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  • 特許-ポリ乳酸の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ポリ乳酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20240111BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20240111BHJP
   C08G 63/90 20060101ALI20240111BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/06
C08G63/90
C08L101/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020549179
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037142
(87)【国際公開番号】W WO2020059887
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018176647
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510238627
【氏名又は名称】バイオ燃料技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】梶間 央士
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/002023(WO,A1)
【文献】特開2012-001634(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101982541(CN,A)
【文献】特開2012-229189(JP,A)
【文献】特開2013-087126(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063349(WO,A1)
【文献】特開2011-080030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/
C08L 101/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料からポリ乳酸を製造する方法であって、
グリセリンを含みかつpH2.5~6に調整された組成物を得るpH調整工程と、
前記pH調整された組成物を、300~500℃に加熱した内径0.3~2.0mmのキャピラリーに15~40MPaの圧力で送液することにより反応させる反応工程と、
を備えることを特徴とするポリ乳酸の製造方法。
【請求項2】
前記pH調整された組成物の、前記キャピラリーの加熱された部分の滞留時間が0.5~7分である、請求項1記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
前記キャピラリーが、電磁誘導により加熱される、請求項1または2に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
前記pH調整工程は、前記原料をpH3以下に調整する第一のpH調整工程を備える、請求項1~のいずれか一項に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項5】
前記第一のpH調整工程において、pHが2未満に調整され、
前記pH調整工程が、前記第一のpH調整工程の後に、pHを2.5~6に調整する第二のpH調整工程を備える、
請求項に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項6】
前記pH調整工程の後に前記pH調整された組成物を相分離する工程を備え、
前記相分離工程で得られたグリセリン含有液を、前記反応工程において反応させる、
請求項またはに記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項7】
前記反応工程で得られた反応物から副生成物を分離する工程を備える、請求項1~のいずれか一項に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項8】
前記副生成物分離工程は、反応物を冷却する工程、および冷却された反応物から有機酸を分離する工程を備える、請求項に記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項9】
前記副生物分離工程は、前記有機酸分離工程の後に、前記ポリ乳酸をさらに精製する工程を備える、請求項に記載のポリ乳酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の製造方法に関するものであり、特に、グリセリンを含む組成物から、重合体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素の発生を削減し、資源のリサイクルに繋がるような、従来の化石燃料に替わる燃料の開発が進められており、その一つとして、植物油や廃食油等を原料とするバイオディーゼル燃料が注目されている。バイオディーゼル燃料の合成方法としては、動植物の油脂および1価アルコールを原料とし、水酸化カリウム等のアルカリ性物質を触媒としてエステル交換反応により合成する方法が主流である(例えば、非特許文献1)。この合成反応において、グリセリンを含有する副産物(本明細書において「廃グリセリン」ともいう。)も生成される。
【0003】
また、油脂から遊離脂肪酸を工業的に製造する場合、その製造方法としては、高温高圧分解法、酵素分解法等が挙げられるが、いずれも動植物等に由来する油脂を加水分解して脂肪酸を遊離するものである。かかる加水分解においても、グリセリンを含有する副産物が生成される。
【0004】
