IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図1
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図2
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図3
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図4
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図5
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図6
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図7
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図8
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図9
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図10
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図11
  • 特許-積層セラミック電子部品の製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
H01G4/30 311Z
H01G4/30 517
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019019686
(22)【出願日】2019-02-06
(65)【公開番号】P2020126967
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】新 三千男
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-192696(JP,A)
【文献】特開平01-210309(JP,A)
【文献】特開平06-251983(JP,A)
【文献】特開平07-078724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極パターンが形成されたセラミックシートを第1方向に積層することで、積層シートを作製し、
前記積層シートを前記第1方向に圧着し、
圧着された前記積層シートを切断することで、内部電極が積層された機能部と、前記機能部の周囲のマージン部と、を有する複数のセラミック素体を作製し、
前記複数のセラミック素体を、水とに入った状態または網に入った状態において静水圧加圧し、
静水圧加圧された前記複数のセラミック素体を焼成する
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記複数のセラミック素体を作製する工程は、
圧着された前記積層シートを切断することで、前記機能部と、前記機能部の前記第1方向に直交する第2方向外側に位置するエンドマージン部と、を有するセラミック積層チップを作製する工程と、
前記セラミック積層チップを前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向から覆うようにサイドマージン部を形成する工程と、を含む
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記複数のセラミック素体の静水圧加圧は、前記積層シートの圧着と同一の圧力で行われる
積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品は、典型的には以下のように製造される。まず、内部電極パターンが形成された未焼成のセラミックシートを積層し、これを積層方向から圧着する。圧着された大判の積層シートを切断することで、内部電極が積層された機能部と、その周囲のマージン部と、を有するセラミック素体が個片化される。このセラミック素体を焼成し、外部電極を形成することで、積層セラミック電子部品が製造される。
【0003】
上記セラミックシートにおいて、マージン部に対応する領域には、内部電極パターンが形成されておらず、内部電極パターンの厚みに起因する段差が形成される。このため、上記積層シートの圧着工程後においても、マージン部に隙間が残りやすく、マージン部の圧着不足に起因するデラミネーション等の欠陥が発生しやすい。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、セラミック素体の上面及び下面のうち少なくとも一面に、内部電極に起因する段差を補償するための段差補償用カバーを形成する、セラミック電子部品の製造方法が開示されている。
特許文献2には、加圧板と原料シート群との間にシート状の弾性体を介装して圧着工程を行う、積層セラミックコンデンサの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-22719号公報
