(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】誘導加熱溶着装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/10 20060101AFI20240111BHJP
E04D 5/14 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
H05B6/10 381
E04D5/14 F
(21)【出願番号】P 2022205385
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2019105524の分割
【原出願日】2019-06-05
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000178619
【氏名又は名称】アーキヤマデ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕之
(72)【発明者】
【氏名】庄司 博之
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-140774(JP,A)
【文献】米国特許第4841706(US,A)
【文献】特開2018-173377(JP,A)
【文献】特開2004-156397(JP,A)
【文献】特開2009-046860(JP,A)
【文献】特開2007-205066(JP,A)
【文献】特開2001-162915(JP,A)
【文献】特開2018-187913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0242408(US,A1)
【文献】特開2001-248270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/10
E04D 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材に覆われた導電部材を前記シート材の上面から誘導加熱するとともに前記シート材と前記導電部材とを押し付けることで、前記シート材と前記導電部材とを溶着させる誘導加熱溶着装置
であって、
前記導電部材を誘導加熱する加熱コイルと、
前記加熱コイルを収納するハウジングと、
前記ハウジングの下端部に装着され、前記シート材に接当可能な接当面を有する押圧パッドと、
前記シート材を挟み込みながら前記導電部材の外形輪郭に倣うことができる内周形状を有するとともに、前記接当面の鉛直線に沿って摺動可能なように前記下端部に装着されたスカートユニットと、
を備えた誘導加熱溶着装置。
【請求項2】
前記スカートユニットは、前記下端部の側壁を摺動可能に外嵌するスカート体と、前記スカート体の上方摺動に対して抵抗力を与える抵抗手段とを備えている請求項1に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項3】
前記抵抗手段は前記スカート体を前記シート材に付勢する抵抗バネである請求項2に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項4】
前記スカート体の前記押圧パッドから前記シート材への突出長さを所定値に制限する係止具が備えられている請求項2または3に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項5】
前記加熱コイルは円状に巻かれており、前記下端部は円筒状であり、前記押圧パッドは前記下端部の端面に固定された円板であり、前記スカート体は円筒状であり、
前記下端部、前記加熱コイル、前記押圧パッド、前記スカート体は、前記鉛直線を中心軸として同軸配置されている請求項2から4のいずれか一項に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項6】
前記鉛直線に沿って変位操作される押圧操作具と、前記押圧操作具の変位によって規定されるバネ力で前記押圧パッドを前記シート材に押し付ける押圧バネと、が備えられ、
