(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】成膜装置用部品及びこれを備えた成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 4/08 20160101AFI20240111BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
C23C4/08
C23C14/00 B
(21)【出願番号】P 2019098647
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】598006336
【氏名又は名称】アルバックテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】門脇 豊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敏伸
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 仁栄
(72)【発明者】
【氏名】高山 孝信
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3149859(JP,U)
【文献】国際公開第2011/052640(WO,A1)
【文献】特開2005-248296(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035599(WO,A1)
【文献】特開2002-363728(JP,A)
【文献】特開2005-350715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C4/00-4/18
C23C14/00-14/58
C23C16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜雰囲気に晒される表面に、4.81~11.6at%のSiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)または1.1~2.9at%のTiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)からなる溶射膜が形成された成膜装置用部品であって、
前記成膜装置用部品の前記表面には、単層のみの前記溶射膜が形成され、
前記溶射膜上には、別の溶射膜が追加的に積層されず、
前記溶射膜の表面粗さRa[μm]が50~70の範囲内であり、
前記溶射膜の密着力[N/mm
2]が6以上であることを特徴とする成膜装置用部品。
【請求項2】
成膜室と、前記成膜室内に配置され、表面に溶射膜が形成された成膜装置用部品とを備えた成膜装置であって、
前記溶射膜は、4.81~11.6at%のSiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)または1.1~2.9at%のTiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)からなり、
前記成膜装置用部品には、単層のみの前記溶射膜が形成され、
前記溶射膜上には、別の溶射膜が追加的に積層されず、
前記溶射膜の表面粗さRa[μm]が50~70の範囲内であり、
前記溶射膜の密着力[N/mm
2]が6以上であることを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着した膜の密着性や剥離応力緩和効果に優れた成膜装置用部品及びこれを備えた成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製品は、減圧雰囲気とされた成膜室内において、各種の被膜形成方法(たとえば、スパッタリング法やCVD法など)を用い、被処理体(たとえば、Si基板など)上に各種の被膜を形成することにより製造される。その際、目的とする被処理体に形成される被膜は、成膜室内において、成膜時に被処理体の周りに存在する、各種の成膜装置用部品にも、当該被膜が付着することは避けられない。
【0003】
このような現象は、成膜の回数(バッチ数)が増えるほど顕在化する。すなわち、被処理体は通常、1つの成膜操作ごとに交換されるのに対して、被処理体の周りに存在する各種の成膜装置用部品は、成膜操作ごとに交換されない。これにより、成膜操作を繰り返すにつれて、成膜装置用部品上には、成膜の回数(バッチ数)分だけ、付着した被膜が重なった状態、すなわち厚膜が堆積された状態となる。そのため、成膜装置用部品に付着した被膜は、密着性の臨界点を超えると、剥離、脱落し、微粒子、塵埃などのパーティクルと称されるものになり、これが成膜室内に浮遊し、成膜室内を汚染する。このようなパーティクルが半導体製品の中に取り込まれると、半導体製品の歩留まりを大きく低下させる虞があった。
