IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャープ株式会社の特許一覧

特許7417378冷媒漏洩検知システムおよび冷媒漏洩検知方法
<>
  • 特許-冷媒漏洩検知システムおよび冷媒漏洩検知方法 図1
  • 特許-冷媒漏洩検知システムおよび冷媒漏洩検知方法 図2
  • 特許-冷媒漏洩検知システムおよび冷媒漏洩検知方法 図3
  • 特許-冷媒漏洩検知システムおよび冷媒漏洩検知方法 図4
  • 特許-冷媒漏洩検知システムおよび冷媒漏洩検知方法 図5
  • 特許-冷媒漏洩検知システムおよび冷媒漏洩検知方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-10
(45)【発行日】2024-01-18
(54)【発明の名称】冷媒漏洩検知システムおよび冷媒漏洩検知方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/36 20180101AFI20240111BHJP
   F25B 49/02 20060101ALI20240111BHJP
   F24F 11/49 20180101ALI20240111BHJP
   F24F 11/54 20180101ALI20240111BHJP
   F24F 11/58 20180101ALI20240111BHJP
   F24F 11/64 20180101ALI20240111BHJP
   F24F 11/70 20180101ALI20240111BHJP
   F24F 110/10 20180101ALN20240111BHJP
   F24F 110/12 20180101ALN20240111BHJP
   F24F 110/20 20180101ALN20240111BHJP
   F24F 140/00 20180101ALN20240111BHJP
【FI】
F24F11/36
F25B49/02 520Z
F24F11/49
F24F11/54
F24F11/58
F24F11/64
F24F11/70
F24F110:10
F24F110:12
F24F110:20
F24F140:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019145375
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021025726
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 孝二
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/033240(WO,A1)
【文献】特開2016-065660(JP,A)
【文献】特開2013-087966(JP,A)
【文献】特開2018-155426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/36
F25B 49/02
F24F 11/49
F24F 11/54
F24F 11/58
F24F 11/64
F24F 11/70
F24F 110/10
F24F 110/12
F24F 110/20
F24F 140/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張弁を有する空気調和機と、
インターネット回線を通じて空気調和機と接続可能なサーバと、
前記空気調和機から前記サーバに送信される当該空気調和機の運転状態データを蓄積するデータ蓄積装置とを備えており、
前記運転状態データには、少なくとも前記空気調和機における膨張弁開度がデータとして含まれるものであり、
前記サーバは、
所定期間において前記データ蓄積装置に蓄積された複数の前記膨張弁開度から、前記所定期間に含まれる複数の日それぞれにおける複数の前記膨張弁開度を抽出し、
前記複数の日に前記データ蓄積装置に蓄積された複数の前記膨張弁開度から、前記複数の日それぞれにおける最大膨張弁開度を算出し、
