
を備える、請求項
4に記載の硫酸カリウムの製造方法。
【請求項6】
前記原料が酸価10mgKOH/g以上の高酸価油を含む、請求項
1~3および5のいずれか一項に記載の硫酸カリウムの製造方法。
【請求項7】
前記混合液のpHが4.0~7.5である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の硫酸カリウムの製造方法。
【請求項8】
前記洗浄した硫酸カリウムを乾燥する工程を備える、請求項1~
7のいずれか一項に記載の硫酸カリウムの製造方法。
【請求項9】
硫酸カリウムの製造システムであって、
油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生され
、グリセリン、1価アルコール、水酸化カリウム、ならびに、油脂および/または脂肪酸もしくはその塩を含む廃グリセリンを含む原料に、
濃硫酸を添加し、
pHが2以下で4時間以上反応させ、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む酸性グリセリン液と、脂肪酸アルキルエステルを含む第一の油分とを分離する酸反応装置と、
前記酸性グリセリン液を、カリウムを含むアルカリ性物質により中和して、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る
中和装置と、
前記
中和装置において前記混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する分離装置と、
前記分離装置で得られた前記グリセリン含有液から、1価アルコールを回収するアルコール回収装置と、
前記分離装置で分離された硫酸カリウムを洗浄する洗浄装置と、
を備え、
前記洗浄装置において、前記アルコール回収装置で回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄する
ことを特徴とする硫酸カリウムの製造システム。
【請求項10】
硫酸カリウムの製造システムであって、
油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生される廃グリセリンを含む原料に、濃硫酸を添加し、pHが2以下の反応液を得る酸反応装置と、
前記酸反応装置で得られた反応液を、カリウムを含むアルカリ性物質により中和して、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る中和装置と、
前記中和装置において前記混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する分離装置と、
前記分離装置で得られた前記グリセリン含有液から、1価アルコールを回収するアルコール回収装置と、
前記分離装置で分離された硫酸カリウムを洗浄する洗浄装置と、
を備え、
前記カリウムを含むアルカリ性物質が廃グリセリンおよび/または油滓を含み、
前記洗浄装置において、前記アルコール回収装置で回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄する
ことを特徴とする硫酸カリウムの製造システム。
【請求項11】
硫酸カリウムの製造システムであって、
油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生され、グリセリン、1価アルコール、水酸化カリウム、ならびに、油脂および/または脂肪酸もしくはその塩を含む廃グリセリンを含む原料に、硫酸を添加し、グリセリン、1価アルコール、硫酸カリウム、ならびに、油脂および/または遊離脂肪酸を含む混合液を得る混合装置と、
前記混合装置において前記混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する分離装置と、
前記分離装置で得られた前記グリセリン含有液から、1価アルコールを回収するアルコール回収装置と、
前記分離装置で分離された硫酸カリウムを洗浄する洗浄装置と、
アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化装置と、
を備え、
前記洗浄装置において、前記アルコール回収装置で回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄し、
前記第二のエステル化装置には、前記硫酸カリウムを洗浄した廃液であって、1価アルコール、ならびに、油脂および/または遊離脂肪酸を含む廃液が原料として供給される
ことを特徴とする硫酸カリウムの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸カリウムの製造方法に関するものであり、特に、バイオディーゼル燃料の製造過程などで副生されるグリセリン廃液を原料の一つとする硫酸カリウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素の発生を削減し、資源のリサイクルに繋がるような、従来の化石燃料に替わる燃料の開発が進められており、その一つとして、植物油や廃食油等を原料とするバイオディーゼル燃料が注目されている。バイオディーゼル燃料の合成方法としては、動植物の油脂および1価アルコールを原料とし、水酸化カリウム等のアルカリ性物質を触媒としてエステル交換反応により合成する方法が主流である(例えば、非特許文献1)。この合成反応において、グリセリンを含有する副産物(本明細書において「廃グリセリン」ともいう。)も生成される。
【0003】
この廃グリセリンは、グリセリンを高濃度に含む他、未反応の1価アルコール、脂肪酸およびその塩、アルカリ触媒としての水酸化カリウムなどを含む。廃グリセリンは産業廃棄物として処分されることが多いが、環境負荷を低減する観点から、グリセリンを精製して有効活用する試みがなされており、水酸化カリウムは硫酸等により中和され硫酸カリウムなどとして分離・回収される。回収された硫酸カリウムは、加里肥料やカリミョウバンの原料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本マリンエンジニアリング学会誌,2012年,第47巻,第1号,第45-50頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
