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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20240111BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019044057
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020148225
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】小田 真暉
(72)【発明者】
【氏名】黒須 優一
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】中屋 裕一郎
【審判官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-21555(JP,A)
【文献】特開平3-281120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、内歯歯車と、前記外歯歯車の軸方向一側に配置される第1キャリヤと、前記外歯歯車の軸方向他側に配置され前記第1キャリヤと連結される第2キャリヤと、前記第1キャリヤと前記第2キャリヤの連結位置決めをするためのノックピンと、を有する歯車装置であって、
前記第1キャリヤは、前記ノックピンが挿入される第1ノックピン孔を有し、
前記第2キャリヤは、前記ノックピンが挿入される第2ノックピン孔を有し、
前記第1ノックピン孔は、開口部周縁に第1面取り部を有し、
前記第2ノックピン孔は、開口部周縁に第2面取り部を有し、
前記第1面取り部の軸方向寸法をH1、前記第2面取り部の軸方向寸法をH2としたときに、H1とH2の和が0.1mm以上0.9mm以下であり、
前記第1キャリヤと前記第2キャリヤとを連結する連結ボルトを有し、
前記ノックピンは、前記連結ボルトよりも径方向内側に配置されることを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
前記軸方向寸法H1は0.45mm以下で、且つ、前記軸方向寸法H2は0.45mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記第1および第2面取り部の軸方向となす角度が30°~60°範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、特許文献1(図9)において偏心揺動型の歯車装置を開示している。この歯車装置は、外歯歯車の自転成分を取り出す出力フランジと、外歯歯車を挟んで反出力フランジ側に配置される対向フランジとを備える。対向フランジは、キャリヤピンおよびキャリヤボルトを介して出力フランジと連結されている。また、対向フランジと出力フランジの関係位置を厳密に保つために、両フランジにノックピンが圧入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-048889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、連結された2つのフランジを有する歯車装置に関して以下の認識を得た。
歯車装置には、伝達負荷を増大させながら小型化することが求められている。伝達負荷が増大すると、軸方向に連結された2つのフランジ間に大きなねじれトルクがかかり、両フランジに圧入されたノックピンに曲げ応力が加わる。この曲げ応力は、歯車装置を始動、停止するときに増加する。大きな曲げ応力が繰返し加わると、ノックピンは疲労して折損することが考えられる。ノックピンを太くすることも考えられるが、この場合、小型化に不利である。
これらから、本発明者らは、歯車装置にはノックピンにかかる曲げ応力を軽減する観点から改善すべき余地があることを認識した。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、ノックピンにかかる曲げ応力を軽減可能な歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の歯車装置は、外歯歯車と、内歯歯車と、外歯歯車の軸方向一側に配置される第1キャリヤと、外歯歯車の軸方向他側に配置され第1キャリヤと連結される第2キャリヤと、第1キャリヤと第2キャリヤの連結位置決めをするためのノックピンと、を有する歯車装置であって、第1キャリヤは、ノックピンが挿入される第1ノックピン孔を有する。第2キャリヤは、ノックピンが挿入される第2ノックピン孔を有する。第1ノックピン孔は、開口部周縁に第1面取り部を有する。第2ノックピン孔は、開口部周縁に第2面取り部を有する。第1面取り部の軸方向寸法をH1、第2面取り部の軸方向寸法をH2としたときに、H1とH2の和が0.9mm以下である。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノックピンにかかる曲げ応力を軽減可能な歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る歯車装置を示す側面断面図である。