グリセリンを含有する廃棄物は、触媒や未反応油脂等の不純物を多く含むものである。そのため、グリセリンそのものには、医薬品や化粧品等の原料としての用途があるものの、上述したグリセリン含有廃棄物を医薬品や化粧品等の原料として用いるためには多大なコストをかけて精製しなければならず、実用的ではなかった。そのため、グリセリン含有廃棄物は、産業廃棄物として処分されることが多かった。
【0005】
かかる問題に関し、環境負荷を低減する観点から、グリセリン含有廃棄物を有効活用する試みがなされている。例えば、廃グリセリンを、アルカリ性条件下で水熱反応させることで乳酸を製造する方法が提案されている(特許文献1、非特許文献2)。また、廃グリセリンに酸を添加し、次いで超臨界水を作用させ、グリセリンからアクロレインを製造する方法(特許文献2)も検討されている。
【0006】
一方、食用油などの油脂が劣化すると、加水分解が生じたり、炭素鎖が切れてさらに酸化したりするため、酸価の高い油(高酸価油)となる。また、植物油脂の精製における脱酸工程において、油脂(原油)から油滓が分離される。これらの高酸価油や油滓は、脂肪酸グリセリンエステルを含む廃棄物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2007/001043号
【文献】特開2011-12007号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本マリンエンジニアリング学会誌,2012年,第47巻,第1号,第45-50頁
【文献】化学工学論文集,2006年,第32巻,第6号,第535-541頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
グリセリン含有廃棄物をアルカリ水熱法や超臨界水を作用させる方法は、反応装置の導入、装置の腐食対策などの観点から製造コストの問題があった。また、脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物を有効活用する方法についても、依然として十分なものとはいえなかった。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、グリセリンまたは脂肪酸グリセリンエステルを含む原料の新たな利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、上記原料のpHを調整したうえで、得られた組成物を、高温高圧下でキャピラリーに送液することにより、グリセリンの酸化および重合が進行し、重合体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0012】
〔1〕 グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料から重合体を製造する方法であって、
グリセリンを含みかつpH2~6に調整された組成物を得るpH調整工程と、
前記pH調整された組成物を、200℃以上に加熱したキャピラリーに10MPa以上の圧力で送液することにより反応させる反応工程と、
を備えることを特徴とする重合体の製造方法。
〔2〕 前記重合体がポリ乳酸である、〔1〕に記載の重合体の製造方法。
〔3〕 前記キャピラリーの内径が0.3~2.0mmである、〔1〕または〔2〕に記載の重合体の製造方法。
〔4〕 前記pH調整された組成物の、前記キャピラリーの加熱された部分の滞留時間が0.5~7分である、〔1〕~〔3〕に記載の重合体の製造方法。
〔5〕 前記キャピラリーが、電磁誘導により加熱される、〔1〕~〔4〕に記載の重合体の製造方法。
〔6〕 前記pH調整工程は、前記原料をpH3以下に調整する第一のpH調整工程を備える、〔1〕~〔5〕に記載の重合体の製造方法。
〔7〕 前記第一のpH調整工程において、pHが2未満に調整され、
前記pH調整工程が、前記第一のpH調整工程の後に、pHを2~6に調整する第二のpH調整工程を備える、
〔6〕に記載の重合体の製造方法。
〔8〕 前記pH調整工程の後に前記pH調整された組成物を相分離する工程を備え、
前記相分離工程で得られたグリセリン含有液を、前記反応工程において反応させる、
〔6〕または〔7〕に記載の重合体の製造方法。
〔9〕 前記反応工程で得られた反応物から副生成物を分離する工程を備える、〔1〕~〔8〕に記載の重合体の製造方法。
〔10〕 前記副生成物分離工程は、反応物を冷却する工程、および冷却された反応物から有機酸を分離する工程を備える、〔9〕に記載の重合体の製造方法。
〔11〕 前記副生物分離工程は、前記有機酸分離工程の後に、前記重合体をさらに精製する工程を備える、〔10〕に記載の重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、グリセリンまたは脂肪酸グリセリンエステルを含む原料の新たな利用方法として、重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る重合体の製造方法のフローを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る重合体の製造方法は、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料から重合体を製造するものであり、グリセリンを含みかつpH2~6に調整された組成物を得るpH調整工程と、pHが調整された組成物を、高温高圧下でキャピラリーに送液することにより反応させる工程と、を備える。
【0016】
本実施形態により得られる重合体は、好ましくはポリ乳酸である。ポリ乳酸は、例えば、以下の2段階の反応で合成されるものと考えられる。
【化1】
【0017】
本実施形態によれば、pHを調整したグリセリン含有組成物を高温高圧下でキャピラリーに送液するとの簡便な方法により、重合体(特にポリ乳酸)を合成することができる。また、好ましい一態様によれば、グリセリンの酸化反応(上記式(1))と重合反応(上記式(2))とを一つの工程で進行させることができる。