前記複数の日それぞれにおける最大膨張弁開度に基づいて、前記最大膨張弁開度が前日における前記最大膨張弁開度よりも増加している開度上昇状態である否かを判定し、前記開度上昇状態が所定日数連続すると上昇傾向にあると判定し、かつ、前記最大膨張弁開度が第1閾値以上である日が前記開度上昇状態が連続している上昇期間に複数存在する場合に、冷媒が漏洩していると判断することを特徴とする冷媒漏洩検知システム。
【請求項2】
膨張弁を有する空気調和機と、
インターネット回線を通じて空気調和機と接続可能なサーバと、
前記サーバに送信された前記空気調和機の運転状態データを蓄積するデータ蓄積装置とを備えており、
前記運転状態データには、少なくとも前記空気調和機における膨張弁開度がデータとして含まれるものであり、
前記サーバは、
所定期間において前記データ蓄積装置に蓄積された複数の前記膨張弁開度から、前記所定期間に含まれる複数の日それぞれにおける複数の前記膨張弁開度を抽出し、
前記複数の日に前記データ蓄積装置に蓄積された複数の前記膨張弁開度から、前記複数の日それぞれにおける最大膨張弁開度を算出し、
前記複数の日それぞれにおける最大膨張弁開度に基づいて、前記最大膨張弁開度が前日における前記最大膨張弁開度よりも増加している開度上昇状態である否かを判定し、前記開度上昇状態が所定日数連続すると上昇傾向にあると判定し、かつ、前記開度上昇状態が連続している上昇期間における最大の前記最大膨張弁開度が、上昇前の前記最大膨張弁開度である前記上昇期間の最小の前記最大膨張弁開度よりも第2閾値以上増加している場合に、冷媒が漏洩していると判断することを特徴とする冷媒漏洩検知システム。
【請求項3】
膨張弁を有する空気調和機から取得したある時点における前記膨張弁の開度を示す膨張弁開度データから、複数の1日以上の所定期間である抽出期間それぞれについて、前記時点が前記抽出期間に含まれる複数の前記膨張弁開度データを抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した複数の前記抽出期間それぞれにおける前記複数の前記膨張弁開度データから、複数の前記抽出期間それぞれにおける最大膨張弁開度を算出する算出部と、
前記算出部が算出した複数の前記抽出期間それぞれにおける前記最大膨張弁開度に基づいて、
前記最大膨張弁開度が直前の前記抽出期間の最大膨張弁開度よりも増加している開度上昇状態が所定期間連続する場合に、冷媒が漏洩していると判断する判断部と、
を備えることを特徴とする冷媒漏洩検知システム。
【請求項4】
請求項3に記載の冷媒漏洩検知システムであって、
前記判断部は、さらに前記所定期間における最大の前記最大膨張弁開度が所定の値以上の場合に、冷媒が漏洩していると判断することを特徴とする冷媒漏洩検知システム。
【請求項5】
ある時点における膨張弁の開度を示す膨張弁開度データを複数取得するステップと、
複数の1日以上の所定期間である抽出期間それぞれについて、複数の前記膨張弁開度データから前記時点が前記抽出期間に含まれる前記膨張弁開度データを抽出するステップと、
抽出した複数の前記抽出期間それぞれにおける複数の前記膨張弁開度データから、複数の前記抽出期間それぞれにおける最大膨張弁開度を算出するステップと、
算出した前記抽出期間それぞれにおける前記最大膨張弁開度に基づいて、
前記最大膨張弁開度が直前の前記抽出期間の最大膨張弁開度よりも増加している開度上昇状態が所定期間連続する場合に、冷媒が漏洩していると判断するステップと、
を備えることを特徴とする冷媒漏洩検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機の冷媒漏洩を検知する冷媒漏洩検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機において冷媒漏洩が発生すると、当然ながら空気調和機は正常に動作せず、ユーザはメーカに連絡して修理を依頼することになる。このような場合、メーカのサービスマンがユーザ宅を訪問して故障の原因(冷媒漏洩など)を特定し、その後、修理に必要な部品などを持って再訪問し、修理を行うことが一般的である。しかしながら、このような方法では、ユーザの修理依頼から実際に修理が行われるまでに比較的長い日数を有するといった問題がある。サービスマンが訪問する前の段階で冷媒漏洩が検知できれば、サービスマンの最初の訪問段階で修理を行うことが可能となる。
