(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】癌治療のための絶対嫌気性人体腸内微生物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240111BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20240111BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240111BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240111BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240111BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240111BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240111BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C07K14/195
C12N15/31
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K35/74 A
A61K35/74 G
A61K35/74 D
A23L33/135
(21)【出願番号】P 2022519045
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 KR2020013159
(87)【国際公開番号】W WO2021060945
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】10-2019-0118268
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12318P
(73)【特許権者】
【識別番号】520381746
【氏名又は名称】ヘルスバイオミー
【氏名又は名称原語表記】HEALTHBIOME
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジンフェ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジュンボム
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ミジン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ダヨン
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-534277(JP,A)
【文献】Microbial. Biotechnol., 2019.04, Vol.12, No.6, pp.1109-1125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
C07K 14/00-14/825
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号KCCM12318Pとして寄託された新規なアッケルマンシアHB03菌株(Akkermansia sp.HB03)。
【請求項2】
請求項1のアッケルマンシア菌株、その
熱不活性化された菌株、該アッケルマンシア菌株
を含む培養液、配列番号1のアミノ酸配列からなるHB03-01及び配列番号2のアミノ酸配列からなるHB03-03からなる群から選ばれるいずれか一つ以上を含む癌の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物は、抗癌剤と併用投与するものである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗癌剤は、化学抗癌剤と、メシル酸イマチニブ、セツキシマブ、ゲフィチニブ、オルムチニブ、オシメルチニブ、ベバシズマブ、ソラフェニブ、オキサリプラチン、及びスニチニブからなる群から選ばれる標的抗癌剤と、免疫チェックポイント阻害剤とからなる群から選ばれるいずれか一つ以上である、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記癌は、抗癌剤に耐性を示す癌を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗癌剤は、免疫チェックポイント阻害剤である、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1のアッケルマンシア菌株、その
熱不活性化された菌株、該アッケルマンシア菌株
を含む培養液、配列番号1のアミノ酸配列からなるHB03-01及び配列番号2のアミノ酸配列からなるHB03-03からなる群から選ばれるいずれか一つ以上を含む癌の予防又は緩和のための食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶対嫌気性人体腸内微生物の一種であるウェルコミクロビアレス(Verrucomicrobiales)科に属する新規なアッケルマンシア(Akkermansia)属菌株であるHB03菌株及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
アッケルマンシア(Akkermansia)属(genus)の菌株は、ヒトの腸内ムチン(mucin)分解バクテリアの一種類であって、グラム陰性であり、絶対嫌気性菌株である。アッケルマンシア属の菌株は、運動性がなく(non-motile)、胞子を形成せず(non-spore-forming)(Yuji Naito,et al.,A next-generation beneficial microbe:Akkermansia muciniphila,J Clin Biochem Nutr.2018 Jul;63(1):33-35.)、楕円形態(oval-shaped)のものとして知られており、ムチンを炭素及び窒素の唯一の供給源として利用でき、腸内ムチンが含まれている培地で絶対嫌気性(strict anaerobic condition)条件で培養することができる。また、様々な動物種の胃腸管で繁殖できる(colonize)。
【0003】
腸内微生物は、種々の腫瘍に対する免疫反応調節に重要な役割を果たし、腫瘍の生態系内において腫瘍細胞を抑制し、免疫を活性化する可能性を有すると知られており、腫瘍の治療に有用である。
【0004】
一方、全世界の成人の主要な死亡原因の一つである癌(cancer)は、手術法の発達及び抗癌、放射線治療の導入によって治療成果が改善されているが、癌と診断された患者の半数程度は依然として癌によって死亡しており、世界諸国において重要な問題の一つとされている。したがって、癌を治療及び予防するための方法の開発が至急求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、アッケルマンシア(Akkermansia)属(genus)に属する新規菌株を発掘しようと鋭意研究努力した結果、従来のアッケルマンシアムシニフィラ菌株と区別される新規なアッケルマンシア属の菌株を見出し、該菌株が既存のアッケルマンシアムシニフィラ菌株と比較して優れた抗癌活性を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの目的は、受託番号KCCM12318Pとして寄託された新規なアッケルマンシアHB03菌株(Akkermansia sp.HB03)を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、上記の新規なアッケルマンシアHB03菌株、その熱不活性化された菌株、該アッケルマンシア菌株を含む培養液、配列番号1のアミノ酸配列からなるHB03-01及び配列番号2のアミノ酸配列からなるHB03-03からなる群から選ばれるいずれか一つ以上を含む癌の予防又は治療のための医薬組成物を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、前記医薬組成物を個体に投与するステップを含む癌の予防又は治療の方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、前記新規なアッケルマンシアHB03菌株、その熱不活性化された菌株、該アッケルマンシア菌株を含む培養液、配列番号1のアミノ酸配列からなるHB03-01及び配列番号2のアミノ酸配列からなるHB03-03からなる群から選ばれるいずれか一つ以上を含む癌の予防又は緩和のための食品組成物を提供することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明で提供する新規なアッケルマンシアHB03菌株は、毒性遺伝子がないので、生体内で副作用を示さない。そして、前記菌株組成物、前記菌株由来小胞体、蛋白体、代謝体又は不活性化された前記菌株組成物は、腫瘍の増殖を阻害する効果に優れ、他の抗癌剤、特に、免疫チェックポイント阻害剤との併用投与時において腫瘍抑制効果が著しく優れている。加えて、前記菌株組成物に由来する代謝体であるタンパク質も癌細胞の増殖抑制及び細胞死誘導によって腫瘍の形成及び進行を効果的に抑制する効果を示す。したがって、前記菌株は、癌の予防又は治療のための製剤の開発に広く活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】NCBIからアッケルマンシア(Akkermansia)菌株の総66種のゲノム塩基配列を検索し、dRepによってMASHゲノム塩基配列平均類似度(average nucleotide identity)に基づくクラスタリングを行った結果を示す図である。
【
図2】アッケルマンシア(Akkermansia)菌株の近似最尤系統樹(approximately maximum-likelihood trees)を作成した結果を示す図である。
【
図3】遺伝子の存在/不在(gene presence/absence)のプロットから120個の菌株特異的遺伝子を抽出した結果を示す図である。
【
図4A】LS-BSR(large-scare blast score ratio)を用いてブラストスコア比(BSR)を計算し、遺伝子の存在の有無を確認した結果を示す図である。
【
図4B】LS-BSR(large-scare blast score ratio)を用いてブラストスコア比(BSR)を計算し、遺伝子の存在の有無を確認した結果を示す図である。
【
図5】HB03菌株の遺伝子における病原性(毒性)遺伝子群(Pathogenicity island,PAI)の存在の有無を確認した結果を示す図である。
【
図6】7,000rpmで菌株培養液を遠心分離したときに、HB03菌株とアッケルマンシアムシニフィラATCC BAA-835菌株の沈殿度を確認した結果を示す図である。HB03菌株は、遠心分離によって菌体と培養上澄液が完全に分離可能であったが、アッケルマンシアムシニフィラ菌株は分離されなかった。
【