【文献】特開2015-26841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、より簡便な方法で、かつ確実に、マージン部におけるデラミネーション等の欠陥を防止できる手法が求められている。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、マージン部におけるデラミネーション等の欠陥を簡便かつ確実に防止することが可能な積層セラミック電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、内部電極パターンが形成されたセラミックシートを第1方向に積層することで、積層シートを作製する工程を含む。
上記積層シートが上記第1方向に圧着される。
圧着された上記積層シートを切断することで、内部電極が積層された機能部と、上記機能部の周囲のマージン部と、を有する複数のセラミック素体が作製される。
上記複数のセラミック素体が、水とに入った状態または網に入った状態において静水圧加圧される。
静水圧加圧された上記セラミック素体が焼成される。
【0009】
この構成では、上記積層シートを圧着した後に、これを切断して個片化したセラミック素体を静水圧加圧する。これにより、内部電極の層数が少ない、又は内部電極が積層されていないことにより積層数の少ないマージン部も、上記第1方向以外の方向から圧着することができる。したがって、マージン部におけるセラミックシートの密着性を高め、デラミネーションを確実に防止することができる。
【0010】
上記複数のセラミック素体を作製する工程は、
圧着された上記積層シートを切断することで、上記機能部と、上記機能部の上記第1方向に直交する第2方向外側に位置するエンドマージン部と、を有するセラミック積層チップを作製する工程と、
上記セラミック積層チップを上記第1方向および上記第2方向に直交する第3方向から覆うようにサイドマージン部を形成する工程と、を含んでいてもよい。
【0011】
これにより、後付けされたサイドマージン部も静水圧加圧によって上記第3方向から圧着される。したがって、内部電極の交差面積を確保して積層セラミック電子部品の大容量化を図ることができるとともに、サイドマージン部とセラミック積層チップとの密着性を高め、サイドマージン部のデラミネーションを防止することができる。
【0012】
上記複数のセラミック素体の静水圧加圧は、上記複数の積層シートの圧着と同一の圧力で行われてもよい。
これにより、セラミック素体を十分に圧着することができ、デラミネーションをより確実に防止できる
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、マージン部におけるデラミネーション等の欠陥を簡便かつ確実に防止することが可能な積層セラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
図2】上記積層セラミックコンデンサの図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3】上記積層セラミックコンデンサの図1のB-B'線に沿った断面図である。
図4】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
図5】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
図6】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
図7】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
図9】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
図10】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
図11】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
図12】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0016】
<第1実施形態>
[積層セラミックコンデンサ10の全体構成]
図1~3は、本発明の第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。図2は、積層セラミックコンデンサ10の図1のA-A'線に沿った断面図である。図3は、積層セラミックコンデンサ10の図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0017】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体11は、典型的には、X軸方向を向いた2つの端面11aと、Y軸方向を向いた2つの側面11bと、Z軸方向を向いた2つの主面11cと、を有する。なお、セラミック素体11の各面を接続する稜部は丸みを帯びている。
【0018】
外部電極14,15は、セラミック素体11の端面11aをそれぞれ覆い、セラミック素体11を挟んでX軸方向に対向している。外部電極14,15は、セラミック素体11の端面11a各々から主面11c及び側面11bに延出している。これにより、外部電極14,15では、X-Z平面に平行な断面、及びX-Y平面に平行な断面がいずれもU字状となっている。なお、外部電極14,15の形状は、図1に示すものに限定されない。
【0019】
外部電極14,15は、電気の良導体により形成されている。外部電極14,15を形成する電気の良導体としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0020】