前記抵抗手段の前記鉛直線の方向の抵抗力は、前記押圧バネの前記鉛直線の方向のバネ力より弱く設定されている請求項2から5のいずれか一項に記載の誘導加熱溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材に覆われた導電部材を前記シート材の上面から誘導加熱するとともに前記シート材と前記導電部材とを押し付けることで、前記シート材と前記導電部材とを溶着させる誘導加熱溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築工事または土木工事の防水作業、例えば陸屋根等の防水工事において、表面に熱溶着層を有する導電性の固定部材を躯体表面に固定し、躯体上に張られた防水シートの表面側から固定部材を誘導加熱するとともに防水シートを固定部材に押し付けることで防水シートを躯体上に接着固定する施工が知られている。この施工での防水シートと固定部材とが、誘導加熱溶着装置によって溶着される溶着対象物としてのシート材と導電部材とである。
【0003】
上述の施工では、防水シートの表面側から固定部材を誘導加熱するための誘導加熱装置と、固定部材を誘導加熱した後に防水シートを固定部材に押し付ける押圧装置とが用意されている。このため、作業者は、誘導加熱装置を用いた誘導加熱が終了する毎に、誘導加熱装置を押圧装置に持ち替えて押し付け作業を行う必要がある。このような、2つの装置の持ち替えのわずらわしさを解消するために、誘導加熱装置と押圧装置とを一体化した装置が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、溶着対象物に向き合う押え面を有する基台及び加熱コイルを備えた電磁加熱コイルユニットと、電磁加熱コイルユニットに電流を供給する給電部と、基台に装着された押圧パッドとを備えた誘導加熱溶着装置が開示されている。この誘導加熱溶着装置を用いた防水シートの接着固定施工では、防水シートの固定部材の上となる部分に押圧パッドを接当させた姿勢を保ちながら電磁加熱コイルユニットによる誘導加熱を行って防水シートと固定部材とを溶着させる。誘導加熱が終了した後もしばらくそのままの姿勢で、押圧パッドを固定部材に押し付けることで、防水シートと固定部材とが溶着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたような誘導加熱溶着装置を用いた加熱溶着施工では、加熱コイル及び押圧パッドの導電部材に対する位置合わせが、シート材と導電部材との加熱溶着を良好なものとするために重要である。加熱コイル及び押圧パッドが固定部材からずれると、誘導加熱が不十分とだけでなく、導電部材に対するシート材の押し付けも不十分となり、加熱溶着の品質が悪くなる。しかしながら、導電部材はシート材によって覆われているため、シート材側から導電部材の外形輪郭が、視覚的に確認できない。このため、手探りで導電部材の外形輪郭を確認しなければならず、このことが作業効率の悪化を招いている。
【0007】
このような実情に鑑み、本発明の課題は、加熱コイルと押圧パッドとが組み込まれた誘導加熱溶着装置において、押圧パッド及び加熱コイルを導電部材の外形輪郭に対して位置合わせが簡単かつ正確にできる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による誘導加熱溶着装置は、シート材に覆われた導電部材を前記シート材の上面から誘導加熱するとともに前記シート材と前記導電部材とを押し付けることで、前記シート材と前記導電部材とを溶着させる。この誘導加熱溶着装置は、前記導電部材を誘導加熱する加熱コイルと、前記加熱コイルを収納するハウジングと、前記ハウジングの下端部に装着され、前記シート材に接当可能な接当面を有する押圧パッドと、前記シート材を挟み込みながら前記導電部材の外形輪郭に倣うことができる内周形状を有するとともに、前記接当面の鉛直線に沿って摺動可能なように前記ハウジングの下端部に装着されたスカートユニットとを備える。
【0009】
この構成によれば、作業者は、スカートユニットを用いて、シート材の上から導電部材の位置を探り、さらに、シート材を挟み込みながらスカートユニット8を導電部材の外形輪郭に倣わせる。スカートユニットが導電部材の外形輪郭に倣った状態になれば、導電部材に対する押圧パッド及び加熱コイルの位置関係が適正であると判断される。スカートユニットが導電部材の外形輪郭に正確に倣うと、スカートユニットが、シート材を挟み込みながら導電部材の先端をわずかに外嵌する。その際、スカートユニットは、押圧パッドの接当面の鉛直線に沿って摺動可能であるので、スカートユニットが導電部材を深く外嵌していかずに、スカートユニットがハウジングに対して上方に摺動する。これにより、スカートユニットが挟み込んだシート材を変形させたり、傷つけたりすることが防止される。スカートユニットの上方摺動により、押圧パッドの接当面がシート材に接当する。その後は、作業者は、押圧パッドを介して、シート材と導電部材とを押し付けることができる。
