(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】深部領域適用のための自家移植ツール
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20240111BHJP
A61B 17/16 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
A61B17/16
(21)【出願番号】P 2021521822
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(86)【国際出願番号】 US2019059964
(87)【国際公開番号】W WO2020097144
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-08-09
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515134232
【氏名又は名称】ヒューワイス アイピー ホールディング,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヒューワイス,サラ
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0071704(US,A1)
【文献】米国特許第05762498(US,A)
【文献】米国特許第05261818(US,A)
【文献】米国特許第05575650(US,A)
【文献】米国特許第04021920(US,A)
【文献】国際公開第2012/101050(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
A61B 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深部領域適用のために構成された回転式オステオトームであって、
駆動端と遷移境界部との間に延在する、回転の長手方向軸を画定するシャンクと、
前記遷移境界部から先端に向かって延在する本体であって、複数のフルートが、前記本体の周囲に配置され、かつ、隣接する前記先端から各終端へと延在し、前記各フルートは、すくい角を画定する切削面を片方の側に有し、かつ、ヒール角を画定する圧縮面をもう片方の側に有しており、隣接するフルートの各対の間にランドが形成され、前記各ランドは、1つの隣接する前記フルートの前記切削面に沿って加工刃を有し、前記本体のストッパ部分が
、切削時に前記フルートに沿った骨片の継続的移動を防止するように、前記フルートの終端と前記シャンクの前記遷移境界部との間に配置される、本体と、
前記シャンクの少なくとも1つの入り口から少なくとも1つの出口オリフィスに向かって通過する注水導管であって、前記少なくとも1つの出口オリフィスが前記ストッパ部分に配置される、注水導管と、
を備える、回転式オステオトーム。
【請求項2】
前記ストッパ部分は略筒状である、請求項1に記載のオステオトーム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの出口オリフィスは、前記本体の周囲に、互いに周方向に均等な間隔で離間した前記複数の出口オリフィスを含む、請求項1に記載のオステオトーム。
【請求項4】
前記複数の出口オリフィスは、直径方向に対向する2つの出口オリフィスを含む、請求項3に記載のオステオトーム。
【請求項5】
前記各出口オリフィスは略楕円形状を有する、請求項3に記載のオステオトーム。
【請求項6】
前記各出口オリフィスは前記各フルートの終端と軸方向に整列する、請求項3に記載のオステオトーム。
【請求項7】
各出口オリフィスは、より長い主軸とより短い短軸とで画定される略楕円形状を有し、前記各出口オリフィスは、隣接する前記フルートに対して、前記主軸の3倍よりも小さい距離で離間して配置される、請求項3に記載のオステオトーム。
【請求項8】
前記注水導管は、前記シャンクを通るとともに前記長手方向軸に沿って延在する略筒状の主幹部を含み、前記主幹部は前記ストッパ部分の一部を通るとともに長手方向軸に沿って延在し、前記注水導管は、前記主幹部と前記複数の出口オリフィスとの間に配置されるフロースプリッタをさらに備える、請求項3に記載のオステオトーム。
【請求項9】
前記フロースプリッタは、前記主幹部を通って、実質的に同一の分岐へと移動する注水流体の流れを分割し、前記各オリフィスを介して放出するように構成され、前記分岐は、前記先端の方向の前記長手方向軸に対して鋭角の軌道で傾斜している、請求項8に記載のオステオトーム。
【請求項10】
前記各分岐の前記鋭角の軌道は、約10°から45°の間である、請求項9に記載のオステオトーム。
【請求項11】
深部領域適用に構成された回転式オステオトームであって、
駆動端と遷移境界部との間に延在する、回転の長手方向軸を画定するシャンクと、
前記遷移境界部から先端に向かって延在する本体であって、前記本体の少なくとも一部は、最大径から前記先端に隣接した最小径に向かって減少する円錐状のテーパ形状を有し、複数のフルートが、前記本体の周囲に配置され、隣接する前記先端から各終端へと延在し、前記各フルートは、前記本体の前記円錐状のテーパ形状周囲にらせん状に巻かれ、前記複数のフルートは、前記本体の周囲に、周方向に均等に配置され、前記各フルートは、すくい角を画定する切削面を片方の側に有し、かつ、ヒール角を画定する圧縮面をもう片方の側に有しており、隣接するフルートの各対の間にランドが形成され、前記各ランドは、1つの隣接する前記フルートの前記切削面に沿った加工刃を有し、略筒状の前記本体のストッパ部分が、
切削時に前記フルートに沿った骨片の継続的移動を防止するように、前記フルートの終端と前記シャンクの前記遷移境界部との間に配置される、本体と、
前記シャンクの入り口から、前記ストッパ部分に配置される複数の出口オリフィスに向かって通過する注水導管であって、前記入り口は前記シャンクの前記駆動端に配置され、前記入り口が前記長手方向軸に沿って整列し、前記複数の出口オリフィスが、前記本体の周囲に、互いに円周方向に均等な間隔で離間する、注水導管と、
を備える、回転式オステオトーム。
【請求項12】
前記複数の出口オリフィスは、直径方向に対向する2つの出口オリフィスを備える、請求項11に記載のオステオトーム。
【請求項13】
前記各出口オリフィスは略楕円形状を有する、請求項11に記載のオステオトーム。
【請求項14】
前記各出口オリフィスは前記各フルートの終端と軸方向に整列する、請求項11に記載のオステオトーム。
【請求項15】
各出口オリフィスは、より長い主軸とより短い短軸とで画定される略楕円形状を有し、前記各出口オリフィスは、隣接する前記フルートに対して、前記主軸の3倍よりも小さい距離で離間されて配置される、請求項11に記載のオステオトーム。
【請求項16】
前記注水導管は、前記シャンクを通るとともに前記長手方向軸に沿って延在する略筒状の主幹部を含み、前記主幹部は前記ストッパ部分の一部を通るとともに前記長手方向軸に沿って延在し、前記注水導管は、前記主幹部と前記複数の出口オリフィスとの間に配置されるフロースプリッタをさらに備える、請求項11に記載のオステオトーム。
【請求項17】
