(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】光学レンズのカスタム化装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G02C 13/00 20060101AFI20240111BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20240111BHJP
A61F 2/16 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
G02C13/00
G02C7/02
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2020564178
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2019060274
(87)【国際公開番号】W WO2019219334
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-01-27
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520251553
【氏名又は名称】ビビオール アーゲー
【氏名又は名称原語表記】VIVIOR AG
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】パベル ザハロフ
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル ムロチェン
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/174817(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133166(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0231683(US,A1)
【文献】特開2010-207279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
A61F 2/16
A61B 3/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズをカスタム化するための装置(100)であって:
ユーザの視覚活動の視距離プロファイルを取得するための観察ユニット(130)と;
取得した前記視距離プロファイルに基づいて個人的距離プロファイルを取得するためのプロセッサ(170)と;
取得した前記個人的距離プロファイルに基づいて光学レンズをカスタム化するための実行ユニット(190)と;
を備え、
それぞれの前記視距離プロファイルは、前記視覚活動の特定の視覚活動に関連し、視距離の発生分布である装置(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の装置(100)であって,
前記個人的距離プロファイルは,統計的距離プロファイル及び推奨距離プロファイルのうちの少なくとも1つを含み,又はそれ自体である,装置(100)。
【請求項3】
請求項2に記載の装置(100)であって,
前記観察ユニット(130)は,各視覚活動に費やされる時間を推定するように構成され,
前記プロセッサ(170)は,取得した前記視距離プロファイルと,視覚活動の合計時間に対する前記各視覚活動に費やされる時間の比とに基づいて統計的距離プロファイルを計算するように構成されている,装置(100)。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の装置(100)であって,
前記観察ユニット(130)は,ユーザの入力,眼鏡使用の統計データ,ユーザの運動量,ユーザの場所における照明,及び眼鏡非着用についての一般的な選好度のうちの少なくとも1つを含むパラメータに基づいて活動関連性係数を取得するように構成され,
前記プロセッサ(170)は,取得した前記視距離プロファイル及び取得した前記活動関連性係数に基づいて推奨距離プロファイルを計算するように構成されている,装置(100)。
【請求項5】
請求項2~4の何れか一項に記載の装置(100)であって,
前記統計的距離プロファイルは,
【数1】
として定義され,ここに,Tは一連の視覚活動の合計時間,t
aは一連の視覚活動Aのうちの特定の視覚活動aに費やされた時間,Pは視距離,屈折力又は任意の距離関連パラメータ,h
a(P)は特定の視覚活動についての視距離プロファイル,aは特定の視覚活動,Aは一連の視覚活動である,装置(100)。
【請求項6】
請求項2~5の何れか一項に記載の装置(100)であって,
前記推奨距離プロファイルは,
【数2】
として定義され,ここに,m
aは活動関連性係数であって,aを特定の視覚活動,Aを一連の視覚活動とした場合に,
【数3】
として正規化され,Pは視距離,屈折力又は任意の距離関連パラメータ,
h
a
(P)は
特定の視覚活動についての視距離プロファイルである,装置(100)。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の装置(100)であって,
取得した前記視距離プロファイルは,実際の活動距離プロファイルであり,
前記実際の活動距離プロファイルは,ユーザが視覚活動を実行している間に測定される,装置(100)。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の装置(100)であって,活動感知ユニット(112)を更に備え,該活動感知ユニット(112)は:
少なくとも1つの物体における複数の点までの距離を測定し;
前記活動感知ユニット(112)の向き及び/又は位置を決定し;
前記測定した距離,及び前記決定した向き及び/又は位置に基づいて,少なくとも1つの物体に関する情報を導き出し;
該導き出した情報に基づいてユーザの視覚活動を分類するように構成され;更に,
前記少なくとも1つの物体に関する情報は,前記物体の位置,形状,傾斜及びサイズのうちの少なくとも1つを含み,又はそれ自体である,装置(100)。
【請求項9】
請求項2に記載の装置(100)であって,
前記光学レンズは,前記実行ユニット(190)によってカスタム化され,該実行ユニット(190)は:
前記統計的距離プロファイル及び前記推奨距離プロファイルのうちの少なくとも1つに必要とされる焦点の数を決定し;
該焦点における屈折力を決定し;更に,
該決定した屈折力を前記焦点において有する光学レンズを製造するように構成される,装置(100)。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の装置(100)であって,
前記光学レンズが,眼の天然光学要素,眼科用インプラント及び眼科用レンズの何れかであり,
前記眼科用レンズが,眼内レンズ,コンタクトレンズ及び眼鏡レンズの何れかである,装置(100)。
【請求項11】
光学レンズをカスタム化するための方法であって:
ユーザの視覚活動の視距離プロファイルを取得するステップ(S230)と;
取得した前記視距離プロファイルに基づいて個人的距離プロファイルを取得するステップ(S250)と;
取得した前記個人的距離プロファイルに基づいて光学レンズをカスタム化するステップ(S270)と;
を備え、
それぞれの前記視距離プロファイルは、前記視覚活動の特定の視覚活動に関連し、視距離の発生分布である方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって,
前記個人的距離プロファイルは,統計的距離プロファイル及び推奨距離プロファイルのうちの少なくとも1つを含み,又はそれ自体である,方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって,該方法は:
前記視覚活動のそれぞれに費やされた時間を推定するステップ(S252)と;
取得した前記視距離プロファイル,及び前記視覚活動の合計時間に対する前記視覚活動のそれぞれに費やされた時間の比に基づいて統計的距離プロファイルを計算するステップ(S254)と;
を更に備え;及び/又は
前記方法は:
ユーザの入力,眼鏡使用の統計,ユーザの運動量,ユーザの場所における照明,並びに眼鏡非着用について
の一般的な選好度の少なくとも1つを含むパラメータに基づいて活動関連性係数を取得するステップ(S256)と;
取得した前記視距離プロファイル及び取得した前記活動関連性係数に基づいて前記推奨距離プロファイルを計算するステップ(S258)と,
を更に備え;及び/又は
前記統計的距離プロファイルは:
【数4】
として定義され,
ここに,Tは一連の視覚活動の合計時間,t
aは一連の視覚活動Aのうちの特定の視覚活動aに費やされた時間,Pは視距離,屈折力又は任意の距離関連パラメータ,h
a(P)は視覚活動の視距離プロファイル,aは特定の視覚活動,Aは一連の視覚活動であり;及び/又は
前記推奨距離プロファイルは:
【数5】
として定義され,
ここに,m
aは活動関連性係数であって,aが特定の視覚活動,Aが一連の視覚活動である場合に,
【数6】
として正規化され,Pは視距離,屈折力又は任意の距離関連パラメータであり,h
a(P)は視覚活動の視距離プロファイルである,方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法であって,前記光学レンズをカスタム化するステップ(S270)は:
前記統計的距離プロファイル及び前記推奨距離プロファイルのうちの少なくとも1つに必要とされる焦点の数を決定するステップと;
該焦点における屈折力を決定するステップと;
該屈折力を前記焦点において有する光学レンズを製造するステップと;を備える方法。
【請求項15】
請求項11~14の何れか一項に記載の方法であって,該方法は,ユーザグループに対して実行するものとし,かつ,以下のステップ,すなわち:
前記ユーザグループの個人的距離プロファイルを取得するステップと;
前記ユーザグループについて取得した前記個人的距離プロファイルについての統計的処理に基づいて光学レンズをカスタム化するステップと;を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,一般的には光学レンズの設計分野に関する。より具体的に,本発明は,患者又はユーザの行動又はニーズに応じて光学レンズをカスタム化するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
視力矯正のために現時点で利用可能な解決策の1つとして,患者の眼における天然水晶体が曇っている場合(白内障等),機能が不十分である場合(老眼等),又は眼が傷ついている場合に,眼内レンズ(IOL)を移植して水晶体を交換することができる(これは「屈折レンズ交換」とも称される)。
【0003】
現在,IOLは既製品であり,0.5ディオプトリ刻みで提供されている。ただし,一部の患者は,収差や乱視等,追加的な光学的機能不全を抱えている場合があり,このような標準的IOLでは矯正することができない。ある特定の距離/屈折力で鮮明な画像を提供するIOLは,単焦点型と称されている。更に,遠近両用型,三重焦点型,多重焦点型のIOL等,複数の距離又は距離範囲からの光の焦点合わせが可能である高度の光学系を備えるIOLが存在している。
【0004】
患者の潜在的ニーズに対応するため,病院等では数百種又は数千種にも及ぶ多様なレンズを準備しておく必要がある。より微細な解像度を得るためには,更に大量の在庫が必要となる。これは,病院にとって不可能又は困難であり,小規模の診療所では猶更である。
【0005】
更に,患者の立場からは,解像度と,個々の患者の光学的特性のカスタム化の両観点から,より正確なレンズを有することが必要である。
【0006】
近年,目標屈折率に合わせてレンズを微調整する技術や,最新の製造技術を使用してその場でレンズを製造する技術が進化している。レンズの微調整は,レンズの移植前及び移植後に実行することができる。
【0007】
これは,例えばレーザにより角膜表面に施される屈折矯正手術による眼の天然レンズ矯正にも当てはまる。レーザ設定及び治療形状は,必要な視覚的結果を達成すべく,高精度でカスタム化することができる。
【0008】
しかしながら,病院での患者の問診に基づいて屈折率を推定する現在の慣行は,個別的な患者のニーズを反映するには不十分である。究極的なカスタム化を行った場合でも,あらゆる条件下で完璧な視力矯正を行えるレンズは存在しない。例えば,最新型のレンズは,1つ又は複数の視距離で高画質を実現できる反面,他の距離では患者が低視力を甘受するか,又は追加的な視力矯正手段,例えば眼鏡を使用する必要がある。それ故,患者及び/又は医師にとって,個々の患者のニーズを完全かつ正確に理解して目標屈折率を定義し,かつ,それぞれのレンズを適切に調整して,そのような解決策の利点を最大化する必要がある。
【0009】
したがって,本発明の目的は,光学レンズ,例えばIOL又はレーザ処理された角膜を,より正確かつ効率的カスタム化することができ,しかも個々の患者にも理想的な方法を提供することである。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一態様によれば,光学レンズをカスタム化するための装置(例えば,レンズカスタマイズ/カスタム化装置又はレンズ設計装置)が提供される。本発明に係る装置は,観察ユニット,プロセッサ及び/又は実行ユニットを備える。観察ユニットは,ユーザの視覚活動及び/又は視覚活動の視距離プロファイルを取得するように構成されている。プロセッサは,取得したユーザの視覚活動及び/又は取得した視聴距離プロファイルに基づいて,個人的な距離プロファイルを決定又は計算するように構成されている。実行ユニットは,ユーザの視覚活動及び/又は取得した個人的距離プロファイルに基づいて光学レンズをカスタム化するように構成されている。
【0011】
個人的距離プロファイルは,統計的距離プロファイル及び推奨距離プロファイルのうちの少なくとも1つを含むもの,又はそれ自体として定義することができる。
【0012】
光学レンズは,本発明では一般的に,ユーザの視力改善を図るための光学装置として理解される。レンズは,角膜又は水晶体の表面等,眼の何れかの天然構造である。レンズは,眼鏡又はコンタクトレンズ等として眼外に配置することができ,眼内レンズ(IOL)等として眼内に移植することができ,あるいはこれらレンズの組み合わせで構成することができる。
【0013】
視覚活動は,ユーザ又は患者によって実行される活動として定義することができる。視覚活動は,例えば,読書,コンピュータ上での作業,テレビの視聴等,視覚が関与する(視覚に依存する)場合がある。視覚活動性能は,決定的ではあるも非限定的に,患者の視力に依存している。視覚活動は,必ずしも視覚系の活動に限定されるものではなく,他の生理学的システムが関与する場合もある。例えば,射撃は鋭敏な視覚に依存するが,とりわけ筋肉系も関与している。あるいは,視覚活動は,単にユーザの視覚が必要とされる活動として定義することもできる。
【0014】
視距離プロファイルは,視距離の発生分布として定義することができる。視距離プロファイルにより,患者又はユーザによって採用された視距離の頻度を示すことができる。視距離プロファイルは,視距離から導出される任意のパラメータ,例えば視距離の逆数であるレンズの屈折力又は屈折力分布として理解することもできる。視距離プロファイルは,個人的な特定の視覚活動又は一連の視覚活動に関連付けることができる。
【0015】
視距離は,ユーザの眼又は眼の構造,あるいは眼に関連する他の任意の基準点と,ユーザの可視領域又は活動範囲内に存在する物体との間の距離として定義することができる。
【0016】
活動距離プロファイルは,視覚活動に固有の視距離プロファイルとして定義することができる。活動距離プロファイルは,視覚活動中に発生する視聴距離プロファイルの実際の推定によって,又は視覚活動中の人口の典型的な行動に基づいて事前に定義された典型的距離プロファイルの検索によって取得することができる。
【0017】
個人的距離プロファイルは,視距離の関数としての(視覚的解決策の)視覚的性能分布として定義することができる。個人的距離プロファイルは,患者又はユーザの個人的な/個別のライフスタイルや個人的選好度を反映し得るものである。
【0018】
統計的距離プロファイルは,活動距離プロファイルの累積として定義することができ,各活動距離プロファイルは,視聴距離プロファイルの1つに関連する視覚活動に費やされた時間による重み付けがなされる。
【0019】
推奨距離プロファイルは,それぞれユーザの選好度を反映する活動関連性係数によって重み付けが行われた活動距離プロファイルの累積として定義することができる。
【0020】
個人的距離プロファイルは,x軸が屈折力又は視距離を,y軸が対応する距離又は屈折力の使用頻度を示す二次元グラフとして記述することができる。
【0021】
上記のカスタム化プロセスにより,ユーザの視覚活動に関するユーザのニーズを反映する光学レンズを効率的に選択し,又はカスタム化することができる。
【0022】
例えば,観察ユニットは,それぞれの視覚活動に費やされた時間を推定するように構成することができる。プロセッサは,取得した視距離プロファイルと,視覚活動の合計時間に対する各視覚活動に費やされた推定時間の比に基づいて,統計的距離プロファイルを計算するように構成することができる。この場合,実行ユニットは,統計的距離プロファイルを含む個人的な距離プロファイルに基づいて光学レンズをカスタム化するように構成することができる。
【0023】
患者の日常生活では,通常,複数の視覚活動が行われる。ただし,各視覚活動に費やされる時間は個別的であり,したがって,視覚活動の重要性は,それぞれの患者が特定の視覚活動に費やす平均的な相対時間から導き出すことができる。相対時間は,複数の視覚活動の合計時間に対する特定の視覚活動に費やされた時間の比として推定することができる。相対時間は,統計的距離プロファイルを決定又は計算するために考慮することができる。具体的には,特定の視覚活動の比に特定の視覚活動の活動距離プロファイルを乗じることにより,加重活動距離プロファイルを導出することができる。複数の視覚活動の加重活動距離プロファイルを統合して,統計的(時間ベース)距離プロファイルを計算することができる。