【0010】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記スカートユニットは、前記下端部の側壁を摺動可能に外嵌するスカート体と、前記スカート体の上方摺動に対して抵抗力を与える抵抗手段とを備えている。スカート体は下端部の側壁を外嵌しているので、安定した摺動が可能である。また、スカート体の上方摺動に対して抵抗力が作用するので、作業者が、スカート体の先端を導電部材の外形輪郭に倣わせようとしたときに、スカート体が簡単に上方摺動してしまって、作業者がスカート体を導電部材の外形輪郭に正確に倣わすことができなくなる不都合は解消される。抵抗手段の抵抗力は、スカート体を外形輪郭に倣わせやすくなるように設定される。所望通りの抵抗力を簡単に設定できる抵抗手段として、大きな取り付けスペースを必要としない抵抗バネが好都合である。
【0011】
抵抗ばねのような抵抗手段によって、スカート体の上方摺動に対して抵抗力を与えることは、逆に言えば、スカート体に下方に摺動するような付勢力が作用していることになる。スカート体が下方に付勢されていると、誘導加熱溶着装置が持ち上げられると、スカート体は下端部から抜け落ちてしまう。ただし、スカート体が、押圧パッドからわずかに突出していることで、導電部材の外形輪郭に倣わす作業がスムーズに行われる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記スカート体の前記押圧パッドから前記シート材への突出長さを所定値に制限する係止具が備えられている。
【0012】
防水シートなどを固定するために用いられる多くの導電部材は円盤状である。また、導電部材が円以外の多角形形状であっても、スカート体の先端が円筒なら、スカート体の先端は導電部材の外形輪郭に倣わせることができる。また、加熱コイルも円状の巻くのが電磁学的に効果的である。このようなことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記加熱コイルは円状に巻かれており、前記ハウジングの下端部は円筒状であり、前記押圧パッドは前記下端部の端面に固定された円板であり、前記スカート体は円筒状であり、前記ハウジングの下端部、前記加熱コイル、前記押圧パッド、前記スカート体は、前記鉛直線を中心軸として同軸配置されている。この同軸配置により、スカート体先端が、導電部材に嵌め合った場合、導電部材、スカート体、押圧パッド、加熱コイルが鉛直線に沿って重なり合う。つまり、このときの誘導加熱溶着装置位置が、導電部材に対する押圧パッド及び加熱コイルが適正な位置である。
【0013】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記接当面の鉛直線に沿って変位操作される押圧操作具と、前記押圧操作具の変位によって規定されるバネ力で前記押圧パッドを前記シート材に押し付ける押圧バネとが備えられ、前記抵抗手段の前記鉛直線の方向の抵抗力は、前記押圧バネの前記鉛直線の方向のバネ力より弱く設定されている。この構成では、押圧操作具の操作によって生じる押し付け力となる押圧バネのバネ力と、スカート体を上方摺動させる際に抵抗手段によって作り出される抵抗力とは、この誘導加熱溶着装置の中心軸(接当面の鉛直線)に沿って作用する力である。したがって、抵抗手段の抵抗力が押圧バネのバネ力より大きいと、位置合わせ時にスカート体がシート材を挟み込んで導電部材の先端に外嵌させ、押圧パッドをシート材に接当させる際に、押圧バネによって設定されている押し付け力を超える力でスカート体がシート材を押し付けることになり、スカート体が外嵌する深さが大きくなる。これによりシート材の変形が生じる。このため、抵抗手段の中心軸方向の抵抗力は、押圧バネの中心軸方向のバネ力より弱く設定されていることが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】加熱溶着管理装置と誘導加熱溶着装置と防水シートと固定部材とを示す斜視図である。
【
図3】スカートユニット領域での誘導加熱溶着装置の縦断面図であり、中心線の右側が抵抗バネを通る面で切断された縦断面図であり、中心軸の左側が係止ピンを通る面で切断された縦断面図である。
【
図5】樹脂プレートと、加熱コイルと、位置ずれ検出コイルと、フェライトの位置関係を示す平面図である。
【
図8】加熱溶着管理装置と誘導加熱溶着装置とに設けれた制御機能を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