図2図1の歯車装置のノックピン孔の周辺を拡大して示す拡大図である。
図3】ノックピン孔の面取り寸法と曲げ応力の関係を示す模式図である。
図4】ノックピン孔の面取り寸法と曲げ応力の関係を示す別の模式図である。
図5】ノックピン孔の面取り寸法と耐久性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態、変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0011】
[実施の形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る歯車装置100の構成について説明する。図1は、歯車装置100を示す側面断面図である。本実施形態の歯車装置100は、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型減速装置である。この歯車装置100は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材から被駆動装置に出力するように構成される。
【0012】
歯車装置100は、主に、入力歯車70と、クランク軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26とを主に備える。以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0013】
(入力歯車)
入力歯車70は、内歯歯車16の中心軸線La周りに3つ配設される。3つの入力歯車70は、中心軸線Laからオフセットされた位置に120°の等間隔に配置される。図1では一つの入力歯車70のみを示す。クランク軸12は、3つの入力歯車70に対応して3つ設けられる。クランク軸12は、入力歯車70の中央部に挿通され、入力歯車70を支持する。クランク軸12の軸方向両側には、一対のクランク軸軸受34が設けられる。クランク軸12は、入力歯車70と一体的に回転可能に設けられる。3つの入力歯車70は、中心軸線La上に設けられる回転軸(不図示)の外歯部(不図示)と噛み合う。この回転軸には、不図示の駆動装置から回転動力が伝達され、その回転軸の回転により入力歯車70がクランク軸12と一体的に回転する。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0014】
(クランク軸)
本実施形態のクランク軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心部12aを有する偏心体軸である。偏心部12aの軸芯は、クランク軸12の回転中心線に対して偏心している。本実施形態では2個の偏心部12aが設けられ、隣り合う偏心部12aの偏心位相は180°ずれている。
【0015】
クランク軸12は、その入力側がクランク軸軸受34を介して第2キャリヤ20に支持され、その反入力側がクランク軸軸受34を介して第1キャリヤ18に支持される。反入力側のクランク軸軸受34は、第1キャリヤ18のクランク軸孔18hに嵌入・支持され、入力側のクランク軸軸受34は、第2キャリヤ20のクランク軸孔20hに嵌入・支持される。つまり、クランク軸12は、第1キャリヤ18および第2キャリヤ20に対して回転自在に支持されている。クランク軸軸受34は、その構成に特別の制限はないが、この例では、円筒状の転動体を有するころ軸受けである。
【0016】
(内歯歯車)
内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22に一体化された内歯歯車本体16aと、当該内歯歯車本体16aに周方向に間隔を空けて複数形成された各ピン溝に配置された外ピン17と、を有している。外ピン17は、内歯歯車本体16aに回転自在に支持される円筒状のピン部材である。外ピン17は、中空部材であってもよいが、本実施形態では中実部材である。外ピン17は、内歯歯車16の内歯を構成している。内歯歯車16の外ピン17の数(内歯の数)は、外歯歯車14の外歯数よりもわずかだけ(この例では1だけ)多い。
【0017】
(外歯歯車)
外歯歯車14は、複数の偏心部12aのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車14は、偏心ころ32を介して対応する偏心部12aに回転自在に支持される。外歯歯車14には、その軸心からオフセットされた位置に3つのシャフト孔14pと、3つの揺動孔14jと、が所定の間隔で形成されている。
【0018】
シャフト孔14pは、互いに同じ半径方向位置において、120°間隔で設けられる。シャフト孔14pは、軸方向に貫通しており、シャフト部18sが挿通される。シャフト孔14pは、シャフト部18sの外径より大きく形成され、シャフト部18sに接触しない大きさを有する。
【0019】
揺動孔14jは、互いに同じ半径方向位置において、120°間隔で設けられる。揺動孔14jは、軸方向に貫通しており、クランク軸12の偏心部12aが挿通される。揺動孔14jは、偏心部12aの外径より大きく形成され、揺動孔14jと偏心部12aとの間には複数の偏心ころ32が介在する。複数の偏心ころ32は、偏心部12aの周りに略等間隔で配列され、偏心部12aの偏心運動を揺動孔14jに円滑に伝える。