【0024】
観察ユニットは,ユーザ入力,眼鏡の使用及び変更頻度,ユーザの動き量,ユーザの場所における照明及び眼鏡非着用に対する一般的な(ユーザの)選好度のうちの少なくとも1つから推定される活動関連性(AR)係数を取得するように構成することができる。プロセッサは,取得した視聴距離プロファイル及び取得した活動関連性係数に基づいて推奨距離プロファイルを計算するように構成することができる。この場合,実行ユニットは,推奨距離プロファイルを含む個人的な距離プロファイルに基づいて光学レンズをカスタム化するように構成することができる。
【0025】
このようにして,患者のニーズは,光学レンズに対して,又は光学レンズのカスタム化によって,より正確に反映させることができる。換言すれば,カスタム化された光学レンズは,推奨距離プロファイルに基づいて,患者のニーズをより正確に反映することができる。
【0026】
活動関連性係数は,本発明に係る装置における観察装置又は入力ユニットを介して測定又は入力することができる。
【0027】
活動関連性係数は,特定の活動中に眼鏡又は他の追加的な視力矯正手段なしで視力を用いる上での必要性又は選好度として定義することができる。例えば,快適性の見地からスポーツ活動中に,又は美容上の見地から社会活動の間に,患者又は使用者が眼鏡なしで機能できることが重要となる場合がある。これにより,そのような活動についてのARが高くなる。あるいは,長時間に亘る着座状態での読書又はパーソナルコンピュータでの作業の間,患者は,眼鏡等の追加的な視力矯正装置を使用可能としておく場合があり,したがって,非矯視力の関連性が低くなる可能性がある。
【0028】
活動関連性係数は,ユーザに対して客観的又は主観的に,あるいはこれら両者に基づいて推定することができる。活動関連性係数は,直接的な患者による主観的な直接入力(個人的な選好度)から導き出すことができ,観察中に費やした時間(観察からの直接変換データ)と見なすことができ,標準の一般化分布に基づくことができ,及び/又は客観的な眼鏡の不快感基準に基づく観察から導き出すことができる。
【0029】
患者による主観的な入力(個人的な選好度)は,解決策立案中における測定の前及び/又は後に(例えば,処理コンピュータプログラムのGUIを介しての入力として),あるいは視覚活動中にリアルタイムで(装置のユーザインターフェース又は付随的な仕分け手段を介して)実行することができる。付随的な仕分け手段は,モバイルアプリケーション又は従来のノートブックとすることができる。個別の選好度は,眼鏡をかけない(眼鏡非着用)という患者のニーズを反映させることができる。このようなニーズは,お気に入りのスポーツ活動中又は水泳中に眼鏡を着用したがらない等の快適性に係る考慮事項や,患者が眼鏡を着用しないことにより見映えを若返らせようとする場合等の美的考慮事項によって生じることがある。
【0030】
例えば,活動関連性係数は,視覚活動を実行している間の眼鏡の変更頻度によって推測することができる。眼鏡の変更は,(観測ユニットによる)観測から,視野域間の切り替え回数/頻度として推定することができる。例えば,自動車の運転中,車外の物体には遠視力を採用し,ダッシュボードやダイヤルには近視力/中視力を採用する。このような状況下での眼鏡の変更は非現実的であり,視覚矯正策は不快感の最小化を目標とするものであるため,そのような視覚活動についてのAR係数は高くなる場合がある。
【0031】
客観的不快感基準の別の例は,視覚活動中における活発な動きの量とすることができる。動きの量は,加速度計,ジャイロスコープ,磁力計,歩数計等の慣性センサの測定値から,又は装置に装備できる位置追跡センサから推定することができる。活発な活動の存在は,眼鏡非着用の必要性,すなわち高い非矯正視力の必要性を示唆する場合がある。そのような視覚活動下では,患者にとって眼鏡の着用が困難だからである。したがって,この視覚活動のAR係数は高い値で設定されることがある。
【0032】
更に別の活動関連性係数の基準は,視覚活動中における照明条件である。視覚活動中の照明条件は,患者の瞳孔寸法の変化要因であるため,レンズ形状を選択する際に考慮することができる。例えば,患者が暗所で視覚活動(薄明視又は暗所視)を行っており,瞳孔が大幅に拡張している場合,光による歪みを避けるために,視力矯正策には大きな光学ゾーンを含ませることが推奨されるレンズの光学ゾーンの外側を通過する。逆に,明るい状態(明所視)では瞳孔が大幅に収縮し,その結果として被写界深度が拡大して視覚的なデフォーカス(焦点ぼけ)に対する許容範囲が高まる。したがって,視力矯正戦略は,明所で行われる活動/距離との妥協を図りつつ,暗い条件下での活動/距離を改善するように調整することができる。
【0033】
暗所で行われる視覚活動は,より高い視力を必要とし,鮮明な視力を確保するためにより良好な視力光学系を必要とする場合がある一方,明所での視覚活動はデフォーカス許容性がより高い。イメージ形成光の色成分も,眼のコントラスト感度に影響を与える可能性がある。したがって,AR係数は,低照度の視覚活動では高くなり,明るい光の下での視覚活動では低くなる。すなわち,低照度における視覚活動のAR係数はより高い値に設定し,明光下での視覚活動のAR係数は比較的低い値に設定することができる。
【0034】
動きの制限される視力活動が長時間持続すると,眼鏡に対する客観的な不快感が緩和され,AR値が低くなる。そのような視覚活動は,読書,デスクトップコンピュータでの作業,テレビの視聴等である。
【0035】
一般的な(母集団由来の)活動関連性係数(すなわち,一般的係数)を使用することもできる。例えば,母集団の大多数がテニス(スポーツ活動)中に眼鏡非着用を選択した場合,その視覚活動には高いAR係数を割り当てることができる。一般的な選好度は,事前に規定された静的データベースに保存することができ,このデータベースでは,データが(支援者による手動入力や,外部データベースからの自動更新等により)外部ソースから更新される。代案として,一般的な選好度は,他の患者入力や関連性の客観的測定等,AR係数への他の入力に基づいてシステム(例えば,レンズカスタム化装置)自体により更新される動的データベースに保存することができる。より一般的な方法として,患者の行動観察結果はセンサ測定値のセットとして収集することができ,これをアルゴリズムへの入力とし,個人を典型的なグループの1つに自動的に割り当て,そのようなグループに最適な解決策/戦略を導き出すものである。
【0036】
一実施形態において,統計的(時間加重)距離プロファイルHt(p)は,次式により定義することができる:
【数1】
ここに,Tは一連の視覚活動の合計時間,t
aは一連の視覚活動における特定の視覚活動に費やされた時間,Pは視距離,屈折力,デフォーカス又は距離に関連する任意のパラメータ,h
a(P)は視覚活動についての視距離プロファイル,aは特定の視覚活動,Aは全ての視覚活動である。
【0037】
推奨される(関連性の加重された)距離プロファイルHm(p)は,次式により定義することができる。
【数2】
ここに,m
aは視覚活動の活動関連性係数であって,aを特定の視覚活動,Aを一連の視覚活動のセットとした場合に次式により正規化され,
【数3】
更に,Pは視距離,屈折力又は任意の距離関連パラメータ,h
a(p)は視覚活動についての視距離プロファイルである。
【0038】
更に,ha(P)は,視覚活動の観察距離プロファイル(すなわち,活動距離プロファイル)として定義することができ,この距離プロファイルは,本発明に係る装置によって観察(測定)することができ,又は典型的距離プロファイルとして受け取ることができる。
【0039】
取得される視距離プロファイルは,実際の活動距離プロファイル又は典型的な活動距離プロファイルの何れかとすることができる。この場合,実際の活動距離プロファイルは,ユーザが視覚活動を実行している間に測定することができる。また,典型的な活動距離プロファイルは,視覚活動中の母集団の典型的な行動に基づいて事前に決定される距離プロファイルとすることができる。
【0040】
本発明に係る装置は,活動感知ユニットを更に備えることができる。この活動感知ユニットは,少なくとも1つの物体の複数の点までの距離を測定し,活動感知ユニットの向き及び/又は位置を決定し,測定された距離と,決定された向き及び/又は位置とに基づいて少なくとも1つの物体に関する情報を導き出し,導き出された情報に基づいてユーザの視覚活動を分類するように構成することができる。少なくとも1つの物体に関する情報は,当該物体の位置,形状,傾斜及びサイズのうちの少なくとも1つを含み,又はそれ自体である。
【0041】
例えば,光学レンズは,実行ユニットにより,統計的な(時間加重の)距離プロファイル及び/又は推奨される(関連性が加重された)距離プロファイルに基づいてレンズの光学パラメータを決定し,必要な光学パラメータを有する光学レンズを選択又は製造することによりカスタム化を行うことができる。