なお、本明細書では、「上、上部、天」または「下、下部、底」は、装置本体の縦軸心方向(鉛直方向)での位置関係であり、溶着対象物からの高さにおける関係を示している。
【0016】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示されているように、この実施形態では、導電部材は、屋上などにおけるコンクリート製の防水下地にアンカー等によって所定間隔で固定されている円形状の導電体であり、例えば、鋼板によって構成されている。この円形状の導電体は以下固定部材FXと称する。シート材は、この固定部材FXを覆った状態で固定部材FXに溶着される防水シートSHである。固定部材FXの上面には、防水シートSHに対する熱溶着層として、例えばポリエステル樹脂等の熱可塑性合成樹脂からなる面状のホットメルト接着層が形成されている。
【0017】
作業者は、誘導加熱溶着装置2を用いて、防水シートSHに覆われた固定部材FXを防水シートSHの上面から誘導加熱するとともに、防水シートSHと固定部材FX材とを押し付けることで、防水シートSHと固定部材FXとを溶着させる。
【0018】
この実施形態による誘導加熱溶着装置2では、加熱溶着作業を管理する機能部が加熱溶着管理装置1として別体で構成されており、加熱溶着管理装置1と誘導加熱溶着装置2とが動力線と制御線とを含む接続ケーブルCAで接続されている。もちろん、加熱溶着管理装置1が有する機能を誘導加熱溶着装置2に組み込んで、誘導加熱溶着装置2単体で、加熱溶着作業が行えるようにしてもよい。
【0019】
加熱溶着管理装置1には、電源ユニット11、GNSSユニット12、データロガーユニット13、環境温度検出ユニット14と、操作パネル15、表示パネル16などが備えられている。電源ユニット11は、商用電源または自家発電を入力として、誘導加熱のために必要な交流電力を誘導加熱溶着装置2に出力する。GNSSユニット12は、衛星測位システムを用いて加熱溶着場所の位置座標を算出する。これによって算出される位置座標はアンテナ(非図示)の位置であることから、アンテナだけは加熱溶着管理装置1に設けられてもよい。データロガーユニット13は、各加熱溶着場所の位置座標とともに、そこで行われた加熱溶着作業のデータ(作業環境温度、作業日時、加熱強度、加熱時間、誘導加熱溶着装置2と溶着対象物との位置ずれ、溶着対象物の温度、など)を記録する。環境温度検出ユニット14は、作業環境温度を検出する。操作パネル15には、各種操作ボタンや操作スイッチ、さらには各種報知ランプが配置されている。表示パネル16は、作業者に対する情報を視覚的に報知するための液晶ディスプレイである。
【0020】
図2に示すように、誘導加熱溶着装置2は、固定部材FXを誘導加熱する加熱コイル6と、電源ユニット11から送られてきた電流を加熱コイル6に供給する給電部61と、加熱コイル6と給電部61とを収納するハウジング20とを備えている。
【0021】
ハウジング20は、中心軸CLを有する円筒状の胴体部21と、胴体部21の上端に接続している上端部22と、胴体部21の下端に接続している下端部23とを有する。胴体部21の側壁には、接続ケーブルCAが接続される第2コネクターボックス19bが形成されている。上端部22はハウジング20の上部を閉鎖する天壁である。上端部22の下面側には上収容室22aが形成され、上端部22の上面側には上方に環状突起22bが形成されている。下端部23はハウジング20の下部を閉鎖する底壁である。下端部23の上面側には下収容室23aが形成され、下端部23の下面側には円形の底凹部23bが形成されている。上端部22の周壁には、回動式の取っ手24が設けられている。
【0022】
図3に示されているように、加熱コイル6は、中心軸CLを中心として薄く平坦状に巻かれたコイルであり、下端部23の底凹部23bに収納されている。加熱コイル6は、下端部23の端面23cに装着された薄い樹脂プレート64とフェライト65とによって挟まれた状態で、底凹部23bに保持されている。樹脂プレート64は端面23cと面一となるように装着されており、その面にシリコンゴム製の押圧パッド5が装着されている。つまり、押圧パッド5の下面は、この誘導加熱溶着装置2の下面でもあり、固定部材FXの上に位置する防水シートSHに接当可能な接当面50となる。押圧パッド5の上に樹脂プレート64を挟んで加熱コイル6、さらに上にフェライト65が配置されている。
【0023】
樹脂プレート64は、