【0018】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る重合体の製造方法の特に好適な実施形態におけるフローを表す図である。図1において、上記pH調整工程は第一および第二のpH調整工程の2工程に分けて図示されている。また、pH調整工程および反応工程に加え、任意工程である相分離工程が第二のpH調整工程と反応工程との間に実施されるよう図示され、さらに、任意工程である副生成物分離工程として、冷却工程、有機物分離工程および精製工程の3工程が、反応工程の後にこの順で実施されるように図示されている。
【0019】
(1)原料
本実施形態において用いる原料は、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含むものであれば、特に限定されない。
グリセリンを含む原料としては、例えば、精製したグリセリンであってもよく、また、グリセリンを含有する廃棄物などであってもよい。また、脂肪酸グリセリンエステルを含む原料は、後述するpH調整工程において、酸触媒エステル交換反応または加水分解反応などによりグリセリンを生成するため、これらも好適に利用することができる。
以下、グリセリン含有廃棄物および脂肪酸グリセリンエステル含有組成物についてやや詳しく説明する。
【0020】
(1-1)グリセリン含有廃棄物
本実施形態において使用し得るグリセリン含有廃棄物には、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリン、遊離脂肪酸の製造工程で副生されるグリセリン廃液、甘水、脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水などが例示される。
【0021】
ここで、遊離脂肪酸の製造工程で副生されるグリセリン廃液とは、動植物の油脂を加水分解して遊離脂肪酸を製造する場合に副生される廃棄物である。加水分解による遊離脂肪酸の製造方法としては、高温高圧分解法、酵素分解法等が挙げられる。かかる製造工程で副生されるグリセリン廃液には、グリセリンの他、未反応の油脂、部分的に加水分解された油脂等が含まれる。
また、甘水は、油脂を鹸化(アルカリ加水分解)して脂肪酸塩を生成させる場合(例えば、石鹸の製造過程など)における副生成物であり、グリセリン、水分、アルカリ等を含む。
脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水は、バイオディーゼル燃料をはじめとする脂肪酸アルキルエステルの製造過程において、反応物を洗浄したときに生じる廃水であり、水分の他、脂肪酸アルキルエステルの製造反応において副生されるグリセリンが含まれ、さらに未反応の遊離脂肪酸およびその塩、1価アルコール等が含まれる。
【0022】
次に、バイオディーゼル燃料の製造過程で副生される廃グリセリンについて、やや詳しく説明する。
バイオディーゼル燃料となる脂肪酸アルキルエステルは、植物油などの原料油脂に、メタノール等の1価アルコールと、水酸化カリウム等のアルカリ触媒とを加え、エステル交換反応を行うことで得られる。
【0023】
バイオディーゼル燃料の原料油脂としては、菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油、大麻油等の植物油;魚油、豚脂、牛豚等の獣脂;天ぷら油等の廃食油;などを用いることができる。
1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、エチルヘキサノール等を用いることができ、メタノールおよびエタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム等を用いることができるが、本実施形態で分離回収される塩の析出性や再利用容易性等の観点から、水酸化カリウムが好ましい。
【0024】
上記エステル交換反応においては、原料油脂に含まれる脂肪酸グリセリンエステルが1価アルコールと反応し、脂肪酸アルキルエステルおよびグリセリンが生成する。得られる反応液は、脂肪酸アルキルエステル相と、廃グリセリン相とに液々分離し、バイオディーゼル燃料の製造においては、得られた脂肪酸アルキルエステル相を回収して洗浄等を行い、バイオディーゼル燃料とする。
【0025】
一方、廃グリセリン相は、グリセリンを高濃度に含む他、未反応の1価アルコール、未反応の油脂、脂肪酸およびその塩、アルカリ触媒、さらには原料油脂に由来する夾雑物などが含まれる。廃グリセリンとしては、液状の廃グリセリンであっても良いし、また、固体状の廃グリセリンであっても良いが、作業性、取り扱い等の観点から、液状の廃グリセリンであることが好ましい。
廃グリセリンにおけるグリセリン、1価アルコール、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の含有量は特に限定されないが、通常、廃グリセリン全体に対して、グリセリンは25質量%以上65質量%以下、1価アルコールは2質量%以上20質量%以下、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の合計は30質量%以上50質量%以下となる場合が多い。本実施形態に係る重合体の製造方法をより安定的に実施可能とする観点から、廃グリセリン全体に対して、それぞれ、グリセリンは30質量%以上65質量%以下、1価アルコールは3質量%以上15質量%以下、油脂ならびに脂肪酸およびその塩の合計含有量は25質量%以上55質量%以下、であってよい。
【0026】
廃グリセリンはアルカリ触媒を多量に含むため、pHは9以上であることが多く、本実施形態においては、9~13であってよい。
本実施形態のpH調整工程を、後述する第一のpH調整工程(さらに、必要に応じて第二のpH調整工程)にて行う場合には、第一のpH調整工程における酸触媒エステル化反応を進行させやすくする観点から、廃グリセリンにおける水分の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。廃グリセリンにおける水分含有量は、加熱、減圧、乾燥剤等の使用、精製グリセリン中を透過させることなどにより適宜調整することができる。