【0042】
例えば,距離プロファイルが特定の距離で顕著な最大値を有する場合,最良のIOL実施は,患者の眼に移植した後に,特定された距離で最高の視力を提供する単焦点レンズである。
【0043】
本発明の別の態様によれば,光学レンズをカスタム化するための方法が提供される。本発明に係る方法は,ユーザの視覚活動の取得し,及び/又は視覚活動の視距離プロファイルを取得するステップと,取得したユーザの視覚活動及び/又は取得した視距離プロファイルに基づいて個人的距離プロファイルを取得するステップと,取得したユーザの視覚活動及び/又は取得した個人的距離プロファイルに基づいて光学レンズをカスタム化するステップと,を含むことができる。個人的距離プロファイルは,統計的距離プロファイル及び推奨距離プロファイルのうちの少なくとも1つを含むことができ,又はそれ自体とすることもできる。
【0044】
本発明に係る方法は,各視覚活動に費やされた時間を推定し,取得した視距離プロファイルと,視覚活動の合計時間に対する推定時間の比に基づいて統計的距離プロファイルを計算するステップを更に含むことができる。
【0045】
本発明に係る方法は,ユーザ入力の少なくとも1つ,すなわち眼鏡の使用及び変更の頻度,ユーザの動きの量,ユーザの場所における照明,及び眼鏡非着用についての一般的な選好度を含むパラメータに基づいて活動関連性係数を取得し,取得した活動関連性係数に基づいて推奨距離プロファイルを計算するステップを更に含むことができる。
【0046】
統計的距離プロファイル及び推奨距離プロファイルは,それぞれ,上記と同じ方法で定義することができる。
【0047】
更に,取得した視距離プロファイルは,実際の活動距離プロファイル又は典型的な活動距離プロファイルの何れかとすることができる。実際の活動距離プロファイルは,ユーザが視覚活動を実行している間に測定することができる。典型的な活動距離プロファイルは,視覚活動中における母集団の典型的な行動に基づいて事前に決定された距離プロファイルとすることができる。
【0048】
光学レンズのカスタム化は,統計的距離プロファイル及び推奨距離プロファイルの少なくとも1つに必要とされる焦点数の決定,焦点における屈折力の決定,焦点間における配光の決定,及び決定された屈折力を焦点において有する光学レンズの選択又は製造を含むことができる。
【0049】
例えば,レンズ形状の選択は,利用可能な,及び/又は実行可能なレンズ形状のプロファイル(デフォーカス曲線)を,必要な距離プロファイルに一致させることにより実行することができる。
【0050】
このようなマッチングは,目的の実行可能なプロファイルの最小二乗適合法により,又はその他の統計手法により実行することができる。
【0051】
単一の顕著なピークを有する距離プロファイルの単純なケースでは,単焦点レンズのマッチングにより,屈折力により単一の最適焦点が生成される。
【0052】
レンズ形状のマッチング結果として,そのようなレンズのレンズテンプレートと,調整/微調整のパラメータを得ることができる。そのパラメータは,レーザ出力,レーザ波長,タイミング及び形状設定等,所要の形状を実行するための技術的パラメータ設定とすることができる。IOL製造の場合のパラメータは,選択したPMMAテンプレートの切除プロファイルを含むことができる。屈折矯正術の場合のパラメータは,角膜切除のプロファイル形状を含むことができる。調整可能なIOLの場合,そのようなパラメータは,強度,幾何学的分布,露出,磁場又は屈折力調整に関与するその他の影響が含まれる場合がある。角膜架橋の場合のパラメータは,強度,紫外線照明の幾何学的分布及び曝露時間を含むことができる。選択したテンプレートが最小限の微調整を必要とするか,全く調整を必要としない場合もある。このような場合,実行戦略の選択は,レンズテンプレートのデータベースからのテンプレート選択に限定される。
【0053】
光学レンズの調整/微調整は,手術又は移植の前及び/又は後に行うことができる。これに対応して,調整パラメータの調整は,手術結果又は移植結果に基づいて,例えば,IOL移植後に眼の構造内におけるレンズ位置が安定した時点で,又は屈折矯正の術後に角膜表面が安定した時点で実行することができる。
【0054】
カスタム化パラメータの選択は,レンズ成形に関連する技術プロセスのパラメータ,例えば,使用する材料の切除速度,切除に使用するレーザの形式,材料の屈折率,幾何学的制限等によっても影響を受ける。したがって,実行選択プロセスは,カスタム化プロセスのパラメータも含むことができる。
【0055】
レンズ設計テンプレートの選択及びカスタム化は,患者における視覚系の個々のパラメータにも影響される。例えば,IOLに必要とされる屈折力は,眼の形状,特に眼の長さ,角膜の屈折力,白目から白目までの角膜直径,前房の深さ,天然レンズの厚さ等の影響を受ける。レンズ設計プロセスは,これらパラメータの何れか又は任意の組み合わせを含むことができる。
【0056】
別の実行形態において,眼鏡のレンズ設計は,瞳孔間距離,頂点距離及び処方等を含むことができる。
【0057】
本発明に係る方法は,ユーザグループに対して実行することができる。この場合,本発明に係る方法は,ユーザグループにおける視覚活動及び/又は個人的距離プロファイルを取得するステップを含む。本発明に係る方法は,個人的な距離プロファイルの統計的処理に基づいて,あるいは取得した視覚活動及び/又はユーザグループの取得された個人距離プロファイルの統計的処理に基づいて,光学レンズをカスタム化するステップを更に含む。
【0058】
統計的処理は,グループ内におけるユーザプロファイルの平均化として実行することができ,これは次式に示す算術平均である。
【数4】
ここに,H
i(P)はN人のユーザグループに属する特定のユーザiについての(時間加重された,又は推奨される)個人的距離プロファイル,H
N(P)はグループ平均の距離プロファイルである。
【0059】
処理は,個人的プロファイルの加重平均,中央値処理で実行されるプロファイルのロバスト平均,又は選択したグループに属するユーザのニーズに最適な距離プロファイルを取得できるその他の処理とすることができる。代案として,既存のテンプレートでは適切に対処されないユーザ(外れ値)の距離プロファイルを特定し,特定されたユーザに対して最適化が可能なレンズテンプレートを開発するように処理を行うこともできる。
【0060】
統計的処理は,選択された活動のニーズに最もよく一致するレンズ設計を開発するために,ユーザグループからの少なくとも1つの選択された活動の視距離プロファイルを分析するように実行することができる。統計処理は,次式に示す算術平均を使用して実行することができる:
【数5】
【0061】
グループ平均距離プロファイルを使用して,個人的な距離プロファイルに対して実行されるのと同様の方法で必要な視距離分布を生成するレンズ形状を設計することができる。その場合には,グループ平均距離プロファイルに必要とされる焦点の数を決定し,焦点についての屈折力及び配向を決定し,決定された屈折力を焦点において有する光学レンズを製造する。
【0062】
別の実行形態において,レンズ設計は,グループにおける複数の距離プロファイルに基づいて実行することができる。焦点の数,位置及び配光は,距離プロファイルの完全なセットから決定することができる。例えば,レンズの第1焦点は,グループにおける個人的な距離プロファイルにおいて最も高い頻度で発生する距離ピークとして特定することができる。同様に,第2焦点は,個人的な距離プロファイル等において第2の頻度で発生する距離ピークとして特定することができる。
【0063】
本明細書において,光学レンズは,眼の天然光学要素,眼科用インプラント及び眼科用レンズの何れかとすることができる。本明細書において,眼科用レンズは,眼内レンズ,コンタクトレンズ及び眼鏡レンズのうちの1つとすることができ,眼科用インプラントは,眼内レンズ,角膜インレイ,角膜オンレイ,角膜移植体,網膜インプラント及び人工視覚装置のうちの1つとすることができる。眼の天然光学要素は,角膜,水晶体,網膜とすることができる。天然光学要素の変更と,必要なレンズ設計の実行は,眼科手術において行われる。
【0064】
上記の特徴により,本発明の第1及び第2の態様に係る装置及び方法は,個々の患者又はユーザに対して理想的に適している光学レンズをカスタム化するための,より正確かつ効率的な方法を提供できるものである。
【0065】
本発明に係る方法の特定の実施例又は説明は,本発明における受動的な走査装置についての上記の説明によって補足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
以下,図面に例示される実施形態を参照して本発明を更に詳述する。
【
図1】本発明に係るレンズカスタム化装置の一例を示す概念図である。
【
図2】本発明の方法に対応するフローチャートである。
【
図3】本発明に係る距離感知ユニット114の一例を示す概念図である。
【