前記フロースプリッタは、前記主幹部を通って、実質的に同一の分岐へと移動する注水流体の流れを分割し、前記各オリフィスを介して放出するように構成され、前記分岐は前記先端方向の前記長手方向軸に対して鋭角の軌道で傾斜している、請求項16に記載のオステオトーム。
【請求項18】
前記各分岐の前記鋭角の軌道は、約10°から45°の間である、請求項17に記載のオステオトーム。
【請求項19】
前記各加工刃は実質的にマージンが無く、前記加工刃は、前記円錐状のテーパ形状部分の直径が減少するにつれ、非切削方向とは離れていく方向に、前記本体の周囲を曲がって進み、前記先端は一対のリップを含み、前記各リップは略平面の第1のトレーリングフランクを有する、請求項11に記載のオステオトーム。
【請求項20】
回転式オステオトームであって、
駆動端と遷移境界部との間に延在する、回転の長手方向軸を画定するシャンクと、
前記シャンクの前記遷移境界部から先端に向かって延在する本体であって、前記本体の少なくとも一部は、最大径から前記先端に隣接した最小径に向かって減少する円錐状のテーパ形状を有し、前記先端は一対のリップを含み、前記各リップは、略平面の第1のトレーリングフランクを有し、複数のフルートが、前記本体周囲に配置され、隣接する前記先端から各終端へと延在し、前記各フルートは、前記本体の前記円錐状のテーパ形状周囲にらせん状に巻かれ、前記複数のフルートは、前記本体の周囲に、周方向に均等な間隔で配置され、前記各フルートは、すくい角を画定する切削面を片方の側に有し、かつ、ヒール角を画定する圧縮面をもう片方の側に有し、各フルートは、軸方向長さ及び径方向深さを有しており、隣接するフルートの各対の間にランドが形成され、前記各ランドは、1つの隣接する前記フルートの前記切削面に沿った加工刃を有し、前記各加工刃は実質的にマージンが無く、前記加工刃は、前記円錐状のテーパ形状部分の直径が減少するにつれ、非切削方向とは離れていく方向に、前記本体の周囲を曲がって進んでおり、略筒状の前記本体のストッパ部分が
、切削時に前記フルートに沿った骨片の継続的移動を防止するように、前記フルートの終端と前記シャンクの前記遷移境界部との間に配置される、本体と、
前記シャンクの入り口から、前記本体の複数の出口オリフィスに向かって通過する注水導管であって、前記入り口は前記シャンクの前記駆動端に配置され、前記入り口は前記長手方向軸に沿って整列し、前記注水導管は、前記シャンクを通るとともに前記長手方向軸に沿って延在する略筒状の主幹部を含み、前記主幹部は、前記ストッパ部分の一部を通るとともに前記長手方向軸に沿って延在し、前記複数の出口オリフィスは、前記本体の周囲に、互いに周方向に均等
な間隔で離間し、前記各出口オリフィスは略楕円形状を有し、前記主幹部と前記複数の出口オリフィスとの間にフロースプリッタが配置され、前記フロースプリッタは、前記主幹部を通って、実質的に同一の分岐へと移動する注水流体の流れを分割し、前記各オリフィスを介して放出するように構成され、前記分岐は、前記先端の方向の前記長手方向軸に対して鋭角の軌道で傾斜し、前記各分岐の前記鋭角の軌道は約10°から45°の間である、注水導管と、
を備える、回転式オステオトーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は2018年11月6日に出願された米国仮出願番号62/756,406の優先権を主張するものであり、その開示全体が参照することにより本書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明の分野。本発明は、一般的に、インプラント又はフィクスチャを受けるための穴を準備するツールに関し、より具体的には、内部注水で構成される回転式オステオトームに関する。
【0003】
関連技術の説明。インプラントは、失われた生物学的構造物と交換するため、損傷を受けた生物学的構造物を支援するため、又は、既存の生物学的構造物を強化するために製造される医療機器である。骨インプラントは、患者の骨に配置されるタイプのインプラントである。骨インプラントは、失われた、又は損傷した歯と交換するための、顎骨における歯科インプラント、臀部や膝などの、損傷した関節と交換するための関節インプラント、及び、骨折を修復し、他の欠損を治療するための補強インプラントなどを含む、ヒトの骨格系全体で見受けられる。
【0004】
いくつかの実施形態では、インプラントの配置場所にアクセスするのが極めて困難である。これらのいわゆる「深部領域(ディープリーチ,deep reach)」の状況は、
図1Aに図示されているような頬骨のインプラントを含む(ただし、それに限定されない)。
図1Bに描かれているように、インプラントを受けるための骨切り部(オステオトミー)を作成するために、通常、長尺のドリルビット又はバーが必要とされる。(
図1Bに示されているドリル用ツールは本発明の1つの実施形態に従ったものであり、先行技術で採用されたものではない。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、この業界では骨切り部を作成するためのオッセオインテグレーションの実施要項(プロトコル)を奨励してきた。この、よく知られた、新しい実施要項は、本発明の発明者であるSalah Huwais博士によって開発され、ミシガン州ジャクソンの有限責任会社Versahにより、デンサー(登録商標)バーのブランド名で、回転式オステオトームとして市場で販売されてきた。米国特許公報2017/0071704(2017年3月16日)及びPCT公報WO2017/124079(2017年7月20日)は、デンサー(登録商標)バーオステオトームの様々な例、及び、それらの機能性について説明している。これらの公報の開示全体が参照することにより本書に組み込まれ、参照により組み込まれることを承認するすべての管轄において依拠される。
【0006】
デンサー(登録商標)バーの使用実施要項の重要な要素は、例えば注水可能なハンドピースによって、バーの外端部に適用される大量の注水である。
図2を参照してほしい。注水用流体は無菌食塩水溶液又は水が好ましい。連続する注水流体の流れが提供されると、(オステオトームの回転方向に対して)フルート(溝)の逆方向のねじれが、骨切り部の底部に向かって、注水流体を下方向に押し出し、及び送り出す効果を有するようになる。すなわち、フルートが、タービンの羽根と同様に、注水流体を移動する。結果として、注水流体は、外科手術の間に渡り、骨切り部の底部に向かって強制的に運ばれる。この、送り出す(ポンプ)動作又は押し出す動作が、
図2の下方向にねじれた矢印によって描かれている。
図2で外側方向を指す小矢印による圧力勾配として描かれている、骨切り部内部で外側方向に押圧する水圧が創出される。圧縮モードで作動するとき、圧力勾配が骨側壁に対して押圧し、穴の内面を準備及び前処理する。余分な注水流体は、回転式オステオトームがわずかに持ち上げられたときに、その周囲に現れる小型の円形ギャップを通って、骨切り部から排出される(溢れる)。よって、圧力勾配は、執刀医が回転する回転式オステオトームを骨切り部に対して繰り返し前進及び緩和するごとに、当該執刀医によって付加される力の量に直接反応して、増加及び減少する。
【0007】