図7】腫瘍を持つマウスを対象にHB03及びHB03(P)を後処理(腫瘍接種後に投与)した場合において、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。(A)BALB/cマウスに大腸癌細胞株であるCT26を接種して6日後から18日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(B)C57BL/6 JAXマウスに肺癌細胞株であるLLCを接種して6日後から18日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(C)C57BL/6 JAXマウスに黒色腫細胞株であるB16F10を接種して6日後から18日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(D)C57BL/6 JAXマウスに膵癌細胞株であるPanc02を接種して6日後から30日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(E)C57BL/6 JAXマウスに膠芽細胞腫細胞株であるGL261を接種して6日後から22日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(F)C57BL/6 JAXマウスに肉腫細胞株であるMCA205を接種して6日後から16日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図8】腫瘍を持つマウスを対象にHB03、アッケルマンシアムシニフィラ、又はビフィドバクテリウムロンガムを後処理(腫瘍接種後に投与)した場合において、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。(A)BALB/cマウスに大腸癌細胞株であるCT26を接種して5日後から16日までHB03、アッケルマンシアムシニフィラ、又はビフィドバクテリウムロンガムを処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(B)C57BL/6 JAXマウスに肺癌細胞株であるLLCを接種して5日後から16日までHB03、アッケルマンシアムシニフィラ、又はビフィドバクテリウムロンガムを処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(C)C57BL/6 JAXマウスに黒色腫細胞株であるB16F10を接種して5日後から14日までHB03、アッケルマンシアムシニフィラ、又はビフィドバクテリウムロンガムを処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図9】腫瘍を持つマウスを対象にHB03及びHB03(P)を前処理(腫瘍接種前に投与)した場合において、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。(A)BALB/cマウスに大腸癌細胞株であるCT26を接種する7日前から接種後18日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(B)C57BL/6 JAXマウスに肺癌細胞株であるLLCを接種する7日前から接種後18日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(C)C57BL/6 JAXマウスに黒色腫細胞株であるB16F10を接種する7日前から接種後18日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(D)C57BL/6 JAXマウスに膵癌細胞株であるPanc02を接種する7日前から接種後18日まで毎日HB03及びHB03(P)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図10】腫瘍を持つマウスを対象にHB03又はアッケルマンシアムシニフィラ(AKK P2261)を後処理(腫瘍接種後に投与)した場合において、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。C57BL/6 JAXマウスに大腸癌細胞株であるMC38を接種して5日後から14日までHB03又はアッケルマンシアムシニフィラ(AKK P2261)を処理した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図11】腫瘍を持つマウスを対象に免疫チェックポイント阻害剤(aPD-1mAb)をHB03と併用投与した場合と単独で処理した場合において、腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。(A)BALB/cマウスに大腸癌細胞株であるCT26を接種して5日後から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaPD-1mAbを2日間隔で16日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(B)C57BL/6 JAXマウスに肺癌細胞株であるLLCを接種して5日後から対照群物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaPD-1mAbを2日間隔で16日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(C)C57BL/6 JAXマウスに黒色腫細胞株であるB16F10を接種して5日後から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaPD-1mAbを2日間隔で15日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(D)C57BL/6 JAXマウスに膠芽細胞腫細胞株であるGL261を接種して5日後から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaPD-1mAbを2日間隔で15日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図12】腫瘍を持つマウスを対象に免疫チェックポイント阻害剤(aCTLA-4mAb)をHB03と併用投与した場合と単独で処理した場合において、腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。(A)C57BL/6 JAXマウスに肉腫細胞株であるMCA205を接種して5日後から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaCTLA-4mAbを2日間隔で15日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(B)C57BL/6 JAXマウスに大腸癌細胞株であるMC38を接種して5日後から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaCTLA-4mAbを2日間隔で15日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図13】腫瘍を持つマウスを対象に免疫チェックポイント阻害剤(aPD-L1mAb)をHB03と併用投与した場合と単独で処理した場合において、腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。C57BL/6 JAXマウスに大腸癌細胞株であるMC38を接種して5日後から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaPD-L1mAbを2日間隔で15日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図14】抗生剤投与による免疫チェックポイント阻害剤(aPD-1mAb)の耐性を持つマウスを対象に、免疫チェックポイント阻害剤(aPD-1mAb)を、HB03又はビフィドバクテリウムロンガムと併用投与した場合と単独で処理した場合において、腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。(A)BALB/cマウスに大腸癌細胞株であるCT26を接種する2週間前から抗生剤を水と共に摂取させ、CT26の接種3日後に一般飲用水に変更し、48時間後(接種後5日)から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaPD-1mAbを2日間隔で16日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(B)C57BL/6 JAXマウスに黒色腫細胞株であるB16F10を接種する2週間前から抗生剤を水と共に摂取させ、B16F10の接種3日後に一般飲用水に変更し、48時間後(接種後5日)から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaPD-1mAbを2日間隔で16日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図15】抗生剤投与による免疫チェックポイント阻害剤(aCTLA-4mAb)の耐性を持つマウスを対象に、免疫チェックポイント阻害剤(aCTLA-4mAb)をHB03と併用投与した場合と単独で処理した場合において、腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。(A)C57BL/6 JAXマウスに大腸癌細胞株であるMC38を接種する2週前から抗生剤を水と共に摂取し、MC38の接種3日後に一般飲用水に変更し、48時間後(接種後5日)から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、mIgG又はaCTLA-4mAbを2日間隔で16日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図16】腫瘍を持つマウスを対象に抗癌剤(5-FU(5-フルオロウラシル)又はオキサリプラチン)をHB03と併用投与した場合と単独で処理した場合において、腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。C57BL/6 JAXマウスに大腸癌細胞株であるMC38を接種し、接種5日後から対照物質又はHB03をそれぞれ毎日投与しながら、PBS、5-FU、又はオキサリプラチンを2日間隔で16日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【
図18】腫瘍細胞に対してHB03由来分泌タンパク質を処理した場合において、腫瘍の増殖及びアポトーシス誘導を分析した結果を示す図である。(A)大腸癌細胞株であるCT26と(B)肺癌細胞株であるLLCとに、HB03由来タンパク質であるHB03-01を異なる濃度で48時間処理した後、細胞生存を分析した結果を示すグラフ;(C)肺癌細胞株であるLLCにHB03由来タンパク質であるHB03-01又はHB03-03を24時間処理した後、細胞死が誘導されたか否かを、細胞死調節タンパク質であるcaspase-3の活性化に基づき調査したグラフ。