図4】視覚活動と,該視覚活動に費やされた時間に関する個人的距離プロファイルを導出する手順を示す概念図である。
【
図5】活動距離プロファイル及び活動関連性係数に関する個人距離プロファイルを導出する手順を示す概念図である。
【
図6】活動距離プロファイル,視覚活動に費やされた時間及び活動関連性係数に関する個人的距離プロファイルを導出する手順を示す概念図である。
【
図7】活動関連性(AR)係数の導出手順を示す概念図である。
【
図8】適切な光学レンズの選択手順を示す概念図である。
【
図9】個人的距離プロファイルを光学レンズ特性と照合してIOLを選択する手順を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下の説明は,限定ではなく説明を目的としており,本発明の完全な理解を提供するために特定の詳細を記載するものである。当業者にとって明らかなとおり,これらの特定の詳細とは異なる他の態様をもって実施することができる。
【0068】
当業者であれば更に理解できることであるが,本明細書において以下に説明する機能は,個別のハードウェア回路を使用し,1つ又は複数のプロセッサ,例えばプログラムされたマイクロプロセッサ又は汎用コンピュータと組み合わせて機能するソフトウェアを使用し,特定用途向け集積回路(ASIC)を使用し,及び/又は1つ以上のデジタルシグナルプロセッサ(DSP)を使用して実行することが可能である。本発明を方法として説明する場合,本発明は,コンピュータプロセッサ配置及びプロセッサ配置に結合されたメモリ構成で具体化することができる。この場合,メモリ配置は,プロセッサ配置によって実行される際に,本明細書に開示される方法をプロセッサ配置に実行又は制御させるための1つ又は複数のプログラム又は対応するコードで符号化されるか,あるいは当該プログラム又はコードが格納されるものとする。
【0069】
図1は,本発明によるレンズカスタム化装置の一実施例を示す概念図である。本実施例において,レンズカスタム化装置100は,観察装置130,プロセッサ170,及び/又は実行ユニット190を備えることができる。レンズカスタム化装置は,走査装置110及び/又は入力ユニット150を更に備えることができる。走査装置110は,活動感知ユニット112及び/又は距離感知ユニット114を備えることができる。
【0070】
走査装置110は,視覚活動及び/又は視距離プロファイルを測定又は導出することができる。視覚活動と費やした時間を理解及び/又は導出するために,視覚活動を認識できるアルゴリズムが含まれるウェアラブルモーションセンサ(加速度計,ジャイロ等)の多様なアプローチを使用することができる。1つのアプローチは,ウェアラブルカメラ又はユーザを監視するカメラでもある。明白な理由から,視覚活動の識別には,視覚に直接関連するセンサ,例えば視距離,視線追跡,まばたき,瞳孔サイズ,調節努力,頭の傾き及び生理学的状態のセンサ等からの出力を使用する。レンズカスタム化装置又は走査装置は,上記の1つ又は複数の機能を実行可能な1つ又は複数の装置を備えることができる。あるいは,上記の1つ又は複数の機能は,上記のレンズカスタム化装置又は走査装置に含まれる1つ又は複数の装置で実行することができる。走査装置110は,観察ユニット130において実行することができる。
【0071】
活動感知ユニット112は,走査装置110を使用しているユーザ(又は患者)の視覚活動を測定又は導出することができる。測定された視覚活動は,抽象的又は具体的であり得る。抽象的な視覚活動は,走査装置110の測定において変化の大きな視覚活動を区別することのみで測定又は導出することができる。例えば,自宅で読書しているユーザは,ユーザの動きの量を感知するだけで,公園でランニングしているユーザと区別することができる。抽象的な視覚活動を感知するために,走査装置110は,必ずしも視覚活動を完全に区別する必要はなく,単に視覚活動の変化兆候を認識すれば足りる。これとは対照的に,具体的な視覚活動は,データベースに格納された測定値及びデータを利用して,走査装置110によって測定又は導出することができる。具体的な視覚活動を測定又は導出するための特定の手順については,本明細書において後述する。
【0072】
距離感知ユニット114は,走査装置110から視覚活動中に存在する1つ又は複数の物体までの1つ又は複数の距離を測定することができる。走査装置110をユーザの頭部又は眼の近傍に取り付ければ,当該距離を観察距離に関連させることができる。
【0073】
観察装置130は,視覚活動及び視覚活動の視距離プロファイルを走査装置110から取得することができる。観察装置130は,走査装置110を含むものとして実施することができる。観察装置130は,視覚活動のそれぞれに費やされた時間を推定することができる。
【0074】
入力ユニット150は,活動関連性(AR)係数を決定するための個人的係数及び/又は一般的係数を受領又は測定することができる。AR係数は,ユーザの入力,眼鏡の使用及び変更の頻度,ユーザの動き量,ユーザの場所における照明,及び/又は眼鏡非着用に対する一般的な選好度のうちの少なくとも1つを含むことができる。入力ユニット150は,観察装置130に付属する形態として実施することができる。
【0075】
プロセッサ170は,視覚活動の視距離プロファイル(すなわち,活動距離プロファイル)の少なくとも1つ,視覚活動に費やされた時間,及び/又は活動関連性係数に基づいて,個人的な距離プロファイルを計算することができる。個人的距離プロファイルは,統計的距離プロファイル及び推奨距離プロファイルのうちの少なくとも1つであり,又はそれらを含むことができる。
【0076】
プロセッサ170は,視覚活動のために取得された視距離プロファイルに基づいて,統計的(時間加重)距離プロファイルを計算することができる。距離プロファイルに基づく統計的距離プロファイルの計算は,視覚活動の全ての観察距離プロファイルを単に統合することで実行することができる。統計的距離プロファイルの計算は,視覚活動に費やされた時間を更に考慮に入れることによって実行することができる。具体的に,各視聴距離プロファイルに適用できる重みは,視覚活動の合計時間に対する視覚活動の1つの推定時間の比として定義することができる。これらの重みは,それぞれ,視距離プロファイルに適用(又は乗算)することができ,その場合にプロセッサ170は統計的距離プロファイルを計算することができる。
【0077】
統計的距離プロファイルは,次式として定義することができる。
【数6】
ここに,Tは一連の視覚活動の合計時間,t
aは一連の視覚活動のうちの特定の視覚活動に費やされた時間,Pは視距離,屈折力又は距離に関連するパラメータ,h
a(P)は視覚活動についての視距離プロファイル,aは特定の視覚活動,Aは一連の視覚活動である。
【0078】
(観測された)視距離プロファイルは,h
a(P)として定義することができる。ここに,Pは視距離,屈折力/デフォーカス,又は任意の距離関連パラメータであり,hはデフォーカスの発生頻度であり,距離プロファイルは次式に基づいて正規化されるものと仮定する。
【数7】
【0079】
特定の視覚活動aの距離プロファイルは,h
a(P)として表すことができ,ここで,aは一連の個別活動Aに含まれる特定の視覚活動(a∈A)である。特定の視覚活動aについて費やされた時間はt
aとして表すことができ,総観測時間はTであり,次式としても定義することができる。
【数8】
【0080】
観察ユニット130は,ユーザの入力,眼鏡の使用及び/又は変更の頻度,ユーザの動き量,ユーザの場所の照明,及び/又は眼鏡非着用に対する一般的な選好度の少なくとも1つを含むパラメータに基づいて活動関連性係数を取得することができる。
【0081】
プロセッサ170は,活動関連性係数に基づいて推奨距離プロファイルを計算することができる。推奨距離プロファイルは,次式として定義される。
【数9】
ここに,m
aは特定の視覚活動aについての活動関連性係数とすることができ,aを特定の視覚活動,Aを一連の視覚活動(a∈A)としたときに,次式に基づいて正規化することができる。
【数10】
【0082】
実行ユニット190はIOL等の光学レンズを,個人的な距離プロファイル(統計的距離プロファイル及び/又は優先距離プロファイルを含む)に基づいてカスタム化することができる。実行ユニット190は,個人的距離プロファイルの少なくとも1つに必要とされる焦点の数を決定し,焦点のディオプトリを決定し,焦点において屈折力を有する光学レンズを製造することができる。実行ユニット190は,レンズカスタム化装置100とは別に配備することができる。
【0083】
視覚的活動の観察は,視力矯正のための特定の戦略(単焦点,多焦点,単焦点又は異なるレンズ等)の選択のための入力や,移植用レンズの特定のパラメータを提供することができる。そのような観察は,採用された距離及び/又は他の視覚関連パラメータ,様々な視覚関連活動を実行するために費やされた時間の分布,又はこれら両者の直接測定とすることができる。観察は,視覚関連活動や,これらの活動に費やされた時間(患者にとって重要な最初の指標として機能する),及びこれらの活動中における特定の視覚要件(距離,照明,頭の傾き等)を特定する点で重要である。例えば,コンピュータでの作業では,個人的な選好度や職業に基づいて,ユーザ間における使用距離の大幅な変動を示す場合がある。ある患者はより遠距離に配置された大型画面を使用する作業を好み,他の患者は近距離に配置されたラップトップ画面を好むことがある。