注水流体の連続供給と合わせて、回転式オステオトームの位置を調節することにより、執刀医は、ピストン状効果を伴った、均等に分配された膨張圧を、骨切り部の内壁部に対して付加することができる。この拍動性の水圧効果は、多数の実証された前処理の有利性を有しており、その有利性は、1)後の押し固め接触(compacting contact)のための準備における、骨切り部の骨構造の軽度のプレストレス、2)回転式オステオトームと側壁の間の実際の接触の前に、執刀医が、瞬間的に付加された圧力を周到に見定めることを可能にする、回転式オステオトームを介して伝達される触覚フィードバック、3)骨の強靭性及び骨の塑性を高める骨構造の強化された水和作用、4)周囲の骨の格子構造への、骨片の水力学的補助による注入、5)熱伝達の減少、6)流体力学的潤滑性、7)患者が感知する外傷の低減又は緩衝などを含む。
【0008】
ただし、先述の「深部領域」の状況は、デンサー(登録商標)バーオステオトームの外部注水の実施要項を複雑にする。例えば、
図1A及び1Bに図示されている例のような頬骨のインプラントのための骨切り部を準備している間、深部に埋め込まれたバーのフルートに、十分な量の注水流体を適用することは、実質的に不可能であろう。
【0009】
したがって、「深部領域」適用におけるアンカー又はインプラントを受けるための骨又は他のタイプの母材を準備する、改良されたツール及び技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によると、回転式オステオトームは深部領域適用可能に構成されている。オステオトームは、回転の長手方向軸を画定するシャンクを備える。シャンクは駆動端と遷移境界部(transition interface)との間に延在する。本体は、遷移境界部から先端に向かって延在する。複数のフルートが本体の周囲に配置されている。各フルートは、隣接する先端から各終端へと延在する。各フルートは、すくい角(レーク角、rake Angle)を画定する切削面を片方の側に有する。また、各フルートは、ヒール角(横傾斜角、heel-side angle)を画定する圧縮面を、もう片方の側に有する。隣接するフルートの各対の間にランドが形成される。各ランドは、1つの隣接するフルートの切削面に沿った加工刃(working edge)を有する。本体のストッパ部分が、フルートの終端とシャンクの遷移境界部との間に配置されている。注水導管がシャンクの入り口(インレット)から出口(アウトレット)オリフィスに向かって通過している。出口オリフィスはストッパ部分に配置されている。
【0011】
本発明の第2の態様によると、回転式オステオトームは深部領域適用可能に構成されている。オステオトームは、回転の長手方向軸を画定するシャンクを備える。シャンクは、駆動端と遷移境界部との間に延在する。本体は、遷移境界部から先端に向かって延在する。本体の少なくとも一部は、最大径から先端に隣接した最小径に向かって減少する円錐状のテーパ形状を有する。複数のフルートが本体の周囲に配置されている。各フルートは、隣接する先端から各終端へと延在する。各フルートは、本体の円錐状のテーパ形状周囲にらせん状に巻かれている。複数のフルートが本体の周囲に、周方向に均等な間隔で配置されている。各フルートは、すくい角を画定する切削面を片方の側に有し、かつ、ヒール角を画定する圧縮面をもう片方の側に有する。隣接するフルートの各対の間にランドが形成される。各ランドは、1つの隣接するフルートの切削面に沿った加工刃を有する。本体のストッパ部分がフルートの終端と、シャンクの遷移境界部との間に配置されている。ストッパ部分は略筒状である。注水導管がシャンクの入り口から、ストッパ部分の複数の出口オリフィスに向かって通過している。入り口はシャンクの駆動端に配置され、長手方向軸に沿って整列している。複数の出口オリフィスは、本体周囲に、互いに周方向に均等な間隔で離間している。
【0012】
本体のストッパ部分に出口オリフィスを配置することにより、注水流体のエネルギー供給が、フルート及び先端に向かって流入することが可能となり、それによって先行技術の外部注水の実践を、より好ましく再現する。注水流体をフルート及び先端の方向に流すことにより、既知の前処理の有利性を伴って水圧効果を創出でき、その有利性は、1)後の押し固め接触のための準備における、骨切り部の骨構造の軽度のプレストレス、2)回転式オステオトームと側壁の間の実際の接触の前に、執刀医が、瞬間的に付加された圧力を周到に見定めることを可能にする、回転式オステオトームを介して伝達される触覚フィードバック、3)骨の強靭性及び骨の塑性を高める骨構造の強化された水和作用、4)周囲の骨の格子構造への、骨片の水力学的補助による注入、5)特に塑性変形の領域における、熱伝達の減少、6)流体力学的潤滑性、7)患者が感知する外傷の低減又は緩衝などを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の、上記及び他の特徴及び有利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面と関連づけて考慮されると、より容易に理解されるであろう。
【0014】
【
図1A】
図1Aは頬骨のインプラントの形体の、深部領域適用の例である。
【0015】
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施形態に従った回転式オステオトームを使用した、長尺インプラントのうちの1つのための、
図1Aの骨切り部の形成を示している。
【0016】
【
図2】
図2は、外部注水用に構成された先行技術の回転式オステオトームであり、米国特許出願2017/0071704から直接複写した。
【0017】
【
図3】
図3は、加工刃との接触直前に骨側壁に対して発生した、上昇する水圧の急増を示した部分的断面図である。
【0018】
【
図4】
図4は、先端の、骨の研削(グラインディング)及び自家移植(オートグラフト)の特徴を描いた拡大図である。
【0019】
【
図5】
図5は、骨材料が集合し、その後、当該骨材料が周囲の骨に還るためにフルートに向かう場所である先端の領域を示した、先端の部分的斜視図である。
【0020】
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に従った回転式オステオトームの側面図である。
【0021】
【0022】
【
図8】
図8は、シャンクの駆動継手(drive coupling)の視点からの端面図である。
【0023】
【0024】
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に従った回転式オステオトームの斜視図である。
【0025】
【0026】
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に従った、延長された長尺の回転式オステオトームの斜視図である。
【0027】
【
図13】
図13は、骨切り部を通る、簡略化された断面図であり、有益な水圧効果を生成するための注水流体を放出する回転式オステオトームの断面図を示している。
【0028】
【
図14】
図14は、本発明の新規な注水管を包含する、複数の異なる直径及び異なる長尺のオステオトームの対照比較を示している。
【0029】
【
図15】