【
図19】腫瘍を持つマウスを対象にHB03由来タンパク質を処理した場合において、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を示す図である。(A)C57BL/6 JAXマウスに大腸癌細胞株であるMC38を接種して5日後から、対照物質又はHB03-01(AT1)を2日間隔で16日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ;(B)C57BL/6 JAXマウスに大腸癌細胞株であるMC38を接種して5日後から、対照物質又はHB03-03(AT3)を2日間隔で16日まで5回投与した後、腫瘍増殖動態を観察したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を具体的に説明する。しかし、本発明に開示されるそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれ異なる他の説明及び実施形態にも適用可能である。すなわち、本出願に開示される様々な要素の全ての組合せが本発明の範囲に属する。また、本発明の範囲は下記の具体的な記述によって限定されるものではない。
【0013】
前述の目的を達成するための本発明の一態様は、受託番号KCCM12318Pとして寄託された新規なアッケルマンシアHB03菌株(Akkermansia sp.HB03)を提供することである。
【0014】
本発明の用語“アッケルマンシア菌株(Akkermansia sp.)”は、ヒト又は動物の腸内ムチンを分解するバクテリアの一種であって、グラム陰性であり、絶対嫌気性(strict anaerobic)菌株である。アッケルマンシア菌株は、ムチンを炭素及び窒素の唯一の供給源として利用でき、腸内ムチンが含まれている培地において、絶対嫌気性条件で培養することができる。また、様々な動物種の消化管で増殖(コロニー形成)できる。
【0015】
本発明者は、健康な韓国人の大便試料から腸内ムチン分解バクテリアの一種である新規なアッケルマンシア菌株(Akkermansia sp.)を分離し、アッケルマンシアHB03菌株(Akkermansia sp.HB03)と命名した。本発明の一実施例において、分離された新規なアッケルマンシア菌株が新規な菌株であることを証明するために、分離された菌株のゲノムを、既存のアッケルマンシア菌株ゲノムと比較分析した。具体的には、アッケルマンシア菌株(Akkermansia sp.)の計66種のゲノム塩基配列を検索し、MASHゲノム塩基配列の平均類似度(average nucleotide identity)に基づいてクラスタリングを行った(
図1)(Matthew R Olm et al.dRep:a tool for fast and accurate genome comparisons that enables improved genome recovery from metagenomes through de-replication.ISME J.2017 Dec;11(12):2864-2868.)。これによって導出された単一種のクラスターに属する44種の菌株遺伝体(クラスター3)のみに対し、続く分析を行った。Prokka(Seemann T.Prokka:rapid prokaryotic genome annotation.Bioinformatics.2014 Jul 15;30(14):2068-9.)によって作成されたGFF3フォーマットでアノテーションされたアセンブリーを取り込み、パンゲノムを計算する高速独立型パンゲノムパイプラインであるローリー(Roary)を用いた。その後、FastTree2を用いて近似最尤系統樹(approximately maximum-likelihood trees)を作成した(Price MN,Dehal PS,Arkin AP.FastTree2--approximately maximum-likelihood trees for large alignments.PLoS One.2010 Mar 10;5(3):e9490.)(
図2)。遺伝子の存在/不在のプロットから120個の菌株特異的遺伝子を抽出し(
図3)、これらの遺伝子に特異的な菌株を“アッケルマンシアHB03菌株(Akkermansia sp.HB03)”と命名した。HB03菌株の全ゲノム遺伝子に、病原性(毒性)を発揮するために必要な遺伝子集団である病原性(毒性)遺伝子群(Pathogenicity island,PAI)が存在するか確認した結果、HB03菌株には病原性(毒性)遺伝子群が存在しないことを確認した(
図5)。命名した“アッケルマンシアHB03菌株(Akkermansia sp.HB03)”は、2018年9月11日付で韓国微生物保存センターに受託番号KCCM12318Pとして寄託した。
【0016】
本発明者が提供した新規なアッケルマンシア菌株は、いままで報告されておらず、また微生物資源保存及び分譲機関に一般寄託菌株又は特許菌株として菌株が寄託されていない。本発明者によって最初に健康な韓国人の大便から分離され、特許菌株として寄託された。
【0017】
前記新規なアッケルマンシア菌株であるHB03菌株は、アッケルマンシアムシニフィラに比べて、本発明の改変されたBTTM培地において細胞収率が2倍以上高く、生育速度も2倍程度速いことが確認された(表1)。
【0018】
特に、アッケルマンシアムシニフィラは沈殿し難く、浮遊しやすいため、遠心分離や大量生産が難しいという問題があったが、HB03菌株は遠心分離が容易なため、大量生産及びゲノム編集が標準菌株に比べて容易であった(
図6)。また、HB03菌株は、病原性(毒性)遺伝子がないので、生体内で副作用を起こさない。さらに、ムチンのない培地において、アッケルマンシアムシニフィラは、ムチンの分解産物であるL-トレオニンを生育のための必要とするが、HB03菌株は、L-トレオニンが培地に添加されなくても1.32×10
9細胞/mLの濃度まで生育可能であることを確認した(表2)。
【0019】
これは、HB03菌株がアッケルマンシアムシニフィラ標準菌株とは違い、ムチンやムチン分解産物であるL-トレオニンがなくても、ムチンやL-トレオニン以外の様々な炭素源と窒素源とを栄養成分にして増殖が可能であることを示唆する。
【0020】
前記新規なアッケルマンシアHB03菌株は、優れた抗癌活性を示すので、前記新規なアッケルマンシア菌株、その不活性化された菌株、その培養液、その小胞体、その蛋白体又はその代謝体などは、癌を予防又は治療するための有効成分として使用可能である。これについて、詳細は後述する。
【0021】
一例として、本発明の微生物は、“実質的に精製された”ものを使用することができる。前記“実質的に精製された”とは、サンプルから実質的に濃縮された菌株又は一つ以上の菌株混合物のことを指す。前記サンプルにおいて本発明の微生物は、50%、60%、70%、80%、90%、95%又はそれ以上に濃縮されることにより、実質的に精製されたものでよい。また、前記サンプルは、本発明の微生物の他に、効果がないか或いは好ましくない効果を有する微生物を50%未満、40%、20%、15%、1%又はそれ以下で含んでいてもよいが、これに限定されない。
【0022】
一例として、本発明の組成物に含まれる微生物は、経口投与のためにコーティングによってカプセル化されていてもよい。前記コーティングは、微生物が胃で分解されないようにするものでもよいが、これに限定されない。
【0023】
一例として、本発明の微生物、その培養液、小胞体、蛋白体及び代謝体は、分離されたものでよい。前記“分離された”とは、自然的に発生しない環境に存在する物質又は自然界に存在しない物質を指す。これは、自然界に関連し、自然界から発見されるような他の物質から実質的に分離することを含む。前記分離された物質は、例えば、自然の状態で結合している一つ以上の物質が除去されるか、その形態が変形されるか、或いはその物質の量が変化されていてもよいが、これに限定されない。
【0024】
本発明の他の態様は、新規なアッケルマンシアHB03菌株、その不活性化された菌株、その培養液、その小胞体、その蛋白体及びその代謝体からなる群から選ばれるいずれか一つ以上を含む癌の予防又は治療のための医薬組成物を提供することである。
【0025】
ここで使われる用語は、前述した通りである。
【0026】
本発明の用語“癌”は、固形癌と血液癌を含むが、これに限定されない。前記癌は、様々な類型の癌、例えば、頭、頸部、目、口、喉、食道、胸、骨、肺、結腸、直腸、胃、前立腺、乳房、卵巣、腎臓、膀胱、肝臓、膵臓及び脳の癌を含むが、これに限定されない。前記癌は、別に断りのない限り、原発性癌及び転移性癌を含むことができる。前記癌は、例えば、肺癌、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、大腸癌、脳癌、乳癌、甲状腺癌、膀胱癌、食道癌、白血病、卵巣癌、黒色腫、頭頸部癌、皮膚癌、前立腺癌、大腸癌、肝細胞癌、線維肉腫又は子宮頸癌を含むことができる。
【0027】
本発明の目的上、前記癌は、抗癌剤に耐性を示す癌を含むことができるが、これに限定されない。
【0028】
前記抗癌剤は、化学抗癌剤、標的抗癌剤又は免疫チェックポイント阻害剤を含むことができるが、これに限定されない。
【0029】
本発明の用語“化学抗癌剤”は、癌細胞の増殖を抑制するために開発された治療剤を指す。作用機序は、DNA段階の細胞合成を阻害するなど、抗癌剤によって様々であり、急性白血病、リンパ腫、精巣癌など、抗癌剤によく反応する癌の主要な治療手段として用いられる。なお、前記化学抗癌剤は、細胞毒性抗癌剤、化学薬物抗癌剤とも呼ばれる。前記化学抗癌剤は、例えば、ゲムシタビン、シタラビン、カルボプラチン(パラプラチン)、シスプラチン(プラチノール、プラチノール-AQ)、クリゾチニブ(ザーコリ)、シクロホスファミド(シトキサン、ネオサル)、ドセタキセル(タキソティア)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エルロチニブ(タルセバ)、エトポシド(ベプシド)、フルオロウラシル、イリノテカン(カンプトサール)、リポソーム-カプセル化されたドキソルビシン(ドキシル)、メトトレキサート(フォレックス、メキサート、アメトプテリン)、パクリタキセル(タキソール、アブラキサン)、トポテカン(ハイカムチン)、トラベクテジン(ヨンデリス)、ビンクリスチン(オンコビン、ビンカサルPFS)又はビンブラスチン(ベルバン)などがある。
【0030】
本発明の用語“標的抗癌剤”は、正常細胞を傷つけず、癌細胞が持つ特異マーカーを判別して癌細胞のみを攻撃する抗癌剤を指す。癌細胞に対し数倍優れた殺傷能力を発揮する。前記標的抗癌剤は、例えば、メシル酸イマチニブ(グリベック)、セツキシマブ(アービタックス)、ゲフィチニブ(イレッサ)、オルムチニブ(オリタ)、オシメルチニブ(タグリッソ)、ベバシズマブ(アバスチン)、ソラフェニブ(ネクサバール)、オキサリプラチン(エロキサチン)又はスニチニブ(スーテント)などがある。
【0031】