【0004】
この問題を解消するため、従来の成膜装置では、成膜室内に配置される成膜装置用部品の表面に、各種の溶射膜を設けた仕様のものが用いられている(特許文献1)。
溶射膜は一般に、ブラスト(Blast)処理表面に比べてその表面粗さが大きいので、溶射膜上に付着した被膜(以下、付着膜と呼ぶ)はアンカー効果を得やすいことが知られている。また、溶射膜は付着膜との接触面積が大になることから剥離し難くなる傾向がある。さらに、溶射膜はある程度の空孔率を有しており、その空孔の存在によってやや変形し易く、その度合いに応じて付着膜の剥離応力が緩和されることも公知である。
【0005】
しかしながら、付着膜が内部応力の高いスパッタ膜に対しては、必ずしも満足な効果が得られていなかった。すなわち、前述したように、スパッタ膜が繰り返し堆積され厚膜化されたが状態になると、成膜装置用部品に付着したスパッタ膜は、密着性の臨界点を超え易くなり、剥離、脱落し、微粒子、塵埃などのパーティクルが発生し、これが成膜室内に浮遊し、成膜室内を汚染する問題が顕在化する。
このため、内部応力の高い付着膜に対して、剥離や脱落の発生が起こりにくい成膜装置用部品及びこれを備えた成膜装置の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、内部応力の高い付着膜に対して、剥離や脱落の発生が起こりにくい成膜装置用部品及びこれを備えた成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、成膜雰囲気に晒される表面に、4.81~11.6at%のSiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)または1.1~2.9at%のTiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)からなる溶射膜が形成された成膜装置用部品であって、前記成膜装置用部品の前記表面には、単層のみの前記溶射膜が形成され、前記溶射膜上には、別の溶射膜が追加的に積層されず、前記溶射膜の表面粗さRa[μm]が50~70の範囲内であり、前記溶射膜の密着力[N/mm2]が6以上であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、成膜室と、前記成膜室内に配置され、表面に溶射膜が形成された成膜装置用部品とを備えた成膜装置であって、前記溶射膜は、4.81~11.6at%のSiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)または1.1~2.9at%のTiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)からなり、前記成膜装置用部品には、単層のみの前記溶射膜が形成され、前記溶射膜上には、別の溶射膜が追加的に積層されず、前記溶射膜の表面粗さRa[μm]が50~70の範囲内であり、前記溶射膜の密着力[N/mm
2
]が6以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の成膜装置用部品は、成膜雰囲気に晒される表面に、4.81~11.6at%のSiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)または1.1~2.9at%のTiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)からなる溶射膜が形成されており、前記溶射膜の表面粗さRa[μm]が50~70の範囲内であり、前記溶射膜の密着力[N/mm
2
]が6以上である。これにより、内部応力の高い付着膜に対して、剥離や脱落の発生が起こりにくい成膜装置用部品が得られる。
【0011】
請求項2に記載の成膜装置は、成膜室内に配置される成膜装置用部品が、表面に溶射膜が形成されおり、前記溶射膜は、4.81~11.6at%のSiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)または1.1~2.9at%のTiを含有するAl合金(ただし、Bi、CeおよびMgを含有することを除く)からなり、前記溶射膜の表面粗さRa[μm]が50~70の範囲内とし、前記溶射膜の密着力[N/mm
2
]を6以上とした。これにより、成膜装置用部品の表面に設けた溶射膜は、内部応力の高い付着膜に対して、剥離や脱落が生じにくくなるので、パーティクルの発生が抑制される。本発明は、特に付着膜が内部応力の高いスパッタ膜に対しても、この効果が得られる成膜装置の提供に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る成膜装置の一例を示す概略構成図。