【0003】
特許文献1では、複数の空気調和機とセンターサーバとがインターネット回線を通じて接続された冷媒漏洩検知システムが開示されている。この冷媒漏洩検知システムは、センターサーバに蓄積される過去の運転状態データから冷媒漏洩を自動検知することが可能となっている。また、この冷媒漏洩検知システムでは、冷媒漏洩を検知しようとする第1空気調和機において、蓄積されている運転状態データが不足している場合には、第1空気調和機と機器構成および環境条件の少なくとも一方が類似する第2空気調和機の運転状態データを参照して冷媒漏洩を検知するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4826117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の冷媒漏洩検知システムでは、冷媒漏洩を検知しようとする空気調和機において、運転状態データの蓄積量が少ない状態では正確な検知が行えない。また、このような場合、機器構成または環境条件が類似する他の空気調和機の運転状態データを使用するため、検知精度が低下する恐れがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、空気調和機における冷媒漏洩の正確な検知が行える冷媒漏洩検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様である冷媒漏洩検知システムは、空気調和機と、インターネット回線を通じて空気調和機と接続可能なサーバと、前記空気調和機から前記サーバに送信される当該空気調和機の運転状態データを蓄積するデータ蓄積装置とを備えており、前記運転状態データには、少なくとも前記空気調和機における膨張弁開度が含まれるものであり、前記サーバは、前記データ蓄積装置に蓄積された前記膨張弁開度を用いて、所定期間分の1日毎の最大膨張弁開度を算出し、算出した前記最大膨張弁開度が上昇傾向にあり、かつ、前記最大膨張弁開度が第1閾値以上である日が連続して発生している場合に冷媒漏洩を検知することを特徴としている。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の他の一態様である冷媒漏洩検知システムは、空気調和機と、インターネット回線を通じて空気調和機と接続可能なサーバと、前記サーバに送信された前記空気調和機の運転状態データを蓄積するデータ蓄積装置とを備えており、前記運転状態データには、少なくとも前記空気調和機における膨張弁開度が含まれるものであり、前記サーバは、前記データ蓄積装置に蓄積された前記膨張弁開度を用いて、所定期間分の1日毎の最大膨張弁開度を算出し、算出した前記最大膨張弁開度が上昇傾向にあり、かつ、前記最大膨張弁開度の上昇期間における最大膨張弁開度が、上昇前に比べて第2閾値以上増加している場合に冷媒漏洩を検知することを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、蓄積された過去の膨張弁開度の履歴から、最大膨張弁開度が上昇傾向にあること、および最大膨張弁開度(もしくは最大膨張弁開度の上昇率)が所定の閾値以上であることを判定し、これらの両方が肯定的判定となった場合に冷媒漏洩を検知するものである。これにより、他の空気調和機の運転状態データを使用することなく冷媒漏洩の検知が可能であり、冷媒漏洩の正確な検知が行える。また、冷媒漏洩の判断を、空気調和機において不具合が生じた日から遡って解析できるため、信頼度の高い検知結果を得ることができる。
【0010】
また、上記冷媒漏洩検知システムでは、前記サーバにおいて算出される前記最大膨張弁開度は、1日の中で複数回記憶される膨張弁開度の中から抽出される最大膨張弁開度を抽出最大膨張弁開度とするとき、前記抽出最大膨張弁開度に対して補正用パラメータを用いた補正によって得られる補正最大膨張弁開度である構成とすることができる。