廃グリセリンから分離・回収される硫酸カリウムは、廃グリセリンに由来する脂肪酸やその塩等を不純物として含むため、これを洗浄する必要がある。しかし、洗浄するためにアセトン等の有機溶媒を別途用意すると、硫酸カリウムの製造コストを高めてしまう。また、洗浄廃液を処分する必要があり、環境負荷および製造コストの観点から好ましいとはいえなかった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、廃グリセリンを含む原料から硫酸カリウムを製造する方法であって、環境への負荷および製造コストが低減された硫酸カリウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、硫酸カリウムを洗浄するにあたり、別途回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0008】
〔1〕 硫酸カリウムの製造方法であって、
油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生される廃グリセリンを受け入れる工程と、
前記廃グリセリンを含む原料に硫酸を添加し、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る工程と、
前記混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する工程と、
前記グリセリン含有液から、1価アルコールを回収する工程と、
前記分離した硫酸カリウムを洗浄する工程と、
を備え、
前記洗浄工程において、前記回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄する
ことを特徴とする硫酸カリウムの製造方法。
〔2〕 前記混合液を得る工程は、
前記廃グリセリンを含む原料に濃硫酸を添加し、pHが2以下の反応液を得る工程と、
前記反応液を、カリウムを含むアルカリ性物質により中和して前記混合液を得る工程と
を備える、〔1〕に記載の硫酸カリウムの製造方法。
〔3〕 前記原料が酸価10mgKOH/g以上の高酸価油を含む、〔2〕に記載の硫酸カリウムの製造方法。
〔4〕 前記カリウムを含むアルカリ性物質が廃グリセリンおよび/または油滓を含む、〔2〕または〔3〕に記載の硫酸カリウムの製造方法。
〔5〕 前記混合液のpHが4.0~7.5である、〔1〕~〔4〕に記載の硫酸カリウムの製造方法。
〔6〕 アルカリ触媒法以外の方法であって、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法からなる群より選択される少なくとも一つの方法により、脂肪酸アルキルエステルを製造する第二のエステル化工程を備え、
前記第二のエステル化工程において、前記硫酸カリウムを洗浄した廃液を原料として用いる、〔1〕~〔5〕に記載の硫酸カリウムの製造方法。
〔7〕 前記洗浄した硫酸カリウムを乾燥する工程を備える、〔1〕~〔6〕に記載の硫酸カリウムの製造方法。
〔8〕 硫酸カリウムの製造システムであって、
油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生される廃グリセリンを含む原料に、硫酸を添加し、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る混合装置と、
前記混合装置において前記混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する分離装置と、
前記分離装置で得られた前記グリセリン含有液から、1価アルコールを回収するアルコール回収装置と、
前記分離装置で分離された硫酸カリウムを洗浄する洗浄装置と、
を備え、
前記洗浄装置において、前記アルコール回収装置で回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄する
ことを特徴とする硫酸カリウムの製造システム。
〔9〕 前記混合装置は、
前記廃グリセリンを含む原料に濃硫酸を添加し、pHが2以下の反応液を得る酸反応装置と、
前記酸反応装置で得られた反応液を、カリウムを含むアルカリ性物質により中和して混合液を得る中和装置と
を備える、〔8〕に記載の硫酸カリウムの製造システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、廃グリセリンを含む原料から硫酸カリウムを製造するにあたり、環境への負荷および製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る硫酸カリウムの製造方法のフローを表す図である。
【
図2】本発明の好ましい実施形態が備える第二のエステル化工程のフローを表す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る硫酸カリウムの製造システムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る硫酸カリウムの製造方法は、油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生される廃グリセリンを受け入れる工程と;廃グリセリンを含む原料に硫酸を添加し、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る工程と;混合液から析出した硫酸カリウムを、1価アルコールを含むグリセリン含有液から分離する工程と;グリセリン含有液から、1価アルコールを回収する工程と;分離した硫酸カリウムを洗浄する工程と;を備え、上記洗浄工程において、上記回収された1価アルコールを用いて硫酸カリウムを洗浄するものである。
【0012】
図1は、本実施形態に係る硫酸カリウムの製造方法の特に好適な実施形態におけるフローを表す図である。
図1において、混合液を得る工程は、pHが2以下の反応液を得る酸反応工程と、当該反応液を中和する中和工程とに分けて図示されている。また、
図1には、任意工程である乾燥工程が洗浄工程の次に実施されるよう図示されている。
【0013】