【0027】
廃グリセリンは、未反応の1価アルコールや脂肪酸およびその塩などを含んでおり、酸を添加して酸触媒エステル交換反応を行うことにより、脂肪酸アルキルエステルをさらに製造することができる。しかし、廃グリセリン等のグリセリン含有廃棄物を酸性化すると、アルカリ水熱法による乳酸の合成には利用し難いという問題があった。
これに対し、本発明者の検討の結果、グリセリン含有廃棄物を含む原料を酸性化したものであっても、高温高圧下でキャピラリーに送液することにより、グリセリンの酸化および重合が進行することを見出した。
そのため、本実施形態によれば、酸性化したグリセリン含有廃棄物を有効に利用することができ、さらに、製造設備を簡略化できるとともに製造コストを抑制することもできる。
【0028】
(1-2)脂肪酸グリセリンエステル含有組成物
本実施形態においては、脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物も原料として用いることができる。本実施形態においては、後述するpH調整工程を行うため、脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物を用い、pH調整工程における酸触媒エステル化反応等により、グリセリンの収量を高めることができる。
脂肪酸グリセリンエステルを含有する組成物としては、例えば、廃食油、動植物油、高酸価油(グリストラップ油、下水油、地溝油、廃液処理再生油等)の脂肪酸グリセリンエステルを主成分とする油脂;油滓、石鹸等の脂肪酸塩を主成分とする組成物;などが挙げられる。
なお、本明細書において「主成分とする」とは、当該組成物において含有量が最も多い成分(ただし最も多い成分が水である場合には2番目に含有量が多い成分)であることを意味し、好ましくは含有量が40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0029】
高酸価油は、酸価10mgKOH/g以上の油脂をいい、油脂の主成分である脂肪酸グリセリンエステルの他、遊離脂肪酸等を含む。酸価は20mgKOH/g以上であってよく、さらには50mgKOH/g以上であってもよい。なお、酸価の上限は、通常は200mgKOH/g以下である。
油滓は、植物油脂の精製における脱酸工程において油脂(原油)から分離される副生成物であり、脂肪酸塩、脂肪酸グリセリンエステル、アルカリ、水分等を含む。
【0030】
(2)pH調整工程
pH調整工程は、グリセリンを含みかつpH2~6に調整された組成物を得る工程である。
【0031】
調整後の組成物のpHは、6以下であることを要し、5以下であることが好ましい。かかるpHであれば、後述する反応工程において、グリセリンの酸化反応および重合反応を効率的に進行させることができる。
また、調整後の原料のpHは、2以上であることを要し、2.5以上であることが好ましい。かかるpHであれば、後述する反応工程での反応を効率的に進行させることができるとともに、グリセリンや乳酸の副反応によりギ酸や酢酸が生成することを抑制することができ、またキャピラリー等の製造設備の腐食を抑制することができる。
【0032】
本工程においては、得られる組成物がグリセリンを含み、かつ当該組成物のpHを2~6に調整することができれば、その方法は特に限定されない。例えば、塩基性に偏った廃グリセリンに、酸を添加するだけであってもよい。
pH調整工程においては、通常、酸を用いてpHを調整する。本工程において用いることのできる酸としては、濃硫酸、リン酸、濃硝酸、塩酸(塩化水素を含む)、炭酸等の無機酸;酢酸、ギ酸等の有機酸;などが挙げられ、いずれを用いてもよいが、pH調整後の塩の分離が容易であることなどから、無機酸が好ましく、濃硫酸および塩酸が好ましく、濃硫酸が特に好ましい。
【0033】
ただし、本実施形態においては、グリセリンの収量を高める観点、特に、グリセリン含有廃棄物以外の原料(例えば、脂肪酸グリセリンエステル含有組成物)を用いる場合には、酸触媒エステル交換反応によりグリセリンの収量を高める観点から、図1に示す第一のpH調整工程(さらに、必要に応じて第二のpH調整工程)にて行うことが特に好ましい。
【0034】
(2-1)第一のpH調整工程
第一のpH調整工程は、グリセリンおよび脂肪酸グリセリンエステルの少なくとも1種を含む原料をpH3以下に調整する工程である。
グリセリンを含む原料を用いる場合、中でも廃グリセリンを用いる場合には、本工程において、廃グリセリンに含まれる脂肪酸の塩が、酸により遊離脂肪酸に変換される。また、脂肪酸およびその塩は、酸を触媒とし、廃グリセリンに含まれる未反応の1価アルコールとのエステル化反応により、脂肪酸アルキルエステルを生成する。
また、原料として脂肪酸グリセリンエステル含有組成物を用いる場合には、1価アルコールとのエステル交換反応により、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを生成する。この場合の1価アルコールは、別途添加することができ、例えば、後述するアルコール分離工程において回収した1価アルコールを用いることができる。また、脂肪酸グリセリンエステル含有組成物と同時に廃グリセリンを処理することにより、廃グリセリンに含まれる未反応の1価アルコールを利用してもよい。
1価アルコールの存在下で第一のpH調整工程を行う場合、本工程は、酸触媒エステル化工程ということもできる。
【0035】
なお、1価アルコールが含まれない場合であっても、脂肪酸グリセリンエステルは、pH調整工程(特に第一のpH調整工程)において酸の存在下でグリセリンを生成する。また、原料に脂肪酸塩が含まれる場合は、酸により脂肪酸塩が遊離脂肪酸に変換され、グリセリンと分離しやすくなる。
そのため、原料に1価アルコールが含まれない場合であっても、本実施形態を好適に適用することができる。
【0036】
本実施形態においては、pH調整工程(特に第一のpH調整工程)を行うため、多様な原料を同時に処理することができる。また、かかるpH調整工程により、廃グリセリン、廃食油、高酸価油など、グリセリンや脂肪酸グリセリンエステルを含有する廃棄物を有効活用できるため、環境負荷の低減にも寄与することができる。