【0011】
上記の構成によれば、冷媒漏洩の検知に用いる最大膨張弁開度を、補正用パラメータを用いた補正によって得られる補正最大膨張弁開度とすることにより、より精度の高い検知結果が得られる。
【0012】
また、上記冷媒漏洩検知システムでは、前記補正用パラメータは、圧縮機回転数、室内温度、室内湿度、外気温度の少なくとも1つである構成とすることができる。
【0013】
また、上記冷媒漏洩検知システムでは、前記空気調和機は、1日に複数回、一定時間間隔で膨張弁開度の記憶を行い、記憶した1日分の膨張弁開度から最大膨張弁開度を抽出して前記サーバへ送信する構成とすることができる。
【0014】
上記の構成によれば、空気調和機側で最大膨張弁開度を抽出し、抽出した最大膨張弁開度をサーバに送信することで、データ蓄積装置の蓄積データ量や、サーバの通信負荷を抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の冷媒漏洩検知システムは、他の空気調和機の運転状態データを使用することなく冷媒漏洩の検知が可能であり、空気調和機における冷媒漏洩の正確な検知が行えるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態を示すものである、冷媒漏洩検知システムの概略構成を示す図である。
図2図1の冷媒漏洩検知システムで用いられる空気調和機の概略構成図である。
図3】実施の形態1に係る冷媒漏洩検知システムにおける冷媒漏洩検知方法を示すフローチャートである。
図4】最大膨張弁開度の1日毎の変化の一例を示すグラフである。
図5】実施の形態2に係る冷媒漏洩検知システムにおける冷媒漏洩検知方法を示すフローチャートである。
図6】(a)~(d)は、実施の形態2に係る冷媒漏洩検知システムにおける補正テーブルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の形態1に係る冷媒漏洩検知システム(以下、本システムと称する)の概略構成を示す図である。図2は、本システムに適用される空気調和機10の概略構成図であり、空気調和機10において適用される冷凍サイクルを示している。
【0018】
図1に示すように、本システムは、大略的に、空気調和機10と、サーバ20と、データ蓄積装置30とを備えて構成されている。空気調和機10は、一般住宅などに設置されるエアコンであり、インターネット回線を用いて遠隔地にあるサーバ20と通信可能となっている。例えば、空気調和機10は、同じ住宅に設置されるアクセスポイント50を介してサーバ20と通信するようになっており、空気調和機10とアクセスポイント50との間は無線LANを用いて通信を行い、アクセスポイント50とサーバ20との間はインターネット回線を用いて通信を行うことができる。尚、図1では、説明の便宜上、サーバ20に接続される空気調和機10の図示を1つとしているが、本システムにおいて、サーバ20には複数の空気調和機10が接続される。
【0019】
サーバ20は、接続された空気調和機10から定期的に運転状態データを受け取り、これをデータ蓄積装置30に記憶させる。これにより、データ蓄積装置30には、空気調和機10の過去の運転状態データが蓄積されていく。また、サーバ20は、データ蓄積装置30に蓄積された空気調和機10の過去の運転状態データを用いて、空気調和機10における冷媒漏洩を検知する機能を有している。さらに、サーバ20は、空気調和機10に対する冷媒漏洩の検知結果を、インターネット回線や公衆交換電話網(公衆網)などを用いて操作端末40(スマートフォンやタブレットなど)に送信する機能を有している。
【0020】
空気調和機10は、図2に示すように、室内ユニット100および室外ユニット110により構成されている。空気調和機10における冷凍サイクル(ヒートポンプ)の経路上には、室内ユニット100側に室内熱交換器101が備えられており、室外ユニット110側に圧縮機111、室外熱交換器112、四方弁113および膨張弁114が備えられている。また、室内ユニット100には、室内熱交換器101で熱交換された空気を室内に送り出すための室内ファン102が備えられており、室外ユニット110には、室外熱交換器112に空気を送るための室外ファン115が備えられている。