【0084】
図2は,本発明に係る方法に対応するフローチャートである。
【0085】
本発明に係る方法は,ユーザの視覚活動を取得するステップS210と,視覚活動の視聴距離プロファイルを取得するステップS230と,取得した距離プロファイルに基づいて個人的距離プロファイルを取得するステップS250と,個人的距離プロファイルに基づくS270光学レンズをカスタム化するステップと,を含むことができる。個人距離プロファイルを取得するステップは,各視覚活動に費やされる時間を推定するステップS252と,取得された視聴距離プロファイルと,合計時間に対する推定時間の比に基づいて統計的(時間加重)距離プロファイルを計算するステップS254と,を含むことができる。本発明に係る方法は,上記の比を計算するためのステップを含むことができる。個人的な距離プロファイルの取得ステップS250は,ユーザの入力,眼鏡の変更頻度,ユーザの動き量,ユーザの場所における照明,及び眼鏡非着用に関する一般的な選好度の少なくとも1つを含むパラメータに基づいて活動関連性係数を取得するステップS256と,取得した視距離プロファイル及び活動関連性係数に基づいて推奨距離プロファイルを計算するステップS258と。を含むことができる。本発明に係る方法の詳細は,レンズカスタム化装置100に関しての上記説明によって補完することができる。
【0086】
図3は,本発明に係る距離感知ユニット114の一例を示す概念図である。
【0087】
距離検知ユニット114は,距離センサ(単数又は複数)5,メモリユニット7及び/又はプロセッサユニット10を備えることができる。メモリユニット7及び/又はプロセッサユニット10の機能は,上記の走査装置110におけるプロセッサ340及びメモリ330によって実行することができる。メモリユニット7及び/又はプロセッサユニット10は,距離検知ユニット114において省略することができる。任意選択的に,距離感知ユニット114は,眼球監視ユニット15,動きセンサ20,周囲光センサ及び/又はユーザインターフェース30を備えることができる。距離検知ユニット110における異なるユニット5,7,10,15,20,25は,1つの同じ装置114として構成することができ,2つ以上の別個の装置に分散して距離検知ユニット114を構成することもできる。
【0088】
距離センサ5は,1つ又は複数の視距離を測定することができる。これらの距離は,ユーザと1つ又は複数の物体との間の,対象者の視線方向における距離である。距離センサ5は,1つ又は複数の視距離を能動的又は受動的に測定することができる。能動的な視距離の測定は,距離センサ5により,距離検知ユット114の配置されている空間内における物体を自動的に感知し,物体までの視距離を測定することによって実行することができる。この場合,視距離は,ユーザの動きを考慮することなく測定することができる。受動的な視距離の測定の場合には,距離センサ5により,特定の方向における距離をユーザの動きに応じて測定することができる。距離感知ユニット114の回転及び/又は変位を含む動きは,動きセンサ20により測定することができる。距離感知ユニット114がユーザの頭部に取り付けられている場合,動きは,ユーザの頭部の自然な動きによって引き起こすことができる。受動的な測定のために距離センサ5が装備されてユーザの視線方向における視距離を感知する場合,ユーザが焦点を合わせている物体に関する情報を取得することができる。例えば,視距離の測定は,距離感知ユニット114と物体における複数の測定点との間の距離を測定するために,複数回実行することができる。測定点までの表示距離は,測定点への方向に加えて,物体の外部に関する情報となる。情報は,物体の位置,形状,傾斜,寸法,姿勢及び/又は種類を含むことができる。あるいは,情報は,物体自体又は物体周囲の地勢(トポグラフィー)を含むことができる。測定された視距離及び視線方向からの情報の導出は,プロセッサユニット10により実行することができる。視覚活動は,情報から導出できる場合がある。例えば,プロセッサユニット10は,存在し得る物体に関してメモリ7に格納された参照データと情報を比較することにより,情報に基づいて物体の形式を分類することができる。例えば,物体の寸法が本の典型的なサイズ(参照データ)と類似しており,物体までの視距離が典型的な読書距離(参照データ)に対応する場合,プロセッサユニット10は,視覚活動が読書であると判断することができる。
【0089】
メモリユニット7は,測定された視聴距離のセットに測定された視聴距離を格納することができる。プロセッサユニット10は,測定された視距離のセットからの測定された視距離の統計的分布を決定する。
【0090】
眼球監視ユニット15は,距離測定センサの方向,例えば視線方向に対する対象者の眼球方向を検出する。眼球監視ユニット15は,ユーザの眼球の協調運動,瞳孔寸法又はレンズ形状の変化のうちの少なくとも1つを感知することができる。眼球監視ユニット15は,感知された眼球の動き,瞳孔寸法及びレンズ形状の変化に由来する輻輳の少なくとも1つに基づいて調節努力を決定することができる。人間の眼が物体に焦点を合わせると,輻輳,レンズの形状を協調調整して屈折力,したがって焦点距離及び瞳孔寸法を変化させる。例えば,両眼の位置を監視することで,両眼が反対方向に同時に動く輻輳を検出することができる。眼は,近くの物体に焦点を合わせる間に接近し,遠くの物体に焦点を合わせる間には互いに遠ざかる。レンズの形状変化は,レンズ表面からのプローブ光の反射を追跡することにより(例えば,P3やP4等のプルキンエ反射を分析することによって)監視することができる。近くの物体に焦点を合わせる場合,瞳孔は画像ぼけを最小限に抑えるために収縮する。瞳孔寸法は,イメージング又は他の適切な方法で測定することができる。システムは,瞳孔寸法の変化を検出することにより,調節を検出することができる。瞳孔寸法からの調節の検出中,システムは,明るさによる瞳孔のサイズへの影響を補償することができ,明るさは周囲光センサ等のコンテキストセンサで測定することができる。眼球監視ユニット15又はプロセッサユニット10は,決定された調節努力に基づいて,ユーザの視距離を計算することができる。視距離は,ユーザが見ている点までの距離として定義することができる。上記の機能の何れか,又は輻輳,レンズ形状の変化,瞳孔サイズの2つ以上の組み合わせを使用して調節努力を追跡すれば,ユーザが使用している視距離をシステムにより追跡することができる。
【0091】
プロセッサユニット10は,距離測定センサの方向に対する対象者の眼の方向,例えば視線方向に基づいて,測定された視距離のセットから測定された視距離に対する統計的な重み付け,選択又は破棄を行う。測定された視距離を破棄する代わりに,プロセッサユニット10により,価値があると見なされる特定の視距離を選択し,対象者の推奨視距離を選択し,あるいは測定された視距離に1未満又は1を超える重み係数で重みを付けることができる。
【0092】
動きセンサ20は,被験者の体の動きを測定するためのものである。本実施例において,動きセンサ20は,加速度計及び/又はジャイロスコープを含む構成,又は含まない構成とすることもできるが,異なるセンサ,例えば,磁力計,高度計,歩数計又はジオポジショニング装置等を更に含む構成,又は含まない構成とすることもできる。
【0093】
プロセッサユニット10は,測定された動きに基づいて,測定された視距離のセットから測定された視距離に統計的な重み付け,選択又は破棄を行う。対象者の頭部が少なくともほぼ着実に測定対象物に向けられている場合,対象物までの距離が測定され,1以上の重みが加重される。対象者の注意がそらされている場合,例えば対象者の頭部が少なくともほぼ定常的に物体周りを動いている場合,測定された距離は1未満の係数で重み付けされるか破棄されるため,全体的な統計分布では考慮されない。
【0094】
周囲光センサ25は,追加的なカラーセンサを使用することにより拡張可能であり,周囲光及び/又は光強度及び/又は対象の視線方向のスペクトル内容を測定するものである。
【0095】
ユーザインターフェース30は,ユーザ入力を受け取る。対象者による入力は,装置を軽く叩く動作,頭部の動きセンサによって検出される頭部の身振り,例えば頷き又は首振り等,あるいは眼球監視装置で検出される対象者又は眼球の動き等とすることができる。別の例は,対象者がセンサの前方で手を振り,あるいは手を距離感知ユニット114の前に数秒間置いたままにして視距離の破棄又は重み付けを行うことである。
【0096】
図4は,視覚活動の距離プロファイルと,視覚活動に費やされた時間に関する個人的な距離プロファイルを導出する手順を示す概念図である。
【0097】