なかでも高酸価油は、酸価が10mgKOH/g以上と高いことから、前述したアルカリ触媒によるエステル交換反応の原料としての利用は困難である。しかし、酸触媒エステル化反応ともいうべき第一のpH調整工程においては、高酸価油も原料として好適に用いることができる。
【0037】
廃グリセリンや脂肪酸グリセリンエステル含有組成物などを原料として用いる場合には、第一のpH調整工程において、脂肪酸アルキルエステルや遊離脂肪酸等を含む油相が、グリセリン相から分離する。なお、油相を回収した場合、得られた油分(脂肪酸アルキルエステル,遊離脂肪酸等)は、さらなる酸触媒エステル化反応に付し、最終的にはバイオディーゼル燃料等の原料とすることができる。
一方、グリセリン相は、酸の添加により酸性化されている。また、グリセリン相は、酸と廃グリセリンに含まれるアルカリとから生成した塩を含有する。なお、塩の一部は析出していてもよく、すなわちグリセリン相は、グリセリンを含む液相と析出した塩とを含んでいてもよい。
【0038】
第一のpH調整工程においては、上記原料と上記酸との混合液のpHを3以下に調整することが好ましく、1以下に調整することが特に好ましい。混合液のpHは、上記酸の添加量により調整することができる。混合液のpHを上記範囲とすることで、酸触媒エステル化反応の効率を高めることができる。また、pHを上記範囲に調整することで、グリセリン相からの油相の分離が良好なものとなる。
なお、第一のpH調整工程で得られるグリセリン相のpHが2~6から外れている場合(特にpHが2未満である場合)には、得られるグリセリン相を、後述する第二のpH調整工程に付せばよい。
【0039】
第一のpH調整工程において使用し得る原料は、水分含有量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。水分含有量が低い原料(例えば、水分含有量の少ない廃グリセリン等)を用いることで、後述する混合液の水分含有量を低くすることが容易となる。なお、原料の水分含有量は、加熱、減圧、乾燥剤等の使用、精製グリセリン中を透過させることなどにより適宜調整することができる。
【0040】
第一のpH調整工程で用いる酸としては、濃硫酸、リン酸、濃硝酸、塩化水素等の無機酸を用いることが好ましく、水分含有量の低い濃硫酸およびリン酸がさらに好ましく、濃硫酸が特に好ましい。
【0041】
混合液は、水分含有量を10質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以下とすることが特に好ましい。混合液の水分含有量は、各原料の水分含有量および投入量の調整、混合液への乾燥剤の使用などにより適宜調整することができる。
混合液の水分含有量を上記範囲とすることで、酸触媒エステル化反応の効率を高めることができ、またグリセリン相と油相とを良好に分離させることができる。
【0042】
第一のpH調整工程における混合液の温度は、30~64℃とすることができ、さらには50~60℃とすることができる。また、反応時間は、0.5~12時間とすることができ、さらには4~12時間とすることができる。この間は混合液を攪拌することが好ましい。
上記反応(あるいは攪拌)が終了したのち、0.2~12時間静置することで、脂肪酸アルキルエステルや未反応の油脂等を含む油相が、グリセリン相から分離する。かかる油相を回収し、得られた油分をさらなる酸触媒エステル化反応等に付すことで、脂肪酸アルキルエステルの生成に用いることができる。
一方、グリセリン相は、そのまま反応工程に用いてもよいが、pHが2未満である場合には、さらに第二のpH調整工程を行う。
【0043】
(2-2)第二のpH調整工程
第二のpH調整工程は、第一のpH調整工程で得られたグリセリン相のpHが2未満である場合に、アルカリ性物質を用いてグリセリン相のpHを2~6に調整する工程である。
かかるアルカリ性物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物、を用いることができる。
【0044】
また、上記アルカリ性物質として、グリセリンを含有する物質を用いることができる。かかるグリセリン含有アルカリ性物質としては、例えば、上記廃グリセリン等の油脂のアルカリ触媒エステル交換反応による副生成物;甘水等の油脂のアルカリ加水分解による副生成物;脂肪酸アルキルエステルの洗浄廃水;などが挙げられる。これらは、グリセリン相のpHを2以上に調整できるのみならず、グリセリンの収量を高めることができるため、かかる観点からもグリセリン含有アルカリ性物質の使用は好ましい。かかるグリセリン含有アルカリ物質は、脂肪酸塩や脂肪酸グリセリンエステルを含有するものでもよい。
上記グリセリン含有アルカリ性物質は、グリセリン含有量が25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば99質量%以下であってよく、90質量%以下であってよい。
また、上記グリセリン含有アルカリ性物質は、pHが9以上であることが好ましく、9~13であることが特に好ましい。
【0045】
上記第二のpH調整工程においては、グリセリン相のpHが2以上となるように、好ましくは2.5以上となるように、上記アルカリ性物質の添加量を調整する。またグリセリン相のpHは、6以下となるように、好ましくは5以下となるように調整される。
【0046】
第二のpH調整工程の次に相分離工程を行う場合、第二のpH調整工程においては、pHが強酸性から次第に高まるよう、グリセリン相を撹拌しながら上記アルカリ性物質を添加することが好ましい。前述したとおり、pH調整に用いるアルカリ性物質として脂肪酸塩を含有する物質を用いてもよいところ、上記のような添加順序とすることで、脂肪酸塩が酸により遊離脂肪酸に変換される。遊離脂肪酸は、グリセリン相から相分離して油相に移行し、グリセリン含有液のpHが高くなってもグリセリン含有液に再溶解し難くなる。これにより、続く相分離工程における分離がより一層容易となる。なお、脂肪酸塩は、上述した脂肪酸の塩を主成分とする物質のほか、油脂のアルカリ触媒エステル交換反応やアルカリ加水分解による副生成物にも含まれる。