図15は、三角形の断面を有するパイロットドリルに組み込まれた、本発明の新規な注水管を示している。
【0030】
【発明を実施するための形態】
【0031】
複数の図面を通して、同様の数字が同様の又は対応する部分を示している図面を参照すると、
図1A及び
図1Bは歯科インプラントの例を示しており、骨インプラント20、22又は24を受けるために、骨切り部の準備が必要とされる。本発明は歯科応用に限定されず、広範な整形外科応用に渡って適用されることができることは理解されるであろう。ヒトへの応用が一般的ではあるが、動物への応用も同等に妥当であり、本発明の範囲を外れるものではない。さらに、本発明は骨への適用に限定されず、木材などの有機性材料、及び、金属発泡体及び他の海綿状材料などを含むがそれに限定されない工業及び商業適用のための非有機材料に穴を準備するのに使用することも可能である。
【0032】
例示のみを目的として、拡大され、ほぼ最終的に完全に形成された骨切り部26が、インプラント又は他のフィクスチャを受けるように準備可能な方法を説明するために、
図2の、外部から注水される先行技術のスタイルの回転式オステオトームが役に立つ。骨切り部26が準備されると、インプラント又はフィクスチャスクリューが適所にねじ込まれる(例えば
図1のインプラント20、22、24)。完全に形成された骨切り部26を仕上げるために一連の工程が必要となり、その工程は、第1に、初期の骨切り部を形成するために、受容側骨にパイロット穴を開ける工程と、次いで、最終的な直径及び深さに到達するまで、漸進的に幅広となる回転式エキスパンダー装置、すなわちオステオトームを使用して、骨切り部26を徐々に拡大する工程を含む。この連続的な拡大方法は、外部から注水されるタイプの先行技術の回転式オステオトーム(
図2)、及び、本発明の内部注水による新しい回転式オステオトームによく適している。
【0033】
次に
図3から
図15を参照すると、本発明の実施形態に従った、シャンク30及び本体32を含む、回転式オステオトーム28が示されている。シャンク30は、回転式オステオトーム28の回転の長手方向軸Aを画定する、細長の筒状シャフトを有する。ドリルモータ(図示せず)に連結するためのドリルモータ結合継手34がシャフトの遠位上方端部に形成される。継手34の具体的な構成は使用されるドリルモータのタイプによって異なってもよく、場合によっては、単に、コレットの入口部をそこで把持するシャフトの平滑部であってもよい。本体32はシャンク30の下端部と結合し、この結合部はテーパ状又はドーム型の遷移部36で形成されることができる。場合によっては、遷移境界部36から既定の距離に配置された環状溝37を含むことができる。この溝37は、オステオトーム28の貫通深さを制限するのに使用される深さ止め(図示せず)を配置するために使用することができる。
【0034】
本体32の下方部分は、最大径から先端38に隣接した最小径に向かって減少する、円錐状のテーパ形状を有することが好ましい。ただし、いくつかの考えられうる実施形態では、本体32の下端部はテーパ状でなくてもよい(すなわち筒状)。よって、先端38は、シャンク30から遠位にある。好適には、キット内のすべてのオステオトーム28は同一のテーパ角、又は略同一のテーパ角を有する。適用に応じて、約1°から5°(又はそれよりも大きい)テーパ角が可能である。より好適には、約2°から3°の間のテーパ角が、満足な結果をもたらすであろう。さらに好適には、約2°36’のテーパ角が、歯科応用において、際立った結果をもたらすことが知られている。
【0035】
図10で最もわかりやすく描かれているように、先端38は少なくとも1つの、ただし好適には一対のリップ40で画定される。リップ40は先端38上に、それぞれ反対側に配置された端部であり、図示される実施形態では、共通の平面上には置かれていない。換言すると、図示されているように、リップ40は、(直接的な直径上の整列、direct diametrical alignment)の観点から見て)長手方向軸Aを通る中心に延在するチゼルポイント42の短い長さによって、わずかにずれていてもよい。チゼルポイント42はドリル(穴開け)ツールに共通する特徴であるが、チゼルポイント42に別の先端38を形成することは当然可能であり、その場合、丸みを帯びた、及び、単純な尖った形状などを含む。先述のとおり、リップ40は先端38から(半径方向に)上方及び下方に角度が付いた端部である。リップ40の角度は該当する適用の性能を最適化するように変更されることができる。長手方向軸Aに対するリップ40の角度は、約30°(極めて尖っている)から75°(極めて鈍い)の範囲であってもよい。図示されている例では、リップ角度は長手方向軸Aに対して測定して約60°、又は2つの対向するリップ40の間で計測して120°である。
【0036】
各リップ40は略平面の第1のトレーリングフランク(後側の側縁部、trailing flank)44を有する。第1のトレーリングフランク44は各リップ40から、第1の角度で傾いている。第1の角度は該当する適用の性能を最適化するように、約30°から60°の間で変更されることができる。実施時、第1の角度は長手方向軸Aから測定して約45°であってもよい。したがって、2つの相反する第1のトレーリングフランク44がそれぞれ反対の方向に設置され、その結果、回転式オステオトーム28が使用時に回転するとき、第1のトレーリングフランク44は各リップ40を先導するか、あるいは各リップ40の後を追うことが理解されるであろう。第1のトレーリングフランク44が各リップ40を先導するとき、オステオトーム28は、圧縮モードのために、非切削方向に回転するといわれており、反対に、第1のトレーリングフランク44がリップ40の後を追うとき、オステオトームは、リップ40が下降しながら骨を切削又は剥切する切削方向に回転するといわれている。第1のトレーリングフランク44は、圧縮方向に、実質的に、リップ40に対して大きな負のすくい角を形成し、リップ40との接触点での、骨(又は他の母材)におけるチップ形成及びせん断変形を最小化する。
【0037】
略平面の第2のトレーリングフランク46が、第2の角度で、各第1のトレーリングフランク44に隣接して、かつ、各第1のトレーリングフランク44とは分離して(別個に)形成される。第2の角度は第1の角度よりも小さく、約55°より小さいことが好ましい。第1のトレーリングフランク44が(軸Aに対して)45°で形成される例では、第2のトレーリングフランク46は40°又はそれよりも小さくてもよい。略平面のリリーフポケット(relief pocket)48が、第3の角度で、各第2のトレーリングフランク46に隣接して、かつ、各第2のトレーリングフランク44とは分離して形成される。第3の角度は第2の角度よりも小さい。第2のトレーリングフランク46が(軸Aに対して)40°で形成される例では、リリーフポケット48(すなわち、第3の角度)は30°又はそれよりも小さくてもよい。各リリーフポケット48は、先端38の区域の、第2のトレーリングフランク46とリップ40の間に配置される。回転式オステオトーム28が切削方向に回転するとき、大量の骨片がリリーフポケット48領域に集まる。回転式オステオトーム28が圧縮方向に回転するときには、ほとんど皆無かそれに近い量の骨片しか、リリーフポケット48領域に集まらない。