廃グリセリンからグリセリンを精製する場合、廃グリセリンに由来する1価アルコールはグリセリンから分離され廃棄されていたが、本実施形態においてはこれを硫酸カリウムの洗浄に用いるため、洗浄用の有機溶剤を別途用意する必要がなく、製造コストを低減することができる。また、生じる洗浄廃液は、1価アルコールに加え、硫酸カリウムの不純物であった脂肪酸やその塩を含むものであり、脂肪酸アルキルエステルの原料として用いることができる。そのため、廃棄物として処理する必要がなく、環境負荷および製造コストを低減することができる。
【0014】
(1)原料
本実施形態においては、油脂、1価アルコールおよび水酸化カリウムを用いたエステル交換反応により副生される廃グリセリン(以下、単に「廃グリセリン」ということがある。)を、原料の一つとして用いる。
上記エステル交換反応においては、バイオディーゼル燃料となる脂肪酸アルキルエステルが合成され、上記廃グリセリンが副生される。
【0015】
エステル交換反応の原料に用いる油脂としては、菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油、大麻油等の植物油;魚油、豚脂、牛豚等の獣脂;天ぷら油等の廃食油;などを用いることができる。
1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、エチルヘキサノール等を用いることができ、メタノールおよびエタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
水酸化カリウムは、エステル交換反応におけるアルカリ触媒として作用する。
【0016】
上記エステル交換反応においては、原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリンエステルが1価アルコールと反応し、脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンが生成し、脂肪酸アルキルエステル相と、廃グリセリン相とに液々分離する。バイオディーゼル燃料の製造においては、得られた脂肪酸アルキルエステル相を回収して洗浄等を行い、バイオディーゼル燃料とする。
【0017】
本実施形態においては、上記廃グリセリン相として回収される廃グリセリンを受け入れ、続く硫酸添加工程に付す。
廃グリセリンは、グリセリンを高濃度に含む他、未反応の1価アルコール、アルカリ触媒である水酸化カリウムの他、未反応の油脂、脂肪酸およびその塩、さらには原料油脂に由来する夾雑物などを含む。
廃グリセリンにおけるグリセリン、1価アルコール、水酸化カリウム、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の含有量は特に限定されないが、通常、廃グリセリン全体に対して、グリセリンは25質量%以上65質量%以下、1価アルコールは2質量%以上20質量%以下、水酸化カリウムは3質量%以上10質量%以下、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の合計は30質量%以上50質量%以下となる場合が多い。本実施形態に係る製造方法により硫酸カリウムを安定的に得る観点から、廃グリセリン全体に対して、それぞれ、グリセリンは30質量%以上65質量%以下、1価アルコールは3質量%以上15質量%以下、水酸化カリウムは4質量%以上7質量%以下、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の合計含有量は25質量%以上55質量%以下、であってよい。
【0018】
廃グリセリンはアルカリ触媒である水酸化カリウムを多量に含むため、pHは9以上であることが多く、本実施形態においては、9~13であってよい。
廃グリセリンにおける水分の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。廃グリセリンにおける水分含有量は、加熱、減圧、乾燥剤等の使用、精製グリセリン中を透過させることなどにより適宜調整することができる。
【0019】
本実施形態においては、廃グリセリン以外の原料として、カリウムを含有する組成物を用いることができる。カリウムを含有する組成物としては、例えば、油滓等の脂肪酸カリウム塩を含有する組成物;などが挙げられる。
油滓は、植物油脂の精製における脱酸工程において油脂(原油)から分離される副生成物であり、脂肪酸カリウム塩、脂肪酸グリセリンエステル、水酸化カリウム、水分等を含む。
なお、本明細書において「主成分とする」とは、当該組成物において含有量が最も多い成分(ただし最も多い成分が水である場合には2番目に含有量が多い成分)であることを意味し、好ましくは含有量が40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0020】
また、本実施形態においては、上記廃グリセリンやカリウム組成物の他に、グリセリンを含有する組成物を併せて処理しても良い。本実施形態においては、原料の一つとして廃グリセリンを用いており、硫酸カリウムを製造できる他、グリセリンも精製される。グリセリン含有組成物を併せて処理することで、グリセリンの精製という観点でグリセリンの収量を高めることができる。
グリセリンを含有する組成物としては、例えば、遊離脂肪酸の製造工程で副生されるグリセリン廃液、甘水、脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水などを用いることができる。
【0021】
ここで、遊離脂肪酸の製造工程で副生されるグリセリン廃液とは、動植物の油脂を加水分解して遊離脂肪酸を製造する場合に副生される廃棄物である。加水分解による遊離脂肪酸の製造方法としては、高温高圧分解法、酵素分解法等が挙げられる。かかる製造工程で副生されるグリセリン廃液には、グリセリンの他、未反応の油脂、部分的に加水分解された油脂等が含まれる。
また、甘水は、油脂を鹸化(アルカリ加水分解)して脂肪酸塩を生成させる場合(例えば、石鹸の製造過程など)における副生成物であり、グリセリン、水分、アルカリ等を含む。
脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水は、バイオディーゼル燃料をはじめとする脂肪酸アルキルエステルの製造過程において、反応物を洗浄したときに生じる廃水であり、水分の他、脂肪酸アルキルエステルの製造反応において副生されるグリセリンが含まれ、さらに未反応の遊離脂肪酸およびその塩、1価アルコール等が含まれる。
【0022】