【0047】
上記アルカリ性物質により、第一のpH調整工程で得られたグリセリン相はpH2~6に調整される。pHが調整されたグリセリン相は、そのまま反応工程に用いてもよいが、さらに相分離工程を行うことが好ましい。
【0048】
(3)相分離工程
上記pH調整工程により、pHが調整された組成物には、エステル交換反応により副生した遊離脂肪酸のほか、アルカリ触媒の塩、未反応の脂肪酸グリセリンエステル、原料油脂に由来する夾雑物などが含まれる。これらは、後述する反応工程において大きな問題となるものではないが、得られる重合体の精製操作が煩雑になったり、またキャピラリー内で析出・固着等といった問題の原因となり得る。そのため、これらの問題が生じ得る場合には、上記pHが調整された原料に対し、反応工程の前に相分離工程を行うことが好ましい。
【0049】
相分離工程においては、第一のpH調整工程でも分離されず残存した油脂や脂肪酸の他、第二のpH調整工程において添加されたアルカリ性物質に由来する油脂や遊離脂肪酸などが、油相として分離される。
また、アルカリ触媒の塩は、pH調整工程(好ましくは第一のpH調整工程)において添加された酸(濃硫酸等)と、アルカリ(カリウム、ナトリウム等)との塩であり、好ましくは硫酸カリウムである。上記アルカリは、第一のpH調整工程に投入される原料(廃グリセリン等)や、第二のpH調整工程において添加されたアルカリ性物質に含まれるものである。
pHが調整された原料には、グリセリンの他、グリセリン含有廃棄物(例えば、廃グリセリン等)に由来する1価アルコール等が含まれ得るところ、これらに対し油分や塩は溶解度が低いため、相分離が生じる。
【0050】
相分離工程においては、中和後の原料を3~12時間ほど静置後、上部液(油分)、下部液(第二のグリセリン液)を別々に回収し、下部液となるグリセリン含有液を得ることができるが、遠心分離等により分離速度を高めることが好ましい。かかる遠心分離においては、軽液(すなわち油分)、重液(すなわちグリセリン含有液)および固形物(すなわち塩)を分離することのできる三相分離型の遠心分離機を好適に用いることができる。また、塩が多量に析出する場合には、デカンタ型等の固液分離が可能な遠心分離機により一定程度の塩をあらかじめ分離した後、液相部分をさらに三相分離型遠心分離機により分離してもよい。
【0051】
相分離工程において得られる油分は、例えば、第一のpH調整工程において分離された油分と合わせ、さらなる酸触媒エステル化反応等に付すことで、脂肪酸アルキルエステルの生成に用いることができる。また、塩は、例えば、洗浄工程等を経て肥料等の原料とすることができる。
一方、グリセリン含有液は、続く反応工程の原料として利用する。
【0052】
(4)反応工程
反応工程では、上記pH調整された原料(好ましくは、相分離工程で得られたグリセリン含有液)を、高温高圧下でキャピラリーに送液する。かかる工程において、グリセリンの酸化反応および重合反応が進行する。
本実施形態により得られる重合体は、好ましくはポリ乳酸である。
【0053】
上記原料を高温高圧下にてキャピラリー内で反応させることにより、反応液へ熱が効率的に伝導され、高圧条件と相まって反応の進行を早めることができる。また、キャピラリーに送液して反応させるため、バッチ型反応器と比較すると、反応の制御が容易であるとともに副反応が生じ難い。このような利点を備えるため、酸条件でありながら、グリセリンの酸化反応および重合反応を一工程で進行させることができるものと考えらえる。
なお、本実施形態の好ましい一態様においては、グリセリンの酸化反応および重合反応を一工程で進行させるものとしているが、本発明はこれに限定されず、反応工程を2段階(例えば、酸化反応と重合反応とを分ける等)にて行ってもよい。
【0054】
反応工程で用いる原料は、pH調整工程においてpHが2~6に調整された原料(好ましくは、相分離工程で得られたグリセリン含有液)である。
かかる反応工程の原料において、グリセリンの含有量は、8~90質量%であることが好ましく、10~20質量%であることが特に好ましい。
また、反応工程の原料において、水分の含有量は3~90質量%であることが好ましく、80~90質量%であることが特に好ましい。
【0055】
上記キャピラリーとしては、例えば、高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー等の配管チューブ等を好適に利用することができる。キャピラリーの材質は、耐熱性、耐圧性の観点から、ステンレス、チタン等の金属であることが好ましい。
なお、キャピラリーの内壁に触媒が固定されているものも知られているが、本実施形態においては特段触媒を必要としない。
【0056】
キャピラリーは、内径が2.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることが特に好ましい。キャピラリーの内径が上記上限値以下であることで、グリセリンの酸化反応および重合反応をより効率的に進行させることができる。
一方、キャピラリーの内径は0.3mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましい。ここで、pH調整された原料は、グリセリンを高濃度に含有する高粘度の液状組成物であるところ、キャピラリーの内径が上記下限値以上であることで、このような高粘度の液状組成物であっても、送液が容易となる。
【0057】
キャピラリーの外径は特に制限されず、キャピラリーの材質、耐圧性および熱伝導性等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、1~4mmであってよく、さらには1.2~3.2mmであってよい。
【0058】
キャピラリーの加熱された部分の長さは、後述する滞留時間や流量等に応じて適宜決定することができるが、例えば、0.5~4mとすることができ、1~3mとすることができる。なお、ここでいうキャピラリーの長さは、キャピラリー(配管チューブ等)のうち、後述する加熱手段にて加熱された部分の長さをいう。また、後述するように反応工程を2段階に分けて実施する場合、ここでいうキャピラリー長さは、2段階のそれぞれで用いるキャピラリーの合計長さである。