【
図2】本発明の実施形態に係る成膜装置用部品の一例を示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態に係る成膜装置10の一例としてスパッタリング装置を示す概略構成図である。真空槽1は全体としてステンレス(たとえば、SUS304)にて作製されており、真空槽1の内部空間が成膜室20を構成している。成膜室20には、プロセスガス供給手段(不図示)に繋がるプロセスガスの導入管8と、これに対向する位置に真空排気手段(不図示)に繋がる排気管9が接続されている。真空槽1の内部空間である成膜室20は、排気管9を通じて排気手段(不図示)によって真空排気される。
【0014】
成膜室20には、高周波電源2に電気的に接続されカソードとして機能するターゲットTと、アノードとして機能する基板ホルダ4とが平行に対向して配置される。ターゲットTの背後には、中央部に円柱状の磁石6が、外周部には円環状の磁石6’が、互いに極性が逆になるように配置され、磁力線の一部がターゲットTの表面上に漏洩し、当該表面と平行をなしている。基板ホルダ4には基板Wが載置され、バイアス電源(不図示)が電気的に接続されている。基板ホルダ4の背後には、基板Wを所定の温度に制御する温度制御手段5が配置されている。
【0015】
基板WとターゲットTとの間には、基板Wと水平をなす面内において回転可能とされ、基板Wに対する成膜が可能な位置と、成膜を遮蔽する位置とに、その位置を変更するように、シャッター板7が配置されている。シャッター板7はステンレス(たとえば、SUS340)にて作製されている。
【0016】
シャッター板7は、本実施形態に係る成膜装置用部品の一つである。
図2はシャッター板7の要部拡大断面図である。シャッター板7は、成膜室20において成膜雰囲気に晒される表面に、AlまたはAl合金からなる溶射膜3が形成されている。そして、その溶射膜3の表面粗さRa[μm]は50~70の範囲内とされている。
【0017】
溶射膜3がAl合金の場合は、添加元素がSiまたはTiが好ましい。溶射膜3がCu合金の場合、添加元素はAlが好ましい。
【0018】
溶射法としては、アーク溶射法や、フレーム溶射法、プラズマ溶射法などを用いることができるが、本発明を実現するためにはアーク溶射法が好ましい。アーク溶射法によれば、表面粗さRa[μm]が50~70の範囲内であり、かつ、密着力[N/mm
2
]が6以上である、溶射膜3が形成できる。これにより、内部応力の高い付着膜に対して、剥離や脱落の発生が起こりにくい成膜装置用部品が得られる。
【0019】
図3は、アーク溶射法を説明する模式図である。
アーク溶射とは、矢印の方向に連続的に送給される2本の溶射材料(Spray coating wire)の先端で直流アーク放電を発生させるために、当該2本の溶射材料の間に、所定の電圧/電流を印加することにより、当該2本の溶射材料の先端近傍にアーキング(Arcing)を発生させる。同時に、吹き付けガス(Compressor Air)を用い、アーキングによって溶融した金属を噴霧化(Atomizing)する。この噴霧化された粒子(Arc spray particles)を、エアーキャップ(Air Cap)に設けた開口部を通して、対象基材(不図示)に吹き付けることにより、対象基材(不図示)上に堆積させて、所望の溶射膜3が形成される。吹き付けガスとしては、たとえば、空気や窒素ガス、アルゴンガスなどが好適に用いられる。
【0020】
本発明者らは、エアーキャップに設けた開口部の穴径については、次の傾向があることを見出し、本発明の好適な条件を選定した。
エアーキャップに設けた開口部の穴径は、小さければ小さいほど、エアーキャップ内の圧力が上昇し、微細な噴霧化が可能となる。これにより、対象基材上に形成された溶射膜3は、表面粗さが小さく、密着力が高い傾向となる。
これに対して、エアーキャップに設けた開口部の穴径を大きくすると、エアーキャップ内の圧力が下がり、噴霧化が進まなくなる。このため、対象基材上に形成された溶射膜3は、表面粗さが大きく、密着力が低下する傾向となる。
【0021】
本発明者らは、二律背反する条件、すなわち、表面粗さが大きく、密着力が高い傾向となる溶射膜3を作製する溶射条件を検討した。
このような範囲の表面粗さRaや密着力を備えたAlからなる溶射膜3を作製するための溶射条件としては、Air capの穴径は大きい方が好ましい。電圧は安定したアーキングできる範囲で小さい方が好ましい。ガス圧は溶射膜3の密着力の低下が生じない範囲で低い方が望ましい。具体的には、電圧[V]は30~33、電流[A]は150~200、ガス種は空気、アルゴンあるいは窒素、ガス圧[bar]は28~35、Air capの穴径[mm]はφ12~14、が各々好適である。
【0022】