【0021】
四方弁113は、空気調和機10の冷房/暖房運転に応じて、冷媒の循環の向きを切り替えるものである(図2は冷房運転時の状態を示している)。四方弁113によって冷媒の循環の向きを切り替えることで、冷房運転時には、室外熱交換器112が凝縮器、室内熱交換器101が蒸発器として機能し、暖房運転時には、室内熱交換器101が凝縮器、室外熱交換器112が蒸発器として機能する。
【0022】
また、空気調和機10は、必要に応じて冷凍サイクル内の各部の冷媒温度を検出したり、室内温度または外気温度を検出したりするために、複数の温度センサを有している。図2の例では、空気調和機10は、第1~第7温度センサ121~127を備えている。第1温度センサ121は、圧縮機吐出温度を検出する。第2温度センサ122は、圧縮機吸引温度を検出する。第3温度センサ123は、室外熱交換器112における冷媒温度を検出する。第4温度センサ124は、室外熱交換器112の吸気温度を外気温度として検出する。第5温度センサ125は、室外ユニット110側において膨張弁114と室内熱交換器101との間の冷媒温度を検出する。第6温度センサ126は、室内熱交換器101の吸気温度を室温として検出する。第7温度センサ127は、室内熱交換器101における冷媒温度を検出する。
【0023】
上述したように、本システムにおいては、空気調和機10の運転状態データがサーバ20に送信され、データ蓄積装置30に蓄積される。このとき、データ蓄積装置30に蓄積される運転状態データは、少なくとも膨張弁114の膨張弁開度を含んでいる。これは、本システムでは、データ蓄積装置30に蓄積された膨張弁開度に基づいて、サーバ20が空気調和機10における冷媒漏洩を検知するためである。
【0024】
すなわち、空気調和機10の運転中において、膨張弁114は、空気調和機10の正常な運転が維持されるように常にその開度が制御され、冷媒循環量を調整している。冷媒が減少していくと、膨張弁114は冷媒循環量を増やすために開度が大きくなるように制御される。具体的には、空気調和機10における膨張弁114の開度は、圧縮機吐出温度、圧縮機吸引側過熱度、圧縮機吐出側過熱度のいずれかを目標として制御される。このような膨張弁開度の制御方法は公知であるため、ここでは詳細な説明を省略するが、例えば、圧縮機吸引側過熱度を目標とする制御では、冷房運転時には第2温度センサ122と第5温度センサ125との温度差に基づいて制御を行うことができ、暖房運転時には第2温度センサ122と第3温度センサ123との温度差に基づいて制御を行うことができる。
【0025】
空気調和機10が運転状態データとして膨張弁開度をサーバ20に送信するときには、空気調和機10を特定するための固有番号および送信時間が同時に送信される。また、サーバ20に送信される運転状態データは、膨張弁開度以外のデータを含んでいてもよい。空気調和機10の運転状態データとしては、例えば、各部のサイクル温度、室内温度、室内湿度、外気温度、電流値、制御情報、エラー情報、膨張弁開度、圧縮機回転数、ファン回転数などがある。本実施の形態1では、空気調和機10からサーバ20への運転状態データの送信は、1日に複数回、一定時間間隔で行われるものとする。これにより、データ蓄積装置30には、空気調和機10の据え付けから現在までの運転状態データが蓄積される。
【0026】
続いて、本システムのサーバ20における冷媒漏洩検知方法を説明する。空気調和機10において冷媒漏洩が発生すると、冷媒が短期間で大きく減少することになるため、その間は、冷媒循環量を増加させるべく空気調和機10の最大膨張弁開度が上昇傾向となる。このため、本システムの冷媒漏洩検知方法では、蓄積された運転状態データから、最大膨張弁開度を一定の間隔毎に時系列で確認し、最大膨張弁開度の上昇傾向を判定することで冷媒漏洩の判断を行う。図3は、本システムの冷媒漏洩検知方法を示すフローチャートである。
【0027】