視覚活動に関するパラメータから,最も関連性のあるパラメータは,視覚活動に示される1つ又は複数の物体までの距離である。照明条件も重要である。レンズカスタム化装置に装備することのできる生理学的センサは,視線追跡,まばたき,瞳孔寸法,調節等,個々の視覚系の状態に関する情報を測定及び提供することができる。
【0098】
本発明の一実施例によれば,患者用の光学レンズ(IOLを含む)を選択するための活動ベースのアプローチが提供される。このアプローチでは,個人的な距離プロファイルは,ユーザが使用する一般的な活動距離プロファイルに基づいて計算又は導出することができる。典型的な活動距離プロファイルは,特定の視覚活動のために母集団によって典型的に採用される観察距離プロファイルとして定義することができる。例えば,観察により,患者が読書に相当の時間を費やしていることが確認された場合,患者には近距離の場合に眼鏡非着用を前提とするIOLを提供することができる。この場合,患者の個々の読み取り特性(例えば,推奨される読み取り距離又は照明条件)は,推奨距離プロファイルに反映させない場合もある。
【0099】
このアプローチでは,視距離の測定や,視距離プロファイルの作成を行わずに視覚活動を測定又は導出することができる。例えば,患者は,視覚活動を開始する際に,視覚活動の形式を入力又は選択することができる。あるいは,レンズカスタム化装置は,短期間,例えば,視覚活動を決定するのに十分に長いが,視覚活動の視距離プロファイルを生成するには不十分な時間に亘って視距離を測定することができる。各視覚活動に費やされた時間を測定し,合計時間に対する各時間の比を計算することができる。 レンズカスタム化装置は,各視覚活動の典型的な視距離に関連する典型的な活動距離プロファイルを取得することができる。上記の時間比から導き出された重みは,典型的な活動距離プロファイルに適用(又は乗算)することができる。加重の適用された典型的な活動距離プロファイルは,計算された個人距離プロファイルに加算することができる。上記のプロセスでは,各視覚活動の活動関連性係数を考慮に入れることができ,考慮に入れない場合もある。
【0100】
本明細書において,上記のプロセスで計算された個人的な距離プロファイルは,「統計的距離プロファイル」と称することができる。
【0101】
図5は,活動距離プロファイルと,活動関連性係数に関する個人的な距離プロファイルを導出する手順を示す概念図である。
【0102】
距離統計アプローチは,個々のユーザの距離要件を理解することができるが,個々のユーザの活動関連性係数を考慮することはできない。例えば,個々のユーザは読書中に眼鏡をかけても快適であると感じる場合があるため,IOLは必ずしも読書関連の距離範囲に最適化する必要はない。距離統計アプローチは,使用された視距離を観察しながら,個々のユーザに所要の視覚活動の実行を依頼して実行することができる。これは,病院又は自宅で行うことができる。
【0103】
レンズカスタム化装置は,抽象的な視覚活動を認識することができる。抽象的視覚活動は,走査装置の測定値に有意な変化が認められる視覚活動を区別するだけで測定又は導出することができる。例えば,自宅で読書しているユーザは,ユーザの動き量を感知するだけで,公園でランニングしているユーザとは区別され,これは距離プロファイルに大きな違いがあるためである。抽象的視覚活動を感知するためには,走査装置により視覚活動を完全に区別する必要はなく,単に視覚活動の変化兆候を認識できれば十分である。距離統計アプローチが視覚活動を利用するものでないため,視覚活動自体の特性に有意に関連する活動関連性係数は,個人的な距離プロファイルの計算に際して考慮するには不適切である。ただし,個人的な距離プロファイルでは,照明,動きの量,眼鏡の変更頻度等,環境から導出又は推定可能な活動関連性係数を考慮することができる。
【0104】
観察中に収集された活動距離プロファイルを合計して,個人的距離プロファイルを計算することができる。活動関連性係数は,考慮に入れることができ,考慮に入れない場合もある。
【0105】
本明細書において,上記のプロセスで計算された個人的距離プロファイルを,「推奨距離プロファイル」と称することができる。
【0106】
図6は,活動距離プロファイル,視覚活動に費やされた時間,及び活動関連性係数に関する個人的距離プロファイルを導出する手順を示す概念図である。
【0107】
個人的な距離プロファイルを識別する最も正確な方法は,統計的距離プロファイルと推奨距離プロファイルの両者を取り込むことである。更に,正確性を改善するために,視覚活動について導出又は推定された活動関連性係数を考慮することができる。
【0108】
このアプローチでは,視覚活動は,ユーザにより入力するか,あるいはレンズカスタム化装置によって決定することができる。各視覚活動に費やされた時間及び視覚活動の距離プロファイルを測定することができる。費やした時間に基づく重みを,距離プロファイルに適用することができる。重み又はAR係数を,距離プロファイルに追加的に適用することができる。重み付けされた距離プロファイルを合計して,推奨距離プロファイルを生成することができる。
【0109】
図7は,活動関連性係数を導出する手順を示す概念図である。
【0110】
活動関連性(又はAR係数)は,眼鏡なしで視力を使用するためのニーズ又は選好度として定義することができる。例えば,快適性の見地からスポーツ活動中に,又は美容上の見地から社会的活動の間,患者又はユーザが眼鏡を非着用とすることが重要であり得る。
【0111】
活動関連性のニーズは,眼鏡非着用ニーズと称されることもあり,これは特定の視覚活動中における眼鏡非着用を示す係数として定義することができる。活動関連性は,患者又はユーザが客観的,主観的,又はその両者の見地から必要とされる場合がある。活動関連性は,患者の主観的な直接入力(個人的選好度)から導き出すことができ,観察中に費やした時間(からの直接変換データ)として捉えることができ,標準的な一般化分布に基づかせることができ,及び/又は眼鏡の客観的な不快感基準に基づく観察から導き出すことができる。
【0112】
患者による主観的な入力(個人的選好度)は,解決策の立案中における測定前及び/又は測定後に(処理コンピュータプログラムのGUIを通じての入力として),又は視覚活動中にリアルタイムで(装連巣カスタム化置又は付随の仕分け手段のユーザインターフェースを介して)取得することができる。付随の仕分け手段は,モバイルアプリケーション又は従来のノートブックで構成することができる。個別の選好度は,眼鏡を使用しない(眼鏡非着用)という患者のニーズを反映する場合がある。
このようなニーズは,お気に入りのスポーツ活動中又は水泳中に眼鏡を着用したがらない等の快適性に係る考慮事項や,患者が眼鏡を着用しないことにより見映えを若返らせようとする場合等の美的考慮事項によって生じることがある。
【0113】
例えば,不快感基準は,視覚活動中における眼鏡の変更頻度から推測することができる。
眼鏡の変更は,(観測ユニットによる)観測から視野域間の切り替え回数/頻度として推定することができる。例えば,運転では,車外の物体に対しては遠距離視力を採用し,ダッシュボードやダイヤルに対しては近距離視力/中距離視力を採用する。このような状況下での眼鏡の変更は非現実的であり,視覚矯正策は不快感の最小化を目標とするものであるため,そのような視覚活動についてのAR係数は高くなる場合がある。
【0114】
客観的不快感基準の別の例は,視覚活動中における活発な動きの量とすることができる。動きの量は,加速度計,ジャイロスコープ,磁力計,歩数計等の慣性センサの測定値から,又は装置に装備できる位置追跡センサから推定することができる。活発な活動の存在は,眼鏡非着用の必要性,すなわち高い非矯正視力の必要性を示唆する場合がある。そのような視覚活動下では,患者にとって眼鏡の着用が困難だからである。したがって,この視覚活動のARは高い値に設定されることがある。
【0115】
不快感基準の更に別の例は,視覚活動中における照明条件である。視覚活動中の照明条件は,患者の瞳孔寸法の変化要因であるため,レンズ形状を選択する際に考慮することができる。例えば,患者が暗所で視覚活動(薄明視又は暗所視)を行っており,瞳孔が大幅に拡張している場合,光による歪みを避けるために,視力矯正策には大きな光学ゾーンを含ませることが推奨されるレンズの光学ゾーンの外側を通過する。逆に,明るい状態(明所視)では瞳孔が大幅に収縮し,その結果として被写界深度が拡大して視覚的なデフォーカス(焦点ぼけ)に対する許容範囲が高まる。したがって,視力矯正戦略は,明光下で行われる活動/距離との妥協を図りつつ,暗い条件下での活動/距離を改善するように調整することができる。
【0116】
暗所で行われる視覚活動は,より高い視力を必要とし,鮮明な視力を確保するためにより良好な視力光学系を必要とする場合があるが,明るい場所での視覚活動はデフォーカス許容性がより高い。イメージ形成光の色成分も,眼のコントラスト感度に影響を与える可能性がある。すなわち,不快基準は,低光下の視覚活動では高くなり,明光下での視覚活動では低くなる。すなわち,低照度における視覚活動のAR係数はより高い値に設定し,明光下での視覚活動のAR係数は比較的低い値に設定することができる。