本発明の用語“免疫チェックポイント阻害剤”は、手術、化学療法(化学抗癌剤)、放射線治療などのための第1世代抗癌剤と、標的治療(第2世代抗癌剤又は標的抗癌剤)とに続く第3世代抗癌剤として登場した抗体治療剤を指す。体内免疫細胞の免疫機能を活性化させて強力な抗癌効果を示し、且つ様々な適応症に対応できるという利点がある。また、過度な免疫活性による正常細胞の損傷を防ぐために、一定期間だけ機能するようにするので、副作用がほとんどない。前記免疫チェックポイント阻害剤は、例えば、PD-1(Programmed cell death protein1)、CTLA4(cytotoxic T-lymphocyte associated antigen 4)、PD-L1(Programmed death-ligand 1)、PD-L2(Programmed death-ligand 2)、A2AR(adenosine A2A receptor)、B7-J3(B7 family molecule)、B7-H4(B7 family molecule)、BTLA(B- and T-lymphocyte attenuator)、Kir(killer cell immunoglobulin-like receptors)、LAG3(Lymphocyte-activation gene 3)、TIM-3(T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3)、HAVCR2(Hepatitis A virus cellular receptor 2)又はVISTA(V-domain Ig suppressor of T cell activation)などがある。
【0032】
前記阻害剤は、前述した物質をターゲットとするモノクローナル抗体(mAb)であってよく、例えば、PD-1に対する抗体(αPD-1mAb)、CTLA-4に対する抗体(αCTLA-4mAb)又はPD-L1に対する抗体(αPD-L1mAb)などがあるが、これに限定されない。
【0033】
本発明の用語“予防”は、本発明に係る医薬組成物の投与によって疾患の発症を抑制又は遅延させる全ての作用を意味し、用語“治療”は、前記医薬組成物の投与によって疾患の症状を改善又は有利に変更させる全ての作用を意味する。
【0034】
前記‘癌の予防又は治療’は、‘抗癌’効果を意味してもよい。
【0035】
本発明の用語“抗癌”は、癌の予防、治療、症状の軽減及び緩和などを全て包括する。
【0036】
本発明の用語“抗腫瘍”は、固形癌によって発生する悪性腫瘍の縮小又は消滅を意味する。
【0037】
本発明の用語“不活性化された菌株”は、非機能性になるか死滅した菌株を意味する。菌株を非機能性にするか死滅させる方法としては、熱不活性化、pH不活性化、化学的不活性化などがある。不活性化菌株は、非機能性菌株又は死滅した菌株に由来する細胞溶解物又は細胞外生成物を含んでもよい。
【0038】
本発明において、前記不活性化は、加熱による熱不活性化であってもよいが、これに限定されない。
【0039】
本発明の用語“培養液”は、菌株を培養して得た培養物そのもの、又は該培養物から菌株を除去して得た培養上澄液の濃縮物又は凍結乾燥物を含むことができる。
【0040】
本発明において、前記培養液は、新規なアッケルマンシアHB03菌株を培養して得られた結果物を意味する。広義には、前記培養液は、前記アッケルマンシア菌株の全培養物、培養上澄液、破砕物、これらの分画物などであってよい。このとき、前記培養上澄液は、前記菌株の培養物を遠心分離して得ることができ、前記破砕物は、前記菌株を物理的に又は超音波処理によって得ることができ、前記分画物は、前記培養物、培養上澄液、破砕物などを遠心分離、クロマトグラフィーなどの方法を実施することにより得ることができる。
【0041】
本発明の用語“培養”とは、人為的に制御された適切な条件下で微生物を増殖させる一連の動作を意味する。
【0042】
本発明において、前記培養は、本発明で提供するアッケルマンシア菌株を培養する方法を意味するものと解釈されてよいが、前記培養は、当技術分野に広く知られている方法を用いて行うことができる。具体的に、前記培養は、バッチ式、フェドバッチ式又は反復フェドバッチ式のプロセスによって連続的に行うことができる。
【0043】
前記アッケルマンシア菌株を培養するためには、ムチン、適当な炭素源及び窒素源、アミノ酸、ビタミンなどを含有している培地内で、温度やpH等の、特定の菌株の要件を満たす嫌気条件下で培養することが望ましい。使用可能な炭素源としては、主に、ムチン又はN-アセチルグルコサミンがあり、グルコース及びキシロースを炭素源として使用することもできる。その他にも、ガラクトサミン、スクロース、ラクトース、フラクトース、マルトース、澱粉、セルロースのような糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ひまし油、ココナッツ油などのような油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノレン酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸などが使用可能である。これらの物質は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。使用可能な窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムのような無機窒素源や、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンのようなアミノ酸、及びソイトン、トリプトン、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆粕又はその分解生成物などの有機窒素源が挙げられる。これらの窒素源は、単独又は組合せで使用されてもよい。前記培地には、リン源として、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム及びそれらのナトリウム-含有塩が含まれていてもよい。使用可能なリン源としては、リン酸二水素カリウム又はリン酸水素二カリウム又はそれらのナトリウム-含有塩が含まれる。また、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン及び炭酸カルシウムなどの無機化合物を用いてもよい。最後に、前記物質に加えて、アミノ酸及びビタミンのように生育に必須な物質が使用されてもよい。また、気泡生成を抑制するために、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いることができる。
【0044】
本発明の一実施例では、本発明のアッケルマンシアHB03菌株及びアッケルマンシアムシニフィラ標準菌株(ATCC BAA-835菌株)は、温度を37℃に維持した、改変されたBTTM培地を用いて培養されたが、これに限定されない。
【0045】
本発明の用語“小胞体”は、細胞内に存在する比較的小さい袋形態の区画であり、化学物質を包んで移動させるために使用する構造物を意味する。
【0046】
本発明の用語“蛋白体”は、特定の細胞、組織又は生物体などの様々な生物学的個体で発現している全てのタンパク質の総集合を意味する。
【0047】
本発明において、前記蛋白体は、新規なアッケルマンシア菌株、例えば、HB03-01、HB03-02又はHB03-03に由来するタンパク質であってよいが、これに限定されない。
【0048】
本発明の用語“代謝体”は、細胞、組織、体液のような生物学的試料内に存在する代謝物質の総体を意味する。一般に、1500ダルトン以下の大きさの物質で構成されており、生体内代謝物質(例えば、アミノ酸、核酸、脂肪酸、糖類、アミン類、糖脂質、短ペプチド、ビタミン、ホルモンなど)と生体外代謝物質(例えば、薬剤、食品、添加物、毒性物質など)とに分類される。このとき、DNA、RNA、タンパク質が分解されて生成される標的物質も代謝体に分類されることもある。代謝体は、体内代謝の影響を受けて毎秒ごとに速やかに動的に変化するので、ゲノムや蛋白体に比べて、薬剤反応や食品接種による表現型の変化を直ちに反映する(韓国生化学分子生物学会)。
【0049】
前記HB03-01は、配列番号1のアミノ酸配列からなるものでよく、前記HB03-03は、配列番号2のアミノ酸配列からなるものでよい。
【0050】
本発明におけるHB03-01又はHB03-03タンパク質は、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列からなるものと定義されるが、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列の前後への無意味な配列の追加によって生じる変異、又は自然的に発生し得る突然変異或いはサイレント突然変異を除外するものではない。また、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドと同一又は同等の活性を有するタンパク質が本発明のタンパク質に相当することは、当業者にとって自明である。具体的な例を挙げると、本発明のタンパク質は、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列で構成されるタンパク質であってもよい。また、このような相同性又は同一性を有し、前記タンパク質と同等の効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドも、本発明のタンパク質の範囲内に含まれることは自明である。
【0051】
すなわち、本発明において‘特定配列番号で記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチド’、又は‘特定配列番号で記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチド’と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一の或いは同等の活性を有する場合であれば、一部の配列が欠失、変形、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドも本発明において使用されてよいことは自明である。例えば、‘配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド’は、これと同一の或いは同等の活性を有する場合であれば、‘配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド’に属し得ることは自明である。
【0052】
前記ポリペプチドは、ポリペプチドを同定、精製、又は合成できるように他の配列又はリンカーと接合していてもよい。
【0053】
前記医薬組成物は、前記新規なアッケルマンシアHB03菌株、その不活性化された菌株、その培養液、その小胞体、その蛋白体及びその代謝体に由来する抽出物又は分画物、懸濁液などの形態を制限なく含むことができる。
【0054】