尚、サーバ20が空気調和機10の冷媒漏洩検知を行うタイミングは特に限定されるものではない。ここでは、オペレータから冷媒漏洩検知指示が出された時点で、冷媒漏洩検知を行うものとする。また、この場合のオペレータは、例えばメーカのサービスマンであり、空気調和機10のユーザから修理依頼が入った場合などに、サーバ20にアクセスして冷媒漏洩検知指示を出すことが考えられる。サービスマンが出す冷媒漏洩検知指示は、サービスマンが持つ操作端末40からサーバ20へ送信することができる。
【0028】
ある特定の空気調和機10に対して冷媒漏洩検知を行うとき、サーバ20は、データ蓄積装置30に蓄積された過去の運転状態データの中から、所定期間分の1日毎の最大膨張弁開度を算出する。この算出処理は、図3のフローチャートにおけるS1~S3のステップに相当する。
【0029】
この場合、データ蓄積装置30から膨張弁開度を取得する所定期間は、固定の長さである必要はなく、サービスマンが任意に設定できるようにすることが好ましい。これは、空気調和機10のユーザが、空気調和機10に不具合が生じてから直ちに修理依頼を出すとは限らないためである。ユーザの修理依頼が遅かった場合には、膨張弁開度を取得する所定期間を長くすることで、冷媒漏洩の生じた時期を確実に捉え、適切に冷媒漏洩検知を行うことができる。
【0030】
まず、サーバ20は、その空気調和機10に対する過去の所定期間(例えば1週間)分の全ての膨張弁開度をデータ蓄積装置30から取得する(S1)。
【0031】
サーバ20は、データ蓄積装置30から過去の膨張弁開度を取得すると、取得した膨張弁開度の中から、圧縮機運転中であり、かつ膨張弁114が通常制御中であるときの膨張弁開度を抽出する(S2)。このような膨張弁開度の抽出は、冷媒漏洩検知に使用する膨張弁開度のデータ条件を揃えるために行われる。空気調和機10は、例えば電源ON直後の立ち上げ運転時や除霜運転時などに、膨張弁開度を固定値とする特別な制御を行うときがある。このような特別制御時の膨張弁開度は、冷媒漏洩検知に使用することは適切でないため、S2のステップにおいて除外する。さらに、サーバ20は、S2で抽出された膨張弁開度の中から、1日毎の最大膨張弁開度を抽出する(S3)。図4は、S3で抽出される最大膨張弁開度の一例を示すものであり、最大膨張弁開度の1日毎の変化を示すグラフである。尚、S3で抽出される最大膨張弁開度が、特許請求の範囲に記載の抽出最大膨張弁開度に相当する。
【0032】
サーバ20は、S3で抽出された最大膨張弁開度に基づき、最大膨張弁開度が所定日数(例えば3日)以上連続で上昇しているか否かを判定する(S4)。S4でYESであれば、最大膨張弁開度が上昇傾向を示しているため、冷媒漏洩が発生している可能性があり、処理はS5へ移行する。S4でNOであれば、最大膨張弁開度が上昇傾向を示していないため、冷媒漏洩なしと判定される(S7)。尚、図4の例では、8/3から8/8まで6日連続で最大膨張弁開度が上昇しているため、S4でYESと判定される。
【0033】
S4でYES判定された場合であっても、最大膨張弁開度(もしくは最大膨張弁開度の上昇率)がさほど大きくなければ、冷媒漏洩ありと見なすことはできない。例えば、気温自体が上昇(または下降)傾向にあり、そのような気温変化に追随して最大膨張弁開度が上昇傾向を示している可能性もある。
【0034】
このため、サーバ20は、S4でYES判定された場合には、さらに最大膨張弁開度の大きさを判定する。図3の例では、サーバ20は、最大膨張弁開度が所定の閾値(第1閾値:例えば350step)以上である日が連続して発生しているか否かを判定する(S5)。この第1閾値は、冷媒漏洩がない場合には、通常の周囲環境(外気温度など)においては生じにくい程度に大きな値の膨張弁開度に相当するものである。S5でYESであれば、最大膨張弁開度の大きい状態が連続して発生していることから、冷媒漏洩ありと判定される(S6)。S5でNOであれば、最大膨張弁開度がさほど大きくないことから、冷媒漏洩なしと判定される(S7)。尚、図4の例では、8/7および8/8において連続で最大膨張弁開度が350step以上であるため、S5でYESと判定される。
【0035】