【0059】
反応工程においては、上記キャピラリーを200℃以上に加熱することを要し、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることが特に好ましい。キャピラリーを上記温度に加熱することで、グリセリンの酸化反応および重合反応をより効率的に進行させることができる。なお、一般にキャピラリーは熱伝導性が良好であり、キャピラリーを加熱することで、キャピラリー内を通過する反応液も良好に加熱される。
また、キャピラリーの加熱温度は、500℃以下であることが好ましく、450℃以下であることがより好ましく、400℃以下であることが特に好ましい。キャピラリー温度が上記上限値以下であることで、グリセリンの分解等の副反応が抑制され、重合体の収率を向上させることができる。
なお、キャピラリーの加熱手段は特に制限されず、チューブオーブン、電磁誘導加熱等の手段を用いることができる。なかでも、エネルギー効率の観点から、電磁誘導によりキャピラリーを加熱することが好ましい。
【0060】
反応工程においては、上記原料を10MPa以上の圧力で送液することを要する。送液圧力は、12MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることが特に好ましい。送液圧力を上記下限値以上とすることで、グリセリンの酸化反応および重合反応をより効率的に進行させることができる。
送液圧力の上限値は特に限定されないが、グリセリンの分解等の副反応を抑制する観点等から、40MPa以下であってよく、30MPa以下であってよい。
【0061】
反応工程において、上記pH調整された組成物の、キャピラリーの加熱された部分の滞留時間は、0.5分以上であることが好ましく、1分以上であることが特に好ましい。滞留時間を上記下限値以上とすることで、グリセリンの酸化反応および重合反応をより効率的に進行させることができる。
また、上記滞留時間は、7分以下であることが好ましく、5分以下であることがより好ましく、3分以下であることが特に好ましい。滞留時間が上記上限値以下であることで、グリセリンの分解等の副反応をより効果的に抑制することができる。
なお、本明細書において、キャピラリーの加熱された部分の滞留時間t(単位:分)は、キャピラリーの加熱された部分の長さL(同m)、キャピラリーの断面積S(同m2 )、および原料の流量V(同m3 /分)から、t=(L×S)/Vで求められる平均滞留時間をいう。
【0062】
以上述べた反応工程により、グリセリンの酸化反応および重合反応が進行し、重合体を含む反応物を得ることができる。得られた反応物は、重合体を回収しやすくするため、副生成物分離工程等に付すことが好ましい。
【0063】
(5)副生成物分離工程
上記反応工程では、グリセリンの酸化反応および重合反応により、重合体(特にポリ乳酸)が合成されるほか、副生成物として水素ガスが生じる。また、副反応として、原料に含まれる1価アルコールの酸化反応のほか、グリセリンや乳酸の分解反応により、酢酸やギ酸等の有機酸が生じる。さらに、副反応として着色物質等が生じる場合がある。
上記反応工程で得られた重合体を利用するために、上記反応物から、これらの副生成物を分離する工程をさらに備えることが好ましい。かかる副生成物分離工程は、例えば、反応物を冷却する工程、冷却された反応物から有機酸を分離する工程、重合体をさらに精製する工程を備えるものとすることができる。
【0064】
(5-1)冷却工程
冷却工程は、反応工程で得られた反応物を冷却する工程である。上記反応工程は高温高圧条件で行われるため、反応物の相当量が気化している。これを冷却することにより、気化した反応物を液化して回収する。
また、反応工程においては、グリセリンの酸化により水素が発生しているところ、冷却工程により反応物を液化することで、副生成物である水素を分離することができる。
【0065】
冷却温度は、例えば-10~30℃であってよく、さらには0~20℃であってよい。
冷却手段は特に限定されず、水冷、空冷等の汎用の手段を採用することができる。
【0066】
なお、冷却された反応物は、上記相分離工程によっても残存したカリウム塩、ナトリウム塩等を含む場合がある。このような塩は、例えば、イオン交換法、遠心分離法等の公知の方法により分離してもよい。
冷却工程により冷却され、液化して水素と分離された反応物(必要であれば、さらに脱塩された反応物)は、さらに有機酸分離工程に付すことができる。
【0067】
(5-2)有機酸分離工程
有機酸分離工程は、冷却された反応物から、副生成物である有機酸を分離する工程である。
反応工程に付される原料に、グリセリン含有廃棄物(例えば、廃グリセリン等)に由来する1価アルコール(例えば、メタノール)が含まれている場合には、反応工程でこれらが酸化され、ギ酸等の有機酸を生じる。また、反応物には、グリセリンの酸化により生じた乳酸が重合せずに残存し、また乳酸等の分解反応により酢酸やギ酸等の有機酸が生じている。
これらの有機酸を分離する方法は特に限定されないが、例えば、減圧蒸留法、気液接触法、膜分離法などを挙げることができる。
【0068】
減圧蒸留法は、反応物を加温して有機酸等を蒸発させ、その後減圧することで有機酸等を分離する方法である。なお、分離した有機酸は冷却して回収することができる。
気液接触法は、反応物を微細な液滴として気相と接触させ、沸点の低い有機酸を気相に移行させて分離する方法であり、具体的にはスプレードライ法等を好適に採用することができる。
膜分離法は、有機酸を優先的に透過させる膜を用いる方法である。
【0069】
(5-3)精製工程
冷却工程および有機酸分離工程により、それぞれ水素および有機酸が分離された反応物には、目的物である重合体が含まれているところ、さらに副生成物としての着色物質等が含まれていることがある。さらにこれらを除去することが望ましい場合には、水素および有機酸が分離された反応物を、さらなる精製工程に付してもよい。