本発明の用語“抽出物”は、本発明で提供する新規なアッケルマンシア菌株を抽出処理して得られる抽出液、前記抽出液の希釈液や濃縮液、前記抽出液を乾燥して得られる乾燥物、前記抽出液の粗精製物や精製物、又はこれらの混合物など、抽出液自体及び抽出液を用いて形成可能なあらゆる形態の抽出物を指す。前記抽出物を得る抽出方法は特に限定されず、当該技術分野で通常用いられる方法を用いて抽出することができる。前記抽出方法の非限定的な例としては、熱水抽出法、超音波抽出法、濾過法、還流抽出法などを挙げることができ、これらを単独で実施してもよく、2種以上の方法を併用して実施してもよい。前記抽出物を得るために使用される抽出溶媒は特に限定されず、当該技術分野において公知である任意の溶媒を使用することができる。前記抽出溶媒の非限定的な例としては、水、アルコール又はこれらの混合溶媒などを挙げることができ、これらは単独で使用されても、1種以上混合して使用されてもよい。
【0055】
本発明の用語“分画物”は、様々な構成成分を含む混合物から特定の成分又は特定の成分グループを分離するために分画を行って得られた結果物を意味する。前記分画物を得るための分画方法は特に限定されず、当該技術分野で通常用いられる方法によって行われてよい。前記分画物を得るために使用される分画溶媒の種類は特に限定されず、当該技術分野において公知である任意の溶媒を使用することができる。前記分画溶媒の非限定的な例としては、水、アルコールなどの極性溶媒や、ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタンなどの非極性溶媒などを挙げることができる。これらは単独で使用されても、1種以上混合して使用されてもよい。
【0056】
本発明の用語“懸濁液”は、微細な固体の粒子が溶解されないまま液体中に均一に分散されている混合物を意味する。
【0057】
本発明において、前記懸濁液は、凍結乾燥した一定数以上の菌株が水、PBS(Phosphate-buffered saline)又は培養培地(液体培地)に分散されたものであってもよい。前記“懸濁液”は、“菌株組成物”と同じ意味で使用されてもよい。
【0058】
本発明において、本発明に係る医薬組成物は、抗癌剤と併用投与されてよい。
【0059】
本発明の用語“併用投与”は、癌の予防、治療、症状の軽減及び緩和などのために、本発明の医薬組成物と癌治療のための抗癌剤を、同時に又は時間差をおいて独立又は非独立(混合)に投与することを意味する。前記併用投与により、本発明の医薬組成物又は抗癌剤の単独投与に比べて高い抗癌活性を示し得る。さらに、抗癌剤に耐性を示す癌に対して、抗癌剤の単独投与に比べて高い抗癌活性が達成され得る。
【0060】
前記抗癌剤は、例えば、化学抗癌剤、標的抗癌剤又は免疫チェックポイント阻害剤でもよいが、これに限定されない。前記化学抗癌剤、標的抗癌剤又は免疫チェックポイント阻害剤は、先述したものと同様のものを挙げることができるが、それに限定されず、公知の抗癌剤であればいずれも使用可能である。
【0061】
本発明の一実施例によれば、大腸癌(CT26、MC38)、肺癌(LLC)、黒色腫(B16F10)、膠芽細胞腫(GL261)及び肉腫(MCA205)動物モデルに免疫チェックポイント阻害剤(αPD-1mAb、αCTLA-4mAb又はαPD-L1mAb)とHB03とを併用投与した場合に、免疫チェックポイント阻害剤を単独で投与した場合に比べて、抗腫瘍効果が顕著に増加した(
図11~
図13)。
【0062】
また、本発明の他の実施例によれば、大腸癌(MC38)動物モデルに抗癌剤(5-FU(5-フルオロウラシル)、オキサリプラチン)とHB03とを併用投与した場合に、抗癌剤を単独で投与した場合に比べて抗腫瘍効果が顕著に増加した(
図16)。
【0063】
これらの結果は、本発明の新規なアッケルマンシア菌株が、それが示す抗癌活性により、抗癌剤の投与容量を減らしつつ、腫瘍形成を効果的に抑制することを示唆する。
【0064】
本発明において、本発明に係る医薬組成物は、抗癌剤に対して耐性がある個体に併用投与されてもよい。
【0065】
前記抗癌剤は、免疫チェックポイント阻害剤、化学抗癌剤又は標的抗癌剤を含んでよいが、これに限定されない。
【0066】
前記免疫チェックポイント阻害剤としては、先述したものと同様のものを挙げることができる。癌患者の70%以上が、これらの免疫チェックポイント阻害剤に反応しないか或いは耐性が誘発される。
【0067】
本発明の一実施例によれば、免疫チェックポイント阻害剤(αPD-1mAb又はαCTLA-4mAb)に対して耐性を持つ大腸癌(CT26、MC38)及び黒色腫(B16F10)動物モデルに、免疫チェックポイント阻害剤とHB03とを併用投与した場合に、αPD-1mAb及びHB03の併用投与は、αPD-1mAbを単独で投与した場合に比べて抗腫瘍効果が顕著に増加し、この効果は、既存に知られたアッケルマンシアムシニフィラ菌株又はビフィドバクテリウムロンガム(Bifidobacterium longum)菌株を併用投与した場合に比べて優れている(
図14)。また、αCTLA-4mAb及びHB03の併用投与は、αCTLA-4mAbを単独で投与した場合に比べて抗腫瘍効果が顕著に増加した(
図15)。
【0068】
この結果は、本発明の新規なアッケルマンシア菌株が、その抗癌活性により、免疫チェックポイント阻害剤に耐性ができた癌に対しても、腫瘍形成を効果的に抑制することを示唆する。
【0069】
本発明の医薬組成物は、全組成物の重量に対して前記抽出物を0.0001~50重量%含むことができ、特に、0.01重量%~10重量%含むことができるが、これに限定されない。
【0070】
本発明に係る医薬組成物は、医薬組成物の製造に通常使用する適切な担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含んでいてもよい。具体的には、前記医薬組成物は、一般的な方法によって粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口製剤、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態に製剤化して使用することができる。本発明において、前記医薬組成物に含まれてよい担体、賦形剤及び希釈剤には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアガム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油を挙げることができる。製剤化する場合には、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの一般的な希釈剤又は賦形剤を使用して調製する。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸薬、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記抽出物又はその分画物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調製される。また、単純な賦形剤の他に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使用される。経口投与のための液状製剤には、懸濁剤、内用液、乳剤、シロップなどが含まれる。水、流動パラフィン等の一般に用いられる単純な希釈剤の他に、種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれていてもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水溶剤、懸濁液、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが含まれる。非水性溶剤又は懸濁液には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイル等の植物性油、オレイン酸エチル等の注射用エステルなどが使用されてもよい。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール、マクロゴール、tween61、カカオ脂、ラウリン系油脂、グリセロゼラチン等を使用することができる。
【0071】
本発明の一実施例によれば、凍結乾燥した新規なアッケルマンシア菌株を液体培養培地に再懸濁して調製した菌株組成物HB03、又は該HB03を熱不活性化させて調製したHB03(P)を、大腸癌(CT26)、肺癌(LLC)、膵癌(Panc02)、黒色腫(B16F10)、膠芽細胞腫(GL261)及び肉腫(MCA205)がそれぞれ誘発された腫瘍動物モデルに、一定期間で前処理(腫瘍接種前に投与)又は後処理(腫瘍接種後に投与)した結果、各腫瘍の成長が顕著に減少した(
図7及び
図9)。このような抗腫瘍効果は、アッケルマンシアムシニフィラ標準菌株(ATCC BAA-835菌株)又はビフィドバクテリウムロンガム菌株(ATCC BAA-999菌株)を投与した場合に比べて優れている(
図8)。また、AKK p2261(Collection de souches de I’Unite des Rickettsies(CSUR)に寄託されたCSUR P2261)を投与した場合とHB03を投与した場合とによる抗癌効能を比較したとき、HB03を投与した場合の抗癌効果がより大きくなっていた(
図10)。このことから、HB03投与による抗癌効果が他の32種の菌株に比べて優れることが確認された。
【0072】
また、本発明の他の実施例によれば、HB03由来タンパク質であるHB03-01は大腸癌及び肺癌細胞の増殖を有意に減少させ(
図18A及び
図18B)、さらに別のタンパク質であるHB03-03と共に肺癌細胞の細胞死制御酵素(カスパーゼ-3)を活性化させた(
図18C)。前記実施例の結果は、本発明の新規なアッケルマンシア菌株が、その抗癌活性により、癌の予防又は治療の用途に使用可能であることを示唆する。
【0073】
本発明の他の態様は、前記医薬組成物を個体に投与するステップを含む癌の予防又は治療のための方法を提供する。
【0074】
ここで使われる用語は、先述した通りである。
【0075】
本発明の用語“個体”とは、癌の症状を示す、或いは示す恐れのある全ての動物を意味する。本発明の医薬組成物を癌の疑われる個体に投与することにより、個体を効果的に治療することができる。本発明の医薬組成物は、癌の予防又は治療を目的とする個体であれば、特に限定されず、いかなる個体にも適用可能である。個体は、例えば、ヒトや、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギなどのような非ヒト動物、鳥類及び魚類などのいかなる個体であってもよい。また、ヒト以外の動物であってもよいが、これに限定されない。
【0076】
本発明の用語“投与”とは、適切な方法で個体に所定の物質を導入することを意味する。
【0077】
本発明の医薬組成物は、薬学的に有効な量で投与され得る。本発明において “薬学的に有効な量”とは、医学的治療又は予防に適用可能な合理的な利益/リスクの比で疾患を治療又は予防するために十分な量を意味する。有効容量レベルは、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する感受性、使用された本発明組成物の投与時間、投与経路、排出比率、治療期間、本発明の組成物併用投与された薬物などを含む要素、及びその他医学分野によく知られた要素によって決定され得る。本発明の医薬組成物は、独立した治療薬として投与されてもよく、他の治療薬と併用して投与されてもよく、他の治療薬と順次に又は同時に投与されてもよい。そして、一回又は複数回投与されてもよい。前記要素を全て考慮し、副作用無しに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要である。