さらに、後述するように、硫酸添加工程を酸反応工程および中和工程にて行う場合には、さらに脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物を、上記廃グリセリン等と合わせて処理することができる。これらは、酸反応工程における酸触媒エステル化反応により、廃グリセリン中の1価アルコールと反応し、脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンを生成することができる。
脂肪酸グリセリンエステルを含有する原料としては、例えば、廃食油、動植物油、高酸価油(グリストラップ油、下水油、地溝油、廃液処理再生油等)などが挙げられる。
高酸価油は、酸価10mgKOH/g以上の油脂をいい、油脂の主成分である脂肪酸グリセリンエステルの他、遊離脂肪酸等を含む。酸価は20mgKOH/g以上であってよく、さらには50mgKOH/g以上であってもよい。なお、酸価の上限は、通常は200mgKOH/g以下である。
【0023】
(2)硫酸添加工程
硫酸添加工程は、上記廃グリセリンを含む原料に硫酸を添加し、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る工程である。
本工程においては、添加された硫酸と、廃グリセリンに含まれる水酸化カリウムや他の原料(カリウムを含有する組成物)に含まれるカリウムとにより、硫酸カリウムが生成される。硫酸カリウムはグリセリンや1価アルコールに対する溶解度が低く、本工程において析出する。なお、本工程で得られる混合物は、析出した硫酸カリウムを含む概念である。
【0024】
硫酸添加工程において使用する原料は、水分含有量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。水分含有量が低い原料(例えば、水分含有量の少ない廃グリセリン等)を用いることで、硫酸カリウムの析出をより容易にすることができる。なお、原料の水分含有量は、加熱、減圧、乾燥剤等の使用、精製グリセリン中を透過させることなどにより適宜調整することができる。
【0025】
硫酸添加工程において、得られる混合液のpHは、4.0~7.5であることが好ましく、4.5~7.0であることがさらに好ましく、5.0~6.5であることが特に好ましい。混合液のpHをかかる範囲とすることで、続く分離工程において、硫酸カリウムが析出しやすくなる。混合液のpHは、硫酸の添加量を制御することにより調整することができ、また硫酸添加工程を酸反応工程および中和工程にて行う場合には、カリウム含有アルカリ性物質の添加量を制御することで適宜調整することができる。
【0026】
本工程においては、廃グリセリンを含む原料に硫酸を添加し硫酸カリウムを析出させることができれば、その方法は特に限定されない。例えば、塩基性に偏った廃グリセリンを、硫酸を用いて中和し硫酸カリウムを析出させてこれを回収するだけでも良い。
ただし、本実施形態においては、廃グリセリンに含まれるグリセリンや脂肪酸およびその塩についても利用効率を高める観点、さらには廃グリセリン以外の組成物(例えば、脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物)を本方法にて合わせて処理できる観点から、
図1に示すように、硫酸添加工程を酸反応工程および中和工程にて行うことが特に好ましい。
【0027】
(2-1)酸反応工程
酸反応工程は、廃グリセリンを含む原料に濃硫酸を添加し、pHが2以下の反応液を得る工程である。
本工程では、廃グリセリンに含まれる水酸化カリウムが濃硫酸と反応して硫酸カリウムを生成するだけでなく、廃グリセリンに含まれる脂肪酸の塩が、濃硫酸により遊離脂肪酸に変換される。また、脂肪酸およびその塩は、濃硫酸を酸触媒とし、廃グリセリンに含まれる未反応の1価アルコールとのエステル化反応により、脂肪酸アルキルエステルを生成する。そのため、酸反応工程は、酸触媒エステル化工程ということもできる。なお、後述する第二のエステル化反応との対比において、酸反応工程を「第一のエステル化工程」という場合がある。
【0028】
酸反応工程では、濃硫酸の添加によりpH2以下に酸性化されており、すなわち廃グリセリン等の原料に含まれるカリウムに対して過剰量の濃硫酸が添加される。本工程で生成する硫酸カリウムは、一部が析出していてもよく、すなわち上記反応液は析出した硫酸カリウムを含んでいてもよい。
【0029】
酸反応工程は、酸触媒エステル化反応ともいうことができるため、廃グリセリン以外の組成物を合わせて処理し、脂肪酸アルキルエステルを生成することができる。酸反応工程で使用し得る原料としては、前述した脂肪酸カリウム塩を含有する組成物(油滓等);脂肪酸グリセリンエステルを含有する原料(廃食油、高酸価油等)が挙げられる。
なかでも高酸価油は、酸価が10mgKOH/g以上と高いことから、アルカリ触媒によるエステル交換反応の原料としての利用は困難である。しかし、酸触媒エステル化反応ともいうべき酸反応工程においては、高酸価油も原料として好適に用いることができる。
【0030】
酸反応工程で得られる反応液(上記原料と濃硫酸との混合液)のpHは、2以下であることが好ましく、1以下であることが特に好ましい。反応液のpHがかかる範囲にあることで、酸触媒エステル化反応の効率を高めることができ、また油相が分離しやすくなるため油相の回収が容易となる。反応液のpHは、濃硫酸の添加量により調整することができる。
【0031】
反応液は、水分含有量を10質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以下とすることが特に好ましい。反応液の水分含有量は、各原料の水分含有量および投入量の調整、反応液への乾燥剤の使用などにより適宜調整することができる。
反応液の水分含有量を上記範囲とすることで、酸触媒エステル化反応の効率を高めることができ、また硫酸カリウムが析出しやすくなるため後述する分離工程における硫酸カリウムの回収率を高めることができる。
【0032】
酸反応工程における反応液の温度は、30~64℃とすることができ、さらには50~60℃とすることができる。また、反応時間は、0.5~12時間とすることができ、さらには4~12時間とすることができる。この間は反応液を攪拌することが好ましい。