図4に示されているように、90度の円周角で分布した4つの円形凹部640が形成された円板である。各円形凹部640には位置ずれセンサとして機能する円状の位置ずれ検出コイル63が配置される。位置ずれ検出コイル63の検出信号配線のために各円形凹部640とつながる配線溝641が形成されている。
【0024】
加熱時の押圧力は、下端部23の下面とフェライト65とを介して加熱コイル6に伝わり、さらに、樹脂プレート64及び位置ずれ検出コイル63にも伝わるように構成されている。
【0025】
円形凹部640の内径は、位置ずれ検出コイル63の外径よりやや大きい程度に設定されている。これにより、位置ずれ検出コイル63を円形凹部640に装着する作業が容易になる。また、位置ずれ検出コイル63に押圧力が作用した際に位置ずれ検出コイル63が外方に少し広がることを許すとともに、所定以上に広がることが制限される。その結果、誘導加熱溶着作業時の位置ずれ検出コイル63は適正な姿勢で保持される。さらに、円形凹部640の深さは、位置ずれ検出コイル63の厚みより小さいかほぼ同じに設定されている。これにより、位置ずれ検出コイル63に押圧力が作用した際に位置ずれ検出コイル63が押圧力の作用方向に変形することも制限されるとともに、位置ずれ検出コイル63の表面全体に均等に押圧力が作用する。このことも、誘導加熱溶着作業時の位置ずれ検出コイル63が適正な姿勢に保持されることに貢献する。
【0026】
図5に示されているように、フェライト65は平面視で直方形形状であり、加熱コイル6を挟んで各位置ずれ検出コイル63の上方において位置ずれ検出コイル63の径方向に延びるように配置されている。
【0027】
図2に示されているように、ハウジング20の胴体部21の内部には、給電部61と位置ずれ算出部62とが収容されている。給電部61は、接続ケーブルCAと第2コネクターボックス19bとを通じて送られてきた交流電力を、所定のタイミングで加熱コイル6に給電する。位置ずれ算出部62は、4つの位置ずれ検出コイル63からの検出信号を用いて、誘導加熱溶着装置2の中心軸CLが固定部材FXの中心に一致しているかどうか、つまり加熱コイル6の固定部材FXに対するずれ具合を算出する。位置ずれ算出部62による判定結果は、第2コネクターボックス19bの上面に設けられた表示パネル16に表示される。この実施形態では、表示パネル16には、位置ずれを報知する報知ランプが含まれている。この位置ずれ報知ランプは、加熱コイル6を固定部材FXの真上に導くように点灯される。また、加熱コイル6が固定部材FXに対して位置ずれしていれば、その位置ずれ方向を示すエラーランプが点灯し、加熱コイル6が固定部材FXに対して位置ずれしていなければ、OKランプが点灯するような点灯制御が用いられてもよい。
【0028】
図2に示されているように、ハウジング20の上端部22には、押圧操作具3が取り付けられている。作業者は、この押圧操作具3を用いて、固定部材FX上の防水シートSHに接当している押圧パッド5に対して、強い押し付け力を与えることができる。
【0029】
押圧操作具3は、押圧キャップ31と、スライドロッド32と、スイッチ作動体33とを備えている。スライドロッド32は、中心軸CLと同軸状に、上端部22を形成している天壁を貫通している。押圧キャップ31は、スライドロッド32の上端に設けられている。押圧キャップ31の上面は、作業者の手のひらで操作しやすいように、アーチ状に湾曲している。押圧キャップ31の下面には、上端部22の環状突起22bの進退を許す環状孔31aが形成されている。これにより、押圧キャップ31が、環状突起22bと環状孔31aとによって案内されながら、上方位置である第1位置から下方位置である第2位置へスライド変位操作されると、スライドロッド32も連動して下方へスライドする。スイッチ作動体33は、上収容室22aの内部において、スライドロッド32の下端に設けられている。スイッチ作動体33は、下側周縁が面取りされた円板である。
【0030】
押圧キャップ31の下面と上端部22を形成している天壁との間に、押圧バネ30が配置されている。
図2では、押圧バネ30はスライドロッド32を外囲するように配置されているが、これに代えて、バネ圧が押圧キャップ31の外周近くに作用するように、環状孔31a内に配置されてもよい。押圧バネ30は、押圧キャップ31の上方への変位(第1位置への変位)を付勢するように設定されている。逆に言えば、押圧バネ30は、押圧キャップ31の下方への変位(第2位置への変位)に対抗するように設定されている。この構成により、作業者が、押圧キャップ31を下方へ変位させて、所定の変位位置で押圧キャップ31を保持した場合、圧縮された押圧バネ30は、そのバネ変位に応じて規定されるバネ力で押圧パッド5を防水シートSHに押し付ける。これにより、防水シートSHは固定部材FXに密着する。押圧キャップ31は、押圧バネ30による付勢力により、自然状態では、スライドロッド32に設けられたストッパ32aが上端部22に接当する位置(第1位置)に保持される。