上述したアーク溶射法によりAlまたはAl合金からなる溶射膜3を形成する際に用いる基材としては、たとえば、SUS、Al、Ti、各種セラミクスが挙げられる。基材の表面粗さRa[μm]は3~8の範囲内が好ましい。
【0023】
以上のように構成された成膜装置10において、成膜室20内を例えば10-3~10-1Pa程度のアルゴン雰囲気に保ち、高周波電源2によってターゲットTに高周波電力を印加することにより、ターゲットTの上方の電界と磁界が直交している部分で効果的にグロー放電が生起され円環状にプラズマが発生する。このプラズマ中のAr+イオンがカソードであるターゲットTの近傍で加速されてターゲットTの表面に衝突し、ターゲット原子をスパッタするので、スパッタされた粒子はアノードである基板ホルダ4の基板W上に付着して目的とする薄膜を形成させる。
【0024】
シャッター板7は、スパッタリングの開始時点ではターゲットTと基板Wとの間を閉じており、シャッター板7にはスパッタされた粒子の膜が付着する。スパッタリングが定常状態に達するとシャッター板7を回転させてターゲットTと基板Wとの間を開とすることにより、基板Wの面に成膜が開始される。このときにも、基板Wの近傍にあるシャッター板7に同様な成膜がされる。
【0025】
基板Wは所定の膜厚に形成されると、次の基板に交換してスパッタリングは継続される。シャッター板7はそのまま継続して使用されるためにスパッタリングが繰り返されていくとシャッター板7に付着した膜は徐々に厚くなっていくが、本実施形態では、上述したようにシャッター板7の表面に、Alからなる溶射膜3が形成されているので、その溶射膜3に対する付着膜の密着性を高め、さらに剥離応力を緩和することができ、付着膜を剥離しにくくできる。この結果、付着膜の剥離に起因して生じるパーティクルによる成膜室20内の汚染を抑制できる。上記構成の溶射膜3は、特に、剥離の原因となる内部応力が比較的大きな、Ta膜、TaN膜、Ti膜、TiN膜、W膜、WN膜、WSi膜、SiN膜、およびそれらの積層膜の付着に対して有効である。
【0026】
さらに、上記構成の溶射膜3は大気中に置かれても酸化しにくく上述の特性を長期間維持できる。この結果、成膜装置のメンテナンス周期の長期化が図れ、成膜装置の稼働率を向上でき生産性を高められる。
【0027】
なお、上述したアーク溶射法を検討するに前に、本発明者らは、比較のために、フレーム溶射法とプラズマ溶射法についても調査した。その結果、以下の傾向があることが確認された。
フレーム溶射法は、ワイヤーを溶かしながら吹き付ける方法のため、任意に溶融量を調節することが困難である。このため、対象基材上に形成された溶射膜3は、表面粗さが小さく、表面プロファイルが整ったものとなる。
プラズマ溶射法は、使用する材料が数十~百μm程度の粒子を用い、プラズマ(plasma)の炎で溶融させて吹き付け、対象基材上に堆積して溶射膜3を形成する。その際、粒子はプラズマの高い熱量で完全に溶融し高い熱量を持っている。このため、対象基材上に堆積する際には、粒子は大きく扁平し、表面粗さが小さく、表面プロファイルが整った溶射膜3が形成される。
【0028】
したがって、フレーム溶射法とプラズマ溶射法においては、上述した本発明の二律背反する条件、すなわち、表面粗さが大きく、密着力が高い傾向となる溶射膜3を作製する溶射条件が得られないことが分かった。具体的には、フレーム溶射法とプラズマ溶射法では、表面粗さRaが8~20μm程度の溶射膜3しか得られない。溶射膜3の粗面化には、本発明のアーク溶射法が必須であることが確認された。
【0029】
<実施例1>
実施例1は、平面寸法80mm×100mm、厚さ2mmのSUS304製基材を用い、その表面に、アーク溶射法を用いてAl単体からなる溶射膜3(厚さ350μm)を形成した。SUS304製基材の表面には、溶射膜の形成前に、予め、アンカー効果が得られるようにドライブラスト処理を行い、表面を荒らした。溶射法はアーク溶射法にて行った。後述する表1に示す溶射条件の異なる4つの試料(Al-1、Al-2、Al-3、Al-4)を作製した。
また、これらとは別に、添加元素がSiまたはTiのAl合金からなる溶射膜も作製した。その際、Siの含有率は4.81~11.6at%、Tiの含有率は1.1~2.9at%の範囲内とした。
【0030】
<比較例1>
比較例1は、実施例1と同基材の表面にAl単体からなる溶射膜を、フレーム溶射法により同様の厚さ(厚さ350μm)となるように形成した。後述する表1に示す1つの試料(Ref.Flame Al)を作製した。
【0031】
<実施例2>
実施例2は、実施例1と同じ基材を用い、その表面に、アーク溶射法を用いてCu-Al合金からなる溶射膜3(厚さ350μm)を形成した。Cu-Al合金の組成は、Cu-7.9at%Alとした。基材の表面には、実施例1と同様に、溶射膜の形成前に、予め、アンカー効果が得られるようにドライブラスト処理を行い表面を荒らした。溶射法はアーク溶射法にて行った。後述する表1に示す溶射条件の異なる2つの試料(Cu-Al-1、Cu-Al-2)を作製した。