【0078】
具体的には、本発明に係る医薬組成物の投与量は、例えば、哺乳動物に1日中に約0.0001~100mg/kg投与することができ、特に0.001~10mg/kg投与するとよい。本発明の医薬組成物の1日の投与頻度は、特に限定されないが、1日1回投与してもよく、容量を分割して数回投与してもよい。前記投与量は何ら本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
本発明の医薬組成物の投与経路及び投与方式は特に限定されず、目的とする該当の部位に前記組成物を含む組成物が到達できれば、いかなる投与経路及び投与方式も適用することができる。具体的に、前記組成物は、経口又は非経口の様々な経路で投与されてもよい。その投与経路の非限定的な例としては、口腔、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、鼻側内又は吸入などによって投与されることを挙げることができる。局部的治療のために、必要に応じて、病巣内投与を含む適切な方法によって投与されてもよい。また、前記医薬組成物は、活性物質を標的細胞に送達することができる任意の装置によって投与されてもよい。
【0080】
本発明の他の態様は、前記新規なアッケルマンシアHB03菌株、その不活性化された菌株、その培養液、その小胞体、その蛋白体及びその代謝体からなる群から選ばれるいずれか一つ以上を含む癌の予防又は緩和のための食品組成物を提供する。
【0081】
ここで使われる用語は、先述した通りである。
【0082】
本発明の用語“緩和”とは、前記組成物の投与によって疾患の症状が好転する或いは有利に変化させるあらゆる作用を意味する。本発明において、前記疾患は癌を指す。
【0083】
本発明の用語“食品”は、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディ類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む乳製品、各種スープ、飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール飲料、ビタミン複合剤、健康機能食品及び健康食品などがあり、通常の意味におけるあらゆる食品をいずれも含む。
【0084】
前記健康機能(性)食品とは、特定保健用食品(FoSHU)と同じ意味の用語であり、栄養供給に加えて生体調節機能を効果的に発揮するように加工された医学・医療効果が高い食品を意味する。ここで、“機能(性)”とは、生理作用等の人体の構造・機能に関する栄養素の調節や衛生的な使用に有用な効果を得ることを意味する。本発明の食品は、当該技術分野において通常用いられる方法によって製造可能であり、前記製造時には、当該技術分野において通常用いられる原料及び成分を添加することによって製造されてもよく、また、前記食品の剤形も、食品として認識される剤形であれば特に限定なく製造されてもよい。本発明の食品用組成物は、様々な形態の剤形で製造されてよく、一般的な医薬品とは違い、食品を原料とするので、長期服用時に発生し得る副作用が無いというメリットがあり、携帯性に優れている。したがって、本発明の食品は、癌の予防又は緩和の効果を増進させるための補助剤として摂取することができる。
【0085】
前記健康食品とは、一般的な食品に比べて健康維持又は増進に積極的な効果を有する食品を指し、健康補助食品は、健康補助を目的とする食品を意味する。場合によって、健康機能食品、健康食品、健康補助食品の用語は、同じ意味で使われ得る。
【0086】
具体的に、前記健康機能食品は、本発明の組成物を飲料、茶類、香辛料、ガム、菓子類などの食品素材に添加するか、或いはカプセル、粉末、懸濁液などに調製した食品であり、摂取すると健康に対して特定の効果をもたらすものを意味するが、一般的な医薬品とは違い、食品を原料とするので、長期服用時に発生し得る副作用がないというメリットがある。
【0087】
本発明の食品組成物は、日常的に摂取可能なので、癌の予防又は緩和に対して高い効果が期待でき、非常に有用に利用することができる。
【0088】
前記食品組成物は、生理学的に許容される担体をさらに含んでいてもよい。前記担体の種類は特に限定されず、当該技術分野で通常用いられる担体であればいずれも使用可能である。
【0089】
また、前記食品組成物は、匂い、味、外観などを改善するために、食品組成物に一般的に含まれる追加成分を含むことができる。例えば、ビタミンA、C、D、E、B1、B2、B6、B12、ナイアシン、ビオチン、葉酸、パントテン酸などを含むことができる。また、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、クロム(Cr)などのミネラルを含むことができる。また、リジン、トリプトファン、システイン、バリンなどのアミノ酸を含むことができる。
【0090】
また、前記食品組成物は、保存料(ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、殺菌剤(漂白粉、高度漂白粉、次亜塩素酸ナトリウムなど)、酸化防止剤(ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、着色剤(タール色素など)、着色料(窒化ナトリウム、亜硝酸ナトリウムなど)、漂白剤(亜硫酸ナトリウム)、調味料(MSG、グルタミン酸ナトリウムなど)、甘味料(ズルチン、シクラメート、サッカリンなど)、香料(バニリン、ラクトン類など)、膨張剤(ミョウバン、D-酒石酸水素カリウムなど)、強化剤、乳化剤、増粘剤(糊料)、皮膜剤、ガム基礎剤、消泡剤、溶剤、改良剤などの食品添加物を含むことができる。前記添加物は、食品の種類によって選別され、適切な量で使用することができる。
【0091】
本発明の組成物は、一般的な方法に従って、単独で或いは他の食品又は食品成分と共に添加されてよい。有効成分の混合量は、その使用目的(予防、健康管理又は治療的処置)によって適宜決定されてよい。一般に、食品又は飲料を製造する場合、本発明の食品組成物は、食品又は飲料に対して50重量部以下、具体的には20重量部以下の量で添加されてよい。ただし、健康増進及び衛生を目的として長期間摂取する場合には、前記範囲よりもより少ない含有量でもよい。また、安全性において問題がない限り、有効成分は前記範囲以上の量で使用されてもよい。
【0092】
例えば、本発明の食品組成物の一例として、健康飲料組成物を挙げることができ、この場合、通常の飲料と同様に、様々な香味剤又は天然炭水化物などを追加成分として含有していてもよい。上述した天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖等の単糖類、マルトース、スクロース等の二糖類、デキストリン、シクロデキストリン等の多糖類、キシリトール、ソルビトール、エリトリトール等の糖アルコールであってもよい。甘味剤としては、タウマチン、ステビア抽出物等の天然甘味剤、サッカリン、アスパルテーム等の合成甘味剤などを使用することができる。前記天然炭水化物の比率は、本発明の健康飲料組成物100mLにつき、一般に約0.01~0.04g、具体的には約0.02~0.03gであってよい。
【0093】
上記の他にも、健康飲料組成物は、様々な栄養素、ビタミン、電解質、香料、着色料、ペクチン酸、ペクチン酸の塩、アルギン酸、アルギン酸の塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、保存料、グリセリン、アルコール、炭酸化剤などを含有していてもよい。その他にも、天然果汁、果汁飲料、又は野菜飲料の調製のための果肉を含有していてもよい。このような成分は単独で又は混合して使用することができる。これらの添加剤の比率は、あまり重要ではないが、本発明の健康飲料組成物100重量部につき0.01~0.1重量部の範囲で選択されるのが一般的である。
【0094】
本発明の食品組成物における有効成分の含有量は、癌の予防又は緩和の効果を示すことができれば、様々な重量%であってもよい。例えば、本発明に係る菌株は、食品組成物の全重量に対して0.00001~100重量%又は0.01~80重量%の含有量で含有されていてもよいが、これに限定されない。
【0095】
本発明の他の態様は、受託番号KCCM12318Pとして寄託された新規なアッケルマンシアHB03菌株(Akkermansia sp.HB03)、その不活性化された菌株、その培養液、その小胞体、その蛋白体又はその代謝体の、癌の予防又は治療のための用途を提供する。
【0096】
ここで使われる用語は、先述した通りである。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【0098】
実施例1:ゲノム塩基配列を用いた新規菌株の同定
【0099】
NCBIからアッケルマンシア(Akkermansia)菌株の総66種のゲノム塩基配列を検索し、dRepによってMASHゲノム塩基配列の平均類似度(ANI)に基づくクラスタリングを行った(
図1)(Matthew R Olm et al.dRep:a tool for fast and accurate genome comparisons that enables improved genome recovery from metagenomes through de-replication.ISME J.2017 Dec;11(12):2864-2868.)。これによって導出された単一種のクラスターに属する44種の菌株(クラスター3)のみを選出して後続の分析を行った。
【0100】
Prokka(Seemann T.Prokka:rapid prokaryotic genome annotation.Bioinformatics.2014 Jul 15;30(14):2068-2069.)によって作成されたGFF3フォーマットでアノテーションされたアセンブリーを取り込み、パンゲノムを計算する高速独立型パンゲノムパイプラインであるローリー(Roary)を用いた。その後、FastTree2を用いて近似最尤系統樹(approximately maximum-likelihood trees)を作成した(Price MN,Dehal PS,Arkin AP.FastTree2--approximately maximum-likelihood trees for large alignments.PLoS One.2010 Mar 10;5(3):e9490.)(
図2)。遺伝子の存在/不在のプロットから120個の菌株特異的遺伝子を抽出した(
図3)。それらの大部分は、機能が知られていない仮説タンパク質であった。これらの遺伝子に特異的な菌株を“アッケルマンシアHB03(Akkermansia sp.HB03)”と命名した。
【0101】
ローリーは、活性CDS(コーディング配列)から翻訳されたタンパク質配列に依存するので、ゲノム塩基配列に誤りがあるか或いはアノテーションが不完全な場合には、最初から分析対象から除外された。したがって、ローリーによって予測されたHB03菌株特異的遺伝子を、再び全てのゲノム配列(タンパク質コーディング配列以外の)に対して検索したところ、存在しないことが確認された。LS-BSR(large-scare blast score ratio)を用いてブラストスコア比(BSR)を計算し、遺伝子の存在の有無を確認した(