【0031】
上収容室22aの内部には、さらに、ON/OFF操作されるマイクロスイッチからなる加熱スイッチ34が設けられている。加熱スイッチ34は、給電部61に接続されている。押圧キャップ31の第1位置から第2位置へのスライド変位により、スイッチ作動体33も下降し、そのスライド変位の途中で、加熱スイッチ34のレバーと接触し、加熱スイッチ34がON操作される。この加熱スイッチ34のON信号は給電部61による給電の開始信号となるので、ON信号を受け取った給電部61は、加熱コイル6に所定の交流電流を流す。これにより、加熱コイル6による固定部材FXの誘導加熱が開始される。
【0032】
この誘導加熱溶着装置2には、防水シートSHの表面温度を検出する非接触式の温度センサ7(例えば、赤外線方式)と、この温度センサ7の検出信号に基づいて表面温度を算出する温度測定回路70とが備えられている。温度センサ7及び温度測定回路70は、加熱コイル6の励起による信号妨害をできるだけ受けないように、加熱コイル6からできるだけ離れた位置に配置する必要がある。このため、温度センサ7と防水シートSHとの間に形成される赤外線通過路は長くなる。この赤外線通過路を確保するため、ハウジング20の下端部23に第1貫通孔23d(
図2参照)が設けられ、樹脂プレート64に第2貫通孔642(
図4参照)が設けられ、押圧パッド5に第3貫通孔51(
図2参照)が設けられている。さらに加熱コイル6は、
図5に示されているように、内側コイル部と外側コイル部とに分けられ、内側コイル部の最外周の巻き線と外側コイル部の最内周の巻き線との間隔が広げられていることにより、内側コイル部と外側コイル部との間に、隙間SPが形成されている。この構造により、温度センサ7の赤外線通過路が、第1貫通孔23d、隙間SP、第2貫通孔642、第3貫通孔51によって作り出される(
図2の一点鎖線矢印参照)。温度測定回路70で測定された表面温度データは、給電部61及び加熱溶着管理装置1のデータロガーユニット13に送られる。
【0033】
図3に示されているように、ハウジング20の下端部23に、スカートユニット8が備えられている。スカートユニット8の内周形状は、防水シートSHを含む固定部材FXの外周寸法にほぼ一致している。スカートユニット8の先端が防水シートSHで覆われた固定部材FXに嵌め合わされると、押圧パッド5の接当面50が固定部材FXの上方に適切に位置決めされる。この実施形態では接当面50及び固定部材FXの外形輪郭は実質的に同じサイズの円である。
【0034】
スカートユニット8は、スカート体81を有する。スカート体81は、接当面50の中心を通る鉛直線(中心軸CLに一致する)に沿って摺動可能なように下端部23の外周面に装着される円筒体である。スカート体81の内径は、固定部材FXの外径に防水シートSHの厚さの2~3倍の長さを加えた長さである。スカート体81、押圧パッド5、加熱コイル6が中心軸CLに対して同軸配置されている。これにより、スカート体81の先端が防水シートSHを挟んで固定部材FXに嵌め合わされると、固定部材FXの中心と、スカート体81の中心、さらに押圧パッド5及び加熱コイル6中心が実質的に一致する。この時の誘導加熱溶着装置2姿勢が、固定部材FXを誘導加熱するための適切な位置である。
【0035】
図3に示されているように、加熱コイル6と固定部材FXとの位置合わせが実現している状態において、さらにスカートユニット8が下方に押し付けられると、スカート体81は、中心軸CLに沿って上方摺動し(
図3において点線で示されている)、押圧パッド5の接当面50は防水シートSHの表面に密着する。スカート体81の摺動ストロークSTは、スカート体81の下端が接当面50から所定長さ(数mmから十数mm)だけ突き出した位置と、スカート体81の下端が接当面50とほぼ一致する位置との間の長さとなる。スカート体81が軽い力で上方摺動してしまうと、スカート体81が固定部材FXに浅く外嵌することによる位置合わせができなくなるので、下端部23に対するスカート体81の上方摺動に抵抗を与える抵抗手段が必要となる。この実施形態では、この抵抗手段は、下端部23とスカート体81との間に配置された抵抗バネ80によって構成されている。より具体的には、抵抗バネ80は細長のコイルバネである。なお抵抗手段として、空気圧バネや流体圧バネを用いてもよい。