また、これらとは別に、添加元素を含まないCu膜(Cu単体からなる溶射膜)とCu-Al合金からなる溶射膜も作製した。その際、Cu-Al合金からなる溶射膜は、Alの含有率を6.7~11.1at%の範囲内とした。
【0032】
以下に示す表1は、実施例1、比較例1、実施例2において作製した各試料の作製条件と形成した溶射膜の評価である。表面粗さRaの評価は、触針式表面粗さ測定機(東京精密社製、型番:SURFCOM TOUCH50)を用い、JISB0601(1994)に規定される条件で行った。密着力の評価は、プルオフ式付着性試験機(ELCOMETER社製、型番:510)を用い、JISK5600-5-7に規定される条件にて行った。
【0033】
【0034】
形成した溶射膜の評価より、以下の点が明らかとなった。
(a1)アーク溶射法を用いることにより、フレーム溶射法で作製された試料より、Raが大きく、かつ、密着力の大きな溶射膜を形成することができる(試料番号1と試料番号2の比較)。
(a2)Al単体からなる溶射膜では、表面粗さ[μm]が15~70の範囲内であり、かつ、密着力[N/mm
2
]が6.51~7.11の範囲内となる(試料番号2~5)。
(a3)Cu-Al合金からなる溶射膜では、表面粗さ[μm]が20~60の範囲内であり、かつ、密着力[N/mm
2
]が6.08~8.82の範囲内となる(試料番号6~7)。
(a4)溶射膜の表面粗さが、上記範囲を超えた場合には、溶射膜の強度が低下し、溶射粒子の脱落が起こるようになり、パーティクルの発生量が増加することが分かった。
(a5)溶射膜の膜厚は、300~600μmなければ、所望の表面粗さが確保できない(試料番号2と試料番号3~5の比較)。
(a6)密着力の評価結果より、溶射膜の膜厚を増やすことで、応力吸収量が増加する(強度の高い溶射膜が得られる)ことが分かった。
【0035】
表1には示さないが、Raが70μmより大きい粗さになると、溶射粒子間の密着性を確保することが難しくなることが確認された。
また、表1には示さないが、添加元素がSiまたはTiのAl合金からなる溶射膜においても、上述したAl単体からなる溶射膜(試料番号2~5)と同様の結果が得られた。また、Cu単体からなる溶射膜においても、上述したCu-Al合金からなる溶射膜(試料番号6~7)と同様の結果が得られた。
【0036】
以上の評価結果より、アーク溶射法を用いて形成された本発明に係るAl単体またはAl合金からなる溶射膜は、従来のフレーム溶射法により形成されたAl単体からなる溶射膜に比べて、表面粗さが大きく、かつ、密着力が大きいことが分かった。これにより、本発明に係るAl単体またはAl合金からなる溶射膜を備えることにより、長期間にわたって、付着膜との高い密着性及び高い剥離応力緩和効果を安定して得られる。
また、アーク溶射法を用いて形成された本発明に係るCu単体またはCu合金からなる溶射膜についても、Al単体またはAl合金からなる溶射膜と同様の作用・効果が確認された。
ゆえに、本発明は、内部応力の高い付着膜に対して、剥離や脱落の発生が起こりにくい成膜装置用部品及びこれを備えた成膜装置の提供に貢献する。
【0037】
本実施形態の溶射膜を用いることで、スパッタリング装置において成膜室内を汚染させるようなパーティクルを生じさせるまでの積算電力が従来はTi/W積層膜において75kWh、W/WN積層膜において300kWhだったものを、Ti/W積層膜において150kWh、W/WN積層膜において600kWhまで延ばすことを可能になった。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることな
く、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0039】
本発明はスパッタリング装置に限らず、CVD装置、蒸着装置などその他の成膜装置にも適用可能である。また、成膜時の雰囲気は減圧下に限らず、大気圧下であってもよい。
【0040】
本発明に係る成膜装置用部品としては、シャッター板に限らず、シャワープレート、防着板、マスク、アースシールド、基板ホルダなどが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、内部応力の高い付着膜に対して、剥離や脱落の発生が起こりにくい成膜装置用部品及びこれを備えた成膜装置に、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 真空槽、3 溶射膜、7 成膜装置用部品(シャッター板)、10 成膜装置、20 成膜室、T ターゲット、W 基板。