上記反応(あるいは攪拌)が終了したのち、0.2~12時間静置することで、得られた反応液は、脂肪酸アルキルエステルや未反応の油脂等を含む油相と、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む酸性グリセリン相とに相分離する。油相には、酸反応工程で生成する脂肪酸アルキルエステルおよび遊離脂肪酸、さらには廃グリセリンに由来し未反応の油脂などが含まれる。一方、酸性グリセリン相には、グリセリン、1価アルコール、硫酸カリウム、硫酸等が含まれ、硫酸カリウムの一部は析出していてもよい。
上記反応液は、そのまま続く中和工程に付してもよいが、好ましくは油相を分離・回収し、酸性グリセリン相(析出した硫酸カリウムを含む)を中和工程に付すことが好ましい。なお、油相を回収した場合、得られた油分(以下「第一の油分」ということがある)は、さらなるエステル化反応(後述する第二のエステル化工程)に付すことで、脂肪酸アルキルエステルの生成に用いることができる。また、得られた油分は、脂肪酸アルキルエステルの製造に用いることなく、コンポスト材料として活用することもできる。
【0033】
(2-2)中和工程
中和工程は、酸反応工程で得られた反応液(好ましくは、油相が分離された酸性グリセリン液)を、カリウムを含むアルカリ性物質により中和して、グリセリン、1価アルコールおよび硫酸カリウムを含む混合液を得る工程である。
【0034】
カリウム含有アルカリ性物質としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
また、カリウム含有アルカリ性物質として、油脂のアルカリ触媒エステル交換反応による副生成物を用いてもよい。このような副生成物として、上記の廃グリセリンなどが挙げられる。これらは、上記反応液を中和できるのみならず、グリセリンの精製という観点でグリセリンの収量を高めることができる。かかる副生成物としては、脂肪酸カリウム塩や脂肪酸グリセリンエステルを含有するものでもよい。
さらに、上記アルカリ性物質として、脂肪酸カリウム塩を主成分とする組成物を用いてもよい。脂肪酸カリウム塩を主成分とするアルカリ性物質としては、例えば、油滓などが挙げられる。
また、上記カリウム含有アルカリ性物質は、pHが9以上であることが好ましく、9~13であることが特に好ましい。
【0035】
上記中和工程においては、反応液(酸性グリセリン液)のpHが4.0~7.5となるように、さらには4.5~7.0となるように、特に5.0~6.5となるように中和することが好ましい。反応液のpHがかかる範囲となるように中和することで、続く分離工程において、硫酸カリウムが析出しやすくなり、また油分も分離しやすくなる。グリセリン液のpHは、上記カリウム含有アルカリ性物質の添加量を制御することで適宜調整することが可能である。
【0036】
中和工程で得られる混合液は、水分含有量が10質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。水分含有量の上限値が上記範囲にあることで、続く分離工程において硫酸カリウムを十分に析出させて回収率を高めることができる。なお、水分含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、0.5質量%以上であってもよい。
【0037】
中和工程においては、液性が酸性から中性付近に移行するよう、上記反応液(酸性グリセリン液)を撹拌しながら上記カリウム含有アルカリ性物質を添加することが好ましい。前述したとおり、中和に用いるカリウム含有アルカリ性物質として脂肪酸カリウム塩を含有する物質を用いてもよいところ、上記のような添加順序とすることで、脂肪酸カリウム塩が酸により遊離脂肪酸に変換される。遊離脂肪酸は、油脂等とともに混合液より相分離して油相を形成し、混合液のpHが高くなっても混合液に再溶解し難くなる。これにより、続く分離工程において油相を分離しやすくなる。なお、脂肪酸カリウム塩は、上述した脂肪酸のカリウム塩を主成分とする物質のほか、油脂のアルカリ触媒エステル交換反応やアルカリ加水分解による副生成物にも含まれる。
【0038】
上記カリウム含有アルカリ性物質により、酸反応工程で得られた反応液は中和される。中和して得られた混合液は、続く分離工程に付される。
【0039】
(3)分離工程
分離工程は、上記硫酸添加工程(好ましくは、酸反応工程および中和工程)にて得られた混合液から、析出した硫酸カリウムを分離する工程である。
【0040】
上記混合液は、硫酸カリウムが析出しているほか、廃グリセリンに由来するグリセリンおよび1価アルコールを含む。さらに、上記混合液には、カリウム含有アルカリ性物質に由来する油脂や遊離脂肪酸などが含まれる。
硫酸カリウムは、グリセリン、1価アルコールや油に対する溶解度が低く、上記硫酸添加工程(酸反応工程および中和工程)において析出しているため、本工程において析出した硫酸カリウムを分離・回収することができる。
【0041】
分離工程においては、遠心分離等により分離速度を高めることが好ましい。かかる遠心分離においては、硫酸カリウムが多量に析出するため、例えば、デカンタ型等の固液分離が可能な遠心分離機により大部分の硫酸カリウムを分離することが可能である。この場合、大部分の硫酸カリウムを分離した後の混合液(グリセリン含有液)には、一部の硫酸カリウムが残っているほか、液相が中和グリセリン相と油相とに相分離している。そのため、さらに三相分離型遠心分離機を用い、固形物(すなわち硫酸カリウム)、軽液(すなわち油相)および重液(すなわち中和グリセリン相)を分離することも好ましい。
【0042】
分離工程において分離・回収された硫酸カリウムは、後述する洗浄工程に付される。一方、グリセリン含有液(好ましくは、油相と分離した中和グリセリン液)は、続くアルコール回収工程に付される。
なお、本工程においてさらに油相を分離した場合、得られた油分(以下「第二の油分」ということがある)は、例えば、酸反応工程において分離された油分と合わせ、さらなるエステル化反応(後述する第二のエステル化工程)に付すことで、脂肪酸アルキルエステルの生成に用いることができる。さらに、得られた油分は、脂肪酸アルキルエステルの製造に用いることなく、コンポスト材料として活用することもできる。
【0043】
(4)アルコール回収工程
アルコール回収工程は、分離工程で得られたグリセリン含有液から1価アルコールを回収する工程である。