セラミック素体11は、容量形成部16と、エンドマージン部17と、サイドマージン部18と、カバー部19と、を有する。
容量形成部16は、本実施形態における機能部として構成される。
エンドマージン部17は、容量形成部16のX軸方向外側に位置する。サイドマージン部18は、容量形成部16のY軸方向外側に位置する。エンドマージン部17とサイドマージン部18とは、本実施形態におけるマージン部として構成される。
カバー部19は、容量形成部16のZ軸方向外側に位置する。
【0021】
容量形成部16は、複数のセラミック層20を挟んでZ軸方向に交互に積層された第1内部電極12及び第2内部電極13を有する。内部電極12,13は、電気の良導体により形成されている。内部電極12,13を形成する電気の良導体としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、この他にも銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0022】
内部電極12,13は、それぞれ、X-Y平面に沿って延びるシート状に構成される。第1内部電極12は、セラミック素体11の一方の端面11aに引き出され、第1外部電極14に接続される。第2内部電極13は、セラミック素体11の他方の端面11aに引き出され、第2外部電極15に接続される。これにより、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、第1内部電極12と第2内部電極13との間のセラミック層20に電圧が加わり、容量形成部16に当該電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0023】
セラミック素体11では、内部電極12,13間の各セラミック層20の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
【0024】
なお、セラミック層20は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)系、チタン酸カルシウム(CaTiO)系、チタン酸マグネシウム(MgTiO)系、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)系、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O)系、ジルコン酸バリウム(BaZrO)系、酸化チタン(TiO)系などで構成してもよい。
【0025】
エンドマージン部17は、絶縁性セラミックスで形成され、容量形成部16と外部電極14,15の間にそれぞれ設けられる。つまり、エンドマージン部17は、第1内部電極12とそれが引き出されていない側の端面11aとの間、及び、第2内部電極13とそれが引き出されていない側の端面11aとの間に、それぞれ設けられる。エンドマージン部17は、第1内部電極12と第2外部電極15との絶縁性を確保し、かつ、第2内部電極13と第1外部電極14との絶縁性を確保する。
【0026】
サイドマージン部18は、絶縁性セラミックスで形成され、容量形成部16のY軸方向における絶縁性を確保するとともに、容量形成部16を保護する。
カバー部19も、絶縁性セラミックスで形成され、容量形成部16のZ軸方向における絶縁性を確保するとともに、容量形成部16を保護する。
【0027】
エンドマージン部17、サイドマージン部18及びカバー部19に用いられる絶縁性セラミックスは、セラミック素体11で用いられた誘電体セラミックスを含んでいてもよい。これにより、エンドマージン部17、サイドマージン部18及びカバー部19と容量形成部16との間に発生し得る内部応力が抑制される。
【0028】
エンドマージン部17では、内部電極12,13の一方のみとセラミック層20とが交互に積層される。また、サイドマージン部18では、セラミック層20のみが積層される。つまり、エンドマージン部17及びサイドマージン部18は、容量形成部16と比較して積層数が少ない構成となる。
【0029】
本実施形態のセラミック素体11は、以下の製造方法において示すように、エンドマージン部17及びサイドマージン部18を、Z軸方向のみならず、X軸方向及びY軸方向からも加圧して密着させることで作製される。これにより、エンドマージン部17及びサイドマージン部18では、容量形成部16との境界部に形成される内部電極12,13の厚み分の段差に起因した隙間が、X軸方向及びY軸方向から加圧されたセラミック層20によって埋められる。したがって、エンドマージン部17及びサイドマージン部18は、端面11a及び側面11bに向かうに従いZ軸方向の厚みが徐々に薄くなるように構成され、丸みを帯びた形状となる。
【0030】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図4は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。図5~7は、積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、第1実施形態の積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、図4に沿って、図5~7を適宜参照しながら説明する。
【0031】
(ステップS11:積層シート104作製)