【0020】
外歯歯車14には、軸方向に貫通する中央孔14hが設けられる。外歯歯車14の外周には波形の歯が形成されており、この歯が内歯歯車16と接触しつつ移動することで、中心軸を法線とする面内で外歯歯車14が揺動できるようになっている。
【0021】
(キャリヤ)
キャリヤ18、20は、外歯歯車14の軸方向側部に配置される。キャリヤ18、20には、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14の入力側の側部に配置される第2キャリヤ20と、が含まれる。以下、第1キャリヤ18と、第2キャリヤ20とを総称する場合は「キャリヤ」という。キャリヤは、第1主軸受24、第2主軸受26を介してケーシング22に回転自在に支持されている。キャリヤは全体として中空の円盤状または円筒状をなしている。キャリヤは、クランク軸軸受34を介してクランク軸12を回転自在に支持する。
【0022】
第1キャリヤ18は、第1キャリヤ18の径方向中央に形成された中央孔18kを有する。第2キャリヤ20は、第2キャリヤ20の径方向中央に形成された中央孔20kを有する。第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とは、シャフト部18sを介して連結される。
【0023】
(シャフト部)
シャフト部18sを説明する。シャフト部18sは、第1キャリヤ18から第2キャリヤ20に向かって軸方向に延びる柱状の部分であり、第1キャリヤ18と一体的に形成される。シャフト部18sは、外歯歯車14(第1キャリヤ18)の軸芯から径方向にオフセットした位置に複数(本実施形態では3本)設けられる。シャフト部18sは、外歯歯車14に貫通形成されたシャフト孔14pに隙間を有した状態で挿通される。
【0024】
シャフト部18sの端部は、第2キャリヤ20の反入力側の端面に接しており、第2キャリヤ20に固定される。歯車装置100は、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20の連結位置決めをするためのノックピン36と、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20とを連結する連結ボルト40とを有する。シャフト部18sは、第2キャリヤ20に固定される際、ノックピン36により位置決めされ、連結ボルト40によって固定される。
【0025】
ノックピン36と連結ボルト40とは周方向に離隔して配置される。ノックピン36は、連結ボルト40よりも径方向内側に配置されている。この場合、連結ボルト40が径方向外側に配置されることにより、連結ボルト40のピッチ円径を大きくして、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20の連結強度を向上させることができる。これらの連結強度が向上することで、ノックピン36にかかる曲げ応力を緩和できる。ノックピン36にかかる曲げ応力については後述する。
【0026】
シャフト部18sは、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20との間の連結に寄与する連結部として機能する。第1キャリヤ18のシャフト部18sは、ノックピン36が挿入される第1ノックピン孔18aを有し、第2キャリヤ20は、ノックピン36が挿入される第2ノックピン孔20aを有する。以下、第1ノックピン孔18aと、第2ノックピン孔20aとを総称する場合は「ノックピン孔」という。
【0027】
一例として、ノックピン36は、両端部に面取りが施された円柱状のピンであり、その長さの半分程度まで第1キャリヤ18の第1ノックピン孔18aに圧入されてもよい。圧入された残り半分のノックピン36は、位置決めされて第2キャリヤ20の第2ノックピン孔20aに圧入される。ノックピン孔については後に詳述する。
【0028】
(ケーシング)
ケーシング22は、全体として中空の筒状をなし、その内周部には内歯歯車16が設けられる。ケーシング22の外周部には、フランジ22fが設けられる。フランジ22fには、貫通孔22hやタップ孔22jが設けられる。これらの孔は、ケーシング22と外部部材や被駆動装置を連結するために用いられる。
【0029】
ケーシング22には、第1主軸受24の外輪を収容する凹部22mと、第2主軸受26の外輪を収容する凹部22nと、が設けられる。ケーシング22とキャリヤとは、第1主軸受24と第2主軸受26とを介して、互いに相対回転可能に構成される。
【0030】
(主軸受)
主軸受24、26は、第1キャリヤ18とケーシング22の間に配置される第1主軸受24と、第2キャリヤ20とケーシング22の間に配置される第2主軸受26とを含む。本実施形態の主軸受24、26は、複数の転動体28と、リテーナ(不図示)を備える。複数の転動体28は、周方向に間を置いて設けられる。本実施形態の転動体28は球体である。リテーナは、複数の転動体28の相対位置を保持するとともに複数の転動体28を回転自在に支持する。主軸受24、26は、ころ軸受であってもよいし、クロスローラベアリングであってもよい。
【0031】