上記グリセリン含有液には、廃グリセリンに由来する1価アルコールが含まれる。かかる1価アルコールは、上記硫酸添加工程を酸反応工程および中和工程にて行った場合でも、酸触媒エステル化反応後に残存しており、さらに上記中和工程におけるカリウム含有アルカリ性物質として廃グリセリンを用いた場合は、当該廃グリセリンにも1価アルコールが含まれる。かかる1価アルコールを回収し、上記分離工程で分離・回収した硫酸カリウムの洗浄に用いる。
なお、1価アルコールを分離した液相として、高純度のグリセリンを得ることができるという利点も有する。
【0044】
アルコール回収工程においては、減圧蒸留法、気液接触法、膜分離法などを採用することができる。
減圧蒸留法は、グリセリン含有液を加温(例えば、60℃程度)して1価アルコール等を蒸発させ、その後減圧して1価アルコール等を分離し、これを冷却して回収する方法である。
気液接触法は、グリセリン含有液を微細な液滴として気相と接触させ、沸点の低い1価アルコールを気相に移行させて分離する方法であり、具体的にはスプレードライ法等を好適に採用することができる。
膜分離法は、1価アルコールを優先的に透過させる膜を用いる方法である。
【0045】
なお、グリセリン含有液には少量の水分がさらに含まれている場合がある。かかる水分の一部は、例えば減圧蒸留法や気液接触法等においては、1価アルコールとともに気相に移行し回収液の中に残存する。ただし、回収液に含まれる水分量は少量であり、後述する洗浄工程において洗浄液として用いる目的には支障がない。
なお、アルコールを回収した後のグリセリンを別途利用する場合には、アルコール回収工程の前または後に、イオン交換法や、活性白土、珪藻土、炭素、ゼオライト等を用い、さらなる精製処理を行ってもよい。
【0046】
回収した1価アルコールは、そのまま、あるいは必要に応じて再蒸留等により精製し、上記分離工程において分離された硫酸カリウムの洗浄液として用いるほか、アルカリ触媒エステル交換反応や酸触媒エステル化反応の原料として再利用してもよい。
なお、アルコールを回収した後のグリセリンは、化粧品、医薬品等;脂肪酸グリセリンエステルの原料;など、多様な用途に用いることができる。
【0047】
(5)洗浄工程
洗浄工程は、上記分離工程で分離した硫酸カリウムを、上記アルコール回収工程にて回収された1価アルコールを用いて洗浄する工程である。
分離工程で分離した硫酸カリウムには、不純物として油脂や遊離脂肪酸などが含まれている。これらの不純物は1価アルコールに溶解するが、硫酸カリウムは1価アルコールに溶解し難いため、不純物を洗浄することができる。
【0048】
洗浄液の量は、求める硫酸カリウムの純度等に応じて適宜設定することができる。例えば、硫酸カリウム100質量部に対し、1価アルコールが20~1000質量部、さらには50~500質量部とすることができる。
洗浄工程を硫酸カリウムと1価アルコールとの攪拌により行う場合、攪拌および洗浄廃液の排出の操作を複数回繰り返すと、得られる硫酸カリウムの純度がより一層高まり、特に好ましい。この場合、1回の洗浄操作における洗浄液(1価アルコール)の量は、硫酸カリウム100質量部に対し、10~50質量部、さらには20~40質量部とすることができる。また、かかる洗浄操作は、例えば2回以上、好ましくは4回以上、より好ましくは6回以上行うことで、硫酸カリウムの純度を高めることができる。なお、十分に純度が高まった状態でさらに洗浄操作を行うことは無駄であるため、洗浄操作は例えば10回以下であってよく、8回以下であってよい。
【0049】
本工程で生じる洗浄廃液には、洗浄液である1価アルコールの他、油脂や遊離脂肪酸などが含まれる。これらはそのまま、脂肪酸アルキルエステルの合成反応の原料とすることができる。そのため、上記洗浄廃液を脂肪酸アルキルエステルの製造に利用すること(例えば、後述する第二のエステル化工程)は、環境負荷を軽減する観点から、特に好ましい態様の一つである。
【0050】
一方、本工程で洗浄された硫酸カリウムは、十分な純度を有しており、そのまま製品とすることもできるが、さらなる精製工程に付してもよい。精製工程としては、例えば、再結晶法、イオン交換法等を適宜採用することができる。
また、得られた硫酸カリウムは、後述する乾燥工程に付してもよい。
【0051】
(6)乾燥工程
洗浄工程にて洗浄された硫酸カリウムは、さらに乾燥工程に付してもよい。
乾燥方法は特に限定されず、ロータリーキルン等の乾燥機を用いてもよく、また天日干し等によってもよい。
【0052】
(7)得られる硫酸カリウム
以上のようにして得られる硫酸カリウムは、高い純度を有しており、例えば硫加肥料として好適に用いることができ、またカリミョウバンの原料とすることもできる。
本実施形態による得られる硫酸カリウムの純度は、96質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。本実施形態の製造方法によれば、かかる高純度の硫酸カリウムを、環境負荷が少なく、かつ低コストにて、容易に製造することができる。
【0053】
以上の製造方法によれば、廃グリセリンを含む原料から硫酸カリウムを製造するにあたり、環境への負荷および製造コストを低減することができる。本実施形態の方法により製造された硫酸カリウムは、硫加肥料として用いることができ、またカリミョウバンの原料とすることもできる。
【0054】
なお、上記実施形態における各要素は、適宜設計変更などが可能である。例えば、上記実施形態に係る硫酸カリウムの製造方法においては、次に述べる第二のエステル化工程をさらに備えていても良い。
【0055】
(8)第二のエステル化工程
上述した洗浄工程では洗浄廃液が生じ、かかる洗浄廃液には、1価アルコールの他、油脂や遊離脂肪酸などが含まれる。また、上述した酸反応工程や分離工程においては、分離した油相より油分が回収される。これらは、アルカリ触媒法による脂肪酸アルキルエステルの製造における原料として循環供給することも考えられるが、純度が必ずしも高くないため、そのままの状態で原料として用いようとすると、脂肪酸アルキルエステルを効率的に製造することが困難な場合がある。また、酸反応工程や分離工程で回収される油分には、遊離脂肪酸等の酸価の高い油脂が含まれており、とりわけ第一の油分は、酸触媒を用いたエステル化反応ともいうことができる酸反応工程(第一のエステル化工程)にて分離されたものであるため、酸性の油分となっている。そのため、第一および第二の油分をそのままアルカリ触媒による脂肪酸アルキルエステルの製造の原料として用いることはより一層困難となる。