ステップS11では、内部電極112,113が形成された第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102と、第3セラミックシート103と、を積層することで、積層シート104を作製する。
【0032】
図5に示すセラミックシート101,102,103は、誘電体セラミックスを主成分とする未焼成の誘電体グリーンシートとして構成される。この段階では、セラミックシート101,102,103が、個片化されていない大判のシートとして構成される。図5には、積層セラミックコンデンサ10ごとに個片化する際の切断線Lx,Lyが示されている。切断線LxはX軸に平行であり、切断線LyはY軸に平行である。
【0033】
第1セラミックシート101には、第1内部電極12に対応する第1内部電極パターン112pが形成される。第2セラミックシート102には、第2内部電極13に対応する第2内部電極パターン113pが形成される。各内部電極パターン112p,113pは、切断線Lx及びLyで切断されることにより、各積層セラミックコンデンサ10の内部電極12,13を形成する。内部電極パターン112p,113pは、印刷法等により、任意の導電性ペーストをセラミックシート101,102に塗布することによって形成することができる。なお、第3セラミックシート103には、内部電極パターンが形成されていない。
【0034】
第1内部電極パターン112pは、1本の切断線Lyを横切ってX軸方向に延びる略矩形に構成される。これらの第1内部電極パターン112pは、切断線Lx,Lyを挟んで配列される。第1セラミックシート101において、第1内部電極パターン112pが形成されていない切断線Lxに沿った領域は、サイドマージン部18を形成する。第1セラミックシート101において、第1内部電極パターン112pが形成されていない切断線Lyに沿った領域は、エンドマージン部17を形成する。
【0035】
第2内部電極パターン113pも、第1内部電極パターン112pと同様に構成される。但し、第2内部電極パターン113pは、第1内部電極パターン112pとはX軸方向又はY軸方向に1チップ分ずれて形成されている。第2セラミックシート102において、第2内部電極パターン113pが形成されていない切断線Lxに沿った領域は、サイドマージン部18を形成する。第2セラミックシート102において、第2内部電極パターン113pが形成されていない切断線Lyに沿った領域は、エンドマージン部17を形成する。
【0036】
セラミックシート101,102では、内部電極パターン112p,113pが形成されている領域と形成されていない領域との境界部に、内部電極パターン112p,113pの厚み分の段差(図示せず)が形成されている。
【0037】
図5に示すように、積層シート104では、第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102がZ軸方向に交互に積層された積層体のZ軸方向上下面に、第3セラミックシート103の積層体が配置される。これらのセラミックシート101,102,103の積層数及び厚みは、適宜調整することができる。
【0038】
積層シート104において、内部電極パターン112p,113pの形成されていない領域が積層された部分は、マージン部に対応する。一方、積層シート104において、内部電極パターン112p,113pの双方が積層された部分は、容量形成部に対応する。積層シート104おけるマージン部に対応する領域と容量形成部に対応する領域との境界部には、内部電極パターン112p,113pの厚み分の段差が形成される。
【0039】
(ステップS12:積層シート104圧着)
ステップS12では、積層シート104をZ軸方向に圧着する。この圧着は、例えば一軸加圧法や静水圧加圧法により行うことができる。
【0040】
一軸加圧法の場合は、例えば、Z軸方向に対向する一対の加圧板の間に積層シート104を挟み、これらの加圧板をZ軸方向に加圧することにより、積層シート104を加圧する。静水圧加圧法の場合は、金属枠等の冶具により支持された状態の積層シート104を水中に沈ませ、当該水に圧力を加えることで積層シート104を加圧する。加圧時の温度および圧力は、例えば30~100℃、30~150MPaである。これにより、内部電極パターン112p,113pの双方が積層された容量形成部に対応する領域が、Z軸方向に圧着され圧密化される。
【0041】
一方で、内部電極パターン112p,113pの外縁に沿った部分には、上述のように、Z軸方向に段差が形成されている。このため、積層シート104がZ軸方向に圧着されただけでは、内部電極パターン112p,113pのX軸方向及びY軸方向における側端部とセラミックシート101,102とが密着されにくく、内部電極パターン112p,113pの外縁に沿って隙間が残りやすい。したがって、積層シート104におけるマージン部に対応する領域は、本ステップ後にも十分に圧密化されず、低密度の状態となる。
【0042】
(ステップS13:切断)
ステップS13では、ステップS12で得られた積層シート104を、切断線Lx,Lyに沿って切断する。これにより、未焼成のセラミック素体111uを作製する。
【0043】
図6は、ステップS13で得られるセラミック素体111uの模式的な斜視図である。
これらの図に示すように、セラミック素体111uは、内部電極112,113が積層された容量形成部116と、容量形成部116の周囲のマージン部(エンドマージン部117u及びサイドマージン部118u)と、容量形成部116のZ軸方向外側に位置するカバー部119uと、を有する。