【0117】
動きの制限される視力活動が長時間持続すると,眼鏡に対する客観的な不快感が緩和され,AR値が低くなる。そのような視覚活動は,読書,デスクトップコンピュータでの作業,テレビの視聴等である。
【0118】
ARとしての視覚活動における眼鏡非着用のために一般的な(母集団由来の)選好度(すなわち一般的係数)を使用することもできる。例えば,母集団の大多数がテニス(スポーツ活動)中に眼鏡非着用を選択した場合,この視覚活動に高いAR値を割り当てることができる。一般的な選好度は,事前に規定された静的データベースに保存することができ,このデータベースでは,データが(支援者による手動入力や,外部データベースからの自動更新等により)外部ソースから更新される。あるいは,一般的な選好度は,他の患者の入力や不快感の基準等,ARへの他の入力に基づいてシステム(例えばレンズカスタム化装置)自体により更新される動的データベースに保存することができる。より一般的な方法では,患者の行動の観察結果をセンサ測定値のセットとして収集することができる。これは,アルゴリズムへの入力として機能し,個人を典型的なグループの一員に自動的に割り当てて,そのようなグループについて最適な解決策/戦略を導き出すように機能する。
【0119】
図8は,適切な光学レンズを選択する手順を示す概念図である。
【0120】
個人的な距離プロファイルに基づいて,IOLの実行戦略を決定することができる。その目標は,利用可能な解決策(例えば,IOL,眼鏡,コンタクトレンズ)を個人的距離プロファイルに適合させることであり,これはHm(P),Ht(P)又はこれらの組み合わせとして定義される。利用可能な解決策を個人的距離プロファイルに適合させる上での個人的選好度/制限に基づいて,追加的なパラメータ,例えば照明や解撤策についての制限を考慮に入れることができる。例えば,患者が自動車の夜間運転を必要とする場合,眼科医は,回折光学に基づく戦略を排除する場合もある。
【0121】
戦略とは,例えば,単焦点,多焦点,拡張焦点深度,トーリック等のレンズ形式,及び/又はパラメータの選択を意味する。選択した戦略に基づいてテンプレートを選択し,特定のパラメータ,例えば第2焦点における追加的な屈折力を選択し,かつ,レンズカスタム化装置に入力することができる。目標とする戦略とプロファイルのテンプレートの選択は,自動的に行うことができる。選択のために,患者の視力矯正に関連する伝統的な因子(すなわち,眼の個別的パラメータ)を考慮に入れることができる。
【0122】
多焦点レンズを使用すれば,光を複数の距離から網膜に集中させることができ,したがって患者は物体に対して複数の距離から焦点を合わせることができる。IOLは,いわゆるデフォーカス曲線によって特徴付けられ,これはディオプトリ[D]-無限遠焦点からの屈折力差におけるデフォーカスの関数としての視覚(視力)の光学性能を示す。単焦点レンズの場合,単一の焦点が所定の距離,例えば無限遠に存在し,これはデフォーカスゼロ(0)に対応する。上記の個人的距離プロファイルは,単焦点又は多焦点IOLを特徴付けるために利用することができる。すなわち,個人的距離プロファイルから得られたデフォーカス曲線に基づいて,特定のデフォーカス特性を有するレンズを製造することができる。
【0123】
このようなレンズのカスタム化(製造/生産/機械加工)は,レンズの形状及び/又は光学的特性の変更,例えば屈折率の局所的変更によって実行することができる。形状/形態の製造/調整は,3D印刷等の付加製造プロセスにより,又は,所要形状を達成するために材料をテンプレートから除去する伝統的な除去製造プロセスにより実現することができる。形状の変更は,全体的なレンズ形状に影響を及ぼす張力の追加又は解放等,機械的特性の局所的調整によって行うことができる。除去製造プロセスの別の実施例として,所要形状を実現するために,レーザに基づく切除を行うことができる。更に別のシナリオでは,紫外線(光硬化用)を照射してポリマーマトリックスの架橋反応を誘発させることができる。
【0124】
レンズの設計/カスタム化は,レンズ又は多要素レンズにおける少なくとも1要素の調整,並びに多要素レンズの組成の選択を意味する場合もある。カスタム化は,光学的特性の変更(光重合又は液晶アプローチ)によるIOLの形状変更,又は磁気的調整を含むことができる。
【0125】
光学レンズは,眼の天然光学要素の何れか,例えば角膜又は水晶体である。この場合,調整はレーザで行うことができ,この場合には,例えば角膜表面を切除し,又は屈折矯正のために角膜切開を行い,又は老眼治療のために天然水晶体の機械的特性を変更する。対応する切除法及び治療設定,例えば適用されるレーザパルスの形状やパラメータのカスタム化は,視距離プロファイルに基づいて実行することができる。
【0126】
光学レンズをカスタム化するための上記プロセスは,IOL等の光学インプラントの移植前及び/又は移植後に利用することができる。移植前の製造技術には,3D印刷(レンズ材料の付加),テンプレートマトリックスの切除(レンズ材料の除去),化学的及び光化学的な架橋/光重合(レンズ材料の変更,これも形状変化を引き起こす),屈折率の変更(例えば,フェムト秒レーザ光による),又はこれらの任意の組み合わせが含まれる。個人的距離プロファイルに基づいて既存のレンズを調整するための技術には,侵襲的調整の場合には多要素IOL,機械的に調整可能なIOL又は繰り返し調整可能なIOLが含まれ,非侵襲的調整の場合には光調整型又は磁気調整型のレンズや,ワイヤレス制御型,フェムト秒レーザ調整型又は二光子吸収型の液晶が含まれる。
【0127】
ユーザグループからの個人的距離プロファイルの統計データは,大規模生産用のレンズ又はテンプレートの開発への入力として使用することができる。例えば,事前に成形されたテンプレートが患者のニーズに適合可能である場合には,距離プロファイルを分析することにより,事前成形されたレンズテンプレートの提供を最適化して,調整を最小限に抑え,又は不要とすることができる。複数のユーザから距離プロファイルの統計データを収集することにより,既存の事前成形レンズの選択では適切に対処されない視覚的ニーズを判断し,その情報に基づいて,製造された事前成形レンズの設計を当該ニーズに対応すべく追加又は変更することができる。
【0128】
これは,レンズ調整装置が利用できず,ユーザが既存の事前成形レンズを装着する必要がある場合に特に有用である。
【0129】
図9は,個人的距離プロファイルを光学レンズの特性と照合してIOLを選択する手順を示す概念図である。
【0130】
個人的距離プロファイルは,視覚活動の時間加重によって,及び/又は好適には活動関連性に基づいて,統計的に取得される。提示された実施例において,個人的距離プロファイルは,無限距離に対応する0デフォーカス(第1ピーク)位置と,0.5mの表示距離に対応する-2D(第2ピーク)位置に2つのピークを有する。必要なプロファイルを実行するために,屈折力(デフォーカス曲線)の関数としての光学的品質/視力によって特徴付けられる複数の選択肢が存在する。提示されたデフォーカス曲線の例は,第2ピークの屈折力(又は位置)が異なっているが,全てが無限距離(0デフォーカス)にピークを有する。提示された実施例において,破線はレンズ特性を示し,レンズ1は-IDデフォーカス(アドパワーとも称される)にピークを有し,レンズ2は-2Dのアドパワーを有し,レンズ3は-3Dのアドパワーを有する。マッチングは,適切な垂直スケーリングを使用してデフォーカス曲線を個人的距離プロファイルに適合させて実行することができる。実施例に示されているように,レンズ1及び3の適合によって大きな偏差が生じ,これは例えば平均二乗誤差,二乗平均平方根誤差又はその他の統計的指標として測定される。レンズ2は,評価された選択肢からの偏差が最小であり,したがってベストマッチを表す。ベストマッチの選択は自動的に行うことができ,その際には利用可能なデータベースからの複数のデフォーカス曲線を個人的な距離プロファイルに適合させる。出力として,特定の患者のIOLに対して最適な選択肢を眼科医に提供することができる。また,最適なレンズを選択するための追加的なパラメータ,例えばIOLに対する眼科医の好み,選択したIOLの過去履歴,移植されたIOLに関する患者のフィードバック,利用可能性,コスト,レンズ品質等を含むこともできる。
【0131】
本明細書に開示される技術によれば,患者又はユーザ又は患者/ユーザのグループのニーズに応じて,光学レンズを効率的かつ正確にカスタム化/設計/調整/製造することが可能である。
【0132】
上記の実施形態は単なる例示であり,本発明の原理は他の態様でも実施することができる
【0133】
本明細書において開示される技術の利点は,前述の説明から完全に理解され,その例示的な態様の形態,構造及び配置において,その開示範囲から逸脱することなく,又はその有利な効果を何ら損なうことなく,様々な変更が可能である。本明細書において開示される技術は,多くの態様で変更することができ,その技術的範囲はもっぱら以下の特許請求の範囲に基づいて定められるものである。