【0038】
複数の溝すなわちフルート50が本体32の周囲に配置されている。フルート50は共通の軸方向長さ及び径方向深さを有していても、有していなくてもよい。すなわち、構成によっては、すべてのフルート50が同一でなくてもよい。フルート50は、本体32のテーパ状下端部周囲に、均等に円周方向に配置されていることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。本体32の直径はフルート50の数に影響される。例えば、約1.5-2.5mmの範囲の本体42は、3又は4のフルートで形成されることができ、約2.0-3.0mmの範囲の本体42は、5又は6のフルートで形成されることができ、約3.0-4.0mmの範囲の本体42は、7又は8のフルートで形成されることができる、といった具合である。当然のことながら、フルート50の数は、性能を最適化するため、及び/又は具体的な適用に、より適するように、ここに示された例よりも多い、又は少ない数に変更可能である。
【0039】
図示された実施形態において、フルート50はらせん状ねじれ(helical twist)で形成されている。切削方向が右手(時計回り)方向である場合、らせん状渦巻(helical spiral)も右手方向であることが好ましい。このRHS(右手方向らせん状ねじれ)-RHC(右手方向らせん状渦巻)の構成が、全図面を通して見られるが、当然のことながら、実質的に同等の結果をもたらすとして所望される場合には、逆の切削方向及びらせん状渦巻方向(すなわち、LHS(左手方向らせん状ねじれ)-LHC(左手方向らせん状渦巻))であってもよい。
【0040】
各フルート50は、圧縮面52及び反対側の切削面54を有する。隣接するフルート50の間に、あぜ部、すなわちランドが交互に形成される。したがって、4つのフルート50を含む回転式オステオトーム28は4つのランドを有し、6つのフルート50を含む回転式オステオトーム28は6つの交互的ランドを有する、といった具合である。各ランドは、一方の側のフルート50の圧縮面52と、もう一方の側のフルート50の切削面54との間に(円周方向に)延在する、外部ランド面56を有する。各ランド面56と、それに関連づけられた切削面54との間の鋭利な境界部は加工刃58と呼ばれる。回転式オステオトーム28の回転方向に応じて、加工刃58は骨を切削するか、あるいは骨を凝縮するか、いずれかの機能を果たす。すなわち、オステオトーム28が切削方向に回転するとき、加工刃58は骨(又は他の母材)を剥切し、及び掘り起こす。オステオトーム28が圧縮方向(非切削方向)に回転するとき、加工刃58は、ほとんど皆無かそれに近い骨しか切削することなく、骨(又は他の母材)を圧縮するとともに、径方向に押しのける。この圧縮及び径方向の移動は、縮合メカニズムにおける、横方向及び外側方向への骨構造の穏やかな押圧として示される。
【0041】
加工刃58は、図全体を通して実質的にマージンが無い状態で示されており、各ランド面56の全体部分が加工刃58の後方で取り除かれ、
図3の使用時の描写から理解できるように、完全なクリアランスを提供している。らせん状ねじれの角度に関連して先述されたように、実質的にマージンの無い加工刃58は、本体32の円錐状のテーパ形状部分の直径が減少するにつれ、圧縮方向とは離れていくように示されている。換言すると、圧縮方向が反時計回りの場合(
図5の方向矢印を参照)、加工刃58のらせん状ねじれは、本体32の頂部から先端38の方向に見た場合に、反時計回りの方向に曲がって進む。また、その反対に、
図9に示されているように、本体32の先端38から頂部に向かってみた場合、ねじれは時計回り方向に見えよう。したがって、圧縮方向が反時計回りの場合、すべてのランド面56及びフルート50が長手方向軸Aの周囲を反時計回りに周回するときに、加工刃のひとつひとつが各ランド面56及びフルート50を、先端38方向に下方方向に辿りながら、加工刃58は圧縮方向から離れるように回転する。
【0042】
切削面54は、各加工刃58のすくい角を画定する。すくい角とは、加工刃58の先導面(leading face)から、加工対象(例えば、骨切り部の内部の骨表面)の表面に対して垂直方向に延びる仮想線に向かって測定された傾斜の角度である。
図3を参照のこと。すくい角は、正の角度、負の角度、ゼロ度であってもよい。
図3によると、切削方向に回転するときの加工刃58のすくい角は、回転式オステオトーム28が切削方向に回転するときに骨を切削/剥切するのに極めて適した鋭利な加工刃58が備わっていると仮定して、ゼロ又は負角であることが好ましい。実施時、回転式オステオトーム28の切削機能は、切削面54のすくい角が約0°から約-65°(負のすくい角)の間である場合に最適化されることができ、上記は先端38からの距離に応じて変更してもよいことがわかっている。同一の、又は略同一の負のすくい角が、フルート50の全長にわたり維持されてもよい。すくい角の意図的変化は後退的又は漸進的であってもよい。漸進的変化は、すくい角が先端38に隣接した箇所で最小(ゼロに最も近い)であり、ストッパ部分60に隣接した箇所で徐々に最大になるよう増加することを示している。一方で、後退的変化は、負のすくい角が先端38でより大きくなり、ストッパ部分60付近でより小さくなることを意味する(よって、切削モードにおいてよりアグレッシブになる)。
【0043】
回転式オステオトーム28が、圧縮モードで反時計回りに回転されるとき、効果的なすくい角が加工刃58とランド面56の間に画定され、約55°-89°の大きな負のすくい角であってもよい。加工刃58の大きな負のすくい角は、圧縮方向に回転する場合、骨切り部26の壁部と加工刃58の間の接触点で、外側方向の圧力を付加し、接触点よりも手前に圧縮波を創出する。オッセオインテグレーションは、金属表面の品質を向上するための金属光沢仕上げの既知の方法とおおまかに比較されることができる。
【0044】
執刀医によって付加される下方への圧力は、拡大されている骨切り部26の骨表面に、加工刃58を接触させ続けるために必要である。すなわち、接触応力が母材の骨の降伏強度を上回るときに開始する骨における圧縮波を生成及び伝搬するために必要とされる。上記は、骨切り部26及びツール28のテーパ効果によって支援され、横方向の(すなわち、意図された拡大方向の)圧力を創出する。執刀医が回転式オステオトーム28を骨切り部26に向かってより強く押し込めば押し込むほど、より大きな圧力が横方向に課せられる。上記は執刀医に、回転式オステオトーム28の極めて高速な回転速度にも関わらず、拡大における完璧な制御をもたらし、上記はオッセオインテグレーション技術を習得するのに必要な短期間習得が内在する要因となっている。したがって、圧縮強度は、執刀医によって制御される、回転式オステオトーム28に付加される力の量に主に依拠している。より大きな力をかければ、より早く拡大が発生することになる。
【0045】