【0056】
しかし、アルカリ触媒法以外の方法であれば、酸価の高い油脂であっても、脂肪酸アルキルエステルを製造することが可能である。そこで、本実施形態においては、アルカリ触媒法以外の方法により脂肪酸アルキルエステルを製造する、第二のエステル化工程を備えることが好ましい。
【0057】
第二のエステル化工程においては、上記洗浄工程において硫酸カリウムを洗浄した廃液を、原料として用いる。
その他の原料としては、上記酸反応工程(第一のエステル化工程)と同様の原料(高酸価油等)を用いることができる。さらに、分離工程で回収された第二の油分を原料として用いることが好ましい。また、上記混合工程を酸反応工程(第一のエステル化工程)および中和工程にて行う場合には、酸反応工程(第一のエステル化工程)で分離された第一の油分を原料として用いることが特に好ましい。
これらを原料とすることにより、上述した硫酸カリウムの製造において、産業廃棄物をより一層効率的に再資源化することが可能となる。アルカリ触媒法以外の方法であれば、これらの原料であっても好適に用いることができる。
【0058】
第二のエステル化工程で採用し得る方法は、アルカリ触媒法以外の方法であり、より具体的には、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法および固体触媒法が例示される。これらの方法であれば、酸価の高い廃食油や油脂であっても、さらには未反応の遊離脂肪酸を含む油脂であっても、メタノールなどの1価アルコールとエステル交換反応を行うことができる。
【0059】
第二のエステル化工程においては、脂肪酸アルキルエステルを含有する油分とともに、グリセリンが副生される。第二のエステル化工程で得られる油分と、グリセリン液とは、静置、遠心分離等により、相分離させることができる。分離した油分は、脂肪酸アルキルエステルを回収し、バイオディーゼル燃料等とすることができる。一方、副生されたグリセリンは、例えば、上記酸反応工程(第一のエステル化工程)で得られた反応液(酸性グリセリン液)とともに中和工程に供給することができる。このように構成すると、第二のエステル化工程で副生されたグリセリンについても、中和工程、分離工程等を経てグリセリン含有液の一部とすることができるため、より一層効率的に再資源化することができる。
【0060】
第二のエステル化工程として、上述したアルカリ触媒法以外の方法の中でも、特に酸触媒法を採用することが好ましい。
図2に示すように、第二のエステル化工程として酸触媒法を採用する場合には、硫酸カリウムを洗浄した廃液(1価アルコールを含有する)を、原料として用いる。その他の原料としては、上記第一の油分および/または第二の油分を用いることができ、さらには、酸反応工程(第一のエステル化工程)と同様の原料(高酸価油等)を用いても良い。
第二のエステル化工程で得られた反応液は、脂肪酸アルキルエステルを含む油分と、副生したグリセリンや酸触媒およびその塩等を含むグリセリン液とに分離させる。得られる油分およびグリセリン液はいずれも酸性となっており、このうち酸性グリセリン液は上記中和工程などに供給することができる。
【0061】
一方、脂肪酸アルキルエステルを含む油分については、中和や脱水等を行うことが好ましい。ここで、中和・脱水の方法としては、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを用いる方法が好ましく例示される。具体的には、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンを脱アルコール化してタンク等に貯留しておき、当該タンクの下部から、中和させる油分を投入して廃グリセリンと接触させる。これにより、酸性の油分は廃グリセリンのアルカリにより中和され、さらに油分に含まれる水および1価アルコールは廃グリセリン液に吸収される。そして、下部から投入された油分は比重差により上部からオーバーフローされるため、容易に回収することができる。このような方法により、中和、脱水および脱アルコールを同時に行うことができ、高品質な油分を簡便に得ることができる。なお、水および1価アルコールを吸収した廃グリセリン液は、上述した中和工程に供給することができ、第二の分離工程等を経てグリセリン含有液の一部とすることができる。
【0062】
なお、第二のエステル化工程において、酸触媒法以外の方法としては、生体触媒法、超臨界法、亜臨界法を好ましく例示することができる。
生体触媒法は、エステル変換反応の触媒活性を備えたリパーゼやホスホリパーゼを用いて、エステル交換反応を促す方法である。生体触媒法は、反応条件が穏やかであるが、酸価値の高い油脂であってもエステル交換反応を促進でき、副生成物が少ないという特性がある。
超臨界法や亜臨界法は、温度や圧力を調整して、原材料を超臨界状態または亜臨界状態に変えることで、物質の相状態を気液二相から液液二相、さらに誘電率を下げて一相へと変化させて、本来触媒を用いる必要があった反応系を無触媒系へと変えて、加水分解を促進する方法である。
【0063】
このような第二のエステル化工程を行うことにより、産業廃棄物をより一層効率的に再資源化することが可能となる。
【0064】
〔硫酸カリウムの製造システム〕
上述した実施形態に係る硫酸カリウムの製造方法を実現することのできる、本発明の一実施形態に係る硫酸カリウムの製造システムについて説明する。
【0065】
図3に示すように、硫酸カリウムの製造システム1は、混合装置11と、分離装置12と、アルコール回収装置13と、洗浄装置14とを備えて構成されている。なお、
図3に図示した混合装置11は、好ましい一態様として、酸反応装置111と、中和装置112とを備える。さらに、
図3に図示される硫酸カリウムの製造システム1は、第二のエステル化装置21を備えている。
【0066】
廃グリセリンは、濃硫酸とともに、混合装置11中の酸反応装置111に投入され、酸触媒エステル交換反応が実施される。一定時間が経過すると、反応液は酸性グリセリン相と油相(第一の油分)とに相分離する。
酸性グリセリン液には、硫酸カリウム、グリセリン、1価アルコール等が含まれており、酸性グリセリン液は中和装置112に供給され、カリウム含有アルカリ性物質が投入されて中和される。
【0067】