本実施形態の主軸受24、26は、転動体28の転動面を有する外輪30を備え、内輪を備えない。主軸受24、26の内側転動面は、内輪の代わりに、キャリヤ18、20の外周面に設けられる。外輪30は、隙間嵌め、締まり嵌めあるいは中間嵌め等の嵌め合いにより、ケーシング22に固定される。第1キャリヤ18とケーシング22の間には、オイルシール22sが設けられる。オイルシール22sは、第1主軸受24の反入力側に配置される。
【0032】
第1キャリヤ18とケーシング22の一方は、被駆動装置に回転動力を出力する出力部材として機能し、他方は歯車装置100を支持するための外部部材に固定される被固定部材として機能する。例えば、第1キャリヤ18を出力部材とし、ケーシング22を被固定部材とする場合、第1キャリヤ18の中央孔18kに被駆動装置の入力軸が連結されてもよい。
【0033】
次に、図2図5を参照して、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20の連結構造を説明する。図2は、ノックピン孔の周辺を拡大して示す拡大図である。この図は、図1中の円Eで指す部分を拡大して示しており、ノックピン36の記載を省略している。第1ノックピン孔18aは、開口部周縁18eに第1面取り部18fを有し、第2ノックピン孔20aは、開口部周縁20eに第2面取り部20fを有する。以下、第1面取り部18fと、第2面取り部20fとを総称する場合は「面取り部」という。第1面取り部18fの軸方向寸法をH1、第2面取り部20fの軸方向寸法をH2という。以下、軸方向寸法H1、H2を総称する場合は「面取り寸法」ということがある。
【0034】
本発明者は、軸方向に連結された第1キャリヤ18と第2キャリヤ20を有する歯車装置100を研究し以下の知見を得た。
【0035】
図3図4は、ノックピン孔の面取り寸法とノックピン36に加わる曲げ応力Sbの関係を示す模式図である。図3は面取り寸法が小さい場合を示し、図4は面取り寸法が大きい場合を示す。第1キャリヤ18が加速または減速すると、これに僅かに遅れて第2キャリヤ20が追従して加速または減速する。このように第2キャリヤ20が第1キャリヤ18に追従して加減速するとこれらの間にねじれが生じ、ノックピン36に曲げ応力Sbが加わる。つまり、歯車装置100を始動、停止するときに曲げ応力Sbがノックピン36に加わる。大きな曲げ応力Sbが繰返し加わると、ノックピン36は疲労して折損することが考えられる。
【0036】
検討の結果、曲げ応力Sbは、ノックピン孔の面取り寸法によって異なることがわかった。つまり、図3図4に示すように、ノックピン36にかかる曲げ応力Sbは、面取り寸法が小さいときに小さく、面取り寸法が大きいときに大きくなり、この差によりノックピン36の耐久性が変化するといえる。
【0037】
この知見に基づき、本発明者は、ノックピン孔の面取り寸法とノックピン36の耐久性との関係を検討した。図5は、ノックピン孔の面取り寸法と耐久性との関係を示すグラフである。このグラフは、試験用の負荷トルク(例えば、許容負荷トルク)を加えた状態で歯車装置100の始動と停止とを繰り返すON-OFF試験において、ノックピン36が折損に至るまでの繰返サイクル数(以下、「許容サイクル数」という。)を示している。このグラフの横軸はノックピン孔の軸方向寸法H1、H2の和Hwを示し、縦軸は折損に至る繰返サイクル数を示している。
【0038】
このグラフから、軸方向寸法H1、H2の和Hwが0.9mmである場合に許容サイクル数は12000回で、和Hwが1.0mmの場合に許容サイクル数は5250回と半分以下になる。また、和Hwが0.8mmの場合の許容サイクル数は14532回で、和Hwが0.7mmの場合の許容サイクル数は15250回であり、和Hwが0.9mmの場合と大差ない。つまり、和Hwが0.9mm以下では、許容サイクル数は15000回程度で飽和する傾向にある。なお、面取り部の加工を容易にする観点から、和Hwは0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上であってもよい。
【0039】
また、図5に示すように、和Hwが1.1mmの場合の許容サイクル数は4500回であり、和Hwが1.0mmの場合と大差ない。つまり、和Hwが1.0mm以上では、許容サイクル数は5000回程度で飽和する傾向にある。これらから、和Hwが0.9mm以下である場合に和Hwが1.0mm以上の場合に比べてノックピン36の耐久性が高いといえる。
【0040】
本発明者は、さらに、軸方向寸法H1、H2の一方を大きくして他方を小さくした組合せにより、上述と同様のON-OFF試験を行った。この結果、軸方向寸法H1、H2の大小の組み合わせに関わらず、上述と同様に、和Hwが0.9mm以下である場合に、和Hwが1.0mm以上の場合に比べてノックピン36の耐久性が高いことが確認された。つまり、和Hwが0.9mm以下であれば、軸方向寸法H1、H2は任意に設定しうるといえる。これは、ノックピン36には、面取りの一方の角部を支点とし、他方の角部を作用点として曲げ応力が加わるので、これらの角部間の距離(=和Hw)が同じであれば、曲げ応力の大きさは殆ど変わらないためと考えられる。
【0041】