各加工刃58が骨を引き込む際、付加される力は2つの要素に分解できる。1つは骨の表面に対する法線力であり、骨の表面を外側方向に押圧し、もう1つは接線力であり、骨切り部26の内面に沿って骨を引き込む。接線要素が増加すると、加工刃58は骨に沿ってスライドし始める。同時に、法線力はより柔らかい骨材料を変形するであろう。法線力が低い場合、加工刃58は骨をこするが恒久的にその表面を変えることはない。こする動作は摩擦及び熱を作り出すが、執刀医が臨機応変に回転速度及び/又は圧力及び/又は注水の流れを変更することで制御可能である。本体32の下方部分がテーパ状であることから、執刀医は外科手術の最中、いかなるときにも、冷却のために、骨の表面との接触点から加工刃58を持ち上げて離すことができる。上記は、執刀医が継続的に進捗をモニタリングし、良好な修正と調整を行いながら、圧力を一気に付加できる、制御された「バウンシング(bouncing)」の方法で行うことができる。執刀医が付加する下方向の力が増加すると、結果的に骨表面上の応力が、その降伏力を上回る。上記が発生すると、加工刃58は表面を切り開いて進み、その後方に溝を創出する。したがって、加工刃58の上記動作は回転式オステオトーム28が完全な/最大深さに到達するまで、骨切り部を漸進的に拡大し、その時点で、さらなる拡大を実施するために、必要に応じて、異なるさらに大きな回転式オステオトーム28が使用されなければならない。
【0046】
骨の弾性特性はよく知られており、執刀医によって課せられる負荷が、骨が弾性的に変形する能力を超えない場合、骨は、応力が取り除かれれば、当初の(非変形の)状態に素早く戻る。一方で、執刀医によって課せられる負荷が、骨が弾性的に変形する能力を超えた場合、骨は変形し、塑性変形によって、恒久的に形状が変化することになる。骨の恒久的な形状変化は、エネルギー放出を可能にする微小クラック、完全破断に対する自然防御である弱化(compromise)と関連付けられてもよい。微小クラックが小さい場合、骨切り部が拡大されても、骨は1つの塊のままである。塑性変形の領域は、材料の降伏点から、破断点まで拡大する。降伏点と破断点の間の曲線のピークは、材料の最大引張強度を示す。材料(例えば骨)の、その降伏点と最大引張強度の間の領域に応力がかけられると、材料はひずみ硬化を認める。加工硬化又は冷間加工としても知られるひずみ硬化は塑性変形による延性材料の強化のことである。この強化は材料の結晶構造内の転位の動き及び転位の発生により発生する。上記は、骨材料に関しては、骨組織における膠原繊維間の架橋の転位に対応する。材料は、最大引張強度と破断点との間の領域に応力が課せられたときに、ネッキングを認める傾向にある。
【0047】
らせん状ねじれの方向は、執刀医の制御に役立つ役割を果たすように設計可能であり、その結果、(ひずみ硬化ゾーンにおける)最適なレベルの応力が、拡大処置全体を通して、骨(又は他の母材)に付加されることができる。特に、右手方向の切削方向のための右手方向らせん状ねじれを示す上記のRHS-RHC構成(又は、その代わりにLHS-LHC構造、図示せず)が、回転式オステオトーム28が高速で、圧縮方向に継続的に回転し、同時に、骨切り部26に対して(執刀医による手動で)強制的に前進するときに、母材の骨における有利な反対方向の軸方向反力(R
y)を引き起こす応力を付加する。この、反対方向の軸方向反力(R
y)は
図4に図示されており、骨切り部26に向かって強制的に前進する方向とは逆方向に描かれている。換言すると、回転式オステオトーム28を操作する執刀医が、回転式オステオトーム28を骨切り部26に向かって下方向に押圧すると、反対方向の軸方向反力(R
y)が、オステオトームを上方に押し上げるために、反対方向に作用する。反対方向の軸方向反力(R
y)は、垂直の(又は、おそらくより正確には、長手方向軸Aに相対した「軸方向」の)反力の成分であり、これは、回転式オステオトーム28の加工刃58の全長に対して、骨によって付加された、ニュートンの「大きさが同じで向きが反対の反力」のことである。また、反対方向の軸方向反力(R
y)は、回転式オステオトーム28が圧縮方向に回転されているときに、リップ40で、効果的に大きな負のすくい角によって創出される。当業者は、同時に作用するリップ及び加工刃の両方(40、58)の構成ではなく、リップ40のみの構成、又は加工刃58のみの構成のいずれかによって、反対方向の軸方向反力(R
y)が創出される別の実施形態を理解するであろう。
【0048】
回転式オステオトーム28が圧縮方向に回転しているとき、骨切り部26の底部に向かって先端38を前進させる執刀医は、上述のように、骨を塑性的に押しのける/拡張するのに必要な力を供給することに加え、反対方向の軸方向反力(Ry)に対して押圧し、且つ、当該反力に勝るように押圧しなければならない。回転式オステオトーム28は、執刀医が押し固め(圧縮固化)によって、すなわち、圧縮モードのときに骨切り部を拡張するために、これまでと同様、反対方向の軸方向反力(Ry)に対して、継続して逆らわなければならない。反対方向の軸方向反力(Ry)は、執刀医に拡大工程を通じてより大きな制御を可能にすることから、不利益であるどころか有益である。反対方向の軸方向反力(Ry)のおかげで、オステオトームを骨部位内部に向かって前進しがちなけん引力を生成するように設計された標準的な「上向き切削」のツイストドリル又はバーに起こりうるような、骨切り部26のより深部に引きずり込まれることがない。上向き切削バーは、バーを骨切り部に向かってより深く把持及び引っ張り込む可能性があり、それにより不注意な、過度な貫通を引き起こしうる。
【0049】
圧縮モードにおいて、反対方向の軸方向反力(Ry)は、本体32を骨切り部26に向かって前進する際、執刀医によって付加される力の強度に常に比例する。したがって、この反力は、いかなる瞬間においても、より大きな、又はより小さな力が必要かどうかを執刀医に伝えるのに直観的かつ自然な、リアルタイムの触覚フィードバックを創出する。この同時の触覚のフィードバックは、回転式オステオトーム28を直接的に介した反力(R、特に軸方向成分Ry)を付加することによる、執刀医のデリケートな触覚を最大限に活用するものである。この圧縮モードにおいて、反対方向の軸方向反力(Ry)の機械的な刺激が、骨(又は他の母材)が、リアルタイムで、拡大処置にどのように反応しているか、ということに基づいて、執刀医が拡張処置をより良好に制御できるよう支援する。
【0050】
したがって、反対方向の軸方向反力(Ry)によって、上述の制御された「バウンシング(bouncing)」又は「ポンピング(pumping)」動作がより効果的に、及び、実質的により制御可能に行われ、その結果、執刀医は進捗を直観的にモニターでき、拡大速度の制御を失うことなく、細かな修正及び臨機応変な付加圧力の調整を行うことができる。反対方向の軸方向反力(Ry)からの触覚フィードバックは、執刀医が、骨材料に対して応力を直観的にかけることを可能にし、その結果、そのひずみ応答はひずみ硬化ゾーン、すなわち、その降伏点と最大引張強度の間に存在することが好ましい。いかなる場合にも、執刀医は(回転式オステオトーム28を介して付加する力によって発生する)応力を弾性限界よりも大きく、破断点よりも小さく保つ努力をするであろう。当然、付加された応力が弾性限界を通過するまでは、骨は恒久的に変形することは皆無である。さらに、破断点を超える応力を付加することは、骨(又は他の母材)が、おそらく壊滅的に折れる要因となろう。
【0051】
図4及び