図4A及び
図4B)。
【0102】
HB03菌株の全遺伝子に病原性(毒性)を示すために必要な遺伝子の集団である病原性(毒性)遺伝子群(Pathogenicity island,PAI)が存在するかどうかを調べた結果、HB03菌株の全遺伝子には病原性(毒性)遺伝子群が存在しないことが確認された(
図5)。
【0103】
HB03菌株は、親菌株であるアッケルマンシアムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)標準菌株(ATCC BAA-835)と全ゲノムを比較した結果、8%の差を示し、ゲノムが一致する部分でもANI値は97%に留まり、既存標準菌株と区別される、新規な菌株であることが示唆された。
【0104】
実施例2:新規菌株の培養特性検定
【0105】
HB03菌株を、改変されたBTTM培地(Nat.Med.2017.23:107-113)(N-アセチルグルコサミンの含有量を1/10に低減し、L-トレオニンの量を1/5に低減したBTTM培地)において、37℃の嫌気性条件で培養した。
【0106】
その結果、HB03菌株は、下記表1のようにアッケルマンシアムシニフィラに比べて2倍以上の細胞収量及び2倍以上の増殖率を示した。
【0107】
【0108】
また、アッケルマンシアムシニフィラは、沈殿し難く、浮遊しやすいため、遠心分離が難しく、このため大量生産が難しいが、HB03菌株は遠心分離が容易である(
図6)ので、大量生産及びゲノム編集が親菌株に比べて容易であった。
【0109】
その他にも、アッケルマンシアムシニフィラ菌株では、培地内にアミノ酸の一種であるL-トレオニンがない場合に生育しなかったが、HB03菌株は、L-トレオニンを培地に添加しなくても、1.0×109細胞/mLの濃度にまで生育した(表2)。これは、HB03菌株がアッケルマンシアムシニフィラ標準菌株と異なり、ムチンやムチン分解産物であるL-トレオニンがなくても、ムチンやL-トレオニン以外の様々な炭素源と窒素源とを栄養源として用いることで増殖が可能であることを示す。
【0110】
【0111】
これにより、本発明の菌株は、既存のアッケルマンシアムシニフィラ菌株と異なる産業的に有用な様々な特性を有することが確認された。本発明の菌株である“アッケルマンシアHB03(Akkermansia sp.HB03)”は、2018年9月11日付で韓国微生物保存センターに受託番号KCCM12318Pとして寄託された。
【0112】
実施例3:腫瘍動物モデル及び菌株組成物準備
【0113】
3-1.腫瘍動物モデル
【0114】
C57BL/6J JAX及びBALB/cマウスを大韓バイオリンクから購入し、6~8週齢の雄のマウスを実験に使用した。マウスは、ケージ当たり1匹ずつ収容し、水と飼料を自由に摂取できるようにしながら、制御された環境下(12時間の明暗サイクル、午後7時に暗転)で飼育した。C57BL/6 JAXマウスには膵癌細胞株(Panc02)、黒色腫細胞株(B16F10)、膠芽細胞腫細胞株(GL261)、肉腫細胞株(MCA205)、大腸癌細胞株(MC38)及び肺癌細胞株(LLC)を、BALB/cマウスには大腸癌細胞株(CT26)を注入し、腫瘍形成を誘導した。具体的には、Panc02を1×107細胞/100μL、B16F10を2×105細胞/100μL、GL261を5×105細胞/100μL、MCA205を5×105細胞/100μL、MC38を5×105細胞/100μL、LLCを5×105細胞/100μL、CT26を5×105細胞/100μL、マウスへ皮下注射した。実験終了まで2又は3日ごとに腫瘍サイズを測定し、腫瘍体積を、長さ×幅2×0.5で算出した。HB03及びその断片による腫瘍のサイズ変化及び免疫環境の変化を調べるために、腸管内容物を回収して液体窒素に浸漬させた後、-80℃で保管した。全ての実験動物手続は、韓国生命工学研究院動物管理及び使用委員会の承認を受けた。
【0115】
3-2.菌株組成物
【0116】
-70℃、20%グリセロールに保存された菌株(アッケルマンシア属HB03、アッケルマンシアムシニフィラATCC BAA-835、ビフィドバクテリウムロンガムATCC BAA-999、アッケルマンシアムシニフィラp2261)をそれぞれ37℃で培養した後、5.0×109CFU/mLで液体培地に再懸濁させた菌株組成物HB03(アッケルマンシア属HB03の組成物)、アッケルマンシアムシニフィラ(アッケルマンシアムシニフィラATCC BAA-835の組成物)、AKK p2261(アッケルマンシアムシニフィラp2261の組成物)及びビフィドバクテリウムロンガム(ビフィドバクテリウムロンガムATCC BAA-999の組成物)を製造した。以下、実施例において、別に断らない限り、“アッケルマンシアムシニフィラ”は標準菌株であるアッケルマンシアムシニフィラBAA-835を意味し、“AKK p2261”はアッケルマンシアムシニフィラp2261を意味する。HB03及びアッケルマンシアムシニフィラの培養には実施例2の改変されたBTTMを用い、AKK p2261の培養にはCOS培地(コロンビア培地+5%ヒツジ血液(BiomιrieuxTM)、コロンビア培地:ポリペプトン17.0g/L、心臓由来膵消化ペプトン3.0g/L、自己分解酵母エキス3.0g/L、コーンスターチ1.0g/L、塩化ナトリウム5.0g/L)、ビフィドバクテリウムロンガムの培養にはMRS培地(De Man,Rogosa,and Sharpe(MRS) medium)を使用した。
【0117】
先に製造したHB03を70℃で30分間煮沸して、熱不活性化された菌株組成物(HB03(P))を製造した。
【0118】
実施例4:菌株組成物投与方法
【0119】
実施例3-1の大腸癌(CT26、MC38)、肺癌(LLC)及び黒色腫(B16F10)動物モデルは腫瘍接種7日前又は接種5~6日後から18日まで、膠芽細胞腫(GL261)動物モデルは腫瘍接種7日前又は接種5~6日後から22日まで、肉腫(MCA205)動物モデルは腫瘍接種7日前又は接種5~6日後から16日まで、膵癌(Panc02)動物モデルは腫瘍接種7日前又は接種6日後から30日まで、毎日1回強制経口投与により実施例3-2の菌株組成物HB03、HB03(P)、アッケルマンシアムシニフィラ、AKK p2261又はビフィドバクテリウムロンガムをそれぞれ100μLずつ投与した。
【0120】
実施例5:腫瘍動物モデルにおける菌株組成物投与の腫瘍増殖阻害効果検定
【0121】
実施例3-1の腫瘍動物モデルにHB03及びHB03(P)を後処理(腫瘍接種後に投与)した場合において、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を
図7に示した。
【0122】
実施例3-1の腫瘍動物モデルにHB03、アッケルマンシアムシニフィラ、又はビフィドバクテリウムロンガムを後処理(腫瘍接種後に投与)した場合において、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を
図8に示した。
【0123】
実施例3-1の腫瘍動物モデルにHB03及びHB03(P)を前処理(腫瘍接種前に投与)した場合において、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を
図9に示した。
【0124】
実施例3-1の腫瘍動物モデルにHB03又はAKK p2261を後処理(腫瘍接種後に投与)した場合において、対照群(PBS投与)と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を
図10に示した。
【0125】
図7及び
図9に示すように、HB03又はHB03(P)を腫瘍細胞移植前或いは後に一定期間投与した場合、当該腫瘍の増殖が顕著に減少した。
【0126】
また、
図8に示すように、アッケルマンシアムシニフィラ、ビフィドバクテリウムロンガム又はHB03の投与による抗癌効能を比較すると、HB03投与により抗癌効果がさらに高まった。さらに、
図10においても、AKK p2261とHB03の投与による抗癌効能を比較すると、HB03投与により抗癌効果がさらに増加した。このことから、HB03投与による抗癌効果が他の3種の菌株に比べて優れていることが確認された。
【0127】
この結果は、癌治療剤として腸内微生物であるHB03又はHB03(P)が腫瘍増殖を抑制する利点を実証しているので、本発明の菌株HB03は癌治療に有用に使用可能である。
【0128】
実施例6:腫瘍動物モデルにおける免疫チェックポイント阻害剤及び菌株組成物の併用投与の腫瘍増殖阻害効果検定
【0129】
実施例3-1の腫瘍動物モデルに免疫チェックポイント阻害剤(aPD-1mAb)とHB03とを併用投与した群と、併用投与しなかった群とを比較して腫瘍増殖の差を分析した。対照群にはmIgG(150μg/マウス)及びPBS(100μL/マウス)、実験群にはαPD-1mAb(150μg/マウス)及びPBS(100μL/マウス)、αPD-1mAb(150μg/マウス)及びHB03(100μL/マウス)を投与した。大腸癌(CT26)、肺癌(LLC)、黒色腫(B16F10)及び膠芽細胞腫(GL261)動物モデルに、腫瘍接種後5日後から16日まで2日間隔で5回mIgG又はαPD-1mAb100μLを静脈注射し、PBS(ctrl、対照群)又はHB03 100μLをそれぞれ毎日強制経口投与した。16日目に腫瘍サイズを比較して
図11に示した。
【0130】
別の免疫チェックポイント阻害剤(αCTLA-4mAb)とHB03とを併用投与した群と、併用投与しなかった群とを比較して腫瘍増殖の差を分析するために、対照群にはmIgG(25μg/マウス)及びPBS(100μL/マウス)を投与し、実験群にはαCTLA-4mAb(25μg/マウス)及びPBS(100μL/マウス)、又はαCTLA-4mAb(25μg/マウス)及びHB03(100μL/マウス)を投与した。肉腫(MCA205)及び大腸癌(MC38)動物モデルに、腫瘍接種後5日から16日まで2日間隔で5回mIgG又はαCTLA-4mAb 100μLを静脈注射し、PBS(ctrl、対照群)又はHB03 100μLをそれぞれ毎日強制経口投与した。16日目に腫瘍サイズを比較して
図12に示した。
【0131】
また、さらに別の免疫チェックポイント阻害剤(αPD-L1mAb)とHB03とを併用投与した群と、併用投与しなかった群とを比較して腫瘍増殖の差を分析するために、対照群にはmIgG(100μg/マウス)及びPBS(100μL/マウス)を投与し、実験群にはαPD-L1mAb(100μg/マウス)及びPBS(100μL/マウス)、又はαPD-L1mAb(100μg/マウス)及びHB03(100μL/マウス)を投与した。大腸癌(MC38)動物モデルに、腫瘍接種後5日から16日まで2日間隔で5回mIgG又はαPD-L1mAb 100μLを静脈注射し、PBS(ctrl、対照群)又はHB03 100μLをそれぞれ毎日強制経口投与した。16日目に腫瘍サイズを比較して
図13に示した。
【0132】
図11~