一例として、ノックピン孔の面取り部は、ドリル加工やフライス加工等の機械加工により形成できる。面取り部の軸方向寸法H1、H2が大きくなると、それに応じてこの加工の加工時間が長くなる。このため、軸方向寸法H1は0.45mm以下、且つ、軸方向寸法H2は0.45mm以下であってもよい。この場合、軸方向寸法が大きい構成より加工時間を短縮できる。
【0042】
本発明者はさらに、大きさが互いに異なる歯車装置A、B、Cについて、上述と同様のON-OFF試験を行った。歯車装置A、B、Cは本実施形態と同様の構成を有するとともに、許容負荷トルクにおいて、歯車装置Bは歯車装置Aの5倍、歯車装置Cは歯車装置Aの20倍である。また、ノックピンの直径において、歯車装置Bは歯車装置Aの1.4倍、歯車装置Cは歯車装置Aの2倍である。
【0043】
この試験の結果、歯車装置A、B、Cについて、上述と同様に、和Hwが0.9mm以下である場合に、和Hwが1.0mm以上の場合に比べてノックピンの耐久性が高いことが確認された。このように、歯車装置の大きさに関わらず同じ結果が得られるのは、歯車装置が大きくなるにつれて、許容負荷トルクとノックピンの直径とがともに大きくなるため、これらが大きくなることの影響が互いに打消し合うためと考えられる。したがって、大きさの異なる歯車装置にも同じ大きさの面取り部を適用できる。
【0044】
図2を参照して、面取り部の傾斜角を説明する。第1および第2面取り部18f、20fの軸方向となす角度θ1、θ2が小さすぎると、ノックピン36の圧入時にかじりが発生しやすくなる。また、角度θ1、θ2が大きすぎると、面取り部のガイドとしての機能が損なわれ、圧入しにくくなる。これらから、本実施形態では、角度θ1、θ2を30°~60°の範囲内に設定している。この範囲であれば、圧入時のかじりを抑制でき、実用的な生産性を実現できる。
【0045】
以上のように構成された歯車装置100の動作を説明する。駆動装置から回転軸に回転動力が伝達されると、回転軸から複数の入力歯車70に回転動力が振り分けられ、各入力歯車70が同じ位相で回転する。各入力歯車70が回転すると、クランク軸12の偏心部12aがクランク軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより偏心ころ32を介して外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の外ピン17の噛合位置が順次ずれる。この結果、クランク軸12が一回転する毎に、外歯歯車14の歯数と内歯歯車16の外ピン17の数との差に相当する分、外歯歯車14および内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態では、外歯歯車14が自転し、第1キャリヤ18から減速回転が出力される。
【0046】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0047】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0048】
[変形例]
実施の形態の説明では、歯車装置100が振り分けタイプの偏心揺動型減速装置である例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、歯車装置100は、クランク軸12の回転中心線が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸線上に設けられるセンタークランクタイプの偏心揺動型減速装置であってもよいし、単純遊星歯車装置等、異なる構成を有する歯車装置であってもよい。
【0049】
実施の形態の説明では、クランク軸12および入力歯車70の数を3つとしたが、本発明はこれに限定されない。クランク軸12および入力歯車70の数は1、2または4以上であってもよい。
【0050】
実施の形態の説明では、外歯歯車14を2枚備える例を示したが、本発明はこれに限定されない。3枚以上の外歯歯車14を備えてもよい。例えば、クランク軸には、それぞれ120°ずつ位相がずれた3つの偏心部12aを設け、この3つの偏心部12aに揺動される3枚の外歯歯車14を備えてもよい。また、外歯歯車14は1枚であってもよい。
【0051】
実施の形態の説明では、第2主軸受26および第1主軸受24が内輪を有しない例を示したが、本発明はこれに限定されない。第2主軸受26と、第1主軸受24との一方または双方は、内輪を有する軸受であってもよい。
【0052】
上述の各変形例は上述の実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0053】
上述した実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0054】
14・・・外歯歯車、16・・・内歯歯車、18・・・第1キャリヤ、18a・・・第1ノックピン孔、18e・・・開口部周縁、18f・・・第1面取り部、20・・・第2キャリヤ、20a・・・第2ノックピン孔、20e・・・開口部周縁、20f・・・第2面取り部、36・・・ノックピン、40・・・ボルト、40・・・連結ボルト、100・・・歯車装置、H1、H2・・・軸方向寸法。
図1
図2
図3
図4
図5