中和装置112にて中和して得られた混合液は、分離装置12に供給され、硫酸カリウム、グリセリン含有液および油分(第二の油分)に分離される。分離装置12としては、三相分離型遠心分離機などを好適に用いることができ、その前段にデカンタ型などの固液分離可能な遠心分離機などを設けても良い。
【0068】
分離装置12で分離されたグリセリン含有液には、1価アルコールが残存しており、これをアルコール回収装置13にて回収する。なお、1価アルコールが分離された精製グリセリンは、多様な用途に用いることができる。
【0069】
一方、分離装置12で分離された硫酸カリウムは、洗浄装置14に投入される。かかる硫酸カリウムには、不純物として油脂や遊離脂肪酸などが含まれており、洗浄装置14において、アルコール回収装置13にて回収された1価アルコールを用いて洗浄する。
【0070】
さらに、本実施形態の好ましい一態様においては、硫酸カリウムの製造システム1は、さらに第二のエステル化装置21を備えている。第二のエステル化装置21は、アルカリ触媒法以外の方法を用いて脂肪酸アルキルエステルを製造するためのエステル化反応槽で構成されている。第二のエステル化装置21には、洗浄装置14からの洗浄廃液が供給され、さらに、酸反応装置111で分離された油分(第一の油分)、および/または、分離装置12で分離された油分(第二の油分)が供給される。
第二のエステル化装置21においては、アルカリ触媒法以外の方法、より具体的には、酸触媒法、酸アルカリ触媒法、生体触媒法、イオン交換樹脂法、超臨界法、亜臨界法または固体触媒法が実施される。これらのいずれかの方法によりエステル化反応(エステル交換反応を含む)が行われ、脂肪酸アルキルエステルを含む油分と、グリセリン液とが分離される。副生されたグリセリン液は、例えば、上述した中和装置112に供給され、中和および分離を経てグリセリンの原料として再資源化することができる。
なお、第二のエステル化装置21において酸触媒法によりエステル化反応が行われる場合は、脂肪酸アルキルエステルを含む油分は酸性となっている。かかる酸性の油分は、廃グリセリンを貯留したタンク等(図示しない)の下部から注入してグリセリン相の上部にオーバーフローさせることで、中和・脱水・脱アルコール化を同時に行ってもよい。
【0071】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0073】
(廃グリセリンの準備)
水酸化カリウムを触媒とするアルカリ触媒法により、廃食油とメタノールとをエステル交換させてバイオディーゼル燃料を製造した。このとき生成したグリセリンを含む副生成物を廃グリセリンとして回収した。
【0074】
この廃グリセリンにゼオライトを廃グリセリン1kgあたり20g添加して水分を除去した。ゼオライトが添加された廃グリセリンは、250メッシュのフィルターを通過させて、ゼオライトおよび固体状の不純物を除去した。
こうして得られた原料としての廃グリセリン(以下、「原料廃グリセリン」という。)の組成および物性は表1に示すとおりであった。
【0075】
【0076】
(酸反応工程)
加温冷却機能を有する容量1000Lの反応タンクに、原料廃グリセリン500kg、高酸価油(150mgKOH/g)300kgを投入し、攪拌(120rpm)しながら55℃まで加温した。この状態で、濃硫酸32Lを反応容器中に15分かけて添加した。濃硫酸の添加にあたり、反応容器中の混合物の温度が65℃を超えないように留意した。濃硫酸を全量添加した後の反応液のpHは1であった。濃硫酸の添加終了後、240分間攪拌を継続した。その後10時間静置し、油相と酸性グリセリン相とに分離させ、酸性グリセリン相(析出した硫酸カリウムを含む)を回収した。以上の操作を繰り返すことにより、酸性グリセリン相5000kgを得た。
【0077】
(中和工程)
容量15000Lの反応タンクに、攪拌しながら酸性グリセリン液5000kg、廃グリセリン5000kgを投入した。pHは5.0であった。その後も4時間攪拌を継続し、その後24時間静置し、混合液(析出した硫酸カリウムを含む)を得た。
【0078】
(分離工程)
混合液を、デカンタ型遠心分離機(製品名:Z18H-V,タナベウィルテック社製)にて5500rpm、180分間処理し、析出した硫酸カリウムを分離回収した。液相について、さらに三相分離型遠心分離機(アルファ・ラバル社製)にて8000rpm、180分間処理し、油分、グリセリン含有液、硫酸カリウムをそれぞれ分離回収した。
【0079】
(アルコール回収工程)
三相分離により得られたグリセリン含有液を蒸留し、蒸留液を回収した。回収した蒸留液には、メタノール97質量%、水3質量%が含まれていた。
なお、メタノールおよび水を分離することで、純度94質量%(ガスクロマトグラフィーにて測定)の精製グリセリン900kgを得た。
【0080】
(洗浄工程,乾燥工程)
デカンタ型遠心分離機および三相分離型遠心分離機で硫酸カリウム(合計2300kg)を、容量2000Lの洗浄タンクに入れ、アルコール回収工程で得られた蒸留液500kgを添加し、10分間攪拌した後、洗浄廃液を排出した。かかる操作を6回繰り返した。
得られた硫酸カリウムを、ロータリーキルンにて乾燥させ、白色固体の本発明品を得た(2100kg)。
【0081】
得られた本発明品について、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が定める肥料分析法に準拠して、水溶性加里の保証成分量を測定したところ、53%であった。
なお、水溶性加里は酸化カリウムの量として算出することとされており、本発明品における水溶性加里の保証成分量は、硫酸カリウムの純度に換算すると99質量%に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、廃グリセリンを含む原料から硫酸カリウムを製造するにあたり、環境への負荷および製造コストを低減することができる。本発明の方法により製造された硫酸カリウムは、廃棄物である廃グリセリンを原料とするものでありながら、硫加肥料として用いることができ、またカリミョウバンの原料とすることもできるため、産業上の利用価値は大なるものがある。
【符号の説明】
【0083】
1:硫酸カリウム製造システム
11:混合装置
111:酸反応装置
112:中和装置
12:分離装置
13:アルコール回収装置
14:洗浄装置
21:第二のエステル化装置