尚、図3のフローチャートにおけるS5では、最大膨張弁開度の大きさを判定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、最大膨張弁開度の上昇率の大きさを判定してもよい。例えば、S5における判定を、最大膨張弁開度の上昇期間において、最大膨張弁開度が上昇前に比べて所定の閾値(第2閾値:例えば200step)以上増加しているか否かの判定としてもよい。図4の例では、最大膨張弁開度の上昇期間(8/2~8/8)において最大膨張弁開度が200step以上(238=370-132)増加しているため、S5でYESと判定される。
【0036】
以上のように、本システムの冷媒漏洩検知方法は、蓄積された過去の膨張弁開度の履歴から、最大膨張弁開度が上昇傾向にあること、および最大膨張弁開度(もしくは最大膨張弁開度の上昇率)が所定の閾値以上であることを判定し、これらの両方が肯定的判定となった場合に冷媒漏洩を検知するものである。これにより、他の空気調和機の運転状態データを使用することなく冷媒漏洩の検知が可能であり、冷媒漏洩の正確な検知が行える。また、冷媒漏洩の判断を、空気調和機10において不具合が生じた日から遡って解析できるため、信頼度の高い検知結果を得ることができる。
【0037】
サーバ20は、空気調和機10に対する冷媒漏洩の検知結果(S6またはS7の検知結果)を、冷媒漏洩検知指示を出したサービスマンの操作端末40に送信する。これにより、サービスマンは、空気調和機10の修理に行く前に、冷媒漏洩の有無を確認することができる。
【0038】
〔実施の形態2〕
上記実施の形態1に係る冷媒漏洩検知方法では、蓄積された過去の膨張弁開度から1日毎の最大膨張弁開度を抽出し、抽出した最大膨張弁開度に基づいて冷媒漏洩の検知を行っている。但し、膨張弁開度は、圧縮機回転数、室内温度、室内湿度、外気温度などのパラメータによっても変動するため、抽出した最大膨張弁開度においてこれらのパラメータが異なっていると、冷媒漏洩の検知結果において幾分かの誤差となる恐れがある。
【0039】
本実施の形態2に係る冷媒漏洩検知方法では、冷媒漏洩の検知に用いる最大膨張弁開度を、圧縮機回転数、室内温度、室内湿度および外気温度の少なくとも1つによって補正する。これにより、より精度の高い検知結果が得られる。図5は、実施の形態2に係る本システムの冷媒漏洩検知方法を示すフローチャートである。図5に示すフローチャートは、図3に示すフローチャートに比べ、S3とS4との間にS31のステップを加えた点のみが異なっている。
【0040】
S31のステップでは、S3で抽出した最大膨張弁開度に対し、対応する補正用パラメータにより補正が加えられる。ここでの補正用パラメータとは、圧縮機回転数、室内温度、室内湿度および外気温度の少なくとも1つである。S31での補正に使用する補正用パラメータは、空気調和機10からサーバ20に送信される運転状態データに膨張弁開度と共に含まれるものであり、データ蓄積装置30において膨張弁開度と対応付けて記憶されている。
【0041】
S31のステップにおける最大膨張弁開度の補正方法の具体例を、図6を参照して説明する。具体的には、最大膨張弁開度は、図6(a)~(d)に示す補正テーブルから補正値を読み出し、読み出した補正値を最大膨張弁開度に加える。尚、S31で補正された最大膨張弁開度が、特許請求の範囲に記載の補正最大膨張弁開度に相当する。
【0042】
図6(a)は、圧縮機回転数を補正用パラメータとする場合の補正テーブルを示している。圧縮機回転数を補正用パラメータとして補正を行う場合を、図4のグラフを例として説明すると以下の通りである。尚、圧縮機回転数を補正用パラメータとする補正は、空気調和機10が冷房運転または暖房運転の何れを行っている場合でも適用可能である。
【0043】
例えば、8/7の最大膨張弁開度“358”に対応して記憶されている圧縮機回転数が2000rpmであるとすれば、このときの補正値は図6(a)の補正テーブルより“50”である。そして、8/7の最大膨張弁開度“358”に補正値“50”を加えることで、補正後の最大膨張弁開度は“408”となる。また、8/8の最大膨張弁開度“370”に対応して記憶されている圧縮機回転数が3000rpmであるとすれば、このときの補正値は“25”である。そして、8/8の最大膨張弁開度“370”に補正値“25”を加えることで、補正後の最大膨張弁開度は“395”となる。8/2~8/6の間の最大膨張弁開度についても同様に補正を行うことができる。