【0044】
セラミック素体111uは、例えば、略直方体状の角ばった形状を有する。エンドマージン部117u及びサイドマージン部118uは、容量形成部116よりも低い密度で、未焼成のセラミック層が積層された構成を有する。このセラミック素体111uが仮に焼成された場合、エンドマージン部及びサイドマージン部の密着性の低い状態が維持され、デラミネーションが生じやすくなる。
【0045】
(ステップS14:セラミック素体の静水圧加圧)
ステップS14では、ステップS13で得られた切断後のセラミック素体111uを静水圧加圧する。
【0046】
本ステップでは、まず、複数のセラミック素体111uを任意の袋又は網等に入れる。これにより、複数のセラミック素体111uを一括して処理することができ、生産性を維持することができる。
【0047】
続いて、複数のセラミック素体111uの入った袋又は網等を、冶具等に取り付けた状態で水槽内の水中に沈め、当該水を加圧する。袋を用いる場合、例えば袋内にも水を加え、袋内の各セラミック素体111uにも袋の外部と同等の圧力が加えられるようにする。あるいは、袋内において各セラミック素体111uの間隔が十分に確保できる場合は、袋を真空密封してもよい。
【0048】
本ステップにおける静水圧加圧の温度は、例えば30~100℃である。本ステップにおける静水圧加圧の圧力は、30~150MPaであり、ステップS12の積層シート104の圧着と同一の圧力であってもよい。ここで、ステップS12の積層シート104の圧着と同一の圧力とは、実質的に同一の範囲を含み、例えば積層シート104の圧着における圧力の90%以上110%以下の圧力を含むものとする。積層シート104の圧着における圧力の90%以上とすることで、本ステップの静水圧加圧の効果を十分に発揮させることができる。積層シート104の圧着における圧力の110%以下とすることで、容量形成部16が大きく変形することを抑制し、積層セラミックコンデンサ10として好ましい形状が維持される。
【0049】
本ステップの静水圧加圧により、セラミック素体111が、Z軸方向、X軸方向及びY軸方向の全方向から加圧される。これにより、内部電極112,113の側端部に、エンドマージン部117及びサイドマージン部118のセラミック層が押しつぶされて密着する。したがって、内部電極112,113の段差に起因する隙間が当該セラミック層によって埋められ、エンドマージン部117及びサイドマージン部118が圧密化される。
【0050】
図7は、ステップS14で得られたセラミック素体111の模式的な斜視図である。
同図に示すように、セラミック素体111は、容量形成部116(図6参照)と、エンドマージン部117と、サイドマージン部118と、カバー部119と、を有する。セラミック素体111は、図1~3に示すセラミック素体11と同様に、全体として丸みを帯びた構成となる。具体的に、セラミック素体111において、エンドマージン部117が形成されたX軸方向端部は、X軸方向外側に向かうに従いZ軸方向における厚みが徐々に薄くなるように構成される。同様に、サイドマージン部118が形成されたY軸方向端部も、Y軸方向外側に向かうに従いZ軸方向における厚みが徐々に薄くなるように構成される。
【0051】
つまり、本ステップの静水圧加圧によって、エンドマージン部117及びサイドマージン部118のセラミック層は、内部電極112,113の側端部に形成された隙間を埋めるように変形する。この結果、当該セラミック層は、内部電極112,113の側端部に向かって押し潰され、内部電極112,113から離れるに従い、Z軸方向の厚みが徐々に薄くなるように構成される。したがって、図7に示す、丸みを帯びたセラミック素体111が作製される。
【0052】
(ステップS15:焼成)
ステップS15では、ステップS14で得られた未焼成のセラミック素体111を焼成することにより、図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11を作製する。ステップS15における焼成温度は、セラミック素体111の焼結温度に基づいて決定することができる。また、焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0053】
(ステップS16:外部電極形成)
ステップS16では、ステップS15で得られたセラミック素体11のX軸方向両端部に外部電極14,15を形成する。ステップS16における外部電極14,15の形成方法は、公知の方法から任意に選択可能である。これにより、図1~3に示すような積層セラミックコンデンサ10が形成される。
【0054】
なお、上記のステップS16における処理の一部を、ステップS15の前に行ってもよい。例えば、ステップS15の前に未焼成のセラミック素体111のX軸方向両端面に未焼成の電極材料を塗布し、ステップS15において、未焼成のセラミック素体111を焼成すると同時に、未焼成の電極材料を焼き付けて外部電極14,15の下地層を形成してもよい。また、脱バインダー処理したセラミック素体111に未焼成の電極材料を塗布して、これらを同時に焼成してもよい。
【0055】
以上の製造方法では、圧着された積層シート104からセラミック素体111uを個片化した後に、再びセラミック素体111を静水圧加圧する。これにより、ステップS12の圧着工程では低密度であったマージン部117u,118uも、十分に圧密化される。
【0056】