図13に示すように、免疫チェックポイント阻害剤であるαPD-1mAb、αCTLA-4mAb又はαPD-L1mAbとHB03とを併用投与した場合に、免疫チェックポイント阻害剤を単独で処理した場合に比べて抗腫瘍効果が顕著に増加した。
【0133】
この結果は、腸内微生物であるHB03を使用することにより、癌治療時に、免疫チェックポイント阻害剤の濃度を下げ、それにより副作用及び耐性を減少させながら、抗腫瘍効果を増加させることができるという利点を示している。
【0134】
実施例7:耐性動物モデルにおける免疫チェックポイント阻害剤及び菌株組成物の併用投与の腫瘍増殖阻害効果検定
【0135】
実施例3-1の腫瘍動物モデルに、腫瘍を接種する2週前からアンピシリン(1μg/mL)、ストレプトマイシン(5μg/mL)、コリスチン(1μg/mL)を飲用水に溶解して摂取させ、腫瘍を接種後、前記飲料水を一般の飲料水に置き換えた。48時間後、免疫チェックポイント阻害剤(αPD-1mAb)とHB03又はビフィドバクテリウムロンガムとを併用投与した場合に、併用投与しなかった群と比較して腫瘍増殖の差を分析した。大腸癌(CT26)及び黒色腫(B16F10)動物モデルに腫瘍接種後5日から16日まで2日間隔で5回mIgG又はαPD-1mAbを静脈注射し、PBS(ctrl、対照群)、HB03又はビフィドバクテリウムロンガムをそれぞれ100μLずつ毎日強制経口投与した。16日目に腫瘍サイズを比較した結果を
図14に示した。
【0136】
また、実施例3-1の腫瘍動物モデルに、腫瘍を投与する2週前からアンピシリン(1μg/mL)、ストレプトマイシン(5μg/mL)、コリスチン(1μg/mL)を飲用水に溶解して摂取させ、腫瘍の接種後、前記飲料水を一般の飲料水に置き換えた。48時間後、免疫チェックポイント阻害剤(αCTLA-4mAb)及びHB03を併用投与した場合に、併用投与しなかった群と比較して腫瘍増殖の差を分析した。大腸癌(MC38)動物モデルに腫瘍接種後5日から16日まで2日間隔で5回mIgG又はαCTLA-4mAbを静脈注射し、PBS(ctrl、対照群)又はHB03をそれぞれ100μLずつ毎日強制経口投与した。16日目に腫瘍サイズを比較した結果を
図15に示した。
【0137】
図14に示すように、抗生剤投与により免疫チェックポイント阻害剤への耐性ができたマウスに、免疫チェックポイント阻害剤であるαPD-1mAbとHB03とを併用投与した場合、免疫チェックポイント阻害剤を単独で投与した場合に比べて抗腫瘍効果が顕著に増加した。このような効果は、既知のアッケルマンシアムシニフィラ又はビフィドバクテリウムロンガムを併用投与した時に比べて優れている。
【0138】
また、
図15のように、抗生剤投与により免疫チェックポイント阻害剤の耐性ができたマウスに、免疫チェックポイント阻害剤であるαCTLA-4mAbとHB03とを併用投与した場合、免疫チェックポイント阻害剤を単独で投与した場合に比べて抗腫瘍効果が顕著に増加した。
【0139】
この結果は、癌治療時に、免疫チェックポイント阻害剤耐性によって抗癌作用が低くなる現象が、腸内微生物であるHB03によって克服され、抗腫瘍効果を増加させることによって腫瘍増殖を抑制するという利点を示している。
【0140】
実施例8:腫瘍動物モデルにおける抗癌剤及び菌株組成物の併用投与による腫瘍増殖抑制効果検定
【0141】
実施例3-1の腫瘍動物モデルに、化学抗癌剤(5-FU:5-フルオロウラシル)、標的抗癌剤(オキサリプラチン)、及びHB03を併用投与した場合に、併用投与しなかった群と比較して腫瘍増殖の差を分析した。対照群には生理食塩水(100μL/マウス)及びPBS(100μL/マウス)を投与し、実験群には5-FU(2mg/kg)、オキサリプラチン(20mg/kg)及び生理食塩水(100μL/マウス)、又は5-FU(2mg/kg)、オキサリプラチン(20mg/kg)及びHB03(100μL/マウス)を投与した。大腸癌(MC38)動物モデルに腫瘍接種後5日から16日まで2日間隔で5回5-FU及びオキサリプラチン100μLを静脈注射し、PBS(ctrl、対照群)又はHB03 100μLをそれぞれ毎日強制経口投与した。16日目に腫瘍サイズを比較した結果を
図16に示した。
【0142】
その結果、
図16に示すように、大腸癌動物モデルに、抗癌剤である5-FU、オキサリプラチン及びHB03を併用投与した場合、抗癌剤を単独で投与した場合に比べて抗腫瘍効果が顕著に増加した。
【0143】
実施例9:腫瘍細胞における菌株組成物投与による腫瘍増殖抑制及び細胞死(アポトーシス)誘導効果検定
【0144】
HB03菌株が生産するタンパク質であるHB03-01及びHB03-03をコードする遺伝子を、HB03菌株のゲノムDNAからPCRで増幅した。その後、増幅した遺伝子をpET-30aベクターにクローニングし(
図17)、大腸菌(E.coli)において過剰発現させた。遠心分離して菌体のみを得た後に、PBSバッファに再懸濁して菌体を濃縮した後、超音波処理により菌体を溶解した。再び遠心分離して上澄液のみを分離した後、His-taqカラムを用いて該上澄液からHB03-01(配列番号1)及びHB03-03(配列番号2)タンパク質を精製した。
【0145】
その後、精製されたHB03-01及びHB03-03タンパク質が癌細胞の増殖又は細胞死(アポトーシス)に影響を与えるか否かを調査した。具体的には、大腸癌細胞株(CT26)及び肺癌細胞株(LLC)に、HB03由来タンパク質であるHB03-01を0(無処理)、0.1、1.0、10μg/mLの濃度で、HB03-03を10μg/mLの濃度で処理し、癌細胞の増殖変化及びアポトーシス制御酵素であるカスパーゼ-3の活性を確認した。
【0146】
癌細胞の増殖変化を確認するために、MTTアッセイを行った。各癌細胞株を、DMEM培地(Gibco、米国)を用い、96ウェルプレートに1×104細胞/wellの濃度で入れ、37℃、5% CO2の恒温器で24時間培養した。固形癌が組織内で増殖する条件を整えるために、最終濃度が20mMとなるように2-デオキシグルコース(2-DG)を処理して低ブドウ糖条件を維持し、6時間培養後に、HB03-01を0、0.1、1.0、10μg/mLの濃度で48時間処理した。MTT溶液を10μLずつ添加した後、再び2時間培養した。培養後、96ウェルプレートから培地を除去し、プレート内で形成されたホルマザンを100μLのDMSOで溶かした後、ELISA判読機(Model680,BioRad)を用いて540nmの吸光度を測定した。このとき、対照群は、HB03-01を0μg/mLの濃度で処理し(無処理)、測定値は、対照群細胞数を100%としたときの相対的な細胞生存率(%)で示した。
【0147】
カスパーゼ-3の活性レベルを確認するために、タンパク質レベルを測定するウェスタンブロットを行った。10μg/mLのHB03-01及びHB03-03で24時間それぞれ処理した肺癌細胞を、2mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、0.5mM EGTA(エチレングリコール四酢酸)、300mMスクロース、及び2mM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオリド)を含有する氷冷20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)でホモジナイズした。50μgのタンパク質を15% SDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)ゲルで電気泳動した後、セミドライトランスファシステム(Semidry transfer system,Hoefer,Holliston,MA,USA)を用いてPVDF(polyvinylidene fluoride)膜に移した。非特異的結合は、5%脱脂粉乳で培養することにより防いだ。膜を4℃で1:500に希釈した一次抗体と共に一晩恒温培養した後、1:1000に希釈したHRP(horseradish peroxidase)で結合させて2次抗体と培養した。ECL検出キット(Amersham Biosciences Korea,Seoul,Korea)を用いて免疫複合体を検出し、X線フィルムに自動放射線照射した。ウェスタンブロットに使用される抗体は、アクチン及び切断されたカスパーゼ-3であり、サンタクルーズバイオテクノロジーから購入した。
【0148】
図18A及び
図18Bに示すように、HB03由来タンパク質であるHB03-01は、大腸癌及び肺癌細胞の増殖を有意に減少させた。また、
図18Cに示すように、別のHB03由来タンパク質であるHB03-03と共に、肺癌細胞のアポトーシス制御酵素(カスパーゼ-3)をそれぞれ活性化させた。
【0149】
このことから、腸内微生物であるHB03由来タンパク質又は代謝体が、癌治療に役立つ環境を作り出したり、或いは腫瘍増殖を抑制したりすることが立証された。
【0150】
実施例10:腫瘍動物モデルにおける菌株組成物の投与による腫瘍増殖抑制効果検定
【0151】
実施例3-1の腫瘍動物モデルにHB03-01(AT1)及びHB03-03(AT3)を後処理(腫瘍接種後に投与)した場合に、対照群と比較して腫瘍増殖の差を分析した結果を
図19に示した。
【0152】
その結果、HB03-01(AT1)及びHB03-03(AT3)は、HB03-01(AT1)及びHB03-03(AT3)を処理しなかった対照群に比べて腫瘍増殖を顕著に抑制することを確認した。
【0153】
その結果、癌治療剤として腸内微生物HB03から派生したタンパク質が腫瘍増殖を有利に抑制することが立証された。したがって、本発明の菌株HB03のタンパク質は、癌治療に有用に利用可能である。
【0154】
以上の実施例の結果は、有用な腸内微生物の存在又はレベルの増加、及び微生物の活性又は不活性のレベルが、癌治療、腫瘍の増殖及び拡散に影響を与えることを示唆している。
【0155】
特に、本発明では、特定の微生物、すなわち、本発明の新規な有益微生物の投与により、他の免疫応答が低下または抑制され、腸内微生物の調節を介して腫瘍の治療が促進され、腫瘍増殖が抑制されるということを立証した。具体的には、本発明で開示した新規な有益微生物は、代謝体(細胞、組織、体液のような生物学的試料内に存在するアミノ酸、核酸、脂肪酸、糖類、アミン類、糖脂質、短いペプチド、ビタミン、ホルモンなど)又は蛋白体を分泌することで、癌治療に役立つ環境を生成し、腫瘍増殖を抑制する。
【0156】
図表及びグラフのデータは、平均±SEMで表示した。腫瘍増殖測定における統計的差異を確認するためのp値は、studentのt-test(Excelソフトウェア)によって推定された。P<0.05は、統計学的に有意であると見なし、次のように表示した:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0157】
以上の説明により、本発明の属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想や本質的特徴を変えることなく異なる形態で実施可能であることが理解でき得る。これと関連して、前述した全ての実施例はいずれも例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。添付の特許請求の範囲及びその等価物から導出される全ての変更又は改変された形態が、本発明の範囲に含まれると理解されたい。
【配列表】