図5は、骨を同時に自家移植するとともに押し固めする、回転式オステオトーム28の性能を表している。押し固めの態様は、骨切り部26を包囲する領域を通じて、セルを押し固めするための、骨構造の横向き及び外側方向への軽度の押圧として画定されてもよい。回転式オステオトーム28は、より大きなサイズの各オステオトーム28が回転し、骨切り部26に向かって強制的に前進するときに、当該各オステオトーム28によって発生する、粉末化した/破砕された少量の骨を同時に自家移植及び押し固めするように構成されている。自家移植の現象は、骨切り部の内壁82をさらに圧縮するために、上述の基本的な骨の押し固め及び凝縮効果を補助する。さらに、患者自らの骨材料に返還する工程である自家移植は、回復を加速させ、オッセオインテグレーションを向上するように、人体の自然治癒特性を増進する。
【0052】
図4は、回転し、強制的に前進する各リップ40の最も外側の端部が骨に接触する点での、先端38と骨材料の間の遷移境界部の拡大図である。摩耗が骨をすりつぶす原因となる。骨の破片は、主に第2のトレーリングフランク46上に、すなわち、各第1のトレーリングフランク44のすぐ後方に集まる。堆積された骨の破片の幾分かは、リップ40に沿って、径方向の内側方向に移動し、骨切り部26の最も底部まで、はるばる運搬される。堆積された骨の破片の残りは、執刀医の手動による押圧力を介してかけられる圧力によって、第2のトレーリングフランク46と直接交差する複数のフルート50に沿って分配される。上記は
図5に描かれている。複数のフルート50は、圧縮モードにおいて骨のスラリーの上昇を受けるために、第2のトレーリングフランク46に向かって開放されていることが見て取れる。フルート50は、すりつぶしを行う遷移境界部から、骨の破片を容易に運搬し、それによって、骨片における、熱及び/又は圧力による壊死の可能性を低減する。
【0053】
血液、膠原質及び注水流体と混合され、骨片は半粘性スラリーの粘度を有する。フルート50上部に分配された骨の破片は、関連付けられたランド面56へと入り込み、当該ランド面で、骨の破片は拭い取られ、骨切り部26のセルの壁部に押圧され、即座に、患者の骨の、採取された部位の極めて近傍に移植し直される。骨切り部26の底部に運搬された骨の破片は拭い取られ、骨切り部26の底部に押圧される。結果として、押し固め領域周囲及びその下方に自家移植ゾーンが成長する。また、押し固めが皆無又はほとんど行われない骨切り部底部では、別の方法で圧縮が行われなかったであろう骨切り部26領域を圧縮し、及び場合によっては刺激する役割を果たす自家移植の顕著なゾーンが存在する。このように、オッセオデンシフィケーション方法は、塑性を増強するための骨とその膠原質量を維持する。オッセオデンシフィケーション方法は、後に配置されるインプラント又はフィクスチャのための準備において、回転式オステオトーム28を用いて押し固め(及び/又は回転が予定されるときは切削)によって骨切り部26を拡大することを可能にする。
【0054】
本発明の回転式オステオトーム28は、特に、頬骨及び他の深部領域適用に構成されている。よって、回転式オステオトーム28の本体32はフルートの終端62と遷移部36の間に延在する細長のストッパ部分60を含む。ストッパ部分60は、切削モードにおける、フルート50に沿った骨片の継続的移動を防止するために不可欠な閉塞動作を創出し、それにより、切削方向に動作しているとき、オステオトーム28の切削性能を自己拘束(self-arrest)する。実施時、ストッパ部分60の軸長さは意図する適用に応じて変化することができる。
図10及び
図11は、中尺インプラント22及び短尺インプラント24を調整することを目的とした、比較的短いストッパ部分60を有する回転式オステオトーム28を示している。対照的に、
図1B及び
図12は、長尺インプラント20を調整することを目的とした、比較的長尺のストッパ部分60を有する回転式オステオトーム28を示している。
【0055】
予想されるいくつかの実施形態では、本体32の、先端38から遷移部36までの全長が、一続きのテーパ又は円錐形状を有する。これらの場合、ストッパ部分60は、このテーパ形状を共有する。ただし、図示されている例では、ストッパ部分60はまっすぐな筒型形状を有している。したがって、本体32の下端部のみがテーパ状であり、筒型形状がストッパ部分60を占めており、頬骨及び他の深部領域スタイルのインプラント20、22、24の形状を提供するのに理想的に適している。
【0056】
図1B及び
図13を参照すると、フルート50の全長が骨切り部26に進入すると、骨片のスラリーがフルート50から簡便に脱出することができないことが見て取れる。ストッパ部分60はフルート50と骨切り部26の側壁との間の骨片を、コルク又はピストンのように、密封又は閉じ込める。執刀医が回転するオステオトーム28を、骨切り部26に向かってさらに深く前進し続けた場合、相当な抵抗を受けるであろう。閉じ込められた骨片のスラリーは、執刀医の押圧の力に反応して、フルート50内部で加圧される。執刀医が望めば、スラリーを骨切り部26の周囲壁面に押し付け、それによって高密度化されたクラストを形成する、先述のポンピング動作により、水圧を骨片のスラリーを介して脈動させることができる。
【0057】
おそらく
図7に最もわかりやすく示されているように、回転式オステオトーム28はシャンク30の少なくとも1つの入り口(インレット)64から、本体32の少なくとも1つの出口オリフィス66まで通過する注水導管を含んでいる。入り口64はシャンク30の駆動端に、駆動継手34の機構内の長手方向軸Aに沿って整列して配置されている。注水導管は、略筒状の、すなわち管状の主幹部(main trunk)68によって画定され、当該主幹部68は、シャンク30を通って、同時に長手方向軸Aに沿って、さらに本体32の部分に沿って延在する。より具体的には、主幹部68はストッパ部分60の大部分を、同時に長手方向軸Aに沿って通過する。通常使用(~2000RPM)におけるオステオトーム28の、時として高速な回転速度のため、主幹部68の中央配置は少なくとも2つの重要な便益を有する、すなわち、1)オステオトーム28の回転バランスが保たれること、及び2)主幹部68を移動する注水流体への、境界層の摩擦を介した、動作の伝達を最小限とすることである。
【0058】
先述のとおり、注水導管が少なくとも1つの出口オリフィス66に備わっていることが予想される。さらに、出口オリフィス66は、ストッパ部分に配置されることが好ましい。ただし、回転バランスを保持するために、複数の出口オリフィス66が好ましい。複数の出口オリフィス66は、本体32周囲に、互いに円周上に均等に間隔を空けて配置される。図示された例では、オステオトーム28には2つの出口オリフィス66が、互いに直径方向の反対側に備わっている。ただし、円周上の間隔が回転バランスを維持する場合には、2つよりも多い出口オリフィス66が確実に可能である。当然ながら、まとまって配置された出口オリフィス66の同等の構成が予測されることが可能であり、その構成においては、個々のオリフィス66が不均等に配置されていたとしても、当該まとまりが均等に円周上に間隔を空けている。よって、主な目的は、2000RPMに近い速度での回転の安定性及び回転バランスを維持することである。
【0059】