したがって、ステップS14の静水圧加圧によって得られたセラミック素体111を焼成することにより、エンドマージン部17及びサイドマージン部18のデラミネーション等を防止することが可能なセラミック素体11を得ることができる。
【0057】
実際に、上記製造方法に基づいて、ステップS14の静水圧加圧を行った積層セラミックコンデンサ10の実施例サンプルと静水圧加圧を行っていない積層セラミックコンデンサの比較例サンプルを作製し、デラミネーションの発生率について調べた。これらのサンプルは、焼成後のX軸方向の寸法が3.2mm、Y軸方向及びZ軸方向の寸法が1.6mmとなる規格で作製した。
【0058】
表1に、未焼成(焼成直前)の実施例及び比較例のセラミック素体サンプルの寸法を示す。これらの寸法は、各セラミック素体サンプルについてX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向にそれぞれ最も大きい部分における寸法を測定し、それぞれ100個のサンプルにおける平均値として算出された寸法である。なお、実施例サンプルの寸法は、個片化後に静水圧加圧を行った後の寸法である。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、実施例サンプルでは、比較例サンプルと比較して、いずれの方向の寸法もわずかに小さくなった。これは、個片化後の静水圧加圧によってマージン部が全方向から加圧された結果、内部電極に起因する段差がセラミック部分によって埋められ、全体的にサイズが縮小したものと考えられる。
【0061】
目視により実施例及び比較例のサンプルの外観を確認したところ、実施例のサンプルではX軸方向及びY軸方向の端部が丸みを帯びていた。これに対し、比較例のサンプルでは、全体的に角ばっており、略直方体形状を有していた。
【0062】
続いて、焼成後の各サンプルにおいて、目視によりマージン部のデラミネーションの発生の有無を調べた。そして、600個のサンプルにおけるデラミネーションの発生サンプル数に基づいて、実施例及び比較例それぞれにおけるデラミネーション発生率を算出した。
【0063】
個片化後に静水圧加圧を行っていない比較例のサンプルでは、デラミネーション発生率が2.1%であり、デラミネーションの発生したサンプルが散見された。一方で、個片化後に静水圧加圧を行った実施例のサンプルでは、デラミネーション発生率が0%であり、デラミネーションを確実に防止できることが確認された。
【0064】
以上、本実施形態によれば、個片化後のセラミック素体111uに対して静水圧加圧を行うといったシンプルな処理により、生産性を維持しつつ、確実にデラミネーションを防止できる。
【0065】
<第2実施形態>
第1実施形態では、積層シート104を切断してサイドマージン部118uを含むセラミック素体111uを作製したが、本発明は、サイドマージン部を後付けする製造方法にも適用することができる。
以下では、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。
【0066】
図8は、第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。図9~12は、第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、第2実施形態の積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、図8に沿って、図9~12を適宜参照しながら説明する。
【0067】
(ステップS21:積層シート作製)
ステップS21では、ステップS11と同様に、内部電極パターン212p,213pが形成された第1セラミックシート201及び第2セラミックシート202と、第3セラミックシート203と、を積層することで、積層シート204を作製する。
【0068】
図9に示すように、第1セラミックシート201には第1内部電極パターン212pが形成されており、第2セラミックシート202には第2内部電極パターン213pが形成されている。第3セラミックシート203には、内部電極パターンが形成されていない。
【0069】
各内部電極パターン212p,213pは、X軸方向に平行な切断線Lxを横切り、かつY軸方向に平行な切断線Lyに沿って延びる複数の帯状の電極パターンで構成される。つまり、本実施形態のセラミックシート201,202には、切断線Lxの周囲にサイドマージン部に対応する領域が形成されていない。
【0070】
図9に示すように、積層シート204では、積層シート104と同様に、第1セラミックシート201及び第2セラミックシート202がZ軸方向に交互に積層された積層体のZ軸方向上下面に、第3セラミックシート203の積層体が配置される。
【0071】
(ステップS22:積層シート圧着)
ステップS22では、ステップS12と同様に、積層シート204をZ軸方向に圧着する。この圧着は、例えば一軸加圧法や静水圧加圧法により行うことができる。
本ステップ後の積層シート204におけるエンドマージン部に対応する領域は、積層シート104と同様に、隙間を残した低密度の状態である。
【0072】
(ステップS23:切断)
ステップS23では、圧着された積層シート204を、切断線Lx,Lyに沿って切断する。これにより、未焼成のセラミック積層チップ(積層チップ)205が作製される。
【0073】