【0044】
図6(b)は、室内温度を補正用パラメータとする場合の補正テーブルを示している。室内温度を補正用パラメータとして補正を行う場合を、図4のグラフを例として説明すると以下の通りである。尚、室内温度を補正用パラメータとする補正は、空気調和機10が冷房運転を行っている場合に適用可能である。
【0045】
例えば、8/7の最大膨張弁開度“358”に対応して記憶されている室内温度が25℃であるとすれば、このときの補正値は図6(b)の補正テーブルより“0”である。このため、8/7の最大膨張弁開度“358”は、補正後の最大膨張弁開度も“358”となる。また、8/8の最大膨張弁開度“370”に対応して記憶されている室内温度が30℃であるとすれば、このときの補正値は“-10”となる。そして、8/8の最大膨張弁開度“370”に補正値“-10”を加えることで、補正後の最大膨張弁開度は“360”となる。8/2~8/6の間の最大膨張弁開度についても同様に補正を行うことができる。
【0046】
図6(c)は、室内湿度を補正用パラメータとする場合の補正テーブルを示している(冷房運転を行っている場合に適用可能)。図6(d)は、外気温度を補正用パラメータとする場合の補正テーブルを示している(暖房運転を行っている場合に適用可能)。これらの補正用パラメータを用いる場合も、同様に補正を行うことができる。
【0047】
図5のS31において上述した補正が行われると、補正された最大膨張弁開度を用いてS4~S7の処理が行われる。S4~S7の処理は、実施の形態1で説明した処理と同じである。
【0048】
このように、本実施の形態2に係る冷媒漏洩検知方法では、補正用パラメータを用いて最大膨張弁開度を補正し、補正された最大膨張弁開度に基づいて冷媒漏洩の検知を行っている。これにより、より高精度な冷媒漏洩の検知を行うことができる。
【0049】
〔実施の形態3〕
上記実施の形態1および2に係る冷媒漏洩検知方法では、空気調和機10からサーバ20への運転状態データの送信は、1日に複数回、一定時間間隔で行われている。そして、サーバ20では、蓄積された過去の膨張弁開度から1日毎の最大膨張弁開度を抽出し、抽出した最大膨張弁開度に基づいて冷媒漏洩の検知を行っている。これに対し、本実施の形態3に係る本システムでは、上述の抽出処理をサーバ20ではなく空気調和機10で行うものとする。
【0050】
具体的には、空気調和機10が、1日に複数回、一定時間間隔で運転状態データの記憶を行う。記憶される1日分の運転状態データは、空気調和機10が有するメモリにおいて格納される。
【0051】
空気調和機10は、所定の時刻になると、記憶していた1日分の運転状態データに対して抽出処理を行い。抽出した運転状態データのみをサーバ20に送信する。ここで、空気調和機10で行われる抽出処理とは、1日分の運転状態データの中から最大膨張弁開度を抽出する処理であって、図3または図5のS2およびS3の処理に相当する。
【0052】
このように、本実施の形態3に係る本システムでは、空気調和機10側で最大膨張弁開度を抽出する処理が行われ、抽出された最大膨張弁開度がサーバ20に送信されるため、データ蓄積装置30の蓄積データ量や、サーバ20の通信負荷を抑えることができる。これにより、より信頼度の高い判断結果を得られることができる。
【0053】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10 空気調和機
20 サーバ
30 データ蓄積装置
40 操作端末
50 アクセスポイント
100 室内ユニット
101 室内熱交換器
102 室内ファン
110 室外ユニット
111 圧縮機
112 室外熱交換器
113 四方弁
114 膨張弁
115 室外ファン
121~127 第1~第7温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6