フロースプリッタ(流れ分割部)70が主幹部68と複数の出口オリフィス66の間に配置されている。フロースプリッタ70は、主幹部68を通って、実質的に同一の分岐72へと移動する注水流体の流れを分割し、各オリフィス66を介して放出するように構成されている。
図7で最もわかりやすく描かれているように、各分岐72は、先端方向の長手方向軸に対して鋭角の軌道Bで傾斜している。各分岐72の鋭角の軌道Bは約10°から45°の間である。鋭角の軌道Bは回転バランスを維持するように、すべての分岐72において同一であることが好ましい。ただし、鋭角の軌道Bが分岐72の間で同一でなかったとしても、当業者は回転バランスを維持する方法を想定することができよう。図示される例において、各分岐の鋭角の軌道Bは、満足な結果をもたらすことが証明されている約20°である。
【0060】
各出口オリフィス66は、通常の形状ルールに従った、より長い主軸とより短い短軸で画定される略楕円形を有する。図示されている例では、主軸が軸方向に方向付けられ、短軸が円周方向に方向付けられている。楕円形状は、とりわけ、頬骨及び深部領域適用のために構成された、特化されたノズル効果を創出する。特に、各オリフィス66の楕円形状は放出された水流を、待ち構えるフルート50に向けて自然に曲げる効果を有する。通過する流体の境界層に沿った表面張力は、注水流体を分岐72の内面に吸い付かせる。すなわち、各オリフィス66に存在する水は、この自然の効果により、本体32に接触した状態を維持するとともに、フルート50への流入を促進させられる。
【0061】
図面を通して示されているように、流体メカニズムのこの法則を完全に利用するために、各出口オリフィス66は各フルート50の終端62と軸方向に整列することができる。この、オリフィス66とフルート50の整列は、注水流体が先端38に送り込まれることが可能なフルート50への、注水流体の移動を改善しただけのものである。オリフィス66の、その関連付けられたフルート終端62への近接は、必然的に役割を果たす。実施時、オリフィス66から隣接するフルート終端62までの距離は、整列の条件に関わらず、長さの3倍よりも小さくなければならないことが判明している。すなわち、オリフィスと終端62が軸方向に整列していなくても、それらの間の間隔は、楕円形状の主軸の3倍よりも小さくなければならない。軸方向の整列と、長さ(すなわち、オリフィス66の主軸)よりも短い間隔の組み合わせが、多くの適用において最適であると考えられるように、この例では、より近接していることが概してより好ましいと考えられる。
【0062】
実施時、多くの頬骨及び他の深部領域適用が、特に幅狭の(スリムな)インプラント20、22,24を必要とする。つまり、回転式オステオトーム28の直径も、同様に幅狭/スリムである。フルート50によって増強される、先述の水流ポンピング効果は、回転式オステオトーム28の直径が狭いときに、幾分弱められるか、又は遅滞される(より大きな直径は、必然的により大きな角速度を生成する)。したがって、効率におけるほんの少しの改善であっても歓迎される。
【0063】
図13は、出口オリフィス66が骨切り部26に向かって深く通過するとき、分岐72を通る注水流体のエネルギー供給が、多くの前処理の有利性を含んだ所望の水圧効果を維持するのに必要とされ、これらの有利性は、1)後の押し固め接触のための準備における、骨切り部の骨構造の軽度のプレストレス、2)回転式オステオトームと側壁との間の実際の接触の前に、執刀医が、瞬間的に付加された圧力を周到に見定めることを可能にする、回転式オステオトームを介して伝達される触覚フィードバック、3)骨の強靭性を高めるとともに、骨の塑性を高める骨構造の強化された水和作用、4)周囲の骨の格子構造への、骨片の水力学的補助による注入、5)特に塑性変形の地点における、熱伝達の減少、6)流体力学的潤滑性、7)患者が感知する外傷の低減又は緩衝などを含む。
【0064】
図14は2つのセットのオステオトーム28の対照比較である。各セットは、パイロットドリル74、及び同じ長さの、漸進的に大きくなる直径を有する4つの回転式オステオトーム28から成る。左側のセットは長尺インプラント20の配置が可能な延長された長さで形成されているが、おそらく、これらの延長された長さのオステオトーム28は他のインプラント22、24を配置するために使用されることも可能である。右側のセットは中尺インプラント22及び短尺インプラント24のみの配置が可能な、より短い長さで形成されている。
【0065】
パイロットドリル74は、任意の適切なタイプでよい。
図14―16に示されている型は三角形の断面を有するランススタイルである。このスタイルは、満足な結果をもたらすことが判明している。出口オリフィス66を含んでいることから理解されるように、パイロットドリル74は、回転式オステオトーム28に関連して上記述べられたものと同様の注水導管スキームを使用した内部注水用に構成されていてもよい。
【0066】
使用法が、少なくとも外部注水オステオトームの文脈から、これまでにも数多く書かれている。使用法の詳細な説明は、例えば、2017年7月20日に発行された国際出願WO2017/124079A1に記載されている。参照により組み込まれることを承認する管轄において、国際出願WO2017/124079A1のすべての開示内容が参照によりここに組み込まれる。
【0067】
本発明の動作原理は、母材として骨に限定するものではない。実際、本発明のオステオトーム28は、切削及び/又は押し固めによってほぼすべてのタイプの多孔質(細胞質)又は硬質の材料の穴を拡大するように構成されることができる(非医療の適用において、回転式オステオトーム(rotary osteotome)28は、骨内部で使用することを暗示する「骨(osteo-)」の接頭辞との混同を避けるために、単にツール又は回転式ツールとして識別されるべきである)。航空宇宙産業で使用されるタイプの金属発泡体、遮熱材、及び他の極めて重要な適用(critical application)が、実行可能な母材の候補である。本発明の回転式ツール28で形成された穴は、スクリュー又は他の固定アンカーを受けるように、より好ましく準備されている。なぜなら、その内部の側壁は先述の圧縮による移動及び自家移植効果によって圧縮されているからである。金属発泡体に加え、生きた骨と同等の粘弾性特性を有するあらゆる非有機材料も、とりわけふさわしい候補である。アルミニウム板及びプラスチックのような、非多孔質(非細胞質)、非有機的材料における穴の形成によるいくつかの実験も実施されている。これらの非細胞性材料においても、確かな便益が示されているため、本発明の動作原理を使用した穴の準備により、スクリュー又はアンカーの保持を向上する潜在力が予想されている。
【0068】
オステオトーム28は、図で示された、部分的にテーパ状の加工刃ではなく、完全に直線的又はテーパ状ではない本体32で構成されることも可能であることを、当業者は理解するであろう。よって、記載された骨切り部の拡大技術は、押し固め効果と流体力学的効果の組み合わせの新たな方法を介して、テーパ状ではないツールを使用して達成されることができる。このように、先述の発明は、関連する法的基準に準拠して説明されており、それゆえ、説明は、事実上、限定ではなく例示である。開示された実施形態への変更及び修正は、当業者にとって明白となることが可能であり、本発明の請求の範囲内に含まれる。