【0036】
バネ力としては、実験の結果、1N/平方cm以上のバネ力が好適であることが分かっている。
【0037】
図3及び
図6に示されているように、抵抗バネ80の一端は、スカート体81に形成されたバネ受け部として機能する縦穴82に挿入されおり、抵抗バネ80の一端は、下端部23の周壁に形成された鍔部23eの下面に接当している。これにより、スカート体81の上方摺動に対してバネ抵抗が働く。
【0038】
図3、
図6、
図7に示されているように、スカート体81には、スカート体81の上端で開口しているJ字状のピン案内溝84が形成されている。さらに、下端部23の周壁に、係止ピン83が径方向にねじ込まれている。ピン案内溝84の幅は、係止ピン83の挿入が可能な幅である。なお、
図3では、中心軸CLの右側に、抵抗バネ80を通る面で切断された縦断面が示され、中心軸CLの左側に、係止ピン83を通る面で切断された縦断面が示されている。このピン案内溝84は、スカート体81の上端で開口して軸方向に延びる第1溝841と、第1溝841とつながって周方向に延びる第2溝842と、第2溝842とつながって軸方向に延びる第3溝843とからなる。係止ピン83の頭部が第1溝841の開口から入り込む。係止ピン83と第1溝841とによる案内によりスカート体81は上方摺動する。さらに、スカート体81は係止ピン83が第1溝841の下端から第2溝842に移動するように回される。係止ピン83が第3溝843に入ると、スカート体81は、抵抗バネ80によって下方に付勢されているが、係止ピン83が第3溝843の上端に接当することで、スカート体81の下方摺動が制限される。つまり、係止ピン83と第3溝843の上端とが、スカート体81が押圧パッド5から下方に突出する際の突出長さを所定値に制限する係止具として機能する。
【0039】
抵抗バネ80のバネ力は、スカート体81を上方摺動させる際の抵抗力となる。押圧バネ30のバネ力は、押圧キャップ31の操作によって生じる押し付け力となる。このため、抵抗バネ80のバネ力が押圧バネ30のバネ力より大きいと、上述した押圧パッド5及び加熱コイル6の位置合わせ時に、スカート体81が、押圧バネ30によって設定されている押し付け力を超える力で防水シートSHを押し付けることになる。これは、防水シートSHの変形を導く。このため、抵抗バネ80の中心軸CL方向のバネ力は、押圧バネ30の中心軸CL方向のバネ力より弱く設定されている。
【0040】
図8に示されているように、加熱溶着管理装置1には、加熱溶着管理装置1側における加熱溶着処理を制御する第1制御ユニット10aが備えられている。第1制御ユニット10aは、上述した、電源ユニット11、GNSSユニット12、データロガーユニット13、環境温度検出ユニット14、操作パネル15、表示パネル16と接続されている。
【0041】
誘導加熱溶着装置2には、誘導加熱溶着装置2側における加熱溶着処理を制御する第2制御ユニット10bが備えられている。第2制御ユニット10bは、上述した、給電部61、加熱スイッチ34、位置ずれ算出部62、位置ずれ表示パネル66、温度測定回路70と接続されている。
【0042】
加熱溶着管理装置1から誘導加熱溶着装置2へは、誘導加熱用の電力が送られ、誘導加熱溶着装置2から加熱溶着管理装置1へは、誘導加熱データや各種信号が送られる。このような電力、データ、信号の入出力のために、加熱溶着管理装置1には第1コネクターボックス19aが設けられ、誘導加熱溶着装置2には第2コネクターボックス19bが設けられている。第1コネクターボックス19aは、第1制御ユニット10a及び電源ユニット11と接続しており、第2コネクターボックス19bは、第2制御ユニット10b及び給電部61と接続している。第1コネクターボックス19aと第2コネクターボックス19bとの間は接続ケーブルCAで接続されている。
【0043】
固定部材FXに対する誘導加熱は、電源ユニット11で生成された電力を給電部61が加熱コイル6に供給することで行われる。電源ユニット11は、第1制御ユニット10aからの制御指令に基づいて、商用電源の交流電力を誘導加熱用電力に変換する。誘導加熱用電力仕様は、操作パネル15を通じて入力された、防水シートSHの厚さや環境温度検出ユニット14によって検出された環境温度などに基づいて算出される。
【0044】