図10は、ステップS23で得られた積層チップ205を模式的に示す斜視図である。積層チップ205は、内部電極212,213が積層された容量形成部216と、容量形成部216のX軸方向外側に位置するエンドマージン部217uと、容量形成部216のZ軸方向外側に位置するカバー部219uと、を有する。積層チップ205のY軸方向に向いた切断面205bからは、内部電極212,213が露出している。
【0074】
積層チップ205は、略直方体状の角ばった形状を有する。上述のように、エンドマージン部217uは、ステップS22の圧着後においても内部電極212,213の分の段差に起因する隙間を有する。このため、エンドマージン部217uは、容量形成部216よりも低い密度で、内部電極212,213の一方と未焼成のセラミック層とが交互に積層された構成を有する。
【0075】
(ステップS24:サイドマージン部形成)
ステップS24では、ステップS23で得られた積層チップ205における内部電極212,213が露出した切断面205bに未焼成のサイドマージン部218を設ける。
【0076】
サイドマージン部218は、例えば、セラミックグリーンシートを積層チップ205の切断面205bに貼り付けることで形成される。具体的には、例えば、切断面205bを当該セラミックグリーンシートに押圧して、切断面205bでセラミックグリーンシートを打ち抜くことで、サイドマージン部218が形成される。
【0077】
図11は、積層チップ205に未焼成のサイドマージン部218が形成された未焼成のセラミック素体211uを模式的に示す斜視図である。セラミック素体211uは、容量形成部216(図10参照)と、容量形成部216の周囲のエンドマージン部217u及びサイドマージン部218uと、カバー部219uと、を有する。
【0078】
(ステップS25:セラミック素体の静水圧加圧)
ステップS25では、第1実施形態のステップS14と同様に、セラミック素体211uを静水圧加圧する。これにより、エンドマージン部217u及びサイドマージン部218uがZ軸方向、X軸方向及びY軸方向の全方向から加圧される。したがって、エンドマージン部217uが圧密化されるとともに、サイドマージン部218uが積層チップ205に密着する。
【0079】
この結果、図12に示すような、容量形成部216(図10参照)と、エンドマージン部217と、サイドマージン部218と、カバー部219と、を有する、丸みを帯びたセラミック素体211が形成される。
【0080】
(ステップS26:焼成)
ステップS26では、第1実施形態のステップS15と同様に、ステップS25で得られた未焼成のセラミック素体211を焼成する。これにより、第1実施形態と同様の構成の、図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11が作製される。
【0081】
(ステップS27:外部電極形成)
ステップS27では、第1実施形態のステップS16と同様に、ステップS26で得られたセラミック素体11のX軸方向両端部に外部電極14,15を形成する。これにより、図1~3に示すような積層セラミックコンデンサ10が形成される。
【0082】
以上の製造方法では、サイドマージン部18が後付けされるため、セラミック素体11における複数の内部電極12,13の端部のY軸方向の位置が、0.5μm以内のばらつきでZ軸方向に沿って揃う。これにより、セラミック素体11における内部電極12,13の交差面積を十分に確保することができ、積層セラミックコンデンサ10の大容量化を図ることができる。
【0083】
さらに、サイドマージン部218uが形成されたセラミック素体211uをステップS25で静水圧加圧することにより、サイドマージン部218を積層チップ205の切断面205bに密着させることができる。したがって、積層チップ205とサイドマージン部218との接合界面におけるデラミネーション等の欠陥を防止することができる。
【0084】
また、エンドマージン部217においても第1実施形態と同様に、ステップS25によって内部電極212,213の周縁の段差に起因する隙間を埋めるように圧密化され、デラミネーション等の欠陥を防止することができる。
【0085】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば本発明の実施形態は各実施形態を組み合わせた実施形態とすることができる。
【0086】
例えば、上記実施形態では、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、本発明は、対を成す内部電極が交互に配置される積層セラミック電子部品全般に適用可能である。このような積層セラミック電子部品としては、例えば、圧電素子などが挙げられる。
【符号の説明】
【0087】
10…積層セラミックコンデンサ(積層セラミック電子部品)
16…容量形成部(機能部)
17…エンドマージン部(マージン部)
18…サイドマージン部(マージン部)
101,102,201,202…セラミックシート
112p,113p,212p,213p…内部電極パターン
104,204…積層シート
112,113,212,213…内部電極
116,216…未焼成の容量形成部(未焼成の機能部)
117u,117,217u,217…未焼成のエンドマージン部(未焼成のマージン部)
118u,118,218u,218…未焼成のサイドマージン部(未焼成のマージン部)
205…積層チップ(セラミック積層チップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12