精製工程としては、例えば、活性炭、シリカ、活性白土、珪藻土、ゼオライト、モレキュラーシーブ等の吸着剤を通過させる方法、膜分離、クロマトグラフィー等により精製する方法が例示される。
【0070】
以上の方法により製造された重合体は、プラスチック原料として利用することができる。特に、重合体がポリ乳酸である場合には、生分解性を有するため環境負荷が小さいものとなる。また、原料として、産業廃棄物であるグリセリン含有廃棄物(廃グリセリン等)や脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物(廃食油,高酸価油等)を用いる場合には、これらの廃棄物を有効活用できるため、かかる観点からも環境負荷を低減することができる。
【0071】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0072】
例えば、上記実施形態においては、グリセリンの酸化反応と重合反応とを一つの工程で行うこととしていたが、酸化反応と重合反応とは分けて実施してもよい。この場合、例えば、キャピラリー温度および送液圧力を制御するとともに、キャピラリーの長さや流量を調整することで滞留時間を制御し、グリセリンの酸化反応が一定程度進行した段階で、乳酸を含む中間反応物を回収する。次いで、中間反応物を再びキャピラリーに送液して重合反応を進行させ、重合体を合成することができる。
このように、酸化反応と重合反応とを二段階で行う場合には、さらに、酸化反応にて得られた乳酸を光学分割してL-乳酸、D-乳酸をそれぞれ回収し、それぞれを重合反応に付してもよい。なお、光学分割の方法としては、結晶化法、酵素法、クロマトグラフィーによる方法、キャピラリー電気泳動による方法などがあるが、いずれを採用してもよい。
【実施例
【0073】
以下、実施例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0074】
(廃グリセリンの準備)
水酸化カリウムを触媒とするアルカリ触媒法により、廃食油とメタノールとをエステル交換させてバイオディーゼル燃料を製造した。このとき生成したグリセリンを含む副生成物を廃グリセリンとして回収した。
【0075】
この廃グリセリンにゼオライトを廃グリセリン1kgあたり20g添加して水分を除去した。ゼオライトが添加された廃グリセリンは、250メッシュのフィルターを通過させて、ゼオライトおよび固体状の不純物を除去した。
こうして得られた原料としての廃グリセリン(以下、「原料廃グリセリン」という。)の組成および物性は表1に示すとおりであった。
【0076】
【表1】
【0077】
(第一のpH調整工程)
加温冷却機能を有する容量1000Lの反応タンクに、原料廃グリセリン500kg、高酸価油(150mgKOH/g)300kgを投入し、攪拌(120rpm)しながら55℃まで加温した。この状態で、濃硫酸32Lを反応容器中に15分かけて添加した。濃硫酸の添加にあたり、反応容器中の混合物の温度が65℃を超えないように留意した。濃硫酸を全量添加した後の混合液のpHは1であった。濃硫酸の添加終了後、240分間攪拌を継続した。その後10時間静置し、油相とグリセリン相とに分離させ、グリセリン相を回収した。以上の操作を繰り返すことにより、グリセリン相600kgを得た。
【0078】
(第二のpH調整工程)
容量1000Lの反応タンクに、攪拌しながら上記グリセリン相600kg、廃グリセリン200kgを投入した。pHは3.0であった。その後も3時間攪拌を継続し、その後12時間静置した。
【0079】
(相分離工程)
pH調整されたグリセリンを、デカンタ型遠心分離機(製品名:Z18H-V,タナベウィルテック社製)にて5500rpm、180分間処理し、析出した硫酸カリウムを分離回収した。液相について、さらに三相分離型遠心分離機(アルファ・ラバル社製)にて8000rpm、180分間処理し、油分、グリセリン含有液(グリセリン:87質量%,pH3.0)、硫酸カリウムをそれぞれ分離回収した。
【0080】
(反応工程,冷却工程)
三相分離により得られたグリセリン含有液160kgに、水800kgを添加・混合し、得られた混合液を、送液ポンプ(製品名:3N-104-40V,富士ポンプ社製)を用い、内径0.8mmのSUS316製ステンレス管に送液した。ステンレス管のうち2mを、電磁誘導加熱装置(製品名:EKOHEAT20/10,アメリサーム社製)内に保持し、380℃に加熱した。装置を経由したステンレス管を水槽(18℃)に配置し、これにより、加熱部分を通過した管内の溶液を速やかに水冷した。送液システム内の圧力は25MPaに保持された。ポンプの流量を調整することにより、加熱部分における溶液の滞留時間は2分に制御された。
【0081】
冷却された反応物を回収し、以下の条件にて液体クロマトグラフィーにより分析した結果、ポリ乳酸90%,酢酸8%,ギ酸2%であった。なお、反応物中に含まれるポリ乳酸は、下記条件での液体クロマトグラフィーにおいて、ポリ乳酸標準品と保持時間が一致した。
【0082】
=液体クロマトグラフィー条件=
カラム:Shodex GPC LF-604(6.0mmI.D.×150mm)×2
移動相:CHCl
流速 :0.3mL/min
検出器:Shodex RI(small cell volume)
カラム温度:40℃
【0083】
(有機酸分離工程,精製工程)
上記反応工程(および冷却工程)で得られた反応物について、減圧蒸留装置を用い、蒸発物を分離した。蒸発物には、ギ酸、酢酸、乳酸が含まれていた。有機物を分離した反応物について、さらに活性炭を充填したカラムを通過させて着色物質を吸着させ、ポリ乳酸を含む組成物を得た。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、グリセリン含有組成物を原料とし、プラスチック原料として利用可能な重合体を製造することができる。さらに、本発明は、従来は利用価値が低いとされていた、グリセリン含有廃棄物(廃グリセリン等)や脂肪酸グリセリンエステル含有廃棄物(廃食油,高酸価油等)を利用することができ、産業上の利用価値は大なるものがある。
図1