誘導加熱用電力は、第1コネクターボックス19a、接続ケーブルCA、第2コネクターボックス19bを介して給電部61に送られる。給電部61は、加熱スイッチ34のON操作に応答して、誘導加熱用電力を加熱コイル6に供給する。誘導加熱の停止タイミング、つまり加熱コイル6への給電停止タイミングは、予め設定されている加熱時間で決定されるが、その給電停止タイミングは温度測定回路70によって測定された防水シートSHの表面温度によって調整されてもよい。
【0045】
給電停止タイミングの決定を作業者に委ねる場合は、加熱スイッチ34がONからOFFに切り替わるタイミングが利用される。作業者が押圧キャップ31への力を抜いて、押圧キャップ31を第1位置へ戻しスライド変位させ、スイッチ作動体33と加熱スイッチ34のレバーとの接触が解除されることで、加熱スイッチ34はONからOFFに切り替わる。
【0046】
第2制御ユニット10bは、誘導加熱用電力の供給時間データ、加熱スイッチ34の状態を示すデータ、温度測定回路70の測定結果データなどを、データロガーユニット13に送る。第1制御ユニット10aは、GNSSユニット12からの測位データ、環境温度検出ユニット14による環境温度データ、電源ユニット11によって生成された誘導加熱用電力の仕様データなどを、データロガーユニット13に送る。データロガーユニット13は、受け取ったデータを所定のフォーマットで、誘導加熱ポイント毎にメモリに記録する。第2制御ユニット10bでは、各種エラーデータ(例えば、コイルエラー、コイル異常高温、電圧エラー、センサ故障、シート異常高温など)を生成することができ、これらのエラーデータは、第1制御ユニット10aに送られ、適宜表示パネル16に表示される。さらに、エラーデータは、データロガーユニット13にも送られ、測位データとともに格納される。
【0047】
〔別実施形態〕
(1)上述した実施形態では、溶着対象物を誘導加熱溶着する装置が、加熱溶着管理装置1と誘導加熱溶着装置2とに分割されていた。これに代えて、誘導加熱溶着装置2に加熱溶着管理装置1を組み込んでもよい。また、上述した実施形態における誘導加熱溶着装置2の少なくとも1つの機能部を加熱溶着管理装置1に移してもよいし、逆に、加熱溶着管理装置1の少なくとも1つの機能部を誘導加熱溶着装置2に移してもよい。
【0048】
(2)上述した実施形態では、固定部材FXに溶着されるシートは防水シートSHであったが、その他のシートであってもよい。
【0049】
(3)上述した実施形態では、誘導加熱の開始は、押圧キャップ31の押し下げによる加熱スイッチ34のON操作によって行われていた。これに代えて、加熱スイッチ34のON/OFFは、押圧パッド5における押圧力の確認に用いられ、誘導加熱の開始は、別の操作具によって行われるようにしてもよい。
【0050】
(4)
図8で示された各機能部は、説明目的で便宜上区分けされたものであり、任意の複数の機能部を統合してもよいし、各機能部をさらに分割してもよい。
【0051】
(5)上述した実施形態では、固定部材FXはコンクリート製の防水下地に固定されていた。固定部材FXは、コンクリート製のスラブ以外に、プレキャストのコンクリート下地は、金属など別な材料で作られた防水下地に固定されていてもよい。また、固定部材FXが固定される防水下地は、水平面以外に、縦壁などの垂直面や傾斜面であってもよい。
【0052】
(6)固定部材FXは、円形以外の形状、例えば長方形や正方形などであってもよい。固定部材FXの材料は、鋼板以外であってもよい。
【0053】
(7)温度センサ7は非接触式ではなく、接触式のセンサ、例えば、バイメタルセンサやサーミスタセンサなどであってもよい。
【0054】
(8)上述した実施形態では、誘導加熱溶着装置による溶着対象物を固定部材FXと防水シートとした形態が例示されたが、溶着対象物は他の物であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、シート材に覆われた導電部材を誘導加熱するとともに、シート材を導電部材に押し付けることで、シート材と導電部材とを溶着させる誘導加熱溶着装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
2 :誘導加熱溶着装置
20 :ハウジング
3 :押圧操作具
30 :押圧バネ
31 :押圧キャップ
32 :スライドロッド
33 :スイッチ作動体
34 :加熱スイッチ
5 :押圧パッド
50 :接当面
6 :加熱コイル
61 :給電部
62 :位置ずれ算出部
63 :位置ずれ検出コイル
64 :樹脂プレート
7 :温度センサ
70 :温度測定回路
8 :スカートユニット
80 :抵抗バネ
81 :スカート体
82 :バネ受け部
CL :中心軸
FX :固定部材
SH :防水シート